説明

自動車における停止保持機能の実行方法および装置

本発明は、
− 弁(USV、303)が第1の操作方法(401)により操作され、
− ブレーキ回路の所定領域(111)がブレーキ圧力損失(406)の発生に関してモニタリングされ、および
− ブレーキ圧力損失が検出されたとき、弁(USV、303)が第2の操作方法(405)により操作される、
自動車におけるブレーキ回路の所定領域(111)内ブレーキ圧力を保持するための弁(USV、303)の操作方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車におけるブレーキ回路の所定領域内ブレーキ圧力を保持するための弁の操作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術
ドイツ特許第10144879号から、ブレーキ回路内圧力上昇動特性の改善方法および装置が既知である。そこに記載のブレーキ装置は、ドライバとは独立のブレーキ係合を実行することが可能である。このために、切換弁が遮断され且つリターン・ポンプが作動される。
【特許文献1】ドイツ特許第10144879号
【発明の開示】
【0003】
発明の開示
本発明は、
− 弁が第1の操作方法により操作され、
− ブレーキ回路の所定領域がブレーキ圧力損失の発生に関してモニタリングされ、および
− ブレーキ圧力損失が検出されたとき、弁が第2の操作方法により操作される、
自動車におけるブレーキ回路の所定領域内ブレーキ圧力を保持するための弁の操作方法に関するものである。第2の方法による操作は特に確実性最適化操作を示し、一方、第1の操作はドライバ快適性最適化操作を示す。本発明により、快適ではない確実性指向操作は、それが必要なときにおいてのみ実行されるにすぎない。これにより、高いドライバ快適性が与えられている。
【0004】
本発明の有利な形態は、
− 弁がブレーキ回路内の切換弁であることと、および
− 所定領域が切換弁および車輪ブレーキ・シリンダ入口弁間の領域であることと、
を特徴とする。
【0005】
本発明の有利な形態は、
− 第1の操作方法において、弁が所定の電気操作により閉鎖されるか、または閉鎖状態に保持されることと、および
− 第2の操作方法において、弁が操作により少なくとも一部分再び開放され、次に改めて閉鎖されることと、
を特徴とする。少なくとも一部分開放することにより、弁ニードルは新たな閉鎖過程において運動エネルギーを受け取り、これにより、閉鎖過程においてより強く圧着されてタイト・シートを形成する。
【0006】
本発明の有利な形態は、第1の操作方法が複数回特に所定の回数実行され、およびこれらの各実行後に新たに圧力損失が検出されたときに第2の操作方法が実行されることを特徴とする。
【0007】
本発明の有利な形態は、圧力損失が検出されたとき、ドライバとは独立の圧力上昇を介して目標圧力が設定されることを特徴とする。これにより、継続する以後の圧力低下が回避される。
【0008】
本発明の有利な形態は、圧力保持位相の間の第1の操作方法の最初の実行において弁が閉鎖され、およびこの圧力保持位相の間のその後の各実行において、弁が閉鎖状態に保持されることを特徴とする。これにより、ドライバに聞こえる閉鎖騒音が回避される。
【0009】
本発明の有利な形態は、圧力保持位相の間の第1の操作方法の最初の実行において弁が閉鎖され、およびこの圧力保持位相の間のその後の各実行において、弁が閉鎖されるかまたは閉鎖状態に保持され、この場合、その後の各実行においては、弁に、最初の実行においてよりも高い電流が印加されることを特徴とする。より高い電流による通電は、弁ニードルを前よりも強く圧着してタイト・シートを形成する。
【0010】
本発明の有利な形態は、圧力保持位相が、自動車の車両停止保持機能ないしは停止確保機能の範囲内におけるブレーキ圧力の閉じ込めであることを特徴とする。
本発明の有利な形態は、所定領域が車輪ブレーキ・シリンダであるか、または車輪ブレーキ・シリンダおよび入口弁間の領域であることを特徴とする。
【0011】
本発明の有利な形態は、第1の操作方法の実行が第2の操作方法の実行よりも小さい騒音と関連していることを特徴とする。
本発明の有利な形態は、
− 本方法が自動車の車両停止保持機能を実行するために使用されることと、および
− 第2の操作方法の実行後にもかかわらず車両が転動を開始または継続した場合、ドライバとは独立にブレーキ圧力が上昇されることと、
を特徴とする。
【0012】
本発明の有利な形態は、ブレーキ圧力が、ドライバとは独立に、少なくとも車両停止が設定されるまでの間上昇されることを特徴とする。
