説明

自動変速機の油圧制御装置

【課題】フェールセーフバルブは、スプリングの付勢力ではスプールの摺動抵抗に対して余裕代が小さく、応答遅れを生じる。
【解決手段】所定の変速段に切換え時、ソレノイドバルブ15を出力位置に切換え、これにより潤滑切換えバルブ13を潤滑油供給位置に切換えて、所定の摩擦要素B−2に潤滑油を供給する。同時に、ソレノイドバルブ15からの制御圧がフェールセーフバルブ12のスプリング室mに供給され、スプール12aをスプリング17の付勢力に加えて制御圧が助勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載される自動変速機に用いられる油圧制御装置に係り、特にエンジンと電気モータを駆動源とするハイブリッド駆動装置に用いて好適であり、詳しくは、所定の変速段で係合する所定の摩擦要素(クラッチ又はブレーキ)が、他の変速段で係合して上記所定の変速段では非係合となる他の摩擦要素と同時係合することを阻止するフェールセーフバルブを備えた油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機の油圧制御装置は、フェールにより本来同時係合すべきでない摩擦要素が係合するタイアップ状態となることを防止すべく、所定の摩擦要素の油圧サーボへの供給油路中に、各変速段達成のためには本来同時係合すべきでない他の摩擦要素の油圧サーボへ供給される供給圧を信号圧として、上記所定の摩擦要素への油圧供給を阻止するフェールセーフバルブを備えている。
【0003】
一般に、該フェールセーフバルブは、スプールの一端にスプリングを配置し、該スプリングの付勢力に対向するように上記スプールに前記他の油圧サーボの供給圧を作用して、該他の供給圧が上記スプールに作用している場合、所定の摩擦要素用油圧サーボへの油圧供給を遮断するように構成されている(特許文献1参照)。
【0004】
上記フェールセーフバルブである特許文献1の図6におけるB2カットオフバルブ(57)は、スプールの一端にスプリングが配置され、該スプールの他端に他の供給圧(PC−2)が作用し得る油室を有し、かつ該スプールの面積差を有する段差部に別の他の供給圧(PC−3orPB−1)が作用し得る油室を有している。
【0005】
一方、駆動源としてエンジンの外に1個の電気モータを備え、該駆動源から自動変速機を介して駆動車輪に動力伝達するハイブリッド駆動装置にあっては、電気モータの駆動により発進し、必要に応じて電気モータのトルクによりエンジンを始動する。この際、エンジン始動には電気モータのトルクを上昇する必要があり、その際のトルク変動が車輪へ伝達されるのを防止するため、自動変速機の所定の摩擦要素を滑らして、そのトルク変動を吸収することが好ましい。このようなハイブリッド駆動装置にあっては、エンジン始動に際して、上記摩擦要素、例えば1速時に係合して2速時に解放するB2ブレーキを正確なタイミングで素早く制御を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−49937号公報(特に、図6のB2カットオフバルブ57参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記フェールセーフバルブのスプリングは、該スプリングに対抗して作用する信号圧(同時係合しない他の供給圧)が規定値より低下した場合に速やかに該フェールセーフバルブを遮断位置に切換える付勢力が要求され、更にバルブの摺動抵抗とオイル(ATF)内に混在している微小異物等の堆積による摺動抵抗を上回るスプリング力(付勢力)が求められている。
【0008】
特に、エンジン始動時等の走行中での駆動力変化を吸収する上記所定の摩擦要素(B2ブレーキ)用のフェールセーフバルブにあっては、素早い応答が求められている。
【0009】
自動変速機の油圧制御装置にあっては、燃費低減及び載置スペースの制限の関係から、消費流量の低減に繋がるバルブの小径化が希求されているが、フェールセーフバルブの小径化に伴いそのスプリングを小径化すると、スプリング力が小さくなり、前記摺動抵抗に対する余裕代が小さくなり、その結果フェールセーフバルブの切換えが遅れることで油圧応答が悪くなる虞れがある。
【0010】
