説明

脱りん方法

【課題】固体酸素源の酸素比率、固体酸素源の供給のタイミングを適正化することにより汎用鋼を確実に溶製することができるようにする。
【解決手段】脱炭工程に先だって上底吹き転炉型精錬容器にて気体酸素及び固体酸素源を供給して溶銑の脱りん処理を行うに際し、全酸素に対する前記固体酸素源の固体酸素比率を10%以上60%以下とし、脱りん処理に際して使用する全気体酸素のうち0%以上10%未満の気体酸素を供給する間に、全固体酸素源の30%以上80%以下を投入し、残りの固体酸素源は全気体酸素のうち10%以上60%未満の気体酸素を供給する間に投入し、残りの固体酸素源を投入するときの供給速度は0.3〜1.5Nm3/min/tとし、全気体酸素のうち60%以上の気体酸素を供給するときは固体酸素源を供給しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、汎用鋼を溶製するための脱りん方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、気体酸素や固体酸素源とを供給しながら溶銑の脱りん処理を行う技術として、例えば、特許文献1〜特許文献2のものがある。
特許文献1では、底吹きガス流量0.2Nm3 /min・t以上の撹拌条件による鉄浴強撹拌下で、底吹き羽口あるいは炉内に存在している冷鉄源に衝突しない深さまで浸漬した耐火物ランスから、脱Si反応と脱P反応を進行させるために必要十分な量の固体酸素源を鉄浴中に連続的に供給し、脱Si反応完了後の溶銑表面に生成するカバースラグの塩基度が1.5〜2.5になるように調整した脱Pフラックスを脱Si反応が完了するまでに添加し、上吹き酸素は、冷鉄源の溶解と固体酸素源の分解反応による吸熱を保障しつつ、冷鉄源溶解期中の鉄浴温度が1300〜1350℃になるために必要な量だけ供給され、冷鉄源溶解が完了した後、脱P反応が完了するまでの期間中は、上吹き酸素の供給量をカバースラグ中のT.Feが5%以下にならないために必要な量まで低下し、脱P処理中の脱炭量を最少限度に抑えるている。
【0003】
特許文献2では、転炉製鋼法において溶銑を酸素吹練して脱燐精錬する精錬において、溶銑の酸素吹錬の終了時におけるスラグの塩基度(CaO/SiO2)を2.2〜4.0とし、かつ酸素吹錬終了前後において炭素材を1kg/ton(溶銑)以上を前記転炉に装入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−188722号公報
【特許文献2】特許3772918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、脱りん処理を行うに際して、固体酸素源を鉄浴中に連続的に供給することが開示されているものの、この技術は、脱りん処理中における脱炭素量の低減や耐火物損失の低減を図る目的で精錬条件を規定したものである。ゆえに、この技術を用いた場合、脱りん処理中における脱炭素量の低減や耐火物損失の低減は期待できるが、汎用鋼の溶製を行うにあたって溶銑の[P]を確実に低減させることは難しいのが実情である。
【0006】
また、特許文献2の技術では、吹錬時における気体酸素の供給速度が開示されているものの、フォーミングを抑制する目的で精錬条件を規定したものである。ゆえに、特許文献2の技術を用いたとしても特許文献1と同様に、汎用鋼の溶製を行うにあたって溶銑の[P]を確実に低減させることは難しいのが実情である。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、固体酸素源の酸素比率、固体酸素源の供給のタイミングを適正化することにより汎用鋼を確実に溶製することができる脱りん処理の方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、脱炭工程に先だって上底吹き転炉型精錬容器にて気体酸素及び固体酸素源を供給して溶銑の脱りん処理を行うに際し、全酸素に対する前記固体酸素源の固体酸素比率を10%以上60%以下とし、脱りん処理に際して使用する全気体酸素のうち0%以上10%未満の気体酸素を供給する間に、全固体酸素源の30%以上80%以下を投入し、残りの固体酸素源は全気体酸素のうち10%以上60%未満の気体酸素を供給する間に投入し、残りの固体酸素源を投入するときの供給速度は0.3〜1.5Nm3/min/tとし、全気体酸素のうち60%以上の気体酸素を供給するときは固体酸素源を供給しない点にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、固体酸素源の酸素比率、固体酸素源の供給のタイミングを適正化することにより汎用鋼を確実に溶製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】脱りん方法(脱りん工程)を含む製鋼工程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の脱りん方法(脱りん工程)を含む製鋼工程を示したものである。なお、以下の説明では、溶銑や溶鋼のことを溶湯として説明する。
図1に示すように、一般的に、製鋼工程においては、まず、高炉1から溶湯2を出湯した後、溶湯2を鍋10等にて脱硫処理(脱硫工程)を行う。その後、溶湯2を転炉型精錬容器3に装入して溶湯2に対して脱りん処理(脱りん工程)を行い、その溶湯2を転炉4に装入して脱炭処理(脱炭工程)行うか、あるいは、脱りん終了後の溶湯2をスラグ排滓後に再び転炉型精錬容器3に装入して脱炭処理を行う。脱炭処理を行った溶湯2に対しては、脱ガスや成分調整を行う。
【0011】
このように、本発明の脱りん方法は、転炉4にて脱炭処理(脱炭工程)を行う前に、脱炭処理を行う転炉4とは別あるいは同一の転炉型精錬容器3によって、主に、溶湯2に対して[P]を下げる脱りん処理を行うものである。
脱炭処理を行う転炉4は、上吹きランス5から気体酸素を溶湯2等に吹き込む上吹転炉であってもよいし、炉底の羽口6から気体酸素を吹き込む底吹転炉であってもいし、上吹きランス5から気体酸素、羽口6から気体酸素又は不活性ガスを吹き込む上底吹き転炉であってもよい。
【0012】
脱りん処理を行う転炉型精錬容器3は、気体酸素を溶銑2に吹き込む上吹きランス7と炉底から酸素又は不活性ガスを溶銑2に吹き込むの羽口8を備えた上底吹き型であって、上吹きランス7からの気体酸素により酸素を供給し、羽口6からの酸素又は不活性ガスにより溶湯2を攪拌するものである。また、転炉型精錬容器3は、供給装置9を備えている。この供給装置9は、副原料[生石灰、固体酸素源(例えば、鉄鉱石・焼結鉱・ミルスケール)を供給するものであって、例えば、ホッパーやシュート等である。
【0013】
なお、溶湯2の脱りん処理を行うにあたって、混銑車や取鍋を使用することも考えられるが、混銑車や取鍋ではフリーボードが小さいために、スロッピングが発生しやすくなる。このような場合は、スロッピング防止のために、気体酸素や固体酸素源(例えば、酸化鉄)の供給速度を転炉型精錬容器3に比べて遅くする必要があり、脱りん処理に時間がかかることがある。そのため、本発明では、混銑車や取鍋を用いずに、転炉型精錬容器3によって脱りん処理を行うものを対象としている。
【0014】
以下、本発明の脱りん処理について詳しく説明する。
本発明の脱りん処理方法は、吹錬終了後の[P]が0.025質量%以下となる汎用鋼の精錬方法である。汎用鋼の目標値として[P]を0.025質量%にするということは、特開2001−98314号公報等に記載されているように一般的なことである。
[固体酸素比率について]
脱りん処理を行うに際して、上吹きランス7から気体酸素を供給すると共に、供給装置9から固体酸素源を供給している。
【0015】
さて、気体酸素の供給は、温度を低下させないために熱源を供給したり、スラグに酸素を供給するために脱りん処理においては、必要不可欠なものであるが、気体酸素を供給したときの状況を考えると、気体酸素を上吹きランス7により炉体の上側から吹き込んだ際に、一部の気体酸素は、炉内のCOガスと反応しCO2ガスとなり、脱りん反応に寄与しない場合がある。ここで、固体酸素源を供給した場合を考えると、気体酸素の供給した場合と比べて、COガスと反応することがなく、脱りん反応に寄与する酸素量も多い。
