説明

能動的Qスイッチ・レーザの安定化

【課題】光学周波数変換された安定な出力が中で発生するキャビティ内非線形カプラを備えた能動的Qスイッチ・レーザを提供する。
【解決手段】利得変動不感性条件が規定され、いくつかの例について述べられる。この条件を満たす結合レベルを備えた非線形カプラは、たとえパルスがQスイッチによって短縮されるときでさえ最小限のパルス間相互作用を伴った安定なレーザ動作を可能にする。したがって、開示されるレーザの出力パルスの持続時間と繰り返し周波数はレーザの利得レベルおよび変化形態に実質的に関係なく広い範囲にわたって変えることができる。第2および第3高調波の光学周波数変換が実証されるが、しかし開示されるレーザは他の光学周波数変換領域に同様に応用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2005年3月29日に提出された米国特許出願番号60/666,646号、および2006年1月5日に提出された米国特許出願番号60/756,616号の優先権を主張するものであり、それらは本願明細書に参照で組み入れられる。
本発明は能動的Qスイッチ・パルス・レーザ(actively Q-switched pulsed laser)に関する。特に、周波数変換された光学出力を発生するキャビティ内非線形出力カプラを有する能動的Qスイッチ・パルス・レーザが開示される。さらに特定すると、本発明によれば、パルスの持続時間と繰り返し周波数の出力はレーザの利得とは実質的に無関係な広範囲にわたって変えられることが可能である。
【背景技術】
【0002】
回折限界付近のTEM00ビームおよび高い全体的効率を備えた高繰り返し数のダイオード励起型固体(DPSS)Qスイッチ・レーザ(Q-switched laser)は科学、セキュリティ、センシング、および材料処理の用途で広く使用される。すべてのケースで、波長、パルス・エネルギー、パルス幅、および繰り返し数の点から見て用途に対して調整されたレーザ出力を有することが望ましい。
【0003】
材料処理では、除去速度、切り口の品質、近傍への損傷といった重要な態様はこれらの変数すべてに強く依存して決まる可能性が高い。しかしながら、これらのパラメータの中で考え得る調整の程度はよく理解されている基本の物理学によって厳しく制約される。出力のパルス・エネルギーおよび繰り返し数は励起レベル、およびレーザ・システムから入手し得る全抽出可能パワーによって制限され、たとえ非線形周波数変換のような技術がこのパワーを比較的効率的に他の波長へと移すことが可能であっても制限される。
【0004】
レーザのパルス幅は物理的なレーザ・パラメータ(利得媒体、キャビティ往復時間など)および初期反転レベルによって決まり、これらは増強時間およびエネルギー抽出の変化形態(dynamics)を決定し、それゆえに通常ではパルス・エネルギーに強く結び付けられる。この制約は、さらに高いパルス繰り返し数へ進むときにさらに問題となり、なぜならば1パルス当たりで利用可能なエネルギーが削減され、一層長い増強時間、一層長いパルス、一層低い強度、および最終的には周波数変換における一層低い効率へとつながるからである。
【0005】
しかしながら、多くの用途については、パルス幅がパルス・エネルギーとは無関係に選択されることが可能となるようにこのパルス・エネルギー−パルス幅の制約を壊すことが望ましいであろう。もしも全体的なエネルギーもやはり保存されたならば、そのようなレーザは極めて適合性のある手段であり、広範囲の繰り返し数とパルス幅全域にわたって高い効率の周波数変換型レーザを可能にする。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,654,391号
【非特許文献1】J.E.Murray and S.E.Harris,「Pulse Lengthing via Overcoupled Internal Second−Harmonic Generation」,J.Appl.Phys.41,pp609〜613,1970
【非特許文献2】J.F.Young,J.E.Murray,R.B.Miles,and S.E.Harris,「Q−switced Laser with Controllable Pulse Length」,Appl.Phys.Lett.18,pp.129〜130,1971
【非特許文献3】P.Dekker,M.Dawes,and J.A.Piper,「2.27−W Q−Switced self−doubling Yb:YAB laser with controllable pulse length」,J.Opt.Soc.Am.B22,pp.278〜384,2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、広範囲の繰り返し周波数にわたって可変のパルス幅および高い効率を有する安定した出力を達成するためのレーザ、およびその動作方法を開示する。
【0008】
キャビティ内周波数変換型レーザは、類似した外部周波数変換型レーザに比べると他の波長への高度に効率的な変換、非線形結晶での削減されたピークおよび平均の強度、および削減されたパルス間ノイズ・レベルという大きな利点を有するが、通常、外部周波数変換を伴うレーザよりも長いパルスを示す。
【0009】
このパルスの長さは2つの効果、すなわち低い線形損失および非線形結合による強度クランピングに起因する。内部で(キャビティ内で)周波数変換されるレーザは通常では周波数変換効率を最大限にするように低い線形損失を有する。循環する強度が減衰すると非線形損失が減少し、それにより、パルスの減衰が引き延びる。この減衰の間では、エネルギーはまだ利得媒体から抽出されるが、しかし瞬間的な非線形効果は次第に低下し、それが全体的な効率を減少させる。全体的効率は非線形出力結合を上げることによって、しかし通常ではパルス幅をさらに一層増大させる犠牲を払ってのみ上げられることが可能であり、なぜならば増大した非線形結合は循環する強度およびエネルギー抽出率をさらに効果的に固定するからである。
【0010】
制御可能なパルス幅を有するレーザは様々な技術を使用して作製されてきた。最も初期のもののうち、MurrayとHarrisによって分析および実証されたように、増大した非線形光学(NLO)結合がパルス幅を長くするために使用された(J.E.Murray and S.E.Harris,「Pulse Lengthening via Overcoupled Internal Second−Harmonic Generation」,J.Appl.Phys.41,pp609〜613,1970;J.F.Young,J.E.Murray,R.B.Miles,and S.E.Harris,「Q−switced Laser with Controllable Pulse Length」,Appl.Phys.Lett.18,pp.129〜130,1971)。彼らは高調波周波数での最大強度が達成される第2高調波結合の最適レベルを判定した。低調波結合レベルについては、パルス幅はほぼ一定である。最適レベルを超える高調波結合については、さらに大きいNLO結合が循環する強度を効果的に固定し、したがって効率の損失を伴なわずにパルスを長くする。しかしながら、この技術はパルスの伸長を作り出すことだけが可能であり、非線形の材料温度または角度はミリ秒の時間規模で調整されるはずであるので比較的遅いパルス調節メカニズムだけを提供する。