特に、上記フェールセーフバルブが、スプールの端部と面積差の段差部の2個所以上に信号圧を作用するものであると、摺動面積が増えるために摺動抵抗が増加する。更に、2個以上のランド部を有するスプールの同軸度にばらつきが増え、信号圧が作用する大径ランド部と小径ランド部とで偏荷重が作用し、バルブ自体は油圧にてセンタリングしようとするが、上記偏荷重が作用するスプールにサイドフォースが作用してしまい、更に摺動抵抗が増加する。
【0011】
そこで、本発明は、所定の変速段で係合開始する摩擦要素に潤滑油を供給するように切換えるソレノイドバルブの制御圧を利用して、フェールセーフバルブを助勢し、もって上述した課題を解決した自動変速機の油圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
複数の摩擦要素(C…,B…)を、それぞれ油圧サーボに供給圧を供給又は排出することにより係合又は非係合に切換えて、各変速段を達成してなる自動変速機の油圧制御装置(11)において、
所定の摩擦要素(B−2)の油圧サーボ(19)への供給油路に配置され、スプール(12a)を一方向に付勢すると共に、該付勢力に対抗するように前記スプールに作用する信号圧ポート(f,g)に、前記各変速段達成のため同時係合しない他の摩擦要素の油圧サーボに供給する他の供給圧(A,B)を連通し、該他の供給圧が前記信号圧ポートに作用することにより、前記付勢力に抗して前記スプール(12a)を移動して入力ポート(d)と出力ポート(e)との連通を遮断してなるフェールセーフバルブ(12)と、
潤滑油源から前記所定の摩擦要素(B−2)へ潤滑油を供給する油路に配置され、潤滑油を供給する位置と遮断する位置とに切換える潤滑切換えバルブ(13)と、
制御圧を出力する位置と遮断する位置とに切換えるソレノイドバルブ(15)と、を備え、
前記ソレノイドバルブ(15)の出力位置への切換えにより、前記制御圧が、前記潤滑切換えバルブを潤滑油供給位置に切換えると共に、前記フェールセーフバルブ(12)の前記スプール(12a)に、前記付勢されている一方向に向けて助勢するように作用してなる、
ことを特徴とする自動変速機の油圧制御装置にある。
【0013】
例えば図3を参照して、前記フェールセーフバルブ(12)は、スプール(12a)を一方向に向けて付勢するスプリング(17)と、前記スプリングの付勢力に対抗して前記スプールを他方向に向けて作用する複数個の前記信号圧ポート(f,g)とを有し、前記複数個の信号圧ポートに、それぞれ前記他の摩擦要素の油圧サーボに供給する異なる他の供給圧(A,B)を連通し、前記スプリング(17)を収納した油室(m)に前記ソレノイドバルブ(15)からの前記制御圧を連通してなる。
【0014】
前記電気信号により所定基圧を調圧して出力するリニアソレノイドバルブ(16)を備え、
該リニアソレノイドバルブの調圧した出力圧を、前記フェールセーフバルブ(12)を介して前記所定の摩擦要素(B−2)の油圧サーボ(19)に供給圧として直接供給してなる。
【0015】
例えば図1を参照して、駆動源としてエンジンと電気モータ(3)とを有し、走行中に前記電気モータのトルクにより前記エンジンを始動してなるハイブリッド駆動装置(H)に適用され、
前記走行中における前記駆動源のトルク変動を吸収すべく前記所定の摩擦要素(B−2)がスリップ制御されてなる。
【0016】
例えば図6を参照して、前記所定の摩擦要素の係合開始信号に対応して、前記ソレノイドバルブ(15)が、出力位置に切換えられ(S1)、
前記ソレノイドバルブは(15)、前記出力位置への切換えから所定時間経過すると(S2)、遮断位置に切換えられてなる(S4)。
【0017】
前記所定の摩擦要素(B−2)の油圧サーボの油圧がストロークエンド付近の所定油圧に上昇してから(S5)、前記所定の摩擦係合要素が完全に係合する係合圧に達するまで(S7)、前記ソレノイドバルブが再び出力位置に切換えられてなる(S6)。
【0018】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲の記載に何等影響を及ぼすことはない。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る本発明によると、所定の摩擦要素が係合開始状態になると、潤滑切換え弁の切換えにより該所定の摩擦係合要素に潤滑油が供給され、十分に潤滑油が供給される状態で、スリップ制御等の該所定の摩擦要素の係合開始が行われると共に、フェールセーフバルブは、一方に付勢さえているスプールに、該付勢方向に制御圧が作用して、摺動抵抗又は潤滑油内の微小異物の堆積があるとしても、入力ポートと出力ポートとの連通位置にして、供給圧を確実に所定の油圧サーボに供給して、応答遅れを生じることなく正確なタイミングで所定の摩擦要素の係合作動を行うことができる。また、上記潤滑切換えバルブ及びフェールセーフバルブの切換えを1個のソレノイドバルブにより行うことができるので、油圧制御装置を単純化してコンパクト化及びコストダウンを図ることができる。
