説明

膜パターンの形成方法及びデバイスの製造方法

【課題】 バンク内のインクの濡れ性を向上し、均一な膜を形成することのできる膜パターンの形成方法及びデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】 基体P上に有機成分を含むバンクBを形成する工程と、バンクBが形成された基体Pの表面をプラズマ処理する工程と、バンクBによって区画された領域に機能液Lを配置する工程とを有し、前記プラズマ処理として、酸素を処理ガスとしたプラズマ処理を行なわずに、フッ素含有ガスを処理ガスとしたプラズマ処理のみを行なうことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜パターンの形成方法及びデバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子回路や集積回路等の配線を有するデバイスの製造には例えばフォトリソグラフィ法が用いられている。このフォトリソグラフィ法は、予め導電膜を塗布した基体上にレジストと呼ばれる感光性材料を塗布し、回路パターンを照射して現像し、レジストパターンに応じて導電膜をエッチングすることで薄膜の配線パターンを形成するものである。このフォトリソグラフィ法は真空装置などの大掛かりな設備や複雑な工程を必要とし、また材料使用効率も数%程度でそのほとんどを廃棄せざるを得ず、製造コストが高い。
【0003】
これに対して、液滴吐出ヘッドから液体材料を液滴状に吐出する液滴吐出法、所謂インクジェット法を用いて基体上に配線パターンを形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、金属微粒子等の導電性微粒子を分散した機能液である配線パターン形成用インクを基体に直接パターン塗布し、その後熱処理やレーザ照射を行って薄膜の導電膜パターンに変換する。この方法によれば、フォトリソグラフィが不要となり、プロセスが大幅に簡単なものになるとともに、原材料の使用量も少なくてすむというメリットがある。
【特許文献1】WO99/48339号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェット法を用いて基体上に膜パターンを形成する場合には、通常、インク(機能液)の広がりを防止するために、バンクと呼ばれる土手構造を形成する。バンクは、酸化シリコン等の無機系の材料からなる無機バンクと、ポリイミドやアクリル等の有機系の材料からなる有機バンクとの2層構造からなるものが一般的である。従来は、このバンクの内側にのみインクを配置するために、バンクを形成した基体の表面を酸素を処理ガスとしたプラズマ処理(Oプラズマ処理)とフッ素含有ガスを処理ガスとしたプラズマ処理(CFプラズマ処理等)によって連続的に処理していた。このような処理を行なうと、前者のOプラズマ処理によって無機バンクの表面が活性化され、インクに対して良好な親液性を示すようになる。また、Oプラズマ処理によって、有機バンクをパターニングした時の現像残渣を除去することができる。一方、有機バンクの表面は、後者のCFプラズマ処理等によってフッ素基が導入されるため、インクに対して強い撥液性を示す。この結果、バンク内に吐出されたインクは、無機バンクの表面に沿って濡れ広がり、バンク内全体に均一な膜を形成する。また、仮にバンクの表面にインクが飛散しても、そのようなインクはバンクの表面で弾かれてバンクの内側に流れ込むため、バンクの上面に不要な膜が形成されることはない。
【0005】
しかしながら、実際には必ずしもこのような良好な結果は得られていない。例えば、無機バンクの表面は本来であればフッ素基は導入されないはずであるが、Oプラズマ処理とCFプラズマ処理等を連続して行なうと、CFプラズマ処理等によって表面にフッ素基が導入され、撥液性を示す場合がある。同様に、ITO等からなる電極の表面に電荷輸送層等を形成しようとすると、Oプラズマ処理とCFプラズマ処理の連続処理によって電極の表面にフッ素基が導入され、インクが均一に濡れ広がらない場合がある。このようなインクの濡れ性の問題は膜の平坦性やデバイスである有機EL装置等の特性に影響を及ぼすため、その改善策が求められていた。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、バンク内のインクの濡れ性を向上し、均一な膜を形成することのできる膜パターンの形成方法及びデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の膜パターンの形成方法は、表面が無機材料で構成された基体の表面に機能液を配置することにより膜パターンを形成する方法であって、前記基体上に有機成分を含むバンクを形成する工程と、前記バンクが形成された基体の表面をプラズマ処理する工程と、前記バンクによって区画された領域に前記機能液を配置する工程とを有し、前記プラズマ処理として、酸素を処理ガスとしたプラズマ処理を行なわずに、フッ素含有ガスを処理ガスとしたプラズマ処理を行なうことを特徴とする。ここで「有機成分を含むバンク」とは、有機成分のみからなるバンク(上述の有機バンク)だけでなく、有機成分と無機成分の混合成分(有機・無機ハイブリッド材料)からなるバンクも含むものである。本明細書では、これらを総称して「有機バンク等」といい、無機材料のみからなるバンク(上述の無機バンク)と区別する。
【0007】
前述の問題について本発明者が検討を行なったところ、バンク内の濡れ性が不均一になる原因として、(1)基体の表面にOプラズマ処理をした際に有機バンク等の一部がアッシングされ、その残渣が基体上に堆積することで、有機バンク等内が撥液化されてしまうこと、(2)Oプラズマ処理によって有機バンク等内の領域(無機バンクや電極等の表面)を活性化することで、その後のCFプラズマ処理等によって無機バンク等の表面にフッ素基が導入され易くなること、が明らかとなった。
【0008】
