説明

自動変速機の制御装置

【課題】車両の発電要求を満たしながら、燃費を向上させることができるとともにクラッチ手段の締結を解除するときの減速度によって生じる乗員への違和感を抑制することができる自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】コースト走行時に、エンジンを無段変速機に従動させた状態に制御する自動変速機の制御装置は、車速に応じて算出された目標減速度が車両からの発電要求に応じて設定された発電機の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されたときにクラッチ手段の締結を解除するようにクラッチ手段の作動を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載される自動変速機の制御装置に関し、特にアクセル操作状態からアクセル非操作状態へ移行されたコースト走行時における自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の車両においては、エンジンにより駆動される発電機が備えられており、近年では、車両の減速時に発電機の作動を制御して回生発電を行い、発電した電力を車両に備えられたバッテリや車両の電気負荷に供給することで燃費を向上させるようにしたものが知られている。
【0003】
このような発電機を備えた自動変速機を搭載した車両においては、アクセル操作状態からアクセル非操作状態へ移行されたコースト走行時に、クラッチ手段を締結させるとともに燃料カットを行い、この状態を可能な限り低車速側まで維持して、燃料消費量の低減を図ると共にその間に発電機によって回生発電を行うことで、燃費をさらに向上させるようにしたものが知られている。
【0004】
クラッチ手段の締結を低車速側まで維持するものとして、例えば特許文献1には、エンジンブレーキによって減速感が強くなる違和感を低減することを企図して、コースト走行時に、エンジンに駆動される補機の負荷を低減させることにより低車速側までクラッチ手段を締結させ、エンジンブレーキによる違和感を低減するようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−248935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に記載されるように、補機の負荷を低減させることにより低車速側までクラッチ手段を締結させるようにすると、バッテリや車両からの発電要求が満たされないこととなり、バッテリの残容量が少ないときに充電されずに早期劣化を引き起こしたりする畏れがあるので、車両からの発電要求を満たすことが望まれる。
【0007】
また、コースト走行時に、クラッチ手段を締結させるとともに燃料カットを行い、この状態を低車速側まで維持することにより燃費を向上させるようにした場合においても、停車直前にクラッチ手段の締結を解除し、燃料カット制御及び発電機の回生発電を終了したときには、減速度が急激に消滅することとなるので、停車直前に加速するような違和感を乗員に与える畏れがある。
【0008】
発電機によって回生発電を行う際には、バッテリや車両からの発電要求を満たすために、該発電要求に応じて設定される発電機の最低発電量が高めに設定されることがあり、この場合、この最低発電量に対応する最低発電負荷も高くなるので、乗員への違和感がより大きくなり得る。
【0009】
そこで、本発明は、コースト走行時に、車両からの発電要求を満たしながら、燃費を向上させつつクラッチ手段の締結を解除するときの減速度によって生じる乗員への違和感を抑制することができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、本願の請求項1に係る発明は、エンジンにより駆動される発電機と、該エンジンとの間で動力伝達を接断するクラッチ手段を備えた自動変速機と、アクセル操作状態を検出するアクセル操作状態検出手段とを備え、該アクセル操作状態検出手段によってアクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたコースト走行時に、前記エンジンを前記自動変速機に従動させた状態に制御する自動変速機の制御装置であって、車速に応じた目標減速度を算出する目標減速度算出手段と、車両からの発電要求に応じて前記発電機の最低発電負荷を設定する最低発電負荷設定手段と、コースト走行時に、前記目標減速度算出手段によって算出された前記目標減速度が前記最低発電負荷設定手段によって設定された前記発電機の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったか否かを判定する判定手段と、前記クラッチ手段の作動を制御するクラッチ制御手段と、を備え、前記クラッチ制御手段は、前記判定手段によって前記目標減速度が前記発電機の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されたときに前記クラッチ手段の締結を解除するように前記クラッチ手段の作動を制御する、ことを特徴とする。
【0011】
また、本願の請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記発電機の発電負荷を制御する発電負荷制御手段を備え、前記発電機の最低発電負荷は、前記発電負荷制御手段によって制御される前記発電機の発電負荷の最低値よりも大きく設定される、ことを特徴とする。
