説明

脂肪酸エステル組成物の製法

【課題】 動物油および/または植物油とを原料として、酸価が低いディーゼルエンジン用燃料および高純度のグリセリンを製造する方法を提供する。
【解決手段】水と動物油および/または植物油とを加水分解し、得られた脂肪酸にアルコールを加えてエステル化反応させ、水を分離除去後、再度エステル化反応させる。上記加水分解条件は、水の亜臨界条件であり、上記エステル化反応はアルコールの超臨界条件である。これにより触媒を使用せず、酸価の低いディーゼルエンジン用燃料を製造し、高純度のグリセリンを回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物油および/または植物油を原料として脂肪酸エステル組成物の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、植物油や動物油を原料として脂肪酸モノエステル化物を製造し、これをディーゼルエンジン用燃料として使用する試みが行われている。植物油や動物油は、硫黄分の含有率が低いため、ディーゼルエンジン用の燃料として用いた場合に硫黄酸化物(SOX)がほとんど発生せず、しかも、使用済み植物油や動物油の大部分は焼却廃棄処理されているため、資源の有効利用になる。
【0003】
植物や動物由来の油(以下、本発明では油脂を含むものとする。)の主成分は脂肪族トリグリセリドであり、例えば(1)植物油や動物油をアルカリを触媒としてアルコール溶媒中でエステル交換し、対応する脂肪酸モノエステルを製造する方法、(2)触媒を使用せず、植物油や動物油に水を添加して超臨界または亜臨界条件で加水分解し、次いで加水分解物にアルコールを添加して超臨界または亜臨界条件でエステル化し、脂肪酸モノエステルを製造する方法、更に(3)植物油や動物油にアルコールを添加して超臨界または亜臨界条件でエステル交換し、脂肪酸モノエステルを製造する方法がある。しかしながら、植物油や動物油は一般に遊離脂肪酸を含むため、上記(1)の触媒を添加して行う脂肪酸モノエステルの製造方法は、遊離脂肪酸がアルカリと反応して脂肪酸塩などを副生して収率が低下し、触媒や脂肪酸塩の除去のため工程が複雑化するといった問題がある。一方、上記(2)、(3)の方法は、超臨界または亜臨界条件でエステル交換やエステル化するものであり、触媒を使用せず、脂肪酸塩なども副生されず、工程も簡潔で優れている。
【0004】
このような方法として、油脂類を主成分とする油脂原料を加水分解して遊離脂肪酸を生成させる工程と、前記工程で得られた遊離脂肪酸を主成分とする脂肪酸原料と、アルコールとを混合し、アルコールが超臨界となる条件でエステル化反応を行わせて脂肪酸モノエステルを生成させる工程とからなる脂肪酸エステルの製造方法がある(特許文献1)。該方法によれば、油脂類を主成分とする油脂原料を加水分解して得た遊離脂肪酸にアルコールを反応させてエステル化するため、エステル交換反応よりも効率的に脂肪酸エステルを製造することができるという。
【0005】
また、油脂とアルコールから脂肪酸エステルを製造する方法であって、触媒を添加せず、油脂および/またはアルコールが超臨界状態になる条件で反応させることを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法がある(特許文献2)。終了後の反応混合物は、脂肪酸エステル、グリセリン、過剰の未反応アルコールを含み、さらに未反応の原料、その他の不純物を含むこともあり、この反応混合物から、それぞれの用途に必要な純度まで、脂肪酸エステルを精製してもよい、とする。実施例では、大豆油を原料油脂として使用し、該大豆油に10〜400モル倍のアルコールを使用した場合に、転化率100%という結果を得ている。
【0006】
同様に、動物油または植物油を、超臨界状態または亜臨界状態のアルコールを溶媒として用いて無触媒下に処理し、選択的かつ短時間のうちに、溶媒として使用したアルコールに対応する脂肪酸モノエステル化物を得る方法もある(特許文献3)。該公報では、遊離の脂肪酸はエステル化反応によりそれぞれモノエステル化物に変換できるため、脂肪酸トリグリセリドのみならず遊離脂肪酸を含む植物油や動物油もそのモノエステル化物に効率よく変換され、従来法では、分離が必要である遊離脂肪酸も、超臨界状態または亜臨界状態のアルコールにより同時かつ効果的に脂肪酸モノエステル化物に変換できる、という。
【特許文献1】特開2004−263011号公報
【特許文献2】特開2000−143586号公報
【特許文献3】特開2000−204392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1記載の方法は、油脂類を主成分とする油脂原料を加水分解する際に、触媒や乳化剤を使用するため、工程が複雑となる。また、超臨界条件でエステル化反応を行った後の反応液は、蒸留によってアルコール、水、グリセリンおよび高沸点不純物などを分離して脂肪酸エステルを単離している。これはエステル化反応液に副生水が含まれていることを意味するものであり、副生水によってエステル化物が加水分解されるため、反応液中のエステル化反応率が低いものと推定される。
【0008】
