説明

耐熱性布帛とこれを用いた衣類及び耐熱手袋

【課題】耐熱性繊維と意匠撚糸と含む編物又は織物とし、表面に耐熱性糸を配置し、組織内に意匠撚糸を配置して多くの空気を含ませることにより、断熱性、耐熱性、防炎性、難燃性、防護性の高い耐熱性布帛とこれを用いた衣類及び耐熱手袋を提供する。
【解決手段】本発明の耐熱性布帛は、耐熱性繊維と意匠撚糸と含む編物又は織物であって、一方の面に前記耐熱性繊維が多く存在し、他方の面に前記意匠撚糸が多く存在する。本発明の耐熱性手袋は、耐熱性繊維(11)と意匠撚糸(12)と含む編物で構成され、前記編物はニットであり、外面に耐熱性繊維(11)が多く存在し、内面に意匠撚糸(12)が多く存在する。この耐熱性布帛、衣類及び耐熱性手袋は、通気性があり、作業性も良好で、洗濯することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性、耐熱性、防炎性、難燃性の高い耐熱性布帛とこれを用いた衣類及び耐熱手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接などの溶接作業、溶鉱炉などの炉前作業、加熱調理などの高熱物体を扱う作業には、安全の面から耐熱手袋が必要である。熱的に過酷な作業における耐熱手袋の材料は、一般的に動物の皮を使用している。また、消防服も耐熱性を要求される。さらに、自動車、電車等の車両内装材も耐熱性、防炎性、難燃性は要求される。
【0003】
従来から、アラミド繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリベンズアゾール繊維、ポリアミドイミド繊維、メラミン繊維及びポリイミド繊維などの耐熱性繊維を用いて耐熱手袋や消防服を作成することは提案されている(例えば非特許文献1、特許文献1)。非特許文献1には、消防服は防炎性と作業性のためメタ型アラミド繊維を95%、寸法安定性、収縮率防止のためパラ型アラミド繊維を5%使用することが記載されている。また特許文献1には、アラミド繊維糸単体を用いて手袋を編成し、手のひら部分に合成樹脂を加熱融着することが記載されている。
【非特許文献1】「繊維の百科事典」、丸善、平成14年3月25日、619頁
【特許文献1】実用新案登録第3048633号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の動物の皮を用いた耐熱手袋は、指が動かしにくく、作業性に問題があり、かつ汗を吸水する機能もなく、洗濯もできず、使用勝手の悪い材料であった。また、従来の耐熱性繊維糸単体の布帛を用いた手袋は、断熱性に問題があり、例えばアーク溶接でアークが前記手袋に降りかかったとき、肌が火傷するという問題があった。布帛の厚さを大きくすればこの問題は解消されるが、今度は指が動かしにくく作業性に問題が生じ、かつコストが高くなる問題がある。さらに、耐熱性繊維を用いた消防服は、最外層にアルミ箔(コーティングを含む)を形成し、その内部に前記耐熱性繊維単体の布帛を形成し、その内部に断熱のために不織布を配置しており、全体として重量が重くなり、作業に支障が出たり、人体が故障する問題があった。さらに近年は耐熱性及び防護性を備えた衣類も要請されている。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、耐熱性繊維と意匠撚糸と含む編物又は織物とし、表面に耐熱性糸を配置し、組織内に意匠撚糸を配置して多くの空気を含ませることにより、断熱性、耐熱性、防炎性、難燃性、防護性の高い耐熱性布帛とこれを用いた衣類及び耐熱手袋を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の耐熱性布帛は、耐熱性繊維と意匠撚糸と含む編物又は織物であって、一方の面に前記耐熱性繊維が多く存在し、他方の面に前記意匠撚糸が多く存在することを特徴とする。
【0007】
本発明の衣類は前記耐熱性布帛を一部又は全部に含むものである。
【0008】
