説明

脚式移動ロボット

【課題】 構造が簡素であり低コストに足部の爪先部を形成することができる脚式移動ロボットを提供する。
【解決手段】 脚式移動ロボット1は、上体3と、上体3に関節を介して駆動可能に連結される2本の脚部2と、脚部2の先端に関節を介して駆動連結に連結される足部22とを備える。足部22は、足部22の接地端である足平部100を有し、足平部100の爪先110から一定間隔離れた部位に、横全体に亘って爪先部102の厚みより薄い屈曲部112を形成し、屈曲部112は、足平部100の前後方向に所定の幅を有する溝114からなり、溝114は、足平部100の前後方向の幅が爪先部102の後端から前端に向かって爪先部102の中間まで延びて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上体に連結された脚部の先端部である足部に爪先を備え移動性能を向上させた脚式移動ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記のような脚式移動ロボットとしては、次のように、足部を構成したものが知られている。
【0003】
第1に、足先部を足部の接地面からオフセットした位置で受動的に回転自在に連結する指関節部を有するものである(特許文献1参照)。
【0004】
第2に、足部が、対応する脚部下端に対して固定的に取り付けるベース部と、ベース部の後端付近に固定配置した踵部と、ベース部から実質的に前方に向かって並んで延び且つベース部に対して上下方向に揺動可能に支持した一対の足先部とから構成されているものである(特許文献2参照)。
【0005】
第3に、可動脚の最下端に配設され着床面を持つ足平部と、足平部の略前端縁にて脚式移動ロボットの機体のピッチ軸方向とは異なる取り付け方向の関節軸により回動可能に取り付けられた複数の爪先部とを備えるものである(特許文献3参照)。
【0006】
第4に、相対的に揺動可能に接続されている2つの足平部と、2つの足平部を相対的に揺動させるアクチュエータとを備え、第1足平部は歩行ロボットの下腿部に接続され、第2足平部は接地面を有し、2つの足平部の揺動軸は、第1足平部の前端付近を左右方向に伸びるものであり、第2足平部の接地面は、接地している状態では揺動軸の前後いずれにも亘って伸びているものである(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−048178号公報
【特許文献2】特開2004−090194号公報
【特許文献3】特開2005−153038号公報
【特許文献4】特開2005−169544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の従来技術では、足部に爪先部を設けるために回動自在である関節を有しているため、構造が複雑でありコストが嵩むという問題がある。
【0009】
本発明は、構造が簡素であり低コストに足部の爪先部を形成することができる脚式移動ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上体と、前記上体に関節を介して駆動可能に連結される複数本の脚部と、前記脚部の先端に関節を介して駆動可能に連結される足部とを備える脚式移動ロボットにおいて、前記足部は、前記足部の接地端である足平部を有し、前記足平部の爪先から一定間隔離れた部位に、横全体に亘って爪先部の厚みより薄い屈曲部を形成し、前記屈曲部は、前記足平部の前後方向に所定の幅を有する溝からなり、前記溝は、前記足平部の前後方向の幅が前記爪先部の後端から前端に向かって前記爪先部の中間まで延びて形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、足平部の爪先から一定間隔離れた部位に、横全体に亘って爪先部の厚みより薄い屈曲部を形成しているため、構造が簡素であり低コストに足部の爪先部を形成することができる。
【0012】
また、足平部の爪先部が屈曲部の溝で曲がるときに、屈曲部の溝内の任意の部位で柔軟に曲がる。
【0013】
また、本発明は、上体と、前記上体に関節を介して駆動可能に連結される複数本の脚部と、前記脚部の先端に関節を介して駆動可能に連結される足部とを備える脚式移動ロボットにおいて、前記足部は、前記足部の接地端である足平部を有し、前記足平部の爪先から一定間隔離れた部位に、横全体に亘って爪先部の厚みより薄い屈曲部を形成し、前記屈曲部は、前記足平部の前後方向に所定の幅を有する溝からなり、前記溝は、前記足平部の上面から隆起して、前後方向の断面が逆U字形の突状部に形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、足平部の爪先から一定間隔離れた部位に、横全体に亘って爪先部の厚みより薄い屈曲部を形成しているため、構造が簡素であり低コストに足部の爪先部を形成することができる。
