説明

興奮抑制用又は鎮静用組成物及びこれを含む飲食品

【課題】新たな興奮抑制用又は鎮静用組成物を提供する。
【解決手段】トマト由来物質を有効成分とする興奮抑制用又は鎮静用組成物、並びに前記興奮抑制用又は鎮静用組成物を含む飲食品。ここでトマト由来物質は、非γ−アミノ酪酸画分、グアノシン又はアデノシンを含む、シチジン又はウリジンを含み、且つシチジン、ウリジン、グアノシン及びアデノシンの合計含有量よりも少ない量のγ−アミノ酪酸をさらに含む興奮抑制用又は鎮静用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、興奮抑制用又は鎮静用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、薬物療法と一般療法との中間に位置するともいえる治療方法又は予防方法に食品が用いられるようになってきている。このような食品は、健康食品、機能性食品、健康補助食品又は特定保健用食品と呼ばれている。これらの食品として、鎮静作用や興奮抑制作用を有する物質を添加したもの等があり、健康食品や健康飲料などとして販売されている。このような鎮静作用や興奮抑制作用などに効果を有する成分として、テアニン、L−カルニチン、L−ドーパやγ−アミノ酪酸(GABA)等が知られている。
【0003】
治療効果又は予防効果を有する食品に対するニーズは高まってきており、さらに効き目のある商品、安心して長期に亘って服用できる商品、経済的負担のより少ない商品が、常に求められている。
【0004】
トマトは、昔から美味しく、且つ健康に良い食品として、多くの国の人々に食されている。トマトの主な栄養成分は、ビタミンA、ビタミンB6、ビタミンC、カリウム、食物繊維及び鉄などである(非特許文献1)。
【0005】
具体的にいえば、トマトには、風邪の予防に効果的に働くビタミンC、脂肪の代謝を円滑にするビタミンB6、及び血液中の塩分を排出し高血圧予防に効果的なカリウムなどの栄養成分が豊富に含まれていることが知られている。
【0006】
また、トマトの赤色色素でもあるリコピンには強力な抗酸化作用があり、老化抑制効果、肌や皮膚を若々しく保つ美容効果、及びがんの予防効果などがあることが知られている。
【0007】
さらに、トマトには水溶性食物繊維のペクチンが含まれ、便秘の改善効果、及び老廃物や有害物質を排出する働きを促進することによる生活習慣病(成人病)の予防効果があることが知られている。
【0008】
特許文献1は、トマトの搾汁液やその漿液に疲労改善効果があることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開第2006−193435号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】五訂増補日本食品標準成分表,文部科学省科学技術・学術審議会・資源調査分科会編、平成17年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、トマトが興奮抑制作用や鎮静作用を有することについては、未だ知られていない。
【0012】
本発明は、このような観点からなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、新たな興奮抑制用又は鎮静用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、トマト由来物質が興奮抑制作用や鎮静作用を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明は、以下の通りである。
[1]
【0015】
トマト由来物質を有効成分とする、興奮抑制用又は鎮静用組成物。
[2]
【0016】
前記トマト由来物質は、非γ−アミノ酪酸画分である、[1]に記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物。
[3]
【0017】
前記トマト由来物質は、グアノシン又はアデノシンを含む、[1]又は[2]に記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物。
[4]
【0018】
