縫製システム及び縫製システムプログラム
【課題】複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する場合に、効率的に刺繍模様の縫製を行う縫製システム及び縫製システムプログラムを提供すること。
【解決手段】多針ミシンを複数備える縫製システムにおいて、糸駒色データと、多針ミシンのIDとが取得される。刺繍データが取得される(S80又はS90)。刺繍データに含まれる糸色データと、糸駒色データとが比較される(S100又はS180)。比較結果に基づいて、複数の多針ミシンの中から、次の使用順序の多針ミシンを縫製ミシンとして決定し、縫製ミシンに部分模様が割り当てられる(S100又はS180)。縫製ミシンに対して、指定データが送信される(S270)。縫製ミシンが指定データを受信した場合に(S110:Yes)、指定データによって指定される部分模様が加工布に縫製される(S140)。
【解決手段】多針ミシンを複数備える縫製システムにおいて、糸駒色データと、多針ミシンのIDとが取得される。刺繍データが取得される(S80又はS90)。刺繍データに含まれる糸色データと、糸駒色データとが比較される(S100又はS180)。比較結果に基づいて、複数の多針ミシンの中から、次の使用順序の多針ミシンを縫製ミシンとして決定し、縫製ミシンに部分模様が割り当てられる(S100又はS180)。縫製ミシンに対して、指定データが送信される(S270)。縫製ミシンが指定データを受信した場合に(S110:Yes)、指定データによって指定される部分模様が加工布に縫製される(S140)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の多針ミシンを備える縫製システム及び縫製システムプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、縫針が装着された複数の針棒と、その複数の針棒が設けられた針棒ケースを有する多針ミシンが知られている。多針ミシンは、各縫針に上糸として供給される糸を、縫針の本数と同数装着可能である。
【0003】
多針ミシンでは、縫製に際して、縫製を行うための刺繍データに含まれる糸色データと、縫針に供給されている糸の糸駒色データとを比較する。多針ミシンは、刺繍データに含まれる糸色データに対応する糸が供給された縫針を、縫製用の縫針として選択する。一方、刺繍データの糸色データに対応する糸が、多針ミシンに装着されていない場合には、多針ミシンは縫製を中断する。ユーザは、縫針に供給されている糸を、刺繍データの糸色データに対応する糸と交換し、多針ミシンによる縫製を再開させる。刺繍模様の縫製を効率的に実行させるためには、糸駒交換回数を極力少なくし、多針ミシンによる縫製が中断される時間を短くすることが望ましい。そこで、多針ミシンの糸駒交換を効率的に行うための種々の方法が提案されている。例えば、縫製時の糸駒交換回数が少なくなるように、縫い順や糸の使用頻度等を考慮して、各針棒と糸との関係を定め、ユーザにそれらの対応を報知するミシン制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、複数の多針ミシンを相互に接続した縫製システムが知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の刺繍縫製システムでは、1つの模様を複数の多針ミシンで縫製することを前提に、糸駒交換回数が少なく、縫製時間が短くなるように、多針ミシンに縫製する部分模様を割り当てる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−33538号公報
【特許文献2】特開2009−22400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の多針ミシンでは、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する場合に、糸駒交換回数を考慮した効率的な多針ミシンの使用順序を求めることはできなかった。具体的には、特許文献1に記載のミシン制御装置では、複数の多針ミシンを使用して刺繍模様の縫製を行う場合が想定されていなかった。また、特許文献2に記載の刺繍縫製システムは、縫製開始以降の糸駒交換回数が少なくなるように、多針ミシンに部分模様を割り当てる。すなわち、上記刺繍縫製システムは、縫製開始前の糸駒交換回数を考慮せずに、多針ミシンに部分模様を割り当てる。このため、上記刺繍縫製システムでは、縫製開始前も含め、なるべく糸駒を交換しないで縫製できるように、縫製に用いる多針ミシンとその使用順序を決定することはできなかった。ユーザが、多針ミシンの使用順序を求めることも考えられる。しかし、ユーザは、縫製システムが備えるすべての多針ミシンについて、縫針に対応する糸色データを把握した上で、刺繍データに適した使用順序を決める必要があり、多大な労力を要するという問題があった。また、多針ミシンの縫製順序が適切に定められなかった場合には、糸駒交換回数が増え、それに伴い縫製時間や糸駒交換に必要な手間が増加するという問題があった。
【0007】
本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであり、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する場合に、効率的に刺繍模様の縫製を行う縫製システム及び縫製システムプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の縫製システムは、複数の針棒を含む縫製手段を備え、加工布に刺繍模様を縫製する多針ミシンを複数備える縫製システムにおいて、前記複数の多針ミシンを相互に接続する通信手段と、前記縫製システムが備える前記複数の多針ミシンのそれぞれについて、前記多針ミシンに装着される糸駒の色を示す糸駒色データを、当該多針ミシンを特定するIDデータと関連づけて取得する色取得手段と、糸色が異なる複数の部分模様からなる前記刺繍模様を縫製するための刺繍データを取得する模様取得手段と、前記模様取得手段によって取得された前記刺繍データに含まれる糸色データと、前記色取得手段によって取得された前記糸駒色データとを比較する色比較手段と、前記色比較手段の比較結果に基づいて、前記複数の多針ミシンの中から、少なくとも1の多針ミシンを前記刺繍模様の縫製に用いる縫製ミシンとして決定し、当該縫製ミシンに使用順序及び少なくとも1の前記部分模様を割り当てるミシン決定手段と、前記使用順序に従って前記縫製ミシンに当該縫製ミシンに割り当てられた前記部分模様を縫製させるように、前記ミシン決定手段によって決定された前記縫製ミシンに対して、前記ミシン決定手段によって割り当てられた前記部分模様を指定する指定データを、前記通信手段を介して送信するミシン制御手段と、前記縫製ミシンが前記指定データを受信した場合に、当該指定データによって指定される前記部分模様を前記加工布に縫製するように前記縫製手段を駆動制御する縫製制御手段とを備えている。
【0009】
また、請求項2に係る発明の縫製システムは、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記ミシン決定手段は、前記刺繍模様を縫製する際に、前記縫製システムが備える糸駒を交換する回数が最小となるように、前記縫製ミシンを決定し、当該縫製ミシンに使用順序及び少なくとも1の前記部分模様を割り当てることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る発明の縫製システムは、請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、前記ミシン決定手段によって決定された前記縫製ミシンを指定する情報を報知する報知手段を備えている。
【0011】
また、請求項4に係る発明の縫製システムプログラムは、請求項1から3のいずれかに記載の縫製システムの各種処理手段として、縫製システムに内蔵されたコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る縫製システムでは、複数の多針ミシンを使用して刺繍模様を縫製する場合に、色比較手段の比較結果に基づいて糸駒交換回数を考慮した効率的な多針ミシンの使用順序を求めることができる。よって、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する際の、縫製時間や糸駒交換に必要な手間を低減させることができる。
【0013】
また、請求項2に係る縫製システムでは、請求項1に記載の発明の効果に加え、色比較手段の比較結果に基づいて糸駒交換が最小となる多針ミシンの使用順序を求めることができる。よって、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する際の、縫製時間や糸駒交換に必要な手間を低減させることができる。
【0014】
また、請求項3に係る縫製システムでは、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、ユーザは予め多針ミシンの使用順序を知ることができる。よって、ユーザは、報知結果に従った順序で縫製ミシンに縫製を実行させることにより、効率的に刺繍模様を形成させることができる。
【0015】
また、請求項4に係る縫製システムプログラムをコンピュータで実行させることにより、請求項1から3のいずれかに記載の発明の効果と同様な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】複数の多針ミシン1を備えた縫製システム100の概念図である。
【図2】多針ミシン1の斜視図である。
【図3】針棒ケース21の内部を示す斜視図である。
【図4】多針ミシン1の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】液晶ディスプレイ7に表示される縫製画面200の説明図である。
【図6】メイン処理のフローチャートである。
【図7】具体例1の糸駒色データの説明図である。
【図8】具体例2の糸駒色データの説明図である。
【図9】図6のメイン処理で実行されるアイドルループのフローチャートである。
【図10】図9のアイドルループで実行されるミシン決定処理のフローチャートである。
【図11】具体例1において縫製ミシンを決定する処理の説明図である。
【図12】指示データの説明図である。
【図13】縫製ミシンのIDを表示するサブ画面250の説明図である。
【図14】具体例1において縫製ミシンを決定する処理の説明図である。
【図15】具体例2において縫製ミシンを決定する処理の説明図である。
【図16】糸駒13の交換が必要な針棒番号と、糸駒交換後の糸駒の糸色を表示するサブ画面260の説明図である。
【図17】複数の多針ミシン1を備えた縫製システム300の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具現化した一実施の形態である縫製システム100について、図面を参照して説明する。尚、参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いるものであり、記載している装置の構成等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0018】
まず、図1を参照して、縫製システム100について説明する。縫製システム100は、3台の多針ミシン1を備えている。3台の多針ミシン1は、後述するコネクタ9(図2及び図4参照)に接続されたUSBケーブル101によって、直列に接続されている。3台の多針ミシン1の物理的構成と、電気的構成とは同じである。
【0019】
次に、図2及び図3を参照して、縫製システム100が備える多針ミシン1の物理的構成について説明する。以下の説明では、図2の左斜め下側を多針ミシン1の前方とし、図2の右斜め上側を多針ミシン1の後方とする。図2の左斜め上側を多針ミシン1の左側とし、図2の右斜め下側を多針ミシン1の右側とする。
