説明

自動変速機の制御装置

【課題】変速開始点において推定した供給圧が実際の圧力よりも低い場合は、変速開始点で検出した入力トルクと供給圧とのデータの蓄積を行わないようにして、目標供給圧の信頼性を高める。
【解決手段】供給圧推定部40は変速開始点での変速機の変速状態と目標供給圧Pcとに基づき摩擦締結要素に供給されている供給圧Piを推定する。サンプルデータ記憶部41は変速開始点での入力トルクTiと供給圧Piとを記憶し順次更新する。目標供給圧算出部44は入力トルクTiに基づいて設定した基本供給圧Poを、サンプルデータ記憶部41に記憶されている入力トルクTiと供給圧Piとに基づいて設定した補正定数ac,bcで補正して目標供給圧Pcを設定する。データ更新判定処理部42は変速開始点以降の減速比εの変化が予め設定した判定値SL1,SL2の一方を超えた場合、今回の入力トルクTiと供給圧Piの蓄積を中止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の変速時に摩擦締結要素へ供給する供給圧を、変速機に入力される入力トルクに応じて可変設定する自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動変速機の変速動作は、変速機に設けられている複数のクラッチやブレーキ等の摩擦締結要素を選択的に締結或いは開放させることで行われるが、その際、摩擦締結要素の供給圧(締結圧)を適正に設定する必要がある。すなわち、変速機への入力トルク(エンジン発生トルク)が小さい場合には、供給圧を低く(締結圧を弱く)することで、変速ショックの発生を抑制し、一方、入力トルクが大きい場合は、比較的高い供給圧(締結圧)で摩擦締結要素を締結動作させることで、変速時の応答遅れを回避する。
【0003】
この摩擦締結要素に対する供給圧は、摩擦締結要素を締結動作させるライン圧を過渡制御することで行なわれるが、摩擦締結要素の要求する最適な供給圧(=ライン圧)と、自動変速機への入力トルクとは、ほぼ一次関数で表すことが知られているため、実測した変速時の入力トルクと最適な供給圧(ライン圧)との関係から、(1)式に示す一次近似式を求め、この一次近似式に基づいて供給圧(ライン圧)を過渡制御するようにしている。
【0004】
Po=a・Ti+b …(1)
ここで、Po:基本供給圧(基本ライン圧)、Ti:入力トルク、a:傾き、b:切片である。
【0005】
ところで、摩擦締結要素を構成する摩擦材の摩擦係数や、ライン圧を制御する油圧コントロール弁の発生油圧のばらつき、入力トルクの計測誤差、及びライン圧の推定誤差等の要因で、実際に発生する供給圧(ライン圧)と摩擦締結要素が要求する供給圧との間には車両毎にばらつきを有している。
【0006】
そのため、上述した(1)式に対して、その傾き定数a、切片定数b、及び入力トルクTiを、特定の入力パラメータに基づいて推定すると、この各パラメータと推定値との間には、誤差Δa,Δb,ΔTiが生じる。この場合、基本供給圧Poと、摩擦締結要素が要求する動作を得るために必要な供給圧(目標供給圧)Pcとの間の誤差δ(=Pc−Po)は、(2)式で近似することができる。
【0007】
δ≒Δa・Ti+a・ΔTi+Δb …(2)
この場合、ΔTiが、Tiの一次式(d1・Ti+d0)で近似可能であれば、上式に代入して、
δ≒Δa・Ti+a・(d1・Ti+d0)+Δb
≒(a・d1+Δa)・Ti+a・d0+Δb
≒Δa’・Ti+Δb’ …(3)
で表すことができる。
【0008】
(3)式は、Δa’とΔb’さえ求めることができれば、任意の入力トルクTiに対して各誤差要因Δa,Δb,ΔTiによる、基本供給圧Poと目標供給圧Pcとの間の誤差δを、補正することができることを意味する。
【0009】
この両定数a,bを補正した定数をac,bcとすると、目標供給圧Pcは、
Pc=ac・Ti+bc …(4)
或いは
Pc=(ac/a)・(Po−b)+bc …(5)
となる。
【0010】
一般に、定数ac,bcは、例えば特許文献1(特開2004−11775号公報)に開示されているように、走行中の変速開始点においてサンプリングした入力トルクTiと供給圧Piとに基づいて最小二乗法により求める。そして、算出された各定数ac,bcに基づいて、(4)或いは(5)の一次近似式を設定し、この一次近似式に基づいて、入力トルクTiに応じた目標供給圧Pcを設定する。
【特許文献1】特開2004−11775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述した供給圧Piは、走行中の車両において直接検出することが困難であるため、変速機の入力側の回転数と出力側の回転数との比から算出した減速比等、変速機の変速状態を示すパラメータと入力トルクTiとに基づいて推定する場合が多い。
【0012】
しかし、自動変速機は運転条件(ATF温度、機差ばらつき、摩擦締結要素への供給圧の変化等)の影響を受けて供給圧は常に変化するため、運転条件によっては、アップシフト、或いはダウンシフトが行われている変速時において推定した供給圧Piが、計測により得られる供給圧(以下、「計測圧」と称する)に対して大きくずれてしまう場合がある。
【0013】
その結果、例えば摩擦締結要素の変速開始(リターンスプリングストローク完了)時において、計測圧が、推定した供給圧Piに対して大きくずれた状態(オーバーシュート)で変速が開始された場合、計測圧よりも低い供給圧Piに基づいて、定数ac,bcが設定されてしまうことになる。
