説明

胆汁酸−キトサン複合体内部に疎水性抗癌剤が封入された剤形及びその製造方法

【課題】自己集合体を形成する胆汁酸−キトサン複合体及びその製造方法の提供。
【解決手段】本発明は、自己集合体(self−aggregates)を形成する胆汁酸−キトサン複合体及びその製造方法に関するもので、より詳細には疎水性胆汁酸、親水性キトサンで構成される水系で自己集合体を形成する胆汁酸−キトサン複合体及びその製造方法に関するものである。本発明の胆汁酸−キトサン複合体は、水系で自己集合体を形成して癌組織に対する選択性が高いだけではなく、薬物を長期間持続的に放出することができ、また自己集合体の内部に抗癌剤を追加的に添加して化学的結合で制限されている薬物含有量を増やすことができるため、癌に対する抗癌化学療法に有用に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己集合体(self−aggregates)を形成する胆汁酸−複合体及びその製造方法に関するもので、より詳細には、疎水性胆汁酸及び親水性キトサンからなり水系で自己集合体を形成する、胆汁酸−キトサン複合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗癌化学療法は、絨毛膜癌(choriocarcinoma)にメトトレキサート(methotrexate)を使用して完治効果を得ることで本格的に発達し、今日約50余種の抗癌剤が絨毛膜癌、白血病、ウィルムズ(Wilms)腫瘍、ユーイング(Ewing)肉腫、横紋筋肉腫、網膜母細胞腫、リンパ腫、菌状息症、睾丸癌などに投与されて良い治療効果を得ている。
【0003】
最近発癌及び癌細胞の特性に関する知識が、多くの研究によって明かされて新しい抗癌剤開発に関する研究が多く進行されている。大部分の抗癌剤は、細胞内遺伝因子の本体である核酸の合成を抑制したり核酸に直接結合してその機能を損傷させることで効果を示す。しかし、これら抗癌剤は、癌細胞だけではなく正常細胞、特に細胞分裂が活発な組職細胞にも損傷を与えるので、骨髄機能低下、胃腸管粘膜損傷、脱毛などの副作用を示す。
【0004】
癌に対する化学治療は、抗癌剤の副作用によって使用が非常に制限されている。先で説明したように抗癌剤の毒性が癌細胞だけではなく、正常細胞にも作用して現れる副作用のため、それを減らそうとする多様な研究が試みられている。その中で代表的な方法は、抗癌剤を高分子と結合させて使用することと、ミセル(micelle)あるいはマイクロスフェア(microsphere)を抗癌剤のキャリア(carrier)に使用するものである。
【0005】
最初の方法は、抗癌剤を高分子に連結させて抗癌剤−高分子複合体を作る方法である。抗癌剤の副作用の現れる理由は、その抗癌剤が癌組織に対してのみ効果的であるべき選択性が重複して正常細胞にも作用するからである。したがって、このような抗癌剤の副作用を減らすために癌組織に対してだけ効果的に抗癌剤を運ぶことができる方法が研究されてきた。その中で代表的なものとして、高分子キャリアを使用する方法が使用された。この方法は、抗癌剤−高分子複合体の体内分布が高分子キャリアの性質によって変わり、血漿内で抗癌剤の寿命が長くなり、また抗癌剤とキャリア間の化学的結合特性を調節することで抗癌剤の分泌を調節することができる長所がある。
【0006】
二番目の方法は、ミセルあるいはマイクロスフェアを抗癌剤のキャリアに使用する方法である。ミセルあるいはマイクロスフェア内部に抗癌剤を封入して抗癌剤が徐々に放出されるようにすることで、抗癌治療による副作用を最小化しようとするものである。これは、抗癌剤単独投与時に多量の抗癌剤が短い時間に放出、作用することによって起きる副作用を抑制しようとする試みとして、ミセルあるいはマイクロスフェアから抗癌剤が持続的に徐々に放出されて作用するようにするものである(非特許文献1)。
【0007】
最近は、抗癌剤の高分子キャリアとして多くの種類の高分子をより自由にデザインして使用している。また、抗癌剤を高分子キャリアに導入するにおいても、多くの有機反応を使用している。このような観点で多くの高分子が研究されている。その例として、ポリ(N−2−(ハイドロキシプロピル)メタアクリルアミド)(poly(N−2−(hydroxypropyl)methacrylamide)、ポリ(ジビニルエーテル−無水マレイン酸)(poly(divinyl ether−co−maleic anhydride))、ポリ(スチレン−コ−無水マレイン酸)(poly(styrene−co−maleic anhydride))、デキストラン(dextran)、ポリ(エチレングリコール)(poly(ethylene glycol))、ポリ(L−グルタミン酸)(poly(L−glutamic acid))、ポリ(アスパラギン酸)(poly(aspartic acid))とポリ(L−リジン)(poly(L−lysine))などがある。
