耐久性を有するタングステンドーピングスズ‐フルオロリン酸塩ガラス
本明細書において、タングステンドーピングされたスズ‐フルオロリン酸塩ガラスが記載されており、当該ガラスは、良好な耐湿性、耐熱性を示し、電子コンポーネントのカプセル化の様な低温シーリング用途に適した低いガラス転移温度を有する。1つの実施例において、これらのガラスは、重量%元素ベースで、55‐75%のSn、4‐14のP、6−24%のO、4−22%のF及び0.15‐15%のWを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物に関し、特に、タングステン(W)がドーピングされたスズ−フルオロリン酸塩ガラス組成物に関し、これらはフュージョン(fusion)タイプのシーリングに使用され得、例えば、酸素及び湿気の通過を抑制/阻止することが重要なOLED(有機発光ダイオード)または他のデバイスに使用される。
【背景技術】
【0002】
フュージョンすなわちガラス質タイプのシーリングにおいて、シーリング材は、溶融され軟化されまたは融解されて、塗布される表面に流れ込みかつそこをぬらすべきである。グレージング(glazing)またはエナメリング(enameling)において、溶融シーリング材は、単一のシーリング面に塗布されても良い。代替例として、シーリング材は、対向する2つの面を接合するために使用されても良い。その結果は、中間シールまたは接合と称される。
【0003】
フュージョンタイプのシーリングを形成するために使用されるシーリング材は、シーリング表面をぬらして密閉接着を形成するのに十分なまで軟化する温度まで加熱されるべきである。多くの目的のために、シーリング温度をできるだけ低く維持するのが望ましい。このことは、シーリング材が熱的に繊細な部品を使用する電気及び電子製品をシーリングするために使用される場合に特に良く当てはまる。従って、低い転移温度を有するガラスに可能な限りの注意が注がれる。なぜならば、この特性は、これらのものをシーリング材として使用されるのに適したものにするからである。ガラスの転移温度(Tg)は、ガラスが固体状態から液体状態に遷移するとみなされる温度である。
【0004】
本願に含まれている米国特許第4,314,031号(発明者、サンドフォード氏他)の内容は、スズ‐リン‐オキシフルオリドガラスとして知られている低温シーリングガラスを開示している。これらのガラスは、元素ベースの重量%で、スズ(Sn)20‐85%、リン(P)2‐20%、酸素(O)3‐20%、フッ素(F)10‐36%であって、Sn、P、O及びFの合計が少なくとも75%である。さらに、これらのガラスは、25%までの鉛、12%までのジルコニウム(Zr)、10%までの鉄(Fe)、3%までのチタン(Ti)、1%までのカルシウム(Ca)、3%までのバリウム(Ba)2%までの亜鉛(Zn)、合計12%までのFe、Ti、Ca、Ba及びZn、合計3%までのナトリウム(Na)、カリウム(K)及びリチウム(Li)、4%までのアルミニウム(Al)、1%までのシリコン(Si)並びに合計で0−20%である塩素(Cl)、臭素(Br)及びヨウ素(I)から成るグループから選択された陰イオン修飾因子から成る。これらのガラスは、比較的低い転移温度(Tg)を有し、それはしばしば100度近傍の温度である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に含まれている米国特許第5,089,446号(発明者、コーネリアス氏他)は、スズ‐リン‐オキシフルオリドガラスに11%までの量のニオブ(Nb)を追加して、350度またはそれ以下の温度でフュージョンシーリングを形成可能なシーリングガラスを提供することを開示している。米国特許第4,314,031号及び第5,089,446号において開示されているガラスは、多くのシーリング用途において良好に機能するが、これらの特別なタイプの低温シーリングガラスにおける改良の要求は未だに存在する。この改良は本発明において行われる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タングステンドーピングされたスズ‐フルオロリン酸塩ガラスを提供し、それは、非常に良好な耐湿性、耐熱性を示しかつ低温シーリング用途に適応させる低ガラス転移温度(Tg)を有する。1つの用途において、タングステンドーピングされたスズ‐フルオロリン酸塩ガラスは、デバイス(例えばOLED)をカプセル化するために使用され得る。他の用途において、タングステンドーピングされたスズ‐フルオロリン酸塩ガラスは、フリットとして使用され、2つのプレート(例えば2つのガラスプレート)をシーリングし得る。さらに他の用途において、タングステンドーピングされたスズ−フルオロリン酸塩ガラスは、その一部が膨張して他のプレート(例えばガラスプレート)とのシーリングを形成する様な態様において加熱されるシーリングガラスとして使用され得る。好適なタングステンドーピングされたスズ‐フルオロリン酸塩ガラスは、元素ベースの重量%において、55‐75%のSn、4‐14%のP、6‐24%のO、4‐22%のF及び0.15‐15%のWから成る。
【0007】
本発明のさらに完全な理解は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することで得ることができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に従ったWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスの選択されたサンプルの重さ変化の割合の絶対値を示したグラフである。
【図2】本発明に従ったWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスの選択されたサンプルの、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tx)及び熱平衡温度(Tx−Tg)を示したグラフである。
【図3】本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得るカプセル化された製品の断面図である。
【図4A】図4Aは、選択された本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスにおいて実施された電子常磁性共鳴(EPR)の結果を示したグラフである。
【図4B】図4Bは、選択された本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスにおいて実施された電子常磁性共鳴(EPR)の結果を示したグラフである。
【図5A】図5Aは、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得るパッケージの平面図である。
【図5B】図5Bは、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得るパッケージの断面図である。
【図6A】図6Aは、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得る他のパッケージの平面図である。
【図6B】図6Bは、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得る他のパッケージの断面図である。
【図7A】図7Aは、公知のNb+WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスと本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを比較するための実験の結果である。
【図7B】図7Bは、公知のNb+WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスと本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを比較するための実験の結果である。
【図7C】図7Cは、公知のNb+WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスと本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを比較するための実験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
Sn‐フルオロリン酸塩バッチ組成へのタングステンの追加が、安定性がありかつ均質なガラスをもたらし、それらのいくつかは十分な化学的耐久性有し、バルクサンプルは、大気圧、85℃かつ相対湿度85%の湿潤雰囲気に1000時間暴露された後も変化しなかった。抜群の化学的耐久性に加えて、これらのガラスは、低いガラス転移温度を有し、その温度は100℃近傍であって通常は約50℃から約160℃であり、ドーピング無しのSn‐フルオロリン酸塩ガラスに匹敵する。さらに、Sn‐フルオロリン酸塩ガラスにタングステンを追加することで、基本的なSnO-SnF2‐P2O5系のガラス形成領域を拡張し、化学的耐久性を向上することを助成するさらに高いO/F比率を有する組成を含むこととなる。高いO/F比率のガラスを提供することの追加的な利点は、その結果として生じた色に関連し、この利点は、表1A‐1Bおいて特定されるWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスに関連して以下で詳しく議論される。
【0010】
ガラスを形成するために使用されるバッチ組成から計算された元素ベースの重量%において、本発明のガラスは、概して、55‐75%のSn、4‐14%のP、6‐24%のO、4−22%のF及び0.15‐15%のWを含む。これらの組成の限定は公称である。換言すれば、これらは融解前のバッチに組成であり、融解温度及び時間に依存し、さらに湿度にも依存する可能性もあり、最終的なガラス組成も異なり得る。例えば、少量のフッ素は、必ず損失するが、この損失は、低温度の融解及び/または短時間の融解によって最小化され得る。
【0011】
これらの新しいガラスは、ガラスを形成するために使用されるバッチ組成から計算された元素ベースの重量%において、58‐68%のSn、5‐11%のP、11‐21%のO、6‐13%のF及び1‐10%のWから成る好ましい組成を有し得る。さらに、これらの新しいガラスは、抜群の化学的耐久性を示す更に好ましい組成を有し、それはガラスを形成するために使用されるバッチ組成から計算された元素ベースの重量%において、59%から68%のSn、6‐11%のP、13‐20%のO、6‐11%のF及び1‐6%のWから成る。
