缶容器、ドラム缶、及び缶容器の内面溶接方法
【課題】 収納物の残留低減に留まらないより厳しい要求に応えることが可能な、缶容器、及び缶容器の内面溶接方法を提供する。
【解決手段】 缶容器101の胴板121と地板111とを内面101bにて溶接するときの溶接方法において、上記胴板と上記地板との内面溶接部103における凹凸141の高低差が板厚方向109cに500μm未満となり、かつ上記凹凸の曲率半径145が200μmを超えるように上記溶接を行う。
【解決手段】 缶容器101の胴板121と地板111とを内面101bにて溶接するときの溶接方法において、上記胴板と上記地板との内面溶接部103における凹凸141の高低差が板厚方向109cに500μm未満となり、かつ上記凹凸の曲率半径145が200μmを超えるように上記溶接を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばドラム缶のような缶容器であって当該缶容器の胴板と、地板又は天板とが特に缶内面側から溶接されて製造される缶容器、ドラム缶、及び、上記胴板と、地板又は天板とを特に缶内面側から溶接するときの溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラム缶は、円筒状の胴板の開放端に地板さらには天板を取り付けて製造されるが、胴板への地板の取り付けは、通常、図12に示すように、上記胴板1の開放端部分と上記地板2とを巻き締めることで行われる。しかしながら、このような巻き締め構造のドラム缶では、特に流体物を収納したとき、収納物を排出した後であっても、地板2のコーナー部3において、特に巻き締め部4に生じる隙間に収納物が残留する場合がある。
【0003】
このような収納物残留の問題を解決するため、上記巻き締め構造を採らず、図13に示すように、円形平板の周囲部分を鉛直方向に立ち上げることで平鏡板の形状のような、鍋底型に成形した地板5と、胴板1とを突き合わせて、突き合わせ部分6をドラム缶の外周面にて溶接して形成した鍋底型ドラム缶も製造されている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】JFEコンテイナー(株)、「特殊缶」、「S−オープンドラム缶」、[online]、[平成17年1月12日検索]、インターネット、<URL:http://www.jfecon.jp/product/d02_1.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の鍋底型ドラム缶によれば、収納物残留の原因となる巻き締め部分が存在しないことから、巻き締め構造のドラム缶に比べて大幅に収納物の残留を改善でき、使用上ほとんど問題にならない程度まで収納物の残留は低減される。鍋底型ドラム缶におけるこのような利点をさらに向上させるため、あるいは鍋底型ドラム缶の内面保護のため、缶内面に吹き付けにて塗装を施す場合がある。さらには、近年における資源有効利用の観点から、収納物の排出後、該収納物を含めて上記内面塗装を焼却し、さらに缶内面のショットブラストを含む再生処理を施すことで、通常8〜10回、繰り返して利用する場合も多くなってきている。このように、鍋底型ドラム缶に対しては、近年、単に収納物の残留低減という要求に留まらず、より厳しい要求がなされつつある。
【0005】
一方、例えば内容量200リットルのドラム缶では、胴板1の直径は、約570mmであり、溶接前の胴板1の開放端1a、及び鍋底型の地板5の端部5aを完全な真円形状とするのは、生産効率等を考慮した実際の製造上では困難である。したがって、地板5と胴板1との突き合わせ部分6では、図14に示すように、ドラム缶の直径方向7において、胴板1又は地板5のズレつまり段差8が存在するのが現実である。尚、図14において、符号11は、胴板1と地板5とが直径方向7にて段差無く一致した所を基準に描いた真円を示す。よって、図14は、真円11に対する胴板1及び地板5の変位を模式的に示したものである。又、図14から判るように、段差8は、ドラム缶の全周に渡り存在する。但し、上記段差8が胴板1及び地板5の板厚以上に達すると溶接自体が困難になるため、溶接可能な程度に段差8が収まるように、予め、胴板1及び地板5の段差8は修正される。
【0006】
上記段差8が存在すること、及び、作業容易性等の観点から、上述したように上記突き合わせ部分6は、缶外面側から溶接が行われ、突き合わせ部分6に対応する鍋底型ドラム缶の内面まで完全に溶接を行うことは困難である。又、缶外面側からの溶接で例えば裏波を出して内面まで完全に溶接を行うことも困難である。したがって、突き合わせ部分6に対応する鍋底型ドラム缶の内面には、胴板1又は地板5による凹凸が生じてしまい、特に、凹部分では、吹き付けによる上記内面塗装における塗料が完全に付着せず塗装不具合部分を形成する可能性も生じてしまう。又、上述のように缶内面まで完全な溶接が困難なことから、複数回の再生処理及び再使用に伴い、溶接の信頼性が低下することも考えられる。したがって、鍋底型ドラム缶であっても、上述した、単に収納物の残留低減に留まらないより厳しい要求に応えることが困難な場合も懸念される。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、単に収納物の残留低減に留まらないより厳しい要求に応えることが可能な、缶容器、ドラム缶、及び缶容器の溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下のように構成する。
即ち、本発明の第1態様である缶容器は、胴板と、該胴板の開口を閉じる閉塞板とを当該缶容器の内面側から溶接することで形成される缶容器であって、
上記内面に施された上記溶接にて形成される内面溶接部は、測定方向における基準長さにおいて、板厚方向に500μm未満の高低差にてなり、かつ200μmを超える曲率半径を有する凹凸を有することを特徴とする。
【0009】
缶容器の胴板と閉塞板とを当該缶容器の内面側からの溶接により形成された内面溶接部は、上述の規定値にてなる凹凸を有するようにした。該凹凸は、胴板と閉塞板とが溶接の熱により溶融した後、凝固するときに内面溶接部に生じる局所的な凹凸であり、当該内面溶接部に対して例えば塗装を施したときでも塗装不具合部分を生じさせない凹凸に相当する。よって、内面溶接部は、当該缶容器の溶接信頼性及び内面塗装性の向上を図るように作用する。
【0010】
上記第1態様では、胴板と閉塞板との接合状態は問わない。例えば、胴板と閉塞板とを突き合わせた状態で内面側から溶接してもよいし、胴板の内面に閉塞板をすみ肉溶接した後、再度内面側から上記すみ肉溶接部分に対して上記内面溶接部を形成してもよい。
又、胴板の形状についても円筒形に限らず、例えば角形等、種々の形状を採ることができる。
【0011】
上記第1態様において、上記凹凸の高低差は、上記内面溶接部におけるアンダーカット部、オーバーラップ部、又は溶接終端部における値とすることができる。
【0012】
又、上記第1態様において、上記溶接は、溶接棒を用いずにTig溶接にて行い、該Tig溶接におけるシールドガスは、不活性ガスに0.5〜7.5%の割合にて水素を混合したガスであってもよい。
【0013】
又、上記第1態様において、上記閉塞板は、鍋底型の地板であり、上記胴板に突き合わされ、突き合わせた未溶接の状態では、上記地板の端部は、上記胴板の板厚方向において上記胴板の開放端に対して段差を有してもよい。
【0014】
又、上記第1態様において、上記缶容器は、当該缶容器の上記内面に施される上記溶接に対応して当該缶容器の外面に施される外面溶接部をさらに有してもよい。
【0015】
又、上記第1態様において、上記内面溶接部において塗装不具合部分が存在しない塗膜を上記内面に有してもよい。
【0016】
本発明の第2態様であるドラム缶は、円筒状の胴板と、
上記胴板の開放端に突き合わされて上記胴板との間で突き合わせ部分を形成する円形状の端部を有し該端部と上記開放端との突き合わせにより上記胴板を閉塞する鍋底型の地板若しくは天板と、
上記突き合わせ部分に対して上記胴板、及び、上記地板若しくは天板の内面側から施される溶接にて上記内面に形成された内面溶接部と、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
上記第2態様のドラム缶では、胴板と、地板又は天板とを突き合わせて該突き合わせ部分に対して当該ドラム缶の内面側から溶接を行い内面溶接部が形成される。このような内面溶接部は、ドラム缶内面の塗装性を向上させるように作用する。
【0018】
又、上記第2態様において、上記開放端と上記端部とを突き合わせた未溶接の状態では、上記端部は、上記胴板の板厚方向において上記開放端に対して形成される段差を有し、
上記内面溶接部は、上記段差が存在せず上記内面に塗装不具合部分を生じさせない平滑面を有するのが好ましい。
【0019】
上記第2態様のドラム缶では、胴板の開放端、及び、鍋底型の地板又は天板の端部は、ともに真円状態ではない。よって、両者を突き合わせたときには、両者間には、板厚方向における両者のずれに相当する段差が生じる。内面溶接部は、上記段差を解消し、当該ドラム缶に内面塗装を施したときでも塗装不具合部分を生じさせない平滑面を有する。よって、内面溶接部は、ドラム缶内面の塗装性を向上させるように作用する。
【0020】
又、本発明の第3態様である缶容器溶接方法は、缶容器の胴板と、該胴板の開口を閉じる閉塞板とを当該缶容器の内面側から溶接するときの溶接方法において、
上記内面における上記胴板と上記閉塞板との上記溶接にて形成される内面溶接部にて、測定方向における基準長さ内に含まれる凹凸が当該缶容器の板厚方向において500μm未満の高低差にてなり、かつ上記凹凸のそれぞれが200μmを超える曲率半径を有するように上記溶接を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上記本発明の第1態様及び第3態様によれば、胴板と、例えば地板である閉塞板とを缶容器の内面側から溶接するとき、当該溶接部における凹凸の許容値を規定したことから、内面溶接部を平坦で滑らかにすることができる。したがって、缶容器における溶接信頼性を向上させることができ、又、例えば缶の内面塗装を行う場合でも塗装不具合部分を形成することなく確実に塗装を行うことが可能となる。よって、本発明の第1態様及び第3態様によれば、缶容器に対して、単に収納物の残留低減に留まらない、より厳しい要求に応えることが可能となる。