前記トマト由来物質は、シチジン又はウリジンを含み、且つシチジン、ウリジン、グアノシン及びアデノシンの合計含有量よりも少ない量のγ−アミノ酪酸をさらに含む、[3]に記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物。
[5]
【0019】
前記トマト由来物質は、γ−アミノ酪酸を含み、且つ前記γ−アミノ酪酸の含有量よりも合計含有量として少ない、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン及びアラニンよりなる群から選択される1種以上をさらに含む、[3]又は[4]に記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物。
[6]
【0020】
前記トマト由来物質は、合成吸着剤で吸着することにより得られる、[1]〜[5]のいずれかに記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物。
[7]
【0021】
前記合成吸着剤は、SP207である、[6]に記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物。
[8]
【0022】
[1]〜[7]のいずれかに記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物を含む飲食品。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、新たな興奮抑制用又は鎮静用組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】各フラクションのウリジン及びGABAの含有量を示すグラフである。
【図2A】一群のn数を10として、測定開始から13時間後までの自発運動量の測定結果を表したグラフである。
【図2B】一群のn数を10として、測定開始から13時間後までの自発運動量の測定結果を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0026】
[トマト由来物質を有効成分とする興奮抑制用又は鎮静用組成物]
本発明に係る興奮抑制用又は鎮静用組成物は、トマト由来物質を有効成分とするものである。ここで、本明細書におけるトマト由来物質とは、トマト果実を搾汁して得られる液体、又はこれを加工して得られる液体若しくは粉末をいう。かかる液体はそのまま飲用に供することもでき、また、かかるトマト由来物質は他の野菜搾汁液及び/又は果実搾汁液と混合して飲用に供することもできる。さらに、前記トマト由来物質には、必要に応じて調味料、酸味料や各種添加物などを添加することができる。前記トマト由来物質は、各種容器(例えば紙容器、PET容器、スチール製缶容器やアルミ製缶容器など)に充填し、容器詰飲料の形態で販売することができる。各種容器の材質、形状、大きさや色彩などは特に制限されない。
【0027】
前記トマト由来物質の例として、トマトの粗抽出物、及び前記粗抽出物のうち液状のものを合成吸着剤で吸着することにより得られる画分(液状、粉末状)が挙げられる。ここで、本明細書における「粗抽出物」とは、上記した粗抽出物のうち液状のものを合成吸着剤で吸着することにより得られる画分を除くあらゆるトマトの抽出物(液状、粉末状)を意味する。前記粗抽出物の具体例として、以下に制限されないが、トマトの搾汁液若しくはその漿液、又は液体状の粗抽出物を粉末化したものが挙げられる。また、これらの希釈物又は濃縮物であってもよい。上記の中でも、トマトに含まれる成分のうち特定のものを高濃度で得られる観点から、粗抽出物のうち液状のものを合成吸着剤で吸着することにより得られる画分(液状、粉末状)が好ましい。換言すれば、本発明に係る興奮抑制用又は鎮静用組成物は、合成吸着剤で吸着することにより得られることが好ましい。なお、前記画分の状態としては、液体、又はこれを加工して得られる粉末があり得る。
【0028】
上記搾汁液を得る方法としては、トマト果実を搾汁して液を得ることができればよいため、特に制限されることはない。例えば、トマト(所望により洗浄し選別されたもの)を、リーマ等を用いて搾り取る方法、油圧プレス機、ローラー圧搾機やインライン搾汁機を用いて圧搾し搾汁する方法、パルパー・フィニッシャー等を用いて破砕し搾汁する方法、並びにクラッシャー等を用いて破砕し、チューブヒーター等で加熱して殺菌及び酵素失活を行った後、エクストラクター等を用いて搾汁する方法が挙げられる。さらに、これらの方法に従って圧搾(搾汁)されたものを、所望により、ジューサーにかけたり、及び/又は殺菌を行ってもよい。