【0011】
最近の研究は、同様の効果を達成するために自己倍加レーザ利得媒体を利用してきた(P.Dekker,M.Dawes,and J.A.Piper,「2.27−W Q−Switced self−doubling Yb:YAB laser with controllable pulse length」,J.Opt.Soc.Am.B22,pp.278〜384,2005)。
【0012】
本願明細書で開示される発明は、パルスの立下りエッジのQスイッチ・クリッピングに関する以前の特許(Adams、米国特許第6,654,391号)を上回る向上を導入する。Adams特許の主目的は、周波数変換されたパルスの大多数が終わった後にQスイッチを閉じることであって、それにより、別の場合では基本波長パルスの立下りエッジによって抽出されていたであろうエネルギーのいくらかの画分を利得媒体内に留める。
【0013】
したがって、さらに多くの貯蔵エネルギーおよび利得が後に続くパルスのために利用可能であり、結果としてさらに高い強度の基本パルス、さらに高い変換効率、および変換波長でのさらに多くのパワーにつながる。わずかなパルス短縮もやはり可能であり得るが、しかしAdams特許が記述しているように、Qスイッチのウィンドウが短くなり、パルスの立下りエッジの中へと大幅に縮まり始めるにつれて、パルス幅は不安定になる。
【0014】
この不安定性は通常ではパルス列の周期増倍の形をとり、それにより、等しいエネルギー/強度のパルスの列を有するのではなくパルスは高エネルギーと低エネルギーとの間で切り換わり、それらの間の差異はQスイッチによる立下りエッジの短縮の程度に応じて決まる。したがって、Adams特許の方法は大幅なパルス短縮を達成するために使用することができない。
【0015】
Qスイッチ・レーザのパルス幅を制御するための別の理論的に可能な技術は、レーザ・キャビティの利得とエネルギー抽出の変化形態による、平常のパルス・セットの終結の前に終了する積極的なQスイッチ・ウィンドウの使用である。Qスイッチが開いてパルスの増強が始まるとその後、Qスイッチはいくつかのポイントで高損失状態へと戻されて循環強度を速やかに減少させ、パルスの立下りエッジを効果的に削り取るであろう。これは、電気−光学的多様性と音響−光学的多様性の両方を含めて多くの異なるタイプのQスイッチを使用して実施することができる。
【0016】
パルス繰り返し周波数(PRF)が1/(上位状態存続時間)よりもはるかに低い低繰り返し数のレーザについては、このパルス短縮技術はパルスを効果的に短縮することが可能である。この方法はパルス短縮を伴わない自由継続レーザに比べるとある程度の効率費用を有するが、しかし貯蔵エネルギーが利得媒体に取り残されるので、長い再励起時間は取り残されたエネルギーが後に続くパルスによる使用のために利用可能になるであろうことが殆ど無いかまたは全く無いことを確実化する。
【0017】
1/(上位状態存続時間)よりもはるかに高いPRFではパルスの短縮ははるかに有利である可能性が高いが、しかしまた一層複雑である。利得が損失レベルよりも下に低下する前にパルスがQスイッチによって短縮されるのでパルスの立下りエッジの削り取りは短縮パルスの後方に取り残された残りの正味利得が後に続くパルスによって経験されることを可能にするが、なぜならばパルス間の時間は利得媒体の寿命よりもはるかに少ないからである。内部で周波数変換されるレーザについては、パルスの非線形光学(NLO)変換効率の尾部が削り取られ、その貯蔵エネルギーが後に続くパルス内のさらに高い強度と効率での変換のために保存されるので、これは原理的には大きな利点である。
【0018】
しかしながら実際面では、内部で周波数変換されるレーザに関する、ある面では魅力的なこの方式は、通常、固有の安定性の限度に突き当たる前の最小限のパルス短縮および中程度の効率の改善を可能にするだけである。Qスイッチのウィンドウ(パルスの増強と短縮の開始の間の時間)が次第に小さくなり、一層多くの利得がパルスの短縮後に取り残されると、パルス間の連絡のためのメカニズムが進展し、これがパルス列を急速に不安定化させる。したがって、Qスイッチのパルス短縮が有用な技術となるためにはこの利得介在型の不安定性の問題への解決策が必要である。
【0019】
レーザの変化形態に関する単純なモデルは、パルス列の短縮によってパルス長が変えられるときに生じる安定性の問題点を具体的に示す。この単純なモデルは純粋に線形の、すなわち非線形出力結合ではないレーザに関するものであるが、しかし線形および非線形出力結合レーザの両方で生じ得る安定性の課題を例示することに役立つ。高いPRF限界の線形レーザの中の循環するパワーPおよび利得gに関して2つの式(1)および(2)を考える。簡略化するために、パルス期間中の利得媒体の再励起がパルスの変化形態の判定に関して無視され得るほどにパルスが十分に短いと仮定する。
【0020】
【数1】

【0021】
【数2】

【0022】
このモデルに含まれるレーザ・パラメータはキャビティ往復時間TRT、キャビティ損失l、および利得媒体の飽和強度およびキャビティ・モードの利得媒体との相互作用(通過数、モード・サイズなど)に応じて決まる実効利得媒体飽和エネルギーEsatである。
【0023】
基本的には、レーザ・パルス列の安定性に関する最低条件は、特定のパルスでの小さな(例えば利得の)摂動が後に続くパルスへの影響で増幅されないことを必要とする。もしもそのような増幅が起きれば、その摂動は最終的には周期の倍増といった望ましくない挙動につながる可能性が高い。もしも循環する強度がパルス中に活発で短いQスイッチのウィンドウによって短縮されれば、上記の対になった式で述べられるレーザはそのような不安定性を示す。下記で述べられるようにパルス列を安定化させるために苦労が為されない限り、同じ挙動が内部で周波数変換されるQスイッチ・レーザに起きる。
【0024】
図1a、1bは先行技術によるキャビティ内のパワーと利得レベルの例を、2つのわずかに異なる初期利得条件について対になった式の数値解によって計算される時間の関数として示している。強度は初期利得レベルによって設定される速度で増強し、利得媒体からエネルギーを抽出し、そして最後には利得レベルが最終的にキャビティ往復損失レベルよりも下に落ちると減衰する。図1の追加の曲線は、2つの初期条件についてパルスの増強を開始するためにQスイッチが開けられた後の時間Tでの瞬間的利得差を示している。初期利得差はパルスの増強を通じて殆ど一定に留まるが、しかしいったん大幅なエネルギー抽出が始まると、パルス持続時間の大部分に関してはるかに大きな利得差が存在する。循環する強度が減衰し切るとその後、瞬間的利得差は時間t=0での初期利得差よりも低い値へと低下する。
【0025】
