説明

腫瘍を標的指向化する薬物を封入した粒子

本発明は、腫瘍アポトーシス誘導薬の速放性製剤と、腫瘍治療薬の徐放性製剤と、薬学的に許容される担体とを含む、腫瘍治療薬を患者に送達するための組成物を提供する。この組成物と同時またはそれより前に薬学的に許容される担体中のアポトーシス誘導薬を投与することができる。治療薬(例えばパクリタキセル)のナノ粒子または微小粒子(例えば架橋ゼラチン)を用いることもできる。ナノ粒子または微小粒子に生体接着性コーティング剤で剤皮を施すことができる。リンパ系からの微小粒子のクリアランスを遅延させるために膀胱のリンパ管の入口を封鎖するように凝集するミクロスフェアを利用することもできる。本発明はまた、薬物を封入したゼラチン及び乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)のナノ粒子及び微小粒子を用いて腹腔、膀胱組織、腎臓の腫瘍への薬物送達を標的指向化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連情報
この特許出願は、2003年4月3日に出願された「Paclitaxel-Loaded Particles for Enhancing Delivery of Therapeutic Agents to Tissue(組織への治療薬の送達を高めるためのパクリタキセル封入粒子)」と題する出願番号第60/460,827号の仮出願の優先権を主張する。本明細書で引用する全ての特許、特許出願、及び引用文献は、引用を以って本明細書の一部となす。
【0002】
政府支援調査
この研究は、米国保健福祉省(the United States Department of Health and Human Services)の助成金に一部支援されている(助成番号R37CA49816)。
【0003】
本発明の概要
癌の化学療法を成功させるには、患者に不耐容毒性を生じさせることなく腫瘍細胞に十分な濃度の有効薬物を送達する必要がある。本発明は、腫瘍標的指向化(ターゲッティング)を意図した2つの薬物を封入した粒子について説明する。1つは腹膜癌治療のための薬物を封入した微小粒子であり、腹腔に腹腔内投与される。他の腫瘍を有する器官への微小粒子の局所投与も可能である。もう1つは膀胱癌の膀胱内治療のための薬物を封入したナノ粒子であり、膀胱腔(bladder cavity)に腹腔内投与される。腎臓を標的としたナノ粒子の全身投与も可能である。
【背景技術】
【0004】
薬物を封入した微小粒子
複数の型の癌が腹腔内に位置する器官から派生するが、そのような癌の例として、膵臓癌、肝臓癌、結腸直腸癌、卵巣癌がある。腹腔は、肺癌など腹腔外の器官から派生する癌が疾患の後期に転移する部位でもある。腹腔内では、腫瘍は、骨盤及び腹部の腹膜表面、他の腹膜器官、例えば、腸間膜、膀胱、網、横隔膜、リンパ節、肝臓に見られる。腫瘍細胞による横隔膜または腹部のリンパ排液の閉塞は、癌腫症または腹水を生じさせる腹膜液の流出量低下につながる。
【0005】
腹腔内化学療法は、薬物を腹腔に直接滴下注入する、進行卵巣癌や大腸癌などの腹膜癌の治療に用いられてきた(Otto, S. E., J Intraven. Nurs., 18: 170-176,1995 ; Collins, J. M. , J Clin Oncol, 2: 498-504, 1984)。市販のパクリタキセル製剤であるタキソール(登録商標)やシスプラチンなどの白金結合化合物の腹腔内投与は、患者に恩恵を与え、生存期間を約20%延長していた(Gadducci, et al., Gynecol Oncol, 76: 157-162, 2000; Markman,et al., J Clin Oncol, 19: 1001-1007,2001)。しかし、腹腔内化学療法は、以下の欠点があるためにその使用が制限される。腹腔内治療は、通常留置カテーテルを介して3週間毎に6治療が施される。2つの主たる副作用は、長期に及ぶカテーテルの使用に関連する感染と、腹腔中に高い薬物濃度が存在するために起こる腹痛である(Francis, et al., J Clin Oncol, 13: 2961-2967,1995)。更に、腹腔内投与には入院が必要とされ、かなりの費用がかかる。これらの理由によって、医学界では、生存上の恩恵が示されているにも拘らず、腹腔内治療を用いることに乗り気ではなかった。本発明は、これらの種々の不完全性を克服する。
【0006】
先の特許出願(米国特許出願第09/547,825号)において、出願人は、限局的な腹腔内治療の際に行われるように抗癌剤(例えば、パクリタキセル、ドキソルビシン)が固形腫瘍の外部に投与されると、固形腫瘍への薬物の浸透は非常に緩徐でかつ腫瘍周囲に限定されることを示した。出願人は更に、この浸透問題を解決する方法を発見した。この方法は、腫瘍内の間質腔を拡張し、それによって、同時に及び後から投与された薬物の固形腫瘍全体への浸透及び分布を向上させるため、アポトーシス誘導治療(例えばパクリタキセルまたはドキソルビシンによる治療)を用いることからなる。この方法は、本明細書において「腫瘍プライミング」方法と呼ばれ、2つの条件が要求される。第1の条件は、薬物濃度がアポトーシスを誘導するのに十分でなければならないことである。出願人は、200nMのパクリタキセルによる3時間の治療が、複数のヒト腫瘍細胞においてアポトーシスを誘導するのに十分であることを示した(Au, et al., Cancer Res., 58: 2141-2148, 1998)。第2の条件は、アポトーシス誘導前処置と後続治療間の時間間隔が、アポトーシス発生に十分な時間、例えばパクリタキセルの場合で16乃至24時間でなければならないことである(Au, et al., Cancer Res., 1998; Jang, et al., J. Pharmacol. Exper. Therap., 296: 1035-1042,2001)。これらの条件は、本発明においてクリアされている。
【0007】
出願人は更に、市販のタキソール(Taxole)製剤は、腹腔を裏付ける薄膜である腹膜からの速やかな吸収と、リンパ系からの排液とにより、腹腔内投与後に腹腔から速やかに消失することを発見した(後述の例4及び例6を参照)。
【0008】
これらの種々の考察及び発見に基づき、出願人は、治療が以下に示す所望の特性の一部またはほとんどを満たすものであれば、治療的に有用な膀胱内化学療法を達成することが可能であるという結論に到達した。そのような所望の特性とは、第1に、薬物が所期の標的癌型に対する活性を有することである。第2に、治療は、投与が容易であり、例えば1〜2日以上の長期にわたる留置カテーテルの使用を必要とせず、例えば週1回程度の頻回投与を必要としないことである。第3に、薬物量と、ゆえに腹腔中の薬物濃度とが、疾患の適切な対照を与えるように十分に高いが、同時に有意な局所毒性を生じさせないように十分に低くなるように、薬物が現れる速度が最適化されることである。第4に、薬物または製剤は、固形腫瘍に浸透可能でかつ固形腫瘍内に広範に分布するものでなければならない。第5に、薬物または製剤は、腫瘍が局在化する腹腔内に長時間滞留することである。第6に、薬物または製剤が腫瘍細胞に高い親和性を有し、腫瘍表面上または腫瘍塊内に局在することである。第7に、薬物または製剤の分布は、腹腔または器官内で腫瘍細胞の分布または散在に類似していることである。本発明の薬物を封入した微小粒子には、これら所望の機能のほとんどまたは全てが備えられている。
【0009】
薬物を封入した微小粒子は、2つの速度で薬物を放出するように設計される。1つはアポトーシスを誘導するのに十分に高い薬物濃度を与えるための速やかな放出であり、もう1つは腫瘍への持効性薬物送達を与えるためのより緩徐な放出である。アポトーシス誘導は、徐放性粒子から引き続いて放出される残りの微小粒子及び残りの薬物の浸透及び分布を促進する。例えば数日間、数週間、または数ヵ月の長期にわたる緩徐な薬物放出は、単回投与の利便性を患者に提供し、治療の頻度を低減し、入院の必要性をなくし、保健医療費を削減し、留置腹腔内カテーテル使用の必要性をなくし、それによって感染のリスクを減らし、患者の生活の質を向上させ、全ての速放性の巨丸剤で一度に全用量を投与することにより腹腔に高い局所濃度が生じて局所毒性を低減する。これらの粒子は、そのサイズ及び特性によって、腹腔に滞留し、腫瘍に接着し、腹腔または器官内に同様の分布を示す。
【0010】
粒子は、2若しくはそれ以上の型の粒子を組み合わせたものでもよいが、少なくとも1つはアポトーシスを誘導するために薬物を速やかに放出する型(速放性)のものであり、残りは薬物をより緩徐に放出する型(徐放性)のものとする。パクリタキセルは抗癌剤として広範に用いられているが、そのパクリタキセルを封入した微小粒子の例を与えることにより、パクリタキセルがクレモフォア(Cremophor)及びエタノールに可溶化されるような市販のパクリタキセル製剤即ちタキソール(登録商標)に比べると腹膜腫瘍を有するマウスにおいて優れた腫瘍標的指向化及び抗腫瘍活性を生じさせることに関してこれらの粒子の有用性を実証する。
【0011】
出願人は更に、腹膜癌を治療する目的で他の薬物を同じ微小粒子に製剤することができることを開示している。
【0012】
出願人は更に、局所または限局投与によって容易に到達可能である器官または領域に位置する腫瘍の治療に対する薬物を封入した粒子の使用について述べている。
【0013】
本発明は、治療の有用性の薬物を封入したゼラチン及びPLGA重合体からできている生分解性粒子を用いている。ゼラチン及びPLGA粒子に製剤される薬物の1つは、パクリタキセルである。種々の生分解性重合体結合型パクリタキセル製剤が開発され、動物モデルにおいて最小の全身毒性で腫瘍成長及び脈管形成を阻害することが示されていたが、これらの系におけるパクリタキセルの放出動態は、約50日間にわたり放出された薬物の約10乃至25%の範囲にあり、臨床使用に最適でない可能性が高い(特許文献1)。それに加えて、これらの先行研究のほとんどは、限局的よりむしろ全身的な薬物送達を達成することを目的としていた。治療に役立つ薬物のための担体としての生分解性高分子の利点は当技術分野で認められており(特許文献1)、そのような利点には、(1)完全な生分解、即ち薬物を供給し終わった薬物担体を除去するための再手術を必要としないこと、(2)組織生体適合性、(3)投与の容易性、(4)重合体の加水分解時における持効性カプセル化薬物放出制御、(5)限局的な使用の場合、好中球減少などの全身毒性の最小化または排除、(6)多用性という観点から見た生分解性高分子系自体の利便性、が含まれる。これらの利点の多くは、ゼラチン薬物放出粒子に同様に当てはまる。
【0014】
膀胱癌の膀胱内治療のためのパクリタキセルを封入したナノ粒子
膀胱癌の再発及び/または進行を軽減するために、膀胱内化学療法が用いられる(Kurth, K. H., Semin. Urol. Oncol., 14 : 30-35,1996)。膀胱内化学療法には、全身露出を最小限に抑える一方で腫瘍を有する膀胱に薬物を高濃度で選択的に送達するという利点がある。マイトマイシンCやドキソルビシンなどの化学療法を表在性膀胱癌患者に施して治療が成功しないのは、膀胱組織に位置する腫瘍への薬物送達が低いことに一部起因することを出願人は示している(Dalton, et al., Cancer Res., 51: 5144-5152, 1991; Schmittgen, et al., Cancer Res., 51: 3849- 3856,1991; Wientjes, et al., Pharm. Res., 8: 168-173, 1991; Wientjes, et al., Cancer Res., 51: 4347-4354, 1991; Wientjes, et al., Cancer Res., 53: 3314-3320, 1993; Chai, et al., J Urol., 152: 374-378, 1994; Wientjes, et al., Cancer Chemother Pharmacol. 37: 539-546, 1996; Au, et al., J. Natl. Cancer Inst., 93: 597-604, 2001; 特許文献2)。薬物送達が低いことは、同様に、幾つかの理由にも起因していた。第1に、膀胱腔の内面を覆う尿路上皮に浸透することができたのは、マイトマイシンCまたはドキソルビシン用量の一部分のみ、例えば−3%乃至−5%であった。第2に、薬物投与時に残尿が存在することによって、そして、治療間隔中(例えば2時間)に生成された尿によって、薬物の濃度が希釈された。第3に、患者は自らの膀胱を空にする必要があるので、マイトマイシンCなどの薬物への腫瘍細胞の全露出は治療間隔の長さに制限された。第4に、膀胱組織におけるマイトマイシンCなどの薬物の滞留は、治療期間により決定され、大部分は患者が膀胱を空にしてから数分間以内に終わる。
【0015】
これらの種々の考察及び発見に基づき、出願人は、治療が以下に示す所望の特性の一部またはほとんどを満たすものであれば、治療的に有用な膀胱内化学療法は達成可能であるという結論に到達した。第1に、薬物が膀胱癌に対する活性を有することである。第2に、尿中に存在する薬物の大部分は尿路上皮を浸透することができなくてはならない。第3に、膀胱組織における薬物の滞留時間が治療の持続期間を超えないことである。第4に、尿中の薬物濃度が尿量に左右されないことである。パクリタキセルは膀胱癌に対して活性であり(Roth, B., J. Semin.Oncol., 22: 1-5,1995)、出願人が示すように、尿路上皮全域で例えば用量の50%に容易に分配される(Song, et al., Cancer Chemother. Pharmacol., 40: 285-292,1997)。出願人は更に、細胞外マトリクスから薬物を除去した後にパクリタキセルが腫瘍細胞に停留していること(Kuh, et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 293: 761-770, 2000)、2時間の治療期間を超えて薬物作用を延長する機会を与えるような特性を発見した。しかし、タキソール(登録商標)などの市販のパクリタキセル製剤は有用ではなく、その理由は、パクリタキセルを可溶化するのに用いられるクレモフォアは、パクリタキセルをミセルに取り込むことによって、パクリタキセルの遊離割合を減少させ、結果的に膀胱組織への薬物の浸透性を低下させるからである(Knemeyer, et al., Cancer Chemother. Pharmacol., 44: 241-248,1999)。
【0016】
出願人は、それゆえ、出願人の発見において特定された所望の特性を全て満足するパクリタキセルを封入したナノ粒子を発明した。これらのナノ粒子は、組織中のパクリタキセル濃度がヒト膀胱腫瘍において抗腫瘍活性を生じさせるのに十分であるように、薬物負荷のかなりの部分を2時間の治療間隔内に放出する(例えば例8)。ナノ粒子から放出されるパクリタキセルの量は、尿の薬物溶解度によって制限される。ゆえに、尿中の薬物濃度は比較的一定を保っており、尿量に左右されない(例えば例10)。ナノ粒子から放出され、膀胱に浸透するパクリタキセルはまた、2時間の治療期間を超えた期間、膀胱組織に滞留する(例えば例8)。最後に、出願人は、飼いイヌに自然発生する膀胱癌に対してナノ粒子が効果的であることを決定した(例えば例10)。