【0029】
本明細書における漿液とは上澄み(sap)を意味し、上記漿液を得る方法としては、以下に制限されないが、例えば、トマト搾汁液を遠心分離することにより得られる。さらに、所望により殺菌を行ってもよい。
【0030】
上記濃縮物を得る方法としては、以下に制限されないが、例えば、通常の加熱による濃縮、減圧濃縮、低温濃縮、凍結濃縮、及び逆浸透濃縮が挙げられる。
【0031】
上記した、液体状の粗抽出物を粉末化したものを得る方法としては、以下に制限されないが、トマトの搾汁液や漿液などを減圧濃縮した後、凍結乾燥することが挙げられる。
【0032】
前記トマト由来物質は、上述のような製造工程を経ることにより得られたものを用いてもよいし、市販品(例えば後述の実施例を参照)を用いてもよい。
【0033】
続いて、粗抽出物のうち液状のものを合成吸着剤で吸着することにより得られる画分について詳細に説明する。上述のように、粗抽出物のうち液状のものを合成吸着剤で吸着することにより得られる画分は、トマトに含まれる成分のうち特定のものを高濃度で得られる点で好適であるが、中でも、非γ−アミノ酪酸画分であることが好ましい。なぜなら、γ−アミノ酪酸以外の成分が主要な成分の場合、γ−アミノ酪酸画分を含む、γ−アミノ酪酸が主要な成分の場合と比較して、より少量で自発運動量を顕著に低下させることができ、興奮抑制効果や鎮静効果を効果的に得ることができるからである。ここで、本明細書における「非γ−アミノ酪酸画分」とは、γ−アミノ酪酸の含有量が粗抽出物の含有量に対して1/10以下である画分を意味する。
【0034】
上記の画分に限らず、これまで説明してきた具体的なトマト由来物質の中でも、γ−アミノ酪酸の含有量が粗抽出物の含有量に対して1/10以下であるものが好ましい。なぜなら、γ−アミノ酪酸以外の成分が主要な成分の場合、γ−アミノ酪酸が主要な成分の場合と比較して、より少量で自発運動量を顕著に低下させることができ、興奮抑制効果や鎮静効果を効果的に得ることができるからである。
【0035】
ここで、上記した非γ−アミノ酪酸画分などのトマト由来物質を成分の点から説明する。自発運動量を低下させて興奮抑制作用や鎮静作用を発揮する観点から、前記トマト由来物質は、グアノシン又はアデノシンを含むことが好ましい。加えて、前記トマト由来物質は、シチジン又はウリジンを含み、且つシチジン、ウリジン、グアノシン及びアデノシンの合計含有量よりも少ない量のγ−アミノ酪酸をさらに含むことがより好ましい。換言すれば、前記トマト由来物質において、シチジン、ウリジン、グアノシン及びアデノシンの合計含有量が、質量基準で、γ−アミノ酪酸の含有量よりも多いことがより好ましい。また、前記トマト由来物質は、グアノシン又はアデノシンを含むことに加えて、γ−アミノ酪酸を含み、且つ前記γ−アミノ酪酸の含有量よりも合計含有量として少ない、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン及びアラニンよりなる群から選択される1種以上をさらに含むこともより好ましい。換言すれば、前記トマト由来物質において、γ−アミノ酪酸の含有量が、質量基準で、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン及びアラニンの合計含有量よりも多いこともより好ましい。さらに好ましくは、上記のより好ましい2種類の条件を共に満たすトマト由来物質である。
【0036】
トマトの合成吸着剤吸着画分(以下、単に「吸着画分」ともいう)は、例えば、搾汁液などのトマト由来物質(粗抽出物)を合成吸着剤で吸着処理し、その吸着画分を溶出溶媒により溶出処理することによって得ることができる。一方、トマトの合成吸着剤非吸着画分(以下、単に「非吸着画分」ともいう)は、例えば、トマト由来物質(粗抽出物)を合成吸着剤で吸着処理する際に、吸着せずに流出した画分を回収することによって得ることができる。
【0037】
合成吸着剤で吸着することによる、吸着処理を行う方法は、従来公知の方法に従って行うことができ、特に制限されることはない。吸着処理する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0038】