また、上記特許文献3記載の方法で得られた脂肪酸モノエステル化物画分は、欧州やアメリカ規格で定められている酸価基準を満たさず、酸価0.5を超える場合がある。エステル交換反応では、動物油などに含まれるトリグリセリドが直接アルコールと反応して脂肪酸モノエステル化物を生成するが、同時に水が存在するとトリグリセリドが加水分解して脂肪酸になり、脂肪酸のエステル化によって水を副生する。このため、脂肪酸とアルコールとから脂肪酸モノエステル化物が生成される反応平衡が、水の存在によって逆反応側に移行する。この傾向は温度が高いほど大きくなり、超臨界条件などではことさらである。酸価を下げるには、反応液中の水分を十分下げることが重要な要素となるが、脂肪酸を含む油脂類を原料にすると水を副生するため、酸価0.5以下を達成することは非常に難しい。原料に水分が含まれる場合も同様である。
【0009】
一方、原料に含まれる遊離の脂肪酸や水分など、酸価を増加させ得る原因物質を除去すればよいが、原料油である大量の動物油や植物油から遊離の脂肪酸を除去することは容易でなく、このような前処理は、廃油のリサイクル効率を低下させる一因となる。
【0010】
更に、上記特許文献2のように、転化率を100%とするために、アルコールを原料油脂の400モル倍も使用したのでは、装置や設備が巨大となる。
【0011】
本発明は、こうした状況のもとになされたものであって、その目的は、従来技術における不都合を発生させず、植物油や動物油、さらには使用済天ぷら油などの廃食用油をディーゼルエンジン用燃料として満足できる脂肪酸モノエステル化物に効率良く変換する技術を提供することにある。すなわち、本発明は、低粘度、高揮発性で、悪臭がなく、黒煙やSOX成分の排出の少ない、しかも酸価0.5以下のディーゼルエンジン用燃料を、容易かつ効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
植物油や動物油脂に含まれる脂肪酸トリグリセリドから脂肪酸モノエステル化物を得る方法について詳細に検討した結果、触媒を使用することなくいわゆる亜臨界状態で脂肪酸トリグリセリドを加水分解できることを見出し、および、エステル交換反応に代えて、加水分解反応とエステル化反応との2つの工程を行い、かつ一段階目でのエステル化反応で生成した水を除去し、その後に二段階目のエステル化と再エステル化とを行うことで反応率高く脂肪酸モノエステルとすることができ、この反応液から水とアルコールとを除去すると、ディーゼルエンジン用燃料となる脂肪酸モノエステル化物を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
また、該方法によれば、原料に遊離脂肪酸や水分が含まれていてもよいため、広範囲の植物油や動物油を原料として使用することができ、しかも脂肪酸モノエステル化物の収率を向上させることができ、しかも酸価の低い高品位なディーゼルエンジン用燃料を製造し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、原料に含まれる遊離脂肪酸の含有量や水分量に係わらず、触媒を使用せずに植物油や動物油に含まれる脂肪酸トリグリセリドから脂肪酸モノエステル化物を製造することができるため、廃油などのリサイクル効率が向上する。
【0015】
酸価0.5以下の脂肪酸モノエステル化物を得るには、従来、トリグリセリドのエステル交換反応を促進するため、メタノール/トリグリセリドのモル比率を300以上にする必要があったが、本方法を用いることでメタノール/トリグリセリドのモル比が3〜100でもエステル交換反応が十分に進行し、反応装置をコンパクトにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、水と動物油および/または植物油とを、温度150〜400℃、圧力0.5〜45MPaで加水分解し、得られた加水分解物からグリセリン及び水を除去した反応物を得る第一工程、
前記反応物とROH(Rは、炭素数1〜24の飽和または不飽和の脂肪族基を示す。)で示されるアルコールとを、温度150〜400℃、圧力2〜100MPaで反応させ、得られたエステル化反応液から脂肪酸モノエステル化物画分を得る第二工程、
前記脂肪酸モノエステル化物画分とROH(Rは、炭素数1〜24の飽和または不飽和の脂肪族基を示す。)で示されるアルコールとを、温度150〜400℃、圧力2〜100MPaで反応させ、得られた反応液から脂肪酸モノエステル化物を得る第三工程、とからなる脂肪酸エステル組成物の製法である。
【0017】
遊離 脂肪酸とアルコールとの反応は対応する脂肪酸モノエステル化物と水とを生成し、反応平衡の存在によって未反応の遊離脂肪酸が残存しうるが、上記第二工程において、水を除去し、次いで上記第三工程を行うことで原料油脂に含まれる遊離脂肪酸や水分の含有量を問わずに酸価の低い脂肪酸モノエステル化物を得ることができる。以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
(1)原料
本発明において、「動物油」とは、動物由来の油であり、油脂を含む概念である。本発明で使用できる動物油としては、イワシ油、サバ油、ニシン油、サンマ油、マグロ油、タラ肝油など魚類の体から得られる魚油;ラード脂、ニワトリ脂、バター脂、牛脂、牛骨脂、鹿脂、イルカ脂、馬脂、豚脂、骨油、羊脂、牛脚油、ネズミイルカ油、サメ油、マッコウクジラ油、鯨油などがあり、魚油、牛脂および豚脂からなる群から選択される1以上の油であることが好ましく、これらの油が複数混合したもの、ジグリセリドやモノグリセリドを含む油脂、一部、酸化、還元等の変性を起こした油でもよい。
