説明

繊維強化樹脂積層体

【課題】不連続の強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化樹脂積層体に関し、特に、軽量、高剛性といった繊維強化樹脂の利点を保持しながら、吸収エネルギーに優れる繊維強化樹脂積層体を提供すること。
【解決手段】不連続の強化繊維(A)2,3、4とマトリックス樹脂(B)を有してなる繊維強化樹脂積層体1であって、該繊維強化樹脂積層体は、少なくとも積層単位(1)および(2)有しており、該積層単位(1)に含まれる強化繊維(A1)の屈曲度H1の平均が1.0以上1.1未満であり、該積層単位(2)に含まれる強化繊維(A2)の屈曲度H2の平均が1.1以上1.5以下であり、かつ、該積層単位(1)に含まれる強化繊維の体積分率V1が該積層単位(2)に含まれる強化繊維の体積分率V2よりも5%以上高い繊維強化樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不連続の強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化樹脂積層体に関するものであり、さらに詳しくは、軽量、高剛性といった繊維強化樹脂の利点を保持しながら、吸収エネルギーに優れる、不連続の強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化樹脂積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強化繊維と樹脂からなる繊維強化樹脂は、軽量、高強度、高弾性率などの利点を有すことから各種構造部材として使用されている。特に、不連続の繊維を強化繊維とした場合には、プレス成形や射出成形などの成形法により、複雑な形状を有する部材を成形することができるため、電子機器筐体や自動車用外層部材などに広く利用されている。従来、これら用途では金属材料を用いた部材が使用されていた。しかし、大幅な軽量化が可能となるため、金属材料から繊維強化樹脂への置き換えが進んでいる。ここで、金属材料を用いた部材とは異なり、繊維強化樹脂を用いた部材は分断するような脆性的な破壊を生じる。このような破壊が生じると、部材の荷重支持が急激に失われるため、特にエネルギー吸収が望まれる部材への繊維強化樹脂の適用が制限される場合があり、その改善が市場において望まれていた。
【0003】
このような要望に対し、高強度の強化繊維に高伸度繊維を組み合わせて用いることで、繊維強化樹脂による成形品の吸収エネルギーを高める方法が知られている(特許文献1)。この場合、成形品に一次的な破壊が生じた際に、高伸度繊維が破壊の拡大を防止することで、吸収エネルギーを高めることができる。しかし、この方法で十分な効果を得るには、強化繊維と比して弾性率に劣る高伸度繊維を相当量含む必要があり、成形品の剛性が低下してしまうことが問題であった。
【0004】
一方、不連続の強化繊維からなる繊維強化樹脂の剛性および強度を改善するため、不連続繊維からなる繊維強化樹脂に、連続繊維からなる繊維強化樹脂を複合化する方法が開示されている(特許文献2)。しかし、連続繊維からなる繊維強化樹脂は繊維が連続していることにより破断伸度が小さく、低ひずみでの全体破壊を誘引する。そのため、この方法では吸収エネルギー向上の効果は小さかった。
【0005】
また、繊維強化樹脂の強度の向上を目的として、強化繊維の種類や繊維長を変化させた不連続繊維からなる繊維強化樹脂同士を複合化する方法が開示されている(特許文献3、4)。しかし、この方法においても強度については改善されているが、最も重要な市場の要求事項である吸収エネルギーの改善には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3981980号公報
【特許文献2】特許第2567828号公報
【特許文献3】特開平6−218859号公報
【特許文献4】国際公開第2010/13645号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、不連続の強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化樹脂積層体に関し、かかる従来技術の問題点を解消し、特に、軽量、高剛性といった繊維強化樹脂の利点を保持しながら、吸収エネルギーに優れる繊維強化樹脂積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。すなわち、
(i)不連続の強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)を有してなる繊維強化樹脂積層体であって、該繊維強化樹脂積層体は、少なくとも積層単位(1)および(2)有しており、該積層単位(1)に含まれる強化繊維(A1)の屈曲度H1の平均が1.0以上1.1未満であり、該積層単位(2)に含まれる強化繊維(A2)の屈曲度H2の平均が1.1以上1.5以下であり、かつ、該積層単位(1)に含まれる強化繊維の体積分率V1が該積層単位(2)に含まれる強化繊維の体積分率V2よりも5%以上高い繊維強化樹脂積層体。
【0009】
(ii)積層単位(1)に含まれる強化繊維(A1)の屈曲度H1の変動係数が10%未満である、(i)に記載の繊維強化樹脂積層体。
【0010】
(iii)積層単位(2)に含まれる強化繊維(A2)の屈曲度H2の変動係数が30%未満である、(i)または(ii)に記載の繊維強化樹脂積層体。
【0011】
(iv)積層単位(1)の単一積層からなる成形体の引張破断伸度(%)をF1、該積層単位(2)の単一積層からなる成形体の引張破断伸度(%)をF2とした場合に、F2/F1が1.1以上である、(i)〜(iii)のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【0012】
(v)積層単位(1)中における強化繊維の数平均繊維長が5mm未満である、(i)〜(iv)のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【0013】
(vi)積層単位(2)中における強化繊維の数平均繊維長が5mm以上30mm未満である、(i)〜(v)のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【0014】
