説明

耐食性に優れる塗装鋼板

【課題】耐食性に優れる塗装鋼板を提供する。
【解決手段】
溶融Zn系めっき鋼板の上に、Mgを含む防錆顔料を有する下塗り塗膜、さらにその上に、水に対する接触角が80度以上130度未満である上塗り塗膜を形成して塗装鋼板とする。前記上塗り塗膜は、好ましくは高分子化合物と滑剤を含み、前記滑剤の含有量は、前記高分子化合物100質量部に対して0.5〜2質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐食性に優れる塗装鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
建材、自動車、家電などの各分野で使用される鋼板は、用途に応じたサイズに裁断された後、所定形状に成形加工される。一般に前記用途に使用される鋼板は、塗膜が表面に設けられている塗装鋼板であり、塗装鋼板の平坦部や加工部では当初の耐食機能が維持される。しかし、塗装鋼板の切断端面は鋼素地(下地鋼)が露出しているため赤錆が発生しやすい。
【0003】
このような切断端面での腐食、すなわち赤錆の発生を抑制するために、スプレーや刷毛などを用いて切断端面を塗装する方法、あるいは切断端面に防錆油を塗布する方法が採用されている。しかし、所定サイズに切断した鋼板の切断端面を含む表面に塗装を施す方法は作業性・生産性に劣る。また鋼板の形状によっては塗料を均一に塗布することが難しいことから、切断端面に塗膜の欠陥部(塗膜切れ)が生じやすい。従ってその部分から腐食が発生してしまうことがある。
防錆油を塗布する方法においても同様の問題があり、さらに防錆油の塗布により鋼板がべたついて、取り扱いが困難になるという問題もある。
【0004】
一方、鋼板表面に形成した塗膜により、切断端面での耐食性を改善する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、クロメート処理後の鋼板表面に、珪酸ナトリウム(NaO・xSiO)、リン酸水素ナトリウム(NaHPO)等の塩基性アルカリ金属塩を含有する塗膜を設ける方法が開示されている。塩基性アルカリ金属塩は、塩化物イオン等が微細疵部に侵入することを遮断するため、当該塗装鋼板の端面は耐食性に優れるとされている。
【0005】
また特許文献2には、リン酸マグネシウム等の非クロム系防錆塗料が配合された下塗り塗料と、水に対する接触角が60度以下である上塗り塗膜を有する塗装鋼板が開示されている。当該塗装鋼板は、上塗り塗膜が親水性であるため、塗装鋼板に付着した水滴が展開しやすく、水滴膜厚が薄くなることから水滴が蒸発しやすいため、耐食性に優れるとされている。
【特許文献1】特開平8−13156号公報
【特許文献2】特開2007−260953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている技術は、屋外使用環境において塗膜から溶出した物質を切断端面に作用させ、当該端面での腐食を抑制する。しかしながら、当該文献に記載されている技術は6価クロムの使用が必要であり、環境適合性が悪いという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載されている塗装鋼板は、環境が多湿であると水滴が蒸発しにくい場合があるため、これとは異なる機構で塗装鋼板の耐食性を向上させる方法が望まれていた。
これらのことに鑑み、本発明は耐食性に優れた塗装鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは鋭意研究の結果、溶融Znまたは溶融Zn−Al合金めっき鋼板の上に、Mgを含む防錆顔料を有する下塗り塗膜、さらにその上に水に対する接触角が80度以上130度未満である上塗り塗膜を有する塗装鋼板により、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、上記課題は以下の本発明により解決される。
【0009】
[1]鋼板の上に設けられた下塗り塗膜、および前記下塗り塗膜の上に設けられた上塗り塗膜を有する塗装鋼板であって、