ここでQスイッチが時間Tに高損失の状態に戻されたと仮定すると、その時間に存在する利得差を調べることによって安定性への影響を推論することが可能である。パルス強度が減衰し切って大幅に後に時間Tが生じる場合、どのような摂動も時間内に、しかし緩やかに減衰し切るであろうから時間Tでの利得差は常に元々の利得レベル以下であり、レーザは少なくとも辛うじて安定であろう。しかし時間Tがパルス立下りエッジに入り込むとすぐに、時間Tでの利得差は入り口の利得差よりも大幅に大きくなる可能性が高い。そのとき、どのような利得の変動も後に続くパルスへのそれらの影響で増幅されるであろう。t=0での初期利得差に対するQスイッチが閉じる時間t=Tでの利得差の比を小さい利得変動の制限内に規定すると、パルス短縮を伴なったパルス列の安定が式(3)による最低条件を必要とすることが分かる。
【0026】
【数3】

【0027】
式3での量が1未満であるとき、どのような利得の変動も後に続くパルスへのそれらの影響に減衰を受け、量が少ないほど一層急速にどのような変動も減衰されてレーザはさらに安定になるであろう。
【0028】
図1cの利得差の曲線を調べると、式(3)の状態はパルスよりもはるかに長い時間t=Tでは合致するが、しかしパルスがQスイッチによって大幅に短縮されると妨害される。結果として、最小限のパルス短縮および制御だけがQスイッチを使用してパルス列の不安定化を伴なわずに可能である。
【0029】
これは、以下の方法で繰り返しQスイッチングされるレーザでは直観的に理解することができる。余分の利得が最初のパルスに関して利用可能であり、それが一層急速に増強し、一層多くの貯蔵エネルギーを抽出することで後に続くパルスにとって利用可能な利得をあまり残さない。一層少ない利得に出くわすことで、その第2のパルスは一層緩やかに増強し、一層少ないエネルギーを抽出することでさらに大きい第1の大パルスに関して正しい初期条件を残す。
【0030】
図2aおよび2bはこの不安定性になりがちである先行技術によるレーザでのパルス幅に対するQスイッチ短縮時間の影響の数値シミュレーションの結果の例を示している。Qスイッチのウィンドウ(時間0での開と時間Tでの閉との間の時間)が小さくされ、かつパルスの立下りエッジを削り取り始めると、パルス・エネルギー(図2a)およびパルス幅(図2b)の分岐が生じ、それにより、パルス列は交互に替わる大きいパルスと小さいパルスを有する。ウィンドウがさらに閉じられると小さいパルスのエネルギーは急速にゼロへと進み、それにより、レーザはQスイッチの事象を切り換えることに関するだけの閾値に到達し、繰り返し周波数は半減される。
【0031】
そのような挙動は、Qスイッチのゲートが小さくされるときの高い繰り返し数の線形および非線形の出力結合型のレーザで観測することができる。実際では、パルスの安定性はQスイッチのウィンドウの幅に関する実際の下限を設定し、活発なQスイッチ短縮がパルス幅制御にとって有用な技術となることを妨げる。
【0032】
大きな利得差およびその結果となる不安定の原因は主にパルス間のタイミングの遅れである。パルス強度の包絡線および利得の挙動は図1a〜1cにプロットされた2つの曲線に関してそれほど違わない。もしもそれらが時間内に適切に重複するように何らかの形でずらされることが可能であれば、式(3)の安定条件は任意の時間Tでの短縮化に関して条件を満たし得る。パルスのタイミングは主に増強時間によって決定され、それはパルスの開始時に利用可能な利得に反比例する。
【0033】
最終的に、(パルス期間中の)エネルギー抽出が全体的増強時間に相対して短い時間的規模で生じ、それにより、増強時間中の小さな変動がパルスのタイミングに十分なずれを生じさせて大きな利得相違を残すために安定性の問題が生じる。もしも増強時間が大幅に短ければ(すなわち、もしもQスイッチが開くときに循環強度が巨視的であれば)、どのような利得変動も極めて小さいタイミングのずれを生じるであろうからパルスの短縮化に対抗する安定性は大幅に増進されるであろう。
【0034】
しかしながら、Qスイッチが開く前にそのような安定で増進された循環強度を達成することはレーザの閾値強度付近を前提とすると困難である。Qスイッチングされるパルスの前に循環強度を上げるために予励(pre-lasing)およびインジェクション・シーディング(injection seeding)といった技術が使用可能であるが、しかし両方共に重大な制限(単一周波数レーザ、リング・レーザなど)を有する。
【0035】
パルスのタイミングがパルスの不安定の唯一の原因ではないことに留意する価値がある。存在する場合、高次の横モードもやはり後に続くパルスへと結合することが可能であり、同様の周期倍増の不安定を生じさせることが観測されている。それゆえに、ここでは主に単一の横モード・レーザへの分析が当てはまる。
【0036】
本願明細書に開示される発明はパルスの短縮に対して直観で分かり得ない手法をとる。内部で周波数変換されるレーザで非線形の出力結合を増大させることは通常では結果として一層長いパルス長につながり、他のすべての事項は同等であるが、それは強度が低下させられ、利得媒体からのエネルギー抽出が遅くなるからである。しかしながら、非線形の出力結合を増大させることはまた大きな効果をやはりもたらす。
【0037】
本願明細書に開示される発明による追加的な非線形結合は、別の方法ではパルスの不安定を引き起こすであろうQスイッチのゲート幅の減少に対抗してパルスをさらに安定にする。増大した非線形出力結合の結果として、ゲート幅はそのとき大幅に、利得媒体からのエネルギー抽出の変化形態のみによってではなく主に増強時間とQスイッチのゲート幅によってパルス幅が決定されるポイントへと削減されることが可能である。エネルギー抽出の変化形態がパルス幅を決定することがもはやないので、非線形結合と利得の変化形態を最適化することによって可能となるそれよりもはるかに下へとパルス幅が減らされることが可能である。これはレーザ・パラメータ単独の変更を通じて達成可能であるよりもはるかに短いパルスを伴った全く新しいパルス幅領域(regime)でのキャビティ内周波数変換型レーザの動作を可能にする。
【0038】
本発明の一態様による条件がここで検討され、その条件下ではレーザは前に提示された安定性の問題を克服し、パルスの短縮を可能にし、パルス・エネルギーとパルス繰り返し数からのパルス幅(等価的にパルス持続時間)の切り離しを可能にする。
【0039】
この発明への手掛かりは、時間Tでパルスが短縮され、循環強度が減衰し切った後の利得媒体内の利得の残留レベルであってパルスの増強が始まる前に利得媒体内に存在した初期利得の値とは無関係である残留レベルを達成するように非線形結合を適切に選択することである。このポイントを利得変動不感性の非線形結合レベルとして規定する。理想的な利得変動不感性の条件下では、式(3)の量はパルス強度のピークの後のすべての時間Tの値についてほぼゼロであり、それにより、パルス列は周期倍増といった挙動に対抗する最大限の安定性を有し、不安定を生じさせることなく積極的なパルス短縮を可能にする。しかしながら式3から明らかなように、式3の量の絶対値が1未満である限り理想的な利得不感性条件付近の非線形出力結合レベルのある程度の範囲にわたって安定したパルス短縮レーザの動作が可能である。したがって、理想的な利得変動不感性条件付近での動作は本発明によって与えられる効果を達成するために十分である。
【0040】