特に、上記閉塞板が鍋底型の地板であり、胴板と突き合わされて缶内面で溶接される場合、溶接前の被溶接箇所には、缶容器の直径方向において胴板又は地板の段差が存在するにもかかわらず、溶接後では、内面溶接部を平坦で滑らかにすることができる。
【0022】
内面溶接部において、上記凹凸の高低差が最も大きくなる箇所は、一般的に、アンダーカット部、オーバーラップ部、又は溶接終端部であることから、アンダーカット部、オーバーラップ部、又は溶接終端部における凹凸の大きさを管理すれば、内面溶接部の全域にわたり、凹凸の許容値を規定範囲内に納めることができる。
【0023】
溶接棒を使用せずにTig溶接を行うことで、スパッタを生じることなく、かつ余分な凸形状を生じることなく、上述の凹凸における許容値を満足することができる。さらにTig溶接におけるシールドガスに水素を含ませ、かつ該水素の含有量を規定することで、上述の凹凸における許容値を満足させることができ、かつ安定して溶接を行うことができ、かつ生産性に見合う溶接速度を達成することができ、さらに、内面溶接部における過度な酸化防止を図ることができる。
【0024】
本発明の第2態様によれば、胴板と、鍋底型の地板又は天板とを突き合わせて溶接してドラム缶を製造するとき、当該ドラム缶の内面側から突き合わせ部分を溶接し、内面溶接部を形成することで、当該ドラム缶における溶接信頼性を向上させることができ、又、例えばドラム缶の内面塗装を行う場合でも塗装不具合部分を形成することなく確実に塗装を行うことが可能となる。よって、本発明の第2態様によれば、胴板と、鍋底型の地板又は天板とを突き合わせて製造するドラム缶において、単に収納物の残留低減に留まらない、より厳しい要求に応えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態である缶容器、ドラム缶、及び缶容器の内面の溶接方法について、図を参照しながら以下に説明する。尚、各図において、同じ構成部分については同じ符号を付している。
又、以下の実施形態では、缶容器の一例として、鍋底型の地板と、胴板とを突き合わせて溶接した鍋底型ドラム缶を例に採る。しかしながら、本発明は、該鍋底型ドラム缶に限定されず、形状を問わない筒状の胴板に対して該胴板の開口を閉じる閉塞板を、特に缶内面側から溶接することで缶形状をなす缶容器に対して適用可能であり、又、このような缶容器における溶接方法に適用可能である。
【0026】
図3に示すように、本実施形態の缶容器の一例に相当する鍋底型ドラム缶101は、円形平板の周囲部分を鉛直方向に立ち上げることで平鏡板の形状のような鍋底型の閉塞板の端部と、円筒形の胴板121とを、胴板121における一方の開放端121aにて缶内面101b側から溶接することで製造される、内容量が約200リットルのドラム缶である。ここで、上記閉塞板は、地板111又は天板131のいずれかに相当する。尚、鍋底型ドラム缶101は、胴板121における他方の開放端121bに対して天板131が着脱自在な、いわゆるオープンタイプの鍋底型ドラム缶であるが、胴板121における他方の開放端121bに天板131を溶接したクローズタイプであってもよい。該クローズタイプの場合、例えば地板111が既に溶接されているとき、天板131については、作業上、缶内面にて溶接することはできないことから、缶外面にて溶接することになる。又、図3において、符号191にて示す物は、缶底部に取り付けられたスカートであり、符号192にて示す物は、胴板121における他方の開放端121bに対して蓋をした天板131を、開放端121bに密着させるための締め輪である。又、鍋底型ドラム缶101に使用する鋼板は、特に限定するものではなく、JIS G 3141(冷間圧延鋼板及び鋼帯)及びJIS G 3131(熱間圧延軟鋼帯)や、JIS G 4305(冷間圧延ステンレス鋼板)の規格品を使用する。尚、材質上の理由から一般的に、ステンレス鋼板では、いわゆる裏波を形成する溶接を比較的容易に行えるが、上記冷間圧延鋼板等では裏波形成溶接は比較的困難である。よって、以下に説明する溶接方法は、特に、上記冷間圧延鋼板等を使用する場合に有効である。
【0027】
上述のように構成される鍋底型ドラム缶101の製造方法について、特に、地板111と胴板121との缶内面101bにおける溶接方法について、以下に詳しく説明する。
本実施形態における鍋底型ドラム缶101においても、地板111の円形状の端部111a及び胴板121の開放端121aは、溶接前にて単に両者を突き合わせた状態では、従来と同様に、図14及び図15に示すように缶の直径方向7において段差8が存在する。該段差8は、地板111及び胴板121の製造に起因して生じるもので、段差8の大きさをゼロにすることは現実的には無理である。尚、図15は、胴板121の開放端121aと、地板111の端部111aとの、突き合わせ部分におけるズレつまり上記段差8が極端に大きい場合を模式的に示したもので、図15の(a)では、胴板121の開放端121aに対して地板111の端部111aが缶内側にズレている場合を示しており、図15の(b)では、胴板121の開放端121aに対して地板111の端部111aが缶外側にズレている場合を示している。ここで、胴板121の板厚が1.2mm、地板111の板厚が1.6mmの場合、段差8は、胴板121の内面121cを基準としたとき、上記(a)に示すようにドラム缶101の内側に最大で約2mm、上記(b)に示すようにドラム缶101の外側に最大で約1.6mmの範囲にて生じる。
【0028】
特に缶内面101bにおける段差8を矯正する方法としては、上記突き合わせ部分において缶内面101bに樹脂材を塗り段差8を平滑化する方法や、例えばロール等を用いて板厚方向に段差8を押し潰す方法が考えられる。しかしながら、上記樹脂材を塗り平滑化する方法では、上述のように当該ドラム缶を再使用するときには、その再生処理における焼却工程にて上記樹脂材が焼失してしまう。よって、再生処理毎に樹脂材の塗布が必要であり、さらに、溶接信頼性が確保できない。又、上記押し潰しによる方法では、やはり溶接信頼性を確保することができない。
【0029】
そこで、本実施形態では以下のような製造方法を採る。
まず、従来と同様に、地板111の端部111aと胴板121の開放端121aとを突き合わせた後、極力、缶内面101bにおける突き合わせ部分104での段差8が小さくなるように地板111及び胴板121を配置して、缶外面101aにて両者を溶接する。地板111と胴板121との缶外面101aにおける溶接は、通常、溶接棒を使用して例えばMAG溶接にて行う。該溶接にて、缶外面101aには、外面溶接部102が形成される。但し、本実施形態では上述のように外面溶接部102の形成時に裏波が形成されることはない。
【0030】
尚、地板111と胴板121とを缶外面101aにて溶接する前には、溶接自体が実行可能な程度に上記段差8が収まるよう、予め、胴板1及び地板5の段差8が修正される。本実施形態では、一例として、地板111の板厚が1.6mm、胴板121の板厚が1.2mmの場合に、両者の段差8が約0.5mm以内に収まるように、上記修正がなされる。尚、上記ズレの値は、地板111又は胴板121の板厚の約3〜約5割程度以内とするのが好ましい。
【0031】
上記外面溶接後、本実施形態では、外面溶接部102に対応する部分、つまり地板111と胴板121との突き合わせ部分104に対して、缶内面101b側からさらに溶接を行い、内面溶接部103を形成する。本実施形態では、鍋底型ドラム缶101の軸方向109aに沿った内面溶接部103の溶接幅に相当する寸法は、外面溶接部102の溶接幅と同等若しくは小さい。上記缶内面溶接については、以下に詳しく説明する。
内面溶接部103を形成することで、突き合わせ部分104における缶内面101bの平滑化、及び突き合わせ部分104の溶接信頼性の向上を図ることができる。
【0032】
本実施形態では、上述のように外面溶接部102を形成後、内面溶接部103を形成したが、内面溶接部103を形成した後、外面溶接部102を形成してもよく、さらには、内面溶接部103のみを形成してもよい。但し、缶内面101bのみに溶接を施す場合には、缶外面101aにおける地板111と胴板121との突き合わせ部分104には、保護用被膜を施すのが好ましい。
【0033】
上記内面溶接部103の形成動作である缶内面溶接方法について、詳しく説明する。
上述したように、現実的には、地板111の端部111aと胴板121の開放端121aとの突き合わせ部分104において上記段差8が生じることは避けられず、さらに該段差8の大きさは、缶内面101bの全周において均一ではなく変化する。このような状況下において、缶内面101bの全周において内面溶接部103がほぼ均一に平滑面103aを有する必要がある。缶内面101bの全周において内面溶接部103がほぼ均一に平滑面103aを有するようにする方法としては、例えば、段差8の大小に合わせて溶接条件を変化させて溶接を行う方法が考えられる。しかしながら該方法では、生産性に欠け現実的ではない。よって、生産性をも考慮すると、段差8の大小に合わせて溶接条件を変化させるのではなく、缶内面101bの全周に渡り同一の溶接条件にて突き合わせ部分104を缶内面101b側から溶接する必要がある。ここで上記溶接条件とは、溶接電流、電圧の他、シールドガスの成分や流量、溶接速度等の、溶接を行うに必要となる条件である。
そこで出願人は、以下に説明するように、溶接の種類、シールドガスの種類、シールドガスへ添加する添加ガスの種類、及び添加ガスの添加量について、検討を重ねた。
【0034】
まず、図1に示すように、缶内面101bにおける突き合わせ部分104に対して、缶内面101b側から、本実施形態ではTig溶接を行う。Tig溶接を採用した理由は、Tig溶接ではスパッタ等の発生が無く、缶内面101bに新たな凹凸を生じさせることが無いからである。一方、本実施形態ではTig溶接を採用したが、これに限定されるものではなく、例えばMIG溶接等を缶内面101bへの新たな凹凸の発生が少ない条件で用いることも可能である。この場合、スパッタの発生は、極力抑える必要がある。
【0035】
又、上記Tig溶接では、溶接棒は使用せず、母材である地板111及び胴板121を溶融させ、固化させる。これは、溶接棒を使用することで、過剰な肉盛りが生じ、新たな凹凸や、オーバーラップ部の発生が考えられるからである。
【0036】
