説明

耐制震金物及び構造

【課題】全方向の揺れを減じる効果、残留変形を残さない耐震制震構造の提供。
【解決手段】筋交い端部に筋交いと一体化して制震金物と、構造体側にも金物をネジ釘等で設置固定し、筋交い側金物と構造側金物の間の弾性体又は粘弾性体は木材とほぼ同等の硬さ、強度、耐震性を有し小中規模程度の地震などの揺れには摺動変形せず耐震性を保持し、一定以上の大きな地震などの揺れエネルギーが加わった場合に摺動変形し揺れを減じる弾性、粘弾性を持ち、すなわち該金物を取り付けた筋交いは耐震から制震へ効果的且つ自動的に機能が変わる。また、水平方向垂直両方向の地震の揺れにも効果を有する耐震制震の両機能を有する筋交い一体型金物および、桁行方向と張間方向にバランスよく該構造壁を設置すれば全方向に耐震制震効果がある。また、同種の金物を隅柱や耐力壁柱脚部に設置し、粘弾性体、弾性体の複合使用することにより変形復元機能を持たせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造住宅等に於ける地震被害を減じる金物及び構造に関する。
【技術背景】
【0002】
従来の木造住宅に於ける地震の構造的対策は耐震構造であったが、阪神淡路大震災で住宅の構造自体に被害が無くとも室内の家具等の転倒下敷きになり多くの死傷者が出たことにより(非特許文献1、30頁、31頁参照)以後木造住宅でも免震構造(非特許文献1、48頁参照)が利用されるようになり、最近では制震技術(特許文献1)も利用されるようになったが、これら構造技術には利点もあるが、問題点もある。
【0003】
従来の木造住宅に於ける構造的地震対策の問題点を説明する。
木造住宅で多く使われている耐震構造の問題点は、揺れ自体を減じる構造でない為住宅自体に損傷がなくとも室内の家具等の転倒下敷きにより死傷者が出る可能性が多分にある。また、耐震性能を高めると、窓口などの開口部を小さくし、壁を多く作る必要があるなどの制約が高くなる。
【0004】
次に、従来の免震構造の問題点を説明する。
現在多く利用されている免震工法は、基礎に設置した積層ゴムに住宅本体を支承、地震時に最大50〜60cm水平方向に移動し地震の揺れを減じる方法である。問題点は、水平方向にしか効果がなく、地震はあらゆる方向に揺れる為、例えば阪神淡路大震災の様な、冷蔵庫が宙に舞い天井に突き刺さった様な縦方向の揺れには効果がない。また、価格は300万円〜500万円位と高額である。
【0005】
従来の木造制震工法の問題点は、小さい地震時に制震が作用し大きな地震時の揺れには従来の耐震構造で対応する構造であり、小さい荷重で制震が作用すれば初期の免震工法で問題になった、少しの風でも家全体が揺れ、家の中の人は気分が悪くなり実用に耐えない状況であった。大きな地震時の揺れにこそ制震が作用し揺れを減じなければ、地震対策としての効果、意味がない。(特許文献1「課題」「解決手段」箇所参照)。
【0006】
従来の木造制震工法のもう一つの問題点は、制震工法のみでは建築基準法の建築確認に合致しない為、耐震構造を併用しなければならず、耐震と制震は、効果作用は相反する為、同時作用による効果は相殺され効果があまり期待できない。また、重複設置の為、構造が複雑化し手間とコストもアップする。(非特許文献2参照)
【0007】
また、現状の制震工法には、地震後の家屋の変形を復元させる機能は無く残留変形が残ったままであり、その修復費用は100万円単位になる場合もある。
【0008】
【非特許文献1】「耐震、免震、制震がわかる本」清水建設免制震研究会著、1999年
【特許文献1】特許出願2000−52527号公報、効果、解決手段頁
【非特許文献2】ジーバ工法、ホームページ資料、株式会社アイ・エム・エー2006年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上に述べたように、従来の木造耐震工法では、揺れを減じる効果は無い為、住宅自体に損傷がなくとも中の家財、人に重大な損傷が出る可能性が高い。また、従来の免震方法では、地震は全方向に揺れがあるにも拘らず水平方向しか効果がなく、且つ高価である。また、従来の制震工法は十分な効果がなく、また、建築確認に合格するため耐震工法と併用が必要で、構造の複雑化、手間コストが高く、地震による家屋変形復元機能もなく残留変形したままである。