そこで本発明では、基体に対するプラズマ処理として、酸素を処理ガスとするプラズマ処理(Oプラズマ処理)を行なわずに、フッ素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理(CFプラズマ処理等)のみを行なうこととした。この方法によれば、有機バンク等内の領域が活性化されないので、CFプラズマ処理等によってフッ素基が導入されることがなく、またOプラズマ処理によって有機バンク等がアッシングされないので、その残渣によって有機バンク等内が撥液化される虞もない。このため、有機バンク等内の領域を良好な親液性に維持したまま機能液の配置を行なうことができ、有機バンク等内全体に均一な膜を形成することが可能になる。
【0009】
なお、従来のOプラズマ処理には、有機バンク等をパターニングしたときの現像残渣を除去する目的もあるが、このような現像残渣はCFプラズマ処理等によっても除去できるので、それによる悪影響は殆どない。むしろ、Oプラズマ処理を省略することで、プロセスを簡略化することができるといったメリットがある。
【0010】
本発明においては、前記有機バンク等は、前記機能液に対して撥液性を示す材料によって形成されるものとすることができる。
この方法によれば、有機バンク等の表面に不要な膜が形成されることを確実に回避することができる。また、CFプラズマ処理等におけるプラズマエネルギーを小さくすることができるので、有機バンク等内の領域にフッ素基が導入されることをより回避することができる。
【0011】
本発明においては、前記基体の表面には電極が設けられており、前記有機バンク等は前記電極上に開口部を有して形成されるものとすることができる。また、前記基体の表面には、無機材料からなる無機バンクが前記電極上に開口部を有して設けられており、前記有機バンク等は、前記無機バンクに設けられた開口部と連通する開口部であってその開口部の壁面が前記無機バンクの開口部から外側に後退した開口部を有して形成されるものとすることができる。
この方法によれば、電極上に正確に膜パターンを形成することができる。また、バンクを無機バンクと有機バンク等の2層構造によって形成した場合には、機能液に対して親液性を有する無機バンクが有機バンク等の開口部の内側に突出して形成されることで、有機バンク等の近傍においても良好な濡れ性が得られるようになる。
【0012】
本発明においては、前記機能液は、電荷輸送層を形成するための電荷輸送層形成材料又は発光層を形成するための発光層形成材料を含むものとすることができる。ここで、電荷輸送層としては、電極が陽極として機能する場合には正孔注入層を用いることができ、電極が陰極として機能する場合には電子注入層を用いることができる。また、発光層は、高分子発光材料からなる有機発光層であることが好ましい。
この方法によれば、均一な発光特性を有するエレクトロルミネッセンス素子(EL素子)を形成することができる。
【0013】
本発明のデバイスの製造方法は、基体上に膜パターンを形成する工程を含むデバイスの製造方法であって、前記膜パターンの形成工程が、前述した本発明の膜パターンの形成方法により行なわれることを特徴とする。
この方法によれば、膜パターンが均一に形成されることにより、優れた特性を有するデバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の膜パターンの形成方法を概念的に示す図である。
本発明の膜パターンの形成方法は、基体P上に有機成分を含むバンク(有機バンク等)Bを形成するバンク形成工程と、バンクBが形成された基体Pの表面をプラズマ処理するプラズマ処理工程と、バンクBによって区画された領域に機能液Lを配置する材料配置工程と、基体P上に配置された機能液Lを乾燥又は焼成する乾燥/焼成工程とを有している。
【0015】
本発明の膜パターンの形成方法では、バンクBによって区画された領域に機能液Lが配置され、この機能液Lが乾燥又は焼成されることにより、基体P上に膜パターンFが形成される。この場合、バンクBによって膜パターンFの形状が規定されることから、例えば隣接するバンクB、B間の幅を狭くするなど、バンクBを適切に形成することにより、膜パターンFの微細化や細線化が図られる。なお、膜パターンFが形成された後、基体PからバンクBを除去してもよく、そのまま基体P上に残してもよい。
【0016】
また、本発明の膜パターンの形成方法では、プラズマによる表面処理として、酸素を処理ガスとしたプラズマ処理(Oプラズマ処理)を行なわずに、フッ素含有ガスを処理ガスとしたプラズマ処理(CFプラズマ処理等)のみを行なうことを特徴としている。バンクB内の濡れ性が不均一になる原因としては、(1)基体Pの表面にOプラズマ処理をした際にバンクBの一部がアッシングされ、その残渣が基体P上に堆積することで、バンクB内が撥液化されてしまうこと、(2)Oプラズマ処理によってバンクB内の領域を活性化することで、その後のCFプラズマ処理等によって基体Pの表面にフッ素基が導入され易くなること、が考えられている。このため、Oプラズマ処理を行なわずにCFプラズマ処理等のみを行なうことで、バンクB内の領域が活性化されることによりフッ素基が導入されるのを防ぐことができる。また、Oプラズマ処理によってバンクBがアッシングされないので、その残渣によってバンクB内の領域が撥液化される虞もない。このため、バンクB内の領域を良好な親液性に維持したまま機能液Lの配置を行なうことができ、これによりバンクB内全体に均一な膜Fを形成することが可能になる。
【0017】
なお、従来のOプラズマ処理には、バンクBをパターニングしたときの現像残渣を除去する目的もあるが、このような現像残渣はCFプラズマ処理等によっても除去できるため、それによる悪影響は殆ど生じない。むしろ、Oプラズマ処理を省略することで、プロセスを簡略化することができるといったメリットがある。
【0018】
なお、本発明では、表面処理としてフッ素含有ガスを処理ガスとしたプラズマ処理のみを行なうとしているが、これはプラズマによる表面処理としては上記の処理のみが行なわれるという意味であって、紫外線を用いた洗浄処理などプラズマ以外の処理については従来と同様に行なうことができる。
【0019】
