説明

自己接着性複合補強材

下記を含むことを特徴とする、ジエンゴムマトリックスに直接接着させることができ、タイヤ用の補強用要素として使用することのできる複合補強材(R‐2):
・1本以上の補強用スレッド(20)、例えば、炭素鋼コード;
・上記単数または複数のスレッドを被覆する、ガラス転移温度がプラスである熱可塑性ポリマー、例えば、6,6ポリアミドの第1層(21);および、
・上記第1層(21)を被覆する、ガラス転移温度がマイナスである不飽和熱可塑性スチレン(“TPS”)エラストマー、例えば、SB (スチレン/ブタジエン)またはSBS (スチレン/ブタジエン/スチレン)ブロックコポリマーとポリ(p‐フェニレンエーテル) (“PPE”)とを含む組成物の第2層(22)。
そのような複合補強材の製造方法、およびそのような複合補強材を組込んでいるゴム物品または半製品、特に、タイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、例えば空気式タイヤのようなジエンゴム物品または半製品を補強するのに使用することのできる補強要素または補強材、特に、金属補強材の分野である。
本発明は、さらに詳細には、少なくとも1本のコア、特に、金属コアからなり、このコアが熱可塑性材料の1以上の層でシーズまたは被覆されているハイブリッドまたは複合タイプの補強材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属補強材を、例えば、ポリアミドまたはポリエステルのような熱可塑性材料でシーズすることは、特に、これらの補強材を酸化または磨耗のような種々のタイプの外的侵襲から保護するために或いはこれらの補強材を一緒に結合させることによって各種のスレッド群またはコードのようなスレッドアッセンブリを構造的に強化し、従って、特に、これら補強材の座屈抵抗性を増強させる目的において、極めて長い間知られている。
【0003】
そのような複合補強材は、空気式タイヤのようなゴム物品におけるその使用と一緒に、多くの特許文献に記載されている。
特許出願 EP 0 962 576号は、例えば、耐摩耗性を改良する目的で、ポリエステルまたはポリアミドのような熱可塑性材料によってシーズした鋼製またはアラミド繊維製の補強材を記載している。
特許出願 FR 2 601 293号は、金属コードをポリアミドによってシーズしてこの金属コードを空気式タイヤビード内のビードワイヤーとして使用することを記載しており、このシーズ処理は、有利なことに、このビードワイヤーの形状が、このビードワイヤーが補強するタイヤのビードの構造および操作条件に適応するのを可能にしている。
【0004】
また、特許文献 FR 2 576 247号およびUS 4,754,794号は、金属コードまたはスレッドを記載しており、これらのスレッドまたはコードを、一方ではこれらのスレッドまたはコード間の距離を調整する、また、他方では擦りによる磨耗または腐蝕のリスクを排除する目的でもって、異なる融点を有する2種または3種でさえの異なる熱可塑性材料(例えば、ポリアミド)によって二重にシーズしてまたは三重にさえシーズして、これらのスレッドまたはコードを空気式タイヤビード内のビードワイヤーとして使用している。
【0005】
ポリエステルまたはポリアミド材料によってそのようにしてシーズしたこれらの補強材は、耐腐蝕性、耐摩耗性および構造的剛性という上記の利点は別にして、その後、ジエンゴムマトリックスに、少なくとも1種のジエンエラストマー、例えば、天然ゴムを含むRFL (レゾルシノール・ホルムアルデヒド・ラテックス)接着剤と称する単純な織物用接着剤を使用して結合させることができるというこれら補強材の無意味ではない利点を有し、これらの接着剤は、ポリエステルまたはポリアミド繊維のような織物繊維とジエンゴムとの間に満足し得る接着をもたらすことが知られている。
【0006】
従って、黄銅によるような接着性金属層によってコーティーングされてなく、さらにまた、コバルト塩のような金属塩を含有しないゴムマトリックスを取巻いている金属補強材を使用することが有利であり得る;金属塩は、知られている通り、接着特性を経時的に保持するのに必要であるが、一方ではゴムマトリックス自体のコストを、他方ではゴムマトリックスの酸化およびエージング感受性を有意に増大させる(例えば、特許出願 WO 2005/113666号を参照されたい)。
【0007】
しかしながら、上記RFL接着剤は、欠点がない訳ではない:特に、RFL接着剤は、主物質として、ホルムアルデヒド、即ち、このタイプの製品に関するヨーロッパ法規の最近の変更によって接着剤組成物から長期に亘って排除することが望ましいという物質を含有している。
従って、ジエンゴム物品の設計者、特に、タイヤ製造業者は、現在、上記の欠点の全部または幾つかを軽減することのできる新たな接着剤系または新たな補強材を見出すことを目標としている。
【発明の概要】
【0008】
今回、研究中に、本出願人等は、上記の目的を達成することを可能にする、ゴムに直接接着させ得る新規な複合補強材を見出した。
結果として、本発明の第1の主題は、下記を含むことを特徴とする複合補強材である:
・1本以上の補強用スレッド;
・上記単数または複数のスレッドを被覆する、ガラス転移温度がプラスである熱可塑性ポリマーの第1層;および、
・上記第1層を被覆する、ガラス転移温度がマイナスである不飽和熱可塑性スチレン(“TPS”)エラストマーとポリ(p‐フェニレンエーテル) (“PPE”)とを含む組成物の第2層。
【0009】
予期に反して、この熱可塑性スチレンエラストマーの存在が、本発明の複合補強材がタイヤにおいて広く使用されているエラストマーマトリックスまたは組成物のようなジエンエラストマーマトリックスまたは組成物に直接且つ強力に接着することを確実に可能にすることを見出した。
【0010】
本発明のもう1つの主題は、複合補強材の製造方法であり、該方法は、少なくとも下記の工程を含むことを特徴とする:
・少なくとも1本の補強用スレッドを、プラスのガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーの層で被覆する工程;
・マイナスのガラス転移温度を有する不飽和熱可塑性スチレン(“TPS”)エラストマーとポリ(p‐フェニレンエーテル) (“PPE”)とを含む組成物の第2層を、そのようにして被覆した上記スレッド(1本以上)上に付着させる工程;および、
・アッセンブリを熱‐酸化処理に供して上記2つの層を一緒に結合させる工程。
【0011】
また、本発明は、本発明の複合補強材の、ゴム物品または半製品、特に、タイヤ、特に、乗用車タイプの自動車;SUV (“スポーツ用多目的車”)類;二輪車(特に自転車およびオートバイ);航空機;または、バン類、“重量”車両(即ち、地下鉄列車、バス、道路輸送車(トラック、トラクター、トレーラー)、農業用および土木工学機械のような道路外車両)、および他の輸送または操作用車両から選ばれる産業用車両に装着することを意図するタイヤにおける補強用要素としての使用にも関する。
【0012】
また、本発明は、それ自体、本発明に従う複合補強材を含む任意のゴム物品または半製品、特に、タイヤにも関する。
