説明

自動車用シール製品

【課題】 パイル植毛を施した自動車用のシール製品において、水の室内への侵入および異音の発生を防止することのできるものを提供する。
【解決手段】 製品本体2の摺接部にパイル植毛3を施したものであって、前記パイル植毛3に、含水して膨張した際に前記製品本体2を覆う量の吸水性ポリマー4を付着させる。吸水性ポリマー4を、分散剤を介して略均等に分散して付着させるのが好ましい。パイル植毛3をナイロンパイルで構成し、吸水性ポリマー4としてポリアクリル酸ナトリウムを使用し、分散剤としてナイロンパイルに密着する極性基を有する変性ポリオレフィンを含む溶剤を使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のベルトラインインナーやベルトラインアウター、あるいはグラスランチャンネルなどの摺接部にパイルを植毛したシール製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用のシール製品であるベルトラインインナーやベルトラインアウター、あるいはグラスランチャンネルには、ドアガラスと摺接する摺接部に、コーティングや樹脂被覆を施したものがある(例えば、特許文献1参照)。また、それらに代えて、ドアガラスを傷めず、かつ高級感を現出することのできるパイル植毛を施したものがある。
【特許文献1】特開2003−200738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの自動車用シール製品は必然的に水(雨水や洗車水等)と接触することが多いが、パイル植毛はコーティングや樹脂被覆に比べて水密性や被覆性が低いため、水が室内へ侵入し易いといった問題がある。また、特にガラスが濡れている場合には、ガラスと製品本体、あるいはガラスと濡れたパイル植毛との摩擦によって異音が発生するといった問題もある。
【0004】
本発明は、こうした点に鑑み創案されたもので、パイル植毛を施した自動車用のシール製品において、水の室内への侵入および異音の発生を防止することのできるものを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
図1乃至図5を参照して説明する。請求項1に記載の自動車用シール製品1は、製品本体2の摺接部にパイル植毛3を施したものであって、前記パイル植毛3に、含水して膨張した際に前記製品本体2を覆う量の吸水性ポリマー4を付着させたものである。
【0006】
請求項2に記載の自動車用シール製品1は、製品本体2の摺接部にパイル植毛3を施したものであって、前記パイル植毛3に、含水して膨張した際に前記製品本体2を覆う量の吸水性ポリマー4を、分散剤を介して略均等に分散して付着させたものである。
【0007】
請求項3に記載の自動車用シール製品1は、請求項1および2に記載の発明において、パイル植毛3がナイロンパイルで施され、吸水性ポリマー4がポリアクリル酸ナトリウムであり、分散剤が、前記ナイロンパイルに密着する極性基を有する変性ポリオレフィンを含むものである。
【0008】
請求項4に記載の自動車用シール製品1は、請求項1乃至3に記載の発明において、当該シール製品1が、ドアガラス5に摺接するベルトラインインナー、ベルトラインアウター、またはグラスランであるものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の自動車用シール製品1は、製品本体2の摺接部にパイル植毛3を施したものにおいて、パイル植毛3に、含水して膨張した際に製品本体2を覆う量の吸水性ポリマー4を付着させたので、水密性および被覆性を向上させることができる。
【0010】
こうして水密性を向上させたことにより、水がパイル植毛3を通過して室内へ侵入するといった事態を未然に防止することができる。また、被覆性を向上させたことによって、製品本体2が被摺接物(ドアガラス5等)に直接摺接するのを阻止して、異音の発生を防止することができる。また、含水し膨張した吸水性ポリマー4は摩擦係数が小さく、またクッション性に富むので、パイル植毛3をこの吸水性ポリマー4を介してドアガラス5等に摺接させることで異音の発生を効果的に防ぐことができる。
【0011】
請求項2に記載の自動車用シール製品1は、パイル植毛3に、含水して膨張した際に製品本体2を覆う量の吸水性ポリマー4を、分散剤を介して略均等に分散して付着させたので、水密性および被覆性を確実に向上させることができる。これにより、水の室内への侵入および異音の発生を、さらに確実に防止することができる。
【0012】
