説明

腎細胞癌(RCC)の潜在的な新規治療標的としての低酸素誘導タンパク質2(HIG2)

本発明は、HIG2 siRNAまたはHIG2抗体からなる組成物を細胞に接触させることによって、癌(特に腎細胞癌)の細胞の成長を阻害する方法を提供する。本発明では、腎細胞癌の診断法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎細胞癌で差次的に発現される遺伝子およびタンパク質、ならびにこれらを用いて腎細胞癌を診断および治療する方法に関する。なお、本出願は、全体が参照により本明細書に組み入れられる、2003年8月20日に出願された米国仮特許出願第60/496,552号、および2004年2月27日に出願された米国仮特許出願第60/548,201号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
腎細胞癌(RCC)は、泌尿器生殖器系の悪性腫瘍の中では3番目に多く、ヒトの全悪性腫瘍の2〜3%に相当する。外科的切除が、限局性RCC腫瘍の患者にとっては最も有効な治療法であるが、このような治療は、進行期のRCCの患者には十分ではない。一部の生物医学的な治療法は、〜20%の奏功率を示すことが報告されているが、これは重度の副作用を引き起こす場合があり、一般に患者の生存率を向上させない。外科的治療を受けた患者のうち、約25〜30%が手術後に再発する(Ljungberg B., Alamdari F. I., Rasmuson T. & Roos G. Follow-up guidelines for nonmetastatic renal cell carcinoma based on the occurrence of metastases after radical nephrectomy. BJU Int. 84, 405-411 (1999); Levy DA., Slaton JW., Swanson DA. & Dinney CP. Stage specific guidelines for surveillance after radical nephrectomy for local renal cell carcinoma. J Urol. 159, 1163-1167 (1998))。腫瘍の病期および外科的な切除度は、RCCの最も重要な予後因子である。しかし現時点において、このような予後の多様性に影響を及ぼす、基礎となる分子機構は、ほとんどわかっていない。
【0003】
RCC腫瘍は、組織学的特徴を基に、明細胞癌(80%)、乳頭状癌(〜10%)、嫌色素細胞癌(<5%)、顆粒細胞癌、紡錘細胞癌、および嚢胞随伴性癌(5〜15%)に分けられる。これらの組織学的亜型はそれぞれ固有の臨床的挙動を示し、明細胞癌および顆粒細胞癌は、より悪性度の高い臨床的表現型を示す傾向がある。発癌の機構を明らかにするように計画された研究により、いくつかの抗腫瘍剤の分子標的の同定が既に促進されている。例えば、その活性化が翻訳後ファルネシル化に依存するRasに関連した増殖シグナル伝達経路を阻害するように本来開発されたファルネシルトランスフェラーゼ(FTI)の阻害剤は、動物モデルにおいてRas依存性腫瘍の治療に有効であることが証明されている(Sun J et al., Oncogene 16:1467-73 (1998))。同様に、癌原遺伝子受容体HER2/neuを拮抗する目的で、抗癌剤と抗HER2モノクローナル抗体、トラスツズマブとの組み合わせを用いたヒトの臨床試験が行われ、乳癌患者の臨床反応および全生存率の改善がもたらされている(Molina MA et al., Cancer Res 16:4744-9 (2001))。最後に、bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活化するチロシンキナーゼ阻害剤、STI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの構成的活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たす慢性骨髄性白血病を治療するために開発された。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するために設計されている(O'Dwyer ME et al., Curr Opin Oncol 12:594-7 (2000))。したがって、癌細胞において一般に上方制御される遺伝子産物は、新規抗癌剤を開発するための有力な標的となり得ることが明らかである。
【0004】
CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識し、腫瘍細胞を溶解させることがさらに実証された。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、免疫学的アプローチを用いて多くの他のTAAが発見されている(Boon, Int J Cancer 54: 177-80 (1993);Boon and van der Bruggen, J Exp Med 183: 725-9 (1996);van der Bruggen et al., Science 254: 1643-7 (1991);Brichard et al., J Exp Med 178: 489-95 (1993);Kawakami et al., J Exp Med 180:347-52 (1994))。新規に発見されたTAAのいくつかについては、現在、免疫療法の標的として臨床開発が行われている。これまでに発見されたTAAには:MAGE(van der Bruggen et al., Science 254: 1643-7 (1991))、gp 100(Kawakami et al., J Exp Med 180:347-52 (1994))、SART(Shichijo et al., J Exp Med 187: 277-88 (1998))、およびNY-ESO-1(Chen et al., Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997))が含まれる。他方では、腫瘍細胞において特異的に過剰発現されることが実証された遺伝子産物が、細胞性免疫反応を誘導する標的として認識されることが示された。そのような遺伝子産物には、p53(Umano et al., Brit J Cancer 84: 1052-7 (2001))、HER2/neu(Tanaka et al., Brit J Cancer 84: 94-9 (2001))、CEA(Nukaya et al., Int J Cancer 80: 92-7 (1999))等が含まれる。
【0005】
TAAに関する基礎的および臨床的研究における著しい進展にもかかわらず(Rosenberg et al., Nature Med 4: 321-7 (1988);Mukherji et al., Proc Natl Acad Sci USA 92: 8078-82 (1995);Hu et al., Cancer Res 56: 2479-83 (1996))、結腸直腸癌を含む腺癌の治療に関して、限られた数の候補TAAしか現段階では得られていない。癌細胞において大量に発現され、その発現が癌細胞に限られているTAAは、免疫療法標的としての有望な候補となるであろう。さらに、強力でありかつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新規TAAの同定により、様々な種類の癌においてペプチドワクチン戦略の臨床的使用が促進されると考えられる。(Boon and van der Bruggen, J Exp Med 183: 725-9 (1996); van der Bruggen et al., Science 254: 1643-7 (1991); Brichard et al., J Exp Med 178: 489-95 (1993); Kawakami et al.,J Exp Med 180: 347-52 (1994); Shichijo et al., J Exp Med 187: 277-88 (1998); Chen et al., Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997); Harris, J Natl Cancer Inst 88: 1442-5 (1996); Butterfield et al., Cancer Res 59: 3134-42 (1999); Vissers et al., Cancer Res 59: 5554-9 (1999); van der Burg et al., J Immunol 156: 3308-14 (1996); Tanaka et al., Cancer Res 57: 4465-8 (1997); Fujie et al., Int J Cancer 80: 169-72 (1999); Kikuchi et al., Int J Cancer 81: 459-66 (1999); Oiso et al., Int J Cancer 81: 387-94 (1999))。
【0006】
ペプチド刺激したある健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)は、ペプチドに応答して有意なレベルのIFN-γを産生するが、51Cr放出アッセイ法においてHLA-A24またはHLA-A0201制限様式で腫瘍細胞に対する細胞傷害性をほとんど起こさないことが繰り返し報告されている(Kawano et al., Cance Res 60: 3550-8 (2000);Nishizaka et al., Cancer Res 60: 4830-7 (2000);Tamura et al., Jpn J Cancer Res 92: 762-7 (2001))。しかしながら、HLA-A24およびHLA-A0201はいずれも日本人、および白人集団において一般的なHLA対立遺伝子である(Date et al., Tissue Antigens 47: 93-101 (1996);Kondo et al., J Immunol 155: 4307-12 (1995);Kubo et al., J Immunol 152: 3913-24 (1994);Imanishi et al., Proceeding of the eleventh International Hictocompatibility Workshop and Conference Oxford University Press, Oxford, 1065 (1992);Williams et al., Tissue Antigen 49: 129 (1997))。したがって、これらのHLAによって提示される癌腫の抗原ペプチドは、日本人および白人の癌腫の治療に特に有用である可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は通常は高濃度でのペプチドの使用に起因することが知られており、これにより抗原提示細胞(APC)上で高レベルの特異的ペプチド/MHC複合体が生じ、これらのCTLが効果的に活性化されることになる(Alexander-Miller et al., Proc Natl Acad Sci USA 93: 4102-7 (1996))。
【0007】
腎臓に関与する場合もある遺伝性の癌症候群であるフォン・ヒッペル-リンダウ病は、VHL遺伝子の生殖系列変異に起因する(Latif F., Tory K., Gnarra J., Yao M., Duh FM., Orcutt ML., Stackhouse T., Kuzmin I., Modi W., Geil L., et al. Identification of the von Hippel-Lindau disease tumor suppressor gene. Science. 260, 1317-20 (1993))。VHLはRCCでも不活性化されていることが多い。生理学的な条件下ではVHLの変異または欠失は、ユビキチン化機構の機能異常のために、HIF1タンパク質の異常な蓄積に至る。蓄積したHIF1は、腫瘍細胞の成長および発生に関与する下流遺伝子群の構成的発現を誘導することになる。例えばDenkoらは、HIG2の発現が低酸素条件下ではHIF1の調節を受けることを、HIF1欠損マウスから樹立された細胞を用いて実証している(Denko N. et al., Epigenetic regulation of gene expression in cervical cancer cells by the tumor microenvironment. Clin Cancer Res. 6, 480-487 (2000)、および同研究者のウェブサイト:http://171.65.6.67/Hypoxia/outline%20for%20hig2.htm)。HIF1は2つのサブユニット(HIF1αおよびHIF1β)から構成される。HIF1αはHIF1活性を決定し、また正常な酸素条件下では、ユビキチン-プロテアソーム経路によって速やかに分解される酸素によって制御される成分である。
【0008】
これまでRCCの予後予測または分類に有用な可能性のある一部の遺伝子がクラスター解析によって同定されている(Takahashi M., Rhodes DR., Furge KA., Kanayama H., Kagawa S., Haab BB., Teh BT. Gene expression profiling of clear renal cell carcinoma: gene identification and prognostic classification. Proc Natl Acad Sci. 98, 9754-9759 (2001);Skubitz KM., Skubitz AP. Differential gene expression in renal-cell cancer. J Lab Clin Med. 140, 52-64 (2002))。RCCに関連する発癌機構を理解し、またRCCの新規抗癌剤を開発するための潜在的な標的を同定しようとする取り組みの過程で発明者らは、主要病型である明細胞癌の腫瘍の遺伝子発現プロファイルの大規模解析を実施した。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
したがって本発明は、腎細胞癌と相関する遺伝子発現のパターンの発見に関する。腎細胞癌で差次的に発現される遺伝子は本明細書で、「RCCX核酸」または「RCCXポリヌクレオチド」と集合的に呼ばれ、また対応する、コードされたポリペプチドは「RCCXポリペプチド」または「RCCXタンパク質」と呼ばれる。
【0010】
HIG2は、正常な非癌腎組織および他の正常組織と比較して、腎細胞癌で過剰発現される。特に、RCC患者から得られた臨床材料におけるELISA解析は、HIG2タンパク質が、腫瘍の初期段階においてもRCC患者の血漿中に分泌される一方で、HIG2タンパク質は、正常で健康なボランティアと慢性糸球体腎炎患者のいずれにおいても検出されないことが明らかにされている。HIG2が過剰発現されると、腎細胞の増殖が異常に増加し、腫瘍の形成につながる。したがって本発明は、HIG2の低分子量干渉RNA(siRNA)の組成物を細胞に接触させることによって、細胞の成長を阻害する方法を特徴とする。あるいは細胞の成長は、HIG2に特異的な抗体または抗体断片の組成物を細胞に接触させることで阻害することができる。このような細胞は、インビトロ、インビボ、またはエクスビボで提供可能である。被験対象は哺乳類である場合がある(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシ)。細胞は、泌尿器生殖器系の細胞(腎細胞など)である場合がある。あるいは細胞は、癌細胞(carcinoma cell)などの腫瘍細胞(例えば癌の細胞(cancer cell))である場合がある。例えば細胞は、明細胞などの腎細胞癌細胞である場合がある。「細胞の成長を阻害する」という表現は、非処置細胞と比較して低速で増殖するか、または生存率が低下した細胞をもたらす処置を含む。細胞の成長は、当技術分野で周知の増殖アッセイ法で測定することができる。
【0011】
「siRNA」という用語は、標的となるmRNAの翻訳を妨げる2本鎖RNA分子に関連する。RNAが転写されるDNAがテンプレートとなる方法のような、siRNAを細胞内に導入する標準的な手法を使用することができる。本発明の文脈では、siRNAは、センスHIG2核酸配列、アンチセンスHIG2核酸配列、またはこれら両方を含む。siRNAは好ましくは、1つの転写物が、標的遺伝子に由来するセンス配列と、これに相補的なアンチセンス配列の両方を有するように構築される(例えばヘアピン)。
【0012】
「HIG2抗体」という用語は、HIG2タンパク質に対する結合特異性を有するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体に関連する。これらの抗体は完全な抗体である場合がある。あるいは、抗体は断片である場合がある。抗体断片には例えば、Fab断片、F(ab')2断片、またはFv断片などが含まれる。本発明の文脈では、抗体は、親水性ドメイン(例えばHIG2のC末端の14残基EPTKGLPDHPSRSM)中のエピトープに結合する。あるいは抗体は、HIG2の疎水性ドメインまたはHIG2のC末端に結合可能である。
【0013】
本発明の方法は、HIG2の発現が細胞の悪性形質転換の結果として上方制御される細胞における遺伝子発現を変化させるために用いることができる。標的細胞内でsiRNAがHIG2転写物に結合すると、細胞によるHIG2産生の減少がもたらされる。オリゴヌクレオチドの長さは、典型的には少なくとも10ヌクレオチドであるが、天然のHIG2転写物と同程度に長い場合もある。好ましくはオリゴヌクレオチドの長さは75オリゴヌクレオチド未満、50オリゴヌクレオチド未満、または25オリゴヌクレオチド未満である。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドの長さは19〜25ヌクレオチドである。例えば、哺乳類細胞でHIG2の発現を阻害するHIG2 siRNAオリゴヌクレオチドは、配列番号:77〜80を含むオリゴヌクレオチドを含む。
【0014】
あるいは本発明の方法は、HIG2の発現が上方制御される細胞または組織におけるHIG2タンパク質の活性を変化させるために用いることができる。本発明の文脈では、「HIG2の生物学的活性」という表現は一般に、細胞増殖の促進に関する。例えば、細胞(例えば腎細胞)にHIG2を接触させると、細胞増殖が上昇する。これとは逆に、HIG2抗体がHIG2と結合すると、天然のHIG2の細胞増殖促進活性の低下がもたらされる。
【0015】
本発明には、配列番号:77〜80の核酸配列、または配列番号:77〜80の核酸配列に相補的な核酸分子を含む、単離された核酸分子も含まれる。本明細書で用いる、「相補的な(complementary)」という用語は、核酸分子のヌクレオチド単位間におけるワトソン-クリック塩基対またはフーグスティーン(Hoogsteen)塩基対の形成に関し、また「結合する(binding)」という用語は、2つのポリペプチドもしくは化合物間の、または関連するポリペプチドもしくは化合物間の、またはこれらの組み合わせの物理的もしくは化学的な相互作用に関する。本発明の文脈では、核酸分子の長さは、好ましくは1372ヌクレオチド未満である。例えば、核酸分子の長さは500ヌクレオチド未満、200ヌクレオチド未満、または75ヌクレオチド未満である場合がある。本発明には、本明細書に記載された1つもしくは複数の核酸を含むベクター、およびこのようなベクターを含む細胞も含まれる。
【0016】
本発明はさらに、組織試料や体液試料などの、患者由来の生物学的試料中における腎細胞癌関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む、被験対象が腎細胞癌を発症する素因を診断したり判定したりする方法を特徴とする。「腎細胞癌」という用語は、明細胞癌、乳頭状癌、嫌色素細胞癌、顆粒細胞癌、紡錘細胞癌、および嚢胞随伴性癌を含む。本発明の文脈では、腎細胞癌関連遺伝子は、腎細胞癌細胞から得られた細胞において、正常細胞と比較して発現のレベルが異なることを特徴とする遺伝子に関する。ここで「正常」細胞とは、癌性ではないことが既知の腎組織から得られる細胞である。腎細胞癌関連遺伝子には例えば、RCCX 1〜32遺伝子の1つもしくは複数の遺伝子が含まれる。ある変化、例えば遺伝子の正常対照レベルと比較したときの遺伝子の発現レベルの上昇は、被験対象が腎細胞癌に罹患しているか、または腎細胞癌を発症するリスクを有することを示す。本発明の方法は例えば、フォン・ヒッペル-リンダウ(VHL)遺伝子における変異または欠失の検出前に、またはこのような変異の非存在下において、初期病期の腫瘍を検出するために有用である。例えば本発明の方法で、悪性疾患の前I期、I期、II期、ならびに悪性度のさらに進行した病期を検出することができる。