【0012】
更に、本願の請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記最低発電負荷設定手段は、車両からの発電要求が大きいほど前記発電機の最低発電負荷を大きく設定する、ことを特徴とする。
【0013】
また更に、本願の請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3の何れか1項に係る発明において、車両からの発電要求は、車両に備えられたバッテリ及び車両の電気負荷の状態に応じて設定され、前記クラッチ制御手段は、前記発電要求が所定値以上である場合に、前記判定手段によって前記目標減速度が前記発電機の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されたときに前記クラッチ手段の締結を解除するように前記クラッチ手段の作動を制御する、ことを特徴とする。
【0014】
また更に、本願の請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4の何れか1項に係る発明において、前記クラッチ手段は、スリップ制御可能に構成され、前記クラッチ制御手段は、前記クラッチ手段をスリップ制御することにより前記クラッチ手段の締結を解除する、ことを特徴とする。
【0015】
また更に、本願の請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5の何れか1項に係る発明において、前記発電負荷制御手段は、車速が低下するにつれて前記発電機の発電負荷を低下させて前記目標減速度を実現するように前記発電機の発電負荷を制御する、ことを特徴とする。
【0016】
また更に、本願の請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6の何れか1項に係る発明において、前記自動変速機は無段変速機であって、前記アクセル操作状態検出手段によってアクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたコースト走行時に、前記エンジンを前記無段変速機に従動させた状態において前記無段変速機の変速比をLOW側へ移行させるように前記無段変速機の作動を制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本願の請求項1に係る自動変速機の制御装置によれば、コースト走行時に、エンジンを自動変速機に従動させた状態に制御し、車速に応じて算出された目標減速度が、車両からの発電要求に応じて設定された発電機の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されたときに、クラッチ手段の締結を解除するようにクラッチ手段の作動を制御する。
【0018】
これにより、コースト走行時に、クラッチ手段を締結させるとともに燃料カットを行う場合に、クラッチ手段の締結を解除するタイミングを車両からの発電要求に応じて設定された発電機の最低発電負荷に基づいて制御することができるので、車両からの発電要求を満たしながら、可能な限り低車速側までクラッチ手段の締結を維持することができ、燃費を向上させつつクラッチ手段の締結を解除するときの減速度によって生じる乗員への違和感を抑制することができる。車両の発電要求に応じて設定された発電機の最低発電負荷が低い場合には、該発電機の最低発電負荷が高い場合に比して低車速までクラッチ手段を締結させることができ、燃費を向上させることができるとともにクラッチ手段の締結を解除するときの減速度によって生じる乗員への違和感を抑制することができる。
【0019】
また、本願の請求項2に係る発明によれば、発電機の発電負荷を制御する発電負荷制御手段を備え、発電機の最低発電負荷は、発電負荷制御手段によって制御される発電機の発電負荷の最低値よりも大きく設定されることにより、前記効果を具体的に実現することができる。
【0020】
更に、本願の請求項3に係る発明によれば、最低発電負荷設定手段は、車両からの発電要求が大きいほど発電機の最低発電負荷を大きく設定することにより、車両からの発電要求が変化する場合に、車両からの発電要求の変化に応じてクラッチ手段の締結解除を制御することができ、前記効果を有効に奏することができる。
【0021】
また更に、本願の請求項4に係る発明によれば、クラッチ制御手段は、バッテリ及び電気負荷の状態に応じて設定される車両からの発電要求が所定値以上である場合に、目標減速度が発電機の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されたときにクラッチ手段の締結を解除するようにクラッチ手段の作動を制御することにより、バッテリの過充電を防止することができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0022】
また更に、本願の請求項5に係る発明によれば、クラッチ手段は、スリップ制御可能に構成され、クラッチ制御手段は、クラッチ手段をスリップ制御することによりクラッチ手段の締結を解除することにより、クラッチ手段の締結を解除する際に生じるショックを低減することができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0023】
