説明

縫製データ作成装置、縫製データ作成方法、縫製データ作成プログラム及び縫製データ作成プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な媒体

【課題】刺繍縫製物を形成するのに適した縫目を形成するための縫製データを作成する縫製データ作成装置を提供する。
【解決手段】互いに異なる種類の糸で縫製されるベース領域が連接している場合、ベース領域に形成される縫目の層数が取得され(S201)、ベース領域の境界線上の点における境界線の接線が特定され(S202〜S203)、縫目層の第1層目の縫い方向が、接線が延びる方向と交差する方向に決定される(S204)。各ベース領域が境界線を越えて所定量拡張され(S208)、各縫目層に対応して設定された縫い方向に応じて、拡張後のベース領域に縫目を形成するための縫製データが作成される(S210)。複数の縫目層の全てに対して同様の処理が行われると、一方のベース領域の縫目の一部が他方のベース領域の縫目の一部と交差する、または重なり合う重畳部を形成する縫製データが作成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍ミシンを用いて刺繍模様を縫製するための縫製データを作成する縫製データ作成装置、縫製データ作成方法、縫製データ作成プログラム及び縫製データ作成プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
加工布に刺繍模様を縫製するための縫製データを作成する縫製データ作成装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる縫製データ作成装置は、一般的に、次のように縫製データを作成する。まず、所望の刺繍図柄の画像に基づき自動的に刺繍領域の形状が決定される。次に、刺繍領域の外形輪郭を含む外形輪郭で囲まれた領域に、ユーザが指定する種類の縫目を形成するための縫製データが作成される。
【0003】
また、水溶性材料に縫目又は刺繍模様を形成した後、水溶性材料を溶解除去して刺繍縫製物を得る装飾用素材の製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。刺繍縫製物は、刺繍模様の縫目だけで形状を維持することが可能な縫製物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−122367号公報
【特許文献2】特開昭62−276069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の従来の縫製データ作成装置によって作成される縫製データは、刺繍模様の縫目だけで刺繍縫製物を形成することを想定して作成されていない。このため、このような縫製データに基づいて、縫製対象物である水溶性材料に刺繍模様が形成された場合、水溶性材料が溶解除去された時点で、刺繍模様の縫目が解けてしまい、刺繍縫製物を得ることができない。
【0006】
本発明は、刺繍縫製物を形成するのに適した縫目を形成するための縫製データを作成する縫製データ作成装置、縫製データ作成方法、縫製データ作成プログラム及び縫製データ作成プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様に係る縫製データ作成装置は、領域特定手段と、縫製データ作成手段とを備えている。前記領域特定手段は、互いに異なる方向に伸びる2つの縫目が交差する部位を複数含む複数の縫目が形成される領域を、少なくとも1つ特定する。前記縫製データ作成手段は、前記領域特定手段によって特定された前記少なくとも1つの領域の各々に、前記複数の縫目を形成するための縫製データを作成する。更に、前記縫製データ作成手段は、前記領域特定手段によって特定された前記少なくとも1つの領域が、互いに連接し、且つ、互いに異なる種類の糸でそれぞれ縫製される2つの領域を含む場合、前記2つの領域のうち少なくとも一方を前記2つの領域の境界線を越える方向に拡張することで、前記2つの領域のうち一方に形成される前記複数の縫目の一部に対して前記2つの領域のうち他方に形成される前記複数の縫目の一部が交差する、または重なり合う領域である重畳部を形成する縫製データを作成することを特徴とする。
【0008】
第1態様の縫製データ作成装置は、縫目が形成される領域が、互いに連接し、且つ、互いに異なる種類の糸でそれぞれ縫製される2つの領域を含む場合には、2つの領域の間に、縫目が交差する、または重なり合う重畳部が形成される縫製データを作成する。従って、縫製対象物の2つの領域内に縫目が形成された後、縫製対象物が除去されたとしても、重畳部によって、2つの領域の間で縫目が分離することなく、2つの領域全体に亘り縫目が維持される。従って、刺繍縫製物に適した縫製データが得られる。
【0009】
前記第1態様において、前記2つの領域の各々に形成される前記複数の縫目は、縫い方向が同じ複数の第1縫目と、前記複数の第1縫目をつなぐ複数の第2の縫目を含む縫目層を複数含み、前記縫い方向は、前記複数の縫目層毎に異なってもよい。そして、前記重畳部は、前記2つの領域のうち一方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向が、前記2つの領域のうち他方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向と略平行となり、且つ、前記2つの領域のうち一方の前記複数の縫目層のうち前記少なくとも1つに含まれる前記複数の縫目の少なくとも一部が、前記2つの領域のうち他方の前記複数の縫目層のうち前記少なくとも1つに含まれる前記複数の縫目の少なくとも一部と交差する、または重なり合うように形成されてもよい。
【0010】
この場合、連接する2つの領域において、各領域の複数の縫目層のうち少なくとも1つに含まれる第1縫目の縫い方向が互いに略平行となるように重畳部が形成される。従って、連接する2つの領域を全体でみた場合に、縫い方向が揃った、見た目が美しい縫目を形成する縫製データが得られる。更に、複数の第1縫目の縫い方向を縫目層毎に同じにすることで、縫目の糸密度を均一にすることが容易にできる。
【0011】
前記第1態様に係る縫製データ作成装置は、前記2つの領域の前記境界線上にある点を特定する特定点設定手段を更に備えてもよい。そして、前記重畳部は、前記2つの領域のうち一方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向と、前記2つの領域のうち他方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向とが、前記境界線上の前記点における前記境界線の接線に交差するように形成されてもよい。
【0012】
この場合、連接する2つの領域において、各領域の複数の縫目層のうち少なくとも1つに含まれる第1縫目の縫い方向は、互いに略平行であることに加え、2つの領域の境界線上で特定された点における境界線の接線に交差する。各領域の複数の縫目層の全てにおいて、第1縫目の縫い方向が境界線の接線と平行だと、重畳部による2つの領域の分離防止の効果が低下してしまう可能性がある。従って、各領域の複数の縫目層の少なくとも1つの縫い方向を、境界線に交差する方向とすることで、重畳部によって2つの領域が分離するのを確実に防止できる。
【0013】
前記第1態様において、前記重畳部は、前記複数の縫目に含まれる前記複数の縫目層と同じ数の縫目層を含んでもよい。この場合、重畳部において縫目層が他の部分よりも多く重ねられ、重畳部のみが分厚くなることを回避できる。よって、見た目がより美しい縫目を形成する縫製データが得られる。
【0014】
