説明

航空機のエンジンからの離脱破片の飛翔偏向兼保持用装置

【課題】本発明の目的は、航空機の発生源、とりわけ航空機の動力部のタービンまたはコンプレッサの段から発生する少なくとも1つの離脱破片を処理し、同航空機における標的に届くのを阻止することにある。
【解決手段】あらかじめ特定された保護区域に配置してある同標的を保護するために、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片の飛翔を偏向させられる、発生源と標的に対する形状と位置を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の動力部から発生した離脱破片、とりわけ動力部のタービンまたはコンプレッサの段から発生した離脱破片の飛翔偏向兼保持用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
保護関係では、第1つの解決策は、離脱破片の潜在的発生源と、それに近接する標的要素と呼ばれる特定の要素との間にスクリーンまたは強い構造体を配置することによって、同標的要素を保護することからなる。
【0003】
スクリーンは、最もエネルギーに満ちた要素を保持するのに適している必要がある。
【0004】
他の解決策では、航空機の重要な機関および制御回路は、安全性を高めるために、通常、重複・分散されている。1例として、航空機1機は、同一機能を保証するために、複数の油圧回路と電気回路を保有しているので、同回路(制御または動力の)のいずれか1つの損失は、機能の損失をもたらさない。広く採用されているこの解決策は、とりわけ主要機関と関連安全装置の重ね合わせを避けることによって、搭載質量を増加させ、動力部の構成を複雑にすることになる。
【0005】
他の対策では、解決策として、離脱破片の発生源または離脱破片そのものを処理することを狙いとしている。
【0006】
動力部のレベルでは、主として離脱破片源が2つ存在する。すなわち送風機で、羽根または羽根の断片が離脱することがあり得るのであり、およびターボジェットエンジンで、タービンまたはコンプレッサーの段または段の破片が離脱することがあり得る。
【0007】
送風機関係では、1つの解決策は、送風機の周辺の離脱破片を保持することを狙いとするベルトを用意することにある。したがって、離脱破片は、ベルトの内部に留まって、標的に達することができない。
【0008】
この解決策では、ベルトの特徴、とりわけ寸法と材料は、最もエネルギーに満ちた離脱破片を係留するのに特定される。ベルトの設置区域は、温度面では、それほど制約を受けていないので、搭載質量を余り多くしないために、複合材料および/または蜂窩状構造体を使用できる。
【0009】
なお、ベルトの連続的形状で、離脱破片の飛び出し角度に関係なく、同離脱破片を係留できると同時に、孤立した要素よりも機械的抵抗力が大きい。
【0010】
ターボジェットエンジン関係では、エンジン組み立て業者は、とりわけコンプレッサやタービンの段のような回転要素を構成する要素の破断のリスクを低下させるために、エンジンの要素の安全性を高める傾向がある。この解決策の結果、部材の計画時の安全率の向上、材料の改善、ならびにより多数および/またはより徹底した品質検査を含む部材の製作法を予定することになる。この解決策で破断の危険が減少できるにしても、完全に消滅させているのではなく、コンプレッサやタービンの段の要素のいずれか1つが離脱して、航空機の部分に損傷を加える危険が常に存在する。
【0011】
解決策として、送風機の場合のように、ベルトを利用する可能性があり得るだろう。
【0012】
しかしながら、とりわけより強く高温に晒される設置区域では、この解決策を容易に考慮できない。
【0013】
米国第3,974,313号文書に記載されている解決策では、部分的、すなわち円周的でない限定的区域に処理を予定できる。この文書によれば、保護装置は、飛び出した離脱破片を係留し得る変形可能なパネルを含む。離脱破片を係留するには、保護用パネルの変形によってエネルギーが完全に吸収されなければならない。この解決策は、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片を係留する上で、実施が困難である。
【0014】
したがって、エンジンの破裂と言う忌まわしい作用を極限すべく、航空機製造業者は、諸システムの耐久力を高めるために、同諸システムを重複・分散させ、強力な構造体の後ろに隠し、例えば衝撃の後の残留応力の抜け道を設けることによって構造面の影響を極限することを主な狙いとする幾つもの解決策を利用しているが、それは航空機の法規で厳密に規定されており、全般的に離脱破片に関する無限のエネルギーを考慮に入れてのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国第3,974,313号文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