【0020】
請求項2に係る本発明によると、フェールセーフバルブは、スプールを一方向にスプリングで付勢し、かつスプールに上記スプリングに対抗して複数の異なる他の供給圧を作用し、スプールは、比較的長くなりかつ面積差のあるランド部段差部に偏荷重が作用してサイドフォースにより摺動抵抗が大きくなっても、上記スプリングを収納した油室に供給される制御圧によりスプールを確実に移動することができ、信頼性の向上を図ることができると共に、摺動抵抗に対する余裕代が大きくなり、スプリングの小径化が可能となって、フェールセーフバルブの小型化、ひいてはそれを用いる油圧制御装置のコンパクト化並びに部品の載置スペース余裕代の向上を図ることができる。
【0021】
請求項3に係る本発明は、リニアソレノイドバルブの調圧した出力圧を直接油圧サーボに供給する油路に、前記フェールセーフバルブを介在したので、比較的簡単な構成でもって、信号フェールに対して高い信頼性でフェールセーフが可能であり、かつソレノイドバルブにより適宜なタイミングで連通時を制御し得るフェールセーフバルブが相俟って、所定の摩擦要素のスリップ制御等を含む正確な制御を行うことができる。
【0022】
請求項4に係る本発明によると、前記所定の摩擦要素が、走行中に電気モータでエンジンを始動する際等のトルク変動を吸収するための摩擦要素(例えばB2ブレーキ)であるので、十分な潤滑油を供給しつつ、適正なタイミングでスリップ制御を素早く行うことができ、駆動源のトルク変動を吸収して車輪側に影響を及ぼすことを防止して、滑らかな走行を維持したハイブリッド駆動装置を提供することができる。
【0023】
請求項5に係る本発明によると、所定の摩擦要素の係合開始信号に対応してソレノイドバルブを切換え、フェールセーフバルブに制御圧を供給してスプールを助勢して、所定の油圧サーボへの供給レスポンスを確保できると共に、潤滑切換えバルブを切換えて所定の摩擦要素の係合開始にタイミングを合せて潤滑油を供給し、かつソレノイドバルブは所定時間経過後に遮断位置に切換えられるので、所定の摩擦要素への潤滑油の供給を必要最小限とすることができる。
【0024】
請求項6に係る本発明によると、所定の摩擦要素が実際にスリップ制御を行っている間にタイミングを合せて潤滑油を供給して、該摩擦要素のスリップによる耐久性の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を適用し得る自動変速機を示すスケルトン図。
【図2】本自動変速機の各摩擦要素の係合表。
【図3】本発明に係る油圧制御装置を示す図。
【図4】本発明の油圧制御装置の異なる状態を示す図で、(A)は非係合時、(B)は係合開始時、(C)は係合時。
【図5】フェールセーフバルブの切換えを示す図で、(A)はソレノイドバルブからの信号が出力していない場合、(B)はソレノイドバルブが制御圧を出力した場合を示す。
【図6】ソレノイドバルブの作動を示すフローチャート。
【図7】ソレノイドバルブのタイムチャートで、異なる駆動パターンA〜Eを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。図1に示すように、自動変速機1の入力軸2には電気モータ3のロータ3aが連結されており、該ロータ3aの軸とエンジン出力軸5との間にはクラッチ6及びトーションダンパ7が介在している。従って、本自動変速装置1は、1モータタイプのハイブリッド駆動装置Hとして適用され、上記電気モータ3は、車輌駆動源として、またエンジンを駆動するスタータ(セルモータ)として、更にエンジン動力又は車輌の慣性力を電気エネルギに変換するオルタネータ(ジェネレータ)として機能する。なお、入力軸2とエンジン出力軸5との間に、上記クラッチ6及びトーションダンパ7を配置しているが、これは、ロックアップクラッチ付のトルクコンバータでもよく、この場合、該ロックアップクラッチが上記クラッチ6の機能を担う。
【0027】