搾汁液やその漿液を合成吸着剤で吸着処理し、合成吸着剤へ水を通液して水押しした後、例えば60%エタノールを通液して回収することにより、目的とするトマトの合成吸着剤吸着画分を得ることができる。
【0039】
合成吸着剤による処理は、バッチ法、カラム法の何れで行ってもよいが、比較的少量の合成吸着剤により効率良く処理できるカラム法が好ましい。合成吸着剤による処理は、少なくとも一回行えばよい。前記合成吸着剤は、多孔性の吸着剤であることが好ましい。
【0040】
合成吸着剤の比表面積(BET法による)は、好ましくは100〜1,200m2/g、より好ましくは250〜900m2/gである。
【0041】
合成吸着剤の細孔容積、粒度分布、最頻度半径はそれぞれ、0.9〜1.6mL/gであり、250μm以上が90%以上であり、30〜260Åであることが好ましい。
【0042】
合成吸着剤としては、以下に制限されないが、例えば、親水性合成吸着剤及び疎水性合成吸着剤が挙げられ、好ましくは疎水性合成吸着剤である。
【0043】
親水性合成吸着剤の樹脂母体として、以下に制限されないが、例えば、スチレン系マクロポーラス、シリカ、及びメタクリル酸エステル重合体が挙げられる。親水性合成吸着剤の具体例としては、以下に制限されないが、ダイヤイオン(登録商標;三菱化学株式会社)、及びMuromac(登録商標;ムロマチテクノス株式会社)が挙げられる。
【0044】
疎水性合成吸着剤の樹脂母体として、以下に制限されないが、例えば、スチレン重合体、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、スチレン−アクリル酸アミドの共重合体、及びフェノール樹脂が挙げられる。疎水性合成吸着剤としては、以下に制限されないが、スチレン等の芳香族系の樹脂母体に臭素などの極性基を化学的に修飾結合させてなる多孔性修飾ポリスチレン系合成吸着剤が好ましい。疎水性合成吸着剤としては、以下に制限されないが、例えばセパビーズ(登録商標;三菱化学株式会社)が挙げられ、中でも、好ましくはセパビーズSP70、SP700、SP850及びSP207であり、より好ましくはSP207(比表面積590m2/g、細孔容積1.1mL/g、粒度分布250μm以上が90%以上、最頻度半径120Å)である。
【0045】
後出の実施例で示すように、本発明者らは、合成吸着剤として上記のSP207を用いた場合、トマトの合成吸着剤非吸着画分及び合成吸着剤吸着画分が共に興奮抑制作用や鎮静作用を有することを見出した。換言すれば、合成吸着剤がSP207である場合、γ−アミノ酪酸画分と非γ−アミノ酪酸画分とをそれぞれ、合成吸着剤非吸着画分及び合成吸着剤吸着画分という形で好適に分離することができる。また、上記の非γ−アミノ酪酸画分は、グアノシン又はアデノシンを含んでいた。
【0046】
合成吸着剤は、吸着処理に先立って予め前処理しておいてもよい。かかる前処理としては、以下に制限されないが、例えば、合成吸着剤をメタノール又はエタノール等の溶媒で洗浄して不純物を除去した後、さらに水で洗浄してメタノール又はエタノール等の溶媒を除去することが挙げられる。合成吸着剤の洗浄には、エタノールを用いることが好ましい。
【0047】
合成吸着剤とトマト由来物質(粗抽出物)との割合は、使用する吸着剤の種類などに応じて選択される。
【0048】
溶出処理に用いる溶媒は、使用する合成吸着剤に適した溶出溶媒を適宜選定することができる。例えば、芳香族系の合成吸着剤を用いた場合には、溶出溶媒として、多量の水や温水を用いてもよい。また、溶出効率を上げる観点から、好ましくは50〜70%濃度、より好ましくは55〜65%濃度に水で希釈したエタノールを用いてもよい。
【0049】
より具体的には、トマト由来物質(粗抽出物)を合成吸着剤充填カラムに通液後、カラム排出液がBrix測定値でBrix0.5%以下、好ましくはBrix0.2%以下となるように純水などで洗浄し、適当な濃度のエタノール等の溶出溶媒を用いて溶出し、吸着画分を回収すればよい。
【0050】
吸着画分の回収は、例えば60%エタノール溶液であれば、樹脂容量の1〜10倍量、より好ましくは1〜5倍量、さらに好ましくは1〜2.5倍量を通液することにより効率良く吸着物を回収できる。また、水を用いる場合には純水を用いて、樹脂中に残存するトマト由来物質を洗浄後、樹脂容量の3倍量以上を通液することにより、吸着物を回収することができる。