本発明および必要な利得変動不感性条件を説明して具体的に示すために下記で提示される分析的および数値的モデルは明瞭化のために必然的に単純化されるので、それらはレーザ動作のすべての態様を捕捉していない。例えば、この単純化されたモデルは空間的利得飽和効果を含まず、それに代わって一定の実効飽和エネルギーを使用してパルスのエネルギー抽出の挙動を説明している。同様に、高い強度と高い初期利得での変換周波数の飽和といった周波数変換処理での複雑な効果は含まれていない。例えば1往復当たり100%変換よりも大きいと予測する極めて高い循環強度を多数の非理想的効果の領域の中に押し込めると、この単純なモデルは利得変動不感性挙動の予測に関して明らかに不適切であろう。
【0041】
しかしながら、利得変動不感性の非線形出力結合条件が初期利得値の広くかつ実用的な範囲にわたって数値計算によって明らかに識別可能であり、そこではさらに複雑な効果はレーザ・パルスの挙動を支配しないことを実証する。実際では、理想的な非利得依存性条件付近の範囲全域にわたって安定な動作が達成可能であることを前提とすると、非利得依存性条件付近で動作することの効果は、単純なモデルに含まれるそれらを超えた影響が重大になる場合でさえもある程度得られることが可能であろう。この理由として、単一のレーザがいくつかのパルス繰り返し数で利得変動不感性の非線形結合の効果を達成可能である一方でその他のパルス繰り返し数ではこれらの種類の付加的効果に起因して効果を達成しないこともやはりあり得る。
【0042】
増強および減衰の局面の中でのパルスの挙動は第2高調波発生のケースに関して分析的に述べられることが可能であり、それは利得不感性およびパルス列の安定に必要な条件を当業者が見積もることを可能にする。後に続く多数の分析はその条件をさらに正確に展開するであろう。
【0043】
非線形出力結合させられた第2高調波発生レーザについて利得変動不感性条件を分析的に見積もるために、循環パワー(第2高調波発生)の二乗に比例する出力結合の追加以外は上記と同じ複数パラメータを使用する。このレーザの出力は第2高調波であり、線形キャビティ損失は当該技術で知られているように最小限にすることができるので、線形損失は無視されることが可能である。したがって、式1および2はそれぞれ式4および5に書き直すことができる。式4はαを含み、それは第2高調波発生による非線形結合の大きさを決定する。
【0044】
非線形結合させられた第2高調波発生レーザについて利得変動不感性条件を分析的に見積もるために、循環パワー(第2高調波発生)の二乗に比例する出力結合の追加以外は上記と同じ複数パラメータが使用される。このレーザの出力は第2高調波であり、線形キャビティ損失は当該技術で知られているように最小限にすることができるので、線形損失は無視されるであろう。したがって、式1および2はそれぞれ式4および5に書き直すことができる。式4はαを含み、それは第2高調波発生による非線形結合の大きさを決定する。
【0045】
【数4】

【0046】
【数5】

【0047】
式(4)と(5)に規定される第2次の非線形システムは解のワン・パラメータ・ファミリ(one-parameter family)を有し、それらは式(6、7)に表わされるように閉鎖形式で書くことができる。
【0048】
【数6】

【0049】
これらの正確な解は、時間が積分定数Tへと戻るにつれてパワーと利得が際限なく増加するという点で物理的ではない。しかしながら、SHG結合αがTRT/Esatと比較して大きい場合、この特定のファミリは望ましい解の減衰挙動に漸近的に近づく。
【0050】
減衰の間では利得は非線形損失よりも少なく、それにより、g<αPである。この特定のファミリはg=(α−TRT/Esat)を有し、したがってこれらの解は減衰時に(α−TRT/Esat)P<g<αPを満たす。もしもα>>TRT/Esatであれば、これらの解は密に近接し、減衰期間中の特定の解にほぼ等しい。2つの初期条件、すなわち小さいノイズ・パワーPinitialおよびある程度の有限の利得gが当てはまり、これらは正確な漸近減衰曲線についてTを決定するであろう。
【0051】
パルスの増強の間ではパワーは式(8)に表現されるように指数関数的に増加する。
【0052】
【数7】

【0053】
したがって利得はほぼ一定である。
【0054】
増強と減衰との間にはパルスのピーク部分(立ち上がりの最後の部分と減衰の最初の部分)があり、ここでは微分方程式のすべての項が重要であって一般的公式は利用できない。幸いなことに、このピークの持続時間は短く、パルス展開のこの部分の間では相対して殆ど利得は消費されない。したがって、最も単純な近似に対して増強および減衰の挙動は式(9)に表現されるように直接一致させられることが可能である。
【0055】
【数8】

【0056】
ここでPはピーク・パワーである。減衰の挙動から、ピークの時間はほぼ次の通りである。
【0057】
【数9】

【0058】
ここでTはここでもやはり特定のファミリの自由パラメータである。
【0059】
概して、このつながり(tに関する2つの表現)はg、Pinitial、およびレーザ・パラメータα、Esat、TRTに対するTの依存性を示す。ここで、Tは初期の利得gと無関係であるという強力な条件が課され、それにより、すべてのパルスはパルスの前の初期の利得と無関係の同じ曲線に沿って減衰する。これは、最終の利得の挙動が初期の利得と無関係であること、およびパルス間の連絡もしくは相互作用があり得ないことを確実化する。そのケースではTはあらゆる点で等しくゼロであり、それは以下を示す。
【0060】
【数10】

【0061】
利得変動不感性条件を達成するための非線形出力結合の値αgfiはQスイッチが開く前のキャビティ内を循環する初期強度に応じて決まり、高い非線形結合ほど低い初期強度レベルを必要とする。殆どすべてのQスイッチ・レーザでのプレパルス循環用パワーはピーク・パワーよりも多数桁下であるので、大括弧の中の因数は1よりもはるかに大きく、「−1」の項は無視することができる。
【0062】
非線形出力結合型のピーク・パワー、パルス幅、および効率の分析の中でMurrayとHarrisは最適の結合ポイントαを判定した。
【0063】
【数11】

【0064】
そこでは最も高い高調波ピーク・パワーが達成され、効率は最大値に近く、パルス幅は最小値を上回ってわずかの画分しか増加しなかった。非線形出力結合はMurrayとHarrisによって判定された最適値を超えて上げられるので、パルス幅がさらに長くなるのみであろう。この値を下回る非線形結合については、非線形出力結合型第2高調波発生レーザのパルス幅は、出願人らが本願明細書で、同じパラメータ(変えられている非線形結合を除く)を有するレーザによって達成可能な特性的最小パルス幅として規定している値でほぼ一定である。
【0065】
MurrayとHarrisの先行技術に開示されたような高調波ピーク・パワーに関して最適化された非線形結合値に比べると、利得変動不感性条件が通常では何倍も(20台の倍数)大きい非線形出力結合を必要とするであろうことが分かる。
【0066】
利得変動不感性条件を達成するために必要とされるこの著しく大きな非線形結合の結果として、本願明細書に開示される自由継続パルスの幅(パルス短縮を伴なわない)は最適に非線形結合させられるケースよりもはるかに長いであろう。しかしながら、増進されたパルス列の安定性が理由で、開示されるレーザは今ではパルス立下りエッジのQスイッチによる削り取りに対して安定となり、出力パルス幅の劇的な短縮化が可能であろう。したがって、利得変動不感性条件で動作し、かつパルス短縮を使用するレーザはMurrayとHarrisによって識別された特性的最小パルス幅よりもはるかに短い出力高調波波長パルスを発生させることが可能であろう。
