説明

耐加水分解性に優れた生分解性不織布

【課題】
製造する際に刺激臭等の発生もなく製造環境が良好であり、耐加水分解性に優れ、かつ色調が良好な生分解性不織布を提供する。
【解決手段】
分子鎖末端にカルボキシル基を有し、一般式[化1]で表される、少なくとも1種の化合物またはその混合物を含有し、該化合物によってそのカルボキシル末端の一部または全部が封鎖されてなる脂肪族ポリエステル樹脂からなる繊維から構成される生分解性不織布。
【化1】


(ここで、R〜Rのうち、少なくとも1つはグリシジルエーテル若しくはグリシジルエステルであり、残りは水素、炭素原子数1〜10のアルキル基、水酸基、アリル基等の官能基)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐加水分解性に優れ、かつ色調が良好な脂肪族ポリエステル系生分解性不織布に関するものであって、不織布を製造する際に刺激臭等の発生もなく製造環境が良好であり、土木資材をはじめとする各用途に好適に用いることができる生分解性不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりから種々の生分解性樹脂からなる不織布が提案されている。生分解性不織布は、自然環境下で、日光、紫外線、熱、水、酵素、微生物等の作用により化学的に分解され、さらには形態的に崩壊するため、焼却処理の必要がなく、埋め立て処理や屋外への放置により処分が可能である。仮に焼却処理をした場合でも、生分解性樹脂は従来の不織布に使用されているポリエステルやポリプロピレン、ナイロン等の樹脂に比べ、一般的に燃焼熱量が低いため、焼却時に焼却炉を傷めないというメリットがある。
【0003】
また、生分解性樹脂の中でも、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料とすることで、二酸化炭素の循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるとともに、資源枯渇の問題も解決できる可能性があるため、植物資源を出発点とする樹脂、すなわちバイオマス利用の樹脂に注目が集まっている。
【0004】
しかしこれまでのバイオマス利用の生分解性樹脂は、力学特性や耐熱性が低いとともに、製造コストが高いといった課題があり、汎用プラスチックとして使われることはなかった。一方、近年では力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低い生分解性樹脂として、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸樹脂が脚光を浴びている。
【0005】
ポリ乳酸樹脂を用いたポリ乳酸不織布の開発は、生分解性を活かした土木資材や農業資材等が先行しているが、それに続く用途として生活資材用途、工業資材用途、車両資材用途、建築資材用途への応用も期待されている。
【0006】
しかしながら、ポリ乳酸繊維およびそれからなる不織布は使用環境下において加水分解が進むため、高い強度保持率が要求される用途においては、製品寿命が短いという問題があった。
【0007】
この問題を改善するため、ポリ乳酸系芯鞘複合繊維からなり、該芯成分のポリ乳酸系樹脂より20℃以上融点の低いポリ乳酸系樹脂を鞘成分とすることにより不織布の機械的特性を向上させ、ウエザーメータを用いた耐候性試験において300時間照射後の強力保持率が50%以上であることを特徴とするポリ乳酸系長繊維不織布からなる生分解性農業用被覆資材が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、該生分解性農業用被覆資材は、ポリ乳酸繊維の強度低下の過程で大きな要因となる加水分解について何ら対策が施されていないため、使用中に雨露の影響を受け加水分解反応が起こり、繊維、ひいては不織布の強度低下が進行するという欠点があった。
【0008】
そこで、加水分解に対しては、モノカルボジイミド化合物を添加して耐加水分解性を向上させたポリ乳酸繊維が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、モノカルボジイミド化合物は高価であるとともに、ブリードアウトにより高濃度マスター化が困難であるという問題があった。
【0009】
一方、比較的安価なカルボジイミド化合物として、ポリカルボジイミド化合物を添加して耐加水分解性を向上させた生分解性プラスチック組成物も知られている(特許文献3参照)。しかしながら、ポリカルボジイミド化合物はポリ乳酸への分散性が低いとともに、ゲル化が発生しやすく、耐加水分解性向上に不十分なばかりか、繊維や不織布に適用する際の紡糸性が不安定となり工業的な繊維、不織布の生産には適用しがたいものであった。
【0010】
さらに、カルボジイミド化合物に加えベンゾトリアール系化合物やトリアジン系化合物などの紫外線吸収剤を合わせて添加した生分解性プラスチック組成物が知られている(特許文献4参照)。しかしながら、紫外線吸収剤を加えることで耐候性は向上するものの、やはり繊維や不織布に適用する際の紡糸安定性が不安定となり、また溶融紡糸の際にカルボジイミド化合物に由来した刺激性の分解ガスが発生し作業環境が悪化するなど、工業的な繊維、不織布の生産には適用しがたく、さらにカルボジイミド化合物を添加することにより繊維、不織布の色調が悪化するという問題もあった。
【0011】
さらに、分子中に2以上のカルボジイミド基を有し、その末端がカルボン酸で封止されている特定のポリカルボジイミド化合物が混合されてなるポリ乳酸繊維が知られている(特許文献5参照)。しかしながら、特定のポリカルボジイミド化合物が混合されてなるポリ乳酸繊維であっても、溶融紡糸の際に発生する刺激性の分解ガスを抑制し、かつ繊維の色調も良好に保つことは難しく、繊維や不織布の生産に好適に用いることができるものではなかった。