【0051】
吸着処理においては、必要に応じて事前に、遠心分離やろ過操作を行ってもよく、例えば、3,000rpm、25℃及び10分間の条件で遠心分離し、次いでNo.2のろ紙を用いて吸引ろ過を行うことができる。吸着処理により得られた画分(トマトの合成吸着剤吸着画分や合成吸着剤非吸着画分)はさらに精製してもよく、例えば、陽イオン交換カラムクロマトグラフィーやゲルろ過クロマトグラフィーにより精製を行うことができる。吸着処理により回収された画分(合成吸着剤吸着画分や合成吸着剤非吸着画分)はそれぞれ、適当な濃度まで減圧濃縮して濃縮物としてもよいし、又は凍結乾燥して粉末としてもよい。
【0052】
また、本発明に係る、トマト由来物質を有効成分とする興奮抑制用又は鎮静用組成物は、前記トマト由来物質そのものであってもよく、また、前記トマト由来物質以外に、飲食品用や医薬品用として通常用いられている他の任意成分(例えば、調味料、酸味料や各種添加物など)を含んでもよい。
【0053】
前記トマト由来物質を有効成分とする興奮抑制用又は鎮静用組成物は、溶液、前記溶液を減圧濃縮等してなる濃縮物、又は前記溶液をスプレードライ、ドラムドライ若しくはフリーズドライ等してなる粉末として得ることができる。これらは、そのまま飲料として利用することができ、又は他の果汁、野菜ジュース若しくはミックスジュースに配合して利用することもできる。中でも、当該興奮抑制用又は鎮静用組成物を粉末として得ることは、保存安定性に優れるため好適である。
【0054】
[興奮抑制用又は鎮静用の飲食品又は医薬品]
本発明に係るトマト由来物質を有効成分とする興奮抑制用又は鎮静用組成物は、そのまま飲食品又は医薬品として用いることもでき、かかる組成物を含む形態として、飲食品又は医薬品に用いることもできる。
【0055】
上記したトマト由来物質を有効成分とする興奮抑制用又は鎮静用組成物を含む飲食品は、特定保健用食品、栄養機能食品、健康食品、機能性食品又は健康補助食品などになり得るだけでなく、清涼飲料水や食品の配合剤にもなり得る。飲食品には、当該興奮抑制用又は鎮静用組成物が興奮抑制又は鎮静のために用いられるものである旨の表示を付していてもよい。
【0056】
飲食品として、以下に制限されないが、例えば、天然又は加工の食品及び飲料が挙げられ、好ましくは果汁飲料、野菜ジュース、果物野菜ジュース、茶飲料やスポーツドリンク等の容器詰飲料である。また、トマトを主成分として利用するトマトの加工食品及び加工飲料も好ましい。前記加工食品及び加工飲料として、以下に制限されないが、例えば、トマトピューレ、トマトペースト、トマトソース、トマトケチャップ、トマトスープ、トマトジュース、トマト由来物質入り野菜ジュース、トマト由来物質入り果物野菜ジュース、トマト由来物質入り茶飲料、トマト由来物質入りスポーツドリンク、トマト飴、及びトマトゼリーが挙げられる。
【0057】
上記のトマト由来物質を有効成分とする興奮抑制用又は鎮静用組成物は、液状、粉末状又は固形状で経口により投与(摂取)することが可能であり、それ自体で、又は適宜製剤上の都合で賦形剤などと混合して粉末、顆粒、錠剤やカプセル剤などの形態で、投与することができる。また、トマト由来物質をそのままカプセルに充填したり、又は粉末状や固形状のトマト由来物質をサプリメント剤とすることもできる。
【0058】
飲食品中のトマト由来物質の含有量は、飲食品の種類により異なるが、味を損なわずに十分な興奮抑制効果又は鎮静効果を得るという観点から、飲食品100gに対して、トマト由来の固形物換算で、0.1〜20g含有させることが好ましい。
【0059】
上記のトマト由来物質を有効成分とする興奮抑制用又は鎮静用組成物を飲料に含有させる場合は、500mL当たり、トマト由来の固形物換算で、好ましくは500〜100,000mg、より好ましくは1,000〜100,000mgである。また、食品又は医薬品として、他の添加物と適宜混合した製剤とすることができる。
【0060】
上記のトマト由来物質を有効成分とする興奮抑制用又は鎮静用組成物の摂取量(投与量)は、用途に応じて適宜調整することができる。
【0061】
摂取回数(投与回数)は、以下に制限されないが、好ましくは1日1〜3回であり、必要に応じて摂取回数を増減してもよい。摂取日数(投与日数)については、特に制限されることはなく、本発明ではトマトという長期間摂取しても安全な食品素材を用いるため、継続的に摂取することもできる。