それ故、本発明は、搭載質量を過度に増加させること無く、航空機をより安全にする目標を維持しながら、設計の選択をより柔軟にすることを狙いとして、航空機の動力部の離脱破片の飛翔偏向兼保持装置を提案することによって、従来の技術の欠点を排除することを狙いとしている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そのために、本発明は、航空機を発生源とする、とりわけ航空機の動力部のコンプレッサまたはタービンの段に由来する少なくとも1つの離脱破片を処理し、同航空機内の標的に当たることを阻止するための保護装置を目的としており、同標的を、あらかじめ決められた保護区域内で保護するために、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片の飛翔を発生源と標的から偏向させられる形状と配置を有することを特徴としている。
【0018】
その他の特性と利点は、添付図を参照しながら、単に例として示した、本発明の以後の記述で明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】航空機の推進用集合体の縦断面図である。
【図2】本発明の第1つの変形態様による装置を具えた動力部の斜視図である。
【図3】本発明の別の変形態様による装置を具えた動力部の斜視図である。
【図4】図2の装置の固定用手段の詳細を示す側面図である。
【図5】本発明の別の変形態様による装置を具えた動力部の斜視図である。
【図6】本発明の別の変形態様による装置を具えた動力部の斜視図である。
【図7】本発明による装置の別の変形態様を詳細に示す概略図である。
【図8】本発明による装置の別の設置区域を示す概略図である。
【図9】本発明の装置による第1つの方向による離脱破片の飛翔偏向を示す概略図である。
【図10】本発明の装置による別の方向による離脱破片の飛翔偏向を示す概略図である。
【図11】本発明による装置で保護された区域を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に、航空機への連結手段、とりわけ航空機の翼14の下の支柱12に連結されている、ターボジェットエンジンとも呼ばれている航空機の推進用集合体10が示されている。同集合体は、一方では、羽根を具えた回転子18および羽根を具えたスタータ20を含む送風機、他方では、中に、空気の流通方向24に、コンプレッサ段26、燃焼室28およびタービン段30が配置されている一次ダクト22を有するエンジン16を含む。
【0021】
エンジン16は、ナセル32内に配置されており、同ナセルは、送風機の上流側に、空気取り入れ口34、送風機のスタータのに下流側に、二次ダクト36を含んでいる。
【0022】
諸図に示したように、エンジンは、前方で、送風機が予定されているレベルに第1つの部分を、後方で、コンプレッサ段、燃焼室およびタービン段が配置されているレベルに第2の部分を含んでおり、同第2の部分の直径は、前方の部分よりも比較的小さく、高温をより強く受けており、300℃以上に晒される。
【0023】
保護に関して、送風機から離脱することがあり得る羽根または羽根の部分の係留を狙いとするベルトを送風機の周囲に予定することが可能である。同ベルトの機械的特性は、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片を係留できるように特定される。
【0024】
コンプレッサ段26およびタービン段30は、38の参照番号で軸を表示したエンジンの軸に應じて回転できる羽根を保有する円盤の形状を呈している。
【0025】
送風機の場合と同じく、エンジン16の運動部分、とりわけコンプレッサとタービンの段からの構成要素の部分が偶発的に離脱または破断して、航空機の他の部分に損傷を加える可能性のある離脱破片になることがあり得る。
【0026】
不確実な運動をする、送風機から発生した離脱破片とは逆に、出願者は、観察の結果、コンプレッサとタービンの段から発生した離脱破片は、多くの場合、特別な運動方式があり、同離脱破片は、自転して、独特と言える軌道を描くことを発見した。
【実施例】
【0027】
本発明では、推進用集合体は、エンジンの周辺に、円周的でない装置40を含んでおり、同装置は、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片の飛翔を偏向できる形状を有する。本発明では、同装置40は、図11に示したように、離脱破片源、とりわけコンプレッサ段26および/またはタービン段30と、保護すべき区域41との間に介在する。
【0028】
ベルトと違って、本発明の装置40は、回転要素の周辺でエンジンの周囲全体に延びているのではない。したがって、本発明では、装置40は局部的であり、限られた区域を占める。
【0029】
本装置は、独特な軌跡と交わるように配置される。
【0030】
この配置構成にすれば、積載質量が抑えられる。
【0031】
