臭気測定装置
【課題】 測定試料の臭気を官能表現で評価することができる臭気測定装置の提供。
【解決手段】 異なる応答特性を有するm(mは2以上の整数)個の臭気センサ31〜36と、m個の臭気センサ31〜36の測定結果を表すために形成されるm次元空間において、異なる種類の標準臭気を有するn(nは2以上の整数)個の標準試料の測定結果に基づいて、n個の標準臭気ベクトルを作成して記憶させる標準試料測定部21と、m次元空間において、官能試験により基準臭気の強度が定められた基準試料の測定結果に基づいて、臭気ベクトルを作成する基準試料測定部22とを備える臭気測定装置であって、基準試料測定部22は、基準臭気の強度が異なる複数の基準試料を測定し、さらに、複数の臭気ベクトルの位置関係に基づいて基準臭気方向ベクトルを作成して、標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係を記憶させる算出部23を備えることを特徴とする。
【解決手段】 異なる応答特性を有するm(mは2以上の整数)個の臭気センサ31〜36と、m個の臭気センサ31〜36の測定結果を表すために形成されるm次元空間において、異なる種類の標準臭気を有するn(nは2以上の整数)個の標準試料の測定結果に基づいて、n個の標準臭気ベクトルを作成して記憶させる標準試料測定部21と、m次元空間において、官能試験により基準臭気の強度が定められた基準試料の測定結果に基づいて、臭気ベクトルを作成する基準試料測定部22とを備える臭気測定装置であって、基準試料測定部22は、基準臭気の強度が異なる複数の基準試料を測定し、さらに、複数の臭気ベクトルの位置関係に基づいて基準臭気方向ベクトルを作成して、標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係を記憶させる算出部23を備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気測定装置に関し、特に、測定試料の臭気を官能表現で評価することができる臭気測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、臭気の識別や評価は、実際に人間の嗅覚を用いて行われるのが一般的であった。しかしながら、実際に臭気を嗅ぐ人(パネラー)の個人差やその日の体調によって嗅覚が変動することを想定する必要があるので、測定結果を精度良く得るためには、パネラーを一定人数以上確保するとともに、試験場所の環境等にも充分な配慮を必要とする。よって、膨大な手間と時間とがかかっていた。さらに、このように行っても、人間の嗅覚は臭気に順応するという特性を有するため、常に一定基準で確定的な判断を下すことは困難であった。
【0003】
そこで、近年、臭気物質に対して応答特性を有するガスセンサの一種である臭気センサを利用した臭気測定装置が開発されている(例えば、特許文献1及び2参照)。こうした臭気測定装置では、複数の臭気センサにより取得された検出信号に基づいて、クラスター分析、主成分分析等の各種多変量解析処理やニューラルネットワークを用いた非線形解析処理等を行うことで、測定試料の臭気の強度を算出することができる。
【0004】
さらに、測定試料の臭気について複数の臭気センサにより取得された検出信号に基づいて、複数の種類の標準臭気に対する類似度をそれぞれ求めることができる臭気測定装置も開示されている(例えば、特許文献3参照)。このような臭気測定装置では、測定試料を、例えば、m個の臭気センサで測定すると、各臭気センサからその強度信号が出力されるため、m個の測定データが生成される。これらの測定データは、数学的には、m次元空間(臭気空間)における1つの点で表される。よって、測定試料の濃度が相違するように複数の試料を作製してそれぞれ測定すると、その濃度変化に伴って臭気空間での点が原点から或る一定の方向に移動するので、その点を繋ぐ1本の線を考えることができる。この1本の線は、その測定試料の臭気の種類に対応する特有な向きを有する。したがって、予め、標準臭気を有する標準試料の測定結果を、臭気空間において位置付けて記憶させることにより、測定試料の測定結果と標準試料の測定結果との方向が、似ている場合には、両者は近い種類の臭気であると判断し、一方、方向が全く異なる場合には、逆に両者は遠い種類の臭気であると判断している。
【0005】
具体的には、臭気空間において、測定試料及び標準試料の測定結果として、それぞれ直線の測定臭気ベクトル及び標準臭気ベクトルを作成した場合には、測定臭気ベクトルと標準臭気ベクトルとの成す角度を算出する。その結果、算出された角度に基づいて標準臭気に対する測定試料の臭気の類似度を、角度が0°であるときには、100と定め、一方、角度が所定値以上であるときには、0と定めるように、0〜100の範囲で設定することにより算出している。さらに、標準臭気ベクトルに対する測定臭気ベクトルの正射影をとり、正射影の長さに基づいて、測定試料の臭気に含まれる基準臭気の強度を算出している。
【特許文献1】特開平11−352088号公報
【特許文献2】特開2002−22692号公報
【特許文献3】特開2003−315298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した臭気測定装置において、標準試料として、例えば、芳香族系臭気としてのトルエン等、アルコール系臭気としてのn−ブタノール等、炭化水素系臭気としてのヘプタン等、エステル系臭気としての酢酸エチル等、アミン系臭気としてのトリメチルアミン等、アルデヒド系臭気としてのブチルアルデヒド等、硫黄系臭気としてのメチルメルカプタン等、有機酸系臭気としての酪酸等を用いていた。よって、測定試料の臭気の類似度や強度は、官能表現でなく、ガス成分濃度表示で評価されていた。
【0007】
一方、臭気測定装置において、例えば、芳香族系臭気との類似度50、芳香族系臭気の強度50というようなガス成分濃度表示でなく、例えば、くん煙臭というような官能表現で評価を行うことが試みられているが、官能試験により定められたくん煙臭等については、臭気空間において原点から特有な向きを示さないため、うまくいかず実用化されていない。
そこで、本発明は、測定試料の臭気を官能表現で評価することができる臭気測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者らは、上記課題を解決するために、官能試験によるくん煙臭等の基準臭気の強度が相違するように複数の試料を作製し測定して、その強度変化に伴って臭気空間において点がどの方向に移動するか検討を行った。そこで、官能試験により定められたくん煙臭等の基準臭気については、その強度変化に伴って臭気空間において原点から点を見る方向が或る一定の方向に移動することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の臭気測定装置は、異なる応答特性を有するm(mは2以上の整数)個の臭気センサと、前記m個の臭気センサの測定結果を表すために形成されるm次元空間において、異なる種類の標準臭気を有するn(nは2以上の整数)個の標準試料の測定結果に基づいて、n個の標準臭気ベクトルを作成して記憶させる標準試料測定部と、前記m次元空間において、官能試験により基準臭気の強度が定められた基準試料の測定結果に基づいて、臭気ベクトルを作成する基準試料測定部とを備える臭気測定装置であって、前記基準試料測定部は、基準臭気の強度が異なる複数の基準試料を測定し、さらに、前記複数の臭気ベクトルの位置関係に基づいて基準臭気方向ベクトルを作成して、前記n個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係を記憶させる算出部を備えることを特徴とするようにしている。
【0010】
本発明の臭気測定装置によれば、官能試験により基準臭気の強度が予め定められた基準試料を測定することにより、m次元空間において、臭気ベクトルを作成する。官能試験により基準臭気の様々な強度が定められた基準試料の測定結果に基づいて、それぞれ臭気ベクトルを作成する。これにより、m次元空間において、例えば、臭気ベクトルの角度(方向)の変化を示す基準臭気方向ベクトルを作成して記憶させる。
ここで、「基準臭気」とは、例えば、くん煙臭、卵が腐った臭気等が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の臭気測定装置によれば、官能試験による基準臭気の強度の方向が対応付けられた基準臭気方向ベクトルが記憶されているので、基準臭気ベクトルと測定試料の測定結果とを比較することにより、測定試料の臭気を、基準臭気の強度を用いる官能表現で評価することができる。また、人間の嗅覚を用いて判断できなかった小さな差も評価することができる。
