耐雷ファスナ、航空機組立品、航空機組立部品の製造方法
【課題】低コストで軽量で、十分な耐雷性能を確保し故障の非常に少ない、高信頼性、長寿命の航空機用の防爆・耐雷ファスナ等を提供することを目的とする。
【解決手段】カラー26にリング状の樹脂製のリング部材40Aが装着され、このリング部材40Aが部材22とカラー26との間に挟み込まれ、部材22とカラー26の双方に密着することで部材22との界面を封止し、カラー26の外周縁部のアークの発生防止および封止をする。
【解決手段】カラー26にリング状の樹脂製のリング部材40Aが装着され、このリング部材40Aが部材22とカラー26との間に挟み込まれ、部材22とカラー26の双方に密着することで部材22との界面を封止し、カラー26の外周縁部のアークの発生防止および封止をする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の機体、特に翼や胴体に設置される燃料タンク等の可燃性の燃料蒸気が存在する可能性のある部位に用いられる防爆用の耐雷ファスナ、航空機組立品、航空機組立部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の機体を構成する翼は一般に中空構造となっており、翼表面を形成する翼面パネルは、翼内部にある構造部材にファスナ部材(留め具)によって固定されている。
このとき、ファスナ部材は、ピン状のファスナ本体を、翼面パネルおよび翼内部の構造部材の双方に形成された貫通孔に翼の外部側から挿入し、その先端部を翼の内部側から固定金具で固定することで、翼面パネルと構造部材とを締結する。
また、この他にも翼内部や胴体部で、翼面パネル以外の構造部材や装備品の固定用の部材もファスナ部材(留め具)によって締結・固定されている。
このとき、ファスナ部材は、ピン状のファスナ本体を、互いに固定される部材の双方に形成された貫通孔の双方を通過するように挿入し、その先端部を固定金具で固定することで双方の部材を締結する。
なお、固定される翼面パネルまたは部材は2つに限らない。
【0003】
ところで、航空機においては、防爆のための被雷対策を万全に期す必要がある。航空機に被雷が発生して主翼等の翼面パネルや構造部材に大電流が流れると、上記の各種締結部にその一部、場合によっては全部が流れる。その電流値が各締結部における通過許容電流の限界値を超えると、電気的アーク(あるいはサーマルスパーク)と呼ばれる放電が発生する(以下、本明細書中ではこれをアークと称する。)。これは、締結部を通過する電流により締結部を構成する主として導電部材からなる部材の締結界面の局部に急激な温度上昇が生じて溶融し近傍の大気中に放電が発生する現象で、多くの場合、溶融部分からホット・パーティクルと言われる溶融物の飛散が発生する。一般に翼の内部空間は燃料タンクを兼ねているため、この被雷時において、アークの発生を抑えるか、あるいは、アークを封止することによって発生したアークの放電とそこから飛散するホット・パーティクルが可燃性の燃料蒸気に接触しないようにして発火を防止し、防爆構造とする必要がある(非特許文献1参照)。
具体的には、上記ファスナ部材(留め具)と、それが締結する各種部材との界面のうち、可燃性の燃料蒸気が充満する可能性のある部位に、耐雷(防爆)対策として、上記の電気的アークの発生抑制か、封止の対策が必要である。ここで、可燃性の燃料蒸気が存在する可能性のある部位とは、翼内部および胴体部の、燃料タンク内部、一般に燃料タンクの翼端側に設置されるサージタンク(ベントスクープやバーストディスクなどが設置されるタンク)内部、燃料系統装備品内部等である。
【0004】
そこで、従来、たとえば図10に示すように、翼1の内部側において、翼面パネルを例とする第一の部材2および翼の内部に取り付けられる第二の部材3を貫通するファスナ部材4のファスナ本体4aおよび固定金具4bから離間した状態にキャップ6が取り付けられ、ファスナ本体4aおよび固定金具4bとの間に空気で満たされた空隙7を形成する構造が提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、キャップ6をファスナ部材4に対して位置決めできる構造とはなっておらず、キャップ6の取付位置は作業者に依存する。このため、キャップ6の中心とファスナ部材4の中心とが大きくずれる可能性もある。空隙7においてファスナ部材4とキャップ6との間隙が小さい場所が生じると、キャップ6の機能(絶縁性)が低下する。最悪の場合、キャップ6がファスナ部材4に接触してしまった状態で取り付けられれば、キャップ6の機能そのものが大きく損なわれることもある。
また、キャップ6は、図10(a)に示すように、接着剤9で第二の部材3に取り付けられたり、図10(b)に示すようにシーラント(絶縁材料)10で外周をカバーしているため、取付現場において、接着作業、シーラント10の塗布作業が必要であり、作業の手間がかかる。航空機の翼1の内部は、言うまでもなく空間が狭く、奥まった位置において上記したような作業を行うのは作業性が非常に悪い。しかも、このようなファスナ部材4は、翼1の全体に数千〜数万箇所設けられるため、作業性の悪化はコスト上昇に直結する。また、シーラント10を十分塗布するため、重量オーバとなりやすい。翼以外の可燃性の燃料蒸気が存在する可能性のある部位についても、翼より数は少ないものの、同様の問題がある。
さらに、上記したような作業は、いわゆる手作業であり、作業者によって、施工品質にばらつきが出やすく、これは信頼性にも影響する。
また、図11は、ファスナ部の一般的なアークの封止方法の例である。このような例は、非特許文献1(P.266、Fig.7.47 Fastener sealing concepts.の(b))にも記載されており、ファスナ部材4の可燃性燃料蒸気のある側(燃料タンク側等)の締結部位に、シーラント10をオーバーコート、または、キャップシール(シーラントをあらかじめ固めたキャップ)5をシーラントで接着して設置する。しかしながら、この例でも、シーラントの塗布作業があり、上記と同様の問題がある。
さらに、シーラントは、航空機の飛行中においては、例えば−60℃といった低温環境にさらされる。そのような環境ではシーラントが硬化し、密着性能が低下する可能性がある。そのような状態でも十分なアークの抑制性能を持たせるために、十分厚くシーラントを塗布する必要がある場合があり、重量上の問題となっている。
さらに、燃料タンク防爆の航空規則の改正により、このような耐雷(防爆)対策に対する故障の防止の要求が非常に厳しくなっており、1機あたり数千〜数万あるファスナの1本にも故障の発生が許されなくなっている。このため、耐雷(防爆)対策には、製造時の故障の発生(製造ミス、装着ミス、検査ミス)の防止、製造バラツキによる性能の低下の防止、および、30年にもおよぶ航空機寿命における運用環境下での性能の劣化等の防止が必要であり、上記のような信頼性の確保、品質保証が厳しく求められている。一方で、経済的、環境的な要求からは、低コストで軽量な対策が求められる。
【0006】
そこで、本発明者らは、ファスナ部材の機体の内部側に突出した部分に係合部を形成し、キャップの内周面の中心部に、ファスナ部材の係合部に係合する被係合部を形成し、被係合部にファスナ部材の係合部を係合させる構成の技術を既に提案した(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−7398号公報
【特許文献2】特開2010−254287号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】F. A. Fisher, J. A. Plumer, R. A. Perala, "Lightning Protection of Aircraft", Second Edition, 2004, Lightning Technologies Inc, p218, p266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記したような特許文献2に記載の技術においても、絶縁性の確保のために、キャップの内側にシーラントを充填する必要があり、施工に手間がかかる。さらに、シーラントは施工前には低温での保存を要し、常温環境下に出した後では消費期間が短く、コストアップの要因となる。
また、前述のように、シーラントは、航空機の飛行中においては、例えば−60℃といった低温環境にさらされる。そのような環境では、シーラントが、そのガラス転移温度以下になってしまい、硬化する可能性がある。すると、特許文献2の技術でも、非特許文献1ほどではないが、アークの発生の抑制性能に悪影響が出る可能性がある。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、低コストで軽量で、十分な耐雷性能を確保し故障の非常に少ない、高信頼性、長寿命の航空機における防爆用の耐雷ファスナ、航空機組立品、航空機組立部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的のもと、本発明者らがファスナ部材4の周囲で発生するアークについて雷撃試験でのアーク発生箇所調査やその電流分布解析、電流分布計測等により鋭意検討を行ったところ、図11に例として描画した電流の流れとアークの発生箇所が示すように、a)翼パネル2とファスナ部材4の間で生じるもの、b)翼パネル2と第二の部材3との間で生じるもの、c)第二の部材3とファスナ部材4の外周のエッジ部4cとの界面で生じるもの、d)ファスナ本体4aと部材3の穴の内面との間で生じるもの、e)ファスナ本体4aの端部4dとカラー4bの間のネジ端部で生じるものがあり、特に、c)の第二の部材3とファスナ部材4の外周のエッジ部4cとの界面で生じるものへの対策がファスナの耐雷対策上重要であることが判明した。
これは、a)は燃料タンク外(あるいは可燃性の燃料蒸気が存在しない部位)であるので問題がない、b)は重要であるが合わせ面の問題であり本発明の対象であるファスナの問題ではない(一般にこの部分はシーラントで対策する。)、d)はb)とc)の封止対策が出来ていれば解決される、e)は規定以上の雷撃電流を試験的に与え、かつ、部材間の導通状況が非常に悪い等の特殊なケースでのみ起こる事象あって実際にはあり得ない、などが理由である。
したがって、c)に対し、アークの発生防止、あるいは、万一発生した場合のアークの放電とそこから飛散するホット・パーティクルが可燃性の燃料蒸気に接触しないように封止することが重要である。
【0011】
このような知見に基づいてなされた本発明は、航空機の機体を構成する少なくとも二つの部材を締結するため、全ての部材に形成された孔に一方の側から他方の側に貫通させて設けられるファスナ本体と、部材の他方の側に突出したファスナ本体に装着される締結部材と、ファスナ本体の頭部の外周部および締結部材の外周部の少なくとも一方と部材との間に、当該ファスナの締結時に圧縮状態で挟み込まれ、絶縁性を有した材料からなるリング部材と、を備えることを特徴とする。
絶縁性を有したリング部材を、ファスナ本体の頭部の外周部および締結部材の外周部の少なくとも一方と部材との間に圧縮状態で挟み込むことで、ファスナ本体の頭部や締結部材の外周部と部材との界面近傍の放電が発生しうる空間を無くし、前記c)のようなアークの発生を防止することが出来る。また、万一アークが発生してしまっても、発生したアークの放電とそこから飛散するホット・パーティクルが可燃性の燃料蒸気に接触しないようにすることができる。
【0012】
このようなリング部材は、ファスナ本体の頭部の外周部または締結部材の外周部に形成された溝に嵌め込まれる。
この溝は、部材側から離間するにつれてその径が漸次縮小するテーパ面を有しているようにしてもよい。これにより、リング部材が溝から外れにくくなる。
また、溝は、部材の表面に平行な平行面を有し、平行面と部材の表面との間にリング部材が挟み込まれるようにしても良い。
また、溝の内周面と、ファスナ本体または締結部の外表面との間のエッジ部を鈍角に形成するのが好ましい。
さらに、リング部材と溝の少なくとも一方に、リング部材の溝からのはずれ防止手段を備えていることを特徴とする。
【0013】
締結部材の内周部と部材との間に圧縮状態で挟み込まれる、絶縁性を有した材料からなる第二のリング部材をさらに備えても良い。
【0014】
二つの部材の一方の側が燃料タンクであるとき、二つの部材の界面、ファスナ本体と二つの部材の界面、ファスナ本体の先端部と締結部材との間の少なくとも1カ所に、燃料が二つの部材の一方の側から他方の側に漏れるのを防止するシール材を塗布しても良い。
その一方で、リング部材、第二のリング部材が、燃料が漏れるのを防止する機能を有するのであれば、シール材の塗布を省略しても良い。
【0015】
本発明は、航空機の機体を構成する少なくとも二つの部材が、請求項1から8のいずれか一項に記載の耐雷ファスナにより締結されていることを特徴とする航空機組立品とすることもできる。