【0020】
多針ミシン1は、支持部2と、脚柱部3と、アーム部4とを備えている。支持部2は、平面視逆U字形に形成され、多針ミシン1全体を支持する。脚柱部3は、支持部2から上方へ立設する。アーム部4は、脚柱部3の上端部から正面側に延びる。アーム部4の先端には、針棒ケース21が左右方向に移動可能に装着されている。針棒ケース21の詳細については後述する。
【0021】
アーム部4の前後方向中央部の右側には、操作部6が設けられている。操作部6は、上下方向に延びる軸を回転軸として、アーム部4に回転可能に軸支されている。操作部6は、液晶ディスプレイ7(以下、「LCD7」と言う。)と、タッチパネル8と、コネクタ9とを備える。LCD7には、例えば、ユーザが指示を入力するための操作画像が表示される。タッチパネル8は、ユーザからの指示を受け付けるために用いられる。LCD7に表示された入力キー等の位置に対応したタッチパネル8の箇所を、指や専用のタッチペンを用いて押圧操作すること(以下、この操作を「パネル操作」と言う。)によって、ユーザは縫製模様や縫製条件等を選択できる。コネクタ9は、USB規格のコネクタであり、USBデバイス44(図4参照)と接続可能である。
【0022】
アーム部4の下方には、脚柱部3の下端部から前方へ延びる筒状のシリンダベッド10が設けられている。シリンダベッド10の先端部の内部には、下糸(図示せず)が巻回されたボビン(図示せず)を収納する釜(図示せず)が設けられている。また、シリンダベッド10は、釜を回転駆動する釜駆動機構(図示せず)を内部に備えている。シリンダベッド10の上面には、縫針35が挿通する針穴(図示せず)が設けられた針板16がある。
【0023】
アーム部4の下方には、刺繍枠84を前後左右に移動させる刺繍枠移動機構11が設けられている。刺繍模様が縫製される時には、加工布(図示せず)が装着された刺繍枠84が、刺繍枠移動機構11のキャリッジにセットされる。多針ミシン1は、刺繍枠移動機構11のX軸モータ63(図4参照)及びY軸モータ64(図4参照)によって刺繍枠84を前後左右に移動させながら、刺繍模様を縫製する。
【0024】
アーム部4の上面の背面側には、左右一対の糸駒台12が設けられている。各糸駒台12には、糸駒13が軸支される糸立棒14が設けられている。各糸駒台12は、それぞれ最大で3個の糸駒13を軸支できる。すなわち、一対の糸駒台12には、針棒31の数と同じ6個の糸駒13が載置される。糸駒台12に軸支された糸駒13から延びる上糸15は、糸案内17と、糸調子器18と、天秤19とを経由して、針棒31の下端に装着された各縫針35の目孔(図示せず)に供給される。
【0025】
次に、アーム部4の正面側に設けられた針棒ケース21の内部構成について、図3を参照して説明する。図3に示すように、針棒ケース21内には、6本の針棒31が設けられている。各針棒31には、個々の針棒31を識別するための針棒番号が付与されている。本実施形態では、図中右側から順に針棒番号1番から6番が付与されている。針棒31は、針棒ケース21のフレーム80に固定された上下2個の固定部材(図示せず)により上下方向に摺動可能に支持されている。各針棒31の上半部には押えバネ72が設けられ、下半部には押えバネ73がそれぞれ設けられている。押えバネ72と押えバネ73との間には、針棒抱き(図示せず)が設けられ、押えバネ73の下には押え抱き83が設けられている。針棒31は、主軸モータ54(図4参照)を駆動源とする針棒駆動機構85によって、上下方向に摺動される。針棒駆動機構85は、天秤駆動カム75と、連結部材76と、ジャンプタイ77と、ガイド棒78と、連結ピン(図示せず)とを備える。針棒31の下端には、縫針35(図1参照)が装着されている。押え足71は、押え抱き83から縫針35の下端部(先端部)よりも僅かに下方に伸びるように形成され、針棒31の上下動と連動して、断続的に加工布(図示せず)を下方へ押圧する。
【0026】
次に、刺繍枠84に装着された加工布(図示せず)に縫目を形成する動作について図2から図4を参照して説明する。加工布を装着した刺繍枠84は、刺繍枠移動機構11(図2参照)に支持される。まず、針棒ケース21が左右に移動することで、6本の針棒31のうち1本が選択される。そして、主軸モータ54によって主軸74が回転駆動されると、針棒駆動機構85が駆動される。主軸74の回転駆動は、天秤駆動カム75を介して連結部材76に伝達され、連結部材76が枢支されているジャンプタイ77が針棒31と水平に配置されたガイド棒78にガイドされて上下駆動される。そして、その上下駆動が連結ピン(図示せず)を介して針棒31に伝達され、縫針35が装着される針棒31が上下駆動される。また、天秤駆動カム75の回転によって、詳しくは図示しないリンク機構を介して天秤19が上下駆動される。一方、主軸74の回転が釜駆動機構(図示せず)に伝達され釜(図示せず)が回転駆動される。このように、縫針35と天秤19と釜とが同期して駆動され、加工布に縫目が形成される。
【0027】
次に、多針ミシン1の制御全般を司る電気的構成について図4を参照して説明する。図4に示すように、多針ミシン1は、縫針駆動部57と、縫製対象駆動部65と、操作部6と、制御ユニット41とを備える。以下、多針ミシン1を構成する縫針駆動部57と、縫製対象駆動部65と、操作部6と、制御ユニット41とのそれぞれを詳述する。
【0028】
縫針駆動部57は、針棒31を上下方向に往復移動させる主軸モータ54と、制御ユニット41からの制御信号に従って主軸モータ54を駆動する主軸駆動回路51とを備えている。また縫針駆動部57は、針棒31を切り替える切替機構55と、制御ユニット41からの制御信号に従って当該切替機構55を駆動する切替駆動回路52とを備えている。また縫針駆動部57は、縫針35(図2及び図3参照)に供給されている糸を切断する切断機構56と、制御ユニット41からの制御信号に従って当該切断機構56を駆動する切断駆動回路53とを備えている。
【0029】
縫製対象駆動部65は、刺繍枠84(図2参照)を左右方向に移動させるX軸モータ63と、制御ユニット41からの制御信号に従ってX軸モータ63を駆動させるX軸駆動回路61とを備えている。また縫製対象駆動部65は、刺繍枠84を前後方向に移動させるY軸モータ64と、制御ユニット41からの制御信号に従ってY軸モータ64を駆動させるY軸駆動回路62とを備えている。
【0030】
操作部6は、タッチパネル8と、コネクタ9と、LCD駆動回路66と、LCD7とを備えている。LCD駆動回路66は、LCD7を制御する。コネクタ9は、USBコネクタである。コネクタ9には、USBデバイス44が接続可能である。USBデバイス44は、例えば、USBメモリ、CD−ROM,パーソナルコンピュータ、他の多針ミシン1等が挙げられる。
【0031】
制御ユニット41は、CPU45と、ROM46と、RAM47と、EEPROM48と、入出力インターフェイス(I/O)50とを備え、これらはバス49により相互に接続されている。入出力インターフェイス50には、縫針駆動部57と、縫製対象駆動部65と、操作部6とがそれぞれ接続されている。以下、制御ユニット41を構成するCPU45と、ROM46と、RAM47と、EEPROM48とについて詳述する。
【0032】
CPU45は、多針ミシン1の主制御を司り、読み出し専用の記憶素子である。CPU45は、ROM46のプログラム記憶エリア(図示せず)に記憶された刺繍プログラムに従って、縫製に関わる各種演算及び処理を実行する。尚、刺繍プログラムはフレキシブルディスク等の外部記憶装置に記憶されていてもよい。
【0033】
ROM46は、図示しないが、プログラム記憶エリアと、刺繍データ記憶エリアと、その他の記憶エリアとを備える。プログラム記憶エリアには、刺繍プログラムと、縫製システムプログラムとを含む、多針ミシン1を動作させるための各種プログラムが含まれる。刺繍プログラムは、刺繍データに基づき多針ミシン1を動作させるためのプログラムである。縫製システムプログラムは、後述する縫製システム100のメイン処理を実行するためのプログラムである。刺繍データ記憶エリアには、刺繍模様を縫製するためのデータである刺繍データが記憶されている。刺繍データには、縫製順序と、糸色データと、針落ち点データとが含まれる。RAM47は、任意に読み書き可能な記憶素子であり、CPU45が演算処理した演算結果等を収容する記憶エリアが必要に応じて設けられている。EEPROM48には、読み書き可能な記憶素子であり、多針ミシン1において、各種処理を実行するための各種パラメータが記憶されている。また、EEPROM48には、縫製システム100が備える多針ミシン1を区別するためのIDが記憶されている。IDは、適宜設定可能であり、例えば、10桁の製造番号で表される。本実施形態では、図1の左側の多針ミシン1(以下、「第1のミシン1」とも言う。)のIDは1000であり、中央の多針ミシン1(以下、「第2のミシン1」とも言う。)のIDは1100であり、右側の多針ミシン1(以下、「第3のミシン1」とも言う。)のIDは1200であるとする。
【0034】
次に、図5に示す刺繍模様202を縫製する場合を例に、縫製システム100において刺繍模様を縫製するメイン処理を説明する。まず、縫製システム100において実行されるメイン処理の概要を説明する。メイン処理では、USBケーブル101によって接続された3台の多針ミシン1のいずれかが、刺繍模様を縫製する「縫製ミシン」として決定される。メイン処理は、任意の多針ミシン1で開始される。ユーザの指示によってメイン処理が開始された多針ミシン1(以下、「開始ミシン1」とも言う。)は、他の多針ミシン1に開始コマンドを送信する。他の多針ミシン1は、開始コマンドを受信すると、メイン処理を開始させる。このように、メイン処理は、一旦いずれかの多針ミシン1で開始されると、縫製システム100が備えるすべての多針ミシン1において実行される。
【0035】
次に、図5を参照して、刺繍模様202について説明する。刺繍模様202は、6色の糸色で縫製される鳥の模様である。刺繍模様202は、糸色ごとの部分模様、すなわち、6つの部分模様からなる。刺繍模様202の刺繍データは、糸色データごとに作成されている。LCD7に表示される縫製画面200において、刺繍模様202は、模様表示エリア201に表示されている。縫い順表示エリア204には、刺繍模様202を縫製する糸色の縫製順序が表示されている。縫い順表示エリア204に示すように、刺繍模様202は、白、青、黄、オレンジ、赤、黒の順で部分模様が縫製される。糸駒表示エリア203には、縫製画面200を表示している1台の多針ミシン1を用いて刺繍模様202を縫製する場合に、その多針ミシン1に設定されるべき糸駒の色が、針棒31の番号と対応付けて表示されている。刺繍模様202の刺繍データは、例えば、ROM46と、EEPROM48と、USBデバイス44とのいずれかに記憶されている。刺繍データは、例えば、インタネット回線を介して取得されてもよい。
【0036】
次に、縫製システム100において、刺繍模様を縫製するメイン処理を参照して説明する。図6に示す縫製システム100のメイン処理は、ROM46に記憶された刺繍プログラムに従って、CPU45が実行する。縫製システム100のメイン処理は、縫製システム100が備えるいずれかの多針ミシン1において、例えば、パネル操作により、複数台の多針ミシン1を用いて刺繍模様を縫製する指示が入力された場合に実行される。また、縫製システム100のメイン処理は、他の多針ミシン1から送信された開始コマンドが受信された場合に開始される。一例として、第1のミシン1において、メイン処理が開始された場合について説明する。
【0037】
なお、縫製システム100が備える3台の多針ミシン1は、直列に接続されている。よって、第1のミシン1と第3のミシン1との間は、第2のミシン1を介してデータが送受信される。
【0038】
