説明

胃瘻カテーテル

【課題】カテーテル本体の位置の微調整が容易で、簡単な操作で狭持固定が可能で、かつ安全確実に操作可能な胃瘻カテーテルを提供すること。
【解決手段】瘻孔に配置して胃内と体外を連通可能とするカテーテル本体32と、前記カテーテル本体を瘻孔に固定する補助具34を有して構成される胃瘻カテーテルであって、前記カテーテル本体の外表面の少なくとも一部と、前記補助具の内面の少なくとも一部に、互いに螺旋状の一本あるいは数本の溝を有することを特徴とする胃瘻カテーテルを提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃瘻カテーテルの体内挿入施術において、該カテーテルを安全に的確かつ容易に挿入し、固定出来る医療用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食物の嚥下が困難な患者に対して経腸栄養剤を投与することが既に行われている。この投与方法としては、患者の腹壁および胃壁に造設された胃瘻を経て経腸栄養剤を体外から胃内に注入する手法がある。この栄養管理を施行するためには、患者の腹壁および胃壁に胃瘻を造設することが必要である。この胃瘻は、開腹手術によって造設することは可能であるが、近年、手術時間の短縮および術後患者の早期回復という利点を有する経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:PEG)の実施が広く普及しつつある。このPEGを実施するために胃瘻カテーテルが使用される。胃瘻カテーテルは、胃に形成された瘻孔にカテーテルを挿入し、カテーテルを介して胃内に栄養物を送り込むものである。この胃瘻カテーテルには、胃内に挿入される側のカテーテルの先端に、瘻孔よりも大径に形成されるバルーンを備えているものがある。バルーンは、可撓性を有する合成樹脂(例えばシリコン樹脂)によって形成され、カテーテルに一体に連設されている。胃瘻カテーテルを胃内に挿入するときには、バルーンは未拡張であり、胃内に挿入後、無菌蒸留水を注入し拡張させる。このバルーンが瘻孔よりも大径に形成されていることによって、胃内に留置させたときのカテーテルの不用意な抜け出しが防止される。また、更にはカテーテルに補助具が付属されており、胃内のバルーンに向かってカテーテルを伝ってスライドする様に挟むことで、より強固に固定される。しかし、胃瘻カテーテルの交換等のための新たに挿入の機会毎に、バルーンと補助具の挟み込み操作は不確実になりがちで、時には過度の力をいれて挟むようなことが原因で、胃内バルーンが胃壁を圧迫してしまい、バルーン埋没症の合併症が生じる恐れがある。
【0003】
また、体表と胃壁との挟持の適正な間隔は患者の腹壁や胃壁の厚さによる個人差ばかりでなく、患者の状況により変わる。例えば、胃瘻造設直後は創縁保護や漏れ防止等の観点から少し胃壁に食い込むくらいの強い張力で挟持する必要があるのに対して、翌日以降は長期間にわたる圧迫により生じる胃粘膜組織の壊死による潰瘍形成や、バルーンの胃壁への埋没などを防止するため、張力を緩和し隙間を持たせる程度に緩める必要があるなど、患者の状態に適応した張力に調整し保持していくことが求められる。
【0004】
一方、胃瘻孔の胃瘻カテーテルを固定することと同様に重要な問題は、胃内にカテーテルを誘導する手段である。この手段として従来より行われているのは、内視鏡を用いたりX線を使用した方法であるが、患者への侵襲が大きいこと及び在宅医療の増加に伴う在宅でのカテーテル交換事例が増え、内視鏡やX線使用による確認自体が困難なため、留置位置を判断する不確実な手段に頼ったり、位置の確認自体を行わないで、交換用胃瘻カテーテルを瘻孔に挿入するため、誤って瘻孔を破壊し胃内に留置すべき該カテーテルを腹腔内に留置したり、胃内にカテーテルが進入しすぎて胃壁を突いてしまい潰瘍の発生や患者に重篤な合併症を発症させる事故例が後を絶たない。
【0005】
特許文献1で、カテーテルの長さ方向に可動させて挟持間隔を調節可能とし、カテーテルと補助具の摩擦により固定させているものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−167082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、胃瘻孔を経由して体内に挿入するカテーテル本体の位置の微調整が容易で、簡単な操作で狭持固定が可能で、かつ安全確実に操作可能な胃瘻カテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の複数の特徴を有する。
【0009】
(1)本発明の1つの特徴は、
瘻孔に配置して胃内と体外を連通可能とするカテーテル本体と、前記カテーテル本体を瘻孔に固定する補助具を有して構成される胃瘻カテーテルであって、
前記カテーテル本体の外表面の少なくとも一部と、前記補助具の内面の少なくとも一部に、互いに螺旋状の一本あるいは数本の溝を有する点にある。カテーテル本体と補助具が互いに螺旋状の一本あるいは数本の溝を有していることにより、カテーテル本体の位置の微調整が容易で、簡単な操作で狭持固定が可能で、かつ安全確実に操作が可能となる。
【0010】
(2)本発明の別の特徴は、
前記カテーテル本体の材料のショアー硬度が、30A以上、95A以下である点にある。これにより、配置した際にその周囲を傷めにくく、更に賦形性、型崩れ防止(特に本発明では、螺旋状の一本あるいは数本の溝同士の固定を安定に維持する必要から重要となる。)を防止することが可能となる。
【0011】
(3)本発明の別の特徴は、
前記カテーテル本体の材料がスチレン系エラストマーを含有してなることである。これにより、精密加工が容易で(螺旋状の一本あるいは数本の溝同士の固定を安定とすることができる。)、耐薬品性(特に耐酸性)、柔軟性に優れ、狭持固定および患者のQOL(生活の質)をより高めることができる。
