説明

自転車用変速装置

【課題】構造が簡単で、汎用的に様々な自転車に取り付けられる内装式の自転車用変速装置を提供する。
【解決手段】ペダルの踏力により回転するクランク軸51に固定した低速回転体1と、クランク軸51に対し自由に回転可能な中速回転体2及び高速回転体3とを順次並べて配置し、フレーム53に対し回転しない固定部材8を設け、低速回転体1に軸着した傘歯車11を高速回転体3と固定部材8とに噛合させ、中速回転体2に軸着した傘歯車14を高速回転体3と低速回転体1とに噛合させ、スプロケット6と一体化された爪受部材17にラチェット爪21,22,23を低速、中速及び高速回転体1,2,3にそれぞれ対応して設け、各回転体1,2,3の外周部にラチェット歯24を形成し、外部から操作可能な切替部材25の進退に伴い、ラチェット爪22,23とラチェット歯24との係脱を切り替えて変速するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自転車のクランク軸部に設ける変速装置であって、傘歯車機構を使用したものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、走行する路面の勾配に応じてペダルの踏み込み負荷を調整する自転車用変速装置として、スポーツ用の自転車には、多数段のスプロケットにチェーンを掛け替える外装式のものが装備されるが、日常の街乗り用自転車には、変速操作を容易かつスムーズに行える遊星歯車機構を使用した内装式のものが装備される場合が多い。
【0003】
この内装式変速装置として、下記特許文献1には、フレームに組み込まれるギヤケースとペダルの踏力により回転するクランク軸に対して回動自在に従動回転体を設け、その一側にスプロケットを固定し、クランク軸と一体に回転するキャリヤに複数段の遊星歯車を軸支し、遊星歯車の各段内側にそれぞれ回動可能な太陽歯車を噛合させると共に、遊星歯車のいずれかの段の外側に従動回転体に設けた内歯歯車を噛合させ、キャリヤと従動回転体の間に回転速度差を吸収するラチェット機構を設け、各段の太陽歯車の回転を許容・阻止する一方向クラッチの切替操作を行うことにより、クランク軸に対して増速される内歯歯車を切り替えて変速を行うものが記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、フレームに固定されるギヤケースとペダルの踏力により回転するクランク軸に対して回動自在に、スプロケット及び大径の太陽歯車を一側及び他側に一体的に形成した従動回転体を設け、クランク軸と一体に回転するキャリヤに大小2段の遊星歯車を軸支し、遊星歯車の大径段内側にクランク軸に対して相対回転可能な小径の太陽歯車を噛合させ、遊星歯車の小径段内側に大径の太陽歯車を噛合させると共に、遊星歯車の各段外側にそれぞれ内歯歯車を噛合させ、小径の太陽歯車と従動回転体の間に回転速度差を吸収するラチェット機構を設け、各段の内歯歯車のギヤケースに対する回転を許容・阻止する一方向クラッチの切替操作を行うことにより、クランク軸に対して増速される太陽歯車を切り替えて変速を行うものが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−263081号公報
【特許文献2】特開平6−298153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような変速装置では、ラチェット機構や各段の太陽歯車又は内歯歯車に対応した一方向クラッチを構成する多数の部品が必要となり、構造が複雑になるという問題がある。
【0007】
また、チェーンを掛けるスプロケットがギヤケースの側方に位置するので、変速装置のない自転車に後から取り付けることができないという問題もある。
【0008】
そこで、この発明は、構造が簡単で、汎用的に様々な自転車に取り付けられる内装式の自転車用変速装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明は、ペダルの踏力により回転するクランク軸の周りに、複数の回転体をフレームに対して回転可能に順次並べて配置し、フレームに対して回転しない固定部材を設け、いずれかの回転体をクランク軸に固定し、回転体と共にクランク軸の周りを公転する傘歯車を設け、傘歯車の両側を固定部材又は回転体に形成した環状傘歯に噛合させて、各回転体がそれぞれ異なる速度で回転するようにし、スプロケットと一体化された爪受部材にラチェット爪を各回転体に対応して設け、各回転体の外周部にラチェット歯を形成し、外部から操作可能な切替部材の進退に伴い、ラチェット爪とラチェット歯との係脱を切り替えて変速するようにしたのである。