【0017】
出願人はまた、例えばゼラチンフレームワークに生体接着性分子で剤皮を施すことによって、薬物を封入したナノ粒子が膀胱腔または膀胱組織に治療期間を超えて持続して滞留するように、薬物を封入したナノ粒子を修飾する方法を開示している(例えば例7)。
【0018】
出願人は更に、同じゼラチンナノ粒子に他の親油性化合物を製剤できることを開示する。
【0019】
最後に、出願人は、ゼラチンナノ粒子の静脈内投与が、腎臓における薬物含量の局在化の増加を開示する(例えば例11)。ここで、腎臓への選択的薬物送達のための方法及び組成物も提供する。
【0020】
定義
本発明を明確かつ矛盾なく理解するために、明細書、例、請求項において用いられる幾つかの用語をここにまとめて示す。
【0021】
本明細書中において「異常成長」なる語は、細胞の正常表現型とは異なる細胞表現型を指し、特に癌などの疾患に直接または間接的に関連するものを指す。
【0022】
本明細書中において「投与する」なる語は、薬物をin vitroなどで細胞に、動物中の細胞に即ちin vivoで、または動物中に戻される細胞(即ちex vivo)に導入することである。
【0023】
本明細書中において「薬物」、「薬物」、「化合物」、「抗癌剤」、「化学治療的」、「制癌剤」、「抗腫瘍剤」なる語は、互換可能に用いられ、(別段の制限がなければ)癌などの異常な細胞成長を阻害または緩和する特性を有する薬物を指す。上記の用語には、細胞毒性剤、細胞破壊剤、または細胞分裂停止剤を含むことを意図している。「薬物」なる語は、小分子、高分子(例えば、ペプチド、タンパク質、抗体または抗体断片)、核酸(例えば、遺伝子療法作成物)、組換えウイルス、核酸断片(例えば合成核酸断片を含む)を含む。
【0024】
本明細書中において「アポトーシス」なる語は、当該分野で十分に確立されている基準によって画定されるような、非壊死性、細胞調節型の細胞死を指す。
【0025】
本明細書中において「良性」、「悪性になる前の」、「悪性」なる語は、当該技術分野において認められている意味を与えるものである。
【0026】
本明細書中において「癌」、「腫瘍細胞」、「腫瘍」、「白血病」、または「白血病細胞」なる語は、互換可能に用いられ、任意の新生物(「新成長」)、例えば、癌(上皮細胞由来)、腺癌(腺細胞由来)、肉腫(結合組織由来)、リンパ腫(リンパ組織由来)、または血液癌(例えば白血病または赤白血病)を指す。癌または腫瘍細胞なる語は、癌細胞または腫瘍細胞の集合と解されるべき癌性組織または腫瘍塊を含むことを意図する。更に、癌または腫瘍細胞なる語は、良性か、悪性になる前か、悪性かいずれかであるような癌または細胞を含むことを意図する。通常、癌または腫瘍細胞は、種々の当該技術分野において認められている顕著な特徴、例えば成長因子非依存性、細胞/細胞接触成長阻害の欠失及び/または異常な核型を示す。対照的に、正常細胞は通常、有限数の継代に対して培養物において継代可能でしかなく、及び/または、種々の当該技術分野において認められている正常細胞に帰する顕著な特徴(例えば、成長因子依存性、接触阻害及び/または正常な核型)を示す。
【0027】
本明細書中において「細胞」なる語は、体細胞や生殖系列哺乳動物細胞などの真核細胞、または例えばHeLa細胞(ヒト)、NIH3T3細胞(マウス)などの細胞株、胎児性幹細胞及び細胞型、例えば造血幹細胞、筋芽細胞、肝細胞、リンパ球、上皮細胞、及び例えば本明細書中に記載の細胞株を含む。
【0028】
本明細書中において「腹膜の」、「腹腔内」、「腹膜に」、または「腹腔内に」なる語は、互換可能に用いられ、腹膜または腹腔に関連する。
【0029】
本明細書中において「局所的に」、「限局的に」、「全身的に」なる語はそれぞれ、「局所的に」例えば腫瘍塊に治療を施すこと、「限局的に」例えば転移が疑われる一般的な腫瘍分野または領域に治療を施すこと、または「全身的に」例えば経口または静脈内投与などにより薬物を被験対象全体に広範に散在させることを意図した治療を施すことを指す。
【0030】
本明細書中において「薬学的に許容される担体」なる語は、当該技術分野において認められており、本発明の化合物を哺乳動物に投与するのに適した薬学的に許容される物質、成分または媒体を含む。
【0031】
本明細書中において「医薬品成分」なる語は、ヒトなどの哺乳動物への投与に適した製剤を含む。本発明の化合物を医薬品としてヒトなどの哺乳動物に投与するとき、他に関係なく、または例えば、0.1乃至99.5%(より好適には0.5乃至90%)の有効成分(例えば治療上効果的な量)を含む医薬品成分として薬学的に許容される担体と併用して、投与することができる。
【0032】
本明細書中において「被験対象」なる語は、ヒト及びヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、家畜、霊長類)を含む意図で用いられる。好適なヒト動物には、異常な細胞成長(例えば癌)によって特徴付けられるような疾患を有するヒト患者を含む。
【0033】
本明細書中において「微小粒子」なる語は、サイズが約0.1μm乃至約100μm、約0.5μm乃至約50μm、0.5μm乃至約20μmの粒子、より高い効果が得られるような、サイズが約1μm乃至約10μm、約5μmの粒子、またはその混合物を指す。微小粒子は、例えば、高分子、遺伝子療法構成体、または化学療法薬を含むことができる。通常、微小粒子は、例えば、局所的にまたは限局的に投与可能である。
【0034】
本明細書中において「ナノ粒子」なる語は、サイズが約0.1nm乃至約1μm、約10nm乃至約1μm、約50nm乃至約1μm、約100nm乃至約1μm、約250乃至900nmの粒子を指すが、より高い効果が得られるような、約600乃至800nmの粒子を指す。ナノ粒子には、高分子、遺伝子治療構成体、または化学療法薬が含まれ得る。例えば、通常ナノ粒子を患者に投与するには、局所投与、限局投与、または全身投与がなされる。
【0035】
本明細書中において「粒子」なる語は、ナノ粒子、微小粒子、またはナノ粒子と微小粒子の両方を指す。
【0036】
本明細書中において「製剤」なる語は、治療的に有効な薬物を剤形になしたような、当技術分野で認められている組成物を指す。
【0037】
本明細書中において「速放性製剤」なる語は、薬物含量の好適には10%以上、より好適には20%以上、より好適には30%以上、より好適には40%以上、より好適には50%以上、更に好適には60%以上を1日間以内に放出する薬物の製剤を指す。速放性製剤の例としては、微小粒子製剤及びナノ粒子製剤が挙げられる。これらの製剤を調剤する方法は、例3及び例7に記載されている。
【0038】
本明細書中において「徐放性製剤」なる語は、持続した期間に関心部位に送達されるような薬物の製剤を指し、薬物含量の放出を好適には数日間、より好適には数週間若しくはそれ以上にわたり維持する製剤を含む。
【0039】
本明細書中において「腫瘍プライミング方法」なる語は、腫瘍細胞密度を低下させ、腫瘍塊への治療薬到達性を増加させるためにアポトーシス誘導薬により腫瘍を「プライミング」することによって治療薬の浸透性を高める方法を指す。この方法は、組織にアポトーシスを生じさせ、それによって組織への腫瘍治療薬(または単に「治療薬」)の浸透性が(例えば組織内にチャネルを作ることによって)高められるようにするのに十分な用量及び期間での、パクリタキセルなどのアポトーシス誘導薬の使用に関与する。このように、アポトーシス誘導薬は治療量の治療薬が組織に送達される前に前処置として用いられ、この前処置は、前処置を用いない場合と比べて組織への治療薬の浸透性を高めることができる。アポトーシス誘導薬はまた治療活性を有し得るので、治療薬としても用い得る(即ち同じ薬物をアポトーシス誘導薬及び治療薬として用いることができる)。或いは、アポトーシス誘導薬を用いて、治療のために他の型の薬物または賦形剤の組織への送達を高めることもできる(即ちアポトーシス誘導薬及び治療薬は異なる薬物であってよく、或いは治療薬をナノ粒子または微小粒子に含ませることができる。このとき、前処置なしの場合と比べて腫瘍組織へのナノ粒子または微小粒子の送達は向上する)。
【0040】
本明細書中において「PLGA」または「乳酸グリコール酸共重合体」なる語は、乳酸またはラクチド(LA)とグリコール酸またはグリコライド(glycolide,GA)が種々の比率で共重合した共重合体を指す。共重合体は異なる平均鎖長を有し得るので、結果として内部粘度と重合体特性が異なる。PLGAは、治療薬を通常は含むような微小粒子またはナノ粒子の調製に用いられる。これらの粒子を調剤するのに用いられる方法については、例3で説明する。
【0041】
本明細書中において「ゼラチン」なる語は、結合組織タンパク質コラーゲンの変性した形態を指す。ゼラチン凝集は、溶液中で形成されるが、タンパク質鎖を架橋することによって安定化する。例7の調製方法を用いてゼラチンをゼラチンナノ粒子に形成するが、通常はパクリタキセルを封入する。異なるブルーム強度(Bloom number)によって示される異なるタンパク質鎖長のゼラチンが入手可能である。ブルーム強度が大きければ大きいほど鎖長が長いことを示す。
【0042】
本明細書中において「IC50」なる語は、50%の薬物効果を生じさせるような薬物濃度または用量を指す。
【0043】
本明細書中において「バースト放出」なる語は、当技術分野で認められている定義を指し、即ち初期に製剤から薬物負荷の一部を速やかに放出することであって、通常は引き続いて薬物負荷の残りがより緩徐に放出される。
【0044】
本明細書中において「局在(化)する」及び「集中する」は、互換可能に用いられ、特定の部位、例えば腫瘍組織での優先的な分布を指す。
【0045】
本明細書中において「生体接着性」なる語は、皮膚、粘膜、腫瘍などの表面に接着し、好適には強力に接着する天然、合成または半合成物質を意味する。適切な生体接着性には、ポリリジン、フィブリノゲン、部分的にエステル化されたポリアクリル酸重合体から調製されたもの、例えば、ポリアクリル酸重合体、セルロース誘導体などの天然または合成の多糖、例えば、メチルセルロース、酢酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ペクチン、硫酸化ショ糖と水酸化アルミニウムの混合物などが含まれる。
【0046】
本明細書中において「間質性膀胱炎」なる語は、当技術分野で認められている、膀胱壁の慢性有痛性炎症性状態の医学状態を指す。
【0047】
本明細書中において「生分解性」重合体または「生腐食性(bioerodible)」重合体なる語は、通常は代謝経路に関与するものとして知られているような、低分子量化合物への分解が可能な重合体を指す。このような重合体には、重合体系であって、系と、場合によっては高分子自体の完全性に影響するような破壊的な化学作用を生物学的環境において及ぼされ得るような、作用部位から離れることができるが必ずしも体から離れるのではない断片または他の分解副産物を与えるような重合体系も含まれる。
【0048】
本発明の概略
本発明は、腫瘍アポトーシス誘導薬の速放性製剤と、腫瘍治療薬の徐放性製剤と、薬学的に許容される担体とを含む、腫瘍治療薬を患者に送達するための組成物を提供する。この組成物と同時またはそれより前に薬学的に許容される担体中のアポトーシス誘導薬を投与することができる。治療薬(例えばパクリタキセル)のナノ粒子または微小粒子(例えば架橋ゼラチン)を用いることもできる。ナノ粒子または微小粒子には生体接着性コーティング剤で剤皮を施すことができる。リンパ系からの微小粒子のクリアランスを遅延させるために膀胱のリンパ管の入口を封鎖するように凝集するミクロスフェアを利用することもできる。
【0049】
本発明はまた、薬物を封入したゼラチン及び乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)のナノ粒子及び微小粒子を用いて腹腔、膀胱組織、腎臓の腫瘍への薬物送達を標的指向化する。
【0050】
【特許文献1】米国特許第6,447,796号
【特許文献2】米国特許第6,286,513B1号
【特許文献3】米国特許第6,132,759号
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0051】
本発明は、腫瘍及び腎臓組織に治療薬を送達するための方法及びそこで用いられる組成物を提供する。本発明の方法は、固形組織や固形腫瘍などの多層組織の内部への治療薬の標的指向化及び浸透性の向上を可能にする。
【0052】
第1の側面では、本発明は、化学療法薬または粒子の腫瘍への浸透を促進する方法を提供する。この方法は、組織においてアポトーシスを生じさせるのに十分な用量及び期間でのアポトーシス誘導薬、例えばパクリタキセルなどの使用に関する。実質的なアポトーシスが生じたときに引き続いて治療薬または粒子を組織に送達すると、組織への治療薬または粒子の浸透性が向上する。よって、アポトーシス誘導薬は治療薬または粒子が組織に送達される前に前処置として用いられ、この前処置によって、前処置なしの場合に比べて組織への治療薬または粒子の浸透性を高めることができる。アポトーシス誘導薬はまた、治療活性を有するので、治療薬として用いることもできる(即ち同じ薬物をアポトーシス誘導薬としても治療薬としても用いることができる)。或いは、アポトーシス誘導薬を用いて組織への他型の薬物の送達を高めることもできる(即ちアポトーシス誘導薬及び治療薬は異なる薬物であってよい)。
【0053】
一実施形態では、本発明は、アポトーシス誘導薬及び治療薬の併用を可能にする製剤を使用する。この実施形態では、アポトーシス誘導薬は速放性製剤として製剤され、治療薬は1若しくは複数の徐放性製剤に製剤される。投与後、速放性製剤は組織にアポトーシスを生じさせることになり、徐放性製剤は実質的にアポトーシスが達成された後で治療薬の全量の大部分を送達することを可能にすることになる。
【0054】
関連する実施形態では、製剤は、アポトーシス誘導薬が初期にバースト放出され、引き続き治療薬として働く残りの薬物負荷がより緩徐に放出されるような単剤である。
【0055】
関連する実施形態では、上記した製剤は、腹腔及び腹腔に隣接する組織における腫瘍の治療に用いられることになる。
【0056】
更なる関連する実施形態では、上記した混合性製剤は、腹水腫瘍の治療に用いられることになる。
【0057】
別の更なる関連する実施形態では、これらの製剤は、起源からの転移性腫瘍であって腹腔においてまたは腫瘍が腹腔に突出しているような腹腔に隣接する組織において成長する腫瘍の治療に用いられる。
【0058】
関連する実施形態では、これらの製剤は、例えば、腹腔、膀胱組織、脳組織、前立腺組織、または肺組織の内部にあるか或いは隣接する1若しくは複数の組織に直接投与によって容易に到達可能である器官または領域に位置する腫瘍の治療に用いられる。
