説明

繊維強化プラスチック成形体およびその製造方法

【課題】従来法によれば、添加したワックスの融点以上において加熱硬化が必要となったり、不飽和ポリエステルゲルコート樹脂の完全硬化には時間がかかったりする。また、不飽和ポリエステルゲルコート樹脂に添加したパラフィン成分が表面に浮き出て、離型効果を発揮し、所望の密着性を得られないなどの問題があった。
【解決手段】マトリックス樹脂としてフェノール樹脂が用いられた繊維強化プラスチック成形体であって、該繊維強化プラスチック成形体の外表面側に不飽和ポリエステル樹脂のゲルコート層、本体側にガラスマットを含むビニルエステル樹脂の層を配置した表面層を有することを特徴とする繊維強化プラスチック成形体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ポリエステルゲルコート層を有する、フェノール樹脂をマトリックス樹脂として用いた繊維強化プラスチック(以下、「FRP」と称することがある。)成形体において、ゲルコート層とFRP層との密着性が優れたFRPならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂をマトリックス樹脂として用いたFRP成形体において、フェノール樹脂を用いたFRPの表面には、密着性の問題から、不飽和ポリエステルゲルコート樹脂はあまり使用されず、後塗装に頼るのが一般的であった。
【0003】
通常の不飽和ポリエステルゲルコート樹脂は、過酸化物を用いて充分硬化させても、その表面は空気中の酸素と常に接触している為、重合禁止作用により、未硬化の状態になっている。一方、フェノール樹脂は不飽和ポリエステル樹脂と異なりイオン反応であり、かつ反応による縮合水およびフェノール自体が不飽和ポリエステル樹脂の重合禁止剤となるので、前記不飽和ポリエステルゲルコート樹脂の上にフェノール樹脂からなるFRPを積層した場合、密着性が悪く、その界面で剥離が起こり、ゲルコート層が密着しなかったり、小さな衝撃や変形で剥離したりする。また、フェノール樹脂の縮合水により、空間が発生し、後にゲルコート表面の膨れ、割れにつながるという欠点がある。
【0004】
上記の問題点を解決する手段として、不飽和ポリエステルゲルコート樹脂に、通常パラフィンと称される、石油ロウまたは鉱物ロウからなる、融点40〜86℃のワックスを添加して空気硬化性とし、表面を硬化させた後、その上に直接レゾール型フェノール樹脂と有機または無機繊維からなる基材とを用いて積層成形後、融点以上で加熱硬化することによる、フェノール樹脂をマトリックス樹脂として用いたFRPの製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平1−36417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かかる方法によれば、添加したワックスの融点以上において加熱硬化が必要となったり、不飽和ポリエステルゲルコート樹脂の完全硬化には時間がかかったりする。また、不飽和ポリエステルゲルコート樹脂に添加したパラフィン成分が表面に浮き出て、離型効果を発揮し、所望の密着性を得られないなどの問題があった。
【0006】
本発明は、ゲルコート層とフェノール樹脂をマトリックス樹脂として用いたFRPとの密着性を改善する為に鋭意検討した結果、ゲルコート樹脂に公知の硬化剤を配合し成形型に塗布、硬化した後、ガラスマットとビニルエステル樹脂を配置し含浸硬化後、さらに、その上に繊維強化フェノール樹脂層を積層成形し、常温または加熱硬化することによりゲルコート層とフェノールをマトリックス樹脂として用いたFRPからなる層の密着性が大幅に改善できることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、以下の構成を採用するものである。すなわち、
(1)マトリックス樹脂としてフェノール樹脂が用いられた繊維強化プラスチック成形体であって、該繊維強化プラスチック成形体の外表面側に不飽和ポリエステル樹脂のゲルコート層、本体側にガラスマットを含むビニルエステル樹脂の層を配置した表面層を有することを特徴とする繊維強化プラスチック成形体。
【0008】
(2)前記ビニルエステル樹脂の層中のガラスマットの繊維体積含有率が5〜40%である、(1)に記載の繊維強化プラスチック成形体。
【0009】
(3)前記ビニルエステル樹脂の層の厚みが、前記不飽和ポリエステル樹脂のゲルコート層の厚み以上である、(1)または(2)に記載の繊維強化プラスチック成形体。
