説明

自動車の下部結合構造

【課題】コストを上昇させたり、組み付け精度を低下させたりすることなく、見栄えの悪化及び気密性の悪化を防止できる自動車の下部結合構造を提供する。
【解決手段】アッパインナパネル18の下辺部18aには、フロアパネル5より下方に位置するように延びる延設部18eが形成され、該延設部18eには組み付け工程時の位置決めを行なうための基準孔18dが形成され、ロアインナパネル17の延設部18eに対向する部分には、電着塗装工程時の塗装液を排出するための塗装液排出孔17dが形成され、基準孔18dは、軸方向に見たとき、塗装液排出孔17d内に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のドア開口の下縁部を形成するロア部材と、該ドア開口の下コーナー部を形成するサイド部材とを結合するとともに、該結合部分にフロアパネルを結合するようにした自動車の下部結合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のバックドア開口部は、バックドア開口の下縁部を形成するロアバックと、前記バックドア開口の左,右側縁部を形成するリヤピラー(サイドボディ)とを結合した構造が一般的である(例えば、特許文献1,2参照)。詳細には、リヤピラーインナパネルの下縁部とロアバックインナパネルの上縁部とをスポット溶接により結合するとともに、該結合部分にフロアパネルの外縁部を溶接により結合した構造となっている。
【0003】
前記溶接を行なう場合、リヤピラーインナパネル及びロアバックインナパネルに基準孔を形成し、該基準孔に位置決め治具を挿入して両インナパネルの位置決めを行なった状態で溶接してパネル組み立て体を形成するようにしている。
【0004】
また前記溶接工程後においては、パネル組み立て体を電着塗装液に浸漬することにより防錆,塗装処理を行なうようにしている。この場合、パネル組み立て体内に残った塗装液を排出するために、ロアバックインナパネルに塗装液排出孔を形成するようにしている。即ち、ロアバックインナパネルには車両前後方向に延びる閉断面形状のサイドメンバが結合されていることから、該サイドメンバ内に塗装液が残り易い。このため、ロアバックインナパネルのサイドメンバ内に臨む部分に塗装液排出孔を形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−62565号公報
【特許文献2】特開2007−55418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記従来の結合構造では、リヤピラーインナパネルに形成した基準孔が車室内に露出することから、見栄えが悪化するとともに、室内の気密性が悪化するという問題がある。即ち、リヤピラーインナパネルは、その大部分がフロアパネルより上方に位置する室内部品となることから、基準孔が必然的に車室内に露出することとなる。このため、シール部材やトリムにより基準孔を覆い隠す必要があり、それだけコストが上昇する。なお、基準孔を省略するとパネルの組み付け精度が低下するという問題が生じる。
【0007】
本発明は、前記従来の実情に鑑みてなされたもので、コストを上昇させたり、組み付け精度を低下させたりすることなく、見栄えの悪化及び気密性の悪化を防止できる自動車の下部結合構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ドア開口の下縁部を形成するロア部材のロアインナパネルの上辺部と、前記ドア開口の下コーナー部を形成するサイド部材のサイドインナパネルの下辺部とを結合するとともに、該結合部分にフロアパネルのフランジ部を結合した自動車の下部結合構造であって、前記サイドインナパネルの下辺部には、前記フロアパネルより下方に位置するように延びる延設部が形成され、該延設部には、組み付け工程時の位置決めを行なうための基準孔が形成され、前記ロアインナパネルの前記延設部に対向する部分には、電着塗装工程時の塗装液を排出するための塗装液排出孔が形成され、前記基準孔は、軸方向に見たとき、前記塗装液排出孔内に位置していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る下部結合構造によれば、サイドインナパネルにフロアパネルより下方に位置するよう延びる延設部を形成し、該延設部に基準孔を形成するとともに、該基準孔をロアインナパネルに形成された塗装液排出孔内に位置するように配置したので、組み付け工程時の位置決め機能と、電着塗装工程時の塗装液排出機能との両方の機能を成立させつつ、基準孔をフロアパネルの下方の車室外に配置することができ、見栄えの悪化及び気密性の悪化を防止できる。
【0010】
また前記サイドインナパネルに基準孔を形成するための延設部を設けるだけの構造であるので、シール部材やトリムにより隠す場合に比べてコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1による自動車のバックドア開口部の斜視図である。
【図2】前記バックドア開口部の室内側から見た斜視図である。
【図3】前記バックドア開口部の分解斜視図である。
【図4】前記バックドア開口部の背面図である。
【図5】前記バックドア開口部の断面図(図4のV-V線断面図)である。
【図6】前記バックドア開口部の背面図である。
【図7】前記バックドア開口部の断面図(図4のVII-VII線断面図)である。