【0012】
本発明の発明者は、いくつかの例示的なWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを製造しテストを行った。これらのサンプルのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスは、適切な量のSnO、SnF2、NH4H2PO4(リン酸二水素アンモニウム)及びH2WO4(タングステン酸)から成る25グラムのバッチ混合物を、ガラス質炭素(C)のるつぼの中で、15‐30分間、350‐425℃で融解させることで製造された。そして、融解したものは、真ちゅうの金型に注がれて急冷され、約3mmの厚さを有するガラスディスクが形成される。必要ならば、Sn2P2O7に限定されない、SnC2O4(シュウ酸スズ)、(NH4)2HPO4またはWO3の様な、Sn、O、F、P及びWの供給源が使用され得る。タングステン酸(H2WO4)は、三酸化タングステン(WO3)に比べて驚くほど上質のタングステン供給源であることがわかった。特に、H2WO4をタングステンの供給源として生成された板ガラスは、それらが上記の融解条件を使用して生成された場合、大体は均質でありかつ内包物がなかった。上記の融解条件を使用して生成された場合、同一の公称組成であるがタングステンの供給源としてWO3を使用すると、大体は内包物を有していた。
【0013】
以下の表1Aは、サンプルのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスのモル%の公称組成を示している。そして、表1Bは、サンプルのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスの生成に使用されたバッチ組成から計算された元素ベースの重量%の結果を示している。さらに、テーブル1Bは以下のことを示している。(1)O/F比率(バッチ組成から計算されたもの)、(2)WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスのサンプルの各々の外観すなわち色、(3)ガラス転移温度(Tg)(示差走査熱量測定法によって測定されたもの)、(4)選択された1つのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスの、温度85℃、相対湿度85%の湿潤雰囲気下に1000時間暴露された後の重量変化(Δwt)(ここで、Δwtは、結果的な重量上昇/減少を示しており、最初の重量に対する割合として表わされている)。
【0014】
【表1−1】
【0015】
【表1−2】
【0016】
【表1−3】
【0017】
注記:これらのサンプルガラスは、例えば0‐25%のPbの様な追加の組成物(群)を含むことも可能である。
【0018】
色の略記:db=ダークブルー、gb=緑がかった青、bg=青緑、ol=オリーブ色、br=茶色、v=濃色
【0019】
図1を参照すると、グラフが、サンプルとされたガラスが大気圧、85℃、相対湿度85%の湿潤雰囲気下に1000時間暴露された後のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスの選択されたサンプルの重量変化の割合の絶対値を示している(表1Aのガラスサンプル5‐6、8‐9、10‐12、16‐19、24‐26及び40を参照)。サンプルとされたWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスは、大気圧、85℃、相対湿度85%の雰囲気に1000時間暴露された後に、5%未満、しばしば1または2%未満及び多くの場合0.1または0.2%未満の重量上昇を示す。さらに、もっとも高い耐湿性を有するWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスは、もっとも高いSnO含有率であり、それ故にもっとも高いO/F比率である(表1Aのガラスサンプル5‐6、8‐9、16‐19及び24‐26を参照)。このグラフと表1Aを再度参照すると、任意の所与のP2O5濃度において、もっとも耐久性のあるガラスは、SnO含有量のもっとも高いものである。さらに、もっともSnOが多いガラスの物理的な外観(例えば表面光沢)は、大気圧、85℃、相対湿度85%の湿潤雰囲気に1000時間暴露された後も変わらないままであった。
【0020】
図2を参照すると、選択されたWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスであって、モル%で(40−x)のSnO、45のSnF2、15のP2O5及びxのWO3から成るバッチ組成から生成されたガラスのガラス転移温度(Tg)及び熱安定性温度(Tx−Tg)のグラフが示されている。グラフは、WO3濃度の上昇において、これらのWドーピングされたスズ‐フルオロリン酸塩ガラスのTxがTgよりも早く上昇したことを示している。結果として、これらのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスのTx−Tgすなわち結晶化温度とガラス転移温度との差によって評価される熱安定性も、WO3濃度の上昇に伴って上昇した。このことは、WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスが結晶化前にガラスの流動が必要なシーリング用途において非常に重要である。
【0021】
図2において、ガラス転移温度(Tg)は、加熱において材料が無定型固体またはガラスから過冷却液体に転移する点を示している。この温度は、材料が1013ポアズの粘度を有する点と対応するとして広く仮定でき、これは焼きなまし点と称されるものとおおよそ同一である。Txは、示差走査熱量測定法(DSC)によって測定された結晶化の開始温度であり、ガラスが失透を経ずに加熱され得る最大の温度を示している。Tx−Tgの差は、「ガラス安定性」すなわちガラスが結晶化せずに加熱され得る温度範囲の粗い評価である。Tx−Tgが大きくなると、ガラスを熱した時に達することが可能な粘性が低くなる(すなわち流動性が高くなる)。従って、とても小さなTx−Tgのガラスは、十分に低い粘度まで加熱することができないので、通常はシーリング目的には適当ではない。
【0022】
図1及び図2のグラフを再度参照すると、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスは、突出した耐湿性及び突出した熱安定性の両方を示し、それによって広範なシーリング/カプセル化用途における使用に対して良好に適されている。例えば、いくつかのシーリング/カプセル化用途は:(1)WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用してデバイス(例えば、OLED)をカプセル化すること;(2)WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスをフリットとして使用して2つのプレート(例えば、2つのガラスプレート)をシーリングすること;及び(3)WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを、その一部が膨張して基板プレート(例えば、ガラスプレート)とのシーリングを形成する態様で加熱されるシーリングガラスプレートとして使用することを含む。これらの例示的なシーリング/カプセル化用途の各々に関する詳細な議論は、図3から6に関連して以下で提供される。
【0023】
図3を参照すると、カプセル化された製品300の断面図が示されており、製品300は、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得る。図示されているように、カプセル化された製品300は、支持(基板)プレート302(例えば、ガラスプレート302)を含み、支持プレート302は、その上に堆積され/配されたデバイス304(例えば、OLED304)を有し、デバイス304は、WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306によってカプセル化されている。WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306によってカプセル化され得るデバイス304の異なったタイプのいくつかの例は、有機電子デバイス(例えば、OLED、PLED、光起電性素子、薄膜トランジスタ)、薄膜センサ、光電子デバイス(例えば、光スイッチ、導波路)、光起電デバイス、薄膜センサ、エバネッセント導波路センサ、食料品コンテナ及び医薬品コンテナ(関連する米国出願第11/207,691号を参照)を含む。
【0024】
カプセル化された製品300は、デバイス304及び支持(基板)プレート302(例えば、ガラスプレート302)の頂部上に、WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306を堆積/配することによって製造され得る。WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306は、例えばスパッタ、フラッシュ蒸着、スプレー(spraying)、鋳込み、フリット堆積、気相成長法(vapor-deposition)、浸漬コーティング、塗布(painting)、圧延(rolling)(WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスのフィルムを使用して)、スピンコーティング、同時蒸着、レーザアブレーション処理、またはこれらの組み合わせを含む様々なプロセスのいずれかを使用して堆積され得る。代替例として、同一または異なったタイプのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306の複数の層は、支持(基板)プレート302の頂部に配されるデバイス304上に堆積され(例えば、スパッタリングされ)得る。
【0025】
