脂肪細胞のホスホイノシトールグリカン(PIG)結合蛋白質
本発明は、脂肪細胞の原形質膜由来の蛋白質に関するものである。当該蛋白質は、ホスホイノシトールグリカンに対する特異的結合親和性を有している。当該蛋白質は、インスリンのシグナル伝達カスケードを迂回することにより、グルコース取込みを調節する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホイノシトールグリカンに対する特異的結合親和性を有する脂肪細胞の原形質膜由来の蛋白質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膜貫通シグナル化におけるリン脂質及びホスホリパーゼの役割は、十分に解明されている。同様に、共有結合により結合しているグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)を通して、細胞膜中の結合蛋白質の概念もまた十分に解明されている。そして、GPI結合の詳細な化学構造も、ヒト赤血球、ラットThy−1、及び、トリパノゾーマ ブルセイ(Trypanosoma brucei)由来のバリアント表面糖蛋白質(VSG)に類似する寄生虫の幾つかの外殻蛋白質のようなGPI結合蛋白質の数種類について研究されている。脂質結合は、ジアシル−又はアルキルアシルグリセロール型リン脂質から成るホスファチジルイノシトール(PI)を通して起こる。後者は、とりわけ哺乳類アンカーにおいて起こり、そして膜に存在している巨大PIとは異なることにより、GPIから誘導される第二メッセンジャーの発生に関与する新規な分子種を供給することができる。GPIによるシグナル化は、これら脂質結合分子が膜を結び付けることはないが、しかしながら、多くの場合、脂質二重層の外側半分中に埋め込まれていることより、特に興味がある。GPIの細胞膜からのシグナル仲介放出が、ホルモンから成長因子に至る種々の内分泌及び傍分泌分子を実証している。膜貫通シグナル化におけるGPIの関与、及びその細胞内効果は、今日では解明されているようではあるが、しかしながら、観察された代謝効果に導くシグナル経路については、ほとんど知られていない。
【0003】
インスリンの受容体結合がGPIの加水分解を活性化することを示した初期の実験から得られたシグナル化特性を、GPI結合分子が有しているということは注目すべきことである。或る低分子量の物質が、代謝酵素に対するインスリンの或る作用に類似しているものと同定された。この物質はイノシトールグリカン構造を有し、そして原形質膜中におけるGPIのインスリン感受性の加水分解によって生成する。イノシトールグリカン酵素修飾因子(モジュレーター)のGPI前駆体が、GPI膜蛋白質アンカーに構造的に類似するものと最初は思われていたが、シグナル伝達GPIと膜蛋白質のGPIアンカーの間にある炭化水素残基において顕著な相違がみられる。GPI−膜蛋白質アンカーは、必ず接触する蛋白質のC−末端アミノ酸との結合を供給するエタノールアミンホスフェートに続くトリマンノースコアから構成されている。
【0004】
制御されたGPI加水分解は、インスリンに限らず、他の多くのホルモンについても観察されている。
【0005】
実際多くの場合、ホルモン又は成長因子による細胞の賦活は、細胞表面からのGPI−結合蛋白質の一過性放出を導くものである。これらのアゴニストの受容体の多くは、チロシンキナーゼ受容体又はチロシンキナーゼに共役した受容体である。
【0006】
インスリン作用に関与する多くの蛋白質は、分子レベルで同定されている。インスリン受容体は、膜貫通型のチロシンキナーゼであり、インスリン結合により活性化され、すみやかに自己リン酸化を受け、そしてその中には、Shcを含む一つ又はそれ以上の50〜60kDa蛋白質、15kDa脂肪酸結合蛋白質、及び幾つかの、いわゆるインスリン受容体基質蛋白質と呼ばれる、IRS−1/2/3/4のようなものを含む多くの細胞内物質をリン酸化する。チロシンリン酸化の後、IRSポリペプチドは、幾つかのSrcホモロジー2ドメインを含んでいるアダプター分子、及びホスファチジルイノシトール 3−キナーゼ(PI 3−K)、Grb2、SHP2、Nck、及びFynを含む酵素に対するドッキング蛋白質として作用する。IRS蛋白質とPI 3−K間の相互作用は、酵素のp85調節サブユニットを通して起こり、そしてp110サブユニットの触媒活性の増加となる。PI 3−Kは、グルコース輸送及びグリコーゲン合成の促進を含む、多くのインスリン感受性代謝経路にとって必須である。IRS蛋白質のチロシンリン酸化促進が起こる全ての場合において、これらの蛋白質がPI 3−Kのp85サブユニットに相伴ってドッキングするが、例外は、インスリンとアンジオテンシンのシグナルシステム間のクロストークであり、この場合は、当該ドッキングは、PI 3−Kの賦活と関連している。
【0007】
インスリン受容体から下流標的までに直接導くシグナル伝達経路の同定に加えて、幾つかのクロストークが、インスリンによるシグナル伝達と他のホルモン/成長因子又は多様な外的刺激との間で記述されているが、それは、種々の細胞系においてインスリンのポジテイブな又はネガテイブな代謝及び/又は分裂促進作用についての或る程度の類似又は変異である。これらのリガンドの如何なるものも、インスリン受容体キナーゼを直接的には活性化しないことより、それらのシグナル化経路は、より末端のシグナル化段階におけるインスリンのシグナル化経路に集中するのかも知れない。この特性は、例えば、インスリン受容体キナーゼ活性の随伴する誘導なしに、かなりの程度代謝的インスリン作用に類似する酵母Gce1pのグリコシルホスファチジルイノシトール アンカー由来のPIG−Pのような異なる型のホスホイノシトールグリカン−ペプチド(PIG−P)分子と共通する。
【0008】
インスリンが作用する標的細胞におけるインスリン情報伝達カスケードに対するホスホイノシトールグリカン(PIG)及びPIG−ペプチド(PIG−P)のポジテイブクロストークは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)−結合の原形質膜蛋白質(GPI蛋白質)、及び二元的に、界面活性剤不溶性の糖脂質に富んだ原形質膜の高コレステロール(hcDIGs)のraftドメインから低コレステロール(lcDIGs)のraftドメインまでの、アシル化された非受容体チロシンキナーゼの再分布に関与している。
【0009】
単離したラット脂肪細胞においては、PIG−Pの第一標的はhcDIGsに局在している。放射能標識PIG−P、Tyr−Cys−Asn−NH−(CH2)2−O−PO(OH)O−6Manα1−2)−2Manα1−6Manα1−4GluN1−6Ino−1,2−(サイクリック)−リン酸塩(YCN−PIG)、並びに、サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来の放射能標識及び脂肪分解GPI蛋白質(lcGce1p)は、(それからYCN−PIGが誘導される。)、飽和の状態でhcDIGsに結合しているが、しかしながら、lcDIGs、ミクロソーム又は全原形質膜には結合しない。化学的に合成された無標識YCN−PIGの過剰により、又は脂肪細胞をトリプシン、続いてNaCl又はN−エチルマレイミド(NEM)で前処理をすることによって完全に結合しなくなったことより、YCN−PIGは細胞表面の受容体によって認識されるものであると指摘でき、YCN−PIG及びlcGce1の結合は、双方共に特異的であるといえる。
【0010】
PIG−Pの結合は、GPI蛋白質/脂質のような内因性リガンドの脂肪分解による除去に適切な、GPI特異性ホスホリパーゼCで前処理した脂肪細胞由来のhcDIGsにおいては、かなり増加していた。結合親和性は、YCN−PIGで最高であり、個々の構成成分Tyr−Cys−Asn−NH−(CH2)2−OH(YCN)プラスHO−PO(H)O−6Manα1(Manα1−2)−2−Manα1−6Manα1−4GluN1−6Ino−1,2−(サイクリック)−リン酸塩(PIG37)の組合せ、及びそのペプチド変異体、YMN−PIG、がそれに次ぐものであった。PIG37及びYCN単独では、中間的で低位の結合親和性であった。脂肪細胞のYCN−PIGとのインキュベーションは、後続するトリプシン/NaClの逐次処理により細胞表面から放出される115kDaポリペプチドの[14C]NEM標識を減少した。これらの実験データより、ラット脂肪細胞においては、インスリン類似PIG(−P)は、GPI蛋白質の受容体として作用するhcDIGsのトリプシン/NaCl/NEM−感受性の115kDa蛋白質により認識されるものであることが明らかとなった。
【0011】
種々のDIGs型が同一の細胞中に存在していると思われる。カベオラ(caveolae)は、マーカー及び構造蛋白質、カベオリン 1−3の豊富な発現により誘導したフラスコ形の嵌入を形成する最終的に分化した細胞における特殊なDIGsを代表するものである。
【0012】
脂肪細胞における原形質膜表面の20%にも及ぶカベオラは、受容体仲介ポトサイトーシス、エンドサイトーシス、トランスサイトーシス及びシグナル伝達に関与する。単離したラット脂肪細胞において、高い浮力密度(蔗糖密度勾配遠心分離に基づき)を示す低コレステロール/カベオリン量のlcDIGsは、低い浮力密度により特徴づけられる高コレステロール/カベオリン量の典型的なhcDIGsから識別することができる。Gce1及びNuc、並びにNRTK、非受容体チロシンキナーゼ(Non Recepter Tyrosine Kinase)pp59Lynのように二重にアシル化した蛋白質のようなGPI蛋白質の主要画分は、hcDIGsに配置している。合成PIG又はスルホニルウレア、グリメピリド(glimepiride)のようなインスリン類似刺激に応答して、GPI蛋白質及びNRTKsの双方は、hcDIGsからlcDIGsへと移動する。この再分布は、脂質修飾の欠失によって起こるものではない。
【0013】
GPI蛋白質ポリペプチド残基のカルボキシ末端から隣接のアミノ酸を有さない(PIG)又は有する(PIG−P)極性のコアグリカン頭残基は、基底状態においてhcDIGsとlcDIGsとの間のGPI蛋白質の分布、及びインスリン類似刺激に対する応答におけるそれらの再分布の分子的基礎を与える。
【0014】
GPI蛋白質は、酵母からヒトに至るまでの真核細胞で発現される、細胞表面抗原、エクトエンザイム(ectoenzyme)、受容体又は細胞接着分子であり、共有結合で結合しているグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)脂質残基により、原形質膜の外層に結合している。そして、膜貫通ドメインを欠失しているにも拘らず、原形質膜を貫通したシグナル伝達に関与している。
【0015】
GPI蛋白質が、全く異なった膜貫通結合/リンカー蛋白質にではなく、いわゆる界面活性剤不溶性の糖脂質に富む、raft, DIGs、と呼ばれる特異な脂質raftドメインに結合するという事実より、GPI蛋白質により媒介されるシグナル伝達の主要な共役機構として、脂質−脂質相互作用の可能性を実証するものである。
【0016】
DIGsの基本的構造要素は、(グリコ)スフィンゴ脂質及びコレステロールの横方向の組立てであり、それにより膜脂質二重層における近傍の液体無秩序(Id)領域とは異なった液体秩序(Io)構造となることができる。哺乳類細胞の原形質膜は、コレステロール(30〜50 mol %)及びIdドメイン脂質(即ち、未飽和末端を有するホスファチジルコリン)及びIoドメイン飽和アシル鎖を有する脂質(即ち、[グリコ] スフィンゴ脂質及びGPI脂質)の混合物を含んでいる。コレステロールは、脂質分子間の間質空間を充填することにより、Ioドメインにおける脂質パッキングを堅くすることに貢献しているものと思われ、そしてIoドメインの形成は、コレステロール濃度の或る一定の範囲においてのみ認められる。
【0017】
インスリンは、極めて重要なホルモンであり、身体の代謝に対し重要な影響を与える。一般的に言って、インスリンは同化作用を促進し、そして異化作用を阻害する。特異的にインスリンはグリコーゲン、脂肪酸及び蛋白質の合成速度を増大し、そして蛋白質及びグリコーゲンの分解を阻害する。このホルモンの重要な役割は、血液からグルコース、その他の糖類及びアミノ酸を、肝臓、筋肉及び脂肪組織へ移送して、細胞を賦活することである。
【0018】
ウシのインスリンは、二本のポリペプチド鎖、21アミノ酸を含んでいるポリペプチドA及び30アミノ酸を含んでいるポリペプチドBから成り、それらは二つの、−S−S−(ジスルフィド架橋)で結合している。これと同様の構造パターンが、ヒトを含む多くの哺乳類のインスリンに存在している。
【0019】
当該構造は、コンパクトなシリンダー様であり、B鎖のカルボキシル末端のみが、蛋白質の残部から突出している。多くの疎水性残基があり、それらは中心の疎水性コアを形成するように相互作用し、そして両サイドの幾つかの極性残基が分子間で分散することにより、蛋白質をより安定化している。3個のジスルフィド架橋、即ち、2個の分子間鎖及び1個の分子内鎖が、当該構造を締め付けている。
【0020】
多くの蛋白質の生合成における一般的なものとして、しかし特に細胞から輸送される蛋白質においては、蛋白質は前駆体の型で生成され、その後、貯蔵中に及び放出前に修飾されて、最終型が生成される。インスリンは、膵臓におけるランゲルハンス島と呼ばれる細胞群によって合成されて顆粒中に貯蔵され、その後、必要に応じて血液中に放出される。
【0021】
インスリンが最初に合成された時は、16アミノ酸のシグナル配列であるB鎖、結合鎖と呼ばれる33アミノ酸のC鎖、及びA鎖から成る100アミノ酸の一本鎖ポリペプチドで構成されている。この構造は、プレプロインスリン(PPI)と呼ばれている。シグナル領域は、合成部位からインスリンを集めてパッキングし、貯蔵顆粒を形成する細胞内のER(小胞体)へ、PPIを向かわせる役目を担う。小胞体において、シグナルペプチドは、プロテアーゼ酵素により除去される。
【0022】
糖尿病は、重大な合併症の発生を抑制し、及び一旦発病したときは、それを管理するため長期の治療が必要とされる慢性病である。糖尿病は、低血糖症、糖尿病性ケトアシドーシス及び高浸透圧性非ケトン性症候群のような急性及び慢性の合併症を伴う病気である。
【0023】
I型糖尿病は、一般的に若い細身の患者に発病し、そして、自己免疫によるベータ細胞の破壊により起こる、顕著な膵臓のインスリン分泌不能により特徴付けられる。I型糖尿病患者を見分ける特徴は、もしインスリンを与えないと、ケトーシスそして遂には、ケトアシドーシスを発生することである。それ故、これらの患者は、生命維持のために外因性インスリンに依存する。
【0024】
II型糖尿病は、典型的には、糖尿病家系を持つ40歳以上の者に発病する。II型糖尿病は、種々の程度のインスリン分泌異常を伴う末梢のインスリン抵抗性により特徴付けられる。これらの異常は、肝臓の糖新生増加を導き、絶食高血糖症を引き起こす。II型糖尿病を発病した多くの患者(90%)は肥満であり、またインスリン抵抗性により肥満症に結びつき、糖尿病状態を悪化する。
【0025】
他の型の種々の糖尿病は、以前には、二次性糖尿病と呼ばれていたが、他の病気又は薬物治療に原因を有するものである。関連する最初の症状により(膵臓のベータ細胞の破壊、又は抹消のインスリン抵抗性の発生)、これらの糖尿病は、I型又はII型糖尿病とよく似ている。最もよく見られるものは、膵臓のベータ細胞が破壊された膵臓病(例えば、ヘモクロマトーシス、膵臓炎、嚢胞性線維症、膵臓癌)、又はインスリン分泌を撹乱するホルモン症候群(例えば、クロム親和性細胞腫)、又は抹消のインスリン抵抗性を原因とするもの(例えば、末端巨大症、クッシング症候群、クロム親和性細胞腫)、及び薬剤で誘導された糖尿病(例えば、フェニトイン、グルココルチコイド、エストロゲン)を挙げることができる。
【0026】
糖尿病は、血清グルコースのレベル調節が不適切であることが特徴である。I型糖尿病の場合は、内分泌性の膵臓に対する自己免疫の攻撃により、インスリン分泌ベータ細胞が進行性でそして不可逆的に破壊された結果によるものである。その結果、グルコース取込み及びその代謝に関与するインスリン感受性標的細胞に対するインスリン作用が損なわれる。II型糖尿病の場合は、最も頻繁には、インスリン作用に対する細胞抵抗性に反映される、血清グルコースのレベル調節における付随的変異を伴う種々の疾患原因が挙げられる。
【0027】
インスリンは、ジスルフィドにより貫通膜及び細胞内ベータサブユニットに結合した細胞外アルファサブユニットから成る、ジスルフィド結合したヘテロ四量体の細胞表面受容体を通して作用する。
【0028】
I型糖尿病の場合は、正常な細胞受容体構造と結合するリガンド、及びその作用の欠損が、最も多く後続の代謝不全の原因となる。毎日のインスリン注射でのホルモン置換療法では、正常な生理状態では必要とされない、受容体作用のためのリガンドを供給する。
【0029】
II型糖尿病の場合は、インスリン作用に対する抵抗性が、高頻度で受容体作用の不全に由来するある種の抵抗性を有する当該病気の原因となる。インスリン抵抗性の場合は、インスリン受容体がインスリンのシグナル化カスケードを開始するためにより多くのインスリンが必要とされる。本発明は、シグナル化経路を開始するインスリン受容体を回避することにより、グルコースの取込みを促進することを可能とする、脂肪細胞の細胞膜蛋白質に関するものである。このことは、インスリンに対し代替物として作用することができる化合物を同定するためのスクリーニング手段を持ち合わせていない、当該課題の強力な解決策を提供するものとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
それ故、本発明は、同時に存在する原形質膜及び/又は脂質小胞及び/又は高コレステロールを伴なうraftドメイン及び/又は脂質小胞によって安定化される可能性があり、そしてホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドに対する特異的結合親和性を有し、
(a) 当該蛋白質にホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドの特異的結合の後に、脂肪細胞におけるインスリン受容体基質1又は2のtyrリン酸化を開始する能力、及び
(b) 当該蛋白質にホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドの特異的結合の後に、脂肪細胞におけるグルコースの取込みを促進する能力、に特徴を有する脂肪細胞の原形質膜由来の蛋白質に関するものである。
【0031】
他の蛋白質及び/又は安定化成分及び/又は他の化合物(例えば、塩、イオン、パフ)を考慮した当該蛋白質の量は、湿式質量%で、0.01から10%の間の範囲である。
【0032】
当該蛋白質の量は、好ましくは、湿式質量%で、0.1から5%の間の範囲、そして最も好ましくは、湿式質量%で、0.1から1%の間の範囲である。
【0033】
自然条件下では、原形質膜中の当該蛋白質の量は、湿式質量%で、10-6 %以下の範囲である。
【0034】
本発明の好適な変法において、ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドは、下記の化合物:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1の少なくとも一つの化合物を含んでいる。
【0035】
ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドの当該蛋白質への結合は、0.001から10μMの結合定数(KD)で起こることが好ましい。
【0036】
当該結合定数は、ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドと蛋白質との複合体の解離と非解離型間の平衡を定量的に記載するための熱力学的次数である。
【0037】
当該結合定数は、準方向及び逆方向の速度定数の指数により作成される。当該結合定数の高い値(例えば、10mM以上)は、弱くかつ非特異的な結合を、そして低い値(例えば、100μMを超えない)は、強くかつ特異的な結合を意味する。
【0038】
当該結合定数は、例えば、平衡透析、分光学、又は図式アプローチ(スカッチャード プロット)(Scatchard−Plot)のような異なる方法で測定することができる。
【0039】
脂肪細胞の原形質膜として挙げられるものは、好ましくは、ラット、マウス又はヒト由来のものである。
【0040】
当該蛋白質の分子量は、100から120kDaの間であり、好ましくは、110から120の間、そして最も好ましくは、115kDaである。当該蛋白質の分子量の決定は、如何なる方法であれ、特にSDS−PAGEによる場合は、±5〜10%の不確定性を有することは、言及すべきことである。
【0041】
更に、本発明は、本発明に係る前述の蛋白質、及び次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1の少なくとも一つの化合物から形成される複合体に関するものである。
【0042】
当該複合体形成の要件は、リガンドの当該蛋白質に対する特異的な結合である。当該複合体は、リガンドと蛋白質間のイオン又は共有結合の形成によっておそらく安定化するものと思われる。
【0043】
本発明は、また本発明に係る蛋白質の製法に関するものであり、そこにおいては、
(a) 脂肪細胞をラット、マウス又はヒト組織から供給し、
(b) 上記(a)由来の脂肪細胞の原形質膜を単離し、
(c) 高コレステロールのraftドメイン(hcDIGs)を(b)で単離した原形質膜から調製し、
(d) 上記(c)由来のhcDIGsをトリプシン/NaCl溶液で処理し、
(e) 上記(d)由来のインキュベーション混合物を遠心分離に掛け、そして上清画分の蛋白質をSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミド−ゲル電気泳動)で分離し、
(f) 大きさ100から120kDaの蛋白質画分をゲルから溶出し、そして場合によって、界面活性剤又は生体膜を含んでいる溶液又は懸濁液で可溶化する。
