説明

耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材及びその製造方法

【課題】高い硬度と優れた耐摩耗性に加え、優れた耐ハロゲン腐食性を発揮する複合層被覆部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】複合層被覆部材10は、金属製基材11と、この金属製基材11の表面に形成されたAl層12と、このAl層12の表面に形成されたAlN層13とを備えてなる。Al層12は、溶融めっき法やPVD法等の蒸着により形成され、AlN層13は、Al層12を窒化処理することにより形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製基材の表面にアルミニウム拡散層とアルミニウムを主成分とする窒化層とを備えている耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材とその製造方法に関するものであり、例えば、ハロゲン系ガスを使用する半導体製造プロセス装置用部材として好適に使用できるものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の加工・製造分野では、腐食性の強い各種のハロゲンガスやハロゲン化合物を使用する環境に加えて、さらにシリコンウエハーなどのエッチング加工精度や効率を向上させるため、プラズマエネルギーを付加するなど他の産業では経験されないような過酷な腐食雰囲気下における作業を余儀なくされている。このため装置を構成する各種の部材・部品には耐食性を有する材料や表面処理皮膜が利用されている。
【0003】
一方、プラズマエネルギーが付加されている環境下では、Arガスのような腐食性のない気体でもイオン化してこれが固体面に強く衝突する現象(イオンボンバードメントとよばれている)や環境中に発生するSiO2,Si34,Si,Wなどの微粉末状固形物などによるエロージョン損傷現象が発生するので、半導体製品の加工装置を構成する部材には優れた耐食性と耐エロージョン性を有することが求められている。これらの要求に応えるため、古くからフッ素系あるいはエポキシ系樹脂の被覆、ニッケルめっき、窒化などの表面処理部材が使用されている。さらに優れた耐食性部材として、下記特許文献1〜3に示すようなアルミニウムめっきやアルミニウムの拡散処理部材がある。
【0004】
一方、金属製基材に対する窒化処理は古くから知られ、基材表面に硬質の金属窒化層を形成して、耐摩耗性機能を付与する技術として広く採用されている。窒化法として、NH3などのガスを窒化源とするガス法、窒素化合物を含む溶融塩類を利用する塩浴法、通常不活性なN2をプラズマなどによってイオン化して反応を促進させるイオン窒化法などが用いられる。いずれの方法で形成された窒化層も、前項のAl拡散処理法で得られる処理層に比較すると硬く、したがって耐摩耗性にも優れている特徴がある。
【0005】
このようなAl部材に対する窒化層を形成する従来技術として、Al基材に直接直流放電や高周波放電エネルギーを援用して窒化アルミニウムを形成するもの(下記特許文献4)、Al基材を200℃〜400℃に加熱しつつNH3、H2ガスを流通して窒化アルミニウム層を生成させる技術(下記特許文献5)、さらに、スパッタリング法(蒸着法)を用いて窒化アルミニウム薄膜を形成させる方法(下記特許文献6)等が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−63364号公報
【特許文献2】特開平4−193966号公報
【特許文献3】特開平9−10577号公報
【特許文献4】特開平6−279982号公報
【特許文献5】特開2001−240955号公報
【特許文献6】特開2001−303269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜3のものは、これらの処理部材の採用によって腐食損傷の程度は従前に比べかなり軽減してきたが、アルミニウム含有量が少ない上、耐食性も十分ではなく、半導体製品の一層の高集積化及び高精密加工が望まれており、アルミニウム拡散処理材を凌駕する耐食性を有する部材の要求には答えられていない。
【0008】