【0014】
目標供給圧Pcは、定数a,bを補正した定数ac,bcに基づいて設定されるため、変速時において、一時的に締結摩擦要素に対する供給圧の供給不足が生じ、変速遅れが増長され、運転者に変速の間延び感による不快感を与えてしまう。更に、変速の間延びによりエンジンの空吹きが発生し易くなり、運転者に違和感を与えてしまう。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑み、変速機に供給する供給圧を直接計測することなく、変速開始点において推定した供給圧が実際の圧力よりも低い状態を推定し、供給圧が実際の圧力よりも低い場合は、変速開始点において検出した入力トルクと供給圧とデータの蓄積行わず、この入力トルクと供給圧とに基づいて設定された定数で補正される目標供給圧の信頼性を高めるようにすると共に、変速品質を良好な状態に維持できるようにした自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため本発明は、変速機に設けられている摩擦締結要素に供給する供給圧を可変して該摩擦締結要素を締結或いは解放動作させることで、前記変速機の動力伝達経路を変更する自動変速機の制御装置において、前記変速機の減速比を算出する減速比算出手段と、前記摩擦締結要素の少なくとも一つ以上に前記供給圧を供給し、前記動力伝達経路を変更する過程で、前記減速比が予め設定した変化量だけ変化したときを変速開始点として検出する変速開始点検出手段と、前記変速開始点を検出したときの、前記変速機の変速状態に基づいて、前記摩擦締結要素の少なくともひとつ以上に供給されている供給圧を推定する供給圧推定手段と、前記変速開始点を検出したときの前記変速機に入力される入力トルクのデータと前記供給圧推定手段で推定した供給圧のデータとをサンプリングし、記憶蓄積するサンプルデータ記憶手段と、前記サンプルデータ記憶手段に記憶蓄積されている前記入力トルクのデータ及び前記供給圧のデータとに基づき、前記摩擦締結要素の少なくともひとつ以上に供給される供給圧を補正制御する供給圧制御手段とを備え、前記サンプルデータ記憶手段は、前記変速開始点以降の前記減速比の変化量が予め設定した判定値を超えた場合、今回の前記入力トルクのデータと前記供給圧のデータの蓄積を行わないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、変速開始点以降の減速比の変化が予め設定した判定値を超えた場合、サンプルデータ記憶手段に対する今回の入力トルクのデータと供給圧のデータとの蓄積を行わないようにしたので、結果的に、供給圧を直接計測することなく、変速時において推定した供給圧が実際に計測した圧力よりも低い場合は、走行中の変速開始点における入力トルクと供給圧とのサンプリングが行われず、この入力トルクと供給圧とに基づいて補正される目標供給圧の信頼性を高め、且つ、変速品質を良好な状態に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1に自動変速機付きエンジンの概略図を示す。
【0019】
同図の符号1はエンジンで、このエンジン1の出力側に自動変速機2が連設されている。この自動変速機2の出力側には、自動変速機2からの出力を、フロントドライブ軸(図示せず)へ伝達すると共に、リヤドライブ軸3へ選択的に分配するトランスファクラッチ等を内装するエクステンション部2aが連設されている。
【0020】
自動変速機2は、入力側からロックアップ機構付きトルクコンバータ、クラッチやブレーキ等の摩擦締結要素を有する遊星歯車式変速機構による変速機13と、トルクコンバータのロックアップクラッチや摩擦締結要素の締結開放を動作させるコントロールバルブユニット4とを備え、このコントロールバルブユニット4に、各摩擦締結要素へ供給するライン圧を制御するソレノイド弁5、各摩擦締結要素に対するライン圧の給排制御を行なう複数の変速用ソレノイド弁6、及びロックアップクラッチへ供給するライン圧の給排制御により、このロックアップクラッチの締結、スリップ、開放を行なうロックアップ用ソレノイド弁7等が設けられている。尚、図においてはコントロールバルブユニット4を便宜的に自動変速機2の外部に示したが、実際のコントロールバルブユニット4は自動変速機2内に配設されている。
【0021】
図2に自動変速機2の動力伝達列の一例を示す。同図に示すように、自動変速機2は、入力側からトルクコンバータ11、オイルポンプ12、変速機13が配設され、エンジン出力軸1aからの駆動力がトルクコンバータ11を経て変速機13の入力軸14に伝達される。本実施形態で採用する変速機13は、二組のプラネタリギヤユニット16(17)により、前進4段、後進1段の変速段が生成される。この変速機13の各プラネタリギヤユニット16(17)がプラネタリキャリヤ16a(17a)、リングギヤ16b(17b)、ピニオンギヤ16c(17c)、サンギヤ16d(17d)で構成されている。
【0022】
このうち入力側のプラネタリギヤユニット(以下、「フロントプラネタリギヤユニット」と称する)16の側方に、ハイクラッチ18、リバースクラッチ19、2&4ブレーキ20が並列に配設されている。ハイクラッチ18が入力軸3aとフロントプラネタリキャリヤ16aとの間の動力伝達経路を締結・開放し、リバースクラッチ19が入力軸14とフロントサンギヤ16dとの間の動力伝達経路を締結・開放し、2&4ブレーキ20がフロントサンギヤ16dと変速機13の自動変速部ケース21との間の動力伝達経路を締結・開放する。