【0044】
更に、本発明は、本発明に係る蛋白質に特異的に結合する化合物を同定するための方法に関するものであり、そこにおいては、
(a) 本発明に係る蛋白質を含んでいる細胞画分を供給し
(b) 化合物を供給し、
(c) 上記(a)由来の細胞画分を、(b)で供給された化合物に接触させ、
(d) 上記(a)由来の細胞画分への当該化合物の結合を測定し、
(e) 上記(d)で得た結果を、(b)で供給された化合物と同一の化合物を、(a)由来の
細胞と同一種及び/又は同一の組織特異性を有しているが、本発明に係る蛋白質を含んでいない細胞画分と接触させた実験から得た結果と比較することにより、結合特異性を推定し、それにより、本発明に係る蛋白質を含んでいない細胞画分と比較して、(b)で供給された化合物のより多くの量が、本発明に係る蛋白質を含んでいる細胞画分と結合した場合、より高い結合特異性を有する、と示すことができる。
【0045】
細胞画分は、好ましくは、脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞又は肝細胞から作成する。これらの細胞のそれぞれは、好ましくは、マウス、ラット又はヒトに由来することができる。細胞画分は、好ましくは、細胞の細胞膜から、更に好ましくは、高コレステロール含量のraftドメイン(hcDIGs)から構成される。本発明に係る蛋白質と特異的に結合する化合物を同定するための方法を実施するために用いられる化合物は、放射能核種(例えば、14C、3H、32P、121I及びその他)又は蛍光マーカーで標識することができる。
【0046】
本発明は、更に、本発明に係る蛋白質と特異的に結合する化合物を同定するための方法に関するものであり、そこにおいては、
(a)本発明に係る蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞を供給し、
(b)化合物を供給し、
(c)上記(a)由来の細胞を、(b)で供給された化合物に接触させ、
(d)上記(a)由来のグルコース輸送細胞への当該化合物の結合を測定し、
(e)上記(d)で得た結果を、(b)で供給された化合物と同一の化合物を、(a)由来の細胞と同一種及び/又は同一の組織特異性を有しているが、本発明に係る蛋白質を含んでいないグルコース輸送細胞と接触させた実験から得た結果と比較することにより、結合特異性を推定し、それにより、本発明に係る蛋白質を含んでいないグルコース輸送細胞と比較して、(b)で供給された化合物のより多くの量が、本発明に係る蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞と結合した場合、より高い結合特異性を有する、と示すことができる。
【0047】
本発明に係る蛋白質を含んでいないグルコース輸送細胞は、本発明に係る蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞をトリプシン/NaCl溶液及び/又はグリコシダーゼで処理することにより、本発明に係る蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞から、作成することができる。
【0048】
グルコース輸送細胞は、好ましくは、脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞又は肝細胞である。これらの細胞は、好ましくは、ヒトの組織又は培養細胞、マウス又はヒト起源である。
【0049】
使用した化合物は、好ましくは、放射能核種又は蛍光マーカーで標識されている。
【0050】
更に、本発明は、本発明に係る蛋白質のアゴニスト又はアンタゴニストである化合物を同定する方法に関するものであり、そこにおいては、
(a) 本発明に係る蛋白質が存在しているグルコース輸送細胞を供給し、
(b) 本発明に係る蛋白質の天然のリガンドを供給し、
(c) 化合物を供給し、
(d) 上記(a)由来のグルコース輸送細胞を、(b)で供給されたリガンド及び(c)の化合物に接触させ、
(e) 上記(d)由来のグルコース輸送細胞によるグルコースの取込みを測定し、
(f) 上記(d)由来のグルコース輸送細胞によるグルコースの取込みを測定し、それにより、(c)由来の化合物がグルコースの取込みを促進すればアゴニスト活性を有し、そしてグルコースの取込みを阻害すれば、アンタゴニスト活性を有する。
【0051】
前述の本発明に係る蛋白質のアゴニスト又はアンタゴニストである化合物を同定する方
法のリガンドは、好ましくは、YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1である。本発明に係る蛋白質とアゴニスト又はアンタゴニストである化合物を同定する方法のグルコース輸送細胞は、好ましくは、脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞又は肝細胞であり、また好ましくは、ヒト、マウス又はラット種起源である。
【0052】
更に、本発明は、本発明に係る蛋白質と結合する化合物を同定するための方法、又は本発明に係る蛋白質のアゴニスト又はアンタゴニストである化合物を同定する方法で同定される化合物、並びに医薬品の製剤のための補助剤を含んでいる医薬品に関するものである。当該医薬品は、好ましい実施態様として、次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選択した少なくとも一つの化合物を含んでいる。
【0053】
当該医薬品は、また、次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選択した少なくとも一種の化合物の部分又は誘導体を含んでいる。
【0054】
更に、本発明は、本発明に係る蛋白質に結合するものと同定された、又は本発明に係る蛋白質とアゴニスト又はアンタゴニストであると同定された化合物を、インスリン抵抗性又は糖尿病の治療のための医薬品を製造するための使用に関するものである。
【0055】
そのような化合物は、好ましくは、YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN若しくはlcGce1、又はこれらの化合物の部分又は誘導体である。
【0056】
実施態様
PIG(−P)の化学合成:YCN−PIGの合成(一般的方法については、図1、2、3を参照)
化合物2の合成(図4;i,ii)のために、Bachem (Heidelberg, Germany) からの化合物1(8.0g、20.6mmol)を、ピリジン200mlに溶解し、そしてエタノールアミン5g(81.8mmol)及びN−エチルモルホリン5mlを添加した。静置後(16時間、室温)、無水酢酸50mlを5℃で撹拌しつつ滴下した。反応混合物を、撹拌し(2時間、室温)、その後、高真空下で、濃縮した。残留物を熱メタノール150mlに溶解し、そして当該溶液を濃縮した。生成物は、塩化メチレン/メタノール(15/1)100ml及びn−ヘプタン/酢酸エチル(2/1)200mlを添加して結晶化させた。化合物2の収率は、6.1g(84%)、白色結晶、m.p. 175℃であった。TLC(薄層クロマトグラフィー):塩化メチレン/メタノール(9/1)、Rf=0.7。MS:(M+Li)+=358.2、計算式は、C16H21N3O6,M=351.36であった。
【0057】
化合物3の合成(図4;iii)のために、パラジウム−炭(10%Pd)2.0gを、化合物2(12.0g、34.0mmol)のメタノール/酢酸(1/1)溶液200ml中に添加し、混合物に水素添加した(2時間、室温)。溶液をシリカゲルで濾過し、濃縮し、そして残留物を、フラッシュ クロマトグラフィーで精製した(塩化メチレン/メタノール/濃縮アンモニア:30/5/1)。化合物3の収率は、7.3g(98%)、黄色油であった。TLC:塩化メチレン/メタノール/濃縮アンモニア(30/5/1)、Rf=0.5。MS:(M+Li)+=224.2、計算式は、C8H15N3O4、M=217.23であった。
【0058】
化合物4の合成(図4;iv)のために、テトラフルオロホウ酸 1(o−(シアノ(エトキシカルボニル)メチリデン)アミノ−1,1,3,3−テトラメチルウロン(TOTU)の1.5g(4.5mmol)、エチル−(ヒドロキシイミノ)−シアノ酢酸(オキシム)の0.64g(4.5mmol)、及びN−エチルモルホリン1.7ml(13.5mmol)、を0℃で、撹拌しながら、化合物3の0.8g(3.7mmol)及びTrtCys(Trt)OHの2.8g(4.5mmol)、のジメチルホルムアミド溶液中に添加し、その混合物を撹拌した(2時間、0℃)。酢酸エチル200mlを添加した後、その混合物を飽和NaHCO3溶液で3回洗浄し、MgSO4で乾燥し、そして濃縮した。残留物を、n−ヘプタン/酢酸エチル(6/1)で粉砕し、次に結晶化させた。化合物4の収率:2.2g(74%)、白色結晶、m.p.185℃。TLC:塩化メチレン/メタノール(15/1)、Rf=0.4。MS:(M+Li)+=811.7、計算式は、C49H48N4O5S、M=805.0であった。
【0059】
化合物6の合成(図4;v, vi)のため、化合物4の4.0g(5.0mmol)を塩化メチレン200ml中に溶解し、水4ml及びトリフルオロ酢酸3mlを添加した。15分後に、混合物を飽和NaHCO3溶液で3回洗浄し、MgSO4で乾燥し、濃縮し、そして粗生成物5を収率99%で得た。この粗生成物をメタノール50mlに溶解し、1Mナトリウムメタノラート溶液中に滴下した。15分後に塩化メチレン50mlを添加し、そして混合物をシリカゲルで濾過した。溶媒を濃縮した後、残留物をフラッシュ クロマトグラフィーで精製した(塩化メチレン/メタノール(9/1))。化合物6の収率:2.2g(85%)、白色の非晶性固体。TLC:塩化メチレン/メタノール(5/1)、Rf=0.7、MS:(M+Li)+=527.3、計算式は、C28H32N4O4S、M=520.6であった。
【0060】
化合物7の合成(図4;vii)のため、化合物6の2.7g(5.2mmol)、Ztyr(Bn)OHの4.2g(10.4mmol)、TOTU3.4g(10.4mmol)、オキシム1.5g(10.4mmol)、N−エチルモルホリン2mlを添加したジメチルホルムアミド50mlを、化合物4の合成と同様に、反応させた。化合物7の収率:4.2g(89%)、白色結晶。TLC:塩化メチレン/メタノール(15/1)、Rf=0.25。MS:(M+Li)+=914.8、計算式は、C25H53N5O8S、M=908.1であった。
【0061】
化合物8の合成(図5; viii)のため、亜リン酸6.0g(73mmol)をピリジンで4回濃縮した後、乾燥ピリジン180ml中に溶解した。塩化ピバロイル(pivaloyl chloride)の13mlを10℃で滴下した。この反応溶液を静置した(45分、室温)。生成物7の16.4g(18.1mmol)、を上述したように、反応溶液に加えた。5時間後、トルエン200ml及び塩化メチレン/メタノール/33%アンモニア(30/10/3)150mlで希釈した。濃縮後、残留したピリジンをトルエン200mlで更に3回蒸留除去した。残留物を塩化メチレン/メタノール(20/1)の200mlに懸濁した。非溶解性成分を濾過し、そして塩化メチレン/メタノール(20/1)の50mlで2回洗浄した。濾液を濃縮し、そしてフラッシュ クロマトグラフィーで精製した。化合物8の収率:11.6g(66%)、白色結晶。TLC:塩化メチレン/メタノール/33%アンモニア(30/5/1)、Rf=0.25。MS:(M+Li)+=978.4、計算式は、C52H54N5O10SP、M=972.08であった。
【0062】
化合物10の合成(図6; ix, x)のため、化合物8の4.5g(4.6mmol)及び化合物9の6.0g(2.3mmol;前述の参考文献47に基づいて合成)を、乾燥ピリジン80ml中に溶解した。室温で30分後、反応混合物を0℃で冷却し、そして水5ml及びイオジン1.3gを添加した。反応混合物を撹拌し(30分、10℃)、その後、塩化メチレン500ml、飽和NaCl溶液150ml、及び飽和チオ硫酸塩溶液30mlで希釈し、そして5分間撹拌した。有機相をMgSO4で乾燥して、そして濃縮した。残留物を、塩化メチレン/メタノール/濃縮アンモニア(30/5/1〜30/10/3)を用いてフラッシュ クロマトグラフィーで精製した。化合物10の収率:8.0g、非結晶性固体。TLC:塩化メチレン/メタノール(20/1)、Rf=0.5。MS:(M+Li)+=3583.6、計算式は、C207H214N8O42SP2、M=3580.0であった。
【0063】
化合物11の合成(図6;xi)のため、アンモニア300mlを−78℃で濃縮した
。そこに、ナトリウム2.1g(91mmol)を溶解した。この溶液を乾燥テトラヒドロフラン150mlで希釈し、そして乾燥テトラヒドロフラン50mlに溶解した保護基を有する最終生成物である化合物10の8.0g(2.2mmol)を、反応温度−78℃でゆっくりと滴下した。反応時間15分後(青色が消失してはならない)、混合物は塩化アンモニウム5gで注意深く処理した。青色が消失したとき、混合物を水50ml及びメタノール150mlで注意深く希釈した。解凍後、約100mlに濃縮した。この溶液を500mlのを塩化メチレン/メタノール/33%アンモニア(3/3/1)で希釈し、そしてフラッシュ シリカゲルカラムに添加した(シリカゲル:500ml)。それを、塩化メチレン/メタノール/33%アンモニア(3/3/2)及び(3/3.5/3)の各々1リットルを用いて続けて溶離させた。溶離した生成物は、n−ブタノール/エタノール/水/33%アンモニア(2/2/2/1)を用いて、クロマトグラフィーで精製した。化合物11の収率:2.4g、(化合物9から67%)、白色結晶。TLC:n−ブタノール/エタノール/水/33%アンモニア(2/2/2/1)、Rf=0.5.MS:(M+NH3)+=1572.6、計算式は、C54H88N6O40P2S、M=1555.31であった。31P−NMR(D2O)=15.3 ppm(環状リン酸塩)及び0.3(リン酸ジエステル)。1H−及び13C−NMRの測定値は、表1に表示してある。
【0064】
化合物YCNの合成(図7; xii)のため、化合物7の11.0g(11.3mmol)を、化合物11の合成と同様にして脱保護した。化合物YCNの収率:4.5g(90%)、白色結晶。TLC:塩化メチレン/メタノール/濃縮アンモニア(30/15/5)、Rf=0.25.MS:(M+Li)+=448.3、計算式は、C18H27N5O6S、M=441.51であった。
【0065】
化合物YMN−PIGの合成のため、YMN−PIGを、図2に示したものと同様な反応系列を用いて合成した。TrtCys(Trt)OHの代わりに、BocMetOHを使用して、同様な収率で、白色固体のYMN−PIGを得た。TLC:n−ブタノール/エタノール/水/33%アンモニア(2/2/2/1)、Rf=0.5.MS:(M+NH3)+=1600.6;計算式は、C56H92N6O40P2S、M=1583.38であった。31P−NMR(D2O)=15.3 ppm(環状リン酸塩)及び0.3(リン酸ジエステル)。
【0066】
放射能標識及び脂肪分解Gce1p(lcGce1p)の合成
インタクトなGPIアンカーを有しているGce1pを、ミオ−[14C]イノシトールで代謝的に標識し、そして酵素的にスフェロプラストに変換した乳酸生育の酵母細胞から精製し、原形質膜を調製した。Ficoll密度勾配遠心分離で精製し、β−アミドタウロコール酸塩0.35%を用いて可溶化し、そしてTX−114分配付した。界面活性剤濃縮相に含まれているGce1pを、セファデックス(Sephadex) S−300を用いたゲル濾過クロマトグラフィーで精製し、N6−(2−アミノエチル)−cAMPセファローズ(Sepharose)を用いたアフィニテイクロマトグラフィー、及びフェニルセファローズ クロマトグラフィーで精製した。カラムからの溶離は、3H−放射能をオンライン測定により測定した。部分的に精製したGce1pを沈殿させ(ポリエチレングリコール6000の12%)、0.2mg蛋白質/mlの濃度で緩衝液G(25mM Tris/酢酸塩、pH7.4、144mM NaCl,0.1% β−アミドタウロコール酸塩、0.5mM DTT、0.2mM EDTA、5%グリセロール、0.1mM PMSF、5μM ロイペプチン、1mM ヨードアセトアミド、10μg/ml 大豆トリプシンインヒビター)に懸濁し、続いてPI−特異的PLC(B.Cereus)の6U/mlの存在下でインキュベートした(3時間、25℃)。2% トライトン(Triton)X−114、10mM Tris−HCl(pH7.4)、144mM NaClの氷冷却溶液の10倍量を添加し相分画(37℃で2分間インキュベーション、そして25℃で1分間、12,000xgで遠心分離)の後、lcGce1pを上部の界面活性剤低濃度相から回収した。
【0067】
下部の界面活性剤高濃度相を、10mM Tris−HCl、144mM NaClの等量を添加して2回再抽出した後、氷上で再解凍し、続いて相分画した後、一緒にした界面活性剤低濃度相を沈殿させた(12% ポリエチレングリコール6000)。
【0068】
放射能標識したlcGce1pを、200〜1000dpm/μlのβ−アミドタウロコール酸塩を含んでいない緩衝液中に懸濁した。
【0069】
放射能標識したYCN−PIGの合成
放射能標識したYCN−PIGは、V8プロテアーゼ(S.aureus)及びPI−PLC(B.cereus)による連続的消化により、Gce1pから誘導した。YCN−PIGを、TX−114による分配後の界面活性剤低濃度層から回収し、そして陽イオン交換クロマトグラフィー(Dowex 50W−X8)、BioGel−P4を用いたゲル濾過、SAX HPLCカラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、異なる溶媒系を用いたSi−60 HPTLCプレートによる2回の薄層クロマトグラフィー、そして最終的に、BioGel−P4を用いたゲル濾過により、連続的に精製した。各クロマトグラフィー分離中の溶離物は、3H−放射能、UV吸収(A220)、及び、単離ラット脂肪細胞におけるグルコース輸送促進に基づくインスリン−類似活性の測定により追跡した。
【0070】
放射化学純度の測定のため、YCN−PIGの最終標品を、グルコースオリゴマーの標準混合物の含量によるジオネックス単位(Dionex units)で補正したDionex−CarboPac PA−1陰イオン交換HPLC(pH13)に供した。内部標準は、パルス電流滴定測定器を用いて測定した。14C−標識フラグメントは、レイテスト ラモナ(Raytest Ramona)オンライン放射能測定器で測定した。濃度測定には、YCN−PIGを加水分解(6M HCl、16時間、110℃)し、そして無機リンの量(2モル/分子)及びチロシンの量(1モル/分子)を測定した。乾燥したYCN−PIGを使用するまで、−80℃で保存し、そしてその後、最終濃度が100μMとなるように、2mM DTTを含んでいる水中に懸濁した。
【0071】
ラット脂肪細胞の調製及びPIG(−P)/YCNとのインキュベーション
脂肪細胞は、雄のスプラーグ ダウレイ(Sprague Dawley)ラット(140〜160g、通常飼育)の副睾丸(精巣上体)の脂肪体からコラーゲン消化により単離し、1%(w/v)BSA,100μg/ml ゲンタマイシン、100mM 1−メチルー2−フェニルエチルアデノシン、0.5U/ml アデノシンデアミナーゼ、0.5mM ピルビン酸ナトリウム、及び5mM D−グルコースを含んでいる、KRH緩衝液(0.14mM NaCl,4.7mM KCl,2.5mM CaCl2,1.2mM MgSO4、1.2mM KH2PO4、20mM ヘペス/KOH、pH7.4)中で、PIG(−P)/YCN(20mM ヘペス/KOHに溶解、pH7.4、2mM DTT)の存在下で、37℃、振とう湯槽中、5%CO2/95%O2の継続的通気下で、所定の時間インキュベートした。
【0072】
ラット脂肪細胞のトリプシン/NaCl又はNEMの処理
トリプシン/NaCl処理のため、5mM グルコースを含んでいるKRH中の脂肪細胞の懸濁液(3.5×106細胞/ml)の2mlを、トリプシン100μg/ml存在下で、インキュベートした(20分、30℃)。大豆トリプシンインヒビター(最終濃度:100μg/ml)、及び1M NaCl及び0.5%BSAを含んでいるKRHの2mlを添加し、インキュベーションを継続した(10分、22℃)。NEM処理のため、5mM グルコースを含んでいるKRH中の脂肪細胞懸濁液(3.5×106細胞/ml)の1mlを、NEM(最終濃度:1.5mM)とインキュベートし(30分、25℃)、そしてその後、DTT(最終濃度:15mM、5分間)とインキュベートした。
【0073】
処理後、細胞を遠心分離し(1500xg、5分間、スウィング−アウト ローター)、そして下澄液(infranatant)を吸引して除去した。残った細胞懸濁液(約0.5ml)、を0.5%BSAを含んでいるKRHの10mlを補充し、再度遠心分離した(500xg、1分間、スウィング−アウト ローター)。追加的に2回洗浄した後、最終細胞懸濁液を、0.5% BSA、50μM グルコース、及び1mM ピルビン酸ナトリウムを含んでいるKRHで、25mlとした。その0.2mlを、PIG41に対する機能喪失を測定するため、脂質新生を検定した。対照細胞を同様に遠心分離し、洗浄した細胞をトリプシン/NaClの代わりに、水で処理した。[14C]NEMで脂肪細胞を放射性標識するため、細胞懸濁液を、遠心分離し(500xg、1分間)、そして下澄液を除去した。50μl毎(7×106細胞/ml)を総量60μlの2.5μCi[14C]NEMと一緒にインキュベートした(10分、30℃)。
【0074】
10mM DTTの5μl及び10mM グルコースを含んでいるKRHの55μlを添加した後、上述したように、総量200μl中で、トリプシン/NaClの処理をした。
【0075】