製造プロセスは、アニーリング(焼きなまし)、コンソリデート(consolidating)または熱処理ステップを含み得、これらは堆積ステップの間に形成されるWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306内の欠陥(例えば、気孔)を除去すべく実施される。WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306の比較的低いガラス転移温度(Tg)は、OLED304(または他のデバイス(群)304)の熱的なダメージを防止するのに十分に低い温度で熱処理されることが可能であることを意味している。必要ならば、堆積ステップ及び熱処理ステップは、真空または不活性雰囲気内で実施され得る。このことは、シーリングプロセス中の無水分状態及び無酸素状態を保証するべく行われるだろう。有機電子製品(例えば、OLED304)の劣化の無い堅牢(robust)で長寿命な動作が要求される場合に、特に重要である。
【0026】
1つの実施例において、WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306によってカプセル化されたデバイス304は、OLEDデバイス304であり得る。しかし、Sn‐フルオロリン酸塩ガラスにWを加えることは、W6+からW5+への予測される還元を原因とする強力な光吸収の故に、OLEDのカプセル化には適さないガラスをもたらすと考えられていた。特に、通常のガラス組成にWが加えられた場合、Wは、部分的に低い酸化状態W5+に還元されて、主材料を暗い青色にするだろうことが知られていた。実際、この色は通常は、主材料が黒く見えるほど強い(注記:黒色は、他のタイプのカプセル化/シーリング用途の問題にはならないであろう)。しかし、Sn‐フルオロリン酸塩ガラスへのタングステンの追加は、基本のSnO‐SnF2‐P2O5系のガラス形成領域を拡張して、高いO/F比率を有する組成を含み、このことは、形成されたWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306の色に影響を与えた。例えば、フッ素の多いWドーピングされたSn‐フルオロイン酸塩ガラス306は、通常は非常に暗い青色である。対照的に、酸素の多いWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306は、予想されていなかった光透過特性がある淡いオリーブ色であり、これは、OLED304の使用の様な、発光用途に良好に適している。
【0027】
Oの豊富なWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306色合いから、そのW5+の濃度が、Fの豊富なWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306のW5+よりも著しく低いに違いないことが明らかである。このことは、WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306の選択されたサンプルの電子常磁性共鳴(EPR)測定によって確認されている。図4Aは、1つのセットのEPR測定の結果を示しており、それらは、P2O5を15%含有しているWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306の選択されたサンプルを使用して為された。これらのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306のモル組成は、以下の表2において示されている。
【0028】
【表2】
【0029】
このグラフ及び表2を再度見た上で、結果は、一定な15%のP2O5濃度及び一定なWドーピングレベルにおいて、還元されたWすなわちW5+の割合はFの含有量の上昇と共に上昇し、このことは、淡茶色(最も酸化された)から濃い暗青色(最も還元された)への色合いにおける変化と相互に関連していることを示す結果となった。
【0030】
図4Bは、他のセットのEPR測定の結果を示しており、それらはSnF2を40%含有しているWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306の選択されたサンプルを使用して為された。これらのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306のモル組成は、以下の表3において示されている。
【0031】
【表3】
【0032】
このグラフ及び表3を再度参照すると、結果は、一定の40%のSnF2濃度及び固定されたWドーピングレベルにおいて、還元されたWの割合は、P2O5の含有量の上昇とともに指数関数的に上昇し、淡茶色(最も酸化された)から非常に暗い青色(最も還元された)への色合いにおける変化と関連している。
【0033】
これらの結果は、一番強度の弱い色のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306は、組成範囲におけるP2O5含有量が最も低いものとなることを示している。さらに、一番強度の弱い色のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306は、もっとも高いO/F比率を有するものであり、従って最も耐久性を有するものであることを示す。1つの実施例において、好ましい、Oの豊富なWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306は、0.85よりも大きいO/F比率を有しかつSn(58‐68重量%)、P(5‐11重量%)、O(11‐21重量%)、F(6‐13重量%)及びW(1−10重量%)から組成されている。
【0034】
図5A及び図5Bを参照すると、パッケージ500の2つの異なった図が示されており、当該パッケージ500は、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得る。図示されているように、パッケージ500は、第1のプレート502(例えば、ガラスプレート502)、第2のプレート504(例えば、ガラスプレート504)及びフリット506(WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスから形成されているもの)を含む。パッケージ500は、第1のプレート502及び第2のプレート504を選択し、第2の基板プレート504上にフリット506を堆積することによって製造され得る。その後、OLED508(または他のデバイス(群)508)が、第1のプレート502上に設けられる。その後、熱源510(例えば、レーザ510、赤外線510)が使用されて、フリット506が熱せられて融解し、それが密封シーリングを形成して、第1のプレート502と第2のプレート504とを接合しかつOLED508(または他のデバイス(群)508)を保護する。フリット508(WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスから形成されたもの)の比較的に低いガラス転移温度(Tg)は、フリット508が融解して、その時のOLED508(またはその他のデバイス(群)508)の熱的ダメージを防止しつつ密封シーリングを形成し得ることを意味する。
【0035】
図6A及び図6Bを参照すると、パッケージ600の2つの異なった図が示されており、当該パッケージ600は、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得る。図示されているように、パッケージ600は、第1のプレート602(例えば、ガラスプレート602)、第2のプレート604(WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスから形成されているもの)を含む。パッケージ600は、第1のプレート602及び第2のシーリングプレート604を選択し、第1のプレート602上にPLED(または他のデバイス(群)606)を設けることによって製造され得る。その後、熱源610(例えば、レーザ510、赤外線510)が使用されて、第2のシーリングプレートがその一部が膨張して密封シーリング608を形成するような態様で熱せられ、当該シーリング608が第1のプレート602と第2のシーリングプレート604を接合しかつOLED606(または他のデバイス(群)606)を保護する。第2のシーリングプレート604(WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスから形成されたもの)の比較的に低いガラス転移温度(Tg)は、その一部が融解して、その時のOLED508(またはその他のデバイス(群)508)の熱的ダメージを防止しつつ密封シーリングを形成し得ることを意味する。
【0036】
米国特許第5,089,446号(発明者、コーネリアス氏他)が、タングステンを含んでいた単一のガラス組成(米国特許第5,089,446号の表1B内の要素16を参照)を開示していることに注意すべきである。この特別なガラス組成は、元素ベースの重量%で、48.5%のSn、8.0%のP、6.6%のNb、3.3%のPb、5.9%のW、10.5%のF及び17.1%のOを含む。結果としてもたらされたガラスは、黒色の外見を有しており、ガラス転移温度は187℃でかつシーリング温度は345℃である。本発明の発明者は、実験を実施し、公知のNb+WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス(コーネリアス氏他の文献内の要素16と同様の)と本発明に従ったWだけがドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスとを比較した。
【0037】
コーネリアス氏他の文献において要素16として開示されたNb+WドーピングされたSnフルオロリン酸塩ガラスは、構成要素基準のモル%で、23.9のSnO、41.9のSnF2、2.58のPbF2、20.7のP2O5、5.70のNb2O5及び5.18のWO3から成る。テストされたNb+Wドーピングガラスの配合において、PbF2は、同量のSnF2に変更され、Nb2O5及びWO3の量は半分にされ、WO3ドーピングレベル2.5%と同等として透過率測定を可能とした(5%のドーピングは非常に暗いサンプルをもたらすだろう)。これによって、30のSnO、45のSnF2、20のP2O5、2.5のNb2O5及び2.5のWO3のモル組成比を有するNb+Wドーピングガラスをもたらした。対照的に、本発明のWドーピングガラスは、32.5のSnO、45のSnF2、20のP2O5及び2.5のWO3のモル組成比を有する。