本発明の第2態様に係る縫製データ作成方法は、コンピュータによって処理される縫製データ作成方法であって、領域特定ステップと、縫製データ作成ステップとを含む。前記領域特定ステップは、互いに異なる方向に伸びる2つの縫目が交差する部位を複数含む複数の縫目が形成される領域を、少なくとも1つ特定するステップである。前記縫製データ作成ステップは、前記領域特定ステップで特定された前記少なくとも1つの領域の各々に、前記複数の縫目を形成するための縫製データを作成するステップである。更に、前記縫製データ作成ステップでは、前記領域特定ステップで特定された前記少なくとも1つの領域が、互いに連接し、且つ、互いに異なる種類の糸でそれぞれ縫製される2つの領域を含む場合、前記2つの領域のうち少なくとも一方を前記2つの領域の境界線を越える方向に拡張することで、前記2つの領域のうち一方に形成される前記複数の縫目の一部に対して前記2つの領域のうち他方に形成される前記複数の縫目の一部が交差する、または重なり合う領域である重畳部を形成する縫製データが作成されることを特徴とする。
【0015】
第2態様の縫製データ作成方法がコンピュータによって処理されると、縫目が形成される領域が、互いに連接し、且つ、互いに異なる種類の糸でそれぞれ縫製される2つの領域を含む場合には、2つの領域の間に、縫目が交差する、または重なり合う重畳部が形成される縫製データが作成される。従って、縫製対象物の2つの領域内に縫目が形成された後、縫製対象物が除去されたとしても、重畳部によって、2つの領域の間で縫目が分離することなく、2つの領域全体に亘り縫目が維持される。従って、刺繍縫製物に適した縫製データが得られる。
【0016】
前記第2態様において、前記2つの領域の各々に形成される前記複数の縫目は、縫い方向が同じ複数の第1縫目と、前記複数の第1縫目をつなぐ複数の第2の縫目を含む縫目層を複数含み、前記縫い方向は、前記複数の縫目層毎に異なってもよい。そして、前記重畳部は、前記2つの領域のうち一方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向が、前記2つの領域のうち他方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向と略平行となり、且つ、前記2つの領域のうち一方の前記複数の縫目層のうち前記少なくとも1つに含まれる前記複数の縫目の少なくとも一部が、前記2つの領域のうち他方の前記複数の縫目層のうち前記少なくとも1つに含まれる前記複数の縫目の少なくとも一部と交差する、または重なり合うように形成されてもよい。
【0017】
この場合、連接する2つの領域において、各領域の複数の縫目層のうち少なくとも1つに含まれる第1縫目の縫い方向が互いに略平行となるように重畳部が形成される。従って、連接する2つの領域を全体でみた場合に、縫い方向が揃った、見た目が美しい縫目を形成する縫製データが得られる。更に、複数の第1縫目の縫い方向を縫目層毎に同じにすることで、縫目の糸密度を均一にすることが容易にできる。
【0018】
前記第2態様に係る縫製データ作成方法は、前記2つの領域の前記境界線上にある点を特定する特定点設定ステップを更に含んでもよい。そして、前記重畳部は、前記2つの領域のうち一方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向と、前記2つの領域のうち他方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向とが、前記境界線上の前記点における前記境界線の接線に交差するように形成されてもよい。
【0019】
この場合、連接する2つの領域において、各領域の複数の縫目層のうち少なくとも1つに含まれる第1縫目の縫い方向は、互いに略平行であることに加え、2つの領域の境界線上で特定された点における境界線の接線に交差する。各領域の複数の縫目層の全てにおいて、第1縫目の縫い方向が境界線の接線と平行だと、重畳部による2つの領域の分離防止の効果が低下してしまう可能性がある。従って、各領域の複数の縫目層の少なくとも1つの縫い方向を、境界線に交差する方向とすることで、重畳部によって2つの領域が分離するのを確実に防止できる。
【0020】
前記第2態様において、前記重畳部は、前記複数の縫目に含まれる前記複数の縫目層と同じ数の縫目層を含んでもよい。この場合、重畳部において縫目層が他の部分よりも多く重ねられ、重畳部のみが分厚くなることを回避できる。よって、見た目がより美しい縫目を形成する縫製データが得られる。
【0021】
本発明の第3態様に係る縫製データ作成プログラムは、前記第2態様に係る縫製データ作成方法の各ステップをコンピュータに実行させるための指示を含む。従って、縫製データ作成プログラムがコンピュータによって実行されることにより、第2態様に係る縫製データ作成方法と同様の効果を奏することができる。
【0022】
本発明の第4態様に係るコンピュータ読取り可能な媒体は、前記第3態様に係る縫製データ作成プログラムを記憶している。従って、媒体に記憶された縫製データ作成プログラムがコンピュータによって実行されることにより、第2態様に係る縫製データ作成方法と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】刺繍データ作成装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】刺繍ミシン3の外観図である。
【図3】刺繍データ作成装置1で行われるメイン処理のフローチャートである。
【図4】メイン処理で行われるベース縫目処理のフローチャートである。
【図5】ベース縫目処理で行われる第1実施形態のオーバーラップ処理のフローチャートである。
【図6】メイン処理で行われる模様縫目処理のフローチャートである。
【図7】模様縫目処理で行われる自動作成処理のフローチャートである。
【図8】対象模様の一例である模様5の説明図である。
【図9】模様5とベース領域711、712の説明図である。
【図10】縫い方向テーブルの一例を示す説明図である。
【図11】縫目層中の第1縫目と第2縫目の配置の説明図である。
【図12】完成したベース縫目400の説明図である。
【図13】第1層の縫目311、312の説明図である。
【図14】第2層の縫目321、322の説明図である。
【図15】第3層の縫目331、332の説明図である。
【図16】第4層の縫目341、342の説明図である。
【図17】完成した模様7の説明図である。
【図18】第2実施形態のオーバーラップ処理のフローチャートである。
【図19】第1層の縫目の説明図である。
【図20】第2層の縫目の説明図である。
【図21】第3層の縫目の説明図である。
【図22】第4層の縫目の説明図である。
【図23】完成したベース縫目81、82の説明図である。
【図24】変形例に係るベース縫目75、76の説明図である。
【図25】別の変形例に係るベース縫目83、84の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0025】
<第1実施形態>
以下、図1〜図17を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。まず、刺繍データ作成装置1の構成について、図1を参照して説明する。刺繍データ作成装置1は、後述の刺繍ミシン3(図2参照)によって縫製対象物に刺繍模様を縫製するための刺繍データを作成する装置である。縫製対象物とは、例えば、加工布(図示せず)、水溶性シート(図示せず)等である。
【0026】
刺繍データ作成装置1は、例えば、所謂パーソナルコンピュータ等の汎用型の装置である。図1に示すように、刺繍データ作成装置1の制御を司るコントローラであるCPU11を備えている。CPU11には、RAM12と、ROM13と、入出力(I/O)インタフェイス14とが接続されている。RAM12は、各種のデータを一時的に記憶する。ROM13は、BIOS等を記憶する。I/Oインタフェイス14は、データの受け渡しの仲介を行う。I/Oインタフェイス14には、ハードディスク装置(HDD)15と、入力機器であるマウス22と、ビデオコントローラ16と、キーコントローラ17と、CD−ROMドライブ18と、メモリカードコネクタ23と、イメージスキャナ装置25とが接続されている。図1には図示されていないが、刺繍データ作成装置1は、外部機器又はネットワークとの接続のための外部インタフェイスを備えていてもよい。
【0027】