(vii)積層単位(1)からなる層の総厚さをT1、積層単位(2)からなる層の総厚さをT2とすると、T2/T1が1.5以上5.0未満である、(i)〜(vi)のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【0015】
(viii)繊維強化樹脂積層体の最表層に積層単位(1)を配してなる、(i)〜(vii)のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【0016】
(ix)繊維強化樹脂積層体の曲げ弾性率Eが、測定方向による最大曲げ弾性Emaxと最小曲げ弾性率Eminとの関係においてEmax≦1.2Eminである、(i)〜(viii)のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【0017】
(x)積層単位(1)の強化繊維の体積分率V1が10%以上50%未満である、(i)〜(ix)のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【0018】
(xi)積層単位(1)を構成する強化繊維(A1)、および積層単位(2)を構成する強化繊維(A2)が、炭素繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維から選ばれる少なくとも1種である、(i)〜(x)のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【0019】
(xii)積層単位(1)を構成する強化繊維(A1)が炭素繊維である、(i)〜(xi)のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【0020】
(xiii)積層単位(1)を構成するマトリックス樹脂(B1)、および積層単位(2)を構成するマトリックス樹脂(B2)が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂である、(i)〜(xii)のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【0021】
(xiv)ASTM−D790に基づく曲げ試験において、曲げ荷重線図に二つ以上の荷重ピーク点を有する、(i)〜(xiii)のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、軽量、高剛性といった繊維強化樹脂の優れた特性を損なうことなく、荷重が負荷された際の吸収エネルギーを大幅に高めた繊維強化樹脂積層体を得ることができる。このことから、自動車、電気・電子機器、家電製品、または、航空機の用途に用いられる部品・部材に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】積層単位中における強化繊維単糸の様態を示した簡略図である。
【図2】強化繊維単糸の屈曲度の評価手順を示した簡略図である。
【図3】強化繊維単糸の屈曲度の評価手順を示した簡略図である。
【図4】強化繊維単糸の屈曲度の評価手順を示した簡略図である。
【図5】強化繊維単糸の屈曲度の評価手順を示した簡略図である。
【図6】強化繊維単糸の屈曲度の評価手順を示した簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の繊維強化樹脂積層体について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0025】
本発明の繊維強化樹脂積層体は、不連続の強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)を有してなる繊維強化樹脂積層体であって、該繊維強化樹脂積層体は、少なくとも積層単位(1)および(2)有しており、該積層単位(1)に含まれる強化繊維(A1)の屈曲度H1の平均が1.0以上1.1未満であり、該積層単位(2)に含まれる強化繊維(A2)の屈曲度H2の平均が1.1以上1.5以下であり、かつ、該積層単位(1)に含まれる強化繊維の体積分率が該積層単位(2)に含まれる強化繊維の体積分率よりも5%以上高い繊維強化樹脂積層体である。
【0026】
本発明における積層単位とは、強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化樹脂であって、繊維強化樹脂積層体中において層として存在する繊維強化樹脂の構成単位を意味する。積層単位の前駆体としては、本発明の効果を損なわない限り、特に形態は制限されないが、強化繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂シートを例示することができる。さらに、強化繊維基材としては、強化繊維をシート状、布帛状またはウェブ状などの形態に加工した基材を利用することができる。この場合、強化繊維が単糸状に十分に分繊されるという点から、乾式法や湿式法で得られる不織布形態が好ましい。さらには、該強化繊維の単糸同士が有機化合物で目留めされた基材であることが、取扱い性の観点から好ましい。
【0027】
本発明の繊維強化樹脂積層体は、強化繊維単糸の屈曲度Hが異なる積層単位(1)および(2)有してなる繊維強化樹脂積層体である。本発明で規定される強化繊維の屈曲度Hとは、積層単位中において樹脂に包埋された状態にある強化繊維単糸について定義され、該強化繊維単糸の最大投影長さをD、該強化繊維単糸を完全に伸長させたときの長さをLとしたとき、強化繊維の屈曲度HはL/Dで表される。ここで、屈曲度Hは、積層単位中における強化繊維単糸の屈曲の程度を表すパラメーターである。
【0028】