50μl毎を、0.4ml遠心分離管中、フタル酸ジノニルを含んでいる200μlの油層上に注意深く積載した。遠心分離(5000xg、15秒間)の後、遠心分離管を油層中で切断した。遠心分離管の下部に含まれている培地の蛋白質を沈殿させ(10%TCA,アセトンで2回洗浄)、レムリ(Laemmli)標品緩衝液に懸濁し、そしてSDS−PAGEで分析した。
【0076】
原形質膜、全細胞溶解物及びミクロソームの調製
除核後の下澄液を、単離したラット脂肪細胞から、前述したようにして調製した。原形質膜の調製のため、蛋白質1mlを、38%(w/v)スクロース、25mM Tris/HCl
(pH7.4),1mM EDTAの5ml溶液の上層に積載し、そして遠心分離した(110,000xg、1時間)。
【0077】
二層(0.5ml)間の境界面にある膜を、吸引して取り出し、ホモジナイズ緩衝液の4倍量で希釈し、そして、28%ペルコール(Percoll)、0.25Mスクロース、1mM
EDTA,25mM Tris/HCl (pH7.0)の8ml溶液の上層に積載した。遠心分離(45,000xg、30分)の後、原形質膜を、下層三段目の勾配(0.5ml)から、パスツールピペットで取り出し、ホモジナイズ緩衝液の10倍量で希釈し、そして遠心分離した(200,000xg、90分)。結合実験のため、洗浄したペレットを、結合用緩衝液に、1〜2mg蛋白質/mlの濃度で懸濁した。
【0078】
全細胞溶解物の調製のため、除核後の下澄液に、デオキシコール酸塩及びノニデット(Nonidet)P−40(最終濃度:各々0.3及び0.2%)を添加して、インキュベートし(1時間、4℃)、そして遠心分離した(110,000xg、1時間、4℃)。上清画分は免疫沈降法に使用した。ミクロソーム調製のため、除核後の上清画分を遠心分離した(100,000xg、1時間、4℃)。得られたペレットは、結合用緩衝液に、1〜2mg蛋白質/mlの濃度で懸濁した。
【0079】
hcDIGs/lcDIGsの調製
精製した原形質膜のペレット(0.5〜1mg)を、50mM NaF,5mM ピロリン酸ナトリウム、10μM オカダ酸、1mM 正バナジン酸ナトリウム、20μM ロイペプチン、5μM ペプスタチン、1μM アプロチニン、5mM ヨード酢酸塩、200μM PMSF、1mM EDTAを含んでいる、氷冷却の0.5M Na2CO3(pH11)に懸濁し、そしてインキュベートした(1時間、4℃、ボルテックス(vortex)による振動及びピペトでの吸引を繰り返しつつ)。その後、懸濁液を、15mM MES/KOH(pH6.5)、75mM NaClを含んでいる85%スクロース溶液の等量と混合した。
【0080】
同様の培地の各々42.5、35、28、22、15及び5%のスクロース溶液の1.5mlの上層に積載し、そして遠心分離した(230,000xg、Beckman SW41 ローター、18時間)。15〜22%(画分4及び5)及び28〜35%(画分8及び9)スクロースの境界面における、羊毛状物質の光分散の乳白色を発するバンド、並びに42.5%クッションの物質(画分12−15)を、それぞれ、hcDIGs、lcDIGs及び可溶化した原形質膜の蛋白質として、19−ゲージの針及びシリンジを用いて集めた(画分当たり、0.75ml)。密度は、画分の比旋光度を測定して求めた。hc/lcDIGsは、前述したように、適切なマーカーの増加/減少により、特徴付けられる。結合実験のため、hc/lcDIGsを、結合懸濁液(15mM Mes/KOH、pH6.5、0.25M スクロース、75mM NaCl、2mM MgCl2、0.5mM EDTA、0.5mM DTT、プロテアーゼインヒビター)に懸濁した。
【0081】
放射能標識したYCN−PIG又はlcGce1p のサブセルラー画分との結合
放射能標識したYCN−PIG又はlcGce1pの10μl(60,000〜80,000dpm/nmol、最終濃度:5μM)を、非標識の競合物質(図の説明において指摘)の存在下又は非存在下で、原形質膜、ミクロソーム又はhc/lcDIGs(蛋白質:40〜80μg)を懸濁した結合用緩衝液の40μlに添加し、総量を100μlとして、インキュベートした(30分、4℃)。インキュベーション培地から原形質膜を分離するため、45μlを、原形質膜/ミクロソームの場合は、フタル酸ジブチル及びフタル酸ジオクチル(1/1容積比、最終密度1.012)、又は、0.4ml前冷却(4℃)遠心分離管(ミクロチューブ番号:72.700、Sarstedt, Germany)中のhc/lcDIGsの場合は、フタル酸ジブチル及びフタル酸ジノニル(1/9容積比、最終密度9.863)を含んでいる、200μlの油層上に、注意深く積載した。
【0082】
遠心分離(48,000xg、2分)の後、蓋で密閉してある遠心分離管の蓋をはずしてから、油層で切り取り、それぞれ、原形質膜/ミクロソームのペレット、及びhc/lcDIGsの上清画分を含んでいる(蓋をはずした)遠心分離管の下部及び上部を(それは油層中に浸透しているか或いは浸透していないが)、10%SDSの1mlを含んでいるシンチレーション管(10ml)に移した。激しく振とうした後(16時間、25℃)、放射能をACSII シンチレーション溶媒(Beckman) の9ml中で測定した。これらの条件下では、放射能標識YCN−PIG及びlcGce1pの管壁に付着した及び油層中に拡散したものは、50〜120dpmであり(即ち、インキュベーションに用いた全放射能の0.5%以下)、それ故、結合データの計算には、考慮しないこととした。
【0083】
蛋白質測定の結果、原形質膜及びミクロソームの典型的な回収は、それぞれ78〜85%、及び65〜80%であり、hcDIGs及びlcDIGsでは、それぞれ83〜92%、及び70〜78%であった。
【0084】
PIG(−P)の化学合成
親水性GPI構造は、次の二つの実験的アプローチによる天然の材料から調製される:(i)GPI特異的なPLC/Dによる、遊離GPI脂質から、極性コアグリカン頭残基として、放出されたPIGで、それ故、如何なるアミノ酸をも欠損する。及び、(ii)脂質分解及び蛋白質分解の組合わせにより、残存するGPI蛋白質のカルボキシ末端に由来する一つ又はそれ以上のアミノ酸と一緒になった極性コアグリカン頭残基を生成する、GPI蛋白質から生ずるPIG−P。
【0085】
GPI脂質及びGPI蛋白質は、真核細胞の原形質膜の外側層に、酵母からヒトに至るまで保存されているコアグリカン頭残基と一緒に存在している。GPIコアグリカン頭残基の結合を検定するため、放射能標識した純粋なPIG(−P)構造の合成は、「Muller
et al., Endocrinology 138, 3459−3475, 1997」に記載されているような、既に公開さ
れている方法を用いた。即ち、YCN−PIGは、ミオ[14C]イノシトールで代謝的に標識した酵母S.セレビシア(S.cerevisiae)由来の、原形質膜の放射化学的に純粋なGPI蛋白質、Gce1pから、In vitroにおける連続的な蛋白質分解及び脂質分解により調製した。
【0086】
結合の構造−活性相関関係の検定には、化学的に合成したYCN−PIG及びそれらの誘導体を使用した(図1:YCN−PIG;図2:YMN−PIG;図3:PIG37;図4:YCN)。
【0087】
YCN−PIGのトリペプチドの合成は、ペプチド合成の技術常識的手段で行なった。ヘキササッカライドは、「Frick et al., Biochemistry 37, 13421−13436; 1998」に記載されている、トリクロロアセトイミド法を用いて合成した。PIG−Pの合成における重要な工程は、ホスホジエステル結合の形成であることが明らかとなった。実験した種々の方法のうち、H−ホスホネート法が、最も良い収率で合成することが分かった。
【0088】
最終化合物の保護基脱離は、システイン(パラジウムで水素化されない)及び酸不安定な環状リン酸塩の存在で強化した、液体アンモニア中のナトリウムで行なった。全化合物について、質量分析、1H−NMR、13C−NMR、及び、31P−NMR分光法を用いて特性決定をした。
【0089】
hcDIGsに特異的に結合するPIG(−P)
賦活化されていない脂肪細胞から勾配遠心分離により調製した全原形質膜を、原形質膜の特異的マーカー酵素を標識として濃縮した(全細胞溶解物との比較)。ウアバイン(ouabain) 感受性p−ニトロフェニルホスファターゼ(ナトリウム/カリウム−ATPアーゼ(Na+/K+−ATPase)の触媒サブユニットに対応)を9.5倍に濃縮し、及び、Nucに対して1.9倍(酵素活性に基づき)、β1−インテグリンに対して13.9倍、シンタキシン−1(syntaxin−1)に対して16.4倍(免疫ブロット法(immunoblotting)に基づき)、及びGce1に対して7.8倍(フォトアフィニテイ標識に基づき)濃縮した。
【0090】
同時に、原形質膜調製は、筋小胞体マーカー、EGTA感受性Ca2+−アデノシントリホスファターゼに対しては5.7倍、エンドソームマーカー、SCAMP(分泌担体膜蛋白質(Secretary Carrier Membrane Protein))37/39に対しては8.5倍、及びGLUT4(グルコーストランスポーター4)に対しては16.9倍(免疫ブロット法(immunoblotting)に基づき)減少した(全細胞溶解物との比較)。
【0091】
賦活化されていない脂肪細胞由来のミクロソームは、全細胞溶解物に比較して、GLUT4に対しては14.4倍、SCAMP37/39に対しては8.5倍、トランスフェリン受容体に対しては6.9倍、及びIGFIIに対しては9.7倍濃縮し、また、全細胞溶解物に比較して、p−ニトロフェニルホスファターゼに対しては24.6倍、Gce1に対しては12.5倍、Nucに対しては15.8倍、β1−インテグリンに対しては39.5倍、及び、シンタキシン−1(syntaxin−1)に対しては48.5倍(免疫ブロット法(immunoblotting)に基づき)、及び、Ca2+−感受性アデノシントリホスファターゼ活性に対しては19.9倍減少した。このことより、この画分は、基本的に、小胞体及びエンドソーム構造を含んでいるものであり、そして事実上、原形質膜及び筋小胞体フラグメントを含んでいないことを示唆している。
【0092】
hcDIGs及びlcDIGsは、賦活化されていない脂肪細胞から、0.5M Na2CO3(pH11)には不溶解で、かつ蔗糖密度勾配遠心分離においては低容積密度であることに基づいて調製した。それらは、(全原形質膜と比較して)、GLUT4及びインスリン受容体β−サブユニットの活性減少によって特徴づけられる。lcDIGsと比較した場合、hcDIGsの方が、カベオリン(caveolin)、pp59Lyn、及びGce1に対して、有意義により高い増加を示すことによって、hcDIGsとlcDIGsは、互いに相異することが分かった。
【0093】
単離したサブセルラー膜画分は、放射能標識YCN−PIGの段階的増加量でインキュベートし、そしてインキュベーションは、適当な密度の油層遠心分離により、インキュベーション培地から急速に分離することによって終了させた。
【0094】
膜結合のYCN−PIGは、主に濃度依存性及び飽和性の態様としてのhcDIGsから、そして、微量には、lcDIGsから回収したが、そこにおいては、原形質膜及びミクロソームは実際には放射能標識はされていなかった(図5)。直線の範囲では、hcDIGsに対するYCN−PIGの非特異的結合は、無標識の合成YCN−PIG又は他の競合化合物の500倍過剰量の存在により検定した結果、20%以下であった(図5)。以下の実験は、結合の直線範囲の末端に対応するYCN−PIG濃度を用いて行なった。
【0095】
密度に基づくよりは沈降に基づく急速な濾過及び遠心分離のような、受容体−リガンド相互作用の測定の他の方法は、いかなる脂肪細胞膜の細胞画分に対するYCN−PIGの特異的結合の測定についても失敗したが(データは未表示)、それは多分に、培地結合の親和性及び/又は高い解離乗数によるものと思われる。YCN−PIGに対するスカッチャード プロット分析の結果、hcDIGsの蛋白質1mg当たり、Kdは、50〜500nMの範囲、Bmaxは、50〜200pmolの範囲であった。hcDIGsに対するYCN−PIGの特異的結合は、ペプチジルエタノールアミジン残基の欠損によるペプチド変異体、YCN−PIG及びPIG37の活性の有意義な減少、並びに、競合検定におけるペプチジルエタノールアミジン残基、YCN単独の極度に低い活性によって実証された(図6)。
【0096】
無標識YCNとPIG37の組合せ(等モル比)は、放射能標識YCN−PIGのhcDIGsに対する結合を、無標識YCN−PIGよりわずかに低効果で、及び、PIG又はペプチジルエタノールアミジン残基単独、及びYMN−PIGより強力に、置換した。この事実より、PIGとペプチジルエタノールアミジン残基の同時かつ相乗的認識が実証された。YCNとPIG37とを組合せた競合のIC50は、共有結合のYCN−PIGに比較して、3から4倍ほど高いものであった(図6)。次に、同定されたPIG(−P)の結合部位が、蛋白質様の性質を示すか否かを調べた。
【0097】
hcDIGsを、トリプシン/NaCl 又はNEMで前処理した後、無標識の合成YCN−PIGの過剰量の存在下又は非存在下において、放射能標識YCN−PIGの段階的増加量でインキュベートした(非特異的結合を調べるため)。トリプシン及び0.5MのNaClの継続処理、又はNEMの処理により、放射能標識YCN−PIGのhcDIGsに対する特異的結合は、完全に停止したが、一方、トリプシン又はNaCl単独、或いは、DTT存在下でのNEM処理では、有意義な影響はみられなかった(図7)。
【0098】
同様な不活性化が、lcDIGsに対するYCN−PIGの、低親和性相互作用においても観察された。これらの結果から、脂肪細胞表面のDIGsにおけるPIG(−P)に対する、トリプシン/NaCl及びNEM感受性の結合蛋白質の存在が実証された。lcDIGsに比較して、YCN−PIGのhcDIGsに対するより好適な結合は、m−βCDを使用した脂肪細胞の原形質膜のコレステロール減少過程における変換、及びそれに続く、放射能標識YCN−PIGのhc/lcDIGsに対する特異的結合の分析により確認された。対照脂肪細胞においては、20%がlcDIGsに結合して残留したものの、YCN−PIGの大部分は、hcDIGsと一緒に回収された(図8)。
【0099】
しかしながら、インタクトなラット脂肪細胞のm−βCD(1〜10mM)処理により、lcDIGsとの結合が増加するのに伴い、hcDIGsに結合するYCN−PIGの量が濃度依存的に減少することが明らかとなった。
【0100】
コレステロール減少後で、しかしDIGsの調製前において、脂肪細胞をトリプシン/NaCl 又はNEMで処理した場合、hcDIGs及びlcDIGs双方に対するYCN−PIGの特異的結合は有意義に減少した(データは未表示)。これらの事実から、ラット脂肪細胞のhcDIGsにおけるPIG(−P)受容体の有利な位置の形成は、コレステロールに極めて強く依存していることが実証された。
【0101】
hcDIGsに特異的に結合するGPI蛋白質の脂質分解
YCN−PIG、YMN−PIG、及びPIG37のPIG残基、−NH−(CH2)2−O−PO(OH)O−6Manα1(Manα1−2)−2Manα1−6Manα1−4GluN1−6Ino−1,2−(サイクリック)−リン酸塩(図1、2及び3)は、全ての真核細胞GPI蛋白質の極性コアグリカン頭残基と同一であった。その結果、PIG−Pの蛋白質結合部位が、lcGPI蛋白質と相互作用するか否か、即ち、GPI蛋白質の完全なポリペプチド部分に接触したときに、PIG(−P)残基を認識するか否かについて調べることとした。
【0102】
放射能標識したlcGPI蛋白質を得るために、代謝的に標識したS.セレビシエ(S.cerevisiae)細胞由来のGce1pを、PI特異的PLC(B. cereus)で処理し、そして、親水的分解産物を精製して、放射化学的に均一なものを得た。PIG(−P)に用いたのと同様の油層遠心分離法の実験の結果、lcDIGsと比較した場合、11から15倍もより効率的に、hcDIGsとの濃度依存性及び飽和性の態様において、lcGce1pは、単離したラット脂肪細胞由来のDIGsと結合することが分かった。
【0103】
200倍モル過剰の無標識lcGce1pの存在下における非特異的結合は、lcGce1pの非飽和濃度でDIGsを用いて回収した全lcGce1pの15%未満であった。スカッチャード プロット分析の結果、hcDIGsに結合するlcGce1pのKdは、hcDIGsの1mg蛋白質当たり、0.1〜1μMであり、Bmaxは、70〜200pmolであった。一方、全ての原形質膜及びミクロソームは、lcGce1pの特異的結合を示さなかった。このように、脂肪細胞原形質膜のhcDIGsは、明らかに酵母由来のlcGce1pの特異的結合部位を保持していることが分かった。
【0104】
そこで更に、同様なKd及びBmax値により指摘されるように、PIG(−P)及びlcGPI蛋白質に対する結合部位の同定の分析のため、hcDIGsにおけるlcGce1pの結合部位に対する合成PIG(−P)化合物の相対的な親和性を、競合的研究において比較した(図9)。
【0105】
放射能標識したlcGce1pのhcDIGsに対する結合が、標識した合成YCN−PIG、YMN−PIG、及びYCNプラスPIG37の過剰(500倍以上)により、結合した全lcGce1pの75%以上も置換することより、lcGce1pとhcDIGsの特異的相互作用が確認された。PIG37およびYCNとのlcGce1pの結合の競合性は、かなり効率が低かった。hcDIGsからlcGce1pに置換する見かけ上のIC50に影響を与える、異なるPIG(−P)の相対的ランキングは、YCN−PIG>YCN+PIG37>YMN−PIG>PIG37>YCNの順であり、これは、YCN−PIG結合に対する影響の相対的ランキングと同一であった(図6)。
【0106】
更に、この見かけ上のIC50は、lcGce1pとYCN−PIGとの競合的結合にも極めてよく似ており、両者の場合、同一の決定基が認識され、そしてGPI蛋白質の他の蛋白質残基(カルボキシ末端のトリペプチジルエタノールアミジン残基を除いて)は、結合に寄与していないことが分かった。
【0107】
次に、インタクトなラット脂肪細胞のトリプシン/NaCl 及びNEM処理に対する、lcGce1pとhcDIGsとの相互作用の感受性について、放射能標識したYCN−PIGの結合を殆ど完全に破壊するような条件下で調べた(図7)。
【0108】
トリプシン/NaCl 及びNEM処理の脂肪細胞からのhcDIGsは、放射能標識lcGce1pとの親和性を示した。非標識YCN−PIGの500倍過剰の存在下における非特異的結合(無処理の対照細胞由来のhcDIGsから回収した全Gce1pの約30%)を超えるものではなかった(図10)。
【0109】
これとは対照的に、過剰のDTTの存在下(図10)又は、トリプシン又はNaCl単独(データは未表示)でのNEMと脂肪細胞のインキュベーションは、放射能標識したlcGce1pの結合も、そしてその3μM YCN+PIG37、5μM PIG37、及び10μM YCNによる競合も、無処理の細胞に比較して減少しなかった。これらを総合して考えると、脂肪細胞の原形質膜のhcDIGsにおける局在、絶対的又は相対的親和性(構造的誘導体に対する)、発現レベル、トリプシン/NaCl 及びNEMに対する感受性を考慮した場合、YCN−PIG及びlcGce1pの特異的結合部位は、極めてよく似た特徴を示していることが分かった。
【0110】
PIG(−P)及びlcGPI蛋白質の受容体に対する内因性リガンド
PIG(−P)及びlcGPI蛋白質に対する表面上同一の結合部位の生理的リガンドの候補物は、無破壊のGPI構造、即ち、GPI脂質及び/又はGPI蛋白質アンカーである。この可能性を実証するために、受容体と相互作用をし、それ故に、YCN−PIG/lcGce1pの結合部位を隠蔽する内因性GPI分子と推定されるものを特異的に除去するため、hcDIGsの調製前に、単離したラット脂肪細胞を、種々のGPI特異的なPLで処理し、そして続いて塩洗浄(0.5M NaCl)をした。
【0111】
ラット脂肪細胞を段階的増加量のB.セレウス(B. cereus)由来のPI特異的PLC又はヒト血清由来のGPI特異的PLDとインキュベートした結果、特異的にhcDIGsに結合する放射能標識YCN−PIG及びGce1pの量が、濃度依存的に増加した(図11)。平行実験により、脂質消化の効果は、hcDIGsからのGce1p及びNucの喪失によって実証された。
【0112】
hcDIGsに対するYCN−PIG又はlcGce1pの結合が、それぞれ200及び260%増加したのに相関して、それぞれ75及び65%の喪失であった。GPI分解の特異性は、PC特異的なPLC(B. cereus)及びキャベツ由来のPLD(GPI構造に作用しない)が、hcDIGsからGce1及びNucを有意に置換すること、及び、hcDIGsに対するYCN−PIG(lcGce1p)結合を促進することを、完全に喪失したことによって実証された(図11、12)。
【0113】
脂肪細胞から調製したPI特異的なPLC由来のhcDIGsに対する特異的結合(非特異的結合には、有意義な変化はなかった。)のスカッチャード プロット分析の結果、放射能標識YCN−PIG/lcGce1pの親和性増加は、主に、Kdは殆ど変化せずに、Bmaxが2から3倍ほど高くなったことによるものであることが分かった。これらの事実から、単離したラット脂肪細胞の基底状態のhcDIGsにおける、PIG(−P)又はlcGPI蛋白質に対する結合部位の約50%が、(G)PI特異的PLC/Dによって分解される内因性GPI構造によって、占められたことによるものであることが分かった。
【0114】
特に顕著には、ラット脂肪細胞のGPI特異的PLC/Dの処理が、hcDIGsにおけるGce1p及びNucの量を、ある一定の程度、緩和にしかし有意義に減少させるという効果を、
生理的濃度のインスリンが示した(模倣した)ことである。インスリンにより誘導された、hcDIGsからのGPI蛋白質の喪失が、YCN−PIG又はlcGce1pの結合能力を顕著に増大する方に導いたことによるものである(図11、12)。