本発明の有利な形態は、ブレーキ圧力上昇後の弁の閉鎖において、第2の操作方法が使用されることを特徴とする。ブレーキ圧力の上昇がリターン・ポンプにより行われた場合は騒音を伴うが、第2の操作方法により発生する騒音は本質的にそれほど大きくはないので、これは許容可能である。
【0013】
さらに、本発明は、上記の方法を実行するための手段を含む、自動車におけるブレーキ回路の所定領域内ブレーキ圧力を保持するための弁の操作装置を含む。
本発明による方法の有利な形態は、本発明による装置の有利な形態としても表わされ、およびその逆としても表わされる。
【0014】
図面は図1−3を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、車両を停止している間における車両停止ブレーキを確実に保証する機能の確保に関するものである。この場合、確実性のほかにドライバの快適性が重要となり、特に、明らかに感じられるペダル反作用並びに騒音は回避されるべきである。例として、図1に示されているような通常の油圧ブレーキ装置を備えた車両が考察される。
【0016】
走行動特性制御装置は、ブレーキが操作されていないときにブレーキ回路内に圧力を閉じ込めることによる車両の制動ないしは保持を要求する機能を含む。この場合、図1において112で表わされているマスタ・ブレーキ・シリンダおよびEVで表わされている入口弁の間の結合が、USVで表わされている切換弁の閉鎖により遮断されなければならない。このとき、それに続く圧力保持位相の時間の間、ブレーキが操作されていないとき、閉じ込められているブレーキ圧力は切換弁の前後の差圧として作用する。切換弁において場合により発生する漏れは、ブレーキ回路内のきわめて急速な圧力降下を形成し、このとき、110で表わされているリターン・ポンプによる新たな圧力上昇を要求することがある。この新たな圧力上昇は騒音と関連し、したがって車両同乗者に対する快適性の低下と関連する。車輪ブレーキ・シリンダは図1において111で表わされ、AVは出口弁を表わす。
【0017】
閉鎖過程即ち圧力保持位相への移行の間における切換弁の電気操作は、切換弁の漏れ傾向に影響を与える。この漏れ傾向は切換弁の最適化操作により抑制することができる。
漏れ傾向に対する原因は、閉鎖過程後に残存する切換弁の最小残留開放である。この最小残留開放は、切換弁がきわめて緩慢に閉鎖したとき、即ち弁棒(バルブ軸)がきわめて小さい速度で弁座内に滑り込んだときに発生することがある。この場合、弁棒および弁座の表面粗さのために弁棒を固着させ且つ弁棒および弁座の間に僅かな残留開放を形成することがある。この残留開放がブレーキ回路内の圧力降下の原因となる。
【0018】
回路圧力弁、ここではUSVで表わされる切換弁により、ブレーキ圧力が車輪ないしはブレーキ回路内に閉じ込められる。弁の非気密性に基づき、ブレーキ回路内に圧力損失が発生することがあり、この圧力損失は、場合により、車両を転がり発進させることさえある。この弁を確実且つ漏れのないように閉鎖させる切換弁の弁操作は、ドライバの快適性に対して明らかに不利を与える。特に、このような閉鎖過程は、明らかに感じられるペダル反作用並びに騒音を伴う。これに対して、ペダル反作用を与えないか、ないしは無視できるペダル反作用を与えるにすぎず、且つ顕著な騒音を発生させることのない弁操作方式においては、大きな漏れが考慮されるべきである。このことから、騒音および気密性の間で目的競合が発生する。この目的競合の解決は、USVの弁操作方式が弁の漏れ特性に適応して行われることにより達成される。より多くの漏れが観察されるほど、最初の快適性指向操作は断念され且つ気密性指向操作により置き換えられる。
【0019】
快適性を最善にしてしかも高い確実性を提供する操作方式の例として、次の過程が使用可能である。
ステップ1:車両保持機能の快適性指向操作:
機能の作動化において、希望の快適性に対応する弁操作が選択される。ここで選択されたタイプの弁操作は各作動化ごとに行われるので、ここでは、できるだけ反作用がなく且つ軽い操作に対する希望が優先される。しかしながら、この場合、気密性は犠牲とされなければならないことが不利である。
【0020】
ステップ2:漏れ検出および快適性指向漏れ補償:
例えば回路圧力センサないしは車輪シリンダ圧力センサを介して車輪ブレーキ・シリンダ内の圧力降下がはじめに検出された場合、能動的圧力上昇を介して希望の目標圧力が再び形成される。この圧力上昇は切換弁を僅かに開放させることがある。圧力上昇後における弁の確実な閉鎖は、最初のN回の漏れ補償に対して、弁の短時間の強い過剰通電により、例えば閉鎖パルスにより達成される。この電流パルスの大きさは、それが高い快適性を保証するように、即ちできるだけ小さい騒音を保証するように決定されている。Nは所定の回数である。