【0010】
また、工場等の地震被害には、部品などを置くための棚の破損部品の散乱などにより操業復旧が遅れる場合が多い。
【0011】
本発明は、これら問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして第一の解決手段は、本発明は上記目的を達成する為に、構造的強度並びに耐震を目的とした木造壁内に斜め対角線上に設置する筋交い端部に、筋交いと一体化して本発明制震金物をボルト等で固定設置、そして構造体側にも金物をネジ釘等で設置固定し、筋交い側金物と構造側金物の間の弾性体又は粘弾性体が接着固定され、該弾性体又は粘弾性体は木材とほぼ同等の強度、耐震性を有し、小中規模程度の地震などの揺れには摺動変形せず耐震性を保持し、一定以上の大きな地震などの揺れエネルギーが加わった場合に摺動変形し揺れを減衰する特性を持つ。すなわち該金物を取り付けた筋交いは耐震から制震へ効果的且つ自動的に機能が変わる。
【0013】
また、第二の解決手段は、上記壁を桁行方向と張間方向にバランスよく設置すれば、全方向の地震の揺れに対応できる。
【0014】
次に、第三の解決手段は、木造住宅で地震時に一番荷重がかかる隅柱や耐力壁柱脚部にネジ釘等で固定された柱脚側金物と、土台にアンカーボルト等で固定された土台側金物及び柱脚部金物間に介在した弾性体又は粘弾性体とから構成され、前記弾性体及び粘弾性体は、小中規模程度の地震などの揺れには摺動変形せず耐震性を保持し、一定以上の大きな地震などの揺れエネルギーが加わった場合に摺動変形し揺れを減衰する特性を持つ。すなわち該金物を取り付けた柱脚は耐震か制震へ効果的且つ自動的に機能変化し、縦方向の地震の揺れに効果を有する耐震制震両機能を有る柱脚土台を接合する金物を設置および基礎と土台間に請求項5の特性を持った弾性体又は粘性体で出来たパッキンを接着剤等で固定設置する。
【0015】
付け加えとして、本発明の根幹的解決手段は、木材とほぼ同等の強度、耐震性を有し、小中規模程度の地震などの揺れには摺動変形せず耐震性を保持し、一定以上の大きな地震などの揺れエネルギーが加わった場合に摺動変形し揺れを減衰する弾性、粘弾性特性を持ち耐震から制震へ効果的且つ自動的に機能変化する弾性体又は粘弾性体を使用することにある。
【0016】
粘弾性体の特性は、変形量に応じ地震の揺れ等エネルギーを吸収する。弾性体の特性は、エネルギー吸収はしないが、除荷時に速やかに原型に戻る。これら特性を有する粘弾性体と弾性体を複合して使用することにより、粘弾性体が有するエネルギー吸収と、弾性体が有する耐震性と復元性により、本発明金物、工法は、耐震性とエネルギー吸収の制震性及び地震による家屋変形復元機能を兼ね備える。
【0017】
また、これら複合部材使用のメリットは、複合部材の割合や面積等の調整により簡便に性能が変えられ、短期間に、また、既存部材などの組み合わせによりローコストに開発ができる。単一部材で同等の性能部材を開発するには、難易度が極めて高く、開発の期間は長く開発費も高額である。
【0018】
前記複合部材の組み合わせは、粘弾性体と弾性体以外の、オイルダンパーやバネなども考えられる。
【0019】
上記第一の解決方法の作用は、本発明で使用される該弾性体又は粘弾性体は木材とほぼ同等の強度、耐震性を有し、小中規模程度の地震等の揺れには摺動変形せず耐震性を保持し、一定以上の大きな地震等の揺れエネルギーが加わった場合に摺動変形し揺れを減じる弾性、粘弾性を持つ。すなわち、該性質を持つ弾性体を利用する事により、従来の制震構造のように耐震作用と制震作用が相殺し効果が低減する事はない。また、該性質の弾性体又は粘弾性体を金具及び筋交いを組み合わせる事により、耐震制震両機能を有する一体化された筋交いが可能であり、既存の筋交い施工の延長線上で簡便に且つ安価で設置が可能である。また、該金物を壁内対角線上にある筋交いに設置する事により耐震性と共に制震性も水平垂直両方向に対する揺れに対応できる。
【0020】