【0062】
また、本発明に係る、トマト由来物質を有効成分とする興奮抑制用又は鎮静用組成物は、医薬品として、医薬上許容し得る賦形剤を添加して、医薬製剤として用いることができる。前記医薬上許容し得る賦形剤としては、以下に制限されないが、例えば、ゼラチンやヒト血清アルブミン等の医薬上許容し得る蛋白質が挙げられる。
【0063】
医薬製剤は、以下に制限されないが、例えば、粉末剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、チュアブル、トローチ等の経口剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、貼付剤等の外用剤、注射剤、舌下剤、吸入剤、点眼剤や坐剤などとして用いることができる。医薬製剤の剤形として、以下に制限されないが、好ましくは錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤又は注射剤である。また、医薬製剤は、液体やペースト等の液剤として用いることもできる。
【0064】
医薬製剤は、動物(中でも哺乳類)において、興奮抑制用又は鎮静用に有用であり、動物(中でも哺乳類)に投与することができる。哺乳類としては、ヒト、イヌ、ネコ、ウシやウマなどが挙げられ、ヒトであることが好ましい。
【0065】
上記の医薬製剤の投与量は、個々の薬剤の活性、患者の症状、年齢や体重などの種々の条件により適宜調整することができる。前記投与量として、500mL当たり、トマト由来の固形物換算で、好ましくは500〜100,000mg/1回であり、より好ましくは1,000〜10,000mg/1回、さらに好ましくは3,000〜50,000mg/1回である。なお、投与回数及び投与日数については、上述と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0066】
また、本発明者らは、後出の実施例において示すように、トマト由来物質を有効成分とする興奮抑制用又は鎮静用組成物が自発運動量低下作用を有することを見出した。本発明において、自発運動量低下作用は、自発運動量測定試験を利用して自発運動量が低下することにより確認することができる。なお、マウスを用いた自発運動量測定試験により、マウスの自発運動量が低下する場合に興奮抑制作用や鎮静作用を有すると評価できることは、当業者にとって公知の事項である。本発明においては、トマト由来物質が自発運動量低下作用を有することにより、動物に摂取(投与)した場合に、興奮抑制作用又は鎮静作用を発揮させることができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0068】
[トマトの漿液、合成吸着剤吸着画分及び合成吸着剤非吸着画分の調製]
トマト由来物質として、市販の濃縮トマト汁Clear Tomato Concentrate 60°Brix(LYCORED社製)を用いた。5.0gのClear Tomato Concentrate 60°Brixを蒸留水300gで希釈した。希釈後の搾汁液のBrixは1.1%であった。
【0069】
また、純水に湿潤状態の合成吸着剤SP207(三菱化学社製)50mLをガラスカラムへ充填し、十分な純水を通液してSP207充填カラムとした。
【0070】
続いて、得られた希釈物を、3,000rpm、25℃及び10分間の条件で遠心分離を行った。その後、No.2のろ紙を用いた吸引ろ過により残渣を除去し、トマトの漿液を得た。
【0071】
得られた漿液を、そのまま減圧濃縮した後、凍結乾燥して、粉末状の粗抽出物を得た(以下、「粗抽出物群」という)。
【0072】
一方、得られた漿液を、前記ガラスカラム(SP207充填カラム)へSV=6.7の速度で全量通液(6bed容量)した後、1bed容量の純水で十分にトマト漿液を洗い出した。トマト漿液の通液開始直後からカラム排出液を定期ごとに順次回収し、フラクション(Fr)1〜7として取り分けて、これらを非吸着画分とした。
【0073】
次いで、60%濃度に調整したエタノールを3bed容量通液し、カラム排出液の回収を開始し、エタノール通液終了まで、定期ごとに順次回収した。フラクション(Fr)8〜10として取り分けて、これらを吸着画分とした。
【0074】
