説明

耐摩耗性難燃樹脂組成物及び絶縁電線

【課題】 本発明は、車両用の電線などに用いる、薄肉化、耐摩耗性、難燃性などの諸特性において、優れた特性の耐摩耗性難燃樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 かゝる本発明は、破断点伸び300%以上、メルトマスフローレート(MFR)0.5g/10min(230℃、2.16Kg)以下のホモポリプロピレン(PP)60〜85質量部と、破断点伸び300%以上、MFR0.25g/10min(190℃、2.16Kg)以下の低密度ポリエチレン40〜15質量部と、シリコン処理した金属水酸化物80〜120質量部とからなる耐摩耗性難燃樹脂組成物であり、これにより、薄肉化、難燃性、耐摩耗性、耐熱性などの諸特性において、優れた特性の組成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両用の絶縁電線などに用いて有用な耐摩耗性難燃樹脂組成物及びこれを用いた絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の電線にあっては、コスト面や難燃性などの優れた諸特性から、絶縁材料として、ポリエチレン(PE)が主材料として使用されている。しかしなが、近年、車両用の電線の場合、耐摩耗性や耐熱性などの仕様要求が厳しくなり、これらの諸特性に優れているポリプロピレン(PP)を主成分とした、プロピレン−エチレン(P−E)ブロックコポリマなどが使用されるようになってきている(例えば特許文献1〜2参照)。
【特許文献1】特開2000−026696号公報
【特許文献2】特開2000−086858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、このようなPEの代替樹脂として使用され始めたPPを主成分とした組成物の場合、車両用電線の被覆材としての観点から見ると、絶縁体の薄肉化、耐摩耗性、耐熱性などの性能において、さらなる性能向上が要求され、十分対応できない状況が生じてきている。
【0004】
そこで、本発明者等が、PEの代替樹脂のPPを主成分とした組成物について、種々の試験を行ったところ、特定の特性を有するホモポリプロピレン(PP)と、低密度ポリエチレン(LDPE、密度910以上930Kg/m3 未満)と、シリコン処理した金属水酸化物とを特定の割合で配合し、必要により架橋助剤を添加し、また、電子線照射により架橋させた場合、薄肉化、耐摩耗性、耐熱性などの諸特性において、良好な結果が得られることを見出した。
【0005】
本発明は、このような観点に立ってなされたもので、上記条件とすることにより、特に車両用の電線の被覆材料として、優れた耐摩耗性難燃樹脂組成物を提供し、また、これを用いた絶縁電線(ケーブルも含む)を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明は、破断点伸び300%以上、メルトマスフローレート(MFR)0.5g/10min(230℃、2.16Kg)以下のホモポリプロピレン(PP)60〜85質量部と、破断点伸び300%以上、MFR0.25g/10min(190℃、2.16Kg)以下の低密度ポリエチレン40〜15質量部と、シリコン処理した金属水酸化物80〜120質量部とからなることを特徴とする耐摩耗性難燃樹脂組成物にある。
【0007】
請求項2記載の本発明は、前記請求項1記載の組成物に、架橋助剤を5質量部以下添加することを特徴とする耐摩耗性難燃樹脂組成物にある。
【0008】
請求項3記載の本発明は、前記請求項1又は2記載の組成物を、電子線照射により架橋させることを特徴とする耐摩耗性難燃樹脂組成物にある。
【0009】
請求項4記載の本発明は、前記請求項1、2又は3記載の組成物を、被覆したことを特徴とする絶縁電線にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、ホモポリプロピレン(PP)と低密度ポリエチレン(LDPE)とシリコン処理した金属水酸化物とを特定の割合で配合し、必要により架橋助剤を添加し、また、電子線照射により架橋させるものであるため、薄肉化、耐摩耗性、耐熱性などの諸特性において、優れた特性を有する耐摩耗性難燃樹脂組成物が得られる。勿論、これを、絶縁電線の被覆材料(絶縁材料)として用いた場合、特に車両用の電線にあっては、優れた絶縁電線が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いるホモPPは、引っ張り試験(引っ張り速度200mm/min)で、破断点伸び300%以上、MFR0.5g/10min(測定温度230℃、荷重条件2.16Kg)以下の特性のものである。また、LDPEは、引っ張り試験(引っ張り速度200mm/min)で、破断点伸び300%以上、MFR0.25g/10min(測定温度190℃、荷重条件2.16Kg)以下の特性のものであり、また、特に密度が910以上930Kg/m3 未満のものの使用が望ましい。