説明

繊維補強ホース

【課題】従来に増して更に高い耐熱性,耐圧性,耐久性を有する繊維補強ホースを提供する。
【解決手段】ゴム内層及びゴム外層と、それらゴム内層及びゴム外層の間の、補強糸を用いて構成した繊維補強層とを有する積層構造の繊維補強ホースにおいて、モノフィラメント(単長繊維)19を引き揃え束ねて成るモノフィラメント群20に、繊維長が55mm以下の短繊維22をモノフィラメント19の配列に対し交差させる状態に且つ短繊維22がモノフィラメント群20から突き出す状態に絡ませたものを撚り合せ、短繊維22を固定化したフィラメント糸から成る原糸24を少なくとも1本用いて繊維補強層における補強糸を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ゴム内層とゴム外層との間に繊維補強層を有する繊維補強ホースに関し、特に繊維補強層に特徴を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゴム内層及びゴム外層と、それらゴム内層及びゴム外層の間の、補強糸を用いて構成した繊維補強層とを有する積層構造の繊維補強ホースが自動車用ホースその他に広く用いられている。
かかる繊維補強ホースにおいて、繊維補強層を構成する補強糸の強度,耐摩耗性,ゴム層との接着性は繊維補強ホースにおける耐圧性,耐久性,耐熱性を左右する重要な因子である。
【0003】
例えば補強糸の強度が小さければホースの耐圧性(破裂圧)が低くなり、また補強糸の耐摩耗性が低ければホース内部を流通する流体からの繰返し加圧や振動、即ちホースに加わる動的負荷により補強糸同士の摩擦によって補強糸が擦り切れ易く、その結果として耐圧性とともに耐久性が低下する。
【0004】
また補強糸の接着性、特に補強糸を接着剤で接着処理してゴム層と接着したものにあっては、温度が高くなると接着剤による化学的な結合力が低下するために補強糸及びゴム層間の接着力が低下し、その結果補強糸が動的負荷時等にゴム層から接着剥離して糸ずれを生じるようになり、耐圧性,耐久性が低下する。即ち耐熱性の低いものとなる。
【0005】
従来、かかる繊維補強ホースにおける補強層の補強糸として、一般に(a)フィラメント糸,(b)接着剤コーティングしたフィラメント糸(c)スパン糸(ステープル糸)等が用いられていた。
ここで(a)のフィラメント糸は、繊維長の長い単繊維(モノフィラメント)を多数(例えば1000〜2000本程度)引き揃えて束としたものに撚りをかけたものであり、(b)の接着剤コーティングしたフィラメント糸は、フィラメント糸の表面に接着剤を塗布処理したものである。
また(c)のスパン糸は、綿状態の短繊維を引き出しながらこれを紡ぐことによって連続した長い糸としたものである。
【0006】
これらの補強糸にあって、(a)のフィラメント糸は高強度を有しているものの毛羽立ちが無いためにゴム層との一体性(接着性)が得られ難い問題があり、そのため動的負荷がかかったときに上記の糸ずれを生じ易いため、耐圧性、耐久性、シール性が悪化する問題がある。
【0007】
(b)の接着剤コーティングしたフィラメント糸は、この欠点を改善するためにフィラメント糸の表面に接着剤の塗布処理を行って、接着剤による接着にてゴム層との固着を行うようになしたものである。
しかしながらこの接着剤による接着力は温度に対して依存性が高く、高温の下では接着剤による化学結合力が低下して接着剥離を生じ易く、接着信頼性が乏しい問題がある。
【0008】
一方(c)のスパン糸は、毛羽立ちが多いために投錨効果(毛羽がゴム層の中に埋まり込む)によってゴム層との一体性(接着性)が得られ易いが、このスパン糸は、糸を構成する繊維が1本に繋がっているものではなく、撚り合せにより1本の糸を成しているに過ぎないものであるため、引張強度が小さい問題がある。
そこで補強糸の強度を強くするためには太い糸を用いなければならないといった制約がある。
【0009】
以上のように(a)〜(c)の補強糸はそれぞれに問題があり、そこで(a)のフィラメント糸を意図的に毛羽立たせたものが下記特許文献1において提案されている。