本発明の耐熱性手袋は、耐熱性繊維と意匠撚糸と含む編物で構成され、前記編物はニットであり、外面に耐熱性繊維が多く存在し、内面に意匠撚糸が多く存在することを特徴とする。
【0009】
本発明の別の耐熱性手袋は、耐熱性繊維と意匠撚糸と含む編物で構成され、前記編物はニットであり、外面に耐熱性繊維が多く存在し、内面に意匠撚糸が多く存在する耐熱性手袋を内面に配置し、外側に耐熱性繊維で構成される手袋を配置し、両手袋を指先で固定した複層構造であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耐熱性布帛及び耐熱性手袋は、耐熱性繊維と意匠撚糸とを用いて、一方の面に前記耐熱性繊維を多く存在させ、他方の面に前記意匠撚糸を多く存在させるようにして編物又は織物を形成したことにより、組織内に多くの空気を含ませることができ、これにより、断熱性、耐熱性、防炎性、難燃性及び防護性の高い耐熱性布帛を提供できる。すなわち、意匠撚糸には多数のループが存在するため、これを用いた編物及び織物は、組織内に多くの空気を含ませることができる。空気は断熱性が高いため前記編物及び織物も断熱性が高いものとなる。さらに、一方の面には前記耐熱性繊維が多く存在しているため、この部分で耐熱性、防炎性、難燃性、防護性を発揮する。加えて本発明の耐熱性布帛とこれを用いた衣類及び耐熱性手袋は、通気性があり、作業性も良好で、洗濯することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において耐熱性繊維は、融点又は分解点が約350℃以上、好ましくは400℃以上であれば、無機繊維又は有機繊維のいかなるものであってもよい。好ましくはアラミド繊維(パラ系アラミドの融点又は分解点:480〜570℃、メタ系同:400〜430℃)、ポリベンズイミダゾール繊維(ガラス転移温度:400℃以上)、ポリベンズオキサゾール繊維(融点又は分解温度:650℃)、ポリベンズチアゾール繊維(融点又は分解温度:650℃)、ポリアミドイミド繊維(融点又は分解温度:350℃以上)、メラミン繊維(融点又は分解温度:400℃以上)、ポリイミド繊維(融点又は分解温度:350℃以上)、ポリアリレート繊維(融点又は分解温度:400℃以上)及び炭素繊維(融点又は分解温度:2000〜3500℃)から選ばれる少なくとも一つである。これらの繊維は編物又は織物に加工しやすい。繊度は綿番手で1〜50番程度が好ましい。単糸で使用することもできるし、複数本引き揃えるか、あるいは合撚して使用できる。
【0012】
前記意匠撚糸は、一例として芯糸とループヤーンと押さえ糸で構成され、ループヤーンは木綿、レーヨン、麻、羊毛及びアクリル繊維から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。芯糸と押さえ糸は例えばポリエステルフィラメント糸を使用できる。芯糸に対してループヤーンは2〜6倍オーバーフィードして作成すると、芯糸の周囲にあらゆる方向にランダムにループが形成できる。意匠撚糸の繊度は綿番手で0.5〜50番程度が好ましい。単糸で使用することもできるし、複数本引き揃えるか、あるいは合撚して使用できる。
【0013】
前記耐熱性布帛は、多層構造にし、一方の面に耐熱性繊維を多く存在させ、他方の面に意匠撚糸を多く存在させるようにして編物又は織物を形成する。このような編物又は織物の組織としては、ダブルニット、ダブルジャージ、両面編地、ダブルラッシェル、二重編物、二重織物、シングルジャージ及びスムース編物から選ばれる少なくとも一つの組織がある。
【0014】
前記のような組織においては、ループヤーンの一部のループが、耐熱性繊維のリッチな面に突出することがあるので、この場合は外表面に現れるループをカットしてカットパイルとするのが好ましい。このようにすると耐熱手袋を作業手袋として使用した場合、ループが機械部品等に引っ掛かることがなく、作業の安全性が高くなる。
【0015】
