説明

耐温水性に優れるAl合金反射膜、およびスパッタリングターゲット

【課題】高い反射率を有すると共に、自動車用灯具などのように加熱と冷却を繰返し受ける環境下に曝して結露が生じても反射率が低下し難い、耐温水性に優れたAl合金反射膜を提供する。
【解決手段】本発明のAl合金反射膜は、Gd,La,Y,Sc,Tb,Lu,Pr,Nd,Pm,Ce,Dy,Ho,Er,及びTmよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計で2.5〜6原子%と、Cr,Cu,Ag,Ni,Co,Mn,Si,Mo,V,Fe,及びBeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計で15原子%以下(0%は含まない)とを含有し、残部がAl及び不可避不純物であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al合金反射膜;及びこのAl合金反射膜を用いた自動車用灯具、照明具、装飾部品;並びにAl合金スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
純Alは高い反射率(88%程度)を有するため、自動車用灯具や照明具、あるいは装飾部品等の反射膜として使用されている。しかしながら、純Alは両性金属であるため酸やアルカリに弱い。したがって、純Alからなる反射膜(純Al反射膜)を自動車用灯具等に使用すると、反射膜が短期間に劣化してしまい、長期間に亘って高い反射率を維持できない場合がある。
【0003】
純Al反射膜の高い反射率を長期間維持する方法として、酸やアルカリに耐性を示す保護膜を純Al反射膜の表面に形成する方法がある。しかしながら、上記の方法では、製品の生産性が低下するという問題がある。
【0004】
その他、Alを他元素と合金化する方法も開示されている。例えば特許文献1には、周期律表のIIIa族、IVa族、Va族、VIa族、VIIa族、VIIIa族の遷移元素を添加したAl合金反射膜が開示されている。また、特許文献2には、AlにMgを添加したAl合金反射膜が開示されている。さらに、特許文献3には、AlにMgと希土類元素とを添加したAl合金反射膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−301705号公報
【特許文献2】特開2007−72427号公報
【特許文献3】特開2007−70721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ヘッドランプやリアランプなどの自動車用灯具は、内部で結露と水滴が発生し易いという問題を抱えている。その理由は、自動車用灯具の内部には湿気を含んだ外気が浸入すると伴に、点灯時には光源が発する熱で加熱される一方で、非点灯時には外気や雨などで冷却されるなど、加熱と冷却が繰り返されるからである。そして、結露の発生は、自動車用灯具が備える反射膜の透明化や反射率の低下などを招く。このため、高い反射率のみならず耐温水性にも優れる反射膜が強く望まれている。
【0007】
上記と同様の結露の問題は、自動車用灯具に限られず、ダウンライト、蛍光灯、有機ELを使用した有機EL照明器具などの照明具や装飾部品が備える反射膜にも生じる。
【0008】
本発明は上記の様な事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い反射率を有すると共に、保護膜がなくても、自動車用灯具などのように加熱と冷却を繰返し受ける環境下に曝して結露が生じても反射率が低下し難い、耐温水性に優れたAl合金反射膜、及び、このようなAl合金反射膜の形成に有用なAl合金スパッタリングターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し得た本発明のAl合金反射膜は、Gd,La,Y,Sc,Tb,Lu,Pr,Nd,Pm,Ce,Dy,Ho,Er,及びTmよりなる群(以下、グループAと言う場合がある。)から選択される少なくとも1種の元素を2.5〜6原子%と;Cr,Cu,Ag,Ni,Co,Mn,Si,Mo,V,Fe,及びBeよりなる群(以下、グループBという場合がある)から選択される少なくとも1種の元素を15原子%以下(0%は含まない)とを含有し、残部がAl及び不可避不純物であることを特徴とする。
【0010】
上記のAl合金反射膜において、Crを3.0原子%以下含有するものや、Cuおよび/またはAgを10.0原子%以下含有するものは、本発明の好ましい実施態様である。