前記鋼板は、溶融Znめっき鋼板、または溶融Zn−Al合金めっき鋼板であり、
前記下塗り塗膜は、Mgを含む防錆顔料を有し、
前記上塗り塗膜は、水に対する接触角が80度以上130度未満である、塗装鋼板。
[2]前記上塗り塗膜は、高分子化合物と滑剤を含み、
前記滑剤の配合量は、高分子化合物100質量部に対して、0.5質量部以上2質量部以下である、[1]に記載の塗装鋼板。
[3]前記滑剤は、ポリオレフィン系ワックスである、[2]に記載の塗装鋼板。
[4]前記上塗り塗膜の高分子化合物は、ポリエステル樹脂、または、ポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂の混合樹脂である、[2]〜[3]いずれかに記載の塗装鋼板。
[5]前記Mgを含む防錆顔料は、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウムまたはトリポリリン酸二水素アルミニウム・マグネシウムである、[1]〜[4]いずれかに記載の塗装鋼板。
【発明の効果】
【0010】
本発明により耐食性に優れた塗装鋼板が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.塗装鋼板
本発明の塗装鋼板は、鋼板の上に、下塗り塗膜と上塗り塗膜を有する塗装鋼板であって、
前記鋼板は、溶融Znめっき鋼板、または溶融Zn−Al合金めっき鋼板であり、
前記下塗り塗膜は、Mgを含む防錆顔料を有し、
前記上塗り塗膜は、水に対する接触角(「対水接触角」ともいう)が80度以上130度未満であることを特徴とする。
塗装鋼板とは鋼板表面に塗膜を有する鋼板である。塗膜とは鋼板表面に塗料を塗布して(塗装して)得られる膜である。
【0012】
(1)鋼板
鋼板とは板状の鋼である。本発明に用いられる鋼板は、溶融Znめっき鋼板、または溶融Zn−Al合金めっき鋼板(以下これらをあわせて「溶融Zn系めっき鋼板」ともいう)である。
溶融Znめっき鋼板とは、Zn(亜鉛)の溶融めっき浴を用いてめっきされた鋼板をいう。Znの溶融めっき浴には、Zn以外の金属が微量含まれていてもよい。Zn以外の金属の例には、Al、Pb、Sb等が含まれる。Zn以外の金属は、めっき浴中に質量%にてAl:0.10〜0.20%未満、Pb:0.007%以下、Sb:0.01〜0.10%未満、及び不可避的不純物からなる。
【0013】
溶融Znめっき鋼板は、めっきされた鋼板を加熱して、めっき層に母材である鋼板の鉄(Fe)を拡散させてZn−Fe合金を生成させた「合金化溶融Znめっき鋼板」であってもよい。
【0014】
溶融Zn−Al合金めっき鋼板とは、Zn(亜鉛)とAl(アルミニウム)を必須成分として含む合金の溶融めっき浴を用いてめっきされた鋼板をいう。このような合金の好ましい例には、Alが3〜10質量%であって残部が実質的にZnからなる合金、Alが50〜60質量%であって残部が実質的にZnからなる合金が含まれる。中でも、本発明においては、Alが5質量%であって、残部が実質的にZnからなる「5%Al−Zn合金」、またはAlが55質量%であって、残部が実質的にZnからなる「55%Al−Zn合金」が好ましい。「残部が実質的にZnからなる」とは、残部がZnを含み、当該めっき鋼板の耐食性を阻害せず、かつ当該めっき鋼板の製造自体が可能な範囲で、Zn、Al以外の元素を含んでいることを含む。Zn、Al以外の元素の例には、Si:3.0質量%以下、Fe:1.5質量%以下、Mg:0.5質量%以下が挙げられ、その他、Cu、Pb、Sn、Ca、Ni、Mn、Cr、Ti、Na、B、Sr等の不純物の混入が許容される。
【0015】
また「残部が実質的にZnからなる」は、「残部に不可避的不純物が含まれている」ことも含む。不可避的不純物とは、めっき工程において意図していないにもかかわらず不可避的に混入する不純物をいう。
【0016】
本発明の溶融Zn系めっき鋼板は、Mgを含んでいないことが好ましい。本発明の塗装鋼板は、後述するように、Mgを含む防錆顔料を有する下塗り塗膜を有するからである。Mgの担う役割等については後で詳しく説明する。
【0017】