本発明およびその利点は、以下の説明および実施態様をこれらの実施態様に関連する添付図面と一緒に考慮すれば容易に理解し得るであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に従う複合補強材の1つの例を断面において略図的に示す。
【図2】本発明に従う補強材のもう1つの例を断面において略図的に示す。
【図3】本発明に従う補強材のもう1つの例を断面において略図的に示す。
【図4】本発明に従う補強材のもう1つの例を断面において略図的に示す。
【図5】半径断面において、本発明に従う複合補強材を組込んでいる本発明に従うラジアルカーカス補強用部材を有するタイヤを略図的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本説明においては、他で明確に断らない限り、示す百分率(%)は、全て質量%である。
さらにまた、“aとbの間”なる表現によって示される値の範囲は、いずれも、aよりも大きいから出発しbよりも小さいに至る値の範囲を示し(即ち、限界値aとbを除く)、一方、“a〜b”なる表現によって示される値の範囲は、いずれも、aから出発しbに至る値の範囲を意味する(即ち、厳格な限定値aおよびbを含む)。
【0015】
不飽和ゴム組成物に直接接着させることができ、特にタイヤのようなジエンゴム物品を補強するのに使用することができる本発明の複合補強材は、結果として、下記を含むという特徴を有する:
・少なくとも1本の補強用スレッド(即ち、1本以上の補強用スレッド);
・上記単数または複数のスレッドを被覆する、ガラス転移温度(以下、Tg1で示す)がプラスである(即ち、0℃よりも高い)熱可塑性ポリマーの第1層;および、
・上記第1層を被覆する、ガラス転移温度(以下、Tg2で示す)がマイナスである(即ち、0℃よりも低い)少なくとも1種の熱可塑性スチレン(“TPS”)エラストマーとポリ(p‐フェニレンエーテル) (“PPE”)とを含む組成物の第2層。
【0016】
換言すれば、本発明の複合補強材は、1本の補強用ヤーンまたは複数本の補強用ヤーンを含み、各補強用ヤーンは、2つの異なる熱可塑性ポリマーの重ね合せ層によって被覆されている。本発明の補強材の構造を、以下で詳細に説明する。
【0017】
本出願においては、用語“補強用スレッド”は、一般に、その断面(この断面の形状、例えば、円形、楕円形、長方形、正方形、それとも平面形の如何にかかわらない)に対して大きい長さを有する任意の細長い要素を意味するものと理解されたい;このスレッドは、直線または非直線、例えば、撚り形または波形であり得る。
【0018】
この補強用スレッドは、任意の既知の形状を有し得る。例えば、大直径(例えば、好ましくは50μm以上)の個々のモノフィラメント、個々のリボン、マルチフィラメント繊維(典型的には30μm未満の小直径を有する複数の個々のフィラメントからなる)、一緒に撚り合せた複数本の繊維から形成された織物合撚糸(textile folded yarn)、一緒にケーブル被覆または撚り合せた複数本の繊維またはモノフィラメントから形成された繊維または金属コード、或いは、例えば、一緒に集束させた、例えば直線または非直線いずれかの主方向に沿って配列させた複数本のこれらのモノフィラメント、繊維、合撚糸またはコードを含むバンドまたはストリップのようなスレッドの束、列であり得る。
上記または各補強用スレッドは、好ましくは5mmよりも小さい、特に、0.1〜2mmの範囲内の直径を有する。
【0019】
好ましくは、上記補強用スレッドは、金属補強用スレッド、特に、タイヤ用のスチールコードにおいて使用する鋼線のような炭素鋼線である。しかしながら、他のタイプの鋼、例えば、ステンレススチールを使用することも勿論可能である。炭素鋼を使用する場合、その炭素含有量は、好ましくは0.4%と1.2%の間、特に0.5%と1.1%の間の量である。本発明は、特に、標準強度またはNT (“普通引張(Normal Tensile)”)強度、高強度またはHT (“高引張(High Tensile)”)強度、超高強度またはSHT (“超高引張(Super High Tensile)”)強度、或いは極超高強度またはUHT (“極超高引張(Ultra High Tensile)”)強度を有するスチールコードタイプの任意の鋼に当てはまる。
【0020】
上記の鋼は、黄銅または亜鉛の層のような接着性層によってコーティーングし得る。しかしながら、光沢のある、即ち、コーティーングしていない鋼も使用し得る。さらにまた、本発明によれば、本発明に従う金属補強材によって補強することを意図するゴム組成物は、もはや、その配合においてコバルト塩のような金属塩の使用を必要としない。
【0021】
第1層即ち上記または各補強用ヤーンを被覆するシーズは、定義により、好ましくは+20℃よりも高い、より好ましくは+30℃よりも高い、プラスのTg (Tg1)を有する熱可塑性ポリマーによって形成する。さらにまた、この熱可塑性ポリマーの融点(Tm)は、好ましくは100℃よりも高く、より好ましくは150℃よりも高く、特に200℃よりも高い。
【0022】
この熱可塑性ポリマーは、好ましくは、ポリアミド、ポリエステルおよびポリイミドからなる群の中から、特に、脂肪族ポリアミドおよびポリエステルによって形成される群から選ばれる。ポリエステルのうちでは、例えば、PET (ポリエチレンテレフタレート)、PEN (ポリエチレンナフタレート)、PBT (ポリブチレンテレフタレート)、PBN (ポリブチレンナフタレート)、PPT (ポリプロピレンテレフタレート)およびPPN (ポリプロピレンナフタレート)を挙げることができる。脂肪族ポリアミドのうちでは、特に、ポリアミド4,6、6、6,6、11および12を挙げることができる。この熱可塑性ポリマーは、好ましくは脂肪族ポリアミド、より好ましくは6,6ポリアミドである。
【0023】
第2層即ち上記第1層を被覆するシーズは、Tg (Tg2)が、定義すれば、マイナスであって、好ましくは−20℃よりも低い、より好ましくは−30℃よりも低い不飽和熱可塑性スチレンエラストマーを先ずは第1に含む組成物によって形成される。
従って、また、本発明の好ましい実施態様によれば、上記第1層の熱可塑性ポリマーと第2層の不飽和TPSエラストマーとの間のガラス転移温度の差(Tg1−Tg2)は、40℃よりも大きく、より好ましくは60℃よりも大きい。
【0024】
TPS (熱可塑性スチレン)エラストマーは、スチレン系ブロックコポリマーの形の熱可塑性エラストマーであることを思い起されたい。これらの熱可塑性エラストマーは、熱可塑性ポリマーとエラストマーの中間の構造を有し、知られている通り、エラストマー軟質配列、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレンまたはポリ(エチレン/ブチレン)配列が結合したポリスチレン硬質配列から構成される。
【0025】
このことが、知られている通り、TPSコポリマーが、一般に、2つのガラス転移ピーク、即ち、TPSコポリマーのエラストマーブロックに関連する第1(低い、Tg2に相当するマイナスの温度)ピークと、一方のTPSコポリマーの熱可塑性(スチレンブロック)部分に関連する第2(高い、プラスの温度、典型的にはおよそ80℃以上で)ピークの存在に特徴を有する理由である。