請求項3に記載の自動車用シール製品1は、請求項1および2に記載の発明と同様の効果を発揮する。また、パイル植毛3がナイロンパイル3aで施され、吸水性ポリマー4がポリアクリル酸ナトリウムであり、分散剤が、ナイロンパイルに密着する極性基を有する変性ポリオレフィンを含むので、吸水性ポリマー4を分散剤で効果的に分散して、パイル植毛3に強固に付着させることができる。
【0013】
これによって、含水し膨張した吸水性ポリマー4で製品本体2を確実に覆うことができるので、水密性と被覆性をより高め、水の侵入と異音の発生をさらに効果的に防止することができる。
【0014】
請求項4に記載の自動車用シール製品1は、当該シール製品1が、ドアガラス5に摺接するベルトラインインナー、ベルトラインアウター、またはグラスランであるので、水が、これらシール製品1とドアガラス5との間から室内へ侵入するのを防止することができる。また、これらシール製品1がドアガラス5に摺接した際の異音の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る自動車用シール製品1の実施形態を、図1乃至図3に示す。この自動車用シール製品1は、昇降動するドアガラス5に摺接するベルトラインインナーであり、製品本体2の摺接部(シールリップの摺接面)に無数のパイル3aによってパイル植毛3を施したものである。
【0016】
そして、このパイル植毛3に、吸水性ポリマー4を分散剤と混合し、それをスプレー、刷毛、あるいはロールコーターなどを使用して供給し付着させている(図2参照)。この吸水性ポリマー4の量は、それが含水して膨張した際に製品本体2の表面を隙間なく覆うことができる程度に設定している(図3参照)。これにより、シール製品1の水密性および被覆性を向上させている。
【0017】
水密性を向上させたことにより、水が植毛パイルを通過して室内へ侵入するといった事態を未然に防止することができる。また、被覆性を向上させたことによって、製品本体2がドアガラス5等に直接摺接するのを阻止して、異音の発生を防止することができる。
【0018】
含水し膨張した吸水性ポリマー4は摩擦係数が小さく、またクッション性に富み粘性を発現するので、パイル植毛3をこの吸水性ポリマー4を介してドアガラス5等に摺接させることで異音の発生を効果的に防ぐことができる。また、吸水性ポリマー4を、分散剤を介して略均等に分散して付着させているので、水密性および被覆性を確実に向上させて、水の室内への侵入および異音の発生を、さらに確実に防止している。
【0019】
なお、本実施形態では、パイル植毛3を無数のナイロンパイル3aで構成している。また、吸水性ポリマー4としてポリアクリル酸ナトリウムを使用し、分散剤として、ナイロンパイルに密着する極性基を有する変性ポリオレフィン(例えば、三井化学(株)製の「ユニストールP401」)をベースとした溶剤を使用している。なお、分散剤は、上記のものに限定されないが、吸水性ポリマー4をパイル植毛3に化学的に結合させて接着させるものが好ましい。分散剤としては、上記の他に、トルエン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンやこれらの混合剤を使用することができる。
【0020】
これによって、吸水性ポリマー4を分散剤で効果的に分散して、パイル植毛3に強固に付着させることができる。また、含水し膨張した吸水性ポリマー4で製品本体2を確実に覆うことができる。従って、水密性と被覆性をより高めて、水の侵入と異音の発生をさらに効果的に防止することができる。吸水性ポリマー4は、パイル植毛3を構成する無数のパイル3aと絡み合うため脱落し難く、よって持続性があり、長期の使用に耐えることができるといった利点もある。
【0021】
なお、上記実施形態におけるシール製品1はベルトラインインナーであるが、ベルトラインアウター(図4参照)やグラスラン(図5)に適用することができる。
【0022】
本発明者らは、本発明に係るシール製品1のシール効果と異音発生防止効果を実験によって確認した。
【0023】
(イ)シール効果の実験
この実験は、図6に示すように、まず、吸水性ポリマー4(粒径:20μm、吸水力:自重の2倍)を分散剤の固形分に対して4%添加したものをパイル植毛3に塗布してサンプル10(10mm×50mm)を作成した。そして、そのサンプル10をガラス11に、パイル植毛3を当てた状態で面圧1MPaで押し当て、ガラス11とサンプル10の間に2mlの水Wを滴下した。その後、パイル植毛3を通過してその下方部に侵入する水Wの有無を、サンプル直下に配置した吸水性ペーパー15に対する水Wの染み具合を目視で確認した。同様に、吸水性ポリマー4を塗布していないサンプル(従来製品)を作成し、実験した。この実験結果を、表1に示す。