【0010】
(4)成形型上に不飽和ポリエステルゲルコート層を形成、硬化し、ついで該不飽和ポリエステルゲルコート層上にガラスマットとビニルエステル樹脂の層を配置して含浸し、硬化した後、前記ビニルエステル樹脂の層上に強化繊維基材を配置し、該強化繊維基材にフェノール樹脂からなるマトリックス樹脂を含浸し、前記マトリックス樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【0011】
(5)前記ビニルエステル樹脂の層中のガラス繊維の繊維堆積含有率が5〜40%となるようにビニルエステル樹脂の層を配置する、(4)に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法
(6)前記ビニルエステル樹脂の層の厚みを、前記不飽和ポリエステル樹脂のゲルコート層の厚みより厚くする、(4)または(5)に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法で得られた、フェノール樹脂をマトリックス樹脂として用いた繊維強化プラスチック(以下、適宜「繊維強化フェノール樹脂」と称する。)成形体は、該繊維強化フェノール樹脂成形体の外表面側に不飽和ポリエステル樹脂のゲルコート層、本体側にガラスマットを含むビニルエステル樹脂の層を配置した表面層を有する構成としており、美観に優れるものであり、ゲルコート層の剥離の心配がなく、ゲルコート無しで成形した繊維強化フェノール成形体のように、後塗装で着色仕上げする必要が無い等の多くの利点があり、建築材料、屋根材、庇、ルーバー、防音壁、車両部品、車両内装材、航空機部品、航空機内装材、ダクト、室内装飾材、天井材、壁材、パイプ、船舶部品、船舶内装材、浴槽、タンク、サイロ等に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る繊維強化プラスチック成形体は、マトリックス樹脂としてフェノール樹脂が用いられた繊維強化プラスチック成形体(繊維強化フェノール樹脂成形体)であって、該繊維強化プラスチック成形体の外表面側に不飽和ポリエステル樹脂のゲルコート層、本体側にガラスマットを含むビニルエステル樹脂の層を配置した表面層を有することを特徴とする。かかる構成、つまり、ガラスマットを含むビニルエステル樹脂の層を、繊維強化フェノール樹脂からなる層と不飽和ポリエステル樹脂のゲルコート層の間にガラスマットを含むビニルエステル樹脂の層を配置する構成とすることにより、外観に優れ、かつ、前記ゲルコート層が剥離しにくい成形体とすることができる。
【0014】
かかる繊維強化フェノール樹脂成形体は、成形型上に前記不飽和ポリエステルゲルコート層を形成、硬化し、ついで前記ガラスマットとビニルエステル樹脂の層を配置して含浸し、硬化した後、前記ビニルエステル樹脂の層上に強化繊維基材を配置し、該強化繊維基材にフェノール樹脂からなるマトリックス樹脂を含浸し、前記マトリックス樹脂を硬化させることにより得られる。
【0015】
用いられるフェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂のいずれを用いても良く、また、それらを混合したものを用いても良い。
【0016】
また、用いられる強化繊維基材としては、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩(バサルト)繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変成した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが好ましく用いられる。その中でも、炭素繊維はこれら強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品生にも優れていることから、軽量化が望まれる部材に好適である。さらに、炭素繊維の中でも、高強度の炭素繊維が得られやすいPAN系炭素繊維が特に好ましい。かかる強化繊維基材の形態として、マット、クロス、不織布などの形態することが好ましい。
【0017】