【0115】
更に、PIG(−P)及びlcGPI蛋白質の受容体が、CIRと呼ばれる、トリプシン/NaCl及びNEM感受性の115kDa蛋白質と同一であることが実証された。
【0116】
受容体に対するPIG−Pの結合は、後続するNEMによる共有結合の変化及び/又はトリプシン/NaClによる脂肪細胞表面からの切断と放出への接近可能性(accessibility)に影響を与える。
【0117】
ラット脂肪細胞をPIG(−P)とインキュベートし、続いて、[14C]NEM標識、及びトリプシン/NaCl処理に供した。
【0118】
SDS−PAGEによる放射能標識ポリペプチドの放出の分析、及び蛍光像(phoshorimage)(図13)により、[14C]NEMによる115kDaポリペプチドの乗換え、及び/又はトリプシン/NaCl処理後の脂肪細胞の下澄からの回収が、PIG(−P)により減少することが明らかとなった。
【0119】
その減少は、対照細胞と比較して、3μMにおけるYCN−PIG及びPIG37、及び30μMにおけるYCNでは、それぞれ83、65及び28%であった。この蛋白質は、トリプシン/NaCl処理により原形質膜から遊離した主要なNEM標識成分であるが、しかしながら、個々の処理によるものではなく(図13)、そしてそれはCIRと同一であった。
【0120】
内因性リガンド(例えば、GPI蛋白質)の存在、及び脂質分解による対応する結合部位からの除去(図11、12参照)、の実験事実と一致して、外因性PI特異的PLC(B. cereus)又はインスリンによる脂肪細胞の処理は、微少ではあるが、再現性をもって、[14C]NEM標識CIRのトリプシン/NaCl処理依存性の遊離を、それぞれ、30及び20%促進した(図13)。
【0121】
トリプシン/NaCl処理、トリプシン処理、NaCl処理による脂肪細胞表面からのCIRの遊離の相対的比率(100/20/10)が、対照、PIG(−P)賦活細胞、及びPLC/インスリン処理細胞と概略平行であったことより、hcDIGsに対するPIG(−P)及び外因性GPIリガンドの結合が、トリプシン分解よりは、NEMによるCIRの標識を減少したものと思われる。これは、脂肪細胞の原形質膜のhcDIGsにおける、リガンドとPIG(−P)受容体との相互作用により生じたCIR中の立体配座の変化によるものであると思われる。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
図のリスト
図1:PIG合成の全体図、パート1
図2:PIG合成の全体図、パート2
図3:PIG合成の全体図、パート3
図4:YCN−PIGの合成、パート1
図5:YCN−PIGの合成、パート2
図6:YCN−PIGの合成、パート3
図7:YCNの合成
図8:YCN−PIGの化学式
図9:YMN−PIGの化学式
図10:PIG37の化学式
図11:YCNの化学式
【0125】
図12:hcDIGsに対するPIG(−P)の特異的結合。
S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)から単離した放射能標識YCN−PIGの段階的増加量を、hcDIGs(6.5μg蛋白質)、lcDIGs(6.5μg)、原形質膜(47.5μg)、及び単離したラットの脂肪細胞由来のミクロソーム(68μg)と一緒にインキュベートした(1時間、4℃)。膜画分/DIGsを、油層遠心分離に掛け、油層上部/沈殿相から回収し、溶解し、そして放射能を測定した。特異的結合は、無標識YCN−PIGの10μMの存在下及び非存在下で測定した放射能の差異として計算した。各点は、少なくとも4つの異なる膜標品を用いた3連のインキュベーションの平均値±SDを表示している。
【0126】
図13:hcDIGsに対するPIG−Pの特異的結合。
放射能標識したYCN−PIG(18,000〜22,000dpm)を、段階的増加量の無標識YCN−PIG、YCN+PIG37、YMN−PIG、PIG37及びYCN(競合)の存在下及び非存在下で、hcDIGs(6.5μg蛋白質)と一緒にインキュベートした(1時間、4℃)。膜画分/DIGsを、油層遠心分離に掛け、油層上部/沈殿相から回収し、溶解し、そして放射能を測定した。
【0127】
図14:hcDIGsにおけるPIG−Pの結合部位の特性決定
S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)から単離した放射能標識YCN−PIGの増加する量を、単離したラットの脂肪細胞由来のhcDIGs(6.5μg蛋白質)で、トリプシン/NaCl,トリプシン、NEM+DTT,NaCl若しくはNEMで前処理をしたもの、又は無処理のもの(対照)と一緒にインキュベートした(1時間、4℃)。DIGsを、油層遠心分離に掛け、油層上部から回収し、溶解し、そして放射能を測定した。特異的結合は、無標識YCN−PIGの10μMの存在下及び非存在下で測定した放射能の差異として計算した。各点は、少なくとも3つの異なる脂肪細胞前処理を用いた3連のインキュベーションの平均値±SDを表示している。
【0128】
図15:hcDIGsにおけるPIG−Pの結合部位の特性決定
放射能標識したYCN−PIG(12,000〜18,000dpm)を、(正比例)量のhcDIGs、及び単離したラットの脂肪細胞から調製したhcDIGsで、段階的増加量のm−βCDで前処理(50分、30℃)したもの、又は無処理のものと一緒にインキュベートした(1時間、4℃)。DIGsを、油層遠心分離に掛け、油層上部から回収し、溶解し、そして無標識YCN−PIGの10μMの存在下及び非存在下で放射能を測定した。各点は、少なくとも3つの異なる脂肪細胞前処理を用いた3連のインキュベーションの平均値±SDを表示している。
【0129】
図16:hcDIGsに対するlcGce1pの特異的結合。
S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)から単離し、そしてPI特異的PLC(B. cereus)で処理をした放射能標識Gce1pを、無処理のラットの脂肪細胞から単離したhcDIGs(6.5μg蛋白質)と一緒に、無標識PIG−Pの存在下及び非存在下で、インキュベートした(1時間、4℃)。hcDIGsを油層遠心分離にかけ、溶解し、そして放射能を測定した。各点は、少なくとも3つの異なるhcDIG標品を、それぞれ独立に脂肪細胞前処理をしたものを用いた4連のインキュベーションの平均値±SDを表示している。
【0130】
図17:hcDIGsに対するlcGce1pの特異的結合。
S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)から単離し、そしてPI特異的PLC(B. cereus
)で処理をした放射能標識Gce1pを、トリプシン/NaCl、NEM、NEM+DTTで前処理した、又は無処理の(対照)脂肪細胞から単離し、hcDIGs(6.5μg蛋白質)と一緒に、無標識YCN−PIG(最終濃度:3μM)、YCN+PIG37(3μM)、PIG37(5μM)及びYCN(10μM)の存在下及び非存在下でインキュベートした(1時間、4℃)。hcDIGsを油層遠心分離にかけ、溶解し、そして放射能を測定した。各点は、少なくとも3つの異なるhcDIG標品を、それぞれ独立に脂肪細胞前処理をしたものを用いた、4連のインキュベーションの平均値±SDを表示している。
【0131】
図18:脂肪細胞のPL及びインスリン処理によるYCN−PIG及びlcGce1pのhcDIGsへの結合に対する効果。
単離したラットの脂肪細胞(7×107細胞/ml)を、PI特異的PLC(B. cereus)、PC特異的PLC(B. cereus)、GPI特異的PLD(ヒト血清)若しくはPLD(キャベツ)又はヒトインスリンの指摘量を、全容量2mlとし、5%CO2/95%O2中、低速回転でインキュベートした(30分、30℃)。
1MのNaClを2ml添加後に、脂肪細胞を浮揚させて洗浄した。hcDIGsを単離し、そしてその6.5μgを、S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)から調製した放射能標識lcGce1p及びYCN−PIG(15,000〜25,000dpm)と一緒に、無標識YCN−PIG(最終濃度:10μM)の存在下及び非存在下で、インキュベートし(1時間、4℃)、油層遠心分離に掛け、油層上部から回収し、溶解し、そして放射能を測定した。特異的結合は、無標識YCN−PIGの存在下及び非存在下で測定した放射能の差異として計算した。
各点は、少なくとも2つの異なるhcDIGs標品を用いた3連のインキュベーションの平均値±SDを表示している。
【0132】
図19:脂肪細胞のPL及びインスリン処理によるYCN−PIG及びlcGce1pのhcDIGsへの結合に対する効果。
単離したラットの脂肪細胞(7×107細胞/ml)を、PI特異的PLC(B. cereus)、PC特異的PLC(B. cereus)、GPI特異的PLD(ヒト血清)若しくはPLD(キャベツ)又はヒトインスリンの指摘量を、全容量2mlとし、5%CO2/95%O2中、低速回転でインキュベートした(30分、30℃)。
1MのNaClを2ml添加後に、脂肪細胞を浮揚させて洗浄した。hcDIGsを単離し、そしてその6.5μgを、S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)から調製した放射能標識lcGce1p及びYCN−PIG(15,000〜25,000dpm)と一緒に、無標識YCN−PIG(最終濃度:10μM)の存在下及び非存在下でインキュベートし(1時間、4℃)、油層遠心分離に掛け、油層上部から回収し、溶解し、そして放射能を測定した。
【0133】
図20:CIRのNEM−標識におけるPIG(−P)、PI特異的PLC及びインスリンの効果。
単離したラットの脂肪細胞を、PIG37、YCN−PIG、YCN、PI−PLC(B. cereus)又はインスリンを指摘濃度でインキュベートし(30分、37℃)、そして[14C]−NEMで標識した。トリプシン/NaClで指摘したように処理した後に、脂肪細胞を油層遠心分離に掛け、インキュベーション培地から単離した。蛋白質は、その培地(油層下部)から回収し、そしてSDS−PAGEで再可溶化した。
【0134】
蛍光像(phoshorimage)は、同様な結果を示す3連の典型的な実験からのものを表示している。4つの異なる脂肪細胞のインキュベーションの定量的検定は、トリプシン/NaClで処理した対照細胞から遊離したCIRの量を100とする不定単位(平均値±SD)で与えられる3連の測定値として表示している。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】PIG合成の全体図(パート1)を示す。
【図2】PIG合成の全体図(パート2)を示す。
【図3】PIG合成の全体図(パート3)を示す。
【図4】YCN−PIGの合成(パート1)を示す。
【図5】YCN−PIGの合成(パート2)を示す。
【図6】YCN−PIGの合成(パート3)を示す。
【図7】YCNの合成を示す。
【図8】YCN−PIGの化学式を示す。
【図9】YMN−PIGの化学式を示す。
【図10】PIG37の化学式を示す。
【図11】YCNの化学式を示す。
【図12】hcDIGsに対するPIG(−P)の特異的結合を示す。
【図13】hcDIGsに対するPIG−Pの特異的結合を示す。
【図14】hcDIGsにおけるPIG−Pの結合部位の特性づけを示す。
【図15】hcDIGsにおけるPIG−Pの結合部位の特性づけを示す。
【図16】hcDIGsに対するlcGce1pの特異的結合を示す。
【図17】hcDIGsに対するlcGce1pの特異的結合を示す。
【図18】脂肪細胞のPL及びインスリン処理によるYCN−PIG及びlcGce1pのhcDIGsへの結合に対する効果を示す。
【図19】脂肪細胞のPL及びインスリン処理によるYCN−PIG及びlcGce1pのhcDIGsへの結合に対する効果を示す。
【図20】CIRのNEM−標識におけるPIG(−P)、PI特異的PLC及びインスリンの効果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホイノシトールグリカンに対する特異的結合親和性を有する脂肪細胞の原形質膜由来の蛋白質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膜貫通シグナル化におけるリン脂質及びホスホリパーゼの役割は、十分に解明されている。同様に、共有結合により結合しているグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)を通して、細胞膜中の結合蛋白質の概念もまた十分に解明されている。そして、GPI結合の詳細な化学構造も、ヒト赤血球、ラットThy−1、及び、トリパノゾーマ ブルセイ(Trypanosoma brucei)由来のバリアント表面糖蛋白質(VSG)に類似する寄生虫の幾つかの外殻蛋白質のようなGPI結合蛋白質の数種類について研究されている。脂質結合は、ジアシル−又はアルキルアシルグリセロール型リン脂質から成るホスファチジルイノシトール(PI)を通して起こる。後者は、とりわけ哺乳類アンカーにおいて起こり、そして膜に存在している巨大PIとは異なることにより、GPIから誘導される第二メッセンジャーの発生に関与する新規な分子種を供給することができる。GPIによるシグナル化は、これら脂質結合分子が膜を結び付けることはないが、しかしながら、多くの場合、脂質二重層の外側半分中に埋め込まれていることより、特に興味がある。GPIの細胞膜からのシグナル仲介放出が、ホルモンから成長因子に至る種々の内分泌及び傍分泌分子を実証している。膜貫通シグナル化におけるGPIの関与、及びその細胞内効果は、今日では解明されているようではあるが、しかしながら、観察された代謝効果に導くシグナル経路については、ほとんど知られていない。
【0003】
インスリンの受容体結合がGPIの加水分解を活性化することを示した初期の実験から得られたシグナル化特性を、GPI結合分子が有しているということは注目すべきことである。或る低分子量の物質が、代謝酵素に対するインスリンの或る作用に類似しているものと同定された。この物質はイノシトールグリカン構造を有し、そして原形質膜中におけるGPIのインスリン感受性の加水分解によって生成する。イノシトールグリカン酵素修飾因子(モジュレーター)のGPI前駆体が、GPI膜蛋白質アンカーに構造的に類似するものと最初は思われていたが、シグナル伝達GPIと膜蛋白質のGPIアンカーの間にある炭化水素残基において顕著な相違がみられる。GPI−膜蛋白質アンカーは、必ず接触する蛋白質のC−末端アミノ酸との結合を供給するエタノールアミンホスフェートに続くトリマンノースコアから構成されている。
【0004】
制御されたGPI加水分解は、インスリンに限らず、他の多くのホルモンについても観察されている。
【0005】
実際多くの場合、ホルモン又は成長因子による細胞の賦活は、細胞表面からのGPI−結合蛋白質の一過性放出を導くものである。これらのアゴニストの受容体の多くは、チロシンキナーゼ受容体又はチロシンキナーゼに共役した受容体である。
【0006】
インスリン作用に関与する多くの蛋白質は、分子レベルで同定されている。インスリン受容体は、膜貫通型のチロシンキナーゼであり、インスリン結合により活性化され、すみやかに自己リン酸化を受け、そしてその中には、Shcを含む一つ又はそれ以上の50〜60kDa蛋白質、15kDa脂肪酸結合蛋白質、及び幾つかの、いわゆるインスリン受容体基質蛋白質と呼ばれる、IRS−1/2/3/4のようなものを含む多くの細胞内物質をリン酸化する。チロシンリン酸化の後、IRSポリペプチドは、幾つかのSrcホモロジー2ドメインを含んでいるアダプター分子、及びホスファチジルイノシトール 3−キナーゼ(PI 3−K)、Grb2、SHP2、Nck、及びFynを含む酵素に対するドッキング蛋白質として作用する。IRS蛋白質とPI 3−K間の相互作用は、酵素のp85調節サブユニットを通して起こり、そしてp110サブユニットの触媒活性の増加となる。PI 3−Kは、グルコース輸送及びグリコーゲン合成の促進を含む、多くのインスリン感受性代謝経路にとって必須である。IRS蛋白質のチロシンリン酸化促進が起こる全ての場合において、これらの蛋白質がPI 3−Kのp85サブユニットに相伴ってドッキングするが、例外は、インスリンとアンジオテンシンのシグナルシステム間のクロストークであり、この場合は、当該ドッキングは、PI 3−Kの賦活と関連している。
【0007】
インスリン受容体から下流標的までに直接導くシグナル伝達経路の同定に加えて、幾つかのクロストークが、インスリンによるシグナル伝達と他のホルモン/成長因子又は多様な外的刺激との間で記述されているが、それは、種々の細胞系においてインスリンのポジテイブな又はネガテイブな代謝及び/又は分裂促進作用についての或る程度の類似又は変異である。これらのリガンドの如何なるものも、インスリン受容体キナーゼを直接的には活性化しないことより、それらのシグナル化経路は、より末端のシグナル化段階におけるインスリンのシグナル化経路に集中するのかも知れない。この特性は、例えば、インスリン受容体キナーゼ活性の随伴する誘導なしに、かなりの程度代謝的インスリン作用に類似する酵母Gce1pのグリコシルホスファチジルイノシトール アンカー由来のPIG−Pのような異なる型のホスホイノシトールグリカン−ペプチド(PIG−P)分子と共通する。
【0008】
インスリンが作用する標的細胞におけるインスリン情報伝達カスケードに対するホスホイノシトールグリカン(PIG)及びPIG−ペプチド(PIG−P)のポジテイブクロストークは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)−結合の原形質膜蛋白質(GPI蛋白質)、及び二元的に、界面活性剤不溶性の糖脂質に富んだ原形質膜の高コレステロール(hcDIGs)のraftドメインから低コレステロール(lcDIGs)のraftドメインまでの、アシル化された非受容体チロシンキナーゼの再分布に関与している。
【0009】
単離したラット脂肪細胞においては、PIG−Pの第一標的はhcDIGsに局在している。放射能標識PIG−P、Tyr−Cys−Asn−NH−(CH2)2−O−PO(OH)O−6Manα1−2)−2Manα1−6Manα1−4GluN1−6Ino−1,2−(サイクリック)−リン酸塩(YCN−PIG)、並びに、サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来の放射能標識及び脂肪分解GPI蛋白質(lcGce1p)は、(それからYCN−PIGが誘導される。)、飽和の状態でhcDIGsに結合しているが、しかしながら、lcDIGs、ミクロソーム又は全原形質膜には結合しない。化学的に合成された無標識YCN−PIGの過剰により、又は脂肪細胞をトリプシン、続いてNaCl又はN−エチルマレイミド(NEM)で前処理をすることによって完全に結合しなくなったことより、YCN−PIGは細胞表面の受容体によって認識されるものであると指摘でき、YCN−PIG及びlcGce1の結合は、双方共に特異的であるといえる。
【0010】
PIG−Pの結合は、GPI蛋白質/脂質のような内因性リガンドの脂肪分解による除去に適切な、GPI特異性ホスホリパーゼCで前処理した脂肪細胞由来のhcDIGsにおいては、かなり増加していた。結合親和性は、YCN−PIGで最高であり、個々の構成成分Tyr−Cys−Asn−NH−(CH2)2−OH(YCN)プラスHO−PO(H)O−6Manα1(Manα1−2)−2−Manα1−6Manα1−4GluN1−6Ino−1,2−(サイクリック)−リン酸塩(PIG37)の組合せ、及びそのペプチド変異体、YMN−PIG、がそれに次ぐものであった。PIG37及びYCN単独では、中間的で低位の結合親和性であった。脂肪細胞のYCN−PIGとのインキュベーションは、後続するトリプシン/NaClの逐次処理により細胞表面から放出される115kDaポリペプチドの[14C]NEM標識を減少した。これらの実験データより、ラット脂肪細胞においては、インスリン類似PIG(−P)は、GPI蛋白質の受容体として作用するhcDIGsのトリプシン/NaCl/NEM−感受性の115kDa蛋白質により認識されるものであることが明らかとなった。
【0011】
種々のDIGs型が同一の細胞中に存在していると思われる。カベオラ(caveolae)は、マーカー及び構造蛋白質、カベオリン 1−3の豊富な発現により誘導したフラスコ形の嵌入を形成する最終的に分化した細胞における特殊なDIGsを代表するものである。
【0012】
脂肪細胞における原形質膜表面の20%にも及ぶカベオラは、受容体仲介ポトサイトーシス、エンドサイトーシス、トランスサイトーシス及びシグナル伝達に関与する。単離したラット脂肪細胞において、高い浮力密度(蔗糖密度勾配遠心分離に基づき)を示す低コレステロール/カベオリン量のlcDIGsは、低い浮力密度により特徴づけられる高コレステロール/カベオリン量の典型的なhcDIGsから識別することができる。Gce1及びNuc、並びにNRTK、非受容体チロシンキナーゼ(Non Recepter Tyrosine Kinase)pp59Lynのように二重にアシル化した蛋白質のようなGPI蛋白質の主要画分は、hcDIGsに配置している。合成PIG又はスルホニルウレア、グリメピリド(glimepiride)のようなインスリン類似刺激に応答して、GPI蛋白質及びNRTKsの双方は、hcDIGsからlcDIGsへと移動する。この再分布は、脂質修飾の欠失によって起こるものではない。
【0013】
GPI蛋白質ポリペプチド残基のカルボキシ末端から隣接のアミノ酸を有さない(PIG)又は有する(PIG−P)極性のコアグリカン頭残基は、基底状態においてhcDIGsとlcDIGsとの間のGPI蛋白質の分布、及びインスリン類似刺激に対する応答におけるそれらの再分布の分子的基礎を与える。
【0014】