自動変速機1の上記入力軸2は、電気モータ3,クラッチ6及びエンジン出力軸5と同軸上に配置され、該入力軸2上において、プラネタリギヤSPと、プラネタリギヤユニットPUとが備えられている。上記プラネタリギヤSPは、サンギヤS1、キャリヤCR1、及びリングギヤR1を備えており、該キャリヤCR1に、サンギヤS1及びリングギヤR1に噛合するピニオンP1を有している、いわゆるシングルピニオンプラネタリギヤである。
【0028】
また、前記プラネタリギヤユニットPUは、4つの回転要素としてサンギヤS2、サンギヤS3、キャリヤCR2、及びリングギヤR2を有し、該キャリヤCR2に、サンギヤS2及びリングギヤR2に噛合するロングピニオンLPと、サンギヤS3に噛合するショートピニオンSPとを互いに噛合する形で有している、いわゆるラビニヨ型プラネタリギヤである。
【0029】
上記プラネタリギヤSPのサンギヤS1は、ミッションケース9に一体的に固定されている不図示のボス部に接続されて回転が固定されている。また、上記リングギヤR1は、上記入力軸2の回転と同回転(以下「入力回転」という。)になっている。さらに、上記キャリヤCR1は、上記固定されたサンギヤS1と該入力回転するリングギヤR1とにより、入力回転が減速された減速回転になるとともに、クラッチC−1及びクラッチC−3に接続されている。
【0030】
上記プラネタリギヤユニットPUのサンギヤS2は、ブレーキB−1に接続されてミッションケース9に対して固定自在となっているとともに、上記クラッチC−3に接続され、該クラッチC−3を介して上記キャリヤCR1の減速回転が入力自在となっている。また、上記サンギヤS3は、クラッチC−1に接続されており、上記キャリヤCR1の減速回転が入力自在となっている。
【0031】
さらに、上記キャリヤCR2は、入力軸2の回転が入力されるクラッチC−2に接続され、該クラッチC−2を介して入力回転が入力自在となっており、またブレーキ(所定の摩擦要素)B−2に接続されて、該ブレーキB−2を介して回転が固定自在となっている。そして、上記リングギヤR2は、カウンタギヤ11に接続されており、該カウンタギヤ11は、不図示のカウンタシャフト、ディファレンシャル装置を介して駆動車輪に接続されている。
【0032】
上記構成の自動変速機1は、図1のスケルトンに示す各クラッチC−1〜C−3、ブレーキB−1,B−2が、図2の係合表に示す組み合わせで係脱されることにより、前進1速段(1st)〜前進6速段(6th)、及び後進1速段(Rev)を達成している。
【0033】
前記ブレーキB−2は、1速及びリバース時に作動するブレーキであり、発進時に係合すると共に、電気モータ3によるエンジンの始動時にスリップ制御する。即ち、車輌は、クラッチC−1を係合すると共にブレーキB−2を係合することにより1速状態となる。該1速状態にあっては、クラッチC−1の係合により、入力軸2の回転が減速されてプラネタリギヤPUのサンギヤS3に伝達され、ブレーキB−2によりキャリヤCR2が停止していることにより、更に減速されてリングギヤR2からカウンタギヤ11に出力される。該1速による車輌の発進時、通常、クラッチ6が切断されると共にエンジンは停止しており、電気モータ3により駆動される。
【0034】
そして、該車輌発進後の上記1速状態でエンジン(出力軸5を図示)が始動される。この際には、ブレーキB−2をスリップ制御することにより、キャリヤCR2を回転し、サンギヤS3及びリングギヤR2の回転差を吸収する。上記ブレーキB−2のスリップ制御により、入出力軸間の回転差を吸収した状態で、電気モータ3のトルクを上げると共に、クラッチ6を繋いで、エンジンを始動する。
【0035】
図3は、自動変速機1における上記所定の摩擦要素であるブレーキB−2部分の油圧制御装置を示す。該油圧制御装置11は、フェールセーフバルブ12、潤滑切換えバルブ13、ON,OFF切換えのソレノイドバルブ15及びリニアソレノイドバルブ16を備えている。リニアソレノイドバルブ16は、入力ポートa,出力ポートb及びフィードバックポートcを有しており、入力ポートaに入力される基圧であるライン圧を、ソレノイド部16aの電気信号及びフィードバックポートcからのフィードバック圧により適宜調圧して出力ポートbから出力する。
【0036】