本発明では、ビニルエステル樹脂の層にガラスマットを設けることにより、アンカー効果を得て、ビニルエステル樹脂の層を安定化させているが、かかる観点から、ビニルエステル樹脂の層中のガラスマットの繊維体積含有率を5〜40%とすることが好ましく、より好ましくは15〜36%である。また、ビニルエステル樹脂の層の安定化と、得られる成形体の良好な外観(表面外観)の両立に加え、ゲルコート層をFRPからなる層と剥離しにくい構成とすることを考慮すると、ビニルエステル樹脂の層の厚みを、不飽和ポリエステル樹脂のゲルコート層の厚み以上とすることが好ましい。
【0018】
このようにして得られた繊維強化フェノール樹脂成形体は、美観に優れるものであり、ゲルコート層の剥離の心配がなく、ゲルコート無しで成形した繊維強化フェノール成形体のように、後塗装で着色仕上げする必要が無い等の多くの利点を有する。このような利点を活かして、本発明に係る繊維強化フェノール樹脂成形体は、建築材料、屋根材、庇、ルーバー、防音壁、車両部品、車両内装材、航空機部品、航空機内装材、ダクト、室内装飾材、天井材、壁材、パイプ、船舶部品、船舶内装材、浴槽、タンク、サイロ等の用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例、比較例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明が以下に記載の実施態様に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1〜4)
表1の示す如く、イソ系不飽和ポリエステルゲルコート(御国色素(株)、NFベージュ#11363)100部に公知の不飽和ポリエステル樹脂硬化剤、メチルエチルケトンパーオキサイド(日本油脂株式会社パーメックN)1部を配合し、離型剤を塗布した成形型にスプレーで0.5mmの厚さで塗布し、常温で約2時間硬化させた後、ついで、該不飽和ポリエステルゲルコート層上にガラスマット(セントラル硝子株式会社ECM−501P−230)とビニルエステル樹脂(昭和高分子(株)、リポキシR−802)100部に公知のビニルエステル樹脂硬化剤、メチルエチルケトンパーオキサイド(日本油脂株式会社パーメックN)1部を配合し含浸させ、常温で約2時間硬化させた後、フェノール樹脂(群栄化学工業(株)、レヂトップXPL−6828B)に硬化剤10部(群栄化学工業(株)XHL−4112C)を配合し、炭素繊維クロス(東レ(株)CK6440EL)2プライを用いてハンドレイアップ成形法で積層成形し、常温硬化して繊維強化フェノール樹脂成形体を得た。
【0021】
かかる繊維強化フェノール樹脂成形体を成形型から脱型し、余分な部分をFRP用切断砥石(ニューレジストン(株)、サンドホイルC80)のついたハンドグラインダーで切断した。脱型時、および切断時のゲルコート層とフェノールFRP層の剥離がなく、表面をゲルコート層で化粧された繊維強化フェノール樹脂成形体が得られた。
【0022】
(比較例1)
実施例1〜4で用いたガラスマットの配置工程を省略して、実施例1〜4と同様の方法で繊維強化フェノール樹脂成形体を成形した。脱型時、また切断時に切断カッターの発熱と応力により、切断面のゲルコート層の一部がわずかに繊維強化フェノール樹脂成形体から剥離し、浮き上がった。
【0023】
(比較例2〜4)
実施例1〜4で用いたガラスマットとビニルエステル樹脂の塗布工程を省略して、実施例1〜4と同様の方法で繊維強化フェノール樹脂成形体を成形した。脱型時、また切断時に切断カッターの発熱と応力により、切断面のゲルコート層が繊維強化フェノール樹脂成形体から剥離し、2〜3mm浮き上がった。
【0024】
上記の実施例および比較例において、繊維強化フェノール樹脂成形体の試験の用いたゲルコートの銘柄、ガラスマットの銘柄、炭素繊維の銘柄、ビニルエステルの銘柄、配合量、硬化条件等を表1,表2に示す。
【0025】
<密着強度試験>
実施例1〜4、および比較例1〜4で得られた繊維強化フェノール樹脂成形体の密着強度試験を実施した。その結果を表1、表2に示す。なお、試験は下記の如く行った。
【0026】
図1に示す如く、実施例1〜4、および比較例1〜4で得られた繊維強化フェノール樹脂成形体を150mm角程に切断し、ドリー(接着コマ)とFRPに接着する位置を研磨、洗浄し、エポキシ接着剤(ナガセケムテックス(株)AV−138を100部、HV−998を40部混合したもの)塗布し、手で押さえた後、常温で12時間放置硬化させて、試験体を作成した。硬化後、ドリー(接着コマ)付近のゲルコート層およびFRP層を専用の工具で切断し、アドヒージョンテスター(塗膜付着力試験機F106)で密着強度を測定した。その結果を表1、表2に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