GPI蛋白質は、酵母からヒトに至るまでの真核細胞で発現される、細胞表面抗原、エクトエンザイム(ectoenzyme)、受容体又は細胞接着分子であり、共有結合で結合しているグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)脂質残基により、原形質膜の外層に結合している。そして、膜貫通ドメインを欠失しているにも拘らず、原形質膜を貫通したシグナル伝達に関与している。
【0015】
GPI蛋白質が、全く異なった膜貫通結合/リンカー蛋白質にではなく、いわゆる界面活性剤不溶性の糖脂質に富む、raft, DIGs、と呼ばれる特異な脂質raftドメインに結合するという事実より、GPI蛋白質により媒介されるシグナル伝達の主要な共役機構として、脂質−脂質相互作用の可能性を実証するものである。
【0016】
DIGsの基本的構造要素は、(グリコ)スフィンゴ脂質及びコレステロールの横方向の組立てであり、それにより膜脂質二重層における近傍の液体無秩序(Id)領域とは異なった液体秩序(Io)構造となることができる。哺乳類細胞の原形質膜は、コレステロール(30〜50 mol %)及びIdドメイン脂質(即ち、未飽和末端を有するホスファチジルコリン)及びIoドメイン飽和アシル鎖を有する脂質(即ち、[グリコ] スフィンゴ脂質及びGPI脂質)の混合物を含んでいる。コレステロールは、脂質分子間の間質空間を充填することにより、Ioドメインにおける脂質パッキングを堅くすることに貢献しているものと思われ、そしてIoドメインの形成は、コレステロール濃度の或る一定の範囲においてのみ認められる。
【0017】
インスリンは、極めて重要なホルモンであり、身体の代謝に対し重要な影響を与える。一般的に言って、インスリンは同化作用を促進し、そして異化作用を阻害する。特異的にインスリンはグリコーゲン、脂肪酸及び蛋白質の合成速度を増大し、そして蛋白質及びグリコーゲンの分解を阻害する。このホルモンの重要な役割は、血液からグルコース、その他の糖類及びアミノ酸を、肝臓、筋肉及び脂肪組織へ移送して、細胞を賦活することである。
【0018】
ウシのインスリンは、二本のポリペプチド鎖、21アミノ酸を含んでいるポリペプチドA及び30アミノ酸を含んでいるポリペプチドBから成り、それらは二つの、−S−S−(ジスルフィド架橋)で結合している。これと同様の構造パターンが、ヒトを含む多くの哺乳類のインスリンに存在している。
【0019】
当該構造は、コンパクトなシリンダー様であり、B鎖のカルボキシル末端のみが、蛋白質の残部から突出している。多くの疎水性残基があり、それらは中心の疎水性コアを形成するように相互作用し、そして両サイドの幾つかの極性残基が分子間で分散することにより、蛋白質をより安定化している。3個のジスルフィド架橋、即ち、2個の分子間鎖及び1個の分子内鎖が、当該構造を締め付けている。
【0020】
多くの蛋白質の生合成における一般的なものとして、しかし特に細胞から輸送される蛋白質においては、蛋白質は前駆体の型で生成され、その後、貯蔵中に及び放出前に修飾されて、最終型が生成される。インスリンは、膵臓におけるランゲルハンス島と呼ばれる細胞群によって合成されて顆粒中に貯蔵され、その後、必要に応じて血液中に放出される。
【0021】
インスリンが最初に合成された時は、16アミノ酸のシグナル配列であるB鎖、結合鎖と呼ばれる33アミノ酸のC鎖、及びA鎖から成る100アミノ酸の一本鎖ポリペプチドで構成されている。この構造は、プレプロインスリン(PPI)と呼ばれている。シグナル領域は、合成部位からインスリンを集めてパッキングし、貯蔵顆粒を形成する細胞内のER(小胞体)へ、PPIを向かわせる役目を担う。小胞体において、シグナルペプチドは、プロテアーゼ酵素により除去される。
【0022】
糖尿病は、重大な合併症の発生を抑制し、及び一旦発病したときは、それを管理するため長期の治療が必要とされる慢性病である。糖尿病は、低血糖症、糖尿病性ケトアシドーシス及び高浸透圧性非ケトン性症候群のような急性及び慢性の合併症を伴う病気である。
【0023】
I型糖尿病は、一般的に若い細身の患者に発病し、そして、自己免疫によるベータ細胞の破壊により起こる、顕著な膵臓のインスリン分泌不能により特徴付けられる。I型糖尿病患者を見分ける特徴は、もしインスリンを与えないと、ケトーシスそして遂には、ケトアシドーシスを発生することである。それ故、これらの患者は、生命維持のために外因性インスリンに依存する。
【0024】
II型糖尿病は、典型的には、糖尿病家系を持つ40歳以上の者に発病する。II型糖尿病は、種々の程度のインスリン分泌異常を伴う末梢のインスリン抵抗性により特徴付けられる。これらの異常は、肝臓の糖新生増加を導き、絶食高血糖症を引き起こす。II型糖尿病を発病した多くの患者(90%)は肥満であり、またインスリン抵抗性により肥満症に結びつき、糖尿病状態を悪化する。
【0025】
他の型の種々の糖尿病は、以前には、二次性糖尿病と呼ばれていたが、他の病気又は薬物治療に原因を有するものである。関連する最初の症状により(膵臓のベータ細胞の破壊、又は抹消のインスリン抵抗性の発生)、これらの糖尿病は、I型又はII型糖尿病とよく似ている。最もよく見られるものは、膵臓のベータ細胞が破壊された膵臓病(例えば、ヘモクロマトーシス、膵臓炎、嚢胞性線維症、膵臓癌)、又はインスリン分泌を撹乱するホルモン症候群(例えば、クロム親和性細胞腫)、又は抹消のインスリン抵抗性を原因とするもの(例えば、末端巨大症、クッシング症候群、クロム親和性細胞腫)、及び薬剤で誘導された糖尿病(例えば、フェニトイン、グルココルチコイド、エストロゲン)を挙げることができる。
【0026】
糖尿病は、血清グルコースのレベル調節が不適切であることが特徴である。I型糖尿病の場合は、内分泌性の膵臓に対する自己免疫の攻撃により、インスリン分泌ベータ細胞が進行性でそして不可逆的に破壊された結果によるものである。その結果、グルコース取込み及びその代謝に関与するインスリン感受性標的細胞に対するインスリン作用が損なわれる。II型糖尿病の場合は、最も頻繁には、インスリン作用に対する細胞抵抗性に反映される、血清グルコースのレベル調節における付随的変異を伴う種々の疾患原因が挙げられる。
【0027】
インスリンは、ジスルフィドにより貫通膜及び細胞内ベータサブユニットに結合した細胞外アルファサブユニットから成る、ジスルフィド結合したヘテロ四量体の細胞表面受容体を通して作用する。
【0028】
I型糖尿病の場合は、正常な細胞受容体構造と結合するリガンド、及びその作用の欠損が、最も多く後続の代謝不全の原因となる。毎日のインスリン注射でのホルモン置換療法では、正常な生理状態では必要とされない、受容体作用のためのリガンドを供給する。
【0029】
II型糖尿病の場合は、インスリン作用に対する抵抗性が、高頻度で受容体作用の不全に由来するある種の抵抗性を有する当該病気の原因となる。インスリン抵抗性の場合は、インスリン受容体がインスリンのシグナル化カスケードを開始するためにより多くのインスリンが必要とされる。本発明は、シグナル化経路を開始するインスリン受容体を回避することにより、グルコースの取込みを促進することを可能とする、脂肪細胞の細胞膜蛋白質に関するものである。このことは、インスリンに対し代替物として作用することができる化合物を同定するためのスクリーニング手段を持ち合わせていない、当該課題の強力な解決策を提供するものとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
それ故、本発明は、同時に存在する原形質膜及び/又は脂質小胞及び/又は高コレステロールを伴なうraftドメイン及び/又は脂質小胞によって安定化される可能性があり、そしてホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドに対する特異的結合親和性を有し、
(a) 当該蛋白質にホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドの特異的結合の後に、脂肪細胞におけるインスリン受容体基質1又は2のtyrリン酸化を開始する能力、及び
(b) 当該蛋白質にホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドの特異的結合の後に、脂肪細胞におけるグルコースの取込みを促進する能力、に特徴を有する脂肪細胞の原形質膜由来の蛋白質に関するものである。
【0031】
他の蛋白質及び/又は安定化成分及び/又は他の化合物(例えば、塩、イオン、パフ)を考慮した当該蛋白質の量は、湿式質量%で、0.01から10%の間の範囲である。
【0032】
当該蛋白質の量は、好ましくは、湿式質量%で、0.1から5%の間の範囲、そして最も好ましくは、湿式質量%で、0.1から1%の間の範囲である。
【0033】
自然条件下では、原形質膜中の当該蛋白質の量は、湿式質量%で、10-6 %以下の範囲である。
【0034】
本発明の好適な変法において、ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドは、下記の化合物:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1の少なくとも一つの化合物を含んでいる。
【0035】
ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドの当該蛋白質への結合は、0.001から10μMの結合定数(KD)で起こることが好ましい。
【0036】
当該結合定数は、ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドと蛋白質との複合体の解離と非解離型間の平衡を定量的に記載するための熱力学的次数である。
【0037】
当該結合定数は、準方向及び逆方向の速度定数の指数により作成される。当該結合定数の高い値(例えば、10mM以上)は、弱くかつ非特異的な結合を、そして低い値(例えば、100μMを超えない)は、強くかつ特異的な結合を意味する。
【0038】
当該結合定数は、例えば、平衡透析、分光学、又は図式アプローチ(スカッチャード プロット)(Scatchard−Plot)のような異なる方法で測定することができる。
【0039】
脂肪細胞の原形質膜として挙げられるものは、好ましくは、ラット、マウス又はヒト由来のものである。
【0040】
当該蛋白質の分子量は、100から120kDaの間であり、好ましくは、110から120の間、そして最も好ましくは、115kDaである。当該蛋白質の分子量の決定は、如何なる方法であれ、特にSDS−PAGEによる場合は、±5〜10%の不確定性を有することは、言及すべきことである。
【0041】
更に、本発明は、本発明に係る前述の蛋白質、及び次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1の少なくとも一つの化合物から形成される複合体に関するものである。
【0042】
当該複合体形成の要件は、リガンドの当該蛋白質に対する特異的な結合である。当該複合体は、リガンドと蛋白質間のイオン又は共有結合の形成によっておそらく安定化するものと思われる。
【0043】
本発明は、また本発明に係る蛋白質の製法に関するものであり、そこにおいては、
(a) 脂肪細胞をラット、マウス又はヒト組織から供給し、
(b) 上記(a)由来の脂肪細胞の原形質膜を単離し、
(c) 高コレステロールのraftドメイン(hcDIGs)を(b)で単離した原形質膜から調製し、
(d) 上記(c)由来のhcDIGsをトリプシン/NaCl溶液で処理し、
(e) 上記(d)由来のインキュベーション混合物を遠心分離に掛け、そして上清画分の蛋白質をSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミド−ゲル電気泳動)で分離し、
(f) 大きさ100から120kDaの蛋白質画分をゲルから溶出し、そして場合によって、界面活性剤又は生体膜を含んでいる溶液又は懸濁液で可溶化する。
【0044】
更に、本発明は、本発明に係る蛋白質に特異的に結合する化合物を同定するための方法に関するものであり、そこにおいては、
(a) 本発明に係る蛋白質を含んでいる細胞画分を供給し
(b) 化合物を供給し、
(c) 上記(a)由来の細胞画分を、(b)で供給された化合物に接触させ、
(d) 上記(a)由来の細胞画分への当該化合物の結合を測定し、
(e) 上記(d)で得た結果を、(b)で供給された化合物と同一の化合物を、(a)由来の
細胞と同一種及び/又は同一の組織特異性を有しているが、本発明に係る蛋白質を含んでいない細胞画分と接触させた実験から得た結果と比較することにより、結合特異性を推定し、それにより、本発明に係る蛋白質を含んでいない細胞画分と比較して、(b)で供給された化合物のより多くの量が、本発明に係る蛋白質を含んでいる細胞画分と結合した場合、より高い結合特異性を有する、と示すことができる。
【0045】
細胞画分は、好ましくは、脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞又は肝細胞から作成する。これらの細胞のそれぞれは、好ましくは、マウス、ラット又はヒトに由来することができる。細胞画分は、好ましくは、細胞の細胞膜から、更に好ましくは、高コレステロール含量のraftドメイン(hcDIGs)から構成される。本発明に係る蛋白質と特異的に結合する化合物を同定するための方法を実施するために用いられる化合物は、放射能核種(例えば、14C、3H、32P、121I及びその他)又は蛍光マーカーで標識することができる。
【0046】
本発明は、更に、本発明に係る蛋白質と特異的に結合する化合物を同定するための方法に関するものであり、そこにおいては、
(a)本発明に係る蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞を供給し、
(b)化合物を供給し、
(c)上記(a)由来の細胞を、(b)で供給された化合物に接触させ、
(d)上記(a)由来のグルコース輸送細胞への当該化合物の結合を測定し、
(e)上記(d)で得た結果を、(b)で供給された化合物と同一の化合物を、(a)由来の細胞と同一種及び/又は同一の組織特異性を有しているが、本発明に係る蛋白質を含んでいないグルコース輸送細胞と接触させた実験から得た結果と比較することにより、結合特異性を推定し、それにより、本発明に係る蛋白質を含んでいないグルコース輸送細胞と比較して、(b)で供給された化合物のより多くの量が、本発明に係る蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞と結合した場合、より高い結合特異性を有する、と示すことができる。
【0047】
本発明に係る蛋白質を含んでいないグルコース輸送細胞は、本発明に係る蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞をトリプシン/NaCl溶液及び/又はグリコシダーゼで処理することにより、本発明に係る蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞から、作成することができる。
【0048】
グルコース輸送細胞は、好ましくは、脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞又は肝細胞である。これらの細胞は、好ましくは、ヒトの組織又は培養細胞、マウス又はヒト起源である。
【0049】
使用した化合物は、好ましくは、放射能核種又は蛍光マーカーで標識されている。
【0050】
更に、本発明は、本発明に係る蛋白質のアゴニスト又はアンタゴニストである化合物を同定する方法に関するものであり、そこにおいては、
(a) 本発明に係る蛋白質が存在しているグルコース輸送細胞を供給し、
(b) 本発明に係る蛋白質の天然のリガンドを供給し、
(c) 化合物を供給し、
(d) 上記(a)由来のグルコース輸送細胞を、(b)で供給されたリガンド及び(c)の化合物に接触させ、
(e) 上記(d)由来のグルコース輸送細胞によるグルコースの取込みを測定し、
(f) 上記(d)由来のグルコース輸送細胞によるグルコースの取込みを測定し、それにより、(c)由来の化合物がグルコースの取込みを促進すればアゴニスト活性を有し、そしてグルコースの取込みを阻害すれば、アンタゴニスト活性を有する。
【0051】
前述の本発明に係る蛋白質のアゴニスト又はアンタゴニストである化合物を同定する方
法のリガンドは、好ましくは、YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1である。本発明に係る蛋白質とアゴニスト又はアンタゴニストである化合物を同定する方法のグルコース輸送細胞は、好ましくは、脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞又は肝細胞であり、また好ましくは、ヒト、マウス又はラット種起源である。
【0052】
更に、本発明は、本発明に係る蛋白質と結合する化合物を同定するための方法、又は本発明に係る蛋白質のアゴニスト又はアンタゴニストである化合物を同定する方法で同定される化合物、並びに医薬品の製剤のための補助剤を含んでいる医薬品に関するものである。当該医薬品は、好ましい実施態様として、次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選択した少なくとも一つの化合物を含んでいる。
【0053】
当該医薬品は、また、次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選択した少なくとも一種の化合物の部分又は誘導体を含んでいる。
【0054】
更に、本発明は、本発明に係る蛋白質に結合するものと同定された、又は本発明に係る蛋白質とアゴニスト又はアンタゴニストであると同定された化合物を、インスリン抵抗性又は糖尿病の治療のための医薬品を製造するための使用に関するものである。
【0055】
そのような化合物は、好ましくは、YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN若しくはlcGce1、又はこれらの化合物の部分又は誘導体である。
【0056】
実施態様
PIG(−P)の化学合成:YCN−PIGの合成(一般的方法については、図1、2、3を参照)
化合物2の合成(図4;i,ii)のために、Bachem (Heidelberg, Germany) からの化合物1(8.0g、20.6mmol)を、ピリジン200mlに溶解し、そしてエタノールアミン5g(81.8mmol)及びN−エチルモルホリン5mlを添加した。静置後(16時間、室温)、無水酢酸50mlを5℃で撹拌しつつ滴下した。反応混合物を、撹拌し(2時間、室温)、その後、高真空下で、濃縮した。残留物を熱メタノール150mlに溶解し、そして当該溶液を濃縮した。生成物は、塩化メチレン/メタノール(15/1)100ml及びn−ヘプタン/酢酸エチル(2/1)200mlを添加して結晶化させた。化合物2の収率は、6.1g(84%)、白色結晶、m.p. 175℃であった。TLC(薄層クロマトグラフィー):塩化メチレン/メタノール(9/1)、Rf=0.7。MS:(M+Li)+=358.2、計算式は、C16H21N3O6,M=351.36であった。
【0057】
化合物3の合成(図4;iii)のために、パラジウム−炭(10%Pd)2.0gを、化合物2(12.0g、34.0mmol)のメタノール/酢酸(1/1)溶液200ml中に添加し、混合物に水素添加した(2時間、室温)。溶液をシリカゲルで濾過し、濃縮し、そして残留物を、フラッシュ クロマトグラフィーで精製した(塩化メチレン/メタノール/濃縮アンモニア:30/5/1)。化合物3の収率は、7.3g(98%)、黄色油であった。TLC:塩化メチレン/メタノール/濃縮アンモニア(30/5/1)、Rf=0.5。MS:(M+Li)+=224.2、計算式は、C8H15N3O4、M=217.23であった。
【0058】
化合物4の合成(図4;iv)のために、テトラフルオロホウ酸 1(o−(シアノ(エトキシカルボニル)メチリデン)アミノ−1,1,3,3−テトラメチルウロン(TOTU)の1.5g(4.5mmol)、エチル−(ヒドロキシイミノ)−シアノ酢酸(オキシム)の0.64g(4.5mmol)、及びN−エチルモルホリン1.7ml(13.5mmol)、を0℃で、撹拌しながら、化合物3の0.8g(3.7mmol)及びTrtCys(Trt)OHの2.8g(4.5mmol)、のジメチルホルムアミド溶液中に添加し、その混合物を撹拌した(2時間、0℃)。酢酸エチル200mlを添加した後、その混合物を飽和NaHCO3溶液で3回洗浄し、MgSO4で乾燥し、そして濃縮した。残留物を、n−ヘプタン/酢酸エチル(6/1)で粉砕し、次に結晶化させた。化合物4の収率:2.2g(74%)、白色結晶、m.p.185℃。TLC:塩化メチレン/メタノール(15/1)、Rf=0.4。MS:(M+Li)+=811.7、計算式は、C49H48N4O5S、M=805.0であった。
【0059】
化合物6の合成(図4;v, vi)のため、化合物4の4.0g(5.0mmol)を塩化メチレン200ml中に溶解し、水4ml及びトリフルオロ酢酸3mlを添加した。15分後に、混合物を飽和NaHCO3溶液で3回洗浄し、MgSO4で乾燥し、濃縮し、そして粗生成物5を収率99%で得た。この粗生成物をメタノール50mlに溶解し、1Mナトリウムメタノラート溶液中に滴下した。15分後に塩化メチレン50mlを添加し、そして混合物をシリカゲルで濾過した。溶媒を濃縮した後、残留物をフラッシュ クロマトグラフィーで精製した(塩化メチレン/メタノール(9/1))。化合物6の収率:2.2g(85%)、白色の非晶性固体。TLC:塩化メチレン/メタノール(5/1)、Rf=0.7、MS:(M+Li)+=527.3、計算式は、C28H32N4O4S、M=520.6であった。
【0060】
化合物7の合成(図4;vii)のため、化合物6の2.7g(5.2mmol)、Ztyr(Bn)OHの4.2g(10.4mmol)、TOTU3.4g(10.4mmol)、オキシム1.5g(10.4mmol)、N−エチルモルホリン2mlを添加したジメチルホルムアミド50mlを、化合物4の合成と同様に、反応させた。化合物7の収率:4.2g(89%)、白色結晶。TLC:塩化メチレン/メタノール(15/1)、Rf=0.25。MS:(M+Li)+=914.8、計算式は、C25H53N5O8S、M=908.1であった。