また更に、本願の請求項6に係る発明によれば、発電負荷制御手段は、車速が低下するにつれて発電機の発電負荷を低下させて目標減速度を実現するように発電機の発電負荷を制御することにより、目標減速度を発電機の発電負荷により実現することができ、コースト走行時に乗員に違和感を与えることを抑制することができる。
【0024】
また更に、本願の請求項7に係る発明によれば、自動変速機は無段変速機であって、コースト走行時に、エンジンを無段変速機に従動させた状態において無段変速機の変速比をLOW側へ移行させるように無段変速機の作動を制御することにより、自動変速機がクラッチ手段を締結した状態においてLOW側への移行が可能である無段変速機である場合に、より低車速までクラッチ手段を締結することができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る自動変速機の骨子図である。
【図2】前記自動変速機の制御システム図である。
【図3】前記自動変速機を備えた車両のコースト走行時における自動変速機の第1の制御を説明するための説明図である。
【図4】発電機への発電要求に応じて変化するロックアップクラッチの締結解除時の減速度を説明するための説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る自動変速機の第1の制御を示すフローチャートである。
【図6】勾配角と目標減速度との関係を示す図である。
【図7】ブレーキ圧と目標減速度との関係を示す図である。
【図8】前記自動変速機を備えた車両のコースト走行時における自動変速機の第2の制御を説明するための説明図である。
【図9】本発明の実施形態に係る自動変速機の第2の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る自動変速機の骨子図である。図1に示す自動変速機1は、無段変速機であって、エンジン2の出力軸3に連結されたトルクコンバータ10と、トルクコンバータ10の出力側に配置された前進後退切換機構20と、前進後退切換機構20の出力側に配置されたベルト式無段変速機構30と、ベルト式無段変速機構30の出力側に配置された終減速機40及び差動装置50とで構成されている。
【0028】
トルクコンバータ10は、エンジン出力軸3に連結されたケース11と、ケース11内に固設されてエンジン出力軸3と一体回転するポンプ12と、ポンプ12によりケース11内の作動油を介して駆動されるタービン13と、タービン13とポンプ12との間に介設されてトルク増大作用を行うステータ14と、ケース11とタービン13とを結合してタービン13をエンジン出力軸3に直結させるとともにスリップ制御可能に構成されるロックアップクラッチ15と、を有し、タービン13に連結されたタービンシャフト16が前進後退切換機構20の入力軸として前進後退切換機構20側に延びている。
【0029】
前進後退切換機構20は、タービンシャフト16と一体回転するキャリア21に、外側のリングギヤ22に噛合する第1ピニオンギヤ23と、内側のサンギヤ24に噛合する第2ピニオンギヤ25とが設けられ、リングギヤ22と内側のキャリア21との間に両者を接断する油圧多板式の前進用クラッチ26が配設され、リングギヤ22と外側のミッションケース壁19との間に両者を接断する油圧多板式の後退用ブレーキ27が配設されている。なお、サンギヤ24に無段変速機構30側への出力軸28が連結されている。
【0030】
このように構成された前進後退切換機構20では、後退用ブレーキ27を解放し、且つ前進用クラッチ26を締結した状態では、リングギヤ22とキャリア21とが一体化されるとともにリングギヤ22がミッションケース壁19に対して相対回転可能となるため、タービンシャフト16の回転が同方向回転状態、すなわち前進状態でサンギヤ24を介して無段変速機構30側への出力軸28に出力されることとなる。
【0031】
一方、後退用ブレーキ27を締結し、且つ前進用クラッチ26を解放した状態では、リングギヤ22がミッションケース壁19に固定されるとともにリングギヤ22に対してキャリア21が相対回転自在となるため、タービンシャフト16の回転が第1ピニオンギヤ23及び第2ピニオンギヤ25を介して反転した状態、すなわち後進状態で無段変速機構30側への出力軸28に出力されることとなる。
【0032】
無段変速機構30は、入力軸(前進後退切換機構20の出力軸)28上に配置されたプライマリプーリ31と、入力軸28に平行な出力軸32上に配置されたセカンダリプーリ33と、両プーリ31、33間に巻き掛けられたVベルト34とで構成されている。プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ33はそれぞれ、入力軸28、出力軸32に固定された固定ディスク31a、33aと、これらの軸28、32上にスライド可能に支持されて固定ディスク31a、33aに対向する可動ディスク31b、33bとで構成されている。
【0033】
可動ディスク31b、33bの背後にはシリンダ31c、33cが設けられ、これらのシリンダ31c、33cに対する作動油圧の給排制御により、両プーリ31、33におけるVベルト34の挟持位置の半径、すなわちこれらのプーリ31、33の有効半径が変化し、これにより自動変速機1、具体的には無段変速機構30の変速比が制御されるようになっている。
