説明

自動車の前部車体構造

【課題】車体重量及びコストの上昇を招くことなく、車両衝突時の入力をエプロンメンバからフロントピラーを介して車体後部に確実に伝達できる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】前記フロントピラー4内の、少なくとも前記エプロンメンバ3の結合部には、前記ピラーアウタパネル14とピラーインナパネル15との間を閉塞する方向に延びる複数の縦壁16c,16dを有するピラーリインホース16が配設され、前記ピラーインナパネル15の前記エプロンメンバ3の結合部近傍部分には、前記フロントピラー4内に突出する複数の縦壁15g,15hを有するビード15fが形成され、該ビード15fの縦壁15g,15hは、前記リインホース16の縦壁16c,16dに近接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時の入力をエプロンメンバからフロントピラーを介して車体後部に伝達するようにした自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、車両衝突時のエネルギー吸収機能を高めることにより、車室への影響を回避する構造を採用している。例えば、特許文献1には、車両衝突時の入力を、エプロンメンバからフロントピラーを介してルーフレール及びロッカパネルに分散させて伝達するとともに、フロントドアのベルトラインリインホースに分散させて伝達するようにしたエネルギー吸収構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−334955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来構造において、車両衝突時にフロントピラーが断面崩れした場合には、エプロンメンバからの入力をフロントピラーから車体後部に効果的に伝達することができなくなるという懸念がある。このようなフロントピラーの断面崩れを防止するには、フロントピラーにバルクヘッド等の荷重伝達部材を追加したり、フロントピラーの板厚を大きくしたりすることが考えられるが、このようにすると車体重量及びコストが上昇するという問題が生じる。
【0005】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、車体重量及びコストの上昇を招くことなく、車両衝突時の入力をエプロンメンバからフロントピラーを介して車体後部に確実に伝達できる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ピラーアウタパネルとピラーインナパネルとを略中空状をなすよう結合してなるフロントピラーと、車両前後方向に延び、その後端部が前記フロントピラーの上下方向中途部に結合されたエプロンメンバとを備え、
前記フロントピラー内の、少なくとも前記エプロンメンバの結合部には、前記ピラーアウタパネルとピラーインナパネルとの間を閉塞する方向に延びる複数の縦壁を有するピラーリインホースが配設され、車両前方からの入力を前記エプロンメンバからフロントピラー,ピラーリインホースを介して車体後部に伝達するようにした自動車の前部車体構造であって、
前記ピラーインナパネルの前記エプロンメンバの結合部近傍部分には、前記フロントピラー内に突出する複数の縦壁を有するビードが形成され、該ビードの縦壁の少なくとも1つは、前記ピラーリインホースの縦壁の少なくとも1つに当接又は近接することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る前部車体構造によれば、ピラーインナパネルのエプロンメンバ結合部近傍部分にビードをフロントピラー内に突出形成し、該ビードに形成された縦壁の少なくとも1つをピラーリインホースに形成された縦壁の少なくとも1つに当接又は近接させたので、車両衝突時のエプロンメンバからの入力は、ピラーリインホースの縦壁とビードの縦壁とが突き当たることにより受け止めることとなり、該ビードを介して確実に車体後部に伝達されることとなる。これによりフロントピラーの断面崩れを生じることなく、荷重を車体後部に効果的に伝達することができ、車室への影響を回避できる。
【0008】
本発明では、前記ビードをフロントピラー内に入り込むようにピラーインナパネルに形成したので、フロントピラーの断面剛性を高めることができるとともに、ピラーインナパネル自体の面剛性を高めることができる。これにより、車両衝突時のフロントピラーの断面崩れを防止することができ、車体後部への荷重伝達をより確実に行うことができる。
【0009】
本発明では、ピラーインナパネルにビードを形成するだけの構造であるので、前述のバルクヘッドを追加したり、ピラーインナパネルの板厚を大きくしたりする場合のような重量及びコストアップを回避でき、軽量化,低コスト化に貢献できる。
【0010】
ここで本発明において、ビードの縦壁をピラーリインホースの縦壁に近接させるとは、実質的に上述の荷重伝達向上効果が得られる程度において両者を離間させても良いという意味である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1による自動車の前部車体の側面図である。
【図2】前記前部車体の断面図(図1のII-II線断面図)である。
【図3】前記前部車体の断面図(図1のIII-III線断面図)である。
【図4】前記前部車体の概略側面図である。
【図5】本発明の実施例2による自動車の前部車体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1ないし図4は、本発明の実施例1による自動車の前部車体構造を説明するための図である。
【0014】