【0012】
(4)本発明の別の特徴は、
前記補助具の材料がスチレン系エラストマーを含有してなることである。これにより、精密加工が容易で(螺旋状の一本あるいは数本の溝同士の固定を安定とすることができる。)、耐薬品性(特に耐酸性)、柔軟性に優れ、狭持固定および患者のQOL(生活の質)をより高めることができる。
【0013】
上記特徴を含めた本発明のその他の特徴およびそれらの効果は、以下の実施形態および図面によって明らかにされる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カテーテル本体の位置の微調整が容易なことにより、胃瘻孔を経由して体内に挿入するカテーテルの挿入性が向上し、簡単な操作で狭持固定が可能で、かつ安全確実に操作可能な胃瘻カテーテルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の胃瘻カテーテルの1実施形態におけるカテーテル本体の側面図を示す。バルーンおよびポート体を備える。カテーテル本体の外表面の一部に螺旋状の一本あるいは数本の溝を有する。
【図2】図1のカテーテル本体と共に胃瘻カテーテルを構成する、螺旋状の一本あるいは数本の溝を有する補助具の一例を示す。
【図3】図1のカテーテル本体と図2の補助具を瘻孔に固定した状態の側面図を示す。
【図4】本発明の胃瘻カテーテルの他の実施形態におけるカテーテル本体の側面図を示す。バルーンおよびポート体を備える。カテーテル本体の外表面の一部に螺旋状の一本あるいは数本の溝を有する。
【図5】図4のカテーテル本体と共に胃瘻カテーテルを構成する、螺旋状の一本あるいは数本の溝を有する補助具の一例を示す。
【図6】図4のカテーテル本体と図5の補助具を瘻孔に固定した状態の側面図を示す。
【図7】従来技術の胃瘻カテーテルを瘻孔に固定した状態の側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.胃瘻カテーテル
本発明は、瘻孔に配置して胃内と体外を連通可能とするカテーテル本体と、前記カテーテル本体を瘻孔に固定する補助具を有して構成される胃瘻カテーテルであって、前記カテーテル本体の外表面の少なくとも一部と、前記補助具の内面の少なくとも一部に、互いに螺旋状の一本あるいは数本の溝を有することを特徴とする胃瘻カテーテルに関するものである。また、該胃瘻カテーテルは、そのカテーテル本体に栄養剤等の投与用の管腔とバルーンを拡張する管腔を備え、これらが互いに連通しないように形成されていることが好ましい。また、該カテーテル本体は、その先端部に、胃内で膨張してカテーテル本体を固定するためのバルーンが取り付けられていることが好ましく、また基端には、主ポートと、Y字形分岐ポートと液注入ポートとを有するポート体が配置されていることが好ましい。尚、これらバルーンやポート体は、必ずしもカテーテル本体と一体で形成されている必要はなく、例えばカテーテル本体と別体に形成され、取り付けられていてもよい。尚、ここで一体とは、一体成形で形成したもの以外に、溶着等により継ぎ目のない状態に固定したものも含むものとする。以下、本発明の胃瘻カテーテルを構成するカテーテル本体、補助具についてそれぞれ説明する。
【0017】
2.カテーテル本体
本発明の胃瘻カテーテルを構成するカテーテル本体は、その外表面の少なくとも一部に、補助具の内面の少なくとも一部に形成された螺旋状の一本あるいは数本の溝と固定関係を構成可能な、螺旋状の一本あるいは数本の溝を有している。尚、これら螺旋状の一本あるいは数本の溝同士は、雄ネジ、雌ネジの関係を構成していることが更に好ましい。これにより、本発明の胃瘻カテーテルは、そのカテーテル本体の位置の微調整が容易で、簡単な操作で狭持固定が可能で、かつ安全確実に操作することが可能となる。
【0018】
また、カテーテル本体の材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリスチレンエラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の各種エラストマー等の樹脂や、これらのうちの2以上を組み合わせたものが使用できるが、瘻孔などに接触した際にその周囲を傷めないために柔軟であることが好ましく、その材料のショアー硬度は95A以下であることが好ましく(患者の負担を考えると80A以下、特に60A以下であることが好ましい。)、またその賦形性、型崩れ防止(特に本発明では、螺旋状の一本あるいは数本の溝同士の固定を安定に維持する必要から重要となる。)の点から、硬度が30A以上であることが好ましい。また、加工の容易さ、更に螺旋状の一本あるいは数本の溝同士の固定を安定にすべく、精密加工を容易とする目的から、その材料は熱可塑性樹脂であることが好ましい。更に、その耐薬品性(特に耐酸性)、加工性、柔軟性の観点から、スチレン系エラストマーが好ましく、特にスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)が好ましい。
【0019】
一方、バルーンはカテーテル本体に対し、一体で形成されていても別体で形成されていても構わないが、胃瘻カテーテルが不用意に抜けることを防止する点、気密性を高めて継続使用期間を長くする点から、カテーテル本体に対し一体で形成されていることが好ましい。また、バルーンの材質としては、カテーテル本体で挙げたものが好適に使用できるが、特に気密性を高める点(樹脂自体のガスバリア性に優れ、更に熱可塑性のために溶着等の手段で一体のカテーテル本体とすることが可能)、柔軟性、加工性の点からスチレン系エラストマーが好ましく、特にスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)であることが好ましい。また、カテーテル本体をバルーンを含め一体で形成することを可能とする観点から、その栄養剤等の投与用の管腔とバルーンを拡張する管腔を構成する部分とバルーンは、共に熱可塑性樹脂で形成されていることが好ましく、更には同一樹脂系、同一樹脂で形成することが好ましい。