【0016】
なお、本発明は航空機の翼内の締結部に流れる電流のうち一般に最も大きいと考えられる被雷時の対策であるが、同様に電流によるアークが問題となる航空機の電気系統から構造への地絡(Fault Current)にも同様の効果がある。
【0017】
本発明は、請求項1から8の耐雷ファスナを用いた防爆対策が必要な航空機組立品の製造方法であって、少なくとも二つの部材を重ね合わせて配置する工程と、重ね合わせた少なくとも二つの部材にファスナ孔を貫通形成する工程と、二つの部材の接触面にシーラントを塗布し、塗布したシーラントを接触面の周囲に押し出しながら再び少なくとも二つの部材を重ね合わせて配置する工程と、ファスナ本体を少なくとも二つの部材の孔に挿入し貫通させる工程と、部材との接触面の外周に設けられた溝にあらかじめ絶縁材リングが装着されたカラーを、ファスナ本体に装着して締め付ける工程とを行うことを特徴とする航空機組立部品の製造方法とすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、絶縁性を有したリング部材を、ファスナ本体の頭部の外周部および締結部材の外周部の少なくとも一方と部材との間に圧縮状態で挟み込むことで、二つの部材と、ファスナ本体の頭部や締結部材との界面を封止することができ、これにより、低コスト、軽量で十分かつ非常に信頼性の高い耐雷(防爆)性能を確保することができる。このように部材とファスナ本体にしっかり圧縮状態で挟み込まれる構造であるので、製造時や運用時にはずれたりすることがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第一の実施の形態におけるファスナ部材を示す断面図、リング部材の変形例を示す断面図である。
【図2】第二の実施の形態におけるファスナ部材を示す断面図、およびリング部材の拡大断面図、リング部材の変形例を示す断面図である。
【図3】第三の実施の形態におけるファスナ部材を示す断面図、およびリング部材の拡大断面図である。
【図4】第四の実施の形態におけるファスナ部材を示す断面図、およびリング部材の拡大断面図である。
【図5】頭部にキャップを設けたファスナ部材を示す断面図、およびキャップの拡大断面図である。
【図6】第五の実施の形態におけるファスナ部材を示す断面図である。
【図7】図6の変形例を示す断面図である。
【図8】(a)は第六の実施の形態におけるファスナ部材を示す断面図、(b)はボルトの頭部の平面図および断面図、(c)はナットの平面図および断面図である。
【図9】リング部材の変形例を示す図である。
【図10】従来のファスナ部材の複数例を示す断面図である。
【図11】従来のファスナ部材においてアークが発生する箇所を示した断面図である。
【図12】リング部材の圧縮変形を適量とするための設計検討のための概念図である。
【図13】リング部材の発生応力と30年後の残存応力について計算した例であり、(a)は、リング部材の材料がPEEKである場合、(b)は、ナイロンである場合の計算例である。
【図14】リング部材の残存ひずみについて計算した例であり、(a)は、リング部材の材料がPEEKである場合、(b)は、ナイロンである場合の計算例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第一の実施形態]
図1は、以下に示す第一の実施形態における耐雷ファスナを適用した航空機の機体を構成する翼の一部の断面図である。
この図1(a)に示すように、翼(航空機組立品)20は、その外殻が、例えばアルミ合金等の金属材料や、炭素繊維と樹脂との複合材料であるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)やガラス繊維と樹脂との複合材料であるGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)からなる翼パネル(部材)21によって形成されている。翼20の内部に設けられる、補強のための構造部材(リブなど)や燃料タンク、各種の機器が、アルミ合金等の金属材料や複合材料により形成されたステー等の部材22を介して翼パネル21に固定されている。そして、ステー等の部材22は、ファスナ部材24によって翼パネル21に取り付けられている。
なお、図には示さないが、翼パネル21は、複合材料の場合、直撃の雷が着雷する可能性のある部位には表面側に金属のフォイルあるいはメッシュなどが張られていることが多い。また、翼パネル21の外面には防食などのため、金属でも複合材料でも、プライマーと塗料が塗布されていることが多く、翼パネル21のその他の面や内部の構造部材には、電気的導通を必要とする部分以外にはプライマーが塗布されていることが多い。
【0021】
ファスナ部材24は、ピン状のファスナ本体25と、翼20の内部側でファスナ本体25に装着されるカラー(締結部材)26とから構成される。
ファスナ本体25およびカラー26は、強度の面から一般に金属材料(たとえば、チタン、ステンレススチール、アルミニウムなど)により形成される。
【0022】
ピン状をなしたファスナ本体25は、先端部にネジ溝25aが形成され、後端部は先端部側より拡径した頭部25bとされている。このファスナ本体25は、翼パネル21および部材22を貫通して形成された孔21a、22aに翼20の外側から挿入され、後端部の頭部25bを孔21aの周囲面に突き当てた状態で、先端部を翼20の内方に突出させる。ファスナ本体25の材質の表面処理は、使用される部位や施工方法により、無垢のもの、アルミナなどの絶縁被膜処理のもの、イオン蒸着による導電処理などを用いることが出来る。
【0023】
カラー26は、筒状で、その内周面にはファスナ本体25のネジ溝25aに噛み合うネジ溝が形成されている。このカラー26は、翼20の内方に突出したファスナ本体25のネジ溝25aにねじ込まれる。これによって、翼パネル21と部材22とは、ファスナ本体25の頭部25bとカラー26とによって挟み込まれ、部材22が翼パネル21に固定されている。ここで、カラー26は、ファスナ本体25にねじ込んだ後の緩みを防止できるセルフロック式とするのが好ましい。また、カラー26は、規定のトルクに達したときに六角形状などをしたナット状のヘッドが切れる構造となっている、トルクオフ式としても良い。あるいは、機器を取り付けるための結合であって、メンテナンスなどのために着脱が必要な場合には、ダブルヘックス式などの取り外し可能なカラーとしても良い。
【0024】
このようなカラー26には、部材22に突き当たる接触面26aの外周部に溝30Aが形成され、この溝30Aに、リング状の樹脂製のリング部材40Aが装着されている。このリング部材40Aは、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、ポリイミド、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂、PEEKはビクトレックス社(英国)の登録商標)、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、あるいは、硬質ゴム等の樹脂により形成するのが好ましい。これらは、航空機燃料タンク内で使用する樹脂として、機械的強度、耐油性、耐寒・耐熱性、等の点で信頼性が確認されている。
なお、カラー26においては、ファスナ本体25と協働して所定の締結力を発揮する必要があるため、溝30Aよりも内側においてカラー26が部材22に面接触する部分の面積を従来同等に確保する必要がある。
【0025】
ここで、リング部材40Aは、図1(b)に示すようにファスナ締結前にはファスナ本体25の軸線方向における高さが、同方向における溝30Aの深さよりも大きくなるよう形成されている。これにより、カラー26をファスナ本体25に締め込んでいったときに、カラー26の接触面26aよりも先にリング部材40Aが部材22に突き当たり、カラー26の締結が完了した状態においては、リング部材40Aは圧縮変形している。これにより、リング部材40Aは部材22とカラー26の双方に面圧により確実に密着する。
【0026】
ここで、航空機の飛行中に生じる低温環境においてリング部材40Aが収縮したときにも、リング部材40Aが一定以上の面圧で部材22とカラー26の双方に接触するよう、リング部材40Aの高さを設定する。
リング部材40Aが一定以上の面圧で部材22とカラー26の双方に接触するよう、リング部材40Aの圧縮変形による樹脂変形量を適量とするためには、(1)一発破壊しないこと(カラー26の締付時に樹脂に発生する応力が引張強度以下であること)、(2)残存応力:耐用年数(一般に30年)後に残存応力が0以上あること、(3)圧縮ひずみが低温時に十分あること(残存ひずみが低温による ひずみ変化以上)、の3つの関係が成り立つ状態を見いだす必要がある。
図12に、リング部材40Aの圧縮変形を適量とするための設計検討のための概念図を示す。カラー26の全高をL1、リング部材40Aのフランジ面からの飛び出し量(樹脂変形量)をY、リング部材40Aの全長をY+Hとする。
【0027】
以下、リング部材40AをPEEK、ナイロン(Zytel(ザイテル):登録商標)とした場合を例とし、カラー26の全高のうち、リング部材40Aの無い部分の高さFがファスナ全高L1の3分の1と仮定した例を考える。
その検討結果を、表1および図13、図14に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
まず上記(1)、(2)について樹脂変形量Yを0.1mmとして計算した例が図13であり、図13(a)は、リング部材40Aの材料がPEEKである場合、(b)は、ナイロンである場合である。
この場合、カラー26の締付時に樹脂に発生する応力が引張強度以下であり、耐用年数(一般に30年)後の残存応力も0以上であることから、(1)も(2)も問題ないことが分かる。このような計算を樹脂変形量Yをパラメータとして行うと、樹脂変形量Yは、PEEKの場合0.11mm、ナイロンの場合0.16mm以下であれば良いことが分かった。
【0030】
次に上記(3)について同じく樹脂変形量Yを0.1mmとして計算した例が図14であり、図14(a)は、リング部材40Aの材料がPEEKである場合、(b)は、ナイロンである場合である。
この場合も問題ないことが分かる。
このような計算を樹脂変形量Yをパラメータとして行うと、樹脂変形量Yは、PEEKの場合0.03mm、ナイロンの場合0.07mm以上であれば、良いことが分かった。
【0031】
これらのことからL1の3分の1と仮定した場合、各材料の樹脂変形量Yが、PEEKの場合0.03〜0.11mm、ナイロンの場合0.07〜0.16mmとなるよう、リング部材40Aを形成すれば、リング部材40Aが一定以上の面圧で部材22とカラー26の双方に接触する条件を見いだすことができた。
【0032】
上述したような構成によれば、カラー26にリング状の樹脂製のリング部材40Aが装着されており、このリング部材40Aが部材22とカラー26との間に挟み込まれ、部材22とカラー26の双方に密着しているので、部材22との界面を封止し、カラー26の外周縁部(リング部材40Aが設けられている位置)でアークの発生防止および封止をすることができる。溝30Aとリング部材40Aの接触面が部材22に対し垂直であるので、装着される圧縮時にお互いに密着しやすい。他の形状でも良いが、アーク発生箇所を無くすためにはこれらの面が接触していることが好ましい。しかし、離れていてもアークを封止する能力はあるので、本発明の効果はある。
なおここで、ファスナ本体25の先端部25cとカラー26との界面にもアークが発生する可能性が考えられるが、規定以上の雷撃電流を試験的に与え、かつ、部材間の導通状況が非常に悪い等の特殊なケースでのみ起こる事象であって実際にはほとんどあり得ないことが試験により確認されている。これは、ファスナ本体25に流れ込んだ電流が部材22に流れる経路(分布)は、経路の伝搬距離で決まるバルク抵抗(単位断面積、単位長さあたりの抵抗)、経路が横切る界面の接触抵抗(単位断面積あたりの抵抗)、および電磁界的な影響(表皮効果でなるべくタンク外面に近い側を流れようとする)で決まり、その際、ファスナ本体25の先端部25cとカラー26との界面を通る経路は、カラー26と部材22との界面(リング部材40Aが設けられている位置)近くを流れる経路と比べ、伝搬距離は大きく、タンク外面からも遠いため、この経路にはほとんど電流が流れず、その結果、この界面においてアークは生じにくいためと考えられる。
【0033】
さらに、このようなリング部材40Aは事前に製作したものをカラー26の溝30Aに単に装着してもよいし圧入などによりはめ込んでもよいし、機械加工されたカラー26に射出成形の一種であるインサート成形により一体に形成してもよい。いずれの場合も、ファスナ部材24の装着現場におけるリング取付け作業は不要であるため、現場における作業効率を高めることができ、作業者によるバラツキもない。耐雷(防爆)性能に寄与するリング部材40Aの圧縮変形は、前記のような設計で決まり、本質的にばらつく要素を無くすことができる。また、重量オーバにもならない。