ここで、基体Pとしては、ガラス、石英ガラス、Siウエハ、プラスチックフィルム、金属板など各種のものが挙げられ、さらに、これら各種の素材基板の表面に半導体膜、金属膜、誘電体膜、有機膜などが下地層として形成されたものも含む。
この基体Pにおいて膜パターンFが形成される部分は、少なくともその表面が無機材料で構成されたものとされる。基体Pそのものがガラス等の無機材料で構成されていてもよく、プラスチック基板等の表面に酸化シリコン等の下地絶縁膜やITO等の電極が形成されたものでもよい。このように基体Pの表面が無機材料で構成されることにより、Oプラズマ処理を行なわなくても、機能液Lに対して良好な濡れ性(親液性)を有することができる。
【0020】
バンクBの形成材料としては、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、オレフィン樹脂、メラミン樹脂等の高分子材料、ポリシラザン、ポリシロキサン等を含有した有機・無機ハイブリッド材料等が用いられる。バンクBの形成方法としては、リソグラフィ法や印刷法等、任意の方法を用いることができる。例えば、リソグラフィ法を使用する場合は、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、ダイコート、ディップコート等所定の方法で、基体P上にバンクBの形成材料からなる層を形成した後、エッチングやアッシング等によりパターニングすることにより、所定のパターン形状のバンクが得られる。なお、基体Pとは別の物体上でバンクを形成し、それを基体P上に配置してもよい。
【0021】
バンクBは、機能液Lに対して撥液性を示す材料によって形成されることが望ましい。これにより、バンクBの上面への機能液Lの付着が防止され、膜パターンFを所望の形状に正確に形成することができる。バンクBの表面はプラズマ処理工程によって撥液性が付与されるが、もともとバンクBを撥液性の材料で形成しておけば、プラズマ処理のエネルギーを低下させることができ、より基体Pの表面にフッ素基が導入されにくい構造とすることができる。
【0022】
機能液(インク)Lとしては、種々のものを用いることができる。機能液とは、液中に含まれる膜成分を膜化することによって所定の機能を有する膜(機能膜)を形成し得るものをいう。係る機能としては、電気・電子的機能(導電性、絶縁性、圧電性、焦電性、誘電性等)、光学的機能(光選択吸収、反射性、偏光性、光選択透過性、非線形光学性、蛍光あるいはリン光等のルミネッセンス、フォトクロミック性等)、磁気的機能(硬磁性、軟磁性、非磁性、透磁性等)、化学的機能(吸着性、脱着性、触媒性、吸水性、イオン伝導性、酸化還元性、電気化学特性、エレクトロクロミック性等)、機械的機能(耐摩耗性等)、熱的機能(伝熱性、断熱性、赤外線放射性等)、生体的機能(生体適合性、抗血栓性等)等の種々の機能がある。
【0023】
機能液Lを、バンクBによって区画された領域に配置する方法としては、液滴吐出法、いわゆるインクジェット法を用いるのが好ましい。液滴吐出法を用いることにより、スピンコート法などの他の塗布技術に比べて、液体材料の消費に無駄が少なく、基体上に配置する機能液の量や位置の制御を行ないやすいという利点がある。
【0024】
機能液Lの分散媒としては、上記の膜成分を分散できるもので、凝集を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、水の他に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼンなどの炭化水素系化合物、またエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、p−ジオキサンなどのエーテル系化合物、さらにプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノンなどの極性化合物を例示できる。これらのうち、微粒子の分散性と分散液の安定性、また液滴吐出法(インクジェット法)への適用の容易さの点で、水、アルコール類、炭化水素系化合物、エーテル系化合物が好ましく、より好ましい分散媒としては、水、炭化水素系化合物を挙げることができる。
【0025】
上記膜成分を分散させた分散駅の表面張力は0.02N/m以上0.07N/m以下の範囲内であることが好ましい。液滴吐出法にて液体を吐出する際、表面張力が0.02N/m未満であると、インク組成物のノズル面に対する濡れ性が増大するため飛行曲りが生じやすくなり、0.07N/mを超えるとノズル先端でのメニスカスの形状が安定しないため吐出量や、吐出タイミングの制御が困難になる。表面張力を調整するため、上記分散液には、基体との接触角を大きく低下させない範囲で、フッ素系、シリコーン系、ノニオン系などの表面張力調節剤を微量添加するとよい。ノニオン系表面張力調節剤は、液体の基体への濡れ性を向上させ、膜のレベリング性を改良し、膜の微細な凹凸の発生などの防止に役立つものである。上記表面張力調節剤は、必要に応じて、アルコール、エーテル、エステル、ケトン等の有機化合物を含んでもよい。
【0026】
上記分散液の粘度は1mPa・s以上50mPa・s以下であることが好ましい。液滴吐出法を用いて液体材料を液滴として吐出する際、粘度が1mPa・sより小さい場合にはノズル周辺部がインクの流出により汚染されやすく、また粘度が50mPa・sより大きい場合は、ノズル孔での目詰まり頻度が高くなり円滑な液滴の吐出が困難となる。
【0027】
液滴吐出法の吐出技術としては、帯電制御方式、加圧振動方式、電気機械変換式、電気熱変換方式、静電吸引方式などが挙げられる。
【0028】
帯電制御方式は、材料に帯電電極で電荷を付与し、偏向電極で材料の飛翔方向を制御してノズルから吐出させるものである。また、加圧振動方式は、材料に30kg/cm 程度の超高圧を印加してノズル先端側に材料を吐出させるものであり、制御電圧をかけない場合には材料が直進してノズルから吐出され、制御電圧をかけると材料間に静電的な反発が起こり、材料が飛散してノズルから吐出されない。また、電気機械変換方式は、ピエゾ素子(圧電素子)がパルス的な電気信号を受けて変形する性質を利用したもので、ピエゾ素子が変形することによって材料を貯留した空間に可撓物質を介して圧力を与え、この空間から材料を押し出してノズルから吐出させるものである。