【特許文献1】特開2000−333542号公報
【特許文献2】特開2001−261797号公報
【特許文献3】特開平11−80522号公報
【特許文献4】特開2004−155993号公報
【特許文献5】特開2004−332166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、耐加水分解性に優れ、かつ色調が良好な脂肪族ポリエステル系生分解性不織布に関するものであって、不織布を製造する際に刺激臭等の発生もなく製造環境が良好であり、土木資材をはじめとする各用途に好適に用いることができる生分解性不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)分子鎖末端にカルボキシル基を有し、一般式[化1]で表される、少なくとも1種の化合物またはその混合物を含有し、該化合物によってそのカルボキシル末端の一部または全部が封鎖されてなる脂肪族ポリエステル樹脂からなる繊維から構成される生分解性不織布。
【0014】
【化1】

【0015】
(ここで、R〜Rのうち、少なくとも1つはグリシジルエーテル若しくはグリシジルエステルであり、残りは水素、炭素原子数1〜10のアルキル基、水酸基、アリル基等の官能基)
(2)芯成分及び鞘成分のいずれもが分子鎖末端にカルボキシル基を有する脂肪族ポリエステル樹脂からなる芯鞘複合繊維から構成される生分解性不織布であって、該鞘成分樹脂のみが、一般式[化1]で表される、少なくとも1種の化合物またはその混合物を含有し、該化合物によってそのカルボキシル末端の一部または全部が封鎖されてなる脂肪族ポリエステル樹脂であって、かつ該芯鞘複合繊維の鞘成分比率が5〜70vol%であることを特徴とする生分解性不織布。
(3)カルボキシル基末端濃度が0〜20当量/tonであることを特徴とする前記(1)または(2)記載の生分解性不織布。
(4)[化1]の化合物またはその混合物の含有量の合計が脂肪族ポリエステル樹脂の0.02〜10wt%であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の生分解性不織布。
(5)脂肪族ポリエステル樹脂がポリ乳酸樹脂であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の生分解性不織布。
(6)不織布の分子量がそれぞれ以下の範囲にあることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の生分解性不織布。
【0016】
Mw :8万〜50万
Mw/Mn:1.4〜4.0
ここで、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の生分解性不織布からなる土木資材。
(8)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の生分解性不織布からなる農業資材。
(9)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の生分解性不織布からなる生活資材。
(10)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の生分解性不織布からなる工業資材。
(11)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の生分解性不織布からなる車輌資材。
(12)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の生分解性不織布からなる建築資材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製造する際に刺激臭等の発生もなく製造環境が良好であり、耐加水分解性に優れ、かつ色調が良好な生分解性不織布が得られる。本発明の生分解性不織布は、土木資材をはじめとする各用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の生分解性不織布は、分子鎖末端のカルボキシル基を一般式[化1]で表される化合物によってその一部または全部を末端封鎖した脂肪族ポリエステル樹脂からなる繊維を用いた生分解性不織布である。
【0019】
本発明の生分解性不織布は、用途に適していればその不織布種は限定されるものではなく、その製法についても、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法、ニードルパンチ法、水流交絡法、エアレイド法、サーマルボンド法、レジンボンド法、湿式法など、用途に適した製法を選択すれば、特に限定されるものではない。
【0020】
長繊維不織布の場合は、例えば、溶融したポリマーをノズルから押し出し、これを高速吸引ガスにより吸引延伸した後、移動コンベア上に繊維を捕集してウェブとし、さらに連続的に熱接着、絡合等を施すことにより一体化してシートとなす、いわゆるスパンボンド法や、例えば、溶融したポリマーに加熱高速ガス流体を吹き当てることにより該溶融ポリマーを引き伸ばして極細繊維化し、捕集してシートとする、いわゆるメルトブロー法などにより製造することができる。
【0021】
短繊維不織布の場合は、例えば以下の工程を組み合わせて製造することができる。溶融したポリマーをノズルから押し出し、これをローラーで引き取り、延伸することにより繊維を製造する工程、クリンパーにより捲縮をかけ、カッターによりカットすることで短繊維を製造する工程、得られた短繊維を堆積させウエブとし、さらに熱接着や絡合等を施すことにより一体化してシートを製造する工程、または、短繊維を水中で分散させた後に水と分離し漉き上げ、搾水、乾燥させウエブとし、さらに熱接着により一体化してシートを製造する工程などである。
【0022】
