説明

繊維強化樹脂補強鋼板の製造方法及び繊維強化樹脂補強鋼板

【課題】少ない工程で短時間に製造することができる繊維強化樹脂補強鋼板の製造技術を提供することを課題とする。
【解決手段】鋼板12に繊維強化樹脂を貼り合せて補強した繊維強化樹脂補強鋼板の製造方法において、硬化させる前の未硬化繊維強化樹脂11の少なくとも一面に鋼板12を貼合せ未硬化樹脂鋼板13を得る工程と、得られた未硬化樹脂鋼板12を所定の形状に成形する工程と、未硬化樹脂鋼板13に被溶接材を載せ、この被溶接材と鋼板12とで未硬化繊維強化樹脂11を挟んだ形態で被溶接材を鋼板12に溶接する工程と、得られた溶接物を硬化させる工程とからなることを特徴とする。
【効果】未硬化樹脂鋼板を所定の形状に加工する。繊維強化樹脂が未硬化であるため、1の工程で繊維強化樹脂及び鋼板を成形することができる。工程数を削減することができ繊維強化樹脂補強鋼板を短時間で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板に繊維強化樹脂を貼り合せて補強した繊維強化樹脂補強鋼板の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の強度、剛性を高めること及び軽量化を目的として、鋼板に繊維強化樹脂を貼り合せて補強した繊維強化樹脂補強鋼板が用いられる。
【0003】
従来繊維強化樹脂補強鋼板としてFRP材補強複合材料が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−164632号公報(第2頁)
【0004】
特許文献1の請求項1によれば、このFRP材補強複合材料は「チタン製又はジルコニウム製の金属薄板の一面に、アクリル樹脂系接着剤を介してFRP材の積層体を設けてなる複合材料。」とある。
【0005】
このようなFRP材補強複合材料によれば、「チタン板又はジルコニウム板の補強材としてFRP材を使用することにより強度の大きい複合材料が得られる。」(特許文献1段落番号[0020]第2行〜第4行)。
【0006】
ところで、このようなFRP材補強複合材料を製造するには、所定の形状に成形した金属板及び所定の形状に成形し硬化させたFRP材を貼合わせる必要があり、最終製品が製造されるまでに多数の工程及び多くの時間を必要とする。
【0007】
少ない工程で短時間に製造することができる繊維強化樹脂補強鋼板の製造技術が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、少ない工程で短時間に製造することができる繊維強化樹脂補強鋼板の製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、鋼板に繊維強化樹脂を貼り合せて補強した繊維強化樹脂補強鋼板の製造方法において、
硬化させる前の未硬化繊維強化樹脂の少なくとも一面に前記鋼板を貼合せ未硬化樹脂鋼板を得る準備工程と、
得られた未硬化樹脂鋼板を所定の形状に成形するプレス工程と、
前記未硬化樹脂鋼板に被溶接材を載せ、この被溶接材と前記鋼板とで前記未硬化繊維強化樹脂を挟んだ形態で被溶接材を前記鋼板に溶接する溶接工程と、
得られた溶接物を硬化させる硬化工程と、からなることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、繊維強化樹脂に用いられる補強繊維は、炭素繊維又は金属繊維であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の方法で製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、未硬化樹脂鋼板を所定の形状に加工する。繊維強化樹脂が未硬化であるため、1の工程で繊維強化樹脂及び鋼板を成形することができる。工程数を削減することができ繊維強化樹脂補強鋼板を短時間で製造することができる。
【0013】
請求項2に係る発明では、繊維強化樹脂に用いられる補強繊維は、炭素繊維又は金属繊維である。炭素繊維及び金属繊維は通電性を有する。溶接に電気抵抗溶接を用いる場合に、炭素繊維及び金属繊維が溶接に寄与し強く接合された繊維強化樹脂補強鋼板を得ることができる。即ち、せん断方向にかかる力に対して、高い強度を持つ繊維強化樹脂補強鋼板を製造することができる。
【0014】