【0023】
又、出力側のプラネタリギヤユニット(以下、「リヤプラネタリギヤユニット」と称する)17のプラネタリキャリヤ17aは、フロントプラネタリギヤユニット16のリングギヤ16bと一体回転すると共に、出力軸22に連設されている。更に、この出力軸22が、エクステンション部2aに内装されているフロントドライブ軸に連設されていると共に、トランスファクラッチ(図示せず)を介してリヤドライブ軸3に接続される。
【0024】
又、両プラネタリギヤユニット16,17の外周に、ロークラッチドラム23aが配設され、このロークラッチドラム23aがフロントプラネタリキャリヤ16aと一体回転すると共に、ローワンウェイクラッチ24に連設されている。更に、ロークラッチドラム23aとリヤプラネタリギヤユニット17のリングギヤ17bとの間に、この両者間の動力伝達経路を締結・開放自在なロークラッチ23が介装されている。
【0025】
更に、リヤプラネタリギヤユニット17の側方に、フロントプラネタリギヤユニット16のプラネタリキャリヤ16aと自動変速部ケース21との間の動力伝達経路を係脱するローワンウェイクラッチ24と、このローワンウェイクラッチ24の空転を防止するローアンドリバース(L&R)ブレーキ25とが並列に配設されている。又、トルクコンバータ11には、インペラとタービンとをオイルを介さずに直結自在なロックアップクラッチ26が設けられている。
【0026】
このような構成による変速機13は、前進4段、後進1段の変速段を有し、各変速段は、ハイクラッチ18、リバースクラッチ19、ロークラッチ23、2&4ブレーキ20、L&Rブレーキ25の動作により適宜選択することができる。
【0027】
例えば、走行中の車速が設定車速以下の低速状態のときは、ロックアップクラッチ26に対する供給圧を弱めるスリップロックアップ制御を行ない、低速走行時のトルク変動を吸収し良好な走行安定性を得るようにする。
【0028】
一方、変速制御では、表1に示すように、変速機13の各クラッチ・ブレーキ(以下、「摩擦締結要素」と総称)を選択的に締結・開放させることで、所望の変速段を選択することができる。尚、前進走行時における変速段は、例えばスロットル開度θthと変速機13の出力軸回転数No(=車速)とに基づいて周知の変速マップを参照して設定される。
【表1】

【0029】
これら各摩擦締結要素には、オイルポンプ12から圧送されて調圧弁により所定に調圧された供給圧(ライン圧)Piが、コントロールバルブユニット4に設けられている各ソレノイド弁5,6,7の開度を選択的に制御することで、各摩擦締結要素に適宜供給され、この各摩擦締結要素を選択的に締結動作させる。尚、この供給圧(ライン圧)Piは、自動変速機2の入力トルクTiと変速制御時の減速比εとに応じて可変設定される。供給圧(ライン圧)Piを入力トルクTiと減速比εとに応じて可変設定することで、スリップロックアップ制御においてはトルク変動を効率よく吸収し、一方、変速制御においては、変速ショックの発生を抑制すると共に、良好な応答性を得ることができる。
【0030】
自動変速機2に供給する供給圧(ライン圧)Piの制御、及びコントロールバルブユニット4の各ソレノイド弁5,6,7の開度制御は、トランスミッション制御装置(TCU)31で実行される。
【0031】
TCU31は、図示しないCPU、ROM、RAM、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータを主体に構成されており、入出力インターフェースの入力側に、図示しないエンジン制御ユニット(ECU)32が接続されて、このECU32で検出したスロットル開度θth等、TCU31の油圧制御に必要なパラメータが入力される。更に、入出力インターフェースの入力側に、変速機13の入力軸回転数Niを入力軸14の回転から検出する入力軸回転数センサ33、変速機13の出力軸回転数Noを出力軸22の回転から検出する出力軸回転数センサ34等が接続されており、入出力インターフェースの出力側に、ソレノイド弁駆動回路8(図3参照)が接続されている。尚、図3においては、ソレノイド弁駆動回路8が包括的に記載されているが、このソレノイド弁駆動回路8は、各ソレノイド弁5,6,7に1対1で対応している。
【0032】
CPUはROMに予め記憶されているプログラムに従い、運転状態に応じて各摩擦締結要素に供給する供給圧(目標供給圧)を設定する。同時に、各ソレノイド弁5,6,7の開度を制御する駆動信号(例えばデューティ信号)を、ソレノイド弁駆動回路8を介して、各ソレノイド弁5,6,7に設けられているソレノイド弁コイル(図3参照)に選択的に出力してライン圧を設定し、更に、ソレノイド弁の弁開度を制御して各摩擦締結要素に対する供給圧を調整(補正制御)して、所望の変速段を選択する。
【0033】