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る自転車用変速機では、各回転体は常時回転しており、切替部材の進退に伴い、スプロケット側の爪受部材に設けたラチェット爪を回転体のラチェット歯に係脱させて変速するため、多段の遊星歯車、太陽歯車及び内歯歯車を設けてこれらの伝達経路を切り替える必要がなく、構造が簡素化されて製造コストが低減され、使用時における信頼性も向上し、コンパクトで様々な自転車に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態に係る自転車用変速装置を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
この変速装置は、図1乃至図4に示すように、自転車に取り付けた状態において、ペダルの踏力により回転するクランク軸51の周りに、円盤状の低速回転体1、中速回転体2及び高速回転体3をクランクアーム52側からフレーム53側へ順次並べて配置し、低速回転体1側をユニットカバー4で覆うように構成されている。ユニットカバー4の外周にはクランクアーム52が取り付けられている。
【0013】
低速回転体1の内周側には、フレーム53側へ延びるボス部材5がクランク軸51と一体に回転するように角軸部に嵌められて、クランク軸51にボルト54で固定され、低速回転体1及びユニットカバー4はボス部材5に固定されている。中速回転体2及び高速回転体3は、クランク軸51に対して自由に回転可能とされている。
【0014】
低速回転体1、中速回転体2及び高速回転体3の外周側には、チェーンを掛けるスプロケット6の内径側にスプロケット6と一体化された従動環体7が設けられ、この従動環体7は、ユニットカバー4に対してベアリングを介し自由に回転可能に保持されている。また、フレーム53側には回転しない固定部材8が設けられ、固定部材8とボス部材5の間にはベアリングが設けられている。
【0015】
ボス部材5の外周には、クランク軸51と軸線が直交する傘歯車11が対向して2個軸着され、この傘歯車11は、高速回転体3の内周部と固定部材8の端壁部とにそれぞれ形成された環状傘歯12,13に噛合している。
【0016】
中速回転体2の内周部にも、クランク軸51と軸線が直交する傘歯車14が対向して2個軸着され、この傘歯車14は、高速回転体3の中間部と低速回転体1の中間部とにそれぞれ形成された環状傘歯15,16に噛合している。
【0017】
従動環体7の内周側には、爪受部材17が従動環体7と一体に回転するように取り付けられ、この爪受部材17の穴部には、各回転体1,2,3にそれぞれ対応するラチェット爪21,22,23が4個ずつ設けられている。ラチェット爪21,22,23は、爪受部材17との間に介在するばねで突出方向に付勢され、各回転体1,2,3の外周部に形成されたラチェット歯24に係合するようになっている。
【0018】
高速回転体3のフレーム53側には切替部材25が設けられ、この切替部材25は、円環部の外周から突出する押圧片26が爪受部材17の空隙内をスライドしてラチェット爪23,22に対し進退するようになっている。切替部材25は、スプリングによりラチェット爪23から離反する方向に付勢され、押圧片26の先端は、ラチェット爪23の後部に向かって傾斜している。
【0019】
固定部材8の外周にはリードの大きい切替ねじ27が刻設され、この切替ねじ27に螺合する切替リング28は、そのフランジが切替部材25の円環部に当接しつつ、ハンドル又はペダル付近に取り付けた操作レバーからの操作により固定部材8の外周に沿って回転し、クランク軸51の軸方向に移動して、切替部材25を進退させる。
【0020】
このような変速装置では、クランク軸51を回転させると、低速回転体1は、クランク軸51と同一の速度で回転し、高速回転体3は、傘歯車11の作用により、クランク軸51の2倍の速度に増速されて回転し、中速回転体2は、傘歯車14の作用により、クランク軸51の1.5倍の速度に増速されて回転する。
【0021】
そして、図1に示すように、切替部材25が最も後退した位置にあるときには、切替部材25は高速回転体3に対応するラチェット爪23から離れているので、突出方向に付勢されたラチェット爪23とラチェット歯24との係合状態が維持され、高速回転体3の回転がラチェット爪23を介してスプロケット6へ伝達される。
【0022】