【0012】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
また、本発明の臭気測定装置は、前記標準試料測定部がn個の標準臭気ベクトルを更新して記憶させたときに、記憶させていたn個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係に基づいて、更新されたn個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係を算出して記憶させる再算出部を備えるようにしてもよい。
本発明の臭気測定装置によれば、それぞれの種類の標準臭気を示す標準臭気ベクトルと、基準臭気の強度を示す基準臭気方向ベクトルとの関係は、一定であるので、例えば、臭気センサの応答性が変化するため、標準試料測定部が、n個の標準臭気ベクトルを更新したときには、記憶させていたn個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係に基づいて、更新されたn個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係を算出して記憶させる。これによって、標準試料測定部がn個の標準臭気ベクトルを更新するごとに、基準試料測定部により基準試料を測定する必要をなくすことができる。
【0013】
また、本発明の臭気測定装置は、前記複数の基準試料において、m次元空間において、前記臭気ベクトルの長さが等しくなるように調整したものを用いるようにしてもよい。
また、本発明の臭気測定装置は、前記算出部は、基準臭気の強度が異なる臭気ベクトルの角度の変化を示す基準臭気方向ベクトルを作成するようにしてもよい。
そして、本発明の臭気測定装置は、前記算出部は、基準臭気の強度が異なる臭気ベクトルについて、各標準臭気ベクトルに対して正射影をとり、正射影の長さの変化により、基準臭気方向ベクトルを作成するようにしてもよい。
さらに、本発明の臭気測定装置は、前記標準臭気は、芳香族系臭気、アルコール系臭気、炭化水素系臭気、エステル系臭気、アミン系臭気、アルデヒド系臭気、硫黄系臭気、及び、有機酸系臭気からなる群から選択される少なくとも2つのものであるようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態である臭気測定装置の構成を示すブロック図である。
臭気測定装置は、試料(標準試料、基準試料、測定試料)を吸引する吸入口1と、前処理を施す前処理部(捕集管)2と、それぞれ応答特性が異なる6個の臭気センサ31〜36を有するセンサセル3と、センサセル3に試料を引き込むためのポンプ4と、不活性ガスを貯蔵するガスタンク11と、臭気センサ31〜36による検出信号を解析処理したり、装置全体の動作を制御したりする制御部5と、制御部5からの出力をディスプレイ画面に表示する表示部6と、キーボード等の入力装置を有する操作部8とにより構成される。
【0016】
なお、吸入口1から吸引する基準試料又は測定試料は、常温でガスの場合はガスボンベ等に封入され、一定量を取り出されて使用される。また、液体の場合はガラス容器等に入れられ、所定温度に保たれたり、窒素ガス等をバブリングされたりして使用される。さらに、固体の場合はガラス容器等に入れられ、所定温度に保たれて使用される。
【0017】
前処理部(捕集管)2は、試料に含まれる水分の除去、試料の濃縮/希釈、妨害ガスの除去等を行うものである。よって、前処理部2では、例えば、標準試料を不活性ガス等で希釈することで、標準試料の濃度を複数段階(例えば、希釈無し、1/3に希釈、1/10に希釈、不活性ガスのみの4段階)に変えた試料を作製することもできる。
【0018】
臭気センサ31〜36は、臭気の強度に応じて電気抵抗値が変化するそれぞれ異なる応答特性を有する酸化物半導体センサであるが、導電性高分子センサや、水晶振動子や、SAWデバイスの表面にガス吸着膜を形成したセンサ等、他の検出手法によるセンサであってもよい。また、臭気センサの個数も、特に限定されない。このような臭気センサ31〜36に、試料が接触すると、各臭気センサ31〜36からそれぞれ検出信号が並列で制御部5に出力されることになる。
【0019】
制御部5は、パーソナルコンピュータを中心に構成され、コンピュータ上で所定のプログラムを実行することにより、試料処理部20と、標準試料測定部21と、基準試料測定部22と、算出部23と、測定試料測定部24と、判定部25と、再算出部26として機能するものである。また、制御部5は、データを記憶させる記憶装置(メモリ、HDD等)7と連結されている。
【0020】
試料処理部20は、操作部8からの操作信号等に基づいて、ポンプ4を作動させることにより、試料をセンサセル3に引き込む制御を行うものである。
例えば、標準臭気の設定作業を行う操作信号(標準臭気設定信号)を受信したときには、前処理部2で標準試料を不活性ガスで希釈した試料を作製して、センサセル3に引き込む。このとき、例えば、標準試料の濃度を、希釈無し、1/3に希釈、1/10に希釈、不活性ガスのみの4段階に変えた試料を作製して、順次センサセル3に引き込む。また、基準臭気の設定作業を行う出力信号(基準臭気設定信号)を受信したときには、そのまま試料をセンサセル3に引き込む。さらに、測定試料の測定作業を行う出力信号(測定信号)を受信したときには、そのまま試料をセンサセル3に引き込む。
【0021】
標準試料測定部21は、標準試料と不活性ガスとの混合比を複数段階に変えた試料を、それぞれ測定した測定結果により、6個の臭気センサ31〜36により形成される6次元空間(臭気空間)に、標準臭気ベクトルS1〜S7を作成して、記憶装置7に記憶させる制御を行うものである。
具体的には、1個の試料に対して、臭気センサ31〜36から6個の測定データDS1、DS2、DS3、DS4、DS5、DS6が得られる。ここで、臭気センサ31〜36から得られた6個の測定データをそれぞれ異なる方向の軸として形成される6次元空間(臭気空間)を考えると、6個の測定データDS1、DS2、DS3、DS4、DS5、DS6は、臭気空間内の1点(DS1,DS2,DS3,DS4,DS5,DS6)で表すことができる。標準試料の濃度を、希釈無し、1/3に希釈、1/10に希釈、不活性ガスのみの4段階に変えた試料をそれぞれ測定して得られた測定結果では、臭気空間内で原点から特有の一定の方向にほぼ直線状に点がずれていくので、これを臭気空間内での標準臭気ベクトルとして捉えることになる。
ここで、6次元空間(臭気空間)を図示するのは難しいので、ここでは理解を容易にするために、2個の臭気センサ31、32から得られた2個の測定データDS1、DS2により形成される2次元空間に簡略化して考えることとする。図2に示すように、2次元空間内において、標準試料の希釈無しの試料に対する2個の測定データDS1、DS2は、1つの測定点P1で表される。また、標準試料を上述したように希釈した試料に対する測定点は、それぞれP2、P3、P4と表される。これにより、P4、P3、P2、P1を一直線で繋ぐことで、標準臭気ベクトルS1を引くことができる。つまり、標準試料の標準臭気に対応付けられる標準臭気ベクトルS1が作成される。
【0022】
よって、7種類の標準試料として、例えば、芳香族系臭気としてのトルエン等、炭化水素系臭気としてのヘプタン等、エステル系臭気としての酢酸エチル等、アミン系臭気としてのトリメチルアミン等、アルデヒド系臭気としてのブチルアルデヒド等、硫黄系臭気としてのメチルメルカプタン等、有機酸系臭気としての酪酸等を用いて測定を行うと、7個の標準臭気ベクトルS1〜S7を作成することができることになる。
【0023】
基準試料測定部22は、官能試験により基準臭気の強度が定められた基準試料の測定結果に基づいて、6次元空間(臭気空間)に臭気ベクトルSXを作成して記憶装置7に記憶させる制御を行うものである。
具体的には、上述したように、1個の試料に対して、臭気センサ31〜36から6個の測定データDS1、DS2、DS3、DS4、DS5、DS6が得られる。6個の測定データDS1、DS2、DS3、DS4、DS5、DS6は、臭気空間(6次元空間)内の1点(DS1,DS2,DS3,DS4,DS5,DS6)で表すことができる。これにより、この点と、記憶装置7に記憶されている原点P4とを結んだものを、臭気空間内で臭気ベクトルとして捉えることになる。
ここで、上述したものと同様に図2に示すように、2次元空間内において、基準試料に対する2個の測定データDS1、DS2は、1つの測定点PXで表される。これにより、P4、PXを一直線で繋ぐことで、基準臭気の強度に対応する臭気ベクトルSXを引くことができる。