強化繊維単糸の最大投影長さDについて図面を用いて説明する。図1に、積層単位中において樹脂に包埋された状態にある強化繊維単糸の模式図を示す(積層単位を図1の(1)として例示)。図1に例示する強化繊維単糸1(2)、強化繊維単糸2(3)、強化繊維単糸3(4)はそれぞれ三次元的な屈曲を有している。ここで、図2に示すように強化繊維単糸1(2)に着目し、該強化繊維単糸を内包する球(5)を設ける。球の中心点(6)は最大投影長さDの測定に影響を与えないので任意に定めてよい。次いで、球1の中心点(6)を基準とし、任意に設定されたX−Y平面における回転角θを設ける。任意の回転角θに対して、X−Y平面に垂直であり、かつ球(5)の表面と交差する平面を設定する。該平面と球(5)の表面が交差することによって描かれる球(5)の面上の線を、以降、交差線(7)と呼ぶ。ここで、θを等間隔の刻みΔθで増加させ、球(5)の表面に複数の交差線を設けると、図3のようになる。さらに、図2に示すように、Y−Z平面内に回転角φを設け、φを等間隔の刻みΔφで増加させ、球の表面に交差線を描くと図4に示す格子状の交差線が得られる。これら交差線の交点を、以降では単に交点(8)と呼ぶ。図4中の交点1(9)に着目し、交点1にて球(5)に接する平面に対し、強化繊維1(2)を投影すると、図5に示す強化繊維の投影図が得られる。図5における強化繊維単糸1の投影像(10)に楕円近似を施し、該楕円(11)の長軸を交点1における強化繊維単糸の投影長さと定義する。次いで、すべての交点に関し、強化繊維単糸1の投影図を作製し、各交点における強化繊維単糸1の投影長さを測定する。これらの中で最大であるものが強化繊維単糸1の最大投影長さDである。ここで、強化繊維の最大投影長さDは、強化繊維単糸が完全に伸直した場合、DはLと等しくなり、屈曲度Hは下限の1.0となる。強化繊維単糸の屈曲が顕著となると、強化繊維単糸の最大投影長さDは小さくなり、屈曲度Hは大きくなる。
【0029】
上記の評価方法を用いれば、強化繊維単糸の蛇行が顕著である場合(図1の(3)に例示)や、強化繊維がループ状となっている場合(図1の(4)に例示)についても、容易に強化繊維単糸の最大投影長さDを評価することができ、屈曲度Hを求めることができる。なお、ここで述べた強化繊維単糸の最大投影長さDの評価方法は、コンピュータ上に再現した積層単位中の強化繊維単糸の空間分布について、画像解析を行うことによって実施できる。
【0030】
強化繊維単糸の積層単位中における強化繊維の空間分布は、X線CT−SCAN等の三次元測定装置を用いて評価することができる。この方法によれば、積層単位中の複数の強化繊維について、同時かつ高速に評価することができる。この場合、評価精度を高め、積層単位中で隣接する強化繊維同士の判別を容易とする観点から、測定装置の空間解像度を強化繊維単糸の直径Rに対して0.5R以下とすることが好ましく、0.3R以下とすることがより好ましい。また、繊維強化樹脂積層体から積層単位を分離して評価に供すことで、X線透過率を高めることができ、評価精度を高めることができる。また、積層単位を研磨して、ある断面における強化繊維の平面内の分布を評価しておき、観察面を再度研磨し、同様に強化繊維の平面内の分布を評価するとの操作を繰り返すことで、積層単位中における強化繊維の三次元的な空間分布を評価することもできる。
【0031】
強化繊維単糸を完全に伸長させたときの長さLについては、上記の方法によって求めた強化繊維単糸の空間分布から評価できる。図6に示すように、積層単位中に屈曲して存在する強化繊維単糸に着目して、該強化繊維単糸の長手方向に対して微小区間Δで分割する。微小区間Δにおける強化繊維は、ほぼ直線としてみなすことができ、全てのΔの長さを合計することで、該強化繊維単糸を完全に伸長させたときの長さLを求めることができる。ここで、評価における精度を期すためには、Δを10μm以下とすることが好ましい。また、Δを強化繊維単糸の部位ごとの曲率に応じて調節することで、評価精度を向上させることもできる。
【0032】
強化繊維単糸の屈曲度Hは、評価対象とする積層単位おいて、無作為に100本の強化繊維単糸を選択し、各々の強化繊維単糸について評価した。測定した屈曲度Hの分布を正規分布で近似し、その平均値と標準偏差を求めた。また、屈曲度Hのバラツキの指標として屈曲度Hの変動係数を、変動係数=(標準偏差)/(平均値)×100(%)として求めた。
【0033】
ここで、本発明の繊維強化樹脂積層体は、少なくとも積層単位(1)および(2)有してなり、積層単位(1)は主に荷重支持を担い、積層単位(2)は積層単位(1)から生じる一次破壊の拡大を抑制する役割を担う積層単位である。
【0034】
すなわち、本発明の繊維強化樹脂積層体は、該積層単位(1)に含まれる強化繊維(A1)の屈曲度H1の平均が1.0以上1.1未満である。屈曲度H1の平均値が1.1以上であると、強化繊維の屈曲が顕著となることにより、積層単位(1)の剛性が低下し、繊維強化樹脂積層体の寸法安定性が劣化することがある。
【0035】
さらに、本発明の繊維強化樹脂積層体は、積層単位(2)に含まれる強化繊維(A2)の屈曲度H2の平均が1.1以上1.5以下である。屈曲度H2の平均値が1.1未満であると、伸直した強化繊維により積層単位(2)の靭性が損なわれるため、積層単位(2)が目的とする破壊の拡大を抑制するとの効果が十分に得られず、繊維強化樹脂積層体が満足な吸収エネルギーを発現しないことがある。また、屈曲度H2の平均値が1.5よりも大きいと、積層単位(2)の剛性が低下し、繊維強化樹脂積層体の寸法安定性が劣化する場合がある。吸収エネルギーと寸法安定性のバランスをはかる上では、屈曲度H2の平均値は1.2以上1.4以下であることがより好ましい。
【0036】
積層単位中における強化繊維単繊維の屈曲度Hを好ましい範囲内に制御するには、積層単位の前駆体である強化繊維基材の製造時に、強化繊維基材中の単糸の分散状態を制御する方法が例示できる。強化繊維基材の製造方法としては、強化繊維束の分散を空気中で行う乾式法や、強化繊維束の分散を水中で行う湿式法を例示できる。
【0037】
ここで、強化繊維基材中の単糸の分散状態を制御する手法としては、乾式法では開繊バーを設ける方法、さらに開繊バーを振動させる方法、さらにカードの目を細かくする方法や、カードの回転速度を調整する方法などが例示できる。湿式法では、強化繊維を分散させる際の攪拌条件を調整する方法、濃度を希薄化する方法、溶液粘度を調整する方法が例示できる。
【0038】
強化繊維の体積分率の増加に対する積層単位の剛性の上昇率は、該積層単位中の強化繊維の屈曲度Hと密接に関係している。屈曲度Hが小さい場合、伸直した強化繊維の積荷能力が高いため、体積分率の増加に対して積層単位の剛性は効果的に高められる。言い換えれば、強化繊維の屈曲度Hが小さい積層単位の体積分率を増加させても、剛性の向上が見込めないばかりか、強化繊維の高比重から、繊維強化樹脂積層体の重量増のみを招くことになる。
【0039】