従来の技術とは逆に、本発明の装置40は、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片を係留するために考案されているのではなく、その形状および離脱破片と標的に関連するその配置は、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片の飛翔を偏向させるように、すなわちそのエネルギーの一部だけを吸収するように特定される。この配置構成は、搭載質量を抑えることを可能にする。
【0032】
保護装置は、離脱破片を係留するのではなく、その飛翔偏向を促進するために、凸状を呈することが好ましい。
【0033】
本装置は、約300℃ないし400℃またはそれ以上に耐えられる適切な材料で製作すると有利である。
【0034】
本装置が局部的で、離脱破片を係留するのではなく、最もエネルギーに満ちている離脱破片の飛翔を偏向させるために考案されている限り、とにかく結果的に搭載質量を増加させることなく、高温に耐えられる材料を使用すべきである。
【0035】
本装置40は、一方では、少なくとも1つの変形可能な部分42、他方では、エンジンまたはナセル、さらに航空機への連結手段44を含む。
【0036】
本装置は、破断して、航空機の保護したい区域に損傷を加える可能性のある離脱破片を形成しないように、変形可能な部分を含んでいる。
【0037】
諸変形態様によれば、連結手段44は、本発明の装置をエンジン、とりわけ図2、3、5および6に示した、エンジンの周辺に予定されたフェルール、または図8に示した、ナセルの二次ダクトの内壁を画定するフィレットに連結される。
【0038】
連結手段44は、とりわけ連結手段に使用されている材料および/または連結手段の寸法および/または連結手段の形状によって、離脱破片による衝撃時に発生するエネルギーの一部が吸収されると有利である。
【0039】
連結手段44は、少なくとも変形可能な部分42の両端に配置してあって、図4と7に詳細に示してある2の取付け用金具46と46’、各取付け用金具を航空機に連結できる固定用手段および各取付け用金具を少なくとも変形可能な部分42に連結できる固定用手段を含んでいることが好ましい。
【0040】
変形可能な部分42は、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片の飛翔偏向を促進する形状を有すると有利であり、同離脱破片の形状およびその自転運動を考慮に入れて、同離脱破片が同変形可能な部分上をころがることができるのが好ましい。
【0041】
変形可能な部分42は、好適には、本質的に大きな変形能力を有しながら、少なくとも衝撃を受ける区域のレベルで、その表面に大きなせん断強さを有さねばならない。
【0042】
単一または複数の変形可能な部分42は、動力学的に大きなせん断強さを有する第1つの材料および動力学的に破断せずに変形する大きな能力を有する第2の材料で作成されていると有利である。
【0043】
その例として、第1つの材料は、下記材料の中から選定する。すなわち、チタン、例えば商標INCONELで市販されている、鋼鉄の強力な合金、CMC型のセラミックス繊維をベースとする複合材料など。
【0044】
例として、第2の材料は、下記材料の中から選定する。すなわち、例えば、商標KEVLARで市販されている、アラミド繊維をベースとする複合製品、金属海綿、金属製蜂窩状構造体など。
【0045】
第1つの変形態様では、変形可能な部分42は、少なくとも1本のバー48、例えば図2に示した単一のバー、図3に示した2本のバー、またはバーの組織網のような形状を呈することができる。
【0046】
単一または複数のバーは、長手方向、すなわち軸38に平行に配置すると有利である。
【0047】
バーは、いろいろな断面、例えば円形、三角形、正方形などを呈することができる。
【0048】
単一または複数のバーには、2種の異なる作用がある。すなわち、
― バーの断面の形状によって、衝撃時のその位置に應じて、離脱破片は、同破片の重心がバーの重心からずれている配置構成によって飛翔偏向する。
― 変形できる性能によって、バーは、離脱破片の運動エネルギーの全体または一部を吸収する。
【0049】
別の実施態様では、変形可能な部分は、少なくとも1つのケーブル50、例えば図5に示したように単一のケーブル、または複数のケーブル50の形を呈することができる。
【0050】
ケーブルは、バーとほぼ同一の効果がある。ケーブルは更に、変形する前に、大きく変動できる可能性を提供する。
【0051】
他の形状、例えば図6と7に示したように、少なくとも1つの帯状部材52または積み重ねた帯状部材52を計画することができる。
【0052】
プレートは、独特な軌跡と、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片の飛翔偏向を促進する角度になるように多少傾斜させられる。
【0053】
単一または複数のプレートは、2種の異なる作用がある。
【0054】