図6に示すように、まず、縫製システム100が備える多針ミシン1の数が取得され、取得された数がRAM47に記憶される(S10)。S10の処理は、例えば、以下の処理によって実行される。第1のミシン1は、縫製システム100内の多針ミシン1に対して、IDを第1のミシン1に通知することを指示する通知コマンドを送信する。通知コマンドを受信した他の多針ミシン1は、第1のミシン1に自身のIDを送信する。S10では、第1のミシン1が所定期間内に受信したIDの数が、縫製システム100が備える多針ミシン1の数とされる。S10が実行される多針ミシン1が開始ミシン1である場合、S10において、他の多針ミシン1に対して、開始コマンドが送信される。開始コマンドは、他の多針ミシン1においてメイン処理を開始させるためのコマンドである。開始コマンドを受信した他の多針ミシン1では、メイン処理が開始される。
【0039】
次に、縫製システム100が備える3台の多針ミシン1間で、各多針ミシン1の糸駒台12(図2参照)に装着されている糸駒13の糸駒色データが共有される(S20)。S20では、例えば、以下の処理によって実行される。縫製システム100が備える各多針ミシン1は、自身の糸駒台12(図2参照)に装着されている糸駒の糸駒色データを自身のIDとともに、他の多針ミシン1に送信する。また、各多針ミシン1は、他の多針ミシン1から送信された糸駒色データ及びIDを受信し、RAM47に記憶させる。具体例1として、S20の処理によって、図7に示すように、糸駒色データが共有された場合を想定する。具体例2として、S20の処理によって、図8に示すように、糸駒色データが共有された場合を想定する。
【0040】
次に、アイドルループが実行される(S30)。アイドルループでは、ユーザによって指定された刺繍模様が、縫製システム100が備える多針ミシン1を使用して縫製される処理が実行される。アイドルループで実行される処理の詳細は後述する。S30の次に、メイン処理は終了する。
【0041】
次に、図9を参照して、図6のS30で実行されるアイドルループを説明する。アイドルループでは、まず、指示データが受信されたか否かが判断される(S80)。指示データは、刺繍模様を縫製することを縫製ミシンに指示するデータである。指示データには、パラメータとして、「ID」と、「Start」と、「End」と、「Stitch」とが含まれる。IDは、縫製ミシンのIDを示す。Startは、縫製ミシンが、何色目から刺繍模様の縫製を開始するかを示す。Endは、縫製ミシンが、何色目まで刺繍模様を縫製するかを示す。Stitchは、刺繍模様の刺繍データを示す。すなわち、指示データによって、Stitchで示される刺繍データのStartからEndまでの部分模様を縫製する多針ミシン1が、縫製ミシンとして特定される。指示データは、後述するミシン決定処理において作成される。
【0042】
指示データが受信されていない場合には(S80:No)、ユーザによって刺繍データが指定されたか否かが判断される(S90)。刺繍データが指定されたか否かは、パネル操作によって、刺繍データが選択されたか否かによって判断される。刺繍データが指定されていない場合には(S90:No)、後述するS280が実行される。刺繍データが指定された場合には(S90:Yes)、指定された刺繍データがRAM47に記憶され、ミシン決定処理が実行される(S100)。S100で実行されるミシン決定処理では、使用順序が1番目の縫製ミシンと、その縫製ミシンに割り当てられる部分模様とが決定される。より具体的には、S90において指定された刺繍データの刺繍模様のうち、1番目の糸色から、n番目の糸色までの部分模様を縫製する縫製ミシンと、nとが決定される。ミシン決定処理を、図10を参照して説明する。
【0043】
ミシン決定処理では、縫製ミシンを次のように決定する。糸駒13の交換が不要で、かつ、縫製順序に従って最も多くの色を縫製することができる多針ミシン1が、次の使用順序の縫製ミシンとして決定される。ミシン決定処理は、1度に連続して縫製できる部分模様毎に実行される。すなわち、ミシン決定処理は、使用順序毎に、刺繍データが指定された多針ミシン1(S100)、又は指定データに従い縫製が終了された多針ミシン1(S180)において実行される。以下の説明において、「縫製順序」は部分模様の縫製順序を指す。
【0044】
具体的には、ミシン決定処理ではまず、RAM47に記憶されている刺繍データに含まれる縫製順序がi番目の部分模様の糸色データが取得され、取得された糸色データがcolorに設定される(S190)。S100で実行されるミシン決定処理では、iの初期値は1である。後述するS180で実行されるミシン決定処理では、iの初期値は、指示データのStartと同様の数が設定される。RAM47に記憶されている刺繍データは、図9のS80で取得された指示データに含まれる刺繍データ、又はS90でユーザによって指定された刺繍データである。次に、RAM47が参照され、S190で設定されたcolorに対応する糸駒が装着されている多針ミシン1が検索される(S200)。具体的には、図6のS20で取得された糸駒色データと、colorとが比較される。図7の具体例1と図8の具体例2とでは、1番目の糸色データ「白」に対応する糸駒13が装着されている多針ミシン1があるので(S210:Yes)、縫製順序がi+1番目以降の部分模様を最も多く連続縫製することが可能なミシンが検索される(S220)。「連続縫製することが可能」とは、縫製開始後に途中で糸駒を交換することなく縫製することが可能であることを意味する。
【0045】
図11に示す具体例1を用いて、S220の処理を説明する。刺繍模様202の糸色データが縫製順序とともに読み出され、読み出された糸色データと縫製順序とがRAM47に記憶される。例えば、刺繍模様202の糸色データとして、白、青、黄、オレンジ、赤、黒が縫製順序とともにRAM47に記憶される。次に、縫製順序が2番目以降の糸色データが順に読み出され、読み出された糸色データと、RAM47に記憶されている各多針ミシン1と対応付けられた糸駒色データとが比較される。そして、連続して読み出された糸色データの糸駒が最も多く装着されている多針ミシン1が、縫製順序が2番目以降の部分模様を最も多く連続縫製することが可能なミシンとされる。本実施形態では、縫製順序がi+1番目以降の部分模様を最も多く連続縫製することが可能なミシンが、縫製ミシンとされる。このように縫製ミシンを決定することにより、使用する縫製ミシンの台数がなるべく少なくすることができる。図11では、読み出された糸色データの糸駒が多針ミシン1に装着されている場合には、その糸色データの糸駒が装着された針棒番号に対応するマスに斜線が付与されている。図11に示すように、第1のミシン1は、縫製順序が3番目の糸色データ「黄」の部分模様まで連続縫製可能である。第2のミシン1は、縫製順序が2番目の糸色データ「青」の部分模様まで連続縫製可能である。第3のミシン1は、縫製順序が1番目の糸色データ「白」の部分模様のみを縫製可能である。したがって、縫製システム100が備える多針ミシン1のうち、第1のミシン1が縫製ミシンとされる。具体例2についても、同様に第1のミシン1が縫製ミシンとされる。次に、S220の検索結果に基づき、指示データが設定され、設定された指示データはRAM47に保存される(S230)。図11の具体例1の場合、図12に示すように指示データが設定される。図12の具体例1では、IDに1000が、Startに1が、Endに3が、Stitchに刺繍データが、それぞれ設定される。
【0046】
S210において、S190で設定されたcolorを装着している多針ミシン1がなかった場合には(S210:No)、RAM47に記憶されている刺繍データが参照され、i+1番目の糸色データ(部分模様)があるか否かが判断される(S210)。i+1番目の糸色データがある場合には(S240:Yes)、iはインクリメントされ、処理はS190に戻る。i+1番目の糸色データがない場合には(S240:No)、指示データが設定され、設定された指示データはRAM47に保存される(S250)。S250の処理は、S190でcolorに設定したi番目の糸色データ(部分模様)が、縫製順序が最後の糸色データ(部分模様)である場合の処理である。本実施形態の縫製システム100は、S240において最後の糸色データに対応する糸駒が、縫製システム100が備える多針ミシン1に装着されていない場合には(S240:No)、ミシン決定処理が実行されている多針ミシン1を縫製ミシンと決定する。したがって、ミシン決定処理が第1のミシン1において実行されている場合、S250では、IDに1000が、Start及びEndに最後の縫製順序が、Stitchに刺繍データが、それぞれ設定される。S230又はS250に続き、S230又はS250において設定されたIDがLCD7に表示される(S260)。S260の処理で、例えば、図13に示すサブ画面250がLCD7に表示される。サブ画面250には、S230又はS250において設定された縫製ミシンのIDを含むメッセージ251が表示されている。次に、ミシン決定処理は終了する。
【0047】
引き続き、図9を参照してアイドルループの説明をする。S80において指示データが受信された場合(S80:Yes)、又はS100に続いて、S80において受信された指示データ又はS100において設定された指示データに含まれるIDが、自分のIDか否かが判断される(S110)、自分のIDではない場合には(S110:No)、縫製ミシンに、指示データが送信される(S270)。
【0048】
自分のIDであった場合には(S110:Yes)、現在装着されている糸駒13を用いて指示データによって指示される部分模様が縫製される場合に、糸駒13の交換が必要であるか否かが判断される(S120)。S120では、EEPROM48に記憶されている自身の糸駒色データと、StartからEndまでの部分模様の糸色データとが比較される。糸色データが糸駒色データに含まれていない場合には、糸駒13の交換が必要であると判断される(S120:Yes)。糸駒13の交換が必要である場合には(S120:Yes)、針棒番号と、交換後の糸駒13の色とがLCD7に表示される(S130)。
【0049】
糸駒13の交換が必要ではない場合(S120:No)、又はS130に続いて、指示データのStartからEndまでの糸色データの部分模様が縫製される(S140)。S140の処理は、加工布(図示せず)がセットされた刺繍枠84(図2参照)が、刺繍枠移動機構11に装着されていることが前提に実行される。パネル操作によって、縫製開始が指示されると、針棒駆動機構85及び刺繍枠移動機構11が駆動され、指示データのStartからEndまでの部分模様は、新たに糸駒13が交換されることなく連続して縫製される。次に、すべての色の部分模様が縫製されたか否かが判断される(S150)。全色縫製が完了された場合には(S150:Yes)、S100で受信された指示データがクリアされる(S160)。S160又はS270の次に、システム終了の指示が入力されたか否かが判断される(S280)。システム終了の指示は、例えば、パネル操作によって入力される。また、システム終了の指示は、ユーザによってシステム終了の指示が入力された多針ミシン1から送信される。システム終了の指示が入力されていない場合には(S280:No)、処理はS80に戻る。システム終了の指示が入力された場合には(S280:Yes)、アイドルループは終了し、処理は図6のメイン処理に戻る。パネル操作によって、システム終了の指示が入力された多針ミシン1は、メイン処理に戻る前に、他の多針ミシン1にシステム終了の指示を送信する。
【0050】
