説明

耐劣化性に優れた透明導電膜およびこの透明導電膜を形成するためのスパッタリングターゲット

【課題】過酷な環境に長期間曝されても比抵抗値および透明性が劣化することのない耐劣化性に優れた透明導電膜およびこの透明導電膜を成膜するためのターゲットを提供するものであり、この透明導電膜は液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置、帯電防止導電膜コーティング、ガスセンサー、太陽電池などに用いられる。
【解決手段】Ce:0.5〜4.5質量%、Ga:0.05〜1.5質量%、Zn:73.4〜79.8質量%、残部:酸素からなり、かつCe含有量>Ga含有量となる条件を満たす成分組成を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置、帯電防止導電膜コーティング、ガスセンサー、太陽電池などに用いられる過酷な環境に長期間曝されても比抵抗値および透明性が劣化することのない耐劣化性に優れた透明導電膜、特に、太陽電池用透明導電膜に関するものであり、さらにこの発明はこの耐劣化性に優れた透明導電膜を成膜するためのスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置、帯電防止導電膜コーティング、ガスセンサー、太陽電池などに用いられる透明導電膜の一種として、Ceを0.05〜15質量%ドープした酸化亜鉛(このCeをドープした酸化亜鉛を、以下、CZOという)からなる透明導電膜が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−113110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来のCZO透明導電膜は太陽電池用透明導電膜として長期間使用すると、比抵抗値が上昇し、さらに透明性が低下する。例えば、従来のCZO透明導電膜を温度:80℃、相対湿度:90%以上の環境下で500時間保存すると、保存時に比抵抗値が上昇し、さらに透明性が劣化する。そのために従来のCZO透明導電膜を太陽電池用透明導電膜として組み込まれた太陽電池を長期間使用すると発電効率が低下することは避けることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者は、従来のCZO透明導電膜に比べて一層長期間劣化することのない耐劣化性に優れたCZO透明導電膜を得るべく研究を行った。その結果、
(イ)従来のCZOに微量のGaを添加し、Ce:0.5〜4.5質量%、Ga:0.05〜1.5質量%、Zn:73.4〜79.8質量%を含有し、残部が酸素からなり、かつCe含有量>Ga含有量となる条件を満たす成分組成を有するように成分調整を行った透明導電膜(以下、CGZO透明導電膜という)は、温度:80℃、相対湿度:90%以上の環境下に長期間置かれても比抵抗の増加が極めて少なく、さらに波長:1000nmの近赤外領域での透過率が低下することがない、、
(ロ)前記CGZO透明導電膜は、Ce:0.5〜4.5質量%、Ga:0.05〜1.5質量%、Zn:73.4〜79.8質量%を含有し、残部が酸素からなり、かつCe含有量>Ga含有量となる条件を満たす成分組成を有するターゲット(以下、CGZOターゲットという)を用いてスパッタリングすることにより得られる、などの研究結果が得られたのである。
【0005】
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、
(1)Ce:0.5〜4.5質量%、Ga:0.05〜1.5質量%、Zn:73.4〜79.8質量%、残部:酸素からなり、かつCe含有量>Ga含有量となる条件を満たす成分組成を有する耐劣化性に優れた透明導電膜、
(2)Ce:0.5〜4.5質量%、Ga:0.05〜1.5質量%、Zn:73.4〜79.8質量%、残部:酸素からなり、かつCe含有量>Ga含有量となる条件を満たす成分組成を有する耐劣化性に優れた透明導電膜形成用スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0006】