本発明の耐熱性布帛、衣類及び耐熱性手袋の厚さは0.3mm以上3mm以下が好ましく、さらに0.5mm以上2mm以下が好ましい。前記耐熱性手袋の単位面積あたりの重量は0.09g/cm以上であることが好ましく、さらに0.1g/cm以上が好ましい。厚さ及び単位面積あたりの重量が前記の範囲であると、熱遮断性に加えて耐燃焼性も向上する。衣類は手袋ほど耐熱性を要求されず、また軽量であるほうが着心地も良いので、目付けは300〜700g/mの範囲が好ましい。
【0016】
本発明の布帛は例えばパーカー、ジャンパー、コート、ベスト等の外衣類、腕カバー、前掛け、防護頭巾、消防服、防護服、作業服、防火布、自動車、電車等の車両内装材に有用である。また、アーク溶接などの溶接作業、溶鉱炉などの炉前作業、加熱調理などの高熱物体を扱う作業に使用する耐熱手袋としても有用である。
【0017】
以下図面を用いて説明する。
【0018】
図1Aは本発明で使用する一実施例の意匠撚糸1の側面図、図1Bは同断面図である。この意匠撚糸1は、芯糸2とループヤーン3とその上からの押さえ糸4で構成され、ループヤーン3は木綿の例である。
【0019】
図2A−Bは本発明の一実施例で使用する両面編物10の組織図である。図2Aに示すように、耐熱性繊維糸11と意匠撚糸12とが引き揃えられ、耐熱性繊維糸11が表面に配置され、意匠撚糸12が裏面に配置される。意匠撚糸12には多数のループ13が突出しており、両面編物10の内面から裏面に多く存在している。これにより空隙を多く含むことになり、断熱作用を発揮する。表面には耐熱性繊維糸11が多く存在するので、耐熱性、防炎性、難燃性を発揮する。
【0020】
耐熱性繊維糸11側表面にも多少のループ13は突出するが、耐熱性にはあまり影響しない。むしろ炎を受けたり、高温の物体を触ったとき、耐熱性繊維糸11側表面のループ13は焦げるので、作業者は危険を感ずることができる。前記したとおり耐熱性繊維糸11側表面のループ13はカットしてカットパイルの状態としても良い。
【0021】
前記の編物は耐熱手袋として好適である。手袋編み機は、例えば島精機社製の全自動手袋編み機を使用してニット手袋に編成する。
【0022】
図3A−Bは本発明の他の実施例の二重織の例である。図3Aは経二重織の組織図、図3Bは緯二重織の組織図である。このような織物の表面側に耐熱性繊維を配置し、裏面側に意匠撚糸を配置する。
【0023】
図11は本発明の一実施例の袖部の長いロングタイプの耐熱手袋71の使用例である。この手袋はキッチンなどの調理用に好適であり、オーブン72の加熱部に腕があたっても火傷を防ぐことができる。
【実施例】
【0024】
以下実施例を用いて、さらに本発明を具体的に説明する。
【0025】
(実施例1)
(1)意匠撚糸の製造
芯糸及び押さえ糸としてポリエステルマルチフィラメント加工糸(東レ製)、トータル繊度75デニール、フィラメント数48本を使用し、ループヤーンとして木綿糸30番(綿番手)を使用した。木綿糸の単糸を3本使用し、芯糸1本に対してオーバーフィード率5〜7倍で供給して絡み付け、絡みつけと同時にその上から押さえ糸を撚り数約1000回/mで実撚を掛けた。得られた意匠撚糸は、図1A−Bに示すとおりであり、ループの平均突出長さ3mm、1インチあたり平均70個のループが360°の角度であらゆる角度に突出していた。この意匠撚糸の繊度は2.3530番(綿番手、2260デニール)であった。
(2)耐熱性繊維糸の準備
市販の帝人社製商品名“コーネックス”(メタ系アラミド繊維)の紡績糸20番(綿番手)を8本又は9本使用した。
(3)手袋の編成
島精機社製の全自動手袋編み機を使用してニット手袋に編成した。耐熱性繊維を60重量%、意匠撚糸を40重量%の割合で編成した。編み物構造は図2A−Bに示すとおりである。この両面編み物10の模式的断面図を図4に示す。耐熱性繊維糸11は表面側に配置され、意匠撚糸12は裏面側に配置され、ループ13は裏面側に主として存在しているが、一部は表面側にも露出していた。得られた手袋の片方の重量は70.3gであった。この重量は市販の“コーネックス”(メタ系アラミド繊維)100%使いの耐熱手袋とほぼ同一である。
(4)耐熱性試験