【0038】
これらの2つのガラス組成は、典型的な試薬のグラムに換算されて以下のバッチを得る:(1)Nb+Wドーピングガラスは、5.95のSnO、10.39のSnF2、6.83のNH4H2PO4、0.92のH2WO4、0.98のNb2O5を含み;(2)Wドーピングガラスは、6.57のSnO、10.59のSnF2、6.97のNH4H2PO4、0.94のH2WO4、0のNb2O5を含む。これらの2つのバッチは、各々混合されてガラス質炭素(C)るつぼ内で20分、400℃で融解され、鋼のプレート上に鋳込みを行うことによって急冷する。Wドーピングガラスが均質の暗青色のガラスである一方で、Nb+Wドーピングガラスは、多数の0.1mm以下の白い内包物を含む不均質な青灰色の不透明な材料であった。当該2つのサンプルは、DSCによってテストされ、Wドーピングガラスは、図7Aのグラフ内に示された97.1℃の開始温度を有するガラス転移に対応する単一の吸熱特性を示す。対照的に、図7B内に示されたNb+Wドーピングガラスのスキャンは、一方が123℃で他方が204.9℃の2つのTgに対応する2つの吸熱特性を示し、このことは、巨視的な含有物の観点から見て不均質なだけではなく、微視的なスケールにおいても不均質であることを示している。
【0039】
Nb+Wドーピングガラスは、2つの混ざり合ったガラスから成っており、一方が比較的低い123℃のTgを有し、他方は著しく高い205℃のTgを有すると考えられた。このことは、両方のガラスサンプルを200度まで加熱して、その温度で30分保持して熱平衡に到達させ、その後、金属ロッドで押してそれらの柔軟性または流動性することで確認された。Wドーピングガラスが容易に押し込まれた一方で、Nb+Wドーピングガラスは、その高い第2のTgの考慮において予想されただろう影響を受けなかった。
【0040】
次に、両方のガラスサンプルの2mmまでの厚さの研磨されたプレートの透過率を測定した。図7Cに見られるように、Nb+Wドーピングガラスは、示された範囲において明らかに不透明である一方で、Wドーピングガラスは、大きな厚さの故に弱いながらも透過させて、特有の青い色を発した。どちらのガラスサンプルも、可視スペクトルの赤色部分の長い波長は透過させなかった。結論として、この実験は、コーネリアス氏他の文献内の要素16に関連するNb+Wドーピングガラスは、Nbを含む結晶の存在の故に均質ではない(最良で半透明だがほぼ不透明)示した。これは、これらのSnフルオロリン酸塩ガラスにおいて、Nbに部分的に溶解性があるだけであるからである。対照的に、本発明のガラス組成は均質であり、この特別な問題の影響を受けない。なぜならば、部分的に溶解性があるNbを含まないからである。
【0041】
本発明の1つの実施例が、添付図内で図示されて上述の詳細な説明内に記載されているが、本発明が、開示された実施例に限定されず、説明されかつ以下の特許請求の範囲によって画定される本発明の趣旨から離れることなく多数の再構成、変更及び置換が可能であることが理解されるべきである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物に関し、特に、タングステン(W)がドーピングされたスズ−フルオロリン酸塩ガラス組成物に関し、これらはフュージョン(fusion)タイプのシーリングに使用され得、例えば、酸素及び湿気の通過を抑制/阻止することが重要なOLED(有機発光ダイオード)または他のデバイスに使用される。
【背景技術】
【0002】
フュージョンすなわちガラス質タイプのシーリングにおいて、シーリング材は、溶融され軟化されまたは融解されて、塗布される表面に流れ込みかつそこをぬらすべきである。グレージング(glazing)またはエナメリング(enameling)において、溶融シーリング材は、単一のシーリング面に塗布されても良い。代替例として、シーリング材は、対向する2つの面を接合するために使用されても良い。その結果は、中間シールまたは接合と称される。
【0003】
フュージョンタイプのシーリングを形成するために使用されるシーリング材は、シーリング表面をぬらして密閉接着を形成するのに十分なまで軟化する温度まで加熱されるべきである。多くの目的のために、シーリング温度をできるだけ低く維持するのが望ましい。このことは、シーリング材が熱的に繊細な部品を使用する電気及び電子製品をシーリングするために使用される場合に特に良く当てはまる。従って、低い転移温度を有するガラスに可能な限りの注意が注がれる。なぜならば、この特性は、これらのものをシーリング材として使用されるのに適したものにするからである。ガラスの転移温度(Tg)は、ガラスが固体状態から液体状態に遷移するとみなされる温度である。
【0004】
本願に含まれている米国特許第4,314,031号(発明者、サンドフォード氏他)の内容は、スズ‐リン‐オキシフルオリドガラスとして知られている低温シーリングガラスを開示している。これらのガラスは、元素ベースの重量%で、スズ(Sn)20‐85%、リン(P)2‐20%、酸素(O)3‐20%、フッ素(F)10‐36%であって、Sn、P、O及びFの合計が少なくとも75%である。さらに、これらのガラスは、25%までの鉛、12%までのジルコニウム(Zr)、10%までの鉄(Fe)、3%までのチタン(Ti)、1%までのカルシウム(Ca)、3%までのバリウム(Ba)2%までの亜鉛(Zn)、合計12%までのFe、Ti、Ca、Ba及びZn、合計3%までのナトリウム(Na)、カリウム(K)及びリチウム(Li)、4%までのアルミニウム(Al)、1%までのシリコン(Si)並びに合計で0−20%である塩素(Cl)、臭素(Br)及びヨウ素(I)から成るグループから選択された陰イオン修飾因子から成る。これらのガラスは、比較的低い転移温度(Tg)を有し、それはしばしば100度近傍の温度である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に含まれている米国特許第5,089,446号(発明者、コーネリアス氏他)は、スズ‐リン‐オキシフルオリドガラスに11%までの量のニオブ(Nb)を追加して、350度またはそれ以下の温度でフュージョンシーリングを形成可能なシーリングガラスを提供することを開示している。米国特許第4,314,031号及び第5,089,446号において開示されているガラスは、多くのシーリング用途において良好に機能するが、これらの特別なタイプの低温シーリングガラスにおける改良の要求は未だに存在する。この改良は本発明において行われる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タングステンドーピングされたスズ‐フルオロリン酸塩ガラスを提供し、それは、非常に良好な耐湿性、耐熱性を示しかつ低温シーリング用途に適応させる低ガラス転移温度(Tg)を有する。1つの用途において、タングステンドーピングされたスズ‐フルオロリン酸塩ガラスは、デバイス(例えばOLED)をカプセル化するために使用され得る。他の用途において、タングステンドーピングされたスズ‐フルオロリン酸塩ガラスは、フリットとして使用され、2つのプレート(例えば2つのガラスプレート)をシーリングし得る。さらに他の用途において、タングステンドーピングされたスズ−フルオロリン酸塩ガラスは、その一部が膨張して他のプレート(例えばガラスプレート)とのシーリングを形成する様な態様において加熱されるシーリングガラスとして使用され得る。好適なタングステンドーピングされたスズ‐フルオロリン酸塩ガラスは、元素ベースの重量%において、55‐75%のSn、4‐14%のP、6‐24%のO、4‐22%のF及び0.15‐15%のWから成る。
【0007】
本発明のさらに完全な理解は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することで得ることができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に従ったWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスの選択されたサンプルの重さ変化の割合の絶対値を示したグラフである。
【図2】本発明に従ったWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスの選択されたサンプルの、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tx)及び熱平衡温度(Tx−Tg)を示したグラフである。
【図3】本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得るカプセル化された製品の断面図である。
【図4A】図4Aは、選択された本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスにおいて実施された電子常磁性共鳴(EPR)の結果を示したグラフである。
【図4B】図4Bは、選択された本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスにおいて実施された電子常磁性共鳴(EPR)の結果を示したグラフである。
【図5A】図5Aは、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得るパッケージの平面図である。
【図5B】図5Bは、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得るパッケージの断面図である。
【図6A】図6Aは、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得る他のパッケージの平面図である。
【図6B】図6Bは、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得る他のパッケージの断面図である。
【図7A】図7Aは、公知のNb+WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスと本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを比較するための実験の結果である。
【図7B】図7Bは、公知のNb+WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスと本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを比較するための実験の結果である。