本発明の生分解性不織布において、生分解性不織布を構成する繊維の原料として使用する脂肪族ポリエステル樹脂としては何ら限定されるものではないが、ポリ乳酸樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート系樹脂などが好適に用いられ、中でも力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低い点でポリ乳酸樹脂が特に好ましく用いられる。また、これらの樹脂を複数種類複合して用いてもよい。樹脂の複合の方法としては、溶融した複数種類の樹脂を混合する方法や、2種類の樹脂を芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型、多葉型などの複合繊維の形態にする方法が好ましい方法である。また、さらに前記生分解性樹脂に結晶核剤や艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、滑剤等を本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。該滑剤としては、例えば、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドが好ましく用いられ、添加量は0.1〜5.0wt%の範囲であることが好ましい。
【0023】
ポリ乳酸樹脂としては、ポリ(D−乳酸)と、ポリ(L−乳酸)と、D−乳酸とL−乳酸の共重合体、あるいはこれらのブレンド体が好ましいものである。
【0024】
本発明の生分解性不織布においては、製造する際に刺激臭等の発生もなく製造環境が良好であり、耐加水分解性に優れ、かつ色調が良好な生分解性不織布を得るため、耐加水分解安定剤として、[化1]で表されるイソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物を添加し、該化合物により生分解性不織布を構成する繊維の原料となる脂肪族ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基の一部または全部が封鎖されていることが重要である。
【0025】
【化2】

【0026】
(ここで、R〜Rのうち、少なくとも1つはグリシジルエーテル若しくはグリシジルエステルであり、残りは水素、炭素原子数1〜10のアルキル基、水酸基、アリル基等の官能基)
本発明の生分解性不織布において耐加水分解安定剤として用いられるイソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物としては、上記[化1]で表される化合物であれば特に限定されるものではないが、上記[化1]のRのうち、いずれか一つがグリシジル基、残る二つがアリル基であるジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(以下、DAMGICと略記)や、上記[化1]のRのうち、いずれか二つがグリシジル基、残る一つがアリル基であるモノアリルジグリシジルイソシアヌレート(以下、MADGICと略記)や、上記[化1]のRの全てがグリシジル基であるトリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート(以下、TEPICと略記)などが好ましく用いられる。耐加水分解安定剤として用いられる、[化1]で表されるイソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物は、1種の単独使用であっても複数種の混合物であってもよい。
【0027】
本発明の生分解性不織布において、上記[化1]で表されるイソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物の含有量は、生分解性不織布を構成する繊維の原料となる脂肪族ポリエステル樹脂全量に対して0.02〜10wt%であることが好ましく、0.05〜8wt%であることがより好ましく、0.1〜6wt%であることがさらに好ましい。該化合物の含有量が0.02wt%未満であると、目的とする耐加水分解性を得ることができなくなるため好ましくない。一方、該化合物の含有量が10wt%を超えると、脂肪族ポリエステル樹脂のカルボキシル基末端の封鎖に寄与しない過剰な該化合物またはその混合物が存在することとなり、生分解性不織布の生産安定性を低下させ、またコストアップにつながるなど、好ましくない。
【0028】
本発明の生分解性不織布において、上記[化1]で表されるイソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物により末端カルボキシル基を封鎖する方法としては、脂肪族ポリエステルの溶融状態で該化合物を末端封鎖剤として適量反応させることで得ることができるが、脂肪族ポリエステルの高重合度化、残存低分子量物の抑制などの観点から、ポリマーの重合反応終了後に該化合物を添加、反応させることが好ましい。該化合物と脂肪族ポリエステルとの混合、反応としては、例えば、重縮合反応終了直後の溶融状態の脂肪族ポリエステルに該化合物を添加し攪拌・反応させる方法、脂肪族ポリエステルのチップに該化合物を添加、混合した後に反応缶あるいはエクストルーダなどで混練、反応させる方法(以下溶融混練という)、エクストルーダで脂肪族ポリエステルに液状の該化合物を連続的に添加し、混練、反応させる方法、該化合物を高濃度含有させた脂肪族ポリエステルのマスターチップと脂肪族ポリエステルのホモチップとを混合したブレンドチップをエクストルーダなどで混練、反応させる方法などにより行うことができる。
【0029】