ビデオコントローラ16には、表示機器であるディスプレイ24が接続され、キーコントローラ17には、入力機器であるキーボード21が接続されている。CD−ROMドライブ18には、CD−ROM54を挿入することができる。例えば、刺繍データ作成プログラムのセットアップ時には、刺繍データ作成プログラムを記憶するCD−ROM54がCD−ROMドライブ18に挿入される。そして、刺繍データ作成プログラムが読み込まれ、HDD15のプログラム記憶エリア154に記憶される。メモリカードコネクタ23には、メモリカード55を接続して、メモリカード55の情報の読み取り及びメモリカード55に情報の書き込みを行うことができる。
【0028】
HDD15の記憶エリアについて説明する。図1に示すように、HDD15は、模様データ記憶エリア151と、設定記憶エリア152と、刺繍データ記憶エリア153と、プログラム記憶エリア154と、その他のデータ記憶エリア155とを含む複数の記憶エリアを備える。模様データ記憶エリア151には、模様データが記憶される。模様データは、領域、文字、図柄等の、刺繍される模様を表すデータである。本実施形態では、模様データは、模様を表す画像データと、模様を縫製するための刺繍データとの少なくとも一方である。刺繍データは、刺繍ミシン3で刺繍を行う際に使用されるデータであり、針落ち点の位置(座標)およびその縫製順序と、刺繍糸の色に関するデータを含む。以下では、模様データ記憶エリア151に模様データが記憶されている模様を、内蔵模様という。
【0029】
設定記憶エリア152には、後述する刺繍データ作成処理で使用される各種設定値が記憶される。刺繍データ記憶エリア153には、刺繍データ作成プログラムをCPU11が実行することによって作成された刺繍データが記憶される。プログラム記憶エリア154には、CPU11によって実行される刺繍データ作成プログラムを含む複数のプログラムが記憶されている。その他のデータ記憶エリア155には、例えば、各種パラメータの初期値及び設定値が記憶されている。なお、刺繍データ作成装置1がHDD15を備えていない場合は、ROM13に刺繍データ作成プログラムが記憶されてもよい。
【0030】
図2を参照して、刺繍ミシン3について、簡単に説明する。刺繍ミシン3は、刺繍データ作成装置1で作成された刺繍データに基づいて刺繍模様を縫製する。図2に示すように、刺繍ミシン3は、ベッド部30と、脚柱部36と、アーム部38と、頭部39とを有する。ベッド部30は、縫製者に対して左右方向を長手方向として延びている。脚柱部36は、ベッド部30の右端部から上方へ延びる。アーム部38は、脚柱部36の上端から左方へ延びる。頭部39は、アーム部38の左端に連結している。
【0031】
ベッド部30上には、刺繍が施される加工布(図示せず)を保持する刺繍枠41を配置可能である。刺繍枠41は、Y方向駆動部42とX方向駆動機構(図示せず)によって、装置固有のXY座標系で示される所定位置に移動される。X方向駆動機構は、本体ケース43内に収容されている。刺繍枠41が移動されるのと合わせて、縫い針44が装着された針棒35と、釜機構(図示せず)とが駆動されることにより、加工布上に刺繍模様が形成される。Y方向駆動部42と、X方向駆動機構と、針棒35とは、刺繍ミシン3に内蔵された制御装置(図示せず)によって制御される。制御装置は、マイクロコンピュータ等から構成される。
【0032】
刺繍ミシン3の脚柱部36の側面には、メモリカードスロット37が搭載されている。メモリカードスロットには、メモリカード55を着脱可能である。例えば、刺繍データ作成装置1で作成された刺繍データは、メモリカードコネクタ23を介してメモリカード55に記憶される。そして、メモリカード55がメモリカードスロット37に装着され、記憶された刺繍データが読み出されて、刺繍ミシン3に刺繍データが記憶される。刺繍ミシン3の制御装置(図示せず)は、メモリカード55から供給された刺繍データに基づいて、上記の要素による刺繍動作を自動的に制御する。このようにして、刺繍ミシン3は、刺繍データ作成装置1で作成された刺繍データに基づき、刺繍模様を縫製することができる。
【0033】
図3〜図17を参照して、刺繍データ作成装置1で実行されるメイン処理について説明する。図3に示すメイン処理は、ユーザが処理を開始させる指示を入力すると、図1のHDD15に記憶された刺繍データ作成プログラムに従って、CPU11が実行する。
【0034】
まず、処理対象となる模様である対象模様が特定される(S1)。本実施形態の対象模様は、線、領域および模様の少なくとも1つによって表される。ステップS1では、例えば、ディスプレイ24に内蔵模様の一覧が表示され、その中から選択された内蔵模様が対象模様として特定される。また、例えば、ユーザがマウス22を用いて入力した図形(円や四角形等)が、対象模様として特定されてもよい。また、例えば、イメージスキャナ装置25を用いて取得された画像データの画像が対象模様として特定されてもよい。なお、対象模様は、複数の模様を含んでもよい。特定された対象模様が内蔵模様の場合、HDD15の模様データ記憶エリア151に記憶された模様データが読み出され、対象模様データとしてRAM12に記憶される。また、対象模様が入力された図形またはイメージスキャナ装置25から取得された画像であれば、その図形を示すデータまたは画像の画像データが、対象模様データとしてRAM12に記憶される。また、対象模様の刺繍ミシン3のXY座標系における位置が特定される。
【0035】
続いて、少なくとも1つのベース領域が特定され、特定されたベース領域を示すデータがRAM12に記憶される(S2)。ベース領域とは、ベース縫目が形成される領域である。ベース縫目とは、複数の縫目であって、互いに異なる方向に伸びるいずれか2つの縫目が交差する部位である交差部を複数含む。ベース縫目は、複数の交差部を有することで、作成された刺繍データに従って縫製が実行された後に縫製対象物が除去された場合であっても、その形状を維持することができる。ベース領域は、ユーザが指定した領域、又は対象模様の輪郭線を含む輪郭線の内部の領域(以下、単に「輪郭線内部の領域」という)である。ステップS2では、例えば、ディスプレイ24に対象模様が表示され、ユーザは、ベース領域として指定したい領域の輪郭線を、マウス22を用いて入力することができる。
【0036】
例えば、ステップS1で、内蔵模様の一覧から図8に示す模様5が選択され、対象模様として特定されたとする。模様5は、円51の内部に星52が配置された模様である。ユーザがベース領域を特定しなかった場合、模様5の円51の輪郭線内部の領域511が、ベース領域として特定される。一方、例えば、ユーザによって模様5を囲む四角形が入力された場合、その四角形の輪郭線内部の領域が、ベース領域として特定される。なお、ユーザは、ベース領域を、複数の異なる種類の糸で縫い分けたい場合、複数のベース領域を指定することができる。例えば、図9に示すように、前述の模様5が対象模様として特定された後、ユーザが、模様5を二分するように連接する2つの四角形71および72の輪郭線を入力した場合、四角形71および72の輪郭線内部の2つの領域711および712が、夫々、ベース領域として特定される。
【0037】
次に、ベース領域の輪郭線、およびベース領域の輪郭線以外の対象模様の線をサテン縫いで縫製するか否かが設定され、その情報がRAM12に記憶される(S3)。前述の図8に示す例では、模様5の円51の輪郭線がベース領域の輪郭線であり、星52の輪郭線がその他の線である。図9に示す例では、領域711および712の夫々の輪郭線が2つのベース領域の輪郭線であり、模様5の円51の輪郭線および星52の輪郭線は、その他の線である。線のサテン縫い設定は、ユーザの指示に従って実行されてもよいし、予め登録された設定に従って実行されてもよい。
【0038】
次に、ベース領域に形成されるベース縫目の縫製に使用される糸の種類が設定される(S4)。本実施形態では、糸の種類として、糸の色が設定されるものとする。糸の色は、ベース領域がユーザによって指定された領域であれば、ユーザによって指定された色が設定される。ベース領域が、内蔵模様の輪郭線内部の領域であれば、糸の色は、刺繍データまたは画像データが示すその領域の色に従って設定されてもよいし、ユーザによって指定されてもよい。なお、糸の種類として、糸の色の他に、太さや素材が設定されてもよい。ステップS4では、図9に示す例のように、連接する複数のベース領域711、712が指定された場合、連接するベース領域711、712について、夫々異なる糸色が設定される。