S150において、すべての色の部分模様の縫製が完了されていない場合(S150:No)、ミシン決定処理が実行される(S180)。S180のミシン決定処理では、使用順序が2番目以降の縫製ミシンと、その縫製ミシンに割り当てられる部分模様とが決定される。すなわち、S180では、指示データに含まれる刺繍データの刺繍模様のうち、指示データに含まれるEnd+1からn番目の糸色までの部分模様を縫製する多針ミシン1と、nとが決定される。なお、指示データは、S80で受信された指示データ又はS100で設定された指示データである。S180のミシン決定処理は、S90の処理と同様であるので、詳しい説明を省略する。図12の指示データに基づき、縫製順序が1から3までの糸色データの部分模様を縫製し終えた場合(S140,S150:No)、S180では縫製順序が4(3+1)から6までの糸色データが順に読み出される(図10のS220)。図14に示す具体例1及び図15に示す具体例2を用いて、S180のミシン決定処理で実行されるS220の処理を説明する。図14に示すように、具体例1では、第2のミシン1は、縫製順序が4番目から5番目までの部分模様を連続縫製可能である。第3のミシン1は、縫製順序が4番目から6番目までの部分模様を連続縫製可能である。したがって、具体例1では、縫製システム100が備える多針ミシン1のうち、第3のミシン1が、使用順序が2番目の縫製ミシンとされる。一方、具体例2は、図15に示すように、第2のミシン1は、縫製順序が4番目の部分模様のみを縫製可能である。第3のミシン1は、縫製順序が4番目から5番目までの部分模様を連続縫製可能である。したがって、具体例2では、縫製システム100が備える多針ミシン1のうち、第3のミシン1が、使用順序が2番目の縫製ミシンとされる。
【0051】
S180の次に、S180において設定された指示データが、指示データのIDが示す多針ミシン1に送信される(S270)。具体例1及び具体例2では、第3のミシン1に指示データが送信される。第3のミシン1では、同様のアイドルループが実行され、指示データに従って刺繍模様が縫製される(S80:Yes,S110:Yes,S120:No,S140)。なお、具体例2では、第3のミシン1は、指示データに従って4番目から5番目の糸色データの部分模様を縫製した後(S140,S150:No)、S180において第3のミシン1のIDをセットする(S210:No,S240:No,S250)。その後、繰り返し実行されるS120において、糸駒13の交換が必要であると判断され(S120:Yes)、糸駒13を交換することをユーザに促すメッセージがLCD7に表示される(S130)。S130において、例えば、図16のサブ画面260がLCD7に表示される。サブ画面260には、糸駒交換が必要な針棒番号「1」と、交換後の糸駒13の色「オレンジ」とが含まれるメッセージ261が表示されている。S130の次に、S140の処理が実行され、刺繍模様202の縫製が完了される(S150:Yes)。
【0052】
以上のように、縫製システム100においてメイン処理が実行される。なお、3台の多針ミシン1を相互に接続する、USBケーブル101は、本発明の通信手段に相当する。図6のS20において、縫製システム100が備える3台の多針ミシン1のそれぞれについて、多針ミシン1に装着されている糸駒13の色を示す糸駒色データを、多針ミシン1を特定するIDと関連づけて取得するCPU45は、本発明の色取得手段として機能する。IDは、本発明のIDデータに相当する。糸駒色データを記憶するEEPROM48は、糸駒色データ記憶手段に相当する。図9のS80又はS90において、刺繍データを取得するCPU45は、本発明の模様取得手段として機能する。刺繍データを記憶するROM46は、模様記憶手段に相当する。図10のS220において、S80又はS90において取得された刺繍データに含まれる糸色データと、図6のS20で共有された糸駒色データとを比較するCPU45は、本発明の色比較手段として機能する。図10のS230において、S220の比較結果に基づいて、縫製システム100が備える糸駒13が交換される回数が最小となるように、3台の多針ミシン1の中から、刺繍模様の縫製に用いる縫製ミシンを決定し、縫製ミシンに、StartからEndまでの部分模様を割り当てるCPU45は、ミシン決定手段として機能する。縫製ミシンに対して、指定データを、USBケーブル101を介して送信する(S270)CPU45は、本発明のミシン制御手段として機能する。多針ミシン1が指定データを受信した場合(S80:Yes,S110:Yes)、又は指定データが設定された場合に(S100,S110:Yes)、針棒駆動機構85を駆動させて、指定データによって指定される部分模様を加工布(図示せず)に縫製する(S140)CPU45は、本発明の縫製制御手段として機能する。針棒31を含む針棒駆動機構85は、本発明の縫製手段に相当する。S230又はS250において決定された縫製ミシンを指定する情報を表示する(S130)LCD7は、本発明の報知手段として機能する。
【0053】
上記縫製システム100では、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する場合に、色比較手段の比較結果に基づいて糸駒交換回数を考慮した効率的な多針ミシンの使用順序を求めることができる。よって、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する際の、縫製時間や糸駒交換に必要な手間を低減させることができる。縫製システム100は、S220において、比較結果に基づいて糸駒交換回数が最小となる多針ミシンの使用順序を求めている。よって、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する際の、縫製時間と、糸駒交換に必要な手間とを低減させることができる。また、上記縫製システム100では、糸駒13の交換が不要で、かつ、縫製順序に従って最も多くの色を縫製することができる多針ミシン1が、次の使用順序の縫製ミシンとして決定される。このため、使用する多針ミシン1の数が最小となるように多針ミシン1の使用順序が決定される。したがって、ユーザが刺繍枠84を移動させるのに必要な時間と手間とを低減させることができる。また、図10のS260において、縫製ミシンが報知されているので、ユーザは予め多針ミシンの使用順序を知ることができる。よって、ユーザは、報知結果に従った順序で縫製ミシンに縫製を実行させることにより、効率的に刺繍模様を形成させることができる。
【0054】
なお、本発明の縫製システムは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、以下の(A)から(F)までの変形を適宜加えてもよい。
【0055】
(A)縫製システムが備える多針ミシン1の数は、複数であればよい。また、多針ミシンが備える針棒の数は、複数であればよい。また、縫製システムが備える多針ミシンは相互に通信可能であればよく、通信手段は適宜変更可能である。例えば、複数の多針ミシンは無線で通信してもよい。複数の多針ミシンが有線で接続される場合、USBケーブルの他、例えば、LANケーブルで接続されてもよい。また、多針ミシン1間の接続方法は適宜変更可能である。例えば、図17に示す縫製システム300のように、1つの多針ミシン1が、他のすべての多針ミシン1と接続されてもよい。上記縫製システム100は、同一の物理的構成及び電気的構成を有する多針ミシンを複数備えていたが、物理的構成又は電気的構成が互いに異なる多針ミシンを複数備えていてもよい。この場合、同一の刺繍枠を装着可能であり、同一の刺繍データに従って縫製可能であればよい。
【0056】
(B)縫製ミシンの決定方法は、適宜変更可能である。例えば、糸駒交換回数が最小になる多針ミシンの組合せが複数ある場合に、以下のようにミシン決定処理が実行されてもよい。糸駒交換回数が最小になる多針ミシンの組合せが複数ある場合に、使用順序が1つ前の縫製ミシンに、設置場所が最も近い多針ミシンが縫製ミシンとして決定されてもよい。このようにすれば、縫製ミシン間を移動するユーザの移動量が低減される。この場合、多針ミシン1は、多針ミシン1は、設置位置を取得する設置位置取得手段を備え、糸駒色データを共有する際に、設置位置も共有すればよい。設置位置取得手段としては、例えば、ユーザが入力した設置位置を取得するCPU45が挙げられる。
【0057】
(C)縫製ミシンの決定方法の他の例として、例えば、糸駒交換回数及び縫製ミシンの使用台数以外の事項を考慮に入れて、処理が実行されてもよい。糸駒交換回数以外の事項としては、例えば、糸替えを実行させない針棒31を設定することが挙げられる。頻繁に使用される糸駒13が装着されている針棒31が、糸替えを実行させない針棒31として設定されれば、その糸駒13が交換されることを回避することができる。また、糸駒交換回数だけを考慮に入れて処理が実行されてもよい。
【0058】
(D)縫製ミシンの決定方法の他の例として、例えば、開始ミシン1において、刺繍模様を縫製するすべての縫製ミシンとその使用順序とが決定されてもよい。この場合、開始ミシン1は、指示データに、IDと、Startと、Endと、Stitchとに加え、使用順序を含ませればよい。この場合、指示データは、1度にすべての縫製ミシンに対して開始ミシンから送信されてもよい。また指示データは、縫製ミシンから送信された終了報告が受信された場合に、開始ミシンから次の使用順序の縫製ミシンに送信されてもよい。縫製ミシンは、指示データを受信した場合、使用順序になったら、指示データに従って縫製を実行する。
【0059】
(E)指示データが備えるパラメータは適宜変更されてよい。例えば、縫製システムが備える各多針ミシンが、同じ刺繍データを既に記憶している場合には、指示データに含まれるStitchには、刺繍データを識別するIDが設定されてもよい。
【0060】
(F)上記実施形態では、図10のS260において、縫製ミシンのIDをLCD7に表示していたが、他の方法によって、縫製ミシンのIDが報知されてもよい。例えば、音声によって縫製ミシンのIDが報知されてもよい。縫製ミシンのIDを報知する処理は、必要に応じて省略されてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 多針ミシン
7 液晶ディスプレイ
13 糸駒
31 針棒
45 CPU
85 針棒駆動機構
100,300 縫製システム
101 ケーブル
250 サブ画面
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の多針ミシンを備える縫製システム及び縫製システムプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、縫針が装着された複数の針棒と、その複数の針棒が設けられた針棒ケースを有する多針ミシンが知られている。多針ミシンは、各縫針に上糸として供給される糸を、縫針の本数と同数装着可能である。
【0003】
多針ミシンでは、縫製に際して、縫製を行うための刺繍データに含まれる糸色データと、縫針に供給されている糸の糸駒色データとを比較する。多針ミシンは、刺繍データに含まれる糸色データに対応する糸が供給された縫針を、縫製用の縫針として選択する。一方、刺繍データの糸色データに対応する糸が、多針ミシンに装着されていない場合には、多針ミシンは縫製を中断する。ユーザは、縫針に供給されている糸を、刺繍データの糸色データに対応する糸と交換し、多針ミシンによる縫製を再開させる。刺繍模様の縫製を効率的に実行させるためには、糸駒交換回数を極力少なくし、多針ミシンによる縫製が中断される時間を短くすることが望ましい。そこで、多針ミシンの糸駒交換を効率的に行うための種々の方法が提案されている。例えば、縫製時の糸駒交換回数が少なくなるように、縫い順や糸の使用頻度等を考慮して、各針棒と糸との関係を定め、ユーザにそれらの対応を報知するミシン制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、複数の多針ミシンを相互に接続した縫製システムが知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の刺繍縫製システムでは、1つの模様を複数の多針ミシンで縫製することを前提に、糸駒交換回数が少なく、縫製時間が短くなるように、多針ミシンに縫製する部分模様を割り当てる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−33538号公報