【0015】
また、足平部の爪先部が屈曲部の溝で曲がるときに、突状部の弾性により足平部が柔軟に曲がる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る脚式移動ロボットの一例を示す正面図である。
【図2】図1に示す脚式移動ロボットの側面図である。
【図3】図1及び図2に示す脚式移動ロボットをスケルトンで示す説明図である。
【図4】図1の足平部を示す斜視図である。
【図5】図1の足平部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、脚式移動ロボット(以下「ロボット」という)1は、複数(この場合、2本)の脚部2を備えると共に、その上方には上体3が設けられる。上体3の更に上方には頭部4が形成されると共に、上体3の両側には2本の腕部5が連結される。また、図2に示すように、上体3の背部には格納部6が設けられ、その内部には電子制御ユニット(後述)およびバッテリなどが収容される。尚、図1及び図2に示すロボット1は、内部構造を保護するためのカバーで被覆される。
【0018】
図3はロボット1をスケルトンで示す説明図である。同図を参照してその内部構造を関節を中心に説明すると、図示の如く、ロボット1は、左右それぞれの脚部2および腕部5に、11個の電動モータで動力化された6個の関節を備える。
【0019】
即ち、ロボット1は、腰部(股部)の股関節に、脚部2を鉛直軸(Z軸あるいは鉛直軸)まわりに回転させる関節を駆動する電動モータ10R,10L(右側をR、左側をLとする。左右対称であることから、以下R,Lの表記を省略する)と、脚部2をピッチ(進行)方向(Y軸まわり)に揺動させる関節を駆動する電動モータ12と、脚部2をロール(左右)方向(X軸まわり)に回転させる関節を駆動する電動モータ14を備えると共に、膝部に脚部2の下部をピッチ方向(Y軸まわり)に回転させる膝関節を駆動する電動モータ16を備え、更に足首に脚部2の先端側をピッチ方向(Y軸まわり)に回転させる足(足首)関節を駆動する電動モータ18とロール方向(X軸まわり)に回転させる足(足首)関節を駆動する電動モータ20を備える。
【0020】
上記したように、図3において、関節はそれを駆動する電動モータ(あるいは電動モータに接続されてその動力を伝動するプーリなどの伝動要素)の回転軸線で示す。尚、脚部2の先端には足部22が取着される。
【0021】
このように、脚部2の股関節には電動モータ10,12,14がそれらの回転軸線が直交するように配置されると共に、足関節(足首関節)には電動モータ18,20がそれらの回転軸線が直交するように配置される。尚、股関節と膝関節は大腿リンク24で、膝関節と足関節は下腿リンク26で連結される。
【0022】
脚部2は股関節を介して上体3に連結されるが、図3では上体3を上体リンク28として簡略的に示す。前記したように、上体3には腕部5が連結される。
【0023】
腕部5も、脚部2と同様に構成される。即ち、ロボット1は、肩部の肩関節に、腕部5をピッチ方向に回転させる関節を駆動する電動モータ30とロール方向に回転させる関節を駆動する電動モータ32を備えると共に、その自由端側を回転させる関節を駆動する電動モータ34と、肘部にそれ以降の部位を回転させる関節を駆動する電動モータ36を備え、更にその先端側にそれを回転させる手首関節を駆動する電動モータ38を備える。手首の先にはハンド(エンドエフェクタ)40が取着される。
【0024】
即ち、腕部5の肩関節には電動モータ30,32,34がそれらの回転軸線が直交するように配置される。尚、肩関節と肘関節とは上腕リンク42で、肘関節と手首関節とは下腕リンク44で連結される。
【0025】
図示は省略するが、ハンド40は5本のフィンガ(指)40aの駆動機構を備え、フィンガ40aで物を把持するなどの作業ができるように構成される。
【0026】
また、頭部4は、鉛直軸まわりの電動モータ(首関節を構成)46と、それと直交する軸まわりに頭部4を回転させる頭部揺動機構48を介して上体3に連結される。図3に示す如く、頭部4の内部には2個のCCDカメラ50がステレオ視自在に配置されると共に、音声入出力装置52が配置される。
【0027】