なお、官能試験により定められた基準臭気については、臭気空間において基準臭気の種類に対応する原点から一定の方向を示さず、その強度変化に伴って原点から点を見る方向が或る一定の方向に移動するため、例えば、表1に示すような、官能試験によってくん煙臭の強度が異なる6個の基準試料を測定して、6次元空間(臭気空間)に、図3に示すような6個の臭気ベクトルSX1〜SX6を作成する。このとき、6個の基準試料としては、臭気ベクトルSX1〜SX6の長さが等しくなるように調整したものを用いることが好ましい。
【0024】
【表1】
【0025】
算出部23は、標準臭気ベクトルに対する臭気ベクトルSX1〜SX6の角度θ1〜θ6により、標準臭気と基準臭気の強度との類似度αを算出することで、類似度αの変化を示す基準臭気方向ベクトルSAを作成して、標準臭気ベクトルS1〜S7と基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係を記憶装置7に記憶させる制御を行うものである。
例えば、まず、標準臭気ベクトルS1に対する臭気ベクトルSX1〜SX6のそれぞれの類似度αを算出する。
ここで、臭気ベクトルSXの方向が、標準臭気ベクトルS1の方向に似ている場合には、基準臭気の強度は標準臭気に似ている種類の臭気であると判断することができ、逆に、方向が全く異なる場合には、遠い種類の臭気であると判断することができる。そこで、臭気ベクトルSXと標準臭気ベクトルS1との類似性を判断する指標として、標準臭気ベクトルS1と臭気ベクトルSXとの成す角度θに基づいて、標準臭気と基準臭気の強度との類似度αを算出することになる。
よって、予め、図4に示すように、標準臭気ベクトルS1と臭気ベクトルSXとの成す角度θが0°であるときには、類似度αは100であるとし、また、角度θが閾値θth以上であるときには、類似度αは0であると判定するように、角度θと類似度αとの関係を関数として記憶装置7に設定する。これにより、標準臭気と基準臭気の強度との類似度αを0〜100の数値で表す。
【0026】
具体的には、図3に示すような異なるくん煙臭の強度を示す臭気ベクトルSX1〜SX6について、硫黄系臭気を示す標準臭気ベクトルS1に対する各角度θ1〜θ6によりそれぞれ類似度αを算出すると、図5のような結果が得られる。同様に、標準臭気ベクトルS2〜S7に対する角度θにより類似度αを算出すると、図6〜図11のような結果が得られる。
次に、図5〜図11により、標準臭気ベクトルS1〜S7に対する類似度αの変化を示す基準臭気方向ベクトルSAを作成する。例えば、図5により、標準臭気ベクトルS1に対する類似度αが大きくなれば、くん煙臭の強度が強くなるように、同様に図6〜図11に基づいて、臭気方向ベクトルSAを作成する。
その後、標準臭気ベクトルS1〜S7と基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係を記憶装置7に記憶させることになる。なお、基準臭気方向ベクトルSAは、7個の標準臭気ベクトルS1〜S7との位置関係がわかるので、6次元空間(臭気空間)でも位置づけられることになる。
【0027】
測定試料測定部24は、6次元空間(臭気空間)において、未知である測定試料の測定結果に基づいて、測定臭気ベクトルSYを作成する制御を行うものである。
具体的には、上述したように、1個の試料に対して、臭気センサ31〜36から6個の測定データDS1、DS2、DS3、DS4、DS5、DS6が得られる。6個の測定データDS1、DS2、DS3、DS4、DS5、DS6は、臭気空間(6次元空間)内の1点(DS1,DS2,DS3,DS4,DS5,DS6)で表すことができる。これにより、この点と、記憶装置7に記憶されている原点P4とを結んだものを、臭気空間内での測定臭気ベクトルとして捉えることになる。
ここで、上述したものと同様に図12に示すように、2次元空間内において、測定試料に対する2個の測定データDS1、DS2は、1つの測定点PYで表される。これにより、P4、PYを一直線で繋ぐことで、測定試料に対応する測定臭気ベクトルSYを引くことができる。
【0028】
判定部25は、基準臭気方向ベクトルSAを用いて、測定臭気ベクトルSYが示す方向により、測定試料に含まれる基準臭気の強度を算出する制御を行うものである。このとき、測定試料としても、臭気ベクトルSX1〜SX6の長さと等しくなるように調整したものを用いることが好ましい。
【0029】
再算出部26は、標準試料測定部21が7個の標準臭気ベクトルS1’〜S7 ’を更新して記憶させたときに、記憶装置7に記憶させていた7個の標準臭気ベクトルS1〜S7と基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係に基づいて、更新された7個の標準臭気ベクトルS1’〜S7 ’と基準臭気方向ベクトルSA’との位置関係を算出して記憶装置7に記憶させる制御を行うものである。
つまり、それぞれの種類の標準臭気を示す標準臭気ベクトルS1〜S7と、基準臭気の強度を示す基準臭気方向ベクトルSAとの関係は、一定であるので、例えば、図13に示すように、臭気センサ31〜36の応答性が変化するため、標準試料測定部21が7個の標準臭気ベクトルS1’〜S7 ’を更新したときには、記憶装置7に記憶させていた7個の標準臭気ベクトルS1〜S7と基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係に基づいて、更新された7個の標準臭気ベクトルS1’〜S7’と基準臭気方向ベクトルSA’との位置関係を算出して記憶装置7に記憶させることになる。これによって、標準試料測定部21が7個の標準臭気ベクトルS1〜S7を更新するごとに、基準試料測定部22により基準試料を測定する必要がなくなる。
【0030】
次に、臭気測定装置の使用方法について説明する。ここでは、未知である測定試料に含まれるくん煙臭の強度を測定する場合について説明する。図14及び図15は、臭気測定装置の使用方法の一例について説明するためのフローチャートである。
(1)標準臭気の設定作業
まず、ステップS101の処理において、標準臭気ベクトルS1〜S7と臭気ベクトルSXとの成す角度θが0°であるときには、類似度αは100であるとし、また、角度θが閾値θth以上であるときには、類似度αは0であると判定するように、角度θと類似度αとの関係を関数として記憶装置7に設定する(図4参照)。
次に、ステップS102の処理において、操作部8から標準臭気の設定作業を行う操作信号(標準臭気設定信号)を送信する。
次に、ステップS103の処理において、標準臭気ベクトルの数n=0と関数として記憶装置7に記憶される。
【0031】
次に、ステップS104の処理において、試料処理部20は、前処理部2で標準試料を不活性ガスで希釈した試料を作製して、センサセル3に引き込む。
次に、ステップS105の処理において、標準試料測定部21は、標準試料と不活性ガスとの混合比を複数段階に変えた試料を、それぞれ測定した測定結果により、6個の臭気センサにより形成される6次元空間(臭気空間)に、標準臭気ベクトルを作成して、記憶装置7に記憶させる(図2参照)。
【0032】
次に、ステップS106の処理において、n=6であるか否かを判定する。n=6でないときには、ステップS107の処理において、標準臭気ベクトルの数n=n+1と関数として記憶装置7に記憶させて、ステップS104の処理に戻る。
(2)基準臭気の設定作業
一方、n=6であるとした場合には、ステップS108の処理において、官能試験により定められた、表1に示すようなくん煙臭の強度が異なる6個の基準試料を準備する。このとき、各基準試料において、臭気ベクトルSXの長さが等しくなるように調整する。
次に、ステップS109の処理において、操作部8から基準臭気の設定作業を行う操作信号(基準臭気設定信号)を送信する。
【0033】
次に、ステップS110の処理において、試料処理部20は、吸入口1から基準試料をセンサセル3に引き込む。
次に、ステップS111の処理において、基準試料測定部22は、基準試料の測定結果により、6次元空間(臭気空間)に臭気ベクトルSXを作成して、記憶装置7に記憶させる(図3参照)。
【0034】
次に、ステップS112の処理において、基準試料をまだ測定するか否かを判定する。基準試料をまだ測定するときには、ステップS110の処理に戻る。
一方、基準試料をもう測定しない場合には、ステップS113の処理において、算出部23は、標準臭気ベクトルに対する臭気ベクトルSX1〜SX6の角度θ1〜θ6により、標準臭気と基準臭気の強度との類似度αを算出することで、類似度αの変化を示す基準臭気方向ベクトルSAを作成して、標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係を記憶装置7に記憶させる(図5〜図11参照)。