本発明に用いる鋼板は、公知の製造方法により得てよい。例えば、本発明に用いる鋼板は、連続溶融めっきラインにおいて製造することができる。鋼板は「塗装原板」とも呼ばれる。また、本発明において記号「〜」は、その両端の数値を含む。
【0018】
本発明に用いられる鋼板は、必要に応じて公知の塗装前処理が施される。当該処理の例には、鋼板表面に、酸洗および表面調整処理(酸系)を施した後、任意のクロムフリー塗装前処理皮膜を形成する処理や、鋼板表面に、アルカリ脱脂処理を施した後、任意のクロムフリー塗装前処理皮膜を形成する処理が含まれる。これらの塗装前処理により、鋼板と塗膜の密着性が向上する。
【0019】
(2)下塗り塗膜
本発明の塗装鋼板は、鋼板の上に「下塗り塗膜」を有する。下塗り塗膜とは、下地の防食や隠蔽、または上塗り塗膜との密着性を向上させるために設けられる塗膜である。本発明の下塗り塗膜は、Mgを含む防錆顔料を有するため、本発明の塗装鋼板の耐食性を向上させる。また、本発明のように滑剤を含む塗膜を有する塗装鋼板においては、塗膜と鋼板の密着性が低下することがあるが、下塗り塗膜を設けることにより、鋼板と塗膜の密着性を高めることもできる。
【0020】
下塗り塗膜は、高分子化合物からなるマトリックスに、防錆顔料が分散していることが好ましい。高分子化合物の例には、有機化合物が重合してなる有機系高分子化合物、無機化合物が重合してなる無機系高分子化合物がある。有機系高分子化合物の例には、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ変性高分子ポリエステル樹脂が含まれる。Mgを含む防錆顔料とは、耐食性を高めるために添加される顔料であり、その例には、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、トリポリリン酸2水素アルミ・マグネシウムが含まれる。
【0021】
リン酸マグネシウムとはMg(POで表される化合物である。リン酸水素マグネシウムとはMgHPOで表されるリン酸第一マグネシウム、またはMg(HPOで表されるリン酸第二マグネシウムをいう。
【0022】
トリポリリン酸二水素アルミ・マグネシウムとは、トリポリリン酸2水素アルミニウム(HAlP10)にマグネシウムの化合物を含有させたものである。
【0023】
これらの「Mgを含む防錆顔料」の下塗り塗膜中の含有量は、高分子化合物100質量部に対して、2〜50質量部であることが好ましい。Mgを含む防錆顔料の添加量が、前記範囲の上限を超えると、塗膜の加工性が悪くなることがあり、前記範囲の下限未満であると、耐食効果が十分でないことがある。従って、Mgを含む防錆顔料の添加量が、前記範囲であると、塗膜の加工性と耐食効果のバランスに優れる。
本発明の下塗り塗料は、この他に必要に応じて公知のクロムフリー系防錆顔料を含んでいてもよい。クロムフリー系防錆顔料の例には、カルシウムシリケート、リン酸亜鉛が含まれる。
【0024】
下塗り塗膜の膜厚は、2μm以上とすることが好ましい。しかしながら下塗り塗膜が厚くなりすぎるとコストの上昇や加工性低下などを引き起こすことがあるため、膜厚は2〜10μmであることが好ましい。
【0025】
(3)上塗り塗膜
本発明の塗装鋼板は、対水接触角が80度以上130度未満の上塗り塗膜(「撥水性塗膜」ともいう)を有する。撥水性塗膜の対水接触角は、好ましくは85〜110度である。対水接触角とは、塗膜の水に対するなじみ性を表す尺度であり、なじみが悪い、すなわち塗膜が水をはじきやすいほど、対水接触角は高くなる。対水接触角は公知の方法で求められるが、本発明においては、20±2℃の環境下で水平に静置された塗装鋼板の上に、直径約1.6mm(液量にして約2.1μL)の純水の水滴を滴下し、液滴が塗装鋼板表面となす角度から求めてよい。具体的には、液滴を真横から観察して、液滴の左右の端点における接線が、鋼板表面となす角度から対水接触角を求める。
【0026】
1)高分子化合物
撥水性塗膜は高分子化合物と滑剤を含むことが好ましい。高分子化合物は塗膜のマトリックスをなす。高分子化合物の例には、有機化合物が重合してなる有機系高分子化合物、無機化合物が重合してなる無機系高分子化合物がある。