【図8】前記バックドア開口部の断面図(図4のVIII-VIII断面図)である。
【図9】前記バックドア開口部の断面図(図4のIX-IX線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1ないし図9は、本発明の実施例1による自動車の下部結合構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明のなかで前後,左右という場合は、車体に搭載されたシートに着座した状態で見た場合の前後,左右を意味する。
【0014】
図において、1は自動車の車体後端面に形成されたバックドア開口を示している。このバックドア開口1は、該バックドア開口1の下縁部1aを形成するロアバックパネル2と、前記バックドア開口1の左,右側縁部1b,1bを形成するクォータパネル3,3と、上縁部を形成するルーフパネル(不図示)とにより形成されている。
【0015】
前記バックドア開口1には、跳ね上げ式のバックドア(不図示)が配設されている。また前記バックドア開口1の周縁部には、全閉時の前記バックドアとの間をシールするウェザストリップ4が装着されている。
【0016】
前記ロアバックパネル2と左,右のクォータパネル3との間にはフロアパネル5が配設されており、該フロアパネル5,前記左,右のクォータパネル3,及び前記ルーフパネルにより囲まれた空間が車室6となっている。
【0017】
前記ロアバックパネル2は、ロアバックインナパネル9と、ロアバックアウタパネル10と、ロアバックアッパパネル11とで大略角筒状の閉断面を形成した構造を有する。
【0018】
前記ロアバックアッパパネル11に前記フロアパネル5の後フランジ部5aが溶接により結合されている。前記ロアバックアッパパネル11の車幅方向中央部には凹部11aが形成され、該凹部11a内にはバックドアをロックするロックストライカ12が取り付けられている。また前記ロアバックアウタパネル10には、リヤバンパ13が取り付けられている(図8参照)。
【0019】
前記左,右のクォータパネル3は、外装部品としてのクォータアウタパネル15と、室内部品としてのクォータインナパネル16とを結合した構造を有する。このクォータアウタパネル15及びクォータインナパネル16は前記ロアバックパネル2に結合されている。
【0020】
前記クォータアウタパネル15とクォータインナパネル16との間には、車両前後方向に延びるリインホースメント20,20が配置されている。このリインホースメント20は、断面平面視でハット形状をなしており、それぞれクォータアウタパネル15及びクォータインナパネル16に結合されている。前記リインホースメント20の前壁には前記クォータアウタパネル15及びロアバックアウタ10の取付け座20a,20aが形成されている。
【0021】
前記クォータインナパネル16の前面には、リヤサイドメンバ21が前記リインホースメント20と前後方向に重なるように結合されている(図9参照)。このリヤサイドメンバ21は、前記フロアパネル5の下面に結合され、該フロアパネル5とで箱状の閉断面を形成している。
【0022】
前記クォータインナパネル16は、前記ロアバックパネル2(ロア部材)とともにバックドア開口1の下縁部1aを形成するロアインナパネル17と、前記クォータパネル3(サイド部材)とともにバックドア開口1の下コーナー部1cを形成するアッパインナパネル(サイドインナパネル)18とに上下に分割されている。
【0023】
前記ロアインナパネル17の上辺部17aと、前記アッパインナパネル18の下辺部18aとは重ね合わされており、該重ね合わせ部が溶接により結合されている。またこの結合部分には前記フロアパネル5の下方に折り曲げ形成されたフランジ部5bが溶接により結合されている(図5参照)。
【0024】
前記アッパインナパネル18は、車室6内に露出しており、前記下コーナー部1cを形成する円弧状のコーナーフランジ部18bと、該コーナーフランジ部18bに続いて車両前方に湾曲して延びる側壁部18cとを有し、前記ロアバックパネル2及びリインホースメント20に連続面をなすように結合されている。
【0025】
前記ロアインナパネル17は、前記側壁部18cに沿って車両前方に延びる側壁部17bと、該側壁部17bに続いて後方に屈曲して延びる底壁部17cとを有し、該側壁部17b及び底壁部17cは前記ロアバックインナパネル9及びロアバックアウタパネル10に結合されている。
【0026】
前記ロアバックパネル2の各パネル9,10,11及び前記クォータインナパネル16のアッパインナパネル18には、これらの組み付け工程時に位置決めを行なうための基準孔2a,18dが形成されている。
【0027】
また前記ロアインナパネル17の側壁部17bには、電着塗装工程時の塗装液を排出するための塗装液排出孔17dが形成されている。この塗装液排出孔17dは、車両前後方向に見て、前記リインホースメント20及びサイドメンバ21に重なるように配置され、これによりリインホースメント20とサイドメンバ21とを連通している。
【0028】
そして前記アッパインナパネル18の下辺部18aには、該下辺部18aに続いて前記フロアパネルより下方に位置するように延びる延設部18eが形成されている。この延設部18eに前記基準孔18dが形成されている。
【0029】