また、第二の解決方法の作用は、本発明金物を対角線筋交いに設置する事で水平垂直方向にも耐震制震効果があり、また、該構造壁を張間方向と桁行方向にバランスよく配置する事により耐震制震両効果が全方向の揺れに効果を発揮する。
【0021】
次に、第三の解決方法は、従来の免震制震工法では余り考慮されていなかった縦揺れに対する減衰及び耐震効果を発揮する。
【0022】
第三以降の解決手段は、複合素材を使用することにより、耐震性と揺れエネルギー吸収の制震性及び弾性体使用による家屋変形復元機能も有する。
【0023】
最後に、地震時の工場で使用されている部品棚の破損であるが、本発明の筋かいと耐制震金物を部品棚に設置をすれば、大幅に被害を軽減できる。
【発明の効果】
【0024】
以下、発明の効果を図1〜図13に基づいて説明する。
【0025】
図に於いては、30筋交い端部に1C筋交い側金物をイ、ボルトで固定し、1A構造体側金物を土台又は梁にロねじ釘で固定し、1C筋交い側金物と1A構造体側金物の間に1B弾性体又は粘弾性体が接着されている。
【0026】
図6を説明する。地震時等に主に荷重が掛かる隅柱や耐力壁柱脚部40にロねじ釘等で固定された柱脚部側金物2Cと50度台部にアンカーボルトで固定された土台側金物2A及び強力な接着剤等で固定された弾性体又は粘弾性体2B及び50度台と60基礎間に接着固定された請求項5の特性を持つ弾性体又は粘弾性体で作られたニパッキンは、中規模以上の縦揺れ地震エネルギーを摺動変形等により効果的に揺れを減衰する。
【0027】
本発明に使用される1B弾性体又は粘弾性体は、木材と同等の強度、耐震性を持ち、小中規模の地震時の揺れには摺動移動せず耐震性を保持し、一定以上の大きな地震等の揺れエネルギーが加わった場合に1B弾性体又は粘弾性体は図4のように摺動移動し、揺れエネルギーを減じる。本発明は耐震機能を効果的且つ自動的に機能変更し、地震時の被害を最小限に止める。
【0028】
本発明金物を30筋交いに設置する事により水平垂直方向に、また、図5に示すとおり本発明壁を張間方向桁行方向に設置する事により全方向の揺れに効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明金物で製作された筋交い入りの壁を、桁行方向張間方向にバランスよく設置すれば、本発明制震金物は、耐震性を損なわないため、全方向に効果を有する最高耐震性能等級3を容易に確保の上に、大きな揺れエネルギーも減じる制震効果も併せ持つ理想的な木造耐制震工法である。
【0030】
図12に記載してあるとおり、壁内に筋かいと該金物を設置しユニットパネル化すればツーバイフォー工法等にも利用でき簡便に耐制震工法を軸組み工法以外の工法にも幅広く利用できる。
【0031】
図7は、本発明、複合部材を示す図である。図8のグラフは、複合部材である弾性体、粘弾性体における除荷後、弾性体は速やかに粘弾性体は発熱しながらゆっくりと原型に戻る。すなわち、本発明複合部材が発熱しながら原型復帰するグラフである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、特に従来の耐震工法、免震工法、制震工法の欠点を解決し安価に、また、従来の技術で施工でき、今までに無い地震による変形を復元させる機能を有する。
【0033】
また、耐震制震両機能を筋交いに一体として組み込んだ利点は大きく、耐震作用と制震作用の効果相殺を回避し、また、建築基準に合致の上簡易に施工でき、且つ、安価で利用できる。
【0034】
図13に示してあるとおり、本件の耐制震金具を筋かいと一緒に図13のように設置をすれば全方向の地震の揺れに効果を発揮できる棚構造になる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の壁構造を示す壁構造図
【図2】同金物形態を示す立体図
【図3】同金物構造を示す部分断面図
【図4】同摺動作用を示す金物断面図
【図5】同構造壁の配置を示す平面図
【図6】耐力壁柱脚部金物立体図
【図7】耐力壁柱脚部金物断面図
【図8】耐力壁柱脚部金物断面図
【図9】筋交い金物断面図
【図10】粘弾性体、弾性体複合素材図