但し、ゲルコート、硬化剤、プライマー、フェノール樹脂、および繊維補強材は下記のものを使用した。ゲルコート:イソ系不飽和ポリエステルゲルコート(御国色素(株)、NベージュF#11363)ビニルエステル樹脂(昭和高分子(株)、リポキシR−802)硬化剤:メチルエチルケトンパーオキサイド(日本油脂(株)、パーメックN)ガラス繊維強化材:チョップドストランドガラスマット(セントラル硝子(株)、ECM−501−230)フェノール樹脂:フェノール樹脂(群栄化学工業(株)、レヂトップXPL−6828B)フェノール樹脂硬化剤:フェノール樹脂硬化剤(群栄化学工業(株)XHL−4112C)
炭素繊維クロス:炭素繊維クロス(東レ(株)、トレカクロスCK6440EL)作業の便宜上、ポリエステルゲルコートとビニルエステル樹脂の塗布量を統一している。実施例1においては、ガラスマットをちぎり、散布し70g/m2目付相当とした。
【0029】
【表2】

【0030】
但し、ゲルコート、硬化剤、プライマー、フェノール樹脂、および繊維補強材は下記のものを使用した。ゲルコート:イソ系不飽和ポリエステルゲルコート(御国色素(株)、NベージュF#11363)ビニルエステル樹脂(昭和高分子(株)、リポキシR−802)硬化剤:メチルエチルケトンパーオキサイド(日本油脂(株)、パーメックN)ガラス繊維強化材:チョップドストランドガラスマット(セントラル硝子(株)、ECM−501−230)フェノール樹脂:フェノール樹脂(群栄化学工業(株)、レヂトップXPL−6828B)フェノール樹脂硬化剤:フェノール樹脂硬化剤(群栄化学工業(株)XHL−4112C)炭素繊維クロス:炭素繊維クロス(東レ(株)、トレカクロスCK6440EL)である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例、比較例で得られた成形品の密着強度試験装置、接着位置の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂としてフェノール樹脂が用いられた繊維強化プラスチック成形体であって、該繊維強化プラスチック成形体の外表面側に不飽和ポリエステル樹脂のゲルコート層、本体側にガラスマットを含むビニルエステル樹脂の層を配置した表面層を有することを特徴とする繊維強化プラスチック成形体。
【請求項2】
前記ビニルエステル樹脂の層中のガラスマットの繊維体積含有率が5〜40%である、請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体。
【請求項3】
前記ビニルエステル樹脂の層の厚みが、前記不飽和ポリエステル樹脂のゲルコート層の厚み以上である、請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック成形体。
【請求項4】
成形型上に不飽和ポリエステルゲルコート層を形成、硬化し、ついで該不飽和ポリエステルゲルコート層上にガラスマットとビニルエステル樹脂の層を配置して含浸し、硬化した後、前記ビニルエステル樹脂の層上に強化繊維基材を配置し、該強化繊維基材にフェノール樹脂からなるマトリックス樹脂を含浸し、前記マトリックス樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ビニルエステル樹脂の層中のガラス繊維の繊維堆積含有率が5〜40%となるようにビニルエステル樹脂の層を配置する、請求項4に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法
【請求項6】
前記ビニルエステル樹脂の層の厚みを、前記不飽和ポリエステル樹脂のゲルコート層の厚みより厚くする、請求項4または5に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法

【図1】
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【公開番号】特開2009−119613(P2009−119613A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292848(P2007−292848)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】