このとき、ラチェット爪22,21のラチェット歯24に対する滑動作用により、中速回転体2及び低速回転体1と従動環体7との相対回転が許容されるので、中速回転体2及び低速回転体1は、動力の伝達とは関係なく、それぞれ高速回転体3より低速の固有の速度で回転している。
【0023】
一方、変速操作に伴い、図5に示すように、切替リング28を1段階回転させて、切替部材25を中間位置まで前進させると、切替部材25の押圧片26が高速回転体3に対応するラチェット爪23を押圧して揺動させ、ラチェット爪23とラチェット歯24との係合が解除されるので、高速回転体3からの回転伝達は遮断され、中速回転体2の回転がラチェット爪22を介してスプロケット6へ伝達される。
【0024】
さらに、図6に示すように、切替リング28を2段階回転させて、切替部材25を最も前進した位置まで押し込むと、切替部材25の押圧片26が中速回転体2に対応するラチェット爪22を押圧して揺動させ、ラチェット爪22とラチェット歯24との係合も解除されるので、中速回転体2からの回転伝達も遮断され、クランク軸51の回転が低速回転体1のラチェット爪21を介して増速されることなくスプロケット6へ伝達される。
【0025】
また、この状態から逆の変速操作を行うと、スプリングの付勢力により切替リング28が逆回転し、切替部材25がラチェット爪22,23から離反するように後退して、ラチェット爪22,23とラチェット歯24とが再度係合するので、クランク軸51の回転が増速される状態となる。
【0026】
このような変速装置では、駆動力の伝達経路を切り替えるラチェット爪21,22,23を、異なる速度で回転する回転体1,2,3の外周部ではなく、従動環体7と一体に回転する爪受部材17に取り付けているので、ラチェット爪21,22,23を共通の軸で支持することができ、コンパクト化を図れると共に、組立作業性や耐久性に優れたものとすることができる。
【0027】
なお、このようなラチェット爪21,22,23の取付構造を適用して、上記実施形態のように、スプロケット6の回転がクランク軸51に対して増速される変速装置だけでなく、傘歯車11を取付又は噛合させる回転体を変更することにより、スプロケット6の回転がクランク軸51に対して減速される変速装置を構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施形態に係る変速装置の高速伝達状態を示す縦断側面図
【図2】同上の高速回転体の噛合状態をクランクアーム側から示す図
【図3】同上の中速回転体の噛合状態をフレーム側から示す図
【図4】同上の低速回転体の噛合状態をフレーム側から示す図
【図5】同上の変速装置の中速伝達状態を示す縦断側面図
【図6】同上の変速装置の低速伝達状態を示す縦断側面図
【符号の説明】
【0029】
1 低速回転体
2 中速回転体
3 高速回転体
4 ユニットカバー
5 ボス部材
6 スプロケット
7 従動環体
8 固定部材
11 傘歯車
12,13 環状傘歯
14 傘歯車
15,16 環状傘歯
21,22,23 ラチェット爪
24 ラチェット歯
25 切替部材
26 押圧片
27 切替ねじ
28 切替リング
51 クランク軸
52 クランクアーム
53 フレーム
54 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペダルの踏力により回転するクランク軸の周りに、複数の回転体をフレームに対して回転可能に順次並べて配置し、フレームに対して回転しない固定部材を設け、いずれかの回転体をクランク軸に固定し、回転体と共にクランク軸の周りを公転する傘歯車を設け、傘歯車の両側を固定部材又は回転体に形成した環状傘歯に噛合させて、各回転体がそれぞれ異なる速度で回転するようにし、スプロケットと一体化された爪受部材にラチェット爪を各回転体に対応して設け、各回転体の外周部にラチェット歯を形成し、外部から操作可能な切替部材の進退に伴い、ラチェット爪とラチェット歯との係脱を切り替えて変速するようにした自転車用変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−1395(P2006−1395A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179330(P2004−179330)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(304003837)有限会社藤原ホイル (12)
【Fターム(参考)】