【0059】
別の実施形態では、治療する腫瘍は被験対象の腹腔にあるか或いは腹腔に隣接する組織で成長する。
【0060】
関連する実施形態では、治療する腫瘍は、直接的な投与によって容易に到達可能である器官または領域、例えば、前立腺、膀胱、脳に位置する。
【0061】
更なる実施形態では、微小粒子は、腹腔内経路によって懸濁液として送達される。
【0062】
別の実施形態では、微小粒子は、容易に到達可能器官への直接的な局所注入によって、または容易に到達可能器官に隣接する器官への直接的な限局注入によって、懸濁液として送達される。
【0063】
別の更なる実施形態では、被験対象は哺乳動物であり、好適にはヒトである。
【0064】
別の実施形態では、治療する患者は、腹腔に広がった膵臓癌または卵巣癌患者である。
【0065】
第2の側面では、本発明は、上記方法で用いられる組成物を提供する。これらの組成物は、アポトーシス誘導薬及び治療薬を経時的に放出する種々の薬物を封入したPLGA粒子からなり、アポトーシス誘導薬が初期に速やかに放出され、引き続き治療薬がより緩徐に放出されるようなものである。
【0066】
特定の実施形態では、製剤は、アポトーシス誘導薬の含量の好適には10%以上、より好適には20%以上、より好適には30%以上、より好適には40%以上、より好適には50%以上、更に好適には60%以上を1日間以内に放出しかつ組織にアポトーシスを生じさせるような速放性成分と、治療薬の放出を好適には数日間、より好適には数週間以上維持する1若しくは複数の徐放性成分とからなる。
【0067】
関連する実施形態では、組成物は、初期にバースト放出され、引き続いて残りの薬物負荷がより緩徐に放出されるようなパクリタキセルの単剤であり得る。
【0068】
特定の実施形態では、組成物は、少なくとも1つの製剤がパクリタキセルを速やかに放出し、少なくとも1つの製剤がパクリタキセルをより緩徐に放出するような、2以上のパクリタキセル製剤の組合せであってもよい。関連する実施形態では、混合性製剤は、初期の速やかな放出と後に続く遅延性放出とからなるような、初期のバースト放出を伴う単剤から得られるものより良好な薬物放出制御を与える。
【0069】
別の関連する実施形態では、異なる薬物をアポトーシス誘導薬としても治療薬としても用いるのであれば、混合性製剤は特に有利である。
【0070】
更に別の実施形態では、粒子は、アポトーシス誘導薬または治療薬を含有するように製剤されたPLGA粒子である。典型的な製剤は、薬物の形態で製剤の全量の高々50%、好適には高々30%、より好適には高々20%を含有することになる。
【0071】
時には、適用に望ましい放出速度を達成するためにトウィーン20、トウィーン80、イソプロピルミリステート、β乳糖、またはフタル酸ジエチルなどの放出エンハンサを加えることは有利である。
【0072】
好適実施形態では、速放性PLGA微小粒子は、乳酸とグリコール酸の比率(LA:GA比)が50:50であり、3乃至5μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度(例えば30℃)とを有し、パクリタキセル負荷が4%以下で、薬物放出速度が1日で70%である。この組成物の例は、表1のバッチ8である。
【0073】
好適実施形態では、徐放性PLGA微小粒子は、乳酸とグリコール酸の比率が50:50であり、30乃至50μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度(例えば30℃)とを有し、パクリタキセル負荷が4%以下で、1日目に初期バースト薬物放出速度で20%以下を放出し、続いて、より緩徐な放出により7週間で全累積放出の70%を放出する。組成物の例は、表1のバッチ7である。
【0074】
好適実施形態では、徐放性PLGA微小粒子は、乳酸とグリコール酸の比率が75:25であり、3乃至5μmの平均径と、体温より高いガラス転移温度(例えば50℃)とを有し、パクリタキセル負荷が4%以下で、1日目に初期バースト薬物放出速度で5%以下を放出し、続いて、より緩徐な放出により7週間で全累積放出の30%を放出する。この組成物の例は、表1のバッチ4である。
【0075】
第3の側面では、本発明は、腫瘍がある場所に局所的に薬物含有ナノ粒子または微小粒子を投与することによって、腫瘍への薬物送達を向上させる方法を提供する。このとき、ナノ粒子または微小粒子は腫瘍組織に選択的に接着し、それによって、腫瘍に選択的に接着しないナノ粒子または微小粒子における送達と比べて腫瘍において高い薬物レベルを生じさせる。
【0076】
一実施形態では、薬物含有ナノ粒子または微小粒子は、腫瘍組織に選択的に接着し、アポトーシス誘導薬の放出により、腫瘍への自身の浸透を促進する。例えば、例5の粒子は、腫瘍への広範な浸透を示している。アポトーシス誘導薬を含有していない等価粒子は腫瘍に浸透しなかったので、この浸透はアポトーシス誘導薬の放出によるものであった。粒子が含有する残りの薬物負荷は腫瘍への浸透後に経時的に放出され、腫瘍組織は放出された薬物に集中的にさらされた。薬物放出速度は、組織環境によって遅くなることになり、腫瘍組織の露出の持続期間を増大する。よって、初期の薬物放出後に腫瘍組織に浸透する腫瘍接着粒子の局所投与を用いたこの実施形態の方法は、腫瘍治療の効果的な方法である。そのような実施形態はまた、速放性または徐放性治療薬の使用に依らないが、粒子がアポトーシス誘導薬を含有しているので、腫瘍を治療する治療薬の使用に適用可能である。
【0077】
第4の側面では、本発明は、上記方法で用いられる組成物を提供する。
【0078】
一実施形態では、これらの組成物は、患者の体温より低いガラス転移温度(Tg)を有し、それによって腫瘍組織への粒子の選択的接着を高めるようなPLGA粒子からなる。
【0079】
好適実施形態では、速放性PLGA微小粒子は、約50%のラクチドと約50%のグリコライドからできており、体温より低いガラス転移温度(例えば30℃)を有する。そのような組成物の例は、表1のバッチ8である。
【0080】
特定の実施形態では、粒子は、約50%のラクチドと約50%のグリコライドを含むPLGAに製剤され、薬物が封入される。薬物の全重量は製剤の全重量の50%を超えず、好適には30%を超えない。
【0081】
別の実施形態では、ポリリジンとの架橋を用いて粒子の生体接着性特性を高めることによって、または粒子にフィブリノゲンで剤皮を施すことによって、または他の当技術分野で認められている方法によって、腫瘍組織に接着する粒子を得ることができる。これらの粒子は、ゼラチンナノ粒子またはPLGA微小粒子であり得る。
【0082】
第5の側面では、本発明は、転移性腫瘍が最も頻繁に生じる腹腔部位に集中し、それによって、転移性腫瘍が最も頻繁に生じる位置に集中しない製剤により薬物が送達されるものより腫瘍に送達する薬物レベルが高くなるような薬物含有微小粒子を腹腔内に投与することによって、腹腔に広がった腫瘍への薬物送達を向上させる方法を提供する。
【0083】
第6の側面では、本発明は、上記方法のための組成物、即ち腹腔に投与すると転移性腫瘍が最も頻繁に生じる腹腔部位、例えば網、腸間膜、横隔膜、下腹部などに局在するようなPLGA微小粒子を提供する。
【0084】
好適実施形態では、PLGA微小粒子は約3乃至5μmの平均径を有する。これらの粒子は、網、腸間膜、横隔膜及び下腹部の付近に優先的に局在する。これらの組成物の例は、表1のバッチ4及び8である。
【0085】
好適実施形態では、PLGA微小粒子は約30乃至50μmの平均径を有する。これらの粒子は、下腹部に優先的に局在する。これらの組成物の例は、表1のバッチ2、3、5、6、7である。
【0086】
一実施形態では、微小粒子は、腸間膜、網、横隔膜、及び転移性腹膜腫瘍の成長の位置である他の部位に集中する。
【0087】
関連する実施形態では、粒子のサイズは単一腫瘍細胞または腫瘍細胞の小凝集のサイズと類似しており、直径約3乃至約30μmである。
【0088】
第7の側面では、本発明は、薬物含有微小粒子の凝集形成を促進し、それによってリンパ排液によるこれらの粒子のクリアランスを体温より高いTgを有する微小粒子に比べて低下させるために、患者の体温より低いガラス転移温度(Tg)を有するPLGA微小粒子に薬物を製剤することによって、腹腔における薬物含有微小粒子のより良好な滞留を達成する方法を提供する。
【0089】
第8の側面では、本発明は、上記方法のための組成物であって、リンパ系クリアランスを遅延させている薬物を封入した微小粒子からなる組成物を提供する。
【0090】
好適実施形態では、PLGA微小粒子は、約50%のラクチドと約50%のグリコライドからできており、体温より低いガラス転移温度(例えば30℃)を有する。これらの組成物の例は、表1のバッチ6、7、8である。
【0091】
第9の側面では、本発明は、リンパ排液による薬物のクリアランスを低減するのに十分に大きい粒子サイズを有するPLGA微小粒子に薬物を製剤することによって、微小粒子に封入しないで薬物を投与する場合に比べて、腹腔における薬物含有微小粒子のより良好な滞留を達成する方法を提供する。
【0092】
第10の側面では、本発明は、上記方法のための組成物であって、リンパ排液によるクリアランスを遅延させるのに十分に大きいサイズを有する薬物を封入した微小粒子からなる組成物を提供する。
【0093】
好適実施形態では、PLGA微小粒子は少なくとも10μmの平均径を有する。これらの組成物の例は、表1のバッチ2、3、5、6、7である。
【0094】
第11の側面では、本発明は、腹膜からの吸収によって腹腔からの薬物のクリアランスを減少させるような粒子サイズを有するPLGA微小粒子に薬物を製剤することによって、微小粒子に封入しないで薬物を投与する場合に比べて、腹腔における薬物含有微小粒子のより良好な滞留を達成する方法を提供する。
【0095】
第12の側面では、本発明は、上記方法のための、腹膜からの吸収を遅延させるような薬物を封入した微小粒子からなる組成物を提供する。
【0096】
好適実施形態では、PLGA微小粒子は少なくとも10μmの平均径を有する。これらの組成物の例は、表1のバッチ2、3、5、6、7である。
【0097】
第13の側面では、本発明は、以下の所望の特性、即ち(1)速やかな薬物放出とそれに続く緩徐な薬物放出を与える、(2)腫瘍組織に選択的に接着する、(3)転移性腫瘍が最も頻繁に生じる腹腔部位に局在する、(4)リンパ排液によるクリアランスが低い、(5)腹膜からの吸収が低い、のうち少なくとも2つを有する組成物を提供する。
【0098】
好適実施形態では、組成物は、速放性及び徐放性PLGA粒子を含む。速放性PLGA粒子は、50%のラクチドと50%のグリコライドからできており、3乃至5μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度(例えば30℃)とを有し、アポトーシス誘導量のアポトーシス誘導薬を数時間以内に放出する。徐放性PLGA微小粒子は、50%のラクチドと50%のグリコライドからできており、30乃至50μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度(例えば30℃)とを有する。治療薬の放出は、1日目に薬物負荷の好適には30%以下、更に好適には20%以下を放出し、続いて、より緩徐な放出により数週間で全累積放出の60%以上、若しくは好適には70%以上を放出する。
【0099】
より好適な実施形態では、アポトーシス誘導薬及び治療薬は共にパクリタキセルである。
【0100】
第14の側面では、本発明は、患者の膀胱壁への親油性薬物の送達方法を提供する。この方法は、遊離薬物の投与に対して幾つかの利点を有するような薬物の製剤にゼラチンナノ粒子を用いる。ゼラチンナノ粒子中に薬物を製剤することにより、そうしなければ可能であったであろう薬物量より大きな薬物量の低溶解性薬物を多数投与することが可能になる。更に、ゼラチンナノ粒子に製剤された薬物は、連続性薬物放出のための貯蔵体として働き、それによって遊離薬物の投与に比べて高い薬物濃度を維持することができる。更に、薬物を封入したゼラチンナノ粒子は排尿時でさえも膀胱腔に滞留することができるので、薬物への全腫瘍露出が高まる。
【0101】
好適実施形態では、本発明は、膀胱内滴下注入による、表在性膀胱癌の患者の膀胱壁へのパクリタキセル送達方法を提供する。ここで、パクリタキセルは、クレモフォアを含まない製剤には含まれず、そのために、膀胱壁浸透のためにより容易に利用可能である。
【0102】
別の実施形態では、表在性膀胱癌または間質性膀胱炎の治療のための他の高親油性薬物をこの方法を用いて投与することが可能である。この方法を用いてより良好な治療結果を生み出すことが期待される薬物には、限定するものではないが、ドセタキセルが含まれる。
【0103】
第15の側面では、本発明は、膀胱内滴下注入に適した送達形態にパクリタキセルを製剤するための組成物を提供する。ここで、送達形態は、以下の判定規準、即ち(1)少量の滴注物に十分な用量のパクリタキセルを含有させることができること、(2)送達形態は、膀胱壁にパクリタキセルを速やかにかつ効率的に送達するものであること、(3)膀胱壁においてパクリタキセルの実質的かつ治療的活性濃度が達成されること、を満たすものである。
【0104】
一実施形態では、組成物は、パクリタキセルを封入した架橋ゼラチンナノ粒子からなる。
【0105】
関連する実施形態では、パクリタキセルの溶解度を制限した放出を与え、それゆえ尿中のパクリタキセルの溶解濃度を維持することになるようにゼラチンナノ粒子を製剤する。このため、限定されるものではないが、滴下注入時の残尿や治療期間中または後の尿生成を含む、薬物濃度の希釈及び低下を生じさせるかもしれないプロセスに左右されることなく、パクリタキセル濃度が一定かつ有効に保たれることになる。
【0106】
好適実施形態では、175ブルームのブルーム強度、平均径約600nm乃至約1000nmの、0.4%乃至2.0%の薬物負荷を有する、より好適には0.5%乃至1.0%の薬物負荷を有する、ゼラチンからゼラチンナノ粒子を調製する。ゼラチンの架橋は、例7に記載されているグルタルアルデヒドを用いて、或いは他の方法によって、例えば当技術分野で一般的に認められているような酸化型多糖分子(特許文献3)を用いてなし得る。これらのナノ粒子の一例を表3に示し、その特性を例7で説明する。
【0107】
別の関連する実施形態では、ナノ粒子製剤はパクリタキセルの溶解度を高め、腫瘍の治療に利用可能なパクリタキセルの濃度を結果的に増加するための成分を更に含むことになる。このような組成物の例は、ジメチルスルホキシドまたはポリエチレングリコールなどの共溶媒である。
【0108】
更に別の関連する実施形態では、温熱療法を施すことによって尿中のパクリタキセルの溶解度を増大させることができる。
【0109】
別の実施形態では、粒子は、正常な膀胱壁、及び/または表在性膀胱癌に苦しむ患者にしばしば見られる炎症性膀胱壁、及び/または膀胱壁の表面に露出した腫瘍組織に接着する。この接着性は、限定するものではないが、ポリリジン、フィブリノゲン、ポリアクリル酸重合体、メチルセルロース、酢酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、またはペクチンを含む生体接着性分子でナノ粒子に剤皮を施すことによって、増加することができる。