【0034】
そして、無段変速機構30の出力が出力軸32及び一対の伝動ギヤ35、36を介して、小径の第1ギヤ41と大径の第2ギヤ42とでなる終減速機40に伝達されるとともに、さらに差動装置50に入力され、差動装置50によって分割されて、左右の車輪の駆動軸51、52に出力されるようになっている。
【0035】
また、自動変速機1に連結されるエンジン2には、該エンジン2のクランクシャフト4にベルト5を介して連結されるオルタネータなどの発電機6が備えられ、このエンジン2により駆動される発電機6は、車両に備えられたバッテリや車両の電気負荷の状態に基づく車両からの発電要求に応じて発電した電力をバッテリや電気負荷に供給することができるようになっているとともに、車両の減速時には回生発電を行うことができるようになっている。
【0036】
このようにして構成される自動変速機1にはまた、トルクコンバータ10のロックアップクラッチ15及び無段変速機構30の作動、並びに発電機6の作動等、自動変速機1に関係する構成を総合的に制御するコントロールユニット100が設けられている。なお、コントロールユニット100は、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
【0037】
図2は、前記自動変速機の制御システム図である。図2に示すように、コントロールユニット100には、自動変速機1を搭載した車両の速度を検出する車速センサ101からの信号、アクセル操作状態を検出するアクセル操作状態検出手段としてアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ102からの信号、ブレーキペダルの踏み込み圧を検出するブレーキ圧センサ103からの信号、車両が走行する路面の勾配を検出する勾配角センサ104からの信号、車両に備えられたバッテリや車両の電気負荷の状態に応じて車両の発電要求を設定する充電制御装置105からの信号が入力されるようになっている。
【0038】
このコントロールユニット100は、車速とアクセル開度とに基づき、選択されているレンジに応じた自動変速機1の変速比の制御を行うと共に、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されると、エンジン2を自動変速機1に従動させた状態に自動変速機1の作動を制御する。無段変速機である自動変速機1においては、エンジン2を自動変速機1に従動させた状態において、すなわちロックアップクラッチ15を締結させた状態において自動変速機1の変速比をLOW側へ移行させるように自動変速機1の作動を制御する。
【0039】
アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたコースト走行後に停車する場合、コントロールユニット100は、該コントロールユニット100への入力信号に基づいて、発電機6によって回生発電を行いつつ、車両の停車時に無段変速機構30の変速比がLOW側、具体的には最減速比状態となるように自動変速機1の制御を行う。
【0040】
また、コントロールユニット100は、コースト走行時に、車速に応じた目標減速度を算出することができるようになっているとともに、充電制御装置105から入力される車両からの発電要求に応じて発電機6の最低発電負荷を設定することができるようになっており、この最低発電負荷は、車両からの発電要求が大きいほど大きく設定される。
【0041】
さらに、コントロールユニット100は、発電機6の発電負荷を制御することができるようになっており、車両からの発電要求に応じて設定される発電機6の最低発電負荷は、コントロールユニット100によって制御される発電機6の発電負荷の最低値よりも大きく設定される。
【0042】
本実施形態ではまた、コースト走行時に、エンジン2を自動変速機1に従動させた状態に制御するときに、車速が低下するにつれて発電機6の発電負荷を低下させて目標減速度を実現するように発電機6の発電負荷を制御し、目標減速度が、車両からの発電要求に応じて設定された発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなる車速になるときにロックアップクラッチ15の締結を解除するようにロックアップクラッチ15の作動を制御する。
【0043】
図3は、自動変速機を備えた車両のコースト走行時における自動変速機の第1の制御を説明するための説明図であり、図3では、車速と目標減速度との関係を実線で目標減速度ラインL1として示し、車速と車両に備えられたバッテリ及び車両の電気負荷に応じて設定される車両の発電要求を満たす発電機6の最低発電負荷との関係を破線で発電機限界値ラインL2として示している。なお、図3では、本実施形態に係る制御を行わない場合に、ロックアップクラッチ15の締結を解除するとともに燃料カットを停止する車速をVLとして示している。
【0044】
コントロールユニット100では、図3に示すような、車速に応じた目標減速度が算出され、目標減速度ラインL1がマップとしてコントロールユニット100に記憶されている。目標減速度ラインL1は、車速が低下するにつれて目標減速度が低下するように算出され、乗員に違和感を与えることを抑制しつつ発電機6によって回生発電を効率的に行うことができるように算出されている。
