説明

脂肪分解促進剤

【課題】脂肪細胞中の脂肪の分解を促進することにより抗肥満効果を発揮する、安全性の高い脂肪分解促進剤を提供する。
【解決手段】以下の式(1):


[式中、Meはメチルである]
で示される化合物を有効成分として含有する脂肪分解促進剤によって上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性の高い下記の式(1)で示される化合物を有効成分として含有する脂肪分解促進剤に関する。本発明の脂肪分解促進剤は、優れた抗肥満効果を有している。
【背景技術】
【0002】
日本人の食事は、近年著しく欧米化し、高カロリー化が進んでいる。特に脂質の過剰摂取が、現代の文明病とも言われる肥満を引き起こしている。また、肥満は、高脂血症、動脈硬化、糖尿病等、種々の疾病と密接に関連しているため、社会問題の一つとなっている。さらに、近年の日本人の美意識に痩せたいという願望が極めて強くなってきている。
【0003】
しかし今日に至るまで、抗肥満用に市販されている皮膚化粧料のなかで極めて有効と認められたものはない。一方、文献には、例えば、エピネフリン、テオフィリンなどのアドレナリン作動性β−刺激薬を使用する例(特許文献1)が記載されているが、これらは安全性に問題がある。
【0004】
また、肥満の治療法には、一般に食事療法、運動療法および薬物療法がある。このうち、通常は食事療法と運動療法を組み合わせて肥満の治療を行う。しかし、これらの療法は、効果が現れるまでに長時間を要する。従って、強固な意志を必要とするが、多忙な現代においては実行が極めて困難である。一方、薬物療法では、マジンドールやフェンフルラミンなどの食欲抑制剤が開発されているが、口渇や抑鬱などの副作用があることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4525359号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、脂肪細胞中の脂肪の分解を促進することにより抗肥満効果を発揮する、安全性の高い脂肪分解促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の天然物および化合物についてスクリーニングを行った。このスクリーニングは、ラット副睾丸脂肪組織からコラゲナーゼを用いて得た遊離脂肪細胞中の脂肪の分解効果を指標にして行った。その結果、下記の式(1)で示される化合物が目的の効果を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の式(1):
【化1】