【0008】
抗癌剤−高分子複合体方法を使えば、正常細胞とは異なる癌組織の病態生理学的な特性を利用して癌細胞を治療することができる。一般的に癌組織中の血管は、正常組職に比べて養分供給を多く受けるために正常組職よりたくさん生成され、その大きさも大きくてしまりがない構造を有している。また、リンパ管を通じた排出は、正常組職に比べて著しく低く、高分子の場合、他の組職や器官より癌組織にやや容易に浸透して、癌組織から容易に排出されない特徴的な現象であるEPR(enhanced permeability and retention)効果を示す(非特許文献2)。このような抗癌剤−高分子複合体を使用した試みの一つとして、現在2次臨床試験が進行中のN−(ハイドロキシプロピル)メタクリルアミド(N−(hygroxypropyl)methacrylamide(HPMA))−抗癌剤複合体がある(特許文献1)。
【0009】
また、特許文献2では、「自己集合体を形成する疎水性抗癌剤−キトサン複合体及びその製造方法」を開示している。これは、疎水性導入基として抗癌剤を使用して親水性キトサンと複合体を形成する技術である。ここで、使用する抗癌剤には、アミン(amine)基と反応が可能な抗癌剤だけが使用可能なので、使用可能な抗癌剤が相当に制限され、前記アミン基と抗癌剤との反応で抗癌剤の活性が減少する可能性がある。
【0010】
キトサンの前駆体であるキチンは、無脊椎の甲殻類を含む昆虫類の外皮成分、菌類の細胞壁などにたくさん存在し、N−アセチル−D−グルコサミンを反復単位にして(1→4)−β−グリコシド結合を成している天然高分子である。キトサンは、キチンを高濃度のアルカリで処理することで、N−脱アセチル化して製造される塩基性多糖類で、最近はキトサンが細胞吸着性、生体適合性、生分解性及び成形性などで他の合成高分子に比べて優秀であることが知られている。
【0011】
それで、本発明者等は、既存の抗癌剤伝達体が有している副作用を克服するために胆汁酸を親水性高分子に導入して自己集合体を形成して、前記自己集合体内部に疎水性抗癌剤を物理的に含むようにして、ミセルの多くの長所を含む胆汁酸−キトサン複合体を合成した。前記複合体が多量の疎水性抗癌剤を封入して胆汁酸とキトサン間の化学的結合特性を調節することで、抗癌剤の分泌を調節して癌組織に対する高い選択効果を明らかにすることにより本発明を完成させた。
【特許文献1】米国特許5,037,883(1991年)
【特許文献2】大韓民国登録特許第507968号
【非特許文献1】Pharm.Res.,1983年,第15巻,1844頁
【非特許文献2】Adv.Drug Deliv.Rev.,2000年,第65巻,271頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、自己集合体を形成する胆汁酸−キトサン複合体を提供する。
【0013】
また、本発明は前記胆汁酸−キトサン複合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明は薬物を長期間持続的に放出して癌組織に対する選択性を高めて抗癌剤含有量を大幅に増やすことによって、癌に対する抗癌化学療法に有用に使用できる自己集合体を形成する胆汁酸−キトサン複合体及びその製造方法を提供し、前記自己集合体を形成する胆汁酸−キトサン複合体は、抗癌剤をさらに含むことができる。
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明は、自己集合体を形成する胆汁酸(cholanic acid)−キトサン複合体を提供する。
【0016】
本発明の抗癌剤キャリアとしては、分子量が10〜10Daのすべての種類のキトサンが該当し、好ましくは、生分解性、生体適合性に優れた天然高分子である水溶性キトサン(chitosan)を使用することができ、より好ましくは、グリコール(glycol)基が導入されて水溶性が増大したグリコールキトサンを使用することができる。
【0017】
また、本発明の胆汁酸−キトサン複合体では、すべての胆汁酸が使用でき、好ましくは、下記化学式1の5−β−コラン酸(5−β−cholanic acid)を使用することができる。