【0027】
高分子化合物としては、公知のものを用いることができる。好ましい高分子化合物の例には、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、フェノール樹脂等の有機系高分子化合物が含まれる。中でも本発明に用いられる高分子化合物としては、ポリエステル樹脂、または、アクリル樹脂とポリフッ化ビニリデン樹脂からなる混合樹脂が好ましい。これらの高分子化合物は、密着性、耐熱性、加工性に優れる。
【0028】
ポリエステル樹脂とは主鎖にエステル結合を有するポリマーの総称である。ポリエステル樹脂には結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂があるが、本発明においては、塗装作業性に優れることから非晶性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂の分子量はGPCで測定した場合の数平均分子量が2000〜20000であることが好ましい。分子量が2000より小さくなると加工性が悪くなる傾向があり、20000より大きくなると耐候性が劣る傾向があるためである。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、−20〜80℃であることが好ましい。Tgが低いと塗膜硬度が不足し耐薬品性も劣る傾向があり、高いと加工性が劣る傾向があるためである。Tgは示差走査熱量計(DSC)法により測定される。
【0031】
ポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂からなる混合樹脂とは、ポリフッ化ビニリデン樹脂40〜90質量%とアクリル樹脂60〜10質量%を混合してなる樹脂をいう。
ポリフッ化ビニリデン樹脂とは、ポリエチレンのエチレンユニットにおける一つの炭素に、二つのフッ素原子が結合している高分子化合物をいう。ポリフッ化ビニリデン樹脂の重量平均分子量は300000〜700000であることが好ましい。この重量平均分子量もGPCで測定される。
【0032】
アクリル樹脂とは、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルの重合体をいう。前記と同様の理由からアクリル樹脂の数平均分子量は10000〜15000であることが好ましい。同様にアクリル樹脂のTgは−10〜100℃であることが好ましい。
【0033】
2)滑剤
撥水性塗膜の対水接触角を前記範囲にする手段は特に限定されないが、塗膜に表面エネルギーの低い材料を含ませることが好ましい。表面エネルギーの低い材料は、塗装時に表面エネルギーが低い部位、すなわち塗膜表面に移動する。そのため、塗膜表面を表面エネルギーの低い状態、つまり撥水性が高い状態にすることができる。表面エネルギーの低い材料の好ましい例には、滑剤が含まれる。滑剤とは、一般に、樹脂に添加されて樹脂と金属との摩擦や付着を防止するために添加される添加剤をいう。滑剤の例には、ワックスやシリコーンオイルが含まれる。
【0034】
一般に、塗装鋼板においては、塗膜の成形加工性を向上させるために、滑剤の中でもワックスが使用されることが多い。この場合ワックスは、塗膜中の高分子化合物100質量部に対して0.05〜0.3質量部程度配合される。しかし、本発明のように塗膜の対水接触角を80度以上とするためには、塗膜の高分子化合物100質量部に対して、滑剤を0.5〜2質量部配合することが好ましい。滑剤の添加量がこの範囲であると、塗膜の撥水性、および塗装鋼板の加工性のバランスに優れる。
【0035】
ワックスの例には、公知の天然ワックス、合成ワックスが含まれる。天然ワックスの例には、天然パラフィン、カルナバロウが含まれる。合成ワックスの例には、合成パラフィン、ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックス、四フッ化エチレン等のフッ素樹脂系ワックス、高級脂肪酸等の脂肪酸系ワックス、脂肪酸アミド等の脂肪酸アミド系ワックス、脂肪酸のアルコールエステル等のエステル系ワックス、ポリグリセロール等のアルコール系ワックス、金属石けんが含まれる。