【0039】
ベース領域のベース縫目以外の縫目の種類(以下、縫目種類)が設定され、その情報がRAM12に記憶される(S5)。具体的には、対象模様に含まれる領域および模様の夫々について、ユーザによって縫目種類が設定される。模様データ記憶エリア151(図1参照)に刺繍データが記憶されている内蔵模様については、刺繍データに従った縫目がそのまま設定されてもよい。縫目種類は、例えば、サテン縫いと、タタミ縫いと、透かし縫いとを含む3種類の縫目から選択される。透かし縫いは、サテン縫い及びタタミ縫いに比べて糸密度が小さい縫目である。透かし縫いの糸密度は、縫目の間から縫製対象物が透けて見える程度である。透かし縫いの糸密度として、複数種類の糸密度が設定可能である。透かし縫いの糸密度は、ユーザの指定に応じて、又は模様を表す画像の輝度値に応じて自動的に設定される。
【0040】
刺繍模様における糸密度とは、普通、刺繍模様の縫目を単位長さあたり何本の糸を並べて縫製するのかを決定する糸の本数のことをいう。しかし、本実施形態では、透かし縫いの糸密度が、縫目の方向がそれぞれ異なる層を重ねる数により設定される例について説明する。なお、透かし縫いの糸密度は、通常のように、刺繍模様の縫目の単位長さあたりの糸の本数で設定されてもよい。透かし縫いの糸密度の調整方法は、後述する。
【0041】
続いて、ベース領域に形成されるベース縫目を縫製するためのデータを作成するベース縫目処理が行われる(S6)。以下に、図4〜図5および図8〜図16を参照して、ベース縫目処理について説明する。なお、本実施形態では、交差部を複数含むベース縫目は、複数の縫目層を重ねることで形成される。複数の縫目層は、各々、縫い方向が同じ複数の第1縫目と、複数の第1縫目をつなぐ複数の第2の縫目を含む。例えば、図11に示すように、輪郭300の内部の領域がベース領域である場合、各縫目層において、複数の第1縫目は、全て同じ方向に延びる複数の線分301上に形成され、複数の第2の縫目は、ベース領域の輪郭300に沿って線分301をつなぐ複数の線分302上に形成される。各縫い目層の第1縫目と第2の縫目は、図11に示すように、全ての線分301と線分302を接続した1本の線303上に走り縫いで形成される。
【0042】
本実施形態のベース縫目は、線分301に対応する第1縫目の縫い方向が互いに異なる縫目層が複数重ねられて形成される。そこで、本実施形態では、複数の層の各々の第1縫目の縫い方向(以下、単に「縫い方向」という)は、予め縫い方向テーブルに設定され、HDD15の設定記憶エリア152に記憶されている。本実施形態では、図10に示すように、第1層〜第4層の縫い方向は90度、0度、45度、135度と設定されている。なお、図示はされていないが、勿論、第5層以降の角度が設定されていてもよい。縫い方向は、刺繍ミシン3(図2参照)のXY座標系のX軸に対する反時計回りの角度で表される。縫い方向は0度以上180度未満の角度で表される。XY座標系は、前述のように、刺繍ミシン3が刺繍枠41を移動させる処理で用いる座標系である。
【0043】
図4に示すように、ベース縫目処理ではまず、ステップS2でRAM12に記憶されたベース領域を示すデータと、ステップS4で設定された糸の種類(本実施形態では糸色)を示す情報に基づき、糸の種類が異なるベース領域が連接しているか否かが判断される(S101)。図9に示す例のように、互いに異なる糸色が設定された2つのベース領域711、712が連接している場合(S101:YES)、オーバーラップ処理が実行される(S200)。オーバーラップ処理については後述する。
【0044】
図8に示す例のように、ベース領域511が、異なる糸色が設定された他のベース領域に連接していない場合(S101:NO)、ベース縫目を形成するために重ねられる縫目層の数(以下、層数)Nが取得され、RAM12に記憶される(S102)。層数Nは、ユーザが指定した値か、予め設定された値か、対象模様の輝度値に基づき設定される値かのいずれかである。以下では、ユーザによって指定された値4が取得されたものとして、4層の縫目層が形成される例を説明する。
【0045】
処理対象の縫目層を特定するための変数iに1が設定され、設定された値1はRAM12に記憶される(S103)。変数iが層数Nより大きい、つまり、N層分の縫目層の処理が完了したか否かが判断される(S104)。変数iがN以下であれば(S104:NO)、縫い方向テーブル(図10参照)が参照され、処理対象である第i層の縫い方向が取得される。取得された縫い方向(角度)はRAM12に記憶される(S105)。最初の処理では、第1層の縫い方向として90度が取得される。
【0046】
ベース領域に第i層の縫目を縫製するための縫製データが作成され、作成された縫製データはRAM12に記憶される(S106)。例えば、図8の模様5の円51の輪郭が図11の輪郭300に対応する場合、縫い方向が90度とされている第1層では、線303上に走り縫いを形成するための縫製データ、すなわち、針落ち点の位置とその縫製順を示すデータが作成される。RAM12に記憶された変数iがインクリメントされる(S107)。そして、処理はステップS104に戻り、変数iが層数Nより大きくなるまで、前述の処理が繰り返される(S104:NO、S105〜S107)。なお、変数iが2以上の場合、つまり第2層以降の処理では、ステップS106では、線303上に走り縫いを形成するための縫製データに加え、第(i−1)層目の最後の針落ち点と、第i層の最初の針落ち点とをつなぐように、ベース領域の輪郭線上に形成される走り縫いの縫製データが作成される。
【0047】
変数iが層数Nより大きくなると(S104:YES)、N個の縫目層の縫製データが作成され、ベース縫目の縫製データが完成したことになる。よって、CPU11は、図4に示すベース縫目処理を終了し、図3に示すメイン処理に戻る。上記ベース縫目処理によって、図8に示す模様5の円51内部のベース領域511には、図12に示すように、網目状の走り縫いのベース縫目400を形成するための縫製データが作成される。ベース縫目400は、第1〜第4層の縫目が重ねられることによって得られる。このように形成されるベース縫目は、各縫目層の第1縫目が交差する交差部を複数含み、ベース領域の全域にわたって糸密度がほぼ均一である。
【0048】
図5、図9、図10、図13〜図16を参照して、互いに異なる種類の糸で縫製される複数のベース領域が連接している場合に行われるオーバーラップ処理について説明する。例えば、赤と青の糸で連接する2つの領域が縫製される場合、まず、赤の糸で一方の領域が縫製され、その後に青の糸で他方の領域が縫製されることになる。各領域に、前述の縫目層を重ねたベース縫目が形成され、縫製対象物が除去された場合、赤のベース縫目と青のベース縫目自体はそれぞれ解けることなく残るが、両者は境界線で分離してしまう可能性がある。そこで、オーバーラップ処理では、連接するベース領域の間に、両者のベース縫目が分離するのを防止するための重畳部が形成される。重畳部とは、連接する2つのベース領域のうち一方に形成されるベース縫目の一部に対して、他方のベース領域に形成されるベース縫目の一部が交差する、または重なり合う領域である。なお、以下では、図9に示すベース領域711、712の糸色が、互いに異なる色(例えば、赤と青)に設定されている例を用いて説明する。
【0049】
まず、ベース縫目処理のステップS102(図4参照)と同様、層数Nが取得される(S201)。層数Nとして、4が指定されたものとする。続いて、連接するベース領域の境界線上の任意の点が特定される(S202)。なお、ここで特定される点は、境界線の特徴を示す特徴点であればより好ましい。例えば、境界線が曲線である場合、その曲率が変化する点等である。図9の例のように、境界線が直線であれば、いかなる位置にある点でも構わない。特定された点における境界線の接線が特定される(S203)。図9の例では、ベース領域711、712の境界線上にある直線が、接線として特定される。
【0050】