フェールセーフバルブ12は、入力ポートd,出力ポートe及び2個の信号圧ポートf,gを有しており、入力ポートdには前記リニアソレノイドバルブ16の出力ポートbからの出力調圧が入力され、出力ポートeは前記ブレーキB−2用の油圧サーボ19に連通している。そして、スプール12aの一端にスプリング17が縮設されて該スプールを一方向に向けて付勢しており、一方の信号圧ポートfは、前記スプール12aの他端部に形成され、他方の信号圧ポートgは、スプール12aの径の異なるランド部の間の面積差部に位置し、いずれも、前記スプリング17の付勢方向に対抗する方向に油圧を作用する。これら信号圧ポートf,gには、それぞれ各変速段においてブレーキB−2(所定の摩擦要素)と同時係合しない、他の変速段(1速、後進以外)で係合する他の油圧サーボに供給する供給圧がそれぞれ連通され、例えばポートfにはブレーキB−1用の供給油路Aが、ポートgにはクラッチC−2用の供給油路Bが連通している。
【0037】
潤滑切換えバルブ13は、入力ポートh,出力ポートi,戻しポートj及び制御圧ポートkを有し、スプール13aの一端にスプリング20が縮設され、該スプール13aは、制御圧ポートkへの制御圧の供給により入力ポートhと出力ポートiが連通する位置に切換えられる。入力ポートhは、セカンダリプライマリバルブで調圧された潤滑圧に連通し、戻しポートjは、潤滑圧に連通するクーラ22への油路に連通している。出力ポートiは、ブレーキB−2用の潤滑部21に連通している[潤滑部は、詳しくは特願2011−037170号参照(本出願時未公開)]。
【0038】
ソレノイドバルブ15は、ON,OFFの電気信号により、モジュレータ圧を制御圧として出力する位置と遮断する位置に切換えられる。該ソレノイドバルブ15からの制御圧は、前記潤滑切換えバルブ13の制御圧ポートkに供給されると共に、フェールセーフバルブ12のスプリング室ポートmに供給される。該スプリング室ポートmは、スプリング17の付勢力を助勢するように、スプール12aの一端に上記制御圧を作用する。
【0039】
ついで、図4に沿って、本油圧制御装置11の作動について説明する。所定の摩擦要素であるブレーキB−2が係合しない前進2〜6速段にあっては、図4(A)に示すように、該ブレーキB−1と同時係合することがないブレーキB−1又はクラッチC−2の供給圧である信号圧A又はBが、フェールセーフバルブ12の信号圧ポートf又はgに入力している。この状態では、スプール12aは、スプリング17に抗して下方に移動した位置にあり、入力ポートdと出力ポートeとは遮断されている。従って、B−2油圧サーボ19に供給圧が供給されることはない。なお、例え信号フェールにより、リニアソレノイドバルブ16が所定の調圧出力を出力して、フェールセーフバルブ12の入力ポートdに入力しても、出力ポートeへの連通は遮断されているので、ブレーキB−2が係合することはない。この際、ソレノイドバルブ15はOFFにあって、制御圧の供給は遮断されており、潤滑切換えバルブ13は、スプリング20によりスプール13aが上端位置にあり、入力ポートjと出力ポートhとが遮断されると共に入力ポートhが戻しポートjに連通して、潤滑圧がクーラ22へ送られて、B−2潤滑部21に潤滑油が供給されることはない。
【0040】
この状態から、1速段に切換わると、図4(B)及び図5(B)に示すように、ソレノイドバルブ15が制御圧(ON/OFF出力圧)を出力する出力位置に切換わると共に、リニアソレノイドバルブ10が出力ポートbからの調圧出力(B−2圧)を上昇するように制御開始する。これにより、前記制御圧が潤滑切換えバルブ13の制御油ポートkに供給され、該バルブ13を入出力ポートの連通位置に切換えると共に、フェールセーフバルブ12のスプリング室ポートmに供給される。この状態では、潤滑圧が入出力ポートh,iを介してB−2潤滑部21に供給され、ブレーキB−2を潤滑する。また同時に、フェールセーフバルブ12は、信号圧ポートf,gにB−1供給圧又はC−2供給圧等の他の供給圧(信号圧)A,Bが供給されていない状態で、スプール12aをスプリング17の付勢力にスプリング室ポートmからの制御圧が加わり、素早く確実に上端位置に移動、保持して、リニアソレノイドバルブ16からの調圧出力をポートd,eを介してB−2用油圧サーボ19に供給する。これにより、ブレーキB−2は、十分な潤滑のもとで、リニアソレノイドバルブ16からの調圧により、スリップ制御を含む正確な制御が行われる。
【0041】