非吸着画分(Fr.1〜Fr.7)、吸着画分(Fr.8〜Fr.10)をそれぞれ合一した上で減圧濃縮した後、凍結乾燥して、粉末状の非吸着画分及び吸着画分を得た(以下、各々「非吸着画分群」、「画分I」又は「γ−アミノ酪酸画分」、及び「吸着画分群」、「画分II」又は「非γ−アミノ酪酸画分」という)。なお、「bed」とは、吸着剤の充填容積(かさ)を示す。
【0075】
得られた粗抽出物群、非吸着画分群及び吸着画分群はそれぞれ、凍結乾燥後、後述する動物試験の投与濃度に調整した。具体的には、粗抽出物群を1,000mg/5mL、非吸着画分群を937mg/5mL、及び吸着画分群を71mg/5mLとした。なお、非吸着画分群及び吸着画分群の投与濃度については、粗抽出物群に対する収率で合わせた。
【0076】
各投与濃度に調整した後の動物試験用サンプルの各種分析結果を下記の表1及び表2に示す。また、各フラクションのウリジン及びγ−アミノ酪酸(GABA)の含有量を示すグラフを図1に示す。ここで、表1中、「収率*」とは、原料(トマト搾汁液;Brix60°)5.0gに対する収率を表す。また、図1中、Fr.Noが7の地点にある縦線は、その縦線を含めて左側が非吸着画分(Fr.1〜Fr.7)を示し、その縦線を含まない右側が吸着画分(Fr.8〜Fr.10)を示す。
【表1】

【表2】

【0077】
今回、SP207 50mLに対して原料5.0g/300mL D.W.(Brix1.1%)を6bed分通液させたが、非吸着画分群のウリジン含有量は若干高くなり、粗抽出物群に対する回収率が14.6%もあった。これは5bed目以降の非吸着部にウリジンが比較的多く含有されていたからであると考えられる。一方、γ−アミノ酪酸に関しては、吸着画分群の含有量が相対的に低く、粗抽出物群に対する回収率は5.2%であった。このことから、γ−アミノ酪酸はSP207にほとんど吸着されないことが分かった。
【0078】
[実施例1:自発運動量測定装置による自発運動量の測定]
自発運動量の測定には、マウス(CD1(ICR)、雄、7週齢;日本チャールス・リバー株式会社)を1週間予備飼育した後に用いた。実験期間中、マウスには、水及び飼料(FR−2、株式会社船橋農場)を自由に摂取させた。上記により得られた粗抽出物群、非吸着画分群及び吸着画分群と、注射用水を投与した群(対照群)とに対し、以下の実験を行った。
【0079】
ゾンデにより、粗抽出物群、非吸着画分群及び吸着画分群をそれぞれ、上記投与濃度を勘案した、5mL/kg(マウスの体重)で経口投与した。18時に強制的に経口投与し、60分経過後(19時)にマウスを自発運動量測定用のケージに入れ、自発運動量測定装置(NS−AS01、株式会社ニューロサイエンス)を用いて、測定開始(19時)から13時間後(翌8時)までの30分ごとの自発運動量を測定した(19時の時点の自発運動量は測定していない)。粗抽出物群、非吸着画分群及び吸着画分群は、5mL/kg(マウスの体重)の注射用水(株式会社大塚製薬工場)に溶解したものを用いた。
【0080】
注射用水のみを5mL/kg(マウスの体重)でゾンデにより経口投与したもの(対照群)についても、上記と同様にして、自発運動量を測定した。
【0081】
一群のn数を10として、測定開始から13時間後までの自発運動量の測定結果を表したグラフ(n=10 means±SE)を図2A及び図2Bに示す。また、トマト被験物質の成分含有量の測定結果を、下記の表3及び表4に示す。なお、図2中、「*」はP<0.05を意味し、「**」はP<0.01を意味し、これらはStudent t検定による注射用水投与群に対する有意差を表す。また、「♯」はP<0.05を意味し、「♯♯」はP<0.01を意味し、これらはAspin−Welch t検定による注射用水投与群に対する有意差を表す。
【表3】

【表4】

【0082】
表3及び4並びに図2Aより、粗抽出物群では、対照群と比較して、経口の初期(特に、図中の左側の点線囲み部分)から後期(特に、図中の右側の点線囲み部分)に亘って顕著な自発運動量低下効果を発揮することを見出した。また、表3及び4並びに図2Bより、非吸着画分群(画分I、γ−アミノ酪酸画分)では、対照群と比較して、顕著な自発運動量低下効果を発揮することを見出した。かかる結果は、画分I中に多く存在するγ−アミノ酪酸(GABA)に起因して、非吸着画分群が興奮抑制や鎮静に効果を発揮するものと推測できる。
【0083】
