説明

自動車の車体前部構造

【課題】車両前方からの入力によるサイド部材の変形を簡易な構造で抑制することができ、かつ軽量化及び低コスト化を図ることができる自動車の車体前部構造を提供する。
【解決手段】左,右のサイド部材9,9を、左,右のサイドメンバ2,2の下縁より下方に延設した下部ブラケット6を介して前記左,右のサイドメンバ2,2に取り付け、前記下部ブラケット6に上下方向に延びるビード16を設け、ロア部材11に前方から荷重が入力された場合、前記ビード16に前記左,右のサイド部材9,9が当接するように、ラジエータサポート4を前記下部ブラケット6に取り付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左,右のサイドメンバの、バンパリインフォースより後方にラジエータサポートを取り付け、該ラジエータサポートのロア部材の前端に衝撃吸収部材を取り付けた自動車の車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行者の脚部の保護を図る車体前部構造として、前記ラジエータサポートのロア部材に衝撃吸収部材を取り付けたものがある。しかし、歩行者との衝突時に、歩行者の脚部から前記ロア部材への入力により、前記ラジエータサポートのサイド部材の下端部が変形し、前記衝撃吸収部材で前記全入力を受けることができず、脚部保護の性能が充分に得られないという問題がある。
【0003】
前記問題点の解決方法として、従来、例えば、特許文献1には、バンパリインフォースとラジエータサポートのロア部材又はサイド部材とを連結部材によりピンを介して回転可能に連結し、前方からの入力に対して、前記ロア部材或いはサイド部材の変形を抑制する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−89736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献1の構造では、バンパリインフォースとラジエータサポートとを比較的大型の別部品である連結部材により回動可能に連結しているので構造が複雑となり、部品点数及び組み付け工数の増加、重量及びコストの増加を招くという問題がある。
【0006】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、車両前方からの入力によるサイド部材の変形を簡易な構造で抑制することができ、かつ軽量化及び低コスト化を図ることができる自動車の車体前部構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車両後方に延びる左,右のサイドメンバの前端部に車幅方向に延びるバンパリインフォースを取り付け、該バンパリインフォースより後方で、かつ前記左,右のサイドメンバの間に、車幅方向に延びるアッパ部材及びロア部材と、上下方向に延びる左,右のサイド部材とからなる略口字状のラジエータサポートを取り付け、前記ロア部材の前端に衝撃吸収部材を取り付ける自動車の車体前部構造において、前記左,右のサイド部材を、前記左,右のサイドメンバの下縁より下方に延設した下部ブラケットを介して前記左,右のサイドメンバに取り付け、前記下部ブラケットに上下方向に延びるビードを設け、前記ロア部材に前方から荷重が入力されたとき、前記左,右のサイド部材が前記ビードに当接するように、前記ラジエータサポートを前記下部ブラケットに取り付けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記左,右のサイド部材を、前記左,右のサイドメンバに取り付ける下部ブラケットに上下方向に延びるビードを設け、ロア部材に歩行者からの荷重が入力されたとき、前記左,右のサイド部材が前記ビードに当接するように構成したので、前記入力により前記左,右のサイド部材が後方へ変形するのを抑制でき、歩行者の脚部を払いのける強度を確保でき、歩行者の脚部保護性能を確保することができる。
【0009】
また、前記下部ブラケットに前記ビードを設けたので、前記下部ブラケット自体の剛性が増し、前記左,右のサイド部材への荷重を、前記左,右のサイドメンバに確実に分散させることができる。
【0010】
また、比較的小型の前記下部ブラケットに前記ビードを設け、これに前記サイド部材を当接可能に配置するだけで、前記左,右のサイド部材が後方へ変形するのを抑制することができ、比較的大型の連結部材によりピンを介して連結する場合に比べて、構造が簡単であり、軽量化及び低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1による自動車の前部構造を示す正面図である。
【図2】前記前部構造を示す断面側面図(図1のII-II線断面図)である。