シリコーンオイルの例には、フルオロシリコーン、アルキルシリコーンが含まれる。
【0036】
本発明においては、入手が容易であって、かつ塗膜の撥水性を高めることができることから、ポリオレフィン系ワックスを用いることが好ましく、ポリエチレンワックスを用いることがより好ましい。
【0037】
ワックスは、形状が粒状であることが好ましく、その平均粒径は1〜15μmであることが好ましい。ワックスがこの形状であると塗料に添加しやすく、かつ塗装時に塗膜表面に移動(「ブリードアウト」ともいう)しやすいからである。
また、ワックスはその融点が130℃以下であることが好ましい。本発明の塗装鋼板は、後述するように塗装工程で200〜300℃に加熱されることが好ましいが、ワックスの融点の上限が前記範囲であると、塗装工程においてワックスがよりブリードアウトしやすいからである。しかし、ワックスの融点が低すぎると、塗膜の加工性が低下することがある。このため、ワックスの融点は50℃以上であることが好ましい。
【0038】
撥水性塗膜には、必要に応じ、アクリロニトリルビーズ等の有機系骨材、シリカ等の無機系骨材、顔料、メタリック顔料等、各種添加物が配合されていてもよい。当該塗膜の厚みは、撥水性、下地鋼の防錆、塗膜密着性を考慮して、7μm以上とすることが好ましい。さらにコスト、耐食性、隠蔽性、密着性等を総合的に考慮すると、膜厚は7〜30μmとすることがより好ましい。
【0039】
図1は、本発明の塗装鋼板の一例を示す図である。図中、1は塗装鋼板、2は溶融Zn系めっき鋼板、3は化成処理層、4は下塗り塗膜、5は上塗り塗膜(撥水性塗膜)である。
【0040】
(3)塗装鋼板
本発明の塗装鋼板は、溶融Zn系めっき鋼板を塗装原板とするため、高湿潤環境においても、優れた耐食性を有する。このメカニズムは次のように推察される。
Znを含む鋼板においては、腐食によりZnを含む生成物(「Zn系腐食生成物」ともいう)が形成される。Zn系腐食生成物は、下塗り塗膜由来のMgにより安定化され、より強固な腐食生成物となる。このため塗装鋼板の腐食は進行しにくくなり、塗装鋼板の耐食性が向上される。さらに、本発明の塗装鋼板は、撥水性の高い塗膜を有するため、鋼板の表面に存在する水滴は球状になり、鋼板表面を転がりやすくなる。このため、鋼板の表面の水滴は除去されやすくなる。すなわち、本発明の塗装鋼板は、安定な腐食生成物の形成と、腐食しやすい部位への水分の供給が低減されることの相乗効果により、優れた耐食性が発現されると考えられる。
【0041】
本発明の塗装鋼板は、鉛直に配置された場合に(図2を参照)、下部端面の耐食性に特に優れる。従来の塗装鋼板は、鉛直に配置された場合、大部分の水分が下部端面付近に溜まるため、下部端面の耐食性が著しく低下する。しかし本発明の塗装鋼板は、鉛直に配置されても、図2に示すとおり水滴6は下部端面から落下しやすく、下部端面に溜まりにくい。よって、下部端面への水分の供給が低減され、下部端面での赤錆発生が抑制される。
【0042】
本発明の塗装鋼板は、鉛直に配置された場合に振動を与えられると、水滴の落下がより顕著になる。そのため、本発明の塗装鋼板は、空気調和機(エアコン)の室外機の筐体等に好適に用いられる。
【0043】
また、本発明の塗装鋼板は水平に配置されていても優れた耐食性を発現できる。本発明の塗装鋼板に付着した水滴は、鋼板表面を転がりやすいため、例えば屋外に設置された場合、風などにより、容易に水滴が除去されるからである。
【0044】
このように本発明の塗装鋼板は、端面において特に優れた耐食性を発現できる。端面とは主として加工の際に切断された鋼板の部分をいう。また同様に、端面にかかわらず鋼板の表面部分であっても塗膜が欠損している部分、あるいは塗膜およびめっき層が欠損している部分に対しても本発明の塗装鋼板は優れた耐食性を有する。
塗装鋼板の端面の耐腐食性は公知の方法で評価できる。例えば、塗装鋼板から切り出したサンプルを屋外に曝露するか、恒温恒湿槽に暴露した後、切断端面の状態を観察することにより行ってよい。
【0045】
2.塗装鋼板の製造方法