【0061】
化合物8の合成(図5; viii)のため、亜リン酸6.0g(73mmol)をピリジンで4回濃縮した後、乾燥ピリジン180ml中に溶解した。塩化ピバロイル(pivaloyl chloride)の13mlを10℃で滴下した。この反応溶液を静置した(45分、室温)。生成物7の16.4g(18.1mmol)、を上述したように、反応溶液に加えた。5時間後、トルエン200ml及び塩化メチレン/メタノール/33%アンモニア(30/10/3)150mlで希釈した。濃縮後、残留したピリジンをトルエン200mlで更に3回蒸留除去した。残留物を塩化メチレン/メタノール(20/1)の200mlに懸濁した。非溶解性成分を濾過し、そして塩化メチレン/メタノール(20/1)の50mlで2回洗浄した。濾液を濃縮し、そしてフラッシュ クロマトグラフィーで精製した。化合物8の収率:11.6g(66%)、白色結晶。TLC:塩化メチレン/メタノール/33%アンモニア(30/5/1)、Rf=0.25。MS:(M+Li)+=978.4、計算式は、C52H54N5O10SP、M=972.08であった。
【0062】
化合物10の合成(図6; ix, x)のため、化合物8の4.5g(4.6mmol)及び化合物9の6.0g(2.3mmol;前述の参考文献47に基づいて合成)を、乾燥ピリジン80ml中に溶解した。室温で30分後、反応混合物を0℃で冷却し、そして水5ml及びイオジン1.3gを添加した。反応混合物を撹拌し(30分、10℃)、その後、塩化メチレン500ml、飽和NaCl溶液150ml、及び飽和チオ硫酸塩溶液30mlで希釈し、そして5分間撹拌した。有機相をMgSO4で乾燥して、そして濃縮した。残留物を、塩化メチレン/メタノール/濃縮アンモニア(30/5/1〜30/10/3)を用いてフラッシュ クロマトグラフィーで精製した。化合物10の収率:8.0g、非結晶性固体。TLC:塩化メチレン/メタノール(20/1)、Rf=0.5。MS:(M+Li)+=3583.6、計算式は、C207H214N8O42SP2、M=3580.0であった。
【0063】
化合物11の合成(図6;xi)のため、アンモニア300mlを−78℃で濃縮した
。そこに、ナトリウム2.1g(91mmol)を溶解した。この溶液を乾燥テトラヒドロフラン150mlで希釈し、そして乾燥テトラヒドロフラン50mlに溶解した保護基を有する最終生成物である化合物10の8.0g(2.2mmol)を、反応温度−78℃でゆっくりと滴下した。反応時間15分後(青色が消失してはならない)、混合物は塩化アンモニウム5gで注意深く処理した。青色が消失したとき、混合物を水50ml及びメタノール150mlで注意深く希釈した。解凍後、約100mlに濃縮した。この溶液を500mlのを塩化メチレン/メタノール/33%アンモニア(3/3/1)で希釈し、そしてフラッシュ シリカゲルカラムに添加した(シリカゲル:500ml)。それを、塩化メチレン/メタノール/33%アンモニア(3/3/2)及び(3/3.5/3)の各々1リットルを用いて続けて溶離させた。溶離した生成物は、n−ブタノール/エタノール/水/33%アンモニア(2/2/2/1)を用いて、クロマトグラフィーで精製した。化合物11の収率:2.4g、(化合物9から67%)、白色結晶。TLC:n−ブタノール/エタノール/水/33%アンモニア(2/2/2/1)、Rf=0.5.MS:(M+NH3)+=1572.6、計算式は、C54H88N6O40P2S、M=1555.31であった。31P−NMR(D2O)=15.3 ppm(環状リン酸塩)及び0.3(リン酸ジエステル)。1H−及び13C−NMRの測定値は、表1に表示してある。
【0064】
化合物YCNの合成(図7; xii)のため、化合物7の11.0g(11.3mmol)を、化合物11の合成と同様にして脱保護した。化合物YCNの収率:4.5g(90%)、白色結晶。TLC:塩化メチレン/メタノール/濃縮アンモニア(30/15/5)、Rf=0.25.MS:(M+Li)+=448.3、計算式は、C18H27N5O6S、M=441.51であった。
【0065】
化合物YMN−PIGの合成のため、YMN−PIGを、図2に示したものと同様な反応系列を用いて合成した。TrtCys(Trt)OHの代わりに、BocMetOHを使用して、同様な収率で、白色固体のYMN−PIGを得た。TLC:n−ブタノール/エタノール/水/33%アンモニア(2/2/2/1)、Rf=0.5.MS:(M+NH3)+=1600.6;計算式は、C56H92N6O40P2S、M=1583.38であった。31P−NMR(D2O)=15.3 ppm(環状リン酸塩)及び0.3(リン酸ジエステル)。
【0066】
放射能標識及び脂肪分解Gce1p(lcGce1p)の合成
インタクトなGPIアンカーを有しているGce1pを、ミオ−[14C]イノシトールで代謝的に標識し、そして酵素的にスフェロプラストに変換した乳酸生育の酵母細胞から精製し、原形質膜を調製した。Ficoll密度勾配遠心分離で精製し、β−アミドタウロコール酸塩0.35%を用いて可溶化し、そしてTX−114分配付した。界面活性剤濃縮相に含まれているGce1pを、セファデックス(Sephadex) S−300を用いたゲル濾過クロマトグラフィーで精製し、N6−(2−アミノエチル)−cAMPセファローズ(Sepharose)を用いたアフィニテイクロマトグラフィー、及びフェニルセファローズ クロマトグラフィーで精製した。カラムからの溶離は、3H−放射能をオンライン測定により測定した。部分的に精製したGce1pを沈殿させ(ポリエチレングリコール6000の12%)、0.2mg蛋白質/mlの濃度で緩衝液G(25mM Tris/酢酸塩、pH7.4、144mM NaCl,0.1% β−アミドタウロコール酸塩、0.5mM DTT、0.2mM EDTA、5%グリセロール、0.1mM PMSF、5μM ロイペプチン、1mM ヨードアセトアミド、10μg/ml 大豆トリプシンインヒビター)に懸濁し、続いてPI−特異的PLC(B.Cereus)の6U/mlの存在下でインキュベートした(3時間、25℃)。2% トライトン(Triton)X−114、10mM Tris−HCl(pH7.4)、144mM NaClの氷冷却溶液の10倍量を添加し相分画(37℃で2分間インキュベーション、そして25℃で1分間、12,000xgで遠心分離)の後、lcGce1pを上部の界面活性剤低濃度相から回収した。
【0067】
下部の界面活性剤高濃度相を、10mM Tris−HCl、144mM NaClの等量を添加して2回再抽出した後、氷上で再解凍し、続いて相分画した後、一緒にした界面活性剤低濃度相を沈殿させた(12% ポリエチレングリコール6000)。
【0068】
放射能標識したlcGce1pを、200〜1000dpm/μlのβ−アミドタウロコール酸塩を含んでいない緩衝液中に懸濁した。
【0069】
放射能標識したYCN−PIGの合成
放射能標識したYCN−PIGは、V8プロテアーゼ(S.aureus)及びPI−PLC(B.cereus)による連続的消化により、Gce1pから誘導した。YCN−PIGを、TX−114による分配後の界面活性剤低濃度層から回収し、そして陽イオン交換クロマトグラフィー(Dowex 50W−X8)、BioGel−P4を用いたゲル濾過、SAX HPLCカラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、異なる溶媒系を用いたSi−60 HPTLCプレートによる2回の薄層クロマトグラフィー、そして最終的に、BioGel−P4を用いたゲル濾過により、連続的に精製した。各クロマトグラフィー分離中の溶離物は、3H−放射能、UV吸収(A220)、及び、単離ラット脂肪細胞におけるグルコース輸送促進に基づくインスリン−類似活性の測定により追跡した。
【0070】
放射化学純度の測定のため、YCN−PIGの最終標品を、グルコースオリゴマーの標準混合物の含量によるジオネックス単位(Dionex units)で補正したDionex−CarboPac PA−1陰イオン交換HPLC(pH13)に供した。内部標準は、パルス電流滴定測定器を用いて測定した。14C−標識フラグメントは、レイテスト ラモナ(Raytest Ramona)オンライン放射能測定器で測定した。濃度測定には、YCN−PIGを加水分解(6M HCl、16時間、110℃)し、そして無機リンの量(2モル/分子)及びチロシンの量(1モル/分子)を測定した。乾燥したYCN−PIGを使用するまで、−80℃で保存し、そしてその後、最終濃度が100μMとなるように、2mM DTTを含んでいる水中に懸濁した。
【0071】
ラット脂肪細胞の調製及びPIG(−P)/YCNとのインキュベーション
脂肪細胞は、雄のスプラーグ ダウレイ(Sprague Dawley)ラット(140〜160g、通常飼育)の副睾丸(精巣上体)の脂肪体からコラーゲン消化により単離し、1%(w/v)BSA,100μg/ml ゲンタマイシン、100mM 1−メチルー2−フェニルエチルアデノシン、0.5U/ml アデノシンデアミナーゼ、0.5mM ピルビン酸ナトリウム、及び5mM D−グルコースを含んでいる、KRH緩衝液(0.14mM NaCl,4.7mM KCl,2.5mM CaCl2,1.2mM MgSO4、1.2mM KH2PO4、20mM ヘペス/KOH、pH7.4)中で、PIG(−P)/YCN(20mM ヘペス/KOHに溶解、pH7.4、2mM DTT)の存在下で、37℃、振とう湯槽中、5%CO2/95%O2の継続的通気下で、所定の時間インキュベートした。
【0072】
ラット脂肪細胞のトリプシン/NaCl又はNEMの処理
トリプシン/NaCl処理のため、5mM グルコースを含んでいるKRH中の脂肪細胞の懸濁液(3.5×106細胞/ml)の2mlを、トリプシン100μg/ml存在下で、インキュベートした(20分、30℃)。大豆トリプシンインヒビター(最終濃度:100μg/ml)、及び1M NaCl及び0.5%BSAを含んでいるKRHの2mlを添加し、インキュベーションを継続した(10分、22℃)。NEM処理のため、5mM グルコースを含んでいるKRH中の脂肪細胞懸濁液(3.5×106細胞/ml)の1mlを、NEM(最終濃度:1.5mM)とインキュベートし(30分、25℃)、そしてその後、DTT(最終濃度:15mM、5分間)とインキュベートした。
【0073】
処理後、細胞を遠心分離し(1500xg、5分間、スウィング−アウト ローター)、そして下澄液(infranatant)を吸引して除去した。残った細胞懸濁液(約0.5ml)、を0.5%BSAを含んでいるKRHの10mlを補充し、再度遠心分離した(500xg、1分間、スウィング−アウト ローター)。追加的に2回洗浄した後、最終細胞懸濁液を、0.5% BSA、50μM グルコース、及び1mM ピルビン酸ナトリウムを含んでいるKRHで、25mlとした。その0.2mlを、PIG41に対する機能喪失を測定するため、脂質新生を検定した。対照細胞を同様に遠心分離し、洗浄した細胞をトリプシン/NaClの代わりに、水で処理した。[14C]NEMで脂肪細胞を放射性標識するため、細胞懸濁液を、遠心分離し(500xg、1分間)、そして下澄液を除去した。50μl毎(7×106細胞/ml)を総量60μlの2.5μCi[14C]NEMと一緒にインキュベートした(10分、30℃)。
【0074】
10mM DTTの5μl及び10mM グルコースを含んでいるKRHの55μlを添加した後、上述したように、総量200μl中で、トリプシン/NaClの処理をした。
【0075】
50μl毎を、0.4ml遠心分離管中、フタル酸ジノニルを含んでいる200μlの油層上に注意深く積載した。遠心分離(5000xg、15秒間)の後、遠心分離管を油層中で切断した。遠心分離管の下部に含まれている培地の蛋白質を沈殿させ(10%TCA,アセトンで2回洗浄)、レムリ(Laemmli)標品緩衝液に懸濁し、そしてSDS−PAGEで分析した。
【0076】
原形質膜、全細胞溶解物及びミクロソームの調製
除核後の下澄液を、単離したラット脂肪細胞から、前述したようにして調製した。原形質膜の調製のため、蛋白質1mlを、38%(w/v)スクロース、25mM Tris/HCl
(pH7.4),1mM EDTAの5ml溶液の上層に積載し、そして遠心分離した(110,000xg、1時間)。
【0077】
二層(0.5ml)間の境界面にある膜を、吸引して取り出し、ホモジナイズ緩衝液の4倍量で希釈し、そして、28%ペルコール(Percoll)、0.25Mスクロース、1mM
EDTA,25mM Tris/HCl (pH7.0)の8ml溶液の上層に積載した。遠心分離(45,000xg、30分)の後、原形質膜を、下層三段目の勾配(0.5ml)から、パスツールピペットで取り出し、ホモジナイズ緩衝液の10倍量で希釈し、そして遠心分離した(200,000xg、90分)。結合実験のため、洗浄したペレットを、結合用緩衝液に、1〜2mg蛋白質/mlの濃度で懸濁した。
【0078】
全細胞溶解物の調製のため、除核後の下澄液に、デオキシコール酸塩及びノニデット(Nonidet)P−40(最終濃度:各々0.3及び0.2%)を添加して、インキュベートし(1時間、4℃)、そして遠心分離した(110,000xg、1時間、4℃)。上清画分は免疫沈降法に使用した。ミクロソーム調製のため、除核後の上清画分を遠心分離した(100,000xg、1時間、4℃)。得られたペレットは、結合用緩衝液に、1〜2mg蛋白質/mlの濃度で懸濁した。
【0079】
hcDIGs/lcDIGsの調製
精製した原形質膜のペレット(0.5〜1mg)を、50mM NaF,5mM ピロリン酸ナトリウム、10μM オカダ酸、1mM 正バナジン酸ナトリウム、20μM ロイペプチン、5μM ペプスタチン、1μM アプロチニン、5mM ヨード酢酸塩、200μM PMSF、1mM EDTAを含んでいる、氷冷却の0.5M Na2CO3(pH11)に懸濁し、そしてインキュベートした(1時間、4℃、ボルテックス(vortex)による振動及びピペトでの吸引を繰り返しつつ)。その後、懸濁液を、15mM MES/KOH(pH6.5)、75mM NaClを含んでいる85%スクロース溶液の等量と混合した。
【0080】
同様の培地の各々42.5、35、28、22、15及び5%のスクロース溶液の1.5mlの上層に積載し、そして遠心分離した(230,000xg、Beckman SW41 ローター、18時間)。15〜22%(画分4及び5)及び28〜35%(画分8及び9)スクロースの境界面における、羊毛状物質の光分散の乳白色を発するバンド、並びに42.5%クッションの物質(画分12−15)を、それぞれ、hcDIGs、lcDIGs及び可溶化した原形質膜の蛋白質として、19−ゲージの針及びシリンジを用いて集めた(画分当たり、0.75ml)。密度は、画分の比旋光度を測定して求めた。hc/lcDIGsは、前述したように、適切なマーカーの増加/減少により、特徴付けられる。結合実験のため、hc/lcDIGsを、結合懸濁液(15mM Mes/KOH、pH6.5、0.25M スクロース、75mM NaCl、2mM MgCl2、0.5mM EDTA、0.5mM DTT、プロテアーゼインヒビター)に懸濁した。
【0081】
放射能標識したYCN−PIG又はlcGce1p のサブセルラー画分との結合
放射能標識したYCN−PIG又はlcGce1pの10μl(60,000〜80,000dpm/nmol、最終濃度:5μM)を、非標識の競合物質(図の説明において指摘)の存在下又は非存在下で、原形質膜、ミクロソーム又はhc/lcDIGs(蛋白質:40〜80μg)を懸濁した結合用緩衝液の40μlに添加し、総量を100μlとして、インキュベートした(30分、4℃)。インキュベーション培地から原形質膜を分離するため、45μlを、原形質膜/ミクロソームの場合は、フタル酸ジブチル及びフタル酸ジオクチル(1/1容積比、最終密度1.012)、又は、0.4ml前冷却(4℃)遠心分離管(ミクロチューブ番号:72.700、Sarstedt, Germany)中のhc/lcDIGsの場合は、フタル酸ジブチル及びフタル酸ジノニル(1/9容積比、最終密度9.863)を含んでいる、200μlの油層上に、注意深く積載した。
【0082】
遠心分離(48,000xg、2分)の後、蓋で密閉してある遠心分離管の蓋をはずしてから、油層で切り取り、それぞれ、原形質膜/ミクロソームのペレット、及びhc/lcDIGsの上清画分を含んでいる(蓋をはずした)遠心分離管の下部及び上部を(それは油層中に浸透しているか或いは浸透していないが)、10%SDSの1mlを含んでいるシンチレーション管(10ml)に移した。激しく振とうした後(16時間、25℃)、放射能をACSII シンチレーション溶媒(Beckman) の9ml中で測定した。これらの条件下では、放射能標識YCN−PIG及びlcGce1pの管壁に付着した及び油層中に拡散したものは、50〜120dpmであり(即ち、インキュベーションに用いた全放射能の0.5%以下)、それ故、結合データの計算には、考慮しないこととした。
【0083】
蛋白質測定の結果、原形質膜及びミクロソームの典型的な回収は、それぞれ78〜85%、及び65〜80%であり、hcDIGs及びlcDIGsでは、それぞれ83〜92%、及び70〜78%であった。
【0084】
PIG(−P)の化学合成
親水性GPI構造は、次の二つの実験的アプローチによる天然の材料から調製される:(i)GPI特異的なPLC/Dによる、遊離GPI脂質から、極性コアグリカン頭残基として、放出されたPIGで、それ故、如何なるアミノ酸をも欠損する。及び、(ii)脂質分解及び蛋白質分解の組合わせにより、残存するGPI蛋白質のカルボキシ末端に由来する一つ又はそれ以上のアミノ酸と一緒になった極性コアグリカン頭残基を生成する、GPI蛋白質から生ずるPIG−P。
【0085】
GPI脂質及びGPI蛋白質は、真核細胞の原形質膜の外側層に、酵母からヒトに至るまで保存されているコアグリカン頭残基と一緒に存在している。GPIコアグリカン頭残基の結合を検定するため、放射能標識した純粋なPIG(−P)構造の合成は、「Muller
et al., Endocrinology 138, 3459−3475, 1997」に記載されているような、既に公開さ
れている方法を用いた。即ち、YCN−PIGは、ミオ[14C]イノシトールで代謝的に標識した酵母S.セレビシア(S.cerevisiae)由来の、原形質膜の放射化学的に純粋なGPI蛋白質、Gce1pから、In vitroにおける連続的な蛋白質分解及び脂質分解により調製した。
【0086】
結合の構造−活性相関関係の検定には、化学的に合成したYCN−PIG及びそれらの誘導体を使用した(図1:YCN−PIG;図2:YMN−PIG;図3:PIG37;図4:YCN)。
【0087】
YCN−PIGのトリペプチドの合成は、ペプチド合成の技術常識的手段で行なった。ヘキササッカライドは、「Frick et al., Biochemistry 37, 13421−13436; 1998」に記載されている、トリクロロアセトイミド法を用いて合成した。PIG−Pの合成における重要な工程は、ホスホジエステル結合の形成であることが明らかとなった。実験した種々の方法のうち、H−ホスホネート法が、最も良い収率で合成することが分かった。
【0088】
最終化合物の保護基脱離は、システイン(パラジウムで水素化されない)及び酸不安定な環状リン酸塩の存在で強化した、液体アンモニア中のナトリウムで行なった。全化合物について、質量分析、1H−NMR、13C−NMR、及び、31P−NMR分光法を用いて特性決定をした。
【0089】
hcDIGsに特異的に結合するPIG(−P)
賦活化されていない脂肪細胞から勾配遠心分離により調製した全原形質膜を、原形質膜の特異的マーカー酵素を標識として濃縮した(全細胞溶解物との比較)。ウアバイン(ouabain) 感受性p−ニトロフェニルホスファターゼ(ナトリウム/カリウム−ATPアーゼ(Na+/K+−ATPase)の触媒サブユニットに対応)を9.5倍に濃縮し、及び、Nucに対して1.9倍(酵素活性に基づき)、β1−インテグリンに対して13.9倍、シンタキシン−1(syntaxin−1)に対して16.4倍(免疫ブロット法(immunoblotting)に基づき)、及びGce1に対して7.8倍(フォトアフィニテイ標識に基づき)濃縮した。
【0090】
同時に、原形質膜調製は、筋小胞体マーカー、EGTA感受性Ca2+−アデノシントリホスファターゼに対しては5.7倍、エンドソームマーカー、SCAMP(分泌担体膜蛋白質(Secretary Carrier Membrane Protein))37/39に対しては8.5倍、及びGLUT4(グルコーストランスポーター4)に対しては16.9倍(免疫ブロット法(immunoblotting)に基づき)減少した(全細胞溶解物との比較)。
【0091】
賦活化されていない脂肪細胞由来のミクロソームは、全細胞溶解物に比較して、GLUT4に対しては14.4倍、SCAMP37/39に対しては8.5倍、トランスフェリン受容体に対しては6.9倍、及びIGFIIに対しては9.7倍濃縮し、また、全細胞溶解物に比較して、p−ニトロフェニルホスファターゼに対しては24.6倍、Gce1に対しては12.5倍、Nucに対しては15.8倍、β1−インテグリンに対しては39.5倍、及び、シンタキシン−1(syntaxin−1)に対しては48.5倍(免疫ブロット法(immunoblotting)に基づき)、及び、Ca2+−感受性アデノシントリホスファターゼ活性に対しては19.9倍減少した。このことより、この画分は、基本的に、小胞体及びエンドソーム構造を含んでいるものであり、そして事実上、原形質膜及び筋小胞体フラグメントを含んでいないことを示唆している。
【0092】