【0019】
また、本発明において、「植物油」とは、植物由来の油であり、油脂を含む概念である。本発明で使用できる植物油としては、ココアバター脂、トウモロコシ油、ラッカセイ油、棉実油、ダイズ油、ヤシ油、オリーブ油、サフラワー油、アブラギ油、アマニ油、ココナッツ油、カシ油、アーモンド油、アンズの仁油、ヒマシ油、大風子油、シナ脂、綿実油、綿実ステアリン、ゴマ油、パーム油、パーム核油、コメ油、カポック油などがあげられ、より好ましくは、ひまわり油、サフラワー油、桐油、アマニ油、大豆油、菜種油、綿実油、オリーブ油、椿油、ヤシ油およびパーム油から選択される1種以上であるが、これらには限定されない。また、これらの油が複数混合したもの、ジグリセリドやモノグリセリドを含む油脂、一部、酸化、還元等の変性を起こした油でもよい。
【0020】
上記動物油や植物油は、原料動物や植物から直接採取したものであってもよいが、食用油などとして使用した後、廃棄されたものであってもよい。これらには、下記式(1)で示されるトリグリセリドが主成分として含まれるため、エステル交換によって脂肪酸モノエステル化物を効率的に製造することができるからである。
【0021】
【化1】

(R1、R2およびR3は、置換基を有していてもよい、炭素数6〜24の飽和または不飽和の脂肪族基である。)

上記トリグリセリドに含まれるR1、R2およびR3の置換基としては、水酸基、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基などがあり、上記トリグリセリドに含まれる脂肪族基としては、原料の動物種や植物種によって適宜選択することができる。
【0022】
上記動物油や植物油には、遊離脂肪酸や水分が含まれていてもよい。後記する第三工程によって酸価を低減できるからである。なお、一般には、動物や植物から採取した油動物油や植物油、または食用等に使用された後の廃動物油や廃植物油には、1〜5質量%の遊離脂肪酸および0〜50質量%の水分が含まれている。食用油精製工程から副生するダーク油では、50〜100質量%の遊離脂肪酸を含有している。本発明では、このような原料から遊離脂肪酸や水分を除去することなく、脂肪酸モノエステル化物を効率的に製造することができる。
【0023】
なお、本発明では、上記動物油および/または植物油に加えて、更に、これらが加水分解されて得た脂肪酸を原料に含まれていてもよい。脂肪酸のエステル化と同時に水が副生し、この水による加水分解反応によってエステル化物から遊離脂肪酸が生成され酸価を上昇させるが、後記する第二工程で水が除去され、ついで第三工程で再度エステル化反応が行なわれることによって酸価を低減できるため、第二工程および第三工程による効果を享受できるからである。このような脂肪酸としては、R4COOH(R4は、置換基を有していてもよい、炭素数6〜24の飽和または不飽和の脂肪族基である。)で示される。
【0024】
本発明で使用するアルコールは、ROH(Rは、炭素数1〜24の飽和または不飽和の脂肪族基を示す。)で示され、Rのうち炭素数1から24の飽和または不飽和の脂肪族基としては、例えば、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基などがあげられる。
【0025】
Rがアルキル基であるアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノールなどが例示される。
【0026】
Rがアラルキル基であるアルコールとしてはベンジルアルコール、α−フェネチルアルコール、β−フェネチルアルコールが例示され、ベンジルアルコールが好ましい。
【0027】
Rがアルケニル基であるアルコールとしては、アリルアルコール、1−メチルアリルアルコール、2−メチルアリルアルコール、3−ブテン−1−オ−ル、3−ブテン−2−オ−ルなどが例示され、アリルアルコールが好ましい。
【0028】
Rがアルキニル基であるアルコールとしては、2−プロピン−1−オール、2−ブチン−1−オ−ル、3−ブチン−1−オ−ル、3−ブチン−2−オ−ルなどが例示される。
【0029】
この中で、アルコールとしては、Rが炭素数1〜8、より好ましくは1〜4のアルキル基であることが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、2−ブタノール、t−ブタノール、アリルアルコールである。より好ましくはメタノール、エタノールであり、さらに好ましくはメタノールである。アルコールは、単独でも、二種以上を混合して用いても良い。また、アルコールは、光学異性体が存在する場合には、光学異性体を含んでもよい。
【0030】
(2)第一工程
本発明では、水と動物油および/または植物油とを、温度150〜400℃、より好ましくは170〜370℃、特に好ましくは200〜350℃、圧力0.5〜45MPa、より好ましくは1〜40MPa、特に好ましくは2〜30MPaで反応させる。より好ましくは、これらの条件の中で、水の亜臨界または超臨界条件で加水分解することである。
400℃を超える温度では、植物油や動物油の熱分解が著しくなり、製品の収率が低下する場合がある。また、反応圧力が45MPaを越えても製品の収率や反応時間の改善はみられない。なお、本明細書において、亜臨界とは臨界温度をTc、臨界圧力をPcで示し、反応時の圧力、温度をそれぞれP、Tとしたときに、0.5Pc<P<Pc、0.5Tc<Tの状態、または0.5Pc<P、0.5Tc<T<Tcの状態をいう。