前記基準孔18dは、これの軸線方向(車両前後方向)に見たとき、前記ロアインナパネル17の塗装液排出孔17d内に位置するように配置されている。
【0030】
より詳細には、前記基準孔18dは、塗装液排出孔17dの径の1/3程度の小径に形成されており、かつ前記塗装液排出孔17dの上縁部近傍に位置するように配置されている。また前記延設部18eは、これの下縁18e′が、塗装液排出孔17dの中心より上方に位置するように設定されている(図6参照)。
【0031】
即ち、前記基準孔18dを塗装液排出孔17d内に位置させ、かつ前記延設部18eによる塗装液排出孔17dの遮蔽を可能な限り小さくできるように構成されている。
【0032】
本実施例の車体の製造行程では、ロアバックパネル2の各パネル9,10,11の基準孔2aに治具(不図示)を挿入して位置決めするとともに、ロアバックパネル2にリインホースメント20を位置決めする。左,右のアッパインナパネル18の基準孔18dに治具23を挿入して位置決めするとともに、ロアインナパネル17を位置決めする(図5参照)。この状態で、各パネルを溶接により接合して組み付けるとともにフロアパネル5を溶接により結合してパネル組み立て体を形成する。
【0033】
次に、前記パネル組み立て体を電着塗装液に浸漬して防錆,塗装処理を施す。この後、パネル組み立て体を引き上げて塗装液排出孔17dから残った塗装液を排出する。この場合、塗装液排出孔17dは、リインホースメント20及びサイドメンバ21を連通するように配置されているので、リインホースメント20,サイドメンバ21内に残った塗装液を確実に排出できる。
【0034】
本実施例によれば、アッパインナパネル18にフロアパネル5より下方に位置するよう延びる延設部18eを形成し、該延設部18eに基準孔18dを形成するとともに、該基準孔18dをロアインナパネル17に形成された塗装液排出孔17d内に位置するように配設したので、組み付け工程時の位置決め機能と、電着塗装工程時の塗装液排出機能との両方の機能を成立させつつ、基準孔18dをフロアパネル5の下方の車室外に配置することができ、見栄えの悪化及び気密性の悪化を防止できる。即ち、基準孔18dに挿入した治具23は、塗装液排出孔17dを貫通することから、アッパインナパネル18の位置決めの邪魔になることはない。また塗装液は、基準孔18d及び塗装液排出孔17dから排出されることから、塗装液が残ったりすることはない。
【0035】
また前記アッパインナパネル18に基準孔18dを形成するための延設部18eを設けるだけの構造であるので、従来のシール部材やトリムにより隠す場合に比べてコストを低減できる。
【0036】
さらに既存の塗装液排出孔17dを利用して基準孔18dを配置したので、アッパインナパネル18の延設部18eをそれほど大きくする必要はなく、重量,コストアップを抑制できる。さらにまた延設部18eを形成したことにより、バックドア開口1の下コーナー部1cの剛性アップに寄与することができる。
【0037】
本実施例では、前記基準孔18dを塗装液排出孔17dより小さく形成するとともに、該塗装液排出孔17dの上縁部近傍に位置するように配置し、かつ延設部18eの下縁が塗装液排出孔17dの中心より上方に位置するように設定したので、延設部18eが塗装液の排出の邪魔になるのを最小限に抑えることができる。
【0038】
なお、前記実施例では、バックドア開口を形成するロアインナパネルとアッパインナパネルとの下部結合を例に説明したが、本発明は、リヤドア開口の下縁部を形成するロッカパネル(ロア部材)と、下コーナー部を形成するセンタピラー(サイド部材)との下部結合部にも適用可能であり、この場合にも前記実施例と略同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0039】
1 バックドア開口
1a 下縁部
1b 側縁部(下コーナー部)
2 ロアバックパネル(ロア部材)
3 クォータパネル(サイド部材)
5 フロアパネル
5b フランジ部
17 ロアインナパネル
17a 上辺部
17d 塗装液排出孔
18 アッパインナパネル(サイドインナパネル)
18a 下辺部
18d 基準孔
18e 延設部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドア開口の下縁部を形成するロア部材のロアインナパネルの上辺部と、前記ドア開口の下コーナー部を形成するサイド部材のサイドインナパネルの下辺部とを結合するとともに、該結合部分にフロアパネルのフランジ部を結合した自動車の下部結合構造であって、
前記サイドインナパネルの下辺部には、前記フロアパネルより下方に位置するように延びる延設部が形成され、
該延設部には、組み付け工程時の位置決めを行なうための基準孔が形成され、
前記ロアインナパネルの前記延設部に対向する部分には、電着塗装工程時の塗装液を排出するための塗装液排出孔が形成され、
前記基準孔は、軸方向に見たとき、前記塗装液排出孔内に位置している
ことを特徴とする自動車の下部結合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−148355(P2011−148355A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9934(P2010−9934)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】