説明

耐熱性被覆剤およびこの被覆剤を用いた蓋材

【課題】種々の基材表面に対し密着性が良好で、かつ、その皮膜表面に印刷されるインキとの密着性が良好なPTP包装体用の蓋材に用いられる耐熱性被覆剤を提供する。
【解決手段】金属箔または金属光沢を有するプラスチックフィルムまたは紙からなる基材表面に塗布し、加熱することにより皮膜を形成する被覆剤であって、樹脂組成物100重量部(固形分)中にポリエステル系樹脂を10〜40重量部(固形分)配合した耐熱性被覆剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装製品の蓋材に用いる耐熱性被覆剤およびそれを用いた蓋材に関する。詳しくは、種々の基材表面に対し密着性が良好で、かつ、その皮膜表面に印刷されるインキとの密着性が良好なPTP(プレス・スルー・パック)包装体の蓋材に用いる耐熱性被覆剤およびそれを用いた蓋材に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特公昭62-47904号公報
【0003】
従来、医薬品の包装に用いられるPTP包装体などの包装製品は、内容物を格納するための容器の部分となるポケットを成形したブラスチックシートの加工成形体と、その容器口部を密閉するための蓋材との2つの部分からなる。
【0004】
PTP包装体の蓋材は、アルミニウム箔によって代表される金属箔あるいはアルミニウム蒸着ポリエステルフィルムによって代表される金属蒸着プラスチックフィルムまたは紙からなる基材と、その基材の一面(内側となる面)に設けたプラスチック製容器(加工成形体)に対して加熱圧着される熱封緘性樹脂層とから構成されている。また、基材の他面(外側となる面)には、その製品名などの文字やデザイン等を印刷した印刷層と、その印刷層を保護するための耐熱性樹脂層とが設けられている。なお、耐熱性樹脂層あるいは耐熱性被覆剤の耐熱性とは、加工時に、高温処理や加熱加工を受けたり、高温物体に接触したりしても、ブロッキングや変褪色を起こさない状態を表わす。
【0005】
本出願人は、このPTP包装体の蓋材に用いる耐熱性被覆剤であって、蓋材の金属の光沢面を有する下地に塗布することによってその光沢面を艶消しする艶消し塗料を提供している。具体的には、基材の表面の反射を防止するため、艶消し効果を与えるシリカを混入した耐熱性被覆剤(塗料)を提供している(特許文献1)。
【0006】
このような蓋材を製造するには、通常、金属箔、金属蒸着した紙、あるいは、プラスチックフィルムなどの基材を用意し、その基材の片面(外側となる面)に文字やデザインを印刷する。このとき、内側となる面にも文字等を印刷してもよい。そして、文字またはデザイン等が印刷された基材の外側となる面に、耐熱性被覆剤を塗工することによって耐熱性樹脂層を形成させる。さらに、基材の成形加工体と接着させる内側の面に、無色または着色した熱封緘性接着剤を塗布することによって熱封緘性樹脂層を形成させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの包装製品には、内容物に対する保証、責任の所在および明確化などの社会的要求、あるいは、諸種の規制が定められている。そのため、蓋材外面(外側となる面)には、製品等のデザインなどの他に、内容物の組成、取扱注意事項、使用方法、更に生産者名、生産責任者名および所在地等の情報が細字などによって記載されている。
【0008】
また、蓋材に記載される情報の中には、蓋材を製造した後に印刷する必要のものもある。例えば、記載事項の内、ロット番号、賞味期限等は、内容物を充填した時点から計算される情報であるため、蓋材を製造する段階ではその情報は決まっておらず印刷することができない。この場合、耐熱性樹脂層の上からエンボス加工を施したり、または、さらに印刷したりすることになる。しかし、エンボス加工によって情報を記入する場合、その内容が読みにくいという問題がある。また、有機溶剤を使用した溶剤タイプの印刷インキを用いて耐熱性樹脂層の上に印刷する場合、印刷後の乾燥に時間がかかりすぎて非効率であり、その密着性も弱いという問題がある。
【0009】
また、印刷インキとして、紫外線を照射することにより液相から固相へ変化する紫外線硬化タイプのインキを使用することが始まっている。この紫外線硬化タイプのインキは、塗膜形成が溶剤タイプに比べて極めて早く効率的である。しかし、このものも、従来の耐熱性樹脂層の上に印刷すると密着性が悪いという欠点がある。
【0010】
この紫外線インキからなる印刷層と耐熱性樹脂層との密着性が低いのは一般的に次のように考えられている。つまり、紫外線硬化タイプのインキはポリエステル、エポキシ、ポリウレタン等のアクリレートのプレポリマーと光重合開始剤、顔料、助剤類からなり紫外線を照射することによりプレポリマーの末端官能基の重合が瞬間的に進み硬化するものであり、重合した紫外線硬化インキには官能基がほとんど残っていない状態になる。一方、耐熱性樹脂層は、ニトロセルロース、セルロースアセテート、熱硬化性アクリル樹脂等を主成分とし、メラミン樹脂、尿素樹脂で熱硬化させるものが一般的である。そのため、前記重合した紫外線硬化インキ(印刷層)と架橋した耐熱性被覆剤(耐熱性樹脂層)の間に両者を結ぶものが存在せず、両者間の密着が悪い結果となっている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は前記した問題点を鑑みて、紫外線硬化インキを重合することによって形成される皮膜との密着性の良い耐熱性被覆剤からなる耐熱性樹脂層を得るために鋭意研究を重ねた結果、本発明の耐熱性被覆剤を見出したのである。
【0012】
即ち、本発明の被覆剤は、金属箔または金属光沢を有するプラスチックフィルムからなる基材表面に塗布し、加熱することにより皮膜を形成する被覆剤であって、樹脂組成物中100重量部(固形分)中にポリエステル系樹脂を10〜40重量部(固形分)配合したことを特徴としている。
【0013】
このような耐熱性被覆剤としては、ニトロセルロース、熱硬化性アクリル樹脂からなる主成分と、アルキル化メラミン樹脂、アルキル化尿素樹脂からなる硬化剤とを混合した樹脂組成物を有機溶剤に混入し、所定の量の範囲のポリエステル系樹脂と混合したものが好ましい。これにより、所望の機械的、熱的性質を有する塗膜を形成するための耐熱性被覆剤を得ることができる。
【0014】
