説明

肺疾患を治療するためのアデノシンデアミナーゼの使用方法

ポリマー複合体化アデノシンデアミナーゼを有効量で投与することによって、喘息、肺線維症、嚢胞性線維症および慢性閉塞性肺疾患など、アデノシンデアミナーゼにより媒介される肺疾患を、それを必要とする哺乳動物において治療する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、参照することにより本明細書に含まれる、2006年12月29日出願の米国仮特許出願第60/882,748号の優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、たとえば、喘息、肺線維症、嚢胞性線維症および慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)を含む肺系の疾患および障害を、アデノシンデアミナーゼおよび/またはポリマー複合体化アデノシンデアミナーゼを使用して治療するための組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
従来の治療の有効性を高め、副作用を低減すると共に症状を治療するために、基礎となる病因に対処する、選択的な治療法の利用可能性の利益を受けるであろう、多くの肺疾患および障害が存在する。
【0004】
喘息は気道の炎症性疾患である。米国では、成人約1000万人および小児約500万人がこの疾患に罹患している(非特許文献1)。喘息は、肺における免疫細胞の浸潤および活性化に代表され、次いで気道炎症および閉塞が生じる(非特許文献2)。基礎となる病因はよくわかっていないが、多数の因子が喘息を引き起こすことが知られている。しかしながら、Kellemsらは、参照することにより本明細書に含まれる2001年3月27日登録の特許文献1(以降「Kellems」)において、アデノシンデアミナーゼ(「ADA」)酵素を欠損したノックアウトマウスを提供した。Kellems ADA欠損マウスから得られたデータは文書によって報告され、喘息の病態生理におけるアデノシン蓄積の果たす役割が確認された。ポリエチレングリコール(「PEG」)複合体化ADA(アダジェン(ADAGEN(登録商標))、Enzon Pharmaceuticals,Inc.社製)の形態をした外因性ポリマー複合体化ウシADAの注入が、アデノシンの肺蓄積を防ぎ、そうしなければADA欠損マウスに存在するであろう炎症性好酸球増加症を食い止めることが、その文書によって示された。
【0005】
肺線維症は肺胞、または肺の空気嚢が炎症を起こし、徐々に瘢痕組織によって置換される疾患である。疾患が進行すると、瘢痕組織が呼吸および酸素の移行を障害する。がん、慢性感染または炎症、工業粉じん、たとえば石綿、ある種の薬物などのいくつかの既知の原因がある。現在の治療は、糖質コルチコイド、シクロホスファミド、アザチオプリン、コルヒチンなどの非特異的抗炎症剤/抗有糸分裂剤の長期投与を含む。これらの治療は常に有効なわけではなく、慢性的に投与される場合は顕著な副作用を有する。
【0006】
嚢胞性線維症(「CF」)は米国で最も一般的な致死性遺伝疾患とされる。米国で約30,000人が罹患している。CFは体内に濃厚で粘着性の粘液を産生させ、それが肺を詰まらせ、感染に繋がり、膵臓をブロックし、食物を消化するために必要とされる腸に消化酵素が到達するのを阻止する。以前は、この疾患の症状を治療する有効な方法は無かった。現在の緩和的治療には、食事の制限および、危険な分泌を緩和し、解消する非特異的方法が含まれる。
【0007】
慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)は、米国国立衛生研究所(NIH)の国立心肺血液研究所(U.S.National Heart,Lung and Blood Institute)による、米国および全世界における第4位の死因であるとされている。COPDは、細気管支および末端細気管支の両方およびそれらの各肺胞が損傷し、そのため呼吸が障害される肺疾患である。喫煙がCOPDの最も一般的な原因であるが、大気汚染、粉じん、または化学物質などの他の肺刺激因子への長期間の慢性曝露もまた、COPDを誘発するか一因となりうる。以前は、COPDのための有効な治療法は無く、患者は緩和的気管支拡張剤、非ステロイド抗炎症剤、およびコルチコステロイド抗炎症剤、ならびに酸素補充で管理されていた。
【0008】
アデノシドデアミナーゼ、またはADA、別名アデノシンアミノヒドロラーゼは、EC3.5.4.4(配列番号:1は天然ウシADAのペプチド配列を示す)で表される。ADAはアデノシンまたはデオキシアデノシンを、水の存在下で、イノシンまたはデオキシイノシンおよびアンモニアへ変換することから、プリンサルベージ経路にとって重要である。ADAのポリマー複合体化は、注入されたウシタンパク質に対する有害な抗原応答の可能性を最小化し、注入後の酵素の動態を改善する。「アダジェン」は、米国食品医薬品局によって、重症複合型免疫不全症、すなわちSCID(別名「バブルボーイ症候群」)の治療におけるオーファンドラッグとして現在認可されている。SCIDは、SCID患者における内因性ADAの欠損によって生じることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,207,876号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Redd,2002,Asthma Occurence,Environmental Health Perspectives 110 Suppl 4,pp 557−560
【非特許文献2】Vogel,1997,Science 276:1643−1646
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、前記の理由のすべてについて、上に列記したような肺疾患のための新しい治療、およびそのような疾患を治療するための吸入剤「アダジェン」の投与の成功が長期にわたり必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
喘息、肺線維症、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患および関連症状など、アデノシンデアミナーゼにより媒介される肺疾患を、それを必要とする哺乳動物において治療する方法を提供する。代替的な態様では、本発明は、アデノシン濃度の上昇に関連する肺疾患を治療する方法を提供する。本方法は、アデノシンデアミナーゼを有効量で、それを必要とする哺乳動物に投与することを含む。本明細書で意図される方法は、疾患が緩和されるまでの長期の連日投与を含む、1日以上にわたり1日1回以上、アデノシンデアミナーゼを投与することを含む。この実施形態の一部の態様では、アデノシンデアミナーゼは吸入または注入によって投与される。一部の好ましい態様では、酵素は、エアロゾルまたは乾燥粉末として、十分量の酵素を肺送達するため、当分野で認識される装置、すなわち吸入器などを用いて、吸入によって投与される。あるいは、アデノシンデアミナーゼまたはその複合体は、静脈内経路などを介して非経口的に投与される。
【0013】
本発明のさらなる態様では、アデノシンデアミナーゼは、ウシ関連試料、ヒト関連試料または他の適当な哺乳動物関連試料から得ることができる。アデノシンデアミナーゼの組換え型もまた考えられる。
【0014】
アデノシンデアミナーゼは、直鎖、分枝鎖またはマルチアームポリマーでありうるポリエチレングリコールなどのポリアルキレンオキサイドと複合体化されることが好ましい。適当なポリアルキレンオキサイドおよびPEGは、約2,000〜約45,000の範囲の分子量を有する。本発明の一部の特に好ましい態様では、ポリエチレングリコールと複合体化されたアデノシンデアミナーゼは、米国ニュージャージー州ブリッジウォーター所在のEnzon Pharmaceuticals,Inc.社から入手可能な「アダジェン」(ペガデマーゼ(pegademase bovine))である。
本明細書に記載される通り、哺乳動物、好ましくはヒトへ投与されるアデノシンデアミナーゼの量は、血漿ADA活性(トラフ濃度)を約15〜約35μmol/時間/mL(37℃にてアッセイ)を維持するのに十分な量であり;注入前サンプルで測定した正常アデノシン濃度と比較して、血球容量における赤血球dATPで≦約0.005〜約0.015μmol/mL、または総赤血球アデニンヌクレオチド(すなわち、ATP+dATP含量)で<約1%のように、アデノシンの減少を示した。言い換えれば、患者に投与されたアデノシンデアミナーゼの量は、肺アデノシン濃度を約10nmol/mgタンパク質未満に低下させるのに十分な量であり、より好ましくは肺アデノシン濃度を約5nmol/mgタンパク質に低下させるのに十分な量である。
【0015】
本発明の代替的な実施形態は、第2の薬理学的に活性な薬剤を有効量でアデノシンデアミナーゼと組み合わせて、それを必要とする患者へ投与することを含む。適当な第2の薬理学的に活性な薬剤は、テオフィリンなどの気管支拡張薬、またはサルメテロール、アルブテロールまたはテルブタリンなど、β−アドレナリン作動性を有する他のよく知られた気管支拡張薬を含む。
本発明のさらに別の態様は、哺乳動物の肺疾患を治療するためのキット、すなわち、アデノシンデアミナーゼおよび気管支拡張薬を含む吸入製剤、および、本明細書に記載される吸入製剤および推進剤を含む、肺症状の治療用途に適する吸入器を含む。