図において、1は自動車の前部車体を示している。この前部車体1は、車両上下方向に延びる左,右のフロントピラー4,4と、車両前後方向に延び、その後端部3aが前記フロントピラー4の上下方向中途部に結合された左,右のエプロンメンバ3,3とを備えている。
【0015】
また前記前部車体1は、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバ2,2と、該左,右のサイドメンバ2と前記エプロンメンバ3とを結合する結合部材5,5と、前記左,右のエプロンメンバ3を結合するように配置されたカウルパネル7と、前部車体1をエンジン室Aと車室Bとに画成するダッシュパネル(図示せず)とを備えている。
【0016】
前記左,右のエプロンメンバ3の車内側にはストラットタワー6が配設され、該ストラットタワー6はこれの上端部が前記エプロンメンバ3に、下端部が前記サイドメンバ2に結合されている。
【0017】
前記左,右のフロントピラー4の上端部には、車両前後方向に延びるルーフレールの8の前端部が接合されており、下端部には、車両前後方向に延びるロッカパネル9の前端部が接合されている。
【0018】
また前記フロントピラー4の後方には、前記ルーフレール8とロッカパネル9とに架け渡して結合されたセンターピラー12が配設されており、これらによりフロントドア開口1aが形成されている。このフロントドア開口1aには、前記フロントピラー4により支持されたフロントドア19が開閉可能に配設されている(図2参照)。
【0019】
前記フロントドア19は、ドアアウタパネル20aとドアインナパネル20bとを中空状をなすよう結合してなるドア本体20内にベルトラインに沿って車両前後方向に延びるベルトラインリインホース21を配設した構造を有する。
【0020】
該ベルトラインリインホース21は、前記エプロンメンバ3と略同じ高さに位置するよう配置され、かつ前後方向に見たとき、該エプロンメンバ3の後端部3aと重なるよう配置されている。
【0021】
前記左,右のエプロンメンバ3は、アウタメンバ10とインナメンバ11とを閉断面をなすよう結合した構造を有する。前記アウタメンバ10の後端部10eは、前記フロントピラー4のピラーアウタパネル14に結合され、前記インナメンバ11の後端部11eは前記カウルパネル7のフランジ部7dと共にピラーインナパネル15に3枚重ねて結合されている。
【0022】
前記フロントピラー4は、断面大略ハット形状の前記ピラーアウタパネル14と、大略平板形状の前記ピラーインナパネル15との前フランジ部14a,15a同士及び後フランジ部14b,15b同士を溶接により結合することにより角筒状の閉断面を形成した構造を有する。
【0023】
前記フロントピラー4内には、断面大略ハット形状のピラーリインホース16が配設されている。このピラーリインホース16は、フロントピラー4の略全長に渡る長さを有し、かつ前記エプロンメンバ3の後端部3aに車両前後方向に対向するよう配設されている。
【0024】
前記ピラーリインホース16は、前記フロントピラー4内の後半部を囲むように配設されており、前記ピラーアウタパネル14とピラーインナパネル15との
間を車幅方向に閉塞するように延びる前側,後側の縦壁16c,16dと、該前側,後側の縦壁16c,16dの外縁同士を連結するよう一体に形成された外側壁16eとを有する。
【0025】
前記ピラーリインホース16の前側の縦壁16cに形成された前フランジ部16aは、前記ピラーインナパネル15の前後方向中途部に溶接により結合され、後側の縦壁16dに形成された後フランジ部16bは、前記後フランジ部14b,15bに3枚重ねて溶接により結合されている。
【0026】
これによりフロントピラー4内は、前記ピラーリインホース16が配設されていない前半部の座屈エリアDと、該ピラーリインホース16が配設された後半部の荷重伝達エリアEとに区分けされている。
【0027】
また前記左,右のフロントピラー4の後フランジ部14b,15b,16bの重ね合わせ部分には車幅方向に延びるPPメンバ23の端部がボルト締め固定されている。
【0028】
そして前記ピラーインナパネル15には、フロントピラー4内に突出するビード15fが形成されている。このビード15fは、前記ピラーリインホース16の荷重伝達エリアE内に入り込むように車外側に凹むように形成されている。
【0029】
前記ビード15fは、前記エプロンメンバ3とベルトラインリインホース21との間に位置し、かつ該エプロンメンバ3及びベルトラインリインホース21と略同じ高さ位置となるよう配置されている。
【0030】
前記ビード15fは、前側,後側の縦壁15g,15hと、該前側,後側の縦壁15g,15hの上,下間同士を連結する上,下の縦壁15i,15jとを有する矩形状のものである。
【0031】
前記ビート15fの、前側の縦壁15gは前記ピラーリインホース16の前側の縦壁16cに近接しており、また後側の縦壁15hは後側の縦壁16dに近接している。
【0032】
車両衝突時の入力Fは、図1の矢印で示すように、サイドメンバ2の軸芯を通って後方に伝達されるとともに、サイドメンバ2から結合部材5を介してエプロンメンバ3に伝達され、該エプロンメンバ3からフロントピラー4に伝達される。このフロントピラー4に伝達された荷重は、座屈エリアDで吸収されつつ、荷重伝達エリアEのピラーリインホース16に伝達され、該ピラーリインホース16からビード15fを介してベルトラインリインホース21に分散されて伝達されるとともに、ルーフレール8及びロッカパネル9に分散されて伝達される。詳細には、ピラーリインホース16の前側の縦壁16cからビード15fの前側の縦壁15gに伝わった荷重は、ビード15fの上,下の縦壁15i,15jの各稜線Lを伝って後側の縦壁15hからピラーリインホース16の後側の縦壁16dに伝達され、ここからルーフレール8,ロッカパネル9,ベルトラインリインホース21に分散されて伝達される。
