説明

自動車の車体構造

【課題】車体の上方から入力する衝撃荷重のエネルギー吸収効果が高い車体構造を提供する。
【解決手段】エンジンルームを覆うフード部材の左右両側にそれぞれフェンダパネル17が設けられている。フェンダパネル17は、車体の外側に位置する外面部30と、外面部30の上端から車体内側で下方に延びる縦壁31と、縦壁31の下端から折曲部32を境に車体の幅方向に延びる横壁33とを含んでいる。縦壁31と横壁33とが交わる折曲部32にコーナービード37が形成されている。横壁33には下方に突出する下向きビード50が形成されている。下向きビード50の内側に孔55が形成されている。横壁33の下面はフェンダシールドパネル27の上面壁と対向している。フェンダパネル17の横壁33の下面とフェンダシールドパネル27の上面壁との間に隙間が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前部の車体構造に係り、特に衝撃エネルギーの吸収性が改善された車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の前部の車体構造は、エンジンルームの上方を覆う開閉可能なフード部材と、エンジンルームの両側に配置されたフェンダパネルと、エンジンルームの内側に配置されたフェンダシールドパネル等を有している。前記フード部材とフェンダパネルを含む車体構造は、上方から入力する衝撃エネルギーを効率良く吸収できることが望まれている。
【0003】
車体前部の上方から衝撃荷重が入力したとき、フード部材は比較的変形しやすいため衝撃エネルギーを吸収しやすい。しかしフード部材の両側縁とフェンダパネルの上端との境界部付近は、下方に変形できるストロークが小さいため、上方からの荷重に対して比較的剛性が高い。
【0004】
フェンダパネルの上端部付近の衝撃エネルギー吸収性を改善するために、例えば下記の特許文献1では、フェンダパネルの上端部付近の車体内側に形成されている縦壁と横壁とが交わるコーナー部に、複数の孔を形成することにより、前記コーナー部の剛性を下げている。
【特許文献1】特開平11−222154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フェンダパネルはプレスによって成形されるが、前記特許文献1に記載されているように縦壁と横壁とが交わるコーナー部に孔を開けるには、プレスとは別の孔開け工程が必要となり、その分、製造工程が複雑となる。また、縦壁と横壁とが交わるコーナー部に孔を形成しているため、コーナー部の剛性が下がってしまい、縦壁と横壁との曲げ形状を保持する上で不利になる。また上方からの衝撃荷重によって前記縦壁が下方に移動し、車体の骨格部材に当たると、いわゆる底突きを生じて荷重が急速に立ち上がる特性となるため、衝撃エネルギーを吸収しにくくなってしまう。
【0006】
従って本発明の目的は、車体前部に上方から入力する衝撃荷重を効果的に吸収することができる自動車の車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車体構造は、エンジンルームの両側に配置されたフェンダパネルと、前記エンジンルームの内側に配置されたフェンダシールドパネルとを有する車体構造であって、前記フェンダパネルは、それぞれ、車体の外側に位置する外面部と、前記外面部の上端から車体内側で下方に延びる縦壁と、前記縦壁の下端から折曲部を境に車体の幅方向に延び前記フェンダシールドパネルの上面壁に対向する横壁と、前記横壁に形成されて下方に突出する下向きビードと、前記下向きビードの内側に形成された変形促進手段とを具備している。
【0008】
本発明の好ましい形態では、前記下向きビードと前記変形促進手段が、前記折曲部に沿って車体の前後方向の複数箇所に形成されている。また前記フェンダパネルの前記折曲部に、前記縦壁と前記横壁とにわたるコーナービードが形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フェンダパネルの上端部付近に上方から衝撃荷重が入力した場合でも、前記縦壁が下向きビードを備え、エンジンルームを覆うフード部材と前記横壁との間に空間が確保されているため、フード部材の前記横壁への接触を緩和できる。また、万一、上方からの荷重によって前記下向きビードの下面がフェンダシールドパネルの上面壁に当たる位置付近まで変形したとしても、前記横壁がフェンダシールドパネルの上面壁に底突きする前に、前記変形促進手段およびその周囲が変形することにより、衝突エネルギーの一部が吸収される。このため、上方からの衝撃エネルギーを効果的に吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の1つの実施形態について、図1から図8を参照して説明する。
図1は自動車10の前部を示している。この自動車10は車体11を有している。図2は、車体11の前部の上部の車体構造12を示している。車体構造12は、エンジンルーム15の上方を覆うフード部材16(図1に示す)と、フード部材16の両側に配置された左右一対のフェンダパネル17などを含んでいる。図2はフード部材16を省略して描いている。図5等に示すようにフード部材16は、アウタパネル16aとインナパネル16bによって構成されている。
【0011】