【0045】
また、コントロールユニット100では、車両からの発電要求に応じて該発電要求を満たす発電機6の最低発電負荷が設定され、図3に示すように、この発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度が算出される。発電機限界値ラインL2は、車両からの発電要求を満たすことができる発電機6の最低の発電負荷であり、発電機6により制御される発電機6の発電負荷の最低値より大きく設定されている。
【0046】
前述したように、本実施形態では、アクセル操作状態からアクセル非操作状態に移行されたコースト走行時に、目標減速度が、車両からの発電要求に応じて設定された発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されたときにロックアップクラッチ15の締結を解除するようにロックアップクラッチ15の作動を制御する。
【0047】
図3に示すように、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたときに、車速がV0である場合、目標減速度ラインL1は発電機限界値ラインL2より大きいので、目標減速度を実現するように発電機6の発電負荷が制御される。そして、車速がV0から低下すると、車速が低下するにつれて発電機6の発電負荷を低下させて目標減速度ラインL1に沿って目標減速度を実現するように発電機6の発電負荷が制御される。
【0048】
車速が、目標減速度ラインL1と発電機限界値ラインL2とが等しくなる車速V1より低下すると、目標減速度ラインL1は発電機限界値ラインL2より小さくなるので、ロックアップクラッチ15の締結を解除するようにロックアップクラッチ15の作動が制御される。ロックアップクラッチ15の締結を解除すると、図3において一点鎖線で示すように、車両の減速度が低下することとなる。なお、変速機構30は、車速に応じて変速比が制御され、停車時に最減速比状態となるように制御される。
【0049】
図4は、発電機への発電要求に応じて変化するロックアップクラッチの締結解除時の減速度を説明するための説明図であり、図4では、発電機6への発電要求が大きく発電機6の最低発電負荷が大きく設定された場合をL2aとして示し、発電機6への発電要求が小さく発電機6の最低発電負荷が小さく設定された場合をL2bとして示している。
【0050】
図4に示すように、発電機6の最低発電負荷が大きく設定された場合には車速V1aにおいてロックアップクラッチ15の締結が解除されるように制御され、発電機6の最低発電負荷が小さく設定された場合には車速V1bにおいてロックアップクラッチ15の締結が解除されるように制御され、発電機6の最低発電負荷が小さく設定された場合には、発電機6の最低発電負荷が大きく設定された場合に比して低車速側までロックアップクラッチ15を締結することができるとともにロックアップクラッチ15の締結を解除するときの減速度を小さくすることができる。
【0051】
図5は、本発明の実施形態に係る自動変速機の第1の制御を示すフローチャートである。この制御では、先ず、自動変速機1に関係する構成により検出される信号、すなわち、アクセル開度、車速、ブレーキ圧、勾配角、車両からの発電要求などの各種信号が読み込まれる(ステップS1)。
【0052】
次に、ステップS2において、車両からの発電要求である発電機6への発電要求が所定値以上であるか否かが判定される。ステップS2での判定結果がノー(NO)の場合、すなわち発電機6への発電要求が所定値未満である場合、ステップS1及びS2が繰り返されるが、ステップS2での判定結果がイエス(YES)の場合、すなわち発電機6への発電要求が所定値以上である場合、アクセル操作状態からアクセル非操作状態へ移行されたアクセル全閉状態であるか否かが判定される(ステップS3)。
【0053】
ステップS3での判定結果がノーの場合、すなわちアクセル全閉状態でない場合、ステップS1〜S3が繰り返されるが、ステップS3での判定結果がイエスの場合、すなわちアクセル全閉状態であるコースト走行時の場合、車速が所定車速以上などの燃料カット条件が成立しているか否かが判定される(ステップS4)。
【0054】
ステップS4での判定結果がノーの場合、すなわち燃料カット条件が成立していない場合、ステップS1〜S4が繰り返されるが、ステップS4での判定結果がイエスの場合、すなわち燃料カット条件が成立している場合、次に、トルクコンバータ10のロックアップクラッチ15が締結状態にあるか否かが判定される(ステップS5)。
【0055】
ステップS5での判定結果がノーの場合、すなわちロックアップクラッチ15が締結状態にない場合、ステップS1〜S5が繰り返されるが、ステップS5での判定結果がイエスの場合には、すなわちロックアップクラッチ15が締結状態にある場合には、車速に応じた目標減速度(D1)が算出され(ステップS6)、発電機6への発電要求に応じて発電機6の最低発電負荷が設定され(ステップS7)、ステップS7において設定された発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度(D2)が算出される(ステップS8)。
【0056】