【0026】
これらのTPSエラストマーは、多くの場合、1つの軟質セグメントよって連結された2つの硬質セグメントを有するトリブロックエラストマーである。硬質および軟質セグメントは、線状形で或いは星型または枝分れ構造で配列させ得る。また、これらのTPSエラストマーは、1つの軟質セグメントに結合した1つの硬質セグメントを有するジブロックエラストマーでもあり得る。典型的には、これらのセグメントまたはブロックの各々は、最低でも5個よりも多い、一般的には10個よりも多い基本単位(例えば、スチレン/イソプレン/スチレンブロックコポリマーの場合のスチレン単位とイソプレン単位)を有する。
【0027】
注記すれば、本発明の複合補強材において使用するTPSエラストマーの第1の本質的な特徴は、上記TPSエラストマーが不飽和であるという事実である。“TPSエラストマー”なる表現は、定義によれば、また、周知の通り、エチレン系不飽和基を含有するTPSエラストマーであると理解されたい、即ち、上記TPSコポリマーは、炭素‐炭素二重結合(共役型または非共役型のいずれか)を含有する。逆に、飽和TPSエラストマーは、勿論、そのような二重結合を含有しないTPSエラストマーである。
【0028】
好ましくは、上記不飽和エラストマーは、スチレン(即ち、ポリスチレン)ブロックと、ジエン(即ち、ポリジエン)ブロック、特に、イソプレン(ポリイソプレン)またはブタジエン(ポリブタジエン)ブロックとを含むコポリマーである。そのようなエラストマーは、特に、スチレン/ブタジエン(SB)、スチレン/イソプレン(SI)、スチレン/ブタジエン/ブチレン(SBB)、スチレン/ブタジエン/イソプレン(SBI)、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン(SBBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)、スチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン(SBIS)の各ブロックコポリマー、およびこれらコポリマーのブレンドからなる群の中から選ばれる。
【0029】
さらに好ましくは、この不飽和エラストマーは、スチレン/ブタジエン(SB)、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/イソプレン(SI)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)の各ブロックコポリマー、およびこれらのコポリマーのブレンドからなる群の中から選ばれるジブロックまたはトリブロックタイプのコポリマーである。
【0030】
用語“スチレン”は、本説明においては、非置換または置換いずれかの任意のスチレン系モノマーを意味するものと理解すべきである。置換スチレンのうちでは、例えば、以下を挙げることができる。メチルスチレン(例えば、α‐メチルスチレン、β‐メチルスチレン、p‐メチレンスチレンおよびtert‐ブチルスチレン)およびクロロスチレン(例えば、モノクロロスチレンおよびジクロロスチレン)。
【0031】
本発明のもう1つの好ましい実施態様によれば、上記不飽和TPSエラストマー中のスチレン含有量は、5%と50%の間である。上記の範囲外では、意図する技術的効果、即ち、一方の上記熱可塑性ポリマーの層に対しての、また、他方の上記補強材の使用を意図するジエンエラストマーに対しての接着性妥協点がもはや最適でなくなるリスクが存在する。これらの理由により、スチレン含有量は、さらに好ましくは、10%と40%の間である。
【0032】
上記TPSエラストマーの数平均分子量(Mn)は、好ましくは5000g/モルと500,000g/モルの間、より好ましくは7000g/モルと450,000g/モルの間である。
例えば、SB、SBS、SBBS、SI、SISまたはSBISのような不飽和TPSエラストマーは、周知であり、例えば、Kraton社から品名“Kraton D”(例えば、製品D1161、D1118、D1116およびD1163)として、Dynasol社から品名“Calprene”(例えば、SBSエラストマーの例における製品C405、C411およびC412)、或いはAsahi社からの品名“Tuftec”(例えば、SBBSエラストマーの例における製品P1500)として商業的に入手可能である。
【0033】
次に、上記第2層の組成物は、上記不飽和TPSエラストマーと組合せて、少なくとも1種のポリ(パラ‐フェニレンエーテル)ポリマー(“PPE”と略記する)を含むというもう1つの本質的な特徴を有する。
PPE熱可塑性ポリマーは、当業者にとって周知である;これらは、室温(20℃)で固体であり、スチレンポリマーと相溶性のある樹脂であり、特に、TPSエラストマーのTgを上昇させるのに使用されている(例えば、Tucker, Barlow and Paul, Macromolecules, 21, 1678‐1685, (1988)による“Thermal, Mechanical and Morphological Analyses of Poly(2,6‐dimethyl‐1,4‐phenylene oxide)/Styrene‐Butadiene‐Styrene Blends”を参照されたい)。
【0034】
好ましくは、本発明において使用するPPEは、150℃よりも高い、より好ましくは180℃よりも高いガラス転移温度(以下、Tg3で示す)を有する。その数平均分子量(Mn)は、好ましくは、5000g/モルと100000g/モルの間である。
【0035】
上記数平均分子量(Mn)は、SEC (立体排除クロマトグラフィー)により、既知の方法で測定する。試験標本を、先ず、約1g/lの濃度でテトラヒドロフラン中に溶解し、その後、溶液を、0.45μmの有孔度を有するフィルター上で、注入前に濾過する。使用する装置は、WATERS Allianceクロマトグラフである。溶出溶媒はテトラヒドロフランであり、流量は0.7ml/分であり、系の温度は35℃であり、分析時間は90分である。4本のWATERS “STYRAGEL”カラムセット(HMW7カラム、HMW6Eカラムおよび2本のHT6Eカラム)を直列で使用する。ポリマー試験標本溶液の注入容量は、100μlである。検出器は、WATERS 2410示差屈折計であり、クロマトグラフデータを処理するその関連ソフトウェアは、WATERS MILLENNIUMシステムである。算出した平均分子量を、ポリスチレン標準によって得られた較正曲線と対比する。
【0036】