[式中、Meはメチルである]
で示される化合物を有効成分として含有する脂肪分解促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
化合物(1)は優れた脂肪分解活性を示し、化合物(1)を配合した脂肪分解促進剤は優れた抗肥満効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において本発明を詳しく説明する。
本発明において用いる化合物(1)は既知物質であり、マウス白血病細胞(M1細胞)およびヒト白血病細胞(HL-60細胞)に対して分化誘導作用を有することが知られている[Chem. Pharm. Bull. 41(4), 714-719, 1993]。しかし、この化合物に脂肪分解促進効果があることはこれまで知られていなかった。この化合物(1)は化学合成によって製造することも可能であるが、通常は化合物(1)を含む植物から単離することによって得られる。
【0011】
化合物(1)を、ミカン科植物であるウンシュウミカン(Citrus unshiu)、ダイダイ(Citrus aurantium)、あるいはタチバナ(Citrus tachibana)からの抽出によって得るのが好都合である。
【0012】
化合物(1)を植物からの抽出によって調製する場合、使用する植物部位としては、葉、茎、樹皮、花、果実、果皮などが挙げられるが、特に果皮が好ましい。植物を採取後そのまま用いてもよいし、乾燥処理したものを用いてもよい。
【0013】
抽出に用いる溶媒としては、水、または低級アルコール(メチルアルコール、エチルアルコールまたはブタノールなど)、アセトンもしくは酢酸エチルなどの有機溶媒の1種または2種以上を適宜混合して使用することができる。好ましい抽出溶媒は、水または低級アルコールの単独、または水と低級アルコールの混合液である。
【0014】
抽出は通常の方法で行ってよい。抽出温度は、通常は0〜120℃、好ましくは40〜120℃の範囲である。抽出時間は、抽出温度によって変化するが、通常、室温付近で抽出する場合は1〜10日間であり、40℃以上で抽出する場合は0.5〜120時間である。
【0015】
このようにして得た植物抽出物から、シリカカラムクロマトグラフィーあるいは分取HPLCなどの方法によって、化合物(1)を分離および精製することができる。このように分離および精製した化合物(1)を、本発明の脂肪分解促進剤の有効成分として用いることができる。
【0016】
本発明の脂肪分解促進剤は、内用または外用のいずれの形態に調製することもできる。
外用の形態としては、ジェル状クリーム、洗顔クリーム、乳液、パックなどが挙げられ、その形態に応じて有効成分以外の他の成分を選択する。
内用の形態としては、顆粒、錠菓、ゼリー、飴、飲料などが挙げられ、その形態に応じて有効成分以外の他の成分を選択する。
【0017】
本発明の脂肪分解促進剤中の化合物(1)の配合割合は、脂肪分解促進剤の形態によって異なるが、通常は脂肪分解促進剤全量に対して0.0001〜99重量%、好ましくは0.001〜50重量%、より好ましくは0.001〜20重量%、さらに好ましくは0.01〜10重量%の範囲である。
【0018】
本発明の脂肪分解促進剤は、活性成分である化合物(1)の他に、種々の脂肪分解促進剤の形態に応じてそれらを調製する際に一般的に使用される各種成分を含有する。
外用に調製する際に使用される他の成分は、例えば、油分、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、防腐剤、香料、着色料、薬剤などである。本発明の外用脂肪分解促進剤は、1またはそれ以上のこれら成分を含むことができる。
また、内用に調製する際に使用される他の成分は、この分野で普通に使用される原料であってよく、これら原料の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、リンゴファイバー、大豆ファイバー、肉エキス、黒酢エキス、ゼラチン、コーンスターチ、蜂蜜、動植物油脂、多糖類などが挙げられる。本発明の内用脂肪分解促進剤は、1またはそれ以上のこれら原料を含むことができる。
【0019】
本発明の内用脂肪分解促進剤は、上記の原料に加えて、1またはそれ以上の潤沢剤、乳化剤、懸濁化剤、酸化防止剤、防腐剤、甘味剤および香味剤などの成分をさらに含むことができる。また、他の有効成分(水溶性ビタミン類および油溶性ビタミン類などを含む)をさらに含んでいてもよい。
当業者は、化合物(1)の脂肪分解促進効果を妨げることのない適切な成分を容易に選択することができる。
【0020】
本発明の脂肪分解促進剤は、その形態に応じて当該分野で周知の方法によって製造してよい。
また、本発明の脂肪分解促進剤は、その形態に応じて適宜に適用することができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1:化合物(1)の調製
トウヒ(高砂薬業より購入)1kgに50%(v/v)エタノール3Lを加え、40℃で2日間抽出した。混合物を濾過し、濾液2.1Lを得た。この濾液を60℃以下で減圧濃縮し、得られた濃縮液を酢酸エチル/蒸留水で分液した。酢酸エチル層を集め、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、酢酸エチル層を60℃以下で減圧濃縮し、オイル状物質を得た。
このオイル状物質をシリカカラムクロマトグラフィー[溶出溶媒;酢酸エチル:n-ヘキサン=1:1(750ml)→2:1(1050ml)→5:1(780ml)]にて粗精製して、化合物(1)を含む分画を得た。化合物(1)は、主に酢酸エチル:n-ヘキサン=2:1で溶出する分画に含まれ、化合物(1)を含む分画を薄層クロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)によって確認した。
次いで、化合物(1)を含む分画を一緒にし、さらにシリカカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;クロロホルム:メタノール=50:1)にかけて精製し、化合物(1)142mgを得た。
【0023】
化合物(1)のプロトン核磁気共鳴スペクトルの測定結果は次の通りであった。
1H-NMR(CDCl3, 500MHz) δ(ppm):3.77(s,3H)、3.83(s,3H)、3.84(s,3H)、3.87(s,3H)、3.96(s,3H)、4.01(s,3H)、6.85(s,1H)、7.15(d,J=8.6Hz,1H)、7.53(d,J=2.1Hz,1H)、7.64(dd,J=2.1, 8.6Hz,1H)。
この結果は、文献[Chem.Pharm.Bull., 35(7), 3025-3028, 1987]記載の化合物(1)のデータと良く一致した。
また、化合物(1)の純度を、以下の条件下で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析したところ、その化学純度は99.2%であった。
HPLC分析条件
カラム:μBONDASPHERE C18、3.9×150mm(ウォーターズ社製)
流動層:アセトニトリル(2%酢酸水溶液中)15〜60%、30分
流速:1.0mL/分
カラム温度:40℃
検出:UV 280nm
保持時間:29.05分
【0024】
実施例2:ラット副睾丸脂肪細胞に対する脂肪分解活性の測定
脂肪細胞中の脂肪が分解されると、グリセロールと遊離脂肪酸が放出されることがわかっている。培地中に放出された遊離脂肪酸を定量することによって脂肪分解活性を測定した。遊離脂肪酸の定量は酵素法で行った。
ロッドベル[Rodbell, M,J.Biol.Chem., 239, 375 (1964)]の方法により、ウィスター系8週令の雄性ラット4匹の副睾丸脂肪組織から、コラゲナーゼ溶液を用いて遊離脂肪細胞を調製した。実施例1で調製した化合物(1)の濃度が10μg/mLおよび50μg/mLとなるように調製した牛血清アルブミンを含むクレブス・リンガー(Krebs Ringer)重炭酸塩緩衝液中で、上記の脂肪細胞を37℃にて90分間インキュベートし、遊離した脂肪酸を市販のキット(和光純薬、NEFA C−テストワコー)により測定した。また、化合物(1)を添加しないものを対照とし、脂肪分解活性を比較した。これらの結果を表1に示す。
【表1】