この糸はスパナイズド糸と称されるもので、モノフィラメントを多数引き揃え束ねた状態で張力をかけることにより、各モノフィラメントを約60cmほどの長さで任意の位置で破断(牽切)し、更にこれを撚り合せて糸としたもので、その破断により所定の毛羽立ちを有するものである。
【0010】
このスパナイズド糸は、(a)のフィラメント糸と、(c)のスパン糸との両方の長所を有するものであるが、このスパナイズド糸は(a)のフィラメント糸における各モノフィラメントを任意の位置で破断して得られるものであることから、当然ながらその強度は(a)のフィラメント糸よりも劣るものであり、従ってこの補強糸を用いた繊維補強ホースは耐圧性において(a),(b)のフィラメント糸を用いた繊維補強ホースに比べて劣るものとなる。
【0011】
またこのスパナイズド糸は、スパナイズド加工(牽切加工)可能な繊維材料が限られ、例えば大きな伸びを有するポリエステル糸は張力をかけると糸が伸びてしまって切れないためにスパナイズド糸とすることができず、また金属繊維やガラス繊維のようなものはスパナイズド加工を行うことが困難である。
【0012】
近年、自動車等のホースにおいて更なる高耐熱性,高耐圧性等の要求は益々強くなってきており、従来の繊維補強ホースではこの要求に対し十分に対応することが難しいのが実情である。
【0013】
【特許文献1】特開2004−332892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は以上のような事情を背景とし、従来に増して更に高い耐熱性,耐圧性,耐久性を有する繊維補強ホースを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
而して請求項1のものは、ゴム内層及びゴム外層と、それらゴム内層及びゴム外層の間の、補強糸を用いて構成した繊維補強層とを有する積層構造の繊維補強ホースにおいて、単長繊維であるモノフィラメントを引き揃え束ねて成るモノフィラメント群に、繊維長が55mm以下の短繊維を該モノフィラメントの配列に対し交差させる状態に且つ該短繊維が該モノフィラメント群から突き出す状態に絡ませたものを撚り合せ、該短繊維を固定化したフィラメント糸から成る原糸を少なくとも1本用いて前記繊維補強層における補強糸を構成したことを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0016】
以上のように本発明は、モノフィラメント群に短繊維を絡ませ、更に撚り合せて短繊維を固定化したフィラメント糸からなる原糸を少なくとも1本用いて、繊維補強ホースにおける繊維補強層を構成するようになしたものである。
【0017】
この短繊維を絡ませたフィラメント糸(原糸)は毛羽立ちを有し、また絡ませる短繊維の量を多くすることにより、スパナイズド糸のようにモノフィラメントを破断することなく、即ちフィラメント糸の強度を低下させることなく毛羽立ちを自在に多くすることができる。
【0018】
従ってこの短繊維を絡ませた原糸は、毛羽立ちによる投錨効果によってゴム層との一体性(接着性)を十分に高めることが可能であり、またこの原糸は破断を生じていないモノフィラメントからなっているため、フィラメント糸の有する本来の高強度を有しており、従ってこの原糸を用いて繊維補強層を構成することにより、繊維補強ホースに従来に増して優れた高耐圧性,高耐磨耗性,高耐熱性をともに付与することができる。
【0019】
また本発明によれば、繊維材料としてポリエステル,金属繊維,ガラス繊維等の材料も用いることができ、使用可能な繊維材料に特に制約がない利点も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は本実施形態の繊維補強ホースでゴム内層12と、ゴム外層14、及びゴム内層12とゴム外層14との間の繊維補強層16との積層構造をなしている。
ここでゴム内層12,ゴム外層14はそれぞれ単層からなっていても良いし、或いは2層以上の複数のゴム層からなっていても良い。
【0021】