【0110】
関連する実施形態では、膀胱壁へのナノ粒子の接着性は、患者が膀胱を空にした後であっても、膀胱腔中の有効薬物濃度の維持を可能にする。
【0111】
特定の実施形態では、膀胱壁に接着する粒子は、親油性の治療薬が封入されかつ生体接着性分子で剤皮を施されたゼラチンナノ粒子である。
【0112】
好適実施形態では、粒子は、パクリタキセルが封入され、ポリリジンで剤皮を施されたゼラチンナノ粒子である。
【0113】
より好適な実施形態では、175ブルームのブルーム強度、平均径約600nm乃至約1000nmの、0.4%乃至2%の薬物負荷を有する、より好適には0.5%乃至1.0%の薬物負荷を有するゼラチンであって、重量の5%のポリリジンを含み、例7に記載されているグルタルアルデヒドを用いて、或いは他の当技術分野で認められている架橋方法によってゼラチン分子及びポリリジン分子が架橋するような該ゼラチンからゼラチンナノ粒子を調製する。
【0114】
別の実施形態では、膀胱内導入に適した送達形態は、速放性PLGA微小粒子からなる。
【0115】
別の実施形態では、膀胱内容物への治療薬の放出速度は、薬物の水性溶解度によって制限される。
【0116】
好適実施形態では、薬物はパクリタキセルである。
【0117】
別の実施形態では、速放性PLGA微小粒子は、100nm乃至6000nm、好適には500乃至5000nm、より好適には3000乃至4000nmの平均径を有する。
【0118】
好適実施形態では、速放性PLGA微小粒子は、50%のラクチドと50%のグリコライドからできており、3000乃至5000μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度(例えば30℃)とを有し、約4%のパクリタキセルを含有し、その薬物含量の約70%をシンク条件下で1日間で放出する薬物放出速度を有する。
【0119】
別の実施形態では、PLGA微小粒子に生体接着性分子で剤皮を施す。
【0120】
第16の側面では、本発明は、薬物が静脈内経路により投与されるとき、腎臓への薬物の送達を増大させる方法を提供する。この方法は、静脈内に投与された薬物の分布に比べて選択的であるような腎臓へのゼラチンナノ粒子の分布に基づく。
【0121】
一実施形態では、腎臓組織の選択的標的指向化は、ゼラチンナノ粒子に製剤された薬物の静脈内投与によって達成される。
【0122】
好適実施形態では、腎臓の選択的標的指向化の方法については例11で述べる。
【0123】
より好適な実施形態では、治療的に有用な薬物を封入した平均サイズ約600乃至900nmのゼラチンナノ粒子を用いて、被験対象の腎臓を標的指向化することになる。
【0124】
別の実施形態では、ゼラチンナノ粒子に製剤されることになる薬物には、腎癌の治療のための化学療法薬、腎癌の予防のための化学予防薬、腎臓疾患の治療のための遺伝子療法構成体、腎臓への選択的投与が有益であるような他の薬物が含まれる。
【0125】
第17の側面では、本発明は、腎臓の選択的静脈内標的指向化に適した送達形状でパクリタキセルまたは他の薬物を製剤するための組成物を提供する。この組成物は、送達される薬物を封入した架橋ゼラチンナノ粒子からなる。
【0126】
好適実施形態では、薬物はパクリタキセルである。
【0127】
より好適な実施形態では、175ブルームのブルーム強度、平均径約600nm乃至約1000nmの、0.4%乃至2%の薬物負荷を有する、より好適には0.5%乃至1.0%の薬物負荷を有する、ゼラチンからゼラチンナノ粒子を調製する。ゼラチンの架橋は、例7に記載されているグルタルアルデヒドを用いて、或いは他の方法によって、例えば当技術分野で一般的に認められているような酸化型多糖分子(特許文献3)を用いてなし得る。これらのナノ粒子の一例を表3に示し、その特性を例7で説明する。
【0128】
別の実施形態では、薬物は、腎臓の細胞への遺伝子構成体の選択的送達のための遺伝子産物である。
【0129】
第17の側面では、本発明は、患者の膀胱壁に薬物を送達する方法を提供する。この方法は、遊離薬物の投与に対して幾つかの利点を有するような薬物の製剤にゼラチンナノ粒子を用いる。ゼラチンナノ粒子中に薬物を製剤することにより、そうしなければ可能であったであろう薬物量より大きな薬物量の薬物の投与が可能になる。
【0130】
好適実施形態では、ゼラチンナノ粒子に製剤された薬物は、連続性薬物放出のための貯蔵体として働き、それによって遊離薬物の投与に比べて高い薬物濃度を維持することができる。更に、薬物を封入したゼラチンナノ粒子は排尿時でさえも膀胱腔に滞留することができるので、薬物への全腫瘍露出が高まる。
【0131】
別の実施形態では、表在性膀胱癌の治療のための他の高親油性薬物をこの方法を用いて投与することができる。この方法を用いてより良好な治療結果を生み出すことが期待されるような薬物には、限定するものではないが、ドセタキセルがある。
【0132】
別の実施形態では、表在性膀胱癌の治療のための他の薬物をこの方法を用いて投与することができる。そのような薬物には、限定するものではないが、スラミン、インターフェロン(例えば、インターフェロンα、γ、ω)、ドセタキセル、ドキソルビシン及び他のアントラサイクリン、チオテパ、マイトマイシン(例えばマイトマイシンC)、カルメット‐ゲラン杆菌、シスプラチン、メトトレキセート、ビンブラスチン、5−フルオロウラシル、ロイプロイド(leuprolide)、フルタミド、エチルスチルベストロール、エストラムスチン、酢酸メゲストロール、サイプロテロン、フルタミド、シクロホスファミドが含まれるであろう。
【0133】
別の実施形態では、間質性膀胱炎の治療のための薬物をこの方法を用いて投与することができる。この方法を用いてより良好な治療結果を生み出すことが期待されるような薬物には、限定するものではないが、ペントサンポリ硫酸及びそのナトリウム塩、抗ヒスタミン薬(例えば、ヒドロキシジン及びその塩、クロモリン及びそのナトリウム塩)、三環系抗うつ薬(例えば、アミトリプチリン、デシプラミン、ノルトリプチリン、ドクサピン、イミプラミン)、選択的セロトニン再取込阻害薬(例えばパロキセチン)、鎮痛剤(例えば、ガバペンチン、クロナゼパム)、筋弛緩薬(例えば、ジアゼパム、Baclofen)、抗痙攣薬(例えば、ガバペンチン、クロナゼパム)、オピオイド鎮痛薬(例えば、バイコディン、パーコセット、オキシコンチン)、他の鎮痛薬(例えば、塩酸リドカイン、塩酸プロカイン、サリチルアルコール、塩酸テトラカイン、塩酸フェナゾピリジン、アセトアミノフェン、アセチルサリチル酸、フルフェニサール(flufenisal)、イブプロフェン、インドプロフェン、インドメタシン、ナプロクサ、コデイン、オキシコドン、クエン酸フェンタニール)、鎮痙薬(例えば、ウリマックス(Urimax)、ピリジウム(Pyridium)、ユアイセッド(Urised)、フラボキセート、ジサイクロミン、プロパンテリン)、抗コリン作用薬(例えば、デトロール、ディトロパン、レブシン(Levsin)、ヒヨスチアミン)、H遮断薬(例えば、タガメット、ゼンタック(Zantac))、尿アルカリ化剤、アドレナリン拮抗剤(例えば、カーデュラ(Cardura)、フロマックス(Flomax)、ハイトリン(Hytrin))、ロイコトリエン拮抗薬(例えばモンテルカスト(montelukast))や、種々の作用を伴う薬物(例えば、ジメチルスルホキシド、ヘパリン、オキシクロロセン及びそのナトリウム塩、硝酸銀、カルメット‐ゲラン杆菌、ヒアルロン酸ナトリウム、レシニフェラトキシン、ボツリヌス毒素)が含まれよう。
【0134】
別の実施形態では、抗生物質、抗真菌薬、抗原虫薬、抗ウイルス薬、その他の抗感染薬などの薬物を用いて膀胱感染を治療することができる。そのような感染の治療に適した薬物には、マイトマイシン、シプロフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、メタンアミン、ニトロフラントイン、アンピシリン、アモキシシリン、ナフシリン、トリメトプリム、サルファ、トリメトプリムスルファメトキサゾール(trimethoprimsulfamethoxazole)、エリトロマイシン、ドキシサイクリン、メトロニダゾール、テトラサイクリン、カナマイシン、ペニシリン、セファロスポリン、アミノグリコシドが含まれる。
【0135】
更に別の実施形態では、薬物を尿失禁または炎症の治療に用いることができる。適した薬物には、とりわけ、ジサイクロミン、デスモプレシン、オキシブチニン、エストロゲン、テロジリン、プロパンテリン、ドクサピン、イミプラミン、フラボキセート、フェニルプロパノラミン、テラゾシン、プラクソジン(praxosin)、プソイドエフェドリン、ベタニコール、抗コリン作用薬、鎮痙薬、抗ムスカリン薬、β−2アゴニスト、ノルエピネフリン取込阻害薬、セロトニン取込阻害薬、カルシウムチャネル拮抗薬、カリウムチャネル開口薬が含まれ、筋弛緩薬を用いることもできる。失禁の治療に適した薬物には、オキシブチニン、S−オキシブチニン(S-oxybutytin)、エメプロニウム(emepronium)、ベラパミル、イミプラミン、フラボキセート、アトロピン、プロパンテリン、トルテロジン、ロシベリン(rociverine)、クレンブテロール、ダリフェナシン、テロジリン、トロスピウム、ヒヨスチアミン、プロピベリン、デスモプレシン、バミカミド(藤沢薬品)、YM−46303(山之内製薬)、ランペリソン(日本化薬)、NS−21(日本新薬、オリオン(Orion)、伊フォルメンティ社(Formenti))、NC−1800(日本ケミファ)、ZD−6169(英ゼネカ社(Zeneca Co.))、ヨウ化スチロニウムが含まれる。
【0136】
別の実施形態では、薬物を用いて膀胱収縮性を向上させ、或いは膀胱に溜めておく尿を減らすことができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0137】
例1
ヒト腫瘍細胞に対して活性を有するパクリタキセル濃度及び治療期間の特定
本発明は、細胞毒性を生じさせるのに十分な持続期間にわたり細胞毒性レベルのパクリタキセルを放出するようなパクリタキセルを封入した粒子を設計する方法及びそのような粒子の組成物について説明する。例1では、ヒト腫瘍細胞に対して効果的なパクリタキセル濃度及び治療期間を特定する。
【0138】
出願人は、3つのヒト膵臓癌細胞(PANC1、MIA−PaCa、Hs766T)及びヒト膀胱RT4腫瘍細胞におけるパクリタキセル(水に溶解、96時間の治療)の細胞毒性を評価した。薬物効果は、MTT(microtetrazolium dye reduction)アッセイを用いて測定した。これらの細胞において50%の細胞毒性を生じさせるのに必要な濃度(IC50)はそれぞれ、1.5、0.7、0.7nMであった。これらのIC50値をヒト乳癌細胞MCF7及び卵巣癌細胞SKOV3におけるパクリタキセルのIC50(Au, et al., Cancer Res., 58: 2141-2148,1998)と比較する。このデータは、膵臓癌細胞がパクリタキセルに高い感受性があることを示している。進行膵臓癌患者にタキソール(登録商標)(クレモフォア及びエタノールに溶解したパクリタキセル)を静脈内投与しても目に見えるほどの活性を示さなかったので(Gebbia and Gebbia, Eur. J. Cancer, 32A: 1822-1823, 1996; Schnall and Macdonald. Semin.Oncol., 23: 220-228, 1996)、これは驚くべきことである。RT4細胞におけるパクリタキセルのIC50は、4.0±0.4nM(96時間の治療)であった。
【0139】
例2
パクリタキセルを封入した微小粒子の効力を検査するためのヒト膵臓及び卵巣異種移植腫瘍モデルの確立
例2では、パクリタキセルを封入した微小粒子の効力を検査するための腹膜腫瘍モデルの確立について示す。
【0140】
出願人は、リンパ節転移由来のヒト膵臓Hs766T細胞を用いて無胸腺マウスに同所性腹腔内腫瘍を定着させた。同所モデルについては、膵臓の本体に2×10個の腫瘍細胞を同所移植した。2〜3週間後に腫瘍を定着させた(直径1.5cm以下乃至2cm以下)。腹腔内腫瘍については、出願人は、Hs766T細胞の腹膜内注入を受けたマウスの腹膜洗浄から回収された細胞の再移植によって転移性亜系統を定着させた。6週齢のメスBalb/cマウスに転移性Hs766T細胞を腹膜内再移植したところ、進行性腫瘍が腹腔全体に広がった。2〜3週間後、直径1cm以下乃至1.5cm以下の腫瘍結節が網に見られ、3mm以下乃至5mm以下の複数の結節が腸間膜、下腹部、後腹腔、及び横隔膜に見られた。腹水腫瘍も存在した。動物は3〜4週間後に死亡した。
【0141】
腹腔内卵巣腫瘍モデルについては、出願人は、Hs766T腫瘍について述べたのと同じようにしてヒト卵巣SKOV3細胞の転移性亜系統を定着させた。転移性SKOV3細胞の再移植により、2週間で網に、4週間で腸間膜に腫瘍が定着し、その後、肝臓、腎臓などの内臓器官の実質を侵している腫瘍及び横隔膜に留まっている腫瘍が後期(6週間後)に現れる。腹膜液のタンパク質濃度は、2週間で、正常なマウスでは3%だったのが腫瘍を有するマウスでは約6%に増加した。腹膜液の容量は4週間後に7〜10倍に増加し、腫瘍細胞の凝集を含んでいた。これらの腹水腫瘍のサイズは、40乃至数百μmに及んでいた。5〜6週間後、動物は有意な体重減少(10〜15%)を示したが、腹膜膨張(体囲が6.3cmから7.6cmに20%増加)及び腸閉塞を示すマウスもあった。動物は、腫瘍移植後7〜9週間で死亡した。
【0142】
膵臓及び卵巣腫瘍を有するマウスにおける疾患の進行は、患者において報告された疾患の進行と類似している。例えば、卵巣癌患者は、腹腔における類似の腫瘍播種及び進行を示し、腸漿膜、肝周囲及び脾周囲の靭帯、横隔膜、腸間膜、網に腫瘍が現れる。卵巣癌患者はまた、腹膜液中で高いタンパク質濃度(後期に4.46g/dl)も示すが、これは血清タンパク質の漏出及び/または腹腔中の腹水の存在によるものである(Lee, et al., Cancer, 70: 2057-2060, 1992)。患者の悪性腹水は、SKOV3腹水腫瘍においてのものと同様なサイズの腫瘍細胞凝集を示す(Tauchi, et al., Acta Cytol., 40: 429-436,1996 ; Monte, et al., Acta Cytol., 31 : 448- 452,1987)。
【0143】
例3
PLGA微小粒子特性の腹腔における分布及び滞留への効果を特定する
本発明は、腹膜腫瘍を標的指向化する薬物を封入したPLGA粒子の組成物を開示する。例3では、所望の滞留及び分布特性を有するPLGA微小粒子の特定を助けるために、腹腔中の微小粒子の分布及び滞留に対するPLGA微小粒子の異なる特性の効果を示す。例4乃至例6では、例として広範に用いられている抗癌剤であるパクリタキセルを用いた、そのような薬物を封入したPLGA微小粒子の調製及び適用について説明する。