【0067】
最大のパルス列安定の条件へのさらに詳細な研究はピーク非線形変換の領域を通じて増強をパルスの減衰につなげるための多数の対になった式のシミュレーションを必要とする。別の実施形態のシミュレーションでは、以下の節で提示される実験結果に近いモデルに対してEsatは3mJであると見なされ、TRTは5nsであると見なされ、初期のノイズ入力は10μWであると見なされる。
【0068】
図3は、先行技術でMurrayとHarrisによって判定されたような最大高調波ピーク・パワーに関するα=0.00166/kWの「最適」非線形結合レベルを適用している間のいくつかの入力利得レベルについて循環赤外パワー強度および利得を時間の関数として示している。これらの条件については、非線形結合レベルは利得変動不感性に必要とされる値よりもはるかに少ない。
【0069】
さらに高い初期利得を備えたパルスはさらに短時間でそのピーク強度に達して減衰し、強度ピークの後にパルスが短く削り取られる場合には大きなパルス後の利得差およびパルス列の不安定につながる。
【0070】
利得変動不感性条件α=0.035/kW付近での非線形結合のレベルが本発明に従って使用される。このレベルは時間内の曲線のオーバーレイを観察することによって経験的に判定される。比較のために、P=10kWおよびPinitial=10μWを使用すると式(11)はα=0.033/kWを予測する。4aから4cは本発明に従ってキャビティ内第2高調波出力を発生するレーザに関する数値シミュレーションの結果を、0.0175/kW(4a)、0.035/kW(4b、利得変動不感性条件)、および0.070/kW(4c)の非線形結合の値αについていくつかの初期利得レベルに関して時間の関数となる循環強度および利得のグラフで示している。
【0071】
図4bに示される利得変動不感性条件で予期されたように、個々の利得曲線は図示された初期利得値の大幅な違い(約5倍)にもかかわらず強度ピークのわずかに後の時間で単一の普遍的な曲線へと陥る。強度曲線もやはり短時間後に同様の普遍的な曲線へと陥る。線形損失および再励起が含まれれば同じ基本的挙動が生じるが、しかし低い初期利得値では線形損失の一層大きな相対的重要性に起因して同一曲線からのある程度の逸脱が観察される。非線形結合が利得変動不感性条件から2倍減少および増加させられる図4aおよび4cは、式(3)で示されるように理想的な条件付近のいくらかの範囲にわたって安定が達成され得ることを例示している。図3に例示されるさらに通常的な先行技術の状況とは違って、パルス強度ピークの後に利得の大きな差異は現れない。
【0072】
パルスの立下りエッジがQスイッチによって削り取られ、かつパルスの後に有意の利得が取り残されるとき、バックグラウンドの利得レベルは上昇するであろう。この利得レベルが上昇すると増強時間が短縮され、ピーク強度が増大し、結果として高調波への変換効率が増大するであろう。Qスイッチが開いている期間中に非線形変換によって抽出されるパワーが関連する繰り返し数で利用可能なパワー/パルスと同等(線形キャビティ損失から失われるいずれかの付加的パワーを法として)まで増大すると、新たな平衡が達せられるであろう。
【0073】
個々のパルス・エネルギーからのバックグラウンド利得レベルのこの切り離しはレーザの動作に関して大きな意味合いを有する。パルス短縮を伴わないレーザについては、正味の利得すべてが各々のパルスによって抽出されるので増強、ピーク強度、および非線形変換の効率はその特定のパルスによる使用のために利用可能なエネルギー(利得)によって設定される。そのような内部で周波数変換されるレーザの繰り返し数が増加すると、高調波での出力パワーは通常では低下するであろう。
【0074】
対照的に、増大したバックグラウンド利得レベルを備えたパルス短縮型レーザは原理的にはPRFが増加するときに同じプレパルス利得レベルを保つことが可能であり、ピーク強度、非線形変換の効率、および高調波波長での全体的レーザ出力パワーを持続する。それゆえに、短縮型パルスの動作は、特に高いPRF値において有意のPRF非依存性を可能にするはずである。
【0075】
循環強度の周期的なキャビティ・ダンピングがエネルギーを無駄にするので、この技術の有効性には明らかにいくつかの制約がある。キャビティ・ダンピングは頻繁に起こり、かつ循環強度を上げると各キャビティ・ダンピング事象と共にさらに多くのパワーが無駄にされるので、この損失は繰り返し数に伴なって増大する。
【0076】
この利得変動不感性条件を理解する別の直観的方法は、Qスイッチのウィンドウの幅に関係なく同じ残留利得を残すために各々のパルスが正確に適量のエネルギーを自動的に除去することを理解することである。したがって、どのような摂動も1つのパルスによって取り除かれ、後に続くパルスへの影響を有さない。
【0077】
第3高調波発生のための利得変動不感性非線形結合のケースは分析学的分析にとってそれほどたやすいものではなく、それゆえに数値的方法によって調べられなければならない。前の数値例と類似しているが、ここでは第2高調波と第3高調波の発生項を両方含むパラメータでレーザをモデル化するが、それにより、付加的な非線形変換段を説明する式13で式4が置き換えられなければならない。第2および第3高調波の波長で作り出されるすべての放射がレーザ・キャビティから出力結合させられることに留意すべきである。
【0078】
【数12】

【0079】
式13では、αはここでもやはり第2高調波の非線形結合であり、βはここで基本波および第2高調波から第3高調波への結合のレベルを設定する。第3高調波発生のこの単純なモデルについては、非線形出力結合の利得変動不感性のレベルは図8a、b、およびcに例示されるように数値シミュレーションによってはっきりと識別されることが可能である。図8bの利得対時間の曲線は、前に調べられた第2高調波発生のケースについて観察されたように基本強度ピークの直後で利得曲線が「普遍的な」利得減衰曲線に交わるときに利得変動不感性の非線形出力結合が達成されたことを示している。このケースでは、第2高調波結合係数と第3高調波結合係数の両方が利得の挙動に影響を及ぼすので利得変動不感性条件に関する単一のパラメータは存在しない。図8bに示された利得変動不感性条件の例についてはα=0.0175/kWであり、その一方でβ=0.2/kWである。図8aおよび8cは2倍減少したアルファ(α=0.00875)および増大したアルファ(α=0.035)を伴った同じレーザを示している。したがって利得変動不感性の動作は第3高調波発生による非線形出力結合のケースで達成可能であり、同様の方法での活発なQスイッチでのパルス短縮によるパルス幅の削減を可能にするであろう。
【0080】