特許文献4〜6のものについては、窒化層自体はセラミック特有の耐食性も備えているものの、窒化層の一部に欠陥や微小な割れが存在したり、また使用中に摩耗や衝撃などの作用によって局部的に欠陥が発生すると、電気化学的に卑な電位を示す基材が優先的に腐食したりする欠点がある。また、特許文献4〜8のものは、硬質の窒化アルミニウム層を形成する点は共通しているものの、その用途は基材の機械的性質や耐熱性によって支配され、昨今の高温環境下における操業が多くなりつつある半導体加工装置に対して、適用できない欠点がある。例えば、窒化アルミニウム層のみが表面に形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金の基材は、500℃以上で軟化・変形してしまうため、この温度域以上では半導体加工装置に適用することができない。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、高い硬度と優れた耐摩耗性に加え、優れた耐ハロゲン腐食性を発揮する複合層被覆部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0010】
本発明の耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材は、金属製基材の表面に形成されたアルミニウム層、アルミニウム合金層、又はアルミニウム拡散層と、前記アルミニウム層、前記アルミニウム合金層、又は前記アルミニウム拡散層の表面に形成された窒化アルミニウム層とを備えたものである。また、別の観点において、本発明の耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材は、金属製基材の表面に形成されたアルミニウム拡散層と、前記アルミニウム拡散層の表面に形成されたアルミニウム層又はアルミニウム合金層と、前記アルミニウム層又は前記アルミニウム合金層の表面に形成された窒化アルミニウム層とを備えたものである。
【0011】
上記構成により、本発明の複合層被覆部材は、窒化アルミニウム層を有しているので、高い硬度、優れた耐摩耗性、及び、耐食性(特に耐ハロゲン系ガスに対するもの)を発揮できる。また、アルミニウム層又はアルミニウム合金層によって、金属製基材を電気化学的に防食できる。さらに、アルミニウム拡散層は硬質であるので、耐磨耗性を発揮でき、しかも、均等に金属製基材の表面を被覆するように形成されるので、気孔、ピンホールの存在による局部的な腐食の発生を防止できる。
【0012】
加えて、窒化物である窒化アルミニウム層を、金属製基材の表面に形成されたアルミニウム層又はアルミニウム合金層の表面上に形成している複合層被覆部材の場合は、鉄鋼やNi基合金等の金属製基材に窒化物層を直接形成するよりも、高質の窒化物層を得ることができる。また、例えば、500℃以上の高温環境下において本発明に係る複合層被覆部材が使用された際、アルミニウム層又はアルミニウム合金層のみが金属製基材の表面に形成されていても、アルミニウムは金属製基材の表層部に拡散され、アルミニウム拡散層が形成されるので、アルミニウム層又はアルミニウム合金層自体の熱による軟化等の発生を抑止できる。また、アルミニウム層及びアルミニウム拡散層を予め金属製基材の表面に形成していても同様である。
【0013】
したがって、本発明は、高い硬度と優れた耐摩耗性に加え、優れた耐ハロゲン腐食性を発揮する複合層被覆部材を提供できる。なお、例えば、半導体加工装置に用いられた際には、各種のハロゲン系化合物を使用する厳しい腐食環境中においても、優れた耐食性を発揮して装置の長期安定運転に寄与し、半導体加工製品の生産性の向上ならびにコスト低減に貢献できる。
【0014】
本発明の耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材は、前記アルミニウム層又はアルミニウム合金層の厚さが3〜80μmであることが好ましい。また、前記アルミニウム拡散層の厚さが3〜80μmであることが好ましい。さらに、前記窒化アルミニウム層の厚さが0.5〜10μmであることが好ましい。
上記構成により、密着性に優れるとともに、高温環境下においても高い硬度と優れた耐摩耗性、及び、優れた耐ハロゲン腐食性を確実に発揮でき、かつ低コストの複合層被覆部材を提供できる。
【0015】
本発明の耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材は、前記金属製基材が、鋳鉄、鋳鋼、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、Ni基合金、Co基合金から選ばれる金属材料であることが好ましい。
上記金属材料を用いれば、アルミニウム拡散層を形成、及び、このアルミニウム拡散層の上に窒化アルミニウム層を形成することについて、好適に複合処理できる。
【0016】