本発明の生分解性不織布において、耐加水分解性に優れた生分解性不織布を得るため、上記[化1]で表されるイソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物により、生分解性不織布を構成する繊維の原料となる脂肪族ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基の一部または全部が封鎖されていることが重要であり、その繊維形態は特に限定されるものではない。繊度も通常、不織布に用いられている範囲で使用することができる。
【0030】
但し、使用される用途に応じて耐加水分解性を調節できることが好ましいが、耐加水分解性の調節は、[化1]で表されるイソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物の含有量の調節による他、繊維形態によってもコントロールすることができる。例えば、生分解性不織布を芯成分及び鞘成分のいずれもが分子鎖末端にカルボキシル基を有する脂肪族ポリエステル樹脂からなる芯鞘型複合繊維で構成し、該芯鞘型複合繊維の鞘成分樹脂のみが一般式[化1]で表される、少なくとも1種の化合物を含有し、該化合物によってその末端カルボキシル基の一部または全部が封鎖されてなる脂肪族ポリエステル樹脂であれば、該鞘成分比率を調節することにより、生分解性不織布の耐加水分解性を調節することが可能となり好ましい。なお、この芯鞘型複合繊維は芯成分が多数ある、いわゆる海島型複合繊維であってもよいし、芯成分樹脂と鞘成分樹脂が異なる生分解性樹脂であってもかまわない。
【0031】
本発明の生分解性不織布において、生分解性不織布の耐加水分解性調節のため芯鞘型複合繊維を適用する際は該鞘成分比率が5〜70vol%であることが好ましく、より好ましくは10〜60vol%である。該鞘成分比率が5vol%未満であると、生分解性不織布の製造時、あるいは使用時に耐加水分解安定剤が添加されていない芯成分樹脂が繊維表面に露出しやすく、その部分から加水分解の進行が促進され、生分解性不織布の加水分解性を調節できなくなるため好ましくない。一方、該鞘成分比率が70vol%を超えると、生分解性不織布の加水分解性の調節は実質的に不可能になるため、好ましくない。なお、本発明で用いられる芯鞘型複合繊維は、公知の芯鞘型複合繊維製造装置を使用して製造することができ、芯成分となる樹脂と鞘成分となる樹脂を別々のポリマー導入管から各々の濾過室で濾過した後、口金流入孔を介して口金細孔に分割流の状態で会合(合流)させることが可能な複合紡糸口金を使用することで得ることが出来る。
【0032】
本発明の生分解性不織布を構成する繊維の原料となる脂肪族ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基濃度は、0〜20当量/tonであることが好ましく、0〜15当量/tonであることがより好ましく、0〜10当量/tonであることがさらに好ましい。該末端カルボキシル基濃度が20当量/ton以下であれば、目的とする充分な耐加水分解性を得ることができる。なお、本発明でいう末端カルボキシル基濃度とは後述する測定方法で測定した値をいう。
【0033】
本発明の生分解性不織布において、生分解性不織布を構成する繊維の原料となる脂肪族ポリエステル樹脂の分子量は、重量平均分子量Mwが8万〜50万、重量平均分子量を数平均分子量Mnで除した、一般に分子量分布を表すMw/Mnが1.4〜4.0の範囲にあることが好ましく、Mwが10万〜45万、Mw/Mnが1.6〜3.6の範囲にあることがより好ましく、Mwが12万〜40万、Mw/Mnが1.8〜3.2の範囲にあることがさらに好ましい。生分解性不織布を構成する繊維が前述した芯鞘型複合繊維である場合には、芯成分樹脂及び鞘成分樹脂のそれぞれが前記範囲となることが好ましいが、芯成分樹脂及び鞘成分樹脂が同種の脂肪族ポリエステル樹脂である場合には芯成分樹脂及び鞘成分樹脂をあわせた混合樹脂で前記範囲となればよい。重量平均分子量Mwが8万以上であれば、十分な繊維の強力が得られ好ましい。一方、重量平均分子量Mwが50万以下であれば、粘度が高くて口金から押し出したポリマーの曳糸性が乏しくなって高速延伸ができず、未延伸状態になり、十分な繊維強度を得ることができないということがなくなる。また、重量平均分子量を数平均分子量で除した、一般に分子量分布を表すMw/Mnが1.4以上であれば、生分解性不織布を製造する際、紡糸口金直下での繊維群の揺れ発生による糸切れが起こることが少なくなるため好ましい。一方、Mw/Mnが4.0以下であれば、生分解性不織布を製造する際、紡糸性が悪化して、糸切れの多発などが起こることがなくなるため好ましい。なお、本発明でいう重量平均分子量および重量平均分子量とは後述するゲルパーミエーションクロマトグラフ法で求めたポリスチレン換算値をいう。
【0034】
本発明の生分解性不織布において、不織布の目付、厚さ、強伸度、通気量などの特性値については土木資材、農業資材、生活資材、工業資材、車輌資材、建築資材などのそれぞれの用途に適した特性値であれば何ら限定されるものではないが、不織布の耐加水分解性の指標となる強伸度指数保持率は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。強伸度指数とは、実施例で後述するように、不織布の引張強力と破断伸度を2分の1乗したものの積で表され、タフネスとも言う。
【0035】
本発明における土木資材とは、土木用として用いられる資材であれば何ら限定されるものではないが、例えば防草シート、植樹ポット、根巻材、盛土補強材、法面保護材、護岸シート、軟弱地盤表層処理材、吸出し防止材、トンネル排水材などのことである。
【0036】
本発明における農業資材とは、農業・園芸用として用いられる資材であれば何ら限定されるものではないが、例えばべたがけシート、育苗ポット、育苗シート、防根シート、糖度アップシート、マルチシート、防虫シート、防虫袋、農業用テープ材、種蒔シート、種蒔テープなどのことである。
【0037】