特定された接線の延びる方向(以下、接線方向)に基づいて、第1層の縫い方向が決定される(S204)。具体的には、刺繍ミシン3(図2参照)のXY座標系における接線方向(角度)が特定され、図10に示す縫い方向テーブルに設定された第1層の縫い方向(90度)と比較される。接線方向と縫い方向の角度が異なる、つまり両者が交差する場合には、そのまま縫いテーブルに設定された90度が、第1層の縫い方向としてRAM12に記憶される。一方、図9の例のように、接線方向(90度)が縫い方向(90度)と同じ場合、縫いテーブルに設定された90度から90度を引いた0度が、第1層の縫い方向としてRAM12に記憶される。これは、接線と交差する方向に沿って第1縫目が形成される縫目層は、接線と同じ方向に沿って第1縫目が形成される縫目層に比べ、後述する重畳部によるベース領域の分離防止効果が高いので、まず第1層目に、接線と交差する縫い方向の縫目層を形成するためである。
【0051】
処理対象の縫目層を特定するための変数iと、処理対象のベース領域を特定するための変数jに、夫々、1が設定される。設定された値はRAM12に記憶される(S205)。変数iが層数N以下であれば(S206:NO)、変数jがベース領域の数Mより大きいか否か、つまり、M個のベース領域の処理が完了したか否かが判断される(S207)。変数jがベース領域数M以下であれば(S207:NO)、処理対象であるj番目のベース領域が、境界線から連接するベース領域方向へ所定量拡張される(S208)。図9の例では、最初の処理では、1番目のベース領域711が、境界線を越えてベース領域712方向に拡張される。拡張後のベース領域を示すデータは、RAM12に記憶される。
【0052】
なお、ベース領域の拡張量は、形成される重畳部において、一方のベース領域に形成されるベース縫目の一部に対して、他方のベース領域に形成されるベース縫目の一部が交差する、または重なることで、ベース縫目同士の分離が防げるだけ確保されればよい。よって、拡張量は、ベース縫目の糸密度等に応じて設定されてもよいし、一律で境界線からの所定距離と定められていてもよい。
【0053】
領域の拡張後、第i層の縫い方向が決定される(S209)。第1層の縫い方向は、ステップS204で設定された縫い方向である。第2層目以降の縫い方向は、第1層の縫い方向と縫い方向テーブル(図10参照)を参照して決定される。具体的には、第1層の縫い方向が、縫い方向テーブルに設定されている方向と異なる場合は、第i層の縫い方向(角度)は、縫い方向テーブルに設定されている方向(角度)から90度を引いた角度に決定される。なお、90度を引くと0度以下となる場合、縫い方向テーブルに設定されている方向(角度)に90度を足した角度が用いられればよい。第1層の縫い方向が、縫い方向テーブルに設定されている方向と同じ場合は、第i層の縫い方向(角度)は、縫い方向テーブルに設定されている方向(角度)とされる。
【0054】
決定された縫い方向に従い、拡張されたj番目のベース領域に第i層の縫目を縫製するための縫製データが作成され、RAM12に記憶される(S210)。縫製データの作成方法は、図4のステップS106の処理と同様である。RAM12に記憶された変数jがインクリメントされる(S211)。そして、処理はステップS207に戻り、変数jがベース領域数Mより大きくなるまで、前述の処理が繰り返される(S207:NO、S208〜S211)。図9の例では、2番目のベース領域712も拡張され、拡張後のベース領域について縫製データが作成された後、変数jが3となると、ベース領域数である2を超えるので(S207:YES)、変数iがインクリメントされ(S212)、処理はステップS206に戻って、前述のように、次の層の処理が行われる(S207〜S212)。第2層以降の処理では、各ベース領域の第(i−1)層目の最後の針落ち点と第i層の最初の針落ち点とをつなぐように、各ベース領域の輪郭線上に形成される走り縫いの縫製データが作成される。
【0055】
処理が繰り返され、第4層目のベース領域711、712の処理が行われた後、変数iが5となると、層数4を超えるので(S206:YES)、ベース縫目の縫製データの作成が終了したことになる。よって、CPU11は、図5に示すオーバーラップ処理を終了し、図4のベース縫目処理に戻る。更に、ベース縫目処理も終了し、図3に示すメイン処理に戻る。
【0056】
図13〜図16には、夫々、図9の例について、以上に説明したオーバーラップ処理で作成された第1〜第4層の縫製データが示す縫目が図示されている。なお、図中の符号711、712は、いずれも拡張前のベース領域711、712を示し、ベース領域712の縫目は、ベース領域711の縫目と区別するために点線で示している。また、図13にのみ、針落ち点の位置も示している。
【0057】
図13に示すように、第1層では、ベース領域711はベース領域712方向に拡張され、0度の方向に延びる複数の第1縫目と、これらの第1縫目をつなぐ複数の第2の縫目を含む1本の縫目311を形成するための縫製データが作成される。また、ベース領域712はベース領域711方向に拡張され、0度の方向に延びる複数の第1縫目と、これらの第1縫目をつなぐ複数の第2の縫目を含む1本の縫目312を形成するための縫製データが作成される。ベース領域711、712の拡張によって、領域310に、縫目311の一部と縫目312の一部とが交差する、または重なる重畳部が形成されている。
【0058】
図14に示すように、第2層では、ベース領域711、712の両方が拡張され、90度を第1縫目の縫い方向とする縫目321、322を形成するための縫製データが作成される。また、ベース領域711、712の拡張によって、領域320に、縫目321の一部と縫目322の一部とが交差する、または重なる重畳部が形成されている。図15に示すように、第3層でも同様に、135度を第1縫目の縫い方向とする縫目331、332を形成するための縫製データが作成される。また、ベース領域711、712の拡張によって、領域330に、縫目331の一部と縫目332の一部とが交差する、または重なる重畳部が形成されている。図16に示すように、第4層でも同様に、45度を第1縫目の縫い方向とする縫目341、342を形成するための縫製データが作成される。また、ベース領域711、712の拡張によって、領域340に、縫目341の一部と縫目342の一部とが交差する、または重なる重畳部が形成されている。
【0059】
このように、本実施形態のオーバーラップ処理では、各縫目層において、連接するベース領域の間に重畳部が形成される。従って、複数の縫目層を重ね合わせることで、重畳部では、連接するベース領域のベース縫目同士が交差したり、重なったりする部分が更に増加することになる。
【0060】
図3に示すように、ベース縫目処理(S6)の後、模様縫目処理が行われる(S7)。模様縫目処理では、ステップS3およびステップS5で設定された情報に従って、対象模様に含まれる線や領域を縫製するための縫製データが作成される。以下の説明では、図8に示す例において、模様5の円51内部の領域511がベース領域とされ、その輪郭線にサテン縫いが設定され、星52の内部の領域にはサテン縫いが設定されたとする。図9に示す例において、ベース領域711、712の輪郭線にはサテン縫いは設定されず、模様5の星52の輪郭線内部にはサテン縫いが設定され、円51内部の星52以外の領域に透かし縫いが設定され、円51の輪郭線にサテン縫いが設定されたとする。
【0061】
図6および図7を参照して、模様縫目処理の詳細を説明する。まず、透かし縫いが設定された領域があるか否かが判断される(S300)。例えば、前述の図8の例の場合、透かし縫いが設定された領域がないので(S300:NO)、処理は後述するステップS309に進む。一方、図9の例では、円51内部の星52以外の領域に透かし縫いが設定されているので(S300:YES)、ユーザからの指示又は設定値に基づき、透かし縫いの糸密度を自動で設定するか否かが判断される(S301)。
【0062】