そして、ステップ6において算出された車速に応じた目標減速度(D1)がステップS8において算出された発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度(D2)より小さくなったか否かが判定され(ステップS9)、ステップS9での判定結果がイエスになると、すなわち目標減速度(D1)が発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度(D2)より小さくなったと判定されると、ロックアップクラッチ15の締結を解放してロックアップクラッチ15の締結が解除され(ステップS10)、燃料カットが停止される。
【0057】
ステップS6〜S10に示されるように、本実施形態では、車速に応じて目標減速度が算出され、発電機6への発電要求に応じて設定された発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度が算出され、目標減速度が発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定された車速において、ロックアップクラッチ15の締結が解除される。
【0058】
以上のように、本実施形態では、コースト走行時に、エンジン2を自動変速機1に従動させた状態に制御し、車速に応じて算出された目標減速度が、車両からの発電要求に応じて設定された発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されたときに、ロックアップクラッチ15の締結を解除するようにロックアップクラッチ15の作動を制御する。
【0059】
これにより、コースト走行時に、ロックアップクラッチ15を締結させるとともに燃料カットを行う場合に、ロックアップクラッチ15の締結を解除するタイミングを車両からの発電要求に応じて設定された発電機6の最低発電負荷に基づいて制御することができるので、車両からの発電要求を満たしながら、可能な限り低車速側までロックアップクラッチ15の締結を維持することができ、燃費を向上させつつロックアップクラッチ15の締結を解除するときの減速度によって生じる乗員への違和感を抑制することができる。車両の発電要求に応じて設定された発電機6の最低発電負荷が低い場合には、該発電機6の最低発電負荷が高い場合に比して低車速までロックアップクラッチ15を締結させることができ、燃費を向上させることができるとともにロックアップクラッチ15の締結を解除するときの減速度によって生じる乗員への違和感を抑制することができる。
【0060】
また、車両からの発電要求が大きいほど発電機6の最低発電負荷を大きく設定することにより、車両からの発電要求が変化する場合に、車両からの発電要求の変化に応じてロックアップクラッチ15の締結解除を制御することができる。
【0061】
更に、バッテリ及び電気負荷の状態に応じて設定される車両からの発電要求が所定値以上である場合に、目標減速度が発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されたときにロックアップクラッチ15の締結を解除するようにロックアップクラッチ15の作動を制御することにより、バッテリの過充電を防止することができる。
【0062】
また更に、目標減速度が発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されるまでは、車速が低下するにつれて発電機6の発電負荷を低下させて目標減速度を実現するように発電機6の発電負荷を制御することにより、目標減速度を発電機6の発電負荷により実現することができ、コースト走行時に乗員に違和感を与えることを抑制することができる。
【0063】
また更に、自動変速機1は無段変速機であって、コースト走行時に、エンジンを無段変速機に従動させた状態において無段変速機の変速比をLOW側へ移行させるように無段変速機の作動を制御することにより、ロックアップクラッチ15を締結した状態においてLOW側への移行が可能である無段変速機である場合に、より低車速までロックアップクラッチ15を締結することができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0064】
前述した実施形態では、車両が走行する路面の勾配角やブレーキ圧を考慮することなく車速に応じた目標減速度が算出されているが、勾配角及びブレーキ圧に応じて目標減速度を補正するようにしてもよく、かかる場合には、目標減速度をより好適に算出することができる。
【0065】
図6は、勾配角と目標減速度との関係を示す図であり、図6では、目標減速度を破線で示し、勾配角によって補正した目標減速度を実線で示している。図6に示すように、勾配角センサ104によって検出された勾配角に応じて、下り勾配角が大きくなるにつれて目標減速度が高くなるように、また上り勾配角が大きくなるにつれて目標減速度が低くなるように目標減速度を補正するようにしてもよい。
【0066】
また、図7は、ブレーキ圧と目標減速度との関係を示す図であり、図7では、目標減速度を破線で示し、ブレーキ圧によって補正した目標減速度を実線で示している。図7に示すように、ブレーキ圧センサ103によって検出されたブレーキ圧に応じて、ブレーキ圧が高くなるにつれて目標減速度が高くなるように目標減速度を補正するようにしてもよい。
【0067】