【0016】
本発明の目的では、「アデノシン」の語は、アデノシンおよびデオキシアデノシンを意味するものと解されるべきである。。アデノシンには、AMP、ADP、ATP、dAMP、dADPまたはdATPの形態で存在するアデノシンおよびデオキシアデノシンも含まれる。
【0017】
本発明の目的では、「残基」の語は、別の化合物との置換反応を受けた後に残る、化合物、すなわちPEG、オリゴヌクレオチドなどの部分を意味するものと解されるべきである。。
【0018】
本発明の目的において、本明細書では、「ポリマー残基」または「PEG残基」の語は、他の化合物、部分などとの反応を受けた後に残る、それぞれポリマーまたはPEGの部分を意味するものと解されるべきである。。
【0019】
本発明の目的において、本明細書では、「アルキル」の語は、直鎖、分枝鎖、および環状アルキル基を含む、飽和脂肪族炭化水素のことをいう。「アルキル」の語はまた、アルキル−チオ−アルキル、アルコキシアルキル、シクロアルキルアルキル、ヘテロシクロアルキル、C1−6ヒドロカルボニル基を含む。好ましくは、アルキル基は1から12個の炭素を有する。より好ましくは、炭素約1から7個、さらにより好ましくは炭素約1から4個の低級アルキルである。アルキル基は置換または非置換でありうる。置換されている場合は、置換基は好ましくは、ハロ、オキシ、アジド、ニトロ、シアノ、アルキル、アルコキシ、アルキル−チオ、アルキル−チオ−アルキル、アルコキシアルキル、アルキルアミノ、トリハロメチル、ヒドロキシル、メルカプト、ヒドロキシ、シアノ、アルキルシリル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アルケニル、アルキニル、C1−6ヒドロカルボニル、アリール、およびアミノ基を含む。
本発明の目的において、本明細書では、「置換」の語は、ハロ、オキシ、アジド、ニトロ、シアノ、アルキル、アルコキシ、アルキル−チオ、アルキル−チオ−アルキル、アルコキシアルキル、アルキルアミノ、トリハロメチル、ヒドロキシル、メルカプト、ヒドロキシ、シアノ、アルキルシリル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アルケニル、アルキニル、C1−6ヒドロカルボニル、アリール、およびアミノ基の群に由来する部分の1つを付加するか、またはそれで官能基または化合物に含まれる1つ以上の原子を置き換えることをいう。
【0020】
本明細書では「アルケニル」の語は、直鎖、分枝鎖、および環状基を含む、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含む基のことをいう。好ましくは、アルケニル基は約2から12個の炭素を有する。より好ましくは、炭素約2から7個、さらにより好ましくは炭素約2から4個の低級アルケニルである。アルケニル基は置換または非置換でありうる。置換されている場合は、置換基は好ましくは、ハロ、オキシ、アジド、ニトロ、シアノ、アルキル、アルコキシ、アルキル−チオ、アルキル−チオ−アルキル、アルコキシアルキル、アルキルアミノ、トリハロメチル、ヒドロキシル、メルカプト、ヒドロキシ、シアノ、アルキルシリル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アルケニル、アルキニル、C1−6ヒドロカルボニル、アリール、およびアミノ基を含む。
【0021】
本明細書では「アルキニル」の語は、直鎖、分枝鎖、および環状基を含む、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含む基のことをいう。好ましくは、アルキニル基は約2から12個の炭素を有する。より好ましくは、炭素約2から7個、さらにより好ましくは炭素約2から4個の低級アルキニルである。アルキニルは置換または非置換でありうる。置換されている場合は、置換基は好ましくは、ハロ、オキシ、アジド、ニトロ、シアノ、アルキル、アルコキシ、アルキル−チオ、アルキル−チオ−アルキル、アルコキシアルキル、アルキルアミノ、トリハロメチル、ヒドロキシル、メルカプト、ヒドロキシ、シアノ、アルキルシリル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アルケニル、アルキニル、C1−6ヒドロカルボニル、アリール、およびアミノ基を含む。「アルキニル」の例は、プロパルギル、プロピン、および3−ヘキシンを含む。
本明細書では「アリール」の語は、少なくとも1つの芳香族環を含む、芳香族炭化水素環系のことをいう。芳香族環は、随意的に、他の芳香族炭化水素環または非芳香族炭化水素環と縮合または結合されうる。アリール基の例は、たとえば、フェニル、ナフチル、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンおよびビフェニルを含む。アリール基の好ましい例は、フェニルおよびナフチルを含む。
【0022】
本明細書では「シクロアルキル」の語は、C3−8環状炭化水素のことをいう。シクロアルキルの例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルを含む。
【0023】
本明細書では「シクロアルケニル」の語は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含むC3−8環状炭化水素のことをいう。シクロアルケニルの例は、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、1,3−シクロヘキサジエニル、シクロヘプテニル、シクロヘプタトリエニル、およびシクロオクテニルを含む。
【0024】
本明細書では「シクロアルキルアルキル」の語は、C3−8シクロアルキル基で置換されたアルキル基のことをいう。シクロアルキルアルキル基の例は、シクロプロピルメチルおよびシクロペンチルエチルを含む。
【0025】
本明細書では「アルコキシ」の語は、酸素架橋を介して親分子部分に結合した、記載される炭素原子数のアルキル基のことをいう。アルコキシ基の例は、たとえば、メトキシ、エトキシ、プロポキシおよびイソプロポキシを含む。
【0026】
本明細書では「アルキルアリール」基は、アルキル基で置換されたアリール基のことをいう。
【0027】
本明細書では「アラルキル」基は、アリール基で置換されたアルキル基のことをいう。
【0028】
本明細書では「アルコキシアルキル」基の語は、アルコキシ基で置換されたアルキル基のことをいう。
【0029】
本明細書では「アルキル−チオ−アルキル」の語は、アルキル−S−アルキルチオエーテル、たとえばメチルチオメチルまたはメチルチオエチルのことをいう。
【0030】
本明細書では「アミノ」の語は、1つ以上の水素ラジカルの有機ラジカルによる置換によってアンモニアから生じる、当分野で公知である通りの窒素含有基のことをいう。たとえば、「アシルアミノ」および「アルキルアミノ」の語は、それぞれアシルおよびアルキル置換基を有する特定のN−置換有機ラジカルのことをいう。
【0031】
本明細書では「アルキルカルボニル」の語は、アルキル基で置換されたカルボニル基のことをいう。
【0032】
本明細書では「ハロゲン」または「ハロ」の語は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素のことをいう。
【0033】
本明細書では「ヘテロシクロアルキル」の語は、窒素、酸素、および硫黄から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む非芳香族環系のことをいう。ヘテロシクロアルキル環は、随意的に、他のヘテロシクロアルキル環および/または非芳香族炭化水素環と融合または付加されうる。好ましいヘテロシクロアルキル基は、3〜7員である。ヘテロシクロアルキル基の例は、たとえば、ピペラジン、モルホリン、ピペリジン、テトラヒドロフラン、ピロリジン、およびピラゾールを含む。好ましいヘテロシクロアルキル基は、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、およびピロリジニルを含む。
【0034】
本明細書では「ヘテロアリール」の語は、窒素、酸素、および硫黄から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む芳香族環系のことをいう。ヘテロアリール環は、1つ以上のヘテロアリール環、芳香族または非芳香族炭化水素環またはヘテロシクロアルキル環と融合または付加されうる。ヘテロアリール基の例は、たとえば、ピリジン、フラン、チオフェン、5,6,7,8−テトラヒドロイソキノリンおよびピリミジンを含む。ヘテロアリール基の好ましい例は、チエニル、ベンゾチエニル、ピリジル、キノリル、ピラジニル、ピリミジル、イミダゾリル、ベンズイミダゾリル、フラニル、ベンゾフラニル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、イソキサゾリル、オキサジアゾリル、イソチアゾリル、ベンズイソチアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピロリル、インドリル、ピラゾリル、およびベンゾピラゾリルを含む。
【0035】