得られた耐熱作業軍手を手にはめてライターの火を当てたところ、表面はうっすらと焦げるが内部に熱は感じなかった。このことから難燃性と耐熱性を確認できた。
【0026】
また、アーク溶接作業に使用したところ、熱さは感じず、溶接の火花(約1200℃)がかかっても熱くなく、薄くて作業動作を損なうことがなく、通気性もあり、作業性はきわめて良かった。作業後の洗濯もすることができ、繰り返し使用ができた。
【0027】
また、燃焼炉でピザパイを焼く加熱調理作業に使用したところ、同様に断熱性が高く、耐熱性、防炎性、難燃性、通気性があり、作業性も良好で、洗濯もできることから、衛生性も良好であった。
【0028】
(実施例2)
図5A−Cは4層構造の耐熱手袋の例である。図5Aに示すように、裏面(肌側)には実施例1と同様の2層構造手袋22を配置し、表面側の外層には表面糸及び裏面糸共にアラミド繊維糸からなる2層構造の手袋21を配置した。24は手袋21の表面に位置するアラミド繊維糸、25は手袋21の裏面に位置するアラミド繊維糸である。26はアラミド繊維糸24と25で構成される編組織である。アラミド繊維糸24と25は、市販の帝人社製商品名“コーネックス”(メタ系アラミド繊維)の紡績糸20番(綿番手)を7本使用した。アラミド繊維糸24はループのない通常の紡績糸とし、アラミド繊維糸25は平均1.5mmのループを有する紡績糸とした。裏面(肌側)の2層構造手袋22の編組織は実施例1と同一であるが、木綿糸からなる意匠撚糸28の繊度は2.3530番(綿番手、2260デニール)、メタ系アラミド繊維の紡績糸27は20番(綿番手)を5本使用した。29は意匠撚糸27とアラミド繊維糸28で構成される編組織である。
【0029】
以上の手袋2枚を重ね、図5Cに示す指先5点32a〜32eに耐熱接着剤(スリーボンド社製製品名“スリーボンド1212”)を塗布して接着した。この手袋1枚(片手)の重量は95gであった。
【0030】
得られた4層構造の耐熱手袋20の断面図を図5Bに示す。表面側からアラミド繊維糸26、アラミド繊維で形成されている小さなループの層30、空気層23、アラミド繊維層31、木綿糸からなる意匠撚糸で構成される大きなループ層29がこの順番で形成されていた。アラミド繊維層(表面)と木綿層(裏面)の厚さの比は、約2:1であった。
【0031】
この4層構造の耐熱手袋は実施例1の手袋より耐熱性は高かった。また、手袋の表面にはループがまったく出なくなり、作業安全性が向上した。
【0032】
(実施例3)
図6A−Cは3層構造の耐熱手袋の例である。図6Aに示すように、裏面(肌側)には実施例1と同様の2層構造手袋42を配置し、表面側の外層にはアラミド繊維糸からなる単層構造の手袋41を配置した。手袋41は前記メタ系アラミド繊維糸20/1番手を10本使い(綿番手5番)、通常の紡績糸として用いた。裏面(肌側)の2層構造手袋42の編組織は実施例1と同一であるが、木綿糸からなる意匠撚糸42の繊度は2.35番(綿番手)、前記メタ系アラミド繊維の紡績糸27は10番(綿番手)を2本使用した。
【0033】
以上の手袋2枚を重ね、図6Cに示す指先5点46a〜46eに耐熱接着剤(スリーボンド社製製品名“スリーボンド1212”)を塗布して接着した。
【0034】
得られた3層構造の耐熱手袋の断面図を図6Bに示す。表面側からアラミド繊維糸41、空気層45、アラミド繊維層43、木綿糸からなる意匠撚糸で構成される大きなループ層44がこの順番で形成されていた。この手袋1枚(片手)の重量は65gであった。アラミド繊維層(表面)と木綿層(裏面)の厚さの比は、約3:2であった。
【0035】
この3層構造の耐熱手袋は実施例1と実施例3の手袋の中間の耐熱性を示した。この手袋も実施例2の手袋と同様、表面にはループがまったく出なくなり、作業安全性が向上した。
【0036】
(実施例4)