化学式1
【0018】
【化1】

【0019】
本発明の胆汁酸−キトサン複合体は、胆汁酸の疎水性基とキトサンの親水性基による両親媒性によって水系でミセルと類似の球形自己集合体を形成することができる。
【0020】
また、本発明の胆汁酸−キトサン複合体の大きさは、1nm〜2,000nmであることが好ましく、10nm〜800nmの範囲であることがより好ましい。前記胆汁酸−キトサン複合体の大きさは、含有される胆汁酸の量によって決定され、胆汁酸は、1〜70重量部で含むことができる。
【0021】
また、本発明の胆汁酸−キトサン複合体は、抗癌剤をさらに含むことができる。
【0022】
本発明の胆汁酸−キトサン複合体の内部は、疎水性胆汁酸で成り立っていて、胆汁酸の一部親水性部分はキトサンと結合しているので、胆汁酸−キトサン複合体の内部は疎水性が非常に強い。これを利用して、胆汁酸−キトサン複合体の内部には疎水性抗癌剤が入って行きやすいので、胆汁酸−キトサン複合体内部に物理的に抗癌剤を含ませることができる。胆汁酸−キトサン複合体を構成する内部物質と内部に入る抗癌剤の性質が疎水性で非常に類似であるので、化学的結合では制限されている薬物含有量を増やすことができ、その効果が他のキャリアより非常に優秀である。
【0023】
前記本発明の胆汁酸−キトサン複合体の内部に物理的に含ませることができる抗癌剤として、すべての種類の疎水性抗癌剤を使用することができる。具体的な例として、アドリアマイシン、パクリタキセル、シス−プラチン(cis−platin)、ミトマイシン−C、ダウノマイシン(daunomycin)及び5−フルオロウラシル(5−fluorouracil)などを挙げることができる。本発明の抗癌剤を内部に含む胆汁酸−キトサン複合体の大きさは、1nm〜2,000nmが好ましく、より好ましくは10nm〜800nm範囲である。
【0024】
一般的に自己集合体は、親水性基と疎水性基を有した両親媒性分子が水溶液で会合して形成する球形集合体で、親水性基は球形集合体の外部に疎水性基は内部に集まるようになる(Adv.Drug Deliv.Rev.,1996年,第21巻,107頁)。したがって、疎水性を有する多くの抗癌剤を効率的に伝達する体系に広く使用されている。このような自己集合体を形成する両親媒性高分子を使用した薬物伝達方法は、標的細胞に対する選択性を充分に示しながら正常細胞への毒性を顕著に減らして、長期間薬物が持続的に放出されるようにする薬物伝達体系として、癌のような深刻な疾患を治療する新しい概念の治療法の研究に使用できる。
【0025】
したがって、本発明の胆汁酸−キトサン複合体は、一般低分子量の抗癌剤よりEPR(enhanced permeability and retention)効果によって、癌組織に対する選択性が高くてより多くの量が癌組織に蓄積されて効果的に抗癌作用を発揮することができる長所があり、主鎖に使用された親水性キトサンと結合した疎水性胆汁酸によって、水溶液でミセルと類似の球形自己集合体(self−aggregate)を自発的に形成して抗癌剤のキャリアとして標的指向的で、持続的薬物放出が可能な高い抗癌効果を発揮することができる薬剤として、癌などの疾患の治療に有用に使用され得る。
【0026】
また、本発明は、下記スキーム1で代表される
(a)親水性キトサンを水溶性溶媒に溶かしてキトサン溶液を製造する工程;
(b)疎水性胆汁酸を有機溶媒に溶かして胆汁酸溶液を製造する工程;
(c)前記胆汁酸溶液を前記キトサン溶液に滴下して反応液を製造して撹拌する工程;及び
(d)前記撹拌された反応液を透析して未反応胆汁酸を除去する工程を含む、前記胆汁酸−キトサン複合体の製造方法を提供する。
スキーム1
【0027】
【化2】

【0028】
工程(a)では、親水性キトサンを水溶性溶媒に溶かしてキトサン溶液を製造する。
【0029】
前記親水性キトサンは、抗癌剤キャリアとして分子量が10〜10のすべての種類のキトサン、好ましくは生分解性、生体適合性がすぐれた天然高分子である水溶性キトサン、より好ましくは、グリコール基が導入されて水溶性が増大したグリコールキトサンを使用することができる。前記水溶性溶媒では、親水性キトサンを溶かすことができるすべての水溶性溶媒が使用可能であり、好ましくは水を使用することができる。
【0030】
また、前記親水性キトサンは、水溶性溶媒100mlに対して830〜840mg添加することが好ましい。
【0031】
次に工程(b)では、疎水性胆汁酸を有機溶媒に溶かして胆汁酸溶液を製造する。