【0144】
PLGA微小粒子サイズの効果 出願人は、腹腔内投与後に3μm以下と30μm以下の異なる径を有する2つの微小粒子調製の分布を比較した。これらの微小粒子にはアクリジンオレンジが封入されており、それゆえ紫外光下での可視化が可能であった。24時間後、マウスを安楽死させて開腹した(製剤当たりマウス3匹)。結果を図1に示す。小さな微小粒子は、網、腸間膜、横隔膜、下腹部に見られたが、大きな微小粒子は下腹部に局在していた。
【0145】
ガラス転移温度が腹腔からの微小粒子のリンパ系クリアランスに及ぼす効果 出願人は、ガラス転移温度(Tg)がリンパの流れによる腹腔からの微小粒子のクリアランスに及ぼす効果を評価した。乳酸とグリコール酸の比率が75:25の微小粒子(即ち表1のバッチ1)と乳酸とグリコール酸の比率が50:50の微小粒子(即ち表1のバッチ8)の混合体をマウスに腹腔内注入した。50:50の微小粒子と75:25の微小粒子は、サイズが同じであるが(直径3μm)、Tgが異なっていた。Tgは、重合体鎖運動、即ちTgより高いがTgを下回らない温度で発生する動きを決定する。重合体セグメントの動きは、微小粒子の凝集及び接着を生じさせる。ゆえに、乳酸とグリコール酸の比率が50:50で体温より低いTg(即ち30℃対37℃)を有する微小粒子は腹腔内に投与された後に凝集を形成するが、乳酸とグリコール酸の比率が75:25で体温より高いTg(即ち53℃)を有する微小粒子は凝集を形成しない。微小粒子の凝集によって、有効径は大きくなる。乳酸とグリコール酸の比率が75:25の微小粒子はアクリジンオレンジ(緑色蛍光)を含んでいたが、乳酸とグリコール酸の比率が50:50の微小粒子はローダミン(赤色蛍光)を含んでいた。
【0146】
注入後、マウスを安楽死させて横隔膜を切除し、水ですすぎ洗いをした。横隔膜の半分は凍結させ、凍結切片を蛍光顕微鏡検査法により検査した。もう半分はホルマリンで固定し、走査電子顕微鏡を用いて分析した。両分析によれば、横隔膜内部のリンパ管中の微小粒子は1時間経過時にはわずかであったが、24時間ではかなり多くなっていた。このことは、リンパ系へのミクロスフェア排液が時間と共に増加することを示している。1時間サンプルと24時間サンプルの両方で、乳酸とグリコール酸の比率が75:25の微小粒子は乳酸とグリコール酸の比率が50:50の微小粒子と比べて約3倍多くリンパ管に存在した。同様の発見は縦隔リンパ節にも見られ、乳酸とグリコール酸の比率が50:50の微小粒子のリンパ系クリアランスがより低いことが確認された。
【表1】

【0147】
PLGA微小粒子の腹腔での優先的な滞留 ローダミンを封入した蛍光微小粒子を用いて、腹腔内投与後に腹腔内でPLGA微小粒子の局在化及び配置を調べた。配置を溶液中のローダミンの配置と比較した。ローダミンを封入した微小粒子(直径3μm、乳酸とグリコール酸の比率は50:50)を初期に(例えば15分経過時)腹腔内腔(intraperitoneal cavity)全体に分布し、引き続いて(例えば24時間経過時と96時間経過時)腸間膜、網、横隔膜に局在した。対照的に、溶液中のローダミンは15分経過時には腹腔内腔全体に広範囲に分布していたが、ローダミンに対応する蛍光は24時間経過後にはもはや腹腔には観察されなかった。このデータは、溶液に比べて粒子が優先的に腹腔に滞留していたことを示している。
【0148】
PLGA微小粒子の腹膜腫瘍結節での優先的な局在化 アクリジンオレンジで標識された蛍光微小粒子を用いて腹腔内投与後の腹腔内でのPLGA微小粒子の局在化及び配置を調べた。これらの粒子は、直径3μm以下で、乳酸とグリコール酸の比率が50:50であった。ヒト膵臓Hs766T細胞の細胞懸濁液をマウスに腹腔内移植した。21日目または疾患が後期にあるときに(生存期間中央値は24日間)、アクリジンオレンジで標識された微小粒子の1回量を腹腔内に投与した。24日目に、動物に麻酔をかけ、腹腔を開きし、蛍光によって微小粒子の分布を評価した。図1の左パネルは、腹腔内の腫瘍結節の分布を示す。腫瘍は腸間膜において網上及び横隔膜上に主に局在していた。図1の右パネルは、腹膜に播種した腫瘍結節における緑色蛍光イソチオシアン酸フルオレッセイン(FITC)標識微小粒子の局在化を示している。ローダミンまたはアクリジンオレンジを用いて同じPLGA微小粒子を標識する相似実験を行ったところ、類似の結果が得られた。対照的に、これらの蛍光色素を溶液(即ち微小粒子に結合していない)に投与しても腫瘍組織における局在化を示なかったが、これは局在化が微小粒子特有の特性であることを示している。この特性は、活性腫瘍の標的指向化を与えるので有利である。
【0149】
要約 出願人は、これらの発見に基づき、PLGA微小粒子に封入された薬物が溶液中の薬物(例えば粒子に関係しないもの)に比べて優先的に腹腔に滞留すること、乳酸とグリコール酸の比率が50:50である微小粒子がリンパ排液によって腹腔から緩徐に排出されること、小さな粒子(直径3μm以下)は大きな粒子(直径30μm以下)に比べて腹腔内でより均一に分布されること、Tgがより低いPLGA粒子はTgがより高いPLGA粒子に比べて腹腔で優先的に局在化されること、粒子サイズが腹膜からのリンパ排液及び/または吸収によってクリアランスを決定すること、腹腔の腫瘍結節でPLGA微小粒子(直径3μm以下、乳酸とグリコール酸の比率は50:50)は優先的に局在化されることを結論付けた。
【0150】
例4
パクリタキセルを封入したPLGA微小粒子
例4では、パクリタキセルを封入したPLGA微小粒子を調製する方法と、PLGA微小粒子の性状決定を示す。PLGAは、乳酸またはラクチドとグリコール酸またはグリコライドが種々の比率で共重合した共重合体である。この例は更に、微小粒子からの薬物放出への微小粒子特性の効果を示し、所望の薬物放出速度を与えるPLGA微小粒子の発見を助けている。微小粒子に封入された薬物の例としてパクリタキセルを用いた。これらの微小粒子に他の薬物を封入する際にも同様の手順を用いることができる。
【0151】
調剤 出願人は、エマルジョン/蒸発方法を用いて、パクリタキセルを封入したPLGA微小粒子を調製した。簡単に説明すると、水中油中水型(water-in-oil-in-water(W/O/W))ダブルエマルジョン方法では、PLGAとパクリタキセルとを5mlの塩化メチレンに共溶解(codissolve)させた。均質化によって1mlの水中で溶液を30秒間乳化し、1%のポリビニルアルコール(PVA)溶液を20ml加えた。水中油型(O/W)エマルジョン方法では、薬物−重合体溶液を直接20mlの1%PVA溶液に加えた。いずれの方法でも、結果として得られたエマルジョンを38℃で予熱した500mlの1%PVA溶液中に希釈し、溶媒の蒸発完了まで連続的に撹拌した。30分後、遠心によって微小粒子を収集し、水で3回洗浄して凍結乾燥した。
【0152】
薬物負荷を決定するために、微小粒子をアセトニトリルに溶解させた。内部標準物質セファロマニン(cephalomannine)(20ug/mlのメタノールを100μl)を加えた。混合物を空気流下で乾燥させた。残りを0.1mlのアセトニトリル中で元に戻し、0.1mlの水を加えた。遠心後、高性能液体クロマトグラフィーを用いて上清のパクリタキセル濃度を分析した。ブランクのPLGAミクロスフェアと既知量のパクリタキセルとの混合物からなる基準サンプルも同様に処置した。薬物を封入した微小粒子上清のパクリタキセル濃度と基準サンプルのパクリタキセル濃度の比率は、薬物負荷を示した。
【0153】
性状決定 パクリタキセルを封入したPLGA微小粒子の表面形態学及び内部構造について、走査電子顕微鏡を用いて調べた。微小粒子は球形で、表面が滑らかであった。O/W方法を用いて調製した微小粒子(バッチ2)は同構造の充填内部構造を示したが、O/W/O方法を用いて調製した微小粒子(バッチ3)は多孔性の多コンパートメント内部構造を示した。パクリタキセルを封入した微小粒子の性状を表1に示している。
【0154】
所望の薬物放出速度を生じさせるPLGA微小粒子特性の特定 出願人は、37℃で0.1%のトウィーン80リン酸緩衝食塩水(pH7.4)を含む中のパクリタキセルの放出と微小粒子特性との関係を評価した。以下に概要を述べる結果は、微小粒子の特性を変えることによって微小粒子からのパクリタキセル放出速度及び範囲の微調整が可能であることを示している。
【0155】
PLGA粒子サイズの効果 放出の速度及び範囲は、微小粒子のサイズに逆比例した。例えば、乳酸とグリコール酸の分子比率を50:50にして調製した微小粒子では、直径4μmのバッチ8はより大きな直径30μmのバッチ6に比べてより高い放出を示した。同様に、バッチ2とサイズのみが異なるバッチ1(直径3μm以下と60μm以下)は、より速やかな放出を示した。小さい方の微小粒子は大きい微小粒子と比べて表面積対体積の比が大きかった。表面積の増加により水性媒体へのパクリタキセルの露出が大きくなり、初期バーストが大きくなった。更に、微小粒子が小さければ小さいほど拡散路程は短く、薬物放出及びマトリクス分解はより速やかに行われた。
【0156】
PLGA微小粒子の内部構造の効果 多コンパートメント構造を有する多孔性微小粒子は、充填構造を有する微小粒子に比べて速い放出速度を示した。これは、おそらく複数のコンパートメントに仕切られている微小粒子では拡散路程がより短いことに起因する。例えば、担体として乳酸とグリコール酸の比率が50:50であり、多コンパートメント内部構造を有する微小粒子は、充填内部構造を有する微小粒子に比べて大きな初期放出を示した(即ちバッチ7とバッチ6)。同様に、担体として乳酸とグリコール酸の比率が75:25であり、多コンパートメント内部構造を有する微小粒子は、充填内部構造を有する微小粒子に比べて放出が速い(即ちバッチ3とバッチ2)。
【0157】
PLGA微小粒子のインヘレント粘度の効果 インヘレント粘度は、重合体分子量によって決定されるものであるが、放出速度に逆比例する。例えば、バッチ3及びバッチ7はW/O/Wを用いて調製したが、粒子サイズは同じであった。バッチ3は、より高いインヘレント粘度を示したが、パクリタキセルの放出は3.5倍ゆっくりであった。
【0158】
PLGA微小粒子の重合体組成物の効果 乳酸とグリコール酸の比率を50:50で調製した微小粒子は、乳酸とグリコール酸の比率が75:25のものを用いて調製した微小粒子より速い放出速度を示した。これはおそらく、乳酸とグリコール酸の比率が50:50である微小粒子は非結晶性がより高い(即ち結晶化度がより低い)ことに起因する。水溶解度が低いので、微小粒子に出入りする流体拡散は、微小粒子からのパクリタキセルの放出に役割を果たす。結晶化度の低下は、微小粒子中への流体の拡散を高める。高められた流体拡散はまた、重合体の分解を加速し、薬物放出をより速くする(Alonso, etal., Vaccine, 12 : 299-306,1994)。
【0159】
例5
腫瘍に浸透する、パクリタキセルを封入したPLGA微小粒子
例5では、1つの製剤がパクリタキセルを速やかに(例えば24時間以内に70%)放出してアポトーシスを誘導し、それによってPLGA微小粒子の腫瘍への浸透性を高めるような異なる薬物放出プロフィールを有する微小粒子製剤の混合物の使用について示す。
【0160】
腹膜腫瘍中の微小粒子の浸透 マウスの腹腔内にヒトHs766T膵臓異種移植腫瘍細胞を移植した。腹腔内腫瘍が定着したとき(21日目)、腫瘍への粒子浸透を容易に検出できるようにアクリジンオレンジで標識された、パクリタキセルを封入した直径3μm以下の微小粒子1回分で動物を治療した。これらの微小粒子はパクリタキセルを速やかに(24時間で70%)放出し、それによってアポトーシスを誘導したが、これは、同様に、腫瘍への微小粒子の浸透を促進した。別の動物群をパクリタキセルなしで同じ方法を用いて調剤したブランクの微小粒子によって治療した。24日目に、網及び接着腫瘍を採取した。網は、腹腔と後腹膜を分離する間膜であり、マウス及びヒト患者における腫瘍濃度の部位である。腫瘍を凍結させて切断した。異なる深さでの腫瘍への粒子浸透は、アクリジンオレンジで標識された粒子を可視化した蛍光顕微鏡観察によって決定した。結果を図2に示す。粒子浸透は広範囲にわたり、分布は固形腫瘍全体で一様であった。対照的に、パクリタキセルでの腫瘍プライミング治療を行わなかったブランクの微小粒子により治療された動物からの腫瘍では、微小粒子は腫瘍周囲に残存していた。
【0161】
腹膜腫瘍におけるパクリタキセル濃度 出願人は、パクリタキセルを封入した微小粒子(バッチ8)またはタキソール(登録商標)の腹膜内滴下注入後に、網に位置する固形腫瘍におけるパクリタキセルの濃度を比較した。微小粒子由来のパクリタキセルのピーク濃度は、市販のタキソール製剤(3.2μg/g、24時間で到達)に比べて有意に高く(13μg/g)、より遅い時間(即ち3日)に到達した。これらの濃度は、遊離型薬物と取り込まれた薬物の合計である。総薬物露出を示すAUCは、線形台形法則を用いて求めたが、微小粒子に対するAUCより16倍高く(82対5μg−日/g)、それゆえパクリタキセルを封入したPLGA微小粒子の有意な腫瘍標的指向化の利点を示していた。
【0162】
例6
パクリタキセルを封入したPLGA微小粒子の生物活性
この例は、パクリタキセルを封入したPLGA微小粒子がin vitro及びin vivo条件下で生物学的に活性であることを示している。パクリタキセルに対する生物活性は、ミクロスフェアへのカプセル化後も変化しない。また、パクリタキセルを封入したPLGAミクロスフェアは、その腫瘍標的指向化特性及び腫瘍に持続的に滞留することにより、市販のタキソール(登録商標)製剤へより優れたin vivo効力を示した。
【0163】
In vitro生物活性 In vitro生物活性の調査は、ヒト卵巣SKOV3癌細胞を用いて行った。スルホローダミンBアッセイ(Au, et al.,Cancer Chemother. Pharmacol., 41:69-74, 1997)を用いて薬物効果を測定した。調査は、96時間の治療後、水溶液中の遊離パクリタキセル(即ち培地に溶解したパクリタキセル)と4つのパクリタキセルを封入したPLGA微小粒子製剤(即ち表1のバッチ2、4、6、8)の濃度−反応曲線を比較した。4製剤の生物活性の順序は薬物放出速度の順序と同じであり、より活性があったのは速放性製剤である。例えば、96時間で81.5%を放出したバッチ8が最も活性があり、28.5%を放出したバッチ6、10.9%を放出したバッチ4と続く。0.25%を放出したバッチ2は細胞毒性効果がなかった。50%細胞毒性に必要な濃度はそれぞれ、5.0nM、18.5nM、108nM、1000nM以上であった。
【0164】