さらに、上記Tig溶接では、不活性ガスに水素ガスを混合させたシールドガスを使用する。不活性ガスとしては、本実施形態ではアルゴンガスを使用したが、アルゴンガスに限定するものではなく、例えばヘリウムガス等を使用してもよい。上述したように、缶内面101b側から突き合わせ部分104の溶接を行う目的は、突き合わせ部分104の缶内面101bにおける平滑化を図ること、及び突き合わせ部分104における溶接信頼性の確保を図ることである。特に、上記平滑化という目的を達成するためには、シールドガスが重要なポイントを占めることに出願人は気付き、シールドガスの種類について試行錯誤を重ねた。例えば、シールドガスをアルゴンガスのみにて構成した場合、内面溶接部103には、アンダーカットが発生し、又、生産性を満足する程度の溶接施工速度が得られなかった。ここで、アンダーカットとは、溶接ビードの幅方向における両端部分にて、ビードの延在方向に沿って生じる凹状の窪みであり、例えばJIS Z 3001(1999年版)に示されるものである。
【0037】
さらに、缶内面101bの全周に渡り同一の溶接条件にて溶接を行い、かつ内面溶接部103について全周に渡りほぼ均一な平滑面103aを得るためには、不活性ガスに加える添加ガスの種類、及びその添加量が重要であることを出願人は突き止め、添加ガスの種類、及びその添加量についても試行錯誤を重ねた。その結果、図10に示すように、添加するガスとしては水素が好ましい。水素が好ましい理由として、水素の添加により、アーク電圧が上がり入熱が向上し、又、アークを緊縮させ溶け込みが向上するからであると考える。さらに、水素の添加量は、0.5〜7.5%、より好ましくは3〜7%、最良として7〜7.5%であることを見出した。上述の水素添加の理由から、水素の添加量は、多い方が好ましいと考えるが、添加量が8%を超えると爆発域に入ることから、その上限は7.5%としている。ここで、不活性ガスに対する水素ガスの上述の添加割合は、体積比で示しており、水素ガスが例えば0.5%の場合、不活性ガスは残りの99.5%を占め、水素ガスが例えば7.5%の場合、不活性ガスは残りの92.5%を占める。
【0038】
図10は、不活性ガスとしてアルゴンガスを用い、水素ガスの添加量と、溶接部の凹凸の大きさ、及び溶接後に当該溶接部に施される塗装状態との関係を、溶接速度毎に示したものである。図10から明らかなように、水素ガスを添加しない場合つまりアルゴンガスのみにて溶接を行ったときには、溶接部の凹凸について、後述の、高低差及び曲率半径を満足せず、よって、塗装状態も不良(×)となる。一方、水素ガスを下限0.5%、上限7.5%の範囲で加えることで、溶接部の凹凸について、後述の高低差及び曲率半径を満足し、塗装状態についても良好(○、◎)となる。尚、塗装状態における「○△」の評価は、実用上全く問題を生じないが、他条件の場合との相対的比較において若干劣る部分が存在する場合を意味する。又、溶接速度により塗装状態の良否が大きく左右されることはないが、図10から明らかなように溶接速度が遅い方がより溶接状態は良好となる。又、塗装状態が良好とは、缶内面の塗膜において、塗装不具合部分が存在しない状態であり、塗装状態が不良とは、上記塗膜において塗装不具合部分が存在する状態をいう。
【0039】
上述のような割合にて不活性ガスに水素ガスを加えることで、内面溶接部103には、アンダーカットは発生せず、かつ上述したように缶内面101bに塗装を行う場合に塗装不具合部分を発生させる程度の凹凸が生じることはなく、かつ、生産性を満足する溶接施工速度が得られた。ここで、上記塗装不具合部分を発生させる程度の凹凸とは、例えば上述したような段差8等が相当し、具体的には、凹凸の測定方向における基準長さにおいて、板厚方向109cに500μm以上の高低差にてなり、かつ200μm以下の曲率半径を有する凹凸141が相当する。又、上記生産性を満足する溶接施工速度とは、600〜700mm/分である。
又、上述のような割合にて不活性ガスに水素ガスを加えた状態で溶接を行うときの、溶接電流は、80〜200Aである。
【0040】
上述のような割合にて不活性ガスに水素ガスを加えたシールドガスを使用することで、
具体的には図1、図6、及び図11に示すように、測定方向143に沿った基準長さ144に含まれる凹凸141について、板厚方向109cに沿った最大高低差142を500μm未満に抑え、かつ上記基準長さ144に含まれるそれぞれの凹凸141について200μmを超える曲率半径145を有するようにすることができた。一例として、水素ガスの添加量を7%としたとき、溶接施工速度700mm/分にて溶接を行っても、内面溶接部103の全域において、基準長さ144に含まれるそれぞれの凹凸141の高低差142を500μm未満とし、かつ各凹凸141について200μmを超える曲率半径145を有するようにすることができた。尚、図11は、基準長さ144,曲率半径145等を説明するための概念図であり、各部分の大小関係は、実際の場合とは相違する。
【0041】
上記測定方向143とは、例えば製品の表面性状について規定しているJIS B 0601(2001年版)の規定を参考とし、当該内面溶接部103における任意箇所を検査する触針の測定方向に相当する方向である。図6では、測定方向143と缶軸方向109aとを便宜上一致させて図示したが、上記JISの規定からも明らかなように、測定方向143の方向は缶軸方向109a等に限定されるものではない。又、上記基準長さ144は、本実施形態では、2.5mmとしているが、その値は、例えば缶内面への塗装による塗膜における塗装不具合部分の判定基準との関係により、適宜設定することができる。さらに上記最大高低差142とは、基準長さ144内に含まれる凹凸141の内、最も深い凹の谷底から最も高い凸の山頂までの長さであり、上記JIS B 0601に規定する「Rz」に相当する概念である。又、最大高低差142の測定方法も、上記JIS B 0601に規定する方法を参考とした。
【0042】
勿論、内面溶接部103における凹凸141の高低差142の値は、缶外面101aから裏波を形成するように溶接したことで得られた値ではなく缶内面101b側からの溶接のみを行って得られる値であり、又、缶内面101b側からの溶接後に内面溶接部103に対して、さらに研磨や潰し等の物理的処理、あるいは薬品等による化学的処理を施した後における値ではない。
このように、本実施形態の溶接方法は、缶内面101b側からの溶接のみを行い上記高低差142を得ることができることから、溶接部に対してさらに処理を施すことで所定の凹凸値を得るような場合に比べて、非常に短時間にて缶容器の製作を可能とし、生産性においても効果を発揮する。
【0043】
尚、図1は、上記高低差142を説明するための図であり、地板111及び胴板121が同じ板厚であり、かつ突き合わせ部分104では、直径方向7つまり板厚方向109cにおいて段差8が存在しない理想状態を図示している。一方、実際には、上述したように、突き合わせ部分104では、図4A、図5A、及び図15に示すように、缶内面101bにおいて板厚方向109cに段差8が存在する。尚、図4Aに示す状態は、突き合わせ部分104の缶内面101bにて板厚方向109cにおいて、地板111及び胴板121が一致している状態、つまり段差8が存在しない状態を示しており、図5Aに示す状態は、地板111及び胴板121が一致していない状態、つまり両者間で段差8が存在する状態を示している。
【0044】
しかしながら、本実施形態における上述した溶接方法にて缶内面101bに溶接を施すことで、図4Aに示す状態を図4Bに示す状態に、及び、図5Aに示す状態を図5Bに示す状態に、それぞれ改善することができ、基準長さ144に含まれる凹凸141について、板厚方向109cに沿った最大高低差142を500μm未満に抑え、かつ上記基準長さ144に含まれるそれぞれの凹凸141について200μmを超える曲率半径145を有するようにすることができる。尚、上述のように突き合わせ部分104において段差8が存在することは避けられないことから、内面溶接部103の全体を巨視的に見ると、つまり上記基準長さ144を超える距離において凹凸を測定すると、図4B、図5B、及び図11に示すように、板厚方向109cの高低差142は500μmを遙かに超えてしまう。即ち、上述のように突き合わせ部分104では元々段差8が存在することから、内面溶接部103の全体においては、図11に示すように、いわゆるうねり146が存在する。該うねり146を測定するとその高低差は500μmを遙かに超えてしまう。しかし、これは、巨視的に見た場合であり、缶内面101bへの塗装において上記塗装不具合部分を発生させるものではない。塗装不具合部分が発生するか否かは、上記基準長さ144に含まれる凹凸141の高低差142及び曲率半径145が問題となる。
【0045】
又、一般的に、溶接部において板厚方向に最も大きな凹凸が発生する箇所は、アンダーカット部、オーバーラップ部、及び溶接開始部と溶接終了部とが重なる溶接終端部である。よって、アンダーカット部、オーバーラップ部、及び溶接終端部に注目して、これらの箇所にて、上述のように、高低差142を500μm未満に抑え、及び曲率半径145を200μmを超えるように溶接を行っても良い。尚、上記オーバーラップ部とは、例えばJIS Z 3001(1999年版)に示されるもので、溶接溶融金属が非溶融の母材表面に乗り上げた部分である。又、上記溶接終端部は、円筒形状物をその周方向に沿って全周溶接するときに、溶接開始部分と溶接終了部分とが重なった部分であり、例えば溶接幅の中央部に凹凸が生じるような部分である。
【0046】
尚、上述の説明は、地板111と胴板121とを缶内面101bにて溶接する場合であるが、図2に示すように、天板131と胴板121とを缶内面101bにて溶接する場合にも適用可能である。この場合、後で胴板121に取り付けられる地板111は、缶外面101aにて溶接されることになる。
【0047】
以上説明した缶内面の溶接方法は、本実施形態では、図7に示すように、溶接トーチ151、溶接条件設定装置152、トーチ駆動装置153、及び制御装置154を備えた溶接機150にて実行される。
溶接トーチ151は、鍋底型ドラム缶101の缶内面101bに対して、直径方向7に沿い、かつ溶接トーチ151の進行方向、例えば後述の時計回り方向に対して、いわゆる前進角約3〜20度にて、設置される。このような溶接トーチ151を本実施形態では、軸周り方向109bに沿って等間隔に3箇所にて配置している。尚、本実施形態では、溶接トーチ151は、3つであるが、一つ若しくは複数個とすることができる。
溶接条件設定装置152は、上述した缶内面の溶接方法が実行され基準長さ144内に含まれる凹凸141の上記高低差142を500μm未満に抑え、かつ各凹凸141の曲率半径145が200μmを超えるように、溶接トーチ151に供給するシールドガス流量、電圧等の溶接条件を設定する装置である。尚、上記溶接条件は、溶接開始前に設定され、溶接中に自動的に可変となるものではない。
