説明

自立運転移行方法及び装置

【課題】蒸気発電設備が商用電力系統から切り離されたときに、多量の余剰蒸気を速やかに処理し、スムーズに自立運転に移行できるようにする。
【解決手段】蒸気タービン3に蒸気を供給して発電し、その発電電力を自家消費するとともに余剰電力を商用電力系統に供給する蒸気発電設備において、蒸気タービン3による発電電力から自家消費電力を減じて余剰電力量を算出する演算(余剰電力量算出手段11による演算)と、余剰電力量を自立運転移行時に余る余剰蒸気流量に変換する演算(余剰蒸気流量変換手段12による演算)と、余剰蒸気流量を、高圧蒸気だめから余剰蒸気を蒸気タービン系統外に流出させるタービンバイパス弁5の開度に変換する演算(弁開度変換手段13による演算)とを反復して常時行い、商用電力系統から切り離されたときに、タービンバイパス弁5の開度を、その直近の開度に直近の前記演算により求めた開度を加算した開度に設定して自立運転に移行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物焼却炉や廃棄物溶融炉などに付設されている蒸気発電設備を自立運転に移行させる方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物焼却炉や廃棄物溶融炉などの各種熱処理プラントでは、高温の排ガスが発生することから、その排ガスの熱エネルギーをボイラで蒸気として回収し、蒸気を蒸気タービンに供給して発電する蒸気発電設備が付設される場合が多い。
【0003】
一般的にこのような蒸気発電設備では、ボイラからの蒸気を一旦、高圧蒸気だめにため、高圧蒸気だめから蒸気タービンに蒸気を供給して発電する。また、ボイラからの蒸気量の変動等に伴い蒸気が余剰になった場合に、その余剰蒸気を高圧蒸気だめから蒸気タービン系統外に流出させるためにタービンバイパス弁を設け、高圧蒸気だめの蒸気圧力が一定になるようにタービンバイパス弁の開度を調節するPID制御を行っている。
【0004】
そして、蒸気発電設備で発電した電力は自家消費されるとともに、余剰電力は商用電力系統に供給される。
【0005】
蒸気発電設備が商用電力系統と接続されている通常運転時には、上述のPID制御により問題なく運転できるが、何らかの理由により、蒸気発電設備が商用電力系統から切り離された場合、それまで余剰電力として商用電力系統に供給していた電力分に相当する多量の余剰蒸気が生じ、この多量の余剰蒸気を速やかに処理して自立運転に移行させる必要がある。
【0006】
しかし、上述のPID制御では、この多量の余剰蒸気を速やかに処理することは困難である。余剰蒸気の処理が遅れると、蒸気系統に大きな圧力変動が生じ、その状況やオペレータ操作等による対応によっては、蒸気系統の安全弁動作やその結果の圧力不足によるタービントリップ、自立運転不能(停電・設備停止)に繋がる恐れがある。また、タービントリップには至らなくとも、蒸気系統の圧力変動の結果、発電電圧、周波数等に悪影響を及ぼす可能性もある。
【0007】
したがって、蒸気発電設備が商用電力系統から切り離されたときに、多量の余剰蒸気を速やかに処理し、スムーズに自立運転に移行させる方法が望まれている。
【0008】
従来、蒸気発電設備において多量の余剰蒸気を処理する方法としては、特許文献1の方法が知られている。
【0009】
この特許文献1の方法は、蒸気発電設備においてタービントリップが発生した場合、蒸気タービン入口の蒸気流量から、その蒸気流量を逃がすのに見合うタービンバイパス弁開度の増加分を算出し、この増加分を加算してタービンバイパス弁の開度を制御するというものである。
【0010】
しかし、この特許文献1の方法は、あくまでタービントリップに対応するもので、上述のような自立運転移行時には対応できない。すなわち、タービントリップ時には、発電継続の必要がない(出来ない)ため、特許文献1では自家消費電力や余剰電力のことは全く考慮されておらず、単にタービントリップ時の蒸気タービン入口の蒸気流量に見合う余剰蒸気を処理するだけである。これに対して自立運転移行時は、移行後も自家の負荷を発電により賄う必要があるため、自家消費電力や余剰電力を考慮した上で、より迅速かつ的確な対処が必要となる。
【0011】
このように、従来、蒸気発電設備をスムーズに自立運転に移行させる方法は確立されていない。