即ち、両材料とも、伸びが大きいものを使用する。その理由は、絶縁電線、特に車両用の絶縁電線の場合、電線自体に大きなな伸び(例えば150%以上)が必要とされるため、素材材料の段階で大きな伸びのものを用い、難燃化のための金属水酸化物や、その他の材料の添加による伸びの低下があっても、これを被覆した絶縁電線の伸びとして、150%以上を確保するためである。また、本発明のベース樹脂では、ホモPPの割合が多いことから、優れた耐摩耗性、耐熱性などが得られる。ここで、LDPEを添加するのは、ノンハロゲン系の難燃剤である、金属水酸化物の分散性を向上させるためである。その理由は、ホモPPに比べてLDPEは結晶性が小さく、このLDPEに対して水酸化マグネシウムが分散し易くことから、全体としての分散性が向上するものと推論されるからである。この分散性の向上により、耐摩耗性や難燃性の特性劣化が防止される。
【0012】
そして、このホモPP60〜85質量部に対して、LDPEの添加量を、40〜15質量部としたのは(なお、ホモPPとLDPEの合計質量部を100質量部とする)、LDPEの添加量が15質量部未満では、所望の金属水酸化物の分散性が得られず、逆に、LDPEの添加量が40質量部を超えると、ホモPPが少な過ぎて、耐摩耗性などが低下するようになるからである。
【0013】
また、本発明では、上記組成物に対して、上記したように、ノンハロゲン系の難燃剤である、金属水酸化物を添加する。また、必要により、本発明の組成物には、架橋助剤、老化防止剤、銅害防止剤、曲げ白化防止用の水素添加したゴム材料などを適宜添加することができる。
【0014】
上記架橋助剤としては、例えばトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)の使用が好ましい。なお、このTMPTと同時に重合抑制剤である、ハイドロキノン(HQ)と併用することもできる。HQにより、ロール混練時の熱によるTMPTの自己重合抑制の効果が得られる。そして、この架橋助剤の配合量は5質量部以下が望ましい。老化防止剤としては、例えばヒンダート・フェノール系のもの(イルガノックス1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)が好ましく、その配合量は0.1質量部程度が望ましい。銅害防止剤としては、例えばトリアゾール系のもの(CDA−1、アデカ・アーガス化学社製)を挙げることができ、その配合量は0.5質量部程度が望ましい。
【0015】
上記難燃剤である、金属水酸化物としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどがあり、本発明では、樹脂への分散性の改善と添加量の低減、さらには、組成物の引っ張り破断伸びの低減を抑えるため、シリコンにより表面処理したものを使用する。特にシリコン表面処理をした水酸化マグネシウムの使用が望ましい。
【0016】
そして、上記組成物100質量部に対して、その添加量を、80〜120質量部の比較的少ない量(範囲)に抑えてある。通常、十分な難燃性を得るためには、難燃剤の添加量は多いほどよいわけであるが、この添加量が多くなると、組成物の柔軟性などの機械的特性が低下するようになる。このような点を考慮して、本発明では、上記ように、シリコン処理した金属水酸化物を使用し、その添加量を少なく抑えて、組成物の特性低下を防止している。ただし、添加量が80質量部未満では、十分な難燃性が得られず、また、逆に120質量部を超えるようになると、組成物の機械的特性が低下するようになるため、上記範囲としてある。
【0017】
また、本発明の組成物を、絶縁材料として用いた絶縁電線の場合、例えば、車両用の電線として引き回して使用したとき、PP樹脂の存在に起因して、曲げにより樹脂表面が白く変色する白化現象が起こることがある。このため、好ましくは、白化防止用の材料として、水素添加したゴム材料、例えば、水素添加したスチレン・ブタジェンラバ(HSBR)、スチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体(SEBC)、エチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体(CEBC)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)などを添加するとよい。特にHSBRの場合には、その添加量は、5〜10質量部が好ましい。5質量部未満では所望の白化防止効果が得られず、逆に10質量部を超えるようになると、耐摩耗性が低下するなどの問題が生じるからである。
【0018】