In vivo生物活性 出願人は、パクリタキセルPLGA微小粒子の抗腫瘍活性と市販のタキソール(登録商標)製剤の抗腫瘍活性とを比較した。用量は、微小粒子に対してパクリタキセル同等物120mg/kg、タキソール(登録商標)に対して40mg/kgであった。これらの用量では、これら2つの製剤は同程度に毒性があり、2日で約10%の体重減少をもたらしたが、動物の重量はその後回復した。微小粒子は3つの製剤からなり、1つはパクリタキセルを速やかに放出し(1日で70.5%のバッチ8)、2つはパクリタキセルを緩徐に放出した(49日で72.6%のバッチ6及び49日で28.7%のバッチ4)。粒子特性については例2で詳述する。結果は、微小粒子の有意な生存の利点を示している。生存期間中央値は、偽薬(vehicle)で処置した対照群では47日、タキソール(登録商標)群では85.5日、微小粒子群では115.5日であった(タキソール(登録商標)と微小粒子との差、p<0.01)。この調査は後期の疾患(移植後4週間)において実施し、サイズが異なる2つの徐放性微小粒子(約3〜4μmと約30μm)を併用したことに留意されたい。
【0165】
腹膜進行膵臓癌を有する動物からも同様な結果が得られた。腹膜内ヒト膵臓Hs766T腫瘍をマウスに移植した。腫瘍が定着した後、腫瘍移植の10日後に、生理食塩水、タキソール(登録商標)(60mg/kg)、またはパクリタキセル粒子(速放性製剤と2つの徐放性製剤の併用)で動物を治療した。生存期間中央値はそれぞれ、24日間、33日間、57日間であった。ブランクの微小粒子は、生理食塩水対照と類似のデータを示した。
【0166】
2つの製剤を投与後の血漿濃度及び組織濃度 高性能液体クロマトグラフィーアッセイを用いて血漿及び腹腔内組織のパクリタキセル濃度を決定し、線形台形法則を用いて0時間から168時間までのAUC(薬物血中濃度−時間曲線下面積)を求めた。結果を表2に示す。PLGA微小粒子に封入されたパクリタキセルの投与により、腹膜組織の濃度がタキソール(登録商標)に比べて2.5乃至6倍高くなっていることがわかる。同時に、血漿濃度の上昇は1.5倍に過ぎず、パクリタキセル微小粒子の使用による優先的な組織標的指向化を示している。
【表2】

【0167】
この調査では、等毒性の微小粒子及びタキソール(登録商標)を1回量だけ用いた。この判定基準により、微小粒子に対するパクリタキセルと同等の用量は、タキソール(登録商標)に対する用量より高かった。これは、薬物の徐放が用量強度(dose intensity)を低下させ、よって、毒性を低減し、最大耐量を増大させたためである。この群ではタキソール(登録商標)の反復投与が治療成果を向上させたかもしれないが、パクリタキセルを封入した微小粒子には反復投与は必要なかった。後者は、頻回投与の必要性を低減するという微小粒子の1つの利点を示す。
【0168】
例7
パクリタキセルを封入したゼラチンナノ粒子の調製及び性状決定
この例は、パクリタキセルを封入したゼラチンナノ粒子の調製及び性状決定を示す。
【0169】
パクリタキセルを封入したゼラチンナノ粒子の調製 異なるブルーム強度(75〜100ブルーム、175ブルーム、300ブルーム)を有するゼラチンの幾つかの製剤を用い、脱溶媒方法を用いてナノ粒子を調製した(Oppenheim, R. C., Int. J. Pharm., 8: 217-234, 1981)。2%のトウィーン20を含む10mlの水にゼラチン(200mg)をに溶解した。溶液を300rpmで絶えず撹拌しながら40℃まで加熱した。この溶液に、ゆっくりと硫酸ナトリウムの20%水溶液を2ml加え、2mgのパクリタキセルを含むイソプロパノールを1ml加えた。ゼラチン凝集の形成を示す溶液の濁りが生じるまで、硫酸ナトリウム溶液の第2の一定分量(5.5〜6ml)を加えた。その後、溶液が清澄になるまで、約1mlの蒸留水を加えた。グルタルアルデヒドの水溶液(25%、0.4ml)を加えてゼラチンを架橋した。メタ重亜硫酸ナトリウム溶液(12%、5ml)を5分後に加えて架橋プロセスを停止させた。1時間後、未精製の産物をセファデックスG−50カラムで精製した。真空凍結乾燥器中で48時間、ナノ粒子含有留分を凍結乾燥した。
【0170】
ポリリジンで剤皮を施しかつパクリタキセルを封入したゼラチンナノ粒子の調製 ナノ粒子の調製は、剤皮を施さないナノ粒子と類似の方法を用いて行った。ナノ粒子形成後の架橋の後期に、ゼラチンの重量の約5%乃至約10%に等しい重量のポリリジンを加えたところ、ポリリジンで剤皮を施されたナノ粒子が得られた。精製ステップは、上述した剤皮を施さないナノ粒子に用いたステップと同じである。
【0171】
ゼラチンナノ粒子中のパクリタキセル負荷の決定 2mgのパクリタキセルを封入したナノ粒子を0.5mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)中で分散させ、0.5mlのプロナーゼ(PBS中に1mg/ml)により代謝振盪装置において37℃で温浸した。約1時間後か或いは清澄な溶液が得られたとき、内部標準物質セファロマニン(20μg/mlのメタノールを50μl)を加え、2体積の3mlの酢酸エチルでそれぞれ抽出した。酢酸エチル層をプールし、空気流下で乾燥させ、アセトニトリル中で元に戻した。抽出物のパクリタキセル濃度を基準サンプルの濃度と比較し、パクリタキセル負荷を決定した。ブランクのゼラチンナノ粒子と既知量のパクリタキセルの混合物からなる基準サンプルをナノ粒子に関して述べたように処理した。
【0172】
パクリタキセルナノ粒子の異なる製剤の物性を表3に示す。ナノ粒子の収率は40〜82%に及び、ゼラチンの分子量が増加に伴い減少する。実際の薬物負荷は、理論上の負荷の33〜78%であった。
【表3】

【0173】
高分子量ゼラチンを用いて調製したナノ粒子は大きな凝集を形成し、凝集の直径は10μmから30μm以上に及んでいた。これらの凝集をカラムクロマトグラフィー精製ステップ中に除去したところ、収率及び薬物取込効率は低かった。低分子量ゼラチンを用いて調製したナノ粒子においても低取込効率が見られた。至適かつより高い収率及び取込効率は、中分子量ゼラチン(175ブルーム)を用いることによって達成された。後の調査では175ブルームのゼラチンを用いてパクリタキセルを封入したナノ粒子を調製した。
【0174】
パクリタキセルを封入したナノ粒子の性状決定
ゼラチンナノ粒子と蒸留水(50μl以下)の混合物を箔紙上に載置し、乾燥させ、金でコーティングし、フィリップス社(Philips)製XL30走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。粒子サイズ分布のために、4乃至6フィールドから撮ったSEM画像を用いて1000個以上のナノ粒子を調べた。産出収率は、凍結乾燥ゼラチンナノ粒子の重量から算出し、ゼラチンの開始重量に対するパーセントで表した。SEMの結果は、ナノ粒子が半球形状であり、その平均サイズは600乃至1,000nmであることを示していた。
【0175】
Scintag PAD−V回折計を用いて、純粋なパクリタキセルと、パクリタキセル(重量%で2%)とブランクのゼラチンナノ粒子の混合物と、パクリタキセルを封入したナノ粒子(1.62%負荷)の広角X線回折(WAXD)スペクトルを得た。5°から60°まで毎分1°の走査速度でサンプルを走査した。WAXDの結果は、遊離パクリタキセルに対してと、遊離パクリタキセルとブランクのゼラチンナノ粒子の混合物に対してはX線回折スペクトルの鋭いピークを示したが、パクリタキセルを封入したゼラチンナノ粒子に対しては示さなかった。これは、ナノ粒子中に取り込まれたパクリタキセルが結晶状態ではなく非結晶状態にあることを示している。非結晶状態は溶解速度が速いので、非結晶状態が望ましい。
【0176】
ゼラチンナノ粒子からのパクリタキセルの放出 パクリタキセルナノ粒子(12mg)を100mlのPBS中に分散させ、37℃でインキュベートした。連続的なサンプル(1ml)を取り出し、ベックマンL−70超遠心機を用いて40,000rpmで15分間遠心した。400μlのナノ粒子不含上清を取り除き、3mlの酢酸エチルで2回抽出した。酢酸エチル抽出物のパクリタキセル濃度を高性能液体クロマトグラフィーによって分析した。
【0177】
吸収調査の結果は、ナノ粒子に封入されたパクリタキセルの全量の約4.5%がナノ粒子上で吸収されることを示していた。ナノ粒子からPBSへのパクリタキセルの放出は速やかに行われ、37℃では15分後、2時間後、3時間後にそれぞれ55%、87%、92%が放出された。
【0178】
パクリタキセルを封入したナノ粒子の生物活性 ATCC(the American Type Culture Collection(Rockville, MD))からヒトRT4膀胱移行性膀胱癌細胞を入手し、9%のウシ胎児血清と、2mMのLグルタミンと、90μg/mlのゲンタミシンと、90μg/mlのセフォタキシムナトリウムとを補充したマッコイ培地(McCoy's medium)において、37℃で、培養した空気中に5%のCOの加湿雰囲気下で培養した。トリプシンを用いてサブコンフルエントな培養物から細胞を採取し、新鮮な培地中で再懸濁した。トリパンブルー色素排除法により生細胞率を求め、生細胞率90%以上の細胞を用いた。細胞を96ウェルの微量定量プレートに播種し(2,000細胞/ウェル以下)、24時間、プレート表面に細胞が接着できるようにした。出願人は、パクリタキセルが即効性及び遅発性の細胞毒性を生じさせることを既に示している(Au, et al., Cancer Res., 58: 2141-2148,1998)。即時効果を評価するため、パクリタキセルの水溶液の一定分量(遊離パクリタキセルと呼ばれる)を含む0.2mlの培地またはパクリタキセルを封入したナノ粒子を用いて同じパクリタキセル用量で48時間及び96時間、細胞をインキュベートした。治療の直後に薬物効果を測定した。遅発効果を評価するため、細胞を同様に15分間及び2時間治療し、PBSで1回洗浄し、その後薬物不含培地で合計96時間インキュベートし、そのとき薬物効果を測定した。
【0179】
遊離薬物に関して、先ずエタノール中にパクリタキセルを溶解し、その後培地を用いて段階希釈することによってパクリタキセルの貯蔵液を調製した。最終的なエタノール濃度は、0.1%以下であった。スルホローダミンBアッセイ(Au, et al., Cancer Chemother. Pharmacol., 41 : 69-74, 1997)を用いて治療後に残った細胞の数を測定した。非線形回帰分析を用いてS字状の濃度−反応曲線を分析し、50%阻害(IC50)を生じさせる薬物濃度を得た。
【0180】
即時効果に関して、遊離パクリタキセルまたはナノ粒子に取り込まれたパクリタキセルのいずれかによる治療は、48時間で60%、96時間で84%の最大阻害を与えた。治療時間に伴う最大パクリタキセル細胞毒性の増加は、出願人の以前の観察(Au, et al., Cancer Res., 58: 2141-2148,1998)と一致している。48時間及び96時間の治療では、遊離パクリタキセルのIC50値はそれぞれ11.0±0.4nM、4.0±0.4nMであり、パクリタキセルを封入したナノ粒子のIC50値はそれぞれ9.6±1.1nM、4.0±0.3nMのパクリタキセル同等物であった(どちらの製剤も3回の実験のMean±SD)。これら2つの製剤に対するIC50値に有意な差はなかった(不対t検定統計値;48時間ではp=0.15、96時間ではp=0.71)。
【0181】
遅発効果(即ち96時間の時点で測定された効果)に関して、遊離パクリタキセルまたはナノ粒子に取り込まれたパクリタキセルのいずれかによる15分間及び2時間の治療は、74%乃至85%の最大阻害を与えた。15分間及び2時間の治療では、遊離パクリタキセルのIC50値はそれぞれ156.7±6.6nM、33.0±4.8nM、パクリタキセルを封入したナノ粒子のIC50値はそれぞれ165.7±33.5nM、31.4±1.8nMのパクリタキセル同等物であった(どちらの製剤も3回の実験のMean±SD)。2つの製剤に対する対応するIC50値にも有意な差はなかった(不対t検定統計値;15分間ではp=0.70、2時間ではp=0.64)。このデータは、ナノ粒子からのパクリタキセルの速やかな放出と、パクリタキセルを封入したナノ粒子は(クレモフォアの不存在下で)エタノールと水に溶解した遊離パクリタキセルと同等に効果的であることを示している。
【0182】
例8
パクリタキセルを封入したゼラチンナノ粒子の膀胱内滴下注入後の膀胱壁への高パクリタキセル濃度の送達
例8は、膀胱腔に滴下注入されるとパクリタキセルを封入したゼラチンナノ粒子が膀胱組織に高濃度のパクリタキセルを送達することを示している。
【0183】
膀胱組織へのパクリタキセルの送達の決定は、パクリタキセルを封入したゼラチンナノ粒子の滴下注入後に、他の文献(Wientjes, et al., Cancer Res., 51:4347-4354,1991;Song, D., et al., Cancer Chemother. Pharmacol., 40:285-292,1997)に記載されている通りに行った。簡単に言えば、パクリタキセルを封入したゼラチンナノ粒子の溶液(全重量250mg中1mgのパクリタキセルを含有)を麻酔したイヌの膀胱に2時間かけて滴下注入した。その後、膀胱を切除し、急速凍結し、クライオトームを用いて尿路上皮表面に平行に40μmの切片に切断した。洗浄後、前述したように(Song and Au, J. Chromatogr., 663: 337-344,1995)、高性能液体クロマトグラフィーアッセイを用いて凍結組織サンプルのパクリタキセル濃度を分析した。結果は、膀胱壁中のパクリタキセル濃度が尿路上皮即ち膀胱の内面での約50μg/g(60μg/gにほぼ等しい)から尿路上皮から500μm離れた深さでの約1μg/gまで減退し、500μm以上の組織深さに対しては約0.5μg/gで比較的一定を保っていたことを示している。尿路上皮濃度は尿中の非結合濃度を約20倍上回っていたが、これは膀胱壁へのパクリタキセルの浸透が良好であることを示している。これらの組織濃度は、ヒト膀胱RT4癌細胞において細胞毒性を生じさせるパクリタキセル濃度(即ち2時間の治療で−33nM。例1を参照)をも超えた。
【0184】
投与後のゼラチンナノ粒子におけるパクリタキセルの組織滞留を、2時間の治療終了から22時間後でかつ溶液の排出後(即ち投薬から24時間後)に膀胱組織濃度を分析することによって、他のイヌで調べた。パクリタキセル濃度は、尿路上皮で0.14μg/g(約165nM)であり、深さ500μmでの0.01μg/gまで緩徐に減退した。このデータは、膀胱組織におけるパクリタキセルのかなりの滞留を示している。薬物クリアランスの半減期は150分間と推定されたが、これはヒト膀胱組織におけるマイトマイシンCの半減期5分間と比べて30倍以上長い(Wientjes, et al., Cancer Res., 53: 3314-3320,1993)。
【0185】
例9
罹患したイヌの膀胱腫瘍由来の組織培養物におけるパクリタキセル封入ゼラチンナノ粒子の効力
膀胱癌と診断された3匹の罹患したイヌ(dog patient)から膀胱経尿道的切除によって膀胱腫瘍を得た。腫瘍は1mm辺に切断し、組織培養物としてコラーゲンゲル上で培養した(Au, et al., Cancer Chemother. Pharmacol., 41: 69-74,1997)、パクリタキセルを封入したナノ粒子で2時間治療した。パクリタキセル同等物として発現されるブロモデオキシウリジン標識化の阻害に対するIC50値は、1匹のイヌからの腫瘍では2.2μM、残り2匹のイヌからの腫瘍では10μM以上であった。