トーチ駆動装置153は、軸周り方向109bに沿って例えば時計回り方向へ、上述したような溶接施工速度にて溶接トーチ151を一定速にて回転させる装置である。
制御装置154は、溶接条件設定装置152及びトーチ駆動装置153に対して動作上の制御を行う。
【0048】
このように本実施形態では、軸周り方向109bに沿って3箇所に溶接トーチ151を配置したことから、より短時間にて、鍋底型ドラム缶101の全周に対して溶接を行うことができる。
【0049】
尚、本実施形態では、鍋底型ドラム缶101を固定し、溶接トーチ151を軸周り方向109bへ移動させる構造を採っているが、これに限定されず要するに、鍋底型ドラム缶101と溶接トーチ151とを軸周り方向109bに相対的に移動させればよい。
【0050】
上述した内面溶接部103を形成した後、必要に応じて、缶内面101bには、例えば吹き付けにて塗装が行われる。本実施形態の缶内面溶接方法により、凹凸141の高低差142及び曲率半径145を制限することができることから、該塗装工程において、吹き付け塗装であっても内面溶接部103を含む缶内面101bに上記塗装不具合部分を発生させることなく、効率的に塗装を行うことができる。よって、本実施形態の缶内面溶接方法は、塗装工程においても生産性向上に寄与するものである。
【0051】
上述のように本実施形態では、鍋底型の地板111を用い該地板111と胴板121とを缶胴部にて突き合わせて缶内面101bにて溶接した鍋底型ドラム缶101を例に採った。しかしながら、本実施形態における缶の内面溶接方法は、突き合わせ溶接を行う場合に限定されるものではない。例えば図8に示すように、鍋底型地板111を、胴板121の缶内面101bにすみ肉溶接又はシーム溶接した缶容器108−1も存在する。このような場合、既に缶内面101bに為された上記すみ肉溶接又はシーム溶接部分105−1に対して、さらに、上述した内面溶接方法にて再度溶接を施すことができる。このような再溶接により、すみ肉溶接又はシーム溶接部分105−1の平滑化を行うことができる。
【0052】
さらに又、図9に示す缶容器108−2のように、缶内側へ折り曲げた胴板122に対して、例えば地板112を缶内面101b側に配置して、すみ肉溶接又はシーム溶接して製作される場合もある。このような缶容器108−2についても、缶内面にて既に施されている溶接部105−2に対して、再度、上述した内面溶接方法による溶接を施すことで、溶接部105−2の平滑化を行うことができる。
これらの場合のように、本実施形態の内面溶接方法を、既施工の溶接部を平滑化する目的で適用することも可能である。
【0053】
尚、以上の説明では、本実施形態の溶接方法は缶容器の内面に溶接を行う場合を例に採ったが、溶接棒を用いずに行うTig溶接であって、シールドガスとして不活性ガスに0.5〜7.5%の割合にて水素を添加したガスを用いて溶接を行う方法は、缶容器の外面側から行う溶接に適用することもでき、又、周方向溶接及び軸方向溶接を問わない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、例えばドラム缶のような缶容器の胴板と地板とが当該缶容器の特に内面側から溶接され形成される缶容器に適用可能であり、又、特に上記内面側から行われる溶接方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態における溶接方法にて缶内面に施された胴板と地板との溶接部の状態を説明するための図である。
【図2】本発明の実施形態における溶接方法にて缶内面に施された胴板と天板との溶接部の状態を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態における溶接方法を用いて胴板と地板とを缶内面にて溶接して作製されたドラム缶を示す図である。
【図4A】胴板と地板との突き合わせ部分に段差が無いときの溶接前の状態を示す断面図である。
【図4B】図4Aに示す状態に対する溶接後の状態を示す断面図である。
【図5A】胴板と地板との突き合わせ部分に段差が存在するときの溶接前の状態を示す断面図である。
【図5B】図5Aに示す状態に対する溶接後の状態を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態における缶内面溶接方法にて形成された内面溶接部における判定距離及び判定領域を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態における缶内面溶接方法を実施するための溶接機の一構成例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態における缶内面溶接方法が適用可能な缶の一形態を示す図である。
【図9】本発明の実施形態における缶内面溶接方法が適用可能な缶の他の形態を示す図である。
【図10】本発明の実施形態における缶内面溶接方法にて溶接を行うとき、シールドガスへの水素添加量と塗装状態との関係を示す図である。
【図11】本発明の実施形態における溶接方法にて缶内面に施された胴板と地板との溶接部の状態を説明するための図である。
【図12】巻き締めにて胴板と地板とを接合した従来のドラム缶を示す図である。
【図13】鍋底型地板と胴板とを缶外面にて溶接した従来の鍋底型ドラム缶を示す図である。
【図14】鍋底型地板と胴板との突き合わせ部分での段差を説明するための図である。
【図15】鍋底型地板と胴板との突き合わせ部分での段差の例を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
101…鍋底型ドラム缶、101a…外面、101b…内面、102…外面溶接部、
103…内面溶接部、109a…軸方向、109b…軸周り方向、
109c…板厚方向、111…地板、121…胴板、131…天板、141…凹凸、
142…高低差、151…溶接トーチ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばドラム缶のような缶容器であって当該缶容器の胴板と、地板又は天板とが特に缶内面側から溶接されて製造される缶容器、ドラム缶、及び、上記胴板と、地板又は天板とを特に缶内面側から溶接するときの溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラム缶は、円筒状の胴板の開放端に地板さらには天板を取り付けて製造されるが、胴板への地板の取り付けは、通常、図12に示すように、上記胴板1の開放端部分と上記地板2とを巻き締めることで行われる。しかしながら、このような巻き締め構造のドラム缶では、特に流体物を収納したとき、収納物を排出した後であっても、地板2のコーナー部3において、特に巻き締め部4に生じる隙間に収納物が残留する場合がある。
【0003】
このような収納物残留の問題を解決するため、上記巻き締め構造を採らず、図13に示すように、円形平板の周囲部分を鉛直方向に立ち上げることで平鏡板の形状のような、鍋底型に成形した地板5と、胴板1とを突き合わせて、突き合わせ部分6をドラム缶の外周面にて溶接して形成した鍋底型ドラム缶も製造されている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】JFEコンテイナー(株)、「特殊缶」、「S−オープンドラム缶」、[online]、[平成17年1月12日検索]、インターネット、<URL:http://www.jfecon.jp/product/d02_1.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の鍋底型ドラム缶によれば、収納物残留の原因となる巻き締め部分が存在しないことから、巻き締め構造のドラム缶に比べて大幅に収納物の残留を改善でき、使用上ほとんど問題にならない程度まで収納物の残留は低減される。鍋底型ドラム缶におけるこのような利点をさらに向上させるため、あるいは鍋底型ドラム缶の内面保護のため、缶内面に吹き付けにて塗装を施す場合がある。さらには、近年における資源有効利用の観点から、収納物の排出後、該収納物を含めて上記内面塗装を焼却し、さらに缶内面のショットブラストを含む再生処理を施すことで、通常8〜10回、繰り返して利用する場合も多くなってきている。このように、鍋底型ドラム缶に対しては、近年、単に収納物の残留低減という要求に留まらず、より厳しい要求がなされつつある。
【0005】
一方、例えば内容量200リットルのドラム缶では、胴板1の直径は、約570mmであり、溶接前の胴板1の開放端1a、及び鍋底型の地板5の端部5aを完全な真円形状とするのは、生産効率等を考慮した実際の製造上では困難である。したがって、地板5と胴板1との突き合わせ部分6では、図14に示すように、ドラム缶の直径方向7において、胴板1又は地板5のズレつまり段差8が存在するのが現実である。尚、図14において、符号11は、胴板1と地板5とが直径方向7にて段差無く一致した所を基準に描いた真円を示す。よって、図14は、真円11に対する胴板1及び地板5の変位を模式的に示したものである。又、図14から判るように、段差8は、ドラム缶の全周に渡り存在する。但し、上記段差8が胴板1及び地板5の板厚以上に達すると溶接自体が困難になるため、溶接可能な程度に段差8が収まるように、予め、胴板1及び地板5の段差8は修正される。
【0006】
上記段差8が存在すること、及び、作業容易性等の観点から、上述したように上記突き合わせ部分6は、缶外面側から溶接が行われ、突き合わせ部分6に対応する鍋底型ドラム缶の内面まで完全に溶接を行うことは困難である。又、缶外面側からの溶接で例えば裏波を出して内面まで完全に溶接を行うことも困難である。したがって、突き合わせ部分6に対応する鍋底型ドラム缶の内面には、胴板1又は地板5による凹凸が生じてしまい、特に、凹部分では、吹き付けによる上記内面塗装における塗料が完全に付着せず塗装不具合部分を形成する可能性も生じてしまう。又、上述のように缶内面まで完全な溶接が困難なことから、複数回の再生処理及び再使用に伴い、溶接の信頼性が低下することも考えられる。したがって、鍋底型ドラム缶であっても、上述した、単に収納物の残留低減に留まらないより厳しい要求に応えることが困難な場合も懸念される。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、単に収納物の残留低減に留まらないより厳しい要求に応えることが可能な、缶容器、ドラム缶、及び缶容器の溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下のように構成する。