本発明の耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材の製造方法は、金属製基材の表面に、アルミニウム層、アルミニウム合金層及びアルミニウム拡散層のいずれか一種を形成、若しくは、アルミニウム拡散層と、アルミニウム層又はアルミニウム合金層とをこの順に形成した後、さらにその表面にアルミニウム窒化層を形成することを特徴とする。
上記構成により、高い硬度と優れた耐摩耗性に加え、優れた耐ハロゲン腐食性を発揮する複合層被覆部材の製造方法を提供できる。
【0017】
本発明の耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材の製造方法は、前記アルミニウム層、前記アルミニウム合金層、又は前記アルミニウム拡散層が、粉末法、溶融めっき法、CVD法、PVD法及び溶射法から選ばれる一種以上の方法を用いて形成された後、必要に応じて熱処理されてなるものであり、前記窒化アルミニウム層が、前記アルミニウム層、前記アルミニウム合金層、又は前記アルミニウム拡散層の表層部を、ガス窒化法、溶融塩法、イオン窒化法から選ばれる一種以上の方法で窒化させて形成されるものであることが好ましい。
上記構成により、従来からある方法を用いて、高い硬度と優れた耐摩耗性に加え、優れた耐ハロゲン腐食性を発揮する複合層被覆部材を、容易に製造できる方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図を参照しながら、本発明の実施形態に係る複合層被覆部材及びその製造方法を説明する。
【0019】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る複合層被覆部材を示す断面図である。図1の複合層被覆部材10は、金属製基材11と、この金属製基材11の表面に形成されたAl層12と、このAl層12の表面に形成されたAlN層13とを備えてなる。
【0020】
金属製基材11としては、鋳鉄、鋳鋼、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、Ni基合金、Co基合金等が挙げられる。Al層12の厚さは3〜80μm、AlN層13の厚さは0.5〜10μmであることが好ましい。
【0021】
次に、複合層被覆部材10の製造方法について説明する。図2は、複合層被覆部材10の製造工程を示す図である。
【0022】
まず、金属製基材11の表面にAl層12を形成する(図2(a)参照)。Al層12の形成方法には、以下に挙げられるPVD法(Physical Vapor Deposition Process)や溶射法がある。
【0023】
(PVD法)
真空容器中に被処理基材を静置し、レーザまたは電子ビームなどによってAlを蒸発させて、基材表面に蒸着させる。なお、PVD法に属するスパッタリング法、高周波を併用したPVD法なども適用可能である。
【0024】
(溶射法)
フレーム溶射法、アーク溶射法、プラズマ溶射法などによって被処理基材の表面にAlを形成する。
【0025】
次に、形成されたAl層12の表面にAlN層13を形成する(図2(b)参照)。AlN層13の形成方法には、以下に挙げられるガス窒化法、イオン窒化法、塩浴窒化法、ラジカル窒化法がある。
【0026】
(ガス窒化法)
高温状態のアンモニアガスを主成分とする雰囲気中に被処理基材(図2(a)の状態の部材)を暴露し、アンモニアの分解によって生成する窒素(N)を利用してAl層12表面を窒化処理し、AlN層13を形成させる方法である。
【0027】
(イオン窒化法)
アンモニアガス、N2などの含窒素ガスをプラズマ、直流放電、高周波放電などのエネルギーを利用して窒素イオン化することによってAl層12表面を窒化処理し、AlN層13を形成させる方法である。
【0028】
(塩浴窒化法)
シアン塩やアンモニウム塩などの含窒化塩の溶融塩中に図2(a)の状態の基材を浸漬して窒化処理し、Al層12の表面にAlN層13を形成させる方法である。
【0029】
(ラジカル窒化法)
NHラジカルを利用して、図2(a)の状態の基材をNHラジカルを含む雰囲気中に曝露して窒化処理し、Al層12の表面にAlN層13を形成させる方法である。
【0030】
上記構成の本実施形態によれば、窒化アルミニウム層を有しているので、高い硬度、優れた耐摩耗性、及び、耐食性(特に耐ハロゲン系ガスに対するもの)を発揮する複合層被覆部材10を提供できる。また、アルミニウム層又はアルミニウム合金層によって、金属製基材を電気化学的に防食する複合層被覆部材10を提供できる。
【0031】