本発明における生活資材とは、生活用品に用いられる資材であれば何ら限定されるものではないが、例えば手提げ袋、土産物袋、ラッピング材、スーツカバー、クリーニングカバー、簡易衣料、マスク、ワイパー、枕カバー、布団収納袋、電気製品包装材、食品包装材、ディーバッグ、水切り袋、などのことである。
【0038】
本発明における工業資材とは、工業用として用いられる資材であれば何ら限定されるものではないが、例えばフィルター、電線押え巻き材、工業用ワイパー、研磨布、電池セパレータなどのことである。
【0039】
本発明における車輌資材とは、自動車、電車、航空機、船舶等の各種乗り物用として用いられる資材であれば何ら限定されるものではないが、例えば天井材、フロアマット、シート材、異音防止材、スペアタイヤカバー材、トランクルーム内装材、エアバッグラッピング材などのことである。
【0040】
本発明における建築資材とは、建築用として用いられる資材であれば何ら限定されるものではないが、例えば透湿防水シート、屋根下葺材、ルーフィング材、塗膜防水材、遮音材、防音材、吸音材、断熱材、化粧板裏貼り材などのことである。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明がこれら実施例によって限定されるものではない。なお、下記実施例における各特性値は、次の方法で測定したものである。
【0042】
(1)Mw(重量平均分子量)およびMn(数平均分子量)
試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とし、これをWaters社製ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)Waters2690を用いて、25℃で測定し、ポリスチレン換算でMwを求めた。測定は各試料につき3点行い、その平均値をそれぞれのMwとした。
【0043】
(2)融点(℃)
パーキンエルマ社製示差走査型熱量計DSC−2型を用い、昇温速度20℃/分の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を小数点以下第1位まで読み取り、小数点以下第1位を四捨五入した値を融点とした。
【0044】
(3)単繊維繊度(dtex)
不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維直径を測定し、平均値から繊維径を算出、これをポリマーの密度で補正し、繊度を算出した。算出値の小数点以下第2位を四捨五入した。
【0045】
(4)目付(g/m
JIS L 1906(2000年版)の5.2に基づいて、縦方向30cm×横方向30cmの試料を3点採取し、各試料の重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算し、得られた値の小数点以下第1位を四捨五入したものを不織布の目付<A>とした。
【0046】
(5)強伸度指数保持率(%)
不織布の幅方向5cm×長さ方向30cm(縦方向)、および長さ方向5cm×幅方向30cm(横方向)の各サンプルを、温度60±5℃、相対湿度80±5%の恒温槽に14日間吊り下げた状態で放置した。
【0047】
JIS L 1906(2000年版)の5.3.1に基づいて、上記恒温槽内に放置したサンプル、および恒温槽内放置前のサンプル(恒温槽内に放置するサンプルを採取する際に同時に採取する)について、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/minの条件で、縦方向および横方向それぞれ5点の引張試験を実施し、得られた強伸度曲線から最大強力(N/5cm単位、小数点以下第2位を四捨五入)と破断時の伸度(%単位、小数点以下第2位を四捨五入)を読み取った。恒温槽内に放置したサンプルについては、縦方向5点の最大強力の平均値をTMD14、横方向5点の最大強力の平均値をTCD14、縦方向5点の破断伸度の平均値をEMD14、横方向5点の破断伸度の平均値をECD14とし、恒温槽内放置前のサンプルについては、縦方向5点の最大強力の平均値をTMD0、横方向5点の最大強力の平均値をTCD0、縦方向5点の破断伸度の平均値をEMD0、横方向5点の破断伸度の平均値をECD0とした。それぞれ5点の平均値は、小数点以下第2位を四捨五入した値を採用した。そしてこれらの測定値を用いて、次式により強伸度指数保持率を算出した。この場合も、小数点以下第2位を四捨五入した値を採用した。
強伸度指数保持率(%)=100×{(TMD14×√EMD14)+(TCD14×√ECD14)}/{(TMD0×√EMD0)+(TCD0×√ECD0)}
なお、測定に用いた試料はそれぞれ5cm×30cmのサイズで各槽内に投入する前にあらかじめ目付を測定し、上記(3)で測定した同じ試料の目付との差が±2%以内であるもののみを強伸度指数保持率の測定に用いた。
【0048】
(6)カルボキシル基末端濃度(当量/ton)
精秤したサンプルをo−クレゾール(水分5%)に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めた。このとき、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマーが加水分解し、カルボキシル基末端を生じるため、ポリマーのカルボキシル基末端およびモノマー由来のカルボキシル基末端、オリゴマー由来のカルボキシル基末端の全てを合計したカルボキシル基末端濃度が求まる。
【0049】
(7)脂肪族ポリエステルの色調
不織布を、下地の白色板が無視できる程度まで積層し、ミノルタ社製スペクトロフォトメーターCM−3700dを用いてL表色系のb値を測定した。このとき、光源としてはD65(色温度6504K)を用い、10°視野で測定を行い、b値が5以下のものを色調良好とした。
【0050】
(実施例1)