【0029】
電気熱変換方式は、材料を貯留した空間内に設けたヒータにより、材料を急激に気化させてバブル(泡)を発生させ、バブルの圧力によって空間内の材料を吐出させるものである。静電吸引方式は、材料を貯留した空間内に微小圧力を加え、ノズルに材料のメニスカスを形成し、この状態で静電引力を加えてから材料を引き出すものである。また、この他に、電場による流体の粘性変化を利用する方式や、放電火花で飛ばす方式などの技術も適用可能である。液滴吐出法は、材料の使用に無駄が少なく、しかも所望の位置に所望の量の材料を的確に配置できるという利点を有する。なお、液滴吐出法により吐出される液状材料(流動体)の一滴の量は、例えば1〜300ナノグラムである。
【0030】
図2は、本発明の膜パターンの形成方法に用いられる装置の一例として、液滴吐出法によって基体上に液体材料を配置する液滴吐出装置(インクジェット装置)IJの概略構成を示す斜視図である。
【0031】
液滴吐出装置IJは、液滴吐出ヘッド1と、X軸方向駆動軸4と、Y軸方向ガイド軸5と、制御装置CONTと、ステージ7と、クリーニング機構8と、基台9と、ヒータ15とを備えている。
【0032】
ステージ7は、この液滴吐出装置IJによりインク(液体材料)を設けられる基体Pを支持するものであって、基体Pを基準位置に固定する不図示の固定機構を備えている。
【0033】
液滴吐出ヘッド1は、複数の吐出ノズルを備えたマルチノズルタイプの液滴吐出ヘッドであり、長手方向とY軸方向とを一致させている。複数の吐出ノズルは、液滴吐出ヘッド1の下面にY軸方向に並んで一定間隔で設けられている。液滴吐出ヘッド1の吐出ノズルからは、ステージ7に支持されている基体Pに対して、上述した導電性微粒子を含むインクが吐出される。
【0034】
X軸方向駆動軸4には、X軸方向駆動モータ2が接続されている。X軸方向駆動モータ2はステッピングモータ等であり、制御装置CONTからX軸方向の駆動信号が供給されると、X軸方向駆動軸4を回転させる。X軸方向駆動軸4が回転すると、液滴吐出ヘッド1はX軸方向に移動する。
【0035】
Y軸方向ガイド軸5は、基台9に対して動かないように固定されている。ステージ7は、Y軸方向駆動モータ3を備えている。Y軸方向駆動モータ3はステッピングモータ等であり、制御装置CONTからY軸方向の駆動信号が供給されると、ステージ7をY軸方向に移動する。
【0036】
制御装置CONTは、液滴吐出ヘッド1に液滴の吐出制御用の電圧を供給する。また、X軸方向駆動モータ2に液滴吐出ヘッド1のX軸方向の移動を制御する駆動パルス信号を、Y軸方向駆動モータ3にステージ7のY軸方向の移動を制御する駆動パルス信号を供給する。
【0037】
クリーニング機構8は、液滴吐出ヘッド1をクリーニングするものである。クリーニング機構8には、図示しないY軸方向の駆動モータが備えられている。このY軸方向の駆動モータの駆動により、クリーニング機構8は、Y軸方向ガイド軸5に沿って移動する。クリーニング機構8の移動も制御装置CONTにより制御される。
【0038】
ヒータ15は、ここではランプアニールにより基体Pを熱処理する手段であり、基体P上に塗布された液体材料に含まれる溶媒の蒸発及び乾燥を行なう。このヒータ15の電源の投入及び遮断も制御装置CONTにより制御される。
【0039】
液滴吐出装置IJは、液滴吐出ヘッド1と基体Pを支持するステージ7とを相対的に走査しつつ基体Pに対して液滴を吐出する。ここで、以下の説明において、X軸方向を走査方向、X軸方向と直交するY軸方向を非走査方向とする。したがって、液滴吐出ヘッド1の吐出ノズルは、非走査方向であるY軸方向に一定間隔で並んで設けられている。なお、図2では、液滴吐出ヘッド1は、基体Pの進行方向に対し直角に配置されているが、液滴吐出ヘッド1の角度を調整し、基体Pの進行方向に対して交差させるようにしてもよい。このようにすれば、液滴吐出ヘッド1の角度を調整することで、ノズル間のピッチを調節することが出来る。また、基体Pとノズル面との距離を任意に調節することが出来るようにしてもよい。
【0040】
図3は、ピエゾ方式による液体材料の吐出原理を説明するための図である。
図3において、液体材料(配線パターン用インク、機能液)を収容する液体室21に隣接してピエゾ素子22が設置されている。液体室21には、液体材料を収容する材料タンクを含む液体材料供給系23を介して液体材料が供給される。
【0041】
ピエゾ素子22は駆動回路24に接続されており、この駆動回路24を介してピエゾ素子22に電圧を印加し、ピエゾ素子22を変形させることにより、液体室21が変形し、ノズル25から液体材料が吐出される。この場合、印加電圧の値を変化させることにより、ピエゾ素子22の歪み量が制御される。また、印加電圧の周波数を変化させることにより、ピエゾ素子22の歪み速度が制御される。
【0042】
ピエゾ方式による液滴吐出は材料に熱を加えないため、材料の組成に影響を与えにくいという利点を有する。
【0043】
[実施例]
次に、本発明の膜パターンの形成方法の実施例について説明する。
図4は、バンクBを形成した基体P上にインクジェット液滴Lを吐出した状態を示す図である。図4中、「E1」で示した部分はバンクBの際から200μm以内の領域を示しており、「E2」で示した部分はバンクBの際から5mm程度離れた領域を示している。
【0044】
この実施例では、基体Pに対する処理として、Oプラズマ処理とCFプラズマ処理を連続して行なった場合(比較例)と、Oプラズマ処理を行なわずにCFプラズマ処理のみを行なった場合(実施例)について、液滴Lの着弾径を比較している。なお、基体Pにはガラス基板又はガラス基板の表面にITO電極を形成した基板を使用しており、バンクBにはSL−1116−4(商品名、東レ社製)を使用している。また、液滴LにはPEDOT/PSSを使用し、液滴Lの重量は10ng/dotとしている。