また、リング部材40A自体、複雑な形状でもないため、低コストで量産することができる。特にインサート成形の場合は、低コストで量産できる上、成形時に樹脂が溶融し、カラー26の溝30Aに流し込まれて隙間無くかつ強い密着力で融着するので、カラー26とリング40Aは高度に一体化し、かつ高い精度で製造され、製造公差によるバラツキがない。また、製造後のリング部材40Aのはずれなどがない。
加えて、リング部材40Aは、たとえば−60℃〜+80℃という温度変化の環境に関わらず、安定してアークの発生防止および封止をすることができる。
さらに、リング部材40Aの装着状態や劣化状態等を目視で検査しやすく、管理や保守作業を容易かつ確実に行うことができる。
これらのことから、本耐雷(防爆)ファスナは、現行の燃料タンク防爆の航空規則で要求される航空機用ファスナの耐雷(防爆)対策への故障防止に対する高い信頼性の要求(製造ミス、装着ミス、検査ミスによる故障の防止、製造バラツキによる性能低下の防止、および、30年にもおよぶ航空機寿命における運用環境下での性能の劣化等の防止)に対して、低コストかつ軽量で、充分な耐雷性、信頼性の確保、品質保証を実現できる。
【0034】
以下、本実施形態の耐雷ファスナを用いた航空機組立品の製造方法について説明する。
まず、あらかじめ所定の形状に加工され、所定のプライマー、塗料、あるいは、導電処理を表面に施された翼パネル21と部材22を、図示しないパイロットホールとピンで位置決めし、互いに重ね合わせて接触配置する。
そして、図示しないクランプにて両者を固定した上で、翼パネル21の外側からドリルを用いて翼パネル21および部材22に孔21aおよび孔22aを貫通させる。必要に応じ、同様の動作にて他のファスナのための孔あけを行う。このとき、穴径および垂直性が、インターフェアランス・フィット(Interference Fit)、トランジション・フィット(Transition Fit)、クリアランス・フィット(Clearance Fit)等の指定に基づき、正確な公差範囲に入り、かつ、表面が平滑になるよう、注意して施工する。また、空力面などの必要に応じ、皿取りを行う。
【0035】
施工後、穴径、垂直度、平滑性などを必要に応じて検査する。
部材22の取付にかかる孔開けおよび検査作業が全て終了したら、クランプを取り外し、パネル21と部材22を分離する。そして、パネル21と部材22のそれぞれにおいて、孔21aおよび孔22aのバリを取り、さらに、表面に付いた切り粉および切削油等を除去、清掃する。
【0036】
次に、翼パネル21あるいは部材22の接触面にシーラント50を適量塗布の上、再びパネル21と部材22を図示しないパイロットホールとピンで位置決めの上、塗布したシーラント50を接触面の周囲に押し出しながら接触配置する。
そして、ファスナ本体25の軸部分にシーラント50Bを適量塗布し、パネル21の外側から孔21aに挿入し、部材22の孔22aを貫通して所定位置に収める。このとき、ファスナ本体25は通常とても挿入しにくいので、適宜ゴムハンマーなどで打ち込む。また、シーラント50Bは余分な部分が孔から外に押し出されるので、孔の周囲やネジ溝25aについたものを拭き取る。
【0037】
次に、あらかじめ溝30Aにリング部材40Aが装着されたカラー26を用意する。このカラー26をファスナ本体25のネジ溝25aに装着し、規定トルクで締め付ける。さらにカラー26の周囲にはみ出したシーラント50Bを拭き取る。
同様の動作で他のファスナを施工完了したら、部材22の端部にシーラント50Cを塗布して組立製造が完了する。
以上の工程は、シーラントが固まる前(施工時間の間)に終わらせる必要がある。
【0038】
本製造方法により、あらかじめ精度良く作製された樹脂リング付のカラーを用いることができ、従来必要であった手作業による樹脂シーラントの塗布などが不要となり、製造ばらつきによる耐雷・防爆性能の低下を皆無にすることができる。
【0039】
なお、図1(c)、(d)のように、リング部材40Aには、径方向に突出する突起27や凹溝28を設け、溝30Aから、軸方向に外れるのを防止するためのはずれ止めを施しても良い。
また、リング部材40Aの外周面41は、図1(a)のようにテーパでも良いし、図1(e)のように、カラー26の接触面26aに垂直でも良いし、その他の形状でも良い。
さらに、図1(f)に示すように、リング部材40Aには、溝30Aの外周部に軸方向に突出する突起29を設け、リング部材40Aが外周側に外れるのを防止するためのはずれ止めを施しても良い。
さらに突起29は、図1(g)、図1(h)に示すように、リング部材40Aの外周を覆うように形成しても良い。その際、突起29の先端はカラー26の接触面26aと面一の位置よりも部材22と接触しないよう、低く形成する必要がある。突起29の先端は図1(g)のように鋭角でも良いし、図1(h)のように太くても良い。鋭角であればカラーの重量軽減が図れる。一方、太ければ電界の集中を避けることができ、万一雷撃の大電流がカラー26に流れた場合に突起29の先端と部材22との間に電界集中によるスパークが発生し燃料が発火するような電流の閾値を上げることができるため、大電流が流れ得る部位に用いることができる。
【0040】
加えて、カラー26は、ファスナ本体25からのはずれ止めのため、外周の複数点から押しつぶして(かしめる)多角形状にされることが多い。本カラー26の場合、アーク封止効果を十分持たせるためには、リング部材40Aおよび溝30Aは隙間無く装着される必要があるとともに、製造上、加工も取付も円形が好ましいので、当該かしめをリング40Aおよび溝30Aから遠い、カラー26の反対側半分の部分に施すことにより、リング部材40Aおよび溝30Aが多角形状につぶれることを防ぎ、円形を保つようにすることが好ましい。あるいは、カラー26にかしめを施した後に、インサート成形でリング40Aを融着(溶融・装着)すれば、万一、溝30Aが多角形状につぶれていても隙間無く融着することが出来る。
【0041】
なお、上記実施形態においては、翼パネル21と部材22との界面、ファスナ本体25と翼パネル21および部材22との界面に、シーラント50A、50Bを塗布した。また、翼パネル21と部材22の端部との境界部分にもシーラント50Cを塗布した。ただしこれは燃料漏れ防止あるいは防蝕のための水分浸入防止のためのものであり、極薄であって電気的導通を妨げる作用などはなく、耐アークに対してはカラー26に備えたリング部材40Aがその機能を担う。また、ファスナ本体25やカラー26は通常金属であるが、その表面処理として前述の通り非導電性、導電性の各種処理がしてあっても良い。また、ファスナ本体25と孔21a、22aの径の関係は、インターフェアランス・フィット(Interference Fit)、トランジション・フィット(Transition Fit)、クリアランス・フィット(Clearance Fit)など、どのような締まり状態でも良い。
また、本例は第一の部材を翼パネルを例として記載したが、内部の構造部材などでも良い。ファスナ本体25の頭部は皿状、なべ状、ナット状など各種用いることが出来る。
【0042】
次に、上記第一の実施形態の変形例を示す。以下に示す各実施形態では、リング部材、溝の構成が上記第一の実施形態と異なるものであり、それ以外の構成は上記第一の実施形態と共通する。そこで、以下においては、上記第一の実施形態と異なる構成を中心に説明を行い、共通する構成については同符号を付してその説明を省略する。
[第二の実施形態]
図2(a)に示すように、本実施形態におけるリング部材40Bは、カラー26の外周部に形成された溝30Bに装着されている。
ここで、図2(b)に示すように、溝30Bは、カラー26の接触面26a側から反対側に向かうに従い、溝30Bの内周壁面31の内径が漸次小さくなるようテーパ状に形成されている。
リング部材40Bも、この溝30Bに嵌め合うような断面形状に形成されている。
【0043】
このような構成によれば、リング部材40Bが部材22とカラー26の双方に密着して部材22との界面を封止し、カラー26の外周縁部でアークの発生防止および封止をすることができる。
しかも、溝30Bの内周壁面31がテーパ状とされているので、リング部材40Bがカラー26から脱落しにくくなっている。これにより、カラー26の装着時や装着前の保管、運搬時にリング部材40Bが不用意に脱落してアークの発生防止および封止の効果が得られなくなるのを防止し、耐雷性能を確実に発揮することができる。
【0044】
図2(c)に示すように、溝30Bは、カラー26の接触面26a側から反対側に向かうに従い、溝30Bの内周壁面31の内径が漸次小さくなるようテーパ状とする場合、リング部材40Bが外周側に外れるのを防止するはずれ止めを形成するのも好ましい。この場合、溝30Bの外周部に、カラー26の軸線方向に突出する突起37Aを形成するとともに、その内周側に凹溝37Bを形成することができる。そして、リング部材40Bは、突起37Aに係合する段部43を備え、初期状態において凹溝37Bには入り込まない形状を有している。
そして、図2(d)に示すように、ファスナ部材24とカラー26を締結してリング部材40Bの先端部が部材22に押し付けられると、リング部材40Bが押しつぶされ、その一部が凹溝37Bに入り込む。
これにより、リング部材40Bは、突起37Aと凹溝37Bによって外周側に外れるのを防止できるようになっている。
【0045】
[第三の実施形態]
図3(a)、(b)に示すように、本実施形態におけるリング部材40Cが装着される溝30Cは、カラー26の接触面26a側から反対側に向かうに従い、内径が漸次小さくなるようテーパ状に形成されたテーパ面32を有している。さらに、溝30Cの内周面とカラー26の接触面26a、外周面26cとが隣接するエッジ部33A、33Bにおいては、その角度θ1、θ2が鈍角となるよう形成されている。また、溝30Cには、リング部材40Cを部材22に押し付けるため、カラー26の接触面26aと平行に近い押し付け面36が形成されている。
そして、リング部材40Cは、この溝30Cに嵌め合うような断面形状に形成されている。
【0046】
このような構成によれば、リング部材40Cが部材22とカラー26の双方に密着して部材22との界面を封止し、カラー26の外周縁部でアークの発生防止および封止をすることができる。
しかも、溝30Cにテーパ面32が形成されているので、リング部材40Cがカラー26から脱落しにくくなっている。これにより、カラー26の装着時にリング部材40Cが不用意に脱落してアークの発生防止および封止の効果が得られなくなるのを防止し、耐雷性能を確実に発揮することができる。
さらに、カラー26の外周部のエッジ部33A、33Bが鈍角とされているので、この部分に電流が集中するのを防ぎ、アークの発生防止および封止の効果を一層確実なものとすることができる。また、同じ理由でリング部材40Cのエッジ部33A、33Bとの接触部分に応力が集中しないので、外力により樹脂に亀裂などの損傷が発生するのを抑制することができる。
【0047】
[第四の実施形態]
図4(a)、(b)に示すように、本実施形態におけるリング部材40Dが装着される溝30Dは、カラー26の接触面26a側から反対側に向かうに従い、内径が漸次小さくなるようテーパ状に形成されたテーパ面32を有している。さらに、溝30Dの内周面とカラー26の接触面26aとが隣接するエッジ部33Aにおいては、その角度θ1が鈍角となるよう形成されている。
一方、溝30Dにおいて、接触面26aから離間した側には、カラー26の接触面26aに平行な平面部(平行面)34が形成されている。
そして、リング部材40は、この溝30Dに嵌め合うような断面形状に形成されている。
【0048】
また、カラー26の接触面26aにおいて、内周側のファスナ本体25との界面近傍にも、溝35を形成し、この溝35に絶縁性を有したリング部材(第二のリング部材)60を設けるようにしてもよい。
【0049】
このような構成によれば、リング部材40Dが部材22とカラー26の双方に密着して部材22との界面を封止し、カラー26の外周縁部のアークの発生防止および封止をすることができる。
しかも、溝30Dにテーパ面32が形成されているので、リング部材40Dがカラー26から脱落しにくくなっている。これにより、カラー26の装着時にリング部材40Dが不用意に脱落してアークの発生防止および封止の効果が得られなくなるのを防止し、耐雷性能を確実に発揮することができる。
また、溝30Dに平面部34が形成されているため、リング部材40Dを、平面部34と部材22の表面とで確実に挟み込んで圧縮することができる。これにより、アークの発生防止および封止をより確実に行うことができる。特に、部材22が複合材料である場合、カラー26の接触面26aとの突き合わせ面が、機械加工の施されていない面となることがあり、そのような場合、リング部材40Dを確実に部材22に押し付けることができ、アークを確実に封止できる。