【0017】
「正常対照レベル」とは、正常で健康な個体において、または腎細胞癌に罹患していないことが既知の個体の集団において、検出される遺伝子発現のレベルに関する。対照レベルは、1つの標準集団に由来する1つの発現パターンか、または複数の発現パターンに由来する発現パターンである場合がある。例えば本発明の文脈では、対照レベルは、過去に検証された細胞の発現パターンデータベースである場合がある。
【0018】
正常対照レベルと比較した時の、被験試料中で検出される、RCCX 1〜32遺伝子の任意の1つの遺伝子のレベルの上昇は、(試料が採取された)被験対象が腎細胞癌に罹患しているか、または腎細胞癌を発症するリスクを有することを示す。
【0019】
あるいは、試料中における腎細胞癌関連遺伝子のパネルの発現を、同じパネルの遺伝子の腎細胞癌の標準レベルと比較することができる。本発明の文脈では、「腎細胞癌の標準レベル」とは、腎細胞癌に罹患した集団に見出される腎細胞癌関連遺伝子の発現プロファイルに関する。
【0020】
遺伝子発現は、正常対照レベルと比較して10%、25%、または50%上昇する場合がある。あるいは遺伝子発現は、正常対照レベルと比較して1倍、2倍、5倍、またはこれ以上の倍率で上昇する場合がある。発現は例えば、患者由来の組織試料の遺伝子転写物またはこのコピーと、腎細胞癌関連遺伝子プローブの、チップ上またはアレイ上におけるハイブリダイゼーションを検出することで判定される。
【0021】
患者由来の組織試料は、被験対象(例えば、腎細胞癌であることが判明しているか、または疑われる患者)の任意の組織の場合がある。例えば組織は、痰、血液、血清、血漿、または腎細胞(例えば、腎臓などの泌尿器生殖器系から得られる生検試料)を含む場合がある。
【0022】
本発明はまた、RCCX 1〜32遺伝子の複数の遺伝子の遺伝子発現レベルの腎細胞癌の標準発現プロファイルも提供する。
【0023】
本発明はさらに、腎細胞癌関連遺伝子を発現する被験細胞に試験薬剤を接触させ、続く腎細胞癌関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む、腎細胞癌関連遺伝子(例えばRCCX 1〜32遺伝子)の発現または活性を阻害する薬剤を同定する方法を提供する。被験細胞は腎細胞である場合がある。遺伝子の対照レベル(例えば、試験薬剤の非存在下における)と比較した時の、試験薬剤の存在下におけるRCCX 1〜32遺伝子のレベルの減少は、試験薬剤が、腎細胞癌の症状を緩和するために使用可能な、腎細胞癌関連遺伝子の阻害剤であることを示す。
【0024】
本発明はまた、ワクチンおよびワクチン接種法も含む。例えば、被験対象のRCCの治療法または予防法は、RCCX 1〜32遺伝子にコードされたポリペプチド、またはこのようなポリペプチドの免疫学的活性断片を含むワクチンを被験対象に投与することで実施できる。本発明の文脈では、免疫学的活性断片は、長さが完全長の天然のタンパク質より短いが、それでも免疫応答を誘導可能なポリペプチドである。例えば、本発明の文脈では、免疫学的活性断片の長さは少なくとも8残基であるべきであり、またT細胞やB細胞などの免疫細胞を刺激する能力を有するべきである。免疫細胞が刺激されることは、細胞の増殖、サイトカイン(例えばIL-2)の産生、または抗体の産生を検出することで測定できる。
【0025】
特に定義した部分を除いて、本明細書で用いられる全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解される用語と同じ意味をもつ。本明細書に記載された方法および材料と類似または等価の方法および材料を、本発明を実施または検証するにあたって使用することができるが、適切な方法および材料については後述する。本明細書で言及された全ての出版物、特許出願、特許、および他の参考文献は、全体が参照により本明細書に組み入れられる。矛盾が生じた場合は、定義を含む本明細書が統制する。また、材料、方法、および実施例は、説明を目的とするだけであって制限する意図はない。
【0026】
発明の詳細な説明
本明細書に記載されたデータは、腎細胞癌(RCC)におけるゲノムワイドな遺伝子発現解析を意味する。特に本データは、臨床試料中の23,000個を上回る遺伝子の発現の測定で得られた、腎細胞癌の包括的なゲノムワイドな発現プロファイルを提供する。同定された、差次的に発現される遺伝子は、診断目的で、また腎細胞癌を阻害するための遺伝子標的治療アプローチの開発に使用される。
【0027】
23,000個を上回る遺伝子を対象にcDNAマイクロアレイ解析を行い、腎細胞癌の癌患者で一貫して、また高信頼性で過剰発現された遺伝子が選択された。特に32個の遺伝子が、検査試料の50%以上において過剰発現されていることが判明した。特に低酸素誘導タンパク質-2(HIG2)は、検査された10症例のRCCのうち9症例で有意に過剰発現されていた。続く半定量RT-PCR、ノーザンブロット、および免疫組織化学的解析によって、HIG2がRCC細胞で有意に上方制御されるが、どの正常な重要臓器でも検出されないことが確認された。
【0028】
本発明は部分的には、低酸素誘導タンパク質-2(HIG2)をコードする遺伝子が、非癌性腎組織と比較して腎細胞癌(RCC)では過剰発現されているという発見に基づく。HIG2は当初、低酸素によって誘導される遺伝子として同定された(Denko N., Schindler C., Koong A., Laderoute K., Green C., Giaccia A. Epigenetic regulation of gene expression in cervical cancer cells by the tumor microenvironment. Clin Cancer Res. 6, 480-487 (2000))。HIG2cDNAの長さは1372ヌクレオチドである(GENBANK Accession No. NM_013332;配列番号:1)。残基206〜394にまたがるORFは、63アミノ酸のタンパク質およびシグナル配列(コドン1〜21)をコードする(Signal IPで推定)。
【0029】
COS7細胞におけるHIG2の外因性発現は、細胞成長の上昇を生じた。これとは対照的に、アンチセンスS-オリゴヌクレオチドによる、またはHIG2に特異的なポリクローナル抗体によるHIG2タンパク質活性の中和による、発現の抑制は、腎細胞(例えば腎癌細胞または胚性腎細胞)の成長阻害を生じた。
【0030】
したがって本発明は、HIG2の発現を阻害することによって、細胞の成長を抑制する方法、すなわち癌細胞の成長を阻害する方法に関する。HIG2の発現は、HIG2遺伝子を特異的に標的とする低分子量干渉RNA(siRNA)を用いることで阻害可能である。HIG2標的は例えば、配列番号:77〜80のヌクレオチド配列を含む。
【0031】
非哺乳類細胞では、2本鎖RNA(dsRNA)が、遺伝子発現に強固で特異的なサイレンシング作用をおよぼすことが示されている。これはRNA干渉(RNAi)と呼ばれている(Sharp PA. RNAi and double-strand RNA. Genes Dev. 1999 Jan 15; 13(2): 139-41)。dsRNAは、RNase IIIモチーフを含む酵素によって、低分子量干渉RNA(siRNA)と呼ばれる20〜23ヌクレオチドのdsRNAにプロセシングされる。これらsiRNAは特に、複数成分からなるヌクレアーゼ複合体とともにある相補的なmRNAを標的とする(Hammond SM, Bernstein E, Beach D, Hannon GJ. An RNA-directed nuclease mediates post-transcriptional gene silencing in Drosophila cells. Nature. 2000 Mar 16; 404(6775): 293-6., Hannon GJ. RNA interference. Nature. 2002 Jul 11; 418(6894): 244-51)。哺乳類細胞では、siRNAは、19残基の相補的ヌクレオチドと、3'末端にチミジンまたはウリジンの相補的二量体で構成される20-merまたは21-merのdsRNAが、遺伝子発現の大きな変化を引き起こすことなく、遺伝子特異的なノックダウン作用を有することが示されている(Elbashir SM, Harborth J, Lendeckel W, Yalcin A, Weber K, Tuschl T. Duplexes of 21-nucleotide RNAs mediate RNA interference in cultured mammalian cells. Nature. 2001 May 24; 411(6836): 494-8)。また、核内低分子RNA(snRNA) U6またはポリメラーゼIIIのH1-RNAプロモーターを含むプラスミドは、短いRNAを効率的に産生することでIII型RNAポリメラーゼIIIを動員することにより、標的となるmRNAを構成的に抑制可能である(Miyagishi M, Taira K. U6 promoter-driven siRNAs with four uridine 3' overhangs efficiently suppress targeted gene expression in mammalian cells. Nat Biotechnol. 2002 May; 20(5): 497-500, Brummelkamp TR, Bernards R, Agami R. A System for Stable Expression of Short Interfering RNAs in Mammalian Cells Science. 296(5567): 550-553, April 19, 2002)。
【0032】
HIG2-siRNAを発現する4種類の異なる発現プラスミドが構築されている(実施例5を参照されたい)。これらのプラスミドは、その細胞成長の阻害能力が検証されている。さまざまなヒト腎癌細胞および正常(すなわち非癌性の)腎細胞にHIG2-siRNA発現ベクターがトランスフェクトされており、対照プラスミドの使用時と比較して生存細胞の数が少ないことが示されている。
【0033】
細胞の成長はまた、HIG2抗体を用いてHIG2タンパク質活性を中和することでも阻害可能である。例えば、HIG2タンパク質のC末端の14アミノ酸残基(EPTKGLPDHPSRSM)に対応する親水性ペプチド、およびN末端のシグナルペプチドモチーフを除いた完全長の組換え型HIG2タンパク質を用いてポリクローナル抗体が作製された。HIG2に対する、精製済みの抗体はHIG2タンパク質を特異的に認識した。その抗体は細胞成長の阻害能力について検証された。2種類のRCC細胞(caki-1およびcaki-2)の培地に添加された抗HIG2抗体は、両細胞の成長を有意に抑制した。
【0034】
また、本明細書において同定された差次的に発現される遺伝子を診断目的で、また腎細胞癌を阻害するために、遺伝子を標的とした治療アプローチを開発することを目的として使用することができる。例えば、細胞試料中におけるさまざまな遺伝子の発現を測定することで、1つの細胞または細胞集団における腎細胞癌の存在が判定される。同様に、さまざまな薬剤に対する反応としての、これらの遺伝子発現を測定することで、腎細胞癌を治療するための薬剤が同定される。
【0035】
細胞の成長を阻害する方法
本発明の文脈では、細胞の成長は、HIG2 siRNAを含む組成物を細胞に接触させることで阻害される。細胞にはさらに、トランスフェクション剤を接触させることができる。適切なトランスフェクション剤は、当技術分野で周知である。あるいは細胞の成長は、HIG2抗体または抗体断片を含む組成物を細胞に接触させることで阻害される。
【0036】
このような細胞は、HIG2を発現したり過剰発現したりする任意の細胞である場合がある。例えば細胞は、腎臓の細胞(kidney cell)などの腎細胞(renal cell)である場合がある。あるいは細胞は、癌などの腫瘍細胞である場合がある。好ましい態様では、細胞は、明細胞などの腎細胞癌である。
【0037】
本発明の文脈では、「細胞の成長の阻害」とは、組成物に曝露されなかった細胞と比較して、低速で増殖するか、または生存能が低下した細胞を含む。細胞の成長は、MTT細胞増殖アッセイ法などの、当技術分野で周知の方法で測定することができる。
【0038】
HIG2-siRNA
本発明の文脈では、HIG2-siRNAは、1つの標的HIG2遺伝子配列に向けられることができる。あるいはsiRNAは、複数の標的HIG2遺伝子配列に向けられる場合がある。例えば、組成物は、2個、3個、4個、もしくは5個、またはこれ以上のHIG2標的配列に向けられるHIG2-siRNAを含む場合がある。本発明の文脈では、HIG2標的配列は、HIG2遺伝子の一部と同一か、または天然に生じるHIG2遺伝子の一部に相補的なヌクレオチド配列である。標的配列は、ヒトHIG2遺伝子の5'非翻訳(UT)領域、オープンリーディングフレーム(ORF)、または3'非翻訳領域を含む場合がある。あるいはsiRNAは、HIG2遺伝子発現の上流または下流の調節因子に相補的な核酸配列である場合がある。上流および下流の調節因子の例には、HIG2遺伝子プロモーターに結合する転写因子、HIG2ポリペプチド、HIG2プロモーター、およびHIG2エンハンサーと相互作用するキナーゼまたはホスファターゼなどがあるがこれらに限定されない。
【0039】
標的mRNAにハイブリダイズするHIG2-siRNAは、HIG2遺伝子にコードされたHIG2ポリペプチド産物の産生を、通常の1本鎖mRNA転写物と結合することで、翻訳すなわちタンパク質の発現に干渉することにより減少させたり抑えたりする。siRNAの長さは、好ましくは500ヌクレオチド未満、200ヌクレオチド未満、100ヌクレオチド未満、50ヌクレオチド未満、または25ヌクレオチド未満である。より好ましくは、siRNAの長さは19〜25ヌクレオチドである。HIG2-siRNAの産生のための例示的な核酸配列は、配列番号:77〜80の配列を含む。さらにsiRNAによる阻害活性を促進させるために、ヌクレオチド「u」を標的配列のアンチセンス鎖の3'端に追加することができる。追加される「u」の数は少なくとも2個、一般には2〜10個、好ましくは2〜5個である。追加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'端において1本鎖を形成する。
【0040】
HIG2-siRNAは、RNA転写物に対する結合を可能とする形状で細胞に直接導入できる。あるいは、HIG2-siRNAをコードするDNAはベクター中に存在することができる。
【0041】
ベクターは例えば、HIG2配列に隣接する、(DNA分子の転写による)両鎖の発現を可能とするように機能可能に連結された調節配列を有する発現ベクターにHIG2標的配列をクローニングすることで作られる(Lee, N.S., Dohjima, T., Bauer, G., Li, H., Li, M.-J., Ehsani, A., Salvaterra, P., and Rossi, J. (2002) Expression of small interfering RNAs targeted against HIV-1 rev transcripts in human cells. Nature Biotechnology 20: 500-505)。HIG2mRNAに対してアンチセンスであるRNA分子は、第1のプロモーター(例えば、クローン化されたDNAの3'にあるプロモーター配列)によって転写され、またHIG2mRNAのセンス鎖であるRNA分子は、第2のプロモーター(例えば、クローン化されたDNAの5'にあるプロモーター配列)によって転写される。センス鎖およびアンチセンス鎖は、インビボでハイブリダイズして、HIG2遺伝子をサイレンシングするsiRNA構築物を生じる。あるいは、2つの構築物を利用してsiRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製することができる。クローン化されたHIG2は、二次構造(例えばヘアピン)を有する構築物をコードすることができる(1つの転写物は、標的遺伝子に由来するセンス配列と、これに相補的なアンチセンス配列の両方を有する)。
【0042】
任意のヌクレオチド配列からなるループ配列は、ヘアピンループ構造を形成させるために、センス配列とアンチセンス配列の間に位置させることができる。したがって本発明は、一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'を有するsiRNAも提供する([A]は配列番号:77〜80のヌクレオチドからなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドを含むリボヌクレオチド配列であり、および[A']は[A]の相補的配列を含むリボヌクレオチド配列である)。領域[A]は[A']とハイブリダイズし、領域[B]を含むループが形成される。このループ配列の長さは、好ましくは3〜23ヌクレオチドである。ループ配列は例えば、以下の配列からなる群より選択することができる(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.htmlを参照されたい):
【0043】
CCC、CCACC、またはCCACACC(Jacque, J. M, Triques, K., and Stevenson, M (2002) Modulation of HIV-1 replication by RNA interference. Nature, Vol. 418: 435-438);
【0044】
UUCG(Lee, N.S., Dohjima, T., Bauer, G., Li, H., Li, M.-J., Ehsani, A., Salvaterra, P., and Rossi, J. (2002) Expression of small interfering RNAs targeted against HIV-1 rev transcripts in human cells. Nature Biotechnology 20: 500-505; Fruscoloni, P., Zamboni, M., and Tocchini-Valentini, G.P. (2003) Exonucleolytic degradation of double-stranded RNA by an activity in Xenopus laevis germinal vesicles. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(4): 1639-1644);ならびに
【0045】
UUCAAGAGA(Dykxhoorn, D. M., Novina, C. D., and Sharp, P. A. (2002) Killing the messenger: Short RNAs that silence gene expression. Nature Reviews Molecular Cell Biology 4: 457-467)。
【0046】
さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列も、活性siRNAを提供する(Jacque, J.M., Triques, K., and Stevenson, M. (2002) Modulation of HIV-1 replication by RNA interference. Nature 418: 435-438)。
【0047】
本発明の文脈における、使用に適したヘアピンループ構造を有する例示的なsiRNAを以下に示す。以下の構造では、ループ配列は、CCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択することができる。好ましいループ配列はUUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。gcatgtgataagacctcct-[b]-aggaggtcttatcacatgc (配列番号:77の標的配列);
cactgacctagacatgtcc-[b]-ggacatgtctaggtcagtg (配列番号:78の標的配列);
gaacctgtctaactggatg-[b]-catccagttagacaggttc (配列番号:79の標的配列); および
cctgtctaactggatgctc-[b]-gagcatccagttagacagg (配列番号:80の標的配列).
