説明

耐汚染性プレコートアルミニウム板

【課題】曲げ加工性が良好な耐汚染性プレコートアルミニウム板を提供する。
【解決手段】アルミニウム板の表面に化成皮膜を形成し、さらにその上に、2層の塗膜が形成されてなるプレコートアルミニウム板において、数平均分子量が2万〜3万の範囲にありかつ多分散度が2〜10の範囲にあるポリエステル系樹脂をベース樹脂として含む塗料を焼付けて3〜13μmの塗膜厚としたものを下塗り層とし、アクリル樹脂からなるベース樹脂と、コロイダルシリカと、アルコキシ基を含有するシリコーン化合物と、顔料もしくは染料の1種または2種以上を含有する塗料を焼付けて8〜20μmの塗膜厚としたものを上塗り層とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、看板、屋外用建材、家電製品等に用いられ、特に美観性を伴う外装材に用いられるプレコートアルミニウム板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、美観性を伴う外装材は、長期に渡り、その美観性が継続することは極めて稀である。その理由は、土砂、埃、煤塵、排ガス中の粒子状物質などが表面に付着して汚れが生じるからである。例えば、アルミニウム合金板にフィルムを貼った外装材には、筋状の黒い汚れが付着しやすいが、このような筋状の黒い汚れは除去しにくいのが通常である。この筋状の汚れは、大気中に浮遊する土砂、埃、煤塵、排ガス中の粒子状物質などがフィルム表面に付着・堆積し、降雨によって筋状に流れて、一部残留したものが、乾燥後、黒い筋として見えるものである。通常、このような汚れがあっても、そのままの状態で、洗浄及び除去されることはないが、近年、高級感を求めるユーザーの中には、このような汚れを問題視することがある。このような要求に対し、施工後に、汚れを除去する場合、かなりの時間と手間を必要とすることが多い。
【0003】
そこで、特許文献1に開示されるようなシリカ含有アクリル系樹脂プレコート金属塗装板をプレス成形した外装材が利用されるようになった。このシリカ含有アクリル系樹脂プレコート金属塗装板には汚れが付着しにくく、かつ、雨水等により付着した汚れを落としやすくすることができる。
【0004】
前記シリカ含有アクリル系樹脂プレコート金属塗装板に美観性を付与する場合、種々の顔料あるいは染料を添加する。添加量は適宜調節されるが、高級感を求めるユーザーの要求に応えるためには、その種類や添加量が多くなりやすい。そのような場合、塗膜が脆くなるために、曲げ部において塗膜割れが起き、その外観が問題になることがあった。
【特許文献1】特開2004−082516号公報
【0005】
また、特許文献2には、耐汚染性に優れるとともに、塗膜の割れの発生を防止することができる塗装金属板が開示されている。この塗装金属板では、下塗り塗料にアルキルアミン鎖を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂と、アダクト型ブロックイソシアネート化合物を含有するものを用いることにより、ウレタン架橋構造からなる塗膜が形成され、柔軟性を有し、かつ強靭な塗膜を得ることができる。また、上塗り塗料に有機質樹脂、及びテトラアルコキシシラン化合物を含有し、硬化塗膜のガラス転移温度が20〜80℃のものを用いることにより、耐汚染性に優れ、かつ、塗膜の割れを効果的に防止することができる。しかしながら、焼付時間が、20分と極めて長く、プレコートに適用するには、乾燥炉の長さを極めて長くする、あるいは、製造速度を極めて遅くして製造しなければならず、製造コストがかかるという問題がある。
【特許文献2】特開2004−243546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、曲げ加工性が良好な耐汚染性プレコートアルミニウム板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、請求項1に示すように、アルミニウム板の表面に化成皮膜を形成し、さらにその上に2層の塗膜が形成されてなるプレコートアルミニウム板において、数平均分子量が2万〜3万の範囲にありかつ多分散度が2〜10の範囲にあるポリエステル系樹脂をベース樹脂として含む塗料を焼付けて3〜13μmの塗膜厚としたものを下塗り層とし、アクリル樹脂からなるベース樹脂と、コロイダルシリカと、アルコキシ基を含有するシリコーン化合物と、顔料もしくは染料の1種または2種以上を含有する塗料を焼付けて8〜20μmの塗膜厚としたものを上塗り層とすることを特徴とする耐汚染性プレコートアルミニウム板である。