請求項3に係る発明では、繊維強化樹脂補強鋼板は、請求項1又は請求項2記載の方法で製造される。即ち、未硬化樹脂鋼板を所定の形状に加工する。未硬化繊維強化樹脂を成形するため、得られる繊維強化樹脂補強鋼板の形状の自由度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係る繊維強化樹脂補強鋼板の製造方法を説明する図であり、繊維強化樹脂補強鋼板を製造するには、まず(a)に示すように硬化させる前の未硬化繊維強化樹脂11と、鋼板12とを準備し未硬化繊維強化樹脂11及び鋼板12とを貼合わせ未硬化樹脂鋼板13を得る。
【0016】
次に(b)に示すように上型14及び下型15から構成される成形機16に未硬化樹脂鋼板13をセットし、(c)に示すように成形機16を作動させることにより未硬化樹脂鋼板13を所定の形状に成形する。
【0017】
図2は本発明に係る溶接工程を説明する図であり、(a)に示すように未硬化繊維強化樹脂11に被溶接材18を載せ、上部電極21及び下部電極22により鋼板12、未硬化繊維強化樹脂11及び被溶接材18を挟んだ上で、上部電極21から下部電極22に電気を流し溶接を行うことにより溶接物23を得る。
【0018】
(b)は(a)のb部拡大図であり、電気を流した際にはその抵抗熱により鋼板12、未硬化繊維強化樹脂11及び被溶接材18の一部が溶融しナゲット24が形成される。溶接物23の接合にナゲット24が寄与している。
【0019】
なお、スポット溶接を例に溶接工程を説明したが、スポット溶接を含む抵抗溶接の他、高エネルギービーム溶接や超音波溶着を用いても溶接工程を行うことができる。即ち、溶接工程に用いられる溶接方法はスポット溶接に限られず様々な溶接方法を用いることができる。
【0020】
溶接工程に電気抵抗溶接を用いる場合には、未硬化繊維強化樹脂11に用いられる補強繊維は、炭素繊維又は金属繊維であることが望ましい。炭素繊維及び金属繊維は通電性を有する。溶接に電気抵抗溶接を用いる場合に、炭素繊維及び金属繊維が溶接に寄与し強く接合された繊維強化樹脂補強鋼板を得ることができる。即ち、せん断方向にかかる力に対して、高い強度を持つ繊維強化樹脂補強鋼板を製造することができる。
【0021】
図3は本発明に係る硬化工程を説明する図であり、溶接物23を硬化させるには例えばオートクレーブ25内に溶接物23を配置し、熱を加えることにより溶接物23を硬化させる。
【0022】
図4は本発明に係る繊維強化樹脂補強鋼板の斜視図であり、溶接物(図3の溶接物23)を硬化させると、鋼板12に繊維強化樹脂27を貼合わせて補強した繊維強化樹脂補強鋼板30を得ることができる。
【0023】
未硬化樹脂鋼板を所定の形状に加工する。繊維強化樹脂が未硬化であるため、1の工程で繊維強化樹脂及び鋼板を成形することができる。工程数を削減することができ繊維強化樹脂補強鋼板30を短時間で製造することができる。
【0024】
加えて、未硬化繊維強化樹脂を成形するため、得られる繊維強化樹脂補強鋼板30の形状の自由度が高い。
このようにして製造した繊維強化樹脂補強鋼板30のせん断方向にかかる力に対しての強度を計測する実験を行った。次図以降で実験について説明する。
【0025】
本発明に係る実験例を以下に述べる。なお、本発明は実験例に限定されるものではない。
図5は本発明に係る繊維強化樹脂補強鋼板の実験に用いたテストピースについて説明する図であり、まず(a)に示されるように、テストピースの基となる鋼板12、未硬化繊維強化樹脂11及び被溶接材18を準備した。テストピースは複数の異なる条件で製造する。準備した鋼板12等の条件は以下の通りである。
【0026】
○共通条件:
鋼板の厚さ:t1=0.5mm
鋼板の種類:270MPa級鋼板
未硬化繊維強化樹脂の厚さ:t2=0.3mm
被溶接材の厚さ:t3=0.5mm
被溶接材の種類:270MPa級鋼板
【0027】
○比較例:
補強繊維:ガラス繊維
樹脂:エポキシ
【0028】
○実施例1:
補強繊維:炭素繊維
樹脂:エポキシ
【0029】
○実施例2:
補強繊維:炭素繊維
樹脂:エポキシ
添加物:カーボンブラック
【0030】
○参考例:
繊維:ガラス繊維及び炭素繊維
【0031】
比較例では補強繊維にガラス繊維を用い、実施例1及び2では炭素繊維を用いた。
実施例2の場合のみ樹脂にカーボンブラックを添加した。
参考例では樹脂を用いず、繊維のみを配置した。
【0032】
次に(b)に示されるように鋼板12及び未硬化繊維強化樹脂11を貼合わせた上で被溶接材18を載せ、(c)に示されるように電極21、22で加圧しながらスポット溶接を以下に示す条件で行った。
【0033】
○スポット溶接の条件
電極:銅電極
電極径:D1=D2=16mm
溶接電流:10kA
加圧力:250kg
通電サイクル:10サイクル
【0034】
次に溶接体を図3に示されるようにオートクレーブで熱硬化させテストピースを得た。