【0050】
さらに、カラー26の接触面26aにおいて、内周側のファスナ本体25との界面近傍にもリング部材60を設けるようにしたので、カラー26とファスナ本体25、部材22との界面においてアークの発生を防止および封止できる。
このような構成は、ファスナ本体25が金属材料からなり、翼パネル21、部材22が複合材料からなり、ファスナ本体25と、翼パネル21、部材22との界面でアークが生じやすい場合に特に有効である。
この場合、リング部材60が燃料漏れを防止するシール材としても機能するため、ファスナ本体25のシーラント50は、図4(a)に示すように、ファスナ本体25の頭部25bに塗布してこれを燃料漏れ防止のためのシール材とし、この頭部25bを孔21aの周囲面に突き当てた状態としても良い。
【0051】
なお、上記第一〜第四の実施形態では、燃料漏れ防止のために、ファスナ本体25と、翼パネル21および部材22との界面にシーラント50A、50B、50Cを塗布する構成としたが、これに限るものではない。
例えば、図2(a)に示すように、ファスナ本体25と、翼パネル21および部材22の界面のうち、ファスナ本体25と翼パネル21の界面にはシーラントを塗布せず、翼パネル21および部材22の界面のみにシーラント50Aを塗布するとともに、カラー26の頂面26bとファスナ本体25の先端面25dとに、燃料漏れ防止のため、シーラント51をブラシ等で薄く塗布するようにしても良い。
【0052】
また、ファスナ本体25が金属材料からなり、翼パネル21、部材22がCFRP材料からなるような場合、ファスナ本体25と、翼パネル21、部材22との界面でアークの発生が強く起きる可能性があるため、これを防止および封止するため、図1、図3に示したように、シーラント50をウェットインストールで施工することで、その部分の電気発生防止を図ることが望ましい。
【0053】
さらに、燃料漏れを防止するためのシール材として、シーラント50やシーラント51を用いたが、これに代えて、図5に示すように、ファスナ本体25の頭部25bに、絶縁材料からなるキャップ70を装着してもよい。ここに、ファスナ本体25の頭部25bは翼パネル21に対しドライ側(燃料タンクの外側)に位置しており、皿面25dで締結力(押さえる力)を与えている。
ファスナ本体25の頭部25bの外周部には、周方向に沿って半径方向外側に突出する(拡径する)凸部38aと、凸部38aに連続して形成され、周方向に沿って半径方向内側に凹む(窪む)凹部38bとからなるキャップ係合部38が形成されている。これら凸部38aおよび凹部38bは、それぞれ、その断面視形状が丸みを帯びるように形成されている。このように、凸部38aおよび凹部38bが丸みを帯びることで、電界集中によりストリーマが発生し、当該部に雷を誘雷する現象を抑制することができる。また、応力の集中も抑えられるので、運用中の外力による破損を防ぎ、高信頼、長寿命とすることができる。
【0054】
キャップ70は、熱可塑性樹脂(例えば、耐熱性・強度を有する他、絶縁破壊電圧が高いポリエーテルイミド(PEI)、耐熱性・強度が優れている他、成形性・汎用性に優れたポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、耐熱性・強度を有する他、成形性・汎用性に優れたポリフェニルサルルファイド(PPS)、耐熱性・強度が特に優れているポリアミドイミド(PAI))や、熱硬化性樹脂(例えば、耐熱性・強度が特に優れているポリイミド(PI))等を用いて形成されている。
キャップ70は、キャップ係合部38に係合するよう、その内周側に、周方向に沿って半径方向外側に凹む(窪む)とともに、キャップ係合部38の凸部38aと合致する凹部71aと、周方向に沿って半径方向内側に突出するとともに、キャップ係合部38の凹部38bと合致する凸部71bとが形成されている。
【0055】
キャップ70は、射出成形によってファスナ本体25の頭部25bに一体に成形することができる。ここで、キャップ係合部38に凹部71a、凸部71bが係合していることで、キャップ70は、ファスナ本体25に一体化している。
【0056】
このようなキャップ70を備えることで、ファスナ本体25と翼パネル21との間が封止され、燃料漏れを防ぐことができる。
なお、キャップ70および翼パネル21の表面には、塗装により塗膜75が形成される。
また、キャップ70の外周と翼パネル21の間はシーラント72により隙間を埋め、空力面をスムースにすることができると共に、塗膜75のひび割れを防止することができる。
【0057】
[第五の実施形態]
第一から第四の実施形態では、ファスナのヘッド(頭部)側が可燃性の燃料蒸気が充満する可能性のある部位の外側(燃料タンク外側)にある場合を例として例示したが、本実施の形態はヘッド側が可燃性の燃料蒸気が充満する可能性のある部位の内側にある場合の一例を示す。
図6に示すように、本実施形態においては、本実施形態におけるリング部材40Eは、カラー26ではなく、ファスナ本体25の頭部25bに設けられている。
すなわち、ファスナ本体25の頭部25bには、上記第一の実施形態の溝30Aと同様の断面形状の溝80が形成され、この溝に、上記第一の実施形態におけるリング部材40Aと同様の断面形状のリング部材40Eが装着されている。
【0058】
このような構成によれば、ファスナ本体25の頭部25bと被締結部材(部材)22cとの界面におけるアークの発生防止および封止ができる。被締結部材22cの例としては、主翼リブ、スパーなどがある。
【0059】
また、このような構成によれば、リング部材40Eにより、ヘッド側からの水分の浸入に対する防蝕のためのシール性能を発揮できるので、図7に示すように、図6に示した構成からファスナ本体25と、被締結部材22cまたは部材22dの界面へのシーラント50の塗布を省略した構成とすることもでき、施工のさらなる容易化、低コスト化、軽量化を図ることができる。
【0060】
なお、本実施形態で示した構成は、被締結部材の両側が可燃性の燃料蒸気が充満する可能性のある部位である場合は、上記第一〜第四の実施形態で示したカラー側の構成と組み合わせることも可能である。
【0061】
[第六の実施形態]
図8(a)に示すように、本実施形態においては、ファスナ部材24として、ファスナ本体25に変えてボルト(ファスナ本体)90を用い、カラー26に代えてナット(締結部材)91を用いることで、翼パネル21と部材22とを締結する構成となっている。本実施形態では被締結部材22c、部材22dとも可燃性の燃料蒸気が充満する可能性のある部位の例となっている。
ここで、図8(b)に示すように、ボルト90の頭部90aのフランジ面90bの外周部に溝92が形成され、この溝92にワッシャ状のリング部材40Fが装着されている。そして、このリング部材40Fは、翼パネル21の表面とボルト90の頭部90aとに挟み込まれることで、翼パネル21の表面とボルト90の頭部90aとの界面におけるアークに対する封止、燃料漏れに対する封止を行っている。
【0062】
また、図8(c)に示すように、ナット91において部材22との接触面91aには、外周側に張り出すフランジ部93が形成されている。このフランジ部93の外周部に溝94が形成され、この溝94にワッシャ状のリング部材40Gが装着されている。
そして、このリング部材40Gは、フランジ部93と部材22との間に挟み込まれることで、ナット91と部材22との界面におけるアークの発生防止および封止、燃料の封止を行う。
なお、ナット91にはフランジ部93を設けたので、リング部材40Gをより広い面積で押圧することができるため、アークの発生防止および封止効果が特に高まる。
【0063】
このような構成によれば、ファスナ部材24としてボルト90、ナット91を用いる場合においても、アークの発生防止および封止効果、燃料漏れ防止効果を確実に発揮できる。
したがって、翼20の内部空間に設けられる燃料タンクをはじめとする各種装備品を、ステー等の部材22に着脱可能に取り付ける場合においても、ボルト90、ナット91からなるファスナ部材24を適用することで、上記効果を得ることができる。
【0064】
ところで、上記各実施形態において、図9に示すように、リング部材40F、40Gは、ボルト90、ナット91よりも外周側に張り出すようにしても良く、その場合、ボルト90、ナット91の外周側を囲う外周壁部110を備えるようにしても良い。このような構成は、リング部材40A〜40Eにも同様に適用できる。
また、上記では、翼20に用いられる耐雷ファスナを中心に記載したが、本発明は、航空機の胴体など他の部位に用いられる防爆用の耐雷ファスナについても同様の効果がある。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
20…翼(航空機組立品)、21…翼パネル(部材)、22…部材、22c…被締結部材(部材)、22d…部材、24…ファスナ部材、25…ファスナ本体、26…カラー(締結部材)、26a…接触面、30A、30B、30C、30D…溝、31…内周壁面、32…テーパ面、33A、33B…エッジ部、34…平面部(平行面)、35…溝、38…キャップ係合部、40A、40B、40C、40D、40E、40F、40G…リング部材、50、51…シーラント、60…リング部材(第二のリング部材)、70…キャップ、90…ボルト(ファスナ本体)、91…ナット(締結部材)、110…外周壁部
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の機体、特に翼や胴体に設置される燃料タンク等の可燃性の燃料蒸気が存在する可能性のある部位に用いられる防爆用の耐雷ファスナ、航空機組立品、航空機組立部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の機体を構成する翼は一般に中空構造となっており、翼表面を形成する翼面パネルは、翼内部にある構造部材にファスナ部材(留め具)によって固定されている。
このとき、ファスナ部材は、ピン状のファスナ本体を、翼面パネルおよび翼内部の構造部材の双方に形成された貫通孔に翼の外部側から挿入し、その先端部を翼の内部側から固定金具で固定することで、翼面パネルと構造部材とを締結する。
また、この他にも翼内部や胴体部で、翼面パネル以外の構造部材や装備品の固定用の部材もファスナ部材(留め具)によって締結・固定されている。
このとき、ファスナ部材は、ピン状のファスナ本体を、互いに固定される部材の双方に形成された貫通孔の双方を通過するように挿入し、その先端部を固定金具で固定することで双方の部材を締結する。
なお、固定される翼面パネルまたは部材は2つに限らない。
【0003】
ところで、航空機においては、防爆のための被雷対策を万全に期す必要がある。航空機に被雷が発生して主翼等の翼面パネルや構造部材に大電流が流れると、上記の各種締結部にその一部、場合によっては全部が流れる。その電流値が各締結部における通過許容電流の限界値を超えると、電気的アーク(あるいはサーマルスパーク)と呼ばれる放電が発生する(以下、本明細書中ではこれをアークと称する。)。これは、締結部を通過する電流により締結部を構成する主として導電部材からなる部材の締結界面の局部に急激な温度上昇が生じて溶融し近傍の大気中に放電が発生する現象で、多くの場合、溶融部分からホット・パーティクルと言われる溶融物の飛散が発生する。一般に翼の内部空間は燃料タンクを兼ねているため、この被雷時において、アークの発生を抑えるか、あるいは、アークを封止することによって発生したアークの放電とそこから飛散するホット・パーティクルが可燃性の燃料蒸気に接触しないようにして発火を防止し、防爆構造とする必要がある(非特許文献1参照)。
具体的には、上記ファスナ部材(留め具)と、それが締結する各種部材との界面のうち、可燃性の燃料蒸気が充満する可能性のある部位に、耐雷(防爆)対策として、上記の電気的アークの発生抑制か、封止の対策が必要である。ここで、可燃性の燃料蒸気が存在する可能性のある部位とは、翼内部および胴体部の、燃料タンク内部、一般に燃料タンクの翼端側に設置されるサージタンク(ベントスクープやバーストディスクなどが設置されるタンク)内部、燃料系統装備品内部等である。
【0004】
そこで、従来、たとえば図10に示すように、翼1の内部側において、翼面パネルを例とする第一の部材2および翼の内部に取り付けられる第二の部材3を貫通するファスナ部材4のファスナ本体4aおよび固定金具4bから離間した状態にキャップ6が取り付けられ、ファスナ本体4aおよび固定金具4bとの間に空気で満たされた空隙7を形成する構造が提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、キャップ6をファスナ部材4に対して位置決めできる構造とはなっておらず、キャップ6の取付位置は作業者に依存する。このため、キャップ6の中心とファスナ部材4の中心とが大きくずれる可能性もある。空隙7においてファスナ部材4とキャップ6との間隙が小さい場所が生じると、キャップ6の機能(絶縁性)が低下する。最悪の場合、キャップ6がファスナ部材4に接触してしまった状態で取り付けられれば、キャップ6の機能そのものが大きく損なわれることもある。
