説明

自動分析装置

【課題】
反応槽内を循環する液体に溶存した溶存気体の発泡を無くし、安定した測光を行うことができる自動分析装置を提供する。
【解決手段】
反応槽を循環する温度制御された液体の流路に、液体内に溶存した気体を除去するための脱気装置と、循環する液体の温度制御のために必要となる流量を確保するためのバイパス流路とを設ける。これにより、反応槽を循環する液体の温度制御に必要な流量を保ったまま、液体中に溶存した気体の発泡が起こらないレベルまで溶存気体濃度を低減することができ、測光の際に光束上を通過する気泡を無くし、安定した測光を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液・尿等の生体試料の成分分析を行う自動分析装置に係り、特に反応容器を一定温度に保つための液体を保持する反応槽を備えた自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料と試薬とを反応容器内で混合し、反応液の光学的な特性を測定することにより目的成分の定性・定量分析を行う自動分析装置では、安定した測光性能が要求される。特に、試料・試薬の消費量を減らし、少ない反応液量での分析を可能とした分析装置においては、反応容器を小型化する必要があり、測光可能な反応液の面積も小さくなるため、測光に用いる光源からの光の束を細くする必要があった。このような装置では、従来に比べ微小なサイズの気泡までもが測光に影響を与える場合がある。
【0003】
特許文献1には、反応槽内の水を循環させる流路に、水と気泡の比重差により気泡を除去する気泡除去槽を設けた自動分析装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−181087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反応槽水は、反応槽に供給する前に真空脱気槽を介して溶存酸素などを除去した上で使用するのが一般的であるが、一方で、循環中に大気に接するため大気中の酸素などが水中に溶け込む。反応槽内を循環する液体は、反応温度を一定(例:37℃)に保つために、ヒータにより加熱されるため、溶け込んだ溶存気体が、直径0.1mm以下というような小さいサイズの気泡(マイクロバブル)として液体中に発泡してくる場合があった。
【0006】
特許文献1に記載の発明は、比重差により液面に浮上し得るサイズの気泡を除去する方法である。しかしながら、前述のマイクロバブルに関しては、気泡の直径が小さくなるに従い、その浮上速度が極端に低下することが知られている。したがって、ポンプにより循環している反応槽の液体の流路内においては、比重差により気泡を除去する気泡除去槽では、除去が困難なサイズのマイクロバブルも存在した。また、比重差により気泡を除去する気泡除去槽を用いる場合、気泡の浮上・除去効果を高めるためには流速を可能な限り遅くする必要があり、一方、反応槽内の液体の温度を一定に保つためには、一定以上の流速を保つ必要がある、という2つの相反する条件を満たす必要があった。さらに、比重差により気泡除去槽の上部に集められた気体は、気泡除去層から定期的に排出する必要があった。一般に、反応槽内を循環する液体には、雑菌の繁殖を抑える目的で界面活性剤等が添加されている場合が多いが、気泡除去槽上部に集められた気体を排出する際、反応槽内の液体の一部も同時に排出されるため、液体内の界面活性剤濃度が下がり、雑菌の繁殖抑制効果が低下してしまう可能性もあった。
【0007】
本発明は、反応槽に供給する場合のみでなく、循環中でも真空脱気装置により溶存気体を除去することで、マイクロバブルの発生を低減し、安定した測光を可能とする自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の構成は以下のとおりである。
【0009】
試料と試薬を混合する反応容器と、該反応容器が浸漬される液体を保持する反応槽と、該反応槽の液体を排出する排出配管と、該反応槽に液体を供給する供給配管と、前記排出配管と供給配管との間に設けられ、配管内の液体を循環するためのポンプと、前記配管内の循環する液体から溶存気体を除去する脱気装置と、を備えた自動分析装置。
【0010】
マイクロバブルの発生を無くし、安定した測光を実現するために要求される反応槽を循環する液体中の溶存気体の濃度(例えば溶存酸素量)は、反応槽を循環する液体の種類,恒温状態に制御される温度等に依存し、装置ごとに固有の条件となる。そこで、装置ごとに固有に要求される溶存気体の濃度レベルを常に実現しうる脱気装置を適用した装置構成としても良いし、溶存気体の濃度レベルをモニタリングすることにより、反応槽内の液体の脱気状態を監視する構成としても良い。
【0011】
脱気装置により一度溶存気体の濃度が低下した液体であっても、反応槽内の液体表面では空気と接しており、この界面から液体内への気体の再溶存が進んでしまう。したがって、脱気装置による液体の脱気能力が、反応槽内の液体表面からの気体の再溶存速度を上回っていることが望ましい。