図3に示すように、TCU31には、変速(アップシフト或いはダウンシフト)時の油圧制御機能として、減速比算出手段としての減速比算出部36、変速開始点検出手段としての変速開始点検出部37、入力トルク推定処理部38、基本供給圧算出部39、供給圧推定手段としての供給圧推定部40、サンプルデータ記憶手段としてのサンプルデータ記憶部41、サンプルデータ記憶手段の一部を成すデータ更新判定処理部42、供給圧制御手段としての補正定数設定部43、及び目標供給圧設定手段としての目標供給圧算出部44、出力信号処理部45とを備えている。更に、補正定数設定部43が補正定数算出部43a、補正定数記憶部43bを備えている。尚、TCU31で実行される油圧制御機能は、アップシフト或いはダウンシフトの変速指令が出力されたときに起動され、変速後の減速比ε(後述する)が安定して変速完了と判定されたときに終了し、変速完了と判定された後は通常の油圧制御へ移行する。
【0034】
減速比算出部36は、入力軸回転数センサ33で検出した入力軸回転数Ni、及び出力軸回転数センサ34で検出した出力軸回転数Noとの比から減速比ε(=Ni/No)を設定演算時間毎に算出する。
【0035】
変速開始点検出部37は、変速指令(図6においてはアップシフト指令)が出力されたときの減速比εを記憶し、このときの減速比εを基準として、その後に算出される減速比εが変化量±Δεだけ変化したか否かを監視し、|ε(変速指令時)−ε|≧Δεを検出したとき、変速開始点(図6参照)と判定する。そして、この変速開始点検出部37から、後述する入力トルク推定処理部38とデータ更新判定処理部42とに対してトリガ信号を出力すると共に、供給圧推定部40に、変速開始点を検出したときの減速比εを変速開始点減速比ετとして出力する。
【0036】
入力トルク推定処理部38は、ECU32から出力されるスロットル開度θthと、入力軸回転数Ni、及び出力軸回転数Noとを読み込み、これらの関係等からマップ参照、或いは計算式に基づく演算により、エンジン1から変速機13に入力される入力トルク(エンジン発生トルク)Tiを推定する。又、この入力トルク推定処理部38は、変速開始点検出部37からのトリガ信号を受信すると、そのときの入力トルクTiをサンプルデータ記憶部41へ出力する。尚、図6には、アップシフト時の供給圧(ライン圧)Piの変化特性が示されている。変速時においては、供給圧(ライン圧)Piを低圧から徐々に上昇させて、摩擦締結要素を締結動作させ、所望の変速段へアップシフトさせる。
【0037】
基本供給圧算出部39は、入力トルク推定処理部38で推定した入力トルクTiを読み込み、この入力トルクTiに基づき基本供給圧Poを算出する。すなわち、この基本供給圧算出部39には、入力トルクTiに基づき基本供給圧Poを算出するための基本一次式(Po=a・Ti+b)が格納されており、基本供給圧Poは、この基本一次式に基づいて算出される。
【0038】
この基本一次式(Po=a・Ti+b)は、予め実験などから求めて設定されているもので、具体的には、適合のために使用する基本とする車両の変速開始点(図6参照)における入力トルクTiと、そのときの目標供給圧(目標ライン圧)Pcとを運転領域毎に充分な数だけサンプリングし、最小二乗法により、基本供給圧Poを導く基本一次式(Po=a・Ti+b)の傾き定数aと切片定数bとを求める。
【0039】
この基本一次式(Po=a・Ti+b)は近似式であるため、各サンプルデータ(Ti,Pc)との間には、ばらつきδ(=Pc−(a・Ti+b))を有しているが、このばらつきδの頻度分布(ヒストグラム)を調べると、図7(a)に示すように、通常はある平均値μp(≒0)と分散値σp2とに従った正規分布に近似した形となる。この正規分布を基本モデルの確率密度関数p(δ)と称する。
【0040】
尚、この確率密度関数p(δ)をばらつきδに対する基本一次式の信頼度関数と捉えた場合、ばらつきδが、確率密度関数p(δ)の平均値μp(≒0)に近い値を示すほど高い信頼度を示し、任意のばらつきδに対する信頼度が高いほど基本一次式(Po=a・Ti+b)の信頼性は高い。
【0041】
供給圧推定部40は、変速開始点検出部37から出力された変速開始点減速比ετと、後述する目標供給圧算出部44で算出した目標供給圧Pcとに基づき、マッブを補間計算付きで参照し、或いは演算により、変速開始点(図6参照)での供給圧(ライン圧)Piを推定する。本実施形態では、この供給圧Piを、ライン圧油路中に配設した圧力センサ等で計測せず、減速比εと目標供給圧Pcとに基づいて推定するようにしたので、圧力センサを備えてない自動変速機2に対しても適用することが可能となり、高い汎用性を得ることができる。
【0042】
サンプルデータ記憶部41は、図4に示すように、データ格納領域が入力トルクTiの大きさに応じてr(≧1)個のブロックに区分されており、各ブロックに、入力トルク推定処理部38から出力された入力トルクTiと供給圧推定部40で推定した供給圧Piとで示される座標データ(Ti,Pi)(図5参照)が所定数ずつ合計S個格納される。すなわち、例えばS0個目のブロックには入力トルクTiがC1〜C2未満のとき座標データ(Ti,Pi)が格納され、S1個目のブロックには入力トルクTiがC2〜C3未満のとき座標データ(Ti,Pi)が格納される。そして、Sr個目のブロックには入力トルクTiがCr−1〜Cr未満の座標データ(Ti,Pi)が格納される。
【0043】
この場合、各ブロックに格納される座標データ(Ti,Pi)は、古いものから順に最新のデータに更新される。これにより、トルク領域毎に座標データ(Ti,Pi)がほぼ均等に格納されることになる。従って、例えば余り高負荷運転を行なわず、低負荷側の偏ったトルク領域を主に使用するドライバであっても、座標データ(Ti,Pi)がある領域に偏ってしまうことがなく、座標データ(Ti,Pi)を運転領域全体に分散させることができる。