末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂にTEPIC(日産化学工業株式会社製)を溶融混練により添加し、TEPIC含有量が5.0wt%のチップを作製した。作製したTEPIC5.0wt%チップと、末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂チップを、TEPIC5.0wt%チップの混合率が20%になるようにチップ混合装置により混合し、スパンボンド不織布の原料とした。得られた原料を230℃で溶融し、口金温度235℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4300m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に捕集し得られたウェブを、凸部の面積が16%のエンボスロールとフラットロールで、温度145℃、線圧25kg/cmの条件で熱圧着し、単繊維繊度1.6dtex、目付30g/mのスパンボンド不織布を製造した。得られたスパンボンド不織布の末端カルボキシル基濃度は5.0当量/tonであり、Mwは210000、Mw/Mnは2.31であり、強伸度指数保持率は81.0%であった。
【0051】
(実施例2)
末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂にDAMGIC(四国化成工業株式会社製)を溶融混練により添加し、DAMGIC含有量が5.0wt%のチップを作製した。作製したDAMGIC5.0wt%チップと、末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂チップを、DAMGIC5.0wt%チップの混合率が30%になるようにチップ混合装置により混合し、スパンボンド不織布の原料とした。得られた原料を230℃で溶融し、口金温度235℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4100m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に捕集し得られたウェブを、凸部の面積が16%のエンボスロールとフラットロールで、温度145℃、線圧25kg/cmの条件で熱圧着し、単繊維繊度1.2dtex、目付50g/mのスパンボンド不織布を製造した。得られたスパンボンド不織布の末端カルボキシル基濃度は7.8当量/tonであり、Mwは162000、Mw/Mnは1.84であり、強伸度指数保持率は77.7%であった。
【0052】
(実施例3)
末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂にTEPIC(日産化学工業株式会社製)を溶融混練により添加し、TEPIC含有量が5.0wt%のチップを作製した。作製したTEPIC5.0wt%チップと、末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂チップを、TEPIC5.0wt%チップの混合率が20%になるようにチップ混合装置により混合し、スパンボンド不織布の原料とした。得られた原料を鞘成分、末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂を芯成分の原料とし芯成分、鞘成分ともに230℃で溶融し、口金温度235℃で細孔より鞘成分比率20vol%の芯鞘複合繊維として紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4300m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に捕集し得られたウェブを、凸部の面積が16%のエンボスロールで、温度145℃、線圧25kg/cmの条件で熱圧着し、単繊維繊度1.6dtex、目付30g/mのスパンボンド不織布を製造した。得られたスパンボンド不織布の末端カルボキシル基濃度は19.1当量/tonであり、Mwは171000、Mw/Mnは1.90であり、強伸度指数保持率は66.0%であった。
【0053】
(実施例4)
末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂にMADGIC(四国化成工業株式会社製)を溶融混練により添加し、MADGIC含有量が5.0wt%のチップを作製した。作製したMADGIC5.0wt%チップと、末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂チップを、MADGIC5.0wt%チップの混合率が40%になるようにチップ混合装置により混合し、スパンボンド不織布の原料とした。得られた原料を鞘成分、末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂を芯成分の原料とし、芯成分、鞘成分ともに230℃で溶融し、口金温度235℃で細孔より鞘成分比率40vol%の芯鞘複合繊維として紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4300m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に捕集し得られたウェブを、凸部の面積が16%のエンボスロールで、温度145℃、線圧25kg/cmの条件で熱圧着し、単繊維繊度1.6dtex、目付100g/mのスパンボンド不織布を製造した。得られたスパンボンド不織布の末端カルボキシル基濃度は12.7当量/tonであり、Mwは165000、Mw/Mnは1.78であり、強伸度指数保持率は73.0%であった。
【0054】
(実施例5)