本明細書では「ヘテロ原子」の語は、窒素、酸素、および硫黄のことをいう。
【0036】
一部の実施形態では、置換アルキルはカルボキシアルキル、アミノアルキル、ジアルキルアミノ、ヒドロキシアルキルおよびメルカプトアルキルを含み;置換アルケニルはカルボキシアルケニル、アミノアルケニル、ジアルケニルアミノ、ヒドロキシアルケニルおよびメルカプトアルケニルを含み;置換アルキニルはカルボキシアルキニル、アミノアルキニル、ジアルキニルアミノ、ヒドロキシアルキニルおよびメルカプトアルキニルを含み;置換シクロアルキルは4−クロロシクロヘキシルなどの部分を含み;アリールはナフチルなどの部分を含み;置換アリールは3−ブロモフェニルなどの部分を含み;アラルキルはトリル(tolyl)などの部分を含み;ヘテロアルキルはエチルチオフェンなどの部分を含み;置換ヘテロアルキルは3−メトキシ−チオフェンなどの部分を含み;アルコキシはメトキシなどの部分を含み;およびフェノキシは3−ニトロフェノキシなどの部分を含む。ハロはフルオロ、クロロ、ヨードおよびブロモを含むものと解されるべきである。。
【0037】
本発明の目的では、「正の整数」は1と等しいかまたは1より大きい整数を含むものと解されるべきであり、当業者に理解されるように、当業者にとって合理的範囲内である。
【0038】
本発明の目的では、「結合した」の語は、1つの基と別の基との、共有(好ましくは)または非共有結合、すなわち化学反応の結果としての結合を含むものと解されるべきである。。
【0039】
本発明の目的では、「有効量」および「十分量」の語は、当業者に理解される効果として、目的の効果または治療効果を達成する量を意味するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1A】実施例1に記載される肺炎症および線維症におけるアデノシンデアミナーゼポリマー複合体の治療効果。
【図1B】実施例1に記載される肺炎症および線維症におけるアデノシンデアミナーゼポリマー複合体の治療効果。
【図2】実施例2に記載される肺線維症を有するマウスにおけるアデノシン濃度に対するアデノシンデアミナーゼポリマー複合体の効果。
【図3】実施例3に記載される肺線維症を有するマウスにおける体重減少に対するアデノシンデアミナーゼポリマー複合体の効果。
【図4A】実施例4に記載される肺線維症を有するマウスにおける炎症に対するアデノシンデアミナーゼポリマー複合体の治療効果。
【図4B】実施例4に記載される肺線維症を有するマウスにおける炎症に対するアデノシンデアミナーゼポリマー複合体の治療効果。
【図5】実施例5に記載される肺線維症を有するマウスにおけるコラーゲン産生に対するアデノシンデアミナーゼポリマー複合体の効果。
【発明を実施するための形態】
【0041】
したがって、本発明は、患者の組織および/または体液に存在するアデノシンの量を低減するのに十分な量および期間にわたり、ADA酵素を、それを必要とする患者に投与することによる、たとえば、喘息、肺線維症、嚢胞性線維症、およびCOPDを含む肺疾患および障害の治療のための新規の方法および組成物を提供する。ADA酵素はポリマー複合体化されていることが好ましい。別の実施形態では、ADA酵素は注入または吸入によって投与される。基礎となる肺病理を持続する内因性アデノシンの存在に依存する肺疾患過程では、投与されたADAによる内因性アデノシンの十分な低減が、疾患の症状および/または徴候を治療する。
【0042】
本明細書では、「アデノシンデアミナーゼに媒介される肺疾患」とは、投与経路にかかわらず、ADA、またはそれらの活性画分などの投与による利益を得る、任意の肺疾患、症状または障害を広く含むものと解されるべきである。。そのような肺疾患は、肺、細気管支、肺胞または関連する組織におけるアデノシン濃度の上昇に厳密に関連しているものに限定されない。
【0043】
本発明の方法に従ったADA酵素の投与は、「予防」または「治療」目的のいずれかでありうる。予防的に提供される場合、ADA酵素は、何らかの肺症状より前に提供される。本薬剤の予防的投与は、以後の何らかの肺症状を防止または減弱させるのに役立つ。治療的に提供される場合、ADA酵素は喘息の症状の発生時に(またはすぐ後に)提供される。ADA酵素の治療的投与は、何らかの実際の肺症状発作を減弱させる役割を果たす。本発明の方法は、したがって、予測される肺症状の発生前に(予想される症状の重症度、持続時間または範囲を減弱させるように)、または症状の開始前に実施されうる。
【0044】
さらに別の態様では、本明細書に記載される方法によるとADA複合体は、化学療法剤治療と同時にまたは連続的に組み合わせて使用されうる。化学療法剤によって重度の合併症が肺に生じうる。たとえば、BLENOXANEの銘柄で販売されているブレオマイシンは、肺線維症を引き起こし、肺機能を障害することが知られている。本明細書に記載されるADA複合体は、化学療法に随伴する肺疾患を減弱、低減または防止できる。したがって、本明細書に記載される方法に従ったADA酵素は、化学療法剤の投与前に、投与と同時にまたはその後に、投与されうる。
【0045】
肺疾患の治療の成功は、ADA治療なしで観察した場合と比較して、アデノシン、炎症細胞、および/または当業者に考えられる他の臨床マーカーを含む線維症の少なくとも20%または好ましくは30%、より好ましくは40%以上(すなわち、50%または80%)の減少が実現した場合に、起こると判断される。他の評価項目としては、細胞外マトリクス産生沈着の程度、線維芽細胞数、プロテイナーゼ−抗プロテイナーゼ酵素濃度、線維化誘導性媒介因子の濃度、および肺閉塞の組織病理的証拠が挙げられる。気道リモデリングおよび/または破壊もまた扱いやすい評価項目である。
【0046】
A.ADAポリマー複合体
概して、全身または局所アデノシン濃度を低減させるための方法および組成物が、肺系の疾患または障害を治療するために提供される。
【0047】
一態様では、本発明に従った用途の医薬組成物は、ADAポリペプチド、またはそれらの変異体、多型および誘導体を含む、その活性画分を含む。好ましくは、ADAはウシまたはヒトADAであるが、他の哺乳動物種も考えられる。好ましい一実施形態では、ADAはウシ関連試料から精製される。天然に存在するウシADAのCys74残基がシステインでキャッピングまたは保護され、配列番号:1のADAをコードする遺伝子から予測される6個のC末端残基が存在しない。動物起源のADAが用いられる態様では、それは精製されるなど、すなわちウシなどから、当業者に既知の方法を用いて得られる。さらなる態様では、本発明は、予測される6個のC末端残基を含むか含まないかに関わらず、別の対立遺伝子および多型を含む、天然ウシADAの代替的な変異体を使用しうることが考えられる。ウシADA多型は、たとえば、198位のリジンの代わりにグルタミン、245位のスレオニンの代わりにアラニン、351位のグリシンの代わりにアルギニンを含む。
【0048】
別の態様では、ADAは組換えADAである。たとえば、アデノシンデアミナーゼは、配列番号:2または配列番号:4に従ったDNA分子から翻訳された、組換えウシアデノシンデアミナーゼ(配列番号:1)または組換えヒトアデノシンデアミナーゼ(「rhADA」、配列番号:3)でありうる。随意的に、組換えアデノシンデアミナーゼは、ウシアデノシンデアミナーゼの6個のC末端残基を欠如しうる。
【0049】
本発明のさらなる態様では、ADA酵素の誘導体は、非変異組換えADA酵素と比較して安定性が増強されるように変異した、組換え産生されたADA酵素を含みうる。これらは、溶媒に曝露された酸化可能なCys残基を、適当な酸化できないアミノ酸残基で置換するため、たとえば、配列番号:1および/または、上述の多型のうちの1つ以上を有する配列番号:1から改変された組換えADA酵素を含む。そのような酸化できないアミノ酸残基には、任意の当分野で公知の天然アミノ酸残基および/または任意の当分野で公知のそれらの誘導体が含まれる。組換えADAにおいて、随意的にシステインと置換される、好ましい天然に存在するアミノ酸は、たとえば、アラニン、セリン、アスパラギン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、スレオニン、チロシン、およびバリンを含む。セリンが最も好ましい。一部の好ましい組換えADA変異タンパク質酵素は、配列番号:6または配列番号:8に従ったDNA分子から翻訳された配列番号:5(ウシADA)および配列番号:7(ヒトADA)で表される。そのような組換えADA変異タンパク質、およびこれらのタンパク質の産生および精製に関するさらなる詳細は、参照することにより本明細書にその全体が含まれる、同一出願人が所有する米国仮特許出願第60/913,009号および同第60/913,039号の各明細書によって提供される。ベクターおよび精製方法に関する具体的な詳細がそれらの明細書に、特に実施例の項に、とりわけ'009号明細書の実施例1〜4に示されている。
さらなる態様では、組換えADAは、溶媒に曝露された酸化可能なCys残基をキャッピングすることによって安定化されうる。組換えADAのシステイン残基のような酸化可能なアミノ酸は、酸化グルタチオン、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、システイン、他のジチオールおよびそれらの混合物などのキャッピング剤によって、ADAタンパク質を実質的に不活性化することなく、キャッピングされうる。組換えADAのキャッピングは、ADAを安定化し、分解から保護する。ADAのキャッピングの詳細は、参照することにより本明細書にその内容が含まれ、る米国特許出願第11/738,012号明細書に記載されている。