【0048】
HIG2配列に隣接する調節配列は、それらの発現が独立に調節されたり、または時間的もしくは空間的に調節されたりすることが可能なように、同一の場合もあれば異なる場合もある。siRNAは、HIG2遺伝子のテンプレートを、例えば核内低分子RNA(snRNA) U6に由来するRNA pol III転写単位、またはヒトH1-RNAのプロモーターを含むベクターにクローニングすることで細胞内で転写可能である。ベクターを細胞内に導入するために、トランスフェクション促進剤を使用することができる。FuGENE(Roche diagnostices)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(Wako pure Chemical)は、トランスフェクション促進剤として有用である。
【0049】
オリゴヌクレオチド、およびHIG2mRNAのさまざまな部分に相補的なオリゴヌクレオチドが、腫瘍細胞内におけるHIG2の産生を減少させる能力に関して、標準的な方法によってインビトロで検証されている。候補組成物の非存在下で培養した細胞と比較時の、候補siRNA組成物を接触させた細胞内におけるHIG2遺伝子産物の減少は、HIG2特異的抗体を用いて、または他の検出法で検出することができる。インビトロの細胞ベースアッセイ法または無細胞アッセイ法でHIG2の産生を減少させる配列を次に、細胞成長に対する阻害作用に関して検証することができる。細胞の成長をインビトロで阻害する配列を次にインビボでラットまたはマウスにおいて検証し、悪性新生物を有する動物におけるHIG2産生の減少、および腫瘍細胞の成長の低下を確認することができる。
【0050】
HIG2抗体
本発明の文脈では、HIG2抗体はポリクローナル抗体である場合がある。あるいは、HIG2抗体はモノクローナル抗体である場合がある。アミノ酸配列「EPTKGLPDHPSRSM」は、本発明のHIG2抗体によって認識される好ましいエピトープである。本発明の文脈では、HIG2抗体は、HIG2に結合する限りにおいて抗体断片または修飾抗体である場合がある。例えば抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、または1本鎖Fv(scFv)である場合がある(H鎖およびL鎖に由来するFv断片が適切なリンカーによって連結されているもの)。より具体的には、適切な抗体断片は、抗体をパパインやペプシンなどの酵素で処理することで作製できる。あるいは、抗体断片をコードする遺伝子を構築してもよく、発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞で発現させることができる(例えば、Co M.S. et al. J. Immunol. 152: 2968-2976 (1994); Better M. and Horwitz A. H. Methods Enzymol. 178: 476-496 (1989); Pluckthun A. and Skerra A. Methods Enzymol. 178: 497-515 (1989); Lamoyi E. Methods Enzymol. 121: 652-663 (1986); Rousseaux J. et al. Methods Enzymol. 121: 663-669 (1986); Bird R.E. and Walker B.W. Trends Biotechnol. 9: 132-137 (1991)を参照されたい)。
【0051】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)などの、さまざまな分子との結合によって修飾されてもよい。本発明は、このような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することができる。このような修飾法は当技術分野で常套的なものである。
【0052】
または抗体は、非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とのキメラ抗体、または非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)、および定常領域を含むヒト化抗体を含んでもよい。このような抗体は、公知の手法で調製することができる。
【0053】
悪性腫瘍の治療法
本発明の文脈では、HIG2の過剰発現を特徴とする腫瘍の患者は、HIG2-siRNA抗体またはHIG2抗体を投与することで治療される。siRNA療法または抗体療法を用いることによって、例えば腎細胞癌に罹患した患者、または腎細胞癌を発症するリスクのある患者におけるHIG2の発現または活性が阻害される。このような患者は、特定の腫瘍型に標準的な方法によって同定される。例えば腎細胞癌は、コンピューター断層撮影(CT)スキャニングや超音波検査法によって診断可能である。
【0054】
治療は、例えばHIG2の発現低下、または被験対象における腫瘍の大きさの縮小、有病率の低下、または転移能の低下といった臨床上の利益につながる場合に有効であるとみなされる。治療を予防的に行う場合、「有効である」という用語は、治療が腫瘍の形成を遅らせたり防いだりすること、または腫瘍の臨床症状を緩和することを意味する。
【0055】
腎細胞癌の症状および徴候には、例えば疼痛、血尿、腫瘤(flank mass)、体重減少、発熱、高血圧、寝汗、精索静脈瘤の突然の発症(男性患者の場合)、ならびに高血圧、高カルシウム血症、熱、および肝機能不全などの多岐にわたる症状に相当する腫瘍随伴症候群などが含まれる。有効性は、特定の腫瘍型を診断したり治療したりする既知の任意の方法に関連して判定される。
【0056】
siRNA療法は、標準的なベクターおよび/または遺伝子輸送系によりsiRNAを患者に投与することで実施される。適切な遺伝子輸送系は、リポソーム、受容体介在型輸送系、または数ある内ヘルペスウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ関連ウイルスなどのウイルスベクターを含む。治療用の核酸組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせることによって製剤化することができる。治療用組成物は、上述の遺伝子輸送系を含むことも出来る。薬学的に許容される担体は、動物への投与に適した生物学的に適合する媒体(例えば生理食塩水)である。組成物の治療的有効量は、被治療動物におけるHIG2遺伝子産物の産生の減少、細胞の成長(例えば増殖)の低下、または腫瘍成長の低下などの、医学的に望ましい結果をもたらすことが可能な量である。
【0057】
静脈内、皮下、筋肉内、および腹腔内の輸送経路などの非経口投与を用いて、本発明のHIG2-siRNA組成物を輸送してもよい。
【0058】
適切な用量は、患者の体格、体表面積、年齢、投与核酸の種類、性別、投与時間および投与経路、全般的健康、ならびに併用される他の薬剤を含む、多くの因子に依存する。核酸の静脈内投与時の用量は、約106〜1022コピーの核酸分子の範囲にある。
【0059】
本発明のポリヌクレオチドは、筋肉または皮膚などの組織の間質腔への注射、血行または体腔への導入、または吸入もしくはガス注入などの標準的な方法によって投与される。このようなポリヌクレオチドは一般に、例えば、水性またはある程度水性の液状担体といった薬学的に許容される液状担体とともに動物に注入されるか、もしくは輸送される。ポリヌクレオチドはさらに、リポソーム(例えば、陽イオン性または陰イオン性のリポソーム)と結合させることができる。本発明のポリヌクレオチドは好ましくは、プロモーターなどの、標的細胞による発現に必要な遺伝情報を含む。
【0060】
本明細書に記載されたHIG2特異的抗体を、腫瘍細胞の成長を阻害するために、または腫瘍細胞を死滅させるために使用する。例えば、エピトープとしてアミノ酸配列「EPTKGLPDHPSRSM」を認識する抗体を、本明細書に記載された方法にて使用することができる。具体的には、精製された抗体調製物(例えば、精製済みのモノクローナル抗体、抗体断片、または1本鎖抗体)を、腫瘍を有すると診断された個体、または腫瘍を発生するリスクがあると診断された個体に投与することができる。抗体調製物は、受動免疫の技術分野で周知の方法で、例えば静脈内または筋肉内に、投与することができる。さらに、本明細書に記載された方法で使用される抗体は、生理学的に許容される賦形剤とともに製剤化することができる。このような賦形剤(例えば生理食塩水)は当技術分野で周知である。
【0061】
腎細胞癌の診断
本発明の文脈では、腎細胞癌は、細胞の試験集団(すなわち患者由来の組織試料)に由来する1つもしくは複数のRCCX核酸の発現を調べることで診断される。好ましくは、試験細胞集団は腎細胞、例えば腎臓系から得られた細胞を含む。遺伝子発現は、骨髄、血液、便、尿、または他の体液(痰など)から測定することもできる。
【0062】
1つもしくは複数の腎細胞癌関連遺伝子(例えばRCCX 1〜32遺伝子)の発現は、試験細胞で判定され、正常対照レベルの発現と比較される。本発明の文脈では、「正常対照レベル」とは、腎細胞癌に罹患していないことが既知の集団に典型的に見出される腎細胞癌関連遺伝子の発現プロファイルに関する。既知正常対照レベルと比較した時の、患者由来の組織試料中における腎細胞癌関連遺伝子の発現レベルの上昇は、被験対象が腎細胞癌に罹患しているか、または腎細胞癌を発症するリスクを有することを示す。
【0063】
正常対照レベルと比較した時の、試験集団における1つもしくは複数の腎細胞癌関連遺伝子の変化は、被験対象が腎細胞癌に罹患しているか、または腎細胞癌を発症するリスクを有することを示す。例えば、本明細書に記載され、同定された、腎細胞癌関連遺伝子の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%、またはこれ以上の変化は、腎細胞癌の診断を表す。
【0064】
発現プロファイリング解析によって、発現プロファイルが腎細胞癌の特徴を含むことが示されれば、被験対象は、腎細胞癌に罹患していると判定される。「腎細胞癌の特徴」という用語は、腎細胞癌に特徴的な、一連のRCCX遺伝子の発現レベルに見られる変化のパターンに関する。具体的には、例えば、発現レベルが腎細胞癌の方で対照より高い遺伝子が想定される。発現プロファイルに含まれる遺伝子の発現レベルが、対照における発現レベルと比較して高い場合、発現プロファイルは、腎細胞癌の特徴を有すると評価することができる。発現プロファイルを構成する発現レベル中の変化のパターンの大半が腎細胞癌に特徴的な場合、発現プロファイルは、腎細胞癌の特徴を有すると評価される。
【0065】
具体的には、RCCX遺伝子の全てではないにせよ大半が、遺伝子発現レベルの腎細胞癌関連パターンの変化を示すとき、RCCX遺伝子の発現レベルを含む発現プロファイルは、腎細胞癌の特徴を有すると見なされる。
【0066】
発現プロファイルを構成するRCCX遺伝子の50%またはこれ以上、好ましくは60%またはこれ以上、より好ましくは80%またはこれ以上、さらに好ましくは90%またはこれ以上が遺伝子発現レベルの変化の腎細胞癌関連パターンを示すとき、発現プロファイルは腎細胞癌の特徴を有すると結論づけられる。
【0067】
本発明では、腎細胞癌の診断用薬剤も提供する。本発明の診断用薬剤は、RCCX遺伝子のDNAまたはタンパク質に結合する化合物または組成物を含む。好ましくは、RCCX遺伝子のポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、またはRCCX遺伝子にコードされたタンパク質に特異的に結合する抗体を、化合物または組成物として使用してもよい。
【0068】
あるいは、RCCX遺伝子のタンパク質を免疫学的方法で検出することができる。当業者であれば、任意の免疫アッセイ法のフォーマットを選択することができる。例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、および/または免疫蛍光法によって、タンパク質を検出および測定することができる。ELISAでは、タンパク質を認識する抗体を固相上に固定し、同タンパク質を含む試料を固相にアプライする。プレート、マイクロビーズ、または磁気ビーズが固相として使用される。次に、同タンパク質を認識し、また酵素(アルカリホスファターゼなど)で標識された二次抗体をアプライし、固相をインキュベートする。そして洗浄後に、酵素基質(p-ニトロフェニルリン酸など)を固相に添加し、吸光度を測定し、試料の抗原結合活性を評価する。
【0069】
本発明では、決定されるRCCX遺伝子のタンパク質は好ましくは、診断される被験対象から採取された体液に由来する。体液試料は、血液試料、または血清、血漿、または全血などの血液由来の試料を含む。診断される被験対象から採取された試料(試験試料)のタンパク質濃度を好ましくは、正常被験対象に由来する試料(正常試料)などの対照における濃度と比較する。このような比較によって、試験試料のタンパク質の発現レベルが、正常試料のタンパク質の発現レベルより高いことが判明した場合、被験対象はRCCに罹患していると判断される。正常試料および試験試料のタンパク質の発現レベルは、同時に決定することができる。あるいは発現レベルの正常範囲は、対照群から過去に採取された検体中のタンパク質発現レベルを利用して統計学的に決定可能である。試験試料における発現レベルを正常範囲と比較し、そのレベルが正常範囲内に含まれない場合は、被験対象はRCCに罹患していると判断される。HIG2の発現レベルは好ましくは、本発明の診断法におけるRCCXのタンパク質として決定される。
【0070】
腎細胞癌関連遺伝子の発現を阻害する薬剤の同定
腎細胞癌関連遺伝子の発現または活性を阻害する薬剤は、腎細胞癌関連遺伝子を発現する試験細胞集団に試験薬剤を接触させ、腎細胞癌関連遺伝子の発現レベルを決定することで同定される。対照レベルと比較時の腎細胞癌関連遺伝子の発現の低下は、薬剤が腎細胞癌関連遺伝子の阻害剤であり、したがって腎細胞癌の阻害に有用なことを示す。
【0071】
試験細胞集団は、腎細胞癌関連遺伝子を発現する任意の細胞である場合がある。例えば試験細胞集団は腎細胞を含む場合がある。より詳細には試験細胞は、腎細胞癌細胞に由来する不死化された細胞系列である場合がある。
【0072】
被験対象における腎細胞癌の治療の有効性評価
本明細書において同定された差次的に発現されるRCC関連遺伝子は、腎細胞癌の治療経過のモニタリングも可能とする。この方法では、試験細胞集団は、腎細胞癌の治療を受けている被験対象から提供される。望ましいならば、試験細胞集団は、治療前、治療中、および/または治療後の、さまざまな時点で被験対象から得られる。細胞集団における1つもしくは複数のRCC関連遺伝子の発現を次に判定し、腎細胞癌状態が既知である細胞を含む標準細胞集団と比較する。標準細胞は、処置を受けていないものとすべきである。
【0073】
仮に、標準細胞集団が腎細胞癌細胞を含まないとすると、試験細胞集団と標準細胞集団間におけるRCC関連遺伝子の発現の類似は、治療が有効であり、臨床的効果をもたらすことを示す。しかしながら、試験細胞集団と標準細胞集団間でのRCC関連遺伝子の発現の差は、臨床転帰または予後がそれほど好ましくなかったことが示される。
【0074】
「有効である」という用語は例えば、治療によって、病理学的に上方制御された遺伝子の発現低下、または被験対象における腎細胞癌のサイズの縮小、有病率の低下、もしくは転移能の低下に至ることを示す。治療が予防的に行われる場合、「有効である」とは、治療が腎細胞癌の形成を遅らせたり妨げたりすることを意味する。腎細胞癌の病期は、標準的な臨床プロトコルで評価される。
【0075】
有効性は、腎細胞癌を診断または治療する既知の任意の方法と関連して判定される。
【0076】
特定の個体に適した腎細胞癌治療用薬剤の選択
個体の遺伝的構成の差は、さまざまな薬物の相対代謝能力に差を生じる場合がある。被験対象で代謝されて抗腎細胞癌剤として作用する薬剤は、被験対象細胞における遺伝子発現パターン、癌状態に特徴的な遺伝子発現パターンから、非癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンへと変化を誘導することによって明らかになる場合がある。したがって、本明細書に開示された差次的に発現されるRCC関連遺伝子群は、薬剤が被験対象のための抗腎細胞癌剤として適しているか否かを判定することを目的として、選択された被験対象に由来する試験細胞集団における、推定される治療用または予防用の抗腎細胞癌剤の検証を可能とする。
【0077】
特定の被験対象に適した抗腎細胞癌剤を同定するためには、被験対象に由来する試験細胞集団を治療用薬剤に曝露させ、1つもしくは複数のRCCX 1〜32遺伝子の発現を判定する。
【0078】
試験細胞集団は、少なくとも1つの腎細胞癌関連遺伝子を発現する腎細胞癌細胞を含むはずである。好ましくは、試験細胞は腎細胞である。例えば試験細胞集団は候補薬剤の存在下でインキュベートすることが可能であり、また試験試料の遺伝子発現のパターンを測定して、1つもしくは複数の標準プロファイル(例えば、腎細胞癌の標準発現プロファイル、または非腎細胞癌の標準発現プロファイル)と比較することができる。
【0079】
腎細胞癌を含む標準細胞集団に対して、試験細胞集団におけるRCCX 1〜32遺伝子の1つもしくは複数の遺伝子の発現の低下は、薬剤が治療効果を有することを示す。試験薬剤は、任意の化合物または組成物を含んでもよい。例えば試験薬剤は、異常に過剰発現されたRCCX核酸に対応する特異的なアンチセンスヌクレオチド化合物の場合がある。
【0080】
治療用薬剤を同定するためのスクリーニングアッセイ法
本明細書に開示された差次的に発現される配列を使用して、腎細胞癌を治療するための候補治療用薬剤を同定することもできる。この方法は、候補治療用薬剤が、腎細胞癌状態に特徴的なRCCX 1〜32遺伝子の発現プロファイルを、腎細胞癌と関連しない臨床状態におけるパターンを示すか、もしくは、より類似したパターンに変換するか否かを判定する候補治療用薬剤のスクリーニングに基づく。
【0081】
本発明の方法では、細胞を試験薬剤、または試験薬剤の組み合わせに(逐次的に、または連続的に)曝露させ、細胞内におけるRCCX 1〜32遺伝子の1つもしくは複数の遺伝子の発現を測定する。試験集団におけるRCCX核酸(群)の発現プロファイルを、試験薬剤に曝露されなかった標準細胞集団におけるRCCX核酸(群)の発現レベルと比較する。
【0082】
本発明のスクリーニング法では、マーカー遺伝子の発現レベルが腎細胞癌で上昇する場合に、選択される候補薬剤は、対照の発現レベルと比較して発現レベルを低下させる活性を有するはずである。
【0083】