図6は本発明に係る繊維強化樹脂補強鋼板の実験を説明する図であり、まず(a)に示される様にテストピース32を準備し、(b)に示されるようにせん断方向にFの力でテストピース32に荷重をかけ続ける。
【0035】
(c)に示すように破綻した際のテストピース32に掛かっていた荷重を、せん断強さFmax(N)として計測した。
以上の実験の結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
補強繊維にガラス繊維を用いた比較例では、鋼板、被溶接材及び繊維強化樹脂が溶接されず、せん断強さFmaxを計測することができなかった。
一方、補強繊維に炭素繊維を用いた実施例1及び2並びに樹脂を用いずガラス繊維及び炭素繊維のみからなる参考例は、溶接することができ、せん断強さFmaxを計測することができた。
【0038】
実施例1及び2では、カーボンブラックを添加した実施例2の方がせん断強さFmaxの値が5163(N)とFmaxが950(N)である実施例1よりも大きかった。炭素は通電性を有するため、カーボンブラックが添加された実施例2の方が通電量が大きく、結果としてせん断強さFmaxの値が大きくなったものと思われる。
【0039】
これは実施例1及び2の未硬化繊維強化樹脂の厚さ方向の電気抵抗Rの値を比較してもいうことができる。実施例1では抵抗Rが270(Ω)であり実施例2の40(Ω)よりも大きかった。即ち、Rの値が小さかった実施例2の方がより多くの電流が流れたということができる。
【0040】
このことは参考例、実施例1及び2を比較すると更に顕著である。即ち、参考例において抵抗Rは13(Ω)で最小であり、せん断強さFmaxは6061(N)で最高であった。
【0041】
炭素繊維及び金属繊維は通電性を有する。溶接に電気抵抗溶接を用いる場合に、炭素繊維及び金属繊維が溶接に寄与し、強く接合された繊維強化樹脂補強鋼板を得ることができる。即ち、せん断方向にかかる力に対して、高い強度を持つ繊維強化樹脂補強鋼板を製造することができる。
【0042】
尚、本発明に係る繊維強化樹脂補強鋼板は、車両の他二輪車、船体、自転車にも適用可能であり、用途はこれらのものに限られない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の繊維強化樹脂補強鋼板は、車体ボディに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る繊維強化樹脂補強鋼板の製造方法を説明する図である。
【図2】本発明に係る溶接工程を説明する図である。
【図3】本発明に係る硬化工程を説明する図である。
【図4】本発明に係る繊維強化樹脂補強鋼板の斜視図である。
【図5】本発明に係る繊維強化樹脂補強鋼板の実験に用いたテストピースについて説明する図である。
【図6】本発明に係る繊維強化樹脂補強鋼板の実験を説明する図である。
【符号の説明】
【0045】
11…未硬化繊維強化樹脂、12…鋼板、13…未硬化樹脂鋼板、18…被溶接材、23…溶接物、27…繊維強化樹脂、30…繊維強化樹脂補強鋼板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板に繊維強化樹脂を貼り合せて補強した繊維強化樹脂補強鋼板の製造方法において、
硬化させる前の未硬化繊維強化樹脂の少なくとも一面に前記鋼板を貼合せ未硬化樹脂鋼板を得る準備工程と、
得られた未硬化樹脂鋼板を所定の形状に成形するプレス工程と、
前記未硬化樹脂鋼板に被溶接材を載せ、この被溶接材と前記鋼板とで前記未硬化繊維強化樹脂を挟んだ形態で被溶接材を前記鋼板に溶接する溶接工程と、
得られた溶接物を硬化させる硬化工程と、からなることを特徴とする繊維強化樹脂補強鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記繊維強化樹脂に用いられる補強繊維は、炭素繊維又は金属繊維であることを特徴とする請求項1記載の繊維強化樹脂補強鋼板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の方法で製造されたことを特徴とする繊維強化樹脂補強鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−178997(P2009−178997A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21825(P2008−21825)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】