ブレーキB−2が完全に係合すると、図4(C)に示すように、ソレノイドバルブ15が遮断位置に切換わる。これにより、潤滑切換えバルブ13は遮断位置に切換えられ、B−2潤滑部21への潤滑油の供給は遮断される。この状態にあっては、フェールセーフバルブ12は、スプリング室ポートmへの制御圧の供給はないが、信号圧ポートf,gには他の供給圧が供給されていないので、スプリング17の付勢力により入出力ポートd,eの連通位置に保持され、B−2油圧サーボへの調圧出力の供給は維持される。
【0042】
図5は、例えば2→1変速を示す図で、2速段にあっては、他の供給圧(B−1圧)Bが信号圧ポートgに供給され、フェールセーフバルブ12は、スプール12aがスプリング17の付勢力に抗して下方位置にあって、入出力ポートd,eが遮断されている。この状態では、B−2油圧サーボ19の油圧は、ポートeを介してドレンされた状態(0圧)にある。この状態から1速段に切換わると、ブレーキB−2の係合開始信号と同時に、ソレノイドバルブ15が出力位置に切換わると共に、上記信号圧B(切替油圧)が降圧開始する。上記ソレノイドバルブ15からの制御圧(出力圧)がない(従来のもの)状態では、図5(A)に示すように、スプリング17による付勢力だけでは、上記供給圧(切替油圧)が所定値まで低下しないとスプール12aが移動しないので、フェールセーフバルブ12は、その分切換えが遅れてB−2油圧サーボ19の昇圧(B−2圧)が遅れて開始される。
【0043】
本発明は、図5(B)に示すように、ソレノイドバルブ15からの制御圧が、上記B−2係合開始と同時にスプリング室ポートmに供給され、フェールセーフバルブ12は、スプリング17の付勢力に加えて制御圧がスプール12に作用して、信号圧(切替油圧)が比較的高い値にあっても、切換えられ、リニアソレノイドバルブ16からの調圧出力が素早くB−2油圧サーボ19に供給され、適正なタイミングにより2→1変速が達成される。
【0044】
上述説明は、2→1変速について説明したが、これに限らず、他の変速段へのダウンシフト及びアップシフトでも同様であり、更に車輌の発進時においても、フェールセーフバルブ12の動きが摺動抵抗、特に微小異物等の堆積によりスリーブ12aの動きがシブくなって、遮断位置にあり、それを1速段に変速する際も同様である。
【0045】
ついで、本油圧制御装置11の好ましい制御の一例について、図6に沿って説明する。制御部(ECU)からの変速判断と同時に、リニアソレノイドバルブ16に調圧開始信号を出力すると共に、ソレノイドバルブ15を出力位置に切換える(S1)。該ソレノイドバルブ15は、制御圧を所定時間出力し続ける(S2,S3及び図5(B)のON/OFF出力圧参照)。ソレノイドバルブ15は、所定時間出力した後、出力停止するか、又は小潤滑用パターンに切換えられる(S4)。
【0046】
該小潤滑用パターンは、図7に示すように、潤滑量の大から小、そして「なし」まで各パターンA,B,C,D,Eに予め選択されるか、又は油温により切換えられる。潤滑流量は、ソレノイドバルブ15の制御圧出力信号の時間に比例し、ON信号の連続(パターンA)である場合最大で、ON時間のパルス幅が小さくなるに従って潤滑流量が減少し(パターンB→D)、OFF連続とすることにより潤滑油量がなくなる(パターンE)。
【0047】
リニアソレノイドバルブ16からの係合圧(出力圧)指令値がピストンストロークエンド圧に達すると(S5)、ソレノイドバルブ15は、所定の駆動パターンにより再び制御圧を出力する(S6)。該駆動パターンは、例えば図4(B)又は図7の各駆動パターンA〜Eに示すように、ブレーキB−2の発熱量により予め設定されるか、又は油温により各種駆動パターンが選択される。そして、所定の変速段への変速が終了すると(S7)、ソレノイドバルブ15は、遮断するか又は所定の小潤滑用駆動パターンを所定時間継続した後遮断して、終了する(S8)。この状態は、ブレーキB−2がスリップ制御される状態に対応し、該スリップ制御中に所定の潤滑油が供給され、摩擦要素の耐久性を向上する。
【0048】
なお、上述した実施の形態は、ブレーキB−2に適用したが、これは、他の摩擦要素にも同様に適用可能である。また、フェールセーフバルブは、リニアソレノイドバルブの出力ポートと油圧サーボとの間に配置したが、これは、リニアソレノイドバルブ等のモジュレータバルブの入力ポートに連通する供給油路に介在してもよい。更に、フェールセーフバルブは、スプールを各信号圧に抗してスプリングで付勢しているが、これは、スプールをライン圧で付勢し、該付勢力に対抗して信号圧及びスプリングを作用してもよい。即ち、スプールの一方向への付勢は、スプリングに限ることはなく、ソレノイドバルブからの制御圧は、信号圧に対抗する方向に作用すればよい(例えば、前記特許文献1の図4参照)。
