説明

自動車における窒素酸化物吸蔵還元触媒の地域毎の燃料品質を考慮した作動方法

本発明は、稀薄燃焼モードで作動されるガソリンエンジンか又はディーゼルエンジンを備えており、さらにエンジン電子制御装置とナビゲーションシステムを有している自動車に関しており、本発明によれば、ナビゲーションシステムによって車両が燃料中の硫黄含有分が高い地域を移動していることを識別した場合に、エンジン電子制御装置により、稀薄燃焼モードで作動されるガソリンエンジンのケースではストイキオメトリの作動モードに切換えられ、ディーゼルエンジンのケースでは窒素酸化物吸蔵還元触媒の自動的な脱硫が阻止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車における窒素酸化物吸蔵還元触媒を地域毎の燃料品質を考慮して作動するための方法に関している。
【0002】
背景技術
稀薄燃焼エンジン若しくはディーゼルエンジンを備えた車両は稀薄な空気燃料混合気を用いて作動されている。これらの車両は、その排気ガス中の窒素酸化物成分の低減のために窒素酸化物吸蔵還元触媒を備えている。窒素酸化物吸蔵還元触媒は吸蔵要素として通常は酸化バリウムや酸化ストロンチウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属系の塩基性酸化物を含んでおり、排ガス中に含まれている窒素酸化物をこれらの金属の硝酸塩の形態で吸蔵する。これにより、窒素酸化物に対する触媒の吸蔵能力が連続的に低減する。それ故に触媒は時折再生されなければならない。このことは燃料空気混合気の短時間の濃厚化によって行われる。稀薄な燃料空気混合気を用いた車両の通常運転が排ガス中の窒素酸化物含有量に応じて約1分〜5分間継続されている間、再生はそのつど既に数秒後には終端している。
【0003】
排ガス中で優勢となっている条件のもとで、エンジン燃料内に常に含まれる硫黄分は、吸蔵要素と共に硫酸塩を形成し、その結果として窒素酸化物の吸蔵能力が低減する。それ故に窒素酸化物吸蔵還元触媒は、多かれ少なかれ長い時間間隔で脱硫しなければならない。これは触媒の少なくとも600℃以上の加熱によって行われており、エンジンの作動モードが稀薄燃焼モードからストイキオメトリの作動モードないし濃厚燃焼モードに切換えられる。この場合エンジンのストイキオメトリモードないし濃厚燃焼モードは、脱硫を既に約600℃のもとで行うために絶対に必要なものである。それ故に各脱硫は燃費の悪化を引き起こし、さらに吸蔵還元触媒の早期劣化にもつながる。エンジンの通常運転モード中、すなわち稀薄な排ガス条件のもとでは、硫酸塩の熱的分解のために触媒温度を約1200℃まで高める必要がある。
【0004】
最近の自動車には診断システムを伴ったエンジン電子制御装置(OBD=On Board Diagnostic)が装備されており、この装置は吸蔵還元触媒の硫黄による被毒レベルが所定の値に達すると自動的に脱硫を開始する。
【0005】
エンジンの正常な作動に対する意味合いと排ガス浄化システムの正常な機能に対する意味合いのために通常は車両のメーカーが車両に対して用いるべき燃料品質を指示している。
【0006】
自動車用燃料に対する品質はヨーロッパにおいては地域毎に異なっている。これは特に燃料の硫黄含有分に当てはまる。通常は、オット燃料及びディーゼル燃料の硫黄含有率は50ppm以下である。しかしながらいくつかのヨーロッパ地域では、より高い硫黄分を含んだ燃料の使用が許可されている。これに似たような特性のものは他の大陸においても存在する。
【0007】
稀薄燃焼エンジンまたはディーゼルエンジンに酸化物吸蔵還元触媒を装備した車両で走行するときに、燃料中の含有硫黄分が少ない地域から含有硫黄分の多い地域へ移動した場合には、エンジン電子制御装置も相応に窒素酸化物吸蔵還元触媒の頻繁な脱硫を開始する。それに伴って燃費も悪化し、窒素酸化物吸蔵還元触媒の早期劣化も引き起こされる。
【0008】
独国特許 DE 101 58 480 C1 明細書からは自動車におけるエンジンの作動方法が開示されており、そこでは高速道路走行中の窒素酸化物吸蔵還元触媒の脱硫を有利に行うために、外部のナビゲーションシステムからのナビゲーション信号が走行状態パラメータとして読出されている。
【0009】
同様にWO 01/25606 A1 パンフレットからは、ナビゲーションシステムと接続された吸蔵還元触媒の再生のための制御機器が開示されている。このナビゲーションシステムは再生のスタート前に既知のルート情報に基づいて、どの時点で、及びどの場所で、吸蔵還元触媒を地域毎の排ガス規定を損なわずに再生させることができるかを求めている。
【0010】