本発明によって有効化されるレーザが多くの異なる用途に使用され、本発明の範囲内に留まりながら多くの方法で改造されることが可能であることは気付かれるはずである。本発明によって有効化されるレーザは材料処理、科学、医学、遠隔操作、およびセキュリティの用途に使用可能である。レーザの特定の部分、例えば、固体、液体、またはイオンといった利得媒体のタイプ、およびレーザに使用される別々になった利得媒体の数は変えられることが可能である。非線形周波数変換を達成するために使用される非線形材料のタイプまたは別々になった非線形材料もしくは結晶の数は変更可能である。レーザからの出力結合の後に有効化されたレーザ出力ビームの外的な周波数変換が、レーザ放射の周波数をさらに変えるために使用されることが可能である。レーザ・ダイオード、ランプ、または放電を含むように励起の方法は変更可能である。単一およびマルチの横モード・レーザの両方、並びに単一またはマルチの縦モード・レーザが本発明を使用して構築されることが可能である。最後に、パルス増強時間および利得非依存性条件を変えるために本発明と併せてシーディング(seeding)技術が使用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0081】
本発明は、内部で光学的な周波数変換された安定な出力が作り出されるキャビティ内非線形カプラを備えた能動的Qスイッチ・レーザを開示する。利得変動不感性条件が規定され、いくつかの例に関して説明される。この条件を満たす結合レベルを備えた非線形出力カプラは、Qスイッチによってパルスが削り取られるときでさえ、パルス間の最小限の相互作用を伴う安定なレーザ動作を可能にする。したがって、開示されるレーザの出力パルスの持続時間および繰り返し周波数はレーザの利得レベルおよび変化形態と実質的に関係なく広範囲にわたって変えることができる。第2および第3高調波の光学的周波数変換が実証されるが、しかし開示されるレーザは他の光学的周波数変換領域にも同様に応用可能である。
【0082】
本発明の例示的な特徴がここで添付の図面と結び付けて述べられるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0083】
図9は、第2高調波発生領域で動作するキャビティ内非線形出力結合型レーザでの利得変動不感性、パルス幅可変性、および良好なPRF非依存性を実験的に確認するために使用されてきたそれに類似した本発明の好ましい実施形態を概略で示している。
【0084】
このレーザの共振キャビティは、3ミラー屈曲式構造を利用する。一方の端部ミラー90はレーザの基本周波数で高い反射率を有する。屈曲用ミラー95は基本周波数で高度に反射性であるが、しかし作り出された関連の光学的高調波すべてで高度に透過性である。他方の端部ミラー100は基本周波数ならびに高調波周波数の両方で高度に透過性である。
【0085】
実験に使用され、基本光学周波数のみの経路内で端部ミラー90と屈曲用ミラー95との間に配置されるNd:YAG二重ロッドといった利得媒体96が、6個の半導体レーザ・ダイオード・バーで構成されて240Wのパワーを発射する励起源93から由来する高出力光ビーム94によって適切な波長、例えば808nmで側面励起される。この特定の実施形態ではNd:YAG材料が利得媒体として使用されたけれども、Nd:YAG、Nd:YVO、Nd:YLF、Yb:YAG、またはNd:Gd1−XVOといった他の固相材料が単独もしくは組み合わせのどちらかで使用されることが原理的に可能である。利得材料の選択は固相に限定されず、当該技術の他の場所で使用されるように液相または気相であることもやはり可能である。
【0086】
タイプ1の位相整合のために長さ20mmのLBO結晶97が切り出され、5nsの往復時間および3mJの実効飽和エネルギーを備えたこのレーザ・キャビティに関する利得変動非依存性条件に近い〜0.04/kWの非線形出力結合レベルを供給されて1064nmの基本波長を532nmの第2高調波へと変換する。
【0087】
端部ミラー90と屈曲用ミラー95との間でレーザ・キャビティは音響−光学型Qスイッチ92もやはり収容し、そのRF「オフ」ウィンドウもしくはゲートの幅はレーザ・キャビティによって見られるQスイッチ低損失ウィンドウ時間を変化させるように変えられることが可能である。適切なパルス繰り返し周波数(PRF)を備えたRFゲート信号が信号発生器91内で作り出される。
【0088】
図5はこのレーザの測定されたパワーとパルス幅を100kHzのPRFでQスイッチのウィンドウ幅の関数として示している。音響RF「オフ」ウィンドウ長さの直接的な調整によって、広範囲にわたってパルス安定性の喪失を伴うことなくパルス幅が可変であった。一層高いキャビティ強度の周期的ダンピングに付随する全体的損失増大に起因すると推定されるが、一層短いゲート幅である程度のパワー低下が観察された。
【0089】
図6は100kHzのパルス繰り返し周波数に関してFWHMパルス幅の5つの異なる値、およびRFウィンドウ幅(丸括弧内)についてパルスの時間的展開のオシロスコープ・トレースを示しており、Qスイッチのウィンドウが小さくされるにつれてパルスの尾部が削り取られる方法を例示している。オシロスコープのタテの目盛りは、いずれの場合も短い方のパルスの高い方のピーク・パワーに対応するように調整されている。
【0090】
このオシロスコープ・トレースから明らかなように、実質的な分岐および周期倍増は観察不可能である。低い非線形出力結合で得られる不安定性はこのようにして取り除かれた。たとえこのレーザの光学部品が光学卓上治具によって保持されても、多数のパルスが順に重ねられるオシロスコープ・トレースによってパルスからパルスへの低いノイズ・レベルが証明される。
【0091】
本願明細書で述べられた実験では、パルス長は秒のタイムスケールで手動で変えられたが、しかしはるかに速い変化は問題があるはずであるという兆候は無い。実際に、物理学的に説得力のある「利得履歴」および再励起率の制約の中で、不安定性を誘発することなく各々のパルスが異なるパルス・エネルギーおよび幅を有する極めて複雑なパルス列を発生させることはこのレーザの実施形態で可能であるはずである。
【0092】
図7は、40ns、55ns、および65nsでほぼ一定に保たれた3つの異なるFWHMパルス幅について100kHz〜200kHzのPRF範囲にわたるこのレーザの性能を示している。各々のPRF値で、RFウィンドウの幅は所望のパルス幅を達成するように調節された。出力パルスのエネルギーが同じ範囲で2倍変化するにもかかわらず、532nmの波長での平均レーザ・パワー出力が所定のPRF範囲にわたって〜10%しか変わらずにほぼ一定であることが理解され得る。
【0093】
本発明の第2の例の実施形態が図10に概略で示されており、これはさらに高次の高調波を発生させること、または光学周波数の加算もしくは減算の様々な組み合わせを実行することに特に適している。それは前の実施形態に類似しているが、しかし下記で概説されるように追加の非線形カプラの用意を有する。
【0094】
このレーザの共振キャビティもやはり、3ミラー屈曲構造を利用する。一方の端部ミラー90はレーザの基本周波数で高い反射率を有する。屈曲用ミラー95は基本周波数で高度に反射性であるが、しかし作り出された関連の光学的高調波すべてで高度に透過性である。他方の端部ミラー100は基本周波数ならびに高調波周波数の両方で高度に透過性である。
【0095】