上記の構成により、脚部2は左右の足について6個の関節を備えて合計12の自由度を与えられ、6個の関節を適宜な角度で駆動(関節変位)することで、脚部2に所望の動きを与えることができ、ロボット1を任意に3次元空間において歩行させることができる。また、腕部5も左右の腕について5個の関節を備えて合計10の自由度を与えられ、5個の関節を適宜な角度で駆動(関節変位)することで所望の作業を行わせることができる。更に、頭部4は2つの自由度からなる関節あるいは揺動機構を与えられ、これらを適宜な角度で駆動することにより所望の方向に頭部4を向けることができる。
【0028】
電動モータ10などのそれぞれにはロータリエンコーダ(図示せず)が設けられ、電動モータの回転軸の回転を通じて対応する関節の角度、角速度、および角加速度の少なくともいずれかを示す信号を出力する。尚、電動モータ10などは具体的には、DCサーボモータからなる。
【0029】
足部22には公知の6軸力センサ(以下「力センサ」という)56が取着され、ロボットに作用する外力の内、接地面からロボット1に作用する床反力の3方向成分Fx,Fy,Fzとモーメントの3方向成分Mx,My,Mzを示す信号を出力する。尚、力センサ56は公知の如く、荷重を伝達する2つのフランジ部を連結すると共に、そこに複数のひずみ検出素子を取り付けてなり、それらの出力信号に基づいてセンサ基準点に作用する力やモーメントの各成分を算出して出力する構造を備える。
【0030】
手首関節とハンド40の間には同種の力センサ(6軸力センサ)58が取着され、ロボット1に作用する床反力以外の外力、具体的にはハンド40に対象物から作用する外力(対象物反力)の3方向成分Fx,Fy,Fzとモーメントの3方向成分Mx,My,Mzを示す信号を出力する。
【0031】
上体3には傾斜センサ60が設置され、鉛直軸に対する上体3の傾き(傾斜角度)とその角速度の少なくともいずれか、即ち、ロボット1の上体3の傾斜(姿勢)などの状態量を示す信号を出力する。
【0032】
これら力センサ56などの出力群は、格納部6に収容されたマイクロコンピュータからなる電子制御ユニット(Electric Control Unit 。以下「ECU」という)70に送られる(図示の便宜のためロボット1の右側についてのみ、入出力を図示する)。ECU70はCPU、メモリおよび入出力インターフェースなどからなるマイクロコンピュータを備え、ロボット1が安定な姿勢で移動できるように、関節角変位指令を算出して各関節を構成する電動モータ10などの駆動を制御する。格納部6には、電動モータ10などの駆動回路(モータドライバ)72が回路ユニットとして収容されると共に、無線系74とバッテリ76も収容される。
【0033】
ECU70は、無線系74を介して同様にマイクロコンピュータからなる操作用ECU78と通信自在に接続される。操作用ECU78は操作用ユーザI/F78aを備え、ユーザ(操作者)が操作用ユーザI/F78aから入力した緊急停止などのコマンドは、無線系74を通じてECU70に送られる。
【0034】
上記した構成において、ECU70はそのメモリに格納された歩容パラメータに基づいてロボット1の歩行(移動)に歩容を生成し、生成された歩容に基づいて各関節の変位量(駆動量)を決定し、決定された変位量となるように駆動回路72を介して該当する電動モータを駆動する。また、ECU70は、操作用ECU78を介して操作コマンドが入力されたとき、それに応じて停止などの動作を行なう。
【0035】
本発明によれば、上記ロボット1の足部22は、次のように構成される。
【0036】
まず、足平部100は、図4及び図5に示すように、矩形状に形成され中央部には底面104から立ち上がる箱状の側面106が設けられている。箱状の側面106には、上体3に股関節を介して駆動可能に連結される脚部2の先端に足関節を介して駆動可能に連結される足部22の下端部が挿入され固定される。
【0037】
箱状の側面106の前後には、所定の距離延びる爪先部102及び踵部108が設けられている。
【0038】
図4に示すように、爪先部102は、爪先110から一定間隔離れた部位に、横全体に亘って爪先部102の厚みより薄い屈曲部112が形成されている。
【0039】
屈曲部112は、足平部100の前後方向に所定の幅を有する溝114からなる。溝114は、足平部100の前後方向の幅が爪先部102の後端から前端に向かって爪先部102の中間まで延びて形成されている。
【0040】
本発明によれば、足部22に爪先部102を設けるために回動自在である関節を使用しないため、構造が簡素であり低コストに足部22の爪先部102を形成することができる。
【0041】
また、足平部100の爪先部102が屈曲部112の溝114で曲がるときに、屈曲部112の溝114内の任意の部位で柔軟に曲がる。
【0042】