そして、ステップS113の処理が終了した場合には、本フローチャートを終了させることになる。
【0035】
(3)測定試料の測定作業
まず、ステップS201の処理において、操作部8から受信した操作信号の種類を判定する。測定試料の測定作業を行う操作信号(測定信号)を受信したときには、ステップS202の処理において、試料処理部20は、吸入口1から測定試料をセンサセル3に引き込む。
次に、ステップS203の処理において、測定試料測定部24は、測定試料の測定結果により、6次元空間(臭気空間)に測定臭気ベクトルSYを作成する(図12参照)。
【0036】
次に、ステップS204の処理において、判定部25は、基準臭気方向ベクトルSAを用いて、測定臭気ベクトルSYが示す方向により、測定試料に含まれる基準臭気の強度を算出する。
そして、ステップS204の処理が終了した場合には、本フローチャートを終了させることになる。
【0037】
一方、ステップS201の処理において、標準試料の測定作業を行う操作信号(標準試料設定信号)を受信したときには、ステップS205の処理において、標準臭気ベクトルの数n=0と関数として記憶装置7に記憶される。
【0038】
次に、ステップS206の処理において、試料処理部20は、前処理部2で標準試料を不活性ガスで希釈した試料を作製して、センサセル3に引き込む。
次に、ステップS207の処理において、標準試料測定部21は、標準試料と不活性ガスとの混合比を複数段階に変えた試料を、それぞれ測定した測定結果により、6個の臭気センサ31〜36により形成される6次元空間(臭気空間)に、標準臭気ベクトルを作成して、記憶装置7に記憶させる。
【0039】
次に、ステップS208の処理において、n=6であるか否かを判定する。n=6でないときには、ステップS209の処理において、標準臭気ベクトルの数n=n+1と関数として記憶装置7に記憶させて、ステップS206の処理に戻る。
一方、n=6であるとした場合には、ステップS210の処理において、再算出部26は、記憶装置7に記憶させていた標準臭気ベクトルS1〜S7と基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係に基づいて、更新された標準臭気ベクトルS1’〜S7’と基準臭気方向ベクトルSA’との位置関係を算出して記憶装置7に記憶させる。
そして、ステップS210の処理が終了した場合には、ステップS202の処理に戻る。
【0040】
以上のように、本発明の臭気測定装置によれば、予め、官能試験によりくん煙臭の強度が定められた6個の基準試料を測定することにより、6個の臭気ベクトルを作成する。これにより、6個の臭気ベクトルSXの角度θの変化を示す基準臭気方向ベクトルSAを作成して記憶させる。したがって、官能試験によるくん煙臭の強度の方向が対応付けられた基準臭気方向ベクトルSAが記憶されているので、基準臭気方向ベクトルSAと測定試料の測定臭気ベクトルSYとを比較することにより、測定された測定試料の臭気を、くん煙臭の強度で評価することができる。また、人間の嗅覚を用いて判断できなかった小さな差も評価することができる。
【0041】
(他の実施形態)
(1)上述したにおい測定装置では、7種類の標準試料を測定した測定結果により、6個の臭気センサにより形成される6次元空間(臭気空間)に、7個の標準臭気ベクトルS1〜S7を作成する構成としたが、例えば、10種類の標準試料を測定した測定結果により、9個の臭気センサにより形成される9次元空間(臭気空間)に、10個の標準臭気ベクトルを作成するような構成としてもよく、標準試料の種類数と臭気センサの数とは、特に限定されない。
(2)上述した臭気測定装置では、基準試料測定部22により、官能試験によりくん煙臭の強度が定められた基準試料のみの測定結果に基づいて、1個の基準臭気方向ベクトルSAを作成して、標準臭気ベクトルS1〜S7と1個の基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係を記憶させる構成としたが、例えば、官能試験によりくん煙臭とは異なる基準臭気の強度が定められた基準試料の測定結果に基づいて、他の基準臭気方向ベクトルを作成して、標準臭気ベクトルと他の基準臭気方向ベクトルとの位置関係を記憶させるような構成としてもよく、記憶させる基準臭気方向ベクトルの数は、特に限定されない。
【0042】
ベクトルとは、通常直線であるが、本発明におけるベクトルとは、同一のにおいの濃度を変化させて求めた曲線も包含して解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、測定試料の臭気を官能表現で評価する臭気測定装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態である臭気測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】臭気空間における標準臭気ベクトルと臭気ベクトルとを示す説明図である。
【図3】標準臭気ベクトルに対する臭気ベクトルの角度θを示す図である。
【図4】角度θと類似度αとの関係を示す図である。
【図5】硫黄系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図6】アミン系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図7】有機酸系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図8】アルデヒド系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図9】エステル系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図10】芳香族系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図11】炭化水素系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図12】臭気空間における基準臭気方向ベクトルと測定臭気ベクトルとを示す説明図である。
【図13】臭気空間における基準臭気方向ベクトルと標準臭気ベクトルとの関係を示す説明図である。
【図14】臭気測定装置の使用方法の一例について説明するためのフローチャートである。
【図15】臭気測定装置の使用方法の一例について説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
11:ガスタンク
21:標準試料測定部
22:基準試料測定部
23:算出部
31〜36:臭気センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気測定装置に関し、特に、測定試料の臭気を官能表現で評価することができる臭気測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、臭気の識別や評価は、実際に人間の嗅覚を用いて行われるのが一般的であった。しかしながら、実際に臭気を嗅ぐ人(パネラー)の個人差やその日の体調によって嗅覚が変動することを想定する必要があるので、測定結果を精度良く得るためには、パネラーを一定人数以上確保するとともに、試験場所の環境等にも充分な配慮を必要とする。よって、膨大な手間と時間とがかかっていた。さらに、このように行っても、人間の嗅覚は臭気に順応するという特性を有するため、常に一定基準で確定的な判断を下すことは困難であった。
【0003】
そこで、近年、臭気物質に対して応答特性を有するガスセンサの一種である臭気センサを利用した臭気測定装置が開発されている(例えば、特許文献1及び2参照)。こうした臭気測定装置では、複数の臭気センサにより取得された検出信号に基づいて、クラスター分析、主成分分析等の各種多変量解析処理やニューラルネットワークを用いた非線形解析処理等を行うことで、測定試料の臭気の強度を算出することができる。
【0004】