【0016】
また、気体酸素を供給した際に、当該気体酸素が溶湯2(溶銑)の浴面に衝突してスラグを吹き飛ばすため、気体酸素と溶銑が直接接触する高温領域(火点)が形成される。このような場合(火点領域が存在する)では、スラグと溶銑が接していないため脱りん反応が起こりにくい。
なお、火点領域を抑制する方法として、特開2004−115910号公報に記載されるような遮断吹錬法があるが、この方法は上吹きランス高さと酸素流量を厳密に制御する必要があり、1ヒート毎に装入量や炉内の付着状況で湯面高さが大きく振動する実操業で実施することは困難である。
【0017】
このように、気体酸素のみを供給では、脱りんにとって不利な点もあるため、本発明によれば、固体酸素源も供給することにより、脱りん処理の効率を向上させている。
本発明では、具体的には、溶銑2に供給する全気体酸素に対する固体酸素源の割合、即ち、全酸素に対する固体酸素源の酸素比率(固体酸素比率)を、10%以上60%以下にしている。固体酸素比率が10%未満であると、固体酸素源の供給量が少なく、十分に脱りん効率が良くならないため、固体酸素比率を10%以上としている。
【0018】
また、固体酸素比率が60%を超えてしまうと、固体酸素源の供給量が多く、脱りん処理の温度が低下することがある。また、上吹き酸素による溶湯表面への気体酸素の衝突は一般的には浴の攪拌にあまり寄与しないと言われているが、スラグと溶湯の反応界面積を増大させ、脱りん反応を促進する効果がある。ゆえに、気体酸素の供給量を多くするためにも、固体酸素比率を60%以下としている。
【0019】
固体酸素源とは、脱りん処理において供給する酸素のうちFeOxの形で供給するものである。固体酸素源は、例えば、鉄鉱石、焼結鉱、スケール、ダストである。固体酸素源の供給量(固体酸素源量)は、式(1)〜式(3)により求められる。なお、式(2)や式(3)で示される「%」は、「mol%」である。
【0020】
【数1】

【0021】
式(1)〜式(3)の右辺に含まれるに示す副原料とは、固体酸素源となる酸化鉄(FeOx)を含むものである。式(1)は、全ての副原料に含まれる固体酸素量(V02(S))、即ち、脱りん処理で供給する固体酸素源の総量を求めるものである。式(2)は、各副原料毎の酸素供給量(V02i)を求めるものである。また、式(3)は、各副原料毎のFe23の濃度を求めるものである。
【0022】
つまり、式(1)〜式(3)では、各副原料に含まれるFeOの量とFe23の量とを求め、これらを合わせたものを固体酸素源量としている。
なお、FeOとFe23との分析方法、即ち、求め方は、まず、ICP発光分析法において、全鉄濃度(%T.Fe)を求め、臭素メタノール法により、金属鉄濃度(%M.Fe)をJISM8713の方法により求める。また、臭素メタノール法の残査より、EDTA2Na溶液により、(%FeO)をJISM8712の方法により求めた。ここで、FeOとFe23の求め方を説明しているが、この方法は、当業者常法通りである。
【0023】
上述した固体酸素比率は、式(1)で求めた溶銑2に供給した副原料(酸化鉄)中に含まれる固体酸素量と、上吹きランス7により供給した気体酸素量とを合わせた合計酸素供給量のうち、固体酸素量の割合を示したもので、例えば、式(4)により求めることができる。
【0024】
【数2】

【0025】
なお、脱りん処理では、一般的に、気体酸素と固体酸素源とを合計した総酸素量は11〜16Nm3程度の範囲である。これは、総酸素量が多すぎると脱りん処理後の溶銑中の[C]が低下しすぎて脱炭処理における熱余裕が無くなる。その結果、脱炭処理時に所定の溶銑温度を確保できなくなり、高価な昇温材を用いなければならなくなる。一方、総酸素量が少なすぎると、脱りん反応に必要な酸素が確保できず、脱りん処理時において溶銑の[P]を目標値にすることができない。
【0026】
[固体酸素源の投入のタイミングについて]