即ち、溝114内の最薄の箇所から曲がりはじめるが、溝114内の最薄の箇所を含んだ任意の部位全体が柔軟に曲がることができるし、溝114内の全部の箇所が全体的に柔軟に曲がることができるので、容易に接地面積を確保することができる。
【0043】
また、図5に示すように、爪先部102は、爪先110から一定間隔離れた部位に、横全体に亘って爪先部102の厚みより薄い屈曲部112が形成されている。
【0044】
屈曲部112は、足平部100の前後方向に所定の幅を有する溝114からなる。溝114は、足平部100の上面から隆起して、前後方向の断面が逆U字形の突状部116に形成されている。
【0045】
本発明によれば、足部22に爪先部102を設けるために回動自在である関節を使用しないため、構造が簡素であり低コストに足部22の爪先部102を形成することができる。
【0046】
また、足平部100の爪先部102が屈曲部112の溝114で曲がるときに、突状部116の弾性により足平部100が柔軟に曲がる。
【0047】
尚、足部22に爪先部102を有することで下記の効果が得られる。
【0048】
第1に、足部22が柔軟である構造になることにより、ロボットの重心移動がスムーズになり装置の安定性が向上する。
【0049】
第2に、容易に接地面積を確保できるため、歩行中、足平部100が取り付けられた足関節の揺動関節角度を小さくすることができる。
【0050】
第3に、揺動関節角度が小さくても安定して歩くことができるので、揺動関節角度を大きくすれば、歩幅が大きくなり走行速度を上げることができる。また、段差が大きい階段を昇降することができる。
【0051】
第4に、接地していない脚(遊脚)の踵が着く前に、接地している脚(支持脚)の踵を上げることができ、爪先立ちの時間が長く取れることを利用した歩行タイミングに変更することができるため、人間のような自然な歩き方をさせることができる。
【0052】
第5に、遊脚の蹴り出しが可能になるため、振り運動のアシスト力を出すことができるようになる。
【0053】
以上、図示の実施形態のロボットについて説明したが、本発明はこれに限定されず、任意の形態の脚式移動ロボットに適用できるものである。
【符号の説明】
【0054】
1…脚式移動ロボット、2…脚部、3…上体、4…頭部、5…腕部、6…格納部、10R,10L,12,14,16,18,20,30,32,34,36,38,46…電動モータ、22…足部、24…大腿リンク、26…下腿リンク、28…上体リンク、40…ハンド、40a…フィンガ、42…上腕リンク、44…下腕リンク、48…頭部揺動機構、50…CCDカメラ、52…音声入出力装置、56,58…6軸力センサ、60…傾斜センサ、70,78…電子制御ユニット、72…駆動回路、74…無線系、76…バッテリ、78a…操作用ユーザI/F、100…足平部、102…爪先部、104…底面、106…側面、108…踵部、110…爪先、112…屈曲部、114…溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上体と、
前記上体に関節を介して駆動可能に連結される複数本の脚部と、
前記脚部の先端に関節を介して駆動可能に連結される足部とを備える脚式移動ロボットにおいて、
前記足部は、前記足部の接地端である足平部を有し、
前記足平部の爪先から一定間隔離れた部位に、横全体に亘って爪先部の厚みより薄い屈曲部を形成し、
前記屈曲部は、前記足平部の前後方向に所定の幅を有する溝からなり、前記溝は、前記足平部の前後方向の幅が前記爪先部の後端から前端に向かって前記爪先部の中間まで延びて形成されていることを特徴とする脚式移動ロボット。
【請求項2】
上体と、
前記上体に関節を介して駆動可能に連結される複数本の脚部と、
前記脚部の先端に関節を介して駆動可能に連結される足部とを備える脚式移動ロボットにおいて、
前記足部は、前記足部の接地端である足平部を有し、
前記足平部の爪先から一定間隔離れた部位に、横全体に亘って爪先部の厚みより薄い屈曲部を形成し、
前記屈曲部は、前記足平部の前後方向に所定の幅を有する溝からなり、前記溝は、前記足平部の上面から隆起して、前後方向の断面が逆U字形の突状部に形成されていることを特徴とする脚式移動ロボット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−184311(P2010−184311A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29105(P2009−29105)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】