本発明の複合補強材において使用することのできるPPEポリマーの非限定的な例としては、特に、ポリ(2,6‐ジメチル‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2,6‐ジメチル‐コ‐2,3,6‐トリメチル‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2,3,6‐トリメチル‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2,6‐ジエチル‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2‐メチル‐6‐エチル‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2‐メチル‐6‐プロピル‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2,6‐ジプロピル‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2‐エチル‐6‐プロピル‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2,6‐ジラウリル‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2,6‐ジフェニル‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2,6‐ジメトキシ‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(1,6‐ジエトキシ‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2‐メトキシ‐6‐エトキシ‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2‐エチル‐6‐ステアリルオキシ‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2,6‐ジクロロ‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2‐メチル‐6‐フェニル‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2‐エトキシ‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2‐クロロ‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(2,6‐ジブロモ‐1,4‐フェニレンエーテル)、ポリ(3‐ブロモ‐2,6‐ジメチル‐1,4‐フェニレンエーテル)、これらそれぞれのコポリマー、およびこれらのホモポリマーまたはコポリマーのブレンドによって形成される群から選ばれるポリマーを挙げることができる。
【0037】
1つの特定の好ましい実施態様によれば、使用するPPEは、ポリフェニレンオキシド(または、略してPPO)としても知られているポリ(2,6‐ジメチル‐1,4‐フェニレンエーテル)である。そのような商業的に入手可能なPPEまたはPPOポリマーは、例えば、Asahi Kasei社からの“Xyron S202”と称するPPE、またはSabic社からの“Noryl SA120”と称するPPEである。
【0038】
好ましくは、本発明の複合補強材の第2層を形成する組成物において、PPEポリマーの量は、PPEの質量含有量が、上記TPSエラストマー自体中に存在するスチレンの質量含有量の0.05倍と5倍の間、好ましくは0.1倍と2倍の間の量であるような形に調整する。推奨する最小値よりも低いと、上記複合補強材のゴムに対する接着性が低下し、一方、上記の最大値よりも高いと、第2層を脆化するリスクが存在する。
全てこれらの理由により、PPEの質量含有量は、さらにより好ましくは、上記TPSエラストマー中のスチレンの質量含有量の0.2倍と1.5倍の間の量である。
【0039】
また、上記第2の層または組成物は、種々の添加剤を、PPEの量に対して好ましくは30質量%よりも少ない、より好ましくは20質量%よりも少ない、さらにより好ましくは10質量%よりも少ない量で含有し得る。
そのような添加剤は、例えば、不飽和TPSエラストマー以外の熱可塑性エラストマー、例えば、TPEエラストマー、或いは上記の第1層において使用するような熱可塑性ポリマーであり得、これらのエラストマーまたはポリマーの添加は、例えば、第2層の剛性を調整して、特に、第1層と第2層間に存在し得る剛性勾配を縮小することを意図する。また、そのような添加剤は、カーボンブラックまたはシリカのような補強用充填剤;非補強用または不活性充填剤;上記組成物を着色するのに使用し得る着色剤;オイルのような可塑剤;および、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、UV安定剤または他の安定剤のような保護剤であり得る。
【0040】
上記各熱可塑性ポリマーのガラス転移温度(Tg1およびTg2)は、例えば、また、本出願において明記した特段の指摘を除いて、ASTM D3418 (1999年)規格に従い、DSC (示差走査熱量測定法)によって既知の方法で測定する。
【0041】
本明細書に添付した図1は、本発明に従う複合補強材の第1の例を、断面において極めて略図的に示している(特定の縮尺で描いていない)。R‐1で示すこの複合補強材は、例えば、炭素鋼製の比較的大直径(例えば、0.10mmと0.50mmの間)を有する単一フィラメントまたはモノフィラメントからなる補強用スレッド(10)からなり、スレッド(10)は、例えば、ポリアミドまたはポリエステルから製造したプラスのガラス転移温度(Tg1)を有する熱可塑性ポリマーの第1層(11)によって被覆されており、この層の最小厚は、図1にEm1で示している。PPEとマイナスのガラス転移温度(Tg2)を有する不飽和TPS、例えば、SB、SBS、SBBS、SI、SISまたはSBISとを含む組成物の第2層(12)は、第1層(11)を被覆しており、図1にEm2で示す最小厚を有する。
【0042】
図2は、本発明に従う複合補強材の第2の例を、断面において略図的に示している。R‐2で示すこの複合補強材は、例えば、炭素鋼製の一緒に撚り合せたまたはケーブル被覆した比較的大直径(例えば、0.10mmと0.50mmの間)を有する2本の単一フィラメントまたはモノフィラメント(20a、20b)から実際になる補強用スレッド(20)からなっている。補強用スレッド(20)は、例えば、6,6 ポリアミドまたはポリエステルから製造し、最小厚Em1を有するプラスのガラス転移温度(Tg1)を有する熱可塑性ポリマーの第1層(21)内に被覆されている。PPEとマイナスのガラス転移温度(Tg2)を有する不飽和TPSエラストマー、例えば、SB、SBS、SIまたはSISとを含む組成物の、Em2の最小厚を有する第2層(22)は、第1層(21)を被覆している。
【0043】
図3は、本発明に従う複合補強材のもう1つの例を、断面において略図的に示している。R‐3で示すこの複合補強材は、各々が、例えば、鋼または炭素製の一緒に撚り合せたまたはケーブル被覆した比較的大直径(例えば、0.10mmと0.50mmの間)を有する2本のモノフィラメント(30a、30b)からなる3本の補強用スレッド(30)からなっている。例えば、上記3本の配列させた補強用スレッド(30)によって形成したアッセンブリは、プラスのガラス転移温度(Tg1)を有する熱可塑性ポリマー、例えば、ポリアミドまたはポリエステルの第1層(31)によって被覆されている。PPEとマイナスのガラス転移温度(Tg2)を有する不飽和TPSエラストマー、例えば、SB、SBS、SBBS、SI、SISまたはSBISとを含む組成物の第2層(32)は、第1層(31)を被覆している。