【0031】
反応時間は、上記動物油および/または植物油に含まれる脂肪酸トリグリセリドが、上記水によって加水分解するに足る時間である。一般には、反応時間は反応条件に応じて1分から5時間、より好ましくは3〜120分である。
【0032】
本発明の製造方法を実施する装置の形式は特に規定しないが、たとえばバッチ式反応器や連続式槽型反応器、ピストンフロー型流通式反応器、塔型流通式反応器などを、好適に使用することができる。
【0033】
また、水の配合量は、理論的には、動物油や植物油に含まれるトリグリセリド1モルに対し、3モルの水と反応させると、1モルのグリセリンと3モルの対応する脂肪酸が生成する。しかしながら本発明では、動物油および植物油の合計量に含まれるトリグリセリド1モルに対し、3〜300モル、より好ましくは6〜300モル、特に好ましくは15〜200モルの水を添加することで効率的に、加水分解し遊離脂肪酸を得ることができる。3モルを下回ると加水分解反応が不十分となり、一方、300モルを超えると反応装置が巨大化して不経済である。また、1モルのトリグリセリドから3モルの脂肪酸が遊離するため、原料に脂肪酸が含まれる場合には、その脂肪酸含有量に対して上記水のモル数を減じればよい。
【0034】
得られた加水分解物には、遊離脂肪酸、水およびグリセリンが含まれる。なお、加水分解物には、未反応の動物油および/または植物油や、ジグリセリド、モノグリセリドが含まれていてもよい。第二工程以降でこれらがアルコールと反応してエステル交換反応し、脂肪酸モノエステル化物を製造できるからである。
【0035】
本発明では、加水分解物からグリセリン及び水を除去する方法に限定はなく、いずれの方法でもよい。例えば、上記加水分解物を静置すると、水とグリセリンとを主成分とする水溶性層と、遊離脂肪酸を主成分とする油性層との二層に分離される。この場合には、水溶性層を除去すればよい。
【0036】
なお、水溶性層を蒸留すると、水とグリセリンとを分離することができる。このように、本発明では、前記第一工程の加水分解物を静置分離により水とグリセリンとを含む水溶性層を得て、該水溶性層からグリセリンを回収することができる。アルカリ触媒を使用してエステル交換を行う場合には、生成したグリセリンが触媒と水を含むメタノール層に溶解するため、グリセリンのみの回収が困難であるが、本発明によれば、上記方法によって高純度でグリセリンを回収することができる。なお、本発明では、この工程で得られた水を加水分解用の水に再使用することができ、これによって廃水量を低減することができる。
【0037】
(3)第二工程
ついで、上記した加水分解物からグリセリン及び水を除去した反応物とROH(Rは、炭素数1〜24の飽和または不飽和の脂肪族基を示す。)で示されるアルコールとを、温度150〜400℃、より好ましくは180〜380℃、特に好ましくは200〜360℃、圧力2〜100MPa、より好ましくは3〜50MPa、特に好ましくは5〜30MPaで反応させて、エステル化反応液を得る。より好ましくは、これらの条件の中で、使用する前記ROHで示されるアルコールの亜臨界または超臨界条件でエステル化することである。400℃を超える温度では、脂肪酸や脂肪酸モノエステル化物の熱分解が著しくなり、製品の収率が低下する場合がある。また、反応圧力が100MPaを越えても製品の収率や反応時間の改善はみられない。
【0038】
本発明の製造方法を実施する装置の形式は特に規定しないが、たとえばバッチ式反応器や連続式槽型反応器、ピストンフロー型流通式反応器、塔型流通式反応器などを用いることができる。
【0039】
本発明では、遊離脂肪酸1モルに対し、1〜100モル、より好ましくは1.5〜50モル、特に好ましくは2〜30モルのアルコールを添加する。1モルを下回るとエステル化反応が不十分となり、一方、100モルを超えると反応装置が巨大化して不経済である。また、上記反応物中に未反応の動物油および/または植物油やジグリセリドやモノグリセリドが含まれている場合には、これらに含まれる脂肪酸量に対応して、上記モル比のアルコールが含まれることが好ましい。上記反応物に未反応の動物油および/または植物油やジグリセリドやモノグリセリドが含まれる場合には、これらがアルコールと反応してエステル交換反応し、脂肪酸モノエステル化物を製造できるからである。
【0040】
反応時間は、上記反応物に含まれる脂肪酸が上記アルコールとエステル化反応を行い、対応する脂肪酸モノエステル化物を得るに足る時間である。しかしながら、脂肪酸とアルコールとのエステル化反応では水が副生するため、副生水によって、生成した脂肪酸モノエステル化物が加水分解される。そこで、本発明では、反応条件に応じて1分から5時間、より好ましくは3〜100分で反応させる。5時間を超えても、脂肪酸のエステル化率の向上は少なく、一方、1分を下回ると、未反応脂肪酸量が多く収率が低下する場合がある。
【0041】