表1から明らかなように、化合物(1)の濃度が10μg/mLおよび50μg/mLの場合、対照(無添加)に比べて脂肪細胞からの遊離脂肪酸量が、それぞれ110.65%および219.91%増加した。
【0025】
実施例3:ラット皮下脂肪細胞に対する脂肪分解活性の測定
ウィスター系8週令の雄性ラット5匹の腹部皮膚組織を、皮下脂肪組織と共に直径3cm大で剥離し、直径1.8cmのフランツ型拡散セルにセットした。
実施例1で調製した化合物(1)と白色ワセリンを1.0:99.0および2.0:98.0の重量比で混合し、この混合物(0.2g)を上記のラット皮膚表面に均一に塗布し、下部セルにはクレブス・リンガー重炭酸塩緩衝液を満たした。
37℃にて5時間放置した後、下部セル内の緩衝液中に遊離したグリセロールをF-キット グリセロール(ベーリンガー・マンハイム社製)により測定した。対照には100%ワセリンを用いた。得られた結果を以下の表2に示す。結果は、対照に対する%±SD%(n=4)で表示した。
【表2】


表2の結果から、化合物(1)は皮膚を通して皮下脂肪細胞に作用し、脂肪細胞からのグリセロールの遊離を促進することが明らかとなった。即ち、化合物(1)は脂肪分解促進活性を有することが明らかとなった。
【0026】
実施例4:ジェル状クリーム
実施例1で得た化合物(1)を有効成分として下記のジェル状クリームの処方(全100重量%)に用いる。
【表3】


全成分を室温にて撹拌および混合して均一な溶液とし、pH6.5に調整してジェル状クリームを得た。
【0027】
比較例1:従来のジェル状クリーム
実施例4において、化合物(1)の代わりに精製水を用いたものを従来のジェル状クリームとした。
【0028】
実施例5:乳液
実施例1で得た化合物(1)を有効成分として下記の乳液の処方(全100重量%)に用いる。
【表4】


成分Aを加熱溶解し、80℃に保持する。別に80℃で加熱溶解した成分Bを成分Aに加え、充分混合する。撹拌しながら冷却を行い、50℃にて成分Cを加え、乳液を得た。
【0029】
実施例6:錠剤
以下の成分を用いて錠剤を調製した。
【表5】

【0030】
実施例7
実施例4のジェル状クリームおよび比較例1のジェル状クリームを用いて、20歳から50歳の女性30人を対象に4ヶ月間の使用試験(外部塗布、1日1回入浴後)を行った。使用後、ヒップおよびウエストまわりを測定し、試験開始前と比較した。これらの結果を以下の表6および表7に示す。
【表6】


【表7】


これらの表から明らかなように、化合物(1)を含有するジェル状クリームは優れた抗肥満効果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1):
【化1】

[式中、Meはメチルである]
で示される化合物を有効成分として含有する脂肪分解促進剤。

【公開番号】特開2009−256382(P2009−256382A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184150(P2009−184150)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【分割の表示】特願平11−50342の分割
【原出願日】平成11年2月26日(1999.2.26)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】