透かし縫いの糸密度がユーザによって指定される場合(S301:NO)、変数Lに1が設定され、RAM12に記憶される(S304)。Lは、縫目種類に透かし縫いが設定されているL番目の領域を順に読み出すための変数である。次に、L番目の領域の糸密度が取得され、RAM12に記憶される(S305)。本実施形態では、透かし縫いの糸密度は、前述のベース縫目と同様に、縫目層を重ねる数によって調整される。縫目層の数として、ユーザは、例えば0から7のいずれかの値を指定可能である。指定された糸密度(層数)に応じてL番目の領域に透かし縫いを形成するための縫製データが作成され、RAM12に記憶される(S306)。ステップS306の処理は、例えば、図4のベース縫目処理のステップS103〜S107と同様でよい。ただし、透かし縫いの第i層の縫い方向は、縫い方向テーブル(図10参照)から取得されるのではなく、180度を変数iで割ることで得られる角度(180/i度)とされる。
【0063】
縫目種類に透かし縫いが設定された全ての領域について、縫製データの作成処理が完了したか否かが判断される(S307)。具体的には、変数Lが、縫目種類に透かし縫いが設定された領域の数より小さければ、縫製データが作成されていない領域があると判断される(S307:NO)。変数Lはインクリメントされ(S308)、処理はステップS305に戻る。全ての領域の処理が完了すると(S307:YES)、処理はステップS309に進む。
【0064】
透かし縫いの糸密度が自動設定される場合(S301:YES)、対象模様を表すカラー画像がグレースケール画像に変換され、グレースケール画像はRAM12に記憶される(S302)。カラー画像をグレースケール画像に変換する方法は周知であるため説明を省略する。次に、自動作成処理が実行される(S303)。自動作成処理では、グレースケール画像の輝度値(階調)に基づき自動的に決定された糸密度に応じた透かし縫いの縫製データが作成される。
【0065】
図7を参照して、自動作成処理の詳細を説明する。縫目種類に透かし縫いが設定されている領域を順に処理するために、変数Lに1が設定され、RAM12に記憶される(S330)。縫目種類に透かし縫いが設定された全ての領域について、縫製データの作成処理が完了したか否かが判断される(S331)。変数Lが、縫目種類に透かし縫いが設定された領域の数よりも小さく、縫製データが作成されていない領域がある場合(S331:NO)、L番目の領域の輝度値YLが取得され、RAM12に記憶される(S332)。
【0066】
取得された輝度値YLが、閾値T1〜T4と比較される。閾値T1〜T4は、T1、T2、T3、T4の順に小さくなる値である(T1>T2>T3>T4)。閾値T1〜T4は、糸密度の調整方法と、対象模様の輝度とを考慮して設定される。輝度値YLが閾値T1以上の場合(S333:YES)、縫目層の層数Kに0が設定される(S334)。輝度値YLが、閾値T2以上且つ閾値T1未満の場合(S333:NO、S335:YES)、層数Kに1が設定される(S336)。輝度値YLが、閾値T3以上且つ閾値T2未満の場合(S335:NO、S337:YES)、層数Kに3が設定される(S338)。輝度値YLが、閾値T4以上且つ閾値T3未満の場合(S337:NO、S339:YES)、層数Kに5が設定される(S340)。輝度値YLが、閾値T4未満の場合(S339:NO)、層数Kに7が設定される(S342)。
【0067】
L番目の領域に、上記のように設定された層数Kに応じて、縫目を形成するための縫製データが作成され、RAM12に記憶される(S343)。ステップS343の処理は、前述の図6のステップS306の処理と同様である。ステップS334又はS343の処理の後、変数Lがインクリメントされ(S344)、処理はステップS331に戻る。縫目種類に透かし縫いが設定された全ての領域の処理が完了すると(S331:YES)、自動作成処理は終了し、CPU11は図6の模様縫目処理に戻る。
【0068】
図6に示すように、自動作成処理(S303)の後、縫目種類にサテン縫いが設定された領域があるか否かが判断される(S309)。図8及び図9に示す例のように、星52内部の領域にサテン縫いが設定されている場合(S309:YES)、この領域内にサテン縫いを形成するための縫製データが作成され、RAM12に記憶される(S310)。サテン縫いの縫製データの作成方法は周知であるため説明を省略する。処理はステップS311に進む。縫目種類にサテン縫いが設定された領域がないときには(S309:NO)、処理はそのままステップS311に進む。
【0069】
ステップS311では、縫目種類にタタミ縫いが設定された領域があるか否かが判断される。タタミ縫いが設定されている領域があれば(S311:YES)、その領域にタタミ縫いを形成するための縫製データが作成され、RAM12に記憶される(S312)。タタミ縫いの縫製データの作成方法は周知であるため説明を省略する。処理は後述のステップS313に進む。縫目種類にタタミ縫いが設定された領域がない場合(S311:NO)、処理はそのままステップS313に進む。
【0070】
ステップS313では、サテン縫いで縫製すると設定された線があるか否かが判断される。前述の図8および図9の例では、円51の輪郭線をサテン縫いで縫製すると設定されている(S313:YES)。この場合、線上にサテン縫いを形成するための縫製データが作成され、RAM12に記憶される(S314)。CPU11は模様縫目処理を終了し、図3に示すメイン処理に戻る。サテン縫いで縫製すると設定された線がない場合(S313:NO)、CPU11はそのまま模様縫目処理を終了し、図3に示すメイン処理に戻る。
【0071】
図3に示すように、模様縫目処理(S7)の次に、刺繍データが作成され、刺繍データ記憶エリア153(図1参照)に記憶される(S8)。具体的には、ベース縫目処理(S6)で作成されたベース縫目の縫製データに基づいてベース縫目が縫製された後に、模様縫目処理(S7)で作成された縫製データに基づいてその他の線と領域とが縫製されるように、刺繍データが作成される。なお、複数のベース領域についてオーバーラップ処理(図5参照)が行われた場合、一方のベース領域に、メイン処理のステップS4(図3参照)で設定された糸で、N層の縫目を縫製してベース縫目を形成した後、他方のベース領域に、同様にベース縫目を形成する縫製データが形成される。刺繍データが作成された後、メイン処理は終了する。
【0072】
前述の図9の例について作成された刺繍データに基づいて刺繍縫製が行われると、図17に示すような模様7が得られる。図17に示すように、ベース領域711、712は夫々拡張され、拡張後の領域内に、網目状のベース縫目351、352が形成されている。ベース縫目351、352は、夫々、4層の縫目層で構成されている。そして、その上に透かし縫いが施された円51と、サテン縫いが施された星52からなる模様5が形成されている。拡張後のベース領域711、712が重なる部分には、重畳部350が形成されている。
【0073】
重畳部350は、図13〜図16に示す重畳部310、320、330、340が重ね合わせられた部分に相当する。従って、重畳部350では、ベース縫目351と352が交差したり、重なったりする部分が更に増加している。このように、重畳部350を設けることで、縫製対象物(例えば、水溶性シート)に模様7が刺繍縫製された後、縫製対象物が除去された場合でも、ベース縫目351、352が分離するのを防ぐことができる。また、前述のように、ベース縫目351、352自体も、複数の交差部を含むので、縫製対象物が除去されても解けずにその形状を維持することができる。従って、縫製対象物が除去されても模様7全体の形状を維持することができる。
【0074】
以上に説明したように、本実施形態の刺繍データ作成装置1によれば、少なくとも1つのベース領域が特定され、ベース領域に、ベース縫目を形成するための縫製データが作成される。ベース縫目は、互いに異なる方向に伸びる2つの縫目が交差する交差部を複数含む縫目である。特定されたベース領域が、互いに異なる種類の糸で縫製される2つの連接する領域を含む場合には、各ベース領域が境界線を越える方向に拡張された後、ベース縫目を形成する縫製データが作成される。これにより、拡張後のベース領域同士が重なる部分に、一方のベース縫目の一部に対して他方のベース縫目の一部が交差する、または重なり合う領域である重畳部を形成する縫製データが作成される。この縫製データに従ってベース縫目が形成された後、縫製対象物が除去されたとしても、重畳部によって、2つのベース領域の間でベース縫目が分離することがないので、領域全体の縫目が維持される。従って、本実施形態の刺繍データ作成装置1によれば、刺繍縫製物に適した縫製データが得られる。