【図7C】図7Cは、公知のNb+WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスと本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを比較するための実験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
Sn‐フルオロリン酸塩バッチ組成へのタングステンの追加が、安定性がありかつ均質なガラスをもたらし、それらのいくつかは十分な化学的耐久性有し、バルクサンプルは、大気圧、85℃かつ相対湿度85%の湿潤雰囲気に1000時間暴露された後も変化しなかった。抜群の化学的耐久性に加えて、これらのガラスは、低いガラス転移温度を有し、その温度は100℃近傍であって通常は約50℃から約160℃であり、ドーピング無しのSn‐フルオロリン酸塩ガラスに匹敵する。さらに、Sn‐フルオロリン酸塩ガラスにタングステンを追加することで、基本的なSnO-SnF2‐P2O5系のガラス形成領域を拡張し、化学的耐久性を向上することを助成するさらに高いO/F比率を有する組成を含むこととなる。高いO/F比率のガラスを提供することの追加的な利点は、その結果として生じた色に関連し、この利点は、表1A‐1Bおいて特定されるWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスに関連して以下で詳しく議論される。
【0010】
ガラスを形成するために使用されるバッチ組成から計算された元素ベースの重量%において、本発明のガラスは、概して、55‐75%のSn、4‐14%のP、6‐24%のO、4−22%のF及び0.15‐15%のWを含む。これらの組成の限定は公称である。換言すれば、これらは融解前のバッチに組成であり、融解温度及び時間に依存し、さらに湿度にも依存する可能性もあり、最終的なガラス組成も異なり得る。例えば、少量のフッ素は、必ず損失するが、この損失は、低温度の融解及び/または短時間の融解によって最小化され得る。
【0011】
これらの新しいガラスは、ガラスを形成するために使用されるバッチ組成から計算された元素ベースの重量%において、58‐68%のSn、5‐11%のP、11‐21%のO、6‐13%のF及び1‐10%のWから成る好ましい組成を有し得る。さらに、これらの新しいガラスは、抜群の化学的耐久性を示す更に好ましい組成を有し、それはガラスを形成するために使用されるバッチ組成から計算された元素ベースの重量%において、59%から68%のSn、6‐11%のP、13‐20%のO、6‐11%のF及び1‐6%のWから成る。
【0012】
本発明の発明者は、いくつかの例示的なWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを製造しテストを行った。これらのサンプルのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスは、適切な量のSnO、SnF2、NH4H2PO4(リン酸二水素アンモニウム)及びH2WO4(タングステン酸)から成る25グラムのバッチ混合物を、ガラス質炭素(C)のるつぼの中で、15‐30分間、350‐425℃で融解させることで製造された。そして、融解したものは、真ちゅうの金型に注がれて急冷され、約3mmの厚さを有するガラスディスクが形成される。必要ならば、Sn2P2O7に限定されない、SnC2O4(シュウ酸スズ)、(NH4)2HPO4またはWO3の様な、Sn、O、F、P及びWの供給源が使用され得る。タングステン酸(H2WO4)は、三酸化タングステン(WO3)に比べて驚くほど上質のタングステン供給源であることがわかった。特に、H2WO4をタングステンの供給源として生成された板ガラスは、それらが上記の融解条件を使用して生成された場合、大体は均質でありかつ内包物がなかった。上記の融解条件を使用して生成された場合、同一の公称組成であるがタングステンの供給源としてWO3を使用すると、大体は内包物を有していた。
【0013】
以下の表1Aは、サンプルのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスのモル%の公称組成を示している。そして、表1Bは、サンプルのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスの生成に使用されたバッチ組成から計算された元素ベースの重量%の結果を示している。さらに、テーブル1Bは以下のことを示している。(1)O/F比率(バッチ組成から計算されたもの)、(2)WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスのサンプルの各々の外観すなわち色、(3)ガラス転移温度(Tg)(示差走査熱量測定法によって測定されたもの)、(4)選択された1つのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスの、温度85℃、相対湿度85%の湿潤雰囲気下に1000時間暴露された後の重量変化(Δwt)(ここで、Δwtは、結果的な重量上昇/減少を示しており、最初の重量に対する割合として表わされている)。
【0014】
【表1−1】
【0015】
【表1−2】
【0016】
【表1−3】
【0017】
注記:これらのサンプルガラスは、例えば0‐25%のPbの様な追加の組成物(群)を含むことも可能である。
【0018】
色の略記:db=ダークブルー、gb=緑がかった青、bg=青緑、ol=オリーブ色、br=茶色、v=濃色
【0019】
図1を参照すると、グラフが、サンプルとされたガラスが大気圧、85℃、相対湿度85%の湿潤雰囲気下に1000時間暴露された後のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスの選択されたサンプルの重量変化の割合の絶対値を示している(表1Aのガラスサンプル5‐6、8‐9、10‐12、16‐19、24‐26及び40を参照)。サンプルとされたWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスは、大気圧、85℃、相対湿度85%の雰囲気に1000時間暴露された後に、5%未満、しばしば1または2%未満及び多くの場合0.1または0.2%未満の重量上昇を示す。さらに、もっとも高い耐湿性を有するWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスは、もっとも高いSnO含有率であり、それ故にもっとも高いO/F比率である(表1Aのガラスサンプル5‐6、8‐9、16‐19及び24‐26を参照)。このグラフと表1Aを再度参照すると、任意の所与のP2O5濃度において、もっとも耐久性のあるガラスは、SnO含有量のもっとも高いものである。さらに、もっともSnOが多いガラスの物理的な外観(例えば表面光沢)は、大気圧、85℃、相対湿度85%の湿潤雰囲気に1000時間暴露された後も変わらないままであった。
【0020】
図2を参照すると、選択されたWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスであって、モル%で(40−x)のSnO、45のSnF2、15のP2O5及びxのWO3から成るバッチ組成から生成されたガラスのガラス転移温度(Tg)及び熱安定性温度(Tx−Tg)のグラフが示されている。グラフは、WO3濃度の上昇において、これらのWドーピングされたスズ‐フルオロリン酸塩ガラスのTxがTgよりも早く上昇したことを示している。結果として、これらのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスのTx−Tgすなわち結晶化温度とガラス転移温度との差によって評価される熱安定性も、WO3濃度の上昇に伴って上昇した。このことは、WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスが結晶化前にガラスの流動が必要なシーリング用途において非常に重要である。
【0021】
図2において、ガラス転移温度(Tg)は、加熱において材料が無定型固体またはガラスから過冷却液体に転移する点を示している。この温度は、材料が1013ポアズの粘度を有する点と対応するとして広く仮定でき、これは焼きなまし点と称されるものとおおよそ同一である。Txは、示差走査熱量測定法(DSC)によって測定された結晶化の開始温度であり、ガラスが失透を経ずに加熱され得る最大の温度を示している。Tx−Tgの差は、「ガラス安定性」すなわちガラスが結晶化せずに加熱され得る温度範囲の粗い評価である。Tx−Tgが大きくなると、ガラスを熱した時に達することが可能な粘性が低くなる(すなわち流動性が高くなる)。従って、とても小さなTx−Tgのガラスは、十分に低い粘度まで加熱することができないので、通常はシーリング目的には適当ではない。
【0022】
図1及び図2のグラフを再度参照すると、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスは、突出した耐湿性及び突出した熱安定性の両方を示し、それによって広範なシーリング/カプセル化用途における使用に対して良好に適されている。例えば、いくつかのシーリング/カプセル化用途は:(1)WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用してデバイス(例えば、OLED)をカプセル化すること;(2)WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスをフリットとして使用して2つのプレート(例えば、2つのガラスプレート)をシーリングすること;及び(3)WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを、その一部が膨張して基板プレート(例えば、ガラスプレート)とのシーリングを形成する態様で加熱されるシーリングガラスプレートとして使用することを含む。これらの例示的なシーリング/カプセル化用途の各々に関する詳細な議論は、図3から6に関連して以下で提供される。
【0023】