基本光学周波数のみの経路内で端部ミラー90と屈曲用ミラー95との間に配置される利得媒体96によって光学利得が供給される。それは単独もしくは他との適切な組み合わせのどちらかで使用されるNd:YAG、Nd:YVO、Nd:YLF、Yb:YAG、またはNd:Gd1−XVOといった固相材料で作製されることが可能である。前と同様に、利得材料の選択は固相に限定されず、当該技術の他の場所で使用されるように液相または気相の媒体から選択されることもやはり可能である。
【0096】
利得媒体96は励起源93から発射される高出力光学ビーム94によって適切な波長で励起される。
【0097】
端部ミラー90と屈曲用ミラー95との間でレーザ・キャビティは音響−光学型Qスイッチ92もやはり収容し、そのRF「オフ」ウィンドウもしくはゲートの幅はレーザ・キャビティによって見られるQスイッチ低損失ウィンドウ時間を変化させるように変えられることが可能である。適切なパルス繰り返し周波数(PRF)を備えたRFゲート信号が信号発生器91内で作り出される。
【0098】
非線形カプラがレーザ・キャビティ内で屈曲用ミラー95と端部ミラー100の間に配置される。それは1つまたは複数の構成要素で構成されることが可能である。例えば、図10に示されるように第2高調波発生のための1つの結晶97と第3高調波発生のための別の結晶107が収容されることが可能である。このケースでは2つの結晶しか示されていないがその数は2つに限定されない。LiB、BiB、KTiOPO、LiNbO、KTiOAsO、またはβ−BaBといった固相材料が単独もしくは他との適切な組み合わせのどちらかで使用されることが可能である。
【0099】
このカプラの材料は概して結晶または固相材料に限定されず、適切な非線形光学特性を備えた液体および気体が同様に使用されることが可能である。
【0100】
当業者が認識するであろう他の代替選択肢となる本発明の実施形態が存在する。最も特筆すべきそれは、第3および第4高調波発生といった他の波長への拡張を含む。これらの拡張は、通常、さらなる周波数変換を実行するための追加の結晶を必要とし、それにより、或るレーザは最初に第2高調波発生段を有し、それに続いて基本放射と第2高調波放射を混合して第3高調波放射を作り出すための第3高調波段を有するであろう。
【0101】
第4高調波発生は2つの方法で得られることが可能である。第1に、基本放射と第3高調波放射を混合して第4高調波放射を作り出すために第3高調波発生レーザに第3の変換段が加えられることが可能である。場合によっては、第2高調波放射を第4高調波放射へと直接変換するために第2周波数倍増用結晶が第2高調波発生レーザに加えられることが可能である。
【0102】
さらなる実施形態は、加算周波数混合といった短いパルス波長を活用する他の周波数変換処理に基づくものであることが可能である。すべてのケースで、複屈折のような他の条件にシステムを最適化するために、いずれの単一段も1つまたは複数の結晶を使用することでその段のための適切なレベルの非線形出力結合を達成することが可能である。
【0103】
なおも別の実施形態は単一の横モード動作ではなくマルチの横モード動作を含むことが可能である。上述の実施形態ならびに当該技術の他の類似したもので、利得変動不感性の非線形出力結合の選択は本発明に従って達成されるべき同じ効果を可能にするであろう。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1a〜1cは、先行技術によるレーザの循環するキャビティ内パワー(a)、利得レベル(b)、および利得差(c)を2つの初期利得条件について時間の関数として示すグラフであって、2つのわずかに異なる初期利得条件に関して対になった式の数値解によって計算される。
【図2】図2aおよび2bは、先行技術によるレーザのパルスのエネルギーおよび幅をQスイッチのウィンドウの関数として示すグラフであって、パルスの振幅の不安定性および分岐をそれぞれ例示している。
【図3】非線形結合レベルがα=0.00166/kWであるときに数値的にシミュレートされる循環強度および利得をいくつかの初期利得レベルについて時間の関数として示すグラフであって、これらの条件についてMurrayとHarrisによって発表されたような最大高調波ピーク・パワーに関して最適化された先行技術の値に対応する。
【図4】図4a〜4cは、本発明に従ってキャビティ内第2高調波出力を発生するレーザに関して数値シミュレーションの結果を循環強度および利得のグラフで、0.0175/kW(4a)、0.035/kW(4b、利得変動不感性条件)、および0.070/kW(4c)のαでいくつかの初期利得レベルに関して時間の関数として示す図である。
【図5】このレーザの測定されたパワーと幅を利得変動不感性条件に関して100kHzのPRFでQスイッチのウィンドウ幅の関数として示すグラフである。
【図6】100kHzのPRFに関して5つの異なる出力パルスFWHM値(丸括弧内のRFウィンドウ幅に対応)についてパルスの時間的展開のオシロスコープ・トレースを示す図であって、Qスイッチのウィンドウが小さくされるにつれてパルスの尾部がどのように削り取られるかを例示している。
【図7】このレーザの出力パワー性能を100kHz〜200kHzの範囲にわたってPRFの関数として示すグラフであって、出力パルスのFWHMは40ns、55ns、および65nsでほぼ一定に保たれ、各々のPRF値でRFウィンドウの幅は所望のパルス幅を達成するように調節される。
【図8】図8a〜8cは、本発明に従ってキャビティ内第3高調波出力を発生するレーザに関して数値シミュレーションの結果を循環強度および利得のグラフで、利得変動不感性条件を達成するために(8a)の半分、(8b)と同等、および(8c)の2倍のレベルに設定された非線形結合についていくつかの初期利得レベルに関して時間の関数として示す図である。
【図9】第2高調波出力パルスを発生させるための開示されるレーザの一実施形態を例示する図である。
【図10】第3およびさらに高次の高調波出力パルスを発生させるための開示されるレーザの第2の実施形態を例示する図である。
【符号の説明】
【0105】
90、100 端部ミラー
91 信号発生器
92 音響−光学型Qスイッチ
93 励起源
94 高出力光学ビーム
95 屈曲用ミラー
96 利得媒体
97、107 結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)内部に利得媒体を有する共振キャビティと、
b)前記利得媒体内の光学利得を増大させることで前記共振キャビティ内のキャビティ往復時間を伴う基本光学周波数での光学的循環パワーを作り出すように前記利得媒体を励起するための手段と、
c)ゲート幅を有し、かつパルス繰り返し周波数で変調されるゲート信号を作り出す信号発生器と、
d)前記共振キャビティ内の光学スイッチであって、前記ゲート幅の持続時間について高損失状態から低損失状態へと前記光学スイッチを変えることで光学パルス幅を有する光学パルスを作り出すために前記信号発生器から受信される前記ゲート信号に応答する光学スイッチと、
ここで前記高損失状態では前記光学的循環パワーが初期の光学的循環パワーに近づく間に初期の光学利得を作り出すようにエネルギーが前記利得媒体内に蓄積し、
前記低損失状態では前記光学的循環パワーがピークの光学的循環パワーへと増大し、その後、前記利得媒体内に蓄積された前記エネルギーが減少し、かつ前記光学利得が消費されるにつれて減衰し、