hcDIGs及びlcDIGsは、賦活化されていない脂肪細胞から、0.5M Na2CO3(pH11)には不溶解で、かつ蔗糖密度勾配遠心分離においては低容積密度であることに基づいて調製した。それらは、(全原形質膜と比較して)、GLUT4及びインスリン受容体β−サブユニットの活性減少によって特徴づけられる。lcDIGsと比較した場合、hcDIGsの方が、カベオリン(caveolin)、pp59Lyn、及びGce1に対して、有意義により高い増加を示すことによって、hcDIGsとlcDIGsは、互いに相異することが分かった。
【0093】
単離したサブセルラー膜画分は、放射能標識YCN−PIGの段階的増加量でインキュベートし、そしてインキュベーションは、適当な密度の油層遠心分離により、インキュベーション培地から急速に分離することによって終了させた。
【0094】
膜結合のYCN−PIGは、主に濃度依存性及び飽和性の態様としてのhcDIGsから、そして、微量には、lcDIGsから回収したが、そこにおいては、原形質膜及びミクロソームは実際には放射能標識はされていなかった(図5)。直線の範囲では、hcDIGsに対するYCN−PIGの非特異的結合は、無標識の合成YCN−PIG又は他の競合化合物の500倍過剰量の存在により検定した結果、20%以下であった(図5)。以下の実験は、結合の直線範囲の末端に対応するYCN−PIG濃度を用いて行なった。
【0095】
密度に基づくよりは沈降に基づく急速な濾過及び遠心分離のような、受容体−リガンド相互作用の測定の他の方法は、いかなる脂肪細胞膜の細胞画分に対するYCN−PIGの特異的結合の測定についても失敗したが(データは未表示)、それは多分に、培地結合の親和性及び/又は高い解離乗数によるものと思われる。YCN−PIGに対するスカッチャード プロット分析の結果、hcDIGsの蛋白質1mg当たり、Kdは、50〜500nMの範囲、Bmaxは、50〜200pmolの範囲であった。hcDIGsに対するYCN−PIGの特異的結合は、ペプチジルエタノールアミジン残基の欠損によるペプチド変異体、YCN−PIG及びPIG37の活性の有意義な減少、並びに、競合検定におけるペプチジルエタノールアミジン残基、YCN単独の極度に低い活性によって実証された(図6)。
【0096】
無標識YCNとPIG37の組合せ(等モル比)は、放射能標識YCN−PIGのhcDIGsに対する結合を、無標識YCN−PIGよりわずかに低効果で、及び、PIG又はペプチジルエタノールアミジン残基単独、及びYMN−PIGより強力に、置換した。この事実より、PIGとペプチジルエタノールアミジン残基の同時かつ相乗的認識が実証された。YCNとPIG37とを組合せた競合のIC50は、共有結合のYCN−PIGに比較して、3から4倍ほど高いものであった(図6)。次に、同定されたPIG(−P)の結合部位が、蛋白質様の性質を示すか否かを調べた。
【0097】
hcDIGsを、トリプシン/NaCl 又はNEMで前処理した後、無標識の合成YCN−PIGの過剰量の存在下又は非存在下において、放射能標識YCN−PIGの段階的増加量でインキュベートした(非特異的結合を調べるため)。トリプシン及び0.5MのNaClの継続処理、又はNEMの処理により、放射能標識YCN−PIGのhcDIGsに対する特異的結合は、完全に停止したが、一方、トリプシン又はNaCl単独、或いは、DTT存在下でのNEM処理では、有意義な影響はみられなかった(図7)。
【0098】
同様な不活性化が、lcDIGsに対するYCN−PIGの、低親和性相互作用においても観察された。これらの結果から、脂肪細胞表面のDIGsにおけるPIG(−P)に対する、トリプシン/NaCl及びNEM感受性の結合蛋白質の存在が実証された。lcDIGsに比較して、YCN−PIGのhcDIGsに対するより好適な結合は、m−βCDを使用した脂肪細胞の原形質膜のコレステロール減少過程における変換、及びそれに続く、放射能標識YCN−PIGのhc/lcDIGsに対する特異的結合の分析により確認された。対照脂肪細胞においては、20%がlcDIGsに結合して残留したものの、YCN−PIGの大部分は、hcDIGsと一緒に回収された(図8)。
【0099】
しかしながら、インタクトなラット脂肪細胞のm−βCD(1〜10mM)処理により、lcDIGsとの結合が増加するのに伴い、hcDIGsに結合するYCN−PIGの量が濃度依存的に減少することが明らかとなった。
【0100】
コレステロール減少後で、しかしDIGsの調製前において、脂肪細胞をトリプシン/NaCl 又はNEMで処理した場合、hcDIGs及びlcDIGs双方に対するYCN−PIGの特異的結合は有意義に減少した(データは未表示)。これらの事実から、ラット脂肪細胞のhcDIGsにおけるPIG(−P)受容体の有利な位置の形成は、コレステロールに極めて強く依存していることが実証された。
【0101】
hcDIGsに特異的に結合するGPI蛋白質の脂質分解
YCN−PIG、YMN−PIG、及びPIG37のPIG残基、−NH−(CH2)2−O−PO(OH)O−6Manα1(Manα1−2)−2Manα1−6Manα1−4GluN1−6Ino−1,2−(サイクリック)−リン酸塩(図1、2及び3)は、全ての真核細胞GPI蛋白質の極性コアグリカン頭残基と同一であった。その結果、PIG−Pの蛋白質結合部位が、lcGPI蛋白質と相互作用するか否か、即ち、GPI蛋白質の完全なポリペプチド部分に接触したときに、PIG(−P)残基を認識するか否かについて調べることとした。
【0102】
放射能標識したlcGPI蛋白質を得るために、代謝的に標識したS.セレビシエ(S.cerevisiae)細胞由来のGce1pを、PI特異的PLC(B. cereus)で処理し、そして、親水的分解産物を精製して、放射化学的に均一なものを得た。PIG(−P)に用いたのと同様の油層遠心分離法の実験の結果、lcDIGsと比較した場合、11から15倍もより効率的に、hcDIGsとの濃度依存性及び飽和性の態様において、lcGce1pは、単離したラット脂肪細胞由来のDIGsと結合することが分かった。
【0103】
200倍モル過剰の無標識lcGce1pの存在下における非特異的結合は、lcGce1pの非飽和濃度でDIGsを用いて回収した全lcGce1pの15%未満であった。スカッチャード プロット分析の結果、hcDIGsに結合するlcGce1pのKdは、hcDIGsの1mg蛋白質当たり、0.1〜1μMであり、Bmaxは、70〜200pmolであった。一方、全ての原形質膜及びミクロソームは、lcGce1pの特異的結合を示さなかった。このように、脂肪細胞原形質膜のhcDIGsは、明らかに酵母由来のlcGce1pの特異的結合部位を保持していることが分かった。
【0104】
そこで更に、同様なKd及びBmax値により指摘されるように、PIG(−P)及びlcGPI蛋白質に対する結合部位の同定の分析のため、hcDIGsにおけるlcGce1pの結合部位に対する合成PIG(−P)化合物の相対的な親和性を、競合的研究において比較した(図9)。
【0105】
放射能標識したlcGce1pのhcDIGsに対する結合が、標識した合成YCN−PIG、YMN−PIG、及びYCNプラスPIG37の過剰(500倍以上)により、結合した全lcGce1pの75%以上も置換することより、lcGce1pとhcDIGsの特異的相互作用が確認された。PIG37およびYCNとのlcGce1pの結合の競合性は、かなり効率が低かった。hcDIGsからlcGce1pに置換する見かけ上のIC50に影響を与える、異なるPIG(−P)の相対的ランキングは、YCN−PIG>YCN+PIG37>YMN−PIG>PIG37>YCNの順であり、これは、YCN−PIG結合に対する影響の相対的ランキングと同一であった(図6)。
【0106】
更に、この見かけ上のIC50は、lcGce1pとYCN−PIGとの競合的結合にも極めてよく似ており、両者の場合、同一の決定基が認識され、そしてGPI蛋白質の他の蛋白質残基(カルボキシ末端のトリペプチジルエタノールアミジン残基を除いて)は、結合に寄与していないことが分かった。
【0107】
次に、インタクトなラット脂肪細胞のトリプシン/NaCl 及びNEM処理に対する、lcGce1pとhcDIGsとの相互作用の感受性について、放射能標識したYCN−PIGの結合を殆ど完全に破壊するような条件下で調べた(図7)。
【0108】
トリプシン/NaCl 及びNEM処理の脂肪細胞からのhcDIGsは、放射能標識lcGce1pとの親和性を示した。非標識YCN−PIGの500倍過剰の存在下における非特異的結合(無処理の対照細胞由来のhcDIGsから回収した全Gce1pの約30%)を超えるものではなかった(図10)。
【0109】
これとは対照的に、過剰のDTTの存在下(図10)又は、トリプシン又はNaCl単独(データは未表示)でのNEMと脂肪細胞のインキュベーションは、放射能標識したlcGce1pの結合も、そしてその3μM YCN+PIG37、5μM PIG37、及び10μM YCNによる競合も、無処理の細胞に比較して減少しなかった。これらを総合して考えると、脂肪細胞の原形質膜のhcDIGsにおける局在、絶対的又は相対的親和性(構造的誘導体に対する)、発現レベル、トリプシン/NaCl 及びNEMに対する感受性を考慮した場合、YCN−PIG及びlcGce1pの特異的結合部位は、極めてよく似た特徴を示していることが分かった。
【0110】
PIG(−P)及びlcGPI蛋白質の受容体に対する内因性リガンド
PIG(−P)及びlcGPI蛋白質に対する表面上同一の結合部位の生理的リガンドの候補物は、無破壊のGPI構造、即ち、GPI脂質及び/又はGPI蛋白質アンカーである。この可能性を実証するために、受容体と相互作用をし、それ故に、YCN−PIG/lcGce1pの結合部位を隠蔽する内因性GPI分子と推定されるものを特異的に除去するため、hcDIGsの調製前に、単離したラット脂肪細胞を、種々のGPI特異的なPLで処理し、そして続いて塩洗浄(0.5M NaCl)をした。
【0111】
ラット脂肪細胞を段階的増加量のB.セレウス(B. cereus)由来のPI特異的PLC又はヒト血清由来のGPI特異的PLDとインキュベートした結果、特異的にhcDIGsに結合する放射能標識YCN−PIG及びGce1pの量が、濃度依存的に増加した(図11)。平行実験により、脂質消化の効果は、hcDIGsからのGce1p及びNucの喪失によって実証された。
【0112】
hcDIGsに対するYCN−PIG又はlcGce1pの結合が、それぞれ200及び260%増加したのに相関して、それぞれ75及び65%の喪失であった。GPI分解の特異性は、PC特異的なPLC(B. cereus)及びキャベツ由来のPLD(GPI構造に作用しない)が、hcDIGsからGce1及びNucを有意に置換すること、及び、hcDIGsに対するYCN−PIG(lcGce1p)結合を促進することを、完全に喪失したことによって実証された(図11、12)。
【0113】
脂肪細胞から調製したPI特異的なPLC由来のhcDIGsに対する特異的結合(非特異的結合には、有意義な変化はなかった。)のスカッチャード プロット分析の結果、放射能標識YCN−PIG/lcGce1pの親和性増加は、主に、Kdは殆ど変化せずに、Bmaxが2から3倍ほど高くなったことによるものであることが分かった。これらの事実から、単離したラット脂肪細胞の基底状態のhcDIGsにおける、PIG(−P)又はlcGPI蛋白質に対する結合部位の約50%が、(G)PI特異的PLC/Dによって分解される内因性GPI構造によって、占められたことによるものであることが分かった。
【0114】
特に顕著には、ラット脂肪細胞のGPI特異的PLC/Dの処理が、hcDIGsにおけるGce1p及びNucの量を、ある一定の程度、緩和にしかし有意義に減少させるという効果を、
生理的濃度のインスリンが示した(模倣した)ことである。インスリンにより誘導された、hcDIGsからのGPI蛋白質の喪失が、YCN−PIG又はlcGce1pの結合能力を顕著に増大する方に導いたことによるものである(図11、12)。
【0115】
更に、PIG(−P)及びlcGPI蛋白質の受容体が、CIRと呼ばれる、トリプシン/NaCl及びNEM感受性の115kDa蛋白質と同一であることが実証された。
【0116】
受容体に対するPIG−Pの結合は、後続するNEMによる共有結合の変化及び/又はトリプシン/NaClによる脂肪細胞表面からの切断と放出への接近可能性(accessibility)に影響を与える。
【0117】
ラット脂肪細胞をPIG(−P)とインキュベートし、続いて、[14C]NEM標識、及びトリプシン/NaCl処理に供した。
【0118】
SDS−PAGEによる放射能標識ポリペプチドの放出の分析、及び蛍光像(phoshorimage)(図13)により、[14C]NEMによる115kDaポリペプチドの乗換え、及び/又はトリプシン/NaCl処理後の脂肪細胞の下澄からの回収が、PIG(−P)により減少することが明らかとなった。
【0119】
その減少は、対照細胞と比較して、3μMにおけるYCN−PIG及びPIG37、及び30μMにおけるYCNでは、それぞれ83、65及び28%であった。この蛋白質は、トリプシン/NaCl処理により原形質膜から遊離した主要なNEM標識成分であるが、しかしながら、個々の処理によるものではなく(図13)、そしてそれはCIRと同一であった。
【0120】
内因性リガンド(例えば、GPI蛋白質)の存在、及び脂質分解による対応する結合部位からの除去(図11、12参照)、の実験事実と一致して、外因性PI特異的PLC(B. cereus)又はインスリンによる脂肪細胞の処理は、微少ではあるが、再現性をもって、[14C]NEM標識CIRのトリプシン/NaCl処理依存性の遊離を、それぞれ、30及び20%促進した(図13)。
【0121】
トリプシン/NaCl処理、トリプシン処理、NaCl処理による脂肪細胞表面からのCIRの遊離の相対的比率(100/20/10)が、対照、PIG(−P)賦活細胞、及びPLC/インスリン処理細胞と概略平行であったことより、hcDIGsに対するPIG(−P)及び外因性GPIリガンドの結合が、トリプシン分解よりは、NEMによるCIRの標識を減少したものと思われる。これは、脂肪細胞の原形質膜のhcDIGsにおける、リガンドとPIG(−P)受容体との相互作用により生じたCIR中の立体配座の変化によるものであると思われる。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
図のリスト
図1:PIG合成の全体図、パート1
図2:PIG合成の全体図、パート2
図3:PIG合成の全体図、パート3
図4:YCN−PIGの合成、パート1
図5:YCN−PIGの合成、パート2
図6:YCN−PIGの合成、パート3
図7:YCNの合成
図8:YCN−PIGの化学式
図9:YMN−PIGの化学式
図10:PIG37の化学式
図11:YCNの化学式
【0125】
図12:hcDIGsに対するPIG(−P)の特異的結合。
S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)から単離した放射能標識YCN−PIGの段階的増加量を、hcDIGs(6.5μg蛋白質)、lcDIGs(6.5μg)、原形質膜(47.5μg)、及び単離したラットの脂肪細胞由来のミクロソーム(68μg)と一緒にインキュベートした(1時間、4℃)。膜画分/DIGsを、油層遠心分離に掛け、油層上部/沈殿相から回収し、溶解し、そして放射能を測定した。特異的結合は、無標識YCN−PIGの10μMの存在下及び非存在下で測定した放射能の差異として計算した。各点は、少なくとも4つの異なる膜標品を用いた3連のインキュベーションの平均値±SDを表示している。
【0126】
図13:hcDIGsに対するPIG−Pの特異的結合。
放射能標識したYCN−PIG(18,000〜22,000dpm)を、段階的増加量の無標識YCN−PIG、YCN+PIG37、YMN−PIG、PIG37及びYCN(競合)の存在下及び非存在下で、hcDIGs(6.5μg蛋白質)と一緒にインキュベートした(1時間、4℃)。膜画分/DIGsを、油層遠心分離に掛け、油層上部/沈殿相から回収し、溶解し、そして放射能を測定した。
【0127】
図14:hcDIGsにおけるPIG−Pの結合部位の特性決定
S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)から単離した放射能標識YCN−PIGの増加する量を、単離したラットの脂肪細胞由来のhcDIGs(6.5μg蛋白質)で、トリプシン/NaCl,トリプシン、NEM+DTT,NaCl若しくはNEMで前処理をしたもの、又は無処理のもの(対照)と一緒にインキュベートした(1時間、4℃)。DIGsを、油層遠心分離に掛け、油層上部から回収し、溶解し、そして放射能を測定した。特異的結合は、無標識YCN−PIGの10μMの存在下及び非存在下で測定した放射能の差異として計算した。各点は、少なくとも3つの異なる脂肪細胞前処理を用いた3連のインキュベーションの平均値±SDを表示している。
【0128】
図15:hcDIGsにおけるPIG−Pの結合部位の特性決定
放射能標識したYCN−PIG(12,000〜18,000dpm)を、(正比例)量のhcDIGs、及び単離したラットの脂肪細胞から調製したhcDIGsで、段階的増加量のm−βCDで前処理(50分、30℃)したもの、又は無処理のものと一緒にインキュベートした(1時間、4℃)。DIGsを、油層遠心分離に掛け、油層上部から回収し、溶解し、そして無標識YCN−PIGの10μMの存在下及び非存在下で放射能を測定した。各点は、少なくとも3つの異なる脂肪細胞前処理を用いた3連のインキュベーションの平均値±SDを表示している。
【0129】
図16:hcDIGsに対するlcGce1pの特異的結合。
S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)から単離し、そしてPI特異的PLC(B. cereus)で処理をした放射能標識Gce1pを、無処理のラットの脂肪細胞から単離したhcDIGs(6.5μg蛋白質)と一緒に、無標識PIG−Pの存在下及び非存在下で、インキュベートした(1時間、4℃)。hcDIGsを油層遠心分離にかけ、溶解し、そして放射能を測定した。各点は、少なくとも3つの異なるhcDIG標品を、それぞれ独立に脂肪細胞前処理をしたものを用いた4連のインキュベーションの平均値±SDを表示している。
【0130】
図17:hcDIGsに対するlcGce1pの特異的結合。
S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)から単離し、そしてPI特異的PLC(B. cereus
)で処理をした放射能標識Gce1pを、トリプシン/NaCl、NEM、NEM+DTTで前処理した、又は無処理の(対照)脂肪細胞から単離し、hcDIGs(6.5μg蛋白質)と一緒に、無標識YCN−PIG(最終濃度:3μM)、YCN+PIG37(3μM)、PIG37(5μM)及びYCN(10μM)の存在下及び非存在下でインキュベートした(1時間、4℃)。hcDIGsを油層遠心分離にかけ、溶解し、そして放射能を測定した。各点は、少なくとも3つの異なるhcDIG標品を、それぞれ独立に脂肪細胞前処理をしたものを用いた、4連のインキュベーションの平均値±SDを表示している。
【0131】
図18:脂肪細胞のPL及びインスリン処理によるYCN−PIG及びlcGce1pのhcDIGsへの結合に対する効果。
単離したラットの脂肪細胞(7×107細胞/ml)を、PI特異的PLC(B. cereus)、PC特異的PLC(B. cereus)、GPI特異的PLD(ヒト血清)若しくはPLD(キャベツ)又はヒトインスリンの指摘量を、全容量2mlとし、5%CO2/95%O2中、低速回転でインキュベートした(30分、30℃)。
1MのNaClを2ml添加後に、脂肪細胞を浮揚させて洗浄した。hcDIGsを単離し、そしてその6.5μgを、S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)から調製した放射能標識lcGce1p及びYCN−PIG(15,000〜25,000dpm)と一緒に、無標識YCN−PIG(最終濃度:10μM)の存在下及び非存在下で、インキュベートし(1時間、4℃)、油層遠心分離に掛け、油層上部から回収し、溶解し、そして放射能を測定した。特異的結合は、無標識YCN−PIGの存在下及び非存在下で測定した放射能の差異として計算した。
各点は、少なくとも2つの異なるhcDIGs標品を用いた3連のインキュベーションの平均値±SDを表示している。
【0132】
図19:脂肪細胞のPL及びインスリン処理によるYCN−PIG及びlcGce1pのhcDIGsへの結合に対する効果。
単離したラットの脂肪細胞(7×107細胞/ml)を、PI特異的PLC(B. cereus)、PC特異的PLC(B. cereus)、GPI特異的PLD(ヒト血清)若しくはPLD(キャベツ)又はヒトインスリンの指摘量を、全容量2mlとし、5%CO2/95%O2中、低速回転でインキュベートした(30分、30℃)。
1MのNaClを2ml添加後に、脂肪細胞を浮揚させて洗浄した。hcDIGsを単離し、そしてその6.5μgを、S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)から調製した放射能標識lcGce1p及びYCN−PIG(15,000〜25,000dpm)と一緒に、無標識YCN−PIG(最終濃度:10μM)の存在下及び非存在下でインキュベートし(1時間、4℃)、油層遠心分離に掛け、油層上部から回収し、溶解し、そして放射能を測定した。
【0133】
図20:CIRのNEM−標識におけるPIG(−P)、PI特異的PLC及びインスリンの効果。
単離したラットの脂肪細胞を、PIG37、YCN−PIG、YCN、PI−PLC(B. cereus)又はインスリンを指摘濃度でインキュベートし(30分、37℃)、そして[14C]−NEMで標識した。トリプシン/NaClで指摘したように処理した後に、脂肪細胞を油層遠心分離に掛け、インキュベーション培地から単離した。蛋白質は、その培地(油層下部)から回収し、そしてSDS−PAGEで再可溶化した。
【0134】