【特許文献2】特開2009−22400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の多針ミシンでは、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する場合に、糸駒交換回数を考慮した効率的な多針ミシンの使用順序を求めることはできなかった。具体的には、特許文献1に記載のミシン制御装置では、複数の多針ミシンを使用して刺繍模様の縫製を行う場合が想定されていなかった。また、特許文献2に記載の刺繍縫製システムは、縫製開始以降の糸駒交換回数が少なくなるように、多針ミシンに部分模様を割り当てる。すなわち、上記刺繍縫製システムは、縫製開始前の糸駒交換回数を考慮せずに、多針ミシンに部分模様を割り当てる。このため、上記刺繍縫製システムでは、縫製開始前も含め、なるべく糸駒を交換しないで縫製できるように、縫製に用いる多針ミシンとその使用順序を決定することはできなかった。ユーザが、多針ミシンの使用順序を求めることも考えられる。しかし、ユーザは、縫製システムが備えるすべての多針ミシンについて、縫針に対応する糸色データを把握した上で、刺繍データに適した使用順序を決める必要があり、多大な労力を要するという問題があった。また、多針ミシンの縫製順序が適切に定められなかった場合には、糸駒交換回数が増え、それに伴い縫製時間や糸駒交換に必要な手間が増加するという問題があった。
【0007】
本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであり、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する場合に、効率的に刺繍模様の縫製を行う縫製システム及び縫製システムプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の縫製システムは、複数の針棒を含む縫製手段を備え、加工布に刺繍模様を縫製する多針ミシンを複数備える縫製システムにおいて、前記複数の多針ミシンを相互に接続する通信手段と、前記縫製システムが備える前記複数の多針ミシンのそれぞれについて、前記多針ミシンに装着される糸駒の色を示す糸駒色データを、当該多針ミシンを特定するIDデータと関連づけて取得する色取得手段と、糸色が異なる複数の部分模様からなる前記刺繍模様を縫製するための刺繍データを取得する模様取得手段と、前記模様取得手段によって取得された前記刺繍データに含まれる糸色データと、前記色取得手段によって取得された前記糸駒色データとを比較する色比較手段と、前記色比較手段の比較結果に基づいて、前記複数の多針ミシンの中から、少なくとも1の多針ミシンを前記刺繍模様の縫製に用いる縫製ミシンとして決定し、当該縫製ミシンに使用順序及び少なくとも1の前記部分模様を割り当てるミシン決定手段と、前記使用順序に従って前記縫製ミシンに当該縫製ミシンに割り当てられた前記部分模様を縫製させるように、前記ミシン決定手段によって決定された前記縫製ミシンに対して、前記ミシン決定手段によって割り当てられた前記部分模様を指定する指定データを、前記通信手段を介して送信するミシン制御手段と、前記縫製ミシンが前記指定データを受信した場合に、当該指定データによって指定される前記部分模様を前記加工布に縫製するように前記縫製手段を駆動制御する縫製制御手段とを備えている。
【0009】
また、請求項2に係る発明の縫製システムは、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記ミシン決定手段は、前記刺繍模様を縫製する際に、前記縫製システムが備える糸駒を交換する回数が最小となるように、前記縫製ミシンを決定し、当該縫製ミシンに使用順序及び少なくとも1の前記部分模様を割り当てることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る発明の縫製システムは、請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、前記ミシン決定手段によって決定された前記縫製ミシンを指定する情報を報知する報知手段を備えている。
【0011】
また、請求項4に係る発明の縫製システムプログラムは、請求項1から3のいずれかに記載の縫製システムの各種処理手段として、縫製システムに内蔵されたコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る縫製システムでは、複数の多針ミシンを使用して刺繍模様を縫製する場合に、色比較手段の比較結果に基づいて糸駒交換回数を考慮した効率的な多針ミシンの使用順序を求めることができる。よって、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する際の、縫製時間や糸駒交換に必要な手間を低減させることができる。
【0013】
また、請求項2に係る縫製システムでは、請求項1に記載の発明の効果に加え、色比較手段の比較結果に基づいて糸駒交換が最小となる多針ミシンの使用順序を求めることができる。よって、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する際の、縫製時間や糸駒交換に必要な手間を低減させることができる。
【0014】
また、請求項3に係る縫製システムでは、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、ユーザは予め多針ミシンの使用順序を知ることができる。よって、ユーザは、報知結果に従った順序で縫製ミシンに縫製を実行させることにより、効率的に刺繍模様を形成させることができる。
【0015】
また、請求項4に係る縫製システムプログラムをコンピュータで実行させることにより、請求項1から3のいずれかに記載の発明の効果と同様な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】複数の多針ミシン1を備えた縫製システム100の概念図である。
【図2】多針ミシン1の斜視図である。
【図3】針棒ケース21の内部を示す斜視図である。
【図4】多針ミシン1の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】液晶ディスプレイ7に表示される縫製画面200の説明図である。
【図6】メイン処理のフローチャートである。
【図7】具体例1の糸駒色データの説明図である。
【図8】具体例2の糸駒色データの説明図である。
【図9】図6のメイン処理で実行されるアイドルループのフローチャートである。
【図10】図9のアイドルループで実行されるミシン決定処理のフローチャートである。
【図11】具体例1において縫製ミシンを決定する処理の説明図である。
【図12】指示データの説明図である。
【図13】縫製ミシンのIDを表示するサブ画面250の説明図である。
【図14】具体例1において縫製ミシンを決定する処理の説明図である。
【図15】具体例2において縫製ミシンを決定する処理の説明図である。
【図16】糸駒13の交換が必要な針棒番号と、糸駒交換後の糸駒の糸色を表示するサブ画面260の説明図である。
【図17】複数の多針ミシン1を備えた縫製システム300の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具現化した一実施の形態である縫製システム100について、図面を参照して説明する。尚、参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いるものであり、記載している装置の構成等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0018】
まず、図1を参照して、縫製システム100について説明する。縫製システム100は、3台の多針ミシン1を備えている。3台の多針ミシン1は、後述するコネクタ9(図2及び図4参照)に接続されたUSBケーブル101によって、直列に接続されている。3台の多針ミシン1の物理的構成と、電気的構成とは同じである。
【0019】
次に、図2及び図3を参照して、縫製システム100が備える多針ミシン1の物理的構成について説明する。以下の説明では、図2の左斜め下側を多針ミシン1の前方とし、図2の右斜め上側を多針ミシン1の後方とする。図2の左斜め上側を多針ミシン1の左側とし、図2の右斜め下側を多針ミシン1の右側とする。
【0020】
多針ミシン1は、支持部2と、脚柱部3と、アーム部4とを備えている。支持部2は、平面視逆U字形に形成され、多針ミシン1全体を支持する。脚柱部3は、支持部2から上方へ立設する。アーム部4は、脚柱部3の上端部から正面側に延びる。アーム部4の先端には、針棒ケース21が左右方向に移動可能に装着されている。針棒ケース21の詳細については後述する。
【0021】
アーム部4の前後方向中央部の右側には、操作部6が設けられている。操作部6は、上下方向に延びる軸を回転軸として、アーム部4に回転可能に軸支されている。操作部6は、液晶ディスプレイ7(以下、「LCD7」と言う。)と、タッチパネル8と、コネクタ9とを備える。LCD7には、例えば、ユーザが指示を入力するための操作画像が表示される。タッチパネル8は、ユーザからの指示を受け付けるために用いられる。LCD7に表示された入力キー等の位置に対応したタッチパネル8の箇所を、指や専用のタッチペンを用いて押圧操作すること(以下、この操作を「パネル操作」と言う。)によって、ユーザは縫製模様や縫製条件等を選択できる。コネクタ9は、USB規格のコネクタであり、USBデバイス44(図4参照)と接続可能である。
【0022】
アーム部4の下方には、脚柱部3の下端部から前方へ延びる筒状のシリンダベッド10が設けられている。シリンダベッド10の先端部の内部には、下糸(図示せず)が巻回されたボビン(図示せず)を収納する釜(図示せず)が設けられている。また、シリンダベッド10は、釜を回転駆動する釜駆動機構(図示せず)を内部に備えている。シリンダベッド10の上面には、縫針35が挿通する針穴(図示せず)が設けられた針板16がある。
【0023】
アーム部4の下方には、刺繍枠84を前後左右に移動させる刺繍枠移動機構11が設けられている。刺繍模様が縫製される時には、加工布(図示せず)が装着された刺繍枠84が、刺繍枠移動機構11のキャリッジにセットされる。多針ミシン1は、刺繍枠移動機構11のX軸モータ63(図4参照)及びY軸モータ64(図4参照)によって刺繍枠84を前後左右に移動させながら、刺繍模様を縫製する。
【0024】
アーム部4の上面の背面側には、左右一対の糸駒台12が設けられている。各糸駒台12には、糸駒13が軸支される糸立棒14が設けられている。各糸駒台12は、それぞれ最大で3個の糸駒13を軸支できる。すなわち、一対の糸駒台12には、針棒31の数と同じ6個の糸駒13が載置される。糸駒台12に軸支された糸駒13から延びる上糸15は、糸案内17と、糸調子器18と、天秤19とを経由して、針棒31の下端に装着された各縫針35の目孔(図示せず)に供給される。
【0025】
次に、アーム部4の正面側に設けられた針棒ケース21の内部構成について、図3を参照して説明する。図3に示すように、針棒ケース21内には、6本の針棒31が設けられている。各針棒31には、個々の針棒31を識別するための針棒番号が付与されている。本実施形態では、図中右側から順に針棒番号1番から6番が付与されている。針棒31は、針棒ケース21のフレーム80に固定された上下2個の固定部材(図示せず)により上下方向に摺動可能に支持されている。各針棒31の上半部には押えバネ72が設けられ、下半部には押えバネ73がそれぞれ設けられている。押えバネ72と押えバネ73との間には、針棒抱き(図示せず)が設けられ、押えバネ73の下には押え抱き83が設けられている。針棒31は、主軸モータ54(図4参照)を駆動源とする針棒駆動機構85によって、上下方向に摺動される。針棒駆動機構85は、天秤駆動カム75と、連結部材76と、ジャンプタイ77と、ガイド棒78と、連結ピン(図示せず)とを備える。針棒31の下端には、縫針35(図1参照)が装着されている。押え足71は、押え抱き83から縫針35の下端部(先端部)よりも僅かに下方に伸びるように形成され、針棒31の上下動と連動して、断続的に加工布(図示せず)を下方へ押圧する。