図7A−Bは炭素繊維とアラミド繊維を表層に配置した2層構造の耐熱手袋50の例である。図7Aに示すように、表層には前記メタ系アラミド繊維20番(綿番手)の紡績糸51と、炭素繊維5番(綿番手)(東邦レーヨン社製製品名“パイロメックス”)の紡績糸52を2.5回/インチで実撚をかけ撚糸53とした。裏面(肌側)には木綿糸からなる意匠撚糸54を配置して編み立てた。意匠撚糸の繊度は2.35番(綿番手)である。
【0037】
得られた耐熱手袋50の断面図を図7Bに示す。表面側にアラミド繊維糸51と炭素繊維52が配置され、裏面側に木綿糸からなる意匠撚糸54で構成される大きなループ層が形成されていた。この手袋1枚(片手)の重量は86gであった。アラミド繊維と炭素繊維からなる表面層と木綿ループ裏面層の厚さの比は、約3:2であった。
【0038】
この耐熱手袋は炭素繊維糸とアラミド繊維糸を撚って表面に配置しているため、耐火性と切創性が向上し、全体的に硬い風合いで使い勝手がよいものとなった。
【0039】
(実施例5)
本実施例で得られた耐熱手袋を用いて、燃焼試験をさらに詳細に実験した。耐熱手袋は実施例1と同様にして製造した。図8A−Dは水平燃焼試験、図9A−Cは斜め燃焼試験を示す。燃焼試験に使用した編地は、手袋の「手のひら」部分(面積:72cm)を切り取りって使用した。まず図8Aに示すように、編地61のループを有する木綿意匠撚糸62を下側に、アラミド繊維糸を上側に配置した。このとき木綿の小ループ64が上側表面にわずかに突出している。上側からJIS−1091−1999に規定されている「繊維製品の燃焼性試験」に準じて、ニッケルバーナー66の約800℃の炎65を当てると木綿の小ループ64は燃焼又は焦げる。アラミド繊維糸は短時間炎を当てるだけでは変化しない。木綿の小ループ64が燃焼又は焦げる状態は図8B〜D及び図9A〜Cに示す。炎を当てていくと、編地61の編密度が密な場合は図8C,図9Bのように火は中に入っていかない。これは燃焼を維持し続けるのに必要な最低酸素体積分率(LOI)が約30のアラミド繊維糸を用いているために、燃焼又は焦げが断ち切られるためである。これに対して編地61の編密度が粗な場合は図8D,図9Cのように火は中に入っていく。
【0040】
そこで編密度が異なる編地を使用して燃焼試験をした結果を表1に示す。燃焼試験は大阪府立産業技術総合研究所において、JIS−1091に規定されている「繊維製品の燃焼性試験」に準じて行った。
【0041】
【表1】

【0042】
以上燃焼試験の結果から、実施例1に示す2層構造の編み物の平方センチメートルあたりの重量は0.090g/cm以上が耐燃焼性が好適であることがわかった。ただし、これ以下の単位面積あたりの重量であっても熱遮断性は良好であった。
【0043】
さらに実施例2の4層構造の手袋は、表面に導火線となる木綿のループが出ていないので、ニッケルバーナーの約800℃の炎を2分当てても燃焼しないことが確認できた。
【0044】
(実施例6)
本実施例では熱遮断性及び切創性について説明する。図10A−Bは本発明の布帛の耐熱性を説明する断面図である。図10Aの2層構造の耐熱手袋(実施例1)の場合、肌側に木綿のループヤーン62を配置し、外側に耐熱性繊維61を配置しているので、熱は耐熱性繊維61の部分で遮断され、内部には入ってこない。これは、ループヤーン62は多くの空気を含んでいるためである。実際に他の物質との熱伝導率を測定すると表2のとおりとなった。熱伝導率は大阪府立産業技術総合研究所のKES−F7(サーモラボ)装置で測定した。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から明らかなとおり、本発明の実施例1の耐熱手袋は熱伝導率が低かった。
【0047】
さらに図10Bに示す耐熱手袋は4層構造の断面図であり、外側からアラミド繊維26、アラミド繊維の小さなループの層30、アラミド繊維層31、木綿糸からなる意匠撚糸で構成される大きなループ層62がこの順番で形成されており、熱は耐熱性繊維26の部分で遮断され、内部には入らないため、図10Aの2層構造に比べてさらに熱遮断性が高かった。
【0048】