【0020】
また、ポート体は各種材料で形成することができるが、例えば、フッ素系エラストマー、シリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の各種エラストマー等の樹脂や、これらのうちの2以上を組み合わせた材料で形成された弁体が、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン系樹脂、フッ素系エラストマー、シリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の各種エラストマーまたはそれらの組み合わせた材料で加工された筐体に配された構成であることが好ましい。例えば、生体適合性の観点からシリコーンゴム製の弁体が配されたポリカーボネート製液注入ポートが挙げられる。また、加工性、生体適合性の観点からは、スチレン系エラストマーが好ましく、特にスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)が好ましい。
【0021】
3.補助具
本発明の胃瘻カテーテルを構成する補助具は、その内面の少なくとも一部に、カテーテル本体の外表面の少なくとも一部に形成された螺旋状の一本あるいは数本の溝と固定可能な、螺旋状の一本あるいは数本の溝を有している。これにより、本発明の胃瘻カテーテルは、そのカテーテル本体の位置の微調整が容易で、簡単な操作で狭持固定が可能で、かつ安全確実に操作することが可能となる。また、通常、補助具はカテーテル本体の軸方向に対し半径方向外側に張り出した状態で配置される。
【0022】
補助具の材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン系樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、スチレン系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の各種エラストマー等、またはそれらの混合物が挙げられるが、特に加工の容易さ、更に螺旋状の一本あるいは数本の溝同士の固定を安定にすべく、精密加工を容易とする目的から、その材料は熱可塑性樹脂であることが好ましい。加えて、柔軟性の観点から、スチレン系エラストマーで構成することが好ましく、特にスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)であることが好ましい。
【0023】
特に胃瘻カテーテルに用いられる材料としては、使用栄養剤、使用環境に耐性があり、患者のQOL(生活の質)に必要な衣服の下の留置に適応できる柔軟性が求められる。この点から、成形加工性が容易な熱可塑性エラストマーであって、前記要求される特性を満たす材料としてスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)を用いることが特に好ましい。
【0024】
従来、胃瘻カテーテルの挿入性、操作性を高める場合は、内視鏡やX線造影機器の使用を前提とし、より視認性高いマーカー材料への変更やその設置が一般的であった。これに対し、本発明の胃瘻カテーテルは、内視鏡やX線造影機器の使用を前提としない一方、カテーテル本体と補助具との間の特定の固定手段により挿入位置の微調整を可能とすることで操作性を高めており、このようなアプローチは本願発明者独自の知見によってもたらされたものである。
【符号の説明】
【0025】
11.バルーン
12.カテーテル
13.ポート体
21.補助具
31.バルーン
32.カテーテル
33.ポート体
34.補助具
35.胃内
41.バルーン
42.カテーテル
43.ポート体
51.補助具
61.バルーン
62.カテーテル
63.ポート体
64.補助具
65.胃内
701.バルーン
702.カテーテル
703.ポート体
704.補助具
705.胃内

【特許請求の範囲】
【請求項1】
瘻孔に配置して胃内と体外を連通可能とするカテーテル本体と、前記カテーテル本体を瘻孔に固定する補助具を有して構成される胃瘻カテーテルであって、
前記カテーテル本体の外表面の少なくとも一部と、前記補助具の内面の少なくとも一部に、互いに螺旋状の一本あるいは数本の溝を有することを特徴とする胃瘻カテーテル。
【請求項2】
前記カテーテル本体の材料のショアー硬度が、30A以上、95A以下であることを特徴とする胃瘻カテーテル。
【請求項3】
前記カテーテル本体の材料がスチレン系エラストマーを含有してなることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の胃瘻カテーテル。
【請求項4】
前記補助具の材料がスチレン系エラストマーを含有してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の胃瘻カテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−158486(P2010−158486A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4090(P2009−4090)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】