【0044】
変速指令が例えば1速から2速へのアップシフトの場合、表1、及び図2に示すように、1速においてはロークラッチ23のみが締結されており、2速では、ロークラッチ23と2&4ブレーキ20とが締結される。従って、TCU31は、1速から2速への変速に際しては、ロークラッチ23の締結状態を維持したまま、2&4ブレーキ20に対する供給圧(締結圧)を次第に高くして、この2&4ブレーキ20を締結動作させる。その際、この2&4ブレーキ20が完全に締結されまでは、この2&4ブレーキ20のスリップにより出力軸回転数Noが次第に増速されるため、相対的に減速比εは次第に低くなる。
【0045】
ところで、図6に示すように、波線で示す変速時の計測圧(実際に計測される油圧)が、実線で示す供給圧Piとほぼ同じ変化特性を示していれば、減速比εは、同図に一点鎖線で示すように、摩擦締結要素の締結力の上昇に従いほぼ線形的変化特性を示す。しかし、実際に発生する油圧(ライン圧)は、運転条件(ATF温度、機差ばらつき、摩擦締結要素への供給圧の変化等)の影響を受けて、図6に波線で示すように、摩擦締結要素の変速開始(リターンスプリングストローク完了)時において、推定した供給圧Piに対し、ΔPで示すように、大きく変動(オーバーシュート)する場合がある。
【0046】
このときの供給圧Piは計測圧(実際の油圧)よりも低いため、この低い値の供給圧Piと、そのときの入力トルクTiとで座標データ(Ti,Pi)を更新した場合、次回、この更新した座標データ(Ti,Pi)に基づいて、後述する定数ac,bcが設定された場合、この定数ac,bcを補正項として取り込んで算出される目標供給圧Pcの値が、実際の油圧(計測圧)よりも低い供給圧Piに基づいて設定されるため、一時的に摩擦締結要素に対する供給圧不足が発生し、変速遅れが増加し、変速の間延び感を運転者に与えることになる。更に、変速遅れにより、例えば表1に示すように、3速から4速、或いは4速から3速への変速に際しては、ロークラッチ23と2&4ブレーキ20との摩擦締結要素どうしが切り替わる、いわゆるクラッチtoクラッチ変速においては空吹きが発生する可能性がある。
【0047】
本実施形態では、データ更新判定処理部42において、座標データ(Ti,Pi)を更新するか否かを判定し、許可判定された場合にのみ、今回の座標データ(Ti,Pi)にてサンプルデータ記憶部41に記憶蓄積されているデータが更新される。
【0048】
このデータ更新判定処理部42は、変速開始点検出部37から出力される変速開始点減速比ετをトリガとして、減速比算出部36で設定演算時間(t)毎に算出する減速比εを順次読込む。そして、単位時間(t)あたりの減速比εの変化の絶対値から減速比変化速度Sεを算出する。そして、この減速比変化速度Sεと予め設定した第1の判定値SL1とを比較し、減速比変化速度Sεが第1の判定値SL1を超過しているときは(Sε>SL1)、変速開始点における供給圧Piが実際の油圧(計測圧)に対して大きく乖離していると推定し、サンプルデータ記憶部41に対してデータキャンセル信号を出力する。すると、サンプルデータ記憶部41では、今回入力された入力トルクTiと供給圧Piとのデータを破棄し、座標データの蓄積を行わない。
【0049】
又、設定演算時間(t)毎の減速比εの変化から、最小減速比εmiを検出し、この最小減速比εmiを検出した後の減速比εの変化から、減速比最大戻り量Δεmxを検出する。そして、この減速比最大戻り量Δεmxと第2の判定値SL2とを比較し、この減速比最大戻り量Δεmxが第2の判定値SL2を超過しているときは(Δεmx>SL2)、変速開始点における供給圧Piが実際の油圧(計測圧)に対して大きく乖離していると推定し、サンプルデータ記憶部41に対してデータキャンセル信号を出力する。すると、サンプルデータ記憶部41では、今回入力された入力トルクTiと供給圧Piとを破棄し、座標データの蓄積を行わない。
【0050】
一方、Sε≦SL1、且つ、Δεmx≦SL2のときは、サンプルデータ記憶部41に対してデータ更新の許可信号を出力する。すると、サンプルデータ記憶部41では、今回入力された入力トルクTiと供給圧Piとで、座標データを更新する。
【0051】
例えば、図6に示すように、アップシフトを行うに際し、変速開始点における計測圧(実際の油圧)が、推定した供給圧Piからオーバーシュートしている場合、摩擦締結要素は急激に締結されるため、減速比εは急激に低下する。このときの減速比変化速度Sεが第1の判定値SL1を超過している場合(Sε>SL1)、今回の座標データ(Ti,Pi)の蓄積が中止される。
【0052】
その後、実際の油圧が供給圧Pi側へ収束されると、摩擦締結要素に対する締結力も減少するため、減速比εは戻り始める。上述した減速比変化速度Sεが第1の判定値SL1以下であっても、減速比最大戻り量Δεmxが第2の判定値SL2を越えている場合(Δεmx>SL2)、今回の座標データ(Ti,Pi)の蓄積が中止される。
【0053】
