説明

自動車の車体構造

【課題】 軽量化を図りながら、正面衝突や側面衝突に対する強度の向上等を実現した自動車の車体構造を提供する。
【解決手段】 ボディ1は、骨格部材として、左右フロントサイドフレーム4,5や左右サイドシルインナ7,8、左右フロアフレーム9,10、左右アウトリガー11,12、フロントクロスメンバ13、第1ミドルクロスメンバ14、第2ミドルクロスメンバ15、フロアトンネルスチフナ16等を有している。フロントクロスメンバ13は、左右フロントサイドフレーム4,5の後端における車幅方向内側に接合されるとともに、フロントサイドフレーム4,5との接合部から車幅方向中央側に向けてその前後方向長さが小さくなるアーチ形状を呈している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体構造に係り、軽量化を図りながら、正面衝突や側面衝突に対する強度の向上等を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モノコック構造の自動車(以下、モノコック車と記す)は、薄鋼板をプレス成型することで多数のボディパネルや骨格部材を製造した後、これらをスポット溶接等により接合することでボディが製造される(特許文献1参照)。従来のボディ構造では、自動車が他の車両や建造物等に正面衝突した場合、フロントバンパから左右のフロントサイドフレームに入力した衝突荷重は、アウトリガーを介してサイドシルインナにその一部が伝達される他、左右のフロアフレームを介して大部分がミドルクロスメンバに伝達される。なお、特許文献1のボディ構造では、フロアパネルの中央を上方に膨出させてその下部にフュエルタンクを設置するとともに、このフュエルタンクをフロントクロスメンバとミドルクロスメンバとフロアフレームとによって画成された空間に収容している。また、フロアパネルの上面にはシートフレームの前後脚が締結されており、そのシートフレームの上部にシートが支持されている。
【特許文献1】特開2002−302071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来のボディ構造では、フロントサイドフレームからの衝突荷重は、その大部分がフロアフレームに入力するため、フロアフレームとして板厚や横断面積の大きい大重量のものが必要なり、自動車の車体重量が増大することが避けられなかった。車体重量の増大は、走行燃費の悪化や運動性能の低下をもたらすことから、できる限り抑制することが望ましい。そのため、フロアフレームの薄肉化等を実現すべく、フロントサイドフレームから入力した衝突荷重をフロアフレーム以外の骨格部材に効果的に分散する構造が望まれていた。また、特許文献1のボディ構造では、車室前部に側方から他車が衝突した場合にサイドシルインナからの衝突荷重がフロントクロスメンバに作用するため、フュエルタンクの保護を図る観点から、フロントクロスメンバの板厚等も大きくする必要等があり、このことも車体重量を増大させる要因となっていた。更に、正面衝突時において、シートベルトに拘束された乗員が慣性によって前方に移動すると、シートの前部に下向きの大きな荷重が作用することでシートフレームの前脚が締結されたフロアパネルが下方に変形し、シートフレーム(すなわち、シート)が前のめりに傾いて乗員がダッシュボードに接近する虞がある。このような事態を防止するためには、フロアパネルとして板厚や断面係数の大きなものが必要となり、車体重量の増大がもたらされたり、プレス成形が困難になったりする問題があった。
【0004】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、軽量化を図りながら、正面衝突や側面衝突に対する強度の向上等を実現した自動車の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明に係る自動車の車体構造は、車体前部に設置され、前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、車室の床部分を形成するフロアパネルの左右端に接合された左右一対のサイドシルと、前記フロントサイドフレームの後端にそれぞれ接合され、後方に延びる左右一対のフロアフレームと、前記フロアフレームに接合されるとともに、その左右端が前記サイドシルに接合された第1ミドルクロスメンバと、前記第1ミドルクロスメンバの後方で前記フロアフレームに接合されるとともに、その左右端が前記サイドシルに接合された第2ミドルクロスメンバと、前記第1ミドルクロスメンバの前端に接合されるとともに、その左右端が前記フロントサイドフレームの車幅方向内側に接合されたフロントクロスメンバとを備え、前記フロントクロスメンバは、前記フロントサイドフレームとの接合部から車幅方向中央側に向けてその前後方向長さが小さくなるアーチ形状を呈することを特徴とする。
【0006】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載された自動車の車体構造において、前記フロアパネルの車幅方向中央部にフロアトンネルスチフナが設置され、当該フロアトンネルスチフナが前記第1ミドルクロスメンバと前記第2ミドルクロスメンバとに接合されたことを特徴とする。