【特許文献1】特開平11−257018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は。蒸気発電設備が商用電力系統から切り離されたときに、多量の余剰蒸気を速やかに処理し、スムーズに自立運転に移行することができる方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の自立運転移行方法は、高圧蒸気だめから蒸気タービンに蒸気を供給して発電し、その発電電力を自家消費するとともに余剰電力を商用電力系統に供給する蒸気発電設備において、商用電力系統から切り離されたときに自立運転に移行するための自立運転移行方法であって、蒸気タービンによる発電電力から自家消費電力を減じて余剰電力量を算出する演算と、この余剰電力量を自立運転移行時に余る余剰蒸気流量に変換する演算と、この余剰蒸気流量を、高圧蒸気だめから余剰蒸気を蒸気タービン系統外に流出させるタービンバイパス弁の開度に変換する演算とを反復して常時行い、商用電力系統から切り離されたときに、タービンバイパス弁の開度を、その直近の開度に直近の前記演算により求めた開度を加算した開度に設定して自立運転に移行することを特徴とするものである。
【0014】
また、この自立運転移行方法を実行するための本発明の自立運転移行装置は、 蒸気タービンによる発電電力から自家消費電力を減じて余剰電力量を算出する余剰電力量算出手段と、この余剰電力量を自立運転移行時に余る余剰蒸気流量に変換する余剰蒸気流量変換手段と、この余剰蒸気流量を、高圧蒸気だめから余剰蒸気を蒸気タービン系統外に流出させるタービンバイパス弁の開度に変換する弁開度変換手段と、商用電力系統から切り離されたときに、タービンバイパス弁の開度を、その直近の開度に前記弁開度変換手段により求めた直近の開度を加算した開度に設定する弁制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0015】
このように、本発明では、商用電力系統に供給している余剰電力をこれに見合う余剰蒸気流量(自立運転移行時に余る蒸気流量)に変換し、この余剰蒸気流量をこれに見合うタービンバイパス弁の開度に変換する演算を常時行い、商用電力系統から切り離されたときに、タービンバイパス弁の開度を、その直近の開度に直近の前記演算により求めた開度を加算した開度に設定して自立運転に移行することから、自立運転移行時の多量の余剰蒸気を速やかに処理することができ、スムーズに自立運転に移行できる。また、本発明では、前記演算を常時行うので、不測の自立運転移行によるプロセスの急変にも対応可能である。
【0016】
本発明においては、商用電力系統と接続されている通常運転時には、従来どおり、高圧蒸気だめの蒸気圧力が一定になるようにタービンバイパス弁の開度を調節するPID制御を行うことができる。
【0017】
そして、本発明では、商用電力系統から切り離されたときに、前記PID制御を中断してタービンバイパス弁の開度を、前記PID制御による直近の開度(PID制御出力)に直近の前記演算により求めた直近の開度を加算した開度に設定し、その後、前記PID制御を再開するようにすることができる。このように、自立運転移行時には、プロセスの急変に対応が困難なPID制御を一旦中断し、必要なタービンバイパス弁の開度まで急開するプログラマブルな制御を組むことで、自立運転への移行をよりスムーズに行うことができる。
【0018】
このような制御を実行するために、本発明の自立運転移行装置は、高圧蒸気だめの蒸気圧力が一定になるようにタービンバイパス弁の開度を調節するPID制御手段と、商用電力系統と接続されている通常運転時には、前記PID制御手段によるPID制御を実行し、商用電力系統から切り離されたときに、前記PID制御を中断して前記弁制御手段によって、タービンバイパス弁の開度を、前記PID制御手段による直近の開度に前記弁開度変換手段により求めた直近の開度を加算した開度に設定し、その後、前記PID制御手段によるPID制御を再開させる制御切換手段をさらに備えることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、蒸気発電設備が商用電力系統から切り離されたときに、多量の余剰蒸気を速やかに処理し、スムーズに自立運転に移行することができる。したがって、自立運転移行時の蒸気系の安全弁動作やタービントリップ、さらにはその結果としての自立運転失敗(停電・設備停止)を回避することかでき、蒸気発電設備の安定運転を継続できる。
【0020】