本発明の塗装鋼板は発明の効果を損なわない範囲で任意に製造されうるが、以下好ましい製造方法を説明する。
本発明の撥水性塗膜は、例えばポリエステル樹脂等の樹脂に滑剤、必要に応じて各種添加剤を混合して得られる。混合する手段は特に限定されないが、撹拌機、三本ロール、ビーズミル等を用いることが好ましい。このとき溶媒を加えてもよい。
【0046】
本発明の塗装鋼板は、このようにして得た塗料を鋼板表面に塗布する工程(塗布工程)、当該塗膜を加熱して乾燥させる工程(焼付工程)を経て製造されることが好ましい。
塗料を塗装原板に塗布する方法の例には、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、ナイフコートが含まる。さらには、これらを用いた連続塗装ラインにより塗装を行ってもよい。塗料の塗布量は所望の膜厚となるように調整される。焼付工程は到達板温が150〜250℃となるように行うことが好ましい。
【0047】
また、本発明の塗装鋼板に下塗り塗膜を形成する場合も、撥水性塗膜と同様に形成すればよい。この場合、まず、塗装原板に下塗り塗膜を形成し、次に、この下塗り塗膜の上に撥水性塗膜を形成する。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
1)鋼板の準備
板厚0.5mmのAlキルド鋼冷延鋼板(公称組成;C:0.04質量%、Si:0.03質量%、Mn:0.20質量%、P:0.01質量%、S:0.01質量%、Al:0.01質量%、残部Fe)を準備した。溶融Znめっき浴を用いて前記鋼板表面にめっきを施し、溶融Znめっき鋼板(以下「GI」ともいう)を調製した。当該めっき鋼板の片面めっき付着量は74g/mであった。
【0049】
このめっき鋼板に、酸洗処理、日本ペイント社製、NPC700を用いた表面調整処理、および湯洗による洗浄処理を施し、その後乾燥した。続いてこのめっき鋼板表面に、Si系のクロムフリー処理液(日本ペイント社製、EC2000)をロールコーターで塗布し、100℃で乾燥して、クロムフリー塗装前処理(化成処理)を施した。
【0050】
2)下塗り塗膜の形成
エポキシ変性高分子ポリエステル樹脂100質量部に対し、トリポリリン酸2水素アルミニウム・マグネシウムを30質量部を配合し、下塗り塗料とした。続いて、化成処理の施されためっき鋼板の上に、前記下塗り塗料をロールコートで塗布し、最高板到達温度が200℃となるような条件で焼き付けて、下塗り塗膜を形成した。膜厚は7μmとした。
【0051】
3)上塗り塗膜(撥水性塗膜)の形成
ポリエステル樹脂100質量部に対し、ポリエチレンワックスを0.7質量部配合し、さらに溶媒(ソルベッソ100:40%,シクロヘキサン:40%,n−ブチルアルコール:10%,キシレン10%)を加え、混合して塗料を調製した。
下塗り塗膜が設けられためっき鋼板の上に、当該塗料をロールコートで塗布し、最高板到達温度が230℃となるような条件で焼き付けて、撥水性塗膜を形成した。撥水性塗膜の膜厚は18μmとした。
【0052】
4)撥水性評価
こうして得た塗装鋼板を20±2℃の環境下に水平におき、その表面に、直径約1.6mm(液量にして約2.1μL)の水滴を滴下し、小さな液滴を形成した。続いて液滴を真横から観察して、液滴の左右の端点における接線が鋼板表面となす角度から、対水接触角を求めた。対水接触角が80度以上であったものを撥水性○、80度未満であったものを撥水性×と評価した。
【0053】
5)湿潤試験
塗装鋼板を切断して、100cm×110cmの板を準備した(図3)。このサンプルを用いて、JIS K 2246に準じて、塗装原板がGIのサンプルは240時間、GLのサンプルは480時間の湿潤試験を行った。試験後の下部の切断端面10における赤錆発生率を測定した。
【0054】
赤錆発生率は、次のように求めた。
まず、図4に示すように端面10の所々に発生した赤錆11について、端面10の長手方向における最大長さ12を計測した。次に個々の赤錆11について求められた最大長さ12を合計して赤錆発生長さを求めた。続いて測定部位長さ13を測定し、「赤錆発生長さ」を「測定部位長さ」で除すことにより、「赤錆発生率(%)」を求めた。赤錆発生率が10%未満であったものを○、10%以上30%未満であったものを△、30%以上であったものを×と評価し、○評価を合格と判定した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例2]