末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂にTEPIC(日産化学工業株式会社製)を溶融混練により添加し、TEPIC含有量が5.0wt%のチップを作製した。作製したTEPIC5.0wt%チップと、末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂チップを、TEPIC5.0wt%チップの混合率が10%になるようにチップ混合装置により混合し、短繊維不織布の原料とした。得られた原料を230℃で溶融し、口金温度240℃で細孔より紡出した後、1600m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。続いて、得られた未延伸糸をホットロール−ホットロール系延伸機を用いて延伸温度80℃、熱セット温度116℃で伸度が40%になるように延伸倍率を設定し延伸し、繊度が2.2dtexの延伸糸を得た。続いて、延伸糸と未延伸糸をクリンパーを用いて捲縮付与し、繊維長6mmにカットし、捲縮数13.2山/2.54cmの未延伸短繊維および捲縮数13.5山/2.54cmの延伸短繊維を得た。得られた延伸糸の短繊維を高圧ホモジナイザーを用い、繊維懸濁液を高速度で小径オリフィスを通過させ、次いでこれをオリフィス出口近傍の壁体に衝突させて急速に減速させることにより、繊維に切断作用を与え、フィブリル化短繊維を得た。得られた延伸短繊維、未延伸短繊維およびフィブリル化短繊維を水槽の中で60:15:25の配合率で混合し分散させ、次いで繊維と水の混合溶液をメッシュのドラムを用いて、このドラムを回転させつつ、繊維と水を分離し、湿式不織布を漉き上げた。これを2つのロールを用いて搾水し、次いで、110℃の表面温度のドラムドライヤーの表面で乾燥を行い、さらに、140℃の表面温度のカレンダーロールを用い、線圧300kg/cmで熱プレスし未延伸糸を融着させ、単繊維繊度2.4dtex、目付80g/mの湿式不織布を製造した。得られた湿式不織布の末端カルボキシル基濃度は5.1当量/tonであり、Mwは189000、Mw/Mnは1.99、強伸度指数保持率は83.5%であった。
【0055】
(実施例6)
末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂にTEPIC(日産化学工業株式会社製)を溶融混練により添加し、TEPIC含有量が5.0wt%のチップを作製した。作製したTEPIC5.0wt%チップと、末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂チップを、TEPIC5.0wt%チップの混合率が20%になるようにチップ混合装置により混合し、短繊維不織布の原料とした。得られた原料を島成分、共重合ポリスチレンを海成分とし、島本数70本/ホールの海島型口金を通して、島/海重量比率30/70で溶融紡糸して未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を延伸倍率3.0倍で延伸し、捲縮を付与してカットし、繊維長51mmの海島型複合繊維の原綿を得た。得られた海島型複合繊維の原綿を、カード、クロスラッパー工程を通過させることにより積層ウエブとし、ついでプレパンチで、100本/cmのニードルパンチを行って短繊維不織布を得た。続いて、得られた短繊維不織布シートの上下から、1500本/cmの針本数でニードルパンチした後、極細繊維化することで単繊維繊度0.02dtex、目付250g/mの短繊維不織布を製造した。得られた短繊維不織布の末端カルボキシル基濃度は5.0当量/tonであり、Mwは201000、Mw/Mnは2.07、強伸度指数保持率は74.4%であった。
【0056】
【表1】

【0057】
得られた不織布の特性は、表1に示したとおりであるが、実施例1〜6の不織布はいずれも強度保持率が50.0%以上であり、耐加水分解性に優れていた。また、実施例1〜6の不織布は、製造する際に刺激臭等の発生もなく製造環境が良好であり、かつ色調も良好であった。
【0058】
(比較例1)
末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂を原料とし、230℃で溶融した後、口金温度235℃で細孔より紡出し、エジェクターにより紡糸速度4300m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に捕集し得られたウェブを、凸部の面積が16%のエンボスロールとフラットロールで、温度145℃、線圧25kg/cmの条件で熱圧着し、単繊維繊度1.6dtex、目付30g/mのスパンボンド不織布を製造した。得られたスパンボンド不織布の末端カルボキシル基濃度は22.8当量/tonであり、Mwは150000、Mw/Mnは1.64であり、強伸度指数保持率は44.2%であった。
【0059】
(比較例2)
4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート400gに、末端封止剤としてシクロヘキシルアミン36gを加え、カルボジイミド化触媒として3−メチル−1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシド2gを加えて窒素気流下190℃で12時間反応させ、重合度8のポリカルボジイミド化合物(以下ポリカルボジイミド化合物Aと記す)を得た。
【0060】
末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂にポリカルボジイミド化合物Aを溶融混練により添加し、ポリカルボジイミド化合物A含有量が5.0wt%のチップを作製した。作製したポリカルボジイミド化合物A5.0wt%チップと、末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂チップを、ポリカルボジイミド化合物A5.0wt%チップの混合率が20%になるようにチップ混合装置により混合し、スパンボンド不織布の原料とした。得られた原料を230℃で溶融した後、口金温度235℃で細孔より紡出し、エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に捕集し得られたウェブを、凸部の面積が16%のエンボスロールとフラットロールで、温度145℃、線圧25kg/cmの条件で熱圧着し、単繊維繊度1.8dtex、目付50g/mのスパンボンド不織布を製造した。得られたスパンボンド不織布の末端カルボキシル基濃度は5.9当量/tonであり、Mwは165000、Mw/Mnは1.80であり、強伸度指数保持率は78.2%であった。