前記(1)記載の透明導電膜は、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置、帯電防止導電膜コーティング、ガスセンサーなどいかなる用途の透明導電膜として適用可能であるが、耐劣化性に優れていることから特に太陽電池用透明導電膜として使用することが一層好ましい。
したがって、この発明は、
(3)前記(1)記載の透明導電膜からなる太陽電池用透明導電膜、に特徴を有するものである。
【0007】
この発明の透明導電膜を成膜するには、まず、原料粉末としていずれも平均粒径:0.05〜3μmを有し、いずれも純度:99.9%以上の酸化亜鉛粉末、酸化ガリウム粉末および酸化セリウム粉末を用意し、次に、これら原料粉末をCe:0.5〜4.5質量%、Ga:0.05〜1.5質量%、Zn:73.4〜79.8質量%を含有し、残部が酸素からなりかつCe>Gaの条件を満たす成分組成を有するように配合し混合して原料混合粉末を作製し、得られた原料混合粉末を冷間静水圧プレスまたはホットプレスすることにより所定の形状に成形し、得られた成形体を酸素を含む雰囲気(例えば、大気)中、温度:1300〜1550℃で焼結することによりCGZO焼結体を作製し、このCGZO焼結体を研削して所定の寸法に成形することによりターゲットを作製する。次にこのターゲットを用いて通常の条件でスパッタリングすることにより成膜することができる。
【0008】
この発明の透明導電膜およびこの透明導電膜を形成するためのスパッタリングターゲットの成分組成を前述のごとく限定した理由を説明する。
A.透明導電膜に含まれるCeおよびGaの限定理由:
Ce:
CeはCGZO透明導電膜の近赤外領域での光透過性を向上させる作用を有するので添加するが、その添加量が0.5質量%未満または4.5質量%を越えて含有すると、温度:80℃、相対湿度:90%の恒温恒湿機に500時間保持したのちの比抵抗値が増加し、さらに近赤外線領域における透過率の低下が大きくなるので好ましくない。したがって、この発明の透明導電膜に含まれるCeの含有量を0.5〜4.5質量%に定めた。
Ga:
GaはドーパントとしてCGZO透明導電膜のキャリア密度とホール移動量を向上させ、それによって透明導電膜の導電性を向上させる作用を有するので添加するが、その添加量が0.05質量%未満であってもまた1.5質量%を越えると、温度:80℃、相対湿度:90%の恒温恒湿機に500時間保持したのちの比抵抗値が増加し、さらに近赤外線領域における透過率の低下が大きくなるので好ましくない。したがって、この発明の透明導電膜に含まれるGaを0.05〜1.5質量%に定めた。
この場合、Ce含有量は常にGa含有量よりも多くしなければ十分な効果が得られない。
B.ターゲットに含まれるCeおよびGaの限定理由:
この発明のターゲットに含まれるCeを0.5〜4.5質量%に限定したのは、スパッタリングによりCe:0.5〜4.5質量%を含むGCZO透明導電膜を形成するために必要とするからであり、また、この発明のターゲットに含まれるGaを0.05〜1.5質量%に限定したのは、スパッタリングによりGa:0.05〜1.5質量%を含むGCZO透明導電膜を形成するために必要とするからである。
この場合、Ce含有量>Ga含有量となるGCZO透明導電膜を形成するためにこの発明のターゲットに含まれるCe>Gaとする必要がある。
【発明の効果】
【0009】
この発明の透明導電膜は、従来のCZO透明導電膜に比べて長期間過酷な環境に置かれても比抵抗値が上昇することや透明性が劣化することがないので、この発明の透明導電膜を太陽電池に使用すると、長期間高性能を維持することができ、優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施例
原料粉末として、いずれも平均粒径:0.5μmおよび純度:99.9%以上を有する市販のZnO粉末、CeO粉末およびGa粉末を用意した。これら原料粉末を表1に示される割合になるように配合し、得られた配合粉末を純水と共にボールミルに装入し、直径:5mmのジルコニア製ボールを用いて湿式混合し、得られた混合粉末を乾燥したのちゴム型に充填し、2Ton/cmの圧力をかけて冷間静水圧プレスすることにより成形体を作製し、この成形体を直径:180mm、厚さ:20mmの寸法を有する円板状成形体に加工し、得られた円板状成形体を大気中、昇温速度:100℃/時で加熱し、表1に示される条件で焼結することにより焼結体を作製した。得られた焼結体を研削して直径:125mm、厚さ:10mmの寸法を有し、表1に示される成分組成を有する本発明ターゲット1〜10および比較ターゲット1〜5を作製した(なお、比較ターゲット5はCe<Gaを満たす好ましくないターゲットである)。