本発明において、エステル化反応液から脂肪酸モノエステル化物画分を得る方法に限定はなく、いずれの方法おこなってもよい。例えば、上記エステル化反応液には、脂肪酸モノエステル化物と過剰に添加したアルコールが含まれ、更に、脂肪酸モノエステル化物の生成と同時に副生した水も含まれる。また、第一工程で得た反応物に、未反応の動物油および/または植物油やジグリセリドやモノグリセリドが含まれている場合には、これらとエステル交換反応によって生成するグリセリンも含まれる。このように、前記エステル化反応液から、水とアルコールとグリセリンとを分離することで、第一工程の加水分解において動物油や植物油を完全に加水分解せずにモノグリセリドやジグリセリドが残存する場合でも、グリセリンを含まない脂肪酸モノエステル化物画分を得ることができる。
【0042】
例えばこのような方法としては、(1)前記第二工程のエステル化反応液を蒸留塔に導入し、蒸留条件を選択して、塔頂からアルコールと水とを留出させ、塔中からグリセリンを抜き出し、および塔底から脂肪酸モノエステル化物を回収する方法、(2)前記エステル化反応液を蒸留塔に導入し、蒸留条件を選択して、塔頂からアルコール、水およびグリセリンを留出させ、塔底から脂肪酸モノエステル化物を回収する方法、(3)前記エステル化反応液を第一蒸留塔に導入し、蒸留条件を選択して、塔頂からアルコールと水とを留出させ、塔底からグリセリンおよび脂肪酸モノエステル化物を抜き出し、次いで第二蒸留塔に塔底液を導入してグリセリンと脂肪酸モノエステル化物とを分離回収する方法、(4)エステル化反応液を蒸留塔に導入し、アルコール留出後に、脂肪酸モノエステル化物とグリセリンおよび水とを液−液分離する方法、(5)エステル化反応液を蒸留塔に導入して塔頂からアルコールと水とを除去した後に、残分を静置分離してグリセリンを除去する方法、その他、いずれの方法を使用してもよい。なお、上記では、グリセリンが含まれる場合で記載したが、第一工程の反応物に未反応の動物油および/または植物油やジグリセリドやモノグリセリドが含まれていない場合には、グリセリンは副生せず、グリセリンの分離を考慮する必要はない。
【0043】
なお、上記工程で分離したアルコールは、再度第二工程および/または第三工程において、再度エステル化反応に循環して再使用することができる。
【0044】
(4)第三工程
次いで、上記第二工程で得た脂肪酸モノエステル化物画分とROH(Rは、炭素数1〜24の飽和または不飽和の脂肪族基を示す。)で示されるアルコールとを、温度150〜400℃、より好ましくは180〜380℃、特に好ましくは200〜360℃、圧力2〜100MPa、より好ましくは3〜50MPa、特に好ましくは5〜30MPaで反応させる。より好ましくは、これらの条件の中で、使用する前記ROHで示されるアルコールの亜臨界または超臨界条件でエステル化することである。400℃を超える温度では、脂肪酸や脂肪酸モノエステル化物の熱分解が著しくなり、製品の収率が低下する場合がある。また、反応圧力が100MPaを越えても製品の収率や反応時間の改善はみられない。
【0045】
この工程を実施する装置の形式は特に規定しないが、上記第二工程と同様に、たとえばバッチ式反応器や連続式槽型反応器、ピストンフロー型流通式反応器、塔型流通式反応器などを用いることができる。
【0046】
上記脂肪酸モノエステル化物画分には、脂肪酸モノエステル化物と脂肪酸とが含まれている。本発明において、脂肪酸モノエステル化物画分に対するアルコールの使用量は、含まれる脂肪酸1モルに対して、アルコール1〜100モル、より好ましくは1.5〜50モル、特に好ましくは2〜30モルである。1モルを下回るとエステル化反応が不十分となり、一方、100モルを超えてもエステル化率の向上は少ない。
【0047】
反応時間は、上記脂肪酸モノエステル化物画分に含まれる脂肪酸が上記アルコールとエステル化反応を行い、対応する脂肪酸モノエステル化物を得るに足る時間である。なお、第三工程においても、脂肪酸とアルコールとのエステル化反応で水が副生し、副生水によって生成した脂肪酸モノエステル化物が加水分解される。そこで、本発明では1分から5時間、より好ましくは3〜100分で反応させる。5時間を超えても、脂肪酸のエステル化率の向上は少なく、一方、1分を下回ると、未反応脂肪酸量が多く収率が低下する場合がある。
【0048】
本発明において、反応液から脂肪酸モノエステル化物を得る方法に限定はなく、いずれの方法おこなってもよい。例えば、上記反応液には、脂肪酸モノエステル化物と過剰に添加したアルコールが含まれ、更に、脂肪酸モノエステル化物の生成と同時に副生した水も含まれる。
【0049】
例えばこのような方法としては、(1)前記反応液を蒸留塔に導入し、蒸留条件を選択して、塔頂からアルコールと水を留出させ、塔底から脂肪酸モノエステル化物を回収する方法、(2)前記反応液を第一蒸留塔に導入し、蒸留条件を選択して、塔頂からアルコールを留出させ、塔底から水と脂肪酸モノエステル化物を抜き出し、次いで第二蒸留塔に塔底液を導入して水と脂肪酸モノエステル化物とを分離回収する方法、(3)反応液を蒸留塔に導入し、アルコール留出後に、脂肪酸モノエステル化物と水とを液−液分離する方法、その他、いずれの方法を使用してもよい。なお、上記工程で分離したアルコールは、再度第二工程および/または第三工程において、エステル化反応に循環して再使用することができる。
【0050】
(第四工程)