【0050】
好ましい態様では、ADAポリペプチドは、実質的に非抗原性なポリマー、好ましくはポリアルキレンオキサイド(「PAO」)と複合体化される。
【0051】
ADA−ポリマー複合体は、一般的に式(I)に対応し:
(I) [R−NH]−(ADA)
ここで(ADA)は、アデノシンデアミナーゼまたはその活性画分であって、ウシなどに由来する精製された形態または組換えADAのいずれかを表し;
NH−は、ポリマーと結合するADA上に見られるアミノ酸のアミノ基であり;
zは正の整数、好ましくは約1〜約80であり;
Rは、放出可能または放出不可能な形態であるか否かに関わらず、ADAに結合している実質的に非抗原性のポリマー残基を含む。
【0052】
より好ましい態様では、ポリマーは、直鎖、分枝鎖またはマルチアームPEGでありうるポリエチレングリコール(PEG)を含む。一般的に、ポリエチレングリコールは下記の式を有し:
−O−(CHCHO)
ここで(n)は正の整数であり、好ましくは約10〜約2,300である。ポリマーの平均分子量は約1000〜約100,000の範囲である。より好ましくは、ポリマーは約5,000〜約45,000、さらにより好ましくは、5,000〜約20,000の平均分子量を有する。最も好ましくは、PEGの分子量は、「アダジェン」(PEG化ウシアデノシンデアミナーゼ)に見られるように、約5,000である。当業者の要望に合わせて、他の分子量もまた考えられる。
【0053】
あるいは、本発明のポリエチレングリコール(PEG)残基部分は下記の構造で表すことができる:
【化1】

【0054】
ここで:
71およびY73は独立してO、S、SO、SO、NR73または結合であり;
72はO、S、またはNR74であり;
71−74は、水素、C1−6アルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、C3−19分枝アルキル、C3−8シクロアルキル、C1−6置換アルキル、C2−6置換アルケニル、C2−6置換アルキニル、C3−8置換シクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、C1−6ヘテロアルキル、置換C1−6ヘテロアルキル、C1−6アルコキシ、アリールオキシ、C1−6ヘテロアルコキシ、ヘテロアリールオキシ、C2−6アルカノイル、アリールカルボニル、C2−6アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、C2−6アルカノイルオキシ、アリールカルボニルオキシ、C2−6置換アルカノイル、置換アリールカルボニル、C2−6置換アルカノイルオキシ、置換アリールオキシカルボニル、C2−6置換アルカノイルオキシおよび置換アリールカルボニルオキシから独立して選択され;
(a71)、(a72)、および(b71)は独立してゼロまたは正の整数、好ましくは0〜6、およびより好ましくは1であり;
(n)は約10〜約2300の整数である。
【0055】
一例として、PEGは下記の非限定的な方法で官能化されうる:
−C(=Y74)−(CH−(CHCHO)−、
−C(=Y74)−Y−(CH−(CHCHO)−、
−C(=Y74)−NR11−(CH−(CHCHO)−、
−CR7576−(CH−(CHCHO)
ここで
75およびR76はH、C1−6アルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキルおよび置換C1−6アルキルから独立して選択され;
mはゼロであるかまたは正の整数であり、好ましくは1であり;
74はOまたはSであり;
nは重合度を表す。
【0056】
さらなる態様では、複合体のポリマー部分は、ADAの複数の結合点を提供できるものでありうる。あるいは、複数のPEGがADAに結合されうる。
【0057】
PEG化ADAの薬物動態および他の性質は、必要に応じて、PEG分子量、リンカー化学および酵素に対するPEG鎖の比率の操作によって、目的の臨床用途に調整されうる。
【0058】
これらの態様では、ADAは、当分野で知られているさまざまなリンカーを介して放出可能なまたは放出不可能な形態で非抗原性ポリマーと結合されうる。
【0059】
放出可能なポリマー系は、ベンジル脱離またはトリメチルロックラクトン化を基礎とすることができる。放出可能なポリマー系の、活性化されたポリマーリンカーは、参照することにより本明細書に含まれる、本願と同一譲受人に譲渡された米国特許第6,180,095号、同第6,720,306号、同第5,965,119号、同第6,624,142号および同第6,303,569号の各明細書に従って調製されうる。あるいは、ADAポリマー複合体は、参照することにより本明細書に含まれる、同一出願人による米国特許第7,122,189号および同第7,087,229号の各明細書および米国特許出願第10/557,522号、同第11/502,108号、および同第11/011,818号の各明細書に記載されるもののような、ある種のビシンポリマー残基を用いて作製される。考えられる他の放出可能なポリマー系はまた、参照することにより本明細書に含まれる国際出願第PCT/US07/78600号明細書に記載されている。
本明細書で意図されている放出可能なまたは放出不可能なADAポリマー複合体の具体例は、参照することにより本明細書に含まれる米国仮特許出願第60/913,039号明細書に記載されている。
【0060】
本発明の目的では、それらのポリマーは、ADAを付加するために官能化または活性化されるべきである。当業者は、過度の実験なしに、付加のためのポリマーのさまざまな活性化型を使用できる。一部の好ましい活性化PEGは、参照することにより本明細書に含まれる、同一出願人による米国特許第5,122,614号、同第5,324,844号、同第5,612,460号および同第5,808,096号の各明細書に開示されるものを含む。たとえば、Zalipskyは、米国特許第5,122,614号明細書に、N−スクシンイミドカルボナート誘導体への変換によるPEGの活性化について記載している(「SC−PEG」)。
【0061】
当業者に理解される通り、そのような複合体化反応は、典型的には適当な緩衝液中で数倍モル過剰の活性化PEGを用いて実施される。上述のSC−PEGのような直鎖PEGを用いて作製される一部の好ましい複合体は、平均して、酵素当たり約20〜約80のPEG鎖を含みうる。結果として、これらについては、数百倍、たとえば、200〜1000倍のモル過剰が使用されうる。分枝鎖PEGおよび酵素に付加されたPEGについて用いられるモル過剰はより低くなり、これは、本明細書に記載されるものと同一の記載をする特許および特許出願に記載される技法を用いて決定されうる。
【0062】
これらの態様では、ポリアルキレンオキサイドは、たとえば、炭酸スクシンイミジル、チアゾリジンチオン、ウレタン、およびアミドを基礎とするリンカーを含むリンカー化学を介してタンパク質と複合体化される。ポリアルキレンオキサイドは、好ましくは、ウシから精製されたADAまたはシステイン安定化された組換えヒトアデノシンデアミナーゼ上のLysのεアミノ基と共有結合しているが、共有結合のための他の部位もまた当分野でよく知られている。キャッピングされたADAポリマー複合体は、酵素上のLysのεアミノ基と結合した少なくとも5つのポリエチレングリコール鎖を含みうるが、しかし代替的に、酵素上のLysのεアミノ基と結合した約11〜18のPEG鎖を含みうる。
【0063】
「アダジェン」のADAは、リジン結合を介して、酵素分子あたり約11〜約18のPEG分子と複合体化している一方、PEGのADAに対する比は、任意の特定の臨床状況に適合するよう、結合した複合体の物理的および動態的特性を改変する目的で、変化させることができる。
本発明の追加の態様は、本明細書に記載される治療の方法に有用な複合体を提供するために、ADA酵素またはその断片と複合体化させるための任意の市販のまたは報告された活性化PEGまたは同様のポリマーを用いることを含むことが前記から明らかとなる。たとえば、参照することにより本明細書にその全体が含まれる、2004年のNektar Advanced Pegylationカタログ(Nektar社(米国カリフォルニア州サンカルロス所在))を参照。
【0064】
別の一態様では、活性化ポリマーリンカーは、それぞれ参照することにより本明細書に含まれる、同一出願人による米国特許第5,643,575号、同第5,919,455号、同第6,113,906号および同第6,566,506号の各明細書に記載されるもののような分枝鎖ポリマー残基を用いて調製される。そのようなポリマーの非限定的な一覧は、下記の構造を有するポリマー系(i)〜(vii)に対応する:
【化2−1】

【化2−2】

【0065】
ここで
61−62は独立してO、SまたはNR61であり;
63はO、NR62、S、SOまたはSOであり
(w62)、(w63)および(w64)は独立して、0または正の整数、好ましくは約0〜約10、より好ましくは約1〜約6であり;
(w61)は0または1であり;
mPEGはメトキシPEGであり
ここでPEGは既に規定されており、ポリマー部分の総分子量は約1,000〜約100,000であり;