【0012】
一般的に真空脱気装置は、装置内部に直径の細い配管を無数に備えることで、内部に満たされた液体の表面積を増加させ、真空ポンプによる脱気効率の向上を図っている。したがって、反応槽内の液体を循環させるポンプを備えた排出配管と供給配管との間に脱気装置を直結した場合、循環する液体の流速低下が引き起こされる可能性が高い。そこで、脱気装置を設ける排出配管と供給配管との間には、脱気装置を通る配管と並列に、流速維持のためのバイパス流路を別に設けても良い。このような構成においても、脱気装置による液体の脱気能力が、反応槽内の液体表面からの気体の再溶存速度を上回るようにそれぞれの流路への液体の流量を調節する構成とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の自動分析装置によれば、反応槽を循環する液体の温度を一定に保つために必要な流路の流速を保った上で、反応槽を循環する液体中に溶存した溶存気体の濃度を低下させることが可能となり、マイクロバブルの発生そのものを無くし、安定した測光を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0015】
図1は本発明を適用した自動分析装置の温水循環式反応槽の一実施形態を示すブロック図である。円形の反応ディスク1の円周上に取り付けられた反応容器2は、同じく円形の反応槽3に保持された液体に浸漬されている。反応槽内の液体は、排出配管4と供給配管5との間に設置された循環用ポンプ6により常時循環されており、ヒータ7のオン/オフ制御により温度制御されている。これにより、反応容器2の内部に保持された反応液を反応に最適な温度(例えば37℃)に保っている。反応槽内の液体は水でも良いし、他の溶液であっても良い。また、反応槽内の液体の温度が高くなりすぎた場合に液体を冷却するための冷却ユニット8を設けてもよい。温水循環流路には、給水タンク9からの液体の供給が、給水用ポンプ10と給水用電磁弁11によって制御されている。温水循環流路は廃液用電磁弁12も備え、反応槽を循環する液体の交換する際に液体を流路の外に廃液として排出する。
【0016】
反応容器2に保持した試料と試薬を混合した反応液を、光源ランプ13から照射された光の束が通過し、透過してきた光を多波長光度計14で測定することにより、試料中の特定成分の定性・定量分析を行う。
【0017】
反応槽に供給される液体、および反応槽を循環する液体は、それぞれ給水タンク、および反応容器を浸漬する反応槽の表面において、空気に対して開放されている。したがって、通常、液体の内部に溶存気体が存在した状態で反応槽内を循環している。液体内の溶存気体は、温度の上昇や、ポンプによる圧力変動などのさまざまな要因により、微小な気泡(マイクロバブル)として液体中に現れてくることがあり、このマイクロバブルは、光源ランプの光を乱反射し、測光精度を低下させる可能性がある。
【0018】
通常、自動分析装置では、このような測光精度を低下させるノイズの影響を小さくするために、測定対象成分の濃度に応じて反応指示物質が吸光度変化を示す波長(主波長)に加えて、測定対象成分の濃度に応じた反応指示物質の吸光度変化の影響を受けない波長(副波長)の吸光度をベースラインとして同時に測定し、2つの波長間での吸光度差を濃度の演算に使用している。しかしながら、一部項目の測定試薬、例えば抗原抗体反応を利用したラテックス粒子の比濁度合いから濃度を測定するような試薬の場合、測定対象成分の濃度が低い領域においては、主波長と副波長との吸光度差が小さいため、測定感度を高めるためには、単一波長での吸光度をそのまま濃度演算に使用することが望まれる場合がある。このような場合特に、マイクロバブルによる測光精度の低下が測定結果に与える影響が大きくなってしまう。
【0019】
本発明は、反応槽内の液体を循環させる流路上に、脱気装置15を設け、脱気装置内に満たされた液体中に溶存した気体を真空ポンプ16により脱気することで、マイクロバブルの発生源そのものを除去する構成としたものである。脱気装置により脱気された液体であっても、継続的に脱気しない限り、空気と接する反応槽の表面から再度液体内への気体の溶存が進んでしまう。したがって、本発明では、反応槽内の液体の温度制御を行うための循環流路中に脱気装置を設けることにより、継続的な脱気が可能な構成とした。
【0020】
図2は測光において、マイクロバブルの影響を受けた反応過程の一例を示した図である。上段が通常の反応過程、下段がマイクロバブルの影響を受けた反応過程の一例である。図中の横軸は反応時間の経過を示す測光ポイントを、縦軸は吸光度カウントを示す。図2下段の例では、25ポイント目の測光タイミングにおいて、マイクロバブルの通過が原因と思われる吸光度の変動が認められる。
【0021】