【0011】
従来例
原料粉末として、いずれも平均粒径:0.5μmおよび純度:99.9%以上を有する市販のZnO粉末およびCeO粉末を用意し、これら原料粉末を直径:5mmのジルコニア製ボールを用いて乾式混合した。得られた混合粉末をゴム型に充填し、2Ton/cmの圧力をかけて冷間静水圧プレスすることにより成形体を作製し、この成形体を直径:180mm、厚さ:20mmの寸法を有する円板状成形体に加工し、得られた円板状成形体を大気中、昇温速度:100℃/時で加熱し、表1に示される条件で焼結することにより焼結体を作製した。得られた焼結体を研削して直径:125mm、厚さ:10mmの寸法を有し、表1に示される成分組成を有する従来ターゲット1を作製した。
【0012】
さらに、前記実施例および従来例で得られた本発明ターゲット1〜10、比較ターゲット1〜5および従来ターゲット1を無酸素銅からなるバッキングプレートにボンディングし、これをマグネトロンスパッタリング装置にセットし、
電源:パルスDC、
投入電力:200W、
到達真空度:1×10−4Pa、
スパッタガス:Ar、
スパッタ圧力:0.67Pa、
の条件で250℃に加熱されたガラス基板(コーニング社1737# 縦:20×横:20、厚さ:0.7mm)の上に膜厚:300nmを有し、表2に示される成分組成を有する本発明透明導電膜1〜10、比較透明導電膜1〜5(なお、比較透明導電膜5はCe<Gaを満たす好ましくない透明導電膜である)および従来透明導電膜1を形成した。これら透明導電膜の比抵抗を5箇所以上四探針法により測定し、その平均値を試験前の比抵抗値として表2に示した。さらにこれら透明導電膜の近赤外線領域の波長:1000nmの光に対する透過率を分光光度計を用いて測定し、その結果を試験前の透過率として表2に示した。
【0013】
また、形成したこれらの透明導電膜を温度:80℃、相対湿度:90%の恒温恒湿機に500時間保持したのち、比抵抗値を5箇所以上四探針法により測定し、その平均値を試験後の比抵抗値として表2に示し、さらにこれら透明導電膜の近赤外線領域の波長:1000nmの光に対する透過率を分光光度計を用いて測定し、その結果を試験後の透過率として表2に示した。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

表1〜2に示される結果から、本発明ターゲット1〜10を用いて形成された本発明透明導電膜1〜10は、従来ターゲット1を用いて形成された従来透明導電膜1に比べて温度:80℃、相対湿度:90%の恒温恒湿機に500時間保持したのちの比抵抗値の増加が小さく、さらに近赤外線領域における透過率の低下が少ないことがわかる。また、この発明の範囲から外れた値を有する比較ターゲット1〜5は、比抵抗率の増加が極端に多かったり、透過率が極端に低下するなど好ましくない特性が現れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ce:0.5〜4.5質量%、Ga:0.05〜1.5質量%、Zn:73.4〜79.8質量%、残部:酸素からなり、かつCe含有量>Ga含有量となる条件を満たす成分組成を有することを特徴とする耐劣化性に優れた透明導電膜。
【請求項2】
Ce:0.5〜4.5質量%、Ga:0.05〜1.5質量%、Zn:73.4〜79.8質量%、残部:酸素からなり、かつCe含有量>Ga含有量となる条件を満たす成分組成を有することを特徴とする耐劣化性に優れた透明導電膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項1記載の耐劣化性に優れた透明導電膜からなることを特徴とする太陽電池用透明導電膜。

【公開番号】特開2009−231208(P2009−231208A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77945(P2008−77945)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】