【0011】
本発明には、上記Al合金反射膜を備えた自動車用灯具、照明具、装飾部品も包含される。
【0012】
また、上記課題を解決し得た本発明のスパッタリングターゲットは、Gd,La,Y,Sc,Tb,Lu,Pr,Nd,Pm,Ce,Dy,Ho,Er,及びTmよりなる群(グループA)から選択される少なくとも1種の元素を2.5〜8原子%と;Cr,Cu,Ag,Ni,Co,Mn,Si,Mo,V,Fe,及びBeよりなる群(グループB)から選択される少なくとも1種の元素を20原子%以下(0%は含まない)とを含有し、残部がAl及び不可避不純物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のAl合金反射膜は、所定の元素群で構成されているため、高い反射率を有しており、且つ、耐温水性にも優れている。したがって、本発明のAl合金反射膜は、例えば、自動車用灯具、照明具、装飾部品など、加熱と冷却を繰返し受けて結露し易い環境下で用いられる製品に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、高い反射率を有することは勿論のこと、自動車用灯具等に要求される結露環境への耐性(耐温水性)にも優れたAl合金反射膜を提供するため、鋭意検討してきた。その結果、グループAに属する希土類元素と、グループBに属する元素を添加したAl−(グループA)−(グループB)合金反射膜を用いれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
本発明の構成要件を詳しく説明する前に、まず、本発明に到達した経緯を説明する。
【0016】
本発明者らは、反射膜がなくても高い反射率を長期間に亘って維持でき、耐アルカリ性、耐酸性、耐熱性などに優れた反射膜として、グループAの希土類元素を含むAl−(グループA)合金膜を先に出願している(特願2009−048222号)。ここで、耐アルカリ性とはアルカリ環境下でも腐食せず、反射率が低下しないことを意味し;耐酸性とは、酸性環境下でも腐食せず、反射率が低下しないことを意味する。また、耐湿性とは、高温多湿環境下での耐性であり、当該環境下でも腐食せず、反射率が低下しないことを意味する。
【0017】
しかし、その後の研究で、上記のAl合金反射膜は耐温水性に劣っており、結露環境を模擬した耐温水性試験(温水浸漬試験)において、膜の透明化や、反射率の著しい低下が見られたり、浸漬の初期段階で無数のピンホールが形成される場合があることが分かった。この原因は詳細には不明であるが、Alの自然酸化膜(保護膜として機能)の脆弱な部分、あるいは薄い部分からAlが優先的に溶解してAlが溶出し、これが酸化して水酸化膜を形成し、ここを介して酸素が入り込んでAl膜の酸化が進行することが、膜透明化の主な原因であると推察される。
【0018】
そこで、本発明者らは、高い反射率や良好な耐アルカリ性は維持しつつ、更に耐温水性も兼備する新規なAl合金反射膜を提供するため、検討を重ねた。その結果、上記Al合金反射膜に更にグループBに属する元素を添加すると、Al合金反射膜の耐温水性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明のAl合金反射膜は、Gd,La,Y,Sc,Tb,Lu,Pr,Nd,Pm,Ce,Dy,Ho,Er,及びTmよりなる群(グループA)から選択される少なくとも1種の元素を2.5〜6原子%と;Cr,Cu,Ag,Ni,Co,Mn,Si,Mo,V,Fe,及びBeよりなる群(グループB)から選択される少なくとも1種の元素を15原子%以下(0%は含まない)とを含有し、残部がAl及び不可避不純物であるところに特徴がある。
【0020】
以下、本発明のAl合金反射膜(以下、単にAl合金膜と称する場合がある。)について詳細に説明する。
【0021】
(グループAの元素)
本発明のAl合金膜は、グループAの元素を含有している。グループAの元素は、希土類元素群[通常は、ランタノイド元素と、Scと、Yとを加えた元素群]の中からSm、Eu、Ybを除いたものである。本発明者らの実験結果によれば、希土類元素群のうち上記グループAの元素が、耐アルカリ性、耐酸性、耐湿性などを向上させ、しかも、グループBの元素(詳細は後述する。)を併用しても、これらの作用を劣化させないことが確認されたからである。上記グループAの元素は、単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