また、キャップ6は、図10(a)に示すように、接着剤9で第二の部材3に取り付けられたり、図10(b)に示すようにシーラント(絶縁材料)10で外周をカバーしているため、取付現場において、接着作業、シーラント10の塗布作業が必要であり、作業の手間がかかる。航空機の翼1の内部は、言うまでもなく空間が狭く、奥まった位置において上記したような作業を行うのは作業性が非常に悪い。しかも、このようなファスナ部材4は、翼1の全体に数千〜数万箇所設けられるため、作業性の悪化はコスト上昇に直結する。また、シーラント10を十分塗布するため、重量オーバとなりやすい。翼以外の可燃性の燃料蒸気が存在する可能性のある部位についても、翼より数は少ないものの、同様の問題がある。
さらに、上記したような作業は、いわゆる手作業であり、作業者によって、施工品質にばらつきが出やすく、これは信頼性にも影響する。
また、図11は、ファスナ部の一般的なアークの封止方法の例である。このような例は、非特許文献1(P.266、Fig.7.47 Fastener sealing concepts.の(b))にも記載されており、ファスナ部材4の可燃性燃料蒸気のある側(燃料タンク側等)の締結部位に、シーラント10をオーバーコート、または、キャップシール(シーラントをあらかじめ固めたキャップ)5をシーラントで接着して設置する。しかしながら、この例でも、シーラントの塗布作業があり、上記と同様の問題がある。
さらに、シーラントは、航空機の飛行中においては、例えば−60℃といった低温環境にさらされる。そのような環境ではシーラントが硬化し、密着性能が低下する可能性がある。そのような状態でも十分なアークの抑制性能を持たせるために、十分厚くシーラントを塗布する必要がある場合があり、重量上の問題となっている。
さらに、燃料タンク防爆の航空規則の改正により、このような耐雷(防爆)対策に対する故障の防止の要求が非常に厳しくなっており、1機あたり数千〜数万あるファスナの1本にも故障の発生が許されなくなっている。このため、耐雷(防爆)対策には、製造時の故障の発生(製造ミス、装着ミス、検査ミス)の防止、製造バラツキによる性能の低下の防止、および、30年にもおよぶ航空機寿命における運用環境下での性能の劣化等の防止が必要であり、上記のような信頼性の確保、品質保証が厳しく求められている。一方で、経済的、環境的な要求からは、低コストで軽量な対策が求められる。
【0006】
そこで、本発明者らは、ファスナ部材の機体の内部側に突出した部分に係合部を形成し、キャップの内周面の中心部に、ファスナ部材の係合部に係合する被係合部を形成し、被係合部にファスナ部材の係合部を係合させる構成の技術を既に提案した(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−7398号公報
【特許文献2】特開2010−254287号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】F. A. Fisher, J. A. Plumer, R. A. Perala, "Lightning Protection of Aircraft", Second Edition, 2004, Lightning Technologies Inc, p218, p266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記したような特許文献2に記載の技術においても、絶縁性の確保のために、キャップの内側にシーラントを充填する必要があり、施工に手間がかかる。さらに、シーラントは施工前には低温での保存を要し、常温環境下に出した後では消費期間が短く、コストアップの要因となる。
また、前述のように、シーラントは、航空機の飛行中においては、例えば−60℃といった低温環境にさらされる。そのような環境では、シーラントが、そのガラス転移温度以下になってしまい、硬化する可能性がある。すると、特許文献2の技術でも、非特許文献1ほどではないが、アークの発生の抑制性能に悪影響が出る可能性がある。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、低コストで軽量で、十分な耐雷性能を確保し故障の非常に少ない、高信頼性、長寿命の航空機における防爆用の耐雷ファスナ、航空機組立品、航空機組立部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的のもと、本発明者らがファスナ部材4の周囲で発生するアークについて雷撃試験でのアーク発生箇所調査やその電流分布解析、電流分布計測等により鋭意検討を行ったところ、図11に例として描画した電流の流れとアークの発生箇所が示すように、a)翼パネル2とファスナ部材4の間で生じるもの、b)翼パネル2と第二の部材3との間で生じるもの、c)第二の部材3とファスナ部材4の外周のエッジ部4cとの界面で生じるもの、d)ファスナ本体4aと部材3の穴の内面との間で生じるもの、e)ファスナ本体4aの端部4dとカラー4bの間のネジ端部で生じるものがあり、特に、c)の第二の部材3とファスナ部材4の外周のエッジ部4cとの界面で生じるものへの対策がファスナの耐雷対策上重要であることが判明した。
これは、a)は燃料タンク外(あるいは可燃性の燃料蒸気が存在しない部位)であるので問題がない、b)は重要であるが合わせ面の問題であり本発明の対象であるファスナの問題ではない(一般にこの部分はシーラントで対策する。)、d)はb)とc)の封止対策が出来ていれば解決される、e)は規定以上の雷撃電流を試験的に与え、かつ、部材間の導通状況が非常に悪い等の特殊なケースでのみ起こる事象あって実際にはあり得ない、などが理由である。
したがって、c)に対し、アークの発生防止、あるいは、万一発生した場合のアークの放電とそこから飛散するホット・パーティクルが可燃性の燃料蒸気に接触しないように封止することが重要である。
【0011】
このような知見に基づいてなされた本発明は、航空機の機体を構成する少なくとも二つの部材を締結するため、全ての部材に形成された孔に一方の側から他方の側に貫通させて設けられるファスナ本体と、部材の他方の側に突出したファスナ本体に装着される締結部材と、ファスナ本体の頭部の外周部および締結部材の外周部の少なくとも一方と部材との間に、当該ファスナの締結時に圧縮状態で挟み込まれ、絶縁性を有した材料からなるリング部材と、を備えることを特徴とする。
絶縁性を有したリング部材を、ファスナ本体の頭部の外周部および締結部材の外周部の少なくとも一方と部材との間に圧縮状態で挟み込むことで、ファスナ本体の頭部や締結部材の外周部と部材との界面近傍の放電が発生しうる空間を無くし、前記c)のようなアークの発生を防止することが出来る。また、万一アークが発生してしまっても、発生したアークの放電とそこから飛散するホット・パーティクルが可燃性の燃料蒸気に接触しないようにすることができる。
【0012】
このようなリング部材は、ファスナ本体の頭部の外周部または締結部材の外周部に形成された溝に嵌め込まれる。
この溝は、部材側から離間するにつれてその径が漸次縮小するテーパ面を有しているようにしてもよい。これにより、リング部材が溝から外れにくくなる。
また、溝は、部材の表面に平行な平行面を有し、平行面と部材の表面との間にリング部材が挟み込まれるようにしても良い。
また、溝の内周面と、ファスナ本体または締結部の外表面との間のエッジ部を鈍角に形成するのが好ましい。
さらに、リング部材と溝の少なくとも一方に、リング部材の溝からのはずれ防止手段を備えていることを特徴とする。
【0013】
締結部材の内周部と部材との間に圧縮状態で挟み込まれる、絶縁性を有した材料からなる第二のリング部材をさらに備えても良い。
【0014】
二つの部材の一方の側が燃料タンクであるとき、二つの部材の界面、ファスナ本体と二つの部材の界面、ファスナ本体の先端部と締結部材との間の少なくとも1カ所に、燃料が二つの部材の一方の側から他方の側に漏れるのを防止するシール材を塗布しても良い。
その一方で、リング部材、第二のリング部材が、燃料が漏れるのを防止する機能を有するのであれば、シール材の塗布を省略しても良い。
【0015】
本発明は、航空機の機体を構成する少なくとも二つの部材が、請求項1から8のいずれか一項に記載の耐雷ファスナにより締結されていることを特徴とする航空機組立品とすることもできる。
【0016】
なお、本発明は航空機の翼内の締結部に流れる電流のうち一般に最も大きいと考えられる被雷時の対策であるが、同様に電流によるアークが問題となる航空機の電気系統から構造への地絡(Fault Current)にも同様の効果がある。
【0017】
本発明は、請求項1から8の耐雷ファスナを用いた防爆対策が必要な航空機組立品の製造方法であって、少なくとも二つの部材を重ね合わせて配置する工程と、重ね合わせた少なくとも二つの部材にファスナ孔を貫通形成する工程と、二つの部材の接触面にシーラントを塗布し、塗布したシーラントを接触面の周囲に押し出しながら再び少なくとも二つの部材を重ね合わせて配置する工程と、ファスナ本体を少なくとも二つの部材の孔に挿入し貫通させる工程と、部材との接触面の外周に設けられた溝にあらかじめ絶縁材リングが装着されたカラーを、ファスナ本体に装着して締め付ける工程とを行うことを特徴とする航空機組立部品の製造方法とすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、絶縁性を有したリング部材を、ファスナ本体の頭部の外周部および締結部材の外周部の少なくとも一方と部材との間に圧縮状態で挟み込むことで、二つの部材と、ファスナ本体の頭部や締結部材との界面を封止することができ、これにより、低コスト、軽量で十分かつ非常に信頼性の高い耐雷(防爆)性能を確保することができる。このように部材とファスナ本体にしっかり圧縮状態で挟み込まれる構造であるので、製造時や運用時にはずれたりすることがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第一の実施の形態におけるファスナ部材を示す断面図、リング部材の変形例を示す断面図である。
【図2】第二の実施の形態におけるファスナ部材を示す断面図、およびリング部材の拡大断面図、リング部材の変形例を示す断面図である。
【図3】第三の実施の形態におけるファスナ部材を示す断面図、およびリング部材の拡大断面図である。
【図4】第四の実施の形態におけるファスナ部材を示す断面図、およびリング部材の拡大断面図である。
【図5】頭部にキャップを設けたファスナ部材を示す断面図、およびキャップの拡大断面図である。
【図6】第五の実施の形態におけるファスナ部材を示す断面図である。
【図7】図6の変形例を示す断面図である。
【図8】(a)は第六の実施の形態におけるファスナ部材を示す断面図、(b)はボルトの頭部の平面図および断面図、(c)はナットの平面図および断面図である。
【図9】リング部材の変形例を示す図である。
【図10】従来のファスナ部材の複数例を示す断面図である。
【図11】従来のファスナ部材においてアークが発生する箇所を示した断面図である。
【図12】リング部材の圧縮変形を適量とするための設計検討のための概念図である。
【図13】リング部材の発生応力と30年後の残存応力について計算した例であり、(a)は、リング部材の材料がPEEKである場合、(b)は、ナイロンである場合の計算例である。
【図14】リング部材の残存ひずみについて計算した例であり、(a)は、リング部材の材料がPEEKである場合、(b)は、ナイロンである場合の計算例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第一の実施形態]
図1は、以下に示す第一の実施形態における耐雷ファスナを適用した航空機の機体を構成する翼の一部の断面図である。
この図1(a)に示すように、翼(航空機組立品)20は、その外殻が、例えばアルミ合金等の金属材料や、炭素繊維と樹脂との複合材料であるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)やガラス繊維と樹脂との複合材料であるGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)からなる翼パネル(部材)21によって形成されている。翼20の内部に設けられる、補強のための構造部材(リブなど)や燃料タンク、各種の機器が、アルミ合金等の金属材料や複合材料により形成されたステー等の部材22を介して翼パネル21に固定されている。そして、ステー等の部材22は、ファスナ部材24によって翼パネル21に取り付けられている。