図3を参照すると、カプセル化された製品300の断面図が示されており、製品300は、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得る。図示されているように、カプセル化された製品300は、支持(基板)プレート302(例えば、ガラスプレート302)を含み、支持プレート302は、その上に堆積され/配されたデバイス304(例えば、OLED304)を有し、デバイス304は、WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306によってカプセル化されている。WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306によってカプセル化され得るデバイス304の異なったタイプのいくつかの例は、有機電子デバイス(例えば、OLED、PLED、光起電性素子、薄膜トランジスタ)、薄膜センサ、光電子デバイス(例えば、光スイッチ、導波路)、光起電デバイス、薄膜センサ、エバネッセント導波路センサ、食料品コンテナ及び医薬品コンテナ(関連する米国出願第11/207,691号を参照)を含む。
【0024】
カプセル化された製品300は、デバイス304及び支持(基板)プレート302(例えば、ガラスプレート302)の頂部上に、WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306を堆積/配することによって製造され得る。WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306は、例えばスパッタ、フラッシュ蒸着、スプレー(spraying)、鋳込み、フリット堆積、気相成長法(vapor-deposition)、浸漬コーティング、塗布(painting)、圧延(rolling)(WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスのフィルムを使用して)、スピンコーティング、同時蒸着、レーザアブレーション処理、またはこれらの組み合わせを含む様々なプロセスのいずれかを使用して堆積され得る。代替例として、同一または異なったタイプのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306の複数の層は、支持(基板)プレート302の頂部に配されるデバイス304上に堆積され(例えば、スパッタリングされ)得る。
【0025】
製造プロセスは、アニーリング(焼きなまし)、コンソリデート(consolidating)または熱処理ステップを含み得、これらは堆積ステップの間に形成されるWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306内の欠陥(例えば、気孔)を除去すべく実施される。WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306の比較的低いガラス転移温度(Tg)は、OLED304(または他のデバイス(群)304)の熱的なダメージを防止するのに十分に低い温度で熱処理されることが可能であることを意味している。必要ならば、堆積ステップ及び熱処理ステップは、真空または不活性雰囲気内で実施され得る。このことは、シーリングプロセス中の無水分状態及び無酸素状態を保証するべく行われるだろう。有機電子製品(例えば、OLED304)の劣化の無い堅牢(robust)で長寿命な動作が要求される場合に、特に重要である。
【0026】
1つの実施例において、WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306によってカプセル化されたデバイス304は、OLEDデバイス304であり得る。しかし、Sn‐フルオロリン酸塩ガラスにWを加えることは、W6+からW5+への予測される還元を原因とする強力な光吸収の故に、OLEDのカプセル化には適さないガラスをもたらすと考えられていた。特に、通常のガラス組成にWが加えられた場合、Wは、部分的に低い酸化状態W5+に還元されて、主材料を暗い青色にするだろうことが知られていた。実際、この色は通常は、主材料が黒く見えるほど強い(注記:黒色は、他のタイプのカプセル化/シーリング用途の問題にはならないであろう)。しかし、Sn‐フルオロリン酸塩ガラスへのタングステンの追加は、基本のSnO‐SnF2‐P2O5系のガラス形成領域を拡張して、高いO/F比率を有する組成を含み、このことは、形成されたWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306の色に影響を与えた。例えば、フッ素の多いWドーピングされたSn‐フルオロイン酸塩ガラス306は、通常は非常に暗い青色である。対照的に、酸素の多いWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306は、予想されていなかった光透過特性がある淡いオリーブ色であり、これは、OLED304の使用の様な、発光用途に良好に適している。
【0027】
Oの豊富なWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306色合いから、そのW5+の濃度が、Fの豊富なWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306のW5+よりも著しく低いに違いないことが明らかである。このことは、WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306の選択されたサンプルの電子常磁性共鳴(EPR)測定によって確認されている。図4Aは、1つのセットのEPR測定の結果を示しており、それらは、P2O5を15%含有しているWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306の選択されたサンプルを使用して為された。これらのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306のモル組成は、以下の表2において示されている。
【0028】
【表2】
【0029】
このグラフ及び表2を再度見た上で、結果は、一定な15%のP2O5濃度及び一定なWドーピングレベルにおいて、還元されたWすなわちW5+の割合はFの含有量の上昇と共に上昇し、このことは、淡茶色(最も酸化された)から濃い暗青色(最も還元された)への色合いにおける変化と相互に関連していることを示す結果となった。
【0030】
図4Bは、他のセットのEPR測定の結果を示しており、それらはSnF2を40%含有しているWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306の選択されたサンプルを使用して為された。これらのWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306のモル組成は、以下の表3において示されている。
【0031】
【表3】
【0032】
このグラフ及び表3を再度参照すると、結果は、一定の40%のSnF2濃度及び固定されたWドーピングレベルにおいて、還元されたWの割合は、P2O5の含有量の上昇とともに指数関数的に上昇し、淡茶色(最も酸化された)から非常に暗い青色(最も還元された)への色合いにおける変化と関連している。
【0033】
これらの結果は、一番強度の弱い色のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306は、組成範囲におけるP2O5含有量が最も低いものとなることを示している。さらに、一番強度の弱い色のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306は、もっとも高いO/F比率を有するものであり、従って最も耐久性を有するものであることを示す。1つの実施例において、好ましい、Oの豊富なWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス306は、0.85よりも大きいO/F比率を有しかつSn(58‐68重量%)、P(5‐11重量%)、O(11‐21重量%)、F(6‐13重量%)及びW(1−10重量%)から組成されている。
【0034】
図5A及び図5Bを参照すると、パッケージ500の2つの異なった図が示されており、当該パッケージ500は、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得る。図示されているように、パッケージ500は、第1のプレート502(例えば、ガラスプレート502)、第2のプレート504(例えば、ガラスプレート504)及びフリット506(WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスから形成されているもの)を含む。パッケージ500は、第1のプレート502及び第2のプレート504を選択し、第2の基板プレート504上にフリット506を堆積することによって製造され得る。その後、OLED508(または他のデバイス(群)508)が、第1のプレート502上に設けられる。その後、熱源510(例えば、レーザ510、赤外線510)が使用されて、フリット506が熱せられて融解し、それが密封シーリングを形成して、第1のプレート502と第2のプレート504とを接合しかつOLED508(または他のデバイス(群)508)を保護する。フリット508(WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスから形成されたもの)の比較的に低いガラス転移温度(Tg)は、フリット508が融解して、その時のOLED508(またはその他のデバイス(群)508)の熱的ダメージを防止しつつ密封シーリングを形成し得ることを意味する。
【0035】
図6A及び図6Bを参照すると、パッケージ600の2つの異なった図が示されており、当該パッケージ600は、本発明のWドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスを使用して形成され得る。図示されているように、パッケージ600は、第1のプレート602(例えば、ガラスプレート602)、第2のプレート604(WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスから形成されているもの)を含む。パッケージ600は、第1のプレート602及び第2のシーリングプレート604を選択し、第1のプレート602上にPLED(または他のデバイス(群)606)を設けることによって製造され得る。その後、熱源610(例えば、レーザ510、赤外線510)が使用されて、第2のシーリングプレートがその一部が膨張して密封シーリング608を形成するような態様で熱せられ、当該シーリング608が第1のプレート602と第2のシーリングプレート604を接合しかつOLED606(または他のデバイス(群)606)を保護する。第2のシーリングプレート604(WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスから形成されたもの)の比較的に低いガラス転移温度(Tg)は、その一部が融解して、その時のOLED508(またはその他のデバイス(群)508)の熱的ダメージを防止しつつ密封シーリングを形成し得ることを意味する。