【0026】
次に、刺繍枠84に装着された加工布(図示せず)に縫目を形成する動作について図2から図4を参照して説明する。加工布を装着した刺繍枠84は、刺繍枠移動機構11(図2参照)に支持される。まず、針棒ケース21が左右に移動することで、6本の針棒31のうち1本が選択される。そして、主軸モータ54によって主軸74が回転駆動されると、針棒駆動機構85が駆動される。主軸74の回転駆動は、天秤駆動カム75を介して連結部材76に伝達され、連結部材76が枢支されているジャンプタイ77が針棒31と水平に配置されたガイド棒78にガイドされて上下駆動される。そして、その上下駆動が連結ピン(図示せず)を介して針棒31に伝達され、縫針35が装着される針棒31が上下駆動される。また、天秤駆動カム75の回転によって、詳しくは図示しないリンク機構を介して天秤19が上下駆動される。一方、主軸74の回転が釜駆動機構(図示せず)に伝達され釜(図示せず)が回転駆動される。このように、縫針35と天秤19と釜とが同期して駆動され、加工布に縫目が形成される。
【0027】
次に、多針ミシン1の制御全般を司る電気的構成について図4を参照して説明する。図4に示すように、多針ミシン1は、縫針駆動部57と、縫製対象駆動部65と、操作部6と、制御ユニット41とを備える。以下、多針ミシン1を構成する縫針駆動部57と、縫製対象駆動部65と、操作部6と、制御ユニット41とのそれぞれを詳述する。
【0028】
縫針駆動部57は、針棒31を上下方向に往復移動させる主軸モータ54と、制御ユニット41からの制御信号に従って主軸モータ54を駆動する主軸駆動回路51とを備えている。また縫針駆動部57は、針棒31を切り替える切替機構55と、制御ユニット41からの制御信号に従って当該切替機構55を駆動する切替駆動回路52とを備えている。また縫針駆動部57は、縫針35(図2及び図3参照)に供給されている糸を切断する切断機構56と、制御ユニット41からの制御信号に従って当該切断機構56を駆動する切断駆動回路53とを備えている。
【0029】
縫製対象駆動部65は、刺繍枠84(図2参照)を左右方向に移動させるX軸モータ63と、制御ユニット41からの制御信号に従ってX軸モータ63を駆動させるX軸駆動回路61とを備えている。また縫製対象駆動部65は、刺繍枠84を前後方向に移動させるY軸モータ64と、制御ユニット41からの制御信号に従ってY軸モータ64を駆動させるY軸駆動回路62とを備えている。
【0030】
操作部6は、タッチパネル8と、コネクタ9と、LCD駆動回路66と、LCD7とを備えている。LCD駆動回路66は、LCD7を制御する。コネクタ9は、USBコネクタである。コネクタ9には、USBデバイス44が接続可能である。USBデバイス44は、例えば、USBメモリ、CD−ROM,パーソナルコンピュータ、他の多針ミシン1等が挙げられる。
【0031】
制御ユニット41は、CPU45と、ROM46と、RAM47と、EEPROM48と、入出力インターフェイス(I/O)50とを備え、これらはバス49により相互に接続されている。入出力インターフェイス50には、縫針駆動部57と、縫製対象駆動部65と、操作部6とがそれぞれ接続されている。以下、制御ユニット41を構成するCPU45と、ROM46と、RAM47と、EEPROM48とについて詳述する。
【0032】
CPU45は、多針ミシン1の主制御を司り、読み出し専用の記憶素子である。CPU45は、ROM46のプログラム記憶エリア(図示せず)に記憶された刺繍プログラムに従って、縫製に関わる各種演算及び処理を実行する。尚、刺繍プログラムはフレキシブルディスク等の外部記憶装置に記憶されていてもよい。
【0033】
ROM46は、図示しないが、プログラム記憶エリアと、刺繍データ記憶エリアと、その他の記憶エリアとを備える。プログラム記憶エリアには、刺繍プログラムと、縫製システムプログラムとを含む、多針ミシン1を動作させるための各種プログラムが含まれる。刺繍プログラムは、刺繍データに基づき多針ミシン1を動作させるためのプログラムである。縫製システムプログラムは、後述する縫製システム100のメイン処理を実行するためのプログラムである。刺繍データ記憶エリアには、刺繍模様を縫製するためのデータである刺繍データが記憶されている。刺繍データには、縫製順序と、糸色データと、針落ち点データとが含まれる。RAM47は、任意に読み書き可能な記憶素子であり、CPU45が演算処理した演算結果等を収容する記憶エリアが必要に応じて設けられている。EEPROM48には、読み書き可能な記憶素子であり、多針ミシン1において、各種処理を実行するための各種パラメータが記憶されている。また、EEPROM48には、縫製システム100が備える多針ミシン1を区別するためのIDが記憶されている。IDは、適宜設定可能であり、例えば、10桁の製造番号で表される。本実施形態では、図1の左側の多針ミシン1(以下、「第1のミシン1」とも言う。)のIDは1000であり、中央の多針ミシン1(以下、「第2のミシン1」とも言う。)のIDは1100であり、右側の多針ミシン1(以下、「第3のミシン1」とも言う。)のIDは1200であるとする。
【0034】
次に、図5に示す刺繍模様202を縫製する場合を例に、縫製システム100において刺繍模様を縫製するメイン処理を説明する。まず、縫製システム100において実行されるメイン処理の概要を説明する。メイン処理では、USBケーブル101によって接続された3台の多針ミシン1のいずれかが、刺繍模様を縫製する「縫製ミシン」として決定される。メイン処理は、任意の多針ミシン1で開始される。ユーザの指示によってメイン処理が開始された多針ミシン1(以下、「開始ミシン1」とも言う。)は、他の多針ミシン1に開始コマンドを送信する。他の多針ミシン1は、開始コマンドを受信すると、メイン処理を開始させる。このように、メイン処理は、一旦いずれかの多針ミシン1で開始されると、縫製システム100が備えるすべての多針ミシン1において実行される。
【0035】
次に、図5を参照して、刺繍模様202について説明する。刺繍模様202は、6色の糸色で縫製される鳥の模様である。刺繍模様202は、糸色ごとの部分模様、すなわち、6つの部分模様からなる。刺繍模様202の刺繍データは、糸色データごとに作成されている。LCD7に表示される縫製画面200において、刺繍模様202は、模様表示エリア201に表示されている。縫い順表示エリア204には、刺繍模様202を縫製する糸色の縫製順序が表示されている。縫い順表示エリア204に示すように、刺繍模様202は、白、青、黄、オレンジ、赤、黒の順で部分模様が縫製される。糸駒表示エリア203には、縫製画面200を表示している1台の多針ミシン1を用いて刺繍模様202を縫製する場合に、その多針ミシン1に設定されるべき糸駒の色が、針棒31の番号と対応付けて表示されている。刺繍模様202の刺繍データは、例えば、ROM46と、EEPROM48と、USBデバイス44とのいずれかに記憶されている。刺繍データは、例えば、インタネット回線を介して取得されてもよい。
【0036】
次に、縫製システム100において、刺繍模様を縫製するメイン処理を参照して説明する。図6に示す縫製システム100のメイン処理は、ROM46に記憶された刺繍プログラムに従って、CPU45が実行する。縫製システム100のメイン処理は、縫製システム100が備えるいずれかの多針ミシン1において、例えば、パネル操作により、複数台の多針ミシン1を用いて刺繍模様を縫製する指示が入力された場合に実行される。また、縫製システム100のメイン処理は、他の多針ミシン1から送信された開始コマンドが受信された場合に開始される。一例として、第1のミシン1において、メイン処理が開始された場合について説明する。
【0037】
なお、縫製システム100が備える3台の多針ミシン1は、直列に接続されている。よって、第1のミシン1と第3のミシン1との間は、第2のミシン1を介してデータが送受信される。
【0038】
図6に示すように、まず、縫製システム100が備える多針ミシン1の数が取得され、取得された数がRAM47に記憶される(S10)。S10の処理は、例えば、以下の処理によって実行される。第1のミシン1は、縫製システム100内の多針ミシン1に対して、IDを第1のミシン1に通知することを指示する通知コマンドを送信する。通知コマンドを受信した他の多針ミシン1は、第1のミシン1に自身のIDを送信する。S10では、第1のミシン1が所定期間内に受信したIDの数が、縫製システム100が備える多針ミシン1の数とされる。S10が実行される多針ミシン1が開始ミシン1である場合、S10において、他の多針ミシン1に対して、開始コマンドが送信される。開始コマンドは、他の多針ミシン1においてメイン処理を開始させるためのコマンドである。開始コマンドを受信した他の多針ミシン1では、メイン処理が開始される。
【0039】
次に、縫製システム100が備える3台の多針ミシン1間で、各多針ミシン1の糸駒台12(図2参照)に装着されている糸駒13の糸駒色データが共有される(S20)。S20では、例えば、以下の処理によって実行される。縫製システム100が備える各多針ミシン1は、自身の糸駒台12(図2参照)に装着されている糸駒の糸駒色データを自身のIDとともに、他の多針ミシン1に送信する。また、各多針ミシン1は、他の多針ミシン1から送信された糸駒色データ及びIDを受信し、RAM47に記憶させる。具体例1として、S20の処理によって、図7に示すように、糸駒色データが共有された場合を想定する。具体例2として、S20の処理によって、図8に示すように、糸駒色データが共有された場合を想定する。
【0040】
次に、アイドルループが実行される(S30)。アイドルループでは、ユーザによって指定された刺繍模様が、縫製システム100が備える多針ミシン1を使用して縫製される処理が実行される。アイドルループで実行される処理の詳細は後述する。S30の次に、メイン処理は終了する。
【0041】
次に、図9を参照して、図6のS30で実行されるアイドルループを説明する。アイドルループでは、まず、指示データが受信されたか否かが判断される(S80)。指示データは、刺繍模様を縫製することを縫製ミシンに指示するデータである。指示データには、パラメータとして、「ID」と、「Start」と、「End」と、「Stitch」とが含まれる。IDは、縫製ミシンのIDを示す。Startは、縫製ミシンが、何色目から刺繍模様の縫製を開始するかを示す。Endは、縫製ミシンが、何色目まで刺繍模様を縫製するかを示す。Stitchは、刺繍模様の刺繍データを示す。すなわち、指示データによって、Stitchで示される刺繍データのStartからEndまでの部分模様を縫製する多針ミシン1が、縫製ミシンとして特定される。指示データは、後述するミシン決定処理において作成される。
【0042】
指示データが受信されていない場合には(S80:No)、ユーザによって刺繍データが指定されたか否かが判断される(S90)。刺繍データが指定されたか否かは、パネル操作によって、刺繍データが選択されたか否かによって判断される。刺繍データが指定されていない場合には(S90:No)、後述するS280が実行される。刺繍データが指定された場合には(S90:Yes)、指定された刺繍データがRAM47に記憶され、ミシン決定処理が実行される(S100)。S100で実行されるミシン決定処理では、使用順序が1番目の縫製ミシンと、その縫製ミシンに割り当てられる部分模様とが決定される。より具体的には、S90において指定された刺繍データの刺繍模様のうち、1番目の糸色から、n番目の糸色までの部分模様を縫製する縫製ミシンと、nとが決定される。ミシン決定処理を、図10を参照して説明する。