【0007】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載された自動車の車体構造において、前記フロントサイドフレームと前記サイドシルの前端側とに接合された左右一対のアウトリガーを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項4の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された自動車の車体構造において、シートを支持するシートフレームが前記第1ミドルクロスメンバに締結されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、フロントサイドフレームから入力した衝突荷重は、フロントクロスメンバおよび第1ミドルクロスメンバを介してフロアフレームとサイドシルとに効果的に伝達される。そのため、フロアフレームとして比較的低強度の軽量なものを採用することが可能となり、車体重量の軽減を実現できる。また、第1ミドルクロスメンバによって車室前部の車幅方向の変形が抑制されるため、側面衝突時における乗員の安全性が向上する。そして、車体下部に第1,第2ミドルクロスメンバとフロアフレームとによって囲まれた変形し難い空間が形成されるため、その空間にフュエルタンク等を設置することで衝突時の安全性を向上させることができる。また、請求項2の発明によれば、第1ミドルクロスメンバからの衝突荷重がフロアトンネルスチフナにも伝達されるため、フロアフレームの更なる軽量化等を実現できる。また、請求項3の発明によれば、フロントサイドフレームからの衝突荷重がアウトリガーを介してサイドシルに伝達されるため、フロントサイドフレームの更なる軽量化等を実現できる。また、請求項4の発明によれば、正面衝突時にシートの前部に下向きの荷重が作用しても、その前脚が第1ミドルクロスメンバに締結されているためにシートフレームの変位が起こり難くなり、シートが前のめりに傾むいて乗員がダッシュボードに接近する虞が少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を適用した自動車用車体構造の一実施形態を詳細に説明する。図1は実施形態に係る車体骨格構造を示す斜視図であり、図2は実施形態に係る車体骨格構造の要部を示す下面図であり、図3は図2中のIII−III断面図であり、図4は図2中のIV−IV断面図である。
【0011】
≪実施形態の構成≫
本実施形態は、ハッチバック乗用車用のボディに本発明を適用したものである。
図1〜図3に示すように、実施形態のボディ1は、ボディパネルとして、車室の前端部分を画成するダッシュボードロアパネル3や車室の床面を構成する前後フロアパネル6a,6b等を有し、骨格部材として、左右フロントサイドフレーム4,5や左右サイドシルインナ(サイドシル)7,8、左右フロアフレーム9,10、左右アウトリガー11,12、フロントクロスメンバ13、第1ミドルクロスメンバ14、第2ミドルクロスメンバ15、フロアトンネルスチフナ16等を有している。なお、図1中に符号17で示す部材は、フロントサイドフレーム4,5の前端に締結されたバンパビームである。また、図2中に符号18で示す部材は、ボディ1の中央下部に設置されたフュエルタンクであり、第1,第2ミドルクロスメンバ14,15とフロアフレーム9,10とによって画成された空間20に収容されている。
【0012】
フロントサイドフレーム4,5は、エンジンルーム2から前部フロアパネル6a(図1には示さず)に向けて前後方向に延設されている。サイドシルインナ7,8は、前後フロアパネル6a,6b(図1には示さず)の左右端に接合され、車室の床面を構成している。フロアフレーム9,10は、フロントサイドフレーム4,5の後端にそれぞれ接合されるとともに、後部フロアパネル6bの下面に接合されている。アウトリガー11,12は、いわゆる閉断面構造体であり、フロントサイドフレーム4,5とサイドシルインナ7,8の前端とに接合されている。
【0013】
フロントクロスメンバ13は、左右フロントサイドフレーム4,5の後端における車幅方向内側に接合されるとともに、フロントサイドフレーム4,5との接合部から車幅方向中央側に向けてその前後方向長さが小さくなるアーチ形状を呈している。また、図3に示すように、フロントクロスメンバ13は、前部フロアパネル6aの下面に接合される立上り部13aを有するとともに、その後端が第1ミドルクロスメンバ14の前端下面に接合されている。図3中に符号19で示す部材は第1ミドルクロスメンバ14の後端下面に溶接されたウエルドナットであり、シートフレーム21の前脚21aの締結に供される。
【0014】
図3に示すように、第1ミドルクロスメンバ14には、その中央部分において、前面に前部フロアパネル6aの後端が接合されるとともに、後端に後部フロアパネル6bを介してフロアトンネルスチフナ16の前端が接合されている。また、図4に示すように、第1ミドルクロスメンバ14には、その側方部分において、前部フロアパネル6aの後端を介してフロントサイドフレーム4,5に接合されるとともに、後端に後部フロアパネル6bの前端が接合されている。
【0015】
≪実施形態の作用≫
自動車の走行時あるいは停車時において、ボディ1の前面に車両や障害物が衝突する(すなわち、正面衝突が起きる)ことがある。本実施形態の場合、図5中に黒塗りの矢印で示すように、正面衝突によってバンパビーム17からフロントサイドフレーム4,5に入力した衝突荷重は、その一部がアウトリガー11,12を介してサイドシルインナ7,8に伝達される他、大部分がフロアフレーム9,10に伝達される。フロアフレーム9,10に伝達された衝突荷重は、フロアフレーム9,10の上面から第1ミドルクロスメンバ14に直に伝達される他、フロントクロスメンバ13を介しても第1ミドルクロスメンバ14に伝達され、更に、第1ミドルクロスメンバ14から左右サイドシルインナ7,8とフロアトンネルスチフナ16とに伝達される。この際、上述したように、フロントクロスメンバ13がアーチ形状を呈しているため、第1ミドルクロスメンバ14に衝突荷重が局部的に伝達されなくなるとともに、フロアトンネルスチフナ16への衝突荷重の過大な伝達も抑制される。