即ち、本発明の第1態様である缶容器は、胴板と、該胴板の開口を閉じる閉塞板とを当該缶容器の内面側から溶接することで形成される缶容器であって、
上記内面に施された上記溶接にて形成される内面溶接部は、測定方向における基準長さにおいて、板厚方向に500μm未満の高低差にてなり、かつ200μmを超える曲率半径を有する凹凸を有することを特徴とする。
【0009】
缶容器の胴板と閉塞板とを当該缶容器の内面側からの溶接により形成された内面溶接部は、上述の規定値にてなる凹凸を有するようにした。該凹凸は、胴板と閉塞板とが溶接の熱により溶融した後、凝固するときに内面溶接部に生じる局所的な凹凸であり、当該内面溶接部に対して例えば塗装を施したときでも塗装不具合部分を生じさせない凹凸に相当する。よって、内面溶接部は、当該缶容器の溶接信頼性及び内面塗装性の向上を図るように作用する。
【0010】
上記第1態様では、胴板と閉塞板との接合状態は問わない。例えば、胴板と閉塞板とを突き合わせた状態で内面側から溶接してもよいし、胴板の内面に閉塞板をすみ肉溶接した後、再度内面側から上記すみ肉溶接部分に対して上記内面溶接部を形成してもよい。
又、胴板の形状についても円筒形に限らず、例えば角形等、種々の形状を採ることができる。
【0011】
上記第1態様において、上記凹凸の高低差は、上記内面溶接部におけるアンダーカット部、オーバーラップ部、又は溶接終端部における値とすることができる。
【0012】
又、上記第1態様において、上記溶接は、溶接棒を用いずにTig溶接にて行い、該Tig溶接におけるシールドガスは、不活性ガスに0.5〜7.5%の割合にて水素を混合したガスであってもよい。
【0013】
又、上記第1態様において、上記閉塞板は、鍋底型の地板であり、上記胴板に突き合わされ、突き合わせた未溶接の状態では、上記地板の端部は、上記胴板の板厚方向において上記胴板の開放端に対して段差を有してもよい。
【0014】
又、上記第1態様において、上記缶容器は、当該缶容器の上記内面に施される上記溶接に対応して当該缶容器の外面に施される外面溶接部をさらに有してもよい。
【0015】
又、上記第1態様において、上記内面溶接部において塗装不具合部分が存在しない塗膜を上記内面に有してもよい。
【0016】
本発明の第2態様であるドラム缶は、円筒状の胴板と、
上記胴板の開放端に突き合わされて上記胴板との間で突き合わせ部分を形成する円形状の端部を有し該端部と上記開放端との突き合わせにより上記胴板を閉塞する鍋底型の地板若しくは天板と、
上記突き合わせ部分に対して上記胴板、及び、上記地板若しくは天板の内面側から施される溶接にて上記内面に形成された内面溶接部と、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
上記第2態様のドラム缶では、胴板と、地板又は天板とを突き合わせて該突き合わせ部分に対して当該ドラム缶の内面側から溶接を行い内面溶接部が形成される。このような内面溶接部は、ドラム缶内面の塗装性を向上させるように作用する。
【0018】
又、上記第2態様において、上記開放端と上記端部とを突き合わせた未溶接の状態では、上記端部は、上記胴板の板厚方向において上記開放端に対して形成される段差を有し、
上記内面溶接部は、上記段差が存在せず上記内面に塗装不具合部分を生じさせない平滑面を有するのが好ましい。
【0019】
上記第2態様のドラム缶では、胴板の開放端、及び、鍋底型の地板又は天板の端部は、ともに真円状態ではない。よって、両者を突き合わせたときには、両者間には、板厚方向における両者のずれに相当する段差が生じる。内面溶接部は、上記段差を解消し、当該ドラム缶に内面塗装を施したときでも塗装不具合部分を生じさせない平滑面を有する。よって、内面溶接部は、ドラム缶内面の塗装性を向上させるように作用する。
【0020】
又、本発明の第3態様である缶容器溶接方法は、缶容器の胴板と、該胴板の開口を閉じる閉塞板とを当該缶容器の内面側から溶接するときの溶接方法において、
上記内面における上記胴板と上記閉塞板との上記溶接にて形成される内面溶接部にて、測定方向における基準長さ内に含まれる凹凸が当該缶容器の板厚方向において500μm未満の高低差にてなり、かつ上記凹凸のそれぞれが200μmを超える曲率半径を有するように上記溶接を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上記本発明の第1態様及び第3態様によれば、胴板と、例えば地板である閉塞板とを缶容器の内面側から溶接するとき、当該溶接部における凹凸の許容値を規定したことから、内面溶接部を平坦で滑らかにすることができる。したがって、缶容器における溶接信頼性を向上させることができ、又、例えば缶の内面塗装を行う場合でも塗装不具合部分を形成することなく確実に塗装を行うことが可能となる。よって、本発明の第1態様及び第3態様によれば、缶容器に対して、単に収納物の残留低減に留まらない、より厳しい要求に応えることが可能となる。
特に、上記閉塞板が鍋底型の地板であり、胴板と突き合わされて缶内面で溶接される場合、溶接前の被溶接箇所には、缶容器の直径方向において胴板又は地板の段差が存在するにもかかわらず、溶接後では、内面溶接部を平坦で滑らかにすることができる。
【0022】
内面溶接部において、上記凹凸の高低差が最も大きくなる箇所は、一般的に、アンダーカット部、オーバーラップ部、又は溶接終端部であることから、アンダーカット部、オーバーラップ部、又は溶接終端部における凹凸の大きさを管理すれば、内面溶接部の全域にわたり、凹凸の許容値を規定範囲内に納めることができる。
【0023】
溶接棒を使用せずにTig溶接を行うことで、スパッタを生じることなく、かつ余分な凸形状を生じることなく、上述の凹凸における許容値を満足することができる。さらにTig溶接におけるシールドガスに水素を含ませ、かつ該水素の含有量を規定することで、上述の凹凸における許容値を満足させることができ、かつ安定して溶接を行うことができ、かつ生産性に見合う溶接速度を達成することができ、さらに、内面溶接部における過度な酸化防止を図ることができる。
【0024】
本発明の第2態様によれば、胴板と、鍋底型の地板又は天板とを突き合わせて溶接してドラム缶を製造するとき、当該ドラム缶の内面側から突き合わせ部分を溶接し、内面溶接部を形成することで、当該ドラム缶における溶接信頼性を向上させることができ、又、例えばドラム缶の内面塗装を行う場合でも塗装不具合部分を形成することなく確実に塗装を行うことが可能となる。よって、本発明の第2態様によれば、胴板と、鍋底型の地板又は天板とを突き合わせて製造するドラム缶において、単に収納物の残留低減に留まらない、より厳しい要求に応えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態である缶容器、ドラム缶、及び缶容器の内面の溶接方法について、図を参照しながら以下に説明する。尚、各図において、同じ構成部分については同じ符号を付している。
又、以下の実施形態では、缶容器の一例として、鍋底型の地板と、胴板とを突き合わせて溶接した鍋底型ドラム缶を例に採る。しかしながら、本発明は、該鍋底型ドラム缶に限定されず、形状を問わない筒状の胴板に対して該胴板の開口を閉じる閉塞板を、特に缶内面側から溶接することで缶形状をなす缶容器に対して適用可能であり、又、このような缶容器における溶接方法に適用可能である。
【0026】
図3に示すように、本実施形態の缶容器の一例に相当する鍋底型ドラム缶101は、円形平板の周囲部分を鉛直方向に立ち上げることで平鏡板の形状のような鍋底型の閉塞板の端部と、円筒形の胴板121とを、胴板121における一方の開放端121aにて缶内面101b側から溶接することで製造される、内容量が約200リットルのドラム缶である。ここで、上記閉塞板は、地板111又は天板131のいずれかに相当する。尚、鍋底型ドラム缶101は、胴板121における他方の開放端121bに対して天板131が着脱自在な、いわゆるオープンタイプの鍋底型ドラム缶であるが、胴板121における他方の開放端121bに天板131を溶接したクローズタイプであってもよい。該クローズタイプの場合、例えば地板111が既に溶接されているとき、天板131については、作業上、缶内面にて溶接することはできないことから、缶外面にて溶接することになる。又、図3において、符号191にて示す物は、缶底部に取り付けられたスカートであり、符号192にて示す物は、胴板121における他方の開放端121bに対して蓋をした天板131を、開放端121bに密着させるための締め輪である。又、鍋底型ドラム缶101に使用する鋼板は、特に限定するものではなく、JIS G 3141(冷間圧延鋼板及び鋼帯)及びJIS G 3131(熱間圧延軟鋼帯)や、JIS G 4305(冷間圧延ステンレス鋼板)の規格品を使用する。尚、材質上の理由から一般的に、ステンレス鋼板では、いわゆる裏波を形成する溶接を比較的容易に行えるが、上記冷間圧延鋼板等では裏波形成溶接は比較的困難である。よって、以下に説明する溶接方法は、特に、上記冷間圧延鋼板等を使用する場合に有効である。
【0027】
上述のように構成される鍋底型ドラム缶101の製造方法について、特に、地板111と胴板121との缶内面101bにおける溶接方法について、以下に詳しく説明する。
本実施形態における鍋底型ドラム缶101においても、地板111の円形状の端部111a及び胴板121の開放端121aは、溶接前にて単に両者を突き合わせた状態では、従来と同様に、図14及び図15に示すように缶の直径方向7において段差8が存在する。該段差8は、地板111及び胴板121の製造に起因して生じるもので、段差8の大きさをゼロにすることは現実的には無理である。尚、図15は、胴板121の開放端121aと、地板111の端部111aとの、突き合わせ部分におけるズレつまり上記段差8が極端に大きい場合を模式的に示したもので、図15の(a)では、胴板121の開放端121aに対して地板111の端部111aが缶内側にズレている場合を示しており、図15の(b)では、胴板121の開放端121aに対して地板111の端部111aが缶外側にズレている場合を示している。ここで、胴板121の板厚が1.2mm、地板111の板厚が1.6mmの場合、段差8は、胴板121の内面121cを基準としたとき、上記(a)に示すようにドラム缶101の内側に最大で約2mm、上記(b)に示すようにドラム缶101の外側に最大で約1.6mmの範囲にて生じる。
【0028】