グループAの元素の添加によって上記特性が向上する理由は詳細には不明であるが、以下のように推察される。例えば、酸性環境下では、上記Al合金膜の浸漬電位が純Alの浸漬電位よりも卑な電位となり、Alの溶解速度が小さくなったためと考えられる。同様にアルカリ性環境下では、グループAの元素がAl合金膜の表面に水酸化物として析出して濃縮し、これが保護膜となり、Alの溶解速度が小さくなったためと考えられる。
【0023】
これに対し、グループAに含まれないEu、Sm、Ybの希土類元素は、耐アルカリ性を向上させない。これらの元素は、アルカリ性環境下でイオンとなって溶液中に溶解し、Al合金膜の表面に析出しないため、グループAの元素に比べAlの溶解速度低減効果が劣ると考えられる。
【0024】
上記作用は、グループAに属する希土類元素の全てに認められ、元素の種類による上記作用の差(効果の優劣)は殆ど見られない。ただし、上記元素のなかには、着色や変色などを起こし易く、反射膜の外観を損なうものもあるため、Al合金膜の使用目的などによっては、使用を避けることが好ましい。具体的には、グループAの元素のうち、Gd,La,Y,Sc,Tb,Lu(以下、Gd〜Luという場合がある)は、Al合金膜の表面に析出しても着色し難く、アルカリに浸漬後も変色が少ないのに対し、Gd〜Lu以外の元素、例えば、Ce等の希土類元素水酸化物は黄色や褐色等の色を呈しており、Al合金膜の表面に濃縮すると変色する場合がある。
【0025】
Al合金膜の耐酸性や耐アルカリ性や、成膜に用いるスパッタリングターゲットの製造コストなどを考慮すると、Alに添加するグループAの元素はGd,La,Y,Tb,Luが好ましく、Gd,La,Yがより好ましい。
【0026】
グループAの元素の添加による上記作用を有効に発揮させるため、上記元素の含有量(単独の場合は単独量であり、両方を含む場合は合計量である。)を2.5原子%以上6原子%以下とする。好ましい含有量は2.8原子%以上5.5原子%以下であり、より好ましくは3.0原子%以上5.0原子%以下である。
【0027】
グループAの元素の含有量を2.5原子%以上とすることにより、Al合金膜の耐アルカリ性などが十分に向上する。また、グループAの元素の含有量を6原子%以下とすることにより、Al合金膜の成膜直後の反射率の低下(70%未満)を防ぐことができる。
【0028】
(グループBの元素)
本発明のAl合金膜は、上記グループAの元素に加え、更にグループBの元素を含有している。すなわち、本発明は、Al−(グループA)−(グループB)合金膜を用いたところに最大の特徴があり、これにより、Al合金膜の耐温水性が高められる。グループAとグループBの元素を両方含むAl合金膜は、前述した特許文献には開示されていない。
【0029】
グループBの元素は、単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
グループAとグループBの元素を併用することによってAl合金膜の耐温水性が向上する詳細な理由は不明であるが、グループBの元素は、Al合金膜を温水に浸漬した際にAlの溶出を防止する作用を有しており、その結果、当該Al合金膜が酸化し難くなるものと推察される。
【0031】
グループBの元素による耐温水性向上作用は、少量で有効に発揮される。具体的には、Al合金膜中のグループBの元素の含有量(単独の場合は単独量であり、両方を含む場合は合計量である。)は、おおむね0.1原子%以上(より好ましくは0.3原子%以上、更に好ましくは0.5原子%以上)が好ましい。
【0032】
耐温水性向上の観点からは、グループBの元素の含有量は多いほどよいが、含有量が過剰になると、成膜直後の反射率が低下する(70%未満)ため、その上限を15原子%以下とする。好ましい含有量は12原子%以下であり、より好ましくは10原子%以下、更に好ましくは7.0原子%以下、更により好ましくは5.0原子%以下である。
【0033】
厳密には、グループBの好ましい含有量の上限は、グループBの元素の種類によって相違する。例えば、グループBの元素としてCrを用いる場合には、Crの含有量は3.0原子%以下(より好ましくは2.0原子%以下、更に好ましくは1.5原子%以下)に制御することが好ましい。Crの含有量が3.0原子%を超えると、Al合金膜の成膜直後の反射率が著しく低下する場合があり、成膜直後反射率と耐温水性のバランスを考慮すると、おおむね、3原子%以下が好ましい。
【0034】