図2に示されるようにエンジンルーム15の前部に、車体11の幅方向Wに延びるラジエータサポート部材等の車体部材20が設けられている。車体11の最前部にフロントバンパ21が配置されている。エンジンルーム15の後部には、車体11の幅方向Wに延びるカウルトップ部材等の車体部材22が設けられている。フェンダパネル17の内側にフロントホイールハウスを構成するフロントフェンダエプロン23が設けられている。
【0012】
フロントフェンダエプロン23の上側に、フェンダシールドパネル27(図4と図6に一部を示す)が設けられている。フェンダシールドパネル27は、エンジンルーム15の内側に配置されている。フェンダシールドパネル27は、上下方向に延びる側壁27aと、側壁27aの上端に形成された上面壁27b(図6等に示す)とを有している。上面壁27bは略水平となるように折曲され、車体11の前後方向に延びている。
【0013】
一対のフェンダパネル17は左右対称形であり、互いに共通の構成であるため、図3〜図7に示された一方のフェンダパネル17を代表して、以下に説明する。
フェンダパネル17は、板金をプレスすることによって下記の形状に成形されている。フェンダパネル17は、車体11の外側に位置する外面部30と、外面部30の上端から車体内側で下方に延びる縦壁31と、縦壁31の下端から折曲部32を境に車体11の幅方向W(図2に示す)に延びる横壁33などを含んでいる。外面部30は車体11の外面の一部をなしている。
【0014】
図6に示すように縦壁31と横壁33とは、車体11の内側すなわちエンジンルーム15の内部側に位置しており、フード部材16が閉じた状態においてフード部材16の側縁部16cの内側に隠れるようになっている。縦壁31は上下方向に延びており、フード部材16と、縦壁31と、横壁33との間に空間Sが形成されている。縦壁31の上端は、プレスによって折曲げられた稜線部35を介して外面部30に連なっている。縦壁31の下端は折曲部32を介して横壁33に連なっている。
【0015】
横壁33は略水平であり、車体11の幅方向Wに延びている。そしてこの横壁33の下面がフェンダシールドパネル27の上面壁27bと対向している。横壁33の端縁33aは、曲げ剛性を高めるために断面が湾曲した曲げ縁形状に成形されている。
【0016】
縦壁31と横壁33とが交わる折曲部32に、縦壁31と横壁33とにわたってコーナービード37が形成されている。コーナービード37は、折曲部32に沿って車体11の前後方向に所定間隔で複数箇所に形成されている。コーナービード37によって、折曲部32の剛性が高められている。
【0017】
図5に示すように、フェンダパネル17の横壁33の車体前側の部位は、結合部40において、ボルト41とナット42等の締結用部材によって、車体部材20に固定されている。ボルト41は、フェンダパネル17に形成された孔43(図3に示す)に挿入されている。図2に示すようにフェンダパネル17の横壁33は、結合部45において、ボルト46等の締結用部材によって、フェンダシールドパネル27の上面壁27bに固定されている。
【0018】
前記結合部40,45を除く非結合部48では、図6に示すように、フェンダパネル17の横壁33の下面とフェンダシールドパネル27の上面壁27bとの間が離れていて、横壁33と上面壁27bとの間に隙間Gが形成されている。
【0019】
フェンダパネル17の横壁33に下方に突出する下向きビード50が形成されている。詳しくは、横壁33と上面壁27bとにより形成される前記隙間Gに突出して下向きビード50が形成されている。隙間Gが下向きビード50を形成するのに十分でない場合は、下向きビード50の下方への突出量を隙間Gに収まる程度に小さくしてもよい。なお、フェンダシールドパネル27の位置を下方に移動させることにより、下向きビード50を形成することのできる隙間Gを確保してもかまわない。下向きビード50は、フェンダパネル17がプレス加工される際に、フェンダパネル17に生じる余肉による皺を吸収する機能も有している。
【0020】
図3に示すように下向きビード50は、車体11の上方から見て、縦壁31に近い側に形成された半円形の部分50aと、横壁33の端縁33aに連なるストレートな形状の部分50bとによって構成されている。この下向きビード50は、前記折曲部32に沿って、車体11の前後方向の複数箇所(例えば3箇所)に形成されている。下向きビード50の近傍に前記コーナービード37が形成されている。
【0021】
下向きビード50の内側に、それぞれ、変形促進手段として機能する円形の孔55が形成されている。孔55は、横壁33を上下方向(板厚方向)に貫通している。これらの孔55は、横壁33をプレス成形する際に、下向きビード50と同時に形成することができる。孔55は、横壁33の幅方向の中央よりも折曲部32に寄った位置に形成されている。すなわち孔55は、折曲部32の近傍に形成されている。下向きビード50の内側に孔55が形成されていることにより、横壁33の折曲部32付近の剛性を意図的に下げている。
【0022】
図7は、衝撃試験においてフェンダパネル17の上方からインパクト部材60によって衝撃荷重Fを入力した状態を示している。上方から衝撃荷重Fが入力すると、フード部材16の一部が変形して下方へ変位するとともに、縦壁31付近も下方に押されて下方に移動する。
【0023】