前記疎水性胆汁酸は、すべての胆汁酸類を使用することができ、好ましくは前記化学式1の5−β−コラン酸を使用することができる。前記有機溶媒では、疎水性胆汁酸を溶かすことができるすべての有機溶媒が使用可能であり、好ましくはメタノールを使用することができる。
【0032】
また、前記疎水性胆汁酸は、有機溶媒100mlに対して20〜260mg添加することが好ましい。
【0033】
次に工程(c)では、前記工程(b)で製造した胆汁酸溶液を前記工程(a)で製造したキトサン溶液に徐々に滴下して反応液を製造してそれを撹拌する。
【0034】
ここで、胆汁酸とキトサンを結合させるための触媒剤を使用することができ、前記触媒剤として1−エチル−3−(3−ジメチル−アミノプロピル)カルボジイミド(1−ethyl−3−(3−dimethyl−aminopropyl)carbodiimide;EDC)及びN−ハイドロスクシンイミド(N−hydrosuccinimide;NHS)の中の一つ以上を使用することができる。前記触媒剤としてEDCを使用する場合は、前記工程(b)で使用した胆汁酸に対して0.9〜1.1重量倍使用して、NHSはEDC使用量の1.4〜1.6重量倍使用することが好ましい。
【0035】
前記触媒剤を前記反応液に加えて5〜50時間撹拌することができ、反応時間が前記範囲を脱すると、胆汁酸とキトサンの結合が効果的に成り立たないこともある。
【0036】
また、本発明の製造方法は、前記工程(c)後、工程(c)の反応液に抗癌剤溶液を滴下して、抗癌剤を本発明の自己集合体を形成する胆汁酸−キトサン複合体内部に物理的に封入する工程をさらに含むことができる。
【0037】
前記胆汁酸−キトサン複合体内部に封入する抗癌剤として、すべての種類の疎水性抗癌剤を使用することができ、具体例としては、アドリアマイシン、パクリタキセル、シスプラチン(cis−platin)、ミトマイシン−C、ダウノマイシン(daunomycin)及び5−フルオロウラシル(5−fluorouracil)などを挙げることができる。ここで、抗癌剤を溶かす溶媒として、前記抗癌剤を溶かすことができるすべての溶媒が可能であり、好ましくはエチルアルコールを使用することができる。
【0038】
本発明の胆汁酸−キトサン複合体内部に抗癌剤を封入する物理的方法は、化学的結合時の最大封入率が10%程度に制限されているのと比べて、最大封入率が40%以上と非常に高くて化学的結合時の限界を克服して薬物含有量を大幅に増やすことができる。
【0039】
次に工程(d)では、前記で撹拌された反応液を透析して未反応胆汁酸を除去し、本発明の胆汁酸−キトサン複合体を製造する。
【0040】
前記透析は、通常の方法によって実施することができ、未反応胆汁酸が除去された反応液は、凍結乾燥工程をさらに経て、本発明の胆汁酸−キトサン複合体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するだけであって、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>胆汁酸−キトサン複合体の製造1
キトサンとして500mgのグリコールキトサンを60mlの水に溶かして、90mlのメタノールを加えてグリコールキトサン溶液を製造した。胆汁酸として260mgの5−β−コラン酸を100mlのメタノールに溶かした後、それをグリコールキトサン溶液に徐々に滴下した。次に、280mgの1−エチル−3−(3−ジメチル−アミノプロピル)カルボジイミド(1−ethyl−3−(3−dimethyl−aminopropyl)carbodiimide;EDC)と420mgのN−ハイドロスクシンイミド(N−hydrosuccinimide;NHS)を50mlのメタノールに溶かして反応液に加えた後、常温で24時間撹拌した。以後、前記反応液を2日間透析して未反応5−β−コラン酸を除去した後、凍結乾燥して本発明の胆汁酸−キトサン複合体を製造した。光散乱(図1)及び透過電子顕微鏡写真(図2)で胆汁酸−キトサン複合体が製造されたことを確認した。
【0043】
図1及び図2に示されたように、直径が200〜800nmの胆汁酸−キトサン複合体が製造された。
【0044】
<実施例2>胆汁酸−キトサン複合体の製造2
前記実施例1の過程の中で5−β−コラン酸の使用量及び触媒の使用量を変えて、すなわち、108.5mgの5−β−コラン酸を100mlのメタノールに溶かして、前記実施例1と同じ濃度のグリコールキトサン水溶液に徐々に滴下して、100mgのEDCと175mgのNHSを50mlのメタノールに溶かして反応液に添加することを除外して、残りの方法は、前記実施例1と同じく実施して本発明の胆汁酸−キトサン複合体を製造した。