また、本発明では、自立運転移行時の余剰蒸気を処理するのに最適なタービンバイパス弁の開度を2段階の変換で常時演算することで、商用電力系統の計画停電のみならず不測の停電に際しても、スムーズに自立運転に移行でき、プロセス及び関連機器系統への影響を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に示す実施例に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図1は、本発明の自立運転移行方法及び装置を適用した蒸気発電設備の構成図である。
【0023】
同図に示す蒸気発電設備において高圧蒸気だめ1には、図示しない廃棄物焼却炉や廃棄物溶融炉で発生する高温排ガスの熱エネルギーを回収するボイラからの蒸気がためられる。この蒸気は、発電のために蒸気供給ライン2を介して蒸気タービン3に供給される。発電電力は自家消費されるとともに、余剰電力は図示しない商用電力系統に供給される。
【0024】
また、高圧蒸気だめ1には、ボイラからの蒸気量の変動等に伴い蒸気が余剰になった場合に、その余剰蒸気を蒸気タービン系統外に流出させるために、タービンバイパスライン4が接続され、その途中にタービンバイパス弁5が設置されている。
【0025】
さらに、高圧蒸気だめ1には圧力センサ6が設置されており、商用電力系統と接続されている通常運転時には、圧力センサ6で測定した高圧蒸気だめ1の蒸気圧力が一定になるように、PID制御手段7によってタービンバイパス弁5の開度を調節するPID制御を行うようにしている。
【0026】
なお、本実施例において、タービンバイパス弁5として減圧調節弁を使用しており、高圧の余剰蒸気を減圧するようにしている。したがって、タービンバイパスライン4から排出される余剰蒸気は、蒸気タービン3からの廃蒸気とともに、低圧復水器8によって処理できる。
【0027】
このような蒸気発電設備の基本構成において、本発明では、蒸気発電設備が商用電力系統から切り離されたときに、多量の余剰蒸気を速やかに処理し、スムーズに自立運転に移行できるようにするために、まず、蒸気タービン3による発電電力から自家消費電力を減じて余剰電力量を算出する演算を常時行う。具体的には、蒸気タービン3による発電電力を電力計9で測定するとともに、自家消費電力を電力計10で測定し、これらの測定値を余剰電力量算出手段11に入力し、減算処理により余剰電力量を算出する。
【0028】
次に、この余剰電力量は余剰蒸気流量変換手段12に入力される。余剰蒸気流量変換手段12は、この余剰電力量を自立運転移行時に余る余剰蒸気流量、すなわち余剰電力量に見合う蒸気流量に変換する演算を行う。余剰蒸気流量変換手段12には、余剰電力量に見合う蒸気流量が折れ線データとして予め入力されており、余剰蒸気流量変換手段12は、この折れ線データに基づき余剰電力量を余剰蒸気流量に変換する。
【0029】
次に、この余剰蒸気流量は弁開度変換手段13に入力される。弁開度変換手段13はこの余剰蒸気流量を、これに見合うタービンバイパス弁5の開度に変換する演算を行う。弁開度変換手段13には、余剰蒸気流量に見合うタービンバイパス弁5の開度が折れ線データとして予め入力されており、弁開度変換手段13は、この折れ線データに基づき余剰蒸気流量をタービンバイパス弁5の開度に変換する(以下、この開度を「演算開度」という。)。
【0030】
本発明では、この演算開度を算出するために上記各演算を反復して常時行い、その1周期毎の演算開度を制御切換手段15に送信・蓄積しつつ、不測の自立運転移行に備える。
【0031】
そして、商用電力系統検知手段14によって、蒸気発電設備が商用電力系統から切り離されたことが検出されると、その検知信号が制御切換手段15に入力される。この制御切換手段15は、商用電力系統と接続されている通常運転時には、PID制御手段7によるPID制御を実行するように制御しているが、商用電力系統検知手段14から検知信号を受信すると、PID制御を中断して、弁制御手段16による制御を行うようにする。具体的には弁制御手段16は、タービンバイパス弁5の開度を、PID制御手段7による直近の開度(検知信号受信時の1周期前のPID制御出力)に弁開度変換手段13により求めた直近の演算開度(検知信号受信時の1周期前の演算開度)を加算した開度に設定するように制御を行う。
【0032】
例えば、PID制御手段7による直近の開度(PID制御出力)が10%で、弁開度変換手段13により求めた直近の演算開度が60%であれば、自立運転移行時のタービンバイパス弁5の設定開度は70%となる。