着弾径の測定結果は次の通りである。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示すように、実施例及び比較例の双方についてバンクB上の着弾径は30μmとなっており、バンクBの表面が良好な撥液性を示すことがわかる。しかし、比較例は実施例に比べてバンクBの近傍Aの着弾径が小さく、Oプラズマ処理をすることが必ずしも親液性の向上に寄与しないことがわかる。特に、バンクBの近傍E1ではバンクBから離れた部分E2よりも着弾径が小さくなっていることから、バンクBをOプラズマ処理することによる残渣等の影響も親液性を低下させる要因となることがわかる。
【0047】
[有機EL装置]
次に、本発明のデバイスの製造方法の一実施の形態として、本発明の膜パターンの形成方法を有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)の製造方法に適用した例について説明する。この有機EL装置は、有機EL素子を画素として基体上に配列してなる有機EL装置であり、例えば電子機器等の表示手段として好適に用いることができるものである。
【0048】
図5は有機EL装置70の回路構成図、図6は、同有機EL装置70に備えられた各画素71の平面構造を示す図であって、(a)は画素71のうち、主にTFT等の画素駆動部分を示す図、(b)は画素間を区画するバンク(隔壁部材)等を示す図である。また図7は、図6(a)のA−A線に沿う断面構成を示す図である。
【0049】
図5に示すように、有機EL装置70は、ガラス等からなる基体上に、複数の走査線(配線、電力導通部)131と、これら走査線131に対して交差する方向に延びる複数の信号線(配線、電力導通部)132と、これら信号線132に並列に延びる複数の共通給電線(配線、電力導通部)133とがそれぞれ配線されたもので、走査線131及び信号線132の各交点毎に、画素(画素領域)71が設けられて構成されたものである。
【0050】
信号線132に対しては、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン、及びアナログスイッチ等を備えるデータ側駆動回路72が設けられている。一方、走査線131に対しては、シフトレジスタ及びレベルシフタ等を備える走査側駆動回路73が設けられている。また、画素領域71の各々には、走査線131を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(薄膜トランジスタ)142と、このスイッチング用TFT(薄膜トランジスタ)142を介して信号線132から供給される画像信号(電力)を保持する保持容量capと、保持容量capによって保持された画像信号がゲート電極に供給される駆動用TFT143と、この駆動用TFT143を介して共通給電線133に電気的に接続したときに共通給電線133から駆動電流が流れ込む画素電極141と、この画素電極141と共通電極154との間に挟み込まれる発光部140と、が設けられている。そして、前記画素電極(第1電極)141と共通電極(第2電極)154と、有機機能層からなる発光部140とによって構成される素子が、有機EL素子である。
【0051】
このような構成のもとに、走査線131が駆動されてスイッチング用TFT142がオンとなると、そのときの信号線132の電位が保持容量capに保持され、該保持容量capの状態に応じて、駆動用TFT143のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT143のチャネルを介して共通給電線133から画素電極141に電流が流れ、さらに発光部140を通じて共通電極154に電流が流れることにより、発光部140は、これを流れる電流量に応じて発光するようになる。
【0052】
次に、図6(a)に示す画素71の平面構造をみると、画素71は、平面視略矩形状の画素電極141の四辺が、信号線132、共通給電線133、走査線131及び図示しない他の画素電極用の走査線によって囲まれた配置となっている。また図7に示す画素71の断面構造をみると、基体P上に、駆動用TFT143が設けられており、駆動用TFT143を覆って形成された複数の絶縁膜を介した基体P上に、有機EL素子200が形成されている。有機EL素子200は、基体P上に立設された有機バンク150に囲まれる領域内に設けられた有機機能層140を主体として構成され、この有機機能層140を、画素電極141と共通電極154との間に挟持した構成を備える。
【0053】
ここで、図6(b)に示す平面構造をみると、有機バンク150は、画素電極141の形成領域に対応した平面視略矩形状の開口部151を有しており、この開口部151に先の有機機能層140が形成されるようになっている。
【0054】
図7に示すように、駆動用TFT143は、半導体膜210に形成されたソース領域143a、ドレイン領域143b、及びチャネル領域143cと、半導体層表面に形成されたゲート絶縁膜220を介してチャネル領域143cに対向するゲート電極143Aとを主体として構成されている。半導体膜210及びゲート絶縁膜220を覆う第1層間絶縁膜230が形成されており、この第1層間絶縁膜230を貫通して半導体膜210に達するコンタクトホール232,234内に、それぞれドレイン電極236、ソース電極238が埋設され、各々の電極はドレイン領域143b、ソース領域143aに導電接続されている。第1層間絶縁膜230には、第2層間絶縁膜240が形成されており、この第2層間絶縁膜240に貫設されたコンタクトホールに画素電極141の一部が埋設されている。そして画素電極141とドレイン電極236とが導電接続されることで、駆動用TFT143と画素電極141(有機EL素子200)とが電気的に接続されている。画素電極141の周縁部に一部乗り上げるようにして無機絶縁材料からなる無機バンク(第1隔壁層)149が形成されている。無機バンク149上には、有機材料からなる有機バンク(第2隔壁層)150が積層され、この有機EL装置における隔壁部材を成している。
【0055】