【図11】粘弾性体、弾性体複合素材特性グラフ
【図12】耐制震壁ユニットパネル
【図13】工場用耐制震棚
【符号の説明】
【0036】
10 柱
20 土台または梁
30 筋交い
1A 構造体側金物
1B 弾性体または粘弾性体
1C 筋交い側金物
イ 筋交い側金物1Cと筋交い30を固定するボルト
ロ ネジ釘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造住宅等に於ける構造的強度や耐震性を高める為の壁内に対角線に設置する筋交い端部に固定して取り付ける金物と、該構造材側に固定設置する金物及び該構造材側金物と筋交い側金物間に介在した弾性体又は粘弾性体とから構成され、前記弾性体及び粘弾性体は木材とほぼ同等の硬さ、強度、耐震性を有し、小中規模程度の地震などの揺れには摺動変形せず耐震性を保持し、一定以上の大きな地震などの揺れエネルギーが加わった場合に摺動変形し揺れを減じる弾性、粘弾性を持ち、すなわち該金物を取り付けた筋交いは耐震から制震へ効果的且つ自動的に機能変化する水平方向垂直両方向の地震の揺れに効果を有する耐震制震の両機能を有する一体型金物。
【請求項2】
前記、筋交い側金物と前記構造側金物と前記弾性体又は粘弾性体が一体化している請求項1の金物。
【請求項3】
前記金物が組み込まれている壁。
【請求項4】
前記金物若しくは請求項2が組み込まれている請求項3の壁を張間方向と桁行方向に配置し、全方向に対する地震時の揺れに耐震制震両効果を発揮する木造住宅の耐震制震構造。
【請求項5】
前記、請求項1請求項2請求項3請求項4請求項6請求項7請求項8等、本発明で使用される、小中規模の地震揺れエネルギーでは摺動変形せず木材と同等の強度耐震性を保持し、中規模以上の地震の揺れエネルギーには摺動変形し揺れエネルギーを減衰する特性を持つ弾性体又は粘弾性体。
【請求項6】
木造住宅等に於ける隅柱や耐力壁柱脚部にネジ釘等で固定された柱脚側金物と、土台にアンカーボルト等で固定された土台側金物及び柱脚部金物間に介在した弾性体又は粘弾性体とから構成され、前記弾性体及び粘弾性体は請求項5の性質を持ち、小中規模程度の地震などの揺れには摺動変形せず耐震性を保持し、一定以上の大きな地震などの揺れエネルギーが加わった場合に摺動変形し揺れを減衰する。すなわち該金物を取り付けた柱脚は耐震から制震へ効果的且つ自動的に機能変化する、縦方向の地震の揺れに効果を有する耐震制震両機能を有する柱脚土台を接合する金物。
【請求項7】
木造住宅に於ける基礎と土台間に請求項5の特性をもった弾性体又は粘弾性体を接着剤等で固定設置された地震時の揺れエネルギーを減衰するパッキン。
【請求項8】
請求項4に請求項6、請求項7を併せ持つ木造住宅に於ける耐震制震両機能を持つ工法。
【請求項9】
地震の揺れエネルギーを減衰させる性能と耐震性能且つ、地震後の家屋変形復元機能を有する、前記、筋交い金物及び柱脚部金物並びにパッキン等に使用される粘弾性体と弾性体の複合部材を使用した前記、筋交い金物及び柱脚部金物並びにパッキン。
【請求項10】
前記、請求項9に使用される地震の揺れエネルギーを減衰させる性能と耐震性能、且つ、地震後の家屋変形復元機能を有する、前記、筋交い金物及び柱脚部金物並びにパッキン等に使用される粘弾性体と弾性体の複合部材。
【請求項11】
前記、複合素材を、粘弾性体及び弾性体以外の材料で、組み合わせ製作された前記金物及びパッキン。
【請求項12】
請求項1の耐震制震両機能を併せ持つ該金物を張間方向と桁行方向に設置し全方向の地震の揺れに効果を発揮する工場等で使用する耐震制震棚。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−189833(P2010−189833A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341754(P2007−341754)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(508016099)株式会社ジェーピーエス (1)
【Fターム(参考)】