本発明では、第三工程で脂肪酸モノエステル化物を得た後に、前記脂肪酸モノエステル化物を蒸留により精製してもよい。脂肪酸とアルコールとを前記した亜臨界条件または超臨界条件で反応させて脂肪酸モノエステル化物を得ると、原料に含まれない高沸点成分が生成する場合がある。この原因について詳細は不明であるが、超臨界または亜臨界条件を経ることで成分の重縮合反応が生ずるため、または脂肪酸モノエステル化物不溶物質が副生するためと推定される。しかしながら、このような場合であっても、第三工程についで脂肪酸モノエステル化物を更に蒸留精製を行うことで、含まれる高沸点成分を除去し、動粘度を低下させることができる。このような蒸留条件としては脂肪酸モノエステル化物に含まれる高沸点成分の種類や量によって適宜選択すればよく、一般には、塔頂圧0.1〜600torr、塔底温度140〜350℃である。
【0051】
(4)脂肪酸エステル組成物
本発明の製造方法によって得られる脂肪酸エステル組成物は、原料として使用する動物油および/または植物油に対応する脂肪酸エステル組成物である。該脂肪酸エステル組成物は、例えばディーゼルエンジン用燃料に好適に使用することができる。該脂肪酸エステル組成物は、上記第一工程から第三工程によって製造され、好ましくは酸価0.5以下である。ディーゼルエンジン用燃料として使用するには、酸価が0.5以下であることの他、低粘度、高揮発性で、悪臭がなく、黒煙やSOX成分の排出の少ないことが好ましいが、原料が植物油や動物油であるためSOx成分が少なく、エステル化反応の後に、脂肪酸モノエステル化物画分を単離しているため、悪臭がなく、かつ脂肪酸モノエステル化物は高揮発性であり、ディーゼルエンジン用燃料として好適に使用することができる。本発明の脂肪酸エステル組成物は、そのままディーゼルエンジン用燃料として使用することもでき、従来のディーゼルエンジン用燃料に混合して使用することもできる。
【0052】
特に、脂肪酸を含む動物油や植物油を原料とする場合には、反応液中で水が副生するため脂肪酸モノエステル化物の酸価を下げることは非常に困難であるが、本発明では、第二工程および第三工程で水を除去しているため酸価が低減されたモノエステル化物を製造することができる。
【0053】
更に、第三工程で得た脂肪酸モノエステル化物を、更に蒸留精製すれば、含まれる高沸点成分を除去し、動粘度を低下させることができ、特にディーゼルエンジン用燃料として好適である。現在、ディーゼルエンジン用燃料は、酸価が0.5以下、動粘度(mm2/s)が5以下、10%残炭が0.3%以下と規定されている。本発明によって得られる脂肪酸エステル組成物は、このようなディーゼルエンジン用燃料として極めて好適に使用することができる。
【0054】
本発明によって製造される脂肪酸エステル組成物は、上記したようにディーゼルエンジン用燃料として好適に使用でき、地球の循環系に組み込まれたバイオマス資源を原料としたもので、化石資源由来の軽油に比べ環境への負荷の低減に大きく寄与するものである。本発明の製造方法は、調理などに使われた廃食用油などの産業・家庭廃棄物の大量処理技術、特にそれらを有用化合物に選択的かつ効果的に変換する技術としても大いに期待できる。
【実施例】
【0055】
以下本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に即して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。

実施例1
植物油として菜種油(脂肪酸0.01%、他はトリグリセリド)を用い反応を行った。
【0056】
原料油脂タンクに接続される内径5mm×長さ3.5mの外部電気ヒーター付きステンレス製油脂加熱管から原料油脂を0.476kg/hの流速で供給し、水タンクに接続される内径5mm×長さ10.8mの外部電気ヒーター付きステンレス製水加熱管から水を0.97kg/hの流速で供給した。供給水と油質量比(供給水/油質量比)は2.03であり、水と油とのモル比(供給水/油モル比)は、100であった。両加熱管の末端を集合させ、内径21mm×長さ7.3mの外部電気ヒーター付きステンレス製加水分解反応管内で、温度290℃、圧力17MPaにて48.9分間反応させた。ついで、得られた加水分解物を静置し、水溶性層と油性層とに分離した(第一工程)。この油性層に含まれるトリグリセリド(TG)、ジグリセリド(DG)、モノグリセリド(MG)、グリセリン(G)、脂肪酸(FA)の合計量に対する質量百分率を表1に示す。
【0057】
【表1】

ついで、上記反応物の油性層を、内径5mm×長さ3.5mの外部電気ヒーター付きステンレス製油脂加熱管から0.457kg/hの流速で供給し、アルコールタンクに接続される内径5mm×長さ3.0mの外部電気ヒーター付きステンレス製アルコール加熱管からメタノールを0.726kg/hの流速で供給した。供給メタノールと油質量比(供給メタノール/油質量比)は1.59であり、メタノールと油とのモル比(供給メタノール/油モル比)は14であった。両加熱管の末端を集合させ、内径21mm×長さ7.3mの外部電気ヒーター付きステンレス製エステル化反応管内で、温度270℃、圧力17MPaにて70分間反応させた。ついで、得られたエステル化反応液を蒸留塔に導入してメタノールと水を分離したのち、残分を静置分離してグリセリンを除去することで、脂肪酸モノエステル化物画分を得た(第二工程)。この画分は液体クロマトグラフィーによる分析ではモノエステル率100%で、酸価7.1であった。また、静置分離して得られたグリセリンは略100%の純度であった。
【0058】