【0033】
これによって、自立運転移行時の多量の余剰蒸気を速やかに処理することができ、スムーズに自立運転に移行できる。自立運転に移行後、その蒸気発電設備(プロセス)に応じて設定される所定時間(例えば1〜2秒)が経過したら、制御切換手段15はPID制御手段7によるPID制御を再開させ、定常運転に移行する。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、廃棄物焼却炉や廃棄物溶融炉を始めとする各種熱処理プラントに付設されている蒸気発電設備に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の自立運転移行方法及び装置を適用した蒸気発電設備の構成図である。
【符号の説明】
【0036】
1 高圧蒸気だめ
2 蒸気供給ライン
3 蒸気タービン
4 タービンバイパスライン
5 タービンバイパス弁
6 圧力センサ
7 PID制御手段
8 低圧復水器
9 電力計
10 電力計
11 余剰電力量算出手段
12 余剰蒸気流量変換手段
13 弁開度変換手段
14 商用電力系統検知手段
15 制御切換手段
16 弁制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧蒸気だめから蒸気タービンに蒸気を供給して発電し、その発電電力を自家消費するとともに余剰電力を商用電力系統に供給する蒸気発電設備において、商用電力系統から切り離されたときに自立運転に移行するための自立運転移行方法であって、
蒸気タービンによる発電電力から自家消費電力を減じて余剰電力量を算出する演算と、この余剰電力量を自立運転移行時に余る余剰蒸気流量に変換する演算と、この余剰蒸気流量を、高圧蒸気だめから余剰蒸気を蒸気タービン系統外に流出させるタービンバイパス弁の開度に変換する演算とを反復して常時行い、
商用電力系統から切り離されたときに、タービンバイパス弁の開度を、その直近の開度に直近の前記演算により求めた開度を加算した開度に設定して自立運転に移行する自立運転移行方法。
【請求項2】
商用電力系統と接続されている通常運転時には、高圧蒸気だめの蒸気圧力が一定になるようにタービンバイパス弁の開度を調節するPID制御を行い、商用電力系統から切り離されたときに、前記PID制御を中断してタービンバイパス弁の開度を、前記PID制御による直近の開度に直近の前記演算により求めた開度を加算した開度に設定し、その後、前記PID制御を再開する請求項1に記載の自立運転移行方法。
【請求項3】
高圧蒸気だめから蒸気タービンに蒸気を供給して発電し、その発電電力を自家消費するとともに余剰電力を商用電力系統に供給する蒸気発電設備において、商用電力系統から切り離されたときに自立運転に移行するための自立運転移行装置であって、
蒸気タービンによる発電電力から自家消費電力を減じて余剰電力量を算出する余剰電力量算出手段と、
この余剰電力量を自立運転移行時に余る余剰蒸気流量に変換する余剰蒸気流量変換手段と、
この余剰蒸気流量を、高圧蒸気だめから余剰蒸気を蒸気タービン系統外に流出させるタービンバイパス弁の開度に変換する弁開度変換手段と、
商用電力系統から切り離されたときに、タービンバイパス弁の開度を、その直近の開度に前記弁開度変換手段により求めた直近の開度を加算した開度に設定する弁制御手段とを備えた自立運転移行装置。
【請求項4】
高圧蒸気だめの蒸気圧力が一定になるようにタービンバイパス弁の開度を調節するPID制御手段と、
商用電力系統と接続されている通常運転時には、前記PID制御手段によるPID制御を実行し、商用電力系統から切り離されたときに、前記PID制御を中断して前記弁制御手段によって、タービンバイパス弁の開度を、前記PID制御手段による直近の開度に前記弁開度変換手段により求めた直近の開度を加算した開度に設定し、その後、前記PID制御手段によるPID制御を再開させる制御切換手段をさらに備えた請求項3に記載の自立運転移行装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−250121(P2009−250121A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99297(P2008−99297)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)
【Fターム(参考)】