説明

脱気密着可能なシート

【課題】シートを剥がしたあと貼着していた面に接着剤が残らず、貼着の時にはエアが噛まないものとすることである。
【解決手段】接着剤を使用せず対象物に脱気密着可能なシート(1)であって、前記シートの少なくとも脱気密着面(2)には通気溝(3)が設けられている。前記通気溝(3)は、エンボス加工によって成形されるものであり、前記通気溝(3)の溝深さ(30)は30μm〜100μmであり、前記通気溝(3)の溝幅(31)は50μm〜120μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱気密着可能なシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車の窓ガラスや建物の窓ガラスや壁面等に、遮光、ガラス破損時の飛散防止、紫外線防止、意匠性の向上等を目的として貼り付けられる不透明シートは、平坦な粘着シート本体と、粘着シート本体の粘着面に貼設された平坦な剥離フィルムと、から成り、使用時に剥離フィルムを剥がして粘着シート本体を被貼付面に貼り付けるように構成されていた。
上記粘着シートにおいて、作業者が貼り付けを行なう際にシート中に空気が入り込んでしまうと(エアが噛んでしまうと)、貼り付けたシートの表面は様々なブリスター状の空気溜まりが発生するものであった。
この空気溜まり内の空気は、ヘラなどを用いて抜き出されるものであったが、このような作業は大変困難であり、エアの抜き出し作業が簡単な「粘着剤を用いたフィルム」が開示されている。(例えば特許文献1)
【0003】
特許文献1のような粘着剤や接着剤を用いたシートは、シートを剥がした後、被貼付面に接着剤が残ってしまうという問題があった。また、前記接着剤を用いたシートは、作業者の手が接着剤によって不快になるという問題、接着剤を塗布した面同士が貼りつくという問題、剥がしてしまうと接着力が弱ってしまい再利用できないという問題、を有していた。
このような問題を解決する為に、シートの貼着面に加工を施し、脱気密着を行なうシートが開示されている。(例えば特許文献2の0028欄)
脱気密着とは、例えばシートの貼着面に鏡面加工を施し、鏡面加工が行なわれた表面が有する平滑性を利用し、貼着面と鏡面加工面との間に空気が入らない状態とすることによって、シートが剥がれない状態を保つものである。
【0004】
上記事情から、「脱気密着可能なシート」は「接着剤を使用せず対象物の貼着面」に貼り付けることができ、シートを剥がした後、被貼付面に接着剤が残らないものであったが、「作業者が貼り付けを行なう際にシート中に空気が入り込んでしまうと(エアが噛んでしまうと)、貼り付けたシートの表面は様々なブリスター状の空気溜まりが発生するものであった。」「この空気溜まり内の空気は、ヘラなどを用いて抜き出されるものであったが、このような作業は大変困難である。」という課題を解決できるものではないと考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−327157号公報
【非特許文献】
【0006】
【特許文献2】特開平11−059094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、シートを剥がしたあと貼着していた面に接着剤が残らず、貼り付けたシートの表面はブリスター状の空気溜まりを発生させないものとし、美観性の高い脱気密着可能なシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(本発明の発見)
本発明は、「シート内に空気が入らない状態にすることによって剥がれない」脱気密着可能なシートの貼着面に「通気溝」を設けるという当業者が通常考えられない構成を、試験的に行なった結果、「脱気密着可能なシートの貼着面に通気溝を設けても貼着可能」という発見に基づくものである。
【0009】
(請求項1記載の発明)
請求項1記載のシートは、接着剤を使用せず対象物に脱気密着可能なシートであって、前記脱気密着可能なシートの少なくとも脱気密着面には通気溝が設けられていることを特徴とする。
(請求項2記載の発明)
請求項2記載の脱気密着可能なシートは、請求項1記載の発明に関し、通気溝は、凹凸加工によって設けられたものであることを特徴とする。
(請求項3記載の発明)
請求項3記載の脱気密着可能なシートは、請求項1又は2記載の発明に関し、前記通気溝の溝深さが30μm〜100μmであることを特徴とする。
(請求項4記載の発明)
請求項4記載の脱気密着可能なシートは、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明に関し、通気溝の溝幅が50μm〜120μmであることを特徴とする。
(請求項5記載の発明)
請求項5記載の脱気密着可能なシートは、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明に関し、通気溝が正多角形状に設けられていることを特徴とする。
(請求項6記載の発明)
請求項6記載の脱気密着可能なシートは、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明に関し、前記脱気密着可能なシートがポリ塩化ビニルからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記発見に基づき、請求項1記載の発明を構成した結果、シート内にエアが入り込まず、シートを剥がした後、被貼付面に接着剤が残らない、脱気密着可能なシートを得ることができた。