したがって、本発明の繊維強化樹脂積層体は、積層単位(1)に含まれる強化繊維の体積分率V1が積層単位(2)に含まれる強化繊維の体積分率V2よりも5%以上高いことが重要である。V1−V2が5%未満であるということは、積層単位(2)における強化繊維の屈曲度H2の低さから、繊維強化樹脂積層体中の強化繊維量から期待されるべき補強効果を有効に活用できないことを意味しており、上述した剛性低下や重量増が顕著となることがある。繊維強化樹脂積層体の剛性を効果的に高める観点からは、V1−V2が8%以上であることが好ましく、V1−V2が10%以上であることがさらに好ましい。また、積層単位(1)および(2)の剛性差を適度として、繊維強化樹脂積層体中の変形ムラを防ぎ、吸収エネルギーを高める観点からは、V1−V2が20%以下であることが好ましい。
【0040】
積層単位における強化繊維の屈曲度Hのバラツキを小さくすることによって、積層単位の部位ごとの変形ムラを抑制し、繊維強化樹脂積層体の剛性と吸収エネルギーを高度にバランスさせることもできる。
【0041】
すなわち、強化繊維積層単位(1)に含まれる強化繊維(A1)の屈曲度H1の変動係数は10%未満であることが好ましく、8%未満であることがより好ましく、5%未満であることがさらに好ましい。屈曲度H1の変動係数を好ましい範囲にすることで、積層単位(1)の剛性が高められ、繊維強化樹脂積層体の剛性を効果的に向上させることができる。
【0042】
また、強化繊維積層単位(2)に含まれる強化繊維(A2)の屈曲度H2の変動係数が30%未満であることが好ましく、25%未満であることがより好ましく、20%未満であることがさらに好ましい。屈曲度H1の変動係数を好ましい範囲にすることで、積層単位(2)の靭性が高められ、繊維強化樹脂積層体の吸収エネルギーを効果的に向上させることができる。
【0043】
積層単位(1)の単一積層からなる成形体の引張破断伸度(%)をF1、該積層単位(2)の単一積層からなる成形体の引張破断伸度(%)をF2とした場合、F2/F1が1.1以上であることが好ましい。F2/F1がこの範囲であると、繊維強化樹脂積層体中の積層単位(1)に一次的な破壊が生じた際、隣接する積層単位(2)によって破壊の拡大が効果的に抑制される。そのため、繊維強化樹脂積層体が逐次的な破壊を生じるようになり、吸収エネルギーが高められる。このような観点から、F2/F1が1.3以上であることがより好ましく、F2/F1が1.5以上であることがさらに好ましい。F2/F1の上限については特に制限はないが、10以下が一般的に例示できる。
【0044】
積層単位(1)中における強化繊維の数平均繊維長が5mm未満であることが好ましく、4.5mm未満であることがさらに好ましく、4mm未満であることがさらに好ましい。繊維強化樹脂積層体の成形時には、マトリックス樹脂は加熱され、軟化あるいは溶融するため粘度が低くなり、強化繊維がマトリックス樹脂による拘束から解放される。このとき、数平均繊維長を好ましい範囲内とすることで、強化繊維同士の相互干渉が緩和され、強化繊維が自発的に伸直する効果を得ることができ、屈曲度H1を好ましい範囲内に制御すること容易となる。また、積層単位(1)の強度とのバランスをはかる上では、数平均繊維長が1mm以上であることが好ましい。
【0045】
さらに、積層単位(2)中における強化繊維の数平均繊維長が5mm以上30mm未満であることが好ましく、6mm以上20mm未満であることがより好ましく、7mm以上15mm未満であることがさらに好ましい。数平均繊維長を好ましい範囲内とすることで、積層単位(2)中の強化繊維は互いに絡み合い、強化繊維間の相互作用が大きくなる。そのため、繊維強化樹脂積層体の成形時に、低粘度化したマトリックス樹脂中においても、強化繊維の伸直が抑制され、屈曲度H2を好ましい範囲内に制御することが容易となる。
積層単位中における強化繊維の数平均繊維長を測定する方法としては、上述した積層単位中における強化繊維単糸の空間分布から評価する方法を用いることもできるが、以下の方法を好ましく利用することもできる。例えば、繊維強化樹脂積層体から積層単位を抽出し、該積層単位について、樹脂のみを溶解する溶剤を用いて溶解させ、残った強化繊維を濾別して顕微鏡観察により測定する方法がある(溶解法)。樹脂を溶解する溶剤がない場合には、強化繊維が酸化減量しない温度範囲において樹脂のみを焼き飛ばし、強化繊維を分別して顕微鏡観察により測定する方法がある(焼き飛ばし法)。測定は、強化繊維を無作為に400本選び出し、その長さを1μm単位まで光学顕微鏡にて測定することで、強化繊維の数平均繊維長を算出した。なお、いずれの方法を用いた場合においても、測定条件を適切に選定することで、得られる結果に特別な差異を生じることはない。
【0046】
さらに、積層単位(1)からなる層の総厚さをT1、積層単位(2)からなる層の総厚さをT2とすると、T2/T1が1.5以上5.0未満であることが好ましい。T2/T1を好ましい範囲内とすることで、積層単位(1)から生じる一次的な破壊が、成形品全体に瞬時に拡大することを防止でき、吸収エネルギーを高める観点から好ましい。破壊拡大の抑制と剛性のバランスをはかる上では、T2/T1は2.0以上4.0未満であることがより好ましく、2.5以上3.5未満であることがさらに好ましい。
【0047】
積層単位(1)からなる層を繊維強化樹脂積層体中の特定の位置に配置することで、吸収エネルギーを効率的に高めることもできる。この場合、繊維強化樹脂積層体の最表層に積層単位(1)を配すことが好ましい。剛性に富む積層単位(1)を最表層に配置することで、特に曲げ負荷において、繊維強化樹脂積層体の強度が増加し、吸収エネルギーを向上させることができる。さらに、繊維強化樹脂積層体の両表層に積層単位(1)を配したサンドイッチ構造とすることで、上記効果が最大限に発揮され、特に好ましい態様として例示できる。
【0048】
また、本発明の効果を損なわない限り、繊維強化樹脂積層体は積層単位(1)および積層単位(2)に加え、他の積層単位を含んでいてもよい。他の積層単位としては、強化繊維で強化された繊維強化樹脂に加え、金属板、金属箔、金属メッシュ、グラファイトシート、放熱シート、ハニカム材料、耐薬品性フィルム、ガスバリヤーフィルム、耐寒フィルム、抗菌シートやフィルム、発泡シート、ゴムシートなどが好ましく利用できる。
【0049】
繊維強化樹脂積層体の曲げ弾性率Eが、測定方向による最大曲げ弾性Emaxと最小曲げ弾性率Eminとの関係においてEmax≦1.2Eminであることが好ましい。EmaxとEminの関係がこの範囲内であると、繊維強化樹脂積層体の負荷方向に依存せず、高い吸収エネルギーを得ることできる。さらに、繊維強化樹脂積層体を等方性とすることで、繊維強化樹脂積層体からなる成形品に関して、成形品ごとの吸収エネルギーのバラツキが低減され、信頼性の高い成形品を得ることができるため好ましい。