特に缶内面101bにおける段差8を矯正する方法としては、上記突き合わせ部分において缶内面101bに樹脂材を塗り段差8を平滑化する方法や、例えばロール等を用いて板厚方向に段差8を押し潰す方法が考えられる。しかしながら、上記樹脂材を塗り平滑化する方法では、上述のように当該ドラム缶を再使用するときには、その再生処理における焼却工程にて上記樹脂材が焼失してしまう。よって、再生処理毎に樹脂材の塗布が必要であり、さらに、溶接信頼性が確保できない。又、上記押し潰しによる方法では、やはり溶接信頼性を確保することができない。
【0029】
そこで、本実施形態では以下のような製造方法を採る。
まず、従来と同様に、地板111の端部111aと胴板121の開放端121aとを突き合わせた後、極力、缶内面101bにおける突き合わせ部分104での段差8が小さくなるように地板111及び胴板121を配置して、缶外面101aにて両者を溶接する。地板111と胴板121との缶外面101aにおける溶接は、通常、溶接棒を使用して例えばMAG溶接にて行う。該溶接にて、缶外面101aには、外面溶接部102が形成される。但し、本実施形態では上述のように外面溶接部102の形成時に裏波が形成されることはない。
【0030】
尚、地板111と胴板121とを缶外面101aにて溶接する前には、溶接自体が実行可能な程度に上記段差8が収まるよう、予め、胴板1及び地板5の段差8が修正される。本実施形態では、一例として、地板111の板厚が1.6mm、胴板121の板厚が1.2mmの場合に、両者の段差8が約0.5mm以内に収まるように、上記修正がなされる。尚、上記ズレの値は、地板111又は胴板121の板厚の約3〜約5割程度以内とするのが好ましい。
【0031】
上記外面溶接後、本実施形態では、外面溶接部102に対応する部分、つまり地板111と胴板121との突き合わせ部分104に対して、缶内面101b側からさらに溶接を行い、内面溶接部103を形成する。本実施形態では、鍋底型ドラム缶101の軸方向109aに沿った内面溶接部103の溶接幅に相当する寸法は、外面溶接部102の溶接幅と同等若しくは小さい。上記缶内面溶接については、以下に詳しく説明する。
内面溶接部103を形成することで、突き合わせ部分104における缶内面101bの平滑化、及び突き合わせ部分104の溶接信頼性の向上を図ることができる。
【0032】
本実施形態では、上述のように外面溶接部102を形成後、内面溶接部103を形成したが、内面溶接部103を形成した後、外面溶接部102を形成してもよく、さらには、内面溶接部103のみを形成してもよい。但し、缶内面101bのみに溶接を施す場合には、缶外面101aにおける地板111と胴板121との突き合わせ部分104には、保護用被膜を施すのが好ましい。
【0033】
上記内面溶接部103の形成動作である缶内面溶接方法について、詳しく説明する。
上述したように、現実的には、地板111の端部111aと胴板121の開放端121aとの突き合わせ部分104において上記段差8が生じることは避けられず、さらに該段差8の大きさは、缶内面101bの全周において均一ではなく変化する。このような状況下において、缶内面101bの全周において内面溶接部103がほぼ均一に平滑面103aを有する必要がある。缶内面101bの全周において内面溶接部103がほぼ均一に平滑面103aを有するようにする方法としては、例えば、段差8の大小に合わせて溶接条件を変化させて溶接を行う方法が考えられる。しかしながら該方法では、生産性に欠け現実的ではない。よって、生産性をも考慮すると、段差8の大小に合わせて溶接条件を変化させるのではなく、缶内面101bの全周に渡り同一の溶接条件にて突き合わせ部分104を缶内面101b側から溶接する必要がある。ここで上記溶接条件とは、溶接電流、電圧の他、シールドガスの成分や流量、溶接速度等の、溶接を行うに必要となる条件である。
そこで出願人は、以下に説明するように、溶接の種類、シールドガスの種類、シールドガスへ添加する添加ガスの種類、及び添加ガスの添加量について、検討を重ねた。
【0034】
まず、図1に示すように、缶内面101bにおける突き合わせ部分104に対して、缶内面101b側から、本実施形態ではTig溶接を行う。Tig溶接を採用した理由は、Tig溶接ではスパッタ等の発生が無く、缶内面101bに新たな凹凸を生じさせることが無いからである。一方、本実施形態ではTig溶接を採用したが、これに限定されるものではなく、例えばMIG溶接等を缶内面101bへの新たな凹凸の発生が少ない条件で用いることも可能である。この場合、スパッタの発生は、極力抑える必要がある。
【0035】
又、上記Tig溶接では、溶接棒は使用せず、母材である地板111及び胴板121を溶融させ、固化させる。これは、溶接棒を使用することで、過剰な肉盛りが生じ、新たな凹凸や、オーバーラップ部の発生が考えられるからである。
【0036】
さらに、上記Tig溶接では、不活性ガスに水素ガスを混合させたシールドガスを使用する。不活性ガスとしては、本実施形態ではアルゴンガスを使用したが、アルゴンガスに限定するものではなく、例えばヘリウムガス等を使用してもよい。上述したように、缶内面101b側から突き合わせ部分104の溶接を行う目的は、突き合わせ部分104の缶内面101bにおける平滑化を図ること、及び突き合わせ部分104における溶接信頼性の確保を図ることである。特に、上記平滑化という目的を達成するためには、シールドガスが重要なポイントを占めることに出願人は気付き、シールドガスの種類について試行錯誤を重ねた。例えば、シールドガスをアルゴンガスのみにて構成した場合、内面溶接部103には、アンダーカットが発生し、又、生産性を満足する程度の溶接施工速度が得られなかった。ここで、アンダーカットとは、溶接ビードの幅方向における両端部分にて、ビードの延在方向に沿って生じる凹状の窪みであり、例えばJIS Z 3001(1999年版)に示されるものである。
【0037】
さらに、缶内面101bの全周に渡り同一の溶接条件にて溶接を行い、かつ内面溶接部103について全周に渡りほぼ均一な平滑面103aを得るためには、不活性ガスに加える添加ガスの種類、及びその添加量が重要であることを出願人は突き止め、添加ガスの種類、及びその添加量についても試行錯誤を重ねた。その結果、図10に示すように、添加するガスとしては水素が好ましい。水素が好ましい理由として、水素の添加により、アーク電圧が上がり入熱が向上し、又、アークを緊縮させ溶け込みが向上するからであると考える。さらに、水素の添加量は、0.5〜7.5%、より好ましくは3〜7%、最良として7〜7.5%であることを見出した。上述の水素添加の理由から、水素の添加量は、多い方が好ましいと考えるが、添加量が8%を超えると爆発域に入ることから、その上限は7.5%としている。ここで、不活性ガスに対する水素ガスの上述の添加割合は、体積比で示しており、水素ガスが例えば0.5%の場合、不活性ガスは残りの99.5%を占め、水素ガスが例えば7.5%の場合、不活性ガスは残りの92.5%を占める。
【0038】
図10は、不活性ガスとしてアルゴンガスを用い、水素ガスの添加量と、溶接部の凹凸の大きさ、及び溶接後に当該溶接部に施される塗装状態との関係を、溶接速度毎に示したものである。図10から明らかなように、水素ガスを添加しない場合つまりアルゴンガスのみにて溶接を行ったときには、溶接部の凹凸について、後述の、高低差及び曲率半径を満足せず、よって、塗装状態も不良(×)となる。一方、水素ガスを下限0.5%、上限7.5%の範囲で加えることで、溶接部の凹凸について、後述の高低差及び曲率半径を満足し、塗装状態についても良好(○、◎)となる。尚、塗装状態における「○△」の評価は、実用上全く問題を生じないが、他条件の場合との相対的比較において若干劣る部分が存在する場合を意味する。又、溶接速度により塗装状態の良否が大きく左右されることはないが、図10から明らかなように溶接速度が遅い方がより溶接状態は良好となる。又、塗装状態が良好とは、缶内面の塗膜において、塗装不具合部分が存在しない状態であり、塗装状態が不良とは、上記塗膜において塗装不具合部分が存在する状態をいう。
【0039】
上述のような割合にて不活性ガスに水素ガスを加えることで、内面溶接部103には、アンダーカットは発生せず、かつ上述したように缶内面101bに塗装を行う場合に塗装不具合部分を発生させる程度の凹凸が生じることはなく、かつ、生産性を満足する溶接施工速度が得られた。ここで、上記塗装不具合部分を発生させる程度の凹凸とは、例えば上述したような段差8等が相当し、具体的には、凹凸の測定方向における基準長さにおいて、板厚方向109cに500μm以上の高低差にてなり、かつ200μm以下の曲率半径を有する凹凸141が相当する。又、上記生産性を満足する溶接施工速度とは、600〜700mm/分である。
又、上述のような割合にて不活性ガスに水素ガスを加えた状態で溶接を行うときの、溶接電流は、80〜200Aである。
【0040】
上述のような割合にて不活性ガスに水素ガスを加えたシールドガスを使用することで、
具体的には図1、図6、及び図11に示すように、測定方向143に沿った基準長さ144に含まれる凹凸141について、板厚方向109cに沿った最大高低差142を500μm未満に抑え、かつ上記基準長さ144に含まれるそれぞれの凹凸141について200μmを超える曲率半径145を有するようにすることができた。一例として、水素ガスの添加量を7%としたとき、溶接施工速度700mm/分にて溶接を行っても、内面溶接部103の全域において、基準長さ144に含まれるそれぞれの凹凸141の高低差142を500μm未満とし、かつ各凹凸141について200μmを超える曲率半径145を有するようにすることができた。尚、図11は、基準長さ144,曲率半径145等を説明するための概念図であり、各部分の大小関係は、実際の場合とは相違する。
【0041】
上記測定方向143とは、例えば製品の表面性状について規定しているJIS B 0601(2001年版)の規定を参考とし、当該内面溶接部103における任意箇所を検査する触針の測定方向に相当する方向である。図6では、測定方向143と缶軸方向109aとを便宜上一致させて図示したが、上記JISの規定からも明らかなように、測定方向143の方向は缶軸方向109a等に限定されるものではない。又、上記基準長さ144は、本実施形態では、2.5mmとしているが、その値は、例えば缶内面への塗装による塗膜における塗装不具合部分の判定基準との関係により、適宜設定することができる。さらに上記最大高低差142とは、基準長さ144内に含まれる凹凸141の内、最も深い凹の谷底から最も高い凸の山頂までの長さであり、上記JIS B 0601に規定する「Rz」に相当する概念である。又、最大高低差142の測定方法も、上記JIS B 0601に規定する方法を参考とした。