【0043】
ミシン決定処理では、縫製ミシンを次のように決定する。糸駒13の交換が不要で、かつ、縫製順序に従って最も多くの色を縫製することができる多針ミシン1が、次の使用順序の縫製ミシンとして決定される。ミシン決定処理は、1度に連続して縫製できる部分模様毎に実行される。すなわち、ミシン決定処理は、使用順序毎に、刺繍データが指定された多針ミシン1(S100)、又は指定データに従い縫製が終了された多針ミシン1(S180)において実行される。以下の説明において、「縫製順序」は部分模様の縫製順序を指す。
【0044】
具体的には、ミシン決定処理ではまず、RAM47に記憶されている刺繍データに含まれる縫製順序がi番目の部分模様の糸色データが取得され、取得された糸色データがcolorに設定される(S190)。S100で実行されるミシン決定処理では、iの初期値は1である。後述するS180で実行されるミシン決定処理では、iの初期値は、指示データのStartと同様の数が設定される。RAM47に記憶されている刺繍データは、図9のS80で取得された指示データに含まれる刺繍データ、又はS90でユーザによって指定された刺繍データである。次に、RAM47が参照され、S190で設定されたcolorに対応する糸駒が装着されている多針ミシン1が検索される(S200)。具体的には、図6のS20で取得された糸駒色データと、colorとが比較される。図7の具体例1と図8の具体例2とでは、1番目の糸色データ「白」に対応する糸駒13が装着されている多針ミシン1があるので(S210:Yes)、縫製順序がi+1番目以降の部分模様を最も多く連続縫製することが可能なミシンが検索される(S220)。「連続縫製することが可能」とは、縫製開始後に途中で糸駒を交換することなく縫製することが可能であることを意味する。
【0045】
図11に示す具体例1を用いて、S220の処理を説明する。刺繍模様202の糸色データが縫製順序とともに読み出され、読み出された糸色データと縫製順序とがRAM47に記憶される。例えば、刺繍模様202の糸色データとして、白、青、黄、オレンジ、赤、黒が縫製順序とともにRAM47に記憶される。次に、縫製順序が2番目以降の糸色データが順に読み出され、読み出された糸色データと、RAM47に記憶されている各多針ミシン1と対応付けられた糸駒色データとが比較される。そして、連続して読み出された糸色データの糸駒が最も多く装着されている多針ミシン1が、縫製順序が2番目以降の部分模様を最も多く連続縫製することが可能なミシンとされる。本実施形態では、縫製順序がi+1番目以降の部分模様を最も多く連続縫製することが可能なミシンが、縫製ミシンとされる。このように縫製ミシンを決定することにより、使用する縫製ミシンの台数がなるべく少なくすることができる。図11では、読み出された糸色データの糸駒が多針ミシン1に装着されている場合には、その糸色データの糸駒が装着された針棒番号に対応するマスに斜線が付与されている。図11に示すように、第1のミシン1は、縫製順序が3番目の糸色データ「黄」の部分模様まで連続縫製可能である。第2のミシン1は、縫製順序が2番目の糸色データ「青」の部分模様まで連続縫製可能である。第3のミシン1は、縫製順序が1番目の糸色データ「白」の部分模様のみを縫製可能である。したがって、縫製システム100が備える多針ミシン1のうち、第1のミシン1が縫製ミシンとされる。具体例2についても、同様に第1のミシン1が縫製ミシンとされる。次に、S220の検索結果に基づき、指示データが設定され、設定された指示データはRAM47に保存される(S230)。図11の具体例1の場合、図12に示すように指示データが設定される。図12の具体例1では、IDに1000が、Startに1が、Endに3が、Stitchに刺繍データが、それぞれ設定される。
【0046】
S210において、S190で設定されたcolorを装着している多針ミシン1がなかった場合には(S210:No)、RAM47に記憶されている刺繍データが参照され、i+1番目の糸色データ(部分模様)があるか否かが判断される(S210)。i+1番目の糸色データがある場合には(S240:Yes)、iはインクリメントされ、処理はS190に戻る。i+1番目の糸色データがない場合には(S240:No)、指示データが設定され、設定された指示データはRAM47に保存される(S250)。S250の処理は、S190でcolorに設定したi番目の糸色データ(部分模様)が、縫製順序が最後の糸色データ(部分模様)である場合の処理である。本実施形態の縫製システム100は、S240において最後の糸色データに対応する糸駒が、縫製システム100が備える多針ミシン1に装着されていない場合には(S240:No)、ミシン決定処理が実行されている多針ミシン1を縫製ミシンと決定する。したがって、ミシン決定処理が第1のミシン1において実行されている場合、S250では、IDに1000が、Start及びEndに最後の縫製順序が、Stitchに刺繍データが、それぞれ設定される。S230又はS250に続き、S230又はS250において設定されたIDがLCD7に表示される(S260)。S260の処理で、例えば、図13に示すサブ画面250がLCD7に表示される。サブ画面250には、S230又はS250において設定された縫製ミシンのIDを含むメッセージ251が表示されている。次に、ミシン決定処理は終了する。
【0047】
引き続き、図9を参照してアイドルループの説明をする。S80において指示データが受信された場合(S80:Yes)、又はS100に続いて、S80において受信された指示データ又はS100において設定された指示データに含まれるIDが、自分のIDか否かが判断される(S110)、自分のIDではない場合には(S110:No)、縫製ミシンに、指示データが送信される(S270)。
【0048】
自分のIDであった場合には(S110:Yes)、現在装着されている糸駒13を用いて指示データによって指示される部分模様が縫製される場合に、糸駒13の交換が必要であるか否かが判断される(S120)。S120では、EEPROM48に記憶されている自身の糸駒色データと、StartからEndまでの部分模様の糸色データとが比較される。糸色データが糸駒色データに含まれていない場合には、糸駒13の交換が必要であると判断される(S120:Yes)。糸駒13の交換が必要である場合には(S120:Yes)、針棒番号と、交換後の糸駒13の色とがLCD7に表示される(S130)。
【0049】
糸駒13の交換が必要ではない場合(S120:No)、又はS130に続いて、指示データのStartからEndまでの糸色データの部分模様が縫製される(S140)。S140の処理は、加工布(図示せず)がセットされた刺繍枠84(図2参照)が、刺繍枠移動機構11に装着されていることが前提に実行される。パネル操作によって、縫製開始が指示されると、針棒駆動機構85及び刺繍枠移動機構11が駆動され、指示データのStartからEndまでの部分模様は、新たに糸駒13が交換されることなく連続して縫製される。次に、すべての色の部分模様が縫製されたか否かが判断される(S150)。全色縫製が完了された場合には(S150:Yes)、S100で受信された指示データがクリアされる(S160)。S160又はS270の次に、システム終了の指示が入力されたか否かが判断される(S280)。システム終了の指示は、例えば、パネル操作によって入力される。また、システム終了の指示は、ユーザによってシステム終了の指示が入力された多針ミシン1から送信される。システム終了の指示が入力されていない場合には(S280:No)、処理はS80に戻る。システム終了の指示が入力された場合には(S280:Yes)、アイドルループは終了し、処理は図6のメイン処理に戻る。パネル操作によって、システム終了の指示が入力された多針ミシン1は、メイン処理に戻る前に、他の多針ミシン1にシステム終了の指示を送信する。
【0050】
S150において、すべての色の部分模様の縫製が完了されていない場合(S150:No)、ミシン決定処理が実行される(S180)。S180のミシン決定処理では、使用順序が2番目以降の縫製ミシンと、その縫製ミシンに割り当てられる部分模様とが決定される。すなわち、S180では、指示データに含まれる刺繍データの刺繍模様のうち、指示データに含まれるEnd+1からn番目の糸色までの部分模様を縫製する多針ミシン1と、nとが決定される。なお、指示データは、S80で受信された指示データ又はS100で設定された指示データである。S180のミシン決定処理は、S90の処理と同様であるので、詳しい説明を省略する。図12の指示データに基づき、縫製順序が1から3までの糸色データの部分模様を縫製し終えた場合(S140,S150:No)、S180では縫製順序が4(3+1)から6までの糸色データが順に読み出される(図10のS220)。図14に示す具体例1及び図15に示す具体例2を用いて、S180のミシン決定処理で実行されるS220の処理を説明する。図14に示すように、具体例1では、第2のミシン1は、縫製順序が4番目から5番目までの部分模様を連続縫製可能である。第3のミシン1は、縫製順序が4番目から6番目までの部分模様を連続縫製可能である。したがって、具体例1では、縫製システム100が備える多針ミシン1のうち、第3のミシン1が、使用順序が2番目の縫製ミシンとされる。一方、具体例2は、図15に示すように、第2のミシン1は、縫製順序が4番目の部分模様のみを縫製可能である。第3のミシン1は、縫製順序が4番目から5番目までの部分模様を連続縫製可能である。したがって、具体例2では、縫製システム100が備える多針ミシン1のうち、第3のミシン1が、使用順序が2番目の縫製ミシンとされる。
【0051】
S180の次に、S180において設定された指示データが、指示データのIDが示す多針ミシン1に送信される(S270)。具体例1及び具体例2では、第3のミシン1に指示データが送信される。第3のミシン1では、同様のアイドルループが実行され、指示データに従って刺繍模様が縫製される(S80:Yes,S110:Yes,S120:No,S140)。なお、具体例2では、第3のミシン1は、指示データに従って4番目から5番目の糸色データの部分模様を縫製した後(S140,S150:No)、S180において第3のミシン1のIDをセットする(S210:No,S240:No,S250)。その後、繰り返し実行されるS120において、糸駒13の交換が必要であると判断され(S120:Yes)、糸駒13を交換することをユーザに促すメッセージがLCD7に表示される(S130)。S130において、例えば、図16のサブ画面260がLCD7に表示される。サブ画面260には、糸駒交換が必要な針棒番号「1」と、交換後の糸駒13の色「オレンジ」とが含まれるメッセージ261が表示されている。S130の次に、S140の処理が実行され、刺繍模様202の縫製が完了される(S150:Yes)。
【0052】