【0044】
図4は、本発明に従う複合補強材のもう1つの例を、ここでも断面において略図的に示している。この複合補強材R‐4は、中心線またはコア線(41a)と該中心線の周りにらせん状に一緒に巻付けた同じ直径を有する6本のフィラメント(41b)とを有する(1本+6本)構成のスチールコードからなる補強用スレッド(40)を含む。この補強用スレッドまたはコード(40)は、6,6 ポリアミドの第1層(42)で被覆されており、この第1層自体は、PPEとSBまたはSBSエラストマーとを含む組成物の第2層(43)によって被覆されている。
【0045】
例えば、上記図1〜4において略図的に示している複合補強材のような本発明に従う複合補強材においては、上記2つの層の最小厚(Em1およびEm2)は、本発明の特定の製造条件に応じて、極めて広く変動し得る。
第1層の最小厚Em1は、好ましくは1μmと2mmの間、より好ましくは10μmと1mmの間である。
【0046】
本発明の特定の実施態様によれば、第2層の最小厚Em2は、第1層の最小厚と同程度の数値を有し得るか(例えば1μmと2mmの間、特に10μmと1mmの間の厚さを有する厚い第2層の場合)、或いは明確に異なり得る。
もう1つの特定の実施態様によれば、第2層は、例えば、押出によらないでコーティーングまたはスプレー法或いは他の薄または超薄付着法によって付着させ、例えば、0.02μmと1μmの間、特に0.05μmと0.5μmの間の厚さを有する薄いまたは超薄接着層によって形成させ得る。
【0047】
複数本の補強用スレッドを使用する場合、第1および第2層は、例えば上記で説明した図1、2および4に示しているように、補強用スレッドの各々上に個々に付着させ得る(注:これらの補強用スレッドは、単一であっても或いは単一でなくてもよい)。しかしながら、第1および第2層は、例えば図3に示しているように、適切に整列させた、例えば、主方向に沿って配列させた複数本の補強用スレッド上に集合的に付着させてもよい。
【0048】
本発明の複合補強材は、少なくとも下記の工程を含む特定の方法によって製造する:
・第1工程において、先ず、少なくとも1本(即ち、1本以上)の補強用スレッドを、プラスのガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーの第1層で被覆する工程;
・次に、第2工程において、マイナスのガラス転移温度を有する不飽和熱可塑性スチレン(TPS)エラストマーとポリ(p‐フェニレンエーテル) (PPE)とを含む組成物の第2層を、そのようにして被覆した上記補強用スレッド(1本以上)上に付着させる工程;および、
・最後に、アッセンブリを熱‐酸化処理に供して上記2つの層を一緒に結合させる工程。
【0049】
最初の2工程は、当業者にとって既知の方法で、インラインまたは他の方式で連続して実施する。例えば、これらの工程は、単純に、上記補強用スレッドを適切な温度に加熱した押出ヘッド内の適切な直径のダイにまたは適切な有機溶媒(溶媒混合物)中に前以って溶解させた上記TPSエラストマーとPPE(一緒にまたは別々に)を含むコーティーング浴に通すことからなる。
【0050】
第1の可能性ある好ましい実施態様によれば、単数または複数の上記補強用スレッドを、例えば、誘導加熱によってまたはIR照射によって、それぞれの押出ヘッドに通す前に予熱する。各押出ヘッドを出た時点で、そのようにしてシーズした単数または複数の補強用スレッドを、その後、例えば、低温の空気または他のガスを使用して或いはスレッド(1本以上)を水浴に、次いで、乾燥工程に通すことによって、それぞれのポリマー層が固化するのに十分に冷却する。
【0051】
一例としては、約0.6mmの直径を有する補強用スレッド、例えば、一緒に撚り合せた直径0.3mmの2本の個々のモノフィラメントから単純になる金属コード(例えば、図2に示すような)を、約0.4mmに等しい最大厚を有する6,6 ポリアミド第1層で被覆して、約1mmの総直径を有するシーズした補強用スレッドを、2つのダイを含む押出/シーズ処理ライン上で得る;第1ダイ(カウンターダイまたは上流ダイ)は約0.65mmに等しい直径を有し、第2ダイ(または下流ダイ)は約0.95mmに等しい直径を有し、両ダイは約300℃に加熱した押出ヘッド内に置かれている。上記ポリアミドは、押出機内で290℃の温度で溶融し、そのようにして、シーズ処理ヘッドを通過するときの補強用スレッドを、典型的に数十cm3/分の押出ポンプ速度において典型的には数十m/分のスレッド操作速度で被覆する。この第1のシーズ処理ダイを出た時点で、スレッドを、上記ポリアミドがその非晶質状態に固化し凝固するための、低温水を満たした冷却タンク中に浸漬し、その後、例えば、巻取りリールをオーブン内で加熱することによって乾燥させる。
【0052】
その後、ポリアミドでそのようにして被覆したスレッドを、上記PPEと不飽和TPSエラストマーを含む組成物によって、第2層において意図した厚さに適応させた1つの実施態様に従い被覆する。
第2層の意図する厚さが約0.1mmである場合、6,6 ポリアミドで被覆したスレッドを、シーズ処理ヘッドを例えば230℃の温度に加熱し、且つ直径1.1mmの第1カウンターダイと直径1.2mmの第2ダイを装着した押出‐シーズ処理ラインに逆に通し得る。上記不飽和TPSエラストマー/PPEブレンドは、第2押出ヘッド内で現場製造してもよく、そのように、2つの成分は、例えば、2つの異なる供給ホッパーによって供給される。また、上記ブレンドは、顆粒形の初期予備ブレンドの形で得ることもできる。押出機内で例えば約220℃の温度に加熱した上記このブレンドは、そのようにして、上記スレッドを、典型的には数cm3/分〜数十cm3/分の押出ポンプ産出量において典型的には数m/分〜数十m/分の操作速度で上記シーズ処理ヘッドを通過することによって被覆する。
上記の2つの連続するシーズ処理工程においては、上記コード(補強用スレッド)を、有利には、押出ヘッドに通す前に、例えば、高周波発生器にまたは加熱用トンネルに通すことによって予熱する。
【0053】
第2の可能性ある好ましい実施態様によれば、第2層の意図する厚さが極めて実質的に小さく、例えば、数十ナノメートルに等しい場合、熱可塑性ポリマー(例えば、6,6 ポリアミド)で被覆したスレッドは、例えば、数m/分または数十m/分の速度で、また、数cmまたは数十cmの長さに亘って、1kgの質量でプレスし且つ適切な有機溶媒(好ましくは、トルエン)中に希釈した上記TPSエラストマー/PPEブレンド(例えば、1質量%〜10質量%、好ましくは1質量%〜5質量%の濃度を有する)を連続して吸収した2枚のウールベーズ(wool baize)要素間を通過し、この方法で、スレッド全体をTPSエラストマー(例えば、SBまたはSBS)の超薄層で被覆する。