【0050】
積層単位(1)の強化繊維の体積分率V1は10%以上50%未満であることが好ましく、18%以上47%未満であることがより好ましく、25%以上45%未満であることがさらに好ましい。V1を10%以上とすることで、繊維強化樹枝積層体に十分な剛性を賦与することができる。また、V1を50%未満とすることで、強化繊維の量に対するマトリックス樹脂の量が不足することによって生じる積層単位中のボイド(空隙)を低減でき、繊維強化樹枝積層体の剛性を効率的に高めることができる。
【0051】
繊維強化樹脂積層体のエネルギー吸収能の指標として、ASTM−D790に基づく曲げ試験において、曲げ荷重線図に二つ以上の荷重ピーク点を有することが好ましい。これは、繊維強化樹脂積層体が逐次破壊を起こしていることを意味し、本発明の効果を十分に満足する好ましい態様である。
【0052】
積層単位(1)を構成する強化繊維(A1)、および積層単位(2)を構成する強化繊維(A2)に関しては特に制限はなく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維、天然繊維、鉱物繊維などが使用できる。これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、吸収エネルギーと剛性および強度の両立をはかる上では、炭素繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維から選ばれる少なくとも1種から選択される強化繊維を用いることが好ましい。とりわけ、繊維強化樹脂積層体中において主に荷重支持を担う積層単位(1)に剛性を賦与する観点から、強化繊維(A1)に弾性率に富む炭素繊維を用いることが好ましい。また、得られる成形品の導電性を高める観点から、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0053】
また、積層単位(1)を構成するマトリックス樹脂(B1)、および積層単位(2)を構成するマトリックス樹脂(B2)としては特に制限はなく、種々の熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂が挙げられる。中でも、良好な力学特性を示すエポキシ樹脂を好ましく用いることができる。また、熱可塑性樹脂としては、例えば、「ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などのポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)」などの結晶性樹脂、「スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)」などの非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体および変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂が挙げられる。中でも、得られる成形品の軽量性の観点からはポリオレフィンが好ましく、強度の観点からはポリアミドが好ましく、耐熱性の観点からポリアリーレンスルフィドが好ましく利用できる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0055】
各評価方法は以下の通りである。なお、以下では、繊維強化樹脂積層体からなる平板成形品を、簡潔のため積層平板と呼称する。
【0056】
(1)積層平板の曲げ試験
積層平板から、長さ80mm、幅25mm、厚さ3mmの曲げ試験片を切り出し、ASTM−D790(1996)に基づき曲げ試験を行った。試験は任意の方向を0°方向として、±30°、±45°方向、90°方向について切り出した試験片についても行い、それぞれの方向について曲げ荷重−圧子押し込み量の関係(曲げ荷重線図)を取得した。測定数は各方向に対してn=5として実施した。
【0057】
(2)積層平板の曲げ弾性率Emax、Emin
曲げ弾性率については、上記(1)で測定した各方向についてそれぞれ平均値を算出し、最大を示した弾性率を最大曲げ弾性率Emax、最小を示した弾性率を最小曲げ弾性率Eminとして求めた。
【0058】
(3)積層平板のエネルギー吸収特性の評価
積層平板のエネルギー吸収特性の評価には、上記(1)で取得した曲げ荷重線図において、最大到達荷重と、最大到達荷重から90%の荷重下落が生じたとき圧子押し込み量(失荷重押し込み量)を利用した。最大荷重と失荷重押し込み量は、上記(1)にて求めた全ての荷重−圧子押し込み量の関係について算出し、最大荷重と失荷重押し込み量の平均を求めた。エネルギー吸収特性の判定は、最大荷重と失荷重押し込み量に対して個別に行い、以下の判定基準を用いた。
【0059】
最大到達荷重
A:400N以上
B:350N以上400N未満
C:300N以上350N未満
D:300N未満
失荷重押し込み量
A:25mm以上
B:20mm以上25mm未満
C:15mm以上20mm未満
D:10mm以上15mm未満。
【0060】
最大到達荷重と失荷重押し込み量の両者がA又はBに該当したものを可とし、最大到達荷重と失荷重押し込み量のいずれか一つでもC又はDに該当したものを不可とした。
【0061】
(4)積層平板中の積層単位の厚さ測定
積層平板の面内に対して垂直な断面を研磨し、研磨面を光学顕微鏡(キーエンス(株)製VK−9510型)を用いて、積層平板の厚さ方向における積層単位(1)および(2)の分布を観察した。積層単位(1)および(2)に対して個別に層の厚さを積算し、積層単位(1)からなる層の総厚さT1、積層単位(2)からなる層の総厚さT2を求めた。測定は積層平板の異なる断面に対して、測定数n=5として行い、T1およびT2の平均を求め、T2/T1を算出した。
積層平板中の各積層単位の諸物性の評価は、積層平板から抽出した積層単位について実施した。以降、積層平板から抽出した平板状の積層単位を、簡潔のため単一層平板と呼称する。
【0062】
(5)積層平板からの単一層平板の分離