下塗り塗膜に含まれる防錆顔料を、リン酸水素マグネシウム(MgHPO)に代えた以外は実施例1と同様にして塗装鋼板を調製し、評価した。
【0056】
[実施例3、4]
撥水性塗膜に含まれる滑剤を酸化ポリエチレンワックスに変更した以外は、実施例1、2と同様にして塗装鋼板を調製し、評価した。
【0057】
[実施例5、6]
撥水性塗膜に含まれる滑剤を天然ワックスに変更した以外は、実施例1、2と同様にして塗装鋼板を調製し、評価した。
【0058】
[実施例7、8]
撥水性塗膜に含まれる滑剤をPTFEワックスに変更した以外は、実施例1、2と同様にして塗装鋼板を調製し、評価した。
【0059】
[実施例9、10]
撥水性塗膜に含まれる滑剤をフルオロシリコーンに変更した以外は、実施例1、2と同様にして塗装鋼板を調製し、評価した。
【0060】
[実施例11〜15]
下塗り塗料に含まれる高分子化合物をエポキシ樹脂に、撥水性塗料に含まれる高分子化合物をアクリル樹脂とポリフッ化ビニリデン樹脂の混合樹脂(配合比は質量比にして30:70)に変更した以外は、それぞれ実施例1、3、5、7、9と同様に塗装鋼板を調製し、評価した。
【0061】
[比較例1]
下塗り塗膜に含まれる顔料をカルシウムシリケートに変更し、上塗り塗膜が滑剤を含まない以外は実施例1と同様にして、塗装鋼板を調製し、評価した。
【0062】
[比較例2、3]
上塗り塗膜に含まれるポリエチレンワックスの含有量を、ポリエステル樹脂100質量部に対して0.05質量%とした以外は、それぞれ実施例2、1と同様にして、塗装鋼板を調製し、評価した。
【0063】
[比較例4]
下塗り塗膜に含まれる顔料をカルシウムシリケートに変更した以外は、実施例1と同様にして、塗装鋼板を調製し、評価した。
【0064】
[比較例5、7、9、11]
上塗り塗膜に含まれるポリエチレンワックスの含有量を、ポリエステル樹脂100質量部に対して0.05質量%とした以外は、それぞれ実施例3、5、7、9と同様にして、塗装鋼板を調製し、評価した。
【0065】
[比較例6、8、10、12]
下塗り塗膜に含まれる顔料をカルシウムシリケートに変更した以外は、それぞれ実施例3、5、7、9と同様にして、塗装鋼板を調製し、評価した。
【0066】
[比較例13]
下塗り塗膜に含まれる顔料をカルシウムシリケートに変更し、上塗り塗料に滑剤を添加しなかったこと以外は、実施例11と同様にして、塗装鋼板を調製し、評価した。
【0067】
[比較例14]
上塗り塗膜に含まれるポリエチレンワックスの含有量を、アクリル樹脂とポリフッ化ビニリデン樹脂の混合樹脂100質量部に対して0.05質量%とした以外は、実施例11と同様にして、塗装鋼板を調製し、評価した。
【0068】
[比較例15]
下塗り塗膜に含まれる顔料をカルシウムシリケートに変更した以外は、実施例11と同様にして、塗装鋼板を調製し、評価した。
実施例1〜15および比較例1〜15の結果を表1に示す。
【0069】
[実施例16]
実施例1と同じAlキルド鋼冷延鋼板を準備し、溶融Zn−55%Al合金めっき浴を用いてめっきを施し、溶融Zn−Alめっき鋼板(以下「GL」ともいう)を調製した。当該めっき鋼板の片面めっき付着量は70g/mであった。
このようにして得たGLを用い、実施例1と同様にして塗装鋼板を調整し、評価した。
【0070】
[実施例17〜30]
めっき鋼板をGLに代えた以外は、それぞれ実施例2〜15と同様にして塗装鋼板を調整し、評価した。
【0071】
[比較例16〜30]
めっき鋼板をGLに代えた以外は、それぞれ比較例1〜15と同様にして塗装鋼板を調整し、評価した。
実施例16〜30および比較例16〜30の結果を表2に示す。
【0072】