繊維補強層16は補強糸を編組してなるもので、その編組の形態は様々な形態が可能である。例えば補強糸をブレード編みしたものであっても良いし、或いはスパイラル編みしたものであっても良く、又はニッティング編みしたものであっても良い。
【0022】
更にこの繊維補強層16は単層で設けておいても良いし、或いはまた2層以上の複数層設けておくこともできる。ここで繊維補強層16を2層以上の複数層で設ける場合には、繊維補強層16と16との間に中間ゴム層を設けておく。
図1(B)は、その一例として繊維補強層16を2層に設け、そして繊維補強層16と16との間に中間ゴム層18を介在させた例である。
【0023】
また繊維補強ホース10の断面構成としては、繊維補強ホース10に所定の機能を付与する機能層、例えば樹脂層,金属薄膜層等からなる流体バリア層等をゴム内層12の内面の層として或いは他の任意の積層部位に設けておくといったことも可能である。
【0024】
この実施形態の繊維補強ホース10は様々な用途に適用することが可能である。
例えば耐圧性,耐久性に加えて耐熱性の求められる自動車用のエアホース,ヒーターホース,オイルホース,エアコン用ホース或いは産業用の各種ホースとして使用可能である。
特にこの実施形態の繊維補強ホース10は高温のエア、例えば170℃程度の高温のエアを流体として流通させるホースに用いて好適である。
【0025】
そしてその用途に応じ、ゴム内層12を構成するゴム材として、例えばNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム),EPDM(エチレンプロピレンゴム),CR(クロロプレンゴム),SBR(スチレンブタジエンゴム),IIR(ブチルゴム),ACM(アクリルゴム),FKM(フッ素ゴム),ECO(エピクロロヒドリンゴム),CSM(クロロスルホン化ポリエチレン),VMQ(シリコンゴム)等の様々なゴム材を用いることができる。
ゴム外層14、中間ゴム層18についても同様である。
【0026】
図2は、繊維補強層16に用いられている補強糸の構成を概念的に表している。
図2(I)において、19はモノフィラメントで、20はこのモノフィラメント19を引き揃え束としたモノフィラメント群である。
22はモノフィラメント19の配列に対し略直交方向に交差させる状態に且つモノフィラメント群20から突き出す状態に絡ませた短繊維で、この実施形態ではこれらの短繊維22を絡ませたモノフィラメント群20に撚り(下撚り)をかけ、短繊維22をその撚りによって固定化して原糸(フィラメント糸)24となし、そしてこの原糸24を用いて繊維補強層16を構成する。
【0027】
本実施形態において、モノフィラメント19にはPET(ポリエチレンテレフタレート),PEN(ポリエチレンナフタレート),芳香族ポリアミドであるアラミド,PPS(ポリフェニレンスルフィド),PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール),PTFE(ポリテトラフルオロエチレン),ガラス繊維,金属繊維,炭素繊維その他の繊維材料を用いることができる。短繊維22についても同様である。
【0028】
ここで短繊維22の長さは3〜55mmの長さとしておくことが望ましい。
3mmよりも短いと短繊維22をフィラメント糸24に固定することが難しくなり、また一方55mmよりも長いとフィラメント糸24に絡ませ難くなる。
より望ましい範囲は5〜30mm範囲内の長さである。
【0029】
また短繊維22を絡ませる量としては、短繊維22の原糸24からの突出長さ(毛羽長さ)が1mm以上のものが単位長さ(10m)当り(以下毛羽指数とする)500〜5000としておくことが望ましい。
毛羽指数が500未満であるとゴム層との一体性が十分に得られず、また毛羽指数を5000より大とするとき原糸24の製造が困難化する。
ここで毛羽指数については特開2004−169223にも開示されており、敷島紡績株式会社製のF−インデックステスターにて測定することができる。
【0030】
図2(I)において、モノフィラメント群20に短繊維22を絡ませる方法としては、引張力を緩めたモノフィラメント群20に短繊維22を含むエアを横方向から吹き付けて短繊維22をモノフィラメント群20に突き刺し、絡ませる方法、或いは短繊維22を充填した層にモノフィラメント群20を通すことによってそこに短繊維22を絡ませる方法その他の方法を用いることができる。