次の工程は、上記2つの層間の結合を改良することを意図する熱‐酸化処理からなる。用語“熱‐酸化処理”は、定義によれば、酸素、例えば、空気中の酸素の存在下での加熱処理を意味するものと理解されたい。そのような工程は、上記TPS第2層の上記熱可塑性ポリマー第1層への最適の接着を得るのを可能にする(例えば、真空加熱処理は、効果がないことが判明している)。
【0054】
第2の操作後、例えば、上述したシーズ処理ヘッドまたはコーティーング浴を出た時点で(後者の場合は、溶媒を蒸発させた後に)直接、本発明の特定の実施態様に応じて、複合スレッドは、例えば長さ数メートルのトンネル炉を通り、その中で空気中の加熱処理を受ける。
処理温度は、例えば、場合に応じての数秒〜数分の処理時間において150℃と300℃の間である;処理時間が短いほど温度は高いことおよび上記加熱処理は、必ずしも、使用する熱可塑性材料に再溶融を或いは過剰の軟化をもたらす必要はないことを理解されたい。
そのようにして完成させた本発明の複合補強材は、有利には、例えば空気中で冷却して、望ましくない粘着問題を回避すると共に、最終の巻取りリール上に巻上げる。
【0055】
当業者であれば、上記処理の温度および時間を、本発明の特定の操作条件に応じて、特に製造した複合補強材の正確な性質に応じて、特に、上記処理が、個々に使用したモノフィラメント、数本のモノフィラメントまたはそのようなモノフィラメントの1群を含むコード或いはストリップのようなコードのいずれに対するのかに応じて、如何にして調整するは承知していることであろう。
特に、当業者であれば、処理温度および処理時間を変更して、継続的な近似化により、本発明の特定の実施態様毎に最良の接着結果を得る操作条件を見出すという利益を有するであろう。
【0056】
上記で説明した本発明に従う方法の工程には、上記補強材、より正確には、その第2層組成物を三次元架橋させて、特にこの複合補強材を典型的には100℃よりも高い比較的高温において最終的に使用することを意図する場合に、その固有凝集力をさらに増進させるための最終処理を追加し得る。
【0057】
この架橋は、任意の既知の方法によって、例えば、イオンまたは電子衝撃のような物理的架橋方法によって、或いは化学的架橋方法によって、例えば、架橋剤(例えば、アマニ油)を、上記組成物に、例えば、押出加工しながら混入することによってまたは加硫(即ち、イオウベースの)系を上記組成物に混入することによって実施し得る。
また、架橋は、本発明の複合補強材により補強を意図するタイヤ(または、より一般的にはゴム物品)を製造する間にも、そのようなタイヤ(または物品)を製造するのに使用するジエンゴム組成物中に存在し本発明の複合補強材と接触する固有の架橋系によって生じ得る。
【0058】
本発明の複合補強材は、直接、即ち、何らの追加の接着系を必要としないで、例えばタイヤにおけるジエンゴムマトリックス用の補強要素として使用することができる。有利なことに、本発明の複合補強材は、全てのタイプの車両用の、特に、乗用車または重量車のような産業用車両用のタイヤを補強するのに使用し得る。
【0059】
1つの例として、本明細書に添付した図5は、乗用車用の本発明に従うタイヤの半径断面を極めて略図的に示している(特定縮尺に準じて描いていない)。
このタイヤ1は、クラウン補強材即ちベルト6によって補強されたクラウン2、2つの側壁3および2つのビード4を有し、これらのビード4の各々は、ビード線5によって補強されている。クラウン2は、トレッド(この略図には示していない)が取付けられている。カーカス補強材7は、各ビード4内の2本のビード線5の周りに巻付けられており、この補強材7の上返し8は、例えば、タイヤ1の外側に向って位置しており、この場合、タイヤリム9上に取付けて示している。カーカス補強材7は、それ自体知られている通り、コード、いわゆる“ラジアル”コード、例えば、繊維または金属コードによって補強されている少なくとも1枚のプライからなる、即ち、これらのコードは、実際上、互いに平行に配置されて一方のビードから他方のビードに延びて円周正中面(2つのビード4からの中間距離に位置しクラウン補強材6の中央を通るタイヤの回転軸に対して垂直の面)と80°と90°の間の角度をなしている。
【0060】
本発明のこのタイヤ1は、例えば、そのクラウンまたはカーカス補強材の少なくとも1つが本発明に従う複合補強材を含むという本質的な特徴を有する。本発明のもう1つの可能性ある実施態様によれば、その実施態様は、本発明に従う複合補強材から製造し得るビード線5である。
【0061】
本発明の実施態様
試験 1:複合補強材の製造
本発明に従うまたは従わない複合補強材を、先ず、以下の方法で製造した。出発補強用スレッドは、10mmのらせんピッチで一緒に撚り合せた直径0.30mmの2本の個々のスレッドまたはモノフィラメントからなる1×2構造での標準鋼(0.7質量%の炭素含有量を有する)から製造されたタイヤ用のスチールコードであった。コード直径は0.6mmであった。
【0062】
このコードを、6,6 ポリアミド(DuPont de Nemours社からのZYTEL E40 NC010;約260℃に等しい融点Tm)で被覆した;被覆は、押出‐シーズ処理ラインにおいて、上記コードを300℃の温度に加熱し且つ2つのダイ(直径0.63mmの上流ダイと直径0.92mmの下流ダイ)を含む押出ヘッドに通すことによって実施した。押出機(20cm3/分のポンプ速度)内で約290℃の温度に加熱したポリアミドは、そのようにして、30m/分の速度で通過する上記スレッド(高周波発生器に通すことによって約280〜290℃に予熱した)を被覆した。シーズ処理ヘッドを出た時点で、得られた複合補強材は、5℃の水を満たした冷却用タンクに連続して移動し、ポリアミドが、空気ノズルを使用して乾燥させる前に、その非晶質状態に固化した。
【0063】
製造のこの段階は、そのポリアミド第1層でのみシーズされた初期スチールコードからなる対照複合補強材(従って、本発明に従わない)をもたらした。この対照複合補強材(R‐5で示す)は、約1.0mmの総直径を有していた(即ち、1回のシーズ処理)。
【0064】
次に、第2工程において、SB熱可塑性エラストマー(約30質量%のスチレンを含むKraton社からの“D1118”)とPPE (Asahi Kasei社からの“Xyron S202”)のブレンド(質量比1:0.3)を含む組成物の第2層を、数十ナノメートルの意図する最小厚でもって、上記のようにシーズしたコード上に以下の方法で付着させた。6,6 ポリアミドで被覆した上記コードを、コーティーング浴に、約4m/分の速度で、約15cmの長さに亘って、1kgの質量でプレスし且つトルエン中でそれぞれ1.5質量%と5質量%の濃度で希釈した上記2つのポリマーPPEとSBのブレンドを連続して吸収した2枚のウールベーズ要素間に通し、この方法で、上記コード全体をエラストマー組成物の超薄層で被覆した。その後、そのようにしてシーズした補強材を乾燥させ、蒸発によって溶媒を除去した。
【0065】
上記で使用した3つのポリマーのガラス転移温度Tg1、Tg2およびTg3は、それぞれ、約+50℃および−95℃および+215℃に等しかった(Mettler Toledo社からの822‐2 DSC装置;ヘリウム雰囲気、室温(20℃)から100℃に予熱し(20℃/分で)、次いで、20℃/分にて−140℃から+300℃までのDSC曲線を最終的に記録する前に、−140℃に急速冷却した試験標本)。