【0021】
ステップ3:漏れ検出および気密性指向漏れ補償:
さらに漏れが発生しているとき、即ち、ステップ2によりN回漏れ補償が行われたのちにおいても新たな漏れが発生しているとき、閉鎖パルスの前に開放パルスが印加されることにより操作を拡張可能である。この閉鎖過程は確かに騒音を発生するが、弁の気密特性にとっては好ましいものである。ステップ2においては、弁ニードルをさらに強く弁座内に圧着させるために、閉鎖状態において、閉鎖されている弁に短時間過剰通電が与えられるが、ステップ3により、弁は短時間少なくとも一部分再び開放され、次に高い力で改めて閉鎖される。最初の開放ストロークは、新たな閉鎖において、弁ニードルの加速のために使用される。
【0022】
ステップ4:気密性指向転がりモニタリング:
圧力損失がさらに増大して車両が転動を開始したとき、ブレーキ圧力は、車両停止が再び設定されるまでの間、能動的に上昇される。弁を完全に閉鎖させるとき、ドライバの快適性は下位の優先度を有するので、気密性指向操作が使用可能である。さらに、より急速な圧力上昇を達成するために、リターン・ポンプ(図1において110で表わされている)の回転速度を上昇させることが有効となることがある。
【0023】
本発明による方法の一形態の流れ図が図2に示されている。ブロック400においてスタートしたのち、ブロック401において、開始された停止保持機能の範囲内で切換弁が最初に閉鎖される。それに続いて、ブロック402において、保持機能が終了されるべきかどうかが問い合わされる。回答が″yes(イエス)″(図2において″y″で表わされている)のとき、ブロック403において本方法は終了される。回答が″no(ノー)″(図2において″n″で表わされている)のとき、並列に、
− ブロック406において、漏れが発生している(Δp≠0)かどうかが問い合わされ、および
− ブロック407において、車両が転動を開始した(v≠0)かどうかが問い合わされる。ブロック406において漏れが発生していないとき、フローはブロック402の入口に戻される。しかしながら、ブロック406において漏れが発生しているとき、ブロック408において、n>Nであるかどうかが問い合わされる。これが否定のとき、即ちn≦Nのとき、ブロック404において、弁ニードルを圧着させてタイト・シートを形成するために、さらにより強く通電され、ないしは過剰通電される。さらに、404において、発生した圧力損失を補償するために、リターン・ポンプによる新たな圧力上昇が行われる。この場合、nはこのより強い通電の発生回数を表わし、Nはその最大許容回数を表わす。ブロック404に続いて、フローはブロック402の入口に戻される。ブロック408における問い合わせが満たされているとき、即ちNより多い回数だけ既により強い通電が実行されてもなお漏れが発生しているとき、ブロック405において、切換弁は第2の操作方法により操作される。このために、弁は少なくとも一部分開放され、次に改めて閉鎖される。ブロック405において、ポンプによる圧力上昇もまた行われる。ブロック405に続いて、フローはブロック402の入口に戻される。ブロック407において車両の転動開始運動の存在が検出されなかったとき、フローはブロック402の入口に戻される。しかしながら、転動運動の開始が特定されたとき、フローはブロック405に移行される。
【0024】
本発明による装置の構成図が図3に示されている。ここで、ブロック300は制御装置を示し、制御装置は弁303を操作する。この場合、ブロック300は少なくとも次の入力信号を受け取る。
− ブロック301は例えば圧力センサを含み、且つその瞬間のブレーキ圧力の値を提供する。
− ブロック302は例えば車輪回転速度センサを含み、且つ車両がその瞬間において停止しているかまたは転動しているかに関する情報を提供する。
− ブロック304は、制御装置に、停止保持機能がそのとき実行されるべきかどうかに関する情報を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明がそれに使用可能なブレーキ回路図を示す。
【図2】図2は本発明による方法の流れ図を示す。
【図3】図3は本発明による装置の構成図を示す。
【符号の説明】
【0026】
110 リターン・ポンプ
111 車輪ブレーキ・シリンダ
112 マスタ・ブレーキ・シリンダ
300 制御装置
301 圧力センサ
302 車輪回転速度センサ
303 切換弁(USV)
304 停止保持機能情報
400 スタート
401 第1の操作方法(弁の閉鎖または閉鎖保持)
402 保持機能終了?