上記有機EL素子200は、画素電極141上に、電荷輸送層としての正孔注入層140Aと、発光層140Bとを積層し、この発光層140Bと有機バンク150とを覆う共通電極154を形成することにより構成されている。正孔注入層140Aは、画素電極141を覆って形成されており、その周端部は、有機バンク150の下層側に設けられた無機バンク149のうち、有機バンク150から画素電極141中央側に突出して配置された部分も覆って形成されている。
【0056】
基体Pとしては、いわゆるボトムエミッション型の有機EL装置の場合、基体P側から光を取り出す構成であるので、ガラス等の透明基板が用いられる。一方、いわゆるトップエミッション型の有機EL装置の場合には、有機EL素子200が配設された側から光を取り出す構成であるので、ガラス等の透明基板のほか、不透明基板も用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。
【0057】
画素電極141は、基体Pを介して光を取り出すボトムエミッション型の場合には、ITO(インジウム錫酸化物)等の透光性導電材料により形成されるが、トップエミッション型の場合には透光性である必要はなく、金属材料等の適宜な導電材料によって形成できる。
【0058】
共通電極154は、発光層140Bと有機バンク150の上面、さらには有機バンク150の側面部を形成する壁面を覆った状態で基体P上に形成される。この共通電極154を形成するための材料としては、トップエミッション型の場合、透明導電材料が用いられる。透明導電材料としてはITOが好適であるが、他の透光性導電材料であっても構わない。ボトムエミッション型の場合には、透明導電材料のほか、アルミニウム等の不透明若しくは光反射性を有する導電材料を用いることができる。
【0059】
共通電極154の上層側には、陰極保護層を形成してもよい。係る陰極保護層を設けることで、製造プロセス時に共通電極154が腐食されるのを防止する効果が得られ、無機化合物、例えば、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン窒酸化物等のシリコン化合物により形成できる。共通電極154を無機化合物からなる陰極保護層で覆うことにより、無機酸化物からなる共通電極154への酸素等の侵入を良好に防止することができる。
なお、このような陰極保護層は、共通電極154の平面領域の外側の基体上まで、10nmから300nm程度の厚みに形成される。
【0060】
[有機EL装置の製造方法]
次に、有機EL装置70の製造方法について図面を参照しながら説明する。本実施形態では、図5から図7に示した構成を備えた有機EL装置を液滴吐出法(インクジェット法)を用いて製造する方法を例示して説明する。
なお、以下に示す手順や液体材料の材料構成は一例であってこれに限定されるものではない。また、液滴吐出装置については前述のものを用いることができる。
【0061】
以下、上記有機EL装置70に備えられる有機EL素子200の製造方法について図8及び図9を参照しながら説明する。図8及び図9には、説明を簡略化するために単一の画素71のみが図示されている。
【0062】
まず、図8(a)に示すように、基体P上に駆動用TFT143、第1層間絶縁膜230、第2層間絶縁膜240及び画素電極141を形成する。これらは公知の方法により形成することができる。なお、画素電極141は、ボトムエミッション型の場合には、ITO等の透光性導電材料により形成される。トップエミッション型の場合には、透光性導電材料のほかアルミニウム、銀、金、プラチナ等の不透明又は光反射性を有する導電材料によって形成される。また、ITO/Alの積層膜としてもよい。
【0063】
次に、図8(b)に示すように、画素電極141の周縁部と一部平面的に重なるように、酸化シリコン等の無機絶縁材料からなる無機バンク149を形成する。具体的には、画素電極141及び平坦化絶縁膜240を覆うように酸化シリコン膜を形成した後、公知のフォトリソグラフィ技術を用いて酸化シリコン膜をパターニングし、画素電極141の表面を部分的に開口させることで形成できる。
【0064】
次に、図8(c)に示すように、無機バンク149上に、アクリル、ポリイミド等の有機絶縁材料からなる有機バンク150を形成する。有機バンク150の高さは、例えば1〜2μm程度に設定され、基体P上で有機EL素子200の仕切部材として機能する。このような構成のもと、有機EL素子200の正孔注入層や発光層の形成場所、すなわちこれらの形成材料の塗布位置とその周囲の有機バンク150との間に十分な高さの段差からなる開口部151が形成される。有機バンク150の開口部151と無機バンク149の開口部149bとは互いに連通し、画素電極141はこれらの開口部内において露出した状態となっている。
【0065】
有機バンク150を形成するに際しては、有機バンク150の開口部151の壁面を、無機バンク149の開口部149bから若干外側へ後退させて形成するのがよい。このように有機バンク150の開口部151内に無機バンク149を一部露出させておくことで、有機バンク150内での液体材料の濡れ広がりを良好なものとすることができる。
【0066】
有機バンク150を形成したならば、図8(d)に示すように、有機バンク150及び画素電極141を含む基体上の領域に対して表面処理を施す。有機バンク150は、有機EL素子200を区画する仕切部材として機能するので、液滴吐出ヘッド1(図2参照)から吐出される液体材料に対して非親和性(撥液性)を示すものであることが好ましく、前記表面処理により、有機バンク150に選択的に非親和性を発現させることができる。
【0067】
係る表面処理として、例えば有機バンク150の表面をフッ素系化合物を含むガス(フッ素含有ガス)を処理ガスとしてプラズマ処理(撥液処理)する方法を採用することができる。フッ素化合物を用いることにより、有機バンク150の表面にフッ素基が導入され、これにより液体材料を弾くことが可能になる。フッ素化合物としては、例えばCF、SF、CHFなどが挙げられる。
【0068】