そして、この脱気密着可能なシートは、上述の効果に基づき、簡便に貼り直すことが可能であり、表面にブリスター状の空気溜まりが無く美観性の高いものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は脱気密着可能なシートの全体図と部分拡大図である。
【図2】図2は実施形態1における脱気密着可能なシートの部分拡大断面図である。
【図3】図3は実施形態2における脱気密着可能なシートの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、この発明の脱気密着可能なシートを実施するための最良の形態について詳しく説明する。この脱気密着可能なシートは、遮光性シート、透光シート、反射シート、すりガラス状シートなどに用いられるものである。
【0013】
(実施形態1)
実施形態1の脱気密着可能なシート1は、柔軟性を有するものである。
(この脱気密着可能なシート1の基本的用途について)
脱気密着可能なシート1は、遮光、目隠し、ガラス破損時の飛散抑制、紫外線防止、意匠性の向上などを目的として利用するものである。
(この脱気密着可能なシート1の基本的構成について)
図1は脱気密着可能なシートの全体図と部分拡大図であり、図1のA断面を記載したものが図2である。つまり、図2は実施形態1における脱気密着可能なシートの部分拡大断面図である。
脱気密着可能なシート1は、図1及び図2に示すように、柔軟部材10と柔軟部表面11と脱気密着面2(貼付面)とを有している。
脱気密着可能なシート1の柔軟部材10には、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィンなどの熱可塑性プラスチックが挙げられる。
脱気密着可能なシート1の厚さは150μm〜300μmとするのが好ましい。
【0014】
(柔軟部表面11について)
柔軟部表面11には図柄の描画、凹凸加工、表面改質などを行なうことができる。凹凸加工としてエンボス加工などを例示することができる。
また、柔軟部表面11上にさらに積層を行ない、脱気密着可能なシート1を複数層の柔軟性を有するシートとすることもできる。
【0015】
(脱気密着面2について)
脱気密着面2は、脱気密着が可能となるように、平滑性を有している。脱気密着面2を平滑とする為に鏡面加工が例示できる。
脱気密着面2は、図1の部分拡大図に示されるように、平滑面に通気溝3を設けることによって、密着部4(残った平滑面)を形成している。
通気溝3と密着部4とを設ける方法として、型を押し付けて、通気溝3を設ける(凹ませる)方法、密着部4を設ける(盛り上げる)方法が挙げられる。
前記方法として、エンボス加工と、押出し成形加工を例示することができ、前記二種類の加工は、凹ませることも盛り上げることも可能である。
【0016】
(通気溝3及び密着部4について)
上述のように設けられた通気溝3及び密着部4は、図2に示すように、通気溝3の溝深さ(密着部4の高さ)30と、通気溝3の溝幅(密着部4どうしの隙間)31が設定される。
前記溝深さ30は、30μm〜100μmとするのが好ましい。
(溝深さ30÷脱気密着可能なシート1の厚さ)×100=10〜50(%)
とするのが好ましい。
前記溝幅31は、50μm〜120μmとするのが好ましい。
(密着部4の面積÷脱気密着可能なシート1の面積)×100=70〜80(%)
とするのが好ましい。
通気溝3は直線でも曲線でも良く、脱気密着可能なシート1の縁側まで通気可能な態様であれば良い。これに伴い密着部4の形状は特に特定されるものではない。
ただし、通気性や加工性の貼着性の問題から、密着部4が正多角形となるように通気溝3を設けるのが好ましい。この実施形態においては、密着部4が正方形になるように、通気溝3を格子状に設けた図1及び図2に基づき説明を行った。
【0017】
(貼着面に接着剤を塗布したシートとの差異)
従来の貼着面に接着剤を塗布したシートにおいては、貼着面(接着剤を塗布した面)にゴミや髪の毛が付着すると取り除く作業が大変困難という問題や、接着面どうしが接触すると剥がす作業が大変困難であるという問題がしばしば発生した。例えば、前記接着剤を塗布したシートを剥がす時に必要な力(剥離力)は、900〜1000g/3cm巾 である。
900〜1000g/3cm巾の剥離力とは、剥離速度200mm/min、剥離角度180°において、2.9〜3.3N/cmの値を示すものである。
しかし、本件発明においては、接着剤や粘着剤を利用していないことから、貼着面(脱気密着面2)にゴミや髪の毛が付着したとしても、貼着面から前記付着物を簡単に取り除くことができる。例えば、本件発明脱気密着可能なシート1を剥がす時に必要な力(剥離力)は、3〜6g/3cm巾 である。
3〜6g/3cm巾の剥離力とは、剥離速度200mm/min、剥離角度180°において、0.01〜0.02N/cmの値を示すものである。
また、本発明は、接着剤を用いる必要がないことから、生産コストが安くつくものである。
【0018】
(実施形態2)
実施形態2の脱気密着可能なシート1は、前述の実施形態1の脱気密着可能なシートの柔軟部表面11に、表面シート12を設けたものである。
図1は脱気密着可能なシートの全体図と部分拡大図であり、図1のA断面を記載したものが図3である。つまり、図3は実施形態2における脱気密着可能なシートの部分拡大断面図である。
表面シート12には硬質の樹脂を利用することができる。前記硬質の樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を例示することができる。
柔軟部材10は上述の実施形態と同じ態様である。
【実施例1】
【0019】
前記実施形態の脱気密着可能なシート1を製造する為、具体的には以下のような方法を用いた。
【0020】