【0066】
この第2のシーズ処理操作後、上記アッセンブリ(二重シーズ被覆した複合補強材)は、トンネル炉に、270℃の温度に加熱した周囲雰囲気において3m/分で通すことによって約100秒間の熱‐酸化処理を受けた。この製造の最終段階によって、ポリアミド第1層によって、さらに、上記TPSエラストマーとPPEを含むエラストマー組成物の第2層によってシーズされた初期スチールコードからなる本発明に従う複合補強材が得られた。この方法で製造した本発明に従う複合補強材(図2に略図的に示しているような補強材R‐2)は、約1.0mmの最終直径を有していた。
【0067】
上記の試験における熱‐酸化処理の最良の操作条件を決定するために、4通りの処理時間(50秒、100秒、200秒および400秒)における160℃から280℃までの温度範囲を、前以って検証していた。
【0068】
試験 2:接着試験
その後、ゴムと上記で製造した複合補強材との結合の質を、上記補強材を加硫物とも称する加硫ゴム組成物から引き抜くのに要する力を測定する試験によって評価した。このゴム組成物は、天然ゴム、カーボンブラックおよび標準添加剤をベースとする、金属タイヤベルトプライのカレンダー加工において使用する通常の組成物であった。
【0069】
加硫物は、200mm×4.5mmを計測し3.5mmの厚さを有し、硬化前に互いに対して適用した2枚のシーズからなるゴムブロックであった(得られたブロックの厚さは、その場合、7mmであった)。このブロックの誘導に当っては、複合補強材(総計で15本のストランド)を未硬化状態の2枚のゴムシートの間に等間隔に離して閉じ込め、各複合補強材の一端がこれらのシートのいずれかの側面上にその後の引張試験のために十分な量突出するようにした。その後、上記補強材を含むブロックを適切なモールド内に入れ、次いで、圧力下に硬化させた。当業者の裁量に委ねられる硬化温度および硬化時間は、意図する試験条件に適応させた。例えば、本例においては、ブロックを、16バールの圧力下に160℃で15分間硬化させた。
【0070】
硬化させた後、そのように加硫ブロックと15本の補強材からなる試験標本を適切な引張試験装置の顎の間に置いて各補強材をゴムから所定の引張速度および所定の温度(例えば、本例においては、それぞれ、50mm/分および20℃)で個々に引っ張った。接着レベルは、補強材を試験標本から引抜くための引抜き力(Fmaxで示す)を測定することによって特性決定した(このレベルは、15回の引張試験の平均である)。
【0071】
驚くべきことに、本発明の複合補強材は、RFL接着剤を含有しないという事実にもかかわらず、その20℃での引抜き力Fmaxが、ナイロンシーズ被覆対照複合補強材(R‐5)について測定し、また、通常のRFL接着剤を使用して結合させた対照引抜き力よりも40%も高いことから、特に高い引抜き力Fmaxを有することが判明した。同じ試験条件下において、ナイロンでシーズ被覆したがRFL接着剤(またはあらゆる他の接着剤)を含有しない対照複合補強材(R‐5)は、ゴムへの接着を示さなかった(実際にゼロの引抜き力)。
【0072】
結論として、本発明の複合補強材は、得られる予想外の接着レベル故に、ポリアミドまたはポリエステルのような熱可塑性材料でシーズ被覆し、知られている通り、ゴムに接着するのを確保するためにはRFL接着剤の使用を必要とする従来技術の複合補強材に対する特に有用な代替品を構成する。
【符号の説明】
【0073】
R‐1 本発明に従う複合補強材の第1の例
(10) 補強用スレッド
(11) プラスのガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーの第1層
(12) PPEとマイナスのガラス転移温度を有する不飽和TPSエラストマーとを含む組成物の第2層
Em1 第1層の最小厚
Em2 第1層の最小厚
【0074】
R‐2 本発明に従う複合補強材の第2の例
(20) 補強用スレッド
(20a、20b) 単一フィラメントまたはモノフィラメント
(21) プラスのガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーの第1層
(22) PPEとマイナスのガラス転移温度を有する不飽和TPSエラストマーとを含む組成物の第2層
【0075】
R‐3 本発明に従う複合補強材のもう1つの例
(30) 補強用スレッド
(30a、30b) モノフィラメント
(31) プラスのガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーの第1層
(32) PPEとマイナスのガラス転移温度を有する不飽和TPSエラストマーとを含む組成物の第2層
【0076】
R‐4 本発明に従う複合補強材のもう1つの例
(40) 補強用スレッド
(41a) 中心またはコア線
(41b) 同じ直径を有する6本のフィラメント
(42) 6,6 ポリアミドの第1層
(43) PPEとマイナスのガラス転移温度を有する不飽和TPSエラストマーとを含む組成物の第2層
【0077】
1 タイヤ
2 クラウン
3 側壁
4 ビード
5 ビード線
6 クラウン補強材(ベルト)
7 カーカス補強材
8 カーカス補強材の上返し
9 タイヤリム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を含むことを特徴とする、複合補強材:
・1本以上の補強用スレッド;
・前記単数または複数のスレッドを被覆する、ガラス転移温度がプラスである熱可塑性ポリマーの第1層;および、
・前記第1層を被覆する、ガラス転移温度がマイナスである不飽和熱可塑性スチレン(“TPS”)エラストマーとポリ(p‐フェニレンエーテル) (“PPE”)とを含む組成物の第2層。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリマーのガラス転移温度が、+20℃よりも高い、請求項1記載の補強材。
【請求項3】
前記不飽和熱可塑性スチレンエラストマーのガラス転移温度が、−20℃よりも低い、請求項1または2記載の補強材。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリマーと前記不飽和熱可塑性スチレンエラストマーとのガラス転移温度の差が、60℃よりも大きい、請求項1〜3のいずれか1項記載の補強材。
【請求項5】
前記熱可塑性ポリマーが、脂肪族ポリアミド、またはポリエステルである、請求項1〜4のいずれか1項記載の補強材。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリマーが、6,6 ポリアミドである、請求項5記載の補強材。
【請求項7】
PPEが、150℃よりも高い、好ましくは180℃よりも高いガラス転移温度を有する、請求項1〜6のいずれか1項記載の補強材。
【請求項8】
PPEが、ポリ(2,6‐ジメチル‐1,4‐フェニレンエーテル)である、請求項1〜7のいずれか1項記載の補強材。
【請求項9】
前記熱可塑性エラストマーが、スチレンブロックとジエンブロックを含むコポリマーである、請求項1〜8のいずれか1項記載の補強材。
【請求項10】