通常は、このような処理の前に、画素電極141や無機バンク149の表面を液体材料に対して親和性(親液性)を示すものとするためにOプラズマ処理による親液処理が行なわれるが、本実施形態ではこのような親液処理を行なわずに直接撥液処理を行なう。
【0069】
このような処理では、基体の一面側全体に処理を施したとしても、ITO膜や金属膜等の無機材料からなる画素電極141の表面や酸化シリコン等の無機材料からなる無機バンク149の表面は有機材料からなる有機バンク150の表面よりも撥液化されにくい。特に、本実施形態では従来と違って撥液処理を行なう前にO2プラズマ処理を行なっていないので、画素電極等の表面は活性化されず、フッ素基がより導入されにくい構造となっている。このため、上記の撥液処理では、有機バンク150の表面のみが選択的に撥液化されることになる。
【0070】
次に、図9(a)に示すように、基体Pの上面を上に向けた状態で正孔注入層形成材料を含む液体材料114aを液滴吐出ヘッド1により有機バンク150に囲まれた塗布位置に選択的に塗布する。正孔注入層を形成するための液体材料(機能液)114aは、正孔注入層形成材料(電荷輸送層形成材料)及び溶媒を含む。
【0071】
正孔注入層形成材料としては、ポリマー前駆体がポリテトラヒドロチオフェニルフェニレンであるポリフェニレンビニレン、1,1−ビス−(4−N,N−ジトリルアミノフェニル)シクロヘキサン、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム、ポリスチレンスルフォン酸、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルフォン酸との混合物(PEDOT/PSS)等を例示することができる。また、溶媒としては、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−イミダゾリノン等の極性溶媒を例示することができる。
【0072】
上述した正孔注入層形成材料を含む液体材料114aが液滴吐出ヘッド1より基体P上に吐出されると、流動性が高いため水平方向に広がろうとするが、塗布された位置を囲んで有機バンク150が形成されているので、液体材料114aは有機バンク150を越えてその外側に広がらない。また、画素電極141や無機バンク149の表面は良好な親液性を保った状態であるので、吐出された液体材料114aは画素電極等の表面全体に塗れ広がり、均一な塗膜を形成する。
【0073】
続いて、加熱あるいは光照射により液体材料114aの溶媒を蒸発させて画素電極141上に固形の正孔注入層140Aを形成する。または、大気環境下又は窒素ガス雰囲気下において所定温度及び時間(一例として200℃、10分)焼成するようにしてもよい。あるいは大気圧より低い圧力環境下(減圧環境下)に配置することで溶媒を除去するようにしてもよい。本実施形態では、液体材料114aの塗膜が有機バンク内全体に均一に形成されているので、得られる正孔注入層140Aも膜厚、膜質が均一であり、その表面の平坦性にも優れたものとなる。
【0074】
続いて、図9(b)に示すように、基体Pの上面を上に向けた状態で液滴吐出ヘッド1より発光層形成材料と溶媒とを含む液体材料(機能液)114bを有機バンク150内の正孔注入層140A上に選択的に塗布する。
【0075】
この発光層形成材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の高分子発光材料である、ポリフルオレン誘導体(PF)、ポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリジアルキルフルオレン(PDAF)、ポリフルオレンベンゾチアジアゾール(PFBT)、ポリアルキルチオフェン(PAT)や、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)等のポリシラン系などを好適に用いることができる。また、これらの発光材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0076】
前記発光層形成材料については、極性溶媒に溶解または分散させて液体材料とし、この液体材料を液滴吐出ヘッド1から吐出するのが好ましい。極性溶媒は、前記発光材料等を容易に溶解または均一に分散させることができるため、液滴吐出ヘッド1のノズル孔での発光層形成材料中の固型分が付着したり目詰りを起こすのを防止することができる。
【0077】
このような極性溶媒として具体的には、水、メタノール、エタノール等の水と相溶性のあるアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、2,3−ジヒドロベンゾフラン等の有機溶媒または無機溶媒が挙げられ、これらの溶媒を2種以上適宜混合したものであってもよい。
【0078】
上記、液体材料114bを液滴吐出ヘッド1から吐出することによる発光層の形成は、赤色の発色光を発光する発光層形成材料を含む液体材料、緑色の発色光を発光する発光層形成材料を含む液体材料、青色の発色光を発光する発光層形成材料を含む液体材料を、それぞれ対応する画素71(開口部151)に吐出し塗布することによって行う。なお、各色に対応する画素71は、これらが規則的な配置となるように予め決められている。
【0079】
このようにして各色の発光層形成材料を含む液体材料114bを吐出し塗布したならば、液体材料114b中の溶媒を蒸発させる。この工程により、図9(c)に示すように正孔注入層140A上に固形の発光層140Bが形成され、これにより正孔注入層140Aと発光層140Bとからなる有機機能層140が得られる。ここで、発光層形成材料を含む液体材料114b中の溶媒の蒸発については、必要に応じて加熱あるいは減圧等の処理を行うが、発光層形成材料は通常乾燥性が良好で速乾性であることから、特にこのような処理を行うことなく、したがって各色の発光層形成材料を順次吐出塗布することにより、その塗布順に各色の発光層140Bを形成することができる。また先に記載のように、液体材料114bが配される正孔注入層140Aの表面は良好に平坦化されているので、その上に形成される発光層140Bも良好な平坦性を持って形成され、膜厚及び膜質が均一なものとなる。従って、均一かつ良好な発光特性、信頼性を備えた発光層となる。