さて、脱りん処理を行うにあたっては、上述したように、気体酸素と固体酸素源とを溶銑に供給して吹錬を行っているが、脱りん処理を吹錬期間で区分すると次のようになる。
まず、脱りん処理中に溶銑に供給する全気体酸素(気体酸素の総酸素量)を100%としたとき、気体酸素の供給を開始してから気体酸素の量が全酸素量に対して0%以上30%未満となる期間は、脱珪期となる。この脱珪期では、気体酸素や固体酸素源の供給によって溶銑中のSiと酸素とが反応してSiO2が生成される。そして、生成されたSiO2と投入した固体酸素源の溶融によるFeOxとによって当該生石灰の融点が下がり、これにより、スラグが生成することになる。
【0027】
次に、気体酸素の量が全酸素量に対して30%以上60%未満となる期間は、造滓期となる。この造滓期では、気体酸素の供給によってスラグ中のT・Feが増えることによって生石灰の滓化を促進する。気体酸素の量が全酸素量に対して60%以上100%以下となる期間は、脱りん期となる。脱りん期では、造滓期で充分にスラグを滓化させた後、スラグと溶銑との反応によって脱りん反応を促進し、溶銑中の[P]を低下させる。
【0028】
このように、脱りん処理は、脱珪期、造滓期、脱りん期は分けられ、これらの状況に応じて気体酸素や固体酸素源を適正に供給する必要がある。脱珪期では、酸素と溶銑中の珪素との反応により出来るだけSiO2を素早く生成させる必要があるため、この時期に多くの固体酸素源を供給することが好ましい。
しかしながら、脱珪期のような初期段階で多量の固体酸素源を溶銑温度が低下し過ぎて、生石灰の溶解反応が停滞して脱りん反応の低下を招いてしまう。 一方、固体酸素源の供給量が少なすぎると、SiO2の生成が遅れること及びFeOxの濃度が十分に上昇しないことによりスラグの滓化に時間がかかり、結果的に、脱りん反応の低下を招いてしまう。
【0029】
そこで、本発明では、上述した問題を考慮して、脱りん処理に際して使用する全気体酸素のうち0%以上10%未満の気体酸素を供給する間(第1投入時期)に、即ち、脱珪期内に、全ての固体酸素源(全固体酸素源)の30%以上80%以下を投入することにしている。このように、第1投入時期に固体酸素源を投入しているが、残りの固体酸素源は全気体酸素のうち10%以上60%未満の気体酸素を供給する間(第2投入時期)に投入している。即ち、本発明では、固体酸素の投入時期を第1投入時期と第2投入時期とに分けている。
【0030】
例えば、第1投入時期に熱余裕が充分でないときは、上述した範囲で第1投入時期における固体酸素源の供給量を第2投入時期より少なくする一方、第2投入時期では上述した範囲で第1投入時期に比べて固体酸素源の供給量を多くしている。また、第1投入時期に熱余裕が充分あるときは、上述した範囲で第1投入時期における固体酸素源の供給量を第2投入時期より多くする一方、第2投入時期では上述した範囲で第1投入時期に比べて固体酸素源の供給量を少なくしている。なお、脱りん処理を行うにあたって、溶銑の装入時の温度、副原料を供給量などの様々な条件を用いて熱収支計算を行うことによって、固体酸素源等を含む副原料の投入量を設定し、これにより、脱りん処理を行ったときの熱余裕があるか否かが分かるものとなっている。
【0031】
第2投入時期は、気体酸素の供給量が全気体酸素量に対して0%以上60%未満となる時期であるが、特に、気体酸素の供給量が30%超える造滓期では、固体酸素源の投入によってスロッピングが発生する虞がある。そこで、第2投入時期における固体酸素源の供給速度(残りの固体酸素源を投入するときの供給速度)は1.5Nm3/min/t以下にし、これにより、スロッピングの発生を防止している。一方、固体酸素源の供給速度が遅すぎると、スラグの滓化が進まず、その結果、脱りん効率が低下してしまうことになる。そこで、第2投入時期における固体酸素源の供給速度は0.3Nm3/min/t以上にし、これにより、スラグの滓化のために必要な酸素を確保している。
【0032】