403 終了
404 より強い通電
405 第2の操作方法(部分再開放再閉鎖)
406 ブレーキ圧力損失(ブレーキ圧力損失発生モニタリング)
407 転動の開始又は継続
AV 出口弁
EV 入口弁
n 回数
N 所定の回数(最大許容回数)
USV 切換弁
y イエス
n ノー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 弁が第1の操作方法により操作され(401)、
− ブレーキ回路の所定領域がブレーキ圧力損失の発生に関してモニタリングされ(406)、
− ブレーキ圧力損失が検出されたとき、弁が第2の操作方法により操作される(405)、
自動車におけるブレーキ回路の所定領域内ブレーキ圧力を保持するための弁(303)の操作方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
− 弁(303)がブレーキ回路内の切換弁(USV)であり、
− 所定領域が切換弁(USV)と車輪ブレーキ・シリンダ入口弁(EV)との間の領域であること、
を特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
− 第1の操作方法において、弁が所定の電気操作により閉鎖されるか、または閉鎖状態に保持され(401)、
− 第2の操作方法において、弁が操作により少なくとも一部分再び開放され、次に改めて閉鎖される(405)こと、
を特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
第1の操作方法(401)が複数回特に所定の回数実行され、これらの各実行後に新たに圧力損失が検出された(406)ときに第2の操作方法(405)が実行されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
圧力損失が検出されたとき、ドライバとは独立の圧力上昇を介して目標圧力が設定されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
圧力保持位相の間の第1の操作方法の最初の実行において弁が閉鎖され、この圧力保持位相の間のその後の各実行において、弁が閉鎖されるかまたは閉鎖状態に保持される(401)ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
圧力保持位相の間の第1の操作方法の最初の実行において弁が閉鎖され、この圧力保持位相の間のその後の各実行において、弁が閉鎖状態に保持され、この場合、その後の各実行においては、弁に、最初の実行においてよりも高い電流が印加されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法において、
圧力保持位相が、自動車の車両停止保持機能の範囲内におけるブレーキ圧力の閉じ込めであることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、
所定領域が車輪ブレーキ・シリンダ(111)であるか、または車輪ブレーキ・シリンダおよび入口弁間の領域であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、
− 本方法が自動車の車両停止保持機能を実行するために使用され、
− 第2の操作方法の実行後にもかかわらず車両が転動を開始または継続している場合(407)、ドライバとは独立にブレーキ圧力が上昇される(405)こと、
を特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、
ブレーキ圧力が、ドライバとは独立に、少なくとも車両停止が設定されるまでの間上昇される(405)ことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法において、
ブレーキ圧力上昇後の弁の閉鎖において、第2の操作方法が使用されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1ないし12に記載の方法を実行するための手段(300)を含む、自動車におけるブレーキ回路の所定領域内ブレーキ圧力を保持するための弁の操作装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2009−517277(P2009−517277A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542705(P2008−542705)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【国際出願番号】PCT/EP2006/068436
【国際公開番号】WO2007/062978
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】