前記ジエンブロックが、イソプレンまたはブタジエンブロックである、請求項9記載の補強材。
【請求項11】
前記熱可塑性エラストマーが、スチレン/ブタジエン(SB)、スチレン/イソプレン(SI)、スチレン/ブタジエン/ブチレン(SBB)、スチレン/ブタジエン/イソプレン(SBI)、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン(SBBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)、スチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン(SBIS)の各ブロックコポリマー、およびこれらのコポリマーのブレンドからなる群の中から選ばれる、請求項10記載の補強材。
【請求項12】
前記熱可塑性エラストマーが、SB、SI、SBS、SISの各ブロックコポリマー、およびこれらのコポリマーのブレンドによって形成される群から選ばれる、請求項11記載の補強材。
【請求項13】
前記熱可塑性エラストマーが、5質量%と50質量%の間の量のスチレンを含む、請求項1〜12のいずれか1項記載の補強材。
【請求項14】
前記第2層のエラストマー組成物中のPPEの質量含有量が、前記TPSエラストマー中に存在するスチレンの質量含有量の0.05倍と5倍の間、好ましくは0.1倍と2倍の間の量を示す、請求項1〜13のいずれか1項記載の補強材。
【請求項15】
前記第2層のエラストマー組成物中のPPEの質量含有量が、前記TPSエラストマー中に存在するスチレンの質量含有量の0.2倍と1.5倍の間の量を示す、請求項14項記載の補強材。
【請求項16】
前記第1層の最小厚が、1μmと2mmの間である、請求項1〜15のいずれか1項記載の補強材。
【請求項17】
前記第2層の最小厚が、1μmと2mmの間である、請求項1〜16のいずれか1項記載の補強材。
【請求項18】
前記第2層の最小厚が、0.02μm〜1μmの範囲内にある、請求項1〜16のいずれか1項記載の補強材。
【請求項19】
前記補強用スレッドが、金属線である、請求項1〜18のいずれか1項記載の補強材。
【請求項20】
前記金属線が、炭素鋼線である、請求項19項記載の補強材。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項記載の複合補強材を含むゴム物品または半製品。
【請求項22】
請求項1〜20のいずれか1項記載の複合補強材を含む空気式タイヤ。
【請求項23】
少なくとも下記の工程を含むことを特徴とする、ジエンゴムマトリックスに接着させることのできる複合補強材の製造方法:
・少なくとも1本の補強用スレッドを、プラスのガラス転移温度を有する前記熱可塑性ポリマーの層で被覆する工程;
・マイナスのガラス転移温度を有する不飽和熱可塑性スチレン(“TPS”)エラストマーとポリ(p‐フェニレンエーテル) (“PPE”)とを含む組成物の第2層を、そのようにして被覆した前記スレッド上に付着させる工程;および、
・アッセンブリを熱‐酸化処理に供して前記2つの層を一緒に結合させる工程。
【請求項24】
前記熱可塑性ポリマーのガラス転移温度が、+20℃よりも高い、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記不飽和熱可塑性スチレンエラストマーのガラス転移温度が、−20℃よりも低い、請求項23または24記載の方法。
【請求項26】
前記熱可塑性ポリマーと前記不飽和熱可塑性スチレンエラストマーとのガラス転移温度の差が、60℃よりも大きい、請求項23〜25のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
前記熱可塑性ポリマーが、脂肪族ポリアミド、またはポリエステルである、請求項2〜26のいずれか1項記載の方法。
【請求項28】
PPEが、150℃よりも高い、好ましくは180℃よりも高いガラス転移温度を有する、請求項23〜27のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
PPEが、ポリ(2,6‐ジメチル‐1,4‐フェニレンエーテル)である、請求項23〜28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
前記熱可塑性エラストマーが、スチレンブロックとジエンブロックを含むコポリマーである。請求項23〜29のいずれか1項記載の方法。
【請求項31】
前記熱可塑性エラストマーが、スチレン/ブタジエン(SB)、スチレン/イソプレン(SI)、スチレン/ブタジエン/ブチレン(SBB)、スチレン/ブタジエン/イソプレン(SBI)、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン(SBBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)、スチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン(SBIS)の各ブロックコポリマー、およびこれらのコポリマーのブレンドからなる群の中から選ばれる、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記熱可塑性エラストマーが、SB、SI、SBS、SISの各ブロックコポリマーおよびこれらのコポリマーのブレンドによって形成される群から選ばれる、請求項31記載の方法。
【請求項33】
PPEが、ポリ(2,6‐ジメチル‐1,4‐フェニレンエーテル)である、請求項23〜32のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
第2層を、誘起溶媒中に溶解した前記TPSエラストマーとPPEを含有するコーティーング浴に通すことによって付着させる、請求項23〜33のいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
前記有機溶媒が、トルエンである、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記複合補強材を架橋させる最終工程をさらに含む、請求項23〜35のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−501083(P2013−501083A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522111(P2012−522111)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060583
【国際公開番号】WO2011/012521
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(512068547)コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン (169)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)
【Fターム(参考)】