【0036】
米国特許第5,089,446号(発明者、コーネリアス氏他)が、タングステンを含んでいた単一のガラス組成(米国特許第5,089,446号の表1B内の要素16を参照)を開示していることに注意すべきである。この特別なガラス組成は、元素ベースの重量%で、48.5%のSn、8.0%のP、6.6%のNb、3.3%のPb、5.9%のW、10.5%のF及び17.1%のOを含む。結果としてもたらされたガラスは、黒色の外見を有しており、ガラス転移温度は187℃でかつシーリング温度は345℃である。本発明の発明者は、実験を実施し、公知のNb+WドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラス(コーネリアス氏他の文献内の要素16と同様の)と本発明に従ったWだけがドーピングされたSn‐フルオロリン酸塩ガラスとを比較した。
【0037】
コーネリアス氏他の文献において要素16として開示されたNb+WドーピングされたSnフルオロリン酸塩ガラスは、構成要素基準のモル%で、23.9のSnO、41.9のSnF2、2.58のPbF2、20.7のP2O5、5.70のNb2O5及び5.18のWO3から成る。テストされたNb+Wドーピングガラスの配合において、PbF2は、同量のSnF2に変更され、Nb2O5及びWO3の量は半分にされ、WO3ドーピングレベル2.5%と同等として透過率測定を可能とした(5%のドーピングは非常に暗いサンプルをもたらすだろう)。これによって、30のSnO、45のSnF2、20のP2O5、2.5のNb2O5及び2.5のWO3のモル組成比を有するNb+Wドーピングガラスをもたらした。対照的に、本発明のWドーピングガラスは、32.5のSnO、45のSnF2、20のP2O5及び2.5のWO3のモル組成比を有する。
【0038】
これらの2つのガラス組成は、典型的な試薬のグラムに換算されて以下のバッチを得る:(1)Nb+Wドーピングガラスは、5.95のSnO、10.39のSnF2、6.83のNH4H2PO4、0.92のH2WO4、0.98のNb2O5を含み;(2)Wドーピングガラスは、6.57のSnO、10.59のSnF2、6.97のNH4H2PO4、0.94のH2WO4、0のNb2O5を含む。これらの2つのバッチは、各々混合されてガラス質炭素(C)るつぼ内で20分、400℃で融解され、鋼のプレート上に鋳込みを行うことによって急冷する。Wドーピングガラスが均質の暗青色のガラスである一方で、Nb+Wドーピングガラスは、多数の0.1mm以下の白い内包物を含む不均質な青灰色の不透明な材料であった。当該2つのサンプルは、DSCによってテストされ、Wドーピングガラスは、図7Aのグラフ内に示された97.1℃の開始温度を有するガラス転移に対応する単一の吸熱特性を示す。対照的に、図7B内に示されたNb+Wドーピングガラスのスキャンは、一方が123℃で他方が204.9℃の2つのTgに対応する2つの吸熱特性を示し、このことは、巨視的な含有物の観点から見て不均質なだけではなく、微視的なスケールにおいても不均質であることを示している。
【0039】
Nb+Wドーピングガラスは、2つの混ざり合ったガラスから成っており、一方が比較的低い123℃のTgを有し、他方は著しく高い205℃のTgを有すると考えられた。このことは、両方のガラスサンプルを200度まで加熱して、その温度で30分保持して熱平衡に到達させ、その後、金属ロッドで押してそれらの柔軟性または流動性することで確認された。Wドーピングガラスが容易に押し込まれた一方で、Nb+Wドーピングガラスは、その高い第2のTgの考慮において予想されただろう影響を受けなかった。
【0040】
次に、両方のガラスサンプルの2mmまでの厚さの研磨されたプレートの透過率を測定した。図7Cに見られるように、Nb+Wドーピングガラスは、示された範囲において明らかに不透明である一方で、Wドーピングガラスは、大きな厚さの故に弱いながらも透過させて、特有の青い色を発した。どちらのガラスサンプルも、可視スペクトルの赤色部分の長い波長は透過させなかった。結論として、この実験は、コーネリアス氏他の文献内の要素16に関連するNb+Wドーピングガラスは、Nbを含む結晶の存在の故に均質ではない(最良で半透明だがほぼ不透明)示した。これは、これらのSnフルオロリン酸塩ガラスにおいて、Nbに部分的に溶解性があるだけであるからである。対照的に、本発明のガラス組成は均質であり、この特別な問題の影響を受けない。なぜならば、部分的に溶解性があるNbを含まないからである。
【0041】
本発明の1つの実施例が、添付図内で図示されて上述の詳細な説明内に記載されているが、本発明が、開示された実施例に限定されず、説明されかつ以下の特許請求の範囲によって画定される本発明の趣旨から離れることなく多数の再構成、変更及び置換が可能であることが理解されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
均質ガラスであって、
Sn(55‐75重量%)と、
P(4‐14重量%)と、
O(6‐24重量%)と、
F(4‐22重量%)と、
W(0.5‐15重量%)と、
を含み、
ガラス転移温度Tgが160℃よりも低いことを特徴とするガラス。
【請求項2】
請求項1記載の均質ガラスであって、前記Wの供給源がタングステン酸(H2WO4)であることを特徴とするガラス。
【請求項3】
請求項1記載の均質ガラスであって、発光デバイスのシーリングに適した淡い色を有していることを特徴とするガラス。
【請求項4】
請求項1記載の均質ガラスであって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(58‐68重量%)と、
P(5‐11重量%)と、
O(11‐21重量%)と、
F(6‐13重量%)と、
W(1‐10重量%)と、
の好ましい組成を有することを特徴とするガラス。
【請求項5】
請求項1記載の均質ガラスであって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(59‐68重量%)と、
P(6‐11重量%)と、
O(13‐20重量%)と、
F(6‐11重量%)と、
W(1‐6重量%)と、
の好ましい組成を有することを特徴とするガラス。
【請求項6】
請求項1記載の均質ガラスであって、大気圧、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気に少なくとも1000時間暴露された後に2%よりも小さい重量増加を有することを特徴とするガラス。
【請求項7】
カプセル化された製品であって、
元素ベースの重量%で、55‐75%のSnと、4‐14%のPと、6‐24%のO、4‐22%のFと、0.15−15%のWとを含む均質ガラス内にカプセル化されたデバイスを含み、前記均質ガラスが160℃よりも低いガラス転移温度Tgを有することを特徴とする製品。
【請求項8】
請求項7記載のカプセル化された製品であって、前記Wの供給源がタングステン酸(H2WO4)であることを特徴とする製品。
【請求項9】
請求項7記載のカプセル化された製品であって、前記デバイスが、
OLED、PLED、光起電性素子及び薄膜トランジスタを含む有機電子デバイス、
薄膜センサ、
光スイッチ及び導波路を含む光電子デバイス、
光起電性デバイス、
食料品コンテナ、または、
医薬品コンテナ、
の選択された1であることを特徴とする製品。
【請求項10】
デバイスをカプセル化する方法であって、
前記デバイスの少なくとも一部上に均質ガラスを堆積するステップと、
前記デバイスの少なくとも一部上に堆積された前記均質ガラスを熱処理するステップと、を含み、
前記均質ガラスは、160℃よりも低いガラス転移温度Tgを有しかつ、
Sn(55‐75重量%)と、
P(4‐14重量%)と、
O(6‐24重量%)と、
F(4‐22重量%)と、
W(0.5‐15重量%)と、
の組成を有することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法であって、前記Wの供給源がタングステン酸(H2WO4)であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項10記載の方法であって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(58‐68重量%)と、
P(5‐11重量%)と、
O(11‐21重量%)と、
F(6‐13重量%)と、
W(1‐10重量%)と、
の好ましい組成比を有することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項10記載の方法であって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(59‐68重量%)と、
P(6‐11重量%)と、
O(13‐20重量%)と、
F(6‐11重量%)と、
W(1‐6重量%)と、
の好ましい組成比を有することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項10記載の方法であって、前記デバイスが、
OLED、PLED、光起電性素子及び薄膜トランジスタを含む有機電子デバイス、
薄膜センサ、
光スイッチ及び導波路を含む光電子デバイス、
光起電性デバイス、
食料品コンテナ、または、
医薬品コンテナ、
の選択された1であることを特徴とする方法。
【請求項15】
パッケージであって、
プレートと、
シーリングガラスプレートと、を含み、
前記シーリングガラスは、前記プレートと前記シーリングガラスプレートとを接合する密封シールでありかつ前記プレートと前記シーリングガラスの間のギャップを形成する膨張せしめられた部分を含み、前記シーリングガラスプレートは、160℃よりも低いガラス転移温度Tgを有しかつ、