あるいは、本発明のスクリーニングは、以下の段階を含む場合がある:(1)マーカー遺伝子にコードされたタンパク質に候補薬剤を接触させる段階;および(2)対照の場合と比較してタンパク質の活性を変化させる候補薬剤を選択する段階。
【0084】
スクリーニングに必要なタンパク質は、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列を使用することで、組換え型のタンパク質として得られる。当業者であれば、マーカー遺伝子に関する情報を基に、タンパク質の生物学的活性を、選択された活性を測定するためのスクリーニングおよび適切な方法の指標として選択することができる。
【0085】
あるいは本発明のスクリーニングは、以下の段階を含んでもよい:(1)マーカー遺伝子の転写調節領域の制御下でレポーター遺伝子を確実に発現させるレポーター構築物を調製する段階;(2)かつ上記レポーター構築物を含み、上記レポーター構築物の発現を可能とする宿主細胞に候補薬剤を接触させる段階;ならびに(3)レポーター遺伝子の活性または発現のレベルを測定し、対照の場合と比較した時に発現レベルを変化させる活性を有する候補薬剤を選択する段階。
【0086】
スクリーニングに必要なレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写調節領域を使用することで調製できる。マーカー遺伝子の転写調節領域が当業者に既知の場合は、レポーター構築物は、過去に得られた配列情報を用いて調製できる。マーカー遺伝子の転写調節領域が未同定の場合は、転写調節領域を含むヌクレオチド断片を、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報を基にゲノムライブラリーから単離することができる。
【0087】
本発明のスクリーニング法で使用されてもよい候補薬剤の型に制限はない。本発明の候補は、以下を含む、当技術分野で周知のコンビナトリアルライブラリー法の数多くのアプローチのいずれかの方法を用いて得ることができる:生物学的ライブラリー;空間的にアドレス指定可能な平行的な(spatially addressable parallel)固相または液相のライブラリー;デコンボリューション法を要する合成ライブラリー法;「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法;ならびにアフィニティクロマトグラフィーを用いることにより選択を行う合成ライブラリー法。生物学的ライブラリーのアプローチはペプチドライブラリーに制限されるが、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマー、または化合物の小分子ライブラリーに応用可能である(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145)。
【0088】
過剰発現された1つもしくは複数の遺伝子の発現を抑制するために有効な薬剤は、臨床上の利益につながるとみなされる。このような化合物についてはさらに、癌細胞成長の阻害能力についての検証が行われる。
【0089】
腎細胞癌を有する被験対象の予後評価
本明細書では、一連の病期にわたり、被験細胞集団における1つもしくは複数のRCC関連遺伝子の発現を、患者由来の参照細胞集団における同一遺伝子の発現と比較することにより、腎細胞癌を有する被験対象の予後を評価する方法もまた提供する。被験細胞集団と参照細胞集団における1つもしくは複数のRCC関連遺伝子の発現を比較することにより、または被験対象から由来する被験細胞集団において長期にわたり遺伝子発現のパターンを比較することにより、被験対象の予後を評価することができる。例えば、正常対照と比較した場合の1つもしくは複数のRCCX1〜32遺伝子の発現の増加は、予後が良好でないことを示す。
【0090】
キット
本発明はまた、RCCX検出試薬、例えば、RCCX核酸の一部に相補的なオリゴヌクレオチド配列のような、1つもしくは複数のRCCX核酸に特異的に結合するかもしくはこれを同定する核酸、またはRCCX核酸によってコードされるタンパク質に結合する抗体を含む。試薬はキットの形態で共に包装されることができる。試薬は、例えば核酸もしくは抗体(固体マトリックスに結合されているか、またはそれらをマトリックスに結合させるための試薬と共に個別に包装されている)、対照試薬(陽性および/または陰性)、および/または検出可能な標識といった個別の容器内に包装されることができる。アッセイを行うための説明書(例えば、書面、テープ、VCR、CD-ROM等)がキットに含まれる。キットのアッセイ形式は、当技術分野において公知であるノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAである。
【0091】
例えば、RCCX検出試薬を多孔性条片等の固体マトリックス上に固定化して、少なくとも1つのRCCX検出部位を形成することができる。多孔性条片の測定または検出領域は、核酸を含む複数の部位を含み得る。試験条片はまた、陰性対照および/または陽性対照のための部位も含み得る。または、対照部位は試験条片とは別の条片上に位置することができる。任意で、異なる検出部位は異なる量の固定化核酸を含んでもよく、すなわち、第一検出部位はより多い量、次の部位ではより少ない量を含んでもよい。被験試料を添加した場合に、検出可能なシグナルを示す部位の数により、試料中に存在するRCCXの量が定量的に示される。検出部位は任意の適した検出可能な形状で構成され得り、典型的には試験条片の幅に及ぶバーまたはドットの形状である。
【0092】
あるいはキットは、1つもしくは複数の核酸配列を含む核酸基質アレイを含む場合がある。アレイ上の核酸は、RCCX 1〜32遺伝子によって代表される1つもしくは複数の核酸配列を特異的に同定する。RCCX 1〜32遺伝子によって代表される2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、15、20、25、またはこれ以上の配列の発現は、アレイの試験ストリップまたは試験チップに対する結合のレベルに基づいて同定される。基質アレイは例えば、固体基質(例えば、米国特許第5,744,305号に記述されている「チップ」)上に配される。
【0093】
同様に、RCCX遺伝子のタンパク質に結合する抗体をキットに含めることができる。好ましくは、抗体は、プレート、マイクロビーズ、または磁気ビーズなどの固相に固定される。さらに固相に固定された抗体は、シグナル生成分子などの標識で標識された二次抗体と結合可能である。酵素、フルオロフォア、または発光分子が、適切なシグナル生成分子の例である。抗体を含むキットは、標識が発するシグナルを検出するための試薬をさらに含む場合がある。
【0094】
アレイおよびアレイ群
本発明は、1つもしくは複数の核酸配列を含む核酸基質アレイも含む。アレイ上の核酸は具体的には、RCCX 1〜32遺伝子によって代表される1つもしくは複数の核酸配列に対応する。RCCX 1〜32遺伝子によって代表される2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、15、20、25、またはこれ以上の配列の発現のレベルを、アレイに対する核酸の結合を検出することで同定することができる。
【0095】
本発明は、単離された複数の核酸配列(すなわち複数の核酸の混合物)も含む。核酸配列は液相中または固相中に存在することができ、例えばニトロセルロース膜などの固相支持体に固定することができる。複数の核酸配列は、RCCX 1〜32遺伝子によって代表される1つもしくは複数の核酸配列を含む。さまざまな態様では、複数の核酸配列は、RCCX 1〜32遺伝子によって代表される2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、15、20、25、またはこれ以上の配列を含む。
【0096】
DNAアレイは、複数の遺伝子の発現レベルを同時に比較するために便利な装置である。DNAアレイベースの発現プロファイリングは例えば、「Microarray Biochip Technology」(Mark Schena, Eaton Publishing, 2000)などに記載された方法で実施することができる。
【0097】
DNAアレイは、いくつかの遺伝子を検出するために、固定された高密度のプローブを含む。したがって、多くの遺伝子の発現レベルを1回の解析で同時に推定可能である。すなわち、検体の発現プロファイルをDNAアレイで判定することができる。したがって、本発明のDNAアレイベースの方法は好ましくは、以下の段階を含む:
(1)マーカー遺伝子を含むaRNAまたはcDNAを合成する段階;
(2)aRNAまたはcDNAと、マーカー遺伝子に対するプローブをハイブリダイズさせる段階;ならびに
(3)プローブとハイブリダイズしたaRNAまたはcDNAを検出し、それのmRNA量を定量する段階。
【0098】
「aRNA」という用語は、テンプレートのcDNAからRNAポリメラーゼによって転写されたRNA(すなわち増幅されたRNA)に関する。DNAアレイベースの発現プロファイリング用のaRNA転写キットは市販されている。このようなキットを用いることで、aRNAを、T7プロモーター結合cDNAをテンプレートとしてT7 RNAポリメラーゼを用いて合成することができる。一方、ランダムプライマーを使用するPCRによって、cDNAを、mRNAから合成されたcDNAをテンプレートとして用いて増幅することができる。
【0099】
あるいはDNAアレイは、本発明のマーカー遺伝子を検出するために、アレイ上にスポットされたプローブを含むことができる。DNAアレイ上にスポットされるマーカー遺伝子の数に制限はない。例えば、本発明のマーカー遺伝子の5%またはこれ以上、好ましくは20%またはこれ以上、より好ましくは50%またはこれ以上、さらにより好ましくは70%またはこれ以上を選択してもよい。本発明のマーカー遺伝子に加えて他の遺伝子もDNAアレイ上にスポットすることができる。例えば、発現レベルがほとんど変化しない遺伝子に対するプローブをDNAアレイ上にスポットしてもよい。このような遺伝子は、アッセイ法の結果を複数のチップ間で、または異なるアッセイ法間で比較することが意図されている場合に、アッセイ法の結果を規準化するために使用することができる。
【0100】
プローブは、選択された各マーカー遺伝子を対象に設計され、DNAアレイ上にスポットされる。このようなプローブは例えば、5〜50ヌクレオチド残基を含むオリゴヌクレオチドであってもよい。このようなオリゴヌクレオチドをDNAアレイ上で合成する方法は当業者に周知である。化学的に、またはPCRによって、より長いDNAを合成することができる。PCRによって合成された長いDNAなどをガラススライド上にスポッティングする方法も当業者に周知である。上記の方法で得られるDNAアレイは、本発明による腎細胞癌の診断に用いることができる。
【0101】
例えば、調製済みのDNAアレイにaRNAを接触させた後、プローブとaRNA間のハイブリダイゼーションを検出する。aRNAは、蛍光色素で事前に標識しておくことができる。aRNAの標識には、Cy3(赤色)やCy5(緑色)などの蛍光色素を使用することができる。被験対象および対照に由来するaRNAを、それぞれ異なる蛍光色素で標識する。両者の間における発現レベルの差は、シグナル強度の差を基に推定することができる。DNAアレイ上における蛍光色素のシグナルをスキャナーで検出し、専用のプログラムで解析することができる。例えばAffymetrix社製のセット(Suite)は、DNAアレイ解析用のソフトウェアパッケージの1つである。
【0102】
RCCを抑制する方法
本発明は、1つもしくは複数のRCCX1〜32遺伝子の発現または活性を減少させることにより、被験対象におけるRCCの1つもしくは複数の症状を治療または軽減する方法をさらに提供する。RCCを発症している(または発症しやすい)被験対象に、治療化合物を予防的または治療的に投与することができる。投与は全身投与または局所投与であることができる。そのような被験対象は、標準的な臨床的方法を用いて、またはRCCX1〜32遺伝子の発現もしくは活性の異常なレベルを検出することによって同定されることができる。治療薬剤には細胞増殖の阻害剤が含まれる。
【0103】
本発明の方法は、RCCX1〜32遺伝子の遺伝子産物の発現もしくは機能またはその両方を減少させる段階を含む。発現は、当技術分野において周知であるいくつかの方法のいずれかによって抑制されてもよい。例えば、発現は、過剰発現される遺伝子の発現を抑制または拮抗する核酸、例えば過剰発現される遺伝子の発現を阻止するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNA(siRNA)を被験対象に投与することによって抑制することができる。
【0104】
上記のように、RCCX1〜32遺伝子のヌクレオチド配列に相当するアンチセンス核酸を用いて、RCCX1〜32遺伝子の発現レベルを減少させることができる。RCCにおいて上方制御されるRCCX1〜32遺伝子のヌクレオチド配列に相当するアンチセンス核酸は、RCCの治療に有用である。具体的には、本発明のアンチセンス核酸は、RCCX1〜32遺伝子のヌクレオチド配列またはそれに相当するmRNAに結合し、それによって遺伝子の転写もしくは翻訳を抑制し、mRNAの分解を促進し、および/またはRCCX1〜32遺伝子の核酸によってコードされるタンパク質の発現を抑制し、最終的にタンパク質の機能を阻害することによって作用し得る。本明細書で使用する「アンチセンス核酸」という用語は、標的配列に完全に相補的なヌクレオチド、およびアンチセンス核酸が標的配列に特異的に結合し得る限り、ヌクレオチドミスマッチを有するヌクレオチドの両方を含む。例えば、本発明のアンチセンス核酸には、少なくとも15個の連続したヌクレオチドにわたって、少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドが含まれる。当技術分野において公知であるアルゴリズムを用いて、相同性を決定することができる。
【0105】
本発明のアンチセンス核酸は、タンパク質をコードするDNAまたはmRNAに結合し、それらの転写または翻訳を抑制し、mRNAの分解を促進し、かつタンパク質の発現を抑制し、その結果としてタンパク質機能の阻害を生じることにより、マーカー遺伝子によってコードされるタンパク質を産生する細胞に作用する。
【0106】
本発明のアンチセンス核酸は、誘導体に対して不活性である適した基剤と混合することにより、塗布剤または湿布等の外用剤にすることができる。
【0107】
同様に、賦形剤、等張剤、可溶化剤、安定剤、保存剤、鎮痛剤等を加えることにより、アンチセンス核酸を必要に応じて錠剤、散剤、粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル、注射剤、液剤、点鼻剤、および凍結乾燥剤に製剤化することができる。これらは以下の公知の方法に従って調製し得る。
【0108】
本発明のアンチセンス核酸は、患部に直接それを適用することにより、またはそれを患部に到達できるように血管に注入することによって患者に供することができる。アンチセンス封入剤を用いて、耐久性および膜透過性を増すことも可能である。例として、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチン、またはそれらの誘導体が含まれるが、これらに限定されない。
【0109】
本発明のアンチセンス核酸の投与量は患者の状態に応じて適切に調節し、所望の量で使用することができる。例えば、0.1〜100 mg/kg、好ましくは0.1〜50 mg/kgの用量範囲で投与し得る。
【0110】
本発明のアンチセンス核酸は本発明のタンパク質の発現を阻害するので、それによりタンパク質の生物学的活性の抑制に有用である。また、本発明のアンチセンス核酸を含む発現阻害剤は、本発明のタンパク質の生物学的活性を阻害可能であるという点で有用である。
【0111】
本発明のアンチセンス核酸は修飾オリゴヌクレオチドを含む。例えば、チオ化されたオリゴヌクレオチドを、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ耐性を付与するために使用してもよい。
【0112】
またマーカー遺伝子の発現レベルを低下させるために、マーカー遺伝子に対するsiRNAを使用することができる。「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる2本鎖RNA分子を意味する。RNAが転写されるDNAがテンプレートとなる方法を含む、siRNAを細胞内に導入する標準的な手法を用いる。本発明の文脈では、siRNAは、HIG2などの上方制御されるマーカー遺伝子に対するセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、1つの転写物が、標的遺伝子に由来するセンス配列と、これに相補的なアンチセンス配列の両方を有するように構築される(例えばヘアピン)。
【0113】
この方法を用いて、例えば細胞の悪性形質転換の結果として、上方制御される細胞での遺伝子の発現を変化させることができる。標的細胞においてRCCX1〜32遺伝子に相当する転写産物にsiRNAが結合することにより、細胞によるタンパク質の産生が減少する。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然の転写産物と同程度の長さであってもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドの長さは75オリゴヌクレオチド未満、50オリゴヌクレオチド未満、または25オリゴヌクレオチド未満である。最も好ましくはオリゴヌクレオチドの長さは19〜25ヌクレオチドである。哺乳動物細胞において発現を抑制するHIG2 siRNAオリゴヌクレオチドの例には、配列番号:77〜80を含む標的配列が含まれる。
【0114】
siRNAのヌクレオチド配列は、Ambionウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/ misc/siRNA_finder.html)から利用できるsiRNA設計コンピュータプログラムを用いて設計することができる。このコンピュータプログラムは、以下の手順に基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0115】
siRNA標定部位の選択:
1. 目的の転写産物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列について下流方向にスキャンする。潜在的siRNA標的部位として、各AAおよび3'隣接19ヌクレオチドの存在を記録する。Tuschlらは、5'および3'非翻訳領域(UTR)ならびに開始コドン近傍の領域(75塩基内)には制御タンパク質結合部位がより豊富である可能性があるため、これらに対してsiRNAを設計しないことを推奨している。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨げる可能性がある。
2. 有力な標的部位をヒトゲノムデータベースと比較し、他のコード配列に対して有意な相同性を有するいかなる標的配列も検討から除外する。相同性検索はBLASTを用いて行うことができ、これはwww.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/のNCBIサーバー上で見ることができる。
3. 合成のための適格な標的配列を選択する。Ambionでは、評価するために、好ましくは遺伝子の長さに沿っていくつかの標的配列を選択することができる。
【0116】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、ポリペプチドの発現を阻害し、そのためRCCX1〜32遺伝子によりコードされるポリペプチドの生物活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害剤は、RCCX1〜32遺伝子によりコードされるポリペプチドの生物活性を阻害することができるので有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は、RCCの治療に有用である。
【0117】
または、過剰発現される遺伝子の遺伝子産物の機能は、遺伝子産物に結合するかまたはさもなければその機能を阻害する化合物または組成物を投与することによって阻害することができる。例えば、化合物または組成物は過剰発現される遺伝子産物に結合する抗体を含んでもよい。
【0118】
本発明は、抗体、特に上方制御されるマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体、または抗体の断片の使用に関する。本明細書で用いる「抗体」という用語は、抗体を合成するために用いられた抗原(すなわち、上方制御されるマーカー遺伝子産物)またはそれと極めて近縁の抗原とのみ相互作用する(すなわち結合する)特定の構造を有する免疫グロブリン分子を指す。さらに、抗体は、RCCX1〜32遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する限り、抗体の断片または改変抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはH鎖およびL鎖によるFv断片が適切なリンカーにより連結された一本鎖Fv(scFv)であってよい(Huston J. S. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879-5883 (1988))。より具体的には、抗体断片は、抗体をパパインまたはペプシン等の酵素で処理することによって作製し得る。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築し、発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Co M. S. et al. J. Immunol. 152:2968-2976 (1994); Better M. and Horwitz A. H. Methods Enzymol. 178:476-496 (1989); Pluckthun A. and Skerra A. Methods Enzymol. 178:497-515 (1989); Lamoyi E. Methods Enzymol. 121:652-663 (1986); Rousseaux J. et al. Methods Enzymol. 121:663-669 (1986); Bird R. E. and Walker B. W. Trends Biotechnol. 9:132-137 (1991)を参照されたい)。
【0119】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)等の種々の分子との結合により修飾してもよい。本発明はそのような修飾抗体を提供する。修飾抗体は抗体を化学的に修飾することによって得ることができる。これらの修飾法は本分野において慣習的である。
【0120】
または、抗体は、非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域を有するキメラ抗体、または非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク(FR)領域および定常領域を有するヒト化抗体を含んでもよい。そのような抗体は公知の技術を用いて調製することができる。
【0121】
癌細胞において起こる特定の分子変化を対象にした癌治療は、進行性乳癌治療用のトラスツズマブ(Herceptin)、慢性骨髄性白血病用のメシル酸イマチニブ(Gleevec)、非小細胞肺癌(NSCLC)用のゲフィチニブ(Iressa)、B細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫用のリツキシマブ(抗CD20 mAb)等の抗癌剤の臨床開発ならびに規制認可により有効となっている(Ciardiello F, Tortora G. A novel approach in the treatment of cancer: targeting the epidermal growth factor receptor. Clin Cancer Res. 2001 Oct;7(10):2958-70. Review.; Slamon DJ, Leyland-Jones B, Shak S, Fuchs H, Paton V, Bajamonde A, Fleming T, Eiermann W, Wolter J, Pegram M, Baselga J, Norton L. Use of chemotherapy plus a monoclonal antibody against HER2 for metastatic breast cancer that overexpresses HER2. N Engl J Med. 2001 Mar 15;344(11):783-92.; Rehwald U, Schulz H, Reiser M, Sieber M, Staak JO, Morschhauser F, Driessen C, Rudiger T, Muller-Hermelink K, Diehl V, Engert A. Treatment of relapsed CD20+ Hodgkin lymphoma with the monoclonal antibody rituximab is effective and well tolerated: results of a phase 2 trial of the German Hodgkin Lymphoma Study Group. Blood. 2003 Jan 15;101(2):420-424.; Fang G, Kim CN, Perkins CL, Ramadevi N, Winton E, Wittmann S and Bhalla KN. (2000). Blood, 96, 2246-2253)。これらの薬剤は形質転換細胞のみを標的とするため、これまでの抗癌剤よりも臨床的に有効でありかつ許容性がよい。したがって、そのような薬剤は癌患者の生存期間および生活の質を改善するばかりでなく、分子標的癌治療の概念を確証する。さらに、標的薬剤は、標準的な化学療法と併用した場合にその有効性を亢進し得る(Gianni L. (2002). Oncology, 63 Suppl 1, 47-56.;Klejman A, Rushen L, Morrione A, Slupianek A and Skorski T. (2002). Oncogene, 21, 5868-5876.)。したがって、今後の癌治療はおそらく、従来の薬剤と、腫瘍細胞の差次的特徴を目標とした標的特異的な薬剤との併用を含むことになるであろう。
【0122】
これらの調節法は、エクスビボもしくはインビトロで(例えば、細胞を薬剤と培養することにより)、またはインビボで(例えば、被験対象に薬剤を投与することにより)行われることができる。本方法は、差次的に発現される遺伝子の異常な発現または活性を妨げる治療として、タンパク質もしくはタンパク質の組み合わせまたは核酸分子もしくは核酸分子の組み合わせを投与する段階を含む。
【0123】
遺伝子の発現レベルまたは生物活性レベルの増加(疾患または障害に罹患していない被験対象と比較して)を特徴とする疾患および障害は、過剰発現される1つまたは複数の遺伝子の活性を拮抗する(すなわち、低減または阻害する)治療薬剤で処置することができる。活性を拮抗する治療薬剤は治療的または予防的に投与されることができる。
【0124】
利用し得る治療薬剤には、(i) 過剰発現される配列のポリペプチド、またはその類似体、誘導体、断片、もしくは相同体;(ii) 過剰発現される配列に対する抗体;(iii) 過剰発現される配列をコードする核酸;(iv) アンチセンス核酸または「非機能的」である核酸(すなわち、過剰発現される配列のコード配列内への異種挿入による);(v) 低分子干渉RNA(siRNA);あるいは(vi) 調節因子(例えば、過剰発現されるポリペプチドとその結合パートナーとの相互作用を変化させる阻害剤、アゴニスト、およびアンタゴニスト)が含まれ得る。非機能的なアンチセンス分子は、相同的組換えによりポリペプチドの内因的機能を「ノックアウトする」ために利用される(例えば、Capecchi, Science 244: 1288-1292 1989を参照されたい)。
【0125】
遺伝子の発現レベルの増加は、患者の組織試料を(例えば生検組織から)得て、その試料を、発現したペプチド(または発現が変化する遺伝子のmRNA)のRNAもしくはペプチドレベル、構造、および/または活性についてインビトロでアッセイし、ペプチドおよび/またはRNAを定量することによって容易に検出することができる。当技術分野において周知である方法には、免疫測定法(例えば、ウェスタンブロット解析、免疫沈降法およびその後のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学法等による)および/またはmRNAの発現を検出するためのハイブリダイゼーションアッセイ法(例えば、ノーザンアッセイ法、ドットブロット、インサイチューハイブリダイゼーション)が含まれるが、これらに限定されない。
【0126】
疾患の明白な臨床症状が現れる前に、疾患または障害を予防するかまたはその進行を遅らせるように予防的投与を行う。
【0127】
本発明の治療法は、差次的に発現される遺伝子産物の1つまたは複数の活性を調節する物質と細胞を接触させる段階を含む。タンパク質活性を調節する物質には、核酸またはタンパク質、これらのタンパク質の天然に存在する同族リガンド、ペプチド、ペプチド模倣体、または他の低分子が含まれる。
【0128】
本発明はまた、RCCX1〜32遺伝子によってコードされるポリペプチド、またはそのようなポリペプチドの免疫学的活性断片、またはポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを被験対象に投与する段階を含む、被験対象においてRCCを治療または予防する方法に関する。ポリペプチドの投与により、被験対象において抗腫瘍免疫が誘導される。抗腫瘍免疫を誘導するため、RCCX1〜32遺伝子によってコードされるポリペプチド、またはそのようなポリペプチドの免疫学的活性断片、またはそのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを投与する。ポリペプチドまたはその免疫学的活性断片は、RCCに対するワクチンとして有用である、場合によっては、タンパク質またはその断片を、T細胞受容体(TCR)に結合した形態、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)、もしくはB細胞等の抗原提示細胞(APC)によって提示された形態で投与してもよい。DCは抗原提示能が強いため、APCの中でもDCを用いることが最も好ましい。
【0129】
本発明の文脈において、RCCに対するワクチンとは、動物に接種した場合に抗腫瘍免疫を誘導する能力を有する物質を指す。本発明により、RCCX1〜32遺伝子によってコードされるポリペプチドまたはその断片は、RCCX1〜32遺伝子を発現しているRCC細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA-A24またはHLA-A*0201拘束性エピトープペプチドであることが示唆された。したがって本発明はまた、このポリペプチドを用いて抗腫瘍免疫を誘導する方法も含む。一般に、抗腫瘍免疫には以下のような免疫応答が含まれる:
− 腫瘍に対する細胞傷害性リンパ球の誘導、
− 腫瘍を認識する抗体の誘導、および
− 抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0130】
したがって、特定のタンパク質が動物への接種に際してこれらの免疫応答のいずれか1つを誘導する場合、そのタンパク質は抗腫瘍免疫誘導作用を有するとみなされる。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、インビボまたはインビトロのいずれかでタンパク質に対する宿主の免疫系の反応を観察することによって検出することができる。
【0131】
例えば、細胞傷害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は周知である。生体に侵入する外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によりT細胞およびB細胞に対して提示される。APCによって提示された抗原に対して抗原特異的に反応するT細胞は、抗原による刺激により細胞傷害性T細胞(または細胞傷害性Tリンパ球;CTL)に分化し、次いで増殖する(これはT細胞の活性化と称される)。したがって、特定のペプチドによるCTLの誘導は、APCによりT細胞に対してペプチドを提示し、CTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する作用を有する。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞は抗腫瘍免疫においても重要であることから、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用は、これらの細胞の活性化作用を指標として用いて評価することができる。
【0132】
選択されるAPCとして、樹状細胞(DC)を用いるCTLの誘導作用を評価する方法は、当技術分野において周知である。DCは、APCの中で最も強いCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法において、被験ポリペプチドをまずDCと接触させ、次いでこのDCをT細胞と接触させる。DCとの接触後に関心対象の細胞に対して細胞傷害作用を有するT細胞が検出されることで、被験ポリペプチドが細胞傷害性T細胞の誘導活性を有することが示される。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば指標として51Cr標識腫瘍細胞の溶解を用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(乳酸脱水素酵素)放出を指標として用いて、腫瘍細胞の損傷の程度を評価する方法もまた周知である。
【0133】
DCとは別に、末梢血単核細胞(PBMC)をAPCとして用いてもよい。CTLの誘導は、GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することによって増強され得ることが報告されている。同様に、CTLは、PBMCをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下で培養することによって誘導されることも示されている。
【0134】
これらの方法によりCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化作用およびその後のCTL誘導活性を有するポリペプチドである。したがって、腫瘍細胞に対するCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドとの接触によって腫瘍に対するCTL誘導能を獲得したAPCは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示により細胞傷害性を獲得したCTLも、腫瘍に対するワクチンとして用いることができる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を用いたそのような腫瘍の治療法は、細胞免疫療法と称される。
【0135】
一般に、細胞免疫療法にポリペプチドを用いる場合、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせ、それらをDCと接触させることにより、CTL誘導の効率が増加することが知られている。したがって、タンパク質断片でDCを刺激する場合、多くの種類の断片の混合物を用いることが有利である。
【0136】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することができる。例えば、ポリペプチドを免疫した実験動物においてポリペプチドに対する抗体を誘導し、腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、そのポリペプチドは抗腫瘍免疫を誘導する能力を有するとみなされる。
【0137】
抗腫瘍免疫は、本発明のワクチンを投与することによって誘導され、かつ抗腫瘍免疫の誘導によりRCCの治療および予防が可能になる。癌に対する治療および癌の発症の予防は、癌細胞の増殖の抑制、癌の退縮、および癌の発症の抑制等の以下段階のいずれかを含む。癌を有する個体の死亡率の減少、血液中の腫瘍マーカーレベルの減少、癌に伴う検出可能な症状の軽減等もまた、癌の治療または予防に含まれる。そのような治療および予防効果は好ましくは統計的に有意であり、例えば、細胞増殖性疾患に対するワクチンの治療または予防効果をワクチンを投与していない対照と比較した場合に、有意水準5%またはそれ以下で観察される。例えば、スチューデントのt検定、マン・ホイットニーのU検定、ANOVAを統計解析に用いることができる。