さらに、測定試料の臭気について複数の臭気センサにより取得された検出信号に基づいて、複数の種類の標準臭気に対する類似度をそれぞれ求めることができる臭気測定装置も開示されている(例えば、特許文献3参照)。このような臭気測定装置では、測定試料を、例えば、m個の臭気センサで測定すると、各臭気センサからその強度信号が出力されるため、m個の測定データが生成される。これらの測定データは、数学的には、m次元空間(臭気空間)における1つの点で表される。よって、測定試料の濃度が相違するように複数の試料を作製してそれぞれ測定すると、その濃度変化に伴って臭気空間での点が原点から或る一定の方向に移動するので、その点を繋ぐ1本の線を考えることができる。この1本の線は、その測定試料の臭気の種類に対応する特有な向きを有する。したがって、予め、標準臭気を有する標準試料の測定結果を、臭気空間において位置付けて記憶させることにより、測定試料の測定結果と標準試料の測定結果との方向が、似ている場合には、両者は近い種類の臭気であると判断し、一方、方向が全く異なる場合には、逆に両者は遠い種類の臭気であると判断している。
【0005】
具体的には、臭気空間において、測定試料及び標準試料の測定結果として、それぞれ直線の測定臭気ベクトル及び標準臭気ベクトルを作成した場合には、測定臭気ベクトルと標準臭気ベクトルとの成す角度を算出する。その結果、算出された角度に基づいて標準臭気に対する測定試料の臭気の類似度を、角度が0°であるときには、100と定め、一方、角度が所定値以上であるときには、0と定めるように、0〜100の範囲で設定することにより算出している。さらに、標準臭気ベクトルに対する測定臭気ベクトルの正射影をとり、正射影の長さに基づいて、測定試料の臭気に含まれる基準臭気の強度を算出している。
【特許文献1】特開平11−352088号公報
【特許文献2】特開2002−22692号公報
【特許文献3】特開2003−315298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した臭気測定装置において、標準試料として、例えば、芳香族系臭気としてのトルエン等、アルコール系臭気としてのn−ブタノール等、炭化水素系臭気としてのヘプタン等、エステル系臭気としての酢酸エチル等、アミン系臭気としてのトリメチルアミン等、アルデヒド系臭気としてのブチルアルデヒド等、硫黄系臭気としてのメチルメルカプタン等、有機酸系臭気としての酪酸等を用いていた。よって、測定試料の臭気の類似度や強度は、官能表現でなく、ガス成分濃度表示で評価されていた。
【0007】
一方、臭気測定装置において、例えば、芳香族系臭気との類似度50、芳香族系臭気の強度50というようなガス成分濃度表示でなく、例えば、くん煙臭というような官能表現で評価を行うことが試みられているが、官能試験により定められたくん煙臭等については、臭気空間において原点から特有な向きを示さないため、うまくいかず実用化されていない。
そこで、本発明は、測定試料の臭気を官能表現で評価することができる臭気測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者らは、上記課題を解決するために、官能試験によるくん煙臭等の基準臭気の強度が相違するように複数の試料を作製し測定して、その強度変化に伴って臭気空間において点がどの方向に移動するか検討を行った。そこで、官能試験により定められたくん煙臭等の基準臭気については、その強度変化に伴って臭気空間において原点から点を見る方向が或る一定の方向に移動することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の臭気測定装置は、異なる応答特性を有するm(mは2以上の整数)個の臭気センサと、前記m個の臭気センサの測定結果を表すために形成されるm次元空間において、異なる種類の標準臭気を有するn(nは2以上の整数)個の標準試料の測定結果に基づいて、n個の標準臭気ベクトルを作成して記憶させる標準試料測定部と、前記m次元空間において、官能試験により基準臭気の強度が定められた基準試料の測定結果に基づいて、臭気ベクトルを作成する基準試料測定部とを備える臭気測定装置であって、前記基準試料測定部は、基準臭気の強度が異なる複数の基準試料を測定し、さらに、前記複数の臭気ベクトルの位置関係に基づいて基準臭気方向ベクトルを作成して、前記n個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係を記憶させる算出部を備えることを特徴とするようにしている。
【0010】
本発明の臭気測定装置によれば、官能試験により基準臭気の強度が予め定められた基準試料を測定することにより、m次元空間において、臭気ベクトルを作成する。官能試験により基準臭気の様々な強度が定められた基準試料の測定結果に基づいて、それぞれ臭気ベクトルを作成する。これにより、m次元空間において、例えば、臭気ベクトルの角度(方向)の変化を示す基準臭気方向ベクトルを作成して記憶させる。
ここで、「基準臭気」とは、例えば、くん煙臭、卵が腐った臭気等が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の臭気測定装置によれば、官能試験による基準臭気の強度の方向が対応付けられた基準臭気方向ベクトルが記憶されているので、基準臭気ベクトルと測定試料の測定結果とを比較することにより、測定試料の臭気を、基準臭気の強度を用いる官能表現で評価することができる。また、人間の嗅覚を用いて判断できなかった小さな差も評価することができる。
【0012】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
また、本発明の臭気測定装置は、前記標準試料測定部がn個の標準臭気ベクトルを更新して記憶させたときに、記憶させていたn個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係に基づいて、更新されたn個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係を算出して記憶させる再算出部を備えるようにしてもよい。
本発明の臭気測定装置によれば、それぞれの種類の標準臭気を示す標準臭気ベクトルと、基準臭気の強度を示す基準臭気方向ベクトルとの関係は、一定であるので、例えば、臭気センサの応答性が変化するため、標準試料測定部が、n個の標準臭気ベクトルを更新したときには、記憶させていたn個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係に基づいて、更新されたn個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係を算出して記憶させる。これによって、標準試料測定部がn個の標準臭気ベクトルを更新するごとに、基準試料測定部により基準試料を測定する必要をなくすことができる。
【0013】
また、本発明の臭気測定装置は、前記複数の基準試料において、m次元空間において、前記臭気ベクトルの長さが等しくなるように調整したものを用いるようにしてもよい。
また、本発明の臭気測定装置は、前記算出部は、基準臭気の強度が異なる臭気ベクトルの角度の変化を示す基準臭気方向ベクトルを作成するようにしてもよい。
そして、本発明の臭気測定装置は、前記算出部は、基準臭気の強度が異なる臭気ベクトルについて、各標準臭気ベクトルに対して正射影をとり、正射影の長さの変化により、基準臭気方向ベクトルを作成するようにしてもよい。
さらに、本発明の臭気測定装置は、前記標準臭気は、芳香族系臭気、アルコール系臭気、炭化水素系臭気、エステル系臭気、アミン系臭気、アルデヒド系臭気、硫黄系臭気、及び、有機酸系臭気からなる群から選択される少なくとも2つのものであるようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態である臭気測定装置の構成を示すブロック図である。
臭気測定装置は、試料(標準試料、基準試料、測定試料)を吸引する吸入口1と、前処理を施す前処理部(捕集管)2と、それぞれ応答特性が異なる6個の臭気センサ31〜36を有するセンサセル3と、センサセル3に試料を引き込むためのポンプ4と、不活性ガスを貯蔵するガスタンク11と、臭気センサ31〜36による検出信号を解析処理したり、装置全体の動作を制御したりする制御部5と、制御部5からの出力をディスプレイ画面に表示する表示部6と、キーボード等の入力装置を有する操作部8とにより構成される。
【0016】
なお、吸入口1から吸引する基準試料又は測定試料は、常温でガスの場合はガスボンベ等に封入され、一定量を取り出されて使用される。また、液体の場合はガラス容器等に入れられ、所定温度に保たれたり、窒素ガス等をバブリングされたりして使用される。さらに、固体の場合はガラス容器等に入れられ、所定温度に保たれて使用される。
【0017】
前処理部(捕集管)2は、試料に含まれる水分の除去、試料の濃縮/希釈、妨害ガスの除去等を行うものである。よって、前処理部2では、例えば、標準試料を不活性ガス等で希釈することで、標準試料の濃度を複数段階(例えば、希釈無し、1/3に希釈、1/10に希釈、不活性ガスのみの4段階)に変えた試料を作製することもできる。