積層平板から繊維強化樹脂積層体から200mm角の平板を切り出し、回転研磨器を用いて400番手の耐水ペーパーにて、平板の一方の面を対象層が平板の全面に露見するまで研磨した。同様に、平板の他方の面についても、対象層が平板の全面に露見するまで研磨し、積層平板から単一層平板を抽出した。この後、単一層平板の表面を1200番手の耐水ペーパーを用いて研磨し、単一層平板の任意の5点における厚さの最大値と最小値が、1mm±0.1mmの範囲内となるように凹凸を調整した。
【0063】
(6)単一層平板中における強化繊維の空間分布測定
単一層平板から長さ80mm、幅80mm、厚さ1mmの試料を切り出し、強化繊維の空間分布測定用の試験片とした。強化繊維の空間分布の測定は、三次元計測X線CT装置(ヤマト科学(株)TDM1300−FW型)を用いて行った。測定は空間解像度を0.7μmとして実施した。ここで、評価精度を高め、積層単位中で隣接する強化繊維単糸同士の区別を明瞭とするため、一回の測定における検査領域を長さ10mm、幅10mm、厚さ1mmに限定して実施した。その後、検査領域をオフセットさせて同様にして測定するとの操作を繰り返すことにより、試験片平面の中心部における長さ50mm、幅50mm、厚さ1mmの領域に対して、強化繊維の空間分布の測定結果を得た。測定数はn=1として行い、測定結果を電子ファイルに出力した。
【0064】
(7)屈曲度Hの評価
単一層平板中の強化繊維の空間分布から、以下の方法で強化繊維単糸の最大投影長さDを測定した。まず、上記(6)で得られた測定結果の電子ファイルを、3次元構造解析ソフト(Math Works(株)社製MATLAB)に入力し、汎用ワークステーション(DELL(株)製“Precision”T5400型)上に強化繊維の空間分布をデジタルモデリングした。次いで、単一層平板中に多数存在する強化繊維の中から、任意の強化繊維単糸を選択し、図2に示すように該強化繊維を内包する球を設定した。ここで、該球の直径は30mmとし、該球の中心は任意の点とした。次いで、図2に示すX−Y平面内の回転角θについて、θを等間隔の刻みΔθ=30°で増加させながら、θ方向をなし、かつ、X−Y平面に垂直な平面と、該球表面の交差線を設けた(図3)。同様にして、Y−Z平面内の回転角φについて、φを等間隔の刻みΔφ=30°で増加させながら、φ方向をなし、かつ、Y−Z平面に垂直な平面と、該球表面の交差線を設けた(図4)。ここで、図4に示される交差線の全ての交点について、交点の位置座標を算出した。次いで、図4中のある任意の交点を選び、該交点にて該球に接する平面に対し、該強化繊維を投影することで、図5に模式的に示される強化繊維の投影図を作成した。該投影図中の該強化繊維の投影像を楕円で近似して、該楕円の長軸を算出し、これを該交点における強化繊維単糸の投影長さとして求めた。ここで、投影像の楕円近似は、該強化繊維の投影像が該楕円に内接し、かつ、該楕円の面積が最小となるように実施した。同様の操作を全ての交点について実施し、各交点における強化繊維単糸の投影長さを評価した。各交点における強化繊維単糸の投影長さにおいて最大であるものを、該強化繊維単糸の最大投影長さDとして採用した。
【0065】
強化繊維単糸を完全に伸長させたときの長さLについても、上記と同様に3次元構造解析ソフトを用いて評価した。最大投影長さDの測定対象とした強化繊維について、図6に示すように、強化繊維単糸の長手方向に対して微小区間Δ=5μmで分割した。ここで、微小区間Δの個数をNとして、強化繊維単糸を完全に伸長させたときの長さLを、L=Δ×Nとして算出した。
【0066】
強化繊維単糸の屈曲度Hは、積層単位中の強化繊維単糸を無作為に100本抽出し、各々の強化繊維単糸について、屈曲度H=(L/D)として評価した。測定した屈曲度Hの分布を正規分布で近似し、その平均値と標準偏差を求めた。屈曲度Hの変動係数を、変動係数=(標準偏差)/(平均値)×100(%)として求めた。
【0067】
(8)単一層平板の引張破断伸度F
1mm厚の単一層平板から試験片を切り出し、ISO527−3(1995)に基づき引張試験を行い、引張伸度Fを評価した。試験は任意の方向を0°方向として、±30°、±45°方向、90°方向について切り出した試験片についても行い、それぞれの方向について引張破断伸度Fを取得した。測定数は各方向に対してn=5として実施し、全ての測定結果に対する平均を求めた。
【0068】
(9)単一層平板中における強化繊維長の評価
単一層平板を空気中500℃で1時間加熱し、樹脂成分を焼き飛ばした。残った強化繊維を無作為に400本抽出し、その長さを1μm単位まで光学顕微鏡にて測定し、繊維長を測定した。測定結果を平均して、強化繊維の数平均繊維長を求めた。
【0069】
(10)単一層平板における繊維体積分率Vfの測定
単一層平板の質量W1を測定した後、空気中500℃で1時間加熱し、樹脂成分を焼き飛ばした。残った強化繊維の質量W2を測定して、式を用いて強化繊維の繊維体積分率Vを算出した。
【0070】
V(%)=W2×ρm/(W2×ρm+(W1−W2)×ρf)
ここで、ρf(g/cm)は強化繊維の比重、ρm(g/cm)は樹脂の比重に対応する。
【0071】
実施例および比較例に使用する原材料の調製は以下のように行った。
【0072】
(材料1)炭素繊維
ポリアクリロニトリルを主成分とする重合体から紡糸、焼成処理を行い、総フィラメント数12000本の炭素繊維連続束を得た。この炭素繊維連続束の特性は次の通りであった。
【0073】
単位長さ当たりの質量:1.8g/m
比重:1.8g/cm
引張強度:4.9GPa
引張弾性率:230GPa。
【0074】
(材料2)ガラス繊維
日東紡績(株)“RS240QR−438”
比重:2.4g/cm
【0075】
(材料3)ポリプロピレンフィルム
未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”J105G)50重量%と酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)“アドマーQB510 ”)50重量部とからなる目付け50g/mのポリプロピレン樹脂シートを作製した。作製した樹脂シートの比重は0.9g/cmであった。以降、ポリプロピレン樹脂を単にPPと呼称する。
【0076】
(材料4)ガラス繊維強化PPシート(Glass Mat Thermoplastics)
Quadrant社製 ユニシートP4038−BK31。厚み3.8mm。
【0077】
(参考例1)繊維強化樹脂シート(1)の作製