【0042】
勿論、内面溶接部103における凹凸141の高低差142の値は、缶外面101aから裏波を形成するように溶接したことで得られた値ではなく缶内面101b側からの溶接のみを行って得られる値であり、又、缶内面101b側からの溶接後に内面溶接部103に対して、さらに研磨や潰し等の物理的処理、あるいは薬品等による化学的処理を施した後における値ではない。
このように、本実施形態の溶接方法は、缶内面101b側からの溶接のみを行い上記高低差142を得ることができることから、溶接部に対してさらに処理を施すことで所定の凹凸値を得るような場合に比べて、非常に短時間にて缶容器の製作を可能とし、生産性においても効果を発揮する。
【0043】
尚、図1は、上記高低差142を説明するための図であり、地板111及び胴板121が同じ板厚であり、かつ突き合わせ部分104では、直径方向7つまり板厚方向109cにおいて段差8が存在しない理想状態を図示している。一方、実際には、上述したように、突き合わせ部分104では、図4A、図5A、及び図15に示すように、缶内面101bにおいて板厚方向109cに段差8が存在する。尚、図4Aに示す状態は、突き合わせ部分104の缶内面101bにて板厚方向109cにおいて、地板111及び胴板121が一致している状態、つまり段差8が存在しない状態を示しており、図5Aに示す状態は、地板111及び胴板121が一致していない状態、つまり両者間で段差8が存在する状態を示している。
【0044】
しかしながら、本実施形態における上述した溶接方法にて缶内面101bに溶接を施すことで、図4Aに示す状態を図4Bに示す状態に、及び、図5Aに示す状態を図5Bに示す状態に、それぞれ改善することができ、基準長さ144に含まれる凹凸141について、板厚方向109cに沿った最大高低差142を500μm未満に抑え、かつ上記基準長さ144に含まれるそれぞれの凹凸141について200μmを超える曲率半径145を有するようにすることができる。尚、上述のように突き合わせ部分104において段差8が存在することは避けられないことから、内面溶接部103の全体を巨視的に見ると、つまり上記基準長さ144を超える距離において凹凸を測定すると、図4B、図5B、及び図11に示すように、板厚方向109cの高低差142は500μmを遙かに超えてしまう。即ち、上述のように突き合わせ部分104では元々段差8が存在することから、内面溶接部103の全体においては、図11に示すように、いわゆるうねり146が存在する。該うねり146を測定するとその高低差は500μmを遙かに超えてしまう。しかし、これは、巨視的に見た場合であり、缶内面101bへの塗装において上記塗装不具合部分を発生させるものではない。塗装不具合部分が発生するか否かは、上記基準長さ144に含まれる凹凸141の高低差142及び曲率半径145が問題となる。
【0045】
又、一般的に、溶接部において板厚方向に最も大きな凹凸が発生する箇所は、アンダーカット部、オーバーラップ部、及び溶接開始部と溶接終了部とが重なる溶接終端部である。よって、アンダーカット部、オーバーラップ部、及び溶接終端部に注目して、これらの箇所にて、上述のように、高低差142を500μm未満に抑え、及び曲率半径145を200μmを超えるように溶接を行っても良い。尚、上記オーバーラップ部とは、例えばJIS Z 3001(1999年版)に示されるもので、溶接溶融金属が非溶融の母材表面に乗り上げた部分である。又、上記溶接終端部は、円筒形状物をその周方向に沿って全周溶接するときに、溶接開始部分と溶接終了部分とが重なった部分であり、例えば溶接幅の中央部に凹凸が生じるような部分である。
【0046】
尚、上述の説明は、地板111と胴板121とを缶内面101bにて溶接する場合であるが、図2に示すように、天板131と胴板121とを缶内面101bにて溶接する場合にも適用可能である。この場合、後で胴板121に取り付けられる地板111は、缶外面101aにて溶接されることになる。
【0047】
以上説明した缶内面の溶接方法は、本実施形態では、図7に示すように、溶接トーチ151、溶接条件設定装置152、トーチ駆動装置153、及び制御装置154を備えた溶接機150にて実行される。
溶接トーチ151は、鍋底型ドラム缶101の缶内面101bに対して、直径方向7に沿い、かつ溶接トーチ151の進行方向、例えば後述の時計回り方向に対して、いわゆる前進角約3〜20度にて、設置される。このような溶接トーチ151を本実施形態では、軸周り方向109bに沿って等間隔に3箇所にて配置している。尚、本実施形態では、溶接トーチ151は、3つであるが、一つ若しくは複数個とすることができる。
溶接条件設定装置152は、上述した缶内面の溶接方法が実行され基準長さ144内に含まれる凹凸141の上記高低差142を500μm未満に抑え、かつ各凹凸141の曲率半径145が200μmを超えるように、溶接トーチ151に供給するシールドガス流量、電圧等の溶接条件を設定する装置である。尚、上記溶接条件は、溶接開始前に設定され、溶接中に自動的に可変となるものではない。
トーチ駆動装置153は、軸周り方向109bに沿って例えば時計回り方向へ、上述したような溶接施工速度にて溶接トーチ151を一定速にて回転させる装置である。
制御装置154は、溶接条件設定装置152及びトーチ駆動装置153に対して動作上の制御を行う。
【0048】
このように本実施形態では、軸周り方向109bに沿って3箇所に溶接トーチ151を配置したことから、より短時間にて、鍋底型ドラム缶101の全周に対して溶接を行うことができる。
【0049】
尚、本実施形態では、鍋底型ドラム缶101を固定し、溶接トーチ151を軸周り方向109bへ移動させる構造を採っているが、これに限定されず要するに、鍋底型ドラム缶101と溶接トーチ151とを軸周り方向109bに相対的に移動させればよい。
【0050】
上述した内面溶接部103を形成した後、必要に応じて、缶内面101bには、例えば吹き付けにて塗装が行われる。本実施形態の缶内面溶接方法により、凹凸141の高低差142及び曲率半径145を制限することができることから、該塗装工程において、吹き付け塗装であっても内面溶接部103を含む缶内面101bに上記塗装不具合部分を発生させることなく、効率的に塗装を行うことができる。よって、本実施形態の缶内面溶接方法は、塗装工程においても生産性向上に寄与するものである。
【0051】
上述のように本実施形態では、鍋底型の地板111を用い該地板111と胴板121とを缶胴部にて突き合わせて缶内面101bにて溶接した鍋底型ドラム缶101を例に採った。しかしながら、本実施形態における缶の内面溶接方法は、突き合わせ溶接を行う場合に限定されるものではない。例えば図8に示すように、鍋底型地板111を、胴板121の缶内面101bにすみ肉溶接又はシーム溶接した缶容器108−1も存在する。このような場合、既に缶内面101bに為された上記すみ肉溶接又はシーム溶接部分105−1に対して、さらに、上述した内面溶接方法にて再度溶接を施すことができる。このような再溶接により、すみ肉溶接又はシーム溶接部分105−1の平滑化を行うことができる。
【0052】
さらに又、図9に示す缶容器108−2のように、缶内側へ折り曲げた胴板122に対して、例えば地板112を缶内面101b側に配置して、すみ肉溶接又はシーム溶接して製作される場合もある。このような缶容器108−2についても、缶内面にて既に施されている溶接部105−2に対して、再度、上述した内面溶接方法による溶接を施すことで、溶接部105−2の平滑化を行うことができる。
これらの場合のように、本実施形態の内面溶接方法を、既施工の溶接部を平滑化する目的で適用することも可能である。
【0053】
尚、以上の説明では、本実施形態の溶接方法は缶容器の内面に溶接を行う場合を例に採ったが、溶接棒を用いずに行うTig溶接であって、シールドガスとして不活性ガスに0.5〜7.5%の割合にて水素を添加したガスを用いて溶接を行う方法は、缶容器の外面側から行う溶接に適用することもでき、又、周方向溶接及び軸方向溶接を問わない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、例えばドラム缶のような缶容器の胴板と地板とが当該缶容器の特に内面側から溶接され形成される缶容器に適用可能であり、又、特に上記内面側から行われる溶接方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態における溶接方法にて缶内面に施された胴板と地板との溶接部の状態を説明するための図である。
【図2】本発明の実施形態における溶接方法にて缶内面に施された胴板と天板との溶接部の状態を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態における溶接方法を用いて胴板と地板とを缶内面にて溶接して作製されたドラム缶を示す図である。
【図4A】胴板と地板との突き合わせ部分に段差が無いときの溶接前の状態を示す断面図である。
【図4B】図4Aに示す状態に対する溶接後の状態を示す断面図である。
【図5A】胴板と地板との突き合わせ部分に段差が存在するときの溶接前の状態を示す断面図である。
【図5B】図5Aに示す状態に対する溶接後の状態を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態における缶内面溶接方法にて形成された内面溶接部における判定距離及び判定領域を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態における缶内面溶接方法を実施するための溶接機の一構成例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態における缶内面溶接方法が適用可能な缶の一形態を示す図である。
【図9】本発明の実施形態における缶内面溶接方法が適用可能な缶の他の形態を示す図である。
【図10】本発明の実施形態における缶内面溶接方法にて溶接を行うとき、シールドガスへの水素添加量と塗装状態との関係を示す図である。
【図11】本発明の実施形態における溶接方法にて缶内面に施された胴板と地板との溶接部の状態を説明するための図である。
【図12】巻き締めにて胴板と地板とを接合した従来のドラム缶を示す図である。
【図13】鍋底型地板と胴板とを缶外面にて溶接した従来の鍋底型ドラム缶を示す図である。
【図14】鍋底型地板と胴板との突き合わせ部分での段差を説明するための図である。
【図15】鍋底型地板と胴板との突き合わせ部分での段差の例を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