【0018】
臭気センサ31〜36は、臭気の強度に応じて電気抵抗値が変化するそれぞれ異なる応答特性を有する酸化物半導体センサであるが、導電性高分子センサや、水晶振動子や、SAWデバイスの表面にガス吸着膜を形成したセンサ等、他の検出手法によるセンサであってもよい。また、臭気センサの個数も、特に限定されない。このような臭気センサ31〜36に、試料が接触すると、各臭気センサ31〜36からそれぞれ検出信号が並列で制御部5に出力されることになる。
【0019】
制御部5は、パーソナルコンピュータを中心に構成され、コンピュータ上で所定のプログラムを実行することにより、試料処理部20と、標準試料測定部21と、基準試料測定部22と、算出部23と、測定試料測定部24と、判定部25と、再算出部26として機能するものである。また、制御部5は、データを記憶させる記憶装置(メモリ、HDD等)7と連結されている。
【0020】
試料処理部20は、操作部8からの操作信号等に基づいて、ポンプ4を作動させることにより、試料をセンサセル3に引き込む制御を行うものである。
例えば、標準臭気の設定作業を行う操作信号(標準臭気設定信号)を受信したときには、前処理部2で標準試料を不活性ガスで希釈した試料を作製して、センサセル3に引き込む。このとき、例えば、標準試料の濃度を、希釈無し、1/3に希釈、1/10に希釈、不活性ガスのみの4段階に変えた試料を作製して、順次センサセル3に引き込む。また、基準臭気の設定作業を行う出力信号(基準臭気設定信号)を受信したときには、そのまま試料をセンサセル3に引き込む。さらに、測定試料の測定作業を行う出力信号(測定信号)を受信したときには、そのまま試料をセンサセル3に引き込む。
【0021】
標準試料測定部21は、標準試料と不活性ガスとの混合比を複数段階に変えた試料を、それぞれ測定した測定結果により、6個の臭気センサ31〜36により形成される6次元空間(臭気空間)に、標準臭気ベクトルS1〜S7を作成して、記憶装置7に記憶させる制御を行うものである。
具体的には、1個の試料に対して、臭気センサ31〜36から6個の測定データDS1、DS2、DS3、DS4、DS5、DS6が得られる。ここで、臭気センサ31〜36から得られた6個の測定データをそれぞれ異なる方向の軸として形成される6次元空間(臭気空間)を考えると、6個の測定データDS1、DS2、DS3、DS4、DS5、DS6は、臭気空間内の1点(DS1,DS2,DS3,DS4,DS5,DS6)で表すことができる。標準試料の濃度を、希釈無し、1/3に希釈、1/10に希釈、不活性ガスのみの4段階に変えた試料をそれぞれ測定して得られた測定結果では、臭気空間内で原点から特有の一定の方向にほぼ直線状に点がずれていくので、これを臭気空間内での標準臭気ベクトルとして捉えることになる。
ここで、6次元空間(臭気空間)を図示するのは難しいので、ここでは理解を容易にするために、2個の臭気センサ31、32から得られた2個の測定データDS1、DS2により形成される2次元空間に簡略化して考えることとする。図2に示すように、2次元空間内において、標準試料の希釈無しの試料に対する2個の測定データDS1、DS2は、1つの測定点P1で表される。また、標準試料を上述したように希釈した試料に対する測定点は、それぞれP2、P3、P4と表される。これにより、P4、P3、P2、P1を一直線で繋ぐことで、標準臭気ベクトルS1を引くことができる。つまり、標準試料の標準臭気に対応付けられる標準臭気ベクトルS1が作成される。
【0022】
よって、7種類の標準試料として、例えば、芳香族系臭気としてのトルエン等、炭化水素系臭気としてのヘプタン等、エステル系臭気としての酢酸エチル等、アミン系臭気としてのトリメチルアミン等、アルデヒド系臭気としてのブチルアルデヒド等、硫黄系臭気としてのメチルメルカプタン等、有機酸系臭気としての酪酸等を用いて測定を行うと、7個の標準臭気ベクトルS1〜S7を作成することができることになる。
【0023】
基準試料測定部22は、官能試験により基準臭気の強度が定められた基準試料の測定結果に基づいて、6次元空間(臭気空間)に臭気ベクトルSXを作成して記憶装置7に記憶させる制御を行うものである。
具体的には、上述したように、1個の試料に対して、臭気センサ31〜36から6個の測定データDS1、DS2、DS3、DS4、DS5、DS6が得られる。6個の測定データDS1、DS2、DS3、DS4、DS5、DS6は、臭気空間(6次元空間)内の1点(DS1,DS2,DS3,DS4,DS5,DS6)で表すことができる。これにより、この点と、記憶装置7に記憶されている原点P4とを結んだものを、臭気空間内で臭気ベクトルとして捉えることになる。
ここで、上述したものと同様に図2に示すように、2次元空間内において、基準試料に対する2個の測定データDS1、DS2は、1つの測定点PXで表される。これにより、P4、PXを一直線で繋ぐことで、基準臭気の強度に対応する臭気ベクトルSXを引くことができる。
なお、官能試験により定められた基準臭気については、臭気空間において基準臭気の種類に対応する原点から一定の方向を示さず、その強度変化に伴って原点から点を見る方向が或る一定の方向に移動するため、例えば、表1に示すような、官能試験によってくん煙臭の強度が異なる6個の基準試料を測定して、6次元空間(臭気空間)に、図3に示すような6個の臭気ベクトルSX1〜SX6を作成する。このとき、6個の基準試料としては、臭気ベクトルSX1〜SX6の長さが等しくなるように調整したものを用いることが好ましい。
【0024】
【表1】
【0025】
算出部23は、標準臭気ベクトルに対する臭気ベクトルSX1〜SX6の角度θ1〜θ6により、標準臭気と基準臭気の強度との類似度αを算出することで、類似度αの変化を示す基準臭気方向ベクトルSAを作成して、標準臭気ベクトルS1〜S7と基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係を記憶装置7に記憶させる制御を行うものである。
例えば、まず、標準臭気ベクトルS1に対する臭気ベクトルSX1〜SX6のそれぞれの類似度αを算出する。
ここで、臭気ベクトルSXの方向が、標準臭気ベクトルS1の方向に似ている場合には、基準臭気の強度は標準臭気に似ている種類の臭気であると判断することができ、逆に、方向が全く異なる場合には、遠い種類の臭気であると判断することができる。そこで、臭気ベクトルSXと標準臭気ベクトルS1との類似性を判断する指標として、標準臭気ベクトルS1と臭気ベクトルSXとの成す角度θに基づいて、標準臭気と基準臭気の強度との類似度αを算出することになる。
よって、予め、図4に示すように、標準臭気ベクトルS1と臭気ベクトルSXとの成す角度θが0°であるときには、類似度αは100であるとし、また、角度θが閾値θth以上であるときには、類似度αは0であると判定するように、角度θと類似度αとの関係を関数として記憶装置7に設定する。これにより、標準臭気と基準臭気の強度との類似度αを0〜100の数値で表す。
【0026】
具体的には、図3に示すような異なるくん煙臭の強度を示す臭気ベクトルSX1〜SX6について、硫黄系臭気を示す標準臭気ベクトルS1に対する各角度θ1〜θ6によりそれぞれ類似度αを算出すると、図5のような結果が得られる。同様に、標準臭気ベクトルS2〜S7に対する角度θにより類似度αを算出すると、図6〜図11のような結果が得られる。
次に、図5〜図11により、標準臭気ベクトルS1〜S7に対する類似度αの変化を示す基準臭気方向ベクトルSAを作成する。例えば、図5により、標準臭気ベクトルS1に対する類似度αが大きくなれば、くん煙臭の強度が強くなるように、同様に図6〜図11に基づいて、臭気方向ベクトルSAを作成する。
その後、標準臭気ベクトルS1〜S7と基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係を記憶装置7に記憶させることになる。なお、基準臭気方向ベクトルSAは、7個の標準臭気ベクトルS1〜S7との位置関係がわかるので、6次元空間(臭気空間)でも位置づけられることになる。
【0027】
測定試料測定部24は、6次元空間(臭気空間)において、未知である測定試料の測定結果に基づいて、測定臭気ベクトルSYを作成する制御を行うものである。
具体的には、上述したように、1個の試料に対して、臭気センサ31〜36から6個の測定データDS1、DS2、DS3、DS4、DS5、DS6が得られる。6個の測定データDS1、DS2、DS3、DS4、DS5、DS6は、臭気空間(6次元空間)内の1点(DS1,DS2,DS3,DS4,DS5,DS6)で表すことができる。これにより、この点と、記憶装置7に記憶されている原点P4とを結んだものを、臭気空間内での測定臭気ベクトルとして捉えることになる。