表1から、実施例1〜15の塗装鋼板は、下塗り塗膜にMgを含む防錆顔料を有し、かつ撥水性の(対水接触角が80度以上)上塗り塗膜を有するため、切断端面の耐赤錆性に優れることが明らかである。一方、比較例1、13は、下塗り塗膜にMgを含む防錆顔料を有さず、かつ撥水性が低い(対水接触角が80度未満)上塗り塗膜を有するため、端面の赤錆発生率が高くなった。また、下塗り塗膜にMgを含む防錆顔料を有していても撥水性が低い(対水接触角が80度未満)上塗り塗膜を有する塗装鋼板(比較例2、3、5、7、9、11、14)は赤錆発生率が高くなった。さらに、下塗り塗膜中にMgを含む防錆顔料を含有しない塗装鋼板は、上塗り塗膜が優れた撥水性(対水接触角80度以上)を有していても、Mgによる耐食効果が得られないため、赤錆発生率が高くなった(比較例4、6、8、10、12、15)。
【0073】
表2から、実施例16〜30の塗装鋼板は、下塗り塗膜にMgを含む防錆顔料を有し、かつ撥水性の(対水接触角が80度以上)上塗り塗膜を有するため、切断端面の耐赤錆性に優れることが明らかである。一方、比較例16、28は、下塗り塗膜にMgを含む防錆顔料を有さず、かつ撥水性が低い(対水接触角が80度未満)上塗り塗膜を有するため、端面の赤錆発生率が高くなった。また、下塗り塗膜にMgを含む防錆顔料を有していても撥水性が低い(対水接触角が80度未満)上塗り塗膜を有する塗装鋼板(比較例17、18、20、22、24、26、29)は赤錆発生率が高くなった。さらに、下塗り塗膜中にMgを含む防錆顔料を含有しない塗装鋼板は、上塗り塗膜が優れた撥水性(対水接触角80度以上)を有していても、Mgによる耐食効果が得られないため、赤錆発生率が高くなった(比較例19、21、23、25、27、30)。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の塗装鋼板は耐食性に優れるため、建材、自動車、家電等の鋼板、特に屋外に設置される空気調和機用室外機等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の塗装鋼板の一例を示す断面図
【図2】鉛直に設置された本発明の塗装鋼板を示す図
【図3】湿潤試験用サンプルを示す図
【図4】赤錆発生率の求め方を説明する図
【符号の説明】
【0078】
1 本発明の塗装鋼板
2 溶融Zn系めっき鋼板
3 化成処理層
4 下塗り塗膜
5 上塗り塗膜(撥水性塗膜)
6 水滴
10 端面
11 端面に発生した赤錆
12 端面10の長手方向における赤錆の最大値
13 測定部位長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の上に設けられた下塗り塗膜、および前記下塗り塗膜の上に設けられた上塗り塗膜を有する塗装鋼板であって、
前記鋼板は、溶融Znめっき鋼板、または溶融Zn−Al合金めっき鋼板であり、
前記下塗り塗膜は、Mgを含む防錆顔料を有し、
前記上塗り塗膜は、水に対する接触角が80度以上130度未満である、塗装鋼板。
【請求項2】
前記上塗り塗膜は、高分子化合物と滑剤を含み、
前記滑剤の配合量は、高分子化合物100質量部に対して、0.5質量部以上2質量部以下である、請求項1に記載の塗装鋼板。
【請求項3】
前記滑剤は、ポリオレフィン系ワックスである、請求項2に記載の塗装鋼板。
【請求項4】
前記上塗り塗膜の高分子化合物は、ポリエステル樹脂、または、ポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂の混合樹脂である、請求項2に記載の塗装鋼板。
【請求項5】
前記Mgを含む防錆顔料は、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、またはトリポリリン酸二水素アルミニウム・マグネシウムである、請求項1に記載の塗装鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−172553(P2009−172553A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16485(P2008−16485)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】