次に本発明の実施例1の耐熱手袋を用いて切創強さを測定した。切創強さは大阪府立産業技術総合研究所において、JIS−1096破裂強さB法に規定されている「定速伸長計法試験」に準じ、押し棒先端にナイフ(OLFA SDS-7)を取り付け、ナイフ速度2cm/minでナイフがサンプルを突き切る時の強さを測定した。比較例として切創性が良いといわれている市販の耐熱用皮手袋を測定した。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3に示すように本発明の実施例1の耐熱手袋の切創強さは、市販の耐熱用皮手袋より高かった。これはアラミド繊維を使用しているからである。
【0051】
(実施例7)
(1)意匠撚糸の製造
芯糸及び押さえ糸としてポリエステルマルチフィラメント加工糸(東レ製)、トータル繊度150デニール、フィラメント数75本を使用し、ループヤーンとして木綿糸30番(綿番手)を使用した。木綿糸の単糸を2本から3本使用し、芯糸1本に対してオーバーフィード率5〜7倍で供給して絡み付け、絡みつけと同時にその上から押さえ糸を撚り数約1000回/mで実撚を掛けた。得られた意匠撚糸は、図1A−Bに示すとおりであり、ループの平均突出長さ3mm、1インチあたり平均70個のループが360°の角度であらゆる角度に突出していた。この意匠撚糸の繊度は2.3530番(綿番手、2260デニール)であった。
(2)耐熱性繊維糸の準備
市販の帝人社製商品名“コーネックス”(メタ系アラミド繊維)の紡績糸20番(綿番手)を8本又は9本使用した。
(3)編み物の編成と衣類の縫製
フライス横編機を用いて図12A−Bに示す基本組織にしたがって編み物を編成した。図12A−Bはフライス柄を示している。アラミド繊維糸は編目の全部を構成する糸11とし、意匠撚糸12は1ループおきに沿わせた。得られた編み物の目付けは650g/mであった。この編み物の表目を衣類の裏面にし、裏目を衣類の表面にして紳士用パーカーに縫製した。
(4)試験
前記パーカーの着用試験をしたところ、暖かく着心地は良かった。このパーカーの耐熱性は実施例1と同等であった。また、カッターナイフで切りつけても切断されず、防護性も高かった。
【0052】
(実施例8)
意匠撚糸の木綿糸をウール糸(毛番手64番)に替えた以外は実施例7と同様に意匠撚糸と耐熱性繊維糸を準備し、図13に示す編組織でシングル3とび裏毛ニットを編成した。図13において、上の図は編み組織図、下の図は各々の構成糸の動きを示している。11a,11bはアラミド繊維糸、12は意匠撚糸である。得られた編み物の目付けは530g/mであった。この編み物を使用してブルゾンジャンパーを縫製した。着用試験をしたところ、暖かく着心地は良かった。このジャンパーの耐熱性は実施例1と同等であった。また、カッターナイフで切りつけても切断されず、防護性も高かった。
【0053】
(実施例9)
意匠撚糸の木綿糸をウール糸(毛番手48番)に替えた以外は実施例7と同様に意匠撚糸と耐熱性繊維糸を準備し、図14に示す編組織でシングル2とび裏毛ニットを編成した。図14において、上の図は編み組織図、下の(1)〜(3)の図は各々の柄と構成糸の動きを示している。11a,11bはアラミド繊維糸、12は意匠撚糸である。得られた編み物の目付けは450g/mであった。この編み物を使用してジャケットを縫製した。着用試験をしたところ、暖かく着心地は良かった。このベストの耐熱性は実施例1と同等であった。また、カッターナイフで切りつけても切断されず、防護性も高かった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1Aは本発明で使用する一実施例の意匠撚糸の側面図、図1Bは同断面図である。
【図2】図2A−Bは本発明の一実施例で使用する両面編物の組織図である。
【図3】図3A−Bは本発明の他の実施例の二重織の例であり、図3Aは経二重織の組織図、図3Bは緯二重織の組織図である。
【図4】図4は本発明の一実施例で得られた耐熱手袋を構成する両面編み物の模式的断面図である。
【図5】図5Aは4層構造の耐熱手袋の模式的斜視図、図5Bは同断面図、図5Cは同接着個所を示す説明図である。