【0186】
IC50値の三者比較と、膀胱組織中の薬物濃度(例8を参照)と、これら3匹のイヌの臨床成果(例10を参照)は、感受性が最も高い腫瘍(即ち最も低いIC50値)を有するイヌが、腫瘍サイズを50%以上小さくしたときに、パクリタキセルを封入したナノ粒子による治療に良く反応して治療上の恩恵を生じさせるのに十分な薬物を投与されたであろうことを示している。対照的に、残り2匹のイヌのIC50値は到達可能な膀胱組織濃度を超え、これらの動物において腫瘍は進行性疾患(即ち50%以上のサイズの増加)を示した(Helfand, et al., J. Am.Anim. Hosp. Assoc., 30: 270-275,1994)。
【0187】
この例は、ゼラチンナノ粒子に製剤されたパクリタキセルに対する膀胱腫瘍の感受性と、in vitro結果とin vivo結果のと相互関係を示している。ヒト表在性膀胱腫瘍におけるパクリタキセルのIC50値がイヌに比べて低いことと、直接膀胱内滴下注入の候補であるヒト患者における膀胱腫瘍が表在性であり、膀胱壁の粘膜層を超えて浸透しないことは注目に値する。出願人が以前に得たヒト膀胱腫瘍に対するIC50値は、ヒト患者から得られるT0及びT1膀胱腫瘍ステージに対して1.2μMである(Au,et al., Cancer Chemother. Pharmacol., 41: 69-74,1997 におけるデータから計算)。このことは、ヒト患者における臨床結果がイヌの臨床結果より良好になることを示唆している。
【0188】
例10
膀胱癌に罹患したイヌにおけるパクリタキセル封入ゼラチンナノ粒子の効力
膀胱の移行上皮癌(TCC)で転移の形跡がないイヌが適格である。全身麻酔下でフォーリーカテーテルを介して1mgのパクリタキセルを封入したゼラチンナノ粒子を20mlの生理食塩水懸濁液に溶かしたものを膀胱内に週1回、3週間投与した。投薬量は、ゼラチン250mg中にパクリタキセル1mgであった。全ての患者に予防抗生物質及びデラコキシブ(deracoxib)を投与した。2時間の治療期間の前及び最中に血液及び尿サンプルを採取した。カラムスイッチングHPLCによって尿及び組織のパクリタキセル濃度を分析した。腹部超音波検査を用いて腫瘍反応をモニタリングした。
【0189】
6匹のイヌを治療したが、そのうち4匹は以前に治療を受けていなかった。血漿濃度は全ての時点でHPLC検出限界以下であった。尿の初濃度と終濃度の中央値はそれぞれ、27.51±8.59g/ml(n=16)、11.16±8.63g/ml(n=15)であった。非結合型パクリタキセルの濃度は、0.8〜1μg/mlで一定のままであったが、これは体温でのパクリタキセルの水溶解度の概ね最大値である。総奏効は2部分奏効で、安定性疾患(即ち部分奏効ではなく進行性疾患でない)が2匹、進行性疾患が2匹であった。臨床結果または成果の定義は、例9に記載されている。全身的な薬物吸収または毒性の形跡はなかった。罹患イヌの他覚的反応率は6分の2(33%)であり、これは他の化学療法薬を用いた膀胱内治療に関して文献に報告されている奏効率(12.5%)より高い(0〜20%の範囲、平均で12.5%;Mutsaers, et al., J. Vet. Intern.Med., 17: 136-144,2003)。
【0190】
例11
静脈内投与後のゼラチンナノ粒子による腎臓
パクリタキセルを封入したゼラチンナノ粒子の分布と市販のタキソール(登録商標)製剤の分布とを比較することによって、ゼラチンナノ粒子による腎臓標的指向化の利点を調べた。ゼラチンナノ粒子を調製し、尾静脈から1分間にわたってマウスに静脈内投与した。パクリタキセル用量は10mg/kgであった。24時間後に動物を安楽死させた。器官を切除し、ホモジナイズし、抽出して、高性能液体クロマトグラフィーを用いてパクリタキセル濃度を分析した。これらの手順は、例7に記載されているように行った。ナノ粒子(直径664nm、負荷4%)はパクリタキセルを速やかに放出した(37℃で24時間に70%)。パクリタキセルの血中濃度の合計(遊離及び結合)は、主半減期14時間で低下した。パクリタキセルは、肝臓、小腸、腎臓において最も高いレベルで器官に分布及び滞留していた(表4)。組織対血液濃度の比率は、肝臓>小腸>腎臓>>大腸>脾臓=胃>肺>心臓の順であった。タキソール(登録商標)の組織分布は、肝臓>小腸>大腸>胃>肺≧腎臓>脾臓>心臓の順であり、分布が異なる。ナノ粒子中の投与後組織濃度の比率として、または血漿濃度に対して正規化した後にタキソールとして、選択的滞留を求めた(表4)。腎臓における選択的滞留は7.86倍で、全器官で最も高かった。ナノ粒子中に投与後、腎臓中のパクリタキセルの終末半減期は13.7時間であった。タキソール(登録商標)としての投与では1.94時間であった。このデータは、ゼラチンナノ粒子が優先的に腎臓に滞留することを示している。
【表4】

【0191】
同等物
当業者は、本明細書中に特に記載されている本発明の特定の実施形態に相当する多数の同等物を常用実験程度で認識し、或いは確認することができるであろう。そのような同等物は、特許請求の範囲に含まれるものと解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】PLGA微小粒子による腫瘍標的指向化 腹腔内ヒトHs766T膵臓異種移植腫瘍をマウスに移植した。腫瘍が定着した後(21日目)、イソチオシアン酸フルオレッセイン(FITC)標識粒子1回分を腹腔内に投与した。FITCは、紫外光下で緑色蛍光を示す。24日目に動物に麻酔をかけて腹腔を露出した。左パネルは、室内照明下での写真を示す。腹膜に播種された、帯白色/帯黄色の不規則な形状の結節として現れている複数の腫瘍に注目されたい。右パネルは、紫外光下での写真を示す。緑色蛍光で示される、腫瘍結節上の粒子の局在に注目されたい。
【図2】パクリタキセルによる腫瘍プライミングは固形腫瘍における微小粒子の浸透及び分布を促進した 腹腔内ヒトSKOV3卵巣異種移植腫瘍をマウスに移植した。腫瘍が定着した後(42日目)、PLGA微小粒子(直径3μm以下、乳酸とグリコール酸の比率は50:50)を動物に腹腔内注入した。これらの粒子は、緑色蛍光化合物(アクリジンオレンジ)で標識されている。10mg/kgのパクリタキセル量を含有する速放性パクリタキセルを封入した微小粒子か、パクリタキセルを含まないブランクの微小粒子かいずれかを動物に与えた。3日後、動物に麻酔をかけ、網に付着した腫瘍を凍結し、切断した。腫瘍の輪郭を描いた位相差顕微鏡画像上に粒子の位置を示す蛍光顕微鏡画像を重ね合わせた。左パネルは、パクリタキセルにより腫瘍プライミングを受けた動物から得られた腫瘍の代表的な切片を示し、右パネルは、パクリタキセルを含まないブランクの微小粒子を与えられた動物から得られた腫瘍の切片を示している。微小粒子は緑色蛍光の円として確認できる。腫瘍プライミングパクリタキセル治療により治療された腫瘍全体で微小粒子の分布がより均一でかつ微小粒子の量も多いことに注目されたい。対照的に、パクリタキセルで治療されていない腫瘍では、微小粒子は腫瘍の周囲に限定された。写真は、200倍に拡大したものである。白色の線は100μmの距離を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に腫瘍治療薬を送達するための組成物であって、
(a)腫瘍アポトーシス誘導薬の速放性製剤と、
(b)腫瘍治療薬の徐放性製剤と、
(c)薬学的に許容される担体と、を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記アポトーシス誘導薬が、パクリタキセルを含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記速放性製剤が、約1時間以下にわたり少なくとも約50nMのパクリタキセルを放出することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記アポトーシス誘導薬が、腫瘍の上皮細胞の密度を約20%以上低減するのに十分な量で供給されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記アポトーシス誘導薬が、投与後約16乃至24時間以内に腫瘍の上皮細胞の密度を約20%以上低減するのに十分な量で供給されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記アポトーシス誘導薬が、腫瘍の上皮細胞の10%以上においてアポトーシスを誘導するのに十分な量で供給されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記アポトーシス誘導薬が、投与後約16乃至24時間以内に腫瘍の上皮細胞の10%以上においてアポトーシスを誘導するのに十分な量で供給されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記治療薬が、パクリタキセルまたはドキソルビシンの1つ若しくは複数であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記治療薬が、化学療法薬、抗生物質、または遺伝子送達構成体の1つ若しくは複数であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
静脈内注入、局所投与、または限局投与の1つ若しくは複数に適した請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
腫瘍の治療のためのキットであって、
(a)薬学的に許容される担体中のアポトーシス誘導薬と、
(b)薬学的に許容される担体中の腫瘍治療薬と、
(c)腫瘍の治療のための前記アポトーシス誘導薬及び前記治療薬の使用説明書と、を含むことを特徴とするキット。
【請求項12】
前記腫瘍治療薬が、
(a)腫瘍アポトーシス誘導薬の速放性製剤と、
(b)腫瘍治療薬の徐放性製剤と、
(c)薬学的に許容される担体と、を含むことを特徴とする請求項11に記載のキット。
【請求項13】
単一若しくは複数のナノ粒子または微小粒子製剤が、前記速放性製剤(a)と前記徐放性製剤(b)とを共に含むことを特徴とする請求項11に記載のキット。
【請求項14】
前記治療薬が、パクリタキセルまたはドキソルビシンの1つ若しくは複数であることを特徴とする請求項11に記載のキット。
【請求項15】
患者の腫瘍への化学療法薬の浸透性を高めることができるようにして前記腫瘍を治療する方法であって、
(a)前記腫瘍にアポトーシス誘導薬を投与する過程と、
(b)前記腫瘍にアポトーシスを生じさせるべく十分な時間を経過させる過程と、
(c)前記治療薬の前記腫瘍への浸透性を高めるべく実質的なアポトーシスが生じた時点で前記腫瘍に腫瘍治療薬を投与する過程と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記アポトーシス誘導薬には速放性製剤、前記治療薬には徐放性製剤を用いて、前記アポトーシス誘導薬及び前記治療薬が同時に送達されるようにすることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記治療が、腹腔内に送達され、
前記腫瘍が、1若しくは複数の前記腹腔内の組織または前記腹腔に隣接する組織において成長する腫瘍であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記アポトーシス誘導薬が、静脈内に送達され、
前記治療薬が、腹腔内に送達され、
前記腫瘍が、1若しくは複数の前記腹腔内の組織または前記腹腔に隣接する組織において成長する腫瘍であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記治療が、腹腔内に送達され、
前記腫瘍が、1若しくは複数の前記腹腔内の組織または前記腹腔に隣接する組織において成長する腫瘍であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記腫瘍が、腹水腫瘍であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記腫瘍が、腹水腫瘍であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記腫瘍が、1若しくは複数の前記腹腔内の組織または前記腹腔に前記腫瘍が突出する前記腹腔に隣接する組織において成長するような、原発部位からの転移性腫瘍であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記腫瘍が、1若しくは複数の前記腹腔内の組織または前記腹腔に前記腫瘍が突出する前記腹腔に隣接する組織において成長するような、原発部位からの転移性腫瘍であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記速放性製剤が、アポトーシス誘導薬の薬物含量の約50%以上を1日間以内に放出することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記治療患者が、腹腔に広がった膵臓癌を患う患者であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項26】
前記腫瘍治療薬を有する微小粒子を、送達出口を膵臓付近に設けたカテーテルを介して懸濁液として送達することを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
腫瘍を有する患者にアポトーシス誘導薬または腫瘍治療薬の1若しくは複数を送達するための組成物であって、
腫瘍の近くに前記治療薬を送達するために腫瘍に選択的に接着する1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子を含み、それによって、前記腫瘍に選択的に接着しない前記1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子での送達と比べて、前記腫瘍に前記治療薬がより多く蓄積することを特徴とする組成物。
【請求項28】
腫瘍を有する患者に腫瘍治療薬を送達するための組成物であって、
腫瘍に浸透しかつ腫瘍治療薬を放出するための少なくとも部分的な腫瘍アポトーシスを誘導する1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子を含むことを特徴とする組成物。
【請求項29】
前記1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子が、前記腫瘍に接着することを特徴とする請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子が、アポトーシス誘導薬及び前記腫瘍治療薬を含むことを特徴とする請求項28に記載の組成物。
【請求項31】