そして、特に、樹脂組成物の配合が固形分を基準として(1)ニトロセルロース10〜50重量%、(2)熱硬化性アクリル樹脂10〜40重量%、(3)アルキル化メラミン樹脂5〜20重量%、(4)アルキル化尿素樹脂0〜20重量%(但し、(1)+(2)+(3)+(4)=100重量%である。)であることが好ましい。しかし、ポリエステル系樹脂と所定量の範囲で混合することにより所望の機械的、熱的性質を有する塗膜を形成するものであれば、特に限定されるものではない。
【0015】
上述したニトロセルロースとしては、RSタイプ及びSSタイプ等の各秒数のものが使用される。このニトロセルロースは主として耐摩耗性と耐熱性を付与し、更に基材表面との密着性にも寄与する。
【0016】
熱硬化性アクリル樹脂としては、一般の市販品はすべて使用可能であり、特にカルボキシル基、ヒドロキシル基、グリシジル基、メチロール基またはアルキルエーテル化メチロール基のようなアミノ樹脂によって架橋し得る官能基を有するものが適当である。熱硬化性アクリル樹脂は塗膜に可撓性及び密着性を付与し耐熱性(加熱黄変性、表面軟化)や耐摩耗性にも貢献する。
【0017】
アルキル化メラミン樹脂としては、一般の市販品はすべて使用可能であるがメチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化メラミン樹脂、イソブチルエーテル化メラミン樹脂が望ましい。アルキル化メラミン樹脂は架橋効果を与え耐摩耗性に良好な物性を発揮する。
【0018】
アルキル化尿素樹脂としては、一般の市販品はすべて使用可能であるがブチルエーテル化尿素樹脂、イソブチルエーテル化尿素樹脂が望ましい。アルキル化尿素樹脂は本発明には必須でないが低温短時間での効果を要求される場合にはアルキル化メラミン樹脂と併用する事により非常に効果を発揮するものである。
【0019】
本発明に使用されるポリエステル系樹脂としては、アジピン酸、フタル酸、安息香酸等の飽和多塩基酸と多価アルコールとのエステル結合により得られる一般の市販品が使用可能であるがアジピン酸エステルの使用が望ましい。また、芳香族ポリエステルを基本骨格とし、ウレタン基を持ったポリエステルポリウレタンの使用も望ましい。ポリエステル系樹脂は塗膜に柔軟性を与え、紫外線硬化インキとの密着に効果を発揮する。
【0020】
本発明の被覆剤において、架橋反応をさらに促進させるための触媒を使用しても良いが、特にリン酸やパラトルエンスルホン酸のような有機、無機の酸性触媒が優れた効果を示す。また、本発明の被覆剤において、一般の被覆剤に使用される、顔料、艶消し剤、あるいは、充填剤の使用は自由であり、分散剤、レベリング剤、滑剤等の添加剤を任意に配合しても差し支えは無い。
【0021】
本発明の蓋材は、金属箔または金属光沢を有するプラスチックフィルムからなる基材と、その一方の表面に本発明の耐熱性被覆剤を塗布し、加熱することによって形成される耐熱性樹脂層と、その表面に印刷される紫外線硬化型インキからなる印刷層とからなることを特徴としている。
本発明の蓋材に用いられる紫外線硬化型インキは、骨格がポリエステルであるポリエステル系の樹脂であり、末端にアクリル分子を備えている樹脂を主成分とし、顔料、艶消し剤等の添加剤が加えられたインキを用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
このように本発明の耐熱被覆剤は、金属箔あるいは金属蒸着した紙或いはプラスチックフィルムまたは紙の基材の表面に塗布することにより、加工時に高温処理や加熱加工を受けたり、高温物体に接触したりしても、ブロッキングや変褪色を起こさず、金属箔あるいは金属蒸着した紙或いはプラスチックフィルムの基材表面に対し密着性の良好な皮膜を形成する。また、この皮膜表面に紫外線硬化型インキを印刷しても、その印刷層との密着性が良好である。
【0023】
さらに、本発明の耐熱性被覆剤を用いた蓋材は、金属箔または金属光沢を有するプラスチックフィルムまたは紙からなる基材と、その一方の表面に前述の耐熱性被覆剤を塗布し、加熱することによって形成される耐熱性樹脂層と、その表面に印刷される紫外線硬化型インキからなる印刷層とからなるPTP包装体用のものであるため、印刷層が剥離しにくい。
【実施例】
【0024】
[実施例1]
表1の実施例欄に記載した配合に基づいて得られた実施例1の耐熱性被覆剤をバーコーターにて厚さ20μmの硬質アルミニウム箔の艶面に乾燥塗布量が約1.5g/mとなるように塗布し、雰囲気温度180℃の乾燥炉中で10秒加熱乾燥させて皮膜を形成した。得られた皮膜にヒートシーラーを、温度190℃、圧力0.54MPa、時間1秒圧着させたが、皮膜表面にブロッキングや変褪色は起こらなかった。
【0025】
次に、得られた皮膜に大日本インキ化学(株)製紫外線硬化型インキダイキュアRT−8をバーコーターにて厚さ約0.5g/mとなるように塗布し、日本電池株式会社製UV照射装置の紫外線ランプを120w/cmの出力で2秒照射し、インキを硬化させた。
【0026】
前記皮膜に紫外線硬化型インキを塗布し硬化させた硬質アルミニウム箔を塗布面を上にしてガラス板におき、塗布面にニチバン株式会社製18mm幅セロテープ(登録商標)を長さ約15cmに切ったものを乗せ、親指の腹で強く3回押し付け密着させた後、左手で塗布面を押さえ右手でセロテープの端を持ち、180度の角度でセロテープを強く引っ張り紫外線硬化型インキの剥離度合いを見た。その結果、セロテープにはインキが剥がれた形跡は無く、インキは全て皮膜表面に残っていた。
【0027】
[比較例1]
表1の比較例欄に記載された配合に基づいて得られた比較例1の耐熱性被覆剤をバーコーターにて厚さ20μmの硬質アルミニウム箔の艶面に乾燥塗布量が約1.5g/mとなるように塗布し、雰囲気温度180℃の乾燥炉中で10秒加熱乾燥させて皮膜を作製した。得られた皮膜にヒートシーラーを、温度190℃、圧力0.54MPa、時間1秒圧着させたが、被膜表面にブロッキングや変褪色は起こらなかった。
【0028】
次に、得られた皮膜に大日本インキ化学(株)製紫外線硬化型インキダイキュアRT−8をバーコーターにて厚さ約0.5g/mとなるように塗布し日本電池株式会社製UV照射装置の紫外線ランプを120w/cmの出力で2秒照射しインキを硬化させた。
【0029】
前記皮膜に紫外線硬化型インキを塗布し硬化させた硬質アルミニウム箔を塗布面を上にしてガラス板に置き、塗布面にニチバン株式会社製18mm幅セロテープを長さ約15cmに切ったものを乗せ親指の腹で強く3回押し付け密着させた後、左手で塗布面を押さえ右手でセロテープの端を持ち、180度の角度でセロテープを強く引っ張り紫外線硬化型インキの剥離度合いを見た。その結果、セロテープにはインキが付着し、皮膜表面に塗布された紫外線硬化インキは全て剥がれていた。
【0030】
【表1】