61およびR62は独立して、R73に使用されうるのと同じ部分である。
【0066】
Shearwater Corporationの2001年カタログ“Polyethylene Glycol and Derivatives for Biomedical Application”に記載の「星状PEG」およびマルチアームPEGなどのマルチアームPEG誘導体もまた有用である。日油株式会社の薬物送達システムカタログ(Drug Delivery System Catalog)第8版、2006年4月も参照のこと。前記のそれぞれの開示は参照することにより本明細書に含まれる。マルチアームポリマーは、4つ以上のポリマーアーム、好ましくは4つまたは8つのポリマーアームを含む。
説明の目的であって限定するものではないが、マルチアームポリエチレングリコール(PEG)残基は下記でありうる:
【化3】

【0067】
ここで
(x)は0および正の整数、すなわち約0〜約28であり;
(n)は重合度である。
【0068】
本発明の特定の一実施形態では、マルチアームPEGは下記の構造を有し:
【化4】

【0069】
ここで(n)は正の整数である。本発明の好ましい一実施形態では、ポリマーは約1,000〜約100,000、好ましくは5,000〜45,000の総分子量を有する。
【0070】
別の特定の一実施形態では、マルチアームPEGは下記の構造を有し:
【化5】

【0071】
ここで(n)は正の整数である。
【0072】
ポリマーは、米国特許第5,122,614号または同第5,808,096号の各明細書に記載される活性化法を用いて、適当に活性化されたポリマーへ変換されうる。具体的には、そのようなPEGは次式のものでありうる:
【化6】

【0073】
ここで:
(u’)は正の整数であり;残基の3つまでの終端部分がメチルまたは他の低級アルキルでキャッピングされている。
【0074】
一部の好ましい実施形態では、4つすべてのPEGアームは、ADAとの結合を容易にするために、適当な活性化基に変換されうる。変換前のそのような化合物としては下記のものが挙げられる:
【化7−1】

【化7−2】

【0075】
本明細書に含まれるポリマー物質は、好ましくは室温で水溶性である。そのようなポリマーの非限定的なリストには、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコールなどのポリアルキレンオキサイドホモポリマー、ポリオキシエチレン化ポリオール、それらの共重合体および、ブロック共重合体の水溶性が維持されるように提供された、それらのブロック共重合体が含まれる。
【0076】
さらなる実施形態では、およびPAO系ポリマーの代替として、他の適当なポリマーが、デキストラン、ポリビニルアルコール、炭化水素系ポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMA)、ポリアルキレンオキサイド、および/またはそれらの共重合体などの1つ以上の有効な非抗原性材料の中から、それぞれ随意的に選択される。参照することによりその内容が本明細書に含まれる、本願と同一譲受人に譲渡された米国特許第6,153,655号明細書も参照。PEGなどのPAOについて本明細書に記載されたのと同じ種類の活性化が用いられることが、当業者に理解されよう。当業者はさらに、前記リストが単に説明のためであり、本明細書に記載される性質を有するすべてのポリマー材料が意図されること、およびポリプロピレングリコールなどの他のポリアルキレンオキサイド誘導体もまた意図されることについても、認識するであろう。
【0077】
B.医薬組成物
注射可能な用途に適したADAまたはADAポリマー−複合体の医薬品形態としては、滅菌水溶液または分散剤;ゴマ油、ピーナッツ油またはプロピレングリコール水溶液を含む製剤;および注射可能な滅菌溶液または分散剤の即時調製用の滅菌粉末が挙げられる。すべての場合において、製剤は滅菌されていなければならず、シリンジから容易に送達できる程度に流体でなければならない。これは製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌 および 真菌などの微生物の混入作用に対して保存されなければならない。
遊離塩基または薬理学的に許容可能な塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適当に混合した水で調製されうる。分散剤もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物、ならびに油で調製されうる。好ましい一実施形態では、ADAポリペプチドはPEGと複合体化されている。通常の保存および使用条件下では、これらの調製物には、微生物の増殖を防ぐための保存料が含まれる。
上記のようなADA酵素は、中性または塩の形態の組成物に製剤されうる。薬学的に許容可能な塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ酸を用いて形成される)を含む。一部の適当な無機酸は、たとえば、塩酸またはリン酸、あるいは酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸を含む。遊離カルボキシル基で形成される塩は、たとえば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄などの無機塩基、および、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することができる。
【0078】
担体も、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適当な混合物、および植物油を含む、溶媒または分散媒でありうる。たとえば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散剤の場合には必要な粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、適当な流動性を維持することができる。微生物の作用の防止は、さまざまな抗菌剤および抗真菌剤、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって達成されうる。多くの場合、等張剤、たとえば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましい。注射可能な組成物の持続的吸収は、たとえば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる薬剤を、組成物に使用することによって達成されうる。
【0079】
注射可能な滅菌溶液は、必要な量の活性化合物を、必要に応じて上に列挙されたさまざまな他の成分と共に適当な溶媒に組み込み、次いでろ過滅菌を行うことによって調製される。一般的に,分散剤は、さまざまな滅菌活性成分を、塩基性の分散媒および上に列挙された必要とされる他の成分を含む滅菌媒体に組み込むことによって調製される。注射可能な滅菌溶液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、先に滅菌ろ過された溶液から、活性成分および任意のさらなる所望の成分の粉末を得る、真空乾燥および凍結乾燥法である。
【0080】
活性成分としてのペプチド治療薬の使用は、それぞれ参照することにより本明細書に含まれる、米国特許第4,608,251号;同第4,601,903号;同第4,599,231号;同第4,599,230号;同第4,596,792号;および同第4,578,770号の各明細書の技術によって、より詳細に説明される。
【0081】
直接注入のための、さらに、または高度に、濃縮された溶液の調製もまた意図されているが、その際、溶媒としてDMSOを使用することにより、結果的に、極めて迅速な透過を生じ、高濃度の活性薬剤を小さい領域に送達することが見込まれる。
【0082】
製剤に際して、溶液は、投与製剤に適合するような方法で、および治療的に有効な量で、投与される。製剤は、上記のような注射可能な溶液のタイプなど、さまざまな剤形で容易に投与されるが、しかし薬剤放出カプセルなどもまた使用されうる。
【0083】
水溶液での非経口投与では、たとえば、溶液は必要に応じて適切に緩衝されるべきであり、液体希釈剤は、最初に十分な生理食塩水またはグルコースで等張にすべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に特に適する。これに関連して、使用されうる滅菌水系媒体は、本開示に照らして当業者に理解されよう。たとえば、1用量を1mlの等張NaCl溶液に溶解し、1000mlの皮下注入液に加えるかまたは注入予定位置に注入されうる(たとえば、"Remington's Pharmaceutical Sciences" 15th Edition,pages 1035−1038 and 1570-1580を参照)。用量のいくらかの変化は、治療される対象の状態に応じて必然的に生じる。いずれにせよ、投与の責任者が、個別の対象についての適当な用量を決定する。
ADAのPEG−複合体または他のADAを含む療法は、約100U〜約300U/ml、好ましくは約250U/mlの量で含むように治療用混合物に製剤化され、ここで、活性1単位とは、併発性疾患の治療に適応されるように、25℃およびpH7.3において、毎分アデノシン1μMをイノシンに変換するADAの量として定義される。