加えて、窒化物である窒化アルミニウム層を、金属製基材の表面に形成されたアルミニウム層又はアルミニウム合金層の表面上に形成するので、鉄鋼やスチール鋼等の金属製基材に窒化物層を直接形成するよりも、高質の窒化物層を有する複合層被覆部材10を提供できる。また、例えば、500℃以上の高温環境下において複合層被覆部材10が使用された際、アルミニウム層又はアルミニウム合金層のみが金属製基材の表面に形成されていても、アルミニウムは金属製基材の表層部に拡散され、アルミニウム拡散層が形成されるので、アルミニウム層又はアルミニウム合金層自体の熱による軟化等の発生を抑止できる。
【0032】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る複合層被覆部材について説明する。なお、第1実施形態の複合層被覆部材10と同様の箇所については説明を省略することがある。図3は、本発明の第2実施形態に係る複合層被覆部材を示す断面図である。図3の複合層被覆部材20は、金属製基材21と、この金属製基材21の表面に形成されたAl拡散層22と、このAl拡散層22の表面に形成されたAl層23と、このAl層23の表面に形成されたAlN層24とを備えてなる。
【0033】
Al拡散層22は、金属製基材21の表層部にAl層23のAl原子の一部が拡散したことによって形成された層である。Al拡散層22の厚さは3〜80μmが好ましい。
【0034】
次に、複合層被覆部材20の製造方法について説明する。図4は、複合層被覆部材20の製造工程を示す図である。
【0035】
まず、金属製基材21の表面にAl層23を第1実施形態と同様に形成する(図4(a)参照)。その後、加熱処理を行い、Al拡散層22を金属製基材21の表層部に形成する(図4(b)参照)。なお、ここまでの工程に代えて、以下に挙げられる粉末法、溶融めっき法、CVD法(Chemical Vapor Deposition Process)による工程を用いて、図4(b)に示す状態の部材を形成してもよい。
【0036】
(粉末法)
被処理基材をアルミナ(Al23)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、金属アルミニウム粉末またはAl合金粉末からなる混合粉末中に埋没した後、アルゴンガスを流通しつつ700℃〜1000℃、5〜20h加熱することによって被処理基材の表面にAl層23と基材成分との相互拡散反応によるAl拡散層22とを形成する方法である。
【0037】
(溶融めっき法)
680℃〜780℃に加熱溶融しAl中に被処理基材を浸漬した後、これを引き上げる操作によってAl層23を形成させる方法である。この方法では、Alと基材との反応拡散層(Al拡散層22)とともに、その表面に比較的純度の高いAl層23が形成される。
【0038】
(CVD法)
Alを含む有機化合物(例えばAlのアルコキシド化合物およびAlのジケトン錯化合物)を用いて、還元または熱分解反応によって被処理基材の表面にAl層23を形成させるとともに、Al原子を基材の内部へ拡散させてAl拡散層22を形成する方法である。反応の加速または反応の効率を向上するため、処理環境温度の上昇、レーザやプラズマエネルギーの利用が可能である。
【0039】
次に、Al層23の表面に第1実施形態と同様の方法でAlN層24を形成する(図4(c)参照)。
【0040】
上記構成の本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果が得られる上、Al拡散層22は硬質であるので、耐磨耗性を発揮する複合層被覆部材20を提供できる。また、Al拡散層22は均等に金属製基材21の表面を被覆するように形成されるので、気孔、ピンホールの存在による局部的な腐食の発生を防止できる。
【0041】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る複合層被覆部材について説明する。なお、第1実施形態の複合層被覆部材10及び第2実施形態の複合層被覆部材20と同様の箇所については説明を省略することがある。図5は、本発明の第3実施形態に係る複合層被覆部材を示す断面図である。図5の複合層被覆部材30は、金属製基材31と、この金属製基材31の表面に形成されたAl拡散層32と、このAl拡散層32の表面に形成されたAlN層33とを備えてなる。
【0042】
なお、金属製基材31がステンレス鋼などのようにCr、Niを含む材料ではCrN、TiNなどの窒化物も含まれることもあるが、これらの存在がAlN層32の作用機構、利用目的などに不利益とならないので、本実施形態ではこれらの窒化物を含めたものをAlN層32としている。