Sn(55‐75重量%)と、
P(4‐14重量%)と、
O(6‐24重量%)と、
F(4‐22重量%)と、
W(0.5‐15重量%)と、
の組成を有することを特徴とするパッケージ。
【請求項16】
請求項15記載のパッケージであって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(58‐68重量%)と、
P(5‐11重量%)と、
O(11‐21重量%)と、
F(6‐13重量%)と、
W(1‐10重量%)と、
の好ましい組成比を有することを特徴とするパッケージ。
【請求項17】
請求項15記載のパッケージであって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(59‐68重量%)と、
P(6‐11重量%)と、
O(13‐20重量%)と、
F(6‐11重量%)と、
W(1‐6重量%)と、
の好ましい組成比を有することを特徴とするパッケージ。
【請求項18】
パッケージであって、
第1のプレートと、
第2のプレートと、
均質ガラスから生成されたフリットと、を含み、
前記フリットは、前記フリットを融解して前記第1のプレートと前記第2のプレートとを接合する密封シールを形成させる態様で加熱され、前記均質ガラスは、160℃よりも低いガラス転移温度Tgを有しかつ、
Sn(55‐75重量%)と、
P(4‐14重量%)と、
O(6‐24重量%)と、
F(4‐22重量%)と、
W(0.5‐15重量%)と、
の組成を有することを特徴とするパッケージ。
【請求項19】
請求項18記載のパッケージであって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(58‐68重量%)と、
P(5‐11重量%)と、
O(11‐21重量%)と、
F(6‐13重量%)と、
W(1‐10重量%)と、
の好ましい組成比を有することを特徴とするパッケージ。
【請求項20】
請求項18記載のパッケージであって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(59‐68重量%)と、
P(6‐11重量%)と、
O(13‐20重量%)と、
F(6‐11重量%)と、
W(1‐6重量%)と、
の好ましい組成比を有することを特徴とするパッケージ。
【請求項1】
均質ガラスであって、
Sn(55‐75重量%)と、
P(4‐14重量%)と、
O(6‐24重量%)と、
F(4‐22重量%)と、
W(0.5‐15重量%)と、
を含み、
ガラス転移温度Tgが160℃よりも低いことを特徴とするガラス。
【請求項2】
請求項1記載の均質ガラスであって、前記Wの供給源がタングステン酸(H2WO4)であることを特徴とするガラス。
【請求項3】
請求項1記載の均質ガラスであって、発光デバイスのシーリングに適した淡い色を有していることを特徴とするガラス。
【請求項4】
請求項1記載の均質ガラスであって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(58‐68重量%)と、
P(5‐11重量%)と、
O(11‐21重量%)と、
F(6‐13重量%)と、
W(1‐10重量%)と、
の好ましい組成を有することを特徴とするガラス。
【請求項5】
請求項1記載の均質ガラスであって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(59‐68重量%)と、
P(6‐11重量%)と、
O(13‐20重量%)と、
F(6‐11重量%)と、
W(1‐6重量%)と、
の好ましい組成を有することを特徴とするガラス。
【請求項6】
請求項1記載の均質ガラスであって、大気圧、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気に少なくとも1000時間暴露された後に2%よりも小さい重量増加を有することを特徴とするガラス。
【請求項7】
カプセル化された製品であって、
元素ベースの重量%で、55‐75%のSnと、4‐14%のPと、6‐24%のO、4‐22%のFと、0.15−15%のWとを含む均質ガラス内にカプセル化されたデバイスを含み、前記均質ガラスが160℃よりも低いガラス転移温度Tgを有することを特徴とする製品。
【請求項8】
請求項7記載のカプセル化された製品であって、前記Wの供給源がタングステン酸(H2WO4)であることを特徴とする製品。
【請求項9】
請求項7記載のカプセル化された製品であって、前記デバイスが、
OLED、PLED、光起電性素子及び薄膜トランジスタを含む有機電子デバイス、
薄膜センサ、
光スイッチ及び導波路を含む光電子デバイス、
光起電性デバイス、
食料品コンテナ、または、
医薬品コンテナ、
の選択された1であることを特徴とする製品。
【請求項10】
デバイスをカプセル化する方法であって、
前記デバイスの少なくとも一部上に均質ガラスを堆積するステップと、
前記デバイスの少なくとも一部上に堆積された前記均質ガラスを熱処理するステップと、を含み、
前記均質ガラスは、160℃よりも低いガラス転移温度Tgを有しかつ、
Sn(55‐75重量%)と、
P(4‐14重量%)と、
O(6‐24重量%)と、
F(4‐22重量%)と、
W(0.5‐15重量%)と、
の組成を有することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法であって、前記Wの供給源がタングステン酸(H2WO4)であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項10記載の方法であって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(58‐68重量%)と、
P(5‐11重量%)と、
O(11‐21重量%)と、
F(6‐13重量%)と、
W(1‐10重量%)と、
の好ましい組成比を有することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項10記載の方法であって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(59‐68重量%)と、
P(6‐11重量%)と、
O(13‐20重量%)と、
F(6‐11重量%)と、
W(1‐6重量%)と、
の好ましい組成比を有することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項10記載の方法であって、前記デバイスが、
OLED、PLED、光起電性素子及び薄膜トランジスタを含む有機電子デバイス、
薄膜センサ、
光スイッチ及び導波路を含む光電子デバイス、
光起電性デバイス、
食料品コンテナ、または、
医薬品コンテナ、
の選択された1であることを特徴とする方法。
【請求項15】
パッケージであって、
プレートと、
シーリングガラスプレートと、を含み、
前記シーリングガラスは、前記プレートと前記シーリングガラスプレートとを接合する密封シールでありかつ前記プレートと前記シーリングガラスの間のギャップを形成する膨張せしめられた部分を含み、前記シーリングガラスプレートは、160℃よりも低いガラス転移温度Tgを有しかつ、
Sn(55‐75重量%)と、
P(4‐14重量%)と、
O(6‐24重量%)と、
F(4‐22重量%)と、
W(0.5‐15重量%)と、
の組成を有することを特徴とするパッケージ。
【請求項16】
請求項15記載のパッケージであって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(58‐68重量%)と、
P(5‐11重量%)と、
O(11‐21重量%)と、
F(6‐13重量%)と、
W(1‐10重量%)と、
の好ましい組成比を有することを特徴とするパッケージ。
【請求項17】
請求項15記載のパッケージであって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(59‐68重量%)と、
P(6‐11重量%)と、
O(13‐20重量%)と、
F(6‐11重量%)と、
W(1‐6重量%)と、
の好ましい組成比を有することを特徴とするパッケージ。
【請求項18】
パッケージであって、
第1のプレートと、
第2のプレートと、
均質ガラスから生成されたフリットと、を含み、
前記フリットは、前記フリットを融解して前記第1のプレートと前記第2のプレートとを接合する密封シールを形成させる態様で加熱され、前記均質ガラスは、160℃よりも低いガラス転移温度Tgを有しかつ、
Sn(55‐75重量%)と、
P(4‐14重量%)と、
O(6‐24重量%)と、
F(4‐22重量%)と、
W(0.5‐15重量%)と、
の組成を有することを特徴とするパッケージ。
【請求項19】
請求項18記載のパッケージであって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(58‐68重量%)と、
P(5‐11重量%)と、
O(11‐21重量%)と、
F(6‐13重量%)と、
W(1‐10重量%)と、
の好ましい組成比を有することを特徴とするパッケージ。
【請求項20】
請求項18記載のパッケージであって、前記均質ガラスは0.85よりも大きいO/F比率を有しかつ、
Sn(59‐68重量%)と、
P(6‐11重量%)と、
O(13‐20重量%)と、
F(6‐11重量%)と、
W(1‐6重量%)と、
の好ましい組成比を有することを特徴とするパッケージ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【公表番号】特表2010−505727(P2010−505727A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531430(P2009−531430)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/021206
【国際公開番号】WO2008/045249
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/021206
【国際公開番号】WO2008/045249
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】
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