前述した実施形態ではまた、目標減速度が発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されたときに、ロックアップクラッチ15の締結を解放することによりロックアップクラッチ15の締結を解除しているが、ロックアップクラッチ15をスリップ状態にすることによりロックアップクラッチ15の締結を解除するように制御することも可能である。
【0068】
図8は、前記自動変速機を備えた車両のコースト走行時における自動変速機の第2の制御を説明するための説明図である。コースト走行時における自動変速機1の第2の制御は、コースト走行時における自動変速機1の第1の制御と、ロックアップクラッチ15の締結解除をスリップ状態にした後に解放するようにしたこと以外は同様であるので、それ以外については説明を省略する。
【0069】
図8に示すように、コースト走行時における自動変速機1の第2の制御では、車速が、目標減速度ラインL1と発電機限界値ラインL2とが等しくなる車速V1より低下すると、ロックアップクラッチ15の締結を解除するようにロックアップクラッチ15がスリップ制御される。
【0070】
ロックアップクラッチ15をスリップ制御してロックアップクラッチ15の締結を解除すると、図8において二点鎖線で示すように、車速が低下するにつれて車両の減速度が低下し、ロックアップクラッチ15を解放する第1の制御の場合に比べて減速度が緩やかに低下することとなる。そして、ロックアップクラッチ15のスリップ制御を開始してから所定時間経過したときに車速V2においてロックアップクラッチ15を解放するようにロックアップクラッチ15の作動が制御される。
【0071】
図9は、本発明の実施形態に係る自動変速機の第2の制御を示すフローチャートである。図9に示すように、自動変速機1の第2の制御におけるステップS11〜S19はそれぞれ、図5に示す自動変速機1の第1の制御におけるステップS1〜S9と同様であるので、説明を省略する。
【0072】
自動変速機1の第2の制御では、ステップS19において、ステップS16において算出された車速に応じた目標減速度(D1)がステップS18において算出された発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度(D2)より小さくなったか否かが判定され、ステップS19での判定結果がイエスになると、すなわち目標減速度(D1)が発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度(D2)より小さくなったと判定されると、ロックアップクラッチ15をスリップ制御することによりロックアップクラッチ15の締結が解除される(ステップS20)。
【0073】
そして、ステップS21において、ロックアップクラッチ15のスリップ制御を開始してから所定時間経過したか否かが判定され、ステップS21での判定結果がイエスになると、すなわちロックアップクラッチ15のスリップ制御を開始してから所定時間経過すると、ロックアップクラッチ15が解放され(ステップS22)、燃料カットが停止される。
【0074】
本実施形態においても、ステップS16〜S22に示されるように、車速に応じて目標減速度が算出され、発電機6への発電要求に応じて設定された発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度が算出され、目標減速度が発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定された車速において、ロックアップクラッチ15の締結が解除されるが、本実施形態では、ロックアップクラッチ15をスリップ制御することによりロックアップクラッチ15の締結が解除され、所定時間経過後にロックアップクラッチ15が解放される。
【0075】
以上のように、本実施形態においても、コースト走行時に、エンジン2を自動変速機1に従動させた状態に制御し、車速に応じて算出された目標減速度が、車両からの発電要求に応じて設定された発電機6の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されたときに、ロックアップクラッチ15の締結を解除するようにロックアップクラッチ15の作動を制御する。
【0076】
これにより、コースト走行時に、ロックアップクラッチ15を締結させるとともに燃料カットを行う場合に、ロックアップクラッチ15の締結を解除するタイミングを車両からの発電要求に応じて設定された発電機6の最低発電負荷に基づいて制御することができるので、車両からの発電要求を満たしながら、可能な限り低車速側までロックアップクラッチ15の締結を維持することができ、燃費を向上させつつロックアップクラッチ15の締結を解除するときの減速度によって生じる乗員への違和感を抑制することができる。
【0077】
また、ロックアップクラッチ15は、スリップ制御可能に構成され、ロックアップクラッチ15をスリップ制御することによりロックアップクラッチ15の締結を解除するようにロックアップクラッチ15の作動を制御する。これにより、ロックアップクラッチ15の締結を解除する際に生じるショックを低減することができる。
【0078】