【0043】
次に、複合層被覆部材30の製造方法について説明する。図6は、複合層被覆部材30の製造工程を示す図である。
【0044】
まず、図示しないが、第1実施形態や第2実施形態と同様の方法を用いて、Al層を形成するか、Al層とAl拡散層とを同時に形成する。その後、加熱処理を行って、Al層のAl原子を全て金属製基材31に拡散させ、Al拡散層32を形成する(図6(a)参照)。そして、Al層23の表面に第1実施形態と同様の方法でAlN層33を形成する(図6(b)参照)。
【0045】
上記構成の本実施形態によれば、第1及び第2実施形態と同様の効果が得られる上、Al拡散層32上にAlN層33形成しているので、鉄鋼やスチール鋼等の金属製基材31に直接窒化物層を形成するよりも高質の窒化物層を得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を示しながら、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
この実施例では、表1に示すように、金属製基材としてSS400を用いて、Al拡散処理(No.1)、Al蒸着処理(No.3)及び溶融めっき法(No.5)によってそれぞれの処理層を形成させた後、その表面にガス窒化法によってAlを主成分とするAl窒化層を積層させた。その後これらの試験片をJIS Z2371規定の塩水噴霧試験方法によって耐食性を調査した。なお比較例としてAl層を形成しないもの(No.7〜10)、Al層の形成を行ったものの窒化物層は積層しないもの(No.2、4、6)なども準備し、同じ条件で耐食性を調査した。
【表1】

【0047】
なお、上記Al拡散処理は、具体的には、以下の方法によって行った。Alを40mass%含むAl−Co合金粉末40%と、Al23粉末59%、NH4Cl1%の混合粉末中に試験片を埋没し、Arガスを流しながら900℃×10hの加熱処理を行い、試験片表面にAl拡散層を形成させた。
【0048】
また、上記Al蒸着処理は、具体的には、以下の方法によって行った。まず、真空容器の底部にAl板を設置した後、Ar雰囲気とし、電子ビームによってAl板を照射する。次に、試験片をAl板の蒸気が直接当たる真空容器の中央の上部に設置し、蒸気化したAlが蒸着付着することによって行った(PVD法)。その後、この試験片を真空中で750〜800℃、30分〜60分程度加熱してAl拡散層を形成させた。
【0049】
また、上記溶融めっき法は、具体的には、以下の方法によって行った。700℃〜750℃に加熱した溶融Al浴中に試験片を30秒間浸漬し、引き上げた後、過剰に付着したAlを振動を加えて取り除いてAl拡散層を形成させた。
【0050】
表1の結果から明らかなように、Al層の形成を行わない試験片(No.7〜No.10)は24時間後の塩水噴霧試験によってすでに赤錆が発生し、また金属製基材に直接窒化層を形成した試験片(No.7、9)にも全く耐食性は認められず、多量の赤錆の発生が認められた。これに対し、Alの表面処理を施工した試験片(No.1〜No.6)は窒化層の積層の有無に拘らず優れた耐食性を示し、96時間後の塩水噴霧試験にも十分耐えることが判明した。
【0051】
以上の結果からAl表面処理層の上に、窒化層を積層してもAl表面処理層の耐食性を劣化させないことが確認された。
【0052】
(実施例2)
この実施例では、表2に示すように、SUS304基材(寸法幅30mm×長さ50mm×厚3.2mm)に実施例1と同じAl表面処理とAlN層を形成させた場合のハロゲン系ガスに対する腐食抵抗を調査した。腐食性ガスとして180℃に維持した電気炉中に試験片を静置し、この中へ1分間当たりCF4150ml+O275mlの混合ガスを連続10時間流通させ、試験前後の重量変化量を測定することによって耐食性を評価した。比較試験片としてAlの表面処理を施したものの窒化層を省略したもの及び無処理のSUS304鋼を同じ条件で腐食試験に供した。
【表2】

【0053】
最も腐食量の多い試験片は無処理のSUS304鋼(No.8)で3〜5mg/cm2、SUS304鋼に直接窒化層を形成すると(No.7)、腐食量は約50%低減し、窒化層もCF4ガスに対して良好な耐食性を発揮することがわかった。さらにSUS304鋼にAlの表面処理を施すと(No.2,4,6)、腐食量は少なくなるがこの上に窒化層を積層することによって(No.1,3,5)、腐食量はさらに低下し、0.6〜0.9mg/cm2にとどまり最高の耐食性を示した。