(利用する材料)
脱気密着可能なシート1の材料として、ポリ塩化ビニル66.6%、可塑剤32.0%、安定剤1.4%を準備した。可塑剤として、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)を用いた。安定剤としてカルシウム系複合安定剤を用いた。
前記材料を用いて、厚さ250μmのポリ塩化ビニルからなるシートとした。
【0021】
(実施形態1の脱気密着可能なシート1の製造工程)
実施形態1の脱気密着可能なシート1は、以下の工程によって製造される。
前記ポリ塩化ビニルからなるシートは、第一ガイドロールと予熱用ドラムとで挟持され、予熱ドラムの半周以上に貼着され、前記予熱ドラムによって回転されつつヒーターでエンボス加工が可能な温度にまで加熱される。この時の加熱温度は、150℃とした。
加熱されたポリ塩化ビニルからなるシートは、エンボスロールによって通気溝3及び密着部4が成形され、第二ガイドロールおよび複数のガイドロールによって送り出され、実施形態1の脱気密着可能なシート1となる。
実施形態1の脱気密着可能なシート1は、実施形態2の脱気密着可能なシート1の柔軟部材10である。
引き続き、実施形態2の脱気密着可能なシート1について記載する。
【0022】
(実施形態2の脱気密着可能なシート1の製造工程)
前記柔軟部材10のシートを第三ガイドロールで送り出すと共に、表面シート12を第四ガイドロールで送り出し、これらのシートを第5ガイドロールと一体化用ドラムで挟持させる。
前記挟持により、一体化用ドラム上で重なり合った柔軟部材10のシートと表面シート12は、一体化される。前記一体化は、加熱によるものであってもよいし、柔軟部表面11に接着剤を塗布したものであってもよい。
柔軟部材10のシートと表面シート12とが一体化されたシートは、実施形態2の脱気密着可能なシート1となり、第6ガイドロールおよび複数のガイドロールによって、送り出され、巻き取られ、製品となる。
【0023】
(エンボス加工の結果)
実施例1では、厚さ250μmのポリ塩化ビニルからなるシートにエンボス板を押し付け、150℃で加熱加工を行ない、通気溝3を成形した。
表1は、各種エンボス加工後の通気溝3の溝深さ30に関する測定結果である。
【表1】


上記表1の例1〜例4においては、エンボス板の高さを100μmとし、加熱加工後の溝深さ30が74μmのものが最も好ましい製品であった。
【0024】
(本件発明の剥離力について)
前記エンボス加工によって密着部4は正方形状に形成された。この密着部4の一辺は0.62mmであり、通気溝の溝幅31の幅(ドテ巾)は0.1mmであった。
したがって、単位面積に基づき、密着部4の割合を求めると、
全面積 =(0.62+0.1)×(0.62+0.1)=0.5184mm
密着部面積= 0.62 × 0.62 =0.3844mm
となり、脱気密着可能なシート全面積に対して、密着部4が占める割合は、
( 0.3844 ÷ 0.5184 )×100 = 74.2 %
となった。
そして、脱気密着可能なシート1は、全面積の74.2%の密着部4によって、○○g/3cm巾 の剥離力を有するものとなった。
【0025】
(その他の態様について)
上述の通り作成されたシートは、多数の通気溝3により、脱気密着可能なシート1となった。
この脱気密着可能なシート1の脱気密着面2へ使用時に剥がすためのセパレートフィルムを設けることもできる。
前記セパレートフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、120℃の熱ドラムロールによって設けられるものである。
【符号の説明】
【0026】
1 脱気密着可能なシート
10 柔軟部材
11 柔軟部表面
12 表面シート
2 脱気密着面
3 通気溝
30 溝深さ
31 溝幅
4 密着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤を使用せず対象物に脱気密着可能なシート(1)であって、
前記脱気密着可能なシートの少なくとも脱気密着面(2)には通気溝(3)が設けられていること、
を特徴とする脱気密着可能なシート。
【請求項2】
前記通気溝(3)は、凹凸加工によって設けられたものであること、
を特徴とする請求項1記載の脱気密着可能なシート。
【請求項3】
前記通気溝(3)の溝深さ(30)が30μm〜100μmであること、
を特徴とする請求項1又は2記載の脱気密着可能なシート。
【請求項4】
前記通気溝(3)の溝幅(31)が50μm〜120μmであること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の脱気密着可能なシート。
【請求項5】
前記通気溝(3)が正多角形状に設けられていること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の脱気密着可能なシート。
【請求項6】
前記脱気密着可能なシート(1)がポリ塩化ビニルからなること
を特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の脱気密着可能なシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−148182(P2011−148182A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10845(P2010−10845)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000244235)明和グラビア株式会社 (11)
【Fターム(参考)】