【0084】
静脈内または筋肉内注射などの、非経口投与用に製剤された化合物に加えて、他の薬学的に許容可能な剤形は、たとえば、錠剤または経口投与用の他の固体;リポソーム製剤;徐放カプセル;および現在用いられる任意の他の剤形を含む。
【0085】
さらに、眼科用製剤に用いられるのと同様の抗菌保存料、および適当な薬剤安定剤が、必要に応じて、製剤に含まれうる。さまざまな市販の経鼻製剤が知られており、たとえば、抗生物質および抗ヒスタミンが含まれ、これらは喘息の予防に用いられる。
【0086】
ADAまたはADAのPEG−複合体を注入によって提供する際には、一般的に、
1)血漿ADA活性を約10〜100μmol/時間/mL、好ましくは約15〜約35μmol/時間/mL(37℃にてアッセイ)の範囲に維持する;および
2)注入前サンプルで測定した正常アデノシン濃度と比較して、血球容量における赤血球アデノシン、すなわち、dATPで<約0.001〜0.057μmol/mL、好ましくは約0.005〜約0.015μmol/mLへの低下を示し、または総赤血球アデノシン(すなわち、ATP+dATP含量)で<約1%への低下を示す、
であろう用量を受益者に提供することが望ましい。dATPの正常値は約0.001μmol/mL未満である。
【0087】
本明細書で意図される方法は、アデノシンデアミナーゼを1週間以上にわたり、週に1回以上(すなわち2回)、肺疾患が緩和されるまで投与することを含みうる。組成物は1日1回投与して差し支えなくの、または複数週治療プロトコルの一部として投与されうる複数回用量に分割されうる。
【0088】
C.吸入による送達
肺への薬物送達は、液体ネブライザー、空気または他の推進剤たとえばHFA−134a(1,1,1,2−テトラフルオロエタン)を用いるエアロゾル系の定量吸入器(MDI)を含む、さまざまな手法で達成されうる。乾燥粉末分散装置もまた利用可能である。乾燥粉末分散装置は、乾燥粉末として容易に製剤化される薬剤、特にタンパク質およびポリペプチドを送達するために用いられる。さもなければ不安定なタンパク質およびポリペプチドの多くが、単独でまたは適当な粉末担体と組み合わせて凍結乾燥粉末または噴霧乾燥粉末として安定に保存されうる。
肺アデノシン濃度を低減できる吸入用のADAまたはPEG−複合体化ADA酵素を患者に提供する際、投与される薬剤の用量は、患者の年齢、体重、身長、性別、一般的病状、病歴などの因子に応じて変動する。当業者は、吸入ADAまたはADAのPEG−複合体、たとえば「アダジェン」を、臨床的エンドポイントを達成するのに有効な用量および期間投与すると同時に、生じうる任意の副作用を回避または最小限に抑えることによって、症状の低減を達成および維持する、所望の臨床的エンドポイントまで最初の用量を漸増する必要があることを理解するであろう。
【0089】
たとえば、定用量系によってなど、乾燥粉末として投与される場合、用量は、酵素の量に基づいて、たとえば、約0.10U/kg〜約30U/kg、好ましくは約0.5U/kg〜約20U/kg、より好ましくは約0.5U/kg〜約10U/kg(すなわち患者体重kg当たり)、さらにより好ましくは約0.5U/kg〜約5U/kgの範囲にわたる。ADAの投薬情報はまた、参照することにより本明細書に含まれる、「アダジェン」の処方薬説明書に記載されている。
噴霧化した溶液で投与される場合、用量は、たとえば、約0.01U/kg〜約5U/kgの範囲にわたる。約0.1U/kg〜約1U/kgがさらに好ましい。
一部の実施形態では、吸入用のADAまたはPEG−複合体化ADA酵素は、経口的に、たとえば皮下、静脈内および/または筋肉内などの注射によって、および/または吸入によって投与される、当分野で知られた他の肺用の薬剤と組み合わせて、または併用療法として投与されうる。そのような薬剤は、参照することによりその全体が本明細書に含まれる、Goodman and Gilman's, the Pharmacological Basis of Therapeutics, Eleventh Edition, Publ.McGraw Hillにより詳細に記載されるような、気管支拡張剤糖質コルチコイドなどを含む。具体的には、これらの追加の薬剤としては、たとえば、メチルキサンチン(たとえばテオフィリン)、β−アドレナリン作動性アゴニスト(たとえばカテコールアミン、レゾルシノール、サリゲニン、およびエフェドリン)、たとえばアルブテロール、テルブタリンなどの選択的β−アドレナリン作動性アゴニスト、糖質コルチコイド(たとえばヒドロコルチゾン)、肺症状の治療に用いられる他の吸入ステロイド、クロモン(たとえばクロモグリク酸ナトリウム)および抗コリン薬(たとえばアトロピン)、または、肺疾患または障害の症状の治療に必要とされるこれらの薬剤の量を減らすことを目的とする、任意の他の肺用の薬剤が挙げられる。本明細書では、2つの化合物が、両方の化合物が患者の血清中に同時に検出されうるような近い時間間隔で投与される場合、ある化合物は、第2の化合物と共に、追加的に投与されるものと考えられている。上記のメチルキサンチン、β−アドレナリン作動性アゴニストなどの気管支拡張薬の前投与は、随意的に、吸入用のADAのPEG複合体の、細気管支および肺胞内の作用部位への透過を助けることが好ましい。したがって、本明細書で使用されうる適当な第2の薬理学的に活性な薬剤の非限定的なリストは、アミノフィリン、テオフィリン、ビトルテロール(bitolerol)、ジフィリン、ホルモテロール、イプラトロピウム、レバルブテロール、メタプロテレノール(metoproterenol)、ピルブテロール、サルメテロール、テルブタリン、および本明細書に記載される肺症状の治療に有用であることが当業者に知られている他の薬剤を含む。
【0090】
1.吸入用ADAまたはPEG−複合体化ADA酵素の乾燥粉末送達
吸入用ADAまたはADAのPEG−複合体は、たとえば、参照することによりそのすべてが本明細書に含まれる、米国特許第6,509,006号、同第6,592,904号、同第7,097,827号および同第6,358,530号の各明細書に従った方法を用いて、ADAまたはADAのPEG−複合体を含む溶液を噴霧乾燥することによって、乾燥分散用に調製される。これらの特許は、吸入による投与のためのタンパク質治療薬の分散を助ける方法および賦形剤を提供する。典型的な乾燥粉末の賦形剤は、分散を助けるためにADAまたはADAのPEG−複合体と混合される低分子炭化水素またはポリペプチドを含む。
【0091】
乾燥粉末分散用の担体として有用な医薬賦形剤の種類は、有用な分散剤でもあるヒト血清アルブミン(HSA)などの安定剤、糖質、アミノ酸およびポリペプチドなどの増量剤;pH調整剤または緩衝剤;塩化ナトリウムなどの塩;などを含む。これらの担体は、結晶形または非晶形であって差し支えなく、または両者の混合物でありうる。
粉末と組み合わせることができる増量剤は、適合性の糖質,ポリペプチド,アミノ酸またはその組み合わせを含む。適当な糖質は、ガラクトース、D−マンノース、ソルボースなどの単糖;ラクトース、トレハロースなどの二糖;2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンなどのシクロデキストリン;およびラフィノース、マルトデキストリン、デキストランなどの多糖;マンニトール、キシリトールなどのアルジトールを含む。糖質の好ましい群は、ラクトース、トレハロース、ラフィノース、マルトデキストリン、およびマンニトールを含む。適当なポリペプチドは、アスパルテームを含む。アミノ酸はアラニンおよびグリシンを含み、グリシンが好ましい。
添加剤は、噴霧乾燥中の立体構造安定性のために、および粉末の分散性を改善するために、たとえば、トリプトファン、チロシン、ロイシン、フェニルアラニンなどの疎水性アミノ酸が含まれうる。適当なpH調整剤または緩衝剤は、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウムなどの有機酸および塩基から調製される有機塩を含み;クエン酸ナトリウムが好ましい。
肺送達のための単位用量剤形は、上記の乾燥粉末入りの単位用量容器を含む。粉末は適当な用量容器内に、対象へ単位用量治療のための薬剤を提供するのに十分な量でセットされる。用量容器は、ガス流への分散によってエアロゾルを生じ、次いでそのように生じたエアロゾルを、治療を必要とする対象によるその後の吸入のためにマウスピースが着いたチャンバー内に捕捉する、乾燥粉末組成物のエアロゾル化を可能にする適当な吸入器に適合するものである。そのような用量容器は、乾燥粉末組成物を分散するためにガス(たとえば空気)流を容器内に導くことを可能にする、取り外し部分を有するゼラチンまたはプラスチックのカプセルなど、当分野で知られている組成物を封入する任意の容器を含む。そのような容器は、参照することによりその全体が本明細書に含まれる、米国特許第4,227,522号、同第4,192,309号、および同第4,105,027号の各明細書に示されるものによって例示される。適当な容器はまた、Glaxo社のVentolin Rotohalerという銘柄の粉末吸入器またはFisonのSpinhalerという銘柄の粉末吸入器と共に使用されるものを含む。優れた防湿層を提供する別の適当な単位用量容器は、アルミニウム箔プラスチックラミネートから形成される。ADAまたはADAのPEG−複合体粉末は、重量または体積で、成形可能なホイル(foil)の凹部に充填され、カバーホイル−プラスチックラミネートで密閉される。粉末吸入器と共に使用するためのそのような容器は、参照することにより本明細書に含まれる米国特許第4,778,054号明細書に記載され、また、Glaxo社のDiskhalerに使用されている。参照することによりその全体が本明細書に含まれる、米国特許第4,627,432号;同第4,811,731号;および同第5,035,237号の各明細書を参照。好ましい乾燥粉末吸入器は、共に参照することにより本明細書に含まれる、米国特許出願第08/309,691号および同第08/487,184号の各明細書に記載されるものである。後者の出願は国際公開第96/09085号パンフレットとして公開されている。