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、下塗り層に、数平均分子量が2〜3万の範囲にあり、かつ多分散度が2〜10の範囲にあるポリエステル系樹脂をベース樹脂として用い、かつ、下塗り層の塗膜厚を3〜13μmの範囲にしたので、硬化塗膜の凝集力が高くなり、曲げ加工によって、脆い上塗り層が割れても、前記上塗り層の変形に追随せずに、下塗り層が伸びて割れないために、曲げ部外観を良好にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
A.アルミニウム板
本発明において用いるアルミニウム板は、純アルミニウムとアルミニウム合金の中で、看板や屋外用建材、家電製品などその用途に用いるのに十分な強度を有し、かつ十分な成形加工性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、3000系または5000系アルミニウム合金が好ましい。
【0010】
B.化成皮膜
アルミニウム板と2層の塗膜の下塗り層との間に設けられる化成皮膜は、両者の密着性を高めるものであれば特に限定されるものでない。例えば、安価で浴液管理が容易なリン酸クロメート処理液で形成される化成皮膜や、処理液成分の変化が無く水洗を必要としない塗布型ジルコニウム処理で形成される化成皮膜を用いることができる。このような化成処理は、アルミニウム板に所定の化成処理液をスプレーしたり、合金板を処理液中に所定の温度で所定時間浸漬することによって施される。
なお、化成処理を行う前に、アルミニウム板表面の汚れを除去したり表面性状を調整するために、アルミニウム板を硫酸、硝酸、リン酸等の酸処理、或いは、カセイソーダ、リン酸ソーダ、ケイ酸ソーダ等のアルカリ処理をすることが望ましい。このような表面処理も、アルミニウム板に所定の表面処理液をスプレーしたり、合金板を処理液中に所定温度で所定時間浸漬することによって施される。
【0011】
C.下塗り層
前記化成皮膜上に下塗り層が形成される。
下塗り層は、数平均分子量が2万〜3万の範囲にあり、かつ、多分散度が2〜10の範囲にあるポリエステル系樹脂を必須成分として含有させ、適当な溶剤にこれらを溶解又は分散した塗料を塗装焼付けして3〜13μmの塗膜厚とする。
【0012】
下塗り層のベース樹脂としてはポリエステル系樹脂を用いる。ポリエステル系樹脂は、塗装時の作業性が良好で、加工時に塗膜割れが起こり難いからである。ポリエステル系樹脂としては、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及び変成アルキド樹脂等が用いられる。アルキド樹脂は、無水フタル酸などの多塩基酸とグリセリンなどの多価アルコールとの縮合物を骨格とし、これを脂肪酸の油脂で変性したものである。用いる油脂の種類と含有量によって、短油性アルキド樹脂、中油性アルキド樹脂、長油性アルキド樹脂及び超長油性アルキド樹脂に分類される。不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和多塩基酸又は飽和多塩基酸とグリコール類をエステル化することによって合成される。多塩基酸としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びアジピン酸が用いられ、グリコール類としては、プロピレングリコールが多く用いられる。変成アルキド樹脂としては、天然樹脂、フェノール樹脂又はスチレンなどの重合性モノマーで変成されたものが用いられる。
【0013】
ポリエステル系樹脂の数平均分子量は2万〜3万の範囲とする。数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンで換算したものである。数平均分子量が2万未満であると、低分子量成分の含有量が多くなり、硬化塗膜の凝集力が不足するために、曲げ加工によって、上塗り層の割れに追随して下塗り層が割れやすく、曲げ部外観が劣り、3万を超えると、塗料粘度が高くなり、塗料を十分に希釈するために、塗装外観が劣化しやすいからである。
ポリエステル系樹脂の多分散度は2〜10の範囲とする。多分散度は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンで換算した重量平均分子量と数平均分子量との比から算出する。多分散度が2未満であると、塗料粘度が高くなり、塗料を十分に希釈するために、塗装外観が劣化し、多分散度が10を超えると、低分子量成分の含有量が多く、硬化塗膜の凝集力が不足するために、曲げ加工によって、上塗り層の割れに追随して、下塗り層が割れやすく、曲げ部外観が劣るからである。