【図3】下部ブラケットを示す断面平面図(図2のIII-III線断面図)である。
【図4】上部ブラケット及び前記下部ブラケットを示す断面正面図(図2のIV-IV線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1ないし図4は、本発明の実施例1による自動車の車体前部構造を説明するための図である。なお、本実施例において、上,下,左,右という場合は、特記なき限り、車両の前進方向に向かって見た場合の上,下,左,右を意味する。
【0014】
図において、1は自動車の車体前部を示している。この車体前部1は、車両前後方向に延びる板金製の左,右のサイドメンバ2,2と、車幅方向に延び、前記左,右のサイドメンバ2,2の前端面2a,2aに架け渡して固定された板金製のバンパリインフォース3と、同じく板金製のラジエータサポート4とを備えている。
【0015】
前記左,右のサイドメンバ2,2は、車幅方向外方に開口する横断面ハット形状のメンバ本体2bと、該メンバ本体2bに開口を閉塞するように結合された帯板状の板部材2cとで車両前後方向に延びる閉断面を形成している。
【0016】
前記左,右のサイドメンバ2,2の前端部2a,2aには、前端開口を閉塞する蓋部材21,21が溶接等により結合されている。該蓋部材21,21の前面21a,21aには、前記バンパリインフォース3の中央平面部3dがボルト15aにより結合されている。なお、3eは作業用開口であり、また、図中、×印は溶接部位を示す。
【0017】
前記左,右のメンバ本体2b,2bには、上部ブラケット5,5及び下部ブラケット6,6が配設されている。前記上部ブラケット5,5は、板金製であり、L字形状を成している。該上部ブラケット5,5の横辺5a,5aが前記左,右のメンバ本体2b,2bの上面2d,2dに溶接等により結合されている。
【0018】
前記下部ブラケット6,6は、板金製であり、前記左,右のサイドメンバ2,2の下縁より下方に延びる略矩形の平板形状を成している。前記下部ブラケット6,6の上部6a,6aが前記左,右のメンバ本体2b,2bの側面2e,2eに溶接等により結合されている。
【0019】
そして、前記下部ブラケット6,6の後縁6b,6bには、ビード16が上下方向に延び、かつ車幅方向内側に凸状を成すように形成されている。
【0020】
前記バンパリインフォース3の前面には、車幅方向に延びる板金製の上部衝撃吸収部材7が配設されており、該上部衝撃吸収部材7を前方から覆うように車幅方向に延びる樹脂製のフロントバンパ8が配設されている。
【0021】
前記上部衝撃吸収部材7は、前記バンパリインフォース3から前記フロントバンパ8に近接するよう前方に膨出形成された横断面ハット形状を有し、外周縁に形成された外周フランジ7aが前記バンパリインフォース3の外周フランジ3cに結合されている。前記上部衝撃吸収部材7の左,右端部は、左,右のサイドメンバ2,2の前端部2a,2aを前方から覆う寸法,形状を有する。
【0022】
前記ラジエータサポート4は、正面視で略口字状を成している。前記ラジエータサポート4は、上下方向に延びる左,右のサイド部材9,9と、車幅方向に延び、前記左,右のサイド部材9,9の上端部9a,9a間に架け渡して配置されたアッパ部材10と、前記左,右のサイド部材9,9の下端部9b,9b間に架け渡して配置されたロア部材11とをボルト締め結合したものであり、前記バンパリインフォース3より後方で、かつ前記左,右のサイドメンバ2,2の間に配設されている。
【0023】
前記ロア部材11は、下方に開口した横断面ハット状のロア部材本体11aと、該ロア部材本体11aの開口を閉塞するように配置固定された補強板11bとを有し、車幅方向に延びる閉断面を形成している。
【0024】
前記ロア部材11の前縁部11cとフロントバンパ8の下縁部8aの間には、下部衝撃吸収部材12が配設されている。該下部衝撃吸収部材12は前記ロア部材11に沿って車幅方向に延びており、前記ロア部材本体11aに溶接等により固定されている。
【0025】
前記サイド部材9の下端部9bには横断面コ字形状の固定ブラケット13の側面13bが溶接等により固定されている。また、前記固定ブラケット13の底面13aは前記ロア部材本体11aの上面11dにボルト15bにより固定されている。なお、11eは作業用開口である。
【0026】
前記バンパリインフォース3と前記アッパ部材10との間には、上下方向に延びるフードロックステイ14が配接されている。該フードロックステイ14の上端部14aは前記アッパ部材10の車幅方向略中央部10aに結合され、下端部14bは前記バンパリインフォース3の車幅方向略中央部3aの上縁に結合されており、またその中央部14cに前記アッパ部材10に設けられたフードロック(不図示)が連結されている。