噴霧工程は、噴霧器のいくつかの従来の型のうち任意の1つを利用しうる。特に好ましいのは、下記により詳細に記載されるような10μm未満のメジアン径を有する小滴を生成可能な、2液噴霧ノズルの使用である。噴霧ガスは、通常は、微粒子および他の汚染物質が除去されるようにろ過または清浄化されている空気である。代替的に、窒素などの他の気体が使用されうる。噴霧ガスは、噴霧ノズルを通じた送達のために、典型的にはゲージ圧で172400Pa(25psig)を上回る圧に加圧され、好ましくはゲージ圧で344800Pa(50psig)を上回る。噴霧ガス流は一般的に音速に制限されるが、送達圧力が高いと、結果として噴霧ガス密度の増加が生じる。そのような増加したガス密度は、噴霧操作中に生じる液滴サイズを低下させることが見出されている。より小さな液滴サイズは、結果的により小さな粒径を生じる。噴霧ガス流速、噴霧ガス圧、液流速などを含む噴霧条件は、位相ドップラー速度測定による測定で平均直径11μm未満の液小滴を生じるように調節される。好ましい噴霧器設計および操作条件の定義では、液体スプレーの液滴径分布は、Aerometric社の位相ドップラー粒径分析器(Phase Doppler Particle Size Analyzer)を用いて直接測定される。液滴径分布はまた、測定された乾燥粒径分布(Horiba Capa 700)および粒子密度から計算されうる。これらの2つの方法の結果は互いによく一致する。好ましくは、噴霧された液滴は、5μm〜11μm、より好ましくは6μm〜8μmの範囲の平均直径を有する。気:液流量比は好ましくは5より大に維持され、より好ましくは8〜10の範囲である。気:液流量比のこの範囲内の調節は、粒子の液滴サイズの調節にとって特に重要である。
【0092】
液体媒体は、適当な液体担体中の、ADAまたはADAのPEG−複合体の溶液、懸濁液、または他の分散液でありうる。ADAまたはADAのPEG−複合体は、薬学的に許容可能な担体と組み合わせて液体溶媒中で溶液として存在すること、および、その液体担体は水であることが好ましい。しかしながら、有機溶媒、エタノールなどの他の液体溶媒を使用することが可能である。総溶解固形分(最終乾燥粒子中に存在しうる、高分子および他の担体、賦形剤などを含む)は、幅広い濃度で存在する可能性があり、典型的には0.1%重量〜10%重量で存在する。しかしながら、通常は、吸入サイズ範囲内の粒子を生じ、所望の分散特性を有する固体濃度を最大化することが望ましく、典型的には固体濃度は0.5%〜10%、好ましくは1.0%〜5%の範囲にわたる。比較的低濃度のADAまたはADAのPEG−複合体を含む液体媒体は、比較的小さい直径を有する乾燥粒子を結果として生じる。
上記の方法と共に使用する装置は、たとえば、前掲の米国特許第7,097,827号明細書に記載されている。
【0093】
2.溶液または懸濁液からのADAまたはPEG−複合体化ADA酵素のエアロゾル送達
肺症状の治療において、ADAまたはPEG−複合体化ADA酵素は、好ましくは、吸入器またはネブライザーを介して、サイズ範囲約1μm〜約5μmのエアロゾルを送達するのに適した製剤で、喘息症状の重症度、程度または持続時間を減少または減弱するのに十分な量で、前掲の投与指針を用いて、投与される。一部の好ましい態様では、PEG化されているか否か、にかかわらずADA含有製剤の粒径は約2.5μmである。
【0094】
エアロゾル化吸入による薬剤の送達のためのハードウェアおよび製剤としては、たとえば、参照することにより本明細書に含まれる米国特許第5,605,674号明細書に記載されるような、計量バルブを備えたエアロゾル容器に入ったエアロゾル製剤が挙げられる。
【0095】
使用されるADA製剤にかかわらず、酵素の吸入に関連する要点の1つは、治療上有効な量が局所肺組織へ送達され、望ましい治療活性を生じさせるのに十分な時間、接触することであることが理解されよう。理論に縛られはしないが、肺組織のADAへの直接曝露は、そのような治療を必要とする哺乳動物において、炎症症状および組織病理状態に少なくともある程度有意な低減を、結果として生じると考えられている。さらには、本明細書に記載される発明は、線維症を主原因とする、特定の慢性肺疾患の治療において、「アダジェン」などの形態のADAを使用するための基礎を提供する。
【実施例1】
【0096】
ブレオマイシンによって生じる肺炎症および線維症を有するマウスにおける「アダジェン」の全身曝露の効力
この実施例では、「アダジェン」を用いた全身治療の効力が、肺線維症などの肺疾患を有するマウスモデルにおいて判定された。肺線維症を有するマウスモデルは、ブレオマイシンによって確立された。ブレオマイシンは顕著なアデノシン蓄積および肺線維症を生じさせることが知られている。
【0097】
マウスを生理食塩水またはブレオマイシン(用量+2.0単位)に0日目に気管内曝露した。次いで、マウスを、2つの異なる治療計画にしたがって、腹腔内注射による全身「アダジェン」を用いて治療した;一方は、ブレオマイシン曝露の3日後に治療を開始して(早期治療)「アダジェン」が線維症を防ぐかどうか判定し、他方では治療を8日目に開始して(後期治療)活性疾患を停止および逆行させる作用を調べた。早期治療については、マウスは5単位の「アダジェン」を3日目に注入された。後期治療のマウスについては、5単位の「アダジェン」を8、11および14日目に投与した。生理食塩水溶液に曝露した対照マウスもまた、「アダジェン」処理ありまたは無しで調べた。
【0098】
すべての分析は14日目に実施した。総気管支肺胞洗浄液(BAL)細胞性および組織病理学的差異を調べた。肺細胞性は、炎症細胞を気道から洗い出し、血球計算盤を用いて細胞を計数することによって測定した。データは各群について平均細胞数+SEM、n=11として表す。実験は2回反復した。肺組織像については、肺切片を作製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色して組織病理学的変化を調べた。
【0099】
ブレオマイシンによって生じた肺線維症を有するマウスでは、8日目に開始した「アダジェン」での全身治療は、肺炎症および線維症の顕著な低減を結果として生じた。後期治療の結果を図1Aおよび図1Bに示す。
【0100】
結果は、ブレオマイシン曝露は気管支肺胞洗浄液中の炎症細胞を増加させたことを示す。「アダジェン」での全身治療は、BAL細胞性を(図1A)に示す通り顕著に低減した。肺組織の組織学的分析は、ブレオマイシンに曝露されたマウスにおいて、重度の間質性炎症および線維性組織損傷を明らかにした。組織炎症および線維性損傷の程度は、8日目から「アダジェン」で治療されたマウスでは、はるかに重症度が低く見えた(図1B)。
【0101】
これらの知見は、「アダジェン」での全身治療は肺炎症および線維症の進行を停止でき、疾患の線維相の間に投与される場合は症状を逆行させることができることを示唆する。これらの知見は、「アダジェン」などのADAおよびADAポリマー複合体が、定着した肺線維症を有する患者の治療に有用であることを示す。
【実施例2】
【0102】
ブレオマイシンによって生じる肺炎症および線維症を有するマウスにおけるアデノシン濃度に対する「アダジェン」処理の効果
ブレオマイシンによって生じる肺線維症を有するマウスモデルにおいて、「アダジェン」処理がアデノシン濃度を低下させたかどうかを判定するために、アデノシン濃度を定量した。
【0103】
6週齢雌C57Blk6マウスに、2.0単位のブレオマイシンを0日目に気管内投与した。マウスは、ブレオマイシン曝露の10、14および18日後に5単位の「アダジェン」の腹腔内注射による処理を受けた。代替的に、マウスは腹腔内に5単位の「アダジェン」でプロトコルの10、14および21日目に5単位の「アダジェン」を腹腔内に使用して処理された。すべての分析は21日目に実施した。
【0104】
気管支肺胞洗浄液(BALF)をマウスから21日目に回収し、逆相HPLCを用いて定量した。結果を図2に示す。データは各群についてアデノシンの平均マイクロモル濃度+SEM、n=6として表す。実験は2回反復した。
「アダジェン」で処理したマウスでは、アデノシンは「アダジェン」処理無しのマウスと比較して90%を超えて低下した。結果は、「アダジェン」はブレオマイシンに曝露された重度の肺炎症および線維症を示すマウスにおいてアデノシン濃度を低下させるのに有効であることを実証している。
【実施例3】
【0105】
ブレオマイシンによって生じる肺線維症を有するマウスにおける体重減少に対する「アダジェン」処理の効果