【0045】
<実施例3>5−β−コラン酸−キトサン複合体の製造3
前記実施例1の過程の中で5−β−コラン酸の使用量及び触媒の使用量を変えて、すなわち、21.7mgの5−β−コラン酸を100mlのメタノールに溶かして、前記実施例1と同じ濃度のグリコールキトサン水溶液に徐々に滴下して、20mgのEDCと35mgのNHSを50mlのメタノールに溶かして反応液に添加することを除外して、残りの方法は前記実施例1と同じく実施して本発明の胆汁酸−キトサン複合体を製造した。
【0046】
前記の実施例1〜3のように使用した胆汁酸の量による胆汁酸−キトサン複合体での胆汁酸の含量変化を実験例1で確認した。
【0047】
<実施例4>5−β−コラン酸−キトサン複合体の製造4
前記実施例1と同様に本発明の5−β−コラン酸−キトサン複合体を製造した。但し、5−β−コラン酸とキトサンを6時間反応させた。
【0048】
<実施例5>5−β−コラン酸−キトサン複合体の製造5
前記実施例1と同様に本発明の5−β−コラン酸−キトサン複合体を製造した。但し、5−β−コラン酸とキトサンを12時間反応させた。
【0049】
<実施例6>5−β−コラン酸−キトサン複合体の製造6
前記実施例1と同様に本発明の5−β−コラン酸−キトサン複合体を製造した。但し、5−β−コラン酸とキトサンを18時間の間反応させた。
【0050】
<実施例7>5−β−コラン酸−キトサン複合体の製造7
前記実施例1と同様に本発明の5−β−コラン酸−キトサン複合体を製造した。但し、5−β−コラン酸とキトサンを48時間の間反応させた。
【0051】
前記の実施例4〜7のように胆汁酸とキトサンの反応時間による胆汁酸−キトサン複合体での胆汁酸の含量変化を実験例1で確認した。
【0052】
<実施例8〜12>パクリタキセルが物理的に封入された5−β−コラン酸−キトサン複合体の製造
本発明のパクリタキセルを内部に含む胆汁酸−キトサン複合体を製造するために、パクリタキセルが1%、3%、5%、10%または20%になるようにエチルアルコールに溶解した。本発明の胆汁酸−キトサン複合体5mgを水とエチルアルコールが1:1体積比で混合した溶液10mlに溶かして、その溶液に前記パクリタキセル溶液を徐々に滴下して、24時間徐々に撹拌した。24時間以後にすべての溶液を回収してエチルアルコールと胆汁酸−キトサン複合体内部に入ることができなかったパクリタキセルを除去するために、MWCOが3,500の透析膜で2日間透析(dialysis)した。透析後、溶液は凍結乾燥して本発明のパクリタキセルを内部に含む胆汁酸−キトサン複合体を製造した。
【0053】
<実験例1>製造条件による本発明の胆汁酸−キトサン複合体内の胆汁酸含量測定
前記実施例1〜7で胆汁酸の使用量または胆汁酸とキトサンとの反応時間を変えて製造した胆汁酸−キトサン複合体内の胆汁酸含量変化を下記のように測定した。
【0054】
5−β−コラン酸−キトサン複合体5mgを2%アセト酸溶液10mlに溶かした後、0.1%トルイジンブルー(toluidine blue)20μlを入れた。撹拌しながらN/400カリウムポリビニルサルフェート溶液(potassium polyvinyl sulfate solution)を一滴ずつ落とした。色が変化すると止めて入れた量を計算するコロイド滴定(colloidal titration)を使用して、5−β−コラン酸の含量を確認した。
結果は表1に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示されたように、上記製造時の使用胆汁酸量をかえて製造した上記実施例1〜3の胆汁酸−キトサン複合体では、使用した胆汁酸量が増加するほど生成された胆汁酸−キトサン複合体内の胆汁酸含量が増加した。また、胆汁酸とキトサンとの反応時間をかえて製造した実施例4〜7の胆汁酸−キトサン複合体では、反応時間が増加することによる生成された胆汁酸−キトサン複合体内の胆汁酸含量に変化がなかった。
【0057】
<実験例2>本発明の胆汁酸−キトサン複合体の封入率測定
本発明によって物理的に胆汁酸−キトサン複合体の封入率を測定するために、下記のように実験を行った。
【0058】