【0027】
前記左,右のサイド部材9,9は、前記上部ブラケット5,5の縦辺5b,5bに前記左,右のサイド部材9,9の上部取り付け部9c,9cがボルト15c等により結合されている。さらに、前記下部ブラケット6,6の下部6c,6cに前記左,右のサイド部材9,9の下部取り付け部9d,9dがボルト15d等により結合されている。
【0028】
ここで、前記左,右のサイド部材9,9は、前記ビード16の前縁部16aに小隙間aを開けて対向するように配置されている。そのため、前記ロア部材11に前方から荷重が入力された場合、前記左,右のサイド部材9,9が後方に少し変形すると、その後端部9e,9eが前記ビード16の前縁部16aに当接し、それ以上の変形が阻止されることとなる。
【0029】
本実施例では、例えば、車両が歩行者と衝突した場合、歩行者の脚部からの荷重が前記ロア部材11に入力され、これにより前記左,右のサイド部材9,9は若干後方に変形する。しかし、本実施例では、前記下部ブラケット6に前記ビード16を設け、前記左,右のサイド部材9,9をこれの後端部9e,9eが前記ビード16の前縁部16aに当接可能に構成したので、当接以降の後方への変形を抑制でき、歩行者の脚部を払いのける強度を確保することができ、脚部保護性能を確保することができる。
【0030】
本実施例では、下部ブラケット6,6を板金製の平板形状とし、前記左,右のメンバ本体2b,2bの側面2e,2eに前記下部ブラケット6,6をスポット溶接にて結合したので、前記荷重を剪断方向荷重として受けることができ、結合部の剥離を防止することができる。
【0031】
また、前記下部ブラケット6,6に上下方向に延びるビード16を設けたので、前記下部ブラケット6,6自体の剛性が増し、ロア部材11に前方から入力された荷重を前記左,右のサイド部材9,9を介して、前記左,右のサイドメンバ2,2に確実に分散させることができる。
【0032】
また、比較的小型の前記下部ブラケット6に前記ビード16を設け、これに前記サイド部材9を当接可能に配置するだけで、前記ロア部材11への前方からの入力により前記左,右のサイド部材9,9が後方へ変形するのを抑制することができ、比較的大型の連結部材によりピンを介して連結する従来構造に比べて、構造が簡単であり、軽量化及び低コスト化を図ることができる。
【0033】
なお、前記実施例1では、上下方向に延びるビード16を下部ブラケット6の後縁部6bに設け、これにサイド部材9の後端部9eを当接可能としたが、本発明の前記ビード16の形成部位は、前記下部ブラケット6の後縁部6bに限定されるものではなく、前記下部ブラケット6の前後方向中央部若しくは前縁部に設けても良い。
【0034】
例えば、図3に二点鎖線で示すように、ビード16′を前記下部ブラケット6の中央部に設けた場合、前方からの荷重によりサイド部材9が後方に少し変形したとき、前記ビード16′に当接する段部9fをサイド部材9の下部取り付け部9dの近傍に設ければ良い。
【符号の説明】
【0035】
1 車体前部
2 サイドメンバ
2a 前端部
3 バンパリインフォース
4 ラジエータサポート
6 下部ブラケット
9 サイド部材
10 アッパ部材
11 ロア部材
12 衝撃吸収部材(下部)
16 ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両後方に延びる左,右のサイドメンバの前端部に車幅方向に延びるバンパリインフォースを取り付け、該バンパリインフォースより後方で、かつ前記左,右のサイドメンバの間に、車幅方向に延びるアッパ部材及びロア部材と、上下方向に延びる左,右のサイド部材とからなる略口字状のラジエータサポートを取り付け、前記ロア部材の前端に衝撃吸収部材を取り付ける自動車の車体前部構造において、
前記左,右のサイド部材を、前記左,右のサイドメンバの下縁より下方に延設した下部ブラケットを介して前記左,右のサイドメンバに取り付け、
前記下部ブラケットに上下方向に延びるビードを設け、
前記ロア部材に前方から荷重が入力されたとき、前記左,右のサイド部材が前記ビードに当接するように、前記ラジエータサポートを前記下部ブラケットに取り付けた
ことを特徴とする自動車の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−91701(P2012−91701A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241324(P2010−241324)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】