【0031】
注1.原料配合組成を示す数字は重量部である。
注2.原料配合組成表中、括弧内の数字は固形分重量に換算した値である。
※1.ダイセル化学工業株式会社製 70%溶液
※2.大日本インキ化学工業株式会社製アクリディックA−405、50%溶液
※3.大日本インキ化学工業株式会社製スーパーベッカミンP−138、60%溶液
※4.大日本インキ化学工業株式会社製スーパーベッカミンJ−820−60A、60%溶液
※5.旭電化工業株式会社製アデカサイザーPN−350
※6.東洋紡績株式会社製バイロンUR−3210、30%溶液
※7.試薬一級


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔または金属光沢を有するプラスチックフィルムまたは紙からなる基材表面に塗布し、加熱することにより皮膜を形成する被覆剤であって、樹脂組成物100重量部(固形分)に対しにポリエステル系樹脂を10〜40重量部(固形分)配合した耐熱性被覆剤。
【請求項2】
金属箔または金属光沢を有するプラスチックフィルムまたは紙からなる基材と、その一方の表面に請求項1記載の耐熱性被覆剤を塗布し、加熱することによって形成される耐熱性樹脂層と、その表面に印刷される紫外線硬化型インキからなる印刷層とからなるPTP包装体用の蓋材。

【公開番号】特開2007−91904(P2007−91904A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283897(P2005−283897)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000138989)株式会社リーダー (5)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】