上記実施例8〜12で実際に使用したパクリタキセルの量に対する5−β−コラン酸−キトサン複合体内に封入されたパクリタキセルの量を利用して封入率を測定した。製造されたパクリタキセルを含む5−β−コラン酸−キトサン複合体の直径を測定する一般的な方法である光散乱(light scattering)を利用して測定した。
結果は、表2に示した。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示されたように、本発明の製造方法によって5−β−コラン酸−キトサン複合体を製造する時に使用したパクリタキセルの量が増加するにつれて、封入されるパクリタキセルの量が増加することを確認することができ、封入率が90%以上で化学的結合による封入方法と比べてその効率が非常に高いことを確認することができた。
【0061】
また、パクリタキセルの封入量が増加するにつれて、5−β−コラン酸−キトサン複合体の直径が増加することを確認することができた。
【0062】
<実験例3>5−β−コラン酸−キトサン複合体に含まれたパクリタキセルの放出程度測定
前記実施例11で製造した胆汁酸−キトサン複合体を水に2mg/mlの濃度で分散させた後、セルロース透析膜(分子量制限:12,000〜14,000)に500μlの胆汁酸−キトサン複合体溶液を入れて封入した後、水に浸した後、37℃で150rpmの速度で撹拌しながら経時的に放出液を取ってHPLCを使用してパクリタキセルの量を測定した。
結果は、図3に示した。
【0063】
図3に示されたように、時間経過によって放出されるパクリタキセルの量が増加して持続的な放出が起きることを確認することができた。
【0064】
<実験例4>パクリタキセルを含む胆汁酸−キトサン複合体の抗癌効果測定
前記実施例11で製造したパクリタキセルを含む胆汁酸−キトサン複合体の抗癌効果を測定するために、実験動物として黒色腫マウス(C57BL/6)を使用して下記のように実験した。
【0065】
マウス黒色腫皮膚(B16F10)癌細胞を移植した実験動物に、本発明による胆汁酸−キトサン複合体またはパクリタキセルを含む胆汁酸−キトサン複合体を20mg/kgまたは50mg/kgを21日間投与した後、実験動物の体重を測定した。その後、摘出した腫瘍の大きさを測定した。ここで、比較群としてパクリタキセルを含むクレモフォールEL(polyethoxylated castor oil derivatives、BASF社)を使用し、陰性対照群として食塩水を使用した。
結果は、図4及び図5に示した。
【0066】
図4に示されたように、食塩水のみを投与した陰性対照群の実験動物の腫瘍の大きさは、時間が経つにつれて増加し、本発明の胆汁酸−キトサン複合体、パクリタキセルを含む胆汁酸−キトサン複合体またはパクリタキセルを含むクレモフォールELを投与した実験動物の腫瘍の大きさは、9日を前後して大きさの変化がほとんど現れなかった。また、パクリタキセルを含む胆汁酸−キトサン複合体の投与量が高いほど腫瘍の大きさがあまり増加しなかった。
【0067】
体重に対する結果を示した図5でも図4と類似の傾向を示し、本発明によるパクリタキセルを含む胆汁酸−キトサン複合体で持続的にパクリタキセルが分泌されることによって持続的な抗癌効果を期待することができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
前記で詳しくみたように、本発明の胆汁酸−キトサン複合体は、自己集合体を形成して薬物放出時間を増やして癌組織に対する選択性を高めることができる。また、自己集合体の内部に物理的に抗癌剤を追加的に添加して化学的結合に制限されている薬物含有量を大幅に増やすことができるので、癌に対する抗癌化学療法に有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施例による5−β−コラン酸(cholanic acid)−キトサン複合体の水溶液での粒子サイズ及び分布を光散乱(light scattering)を使用して測定した結果を示したグラフである。
【図2】本発明の一実施例による5−β−コラン酸−キトサン複合体の透過電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の一実施例による抗癌剤としてパクリタキセルを含む5−β−コラン酸−キトサン複合体から抗癌剤が放出される程度を示した図である。
【図4】本発明の一実施例による抗癌剤としてパクリタキセルを含む5−β−コラン酸−キトサン複合体を投与した実験動物内の腫瘍の大きさの変化を示した図である。