ここで、上述したものと同様に図12に示すように、2次元空間内において、測定試料に対する2個の測定データDS1、DS2は、1つの測定点PYで表される。これにより、P4、PYを一直線で繋ぐことで、測定試料に対応する測定臭気ベクトルSYを引くことができる。
【0028】
判定部25は、基準臭気方向ベクトルSAを用いて、測定臭気ベクトルSYが示す方向により、測定試料に含まれる基準臭気の強度を算出する制御を行うものである。このとき、測定試料としても、臭気ベクトルSX1〜SX6の長さと等しくなるように調整したものを用いることが好ましい。
【0029】
再算出部26は、標準試料測定部21が7個の標準臭気ベクトルS1’〜S7 ’を更新して記憶させたときに、記憶装置7に記憶させていた7個の標準臭気ベクトルS1〜S7と基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係に基づいて、更新された7個の標準臭気ベクトルS1’〜S7 ’と基準臭気方向ベクトルSA’との位置関係を算出して記憶装置7に記憶させる制御を行うものである。
つまり、それぞれの種類の標準臭気を示す標準臭気ベクトルS1〜S7と、基準臭気の強度を示す基準臭気方向ベクトルSAとの関係は、一定であるので、例えば、図13に示すように、臭気センサ31〜36の応答性が変化するため、標準試料測定部21が7個の標準臭気ベクトルS1’〜S7 ’を更新したときには、記憶装置7に記憶させていた7個の標準臭気ベクトルS1〜S7と基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係に基づいて、更新された7個の標準臭気ベクトルS1’〜S7’と基準臭気方向ベクトルSA’との位置関係を算出して記憶装置7に記憶させることになる。これによって、標準試料測定部21が7個の標準臭気ベクトルS1〜S7を更新するごとに、基準試料測定部22により基準試料を測定する必要がなくなる。
【0030】
次に、臭気測定装置の使用方法について説明する。ここでは、未知である測定試料に含まれるくん煙臭の強度を測定する場合について説明する。図14及び図15は、臭気測定装置の使用方法の一例について説明するためのフローチャートである。
(1)標準臭気の設定作業
まず、ステップS101の処理において、標準臭気ベクトルS1〜S7と臭気ベクトルSXとの成す角度θが0°であるときには、類似度αは100であるとし、また、角度θが閾値θth以上であるときには、類似度αは0であると判定するように、角度θと類似度αとの関係を関数として記憶装置7に設定する(図4参照)。
次に、ステップS102の処理において、操作部8から標準臭気の設定作業を行う操作信号(標準臭気設定信号)を送信する。
次に、ステップS103の処理において、標準臭気ベクトルの数n=0と関数として記憶装置7に記憶される。
【0031】
次に、ステップS104の処理において、試料処理部20は、前処理部2で標準試料を不活性ガスで希釈した試料を作製して、センサセル3に引き込む。
次に、ステップS105の処理において、標準試料測定部21は、標準試料と不活性ガスとの混合比を複数段階に変えた試料を、それぞれ測定した測定結果により、6個の臭気センサにより形成される6次元空間(臭気空間)に、標準臭気ベクトルを作成して、記憶装置7に記憶させる(図2参照)。
【0032】
次に、ステップS106の処理において、n=6であるか否かを判定する。n=6でないときには、ステップS107の処理において、標準臭気ベクトルの数n=n+1と関数として記憶装置7に記憶させて、ステップS104の処理に戻る。
(2)基準臭気の設定作業
一方、n=6であるとした場合には、ステップS108の処理において、官能試験により定められた、表1に示すようなくん煙臭の強度が異なる6個の基準試料を準備する。このとき、各基準試料において、臭気ベクトルSXの長さが等しくなるように調整する。
次に、ステップS109の処理において、操作部8から基準臭気の設定作業を行う操作信号(基準臭気設定信号)を送信する。
【0033】
次に、ステップS110の処理において、試料処理部20は、吸入口1から基準試料をセンサセル3に引き込む。
次に、ステップS111の処理において、基準試料測定部22は、基準試料の測定結果により、6次元空間(臭気空間)に臭気ベクトルSXを作成して、記憶装置7に記憶させる(図3参照)。
【0034】
次に、ステップS112の処理において、基準試料をまだ測定するか否かを判定する。基準試料をまだ測定するときには、ステップS110の処理に戻る。
一方、基準試料をもう測定しない場合には、ステップS113の処理において、算出部23は、標準臭気ベクトルに対する臭気ベクトルSX1〜SX6の角度θ1〜θ6により、標準臭気と基準臭気の強度との類似度αを算出することで、類似度αの変化を示す基準臭気方向ベクトルSAを作成して、標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係を記憶装置7に記憶させる(図5〜図11参照)。
そして、ステップS113の処理が終了した場合には、本フローチャートを終了させることになる。
【0035】
(3)測定試料の測定作業
まず、ステップS201の処理において、操作部8から受信した操作信号の種類を判定する。測定試料の測定作業を行う操作信号(測定信号)を受信したときには、ステップS202の処理において、試料処理部20は、吸入口1から測定試料をセンサセル3に引き込む。
次に、ステップS203の処理において、測定試料測定部24は、測定試料の測定結果により、6次元空間(臭気空間)に測定臭気ベクトルSYを作成する(図12参照)。
【0036】
次に、ステップS204の処理において、判定部25は、基準臭気方向ベクトルSAを用いて、測定臭気ベクトルSYが示す方向により、測定試料に含まれる基準臭気の強度を算出する。
そして、ステップS204の処理が終了した場合には、本フローチャートを終了させることになる。
【0037】
一方、ステップS201の処理において、標準試料の測定作業を行う操作信号(標準試料設定信号)を受信したときには、ステップS205の処理において、標準臭気ベクトルの数n=0と関数として記憶装置7に記憶される。
【0038】
次に、ステップS206の処理において、試料処理部20は、前処理部2で標準試料を不活性ガスで希釈した試料を作製して、センサセル3に引き込む。
次に、ステップS207の処理において、標準試料測定部21は、標準試料と不活性ガスとの混合比を複数段階に変えた試料を、それぞれ測定した測定結果により、6個の臭気センサ31〜36により形成される6次元空間(臭気空間)に、標準臭気ベクトルを作成して、記憶装置7に記憶させる。
【0039】
次に、ステップS208の処理において、n=6であるか否かを判定する。n=6でないときには、ステップS209の処理において、標準臭気ベクトルの数n=n+1と関数として記憶装置7に記憶させて、ステップS206の処理に戻る。
一方、n=6であるとした場合には、ステップS210の処理において、再算出部26は、記憶装置7に記憶させていた標準臭気ベクトルS1〜S7と基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係に基づいて、更新された標準臭気ベクトルS1’〜S7’と基準臭気方向ベクトルSA’との位置関係を算出して記憶装置7に記憶させる。
そして、ステップS210の処理が終了した場合には、ステップS202の処理に戻る。
【0040】
以上のように、本発明の臭気測定装置によれば、予め、官能試験によりくん煙臭の強度が定められた6個の基準試料を測定することにより、6個の臭気ベクトルを作成する。これにより、6個の臭気ベクトルSXの角度θの変化を示す基準臭気方向ベクトルSAを作成して記憶させる。したがって、官能試験によるくん煙臭の強度の方向が対応付けられた基準臭気方向ベクトルSAが記憶されているので、基準臭気方向ベクトルSAと測定試料の測定臭気ベクトルSYとを比較することにより、測定された測定試料の臭気を、くん煙臭の強度で評価することができる。また、人間の嗅覚を用いて判断できなかった小さな差も評価することができる。
【0041】
(他の実施形態)
(1)上述したにおい測定装置では、7種類の標準試料を測定した測定結果により、6個の臭気センサにより形成される6次元空間(臭気空間)に、7個の標準臭気ベクトルS1〜S7を作成する構成としたが、例えば、10種類の標準試料を測定した測定結果により、9個の臭気センサにより形成される9次元空間(臭気空間)に、10個の標準臭気ベクトルを作成するような構成としてもよく、標準試料の種類数と臭気センサの数とは、特に限定されない。