ついで、上記脂肪酸モノエステル化物画分を、内径5mm×長さ3.5mの外部電気ヒーター付きステンレス製油脂加熱管から0.457kg/hの流速で供給し、アルコールタンクに接続される内径5mm×長さ3.0mの外部電気ヒーター付きステンレス製アルコール加熱管からメタノールを0.726kg/hの流速で供給した。供給メタノールと油質量比(供給メタノール/油質量比)は1.59であり、メタノールと油とのモル比(供給メタノール/油モル比)は、14であった。両加熱管の末端を集合させ、内径21mm×長さ7.3mの外部電気ヒーター付きステンレス製エステル化反応管内で、温度270℃、圧力17MPaにて70分間反応させた。ついで、得られたエステル化反応液を蒸留塔に導入しメタノールと水を分離して脂肪酸モノエステル化物を得た(第三工程)。脂肪酸のモノエステル率は100%で、酸価0.42であった。
【0059】
さらに第三工程で得た脂肪酸モノエステル化物を2torr、塔底温度185℃にて減圧蒸留した(第四工程)。得られた留出液は、酸価0.27、動粘度4.571mm2/sec、10%残炭0.03であった。反応条件および脂肪酸エステル化物の特性を表4に示す。

実施例2
植物油として食用油精製時の副産物として得られるダーク油(脂肪酸70%含有)を用いた。
【0060】
原料油脂タンクに接続される内径5mm×長さ3.5mの外部電気ヒーター付きステンレス製油脂加熱管から原料油脂を0.476kg/hの流速で供給し、水タンクに接続される内径5mm×長さ10.8mの外部電気ヒーター付きステンレス製水加熱管から水を0.97kg/hの流速で供給した。供給水と油質量比(供給水/油質量比)は2.03であり、水と油とのモル比(供給水/油モル比)は、100であった。両加熱管の末端を集合させ、内径21mm×長さ7.3mの外部電気ヒーター付きステンレス製加水分解反応管内で、温度290℃、圧力17MPaにて48.9分間反応させた。ついで、得られた加水分解物を静置し、水溶性層と油性層とに分離した(第一工程)。この油性層に含まれるトリグリセリド(TG)、ジグリセリド(DG)、モノグリセリド(MG)、グリセリン(G)、脂肪酸(FA)の合計量に対する質量百分率を表2に示す。
【0061】
【表2】

ついで、上記反応物の油性層を、内径5mm×長さ3.5mの外部電気ヒーター付きステンレス製油脂加熱管から0.457kg/hの流速で供給し、アルコールタンクに接続される内径5mm×長さ3.0mの外部電気ヒーター付きステンレス製アルコール加熱管からメタノールを0.726kg/hの流速で供給した。供給メタノールと油質量比(供給メタノール/油質量比)は1.59であり、メタノールと油とのモル比(供給メタノール/油モル比)は、14であった。両加熱管の末端を集合させ、内径21mm×長さ7.3mの外部電気ヒーター付きステンレス製エステル化反応管内で、温度270℃、圧力17MPaにて70分間反応させた。ついで、得られたエステル化反応液を蒸留塔に導入してメタノールと水を分離したのち、残分を静置分離してグリセリンを除去することで、脂肪酸モノエステル化物画分を得た(第二工程)。この画分は液体クロマトグラフィーによる分析ではモノエステル率100%で、酸価6.7であった。また、静置分離して得られたグリセリンは略100%の純度であった。
【0062】
ついで、上記脂肪酸モノエステル化物画分を、内径5mm×長さ3.5mの外部電気ヒーター付きステンレス製油脂加熱管から0.457kg/hの流速で供給し、アルコールタンクに接続される内径5mm×長さ3.0mの外部電気ヒーター付きステンレス製アルコール加熱管からメタノールを0.726kg/hの流速で供給した。供給メタノールと油質量比(供給メタノール/油質量比)は1.59であり、メタノールと油とのモル比(供給メタノール/油モル比)は、14であった。両加熱管の末端を集合させ、内径21mm×長さ7.3mの外部電気ヒーター付きステンレス製エステル化反応管内で、温度270℃、圧力17MPaにて70分間反応させた。ついで、得られたエステル化反応液を蒸留塔に導入しメタノールと水を分離して脂肪酸モノエステル化物を得た(第三工程)。脂肪酸のモノエステル率100%で、酸価0.5であった。
【0063】
さらに第三工程で得た脂肪酸モノエステル化物を2torr、塔底温度185℃にて減圧蒸留した(第四工程)。得られた留出液は酸価0.29に、動粘度4.406mm2/sec、10%残炭0.04であった。反応条件および脂肪酸エステル化物の特性を表4に示す。

実施例3
植物油としてなたね廃食油を使用し、実施例1と同じ装置を使用して反応を行った。
【0064】
原料油脂を1.228kg/hの流速で供給し、水を0.8kg/hの流速で供給した。供給水と油質量比(供給水/油質量比)は0.65であり、水と油とのモル比(供給水/油モル比)は32であった。加水分解反応管内で、温度290℃、圧力17MPaにて36.5分間反応させた。ついで、得られた加水分解物を静置し、水溶性層と油性層とに分離した(第一工程)。この油性層に含まれるトリグリセリド(TG)、ジグリセリド(DG)、モノグリセリド(MG)、グリセリン(G)、脂肪酸(FA)の合計量に対する質量百分率を表3に示す。
【0065】
【表3】