このような配合からなる本発明の組成物の場合、例えば、絶縁電線の絶縁体などとして被覆する際には、電子線照射により特にLDPEを架橋させるとよい。電子線照射は、開放された工場内の大気圧中で行ってもよいが、より好ましくは、適当な密閉手段を講じて窒素雰囲気中で行うのが望ましい。この架橋により、組成物特性、特に耐摩耗性の向上が得られる。このため、上述したように、適度の架橋助剤(TMPT)を添加することが望ましい。しかしながら、その配合量は5質量部を超えるようになると、樹脂表面に染み出してくるなどの問題が生じるようになる。また、電子線照射を窒素雰囲気中で行った場合、電子線照射によって生じる酸素ラジカル(大気中酸素及び溶存酸素)による樹脂の劣化を防ぐことが可能となる。
【0019】
なお、本発明の耐摩耗性難燃樹脂組成物にあっては、上記の添加剤の他に、さらに、必要により他の添加剤、例えば顔料なども適宜添加することができる。
【0020】
〈実施例、比較例〉
表1〜2に示した配合からなる、本発明の耐摩耗性難燃樹脂組成物(実施例1〜6)と、本発明の条件を欠く樹脂組成物(比較例1〜6)により、サンプルの絶縁電線を製造した。ここで、使用したホモPPは、破断点伸び300%以上、MFR0.5g/10min(230℃、2.16Kg)のもの(B101WAT、三井化学社製)である。また、LDPEは、破断点伸び650%、MFR0.23g/10min(190℃、2.16Kg)、密度919Kg/m3 のもの(UBE−C150、宇部興産社製)である。TMPTは、NKエステルTMPT(新中村化学工業社製)である。金属水和物のSi処理水酸化マグネシウムは、スキマ5P(協和化学社製)である。なお、サンプルの絶縁電線は、外径φ0.9mmの導体上に厚さ0.2mmの絶縁体として、上記各組成物を押出被覆し(被覆外径φ1.3mm)、窒素雰囲気中で電子線照射を行った。電子線照射の強度は0.5Mradであった。また、表中の配合材料の数値は質量部数を示す。
【0021】
得られた各サンプルの絶縁電線に対して、次のような物性評価を行った。(1)耐摩耗性、これはISO6722の耐摩耗試験(ブレード往復法)に準じて行った。そして、ニードル径φ0.45、荷重720gで、絶縁体が摩耗して導通するまでの回数を求め、150回以上となるものを合格とした。(2)破断点伸び、これはJIS−C3005の引っ張り試験に準じて、絶縁体を引っ張って行った。そして、破断点伸び15%以上のとき合格(○)とし、15%未満のとき不合格(×)とした。(3)難燃性、これはISO6722の45°傾斜燃焼試験に準じて行った。そして、各5本のサンプル電線で行い、5本中5本全て70秒以内に自己消火のとき合格とし、5本中1本以上が70秒以内に自己消火しないとき不合格とした。(6)架橋助剤の染み出し、これは目視により観察した。そして、5本中5本全て染み出し異常なしのとき合格とし、5本中1本以上が染み出し異常あるとき不合格とした。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
上記表1〜2から、本発明に係る耐摩耗性難燃樹脂組成物を用いた絶縁電線(実施例1〜6)にあっては、すべての特性、即ち耐摩耗性、破断点伸び、難燃性、架橋助剤の染み出しについて、良好な結果が得られていることが判る。これに対して、本発明の要件を欠く絶縁電線(比較例1〜6)では、いずれかの特性において問題があることが判る。
つまり、ホモPPのみの比較例1では、耐摩耗性と破断点伸びにおいて問題があることが判る。LDPEの添加量が多過ぎる比較例2では、耐摩耗性が特に悪いことが判る。逆に、LDPEの添加量が少な過ぎる比較例3では、金属水酸化物である水酸化マグネシウムの添加量は適量であるものの、LDPEが少ないことから、金属水酸化物の十分な分散性が得られず、難燃性が悪いことが判る。難燃剤の添加量が少な過ぎる比較例4では、当然難燃性が悪いことが判る。逆に、難燃剤の添加量が多過ぎる比較例5では、耐摩耗性と破断点伸びにおいて問題があることが判る。架橋助剤の多過ぎる比較例6では、この架橋助剤の染み出しが生じることが判る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
破断点伸び300%以上、メルトマスフローレート(MFR)0.5g/10min(230℃、2.16Kg)以下のホモポリプロピレン(PP)60〜85質量部と、破断点伸び300%以上、MFR0.25g/10min(190℃、2.16Kg)以下の低密度ポリエチレン40〜15質量部と、シリコン処理した金属水酸化物80〜120質量部とからなることを特徴とする耐摩耗性難燃樹脂組成物。
【請求項2】
前記請求項1記載の組成物に、架橋助剤を5質量部以下添加することを特徴とする耐摩耗性難燃樹脂組成物。
【請求項3】
前記請求項1又は2記載の組成物を、電子線照射により架橋させることを特徴とする耐摩耗性難燃樹脂組成物。
【請求項4】
前記請求項1、2又は3記載の組成物を、被覆したことを特徴とする絶縁電線。


【公開番号】特開2006−57029(P2006−57029A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241770(P2004−241770)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】