以上のように、縫製システム100においてメイン処理が実行される。なお、3台の多針ミシン1を相互に接続する、USBケーブル101は、本発明の通信手段に相当する。図6のS20において、縫製システム100が備える3台の多針ミシン1のそれぞれについて、多針ミシン1に装着されている糸駒13の色を示す糸駒色データを、多針ミシン1を特定するIDと関連づけて取得するCPU45は、本発明の色取得手段として機能する。IDは、本発明のIDデータに相当する。糸駒色データを記憶するEEPROM48は、糸駒色データ記憶手段に相当する。図9のS80又はS90において、刺繍データを取得するCPU45は、本発明の模様取得手段として機能する。刺繍データを記憶するROM46は、模様記憶手段に相当する。図10のS220において、S80又はS90において取得された刺繍データに含まれる糸色データと、図6のS20で共有された糸駒色データとを比較するCPU45は、本発明の色比較手段として機能する。図10のS230において、S220の比較結果に基づいて、縫製システム100が備える糸駒13が交換される回数が最小となるように、3台の多針ミシン1の中から、刺繍模様の縫製に用いる縫製ミシンを決定し、縫製ミシンに、StartからEndまでの部分模様を割り当てるCPU45は、ミシン決定手段として機能する。縫製ミシンに対して、指定データを、USBケーブル101を介して送信する(S270)CPU45は、本発明のミシン制御手段として機能する。多針ミシン1が指定データを受信した場合(S80:Yes,S110:Yes)、又は指定データが設定された場合に(S100,S110:Yes)、針棒駆動機構85を駆動させて、指定データによって指定される部分模様を加工布(図示せず)に縫製する(S140)CPU45は、本発明の縫製制御手段として機能する。針棒31を含む針棒駆動機構85は、本発明の縫製手段に相当する。S230又はS250において決定された縫製ミシンを指定する情報を表示する(S130)LCD7は、本発明の報知手段として機能する。
【0053】
上記縫製システム100では、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する場合に、色比較手段の比較結果に基づいて糸駒交換回数を考慮した効率的な多針ミシンの使用順序を求めることができる。よって、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する際の、縫製時間や糸駒交換に必要な手間を低減させることができる。縫製システム100は、S220において、比較結果に基づいて糸駒交換回数が最小となる多針ミシンの使用順序を求めている。よって、複数の多針ミシンを使用して1つの刺繍模様を縫製する際の、縫製時間と、糸駒交換に必要な手間とを低減させることができる。また、上記縫製システム100では、糸駒13の交換が不要で、かつ、縫製順序に従って最も多くの色を縫製することができる多針ミシン1が、次の使用順序の縫製ミシンとして決定される。このため、使用する多針ミシン1の数が最小となるように多針ミシン1の使用順序が決定される。したがって、ユーザが刺繍枠84を移動させるのに必要な時間と手間とを低減させることができる。また、図10のS260において、縫製ミシンが報知されているので、ユーザは予め多針ミシンの使用順序を知ることができる。よって、ユーザは、報知結果に従った順序で縫製ミシンに縫製を実行させることにより、効率的に刺繍模様を形成させることができる。
【0054】
なお、本発明の縫製システムは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、以下の(A)から(F)までの変形を適宜加えてもよい。
【0055】
(A)縫製システムが備える多針ミシン1の数は、複数であればよい。また、多針ミシンが備える針棒の数は、複数であればよい。また、縫製システムが備える多針ミシンは相互に通信可能であればよく、通信手段は適宜変更可能である。例えば、複数の多針ミシンは無線で通信してもよい。複数の多針ミシンが有線で接続される場合、USBケーブルの他、例えば、LANケーブルで接続されてもよい。また、多針ミシン1間の接続方法は適宜変更可能である。例えば、図17に示す縫製システム300のように、1つの多針ミシン1が、他のすべての多針ミシン1と接続されてもよい。上記縫製システム100は、同一の物理的構成及び電気的構成を有する多針ミシンを複数備えていたが、物理的構成又は電気的構成が互いに異なる多針ミシンを複数備えていてもよい。この場合、同一の刺繍枠を装着可能であり、同一の刺繍データに従って縫製可能であればよい。
【0056】
(B)縫製ミシンの決定方法は、適宜変更可能である。例えば、糸駒交換回数が最小になる多針ミシンの組合せが複数ある場合に、以下のようにミシン決定処理が実行されてもよい。糸駒交換回数が最小になる多針ミシンの組合せが複数ある場合に、使用順序が1つ前の縫製ミシンに、設置場所が最も近い多針ミシンが縫製ミシンとして決定されてもよい。このようにすれば、縫製ミシン間を移動するユーザの移動量が低減される。この場合、多針ミシン1は、多針ミシン1は、設置位置を取得する設置位置取得手段を備え、糸駒色データを共有する際に、設置位置も共有すればよい。設置位置取得手段としては、例えば、ユーザが入力した設置位置を取得するCPU45が挙げられる。
【0057】
(C)縫製ミシンの決定方法の他の例として、例えば、糸駒交換回数及び縫製ミシンの使用台数以外の事項を考慮に入れて、処理が実行されてもよい。糸駒交換回数以外の事項としては、例えば、糸替えを実行させない針棒31を設定することが挙げられる。頻繁に使用される糸駒13が装着されている針棒31が、糸替えを実行させない針棒31として設定されれば、その糸駒13が交換されることを回避することができる。また、糸駒交換回数だけを考慮に入れて処理が実行されてもよい。
【0058】
(D)縫製ミシンの決定方法の他の例として、例えば、開始ミシン1において、刺繍模様を縫製するすべての縫製ミシンとその使用順序とが決定されてもよい。この場合、開始ミシン1は、指示データに、IDと、Startと、Endと、Stitchとに加え、使用順序を含ませればよい。この場合、指示データは、1度にすべての縫製ミシンに対して開始ミシンから送信されてもよい。また指示データは、縫製ミシンから送信された終了報告が受信された場合に、開始ミシンから次の使用順序の縫製ミシンに送信されてもよい。縫製ミシンは、指示データを受信した場合、使用順序になったら、指示データに従って縫製を実行する。
【0059】
(E)指示データが備えるパラメータは適宜変更されてよい。例えば、縫製システムが備える各多針ミシンが、同じ刺繍データを既に記憶している場合には、指示データに含まれるStitchには、刺繍データを識別するIDが設定されてもよい。
【0060】
(F)上記実施形態では、図10のS260において、縫製ミシンのIDをLCD7に表示していたが、他の方法によって、縫製ミシンのIDが報知されてもよい。例えば、音声によって縫製ミシンのIDが報知されてもよい。縫製ミシンのIDを報知する処理は、必要に応じて省略されてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 多針ミシン
7 液晶ディスプレイ
13 糸駒
31 針棒
45 CPU
85 針棒駆動機構
100,300 縫製システム
101 ケーブル
250 サブ画面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の針棒を含む縫製手段を備え、加工布に刺繍模様を縫製する多針ミシンを複数備える縫製システムにおいて、
前記複数の多針ミシンを相互に接続する通信手段と、
前記縫製システムが備える前記複数の多針ミシンのそれぞれについて、前記多針ミシンに装着される糸駒の色を示す糸駒色データを、当該多針ミシンを特定するIDデータと関連づけて取得する色取得手段と、
糸色が異なる複数の部分模様からなる前記刺繍模様を縫製するための刺繍データを取得する模様取得手段と、
前記模様取得手段によって取得された前記刺繍データに含まれる糸色データと、前記色取得手段によって取得された前記糸駒色データとを比較する色比較手段と、
前記色比較手段の比較結果に基づいて、前記複数の多針ミシンの中から、少なくとも1の多針ミシンを前記刺繍模様の縫製に用いる縫製ミシンとして決定し、当該縫製ミシンに使用順序及び少なくとも1の前記部分模様を割り当てるミシン決定手段と、
前記使用順序に従って前記縫製ミシンに当該縫製ミシンに割り当てられた前記部分模様を縫製させるように、前記ミシン決定手段によって決定された前記縫製ミシンに対して、前記ミシン決定手段によって割り当てられた前記部分模様を指定する指定データを、前記通信手段を介して送信するミシン制御手段と、
前記縫製ミシンが前記指定データを受信した場合に、当該指定データによって指定される前記部分模様を前記加工布に縫製するように前記縫製手段を駆動制御する縫製制御手段と
を備えることを特徴とする縫製システム。
【請求項2】
前記ミシン決定手段は、前記刺繍模様を縫製する際に、前記縫製システムが備える糸駒を交換する回数が最小となるように、前記縫製ミシンを決定し、当該縫製ミシンに使用順序及び少なくとも1の前記部分模様を割り当てることを特徴とする請求項1に記載の縫製システム。
【請求項3】
前記ミシン決定手段によって決定された前記縫製ミシンを指定する情報を報知する報知手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の縫製システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の縫製システムの各種処理手段として、縫製システムに内蔵されたコンピュータを機能させるための縫製システムプログラム。
【請求項1】
複数の針棒を含む縫製手段を備え、加工布に刺繍模様を縫製する多針ミシンを複数備える縫製システムにおいて、
前記複数の多針ミシンを相互に接続する通信手段と、
前記縫製システムが備える前記複数の多針ミシンのそれぞれについて、前記多針ミシンに装着される糸駒の色を示す糸駒色データを、当該多針ミシンを特定するIDデータと関連づけて取得する色取得手段と、
糸色が異なる複数の部分模様からなる前記刺繍模様を縫製するための刺繍データを取得する模様取得手段と、
前記模様取得手段によって取得された前記刺繍データに含まれる糸色データと、前記色取得手段によって取得された前記糸駒色データとを比較する色比較手段と、
前記色比較手段の比較結果に基づいて、前記複数の多針ミシンの中から、少なくとも1の多針ミシンを前記刺繍模様の縫製に用いる縫製ミシンとして決定し、当該縫製ミシンに使用順序及び少なくとも1の前記部分模様を割り当てるミシン決定手段と、
前記使用順序に従って前記縫製ミシンに当該縫製ミシンに割り当てられた前記部分模様を縫製させるように、前記ミシン決定手段によって決定された前記縫製ミシンに対して、前記ミシン決定手段によって割り当てられた前記部分模様を指定する指定データを、前記通信手段を介して送信するミシン制御手段と、
前記縫製ミシンが前記指定データを受信した場合に、当該指定データによって指定される前記部分模様を前記加工布に縫製するように前記縫製手段を駆動制御する縫製制御手段と
を備えることを特徴とする縫製システム。
【請求項2】
前記ミシン決定手段は、前記刺繍模様を縫製する際に、前記縫製システムが備える糸駒を交換する回数が最小となるように、前記縫製ミシンを決定し、当該縫製ミシンに使用順序及び少なくとも1の前記部分模様を割り当てることを特徴とする請求項1に記載の縫製システム。
【請求項3】
前記ミシン決定手段によって決定された前記縫製ミシンを指定する情報を報知する報知手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の縫製システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の縫製システムの各種処理手段として、縫製システムに内蔵されたコンピュータを機能させるための縫製システムプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図17】
【図5】
【図13】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図17】
【図5】
【図13】
【図16】
【公開番号】特開2011−10719(P2011−10719A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155355(P2009−155355)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
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