一方、吸着画分群(画分II、非γ−アミノ酪酸画分)でも、対照群と比較して、顕著な自発運動量低下効果を発揮することを確認した。さらに、実施例1と同様の方法で、ウリジン単独の場合を調べたところ、自発運動量に何らの効果も見られなかった(データ示さず)。
【0084】
上記の結果より、画分II(非γ−アミノ酪酸画分)中に多く存在するウリジンが、少なくとも単独では鎮静や興奮抑制に効果をもたらすものではないことが分かる。詳細にいえば、ウリジンと画分II中に存在するその他の成分との組み合わせが、又は画分II中に存在する前記その他の成分のみが、鎮静や興奮抑制に効果を発揮させるものと推測できる。前記その他の成分の候補として、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン及びアラニンがあり得ることが示唆された。
【0085】
また、吸着画分群(画分II、非γ−アミノ酪酸画分)は非吸着画分群(画分I、γ−アミノ酪酸画分)と異なり、グアノシン及びアデノシンを含み、且つシチジン、ウリジン、グアノシン及びアデノシンの合計含有量がγ−アミノ酪酸の含有量よりも多く、且つγ−アミノ酪酸の含有量が、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン及びアラニンの合計含有量よりも多いという、特異的な成分構成を有していることが分かった。
【0086】
さらに、図2Bより、画分II(投与量71mg/kg)は、画分I(投与量937mg/kg)と比較して、格段に少量の投与で、同等の顕著な自発運動量低下効果を発揮することが明らかとなった。このことは、非γ−アミノ酪酸画分(画分II)が特に優れた興奮抑制作用、鎮静作用を及ぼすことを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明におけるトマト由来物質は、興奮抑制作用や鎮静作用を有する。本発明におけるトマト由来物質は、飲食品及び医薬品用の興奮抑制用又は鎮静用組成物として産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマト由来物質を有効成分とする、興奮抑制用又は鎮静用組成物。
【請求項2】
前記トマト由来物質は、非γ−アミノ酪酸画分である、請求項1に記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物。
【請求項3】
前記トマト由来物質は、グアノシン又はアデノシンを含む、請求項1又は2に記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物。
【請求項4】
前記トマト由来物質は、シチジン又はウリジンを含み、且つシチジン、ウリジン、グアノシン及びアデノシンの合計含有量よりも少ない量のγ−アミノ酪酸をさらに含む、請求項3に記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物。
【請求項5】
前記トマト由来物質は、γ−アミノ酪酸を含み、且つ前記γ−アミノ酪酸の含有量よりも合計含有量として少ない、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン及びアラニンよりなる群から選択される1種以上をさらに含む、請求項3又は4に記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物。
【請求項6】
前記トマト由来物質は、合成吸着剤で吸着することにより得られる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物。
【請求項7】
前記合成吸着剤は、SP207である、請求項6に記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の興奮抑制用又は鎮静用組成物を含む飲食品。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2011−32232(P2011−32232A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181371(P2009−181371)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】