また、グループBの元素としてAgおよび/またはCuを用いる場合には、これら元素の含有量(単独の場合は単独量であり、両方を含む場合は合計量である。)は10.0原子%以下(より好ましくは7原子%以下、更に好ましくは5原子%以下、更により好ましくは3原子%以下)に制御することが好ましい。AgやCuは概して、前述したCrに比べて成膜直後の反射率低下作用は低い傾向を有するものの、これらの含有量が10.0原子%を超えると、Al合金膜の成膜直後の反射率が著しく低下する場合がある。厳密には、後記する実施例に示すように、Agを単独で含む場合は、その上限を11.0%まで許容可能である。
【0035】
本発明のAl合金反射膜は、上記グループAとグループBの両方を含有し、残部Alおよび不可避不純物である。
【0036】
(Al合金反射膜の用途)
本発明のAl合金反射膜は、後記する実施例で実証するように、成膜直後の反射率が高く、且つ、耐温水性などに極めて優れているため、結露環境下で使用される自動車用灯具、照明具、あるいは装飾部品などに好適に用いられる。また、本発明のAl合金反射膜は、保護膜がなくても良好な耐アルカリ性や耐酸性などを発揮することが確認されている。その結果、本発明のAl合金反射膜を用いた自動車用灯具等は、長時間の使用に耐える(耐久性に優れる)だけでなく、生産コストも抑えることができる。
【0037】
(Al合金スパッタリングターゲット)
本発明のAl合金膜は、スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法にて形成することが望ましい。イオンプレーティング法や電子ビーム蒸着法、真空蒸着法で形成された薄膜よりも、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成できるからである。特に、直流(DC)電源カソードを用いたDCスパッタリング法によって形成することが好ましい。
【0038】
スパッタリング法で上記Al合金膜を形成するには、上記スパッタリングターゲットとして、前述したグループAの少なくとも1種の元素を2.5〜8原子%と、前述したグループBの少なくとも1種の元素を20原子%以下(0%は含まない)とを含有し、残部がAl及び不可避不純物であるスパッタリングターゲットを用いる。上記スパッタリングターゲットの各元素の含有量の上限は、前述したAl合金反射膜と異なり、若干多くなっている。これは、前述したAl合金膜と同一組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いると、収率が低下するため、収率低下分を見越して含有量を多く設定することが好ましいからである。収率の低下が起こる詳細な理由は不明であるが、スパッタリングによってAl合金中に一旦取り込まれたグループAやグループBの元素が、引き続き行なわれるスパッタリング過程において、新たに飛んできたスパッタ粒子によって再スパッタされ、当該Al合金膜の組成(含有量)が変化するためと考えられる。なお、収率は下記式から算出される。
【0039】
【数1】

(上記式中、A/Bとは、Aおよび/またはBを意味する。)
【0040】
上記スパッタリングターゲットの形状は特に限定されず、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状など)に加工したものでよい。
【0041】
また、上記スパッタリングターゲットの製造方法も特に限定されず、溶解鋳造法、粉末焼結法、スプレイフォーミング法など種々の方法を適用することができるが、スプレイフォーミング法を適用することが好ましい。スプレイフォーミング法により製造されたAl合金スパッタリングターゲットは、成分組織の均一性に優れており、その結果、成分組織の均一なAl合金反射膜を形成することができる。
【0042】
(基体)
本発明のAl合金反射膜を自動車用灯具などの反射板に適用するに当たっては、当該Al合金反射膜を基体の上に形成すれば良い。用いられる基体の材質は、Al合金反射膜を備えた自動車用灯具や照明具などの分野に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、樹脂やガラスなどが例示される。樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)などのポリエステル樹脂、ABS樹脂、エポキシ樹脂、アセタール樹脂、脂環式炭化水素樹脂などが例示され、これら樹脂の混合物であってもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0044】
(試験体1〜33の製造)
DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、表1に示す組成のAl合金膜を、20mm×50mmのガラス基板(コーニング#1737)上にそれぞれ成膜した。成膜方法の詳細は以下の通りである。
【0045】
Al合金膜形成用のスパッタリングターゲットとして、直径100mmの純Alスパッタリングターゲット上に所望金属元素(添加したい金属元素)のチップを貼り付けた複合スパッタリングターゲットをスパッタリング装置のチャンバー内の電極に取り付けた後、チャンバー内の圧力が1.3×10-3Pa以下になるように排気した。なお、純Al膜を成膜する際は、スパッタリングターゲットとして純Alスパッタリングターゲットを使用した。
【0046】
次に、Arガスをチャンバー内に導入し、チャンバー内の圧力が2.6×10-1Paとなるように調整した。その後、直流(DC)電源にてスパッタリングターゲットに260Wの出力を印加してスパッタリングを行い、基板の一面に所望組成のAl合金膜の成膜を行い、試験体1〜33を得た。
【0047】
このとき、純Alスパッタリングターゲット上に貼り付けるチップの金属元素種と枚数を変えることにより、Al合金膜の組成を調整し、成膜時間を調整して膜厚を150nmとした。
【0048】
試験体1〜33に対して、下記の方法により組成分析、成膜直後反射率の測定、及び、耐温水性試験を行った。
【0049】
<組成分析>
試験体のAl合金膜の組成は、ICP(Inductivily Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)発光分析法によって測定した。即ち、Al合金膜を酸で溶解し、得られた溶解液中のAlと添加元素とのそれぞれの量をICP発光分析法により測定し、それを100%に規格化してAl合金膜の組成とした。
【0050】
<成膜直後反射率の測定>
ガラス基板に成膜した試験体に対して、波長が250nm〜800nmの範囲の反射率を測定し、JIS R 3106に従って可視光反射率を算出した。
【0051】
<耐温水性試験>
ガラス基板に成膜した試験体(20mm×50mm)を、30℃のイオン交換水に30時間浸漬した。浸漬後の試験体をデジタルカメラで撮影して得たサンプル写真を、画像加工ソフトにて透明部が黒くなるように二値化し、次いで画像解析ソフトで黒色部(透明部)の面積を求めた後、下記式(1)に従い膜残存率を算出した。
膜残存率(%)
=100×(20×50−透明部面積(mm2))/(20×50)
・・・式(1)
【0052】
また、各試験体における浸漬後の反射率を、前述の反射率測定と同様の要領で測定し、下記式(2)に従い反射率低下率を算出した。
反射率低下率(%)
=100×(成膜直後反射率−耐温水性試験後の反射率)/成膜直後反射率
・・・式(2)
【0053】
<耐アルカリ性試験>
ガラス基板に成膜した試験体の所定の領域にマスキングを施し、マスキングを施した箇所(マスキング部)とマスキングを施していない箇所(露出部)を合わせて1質量%KOH水溶液中に5分間浸積し、次いで水洗、乾燥させた後、マスキングを除去した。なお、5分未満でAl合金膜が溶解しガラス基板が透けて見えた場合は、その時点で浸積を終了した。
【0054】
上記マスキング除去の後、マスキング部と露出部の段差を、表面粗さ測定装置(Dektak6M)を用いて測定し、これを溶解量(nm)とした。その後、浸漬時間(sec)と溶解量(nm)から溶解速度(nm/sec)を算出した。つまり、溶解量/浸漬時間=溶解速度の式を用いて、溶解速度を求めた。
【0055】
各試験体の成膜直後反射率、耐温水性試験結果(膜残存率、及び反射率低下率)、及び耐アルカリ性試験結果を表2に示す。
【0056】
<合否判定>
成膜直後反射率については、80%以上のものを◎、55%以上80%未満のものを○、55%未満のものを×とした。
【0057】
耐温水性試験については、耐温水性試験後の膜残存率が90%以上のものを◎、85%以上90%未満のものを○、85%未満のものを×とした。また、耐温水性試験後の反射率低下率が30%未満のものを○、30%以上40%未満のものを△、40%以上のものを×とした。
【0058】
耐アルカリ性試験については、Al−4.1原子%Gd膜(試験体30)の溶解速度を基準(◎)に、Al−4.1原子%Gd膜(試験体30)と純Al膜の中間にあるものを○、純Al膜と同等以下のものを×とした。
【0059】
そして、全ての評価結果が○以上となるものを合格とした。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