本実施形態では、直接計測することの困難なを変速開始点における実際の油圧のオーバーシュートを、減速比εの変化により検出するようにしたので、特別なセンサを設ける必要がなく、従来の製品に対しても適用することができ、高い汎用性を得ることができる。又、変速開始点以降の減速比εの変化が異常な場合は、今回求めた座標データ(Ti,Pi)の蓄積を中止するようにしたので、後述する目標供給圧算出部44で算出する目標供給圧Pcの信頼性を高めることができると共に、自動変速機2の変速品質を良好な状態に維持することができる。
【0054】
又、補正定数設定部43の補正定数算出部43aでは、後述する補正定数記憶部43bに格納されている補正定数である傾き定数acと切片定数bcとを読込み、各データac,bcを微少量±δa,±δbだけ移動させた場合の平均信頼度Rj,kを、表2に示す補正の組み合わせ毎に算出する。
【表2】

【0055】
すなわち、表2に示すように、この補正の組み合わせパターンは、本実施形態では、(1)〜(9)の9通りに設定されており、この各補正の組み合わせパターン(1)〜(9)毎に算出される傾き補正定数Aj(j=1〜3)と切片補正定数Bk(k=1〜3)との組み合わせデータ(Aj,Bk)に基づき、先ず、サンプルデータ記憶部41に記憶蓄積されている全ての座標データ(Ti,Pi)について、誤差ΔPj,k(j=1〜3,k=1〜3)を、次の(6)式から算出する。尚、組み合わせデータ(Aj,Bk)は9通りに限定されるものではなく、この補正の組み合わせパターンの一部を選択的に採用しても、或いは10通り以上の補正の組み合わせパターンで構成されていても良い。
【0056】
ΔPj,K=Pi−(Aj・Ti+Bk) …(6)
この場合、サンプルデータ記憶部41に記憶蓄積されている全ての座標データ(Ti,Pi)には、変速開始点における供給圧Piに対して実際の油圧(計測圧)が、図6にΔPで示すように、大きく乖離しているときのデータは含まれていないため、正確な誤差ΔPj,kを求めることができる。
【0057】
次いで、算出された各誤差ΔPj,kの平均値μj,Kと分散値σj,kとを、次の(7),(8)式から求める。
【式1】
【0058】

【0059】
そして、この平均値μj,Kと分散値σj,kとをパラメータとして平均信頼度関数R(μq,σq)を参照して、各組み合わせデータ(Aj,Bk)毎の平均信頼度Rj,kを算出する。尚、平均信頼度関数R(μq,σq)は、正規分布の平均値μj,Kと分散値σj,kとが共に小さい値を示すほど大きな値を取るように設定されている。
【0060】
ここで、平均信頼度関数R(μq,σq)の設定の仕方について説明する。上述した基本一次式(Po=a・Ti+b)を、適合に使用した車両とは別の車両に搭載されている自動変速機に適用した場合、サンプルデータ記憶部41に格納されている座標データ(Ti,Pi)に基づいて誤差δ(=Pi−(a・Ti+b))を各々算出し、この各誤差δの頻度分布(ヒストグラム)を調べた結果、この誤差δの平均値の多くが基本モデルの確率密度関数p(δ)の平均値μp(≒0)に近い値を示している場合は、当該自動変速機の平均信頼度は高く、基本一次式(Po=a・Ti+b)は当該自動変速機にそのまま使用することができる。
【0061】
一方、上述した誤差δの平均値が基本モデルの確率密度関数p(δ)の平均値μp(≒0)とは異なる値を多く示すような場合、当該自動変速機の平均信頼度は低く、基本一次式(Po=a・Ti+b)をそのまま使用することはできない。このような場合、基本一次式(Po=a・Ti+b)を補正して使用する必要がある。例えば、補正した一次式をPc=ac・Ti+bcで表した場合、サンプルデータ記憶部41に格納されている座標データ(Ti,Pi)との誤差δは、δ=Pi−(ac・Ti+bc)となり、その実モデルの確率密度関数q(δ)を平均値μq、分散値σqに従った正規分布とする。
【0062】
誤差δの平均信頼度は、基本モデルの確率密度関数p(δ)の期待値E[(p(δ)]で表すことができるが、この場合、基本モデルの確率密度関数p(δ)の平均値μpと分散値σpとは既知であるので、平均信頼度関数R(μq,σq)は、(9)式で定義することができる。
【式2】
【0063】

尚、平均信頼度関数R(μq,σq)は、確率密度関数q(δ)の平均値|μq|と分散値σqが共に小さい値を示すときに大きな値を持つ特性を有している。
【0064】
この平均信頼度関数R(μq,σq)は演算により求めても良いが、実モデルの確率密度関数q(δ)の平均値μqと分散値σqとを軸とする平均信頼度関数マッブを設定し、この各軸の交点に、平均値μqと分散値σqとに基づいて設定した平均信頼度関数R(μq,σq)を格納するようにしても良い。
【0065】
そして、この平均信頼度関数R(μq,σq)に基づき、上述した各組み合わせデータ(Aj,Bk)の平均信頼度Rj,kを算出する。
【0066】
補正定数記憶部43bは、補正定数算出部43aで算出した、各組み合わせ毎の平均信頼度Rj,kから、最も大きい平均信頼度Rj,kを示す組み合わせデータ(Aj,Bk)を選択し、このパラメータAj,Bkにて、補正定数記憶部43bに格納されている傾き定数acと切片定数bcとを更新する(ac←Aj,bc←Bk)。尚、この傾き定数ac、切片定数bcの初期値は、基本一次式(Po=a・Ti+b)の傾き定数a、切片定数bと同一の値に設定されている(ac=a,bc=c)。
【0067】
目標供給圧算出部44は、基本供給圧算出部39で算出した基本供給圧Poと補正定数記憶部43bに格納されている傾き定数ac、切片定数bcとを読込み、次の(10)式から目標供給圧Pcを算出する。
【0068】