【0024】
【表1】




【0025】
この実験によって、本発明製品では水漏れが発生せず、よってシール効果(水密性)に優れることを確認した。
【0026】
(ロ)異音発生防止効果
用語の説明
摩擦係数=(接触平面と平行な方向に加わる力)÷(接触平面に加わる垂直方向の力)
摩擦抵抗力=(摩擦係数)×(接触平面に加わる垂直方向の力)
【0027】
この実験は、図7に示すように、まず、吸水性ポリマー4をパイル植毛3に付着させたサンプル10を作成し、パイル植毛3を上側にした状態で、そのサンプル10を新東科学株式会社製ヘイドン摩擦測定機12に上載した。そして、パイル植毛3に水Wを滴下したのち、その上面にガラス製時計皿13を押し当て、おもり14によって100gfの荷重を作用させた状態で、1000mm/分の速度で平行移動させた。同様に、吸水性ポリマー4を付着させていないサンプル(従来製品)を作成し、実験した。
【0028】
この実験のデータを図8に示す。同図における横軸は時間(秒)を示す。また、その結果を表2に示す。
【0029】
【表2】








【0030】
本発明製品は、図8に示すように、摩擦抵抗力を示す波形の振動幅が小さく、これによって異音を発生しないことを確認した。これに対する従来製品は、同図に示すように、摩擦抵抗力を示す波形の振動幅が大きく、これによって異音を発生していることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る自動車用シール製品の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に示すシール製品の要部拡大図である(吸水性ポリマーが含水していない状態)。
【図3】図1に示すシール製品の要部拡大図である(吸水性ポリマーが含水している状態)。
【図4】本発明に係る自動車用シール製品の他の実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明に係る自動車用シール製品のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【図6】シール効果の実験を示すもので、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図7】異音発生防止効果の実験を示す正面図である。
【図8】異音発生防止効果の実験データを示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
1 シール製品
2 製品本体
3 パイル植毛
3a パイル
4 吸水性ポリマー
5 ドアガラス
10 サンプル
11 ガラス
12 ヘイドン摩擦測定機
13 ガラス製時計皿
14 おもり
15 ペーパー
W 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品本体(2)の摺接部にパイル植毛(3)を施した自動車用のシール製品であって、
前記パイル植毛に,含水して膨張した際に前記製品本体を覆う量の吸水性ポリマー(4)を付着させたことを特徴とする自動車用シール製品。
【請求項2】
製品本体(2)の摺接部にパイル植毛(3)を施した自動車用のシール製品であって、
前記パイル植毛に,含水して膨張した際に前記製品本体を覆う量の吸水性ポリマー4(を),分散剤を介して略均等に分散して付着させたことを特徴とする自動車用シール製品。
【請求項3】
パイル植毛(3)がナイロンパイルで施され、吸水性ポリマー(4)がポリアクリル酸ナトリウムであり、分散剤が、前記ナイロンパイルに密着する極性基を有する変性ポリオレフィンを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用シール製品。
【請求項4】
シール製品が、ドアガラス(5)に摺接するベルトラインインナー、ベルトラインアウター、またはグラスランであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の自動車用シール製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−116092(P2010−116092A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291903(P2008−291903)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000196107)西川ゴム工業株式会社 (454)
【Fターム(参考)】