【0061】
(比較例3)
末端カルボキシル基濃度が22.8当量/ton、融点が168℃であるポリ乳酸樹脂に2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)(以下、PBOという)を溶融混練により添加し、PBO含有量が0.5wt%の原料チップを作製した。得られた原料を230℃で溶融した後、口金温度235℃で細孔より紡出し、エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に捕集し得られたウェブを、凸部の面積が16%のエンボスロールとフラットロールで、温度145℃、線圧25kg/cmの条件で熱圧着し、単繊維繊度1.8dtex、目付50g/mのスパンボンド不織布を製造した。得られたスパンボンド不織布の末端カルボキシル基濃度は21.2当量/tonであり、Mwは155000、Mw/Mnは1.66であり、強伸度指数保持率は46.2%であった。
【0062】
得られた不織布の特性は、表1に示したとおりであるが、比較例1の不織布は強度指数保持率が50.0%未満であり、耐加水分解性に劣っていた。また、比較例2の不織布は、強伸度指数保持率は50.0%以上であったものの、製造時に刺激臭が発生したため実際の生産には適用しがたく、さらに不織布の色調も不良であった。また、比較例3の不織布は、末端カルボキシル基の封鎖効果が少なく、強度指数保持率が50.0%未満であり、耐加水分解性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の生分解性不織布は、製造する際に刺激臭等の発生もなく製造環境が良好であり、耐加水分解性に優れ、かつ色調が良好な生分解性不織布が得られるため、防草シート、植樹ポットなどの土木資材や、べたがけシート、育苗ポットなどの農業資材や、手提げ袋、ラッピング材などの生活資材や、フィルター、電線押え巻き材などの工業資材や、天井材、フロアマットなどの車輌資材や、透湿防水シート、屋根下葺材などの建築資材に適用でき、有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子鎖末端にカルボキシル基を有する脂肪族ポリエステル樹脂であって、一般式[化1]で表される、少なくとも1種の化合物を含有し、該化合物によって該カルボキシル基の一部または全部が封鎖された脂肪族ポリエステル樹脂からなる繊維を含有することを特徴とする生分解性不織布。
【化1】

(ここで、R〜Rのうち、少なくとも1つはグリシジルエーテル若しくはグリシジルエステルであり、残りは水素、炭素原子数1〜10のアルキル基、水酸基、アリル基等の官能基)
【請求項2】
芯成分及び鞘成分のいずれもが分子鎖末端にカルボキシル基を有する脂肪族ポリエステル樹脂からなる芯鞘複合繊維を含有する生分解性不織布であって、該芯鞘複合繊維の鞘成分樹脂のみが、一般式[化1]で表される、少なくとも1種の化合物を含有し、該化合物によって該カルボキシル基の一部または全部が封鎖された脂肪族ポリエステル樹脂であって、かつ該芯鞘複合繊維の鞘成分比率が5〜70vol%であることを特徴とする生分解性不織布。
【請求項3】
末端カルボキシル基濃度が0〜20当量/tonであることを特徴とする請求項1または2に記載の生分解性不織布。
【請求項4】
[化1]の化合物の含有量が脂肪族ポリエステル樹脂全量に対し0.02〜10wt%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性不織布。
【請求項5】
脂肪族ポリエステル樹脂がポリ乳酸樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の生分解性不織布。
【請求項6】
脂肪族ポリエステル樹脂の分子量が以下の範囲にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の生分解性不織布。
Mw :8万〜50万
Mw/Mn:1.4〜4.0
ここで、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の生分解性不織布からなる土木資材。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の生分解性不織布からなる農業資材。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の生分解性不織布からなる生活資材。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の生分解性不織布からなる工業資材。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の生分解性不織布からなる車輌資材。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載の生分解性不織布からなる建築資材。

【公開番号】特開2007−23444(P2007−23444A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209616(P2005−209616)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】