肺線維症を有するマウスにおける一般健康に対する「アダジェン」処理の効果の評価として、体重を監視した。
実施例2に記載される通り、ブレオマイシンに曝露されたマウスは、ブレオマイシン曝露の10、14および18日後に5単位の「アダジェン」の腹腔内注入で、処理された。代替的に、マウスは10、14および21日目に腹腔内に5単位の「アダジェン」で処理された。体重は、ブレオマイシン曝露後21日目に測定した。結果を図3に示す。データは各群について平均体重グラム(g)+SEM、n=8として表す。
【0106】
ブレオマイシンで処理されたマウスにおいて顕著な体重減少があった。ブレオマイシンによって生じた肺線維症に伴う体重減少は、「アダジェン」処理によって防がれ、「アダジェン」処理が疾患の治療および健康の改善に関連したことを示唆している。
【実施例4】
【0107】
ブレオマイシンによって生じる肺線維症を有するマウスにおける炎症に対する長期「アダジェン」処理の効果
炎症細胞を計数して、長期の「アダジェン」処理が肺線維症を有するマウスにおいて肺炎症を改善するかどうかを判定した。
【0108】
実施例2に記載される通り、ブレオマイシンに曝露されたマウスは、ブレオマイシン曝露の10、14および18日後に5単位の「アダジェン」の腹腔内注入により処理された。代替的に、マウスは10、14および21日目に腹腔内に5単位の「アダジェン」で処理された。21日目に、炎症細胞を測定するために、気管支肺胞洗浄液(BAL)をマウスから回収した。平均総炎症細胞(×10)+SEMを、血球計算盤を用いて測定した。細胞を顕微鏡のスライド上にサイトスピンし、細胞判別を実施した。データは各群について平均細胞数(×10)+SEM、n=8として表す。
【0109】
ブレオマイシン曝露は「アダジェン」処理を受けなかったマウスにおいて炎症細胞を増加させた。「アダジェン」処理はブレオマイシンによって生じた炎症を顕著に減弱させた。結果を図4Aに示す。結果はまた、「アダジェン」処理が肺胞マクロファージ、リンパ球、好中球および好酸球などの炎症細胞の部分集合を減弱したことを示す(図4B)。これらの細胞集団は、「アダジェン」処理無しのブレオマイシン処理マウスの肺で見られる濃度と比較して40%減少した。これらの知見および実施例2の知見は、「アダジェン」処理でアデノシン濃度を低下させることが、ブレオマイシン曝露によって生じた肺炎症を減少させうることを示唆している。
【実施例5】
【0110】
ブレオマイシンによって生じる肺線維症を有するマウスにおけるコラーゲン産生に対する「アダジェン」処理の効果
ブレオマイシンによって生じる線維症に対して「アダジェン」が治療効果を有するかどうかを判定するために、コラーゲン濃度を調べた。BAL液を、「アダジェン」で処理したマウスから21日目に回収した。結果を図5に示す。データは各群について平均コラーゲン濃度+SEM、n=8として表す。
結果は、ブレオマイシンによって上昇したコラーゲン濃度が、「アダジェン」処理によって顕著に低下したことを示す。ブレオマイシンに曝露され、「アダジェン」で処理されたマウスは、「アダジェン」で処理されないマウスより45%少ないコラーゲンを気道内に有した。これらのデータは、「アダジェン」および/またはADAが肺線維症を有する患者の治療に有用であることを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノシンデアミナーゼを有効量で、それを必要とする哺乳動物へ投与することを含む、アデノシンデアミナーゼに媒介される肺疾患を治療する方法。
【請求項2】
前記肺疾患が、高濃度のアデノシンによって媒介されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記肺疾患が、喘息、肺線維症、嚢胞性線維症および慢性閉塞性肺疾患からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記肺疾患が、化学療法に媒介される肺疾患であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記アデノシンデアミナーゼが、吸入によって、または非経口的に投与されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記アデノシンデアミナーゼが、化学療法剤の前に、同時にまたは続いて投与されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記アデノシンデアミナーゼが、ポリアルキレンオキサイドと複合体化されていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記ポリアルキレンオキサイドと複合体化されたアデノシンデアミナーゼが、エアロゾルとして、または乾燥粉末として投与されることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記アデノシンデアミナーゼがウシ関連試料から得られることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記アデノシンデアミナーゼがヒト関連試料から得られることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記アデノシンデアミナーゼが組換えアデノシンデアミナーゼであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記ポリアルキレンオキサイドの分子量が約5,000〜約45,000の範囲の大きさであることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項13】
前記ポリアルキレンオキサイドが、直鎖、分枝鎖、またはマルチアーム鎖を含むことを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項14】
前記ポリアルキレンオキサイドがポリエチレングリコールであることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項15】
前記ポリエチレングリコールと複合体化されたアデノシンデアミナーゼが、ペガデマーゼであることを特徴とする、請求項14の方法。
【請求項16】
前記哺乳動物に投与されるアデノシンデアミナーゼの量が、血漿ADA活性を約15〜約35μmol/時間/mLの範囲に維持するのに十分な量であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記哺乳動物に投与されるアデノシンデアミナーゼの量が、肺アデノシン濃度を約10nmol/mgタンパク質未満に低減するのに十分な量であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記哺乳動物に投与されるアデノシンデアミナーゼの量が、肺アデノシン濃度を約5nmol/mgタンパク質未満に低減するのに十分な量であることを特徴とする、請求項17の方法。
【請求項19】
第2の薬理学的に活性な薬剤を有効量で、アデノシンデアミナーゼと組み合わせて投与することをさらに含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記第2の薬理学的に活性な薬剤が、テオフィリンまたは気管支拡張薬であることを特徴とする、請求項19の方法。
【請求項21】
前記気管支拡張薬が、β−アドレナリン作動性気管支拡張薬であることを特徴とする、請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記β−アドレナリン作動性気管支拡張薬がサルメテロール、アルブテロールまたはテルブタリンからなる群より選択されることを特徴とする、請求項21記載の方法。
【請求項23】
アデノシンデアミナーゼおよび、肺疾患の治療用の説明書を含む、哺乳動物の肺疾患を治療するためのキット。
【請求項24】
アデノシンデアミナーゼおよび気管支拡張薬を含んでなる、吸入製剤。
【請求項25】
請求項24記載の吸入製剤および推進剤を含んでなる、肺症状の治療用途に好適な吸入器。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−514803(P2010−514803A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544298(P2009−544298)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/089085
【国際公開番号】WO2008/083302
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(505354899)エンゾン ファーマスーティカルズ インコーポレイテッド (28)
【氏名又は名称原語表記】ENZON PHARMACEUTICALS, INC.
【出願人】(509183143)ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティー オブ テキサス システム (1)
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS OF THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【Fターム(参考)】