(2)上述した臭気測定装置では、基準試料測定部22により、官能試験によりくん煙臭の強度が定められた基準試料のみの測定結果に基づいて、1個の基準臭気方向ベクトルSAを作成して、標準臭気ベクトルS1〜S7と1個の基準臭気方向ベクトルSAとの位置関係を記憶させる構成としたが、例えば、官能試験によりくん煙臭とは異なる基準臭気の強度が定められた基準試料の測定結果に基づいて、他の基準臭気方向ベクトルを作成して、標準臭気ベクトルと他の基準臭気方向ベクトルとの位置関係を記憶させるような構成としてもよく、記憶させる基準臭気方向ベクトルの数は、特に限定されない。
【0042】
ベクトルとは、通常直線であるが、本発明におけるベクトルとは、同一のにおいの濃度を変化させて求めた曲線も包含して解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、測定試料の臭気を官能表現で評価する臭気測定装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態である臭気測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】臭気空間における標準臭気ベクトルと臭気ベクトルとを示す説明図である。
【図3】標準臭気ベクトルに対する臭気ベクトルの角度θを示す図である。
【図4】角度θと類似度αとの関係を示す図である。
【図5】硫黄系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図6】アミン系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図7】有機酸系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図8】アルデヒド系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図9】エステル系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図10】芳香族系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図11】炭化水素系臭気に対する類似度αとくん煙臭の強度との関係を示すグラフである。
【図12】臭気空間における基準臭気方向ベクトルと測定臭気ベクトルとを示す説明図である。
【図13】臭気空間における基準臭気方向ベクトルと標準臭気ベクトルとの関係を示す説明図である。
【図14】臭気測定装置の使用方法の一例について説明するためのフローチャートである。
【図15】臭気測定装置の使用方法の一例について説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
11:ガスタンク
21:標準試料測定部
22:基準試料測定部
23:算出部
31〜36:臭気センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる応答特性を有するm(mは2以上の整数)個の臭気センサと、
前記m個の臭気センサの測定結果を表すために形成されるm次元空間において、異なる種類の標準臭気を有するn(nは2以上の整数)個の標準試料の測定結果に基づいて、n個の標準臭気ベクトルを作成して記憶させる標準試料測定部と、
前記m次元空間において、官能試験により基準臭気の強度が定められた基準試料の測定結果に基づいて、臭気ベクトルを作成する基準試料測定部とを備える臭気測定装置であって、
前記基準試料測定部は、基準臭気の強度が異なる複数の基準試料を測定し、
さらに、前記複数の臭気ベクトルの位置関係に基づいて基準臭気方向ベクトルを作成して、前記n個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係を記憶させる算出部を備えることを特徴とする臭気測定装置。
【請求項2】
前記標準試料測定部がn個の標準臭気ベクトルを更新して記憶させたときに、記憶させていたn個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係に基づいて、更新されたn個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係を算出して記憶させる再算出部を備えることを特徴とする請求項2に記載の臭気測定装置。
【請求項3】
前記複数の基準試料において、m次元空間において、前記臭気ベクトルの長さが等しくなるように調整したものを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の臭気測定装置。
【請求項4】
前記算出部は、基準臭気の強度が異なる臭気ベクトルの角度の変化を示す基準臭気方向ベクトルを作成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の臭気測定装置。
【請求項5】
前記算出部は、基準臭気の強度が異なる臭気ベクトルについて、各標準臭気ベクトルに対して正射影をとり、正射影の長さの変化により、基準臭気方向ベクトルを作成することを特徴とする請求項3に記載の臭気測定装置。
【請求項6】
前記標準臭気は、芳香族系臭気、アルコール系臭気、炭化水素系臭気、エステル系臭気、アミン系臭気、アルデヒド系臭気、硫黄系臭気、及び、有機酸系臭気からなる群から選択される少なくとも2つのものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の臭気測定装置。
【請求項1】
異なる応答特性を有するm(mは2以上の整数)個の臭気センサと、
前記m個の臭気センサの測定結果を表すために形成されるm次元空間において、異なる種類の標準臭気を有するn(nは2以上の整数)個の標準試料の測定結果に基づいて、n個の標準臭気ベクトルを作成して記憶させる標準試料測定部と、
前記m次元空間において、官能試験により基準臭気の強度が定められた基準試料の測定結果に基づいて、臭気ベクトルを作成する基準試料測定部とを備える臭気測定装置であって、
前記基準試料測定部は、基準臭気の強度が異なる複数の基準試料を測定し、
さらに、前記複数の臭気ベクトルの位置関係に基づいて基準臭気方向ベクトルを作成して、前記n個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係を記憶させる算出部を備えることを特徴とする臭気測定装置。
【請求項2】
前記標準試料測定部がn個の標準臭気ベクトルを更新して記憶させたときに、記憶させていたn個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係に基づいて、更新されたn個の標準臭気ベクトルと基準臭気方向ベクトルとの位置関係を算出して記憶させる再算出部を備えることを特徴とする請求項2に記載の臭気測定装置。
【請求項3】
前記複数の基準試料において、m次元空間において、前記臭気ベクトルの長さが等しくなるように調整したものを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の臭気測定装置。
【請求項4】
前記算出部は、基準臭気の強度が異なる臭気ベクトルの角度の変化を示す基準臭気方向ベクトルを作成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の臭気測定装置。
【請求項5】
前記算出部は、基準臭気の強度が異なる臭気ベクトルについて、各標準臭気ベクトルに対して正射影をとり、正射影の長さの変化により、基準臭気方向ベクトルを作成することを特徴とする請求項3に記載の臭気測定装置。
【請求項6】
前記標準臭気は、芳香族系臭気、アルコール系臭気、炭化水素系臭気、エステル系臭気、アミン系臭気、アルデヒド系臭気、硫黄系臭気、及び、有機酸系臭気からなる群から選択される少なくとも2つのものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の臭気測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−156768(P2009−156768A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336947(P2007−336947)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
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