【0014】
上記樹脂を必須成分とし、適当な溶剤にこれらを溶解又は分散した塗料を、ロールコーターによって化成皮膜上に塗布し、所定温度のオーブン中で所定時間処理して焼付け乾燥する。溶剤としては、シクロヘキサン、イソホロン、イソブチルアルコール、キシレン、エチルベンゼン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテルなどが用いられる。なお、ロールコーターに代えてエアスプレーやバーコーター等によって塗料を塗布してもよい。
【0015】
塗装焼付け後の塗膜厚は3〜13μmとする。3μm未満であると耐食性が劣り、13μmを超えると曲げ加工によって、上塗り層の割れに追随して下塗り層が割れやすく、曲げ部外観が劣る。
【0016】
D.上塗り層
前記下塗り層上に上塗り層が形成される。上塗り層は、アクリル樹脂からなるベース樹脂と、コロイダルシリカと、アルコキシ基を含有するシリコーン化合物と、顔料もしくは染料の1種または2種以上を含有する塗料を焼付けて8〜20μmの塗膜厚としたものとする。
【0017】
上塗り層のベース樹脂としては、アクリル系樹脂を用いる。アクリル系樹脂は総合的に塗膜性能が良好で比較的に安価なことから一般的に塗料に多く使用されており、特に塗膜表面の光沢を比較的高くすることができ、また比較的硬い塗膜を形成させることができるからである。
なおアクリル系樹脂は、アクリル酸、およびメタクリル酸等とそれらのエステルの共重合物であるが、このようなアクリル樹脂に、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂等が少量配合されていても特に支障はない。
【0018】
コロイダルシリカを塗料に添加することにより塗布直後は、塗膜内に均等に分散しているが、焼付乾燥時に塗膜表面の濃度が上昇する。この状態で、暴露されると、空気中の水分や雨水と反応し、表面に親水性の高いシラノール基が生成され、塗膜表面の水接触角を下げることができる。その結果、塗膜表面にかかった雨水等が円滑に流れて溜まりにくくなり、付着した汚れを落しやすくできる。
また、コロイダルシリカが塗膜に添加されているために、塗膜が硬くなり、土砂、埃、煤塵、排ガス中の粒子状物質等が塗膜中に埋没しにくくなる。
コロイダルシリカの平均粒径は、0.1μm以下とすることが好ましい。コロイダルシルカの粒径を0.1μm以下とすることにより、塗膜表面にシラノール基が微細に存在するために水濡れを良好にすることができるからである。また、平均粒径が0.1μmを超えると、曲げ加工において、塗膜の割れの起点となるからである。
コロイダルシリカの含有量は、1〜10%の範囲にあることが好ましい。1%未満では親水性の効果が十分に得られず、付着した雨水等が溜まりやすくなり、汚れを流し落としにくいからである。10%を超えると、塗膜が硬くなり、塗膜割れの起点が多くなって、曲げ加工時に割れが発生しやすくなるからである。
【0019】
塗装直後の親水性を向上させるために、アルコキシ基を含有するシリコーン化合物を添加する。アルコキシ基を含有するシリコーン化合物の含有量は、0.1〜5%の範囲にあることが好ましい。0.1%未満では、親水性の効果が十分に得られず、5%を超えるとそれ以上の効果が望めずコストアップにつながるからである。
アルコキシ基を含有するシリコーン化合物としては、平均重合度が3〜50のものを用いることが好ましい。重合度が3より小さければ、加水分解され難いため親水性を向上させる効果が得られず、50より大きければゲル化しやすくなり、塗装性に問題が生じるからである。
【0020】
所望の塗膜色を得るために、顔料もしくは染料の1種または2種以上を含有させる。顔料としては、例えば、酸化チタンやカーボンブラックが好ましく、染料としては、例えば、フタロシアニンブルーが好ましい。それらの含有量は、要求される塗膜色に応じて適宜調整される。
【0021】
適当な溶剤にこれらを溶解又は分散した塗料を、ロールコーターによって下塗り層上に塗布し、所定温度のオーブン中で所定時間処理して焼付け乾燥する。溶剤としては、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソホロン、シクロヘキサノンなどが用いられる。なお、ロールコーターに代えてエアスプレーやバーコーター等によって塗料を塗布してもよい。
【0022】