本実施形態では、横壁33に下向きビード50が形成され、フード部材16と横壁33との間に空間Sが確保されているため、フード部材16の側縁部16cが変形した場合でも、横壁33との接触が緩和される。また、縦壁31と横壁33とが交わる折曲部32にコーナービード37が形成され、しかも横壁33に孔55が形成されているため、縦壁31に上方からの衝撃荷重Fが入力すると、縦壁31が座屈することなく下方に移動するとともに、下向きビード50の下面がフェンダシールドパネル27の上面壁27bへ接触すると、横壁33の孔55の近傍の剛性の小さい部位が塑性変形する。このため衝撃エネルギーを効果的に吸収することができる。図8中の実線L1は、本実施形態の車体構造12を備えた自動車の前部に、前記衝撃荷重が加わったときの変位と荷重との関係を示している。図8中の破線L2は、従来の車体構造の変位と荷重との関係を示している。従来は、変位が大きくなると荷重が急激に立ち上がることにより、ピークPが現れている。
【0024】
これに対し本実施形態によれば、上方からの衝撃荷重が入力し、下向きビード50の下面がフェンダシールドパネル27の上面壁27bに当たる位置付近まで変形したときに、フェンダパネル17の横壁33に形成された孔55の縦壁31寄りの部分が下方に変形することができ、横壁33がフェンダシールドパネル27の上面壁27bに突き当たる「底突き」を抑制できる。
【0025】
すなわちフェンダパネル17の横壁33とフェンダシールドパネル27の上面壁27bとの間に隙間Gが確保されているため、上方からの衝撃荷重Fによって横壁33がフェンダシールドパネル27の上面壁27bに突き当たる現象、いわゆる「底突き」が抑制される。このため、変位が大きくなったときの荷重の増加が比較的緩やかな特性となり、頭部等の傷害値を下げることができる。
【0026】
本実施形態では、横壁33に下向きビード50が設けられているため、上方からの衝撃荷重Fによって、万一、横壁33がフェンダシールドパネル27の上面壁27bに突き当たる位置付近まで変形しても、底突き直前に下向きビード50の下面がフェンダシールドパネル27の上面壁27bに当たり、下向きビード50およびその周囲が変形することにより、衝突エネルギーの一部を効果的に吸収することができる。
【0027】
またフェンダパネル17の横壁33に下向きビード50が設けられているため、フェンダパネル17のプレス成形の際に生じる余肉を下向きビード50によって吸収することができ、フェンダパネル17の上部に皺が生じることを防止できる。しかもプレス成形の際に下向きビード50と孔55を同時に形成することが可能である。
【0028】
なお本発明を実施するに当たり、車体構造を構成するフェンダパネルやフェンダシールドパネル、フード部材をはじめとして、前記縦壁や横壁、下向きビード、孔など、発明の構成要素の形状や配置などを適宜変形して実施できることは言うまでもない。また、前記実施形態では変形促進手段として円形の孔55で説明したが、下向きビード50の変形を促進するものであれば、切欠きやスリット、板厚の薄肉化等の脆弱部からなる変形促進手段を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る車体構造を備えた自動車の前部の斜視図。
【図2】図1に示された自動車の車体構造を上方から見た平面図。
【図3】図2に示された車体のフェンダパネルの一部の平面図。
【図4】図3に示されたフェンダパネルの一部の斜視図。
【図5】図4中のF5−F5線に沿う車体構造の断面図。
【図6】図4中のF6−F6線に沿う車体構造の断面図。
【図7】図6に示された部位が衝撃試験により変形した状態を示す断面図。
【図8】図6に示された部位に衝撃荷重を加えたときの変位と荷重との関係を示す図。
【符号の説明】
【0030】
10…自動車
11…車体
12…車体構造
15…エンジンルーム
16…フード部材
17…フェンダパネル
27…フェンダシールドパネル
27b…上面壁
30…外面部
31…縦壁
32…折曲部
33…横壁
37…コーナービード
40,45…結合部
48…非結合部
50…下向きビード
55…孔
G… 隙間
S… 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームの両側に配置されたフェンダパネルと、前記エンジンルームの内側に配置されたフェンダシールドパネルとを有する車体構造であって、
前記フェンダパネルは、それぞれ、
車体の外側に位置する外面部と、
前記外面部の上端から車体内側で下方に延びる縦壁と、
前記縦壁の下端から折曲部を境に車体の幅方向に延び前記フェンダシールドパネルの上面壁に対向する横壁と、
前記横壁に形成されて下方に突出する下向きビードと、
前記下向きビードの内側に形成された変形促進手段と、
を具備したことを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項2】
前記下向きビードと前記変形促進手段が、前記折曲部に沿って車体の前後方向の複数箇所に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車の車体構造。
【請求項3】
前記フェンダパネルの前記折曲部に、前記縦壁と前記横壁とにわたるコーナービードが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−64602(P2010−64602A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232475(P2008−232475)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】