【0075】
また、本実施形態では、ベース縫目は、縫い方向が互いに異なる複数の縫目層を複数重ねることで形成される。各縫目層には、複数の第1縫目が同じ縫い方向に形成される。また、連接する2つのベース領域では、各縫目層の縫い方向が同じである。従って、連接する2つのベース領域を全体でみた場合に、縫い方向が揃った、見た目が美しいベース縫目を形成する縫製データが得られる。更に、複数の第1縫目の縫い方向を縫目層毎に同じにすることで、ベース領域内のベース縫目の糸密度を均一にすることが容易にできる。
【0076】
更に、本実施形態では、複数の縫目層のうち、第1層の縫い方向は、連接する2つのベース領域の境界線上で特定された点における境界線の接線に交差するように設定される。各ベース領域の複数の縫目層の全てにおいて、縫い方向が境界線の接線と平行だと、重畳部による2つのベース領域の分離防止の効果が低下してしまう可能性がある。従って、このように、第1層の縫い方向を境界線に交差する方向とすることで、重畳部によって2つの領域が分離するのを確実に防止できる。
【0077】
第1実施形態では、図3に示すメイン処理のステップS2の処理を行う刺繍データ作成装置1のCPU11が、本発明の領域特定手段に相当する。図4に示すベース縫目処理のステップS106および図5に示すオーバーラップ処理を行うCPU11が、縫製データ作成手段に相当する。図5に示すオーバーラップ処理のステップS202の処理を行うCPU11が、特定点設定手段に相当する。
【0078】
<第2実施形態>
以下、図18〜図23を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、図5に示す第1実施形態のオーバーラップ処理に代えて、図18に示すオーバーラップ処理が行われる以外は、第1実施形態と構成および処理において同一である。より詳細には、第1実施形態では、連接する2つのベース領域が両方とも拡張されるので、形成される重畳部は、他のベース領域部分に比べて厚みが大きくなる。一方、第2実施形態のオーバーラップ処理では、重畳部と他のベース領域部分の厚みを均一とする縫製データが作成される。なお、図18では、図5に示す第1実施形態のオーバーラップ処理と同一の処理については、同一のステップ番号を付している。以下では、第2実施形態のオーバーラップ処理について、図9に示すベース領域711、712の処理を例として、第1実施形態と異なる処理についてのみ説明する。
【0079】
第2実施形態でも、第1実施形態と同様、ベース領域に形成されるベース縫目は、複数の縫目層から形成される。そこで、図18に示すように、まず、縫目層の層数Nが取得される(S221)。ただし、本実施形態では、重畳部と他のベース領域部分の厚みを均一とするために、層数Nは偶数とされる。よって、ステップS221では、層数Nは予め設定されている偶数か、ユーザによって指定された偶数が取得される。以下では、層数4が取得されたものとして説明する。
【0080】
続いて、第1実施形態と同じステップS202〜S207までの処理が行われた後、処理対象である第i層のj番目のベース領域について、直前の処理で、連接するベース領域が処理対象のベース領域方向に拡張されたか否かが判断される(S222)。最初の処理では、第1層の1番目のベース領域711が処理対象であるが、直前の処理で拡張された領域はない(S222:NO)。この場合、ベース領域711は、境界線を越えてベース領域712方向に拡張される(S223)。そして、第1実施形態と同じステップS209、S210の処理で、拡張後のベース領域711に縫目を形成するための縫製データが作成される。その後、2番目のベース領域712が処理対象とされると(S211、S207:NO)、直前の処理で連接するベース領域711が拡張されているので(S222:YES)、ベース領域712は、ベース領域711から離れる方向に境界線から所定量縮小される(S224)。なお、本実施形態では、ベース領域の拡張量と縮小量は、いずれも境界線から同一の所定距離と定められている。続いて、縮小後のベース領域712に縫目を形成するための縫製データが作成される(S209〜S211)。
【0081】
同様にして、第2層から第4層について、ベース領域711、712を拡大または縮小し、拡大または縮小後のベース領域711、712にベース縫目を形成する縫製データの作成処理が繰り返される。詳細には、第2層では、ベース領域711が縮小され、ベース領域712が拡大される。第3層では、ベース領域711が拡張され、ベース領域712が縮小される。第4層では、ベース領域711が縮小され、ベース領域712が拡張される。図19〜図22には、夫々、オーバーラップ処理で作成された第1〜第4層の縫製データが示す縫目が図示されている。なお、図19〜図22では、第2縫目の図示は省略されている。また、図23には、ベース領域711、712において第1〜第4層の縫目からなるベース縫目81、82が図示されている。なお、図中の符号711、712は、いずれも拡張または縮小前のベース領域711、712を示し、ベース領域712の縫目は、ベース領域711の縫目と区別するために点線で示している。
【0082】
図19〜図22に示すように、第2実施形態のオーバーラップ処理では、重畳部は、縫目層毎には形成されない。代わりに、第1層〜第4層で、連接するベース領域の境界線が、元々の境界線から幅Wだけ、ベース領域712側またはベース領域711側に交互に移動する。そして、図23に示すように、夫々4層の縫目層からなるベース縫目81、82が形成されると、領域80に、ベース縫目81の一部とベース縫目82の一部とが交差する重畳部が形成される。領域80は、ベース領域711、712の元々の境界線から両側に幅Wずつをカバーする。
【0083】
ベース縫目81は、第1層と第3層の縫目のみが領域80に形成されるので、領域80では縫目層は2層、ベース領域711のうち領域80を除く領域では4層からなる。一方、ベース縫目82は、第2層と第4層の縫目のみが領域80に形成されるので、領域80では縫目層は2層、ベース領域712のうち領域80を除く領域では4層からなる。従って、領域80に形成される重畳部は、ベース縫目81の第1層、第3層と、ベース縫目82の第2層、第4層の4層の縫目層を含む。従って、第2実施形態のオーバーラップ処理によれば、領域80に形成される重畳部と、ベース領域711、712の重畳部を除く領域全体が均一の厚みとなる。この場合、重畳部において縫目層が他の部分よりも多く重ねられ、重畳部のみが分厚くなることを回避できる。よって、見た目がより美しい縫目を形成する縫製データが得られる。
【0084】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、重畳部は、連接する2つのベース領域のうち一方に形成されるベース縫目の一部に対して、他方のベース領域に形成されるベース縫目の一部が交差する、または重なり合う領域が形成できれば、他のいかなる方法で形成されてもよい。ただし、ベース領域に形成されるベース縫目は、互いに異なる方向に伸びる2つの縫目が交差する部位を複数含むことが必要である。上記実施形態では、連接する2つのベース領域の同じ縫目層で全て同じ縫い方向が適用されているが、同じ縫目層で異なる縫い方向が適用されてもよい。例えば、図24に示すように、第1実施形態と同様に拡張されたベース領域711、712に、直交する2方向に進行するジグザグ形状の縫目層を2層重ねてベース縫目75、76を形成することで、ベース縫目75、76の一部が互いに交差する重畳部77を形成することができる。
【0085】
また、ベース縫目は、複数の縫目層で構成される必要はなく、1層の縫目であってもよい。例えば、図25に示すように、互いに交わる曲線が組み合わされた線上に形成されるベース縫目83、84であってもよい。この場合も、拡張されたベース領域711、712にベース縫目83、84を形成することで、ベース縫目83、84の一部が互いに交差する、または重なる重畳部85を形成することができる。