前記1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子に生体接着性コーティング剤で剤皮を施して組織接着性を増加させたことを特徴とする請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
前記生体接着性コーティング剤が、ポリリジン、フィブリノゲン、部分的にエステル化されたポリアクリル酸重合体、多糖、ペクチンか、或いは、硫酸化ショ糖と水酸化アルミニウムの混合物の1つ若しくは複数であることを特徴とする請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
請求項21、28、29、30、31、32の組成物の1つ若しくは複数を前記患者に投与する過程を含むことを特徴とする患者の腫瘍を治療する方法。
【請求項34】
(1)アポトーシス誘導薬を速やかに放出する約3乃至5μm径の、腫瘍に接着するミクロスフェア、
(2)治療薬を緩徐に放出する約3乃至5μm径の、腫瘍に接着するミクロスフェア、
(3)治療薬を緩徐に放出する約30乃至50μm径のミクロスフェア、
の1若しくは複数を含むことを特徴とするパクリタキセル含有ミクロスフェアの組成物。
【請求項35】
腹腔に広がった腫瘍への腫瘍治療薬送達を向上させる方法であって、
1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子に含まれる前記治療薬を前記腹腔に投与する過程を含み、
前記1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子が、転移性腫瘍が最も頻繁に生じる腹腔部位に集中するものであることを特徴とする方法。
【請求項36】
腫瘍治療薬を含む微小粒子が腹腔内腔により良好に滞留できるようにする方法であって、
前記腫瘍治療薬を、1若しくは複数の(a)前記腹腔に送達される時に約10μm以上の径を有する凝集を形成するのに適した微小粒子、または(b)約10μm以上の径を有する微小粒子、であって、リンパ系からの前記1若しくは複数の凝集または微小粒子のクリアランスが遅延されるような該微小粒子に製剤する過程を含むことを特徴とする方法。
【請求項37】
前記微小粒子がPLGA微小粒子を含むことを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項38】
腫瘍治療薬を含む微小粒子の組成物であって、
(a)前記腹腔に送達される時に約10μm以上の径を有する凝集を形成するのに適した微小粒子、または(b)約10μm以上の径を有する微小粒子、であって、リンパ系からの前記1若しくは複数の凝集または微小粒子のクリアランスが遅延されるような該微小粒子を含むことを特徴とする組成物。
【請求項39】
前記腫瘍治療薬を含む前記微小粒子が、約50%のラクチドと約50%のグリコライドのPLGAを含み、約3乃至5μmのサイズを有することを特徴とする請求項38に記載の方法。
【請求項40】
腫瘍治療薬を含む1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子を含む組成物であって、前記1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子が、
(1)薬物放出とそれに続く緩徐な薬物放出を与える、
(2)腫瘍組織に選択的に接着する、
(3)腹腔に集中する、
の特性を併せ持つことを特徴とする組成物。
【請求項41】
表在性膀胱癌の患者の膀胱壁にパクリタキセルを送達する方法であって、
(a)前記パクリタキセルを、クレモフォアを含まない製剤に製剤する過程と、
(b)前記クレモフォアを含まないパクリタキセルを膀胱内に滴下注入する過程と、を含み、
前記パクリタキセルが、クレモフォアを含まないので、前記膀胱壁における浸透のためにより容易に利用可能であることを特徴とする方法。
【請求項42】
表在性膀胱癌の患者の膀胱壁に膀胱内滴下注入されるように適合されたパクリタキセル組成物であって、クレモフォアを含まない製剤中に1回注入量のパクリタキセルを含むことを特徴とする組成物。
【請求項43】
前記パクリタキセル製剤が、架橋ゼラチンナノ粒子に含まれることを特徴とする請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
膀胱疾患を治療するための組成物であって、
架橋ゼラチンナノ粒子に含有される有効量のパクリタキセルを含み、
前記ナノ粒子が生体接着性コーティング剤で剤皮を施されていることを特徴とする組成物。
【請求項45】
前記生体接着性コーティング剤が、ポリリジン、フィブリノゲン、部分的にエステル化されたポリアクリル酸重合体、多糖、ペクチンか、或いは、硫酸化ショ糖と水酸化アルミニウムの混合物の1つ若しくは複数であることを特徴とする請求項44に記載の組成物。
【請求項46】
膀胱疾患を有しかつ尿容量が画定された膀胱に治療薬を送達する方法であって、
(1)1回量の治療薬が前記画定された尿容量における前記治療薬の溶解度を超えるように前記1回量の前記治療薬をゼラチンナノ粒子に製剤する過程と、
(2)前記治療薬の飽和濃度が膀胱で達成されかつ前記患者により作られる尿量に左右されずに維持されるように、前記1回量の前記治療薬を膀胱に滴下注入する過程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項47】
前記治療薬が、尿に微溶であることを特徴とする請求項46に記載の方法。
【請求項48】
画定された尿容量を有する膀胱において膀胱疾患を治療するための組成物であって、
尿に微溶な治療薬を含有するゼラチンナノ粒子を含み、
前記治療薬の量が、前記画定された量における前記治療薬の溶解度を超えていることを特徴とする組成物。
【請求項49】
前記膀胱疾患が、膀胱癌、間質性膀胱炎、尿失禁、または尿路感染の1つ若しくは複数であることを特徴とする請求項48に記載の組成物。
【請求項50】
膀胱に直接注射可能であることを特徴とする請求項48に記載の組成物。
【請求項51】
前記治療薬が、パクリタキセルを含むことを特徴とする請求項48に記載の組成物。
【請求項52】
前記パクリタキセルが、共溶媒と結合することを特徴とする請求項51に記載の組成物。
【請求項53】
前記共溶媒が、ジメチルスルホキシドまたはポリエチレングリコールの1つ若しくは複数であることを特徴とする請求項52に記載の組成物。
【請求項54】
患者の膀胱の尿におけるパクリタキセルの溶解度を向上させる方法であって、
前記患者に温熱療法を施す過程を含むことを特徴とする方法。
【請求項55】
腹腔、膀胱組織、脳組織、前立腺組織、または肺組織の内部または隣接する1若しくは複数の組織における腫瘍を治療する方法であって、
腫瘍薬物が封入された1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子を投与する過程を含み、
前記1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子が、ゼラチンまたは乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)の1つ若しくは複数から形成されることを特徴とする方法。
【請求項56】
前記腫瘍薬物が、パクリタキセルを含むことを特徴とする請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子に生体接着性で剤皮を施すことを特徴とする請求項55に記載の方法。
【請求項58】
前記1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子が、速放性腫瘍製剤と徐放性腫瘍製剤とを含むことを特徴とする請求項55に記載の方法。
【請求項59】
前記PLGA微小粒子の徐放性製剤が、乳酸とグリコール酸の比率が約50:50であり、約30乃至50μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度とを有し、約4%のパクリタキセルを含有し、1日目に初期バースト薬物放出速度で約20%を放出し、続いて、より緩徐な放出により約7週間で全累積放出の約70%を放出することを特徴とする請求項55に記載の方法。
【請求項60】
前記PLGA微小粒子の徐放性製剤が、乳酸とグリコール酸の比率が約75:25であり、約3乃至5μmの平均径と、体温より高いガラス転移温度とを有し、約4%のパクリタキセルを含有し、1日目に初期バースト薬物放出速度で約5%を放出し、続いて、より緩徐な放出により約7週間で全累積放出の約30%を放出することを特徴とする請求項55に記載の方法。
【請求項61】
前記PLGA微小粒子の速放性製剤が、乳酸とグリコール酸の比率が約50:50であり、約3乃至5μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度とを有し、約4%のパクリタキセルを含有し、薬物放出速度が約1日で約70%であることを特徴とする請求項55に記載の方法。
【請求項62】
前記PLGA微小粒子の速放性製剤が、乳酸とグリコール酸の比率が約50:50であり、約3乃至5μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度とを有し、約4%のパクリタキセルを含有し、薬物放出速度が約1日で約70%であることを特徴とする請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記PLGA微小粒子の速放性製剤が、乳酸とグリコール酸の比率が約50:50であり、約3乃至5μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度とを有し、約4%のパクリタキセルを含有し、薬物放出速度が約1日で約70%であることを特徴とする請求項60に記載の方法。
【請求項64】
腹腔、膀胱組織、脳組織、前立腺組織、または肺組織の内部にあるか或いは隣接する1若しくは複数の組織の腫瘍を治療するための組成物であって、
腫瘍薬物が封入された1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子を含み、前記1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子がゼラチンまたは乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)の1若しくは複数から形成されることを特徴とする組成物。
【請求項65】
前記腫瘍薬物が、パクリタキセルを含むことを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項66】
前記1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子が、生体接着性で剤皮を施されていることを特徴とする請求項64に記載の組成物。
【請求項67】
前記1若しくは複数のナノ粒子または微小粒子が、速放性腫瘍製剤と徐放性腫瘍製剤とを含むことを特徴とする請求項64に記載の組成物。
【請求項68】
前記PLGA微小粒子の徐放性製剤が、乳酸とグリコール酸の比率が約50:50であり、約30乃至50μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度とを有し、約4%のパクリタキセルを含有し、1日目に初期バースト薬物放出速度で約20%を放出し、続いて、より緩徐な放出により約7週間で全累積放出の約70%を放出することを特徴とする請求項67に記載の組成物。
【請求項69】
前記PLGA微小粒子の徐放性製剤が、乳酸とグリコール酸の比率が約75:25であり、約3乃至5μmの平均径と、体温より高いガラス転移温度とを有し、約4%のパクリタキセルを含有し、1日目に初期バースト薬物放出速度で約5%を放出し、続いて、より緩徐な放出により約7週間で全累積放出の約30%を放出することを特徴とする請求項67に記載の組成物。
【請求項70】
前記PLGA微小粒子の速放性製剤が、乳酸とグリコール酸の比率が約50:50であり、約3乃至5μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度とを有し、約4%のパクリタキセルを含有し、薬物放出速度が約1日で約70%であることを特徴とする請求項67に記載の組成物。
【請求項71】
前記PLGA微小粒子の速放性製剤が、乳酸とグリコール酸の比率が約50:50であり、約3乃至5μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度とを有し、約4%のパクリタキセルを含有し、薬物放出速度が約1日で約70%であることを特徴とする請求項68に記載の組成物。
【請求項72】
前記PLGA微小粒子の速放性製剤が、乳酸とグリコール酸の比率が約50:50であり、約3乃至5μmの平均径と、体温より低いガラス転移温度とを有し、約4%のパクリタキセルを含有し、薬物放出速度が約1日で約70%であることを特徴とする請求項69に記載の組成物。
【請求項73】
トウィーン20、トウィーン80、イソプロピルミリステート、β乳糖、またはフタル酸ジエチルの1つ若しくは複数であるような放出エンハンサを更に含むような請求項67、68、69、70、71、72のいずれかに記載の組成物。
【請求項74】
腎臓への治療薬の送達を高める方法であって、
(a)治療薬をゼラチンナノ粒子に製剤する過程と、
(b)前記ゼラチンナノ粒子を静脈内経路により投与する過程と、を含み、
前記治療薬が、ゼラチンナノ粒子に製剤されていない薬物の送達と比べて多量に腎臓に送達されることを特徴とする方法。
【請求項75】
前記ゼラチンナノ粒子のサイズが、約600乃至1000nmであることを特徴とする請求項74に記載の組成物。
【請求項76】
前記治療薬が、パクリタキセルを含有し、
前記ゼラチンナノ粒子が、175ブルームのブルーム強度、平均径約600nm乃至約1000nmの、約0.14%乃至20%の薬物負荷を有するゼラチンから調剤されることを特徴とする請求項74に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−522148(P2006−522148A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509638(P2006−509638)
【出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/010230
【国際公開番号】WO2004/089291
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(501393106)
【氏名又は名称原語表記】AU, Jessie, L., −S.
【住所又は居所原語表記】2287 Palmleaf Court, Columbus, OH 43235 U.S. A.
【出願人】(501393128)
【住所又は居所原語表記】2287 Palmleaf Court, Columbus, OH 43235 U.S. A.
【Fターム(参考)】