またEP 0 859 132 A1 明細書には、例えば窒素酸化物吸蔵還元触媒の再生の際にナビゲーションシステムからの走行状態に関する情報を利用している、排気ガス制御装置が記載されている。
【0011】
しかしながらこれらのいずれの特許文献からも、地域毎に異なる燃料品質のもたらす問題を根本的に解決するものは見あたらない。
【0012】
従って本願の課題は、前述したように燃料品質がそれぞれ異なっている地域を横断する際に生じる問題を解決することのできる方法を提供することである。
【0013】
この課題は本発明により、稀薄燃焼モードで作動されるガソリンエンジン又はディーゼルエンジンを備え、さらにエンジン電子制御装置とナビゲーションシステムを有している自動車によって解決される。
【0014】
発明を実施するための最良の形態
この方法は次のような特徴部分を備えている。すなわちナビゲーションシステムによって車両が燃料中の硫黄含有分の高い地域を移動していることを識別した場合には、エンジン電子制御装置が稀薄燃焼モードで作動されるガソリンエンジンのケースではストイキオメトリの作動モードに切換え、ディーゼルエンジンのケースでは窒素酸化物吸蔵還元触媒の自動的な脱硫を阻止する特徴である。
【0015】
本発明によれば、稀薄燃焼モードで作動されるガソリンエンジンが、燃料中の硫黄含有分の高い地域においてはストイキオメトリモードに切換えられる。このケースでは窒素酸化物吸蔵還元触媒は三元触媒として作用する。前述したように、触媒に形成される硫黄化合物はストイキオメトリ条件又は濃厚化の排ガス条件のもとで、既に600℃以上の排ガス温度によって分解される。この温度はストイキオメトリ条件で作動するガソリンエンジンのもとでは通常は頻繁に達成できる。ディーゼルエンジンのケースにおいては継続的にストイキオメトリ作動モードに切換えることはできない。そのため限界値を超えた高い硫黄含有分の場合には本発明により吸蔵還元触媒の脱硫がエンジン制御装置によって阻止される。
【0016】
有利には、ストイキオメトリ作動モードへの切換えないしは自動的な脱硫の阻止が、硫黄含有分の高い地域への走行の際のタンク内にまだ残っている燃料が消費されて補給が必要となっている場合に初めて行われる。同様にエンジン制御装置は有利には次のような場合に初めて再び通常運転モードに戻される。すなわち車両がメーカー規定の燃料品質を揃えた地域へ走行し、硫黄含有分の高い燃料が消費されている場合に初めて再び通常運転モードに戻される。代替的に、ストイキオメトリ作動モードないしは自動的な脱硫の阻止への切換えは、次のような場合に開始されるようにしてもよい。すなわち、窒素酸化物濃度の測定が例えば窒素酸化物吸蔵還元触媒後方に設けられたストイキオメトリセンサによって所定の閾値を超えた場合に開始されるようにしてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車における窒素酸化物吸蔵還元触媒を地域毎の燃料品質を考慮して作動するための方法であって、前記自動車は、稀薄燃焼モードで作動されるガソリンエンジンか又はディーゼルエンジンを備えており、さらにエンジン電子制御装置とナビゲーションシステムを有している形式の方法において、
ナビゲーションシステムによって車両が燃料中の硫黄含有分が高い地域を移動していることを識別した場合に、エンジン電子制御装置が、稀薄燃焼モードで作動されるガソリンエンジンのケースではストイキオメトリの作動モードに切換え、ディーゼルエンジンのケースでは窒素酸化物吸蔵還元触媒の自動的な脱硫を阻止するようにしたことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ストイキオメトリ作動モードへの切換えないしは自動的な脱硫の阻止が、硫黄含有分の高い地域への走行の際のタンク内にまだ残っている燃料が消費されて補給が必要となっている場合に初めて行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記エンジン電子制御装置は、車両がメーカー規定の燃料品質を揃えた地域へ走行し、硫黄含有分の高い燃料が消費されている場合に初めて再び通常運転モードに戻す、請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2009−520145(P2009−520145A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546161(P2008−546161)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011153
【国際公開番号】WO2007/071301
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】