Pc=(ac/a)・(Po−b)+bc …(10)
尚、(10)式は、次の(10’)式であっても良い。
【0069】
Pc=ac・Ti+bc …(10’)
上述したように、傾き定数ac、切片定数bcには、変速開始点における供給圧Piに対して実際の油圧(計測圧)が、図6にΔPで示すように、大きく乖離しているときの座標データ(Ti,Pi)の因子は含まれていないため、高い精度の目標供給圧Pcを設定することができる。
【0070】
出力信号処理部45は、目標供給圧算出部44で算出した目標供給圧Pcを駆動信号に変換する。この駆動信号はソレノイド弁駆動回路8を介して、ソレノイド弁5(6,7)に供給される。ソレノイド弁5(6,7)が、駆動信号に従って動作して対応する弁開度が設定されると、これに対応する摩擦締結要素に供給される供給圧(ライン圧)Piが制御される。
【0071】
その結果、例えば、図7(b)に示すように、実モデルの確率密度関数q(δ)が基本モデルの確率密度関数p(δ)に対し、分散値は同一であるが、平均値がプラス方向へずれている場合は、傾きは合っているが、切片がずれていることを示しているため、表2に示す(1)〜(9)の補正の組み合わせパターン中、パターン(2)の(A1,B2)の平均信頼度R1,2が最も高い値を示すことになる。従って、補正定数記憶部43bでは、パターン(2)の(A1,B2)が選択され、この値にて、傾き定数acと切片定数bcとが更新される(ac←A1,bc←B2)。その結果、図8(a)に示すように、実一次式(Pc=ac・Ti+bc)は、切片定数bcがδbだけ増加する方向へ学習補正される(bc←bc+δb)。
【0072】
一方、図7(c)に示すように、基本モデルの確率密度関数p(δ)と実モデルの確率密度関数q(δ)とを比較した場合、平均値は同一であるが分散値が広がっている場合は、傾きのみずれていることを示しているため、表2に示す(1)〜(9)の補正の組み合わせパターン中、パターン(4)の(A2,B1)の平均信頼度R2,1あるいはパターン(7)の(A3,B1)の平均信頼度R3,1が最も高い値を示すことになる。従って、補正定数記憶部43bは、仮にR2,1>R3,1の場合は、パターン(4)の(A2,B1)が選択され、この値にて、傾き定数acと切片定数bcとが更新される(ac←A2,bc←B1)。その結果、図8(b)に示すように、実一次式(Pc=ac・Ti+bc)は、傾き定数acがδaだけ増加する方向へ学習補正される(ac←ac+δa)。
【0073】
このように、変速開始毎に補正定数記憶部43bに格納されている傾き定数acと切片定数bcとが繰り返し更新されることで、実モデルの確率密度関数q(δ)が基本モデルの確率密度関数p(δ)とほぼ同一の平均値及び分散値を示す値に学習補正される。
【0074】
その結果、本実施形態によれば、サンプルデータ記憶部41に入力される座標データ(Ti,Pi)が更新され、更に学習が進行するに従い、より高い平均信頼度Rj,kを有する傾き定数acと切片定数bcとが設定されるため、走行中に変速制御が繰り返し実行される都度に、変速開始点における目標供給圧Pcが次第に最適化され、良好な変速制御性、及びスリップロックアップ性能を得ることができる。更に、その際、変速開始点以降の減速比εの変化が異常な場合は、今回求めた座標データ(Ti,Pi)の蓄積を行わないようにしたので、変速開始点における目標供給圧Pcがより高精度に設定される。
【0075】
この場合、生産ラインにおいては、車両毎に変速時の供給圧特性を調べる必要がないため、作業効率が良くなり、生産性が向上する。
【0076】
又、変速開始点における入力トルクTiと供給圧Pi、及び変速開始点以降の減速比εの変化を常時監視しているため、経時劣化に対しても自動的に対応させることができ、高い信頼性を得ることができる。
【0077】
更に、サンプルデータが少ない場合であっても、実一次式(Pc=ac・Ti+bc)の傾き定数acと切片定数bcとを、徐々に平均信頼度Rj,kの最も高い方向へ学習補正させることができるため、外乱の影響を受け難く、強い安定指向性を得ることができる。
【0078】
又、システムの適合に使用する車両は1台でよいため、適合および変速品質の確認に要するコストを低減することができる。
【0079】
又、従来のように、次々と入力されるサンプルデータに基づいて最小二乗法により一次式の傾きと切片とを求めるものではなく、一次式(Pc=ac・Ti+bc)の傾き定数acと切片定数bcとを微少量±δa,±δbだけ移動させたときの平均信頼度Rj,kの最も高い値を示す傾き定数acと切片定数bcとを選択し、この傾き定数acと切片定数bcとを有する一次式(Pc=ac・Ti+bc)に基づいて、目標供給圧Pcを設定するようにしたので、少ないメモリ容量およびCPU負荷での演算が可能となる。
【0080】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば、平均信頼度Rj,kが同値となる組み合わせが複数算出された場合は、予め設定されている優先順位に従って1つの組み合わせを選択するようにしても良い。
【0081】
又、補正定数記憶部43bに格納されている傾き定数acと切片定数bcとに上下限リミッタを設定するようにしても良い。
【0082】
更に、基本一次式(Po=a・Ti+b)に対する補正量γ(=(ac/a)・(Po−b)+bc)に反映係数(重み)kを掛けることで、学習した補正値を反映させる割合を任意に設定できるようにしても良い。