101…鍋底型ドラム缶、101a…外面、101b…内面、102…外面溶接部、
103…内面溶接部、109a…軸方向、109b…軸周り方向、
109c…板厚方向、111…地板、121…胴板、131…天板、141…凹凸、
142…高低差、151…溶接トーチ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴板(121)と、該胴板の開口を閉じる閉塞板(111、131)とを当該缶容器の内面(101b)側から溶接することで形成される缶容器であって、
上記内面に施された上記溶接にて形成される内面溶接部(103)は、測定方向(143)における基準長さ(144)において、板厚方向(109c)に500μm未満の高低差(142)にてなり、かつ200μmを超える曲率半径(145)を有する凹凸(141)を有することを特徴とする缶容器。
【請求項2】
上記凹凸の高低差は、上記内面溶接部におけるアンダーカット部、オーバーラップ部、又は溶接終端部における値である、請求項1記載の缶容器。
【請求項3】
上記溶接は、溶接棒を用いずにTig溶接にて行い、該Tig溶接におけるシールドガスは、不活性ガスに0.5〜7.5%の割合にて水素を混合したガスである、請求項1又は2記載の缶容器。
【請求項4】
上記閉塞板は、鍋底型の地板(111)であり、上記胴板に突き合わされ、突き合わせた未溶接の状態では、上記地板の端部(111a)は、上記胴板の板厚方向(109c)において上記胴板の開放端(121a)に対して段差(8)を有する、請求項1から3のいずれかに記載の缶容器。
【請求項5】
上記缶容器は、当該缶容器の上記内面に施される上記溶接に対応して当該缶容器の外面(101a)に施される外面溶接部(102)をさらに有する、請求項1から4のいずれかに記載の缶容器。
【請求項6】
上記内面溶接部において塗装不具合部分が存在しない塗膜を上記内面に有する、請求項1から5のいずれかに記載の缶容器。
【請求項7】
円筒状の胴板(121)と、
上記胴板の開放端(121a)に突き合わされて上記胴板との間で突き合わせ部分(104)を形成する円形状の端部(111a)を有し該端部と上記開放端との突き合わせにより上記胴板を閉塞する鍋底型の地板若しくは天板(131、111)と、
上記突き合わせ部分(104)に対して上記胴板、及び、上記地板若しくは天板の内面(101b)側から施される溶接にて上記内面に形成された内面溶接部(103)と、
を備えたことを特徴とするドラム缶。
【請求項8】
上記開放端と上記端部とを突き合わせた未溶接の状態では、上記端部は、上記胴板の板厚方向(109c)において上記開放端に対して形成される段差(8)を有し、
上記内面溶接部は、上記段差が存在せず上記内面に塗装不具合部分を生じさせない平滑面(103a)を有する、請求項7記載のドラム缶。
【請求項9】
上記段差は、上記突き合わせた未溶接の状態にて上記胴板の上記内面を基準として、上記内面側、及び上記胴板の外面(101a)側に、約2mmまでの範囲に含まれる値にてなる、請求項8記載のドラム缶。
【請求項10】
上記溶接は、溶接棒を用いずにTig溶接にて行い、該Tig溶接におけるシールドガスは、不活性ガスに0.5〜7.5%の割合にて水素を混合したガスである、請求項7から9のいずれかに記載のドラム缶。
【請求項11】
上記内面溶接部において塗装不具合部分が存在しない塗膜を当該ドラム缶の内面に有する、請求項7から10のいずれかに記載のドラム缶。
【請求項12】
缶容器(101)の胴板(121)と、該胴板の開口を閉じる閉塞板(111、131)とを当該缶容器の内面(101b)側から溶接するときの溶接方法において、
上記内面における上記胴板と上記閉塞板との上記溶接にて形成される内面溶接部(103)にて、測定方向(143)における基準長さ(144)内に含まれる凹凸(141)が当該缶容器の板厚方向(109c)において500μm未満の高低差(142)にてなり、かつ上記凹凸のそれぞれが200μmを超える曲率半径(145)を有するように上記溶接を行うことを特徴とする缶容器の溶接方法。
【請求項13】
上記閉塞板は、鍋底型の地板(111)であり、上記胴板と突き合わせた後、当該缶容器の外面(101a)にて突き合わせ部分(104)を溶接し、その後、上記突き合わせ部分に対して上記内面溶接部が上記高低差及び上記曲率半径の凹凸を有するように上記内面側から溶接を行い、ここで、該内面側からの溶接は、溶接棒を使用せずにTig溶接にて行い、該Tig溶接におけるシールドガスは、不活性ガスに0.5〜7.5%の割合にて水素を混合したガスである、請求項12記載の缶容器溶接方法。
【請求項14】
上記溶接は、上記軸周り方向において複数箇所に設置された複数の溶接トーチ(151)と上記缶容器とを上記軸周り方向に相対的に移動させて行う、請求項12又は13記載の缶容器溶接方法。
【請求項1】
胴板(121)と、該胴板の開口を閉じる閉塞板(111、131)とを当該缶容器の内面(101b)側から溶接することで形成される缶容器であって、
上記内面に施された上記溶接にて形成される内面溶接部(103)は、測定方向(143)における基準長さ(144)において、板厚方向(109c)に500μm未満の高低差(142)にてなり、かつ200μmを超える曲率半径(145)を有する凹凸(141)を有することを特徴とする缶容器。
【請求項2】
上記凹凸の高低差は、上記内面溶接部におけるアンダーカット部、オーバーラップ部、又は溶接終端部における値である、請求項1記載の缶容器。
【請求項3】
上記溶接は、溶接棒を用いずにTig溶接にて行い、該Tig溶接におけるシールドガスは、不活性ガスに0.5〜7.5%の割合にて水素を混合したガスである、請求項1又は2記載の缶容器。
【請求項4】
上記閉塞板は、鍋底型の地板(111)であり、上記胴板に突き合わされ、突き合わせた未溶接の状態では、上記地板の端部(111a)は、上記胴板の板厚方向(109c)において上記胴板の開放端(121a)に対して段差(8)を有する、請求項1から3のいずれかに記載の缶容器。
【請求項5】
上記缶容器は、当該缶容器の上記内面に施される上記溶接に対応して当該缶容器の外面(101a)に施される外面溶接部(102)をさらに有する、請求項1から4のいずれかに記載の缶容器。
【請求項6】
上記内面溶接部において塗装不具合部分が存在しない塗膜を上記内面に有する、請求項1から5のいずれかに記載の缶容器。
【請求項7】
円筒状の胴板(121)と、
上記胴板の開放端(121a)に突き合わされて上記胴板との間で突き合わせ部分(104)を形成する円形状の端部(111a)を有し該端部と上記開放端との突き合わせにより上記胴板を閉塞する鍋底型の地板若しくは天板(131、111)と、
上記突き合わせ部分(104)に対して上記胴板、及び、上記地板若しくは天板の内面(101b)側から施される溶接にて上記内面に形成された内面溶接部(103)と、
を備えたことを特徴とするドラム缶。
【請求項8】
上記開放端と上記端部とを突き合わせた未溶接の状態では、上記端部は、上記胴板の板厚方向(109c)において上記開放端に対して形成される段差(8)を有し、
上記内面溶接部は、上記段差が存在せず上記内面に塗装不具合部分を生じさせない平滑面(103a)を有する、請求項7記載のドラム缶。
【請求項9】
上記段差は、上記突き合わせた未溶接の状態にて上記胴板の上記内面を基準として、上記内面側、及び上記胴板の外面(101a)側に、約2mmまでの範囲に含まれる値にてなる、請求項8記載のドラム缶。
【請求項10】
上記溶接は、溶接棒を用いずにTig溶接にて行い、該Tig溶接におけるシールドガスは、不活性ガスに0.5〜7.5%の割合にて水素を混合したガスである、請求項7から9のいずれかに記載のドラム缶。
【請求項11】
上記内面溶接部において塗装不具合部分が存在しない塗膜を当該ドラム缶の内面に有する、請求項7から10のいずれかに記載のドラム缶。
【請求項12】
缶容器(101)の胴板(121)と、該胴板の開口を閉じる閉塞板(111、131)とを当該缶容器の内面(101b)側から溶接するときの溶接方法において、
上記内面における上記胴板と上記閉塞板との上記溶接にて形成される内面溶接部(103)にて、測定方向(143)における基準長さ(144)内に含まれる凹凸(141)が当該缶容器の板厚方向(109c)において500μm未満の高低差(142)にてなり、かつ上記凹凸のそれぞれが200μmを超える曲率半径(145)を有するように上記溶接を行うことを特徴とする缶容器の溶接方法。
【請求項13】
上記閉塞板は、鍋底型の地板(111)であり、上記胴板と突き合わせた後、当該缶容器の外面(101a)にて突き合わせ部分(104)を溶接し、その後、上記突き合わせ部分に対して上記内面溶接部が上記高低差及び上記曲率半径の凹凸を有するように上記内面側から溶接を行い、ここで、該内面側からの溶接は、溶接棒を使用せずにTig溶接にて行い、該Tig溶接におけるシールドガスは、不活性ガスに0.5〜7.5%の割合にて水素を混合したガスである、請求項12記載の缶容器溶接方法。
【請求項14】
上記溶接は、上記軸周り方向において複数箇所に設置された複数の溶接トーチ(151)と上記缶容器とを上記軸周り方向に相対的に移動させて行う、請求項12又は13記載の缶容器溶接方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
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【図10】
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【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−298417(P2006−298417A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121167(P2005−121167)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(391018019)JFEコンテイナー株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(391018019)JFEコンテイナー株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
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