【図6】図6Aは3層構造の耐熱手袋の模式的斜視図、図6Bは同断面図、図6Cは同接着個所を示す説明図である。
【図7】図7Aは炭素繊維とアラミド繊維を表層に配置した2層構造の耐熱手袋の編み物組織図、図7Bは同模式的断面図である。
【図8】図8A−Dは本発明の実施例5における燃焼試験を示す説明図である。
【図9】図9A−Cは同燃焼試験を示す説明図である。
【図10】図10A−Bは本発明の実施例6における耐熱手袋の熱遮断性を説明する断面図である。
【図11】図11は本発明の一実施例におけるロングタイプの耐熱手袋の使用例である。
【図12】図12A−Bは本発明の実施例7で編成したフライスダブルニット編み物の組織図である。
【図13】図13は本発明の実施例8で編成したシングル3とび裏毛ニット編み物の組織図である。
【図14】図14は本発明の実施例7で編成したシングル2とび裏毛ニット編み物の組織図である。
【符号の説明】
【0055】
1 意匠撚糸
2 芯糸
3 ループヤーン
4 押さえ糸
10 両面編物
11,11a,11b 耐熱性繊維糸
12 意匠撚糸
13 ループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性繊維と意匠撚糸と含む編物又は織物であって、一方の面に前記耐熱性繊維が多く存在し、他方の面に前記意匠撚糸が多く存在することを特徴とする耐熱性布帛。
【請求項2】
前記耐熱性繊維は、アラミド繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリベンズチアゾール繊維、ポリアミドイミド繊維、メラミン繊維、ポリイミド繊維、ポリアリレート繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の耐熱性布帛。
【請求項3】
前記意匠撚糸は、芯糸とループヤーンと押さえ糸で構成され、前記ループヤーンは木綿、レーヨン、麻、羊毛及びアクリル繊維から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の耐熱性布帛。
【請求項4】
前記耐熱性布帛は、ダブルニット、ダブルジャージ、両面編地、ダブルラッシェル、二重編物、二重織物、シングルニット及びスムース編物から選ばれる少なくとも一つの組織である請求項1に記載の耐熱性布帛。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の耐熱性布帛を一部又は全部に含む衣類。
【請求項6】
衣類の目付けは300〜700g/mの範囲である請求項5に記載の衣類。
【請求項7】
耐熱性繊維と意匠撚糸と含む編物で構成され、前記編物はニットであり、外面に耐熱性繊維が多く存在し、内面に意匠撚糸が多く存在することを特徴とする耐熱性手袋。
【請求項8】
耐熱性繊維と意匠撚糸と含む編物で構成され、前記編物はニットであり、外面に耐熱性繊維が多く存在し、内面に意匠撚糸が多く存在する耐熱性手袋を内面に配置し、外側に耐熱性繊維で構成される手袋を配置し、両手袋を指先で固定した複層構造の耐熱性手袋。
【請求項9】
前記外側の耐熱性繊維が、アラミド繊維糸又はアラミド繊維糸と炭素繊維の撚糸である請求項7又は8に記載の耐熱性手袋。
【請求項10】
前記耐熱性手袋の単位面積あたりの重量が0.09g/cm以上である請求項7〜9のいずれかに記載の耐熱手袋。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2007−23463(P2007−23463A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310420(P2005−310420)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(505044657)林撚糸株式会社 (4)
【出願人】(505044808)
【出願人】(505406475)
【Fターム(参考)】