ついで、上記反応物の油性層を、油脂加熱管から1.179kg/hの流速で供給し、アルコール加熱管からメタノールを0.935kg/hの流速で供給した。供給メタノールと油質量比(供給メタノール/油質量比)は0.76であり、メタノールと油とのモル比(供給メタノール/油モル比)は7であった。エステル化反応管内で、温度310℃、圧力17MPaにて28分間反応させた。ついで、得られたエステル化反応液を蒸留塔に導入してメタノールと水を分離したのち、残分を静置分離してグリセリンを除去することで、脂肪酸モノエステル化物画分を得た(第二工程)。この画分は液体クロマトグラフィーによる分析ではモノエステル率100%で、酸価9.3であった。また、静置分離して得られたグリセリンは略100%の純度であった。
【0066】
ついで、上記脂肪酸モノエステル化物画分を、油脂加熱管から1.7kg/hの流速で供給し、アルコール加熱管からメタノールを1.36kg/hの流速で供給した。供給メタノールと油質量比(供給メタノール/油質量比)は0.8であり、メタノールと油とのモル比(供給メタノール/油モル比)は7であった。エステル化反応管内で、温度310℃、圧力17MPaにて19分間反応させた。ついで、ついで、得られたエステル化反応液を蒸留塔に導入しメタノールと水を分離して脂肪酸モノエステル化物を得た(第三工程)。脂肪酸のモノエステル率は100%で、酸価0.42であった。
【0067】
さらに第三工程で得た脂肪酸モノエステル化物を2torr、塔底温度185℃にて減圧蒸留した(第四工程)。得られた留出液は、酸価0.27、動粘度4.571mm2/sec、10%残炭0.03であった。反応条件および脂肪酸エステル化物の特性を表4に示す。
【0068】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と動物油および/または植物油とを、温度150〜400℃、圧力0.5〜45MPaで加水分解し、得られた加水分解物からグリセリン及び水を除去した反応物を得る第一工程、
前記反応物とROH(Rは、炭素数1〜24の飽和または不飽和の脂肪族基を示す。)で示されるアルコールとを、温度150〜400℃、圧力2〜100MPaで反応させ、得られたエステル化反応液から脂肪酸モノエステル化物画分を得る第二工程、
前記脂肪酸モノエステル化物画分とROH(Rは、炭素数1〜24の飽和または不飽和の脂肪族基を示す。)で示されるアルコールとを、温度150〜400℃、圧力2〜100MPaで反応させ、得られた反応液から脂肪酸モノエステル化物を得る第三工程、とからなる脂肪酸エステル組成物の製法。
【請求項2】
前記第二工程において、エステル化反応液から脂肪酸モノエステル化物画分を得る工程が、前記エステル化反応液から、水とアルコールとを分離して脂肪酸モノエステル化物画分を得るものである、請求項1記載の製法。
【請求項3】
前記第三工程で脂肪酸モノエステル化物を得た後に、前記脂肪酸モノエステル化物を蒸留精製する第四工程を行うことを特徴とする、請求項1または2記載の製法。
【請求項4】
前記動物油が、魚油、牛脂および豚脂からなる群から選択される1種以上であり、前記植物油が、ひまわり油、サフラワー油、桐油、アブラギ油、アマニ油、大豆油、菜種油、綿実油、オリーブ油、椿油、ヤシ油およびパーム油からなる群から選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の製法。
【請求項5】
前記動物油および/または植物油が、下記式(1)で示されるトリグリセリドを含有するものである、請求項1〜4のいずれかに記載の製法。
【化1】

(R1、R2およびR3は、置換基を有していてもよい、炭素数6〜24の飽和または不飽和の脂肪族基である。)
【請求項6】
前記第三工程で得た脂肪酸モノエステル化物の酸価が、0.5以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の製法。
【請求項7】
前記アルコールが、メタノールである、請求項1〜6のいずれかに記載の製法。
【請求項8】
前記動物油および植物油に含まれるトリグリセリドの合計量に対する水のモル比(水/動物油および植物油)が、3〜300である、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
上記第一工程で得た反応物は、含まれる脂肪酸1モルに対して1〜100モルのアルコールを添加してエステル化反応させることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の製法。
【請求項10】
上記第二工程で得た反応物は、含まれる脂肪酸1モルに対して1〜100モルのアルコールを添加してエステル化反応させることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の製法。
【請求項11】
前記第一工程の加水分解物を静置分離により水とグリセリンとを含む水溶性層を得て、該水溶性層からグリセリンを回収する工程を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の製法。

【公開番号】特開2008−7658(P2008−7658A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180553(P2006−180553)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(000116736)旭化成エンジニアリング株式会社 (49)
【Fターム(参考)】