【0086】
第1実施形態のオーバーラップ処理(図5参照)は、連接する2つのベース領域を両方とも拡張する例であり、第2実施形態のオーバーラップ処理(図18参照)は、連接する2つのベース領域を交互に拡張・縮小する例である。これらの他、連接する2つのベース領域の一方のみを常に拡張したり、連接する2つのベース領域を交互に拡張したりしてもよい。つまり、連接する2つのベース領域の少なくとも一方を拡張してベース縫目を形成することで、重畳部が形成できればよい。
【0087】
上記実施形態では、境界線の接線に交差する方向が第1層の縫い方向とされ、その他の縫目層については、接線との関係は考慮されていない。しかしながら、全ての縫目層の縫い方向を、接線方向と交差する方向としてもよい。この場合、例えば、図5のオーバーラップ処理のステップS209で決定された縫い方向が、ステップS203で特定された接線方向と交差しない場合、縫い方向を変更する処理が行われればよい。また、境界線上の点における接線に対する垂線を求め、垂線の方向を縫い方向に用いてもよい。境界上で特定される点は、複数であってもよい。例えば、境界線が曲線の場合、曲線上の特徴点を複数特定し、各点における接線に対する垂線の方向を順に複数の縫目層の縫い方向に適用してもよい。
【0088】
また、上記実施形態のように、境界線の接線に交差する方向が第1層の縫い方向とされる必要はない。複数の縫目層を重ねることでベース縫目が形成される場合には、複数の縫目層のうち少なくとも1層の縫い方向が、境界線の接線に交差すると好ましい。しかしながら、全ての縫目層の縫い方向が、境界線の接線と略平行であってもよい。つまり、オーバーラップ処理(図5および図18)のステップS202〜204の処理は行われなくてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 刺繍データ作成装置
11 CPU
350 重畳部
351、352 ベース縫目
711、712 ベース領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる方向に伸びる2つの縫目が交差する部位を複数含む複数の縫目が形成される領域を、少なくとも1つ特定する領域特定手段と、
前記領域特定手段によって特定された前記少なくとも1つの領域の各々に、前記複数の縫目を形成するための縫製データを作成する縫製データ作成手段とを備え、
前記縫製データ作成手段は、前記領域特定手段によって特定された前記少なくとも1つの領域が、互いに連接し、且つ、互いに異なる種類の糸でそれぞれ縫製される2つの領域を含む場合、前記2つの領域のうち少なくとも一方を前記2つの領域の境界線を越える方向に拡張することで、前記2つの領域のうち一方に形成される前記複数の縫目の一部に対して前記2つの領域のうち他方に形成される前記複数の縫目の一部が交差する、または重なり合う領域である重畳部を形成する縫製データを作成することを特徴とする縫製データ作成装置。
【請求項2】
前記2つの領域の各々に形成される前記複数の縫目は、縫い方向が同じ複数の第1縫目と、前記複数の第1縫目をつなぐ複数の第2の縫目を含む縫目層を複数含み、
前記縫い方向は、前記複数の縫目層毎に異なり、
前記重畳部は、前記2つの領域のうち一方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向が、前記2つの領域のうち他方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向と略平行となり、且つ、前記2つの領域のうち一方の前記複数の縫目層のうち前記少なくとも1つに含まれる前記複数の縫目の少なくとも一部が、前記2つの領域のうち他方の前記複数の縫目層のうち前記少なくとも1つに含まれる前記複数の縫目の少なくとも一部と交差する、または重なり合うように形成されることを特徴とする請求項1に記載の縫製データ作成装置。
【請求項3】
前記2つの領域の前記境界線上にある点を特定する特定点設定手段を更に備え、
前記重畳部は、前記2つの領域のうち一方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向と、前記2つの領域のうち他方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向とが、前記境界線上の前記点における前記境界線の接線に交差するように形成されることを特徴とする請求項2に記載の縫製データ作成装置。
【請求項4】
前記重畳部は、前記複数の縫目に含まれる前記複数の縫目層と同じ数の縫目層を含むことを特徴とする請求項2または3に記載の縫製データ作成装置。
【請求項5】
コンピュータによって処理される縫製データ作成方法であって、
互いに異なる方向に伸びる2つの縫目が交差する部位を複数含む複数の縫目が形成される領域を、少なくとも1つ特定する領域特定ステップと、
前記領域特定ステップで特定された前記少なくとも1つの領域の各々に、前記複数の縫目を形成するための縫製データを作成する縫製データ作成ステップとを含み、
前記縫製データ作成ステップでは、前記領域特定ステップで特定された前記少なくとも1つの領域が、互いに連接し、且つ、互いに異なる種類の糸でそれぞれ縫製される2つの領域を含む場合、前記2つの領域のうち少なくとも一方を前記2つの領域の境界線を越える方向に拡張することで、前記2つの領域のうち一方に形成される前記複数の縫目の一部に対して前記2つの領域のうち他方に形成される前記複数の縫目の一部が交差する、または重なり合う領域である重畳部を形成する縫製データが作成されることを特徴とする縫製データ作成方法。
【請求項6】
前記2つの領域の各々に形成される前記複数の縫目は、縫い方向が同じ複数の第1縫目と、前記複数の第1縫目をつなぐ複数の第2の縫目を含む縫目層を複数含み、
前記縫い方向は、前記複数の縫目層毎に異なり、
前記重畳部は、前記2つの領域のうち一方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向が、前記2つの領域のうち他方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向と略平行となり、且つ、前記2つの領域のうち一方の前記複数の縫目層のうち前記少なくとも1つに含まれる前記複数の縫目の少なくとも一部が、前記2つの領域のうち他方の前記複数の縫目層のうち前記少なくとも1つに含まれる前記複数の縫目の少なくとも一部と交差する、または重なり合うように形成されることを特徴とする請求項5に記載の縫製データ作成方法。
【請求項7】
前記2つの領域の前記境界線上にある点を特定する特定点設定ステップを更に含み、
前記重畳部は、前記2つの領域のうち一方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向と、前記2つの領域のうち他方の前記複数の縫目層のうち少なくとも1つの前記縫い方向とが、前記境界線上の前記点における前記境界線の接線に交差するように形成されることを特徴とする請求項6に記載の縫製データ作成方法。
【請求項8】
前記重畳部は、前記複数の縫目に含まれる前記複数の縫目層と同じ数の縫目層を含むことを特徴とする請求項6または7に記載の縫製データ作成方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の縫製データ作成方法の各ステップをコンピュータに実行させるための指示を含むことを特徴とする縫製データ作成プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載の縫製データ作成プログラムを記憶したコンピュータ読取り可能な媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−192008(P2012−192008A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57331(P2011−57331)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】