焼付け後の塗膜厚さは、8〜20μmの範囲とする。8μm未満であると耐食性が劣り、20μmを超えると、ローピングが発生し塗装外観が劣るからである。
【実施例】
【0023】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
アルミニウム板(A5052−H34、板厚0.6mm)を市販のアルカリ系脱脂剤でスプレー法により脱脂処理を行ない、水洗後、市販のリン酸クロメート処理液にて化成処理を行い、水洗後、乾燥させた。その表面上に表1に示す塗料(ポリエステル系樹脂)をバーコーターで塗布し、PMT(最高到達板温度)210℃にて焼付けて下塗り層を形成させた。なお、ポリエステル系樹脂の数平均分子量と多分散度は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンで換算して算出した。さらに、その表面上にアクリル系樹脂に平均粒径が0.03μmであるコロイダルシリカを5%添加し、さらに平均重合度が10であるアルコキシド含有シリコーン化合物を1%、カーボンブラックを10%添加した塗料をバーコーターで塗布し、PMT(最高到達板温度)224℃にて焼付けて上塗り層を形成し、プレコートアルミニウム合金板を得た。
【0025】
【表1】

【0026】
得られたプレコートアルミニウム板を用いて以下の試験を行なった。評価は、◎と○を合格とし、△と×を不合格とした。
【0027】
(1)曲げ加工性試験
(a)180度曲げ
屈曲半径をアルミニウム板の厚みの2倍とした2T、3倍とした3T、4倍とした4Tにて、180度曲げを施して、テープ剥離試験を行い、塗膜の剥離状態を観察した。
◎:2Tで、剥離なし
○:2Tで、剥離あるが、3Tで、剥離なし
△:2Tと3Tで、剥離あるが、4Tで、剥離なし
×:2Tと3Tと4Tで、剥離あり
(b)90度曲げ
曲げRを0.2Rとし、90度曲げを施して、塗膜の割れ状態をSEM(走査型電子顕微鏡)で断面観察した。
◎:上塗り層、下塗り層とも割れなし
○:上塗り層の割れあるが、下塗り層の割れなし
△:上塗り層の割れがあり、下塗り層も割れているが、素地には達していない
×:上塗り層、下塗り層とも割れあり
【0028】
(2)耐汚染性試験
市販のサクラネーム(登録商標)赤マジックインクで3cm*5cmの線を描き、24時間放置した後、エタノールを浸したキムワイプで20回擦った後の塗膜表面に残存した赤マジックを目視によって評価した。
◎:完全に除去された
○:跡は残っていないが、極僅かに色味を帯びた
△:弱く跡が残った
×:相当量の跡が残った
【0029】
結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
本発明例1〜3は、数平均分子量が2〜3万の範囲にあり、かつ多分散度が2〜10の範囲にあるポリエステル系樹脂をベース樹脂として含む塗料を焼付けて3〜13μmの塗膜厚としたものを下塗り層とし、アクリル樹脂からなるベース樹脂と、コロイダルシリカと、アルコキシ基を含有するシリコーン化合物と、顔料もしくは染料の1種または2種以上を含有する塗料を焼付けて8〜20μmの塗膜厚としたものを上塗り層とした2層塗膜を用いたので、これらのプレコートアルミニウム板では、耐汚染性と曲げ加工性が良好であった。
比較例1は、下塗り層の塗膜厚が13μmを超えたために曲げ加工性が劣った。
比較例2は、下塗り層に用いたベース樹脂の数平均分子量が2万未満であり、多分散度が10を超えたために曲げ加工性が劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板の表面に化成皮膜を形成し、さらにその上に2層の塗膜が形成されてなるプレコートアルミニウム板において、数平均分子量が2万〜3万の範囲にありかつ多分散度が2〜10の範囲にあるポリエステル系樹脂をベース樹脂として含む塗料を焼付けて3〜13μmの塗膜厚としたものを下塗り層とし、アクリル樹脂からなるベース樹脂と、コロイダルシリカと、アルコキシ基を含有するシリコーン化合物と、顔料もしくは染料の1種または2種以上を含有する塗料を焼付けて8〜20μmの塗膜厚としたものを上塗り層とすることを特徴とする耐汚染性プレコートアルミニウム板。

【公開番号】特開2006−247906(P2006−247906A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64688(P2005−64688)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】