【符号の説明】
【0049】
1 自動変速機
3 電気モータ
C…,B… 摩擦要素
H ハイブリッド駆動装置
B−2 所定の摩擦要素
11 油圧制御装置
12 フェールセーフバルブ
13 潤滑切換えバルブ
15 ソレノイドバルブ
16 リニアソレノイドバルブ
17 スプリング
d 入力ポート
e 出力ポート
g,f 信号圧ポート
m スプリング室ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の摩擦要素を、それぞれ油圧サーボに供給圧を供給又は排出することにより係合又は非係合に切換えて、各変速段を達成してなる自動変速機の油圧制御装置において、
所定の摩擦要素の油圧サーボへの供給油路に配置され、スプールを一方向に付勢すると共に、該付勢力に対抗するように前記スプールに作用する信号圧ポートに、前記各変速段達成のため同時係合しない他の摩擦要素の油圧サーボに供給する他の供給圧を連通し、該他の供給圧が前記信号圧ポートに作用することにより、前記付勢力に抗して前記スプールを移動して入力ポートと出力ポートとの連通を遮断してなるフェールセーフバルブと、
潤滑油源から前記所定の摩擦要素へ潤滑油を供給する油路に配置され、潤滑油を供給する位置と遮断する位置とに切換える潤滑切換えバルブと、
制御圧を出力する位置と遮断する位置とに切換えるソレノイドバルブと、を備え、
前記ソレノイドバルブの出力位置への切換えにより、前記制御圧が、前記潤滑切換えバルブを潤滑油供給位置に切換えると共に、前記フェールセーフバルブの前記スプールに、前記付勢されている一方向に向けて助勢するように作用してなる、
ことを特徴とする自動変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
前記フェールセーフバルブは、スプールを一方向に向けて付勢するスプリングと、前記スプリングの付勢力に対抗して前記スプールを他方向に向けて作用する複数個の前記信号圧ポートとを有し、前記複数個の信号圧ポートに、それぞれ前記他の摩擦要素の油圧サーボに供給する異なる他の供給圧を連通し、前記スプリングを収納した油室に前記ソレノイドバルブからの前記制御圧を連通してなる、
請求項1記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項3】
前記電気信号により所定基圧を調圧して出力するリニアソレノイドバルブを備え、
該リニアソレノイドバルブの調圧した出力圧を、前記フェールセーフバルブを介して前記所定の摩擦要素の油圧サーボに供給圧として直接供給してなる、
請求項1又は2記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項4】
駆動源としてエンジンと電気モータとを有し、走行中に前記電気モータのトルクにより前記エンジンを始動してなるハイブリッド駆動装置に適用され、
前記走行中における前記駆動源のトルク変動を吸収すべく前記所定の摩擦要素がスリップ制御されてなる、
請求項1ないし3のいずれか記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項5】
前記所定の摩擦要素の係合開始信号に対応して、前記ソレノイドバルブが、出力位置に切換えられ、
前記ソレノイドバルブは、前記出力位置への切換えから所定時間経過すると、遮断位置に切換えられてなる、
請求項1ないし4のいずれか記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項6】
前記所定の摩擦要素の油圧サーボの油圧がストロークエンド付近の所定油圧に上昇してから、前記所定の摩擦係合要素が完全に係合する係合圧に達するまで、前記ソレノイドバルブが再び出力位置に切換えられてなる、
請求項5記載の自動変速機の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96533(P2013−96533A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241562(P2011−241562)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】