【0016】
一方、正面衝突が起きると、シートベルトによって拘束された乗員が慣性によって前方に移動してシートの前部に下向きの大きな荷重が作用する。ところが、本実施形態では、その前脚21aが第1ミドルクロスメンバ14とフロアトンネルスチフナ16とが重なった部分に締結されているためにシートフレーム21の変位が起こり難くなり、シートの変形や移動(前のめりに傾くこと等)によって乗員がダッシュボードに接近する虞が少なくなる。
【0017】
また一方、上述した正面衝突をはじめ、ボディ1の側面への他車等の衝突(すなわち、側面衝突)等が起こった場合においても、フュエルタンク18は、第1,第2ミドルクロスメンバ14,15とフロアフレーム9,10とによって画成された堅固な空間20に収容されているため、変形や破損等を受けることが殆ど無く高い安全性が確保される。なお、本実施形態の場合、空間20にフュエルタンク18を収容するようにしたが、電気自動車や燃料電池自動車ではバッテリーや燃料電池等を収容してもよく、その場合にもそれらの機器がフュエルタンク18と同様に保護される。
【0018】
本実施形態では、上述した構成を採ったことにより、ボディ1の強度や剛性を確保しながら、フロアフレーム9,10やフロントクロスメンバ13の素材に比較的軽量な薄鋼板等を使用することができるようになり、車体重量の軽減やNVH(ノイズ、バイブレーション、ハーシュネス)性能の向上を実現できる。また、フロアパネルを第1ミドルクロスメンバ14を境に前部フロアパネル6aと後部フロアパネル6bとに分割することにより、必要に応じて板厚や材質(通常の鋼板と高張力鋼板)を使い分けることが可能となり、成型性や生産性の向上を実現できる。また、フロントクロスメンバ13や第1ミドルクロスメンバ14によって車室前部の強度や剛性が十分に確保されるため、前部フロアパネル6aの車幅方向中央部のトンネル形状部を廃止でき、運転席と助手席との間での乗員の移動(いわゆる、ウォークスルー)を実現することが可能となる。
【0019】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態は本発明をセダン型4ドア乗用車に適用したものであるが、2ドア自動車等、他の自動車に本発明を適用してもよい。また、フロアフレームやフロントクロスメンバ、第1ミドルクロスメンバ、フロアパネル等の具体的形状や接合形態等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係る車体骨格構造を示す斜視図である。
【図2】実施形態に係る車体骨格構造の要部を示す下面図である。
【図3】図2中のIII−III断面図である。
【図4】図2中のIV−IV断面図である。
【図5】実施形態の作用説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1 ボディ
4 フロントサイドフレーム
5 フロントサイドフレーム
6a 前部フロアパネル
6b 後部フロアパネル
7 サイドシルインナ(サイドシルインナ)
8 サイドシルインナ(サイドシルインナ)
9 フロアフレーム
10 フロアフレーム
11 アウトリガー
12 アウトリガー
13 フロントクロスメンバ
14 第1ミドルクロスメンバ
15 第2ミドルクロスメンバ
16 フロアトンネルスチフナ
21 シートフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部に設置され、前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、
車室の床部分を形成するフロアパネルの左右端に接合された左右一対のサイドシルと、
前記フロントサイドフレームの後端にそれぞれ接合され、後方に延びる左右一対のフロアフレームと、
前記フロアフレームに接合されるとともに、その左右端が前記サイドシルに接合された第1ミドルクロスメンバと、
前記第1ミドルクロスメンバの後方で前記フロアフレームに接合されるとともに、その左右端が前記サイドシルに接合された第2ミドルクロスメンバと、
前記第1ミドルクロスメンバの前端に接合されるとともに、その左右端が前記フロントサイドフレームの車幅方向内側に接合されたフロントクロスメンバと
を備え、
前記フロントクロスメンバは、前記フロントサイドフレームとの接合部から車幅方向中央側に向けてその前後方向長さが小さくなるアーチ形状を呈することを特徴とする、請求項1に記載された自動車の車体構造。
【請求項2】
前記フロアパネルの車幅方向中央部にフロアトンネルスチフナが設置され、当該フロアトンネルスチフナが前記第1ミドルクロスメンバと前記第2ミドルクロスメンバとに接合されたことを特徴とする、請求項1に記載された自動車の車体構造。
【請求項3】
前記フロントサイドフレームと前記サイドシルの前端側とに接合された左右一対のアウトリガーを備えたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載された自動車の車体構造。
【請求項4】
シートを支持するシートフレームが前記第1ミドルクロスメンバに締結されたことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された自動車の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−6903(P2009−6903A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170975(P2007−170975)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】