なお、図には示さないが、翼パネル21は、複合材料の場合、直撃の雷が着雷する可能性のある部位には表面側に金属のフォイルあるいはメッシュなどが張られていることが多い。また、翼パネル21の外面には防食などのため、金属でも複合材料でも、プライマーと塗料が塗布されていることが多く、翼パネル21のその他の面や内部の構造部材には、電気的導通を必要とする部分以外にはプライマーが塗布されていることが多い。
【0021】
ファスナ部材24は、ピン状のファスナ本体25と、翼20の内部側でファスナ本体25に装着されるカラー(締結部材)26とから構成される。
ファスナ本体25およびカラー26は、強度の面から一般に金属材料(たとえば、チタン、ステンレススチール、アルミニウムなど)により形成される。
【0022】
ピン状をなしたファスナ本体25は、先端部にネジ溝25aが形成され、後端部は先端部側より拡径した頭部25bとされている。このファスナ本体25は、翼パネル21および部材22を貫通して形成された孔21a、22aに翼20の外側から挿入され、後端部の頭部25bを孔21aの周囲面に突き当てた状態で、先端部を翼20の内方に突出させる。ファスナ本体25の材質の表面処理は、使用される部位や施工方法により、無垢のもの、アルミナなどの絶縁被膜処理のもの、イオン蒸着による導電処理などを用いることが出来る。
【0023】
カラー26は、筒状で、その内周面にはファスナ本体25のネジ溝25aに噛み合うネジ溝が形成されている。このカラー26は、翼20の内方に突出したファスナ本体25のネジ溝25aにねじ込まれる。これによって、翼パネル21と部材22とは、ファスナ本体25の頭部25bとカラー26とによって挟み込まれ、部材22が翼パネル21に固定されている。ここで、カラー26は、ファスナ本体25にねじ込んだ後の緩みを防止できるセルフロック式とするのが好ましい。また、カラー26は、規定のトルクに達したときに六角形状などをしたナット状のヘッドが切れる構造となっている、トルクオフ式としても良い。あるいは、機器を取り付けるための結合であって、メンテナンスなどのために着脱が必要な場合には、ダブルヘックス式などの取り外し可能なカラーとしても良い。
【0024】
このようなカラー26には、部材22に突き当たる接触面26aの外周部に溝30Aが形成され、この溝30Aに、リング状の樹脂製のリング部材40Aが装着されている。このリング部材40Aは、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、ポリイミド、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂、PEEKはビクトレックス社(英国)の登録商標)、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、あるいは、硬質ゴム等の樹脂により形成するのが好ましい。これらは、航空機燃料タンク内で使用する樹脂として、機械的強度、耐油性、耐寒・耐熱性、等の点で信頼性が確認されている。
なお、カラー26においては、ファスナ本体25と協働して所定の締結力を発揮する必要があるため、溝30Aよりも内側においてカラー26が部材22に面接触する部分の面積を従来同等に確保する必要がある。
【0025】
ここで、リング部材40Aは、図1(b)に示すようにファスナ締結前にはファスナ本体25の軸線方向における高さが、同方向における溝30Aの深さよりも大きくなるよう形成されている。これにより、カラー26をファスナ本体25に締め込んでいったときに、カラー26の接触面26aよりも先にリング部材40Aが部材22に突き当たり、カラー26の締結が完了した状態においては、リング部材40Aは圧縮変形している。これにより、リング部材40Aは部材22とカラー26の双方に面圧により確実に密着する。
【0026】
ここで、航空機の飛行中に生じる低温環境においてリング部材40Aが収縮したときにも、リング部材40Aが一定以上の面圧で部材22とカラー26の双方に接触するよう、リング部材40Aの高さを設定する。
リング部材40Aが一定以上の面圧で部材22とカラー26の双方に接触するよう、リング部材40Aの圧縮変形による樹脂変形量を適量とするためには、(1)一発破壊しないこと(カラー26の締付時に樹脂に発生する応力が引張強度以下であること)、(2)残存応力:耐用年数(一般に30年)後に残存応力が0以上あること、(3)圧縮ひずみが低温時に十分あること(残存ひずみが低温による ひずみ変化以上)、の3つの関係が成り立つ状態を見いだす必要がある。
図12に、リング部材40Aの圧縮変形を適量とするための設計検討のための概念図を示す。カラー26の全高をL1、リング部材40Aのフランジ面からの飛び出し量(樹脂変形量)をY、リング部材40Aの全長をY+Hとする。
【0027】
以下、リング部材40AをPEEK、ナイロン(Zytel(ザイテル):登録商標)とした場合を例とし、カラー26の全高のうち、リング部材40Aの無い部分の高さFがファスナ全高L1の3分の1と仮定した例を考える。
その検討結果を、表1および図13、図14に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
まず上記(1)、(2)について樹脂変形量Yを0.1mmとして計算した例が図13であり、図13(a)は、リング部材40Aの材料がPEEKである場合、(b)は、ナイロンである場合である。
この場合、カラー26の締付時に樹脂に発生する応力が引張強度以下であり、耐用年数(一般に30年)後の残存応力も0以上であることから、(1)も(2)も問題ないことが分かる。このような計算を樹脂変形量Yをパラメータとして行うと、樹脂変形量Yは、PEEKの場合0.11mm、ナイロンの場合0.16mm以下であれば良いことが分かった。
【0030】
次に上記(3)について同じく樹脂変形量Yを0.1mmとして計算した例が図14であり、図14(a)は、リング部材40Aの材料がPEEKである場合、(b)は、ナイロンである場合である。
この場合も問題ないことが分かる。
このような計算を樹脂変形量Yをパラメータとして行うと、樹脂変形量Yは、PEEKの場合0.03mm、ナイロンの場合0.07mm以上であれば、良いことが分かった。
【0031】
これらのことからL1の3分の1と仮定した場合、各材料の樹脂変形量Yが、PEEKの場合0.03〜0.11mm、ナイロンの場合0.07〜0.16mmとなるよう、リング部材40Aを形成すれば、リング部材40Aが一定以上の面圧で部材22とカラー26の双方に接触する条件を見いだすことができた。
【0032】
上述したような構成によれば、カラー26にリング状の樹脂製のリング部材40Aが装着されており、このリング部材40Aが部材22とカラー26との間に挟み込まれ、部材22とカラー26の双方に密着しているので、部材22との界面を封止し、カラー26の外周縁部(リング部材40Aが設けられている位置)でアークの発生防止および封止をすることができる。溝30Aとリング部材40Aの接触面が部材22に対し垂直であるので、装着される圧縮時にお互いに密着しやすい。他の形状でも良いが、アーク発生箇所を無くすためにはこれらの面が接触していることが好ましい。しかし、離れていてもアークを封止する能力はあるので、本発明の効果はある。
なおここで、ファスナ本体25の先端部25cとカラー26との界面にもアークが発生する可能性が考えられるが、規定以上の雷撃電流を試験的に与え、かつ、部材間の導通状況が非常に悪い等の特殊なケースでのみ起こる事象であって実際にはほとんどあり得ないことが試験により確認されている。これは、ファスナ本体25に流れ込んだ電流が部材22に流れる経路(分布)は、経路の伝搬距離で決まるバルク抵抗(単位断面積、単位長さあたりの抵抗)、経路が横切る界面の接触抵抗(単位断面積あたりの抵抗)、および電磁界的な影響(表皮効果でなるべくタンク外面に近い側を流れようとする)で決まり、その際、ファスナ本体25の先端部25cとカラー26との界面を通る経路は、カラー26と部材22との界面(リング部材40Aが設けられている位置)近くを流れる経路と比べ、伝搬距離は大きく、タンク外面からも遠いため、この経路にはほとんど電流が流れず、その結果、この界面においてアークは生じにくいためと考えられる。
【0033】
さらに、このようなリング部材40Aは事前に製作したものをカラー26の溝30Aに単に装着してもよいし圧入などによりはめ込んでもよいし、機械加工されたカラー26に射出成形の一種であるインサート成形により一体に形成してもよい。いずれの場合も、ファスナ部材24の装着現場におけるリング取付け作業は不要であるため、現場における作業効率を高めることができ、作業者によるバラツキもない。耐雷(防爆)性能に寄与するリング部材40Aの圧縮変形は、前記のような設計で決まり、本質的にばらつく要素を無くすことができる。また、重量オーバにもならない。
また、リング部材40A自体、複雑な形状でもないため、低コストで量産することができる。特にインサート成形の場合は、低コストで量産できる上、成形時に樹脂が溶融し、カラー26の溝30Aに流し込まれて隙間無くかつ強い密着力で融着するので、カラー26とリング40Aは高度に一体化し、かつ高い精度で製造され、製造公差によるバラツキがない。また、製造後のリング部材40Aのはずれなどがない。
加えて、リング部材40Aは、たとえば−60℃〜+80℃という温度変化の環境に関わらず、安定してアークの発生防止および封止をすることができる。
さらに、リング部材40Aの装着状態や劣化状態等を目視で検査しやすく、管理や保守作業を容易かつ確実に行うことができる。
これらのことから、本耐雷(防爆)ファスナは、現行の燃料タンク防爆の航空規則で要求される航空機用ファスナの耐雷(防爆)対策への故障防止に対する高い信頼性の要求(製造ミス、装着ミス、検査ミスによる故障の防止、製造バラツキによる性能低下の防止、および、30年にもおよぶ航空機寿命における運用環境下での性能の劣化等の防止)に対して、低コストかつ軽量で、充分な耐雷性、信頼性の確保、品質保証を実現できる。
【0034】
以下、本実施形態の耐雷ファスナを用いた航空機組立品の製造方法について説明する。
まず、あらかじめ所定の形状に加工され、所定のプライマー、塗料、あるいは、導電処理を表面に施された翼パネル21と部材22を、図示しないパイロットホールとピンで位置決めし、互いに重ね合わせて接触配置する。
そして、図示しないクランプにて両者を固定した上で、翼パネル21の外側からドリルを用いて翼パネル21および部材22に孔21aおよび孔22aを貫通させる。必要に応じ、同様の動作にて他のファスナのための孔あけを行う。このとき、穴径および垂直性が、インターフェアランス・フィット(Interference Fit)、トランジション・フィット(Transition Fit)、クリアランス・フィット(Clearance Fit)等の指定に基づき、正確な公差範囲に入り、かつ、表面が平滑になるよう、注意して施工する。また、空力面などの必要に応じ、皿取りを行う。
【0035】
施工後、穴径、垂直度、平滑性などを必要に応じて検査する。
部材22の取付にかかる孔開けおよび検査作業が全て終了したら、クランプを取り外し、パネル21と部材22を分離する。そして、パネル21と部材22のそれぞれにおいて、孔21aおよび孔22aのバリを取り、さらに、表面に付いた切り粉および切削油等を除去、清掃する。
【0036】
次に、翼パネル21あるいは部材22の接触面にシーラント50を適量塗布の上、再びパネル21と部材22を図示しないパイロットホールとピンで位置決めの上、塗布したシーラント50を接触面の周囲に押し出しながら接触配置する。
そして、ファスナ本体25の軸部分にシーラント50Bを適量塗布し、パネル21の外側から孔21aに挿入し、部材22の孔22aを貫通して所定位置に収める。このとき、ファスナ本体25は通常とても挿入しにくいので、適宜ゴムハンマーなどで打ち込む。また、シーラント50Bは余分な部分が孔から外に押し出されるので、孔の周囲やネジ溝25aについたものを拭き取る。
【0037】
次に、あらかじめ溝30Aにリング部材40Aが装着されたカラー26を用意する。このカラー26をファスナ本体25のネジ溝25aに装着し、規定トルクで締め付ける。さらにカラー26の周囲にはみ出したシーラント50Bを拭き取る。
同様の動作で他のファスナを施工完了したら、部材22の端部にシーラント50Cを塗布して組立製造が完了する。
以上の工程は、シーラントが固まる前(施工時間の間)に終わらせる必要がある。
【0038】
本製造方法により、あらかじめ精度良く作製された樹脂リング付のカラーを用いることができ、従来必要であった手作業による樹脂シーラントの塗布などが不要となり、製造ばらつきによる耐雷・防爆性能の低下を皆無にすることができる。