さて、気体酸素の供給量が60%以上となって脱りん期に入ると、酸素を供給することにより脱りん反応が進むことになる。この時期に固体酸素源を供給してしまうと固体酸素源との反応によりスラグ中に多量のCOガスが発生してスロッピングが発生してしまう。そこで、気体酸素の供給量が60%以上となった後は、即ち、吹錬末期では、固体酸素源の投入量をゼロとすることが望ましい。
【0033】
さらに、脱りん期に固体酸素源を供給してしまうと、固体酸素源の溶解反応遅れによってスラグ中のT.Fe上昇(酸化度の上昇)が妨げられることになる。そうすると、脱りん反応が低下するばかりか、復P反応が大きくなってしまうことになる。そのため、脱りん期(全気体酸素のうち60%以上の気体酸素を供給するときは)では、気体酸素のみを供給することとし固体酸素源を供給しないことが必要である。
【0034】
なお、脱りん期におけるスラグ中の(%T.Fe)は8〜20%の範囲が望ましい。T.Feが8%未満であり低すぎるとスラグ中の酸素ポテンシャル低下によって復P(復りん反応)が大きくなり、T.Feが20%よりも大きく高すぎるとスラグ中のCaO濃度が低下してスラグの脱りん能力(脱りん能)が低下するためである。加えて、スラグ中の(%T.Fe)を8〜20%にすることにより鉄歩留や炉寿命を向上させることができる。
【0035】
また、本発明の脱りん処理方法では、脱りん期を終了した後、即ち、脱P処理後の温度は1300〜1400℃程度にしている。これは、溶銑温度が低すぎると、処理後溶銑が凝固してしまう可能性があり、さらには、脱炭処理での熱余裕がなくなり昇温材を使用しなくてはならなくなる可能性があるためで、一方、溶銑温度が高すぎると、脱りん反応効率が低下する。なお、本発明の脱りん方法における底吹きガスの攪拌動力密度は、例えば、特開2009−52070号公報に開示されているように、汎用鋼を溶製する際の脱りん方法において、当業者常法通りの0.1〜1.0kw/t範囲としている。
【0036】
表1は、実施条件を示したものである。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、脱りん処理は、250tonクラスの上底吹き型の転炉型精錬容器にて行った。上吹きにおいては、孔数が6個、孔直径55mm、孔角度15°の上吹きランスを用いた。底吹きガスはN2ガスとした。N2ガスを吹き込む羽口8は、一層環状管(ガスが吹き出す箇所が環型となっているもの)とし、その個数は4個とした。
転炉型精錬炉に装入した溶湯(溶銑)において、[C]=4.2〜4.6質量%、[Si]=0.2〜0.4質量%、[Mn]=0.2〜0.4質量%、[P]=0.100〜0.130質量%とした。HMR(溶銑比)は、当業者常法の配合計算により決定した。
【0039】
副原料は、転炉型精錬容器内に溶銑、スクラップを投入した後に、供給装置9により全量投入した。脱りん処理に必要なCaO量は、当業者常法の副原料制御により決定し、塩基度は1.5〜2.5に設定した。脱りん処理において、吹錬後の[P]の規格上限値を0.010質量%とした。副原料は、鉄鉱石(0.191Nm3−O2/kg)、焼結鉱(0.177Nm3−O2/kg)、ミルスケール(0.145Nm3−O2/kg)を使用し、当業者常法通りに投入した。
【0040】
表2、表3は、表1の実施条件に基づいて脱りん処理を行った実施例及び比較例とをまとめたものである。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
実施例及び比較例では、気体酸素の量を気酸量として示し、固体酸素源の量を固酸量として示した。上述したように、当業者常法では、脱りん処理後のスラグ中の(T.Fe)は8〜20%であることが望ましいことから、この範囲にあるものを良好「○」とし、範囲外のものを不良「×」とした。また、汎用鋼として溶銑中の[P]における上限値が0.025質量%以下のものを良好「○」とし、範囲外のものを「不良」とした。
【0044】