材料1に記載の炭素繊維をカートリッジカッターで6mmの長さにカットし、チョップド炭素繊維束を得た。水20000ccと界面活性剤(ナカライテスク(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))からなる濃度0.1重量%の分散媒を作製し、かかる分散媒を抄造装置に注入した。抄造装置は、回転翼付き攪拌機を備えた上部の抄造槽と、下部の貯水槽からなり、抄造槽と貯水槽の間には多孔支持体を設けてある。まず、かかる分散媒を攪拌機を使用して空気の微小気泡が発生するまで撹拌した。その後、所望の目付となるように、重量を調整したチョップド炭素繊維束を、かかる空気の微小気泡が分散した分散媒中に投入した。攪拌機の回転数を1200rpm、攪拌時間を2分間に設定して、炭素繊維が分散したスラリーを得た。次いで、貯水層からスラリーを吸引し、スラリーを多孔支持体を介して脱水して強化繊維抄造体とした。抄造体を熱風乾燥機にて140℃、1hの条件下で乾燥させ、炭素繊維からなる強化繊維基材とした。強化繊維基材の目付けは100g/mであった。強化繊維基材を一枚に対して、材料3で得たポリプロピレンシートを、[PPシート×1枚/強化繊維基材×1枚/PPシート×1枚]となるように積層し、220℃の温度で5MPaの圧力を2分間保持して、強化繊維基材にポリプロピレン樹脂を含浸せしめた繊維強化樹脂シート(1)を作製した。
【0078】
(参考例2)繊維強化樹脂シート(2)の作製
材料2で得られたガラス繊維から作製した12mmのチョップドガラス繊維を用いたこと以外は、参考例1と同様にして繊維強化樹脂シート(2)を作製した。
【0079】
(参考例3)繊維強化樹脂シート(3)の作製
抄造時に12mmのチョップド炭素繊維を用いたことと、[PPシート×2枚/強化繊維基材/PPシート×1枚]と積層したこと以外は、参考例1と同様にして繊維強化樹脂シート(3)を作製した。
【0080】
(参考例4)繊維強化樹脂シート(4)の作製
繊維強化樹脂シートの作製時に、[PPシート×2枚/強化繊維基材/PPシート×1枚]と積層したこと以外は、参考例1と同様にして繊維強化樹脂シート(4)を作製した。
【0081】
(参考例5)繊維強化樹脂シート(5)の作製
抄造時に12mmのチョップド炭素繊維を用いたことと、[PPシート×3枚/強化繊維基材/PPシート×3枚]と積層したこと以外は、参考例1と同様にして繊維強化樹脂シート(5)を作製した。
【0082】
(参考例6)繊維強化樹脂シート(6)の作製
抄造時に24mmのチョップド炭素繊維を用い、分散媒の濃度を0.5重量%としたこと以外は、参考例1と同様にして繊維強化樹脂シート(6)を作製した。
【0083】
(参考例7)繊維強化樹脂シート(7)の作製
抄造時に36mmのチョップド炭素繊維を用い、分散媒の濃度を1.0重量%としたことと、[PPシート×2枚/強化繊維基材/PPシート×1枚]と積層したこと以外は、参考例1と同様にして繊維強化樹脂シート(7)を作製した。
【0084】
(参考例8)繊維強化樹脂シート(8)の作製
材料4に記載のガラス繊維強化PPシートを220℃にてプレスし、厚さ2.1mmに調製することにより繊維強化樹脂シート(8)を作製した。
【0085】
(実施例1)積層平板(1)の作製
繊維強化樹脂シート(1)と繊維強化樹脂シート(2)とを、[(1)×3枚/(2)×16枚/(1)×3枚]となるように積層し、220℃に予熱しておいた縦300mm、横300mm、厚さ3mmのキャビティを有する金型内に配置して金型を閉じた。成形圧力30MPaで加圧して2分間保持した後、金型温度が70℃となるまで冷却してから金型を開き、長さ300mm、幅300mm、厚さ3mmの積層平板(1)を取り出した。積層平板(1)の特性評価結果を表1にまとめる。
【0086】
(実施例2)積層平板(2)の作製
繊維強化樹脂シート(1)と繊維強化樹脂シート(2)とを、交互に[((2)×2枚/(1)×1枚/(2)×2枚)×2/(1)×2枚/((2)×2枚/(1)×1枚/(2)×2枚)×2]となるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして積層平板(2)を得た。積層平板(2)の評価結果を表1にまとめる。積層平板(2)は、積層単位の層の厚さが小さく、積層平板から単一層平板を抽出することが困難であった。そこで、単一層平板を抽出する代わりに、単一層平板を新規に作成した。このとき、単一層平板の諸物性を、積層平板中の単一層の諸物性と同等とするため、積層平板を成形したときと同様の成形条件として、単一層平板を作製した。繊維強化樹脂シート(1)を5枚積層して成形した単一層平板と、繊維強化樹脂シート(2)を5枚積層して成形した単一層平板を各種評価に供した。特性評価結果を表1にまとめる。
【0087】
(実施例3)積層平板(3)の作製
繊維強化樹脂シート(1)と繊維強化樹脂シート(3)とを、交互に[(1)×3枚/(3)×10枚/(1)×3枚]となるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして積層平板(3)を得た。積層平板(3)の評価結果を表1にまとめる。
【0088】
(実施例4)積層平板(4)の作製
繊維強化樹脂シート(4)と繊維強化樹脂シート(5)とを、交互に[(4)×2枚/(5)×6枚/(4)×2枚]となるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして積層平板(4)を得た。積層平板(3)の評価結果を表1にまとめる。
【0089】
(比較例1)積層平板(5)の作製
繊維強化樹脂シート(1)を18枚積層したこと以外は、参考例1と同様にして積層平板(5)を得た。積層平板(5)の評価結果を表2にまとめる。
【0090】
(比較例2)積層平板(6)の作製
繊維強化樹脂シート(3)と繊維強化樹脂シート(6)とを、交互に[(6)×3枚/(3)×10枚/(3)×3枚]となるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして積層平板(6)を得た。積層平板(6)の評価結果を表2にまとめる。
(比較例3)積層平板(7)の作製
繊維強化樹脂シート(1)と繊維強化樹脂シート(7)とを、交互に[(1)×3枚/(7)×10枚/(1)×3枚]となるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして積層平板(7)を得た。積層平板(7)の評価結果を表2にまとめる。