【0083】
Pc=(1−k)Po+k・γ
=(1−k)・Po+k・{(ac/a)・(Po−b)+bc}
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】自動変速機付きエンジンの概略図
【図2】自動変速機の動力伝達列を示す模式図
【図3】トランスミッション制御装置の油圧制御機能を示すブロック図
【図4】サンプルデータ記憶部の説明図
【図5】サンプリングした座標データと一次式との関係を示す説明図
【図6】アップシフト時の減速比と入力トルクと供給圧と計測圧との変化特性を示す説明図
【図7】(a)基本モデルの確率密度関数を示す説明図、(b)基本モデルの確率密度関数と実モデルの確率密度関数とを示す説明図、(c)別態様による基本モデルの確率密度関数と実モデルの確率密度関数とを示す説明図
【図8】(a)基本一次式に対して切片のみを補正した実一次式の説明図、(b)基本一次式に対して傾きのみを補正した実一次式の説明図
【符号の説明】
【0085】
1…エンジン、
2…自動変速機、
13…変速機、
18,19,20,23,25…摩擦締結要素、
33…入力軸回転数センサ、
34…出力軸回転数センサ、
36…減速比算出部、
37…変速開始点検出部、
38…入力トルク推定処理部、
39…基本供給圧算出部、
40…供給圧推定部、
41…サンプルデータ記憶部、
42…データ更新判定処理部、
43…補正定数設定部、
43a…補正定数算出部、
43b…補正定数記憶部、
44…目標供給圧算出部、
ε…減速比、
ετ…変速開始点減速比、
εmi…最小減速比、
θth…スロットル開度、
Ni…入力軸回転数、
No…出力軸回転数、
Pc…目標供給圧、
Pi…供給圧、
Sε…減速比変化速度、
SL1,SL2…判定値、
Ti…入力トルク、
ac…傾き定数、
bc…切片定数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機に設けられている摩擦締結要素に供給する供給圧を可変して該摩擦締結要素を締結或いは解放動作させることで、前記変速機の動力伝達経路を変更する自動変速機の制御装置において、
前記変速機の減速比を算出する減速比算出手段と、
前記摩擦締結要素の少なくとも一つ以上に前記供給圧を供給し、前記動力伝達経路を変更する過程で、前記減速比が予め設定した変化量だけ変化したときを変速開始点として検出する変速開始点検出手段と、
前記変速開始点を検出したときの、前記変速機の変速状態に基づいて、前記摩擦締結要素の少なくともひとつ以上に供給されている供給圧を推定する供給圧推定手段と、
前記変速開始点を検出したときの前記変速機に入力される入力トルクのデータと前記供給圧推定手段で推定した供給圧のデータとをサンプリングし、記憶蓄積するサンプルデータ記憶手段と、
前記サンプルデータ記憶手段に記憶蓄積されている前記入力トルクのデータ及び前記供給圧のデータとに基づき、前記摩擦締結要素の少なくともひとつ以上に供給される供給圧を補正制御する供給圧制御手段とを備え、
前記サンプルデータ記憶手段は、前記変速開始点以降の前記減速比の変化量が予め設定した判定値を超えた場合、今回の前記入力トルクのデータと前記供給圧のデータの蓄積を行わない
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記サンプルデータ記憶手段は、前記変速開始点以降の前記減速比の前記変化量を表すところの変化速度の絶対値が予め設定した第1の判定値以上となったとき、前記サンプルデータ記憶手段に対する今回の前記入力トルクのデータと前記供給圧のデータの蓄積を行わない
ことを特徴とする請求項1記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記サンプルデータ記憶手段は、前記減速比が変化を開始した後に該減速比が前記動力伝達経路の変更前の状態まで逆戻りする際の減速比戻り量の絶対値が予め設定した第2の判定値以上となったとき、今回の前記入力トルクのデータと前記供給圧のデータの蓄積を行わない
ことを特徴とする請求項1記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記サンプルデータ記憶手段は、前記変速開始点以降の前記減速比の変化速度の絶対値が予め設定した第1の判定値以下であっても、前記減速比が変化を開始した後に該減速比が前記動力伝達経路の変更前の状態まで逆戻りする際の減速比戻り量の絶対値が予め設定した第2の判定値以上となったときは、今回の前記入力トルクのデータと前記供給圧のデータの蓄積を行わない
ことを特徴とする請求項1記載の自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記供給圧推定手段で読込む前記変速機の変速状態は、前記減速比算出手段で算出した前記減速比である
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−156389(P2010−156389A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334284(P2008−334284)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】