【0033】
このように本実施例によれば、ピラーインナパネル15の、エプロンメンバ3の後端部3a近傍部分に、ビード15fをフロントピラー4内に突出するよう形成し、該ビード15fの前側,後側の縦壁15g,15hをピラーリインホース16の前側,後側の縦壁16c,16dに近接させたので、車両衝突時のエプロンメンバ3からの入力は、ピラーリインホース16の前側,後側の縦壁16c,16dとビード15fの前側,後側の縦壁15g,15hとが突き当たることにより受け止めることとなり、該ビード15fを介して確実にルーフレール8,ロッカパネル9,ベルトラインリインホース21に伝達されることとなる。これによりフロントピラー4の断面崩れを生じることなく、荷重を車体後部に効果的に伝達することができ、車室への影響を回避できる。
【0034】
本実施例では、ピラーインナパネル15に前記ビード15fをピラーリインホース16内に入り込むように形成したので、フロントピラー4の断面剛性を高めることができるとともに、ピラーインナパネル15自体の面剛性を高めることができる。これにより、車両衝突時にフロントピラー4が断面崩れを起こすのを防止することができ、ベルトラインリインホース21等への荷重伝達をより確実に行うことができる。
【0035】
本実施例では、前記ピラーインナパネル15にビード15fを膨出形成するだけの構造追加により前記作用効果を実現できるので、前述のバルクヘッドを追加したり、ピラーインナパネルの板厚を大きくしたりする場合のような重量及びコストアップを回避でき、軽量化,低コスト化に貢献できる。
【0036】
なお、前記実施例1では、ビード15fの前側,後側の縦壁15g,15hをピラーリインホース16の前側,後側の縦壁16c,16dに近接させたが、本発明では、ビードの少なくとも1つの縦壁をピラーリインホースの少なくとも1つの縦壁に近接させれば良い。
【0037】
また前記実施例1では、ビード15fをピラーリインホース16の荷重伝達エリアE側に形成した場合を例に説明したが、本発明のビードはこれに限られるものではない。
【0038】
図5は、本発明の実施例2による前部車体を説明するための図であり、図中、図1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0039】
本実施例は、ピラーインナパネル15に荷重伝達エリアE内に突出する前述のビード15fを形成するとともに、座屈エリアD内に突出する第2のビード15kを並列に形成した例である。この第2のビード15kの後側の縦壁15mは、ピラーリインホース16の前側の縦壁16cに近接している(図2の二点鎖線参照)。
【0040】
本実施例では、前記ビード15fと第2のビード15kとを並列に形成したので、エプロンメンバ3からの入力は第2のビード15kからピラーリインホース16を介してビード15fに伝達されることとなり、荷重伝達をより効率よく行うことができる。
【0041】
また前記座屈エリアDに設けた第2のビード15kの大きさを調整することにより、該座屈エリアDの座屈によるエネルギー吸収量をコントロールすることができる。
【0042】
また前記実施例では、入力をフロントピラーからルーフレール,ロッカパネル及びベルトラインリインホースにそれぞれ分散させた場合を説明したが、本発明では、フロントピラーからルーフレール,ロッカパネルのみに分散させることも可能であり、この場合には、ベルトラインリインホースを不要できる。
【0043】
なお、前記第2のビード15kのみを形成しても良いし、さらにピラーリインホース16を図2の場合より前方に配置し、該前方配置のピラーリインホースの後側にビードを形成し、該ビードの前側の縦壁を前記前方配置のピラーリインホースの後側の縦壁に近接させても良い。
【0044】
さらにまた、ビードの縦壁とリインホースの縦壁とを当接させても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 前部車体
3 エプロンメンバ
3a 後端部(結合部)
4 フロントピラー
14 ピラーアウタパネル
15 ピラーインナパネル
15f,15k ビード
15g,15h,15m ビードの縦壁
16 ピラーリインホース
16c,16d リインホースの縦壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピラーアウタパネルとピラーインナパネルとを略中空状をなすよう結合してなるフロントピラーと、
車両前後方向に延び、その後端部が前記フロントピラーの上下方向中途部に結合されたエプロンメンバとを備え、
前記フロントピラー内の、少なくとも前記エプロンメンバの結合部には、前記ピラーアウタパネルとピラーインナパネルとの間を閉塞する方向に延びる複数の縦壁を有するピラーリインホースが配設され、
車両前方からの入力を前記エプロンメンバからフロントピラー,ピラーリインホースを介して車体後部に伝達するようにした自動車の前部車体構造であって、
前記ピラーインナパネルの前記エプロンメンバの結合部近傍部分には、前記フロントピラー内に突出する複数の縦壁を有するビードが形成され、
該ビードの縦壁の少なくとも1つは、前記ピラーリインホースの縦壁の少なくとも1つに当接又は近接する
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−148745(P2012−148745A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10810(P2011−10810)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】