本実施形態では、自動変速機として、エンジン2との間の動力伝達を接断するロックアップクラッチ15を備えた無段変速機について記載しているが、エンジン2との間で動力伝達を接断するクラッチ手段を備えた多段変速機などのその他の自動変速機を用い、コースト走行時にエンジンを自動変速機に従動させた状態に制御する場合にも、本実施形態に係る自動変速機の制御を適用することができる。また、本実施形態では、アクセル操作状態からアクセル非操作状態へ移行されたコースト走行時に、燃料カット条件が成立した場合に自動変速機1の作動を制御しているが、燃料カット条件に関わらず自動変速機1の作動を制御するようにしてもよい。
【0079】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のように、本発明によれば、コースト走行時に、車両の発電要求を満たしながら、燃費を向上させることができるとともに乗員への違和感を抑制することが可能となるから、この種の車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0081】
1 自動変速機
2 エンジン
6 発電機
15 ロックアップクラッチ
30 無段変速機構
100 コントロールユニット
101 車速センサ
102 アクセル開度センサ
105 充電制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される発電機と、該エンジンとの間で動力伝達を接断するクラッチ手段を備えた自動変速機と、アクセル操作状態を検出するアクセル操作状態検出手段とを備え、該アクセル操作状態検出手段によってアクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたコースト走行時に、前記エンジンを前記自動変速機に従動させた状態に制御する自動変速機の制御装置であって、
車速に応じた目標減速度を算出する目標減速度算出手段と、
車両からの発電要求に応じて前記発電機の最低発電負荷を設定する最低発電負荷設定手段と、
コースト走行時に、前記目標減速度算出手段によって算出された前記目標減速度が前記最低発電負荷設定手段によって設定された前記発電機の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったか否かを判定する判定手段と、
前記クラッチ手段の作動を制御するクラッチ制御手段と、
を備え、
前記クラッチ制御手段は、前記判定手段によって前記目標減速度が前記発電機の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されたときに前記クラッチ手段の締結を解除するように前記クラッチ手段の作動を制御する、
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記発電機の発電負荷を制御する発電負荷制御手段を備え、
前記発電機の最低発電負荷は、前記発電負荷制御手段によって制御される前記発電機の発電負荷の最低値よりも大きく設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記最低発電負荷設定手段は、車両からの発電要求が大きいほど前記発電機の最低発電負荷を大きく設定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
車両からの発電要求は、車両に備えられたバッテリ及び車両の電気負荷の状態に応じて設定され、
前記クラッチ制御手段は、前記発電要求が所定値以上である場合に、前記判定手段によって前記目標減速度が前記発電機の最低発電負荷により実現できる減速度より小さくなったと判定されたときに前記クラッチ手段の締結を解除するように前記クラッチ手段の作動を制御する
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記クラッチ手段は、スリップ制御可能に構成され、
前記クラッチ制御手段は、前記クラッチ手段をスリップ制御することにより前記クラッチ手段の締結を解除する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項6】
前記発電負荷制御手段は、車速が低下するにつれて前記発電機の発電負荷を低下させて前記目標減速度を実現するように前記発電機の発電負荷を制御する、
ことを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項7】
前記自動変速機は無段変速機であって、
前記アクセル操作状態検出手段によってアクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたコースト走行時に、前記エンジンを前記無段変速機に従動させた状態において前記無段変速機の変速比をLOW側へ移行させるように前記無段変速機の作動を制御する、
ことを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載の自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−202313(P2012−202313A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68330(P2011−68330)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】