【0039】
なお、図1(c)、(d)のように、リング部材40Aには、径方向に突出する突起27や凹溝28を設け、溝30Aから、軸方向に外れるのを防止するためのはずれ止めを施しても良い。
また、リング部材40Aの外周面41は、図1(a)のようにテーパでも良いし、図1(e)のように、カラー26の接触面26aに垂直でも良いし、その他の形状でも良い。
さらに、図1(f)に示すように、リング部材40Aには、溝30Aの外周部に軸方向に突出する突起29を設け、リング部材40Aが外周側に外れるのを防止するためのはずれ止めを施しても良い。
さらに突起29は、図1(g)、図1(h)に示すように、リング部材40Aの外周を覆うように形成しても良い。その際、突起29の先端はカラー26の接触面26aと面一の位置よりも部材22と接触しないよう、低く形成する必要がある。突起29の先端は図1(g)のように鋭角でも良いし、図1(h)のように太くても良い。鋭角であればカラーの重量軽減が図れる。一方、太ければ電界の集中を避けることができ、万一雷撃の大電流がカラー26に流れた場合に突起29の先端と部材22との間に電界集中によるスパークが発生し燃料が発火するような電流の閾値を上げることができるため、大電流が流れ得る部位に用いることができる。
【0040】
加えて、カラー26は、ファスナ本体25からのはずれ止めのため、外周の複数点から押しつぶして(かしめる)多角形状にされることが多い。本カラー26の場合、アーク封止効果を十分持たせるためには、リング部材40Aおよび溝30Aは隙間無く装着される必要があるとともに、製造上、加工も取付も円形が好ましいので、当該かしめをリング40Aおよび溝30Aから遠い、カラー26の反対側半分の部分に施すことにより、リング部材40Aおよび溝30Aが多角形状につぶれることを防ぎ、円形を保つようにすることが好ましい。あるいは、カラー26にかしめを施した後に、インサート成形でリング40Aを融着(溶融・装着)すれば、万一、溝30Aが多角形状につぶれていても隙間無く融着することが出来る。
【0041】
なお、上記実施形態においては、翼パネル21と部材22との界面、ファスナ本体25と翼パネル21および部材22との界面に、シーラント50A、50Bを塗布した。また、翼パネル21と部材22の端部との境界部分にもシーラント50Cを塗布した。ただしこれは燃料漏れ防止あるいは防蝕のための水分浸入防止のためのものであり、極薄であって電気的導通を妨げる作用などはなく、耐アークに対してはカラー26に備えたリング部材40Aがその機能を担う。また、ファスナ本体25やカラー26は通常金属であるが、その表面処理として前述の通り非導電性、導電性の各種処理がしてあっても良い。また、ファスナ本体25と孔21a、22aの径の関係は、インターフェアランス・フィット(Interference Fit)、トランジション・フィット(Transition Fit)、クリアランス・フィット(Clearance Fit)など、どのような締まり状態でも良い。
また、本例は第一の部材を翼パネルを例として記載したが、内部の構造部材などでも良い。ファスナ本体25の頭部は皿状、なべ状、ナット状など各種用いることが出来る。
【0042】
次に、上記第一の実施形態の変形例を示す。以下に示す各実施形態では、リング部材、溝の構成が上記第一の実施形態と異なるものであり、それ以外の構成は上記第一の実施形態と共通する。そこで、以下においては、上記第一の実施形態と異なる構成を中心に説明を行い、共通する構成については同符号を付してその説明を省略する。
[第二の実施形態]
図2(a)に示すように、本実施形態におけるリング部材40Bは、カラー26の外周部に形成された溝30Bに装着されている。
ここで、図2(b)に示すように、溝30Bは、カラー26の接触面26a側から反対側に向かうに従い、溝30Bの内周壁面31の内径が漸次小さくなるようテーパ状に形成されている。
リング部材40Bも、この溝30Bに嵌め合うような断面形状に形成されている。
【0043】
このような構成によれば、リング部材40Bが部材22とカラー26の双方に密着して部材22との界面を封止し、カラー26の外周縁部でアークの発生防止および封止をすることができる。
しかも、溝30Bの内周壁面31がテーパ状とされているので、リング部材40Bがカラー26から脱落しにくくなっている。これにより、カラー26の装着時や装着前の保管、運搬時にリング部材40Bが不用意に脱落してアークの発生防止および封止の効果が得られなくなるのを防止し、耐雷性能を確実に発揮することができる。
【0044】
図2(c)に示すように、溝30Bは、カラー26の接触面26a側から反対側に向かうに従い、溝30Bの内周壁面31の内径が漸次小さくなるようテーパ状とする場合、リング部材40Bが外周側に外れるのを防止するはずれ止めを形成するのも好ましい。この場合、溝30Bの外周部に、カラー26の軸線方向に突出する突起37Aを形成するとともに、その内周側に凹溝37Bを形成することができる。そして、リング部材40Bは、突起37Aに係合する段部43を備え、初期状態において凹溝37Bには入り込まない形状を有している。
そして、図2(d)に示すように、ファスナ部材24とカラー26を締結してリング部材40Bの先端部が部材22に押し付けられると、リング部材40Bが押しつぶされ、その一部が凹溝37Bに入り込む。
これにより、リング部材40Bは、突起37Aと凹溝37Bによって外周側に外れるのを防止できるようになっている。
【0045】
[第三の実施形態]
図3(a)、(b)に示すように、本実施形態におけるリング部材40Cが装着される溝30Cは、カラー26の接触面26a側から反対側に向かうに従い、内径が漸次小さくなるようテーパ状に形成されたテーパ面32を有している。さらに、溝30Cの内周面とカラー26の接触面26a、外周面26cとが隣接するエッジ部33A、33Bにおいては、その角度θ1、θ2が鈍角となるよう形成されている。また、溝30Cには、リング部材40Cを部材22に押し付けるため、カラー26の接触面26aと平行に近い押し付け面36が形成されている。
そして、リング部材40Cは、この溝30Cに嵌め合うような断面形状に形成されている。
【0046】
このような構成によれば、リング部材40Cが部材22とカラー26の双方に密着して部材22との界面を封止し、カラー26の外周縁部でアークの発生防止および封止をすることができる。
しかも、溝30Cにテーパ面32が形成されているので、リング部材40Cがカラー26から脱落しにくくなっている。これにより、カラー26の装着時にリング部材40Cが不用意に脱落してアークの発生防止および封止の効果が得られなくなるのを防止し、耐雷性能を確実に発揮することができる。
さらに、カラー26の外周部のエッジ部33A、33Bが鈍角とされているので、この部分に電流が集中するのを防ぎ、アークの発生防止および封止の効果を一層確実なものとすることができる。また、同じ理由でリング部材40Cのエッジ部33A、33Bとの接触部分に応力が集中しないので、外力により樹脂に亀裂などの損傷が発生するのを抑制することができる。
【0047】
[第四の実施形態]
図4(a)、(b)に示すように、本実施形態におけるリング部材40Dが装着される溝30Dは、カラー26の接触面26a側から反対側に向かうに従い、内径が漸次小さくなるようテーパ状に形成されたテーパ面32を有している。さらに、溝30Dの内周面とカラー26の接触面26aとが隣接するエッジ部33Aにおいては、その角度θ1が鈍角となるよう形成されている。
一方、溝30Dにおいて、接触面26aから離間した側には、カラー26の接触面26aに平行な平面部(平行面)34が形成されている。
そして、リング部材40は、この溝30Dに嵌め合うような断面形状に形成されている。
【0048】
また、カラー26の接触面26aにおいて、内周側のファスナ本体25との界面近傍にも、溝35を形成し、この溝35に絶縁性を有したリング部材(第二のリング部材)60を設けるようにしてもよい。
【0049】
このような構成によれば、リング部材40Dが部材22とカラー26の双方に密着して部材22との界面を封止し、カラー26の外周縁部のアークの発生防止および封止をすることができる。
しかも、溝30Dにテーパ面32が形成されているので、リング部材40Dがカラー26から脱落しにくくなっている。これにより、カラー26の装着時にリング部材40Dが不用意に脱落してアークの発生防止および封止の効果が得られなくなるのを防止し、耐雷性能を確実に発揮することができる。
また、溝30Dに平面部34が形成されているため、リング部材40Dを、平面部34と部材22の表面とで確実に挟み込んで圧縮することができる。これにより、アークの発生防止および封止をより確実に行うことができる。特に、部材22が複合材料である場合、カラー26の接触面26aとの突き合わせ面が、機械加工の施されていない面となることがあり、そのような場合、リング部材40Dを確実に部材22に押し付けることができ、アークを確実に封止できる。
【0050】
さらに、カラー26の接触面26aにおいて、内周側のファスナ本体25との界面近傍にもリング部材60を設けるようにしたので、カラー26とファスナ本体25、部材22との界面においてアークの発生を防止および封止できる。
このような構成は、ファスナ本体25が金属材料からなり、翼パネル21、部材22が複合材料からなり、ファスナ本体25と、翼パネル21、部材22との界面でアークが生じやすい場合に特に有効である。
この場合、リング部材60が燃料漏れを防止するシール材としても機能するため、ファスナ本体25のシーラント50は、図4(a)に示すように、ファスナ本体25の頭部25bに塗布してこれを燃料漏れ防止のためのシール材とし、この頭部25bを孔21aの周囲面に突き当てた状態としても良い。
【0051】
なお、上記第一〜第四の実施形態では、燃料漏れ防止のために、ファスナ本体25と、翼パネル21および部材22との界面にシーラント50A、50B、50Cを塗布する構成としたが、これに限るものではない。
例えば、図2(a)に示すように、ファスナ本体25と、翼パネル21および部材22の界面のうち、ファスナ本体25と翼パネル21の界面にはシーラントを塗布せず、翼パネル21および部材22の界面のみにシーラント50Aを塗布するとともに、カラー26の頂面26bとファスナ本体25の先端面25dとに、燃料漏れ防止のため、シーラント51をブラシ等で薄く塗布するようにしても良い。
【0052】
また、ファスナ本体25が金属材料からなり、翼パネル21、部材22がCFRP材料からなるような場合、ファスナ本体25と、翼パネル21、部材22との界面でアークの発生が強く起きる可能性があるため、これを防止および封止するため、図1、図3に示したように、シーラント50をウェットインストールで施工することで、その部分の電気発生防止を図ることが望ましい。
【0053】
さらに、燃料漏れを防止するためのシール材として、シーラント50やシーラント51を用いたが、これに代えて、図5に示すように、ファスナ本体25の頭部25bに、絶縁材料からなるキャップ70を装着してもよい。ここに、ファスナ本体25の頭部25bは翼パネル21に対しドライ側(燃料タンクの外側)に位置しており、皿面25dで締結力(押さえる力)を与えている。
ファスナ本体25の頭部25bの外周部には、周方向に沿って半径方向外側に突出する(拡径する)凸部38aと、凸部38aに連続して形成され、周方向に沿って半径方向内側に凹む(窪む)凹部38bとからなるキャップ係合部38が形成されている。これら凸部38aおよび凹部38bは、それぞれ、その断面視形状が丸みを帯びるように形成されている。このように、凸部38aおよび凹部38bが丸みを帯びることで、電界集中によりストリーマが発生し、当該部に雷を誘雷する現象を抑制することができる。また、応力の集中も抑えられるので、運用中の外力による破損を防ぎ、高信頼、長寿命とすることができる。
【0054】
キャップ70は、熱可塑性樹脂(例えば、耐熱性・強度を有する他、絶縁破壊電圧が高いポリエーテルイミド(PEI)、耐熱性・強度が優れている他、成形性・汎用性に優れたポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、耐熱性・強度を有する他、成形性・汎用性に優れたポリフェニルサルルファイド(PPS)、耐熱性・強度が特に優れているポリアミドイミド(PAI))や、熱硬化性樹脂(例えば、耐熱性・強度が特に優れているポリイミド(PI))等を用いて形成されている。
キャップ70は、キャップ係合部38に係合するよう、その内周側に、周方向に沿って半径方向外側に凹む(窪む)とともに、キャップ係合部38の凸部38aと合致する凹部71aと、周方向に沿って半径方向内側に突出するとともに、キャップ係合部38の凹部38bと合致する凸部71bとが形成されている。
【0055】