【0138】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質またはタンパク質をコードするベクターをアジュバントと組み合わせてもよい。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と共に(または連続して)投与した場合に、そのタンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を指す。例示的なアジュバントとして、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバン等が含まれるが、これらに限定されない。さらに、本発明のワクチンを薬学的に許容される担体と適切に組み合わせてもよい。そのような担体の例には、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液等が含まれる。さらに、ワクチンは必要に応じて、安定剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤等を含み得る。ワクチンは全身投与または局所投与されることができる。ワクチン投与は単回投与で行っても、または複数回の投与により強化することができる。
【0139】
本発明のワクチンとしてAPCまたはCTLを用いる場合、腫瘍は例えばエクスビボ法によって治療または予防することができる。より具体的には、治療または予防を受ける被験対象のPBMCを採取し、細胞をエクスビボでポリペプチドと接触させ、APCまたはCTLを誘導した後に細胞を被験対象に投与することができる。APCはまた、ポリペプチドをコードするベクターをエクスビボでPBMCに導入することによって誘導することもできる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を損傷する高い活性を有する細胞をクローニングし増殖させることにより、細胞免疫療法をより効率的に行うことができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLは、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体に由来する類似した種類の腫瘍に対する細胞免疫療法にも用いることができる。
【0140】
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、癌等の細胞増殖性疾患を治療または予防するための薬学的組成物を提供する。抗腫瘍免疫をもたらすために薬学的組成物を用いることができる。
【0141】
RCCを抑制するための薬学的組成物
薬学的製剤には、経口、直腸、経鼻、局所(口腔および舌下を含む)、膣、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)投与に適した製剤、または吸入もしくは通気による投与に適した製剤が含まれる。投与は静脈内投与であることが好ましい。製剤は任意で個別の投与単位で包装される。
【0142】
経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれが所定量の有効成分を含むカプセル剤、カシェ剤、または錠剤が含まれる。製剤にはまた、散剤、粒剤、または液剤、懸濁剤、もしくは乳剤が含まれる。有効成分は、任意で巨丸剤、舐剤、またはペースト剤として投与される。経口投与用の錠剤およびカプセル剤には、結合剤、増量剤、潤滑剤、崩壊剤、または湿潤剤等の従来の賦形剤を含めてもよい。錠剤は、任意で1つまたは複数の製剤成分と共に、圧縮または成形により作製され得る。圧縮錠剤は、粉末または顆粒のような自由流動形態の有効成分を任意で結合剤、潤滑剤(lubricant)、不活性希釈剤、潤滑剤(lubricating)、界面活性剤、または分散剤と混合して、適した機械において圧縮することにより調製され得る。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿潤した粉末化合物の混合物を適した機械において成形することによって作製され得る。錠剤は、当技術分野において公知の方法に従ってコーティングしてもよい。経口液体製剤は、例えば、水性もしくは油性懸濁剤、液剤、乳剤、シロップ剤、またはエリキシル剤の形態であってもよく、または使用前に水もしくはその他の適した溶剤を用いて構成するための乾燥製品として提供してもよい。そのような液体製剤には、懸濁剤、乳化剤、非水性溶剤(食用油を含み得る)、または保存剤等の従来の添加剤を含めてもよい。錠剤は、任意で、中に含まれる有効成分の持続放出または制御放出を提供するように製剤化され得る。錠剤のパッケージは、その月の各日に服用すべき錠剤1個を含み得る。
【0143】
非経口投与用の製剤には、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、および製剤を目的のレシピエントの血液と等張にする溶質を含み得る水性および非水性無菌注射液;ならびに懸濁剤および増粘剤を含み得る水性および非水性無菌懸濁剤が含まれる。製剤は、例えば密封したアンプルおよびバイアルといった単位用量または多用量容器で提供され得り、使用する直前に例えば生理食塩水、注射用蒸留水といった無菌液体担体の添加のみを必要とする凍結乾燥(freeze-dried)(凍結乾燥(lyophilized))状態で保存され得る。または、製剤は持続注入用に提供してもよい。先に記載した種類の無菌散剤、粒剤、および錠剤から、即時注射溶液および懸濁液を調製することも可能である。
【0144】
直腸投与用の製剤には、カカオ脂またはポリエチレングリコール等の標準的な担体を伴う坐剤が含まれる。例えば口腔または舌下への口内局所投与用の製剤には、スクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカントゴム等の香味基剤中に有効成分を含む口内錠、ならびにゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアラビアゴム等の基剤中に有効成分を含む香剤が含まれる。鼻腔内投与には、本発明の化合物を液体スプレーもしくは分散粉末として、または滴剤の形態で用いてもよい。滴剤は、1つもしくは複数の分散剤、可溶化剤、または懸濁剤もまた含む水性または非水性基剤と共に製剤化され得る。
【0145】
吸入による投与のために、化合物は注入器、噴霧器、加圧パック、またはエアロゾルスプレーを送達する他の簡便な手段から簡便に送達されることができる。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、炭酸ガス、または他の適したガス等の適した噴霧剤を含み得る。加圧エアロゾルの場合には、バルブを備えることにより投与単位を決定して定量を送達してもよい。
【0146】
または、吸入もしくは通気による投与には、化合物は乾燥粉末組成物、例えば、化合物とラクトースまたはデンプン等の適した粉末基剤との粉末混合物の形態をとってもよい。粉末組成物は、例えば、カプセル、薬包、ゼラチン、またはブリスター包装での単位用量形態として提供することができ、そこから吸入器または注入器を用いて粉末が投与され得る。
【0147】
他の製剤には、治療薬剤を放出する埋め込み型装置および粘着パッチが含まれる。
【0148】
所望する場合には、有効成分の持続放出をもたらすように適合化した上記の製剤を用いてもよい。薬学的組成物は、抗菌剤、免疫抑制剤、または保存剤等の他の活性成分もまた含まれ得る。
【0149】
本発明の製剤は、先に詳述した成分に加えて、当該の製剤の種類を考慮して当技術分野において従来的な他の物質を含み得ることが理解されるべきである。例えば、経口投与に適した製剤は香味剤を含み得る。
【0150】
好ましい単位用量製剤は、以下に挙げるような有効成分の有効用量を含む製剤、または有効成分のそれらの適切な一部を含む製剤である。
【0151】
前述の状態のそれぞれに関して、組成物、例えばポリペプチドおよび有機化合物を、約0.1〜約250 mg/kg/日の用量で経口的にまたは注射により投与することができる。成人の用量範囲は一般に、約5 mg〜約17.5 g/日、好ましくは約5 mg〜約10 g/日、および最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。個別の単位で提供される提示の錠剤または他の単位用量形態は、簡便に、そのような用量で効果的な量を含むか、または例えば約5 mg〜約500 mg、通常は約100 mg〜約500 mgを含む単位でそれを複数として含み得る。
【0152】
用いる用量は、被験対象の年齢および性別、処置する障害の詳細、ならびにその重症度を含む多くの要因に依存することになる。同様に、投与経路も状態およびその重症度に依存して変動し得る。
【0153】
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、これらの実施例は特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【0154】
実施例1:一般的方法
臨床試料
cDNAマイクロアレイおよび免疫組織化学的解析に使用するRCC腫瘍および周囲の正常腎組織を、外科的切除を受けた10人の患者から十分な説明に基づく同意を得た上で得た。各症例の臨床病理学的データを表1にまとめた。すべてがI期またはII期であると診断された。対をなす試料を、外科的切除直後に液体窒素中で瞬間凍結し、-80℃で保存した。各検体で、生きている細胞の少なくとも90%が腫瘍細胞であると同定された。したがって、非癌性細胞の混入は極めて少ないと考えられた。これらの組織から、十分な量および質のRNAを伴う細胞集団をマイクロアレイ解析用に選択した。ELISA解析用のRCCおよび慢性糸球体腎炎(CGN)の患者に由来する血漿試料も十分な説明に基づく同意の上で得た。また、正常で健康なボランティアに由来する20の血漿試料も十分な説明に基づく同意の上で得た。
【0155】
(表1) 10症例のRCCの病理学的背景

【0156】
細胞系列および組織標本
4種類のRCC(A498、786-O、caki-1、caki-2)、1種類の頚部腺癌(HeLa)、9種類の結腸癌(SW480、SW948、LoVo、DLD1、HT29、HCT15、HCT116、SNU-C4、およびSNU-C5)、1種類の乳癌(MCF7)、4種類の肝細胞癌(Huh7、SNU475、HepG2、およびAlexander)のそれぞれに由来する細胞系列、1系列のヒト胚性腎細胞(HEK293)およびCOS7細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)および1%抗生物質/抗真菌剤溶液を添加した適切な培地中で単層で成長させ、5% CO2を含む雰囲気中で37℃で維持した。
【0157】
cDNAマイクロアレイ
TRIzol(Invitrogen)を用いて、製造業者の指示書に従い全RNAの抽出を行った。DNase I(Nippon Gene, Osaka, Japan)による処理後に、各腫瘍および対応する正常組織に由来する10 μgの全RNAを、T7転写キット(Epicentre Technologies, Madison, WI)を用いて増幅し、増幅されたRNAを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTPの存在下(各5 μg)で逆転写した。標識プローブを混合し、23,040個のcDNAを含むマイクロアレイスライドに対して、Automatic Slide Processor(Amersham Biosciences, Buckinghamshire, U.K.)を用いてハイブリダイズさせた。各スポットに対するCy5およびCy3の蛍光強度を、52個のハウスキーピング遺伝子の平均Cy5/Cy3比が1となるように調節した。低シグナル強度に由来するデータは信頼性が低いので、各スライドについてカットオフ値を設定し、Cy3とCy5の両方がカットオフ値より低いシグナル強度を供した場合には、遺伝子をその後の解析から外した。
【0158】
RCCで上方制御された遺伝子の同定
各遺伝子の相対発現(Cy5/Cy3の強度比)を以下のように定義した:(i)上方制御された場合(発現比>2.0)、(ii)下方制御された場合(発現比<0.5)、(iii)変化がなかった場合(発現比が0.5〜2.0)、または(iv)発現がなかった場合(または、わずかな発現はあるが、検出用カットオフレベル未満の場合)。これらのカテゴリーを、試料群のなかで発現比の変化が共通の一連の遺伝子、ならびに特定の下位群に特異的な一連の遺伝子を、Schenaらのプロトコルに従って検出するために用いた。RCCで一般に上方制御される遺伝子を検出するために、マイクロアレイ上における23,040個の遺伝子の全体的な発現パターンのスクリーニングを最初に行い、(i)、(ii)、または(iii)に分類されたRCC症例の50%を上回る割合で存在した、発現比が2.0を上回る遺伝子を選択した。最後にRCCに高度に特異的な診断用マーカーを得て、潜在的な分子標的を同定するために、正常腎臓で発現しなかった遺伝子を、正常ヒト組織の発現データベースを参考にして選択した。
【0159】
半定量RT-PCR解析
抽出されたRNAを、オリゴ(dT)21プライマーおよびSuperScript II逆転写酵素(Invitrogen)を用いて逆転写した。cDNAマイクロアレイの構築用に調製したものと同じ遺伝子特異的プライマー、または内部対照としてチューブリンαIII(TUBA3)特異的プライマーを用いて半定量RT-PCR実験を実施した。プライマーの配列を表2に列挙した。PCR反応は、産物の強度を増幅の対数期内で保証するために、サイクル数を最適化した。
【0160】
(表2) RT-PCR確認用のプライマーセット



【0161】
多組織ノーザンブロット解析
ヒトHIG2(hHIG2)のcDNAプローブを[α-32P]dCTPで標識し、サプライヤーのマニュアルに従ってHuman MTN Blot(Clontech)とハイブリダイズさせた。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は、製造業者の推奨通りに行った。このブロットを増感スクリーンを用いて-80℃で14日間かけてオートラジオグラフ化した。
【0162】
hHIG2のクローニングおよび安定形質転換体の樹立
HIG2の全コード配列をKOD-plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO)を用いてRT-PCRで増幅し、neo耐性遺伝子を含むpcDNA3.1(+)-Myc/Hisベクター(Invitrogen)のBamHIおよびXhoIの制限酵素切断部位に挿入した(pcDNA3.1(+)-hHIG2-Myc/His)。構築物を配列決定で確認した。フォワードプライマーとして5’- TTTCTCTGCAGAGGAGTAGGG-3’ (配列番号; 69)を、またリバースプライマーとして5’-CATGCTTCTGGATGGATGG-3’ (配列番号; 70)を使用した。hHIG2の安定形質転換体を得るために、FuGene 6(Roche diagnostics)を用いて、指示マニュアルに従いCOS7細胞にpcDNA-hHIG2をトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を、10% FCSおよびGENETICIN(0.5 mg/ml)を含むDMEM中で培養した。約3週間後に20個の個別のコロニーを選択し、安定トランスフェクタントのスクリーニングを限界希釈法(LDA)で行った。個々のクローンで、HIG2の発現をRT-PCRおよび免疫組織化学染色法で調べた。
【0163】
組換え型hHIG2(rhHIG2)の産生
疎水性ドメイン(27〜63アミノ酸残基)をコードするHIG2断片をpET28a大腸菌ベクター(Novagen)にサブクローンニングした。pET28a-hHIG2で、BL21 codon plus(Invitrogen)コンピテント細胞を形質転換し、0.5 mM IPTGで37℃で3時間かけて誘導した。清澄な細胞溶解物から、TALON Metal Affinity Resins(Clontech)により、サプライヤーの指示マニュアルに従ってrhHIG2を精製した。rhHIG2の最終精製をMonoQ陰イオン交換カラム上でAKTAexplorer 10S(Amersham Biosciences)を用いて行い、大腸菌タンパク質の混入のない1本のピークを得た。
【0164】
ポリクローナル抗体
抗原溶液をアジュバントによって乳化することで、注射用のrhHIG2タンパク質を調製した。精製済みのrhHIG2タンパク質に対するポリクローナルの抗HIG2抗体(抗HIG2 pAb)をウサギで作製した(Medical & Biological Laboratories, Nagoya, Japan)。抗血清のアフィニティ精製は、以下の手順で実施した。rhHIG2タンパク質を20 mM HEPES緩衝液(pH 8.5)で透析後に、平衡化したAffi-Gel 15ゲル(Bio-Rad)で2時間インキュベートした。ゲル樹脂の活性エステルをブロックするために、1 Mのエタノールアミン-HCl(pH 8.0)を添加して1時間回転した。アフィニティ樹脂結合リガンドをカラムに移しTBS-Tで平衡化した。濾過された抗血清を上記カラムに添加し、4℃でインキュベートして2時間回転した。TBS-Tおよび50 mM Tris-HCl(pH 7.5)、1 M NaCl、1% Triton X-100で洗浄後に、10%エチレングリコールを添加した0.1 Mグリシン-HCl(pH 2.5)によって精製後の抗体を溶出し、PBSで透析を行った。
【0165】
免疫組織化学的解析