図3は反応槽を循環する液体中の溶存酸素濃度と測光安定性との関係を、単波長測定における反応過程の変動幅の平均値を指標として比較した結果の一例を示すグラフである。図3に示したデータは、反応槽を循環する液体として37℃の界面活性剤水溶液を使用した条件での結果である。グラフ中では、1つの溶存酸素濃度条件について、水の吸光度変化を示す反応過程の変動幅(図2に17a,17bで示した幅)を100回繰り返し測定した平均値をプロットした。溶存酸素濃度が5.3mg/L未満の条件においては、脱気を全く行っていない条件(37℃純水中の飽和溶存酸素濃度:6.86mg/L)の3分の1以下にまで反応過程のばらつきが小さくなっていることが分かる。また、溶存酸素濃度を5.3mg/Lからさらに低い条件にしても、反応過程のばらつきにさらなる改善がみられないことから、この濃度が、安定した測光に必要な閾値であることが分かる。
【0022】
以上のように、装置ごとに安定した測光に必要な溶存気体濃度条件の閾値を求め、その条件を満足し得る脱気装置を適用した構成としても良いし、反応槽を循環する液体中の溶存気体の濃度を測定するためのセンサを備え、溶存気体の濃度が装置固有の閾値を超えた場合、アラームを発生する構成をとっても良い。
【0023】
図4は本発明の脱気装置の流路と並列にバイパス流路を設置した自動分析装置の一実施形態を示したブロック図である。一般的に、流路上に真空脱気装置を用いた場合、流路抵抗は増加し、流路全体の流速は低下することが多い。そこで、本形態においては、反応槽内の液体の温度制御を行う上で最低限必要な流量を維持するため、循環させる流路上の脱気装置の流路に加えて、脱気装置の流路と並列にバイパス流路18を設ける構成とした。脱気装置側の流路への流量と、バイパス流路側への流量との比率については、液体の温度制御に必要な循環流路全体の流速と、液体の脱気性能とを両立する条件であればなお良い。
【0024】
反応槽内を循環する液体中の溶存気体の濃度を測定するセンサを備えた構成において、脱気装置の流路とバイパス流路とに流れる液体の量を制御するための調節絞りを備え、上記センサの測定結果に応じて、脱気装置側流路への液体の流量を増減させる構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の脱気装置を適用した自動分析装置の一実施形態を示したブロック図である。
【図2】反応槽内を循環する液体中のマイクロバブルの影響の有無による反応過程の違いの一例を示す図である。
【図3】反応槽を循環する液体中の溶存酸素量と、単波長測定における反応過程の変動幅の平均値との関係を示したデータである。
【図4】本発明の脱気装置と並列に設置したバイパス流路を適用した自動分析装置の一実施形態を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0026】
1 反応ディスク
2 反応容器
3 反応槽
4 排出配管
5 供給配管
6 循環用ポンプ
7 ヒータ
8 冷却ユニット
9 給水タンク
10 給水用ポンプ
11 給水用電磁弁
12 廃液用電磁弁
13 光源ランプ
14 多波長光度計
15 脱気装置
16 真空ポンプ
17a,17b 反応過程変動幅
18 バイパス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と試薬を混合する反応容器と、
該反応容器が浸漬される液体を保持する反応槽と、
該反応槽の液体を排出する排出配管と、
該反応槽に液体を供給する供給配管と、
前記排出配管と供給配管との間に設けられ、配管内の液体を循環するためのポンプと、
前記配管内の循環する液体から溶存気体を除去する脱気装置と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記配管内を循環する液体の溶存気体濃度を測定するためのセンサを備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記センサによる溶存気体濃度の測定結果が、指定した濃度範囲を外れた場合、アラームを発生するアラーム発生手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の自動分析装置において、
前記の排出配管と供給配管との間に、前記脱気装置をバイパスする流路を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項4に記載の自動分析装置において、
前記脱気装置を配置した流路、前記バイパス流路の少なくともいずれかに流量を調節する機構を備え、
前記センサの測定結果に応じて流路の流量を調節する手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−204445(P2009−204445A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47024(P2008−47024)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】