【0031】
一方、短繊維22を絡ませたモノフィラメント群20に撚り(下撚り)をかけて原糸24とする際の撚り数は、以下に定義する撚り係数Xで2〜6とすることが好ましい。
撚り係数Xが2未満では短繊維22の固定化が不十分となり、一方撚り係数Xが6より大であると原糸24の引張強度が不十分となる。
【0032】
【数1】

【0033】
尚、式(1)における撚り数は原糸24の単位長さ(1m)当りの撚りの回数を表し、また繊度(デニール)は原糸24の繊度を表す。
また分母の2880は経験則に基づく定数である。
【0034】
この実施形態においては、原糸24を単独で補強糸となして繊維補強層16を構成することもできるし、また必要な強度を得るために原糸24に他の糸を撚り合せて(上撚り)補強糸となし、繊維補強層16を構成することも可能である。
【0035】
この場合において上撚りを2本撚りとすることもできるし、或いは3本以上の上撚りとなすこともできる。
更に上撚りをなす場合において、図2(II)(イ)の原糸24同士を撚り合せて補強糸(双糸)となすこともできるし(図2(III)(ロ)の補強糸)、或いは図2(III)(イ)に示すように原糸24と短繊維22を絡ませていないフィラメント糸26を上撚りし、補強糸となすことも可能である。
何れにおいてもこの実施形態では短繊維22を絡ませた原糸24を少なくとも1本含むように補強糸を構成する。
【実施例】
【0036】
表1には、図1(A)に示す繊維補強ホース10の各種構成例を比較例とともに示している。
【0037】
【表1】

【0038】
尚、表1中単糸とあるのは原糸24のみにて補強糸を構成した場合であり、また実施例10の双糸とあるのは繊度400デニールの原糸24を2本撚り合せて補強糸となしたものである。
【0039】
以上のような本実施形態において、短繊維22を絡ませた原糸24は毛羽立ちによる投錨効果によってゴム層との一体性(接着性)を十分に高めることができ、またこの原糸24は破断を生じていないモノフィラメント19の群からなっているためにフィラメント糸の有する本来の高強度を有しており、従ってこの原糸24を用いた補強糸にて繊維補強層16を構成することにより、繊維補強ホース10に従来に増してより優れた高耐圧性,高耐磨耗性,高耐熱性を付与することができる。
【0040】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態の繊維補強ホースの構成を示す図である。
【図2】同実施形態の繊維補強層に用いられている補強糸の構成を概念的に表した図である。
【符号の説明】
【0042】
10 繊維補強ホース
12 ゴム内層
14 ゴム外層
16 繊維補強層
19 モノフィラメント(単長繊維)
20 モノフィラメント群
22 短繊維
24 原糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム内層及びゴム外層と、それらゴム内層及びゴム外層の間の、補強糸を用いて構成した繊維補強層とを有する積層構造の繊維補強ホースにおいて
単長繊維であるモノフィラメントを引き揃え束ねて成るモノフィラメント群に、繊維長が55mm以下の短繊維を該モノフィラメントの配列に対し交差させる状態に且つ該短繊維が該モノフィラメント群から突き出す状態に絡ませたものを撚り合せ、該短繊維を固定化したフィラメント糸から成る原糸を少なくとも1本用いて前記繊維補強層における補強糸を構成したことを特徴とする繊維補強ホース。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−213155(P2008−213155A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49835(P2007−49835)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】