FuGene6トランスフェクション試薬(Roche, Basel, Switzerland)と混合した1 μgのpcDNA3.1(+)-HIG2-Myc/HisプラスミドをCOS7細胞にトランスフェクトした。COS7に由来する安定トランスフェクタントをPBS(-)で2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド溶液で室温で10分間かけて固定し、0.1% Triton X-100を含むPBS(-)で2.5分間処理することで透過性を付与した。一次抗体と反応させる前に、細胞をPBS(-)中の3% BSAで60分間覆うことにより、非特異的な抗体結合部位をブロックした。抗HIG2 pAb(一次抗体)、およびウサギIgG(FITC結合)(ICN Biomedicals, Inc. Aurora, OH)に対するヤギIgG画分(二次抗体)によって、Myc標識HIG2タンパク質を検出した。正常ヒト組織(心臓、肝臓、肺、成体腎、胎児腎、前立腺、膵臓、脊髄;BIOCHAIN)のパラフィン包埋標本をキシレンおよびエタノールで処理してパラフィンを除去した。ENVISION+Kit/HRP(DAKO)がHIG2を検出するために用いられ、内因性のペルオキシダーゼおよびタンパク質ブロッキング反応後に、アフィニティ精製したウサギ抗hHIG2ポリクローナル抗体を一次抗体として添加し、混合物をHRP標識抗ウサギIgG(二次抗体)で処理した。最後に基質-色素原を添加し、組織標本をヘマトキシリンで対比染色した。免疫染色を阻害する実験も過去に記載されたように行った(Mintz PJ., Kim J., Do KA., Wang X., Zinner RG., Cristofanilli M., Arap MA., Hong WK., Troncoso P., Logothetis CJ., Pasqualini R., Arap W. Fingerprinting the circulating repertoire of antibodies from cancer patients. Nat Biotechnol. 21, 57-63 (2003))。
【0166】
ウエスタンブロッティング
トランスフェクトされたCOS7細胞を無血清培地で維持し、トランスフェクションの24時間後と48時間後に回収した。溶解物および濃縮後の培地を15% SDS-ポリアクリルアミドゲルで分離し、ニトロセルロース膜に移行させ抗HIG2 pAbとともにインキュベートした。マウス抗ヒトc-Mycモノクローナル抗体9E10(Roche)およびヒツジ抗マウスIgG-HRP抗体(Amersham Biosciences)とのインキュベーション後に、ECLキット(Amersham Bioscience)でシグナルを可視化した。RCC細胞系列であるA498、786-O、caki-1、およびcaki-2を5% O2下で24時間培養した。アフィニティ精製したHIG2-pAb(一次抗体)、およびヒツジ抗ウサギIgG-HRP(二次抗体)(Amersham Biosciences)によって、内因性のHIG2タンパク質が検出された。β-アクチンを2000倍に希釈して、タンパク質のローディング用の対照として使用した(クローンAC-15、Sigma)。
【0167】
細胞成長アッセイ法
COS7細胞のHIG2安定トランスフェクタントを6ウェルのマイクロタイタープレート上(1 X 104細胞/ウェル)に播種し、0.5 mg/mlのGENETICINを添加した10% FCSを含む培地で24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、および144時間維持した。各時点において、細胞増殖を細胞計数キット(WAKO)で評価した。トランスフェクタント(5 X 103細胞/ウェル)を、0.1% FCSおよび100 nMまたは1 mMのBSAを含むDMEM中で、組換え型hHIG2タンパク質の添加後5日間培養し、その時点で再度細胞数を決定した。RCC細胞系列であるcaki-1およびcaki-2を12ウェルのマイクロプレート(1 X 103細胞/ウェル)に播種し、1 mMのアフィニティ精製抗HIG2 pAbを添加した0.5% FCSを含むMcCoys'5A培地で5日間培養した。
【0168】
自己分泌アッセイ法
HIG2をトランスフェクトしたCOS7細胞を、FBSを含まないDMEMで2日間維持し、細胞成長中におけるHIG2の自己産生を確認した。COS7細胞を、HIG2を発現するCOS7細胞および非発現細胞の調整培地中で培養した。自己分泌作用は、抗HIG2 pAb(濃度 1 mM)に曝露することで中和した。成長の変化を血球計数器で監視した。
【0169】
ギムザ染色
100 mmのディッシュで培養した細胞を氷冷PBS(-)で2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを用いて4℃で30分間かけて固定し、再びPBS(-)で2回洗浄し、4%ギムザ溶液で染色した。
【0170】
FACS解析
caki-1細胞を0.5 μMおよび1.0 μMの抗HIG2 pAbで、また0.5 μMおよび1.0 μMの免疫前ウサギIgGでそれぞれ5日間処理した。FACS解析では、吸着性および遊離性の細胞を混合し、70%エタノールで4℃で固定した。PBSで2回洗浄した後に、細胞を、1 μgの煮沸済みRNase Iを含む1 mlのPBSと37℃で30分間インキュベートした。次に細胞を、50 μgのヨウ化プロピジウム(PI)を含む1 mlのPBSで染色した。サブG1画分のパーセンテージを、少なくとも2000個の細胞からフローサイトメーター(FACScalibur; Becton Dickinson, San Diego, CA)で決定した。
【0171】
HIG2を対象としたELISA
RCC患者の血漿中のHIG2タンパク質を検出して定量するために、ポリスチレン製プレート(Nalge Nunc)を被覆するために50 mM炭酸ナトリウム中10 μg/mlの濃度で、アフィニティ精製した抗HIG2 pAbを用いて酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)を実施した。過剰な結合部位は、2%ウシ血清アルブミン/PBSで37℃で2時間処理してブロックした。RCC患者、慢性糸球体腎炎(CGN)患者、および健康で正常なボランティアの血漿を37℃で2時間インキュベートした。ビオチン化された抗HIG2 pAbおよびペルオキシダーゼ(HRP)標識アビジン(DAKO)をo-フェニレンジアミン(DAKO)溶液とともにインキュベートすることで、血漿中のヒトHIG2タンパク質を検出した。
【0172】
実施例2:腎細胞癌細胞において臨床的に関連のある発現パターンを伴う遺伝子の同定
腎細胞癌の発癌の基礎となる機構を明らかにするために、この型の腫瘍で共通して上方制御される遺伝子を探索した。10の腫瘍における20,000個を上回る遺伝子のcDNAマイクロアレイ解析の結果、検査症例の50%以上で上方制御された32個の遺伝子が同定された(表3)。これら32個の遺伝子の上方制御は、半定量RT-PCR解析で再確認された(図1)。
【0173】
(表3) RCCで上方制御された32個の遺伝子


【0174】
実施例3:HIG2の特性づけ
HIG2は、検査されたRCCの10症例中9症例において上方制御された(図1、2a)。これとは対照的にHIG2の発現は、調べた他のどの29の臓器においても、胎児の腎臓を例外として、ほとんど検出されなかった(Saito-Hisaminato A., Katagiri T., Kakiuchi S., Nakamura T., Tsunoda T., Nakamura Y. Genome-wide profiling of gene expression in 29 normal human tissues with a cDNA microarray. DNA Res. 9, 35-45 (2002))。多組織ノーザン(MTN)ブロット解析でも、HIG2の発現が一様に低レベルであり、気管、脊髄、および甲状腺(図2b)に限定されることが示された。
【0175】
腎細胞癌以外の腫瘍におけるHIG2の発現レベルをさらに調べるために、さまざまな組織に由来する癌細胞系列を用いたRT-PCR解析を行った。HIG2はRCC細胞系列で強く発現されていたが、結腸癌(CC)、乳癌(BC)、および肝細胞癌(HCC)の各細胞系列を含む他の臓器に由来する癌細胞系列では極めて低レベルで発現されていた(図2c)。
【0176】
HIG2産物の内因性発現を確認するために、HIG2に対するポリクローナル抗体を作製した。ウサギを、C末端の14アミノ酸残基に対応する親水性のEPTKGLPDHPSRSMペプチド、および完全長の組換え型HIG2タンパク質(N末端のシグナルペプチドモチーフを除く)の各ペプチドを用いることにより免疫化した。これらのウサギで生じた抗体をrhHIG2用いて、「材料および方法」に記載されているように精製した。最初に、これらの精製後のHIG2特異的ポリクローナル抗体(抗HIG2 pAb)が、RCC細胞系列(A498、786-O、caki-1、およびcaki-2)において、内因性HIG2タンパク質を、非特異的なバンドを生じることなく認識できることが確認された(図3a)。この結果は、図2cに示したRT-PCRアッセイ法で得られた結果と矛盾しない。HIG2タンパク質の細胞外分泌についてさらに調査するために、myc標識HIG2および抗HIG2 pAbを用いて免疫組織化学染色を行った。myc標識HIG2の産物は予想通り、分泌小胞内における細胞質の顆粒状の分布(図3b)を明らかにした(Denko N., Schindler C., Koong A., Laderoute K., Green C., Giaccia A. Epigenetic regulation of gene expression in cervical cancer cells by the tumor microenvironment. Clin Cancer Res. 6, 480-487 (2000))。さらに、myc標識HIG2を発現するように設計されたプラスミドで一過的にトランスフェクトされたCOS7細胞の細胞溶解物および培地を用いて、抗HIG2 pAbによるウェスタンブロット解析を行った(「材料および方法」を参照されたい)。HIG2タンパク質が培地中に検出され、また分泌されたタンパク質の量は、時間に依存して増加した(図3c)。
【0177】
RCC、ならびに心臓、肝臓、肺、腎臓、胎児腎臓、脊髄、前立腺、および膵臓などのさまざまな臓器の免疫組織化学的解析から、もっぱらRCC(図3d;iii、iv)で、および胎児腎臓(図3d;v、vi)でHIG2が強く染色されることが示された。他の組織では、極めて低い染色が観察されるか、または染色が認められなかった(図3e)。免疫組織化学シグナルの阻害は、組換え型HIG2タンパク質によっても示されたことから(図3f、矢印)、抗HIG2 pAbの特異性が高いことがわかる。HIG2の過剰発現は、RCCの明細胞型を用いて同定されたが、免疫組織化学的解析の結果、乳頭状細胞癌では発現されるが、顆粒状型のRCCでは発現されないことも同定した(図3g)。抗HIF1α mAbまたは抗HIG2 pAbを用いることによって、低酸素条件と関係なく、RCC組織切片の全てにわたり多量のHIG2が発現することが認められた(図3h)。
【0178】
実施例4:HIG2は癌細胞の成長を調節する
HIG2がRCC細胞成長の因子であるか否かを判定するために、MTTアッセイ法およびコロニー形成アッセイ法を行った。HIG2を発現するように設計されたプラスミド発現ベクターを、内因性のHIG2発現が低かったCOS7細胞にトランスフェクトし(擬似試料;図4a)、HIG2を安定に過剰発現する細胞集団を確立した(安定A、B;図4a〜4b)。COS7-HIG2-安定は、対照ベクタープラスミドをトランスフェクトしたCOS7細胞と比較して、細胞成長の有意な促進を示した(図4c)。この結果は、3回の独立した実験で確認された。
【0179】
実施例5:HIG2-siRNA発現ベクターの産生
RNAポリメラーゼIIIによるH1 RNA遺伝子の転写によって、3'端にウリジンを伴う短い転写物が得られた。H1 RNAのプロモーター領域を含むゲノム断片を、5’-TGGTAGCCAAGTGCAGGTTATA-3’ (配列番号; 71)、および 5’-CCAAAGGGTTTCTGCAGTTTCA -3’ (配列番号; 72)のプライマー対を用いて、またヒト胎盤DNAをテンプレートとしたPCRで増幅した。産物を精製し、pCR2.1プラスミドベクターにTAクローニングキットを用いて、製造業者のプロトコル(Invitrogen)に従ってクローニングした。H1 RNAを含むBamHI、XhoI断片を精製し、ヌクレオチド1257と56の間のpcDNA3.1(+)にクローニングし、断片を5’-TGCGGATCCAGAGCAGATTGTACTGAGAGT-3’ (配列番号; 73) 、および5’-CTCTATCTCGAGTGAGGCGGAAAGAACCA-3’ (配列番号; 74)のプライマーを用いてPCRで増幅した。連結されたDNAは、プライマー 5’- TTTAAGCTTGAAGACCATTTTTGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAC-3’ (配列番号; 75)、および 5’- TTTAAGCTTGAAGACATGGGAAAGAGTGGTCTCA -3’ (配列番号; 76)によるPCR増幅用のテンプレートとなった。産物をHindIIIで切断して、引き続き自己連結させることで、psiH1BXベクタープラスミドを得た。HIG2に対するsiRNA発現ベクター(psiH1BX-HIG2)を、表4に従って、2本鎖オリゴヌクレオチドをpsiH1BXベクターのBbsI切断部位にクローニングすることで調製した。
【0180】
(表4)

【0181】
HIG2の標的配列を以下に示す:
siRNA #1
5'- GCATGTGATAAGACCTCCT-3' (配列番号; 77)、
siRNA #2
5'-CACTGACCTAGACATGTCC-3' (配列番号; 78)、
siRNA #3
5'-GAACCTGTCTAACTGGATG-3'(配列番号; 79) 、
siRNA #4 および
5'-CCTGTCTAACTGGATGCTC-3' (配列番号; 80)
【0182】
対照については、psiH1BX3-EGFPを、5’-TCCCGAAGCAGCACGACTTCTTCTTCAAGAGAGAAGAAGTCGTGCTGCTTC-3’ (配列番号; 81) および 5’-AAAAGAAGCAGCACGACTTCTTCTCTCTTGAAGAAGAAGTCGTGCTGCTTC-3’ (配列番号; 82) の2本鎖オリゴヌクレオチドをpsiH1BX3のクローニング部位にクローニングすることで調製した。
【0183】
実施例6:HIG2 siRNAおよびHIG2抗体は細胞の成長を阻害する
HIG2 siRNAが細胞の成長に及ぼす作用を決定するために、上記の各siRNA発現ベクターをLipofectamine(商標)2000(Invitrogen)を用いてRCC細胞系列(caki-1およびcaki-2)、およびHIG2を内因的に発現するヒト胚性腎細胞HEK293にトランスフェクトした。GENETICIN(Invitrogen)による選択後に、細胞増殖様式を上述のギムザ染色(2週間で選択)、およびMTTアッセイ法(1週間で選択)で評価し、HIG2 mRNAのノックダウン作用を半定量RT-PCRおよびウェスタンブロット解析で同定した。
【0184】
内因的HIG2の発現はsiRNAの導入によって有意に抑制され、2種類のRCC細胞(caki-1およびcaki-2)、ならびにヒト胚性腎細胞(HEK293)の細胞成長の低下を生じた(図5a〜d)。
【0185】
トランスフェクトされたCOS7細胞によってHIG2は培地中に分泌されるので、このタンパク質が、自己分泌的に機能して細胞増殖を促進するか否かを判定した。
【0186】
HIG2を過剰発現する安定COS7細胞用の培地(図4b、c参照)を調製し、親COS7細胞を、HIG2を含む培地で培養した。また、rhHIG2を親COS7細胞培地に添加した。両実験の結果は、細胞の成長が促進されることを明らかにし(図6a、b)、またこの成長促進作用は、抗HIG2 pAbの添加によって中和された(図6a)。さらにこの抗体を、2つのRCC細胞系列(caki-1およびcaki-2)を支持する培地に添加したところ、細胞の成長は有意に抑制された(図6c、d)。
【0187】
次に、抗HIG2 pAbで処理したcaki-1細胞を用いてFACS解析を実施したところ、抗HIG2 pAbが、caki-1細胞の(サブG1)細胞集団のアポトーシスを用量依存的に増加させたことが判明した(図6e)。ただし、他の臓器に由来する癌の細胞系列は、抗HIG2 pAb処理の影響を受けなかった(データは提示していない)。この結果は、分泌性分子であるHIG2が、腎腫瘍細胞の増殖に不可欠な自己分泌成長因子として機能するという結論を強く支持する。
【0188】
以上の結果はHIG2が、細胞増殖の自己分泌調節因子として機能することによって、ヒト癌細胞における異常な細胞成長に寄与することが示された。
【0189】
HIG2はRCC患者の潜在的な診断マーカーである
RCCに特異的な診断用腫瘍マーカーとしてのHIG2の有用性を評価するために、32人のRCC患者、ならびに負の対照として20人の健康で正常なボランティアおよび10人の慢性糸球体腎炎(CGN)患者の血漿試料を用いてサンドイッチ型ELISA解析を実施した。全20人の健康で正常なボランティアおよび10人のCGN患者の場合と比較して、かなり高いレベルのHIG2タンパク質が32人のRCC患者全員に由来する血漿中に観察された(図7a)。予想した通り、限局性腫瘍を有するRCC患者の血漿中のHIG2タンパク質レベルは、腫瘍の外科手術後に劇的に低下した(図7b)。しかしながら、転移性腫瘍を有する患者の血漿中のHIG2タンパク質レベルには、原発巣が外科的手術によって切除された後でもほとんど変化しなかった。これらの結果は、HIG2の発現がRCCに特異的であり、また特異的な腫瘍マーカーが現時点で入手不可能な癌であるRCCの高感度診断用マーカーとしての、高い可能性を有することを意味する。
【0190】
これらの結果からHIG2が、細胞増殖の自己分泌調節因子として機能することによって、ヒトの癌細胞における異常な細胞成長に寄与することがわかる。
【0191】
産業上の利用可能性
ゲノムワイドなcDNAマイクロアレイにより得られた、本明細書に記載されたRCCの遺伝子発現解析では、癌の予防および治療の標的として特異的な遺伝子が同定された。これらの差次的に発現される遺伝子群の発現を基に本発明は、RCCを同定または検出するための分子診断マーカーを提供する。
【0192】
本明細書に記載された方法は、RCCの予防用、診断用、および治療用のさらなる分子標的の同定にも有用である。本明細書に報告されたデータは、RCCの包括的な理解の一助となり、新規診断戦略の開発を促し、また治療用薬剤および予防用薬剤の分子標的を同定するための手がかりを提供する。これらの情報は、腎腫瘍形成の、より深い理解に寄与し、またRCCの診断、治療、そして究極的には予防のための新たな戦略を開発するための指標をもたらす。
【0193】
他の態様
本発明を詳細な説明とともに記述したが、上記の記述は説明することが意図されており、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を制限する意図はないことを理解すべきである。他の局面、利点、および修正は、添付の特許請求の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】図1-1〜図1-2は、腎細胞癌で上方制御された32個の遺伝子の発現を示すゲルの写真である。上方制御は半定量RT-PCRによって確認された。