e)前記基本光学周波数で前記光学的循環パワーの一部分を変換された光学パワーへと変換するため、および利得変動不感性条件が供給されるように非線形結合レベルを有するための前記共振キャビティ内の非線形カプラと、
ここで前記変換された光学パワーが、変換された光学パルス幅を有する変換された光学周波数を有し、
f)前記変換された光学パワーを前記共振キャビティ内から外へと結合させるための手段と、
を有するQスイッチ・レーザ。
【請求項2】
前記変換された光学周波数が前記基本光学周波数の第2高調波である、請求項1に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項3】
αで示される前記非線形結合レベルが
αgi/2<α<αgi×2
の関係を満たし、ここでαgiで示される近似の利得不感性非線形結合レベルが
αgi=TRT/Esat×(log(P/Pinit)−1)
の関係によって規定され、ここでTRTが前記キャビティ往復時間であり、Esatが実効飽和エネルギーであり、Pが前記ピークの光学的循環パワーであり、Pinitが前記初期の光学的循環パワーである、請求項2に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項4】
αで示される前記非線形結合レベルが
αgi/3<α<αgi×3
の関係を満たし、ここでαgiで示される近似の利得不感性非線形結合レベルが
αgi=TRT/Esat×(log(P/Pinit)−1)
の関係によって規定され、ここでTRTが前記キャビティ往復時間であり、Esatが実効飽和エネルギーであり、Pが前記ピークの光学的循環パワーであり、Pinitが前記初期の光学的循環パワーである、請求項2に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項5】
前記変換された周波数のパルスの幅が特性的最小パルス持続時間の約80%よりも小さい、請求項2に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項6】
前記ゲート信号の前記ゲート幅が調節可能であり、それにより、前記光学パルス幅が約40nsと約300nsの間の範囲で可変である、請求項1に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項7】
前記パルス繰り返し周波数が約50kHzと約300kHzの間で調節可能である、請求項1に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項8】
前記パルス繰り返し周波数が調節されると前記変換された光学周波数での平均出力パワーが±15%未満で変化する、請求項7に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項9】
前記パルス繰り返し周波数が調節されると前記変換された光学パルスの幅が±5%未満で変化する、請求項7に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項10】
前記ゲート信号の前記ゲート幅が一定のパルス繰り返し周波数で調節可能であり、それにより、前記出力パルス幅が約40nsから約300nsの範囲内で可変である、請求項7に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項11】
前記変換された光学周波数が前記基本光学周波数の第3高調波である、請求項1に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項12】
前記変換された光学周波数が前記基本光学周波数の第4またはさらに高次の高調波である、請求項1に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項13】
前記非線形カプラが、LiB、BiB、KTiOPO、LiNbO、KTiOAsO、およびβ−BaBから成るグループから選択される1つまたは複数の材料を含む、請求項1に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項14】
前記利得媒体が、Nd:YAG、Nd:YVO、Nd:YLF、Yb:YAG、およびNd:Gd1−XVOから成るグループから選択される1つまたは複数の材料を含む、請求項1に記載のQスイッチ・レーザ。
【請求項15】
請求項1に記載のQスイッチ・レーザを動作させる方法であって、
a)前記利得媒体内の前記光学利得を増大させるために前記利得媒体を励起する工程と、
b)前記Qスイッチを前記高損失状態から前記低損失状態へと切り換えることで前記基本光学周波数で前記光学パルスを開始させ、それにより、前記利得媒体内に蓄積された前記光学利得の消耗を開始させる工程と、
c)前記光学パルスのピーク強度の後に前記Qスイッチを前記高損失状態へと切り換え、それにより、前記光学パルスを終了させ、前記光学利得の前記消耗を停止させる工程と、
d)前記非線形カプラで前記基本光学周波数の前記光学パルスを前記変換された光学周波数の出力パルスへと変換する工程と、
e)前記変換された周波数の前記出力パルスを前記キャビティ内から外へと結合させる工程と、
f)工程b)からe)を繰り返す工程とを含む方法。
【請求項16】
Nd:YAGの1つまたは複数のロッドを有する利得媒体を内部に含む共振キャビティと、
調節可能なパルス幅と調節可能なパルス繰り返し周波数を有するRF信号を発生させることが可能な信号発生器と、
前記利得媒体を励起することで中に光学利得を作り出すための光学パワーを放射することが可能な複数のダイオード・バーと、
前記共振キャビティ内の音響−光学型Qスイッチであって、循環する基本光学周波数の光学パルスが前記共振キャビティ内で作り出されるように前記信号発生器から受信された前記RF信号の印加が前記音響−光学型Qスイッチを低損失状態と高損失状態との間で変化させ、前記光学パルスが前記RF信号になされる調節に応答して約40nsと約300nsの間のパルス幅および約50kHzと約300kHzの間のパルス繰り返し周波数を有する、音響−光学型Qスイッチと、
前記光学パルスから第2高調波の出力パルスを発生させるため、および約0.02/kWから0.08/kWの非線形出力結合レベルを有し、それにより、利得変動不感性条件を供給するために適した前記共振キャビティ内のLBO結晶と、
を有するQスイッチ・レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−279052(P2006−279052A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−89524(P2006−89524)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(502151820)ジェイディーエス ユニフェイズ コーポレーション (90)
【氏名又は名称原語表記】JDS Uniphase Corporation
【住所又は居所原語表記】1768 Automation Parkway,San Jose,California,USA,95131
【Fターム(参考)】