【0080】
その後、図9(c)に示すように、基体Pの表面全体に、あるいはストライプ状に、ITO等からなる共通電極154を形成する。こうして、有機EL素子200を製造することができる。
【0081】
このような有機EL素子の製造方法においては、正孔注入層140Aや発光層140Bといった有機EL素子の構成要素となる薄膜は液滴吐出装置により製造されるので、正孔注入層140Aや発光層140Bの形成材料となる液体材料のロスは少なく、正孔注入層140Aや発光層140Bは比較的安価にしかも安定して形成される。また、基板に対するプラズマ処理として、酸素を処理ガスとするプラズマ処理を行なわずに、フッ素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理のみを行なっているため、無機バンク149の表面や画素電極141の表面を液体材料に対してより親和性の高い状態とすることができ、これにより画素内全体に平坦且つ均一な厚さの膜を形成することができる。
【0082】
なお、本実施形態の有機EL装置70は、画素電極141を陽極とし、共通電極154を陰極とした構造を採用したが、これとは逆に画素電極141を陰極とし、共通電極154を陽極とする構造を採用することも可能である。この場合、画素電極と発光層との間に配置される電荷輸送層としては電子注入層が形成される。
【0083】
[電子機器]
次に、上述の有機EL装置を備えた電子機器の具体例について説明する。
図10は、電子機器の一例を示す斜視構成図である。
図10に示す映像モニタ1200は、先の実施形態の有機EL装置を備えた表示部1201と、筐体1202と、スピーカ1203等を備えて構成されている。そして、この映像モニタ1200は、先の有機EL装置により高画質で、均一な明るさの表示が可能である。特に大型のパネルでは画素が大型であるため、発光部である有機機能層を均一に形成するのが困難になるが、本発明に係る有機EL装置では、任意の大きさの有機機能層を均一に形成できるため、大型のパネルに用いて好適な有機EL装置となっている。
【0084】
上記の実施形態の有機EL装置は、上記携帯電話に限らず、電子ブック、パーソナルコンピュータ、デジタルスチルカメラ、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等々の画像表示手段として好適に用いることができ、いずれの電子機器においても、高画質表示が可能になっている。さらに、本発明の有機EL装置は、ラインプリンタの露光手段として使用する等、表示装置以外の電子機器にも広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の膜パターンの形成方法を概念的に示す図である。
【図2】液滴吐出装置の概略斜視図である。
【図3】ピエゾ方式による液状体の吐出原理を説明するための図である。
【図4】本発明の膜パターンの形成方法の実施例を説明するための図である。
【図5】本発明のデバイスの一例である有機EL装置の回路構成図である。
【図6】同、有機EL装置の平面構成図である。
【図7】図6のA−A線に沿う断面構成図である。
【図8】有機EL装置の製造工程を示す断面構成図である。
【図9】有機EL装置の製造工程を示す断面構成図である。
【図10】電子機器の一例を示す斜視構成図である。
【符号の説明】
【0086】
70…有機EL装置(デバイス)、114a,114b…液体材料(機能液)、140…有機機能層、140A…正孔注入層(電荷輸送層)、140B…発光層、141…画素電極、149…無機バンク、149b…無機バンクの開口部、150…有機バンク、151…有機バンクの開口部(有機バンクによって区画された領域)、B…バンク(有機バンク等)、F…膜パターン、L…機能液、P…基体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が無機材料で構成された基体の表面に機能液を配置することにより膜パターンを形成する方法であって、
前記基体上に有機成分を含むバンクを形成する工程と、
前記バンクが形成された基体の表面をプラズマ処理する工程と、
前記バンクによって区画された領域に前記機能液を配置する工程とを有し、
前記プラズマ処理として、酸素を処理ガスとしたプラズマ処理を行なわずに、フッ素含有ガスを処理ガスとしたプラズマ処理のみを行なうことを特徴とする、膜パターンの形成方法。
【請求項2】
前記バンクは、前記機能液に対して撥液性を示す材料によって形成されることを特徴とする、請求項1記載の膜パターンの形成方法。
【請求項3】
前記基体の表面には電極が設けられており、
前記バンクは前記電極上に開口部を有して形成されることを特徴とする、請求項1又は2記載の膜パターンの形成方法。
【請求項4】
前記基体の表面には、無機材料からなる無機バンクが前記電極上に開口部を有して設けられており、
前記バンクは、前記無機バンクに設けられた開口部と連通する開口部であってその開口部の壁面が前記無機バンクの開口部から外側に後退した開口部を有して形成されることを特徴とする、請求項3記載の膜パターンの形成方法。
【請求項5】
前記機能液は、電荷輸送層を形成するための電荷輸送層形成材料又は発光層を形成するための発光層形成材料を含むことを特徴とする、請求項4記載の膜パターンの形成方法。
【請求項6】
基体上に膜パターンを形成する工程を含むデバイスの製造方法であって、
前記膜パターンの形成工程が、請求項1〜5のいずれかの項に記載の膜パターンの形成方法により行なわれることを特徴とする、デバイスの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−35484(P2007−35484A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218386(P2005−218386)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】