【図5】本発明の一実施例による抗癌剤としてパクリタキセルを含む5−β−コラン酸−キトサン複合体を投与した実験動物の体重変化を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性胆汁酸と親水性キトサンからなり、水溶液で自己集合体を形成する胆汁酸−キトサン複合体。
【請求項2】
前記疎水性胆汁酸が、5−β−コラン酸であることを特徴とする、請求項1に記載の胆汁酸−キトサン複合体。
【請求項3】
前記疎水性胆汁酸が、1〜70重量部であることを特徴とする、請求項1に記載の胆汁酸−キトサン複合体。
【請求項4】
前記親水性キトサンが、グリコールキトサンであることを特徴とする、請求項1に記載の胆汁酸−キトサン複合体。
【請求項5】
前記親水性キトサンの平均分子量が、10〜10Daであることを特徴とする、請求項1に記載の胆汁酸−キトサン複合体。
【請求項6】
前記胆汁酸−キトサン複合体の直径が、10nm〜800nmであることを特徴とする、請求項1に記載の胆汁酸−キトサン複合体。
【請求項7】
前記胆汁酸−キトサン複合体内部に疎水性抗癌剤を追加でさらに含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の胆汁酸−キトサン複合体。
【請求項8】
前記内部に含まれる疎水性抗癌剤が、アドリアマイシン、パクリタキセル、シスプラチン、ミトマイシン−C、ダウノマイシン及び5−フルオロウラシルからなる群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の胆汁酸−キトサン複合体。
【請求項9】
(a)親水性キトサンを水溶性溶媒に溶かしてキトサン溶液を製造する工程;
(b)疎水性胆汁酸を有機溶媒に溶かして胆汁酸溶液を製造する工程;
(c)前記胆汁酸溶液を前記キトサン溶液に滴下して反応液を製造して撹拌する工程;及び
(d)前記撹拌された反応液を透析して未反応胆汁酸を除去する工程を含む、胆汁酸−キトサン複合体の製造方法。
【請求項10】
前記工程(a)の親水性キトサンが、グリコールキトサンであることを特徴とする、請求項9に記載の胆汁酸−キトサン複合体の製造方法。
【請求項11】
前記工程(a)の親水性キトサンの分子量が、10〜10Daであることを特徴とする、請求項9に記載の胆汁酸−キトサン複合体の製造方法。
【請求項12】
前記工程(a)の水溶性溶媒が水であることを特徴とする、請求項9に記載の胆汁酸−キトサン複合体の製造方法。
【請求項13】
前記工程(a)の親水性キトサンが、水溶性溶媒100mlに対して830〜840mg添加されることを特徴とする、請求項9に記載の胆汁酸−キトサン複合体の製造方法。
【請求項14】
前記工程(b)の疎水性胆汁酸が、5−β−コラン酸であることを特徴とする、請求項9に記載の胆汁酸−キトサン複合体の製造方法。
【請求項15】
前記工程(b)の有機溶媒が、メタノールであることを特徴とする、請求項9に記載の胆汁酸−キトサン複合体の製造方法。
【請求項16】
前記工程(b)の疎水性胆汁酸が、有機溶媒100mlに対して20〜260mg添加されることを特徴とする、請求項9に記載の胆汁酸−キトサン複合体の製造方法。
【請求項17】
胆汁酸−キトサン複合体内部に疎水性抗癌剤を封入する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項9〜16のいずれか一項に記載の胆汁酸−キトサン複合体の製造方法。
【請求項18】
前記内部に含まれる疎水性抗癌剤が、アドリアマイシン、パクリタキセル、シスプラチン、ミトマイシン−C、ダウノマイシン及び5−フルオロウラシルからなる群から選択されることを特徴とする、請求項17に記載の胆汁酸−キトサン複合体製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−527134(P2008−527134A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551197(P2007−551197)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際出願番号】PCT/KR2006/000130
【国際公開番号】WO2006/075881
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(507238137)コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (2)
【Fターム(参考)】