実施例1〜実施例18では、全酸素に対する固体酸素源の固体酸素比率を10%以上60%以下(表、固体酸素比率)とし、脱りん処理に際して使用する全気体酸素のうち0%以上10%未満の気体酸素を供給する間(表、気酸使用量範囲1)に、全固体酸素源の30%以上80%以下(固酸使用比率)を投入し、残りの固体酸素源は全気体酸素のうち10%以上60%未満の気体酸素を供給する間(表、気酸使用量範囲2)に投入している。また、実施例1〜実施例18では、残りの固体酸素源を投入するときの供給速度は0.3〜1.5Nm3/min/t(表、固酸投入速度)とし、全気体酸素のうち60%以上の気体酸素を供給するときは固体酸素源を供給していない(表、気酸使用量範囲3)。
【0045】
実施例では、脱りん処理後に汎用鋼で必要とされる[P]([P]の規格上限値)を、0.025質量%以下に確実にすることができた(実験結果の欄、評価「○」)。加えて、脱りん処理後におけるスラグ中の(T.Fe)を8〜20%にすることができた(実験結果の欄、評価「○」)。
一方、比較例19〜比較例20では、固体酸素比率が10%未満となり、比較例21〜比較例23では、固体酸素比率が60%よりも超えている。その結果、脱りん処理後の[P]を規格値以下することができないと共にスラグ中の(T.Fe)が20%を超えてしまった。(実験結果の欄、評価「×」)。
【0046】
比較例24〜比較例26では、気酸使用量範囲1(第1投入期間)における固体酸素源の投入量が80%を超え、比較例27〜比較例29では、第1投入期間における固体酸素源の投入量が30%を未満である。その結果、脱りん処理後の[P]を規格値以下することができないと共にスラグ中の(T.Fe)が20%を超えてしまった。(実験結果の欄、評価「×」)。
【0047】
比較例30〜比較例32では、気酸使用量範囲2(第2投入期間)における固体酸素源の供給速度が1.5Nm3/min/tを超え、比較例33〜比較例35では、第2投入期間における固体酸素源の供給速度が0.3Nm3/min/tを未満であった。その結果、脱りん処理後の[P]を規格値以下することができないと共にスラグ中の(T.Fe)が20%を超えてしまった。(実験結果の欄、評価「×」)。
【0048】
比較例36〜比較例41では、気体酸素の供給量が60%を超える時期に固体酸素源(鉄鉱石)を投入している。その結果、脱りん処理後の[P]を規格値以下することができないと共にスラグ中の(T.Fe)が20%を超えてしまった。(実験結果の欄、評価「×」)。
以上のように、本発明では、固体酸素源の酸素比率、第1投入時期における固体酸素源の投入量、第2投入時期における固体酸素源の投入量及び供給速度、脱りん期における固体酸素源を供給しないことにより、脱りん処理後のスラグ中の(T.Fe)を8〜20%にしつつ、汎用鋼を溶製するために溶銑の[P]を確実に規定範囲内にすることができる。
【0049】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
1 高炉
2 溶湯(溶銑、溶鋼)
3 転炉型精錬容器
4 転炉
5 上吹きランス
6 羽口
7 上吹きランス
8 羽口
9 供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱炭工程に先だって上底吹き転炉型精錬容器にて気体酸素及び固体酸素源を供給して溶銑の脱りん処理を行うに際し、
全酸素に対する前記固体酸素源の固体酸素比率を10%以上60%以下とし、
脱りん処理に際して使用する全気体酸素のうち0%以上10%未満の気体酸素を供給する間に、全固体酸素源の30%以上80%以下を投入し、
残りの固体酸素源は全気体酸素のうち10%以上60%未満の気体酸素を供給する間に投入し、残りの固体酸素源を投入するときの供給速度は0.3〜1.5Nm3/min/tとし、
全気体酸素のうち60%以上の気体酸素を供給するときは固体酸素源を供給しないことを特徴とする脱りん方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−219818(P2011−219818A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90399(P2010−90399)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】