キャップ70は、射出成形によってファスナ本体25の頭部25bに一体に成形することができる。ここで、キャップ係合部38に凹部71a、凸部71bが係合していることで、キャップ70は、ファスナ本体25に一体化している。
【0056】
このようなキャップ70を備えることで、ファスナ本体25と翼パネル21との間が封止され、燃料漏れを防ぐことができる。
なお、キャップ70および翼パネル21の表面には、塗装により塗膜75が形成される。
また、キャップ70の外周と翼パネル21の間はシーラント72により隙間を埋め、空力面をスムースにすることができると共に、塗膜75のひび割れを防止することができる。
【0057】
[第五の実施形態]
第一から第四の実施形態では、ファスナのヘッド(頭部)側が可燃性の燃料蒸気が充満する可能性のある部位の外側(燃料タンク外側)にある場合を例として例示したが、本実施の形態はヘッド側が可燃性の燃料蒸気が充満する可能性のある部位の内側にある場合の一例を示す。
図6に示すように、本実施形態においては、本実施形態におけるリング部材40Eは、カラー26ではなく、ファスナ本体25の頭部25bに設けられている。
すなわち、ファスナ本体25の頭部25bには、上記第一の実施形態の溝30Aと同様の断面形状の溝80が形成され、この溝に、上記第一の実施形態におけるリング部材40Aと同様の断面形状のリング部材40Eが装着されている。
【0058】
このような構成によれば、ファスナ本体25の頭部25bと被締結部材(部材)22cとの界面におけるアークの発生防止および封止ができる。被締結部材22cの例としては、主翼リブ、スパーなどがある。
【0059】
また、このような構成によれば、リング部材40Eにより、ヘッド側からの水分の浸入に対する防蝕のためのシール性能を発揮できるので、図7に示すように、図6に示した構成からファスナ本体25と、被締結部材22cまたは部材22dの界面へのシーラント50の塗布を省略した構成とすることもでき、施工のさらなる容易化、低コスト化、軽量化を図ることができる。
【0060】
なお、本実施形態で示した構成は、被締結部材の両側が可燃性の燃料蒸気が充満する可能性のある部位である場合は、上記第一〜第四の実施形態で示したカラー側の構成と組み合わせることも可能である。
【0061】
[第六の実施形態]
図8(a)に示すように、本実施形態においては、ファスナ部材24として、ファスナ本体25に変えてボルト(ファスナ本体)90を用い、カラー26に代えてナット(締結部材)91を用いることで、翼パネル21と部材22とを締結する構成となっている。本実施形態では被締結部材22c、部材22dとも可燃性の燃料蒸気が充満する可能性のある部位の例となっている。
ここで、図8(b)に示すように、ボルト90の頭部90aのフランジ面90bの外周部に溝92が形成され、この溝92にワッシャ状のリング部材40Fが装着されている。そして、このリング部材40Fは、翼パネル21の表面とボルト90の頭部90aとに挟み込まれることで、翼パネル21の表面とボルト90の頭部90aとの界面におけるアークに対する封止、燃料漏れに対する封止を行っている。
【0062】
また、図8(c)に示すように、ナット91において部材22との接触面91aには、外周側に張り出すフランジ部93が形成されている。このフランジ部93の外周部に溝94が形成され、この溝94にワッシャ状のリング部材40Gが装着されている。
そして、このリング部材40Gは、フランジ部93と部材22との間に挟み込まれることで、ナット91と部材22との界面におけるアークの発生防止および封止、燃料の封止を行う。
なお、ナット91にはフランジ部93を設けたので、リング部材40Gをより広い面積で押圧することができるため、アークの発生防止および封止効果が特に高まる。
【0063】
このような構成によれば、ファスナ部材24としてボルト90、ナット91を用いる場合においても、アークの発生防止および封止効果、燃料漏れ防止効果を確実に発揮できる。
したがって、翼20の内部空間に設けられる燃料タンクをはじめとする各種装備品を、ステー等の部材22に着脱可能に取り付ける場合においても、ボルト90、ナット91からなるファスナ部材24を適用することで、上記効果を得ることができる。
【0064】
ところで、上記各実施形態において、図9に示すように、リング部材40F、40Gは、ボルト90、ナット91よりも外周側に張り出すようにしても良く、その場合、ボルト90、ナット91の外周側を囲う外周壁部110を備えるようにしても良い。このような構成は、リング部材40A〜40Eにも同様に適用できる。
また、上記では、翼20に用いられる耐雷ファスナを中心に記載したが、本発明は、航空機の胴体など他の部位に用いられる防爆用の耐雷ファスナについても同様の効果がある。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
20…翼(航空機組立品)、21…翼パネル(部材)、22…部材、22c…被締結部材(部材)、22d…部材、24…ファスナ部材、25…ファスナ本体、26…カラー(締結部材)、26a…接触面、30A、30B、30C、30D…溝、31…内周壁面、32…テーパ面、33A、33B…エッジ部、34…平面部(平行面)、35…溝、38…キャップ係合部、40A、40B、40C、40D、40E、40F、40G…リング部材、50、51…シーラント、60…リング部材(第二のリング部材)、70…キャップ、90…ボルト(ファスナ本体)、91…ナット(締結部材)、110…外周壁部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の機体を構成する少なくとも二つの部材を締結するため、すべての前記部材に形成された孔に貫通させて設けられるファスナ本体と、
前記部材どうしを締結するために前記ファスナ本体の前記部材から突出した部位に装着される締結部材と、
前記ファスナ本体の頭部の外周部および前記締結部材の外周部の少なくとも一方と前記部材との間に圧縮状態で挟み込まれる、絶縁性を有した材料からなるリング部材と、
を備えることを特徴とする耐雷ファスナ。
【請求項2】
前記リング部材は、前記ファスナ本体の頭部の外周部または前記締結部材の外周部に形成された溝に嵌め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の耐雷ファスナ。
【請求項3】
前記溝は、前記部材側から離間するにつれてその径が漸次縮小するテーパ面を有していることを特徴とする請求項2に記載の耐雷ファスナ。
【請求項4】
前記溝は、前記部材の表面に平行な平行面を有し、前記リング部材は前記平行面と前記部材の表面との間に挟み込まれていることを特徴とする請求項2または3に記載の耐雷ファスナ。
【請求項5】
前記溝の内周面と、前記ファスナ本体または前記締結部の外表面との間のエッジ部が鈍角に形成されていることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の耐雷ファスナ。
【請求項6】
前記リング部材と前記溝の少なくとも一方に、前記リング部材の前記溝からのはずれ防止手段を備えていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の耐雷ファスナ。
【請求項7】
前記締結部材の内周部と前記部材との間に圧縮状態で挟み込まれる、絶縁性を有した材料からなる第二のリング部材をさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の耐雷ファスナ。
【請求項8】
二つの前記部材の一方の側が燃料タンクであるとき、
二つの前記部材の界面、前記ファスナ本体と二つの前記部材の界面、前記ファスナ本体の先端部と前記締結部材との間の少なくとも1カ所に、燃料が二つの前記部材の一方の側から他方の側に漏れるのを防止するシール材が塗布されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の耐雷ファスナ。
【請求項9】
航空機の機体を構成する少なくとも二つの部材が、請求項1から8のいずれか一項に記載の耐雷ファスナにより締結されていることを特徴とする航空機組立品。
【請求項10】
請求項1から8の耐雷ファスナを用いた防爆対策が必要な航空機組立品の製造方法であって、
少なくとも二つの部材を重ね合わせて配置する工程と、
重ね合わせた少なくとも二つの前記部材にファスナ孔を貫通形成する工程と、
二つの前記部材の接触面にシーラントを塗布し、塗布したシーラントを前記接触面の周囲に押し出しながら再び少なくとも二つの前記部材を重ね合わせて配置する工程と、
前記ファスナ本体を少なくとも二つの前記部材の孔に挿入し貫通させる工程と、
前記部材との接触面の外周に設けられた溝にあらかじめ絶縁材リングが装着されたカラーを、前記ファスナ本体に装着して締め付ける工程とを行うことを特徴とする航空機組立部品の製造方法。
【請求項1】
航空機の機体を構成する少なくとも二つの部材を締結するため、すべての前記部材に形成された孔に貫通させて設けられるファスナ本体と、
前記部材どうしを締結するために前記ファスナ本体の前記部材から突出した部位に装着される締結部材と、
前記ファスナ本体の頭部の外周部および前記締結部材の外周部の少なくとも一方と前記部材との間に圧縮状態で挟み込まれる、絶縁性を有した材料からなるリング部材と、
を備えることを特徴とする耐雷ファスナ。
【請求項2】
前記リング部材は、前記ファスナ本体の頭部の外周部または前記締結部材の外周部に形成された溝に嵌め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の耐雷ファスナ。
【請求項3】
前記溝は、前記部材側から離間するにつれてその径が漸次縮小するテーパ面を有していることを特徴とする請求項2に記載の耐雷ファスナ。
【請求項4】
前記溝は、前記部材の表面に平行な平行面を有し、前記リング部材は前記平行面と前記部材の表面との間に挟み込まれていることを特徴とする請求項2または3に記載の耐雷ファスナ。
【請求項5】
前記溝の内周面と、前記ファスナ本体または前記締結部の外表面との間のエッジ部が鈍角に形成されていることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の耐雷ファスナ。
【請求項6】
前記リング部材と前記溝の少なくとも一方に、前記リング部材の前記溝からのはずれ防止手段を備えていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の耐雷ファスナ。
【請求項7】
前記締結部材の内周部と前記部材との間に圧縮状態で挟み込まれる、絶縁性を有した材料からなる第二のリング部材をさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の耐雷ファスナ。
【請求項8】
二つの前記部材の一方の側が燃料タンクであるとき、
二つの前記部材の界面、前記ファスナ本体と二つの前記部材の界面、前記ファスナ本体の先端部と前記締結部材との間の少なくとも1カ所に、燃料が二つの前記部材の一方の側から他方の側に漏れるのを防止するシール材が塗布されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の耐雷ファスナ。
【請求項9】
航空機の機体を構成する少なくとも二つの部材が、請求項1から8のいずれか一項に記載の耐雷ファスナにより締結されていることを特徴とする航空機組立品。
【請求項10】
請求項1から8の耐雷ファスナを用いた防爆対策が必要な航空機組立品の製造方法であって、
少なくとも二つの部材を重ね合わせて配置する工程と、
重ね合わせた少なくとも二つの前記部材にファスナ孔を貫通形成する工程と、
二つの前記部材の接触面にシーラントを塗布し、塗布したシーラントを前記接触面の周囲に押し出しながら再び少なくとも二つの前記部材を重ね合わせて配置する工程と、
前記ファスナ本体を少なくとも二つの前記部材の孔に挿入し貫通させる工程と、
前記部材との接触面の外周に設けられた溝にあらかじめ絶縁材リングが装着されたカラーを、前記ファスナ本体に装着して締め付ける工程とを行うことを特徴とする航空機組立部品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−192846(P2012−192846A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58594(P2011−58594)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(508208007)三菱航空機株式会社 (32)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(508208007)三菱航空機株式会社 (32)
【Fターム(参考)】
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