【0091】
(比較例4)積層平板(8)の作製
繊維強化樹脂シート(1)と繊維強化樹脂シート(4)とを、交互に[(1)×3枚/(4)×10枚/(1)×3枚]となるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして積層平板(8)を得た。積層平板(8)の評価結果を表2にまとめる。
【0092】
(比較例5)積層平板(9)の作製
繊維強化樹脂シート(1)と繊維強化樹脂シート(8)とを、交互に[(1)×3枚/(8)×1枚/(1)×3枚]となるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして積層平板(9)を得た。積層平板(9)の評価結果を表2にまとめる。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
実施例1〜4に示すように、積層単位中における強化繊維の屈曲度と、積層単位同士の体積分率の差異を本発明の範囲内とすることで、吸収エネルギーに優れ、かつ面内剛性に優れた繊維強化樹脂積層体を得ることができた。
【0096】
一方、比較例1では、繊維強化樹脂積層体が単一の積層単位からなっているため、曲げ負荷において分断する脆性的な破壊を生じ、吸収エネルギーに劣る結果となった。また、比較例2〜5では、屈曲度が高すぎる、あるいは低すぎる積層単位を含んでいるため、吸収エネルギーに劣る結果となった。
【符号の説明】
【0097】
1 積層単位
2 強化繊維単糸1
3 強化繊維単糸2
4 強化繊維単糸3
5 強化繊維単糸1を内包する球
6 強化繊維単糸1を内包する球の中心
7 球面上の交差線
8 球面上の交差線の交点
9 交点1
10 交点1における強化繊維1の投影像
11 交点1における強化繊維1の投影像の近似楕円

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不連続の強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)を有してなる繊維強化樹脂積層体であって、該繊維強化樹脂積層体は、少なくとも積層単位(1)および(2)有しており、該積層単位(1)に含まれる強化繊維(A1)の屈曲度H1の平均が1.0以上1.1未満であり、該積層単位(2)に含まれる強化繊維(A2)の屈曲度H2の平均が1.1以上1.5以下であり、かつ、該積層単位(1)に含まれる強化繊維の体積分率V1が該積層単位(2)に含まれる強化繊維の体積分率V2よりも5%以上高い繊維強化樹脂積層体。
【請求項2】
積層単位(1)に含まれる強化繊維(A1)の屈曲度H1の変動係数が10%未満である、請求項1に記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項3】
積層単位(2)に含まれる強化繊維(A2)の屈曲度H2の変動係数が30%未満である、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項4】
積層単位(1)の単一積層からなる成形体の引張破断伸度(%)をF1、該積層単位(2)の単一積層からなる成形体の引張破断伸度(%)をF2とした場合に、F2/F1が1.1以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項5】
積層単位(1)中における強化繊維の数平均繊維長が5mm未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項6】
積層単位(2)中における強化繊維の数平均繊維長が5mm以上30mm未満である、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項7】
積層単位(1)からなる層の総厚さをT1、積層単位(2)からなる層の総厚さをT2とすると、T2/T1が1.5以上5.0未満である、請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項8】
繊維強化樹脂積層体の最表層に積層単位(1)を配してなる、請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項9】
繊維強化樹脂積層体の曲げ弾性率Eが、測定方向による最大曲げ弾性Emaxと最小曲げ弾性率Eminとの関係においてEmax≦1.2Eminである、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項10】
積層単位(1)の強化繊維の体積分率V1が10%以上50%未満である、請求項1〜9のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項11】
積層単位(1)を構成する強化繊維(A1)、および積層単位(2)を構成する強化繊維(A2)が、炭素繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜10のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項12】
積層単位(1)を構成する強化繊維(A1)が炭素繊維である、請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項13】
積層単位(1)を構成するマトリックス樹脂(B1)、および積層単位(2)を構成するマトリックス樹脂(B2)が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂である、請求項1〜12のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項14】
ASTM−D790に基づく曲げ試験において、曲げ荷重線図に二つ以上の荷重ピーク点を有する、請求項1〜13のいずれかに記載の繊維強化樹脂積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207048(P2011−207048A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77076(P2010−77076)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】