試験体1〜17、及び21〜28は、グループAの元素を2.5〜6原子%と、グループBの元素を15原子%以下とを両方含有するAl合金膜であり、これらは全て、成膜直後の反射率、耐温水性、及び耐アルカリ性のいずれにも優れることが分かった。具体的には、成膜直後反射率が80%を超え、耐温水性試験後の膜残存率85%以上および反射率低下率30%以下を満足し、純Al膜よりも高い耐アルカリ性を満足した。
した。
【0063】
試験体18〜20は、CuやAgの含有量が10.0原子%を超えたり、Cr含有量が3.0原子%を超える例であり、Al合金膜の耐温水性に優れるものの、成膜直後の反射率が若干低下することが分かった(評価は○)。具体的には、耐温水性試験後の膜残存率85%以上および反射率低下率30%以下を満足するものの、成膜直後反射率が75〜80%の範囲になった。
【0064】
これに対し、本発明の要件を満足しない下記試験体は、それぞれ、以下の不具合を抱えている。
【0065】
試験体29は、グループBの元素の含有量が15原子%を超える例であり、耐温水性は良好であるが、成膜直後の反射率が著しく低下する(50%を下回る)ことが分かった。
【0066】
試験体30は、グループBの元素を含まない例である。グループAの元素を含んでいるため、成膜直後の反射率が高く、耐温水性試験において膜残存率は◎であるが、耐温水性試験後の反射率低下率が30%を上回ることが分かった。
【0067】
試験体31は、純Al反射膜を用いた従来例である。成膜直後の反射率は非常に高いが、耐温水性試験においてAlの溶出を充分に抑制できず、膜残存率が85%未満で、且つ反射率低下率が30%を超えることが分かった。また、耐アルカリ性も悪いことが分った。
【0068】
試験体32は、グループBの元素に代えてSnを含有した例である。グループBの元素を含有する本発明例に比べ、成膜直後の反射率が若干低下した(評価は○)ほか、耐温水性試験においてAlの溶出を充分に抑制できず、膜残存率が85%未満で、且つ反射率低下率が30%を超えることが分かった。
【0069】
試験体33は、グループBの元素を含むが、グループAの元素2.5原子%を下回るため、耐温水性試験後の膜残存率85%以上および反射率低下率30%以下を満足するものの耐アルカリ性は悪くなることが分った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gd,La,Y,Sc,Tb,Lu,Pr,Nd,Pm,Ce,Dy,Ho,Er,及びTmよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を2.5〜6原子%と、
Cr,Cu,Ag,Ni,Co,Mn,Si,Mo,V,Fe,及びBeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を15原子%以下(0%は含まない)と、
を含有し、残部がAl及び不可避不純物であることを特徴とするAl合金反射膜。
【請求項2】
Crを3.0原子%以下含有する請求項1に記載のAl合金反射膜。
【請求項3】
Cuおよび/またはAgを10.0原子%以下含有する請求項1または2に記載のAl合金反射膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のAl合金反射膜を備えた自動車用灯具。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のAl合金反射膜を備えた照明具。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のAl合金反射膜を備えた装飾部品。
【請求項7】
Gd,La,Y,Sc,Tb,Lu,Pr,Nd,Pm,Ce,Dy,Ho,Er,及びTmよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を2.5〜8原子%と、
Cr,Cu,Ag,Ni,Co,Mn,Si,Mo,V,Fe,及びBeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を20原子%以下(0%は含まない)と、
を含有し、残部がAl及び不可避不純物であることを特徴とするスパッタリングターゲット。

【公開番号】特開2011−59401(P2011−59401A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209329(P2009−209329)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】