単一または複数のプレートは、とりわけ離脱破片の独特な軌跡に対して多かれ少なかれ傾斜していることによって、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片の飛翔を偏向させることができる。
【0055】
単一または複数の変形可能な部分42は、バー、ケーブル、プレートの組合せで構成できる。例えば、1枚のプレートと組合せまたはずらせてある、平行して積み重ねてある1組のバー、バーの間へのケーブルの挿入、またはバーとかプレートの重ね合わせによる凹部状構造の中への吸収性材料の挿入のように構成できる。
【0056】
図9と10に、発生源56に由来する1つの離脱破片54を表現した。
【0057】
離脱破片の回転方向および保護装置と離脱破片の軌道の相対的位置に應じて、同離脱破片は、図9に示したように飛翔偏向されるか、図10に示したように、本装置40上をころがった後、飛翔偏向することができる。したがって、図11に示したように、保護装置40によって、離脱破片は、保護区域から反らされるので、保護装置40は、保護区域41内に位置している保護したい要素を保護できる。
【0058】
図9と10に示したように、本装置40は、離脱破片との衝撃時に、破断せず、保護区域41内に位置している、保護したい要素に損傷を加えることがないように変形することに留意すべきである。
【0059】
離脱破片源に近接して位置している「加害」要素を処理するために利用されると記されていても、本発明の装置は、離脱破片から保護すべき要素に近接して配置されている「標的」要素を処理するために利用できるだろう。
【産業上の利用可能性】
【0060】
従来の技術とは逆に、本発明は、離脱破片のために無限のエネルギーで本装置の寸法を限定することを狙いとするのではなく、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片の一部を吸収することにある。この場合、運動エネルギーが完全に吸収されなくても、離脱破片の飛翔を偏向させ、本装置自体が変形することによって、本装置は、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片のエネルギーのかなりの部分を吸収できるので、同離脱破片を係留しなくても、残留エネルギーは著しく減少して、同離脱破片の加害性が低下される。
【符号の説明】
【0061】
10.推進用集合体
12.支柱
14.翼
16.エンジン
18.回転子
20.スタータ
22.一次ダクト
24.空気の流通方向
26.コンプレッサ段
28.燃焼室
30.タービン段
32.ナセル
34.空気取り入れ口
36.二次ダクト
38.エンジンの軸
40.本装置
41.保護すべき区域
42.変形可能な部分
44.連結手段
46.取付け用金具
48.バー
50.ケーブル
52.帯状部材
54.離脱破片
56.発生源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の発生源(56)、とりわけ航空機のコンプレッサまたはタービンの段から発生する、少なくとも1つの離脱破片(54)を処理し、同航空機の標的に届くのを阻止するための保護装置であり、あらかじめ定められた保護区域(41)内に配置されている同標的を保護するために、強烈なエネルギーを帯びている離脱破片(54)の飛翔を偏向させられる、発生源(54)と標的に対する位置と形状を有することを特徴とする保護装置。
【請求項2】
約300℃以上の高温に耐えられる適切な材料を基にして製作されていることを特徴とする、請求項1に記載の保護装置。
【請求項3】
一方では、少なくとも1つの変形可能な部分(42)および他方では、航空機への連結手段(44)を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の保護装置。
【請求項4】
少なくとも同変形可能な部分(42)が大きな動力学的せん断強さを有する第1つの材料で製作されており、および破断せずに動力学的に変形できる大きな能力さを有する第2の材料で製作されていることを特徴とする、請求項3に記載の保護装置。
【請求項5】
変形可能な部分(42)が少なくとも1本のバー(48)を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の保護装置。
【請求項6】
変形可能な部分(42)が少なくとも1本のケーブル(50)を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−523863(P2010−523863A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500337(P2010−500337)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050557
【国際公開番号】WO2008/135699
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(508009851)エアバス フランス (19)
【Fターム(参考)】