【図2A】cDNAマイクロアレイによる、臨床RCC試料におけるHIG2の発現プロファイルを示す棒グラフ。HIG2の転写レベルは、RCCの10症例中9症例で明らかに上昇していた。「T」は腫瘍を意味し、「N」は対応する正常組織を意味する。
【図2B】さまざまな組織におけるHIG2の発現レベルを示すノーザンブロットの写真。
【図2C】結腸直腸癌細胞系列(CC)、乳癌細胞系列(BC)、肝細胞癌細胞系列(HCC)、および腎細胞癌細胞系列(RCC)の、各腫瘍組織に由来するさまざまな細胞系列で半定量RT-PCRによって測定されたHIG2の発現レベルを示すゲルの写真。
【図3A】精製された抗HIG2 pAbの特異性、およびRCC細胞系列における内因性HIG2発現の検出を示す免疫ブロットの写真。「擬似試料」レーンは、pcDNA3.1(+)をトランスフェクトしたCOS7細胞の溶解物を含む。HIG2のレーンは、pcDNA3.1(+)/HIG2をトランスフェクトした細胞の溶解物を含む。RCC細胞系列は、HIG2を明瞭に検出するために低酸素条件(5% O2、95% N2)で維持した。
【図3B】COS7で一過的に発現されたmyc標識HIG2の免疫蛍光染色による、HIG2タンパク質の細胞内局在を示す写真。HIG2は、マウス抗myc抗体およびFITC結合抗マウスIgGを用いて検出した。
【図3C】細胞溶解物(CL)および培地(CM)を用いた、HIG2が分泌タンパク質であることが確認されたことを示す免疫ブロットの写真。HIG2の検出は、抗HIG2抗体を用いて実施した。
【図3D】ヒト成体腎臓(i、ii)、腎細胞癌(iii、iv)、および胎児腎臓(v、vi)の各組織の切片における、抗HIG2抗体によるHIG2タンパク質の免疫組織化学染色の写真。RCCおよび胎児腎臓では強い発現が検出され、正常腎臓では染色は検出されなかった。
【図3E】ヒトの正常組織切片における、抗HIG2抗体によるHIG2タンパク質の免疫組織化学染色の写真。どの正常ヒト組織においてもHIG2タンパク質の発現は観察されなかった。
【図3F】正常腎臓(i、ii)およびRCC(iii、iv)における、HIG2タンパク質の免疫組織化学染色の写真(i、iii=阻害前、ii、iv=阻害後)。組換え型hHIG2タンパク質を添加した時には染色は阻害され(矢印)、ポリクローナルの抗HIG2抗体の非特異的な染色は、ほとんど検出されなかった。
【図3G】顆粒型および乳頭型の腎細胞癌における、HIG2タンパク質の免疫組織化学染色の写真。
【図3H】抗HIF1α mAb(i、ii)または抗HIG2 pAb(iii、iv)によるRCC切片の免疫組織化学染色の写真。「CN」は、中央壊死性領域を示し、また矢印はHIF1αの発現を示す。
【図4A】PCR産物がHIG2のORFを含むプライマーセットを用いたRT-PCRによる、HIG2の安定形質転換体の発現を示すゲルの写真。
【図4B】樹立されたHIG2の安定形質転換体が単クローン性であることを示す写真。
【図4C】HIG2の安定形質転換体の増殖活性を示す棒グラフ。HIG2の安定形質転換体は、擬似安定形質転換体と比較して成長速度の上昇を示した。バーは3回の実験の平均値±SDを示す。*印は、スチューデントt検定による計算で、擬似試料との間に有意差がある(p<0.01)ことを意味する。
【図5A】RCC細胞系列caki-1内で、内因性のHIG2mRNAおよびタンパク質の発現がsiRNAによって抑制されることを示す写真。
【図5B】RCC細胞系列caki-2内で、内因性のHIG2mRNAおよびタンパク質の発現がsiRNAによって抑制されることを示す写真。
【図5C】胚性腎細胞系列HEK293において、内因性のHIG2mRNAおよびタンパク質の発現がsiRNAによって抑制されることを示す写真。
【図5D】siRNAがRCCおよび胎性腎細胞系列の細胞増殖を減少させたことを示すMTTアッセイ法の結果を示す棒グラフ。
【図6A】HIG2を過剰発現するCOS7細胞に由来する調整培地の自己分泌作用が、固有のCOS7細胞の細胞増殖を促進することを示す棒グラフ。バーは3回の実験の平均値±SDを意味する。*印は、スチューデントt検定による計算で、擬似試料との間に有意差がある(p<0.01)ことを意味する。
【図6B】組換え型のhHIG2が、固有のCOS7細胞の細胞増殖を促進することを示す棒グラフ。添加したBSAおよびhHIG2の濃度は1 mMに調節した。バーは3回の実験の平均値±SDを意味する。*印は、スチューデントのt検定による計算で、擬似試料との間に有意差がある(p<0.01)ことを意味する。
【図6C】癌細胞の成長が抗HIG2抗体によって阻害されることを示す写真。細胞を、非免疫ウサギIgGおよび抗HIG2抗体(濃度は各1 mM)に5日間にわたって曝露させた。
【図6D】癌細胞の成長が抗HIG2抗体によって阻害されることを示す棒グラフ。細胞を、非免疫ウサギIgGおよび抗HIG2抗体(濃度は各1 mM)に5日間にわたって曝露させた。バーは3回の実験の平均値±SDを示す。*印は、スチューデントt検定による計算で、擬似試料との間に有意差がある(p<0.01)ことを意味する。
【図6E】抗HIG2 pAbがRCCに特異的な細胞死を促進したことを明らかにしたFACS解析の結果を示す。アポトーシス細胞の占める割合を、FACS解析におけるサブG1集団のパーセンテージで表す。
【図7】RCC患者の血漿中にHIG2タンパク質が検出されたことを示す。(a)ELISAでは、RCC患者の血漿でのみHIG2タンパク質が観察された。CGN患者または正常で健康なボランティアでは、HIG2タンパク質は検出されなかった。(b)外科的切除は、RCC患者の血漿中のHIG2レベルを低下させたが、転移性腫瘍を有する患者では低下は認められなかった。腫瘍の切除が、血漿中のHIG2レベルに及ぼす影響を手術の7日後に評価した。バーは3回の実験の平均値±SDを示す。*印は、手術前の患者の血漿HIG2濃度との間に有意差がある(p<0.01)ことを意味する。


【図2】







【図4】



【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験対象に由来する生物学的試料における、RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択されるRCC関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む、被験対象におけるRCCまたはRCCを発症する素因の診断方法であって、該遺伝子の正常対照レベルと比較した時の上記レベルの上昇は、被験対象がRCCに罹患しているか、またはRCCを発症するリスクを有することを示す、方法。
【請求項2】
決定された試料の発現レベルが正常対照レベルより少なくとも10%大きい、請求項1記載の方法。
【請求項3】
複数のRCC関連遺伝子の発現レベルを決定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
発現レベルを、以下の段階を含む方法で決定する、請求項1記載の方法:
(a)RCC関連遺伝子のmRNAを検出する段階;
(b)RCC関連遺伝子にコードされたタンパク質を検出する段階;および
(c)RCC関連遺伝子にコードされたタンパク質の生物学的活性を検出する段階。
【請求項5】
試料の発現レベルを、RCC関連遺伝子のプローブと、被験対象由来の生物学的試料の遺伝子転写物とのハイブリダイゼーションを検出することで決定する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ハイブリダイゼーション段階をDNAアレイ上で実施する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
生物学的試料が明細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
生物学的試料が、RCC由来の明細胞を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
生物学的試料が体液を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
以下の段階を含む、請求項4記載の方法:
i.被験対象から採取した生物学的試料に、RCC関連遺伝子にコードされたタンパク質を認識する抗体を接触させる段階;
ii.抗体とタンパク質の結合を検出する段階;
iii.被験対象に由来する生物学的試料の結合レベルを、正常被験対象に由来する生物学的試料の結合レベルと比較する段階;および
iv.比較の結果、被験対象に由来する試料における結合レベルが、正常試料の場合と比較して高いことが示された場合に、被験対象がRCCに罹患していることを判断する段階。
【請求項11】
抗体とタンパク質の結合を酵素結合免疫吸着アッセイ法で検出する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
RCC関連遺伝子がHIG2である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
体液が血液または尿である、請求項9記載の方法。
【請求項14】
RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される複数の遺伝子の遺伝子発現のパターンを含むRCCの標準発現プロファイル。
【請求項15】
以下の段階を含む、RCCの治療用または予防用の化合物のスクリーニング法:
(a)RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される核酸にコードされたポリペプチドに試験化合物を接触させる段階;
(b)ポリペプチドと試験化合物間の結合活性を検出する段階;および
(c)ポリペプチドに結合する試験化合物を選択する段階。
【請求項16】
以下の段階を含む、RCCの治療用または予防用の化合物のスクリーニング法:
(a)1つもしくは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させる段階(1つもしくは複数のマーカー遺伝子は、RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される);および
(b)RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させる候補化合物を選択する段階。
【請求項17】
細胞がRCC細胞を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
以下の段階を含む、RCCの治療用または予防用の化合物のスクリーニング法:
(a)RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される核酸にコードされたポリペプチドに試験化合物を接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
(c)試験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較して、RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される核酸にコードされたポリペプチドの生物学的活性を抑制する試験化合物を選択する段階。
【請求項19】
ポリペプチドの生物学的活性が細胞増殖活性である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
ポリペプチドがHIG2である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
以下の段階を含む、RCCの治療用または予防用の化合物のスクリーニング法:
(a)1つもしくは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域、および転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞に候補化合物を接触させる段階(1つもしくは複数のマーカー遺伝子は、RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される);
(b)レポーター遺伝子の活性または発現のレベルを測定する段階;および
(c)マーカー遺伝子が試験化合物の非存在下と比較時に、RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される上方制御されたマーカー遺伝子である場合に、レポーター遺伝子の活性または発現のレベルを低下させる候補化合物を選択する段階。
【請求項22】
RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される複数の遺伝子に結合する検出用試薬を含む、RCCの診断用キット。
【請求項23】
RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される任意の1つの遺伝子にコードされる少なくとも1つのタンパク質に結合する検出用試薬を含む、RCCの診断用キット。
【請求項24】
タンパク質がHIG2遺伝子にコードされた、請求項23記載のキット。
【請求項25】
RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される、複数の核酸配列に結合する核酸を含むアレイ。
【請求項26】
RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される遺伝子にコードされたポリペプチドの発現または活性を低下させる化合物を被験対象に投与する段階を含む、被験対象のRCCの治療法または予防法。
【請求項27】
RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択されるコード配列に相補的なヌクレオチド配列を有するアンチセンスポリヌクレオチドまたはこの誘導体を被験対象に投与する段階を含む、被験対象のRCCの治療法または予防法。
【請求項28】
siRNAを被験対象に投与する段階を含む、被験対象におけるRCCの治療法または予防法であって、該siRNAが、RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される核酸配列の発現を低下させる、方法。
【請求項29】
siRNAがHIG2の発現を低下させる、請求項28記載の方法。
【請求項30】
siRNAのセンス鎖が、配列番号:77、配列番号:78、配列番号:79、および配列番号:80からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される任意の1つの遺伝子にコードされたタンパク質に結合する、薬学的有効量の抗体または抗体断片を被験対象に投与する段階を含む、被験対象のRCCの治療法または予防法。
【請求項32】
抗体または抗体断片が、HIG2遺伝子にコードされたタンパク質に結合する、請求項31記載の方法。
【請求項33】
抗体または抗体断片が、HIG2遺伝子にコードされたタンパク質の少なくともC末端領域を含むタンパク質に結合する、請求項32記載の方法。
【請求項34】
C末端領域が、アミノ酸配列EPTKGLPDHPSRSMを含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される核酸にコードされたポリペプチド、もしくは該ポリペプチドの免疫学的活性断片、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを被験対象に投与する段階を含む、被験対象のRCCの治療法または予防法。
【請求項36】
請求項15〜21のいずれか一項記載の方法で得られる化合物を被験対象に投与する段階を含む、被験対象のRCCの治療法または予防法。
【請求項37】
RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される核酸にコードされたポリペプチド、もしくは該ポリペプチドの免疫学的活性断片、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターを抗原提示細胞に接触させる段階を含む、RCCに対する抗腫瘍免疫を誘導する方法。
【請求項38】
抗原提示細胞を被験対象に投与する段階をさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対する、薬学的有効量のアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子量干渉RNAを含む、RCCの治療用または予防用の組成物。
【請求項40】
siRNAのセンス鎖が、配列番号:77、配列番号:78、配列番号:79、および配列番号:80からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項39記載の組成物。
【請求項41】
RCCX 1〜32の遺伝子からなる群より選択される任意の1つの遺伝子にコードされたタンパク質に結合する、薬学的有効量の抗体または抗体断片を含む、RCCの治療用または予防用の組成物。
【請求項42】
抗体または抗体断片が、HIG2遺伝子にコードされたタンパク質に結合する、請求項41記載の組成物。
【請求項43】
抗体または抗体断片が、HIG2遺伝子にコードされたタンパク質の少なくともC末端領域を含むタンパク質に結合する、請求項42記載の組成物。
【請求項44】
C末端領域が、アミノ酸配列EPTKGLPDHPSRSMを含む、請求項43記載の組成物。
【請求項45】
活性成分として、請求項15〜21のいずれか一項記載の任意の1つの方法によって選択される薬学的有効量の化合物、および薬学的に許容される担体を含む、RCCの治療用または予防用の組成物。
【請求項46】
HIG2遺伝子にコードされたタンパク質に結合する抗体(抗体は、アミノ酸配列EPTKGLPDHPSRSMを含むエピトープを認識する)。

【図7】
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【公表番号】特表2007−528208(P2007−528208A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519273(P2006−519273)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012411
【国際公開番号】WO2005/019475
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】