蛍光像(phoshorimage)は、同様な結果を示す3連の典型的な実験からのものを表示している。4つの異なる脂肪細胞のインキュベーションの定量的検定は、トリプシン/NaClで処理した対照細胞から遊離したCIRの量を100とする不定単位(平均値±SD)で与えられる3連の測定値として表示している。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】PIG合成の全体図(パート1)を示す。
【図2】PIG合成の全体図(パート2)を示す。
【図3】PIG合成の全体図(パート3)を示す。
【図4】YCN−PIGの合成(パート1)を示す。
【図5】YCN−PIGの合成(パート2)を示す。
【図6】YCN−PIGの合成(パート3)を示す。
【図7】YCNの合成を示す。
【図8】YCN−PIGの化学式を示す。
【図9】YMN−PIGの化学式を示す。
【図10】PIG37の化学式を示す。
【図11】YCNの化学式を示す。
【図12】hcDIGsに対するPIG(−P)の特異的結合を示す。
【図13】hcDIGsに対するPIG−Pの特異的結合を示す。
【図14】hcDIGsにおけるPIG−Pの結合部位の特性づけを示す。
【図15】hcDIGsにおけるPIG−Pの結合部位の特性づけを示す。
【図16】hcDIGsに対するlcGce1pの特異的結合を示す。
【図17】hcDIGsに対するlcGce1pの特異的結合を示す。
【図18】脂肪細胞のPL及びインスリン処理によるYCN−PIG及びlcGce1pのhcDIGsへの結合に対する効果を示す。
【図19】脂肪細胞のPL及びインスリン処理によるYCN−PIG及びlcGce1pのhcDIGsへの結合に対する効果を示す。
【図20】CIRのNEM−標識におけるPIG(−P)、PI特異的PLC及びインスリンの効果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドに対する特異的結合親和性を有する脂肪細胞の原形質膜由来の蛋白質であって、
(a) 当該蛋白質にホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドが特異的に結合した後に、脂肪細胞中のインスリン受容体基質1又は2のtyrリン酸化を引き起こす能力、及び
(b) 当該蛋白質にホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドが特異的に結合した後に、脂肪細胞中にグルコース取込みを促進する能力、
を特徴とする蛋白質。
【請求項2】
ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドが、次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1の少なくとも一つの化合物からなるものである、請求項1に記載の蛋白質。
【請求項3】
ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドが、0.001から10μMの結合定数で蛋白質に結合する、請求項1又は2に記載の蛋白質。
【請求項4】
ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドが、0.001から1μMの結合定数で結合する、請求項3に記載の蛋白質。
【請求項5】
脂肪細胞がラット、マウス又はヒト起源である、請求項1〜4の何れかの項に記載の蛋白質。
【請求項6】
分子量が115kDaである請求項1〜5の何れかの項に記載の蛋白質。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質及び次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1の少なくとも一つの化合物から形成される複合体。
【請求項8】
(a) 脂肪細胞をラット、マウス又はヒト組織から用意し、
(b) 上記(a)由来の脂肪細胞の原形質膜を単離し、
(c) 高コレステロールのraftドメイン(hcDIGs)を(b)の原形質膜から調製し、
(d) 上記(c)由来のhcDIGsをトリプシン/NaCl溶液で処理し、
(e) 上記(d)由来のインキュベーション混合物を遠心分離に掛け、そして上清画分の蛋白質をSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル−電気泳動)で分離し、
(f) 大きさ115kDaの蛋白質画分をゲルから溶出し、そして場合によって、界面活性剤又は生体膜を含んでいる溶液又は懸濁液で可溶化し、
(g) そして場合によって、次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選んだ一つの化合物を添加する、
請求項1〜7の何れかの項に記載の蛋白質の製法。
【請求項9】
(a) 請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいる細胞画分を用意し、
(b) 化合物を用意し、
(c) 上記(a)由来の細胞画分を、(b)の化合物に接触させ、
(d) 上記(a)由来の細胞画分への当該化合物の結合を測定し、
(e) 上記(d)から得た結果を、(b)で用意された化合物と同一の化合物を、(a)で用意された細胞と同一種及び/又は組織特異性を有しているが、請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいない細胞画分と接触させた実験から得た結果と比較することに
より、結合特異性を推定し、
それにより、請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいない細胞画分と比較して、(b)で用意された化合物のより多くの量が、当該請求項に記載の蛋白質を含んでいる細胞画分と結合した場合、より高い結合特異性を示す、
請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質に特異的に結合する化合物を同定する方法。
【請求項10】
細胞画分が、脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞又は肝細胞から得られたことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
細胞が、ヒト、マウス又はラット種起源である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
細胞画分が、細胞の細胞膜から成る、請求項9〜11の何れかの項に記載の方法。
【請求項13】
細胞画分が、高コレステロール含量のraftドメイン(hcDIGs)から成る、請求項9〜12の何れかの項に記載の方法。
【請求項14】
化合物が放射能核種又は蛍光マーカーで標識されている、請求項9〜13の何れかの項に記載の方法。
【請求項15】
(a) 請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞を用意し、
(b) 化合物を用意し、
(c) 上記(a)由来の細胞を、(b)で用意された化合物に接触させ、
(d) 当該グルコース輸送細胞への当該化合物の結合を測定し、
(e) 上記(d)で得た結果を、(b)で供給された化合物と同一の化合物を、(a)由来の細胞と同一種及び/又は組織特異性を有しているが、請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいないグルコース輸送細胞と接触させた実験から得た結果と比較することにより、結合特異性を推定し、
それにより、当該発明の蛋白質を含んでいないグルコース輸送細胞と比較して、(b)で用意された化合物のより多くの量が、請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞と結合した場合、より高い結合特異性を有すると示すことができる、
請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質に特異的に結合する化合物を同定する方法。
【請求項16】
細胞が脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞又は肝細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
細胞が、ヒト、マウス又はラット種起源とする、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
化合物が放射能核種又は蛍光マーカーで標識されている、請求項15〜17の何れかの項に記載の方法。
【請求項19】
(a) 請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞を用意し、
(b) 請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質の天然のリガンドを用意し、
(c) 化合物を用意し、
(d) 上記(a)由来のグルコース輸送細胞を、(b)のリガンド及び(c)の化合物に接触させ、
(e) 上記(d)由来のグルコース輸送細胞によるグルコースの取込みを測定し、
それにより、(c)由来の化合物がアゴニスト活性としてグルコースの取込みを促進し、そしてアンタゴニスト活性としてグルコースの取込みを阻害する、
請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質に対するアゴニスト又はアンタゴニストである化合物を同定する方法。
【請求項20】
天然のリガンドが次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から得られる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
グルコース輸送細胞が脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞又は肝細胞である、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
細胞が、ヒト、マウス又はラット種起源である、請求項19〜21の何れかの項に記載の方法。
【請求項23】
請求項9〜21の何れかの項に記載の方法によって同定された化合物、及び医薬品の製剤のための補助剤を含んでいる医薬品。
【請求項24】
少なくとも一つの化合物が次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選択される、請求項23に記載の医薬品。
【請求項25】
化合物が次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選択した少なくとも一種の部分又は誘導体から成る、請求項23に記載の医薬品。
【請求項26】
インスリン抵抗性又は糖尿病の治療用医薬品の製造のための、請求項9〜22の何れかの項に記載の方法により同定された、化合物の使用。
【請求項27】
化合物が次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選択される、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
化合物が次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選択した少なくとも一種の部分又は誘導体から成る、請求項26に記載の使用。
【請求項1】
ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドに対する特異的結合親和性を有する脂肪細胞の原形質膜由来の蛋白質であって、
(a) 当該蛋白質にホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドが特異的に結合した後に、脂肪細胞中のインスリン受容体基質1又は2のtyrリン酸化を引き起こす能力、及び
(b) 当該蛋白質にホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドが特異的に結合した後に、脂肪細胞中にグルコース取込みを促進する能力、
を特徴とする蛋白質。
【請求項2】
ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドが、次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1の少なくとも一つの化合物からなるものである、請求項1に記載の蛋白質。
【請求項3】
ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドが、0.001から10μMの結合定数で蛋白質に結合する、請求項1又は2に記載の蛋白質。
【請求項4】
ホスホイノシトールグリカン又はホスホイノシトールグリカン−ペプチドが、0.001から1μMの結合定数で結合する、請求項3に記載の蛋白質。
【請求項5】
脂肪細胞がラット、マウス又はヒト起源である、請求項1〜4の何れかの項に記載の蛋白質。
【請求項6】
分子量が115kDaである請求項1〜5の何れかの項に記載の蛋白質。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質及び次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1の少なくとも一つの化合物から形成される複合体。
【請求項8】
(a) 脂肪細胞をラット、マウス又はヒト組織から用意し、
(b) 上記(a)由来の脂肪細胞の原形質膜を単離し、
(c) 高コレステロールのraftドメイン(hcDIGs)を(b)の原形質膜から調製し、
(d) 上記(c)由来のhcDIGsをトリプシン/NaCl溶液で処理し、
(e) 上記(d)由来のインキュベーション混合物を遠心分離に掛け、そして上清画分の蛋白質をSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル−電気泳動)で分離し、
(f) 大きさ115kDaの蛋白質画分をゲルから溶出し、そして場合によって、界面活性剤又は生体膜を含んでいる溶液又は懸濁液で可溶化し、
(g) そして場合によって、次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選んだ一つの化合物を添加する、
請求項1〜7の何れかの項に記載の蛋白質の製法。
【請求項9】
(a) 請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいる細胞画分を用意し、
(b) 化合物を用意し、
(c) 上記(a)由来の細胞画分を、(b)の化合物に接触させ、
(d) 上記(a)由来の細胞画分への当該化合物の結合を測定し、
(e) 上記(d)から得た結果を、(b)で用意された化合物と同一の化合物を、(a)で用意された細胞と同一種及び/又は組織特異性を有しているが、請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいない細胞画分と接触させた実験から得た結果と比較することに
より、結合特異性を推定し、
それにより、請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいない細胞画分と比較して、(b)で用意された化合物のより多くの量が、当該請求項に記載の蛋白質を含んでいる細胞画分と結合した場合、より高い結合特異性を示す、
請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質に特異的に結合する化合物を同定する方法。
【請求項10】
細胞画分が、脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞又は肝細胞から得られたことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
細胞が、ヒト、マウス又はラット種起源である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
細胞画分が、細胞の細胞膜から成る、請求項9〜11の何れかの項に記載の方法。
【請求項13】
細胞画分が、高コレステロール含量のraftドメイン(hcDIGs)から成る、請求項9〜12の何れかの項に記載の方法。
【請求項14】
化合物が放射能核種又は蛍光マーカーで標識されている、請求項9〜13の何れかの項に記載の方法。
【請求項15】
(a) 請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞を用意し、
(b) 化合物を用意し、
(c) 上記(a)由来の細胞を、(b)で用意された化合物に接触させ、
(d) 当該グルコース輸送細胞への当該化合物の結合を測定し、
(e) 上記(d)で得た結果を、(b)で供給された化合物と同一の化合物を、(a)由来の細胞と同一種及び/又は組織特異性を有しているが、請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいないグルコース輸送細胞と接触させた実験から得た結果と比較することにより、結合特異性を推定し、
それにより、当該発明の蛋白質を含んでいないグルコース輸送細胞と比較して、(b)で用意された化合物のより多くの量が、請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞と結合した場合、より高い結合特異性を有すると示すことができる、
請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質に特異的に結合する化合物を同定する方法。
【請求項16】
細胞が脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞又は肝細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
細胞が、ヒト、マウス又はラット種起源とする、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
化合物が放射能核種又は蛍光マーカーで標識されている、請求項15〜17の何れかの項に記載の方法。
【請求項19】
(a) 請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質を含んでいるグルコース輸送細胞を用意し、
(b) 請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質の天然のリガンドを用意し、
(c) 化合物を用意し、
(d) 上記(a)由来のグルコース輸送細胞を、(b)のリガンド及び(c)の化合物に接触させ、
(e) 上記(d)由来のグルコース輸送細胞によるグルコースの取込みを測定し、
それにより、(c)由来の化合物がアゴニスト活性としてグルコースの取込みを促進し、そしてアンタゴニスト活性としてグルコースの取込みを阻害する、
請求項1〜6の何れかの項に記載の蛋白質に対するアゴニスト又はアンタゴニストである化合物を同定する方法。
【請求項20】
天然のリガンドが次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から得られる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
グルコース輸送細胞が脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞又は肝細胞である、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
細胞が、ヒト、マウス又はラット種起源である、請求項19〜21の何れかの項に記載の方法。
【請求項23】
請求項9〜21の何れかの項に記載の方法によって同定された化合物、及び医薬品の製剤のための補助剤を含んでいる医薬品。
【請求項24】
少なくとも一つの化合物が次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選択される、請求項23に記載の医薬品。
【請求項25】
化合物が次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選択した少なくとも一種の部分又は誘導体から成る、請求項23に記載の医薬品。
【請求項26】
インスリン抵抗性又は糖尿病の治療用医薬品の製造のための、請求項9〜22の何れかの項に記載の方法により同定された、化合物の使用。
【請求項27】
化合物が次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選択される、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
化合物が次の一群:YCN−PIG、YMN−PIG、PIG37、YCN又はlcGce1から選択した少なくとも一種の部分又は誘導体から成る、請求項26に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2006−514916(P2006−514916A)
【公表日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−518576(P2004−518576)
【出願日】平成15年6月26日(2003.6.26)
【国際出願番号】PCT/EP2003/006725
【国際公開番号】WO2004/005337
【国際公開日】平成16年1月15日(2004.1.15)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年6月26日(2003.6.26)
【国際出願番号】PCT/EP2003/006725
【国際公開番号】WO2004/005337
【国際公開日】平成16年1月15日(2004.1.15)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】
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