【0054】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態や実施例に限定されるものではない。例えば、上述の各実施形態におけるAl層は、同様の厚さを有するAl合金層でもよい。なお、Al合金層は、Al層の形成方法と同様の方法で形成でき、その表面上にもAl層の場合と同様に窒化Al層を形成できる。また、この場合のAl合金層も熱処理することで、金属製基板の表層部にAl拡散層を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態に係る複合層被覆部材を示す断面図である。
【図2】図1の複合層被覆部材の製造工程を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る複合層被覆部材を示す断面図である。
【図4】図3の複合層被覆部材の製造工程を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る複合層被覆部材を示す断面図である。
【図6】図5の複合層被覆部材の製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10、20、30 複合層被覆部材
11、21、31 金属製基材
12、23 Al層
13、24、33 AlN層
22、32 Al拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製基材の表面に形成されたアルミニウム層、アルミニウム合金層、又はアルミニウム拡散層と、
前記アルミニウム層、アルミニウム合金層、又は前記アルミニウム拡散層の表面に形成された窒化アルミニウム層とを備えた耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材。
【請求項2】
金属製基材の表面に形成されたアルミニウム拡散層と、
前記アルミニウム拡散層の表面に形成されたアルミニウム層又はアルミニウム合金層と、
前記アルミニウム層又は前記アルミニウム合金層の表面に形成された窒化アルミニウム層とを備えた耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材。
【請求項3】
前記アルミニウム層又は前記アルミニウム合金層の厚さが3〜80μmである請求項1又は2に記載の耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材。
【請求項4】
前記アルミニウム拡散層の厚さが3〜80μmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材。
【請求項5】
前記窒化アルミニウム層の厚さが0.5〜10μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材。
【請求項6】
前記金属製基材が、鋳鉄、鋳鋼、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、Ni基合金、Co基合金から選ばれる金属材料である請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材。
【請求項7】
金属製基材の表面に、アルミニウム層、アルミニウム合金層及びアルミニウム拡散層のいずれか一種を形成、若しくは、アルミニウム拡散層と、アルミニウム層又はアルミニウム合金層とを形成した後、さらにその表面にアルミニウム窒化層を形成することを特徴とする耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材の製造方法。
【請求項8】
前記アルミニウム層、前記アルミニウム合金層、又は前記アルミニウム拡散層が、粉末法、溶融めっき法、CVD法、PVD法及び溶射法から選ばれる一種以上の方法を用いて形成された後、必要に応じて熱処理されてなるものであり、
前記窒化アルミニウム層が、前記アルミニウム層、前記アルミニウム合金層、又は前記アルミニウム拡散層の表層部を、ガス窒化法、溶融塩法、イオン窒化法、ラジカル窒化法から選ばれる一種以上の方法で窒化させて形成されるものである請求項7記載の耐ハロゲン腐食性に優れる複合層被覆部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−152384(P2006−152384A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345537(P2004−345537)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【Fターム(参考)】